―なんでそんな泣きそうな顔してるんだよ―

俺は今、俺の名前を呼びながら俺の体を抱きおこしている青年をみつめていた。
彼の薄茶色の瞳が苦しそうに細められる。

「ユーリ、死ぬな!ユーリ!」

彼は俺の左胸を必死に押さえている。

でも・・・俺には感覚がない。

「コ・・・ラッド・・・」

喉はかすれてからからだった。

「ユーリ・・・」

「泣くなよ・・・コンラッド・・・俺・・・あんたの涙・・・みたくない」

・・・体がだんだん冷えていくのを感じた。意識が朦朧とする・・・

「なんか・・・すごく・・・眠い・・・」

「寝るな、寝たら駄目だ!ユーリ!」

コンラッドの頬を涙がつたった。
その涙をぬぐいたくて鉛のように重い腕を持ち上げる。

「泣くな・・・って・・・」

「・・・無茶いわないで下さい・・・!ユーリ・・ユーリ・・お願いだから・・そばに・・・いてくれ・・」

コンラッドはそういいながら俺を抱き締めた。

でも俺は眠くて・・・もう目をあけることさえできない。

「・・・コンラッド・・・俺は・・俺の心はなにがあっても・・あんたの・・」

そこまでいうと俺の体から力が抜けた。

「・・・ユーリ・・・ユーリ!?」

持ち上げられていた腕がパタンと落ちる。
それが何を意味するかわかった途端コンラッドは目を見開いた。


「・・・・・・ユーリ―――!!!!」




              悪夢のあとの甘い夢


                        (コンラッド編)





「コンラッド・・・!」

彼の手をぎゅっと握り名前を呼ぶとコンラッドがゆっくりと瞳を開ける。
その様子を見て俺−渋谷有利原宿不利−はほっと息をついた。

「・・・ユーリ・・・?ここは・・」

一瞬、自分がどこにいるか分からないかのようにウェラー卿があたりを見回した。

「よかった・・コンラッド」

「貴方の部屋よ、コンラッド。やっと目覚ましたわね」

サヤさんがコンラッドの顔をのぞき込んでいた俺に濡れて冷たいタオルを手渡してくる。
今、コンラッドは彼のベッドに寝かせられていた。
タオルを受け取ると俺はそっとそれをコンラッドの額に置く。
するとコンラッドはその冷たさに微かだが薄茶色の瞳を細めた。

「ユーリ、師範・・・。俺は・・・」

未だに状況が掴めていないのかコンラッドが首をかしげて起きあがろうとする。

「駄目だって、まだ寝てなくちゃ!」

その肩を押さえながら俺は思わず強い口調になった。

「・・・倒れたのよ、貴方。兵と剣を交えている最中に。覚えてない?」

サヤさんが溜息をつきながら告げるとコンラッドが微かに眉を寄せる。

「倒れた・・?」

そう、コンラッドは今日の午後、兵たちに稽古をつけている最中に倒れたのだ。

しかも、俺の目の前で・・・。

「ギーゼラによると疲労からくる軽い風邪だそうだから・・・。少し熱もあったしね。でも、目が覚めたならもう大丈夫でしょ、いい機会だから少し休みなさい」

サヤさんはそういうとコンラッドの髪をくしゃりと撫でた。

「・・・すいません。師範。」

「謝るのは私にじゃなくて陛下に、よ。コンラッドが倒れたとき一番はじめにコンラッドに駆け寄ったのは陛下だし。陛下はこうしてずっと貴方のそばにいたんだから」

その言葉にコンラッドの瞳が俺の方へと向けられる。
未だに握っている手はまだ少しだけ熱を持っているかのように熱かった。

「・・・心配かけてしてしまったみたいで・・すいません・・。陛下・・」

コンラッドが微かに微笑むと俺は思わずほっとして目頭が熱くなりかける。

「陛下って呼ぶなよ、名付け親のくせに・・・っ!」

「そうでした・・ユーリ・・。」

返事をする代わりにコンラッドの手を自分の方に引き寄せ、その手に自分の頬を押しつけた。

「・・・まだ熱あるみたいだよな。あ、なんか食いたいもんとかある?やっぱり水気が多いものとか?」

俺がそういうとコンラッドは首を振り上半身を起こすと俺の腰に腕を回し俺を抱き寄せる。

「だからまだ寝てろ・・って、うわっ!?」

「サヤ、悪いけど・・・」

コンラッドが俺の腰に腕を回したままサヤさんをみるとサヤさんが苦笑いするような気配を感じた。

っていっても俺はこの体勢じゃみえないんだけど・・・(汗)

「・・・はいはい。邪魔者は退散するわよ。あとでおかゆかなんかもってくるから」

「すまない」

「ううん、お大事にね」

サヤさんはそれだけいうと部屋のドアを開けそのまま部屋を出て行った。


パタン・・・という静かな音があたりに響いた。
夕日の光が満ちている部屋の中には俺とユーリの2人きりになる。

「・・・」

何も言わずに彼をよけいに引き寄せると俺はユーリの胸に顔を埋め背中に腕を回す。
その体の温かさと微かに聞こえる心音に聞こえないほど小さく安堵の溜息を吐いた。

「コンラッド・・!?」

俺の予想外の行動に驚いているのかユーリが慌てたように声を上げる。
彼の心音が微かだが早くなっている気がした。

「ユーリ・・・」

そのぬくもりをもっと確かめたくて頭をよけいにユーリの胸に押しつける。

「・・・コンラッド・・・?」

「ユーリ・・・ユーリの心臓の音、ユーリのぬくもりをもっと確かめたいんだ・・。上着を脱いでもらえますか?」

「なっ・・・!?」

その唐突すぎる『お願い』にユーリの顔が一気に真っ赤に染まった。

「コ・・コンラッド、あんたやっぱり熱が・・・っ!」

戸惑っている恋人を上目遣いで見つめながら俺は彼の黒い上着のボタンを外していく。

「・・ッ・・コンラッド・・っ・・」

そのまま上着をするっと脱がせると薄いシャツの上から再びユーリの胸に顔を埋めた。

「・・・ユーリは・・・温かいね・・」

さきほどの夢の中のユーリの体は冷たくて・・ぬくもりがだんだん消えていくのがはっきりと伝わってきたから・・・。
「命」が消えていくのが嫌と言うほど実感できたから・・・。

「・・・コンラッド・・?どうしたんだよ」

ユーリの戸惑ったような声が聞こえてくる。
しかし次の瞬間頭を優しく抱きしめられ髪をそっと梳かれた。

「・・・ユーリ・・・?」

「・・やっぱりあんたでも風邪とかひくと不安にあるんだな。そう言うときさ、誰かがそばにいてくれると安心するよな。だから、コンラッドが落ち着くまで俺がそばにいてやるから」

少し的はずれな回答を返されるが、ユーリの優しい声が耳に心地よくて俺は再び瞳を閉じた。

顔を上げればきっといつも通り彼は笑ってくれているのだろう。

そう考えると知らず知らずのうちに目尻から涙が零れた。

「コンラッド・・・!?」

俺の異変に気がついたのかユーリが俺の顔をあげさせる。

「・・・ユーリ・・・」

「な・・・何で泣いてるんだよ?ごめん、俺、梳き方下手だった?いつもコンラッドがしてくれるみたいにしたつもりだったんだけど・・・」

おろおろとしながらユーリは俺の頬に手を当てると涙をごしごしとぬぐってくれた。
その姿がどうしようもなく愛しくて俺はユーリをぐいっと自分の胸へと引き寄せる。

「うわっ!?」

油断していたのかユーリは簡単に俺の胸の中にもたれ込んだ。

「ど・・どうしたんだよ。」

「・・・ユーリ・・・愛してます」

そういって唇を静かに重ねるとユーリは未だに頬を染めながら至近距離で「俺も・・・愛してる」と囁いてくれた。

「それから・・俺はこういうとき『誰か』ではなくて・・・ユーリ、貴方にいて欲しい。」

優しく告げると彼が静かに頷く。

「わかった・・・。あんたが俺のそばにいてくれるように・・俺もあんたのそばにいるからさ。だから、もう泣くなよ。コンラッド」

「・・・はい。ユーリ」



・・・−おかゆをもって部屋に戻ってきた沙耶がベッドの上で体を寄り添わせて眠るコンラッドとユーリを見て苦笑いしたのは、その数時間後だった−

  


                                                  Fin
〜あとがき〜

「悪夢のあとの甘い夢」コンラッドVer.でございます!!
泣かせちゃったよ・・・泣かせちゃったよ!コンラッド(汗)

ってか最初は微妙に死にネタだ・・・(ヲィ)
これ始めは全然違う話だったんですが手直しをしているうちにこんな話に・・・(苦笑)
えっと・・・この「悪夢〜」は一応、ユーリとコンラッドがどれだけお互いを思い合っているか的なことを書きたいと考えていたのですが・・・。
いかがでしょう・・・(コラ)

感想などありましたらぜひお願いいたします。
ではここまで読んで頂きありがとうございましたv