七夕の夜の願い
「うっわぁ〜・・・すっごい、星」
眞魔国−血盟城。
すでに日付が変わってしばらくたった時刻、俺−渋谷有利原宿不利−は、なかなか寝付くことができず、寝室の窓から夜空を眺めていた。
空には満天の星が輝いている。
「ちょっとだけ外の空気吸いたいな・・・」
すでに季節は夏に近い。
窓を開けてもいいんだけど、そうすると・・・。
そこまで考えて俺は、俺のベッドでグピピ・・・グピピ・・・と寝息を立てているフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムを振り返った。
「ヴォルフラム、起こしちゃうかもしれないしなぁ。」
せっかくぐっすりと寝てるのに起こすのはかわいそうだし・・・。
「どうしよっかなぁ・・」
いつもだったら、どんなに眠れなくてもベッドの中でじっとしていたらいつの間にか眠っている・・っていうことが多いのに、今夜だけは駄目だった。
いくら瞳を閉じても全然眠くならないし、反対にヴォルフラムのいびきがきになっちゃったりして。
「・・・コンラッド、まだ起きてるかな?」
俺の腕時計でただいま午前2:00。
「いいや、コンラッドの部屋行ってみよう」
俺はそう決心すると部屋からそっと抜け出した。
「七夕・・・?あぁ、『The star Festival』ですか。」
「それがなぁんで、こんな風になるんですかねぇ?」
「・・・前にプリンセスにその話をしたことがあったのよ。といっても、日本に伝わる伝説と、それから笹の葉にたんざくに願い事を書くと叶う・・って。それをギュンター達に話したのも私。なんだけど・・・」
「・・・?」
コンラッドの部屋に行く途中−。
執務室の前を通った時、俺は何人かの話し声が聞こえた気がして、足を止めた。
よく見ると、執務室から灯りが漏れている。
「・・・誰かいるのか?」
執務室のドアをノックすると、中からの声がぴたりとやんだ。
「・・・?入ってもいい?」
そのままドアをぎぃっと開けようとした途端、コンラッドの焦ったような声が聞こえてきた。
「ま・・・っ・・陛下、開けないでっ!!」
「・・・え?」
ドアを開けた瞬間、ドササ・・・という音がして何かが俺の足元に落ちてきた。
「うっわっ!?・・・って、な、なんだよ、これ」
執務室の中を見て、俺は愕然とした。
え?一体何が起こってるんだよ!?
執務室の中には、グリエ・ヨザック、水月沙耶さん、俺の護衛兼保護者兼名付け親−そして恋人でもあるウェラー卿コンラートが大量の紙に腰まで埋もれるようにして立っていた。
「あ、お久しぶりです、陛下〜v」
ヨザックがクネっと身体をくねられさせながらにっと笑顔を見せ、手をひらひらと振ってくる。
「ヨザック、サヤさん、それにコンラッド・・・?何なんだよ、この紙。何があったんだよ」
その紙を一枚手に取るとそれに見覚えがあることに気がついた。
「・・これ、もしかして・・短冊?」
「そうです、陛下。」
コンラッドが俺を見て苦笑いを浮かべながら頷く。
「コンラッド・・・。って、こんな時間なのに陛下はやめろって、名付け親」
「そうでしたね、すみません、ユーリ。」
俺はそれをみて頷くとかしゃかしゃと紙をかき分けながら3人に近づいた。
紙の中ってこんなに泳ぎにくい物なのかよ。
というか、ガキの頃、よく勝利と入ったボールプールを思い出してきた・・・。
「ユーリ、紙が滑るから気をつけて」
コンラッドはそう言うと俺の腕をひっぱり、俺を抱き上げ、お姫様だっこする。
「・・・コ、コンラッド!?」
その行動に俺はかぁっと頬が熱くなるのを感じる。
しかも、それをみてもサヤさんもヨザックも何も言わないのがよけいに恥ずかしいし!!
「相変わらず隊長とラブラブですね、坊ちゃんvグリ江、羨ましいわんv」
「・・・確かに猊下にそんな事しようとしたら大変なことになりそうだもんね、ヨザック。」
「・・・や、やだわ、師範ったら」
その言葉でヨザックの顔がひきつるのも無視してサヤさんは俺を見た。
「陛下、今日が何の日か知っていますか?」
「・・・え?」
それってつまり、このありえないくらいの短冊と何か関係があるってことだよな?
俺は真剣な顔で手に持っていた短冊を見た。
「あれ?」
改めて短冊を見ると何か文字が書いてある。
えっと・・
「『ユーリ・・・は・・僕・・』・・『ユーリは僕のだ!』・・・え?」
「こっちの短冊には『あぁ、麗しい陛下。どうかどうか陛下と・・・』って書いてあります。」
熱でもあるかのように手で額を覆いながらサヤさんが自分のそばにある短冊を読み上げた。
「・・・え?・・え?」
なんなんだよ、それは!?
「これには『ユーリと結婚するぞ!』と・・・」
コンラッドが俺を抱いたまま短冊を読み上げる。
・・・気のせいかな、いつも通り爽やかな好青年風微笑みをたたえているのに、彼の目は笑っていない気がする。
「いやぁん、隊長。腹黒い〜v」
「何か、いったか、ヨザ?」
ヨザックの冗談ににっこりと微笑むとヨザックがビシッと固まった。
「な、なんでもありません、隊長」
「・・・え、えっと、これってつまり、何なんだよ?」
怖い、怖いって!コンラッド!!コンラッドの腕の中で彼の腹黒さを改めて実感しながら俺はサヤさんに尋ねた。
「・・・つまり、願い事を書いた短冊なんですよ。七夕の」
「七夕!?」
それって、笹の葉に願い事を書くと願いが叶うっていう風習の日本行事だよな!?
彦星と織姫だよな!?
「へぇ・・・眞魔国にも七夕ってあるんだ。なんか意外だよな。」
「・・・違うんです、陛下」
俺の言葉にサヤさんが申し訳なさそうに言ってくる。
「え・・・?」
「グレタに頼まれてサヤが七夕の話をギュンターに教えたらしくて、それでギュンターが・・・」
「ギュンギュン閣下が、『願いが叶うならばこうしてはいられません!』とか言い出してものすごい勢いでこれを作って願い事を書き続けたらしいんですよ。」
コンラッドとヨザックが交互に説明してくる。
ギュンター・・・普段は優秀な王佐なのに・・
「それがヴォルフラムにも伝わって・・それで・・」
「え!?じゃあ、この山のような短冊は全部ヴォルフラムとギュンターの願い事!?」
「そうなんです・・・」
え、そんなにあの2人、願い事あるのかよ!?
「しかも、すべて、ユーリ陛下関係です」
「えぇ!?」
「いやぁ〜、陛下、部下にモテモテですねv」
・・・ギュンター、ヴォルフラム、一体どんな願い事したんだよ!?
「しかも、勢いがついて止まらなくなったギュンターがグウェンダルまで巻き込んで確か、今もまだグウェンダルの部屋にギュンターがいると思います」
哀れ、グウェンダル・・・
「・・あ、そ、そうなんだ・・」
もう、何を言っていいか分からない俺はただサヤさんの話を聞いていた。
「とにかく、ここの片づけは私とヨザックがしますから、陛下はお休み下さい。」
そうだよな、ここにいても俺ができることはなさそうだし・・・。
「分かった。じゃあサヤさん、ヨザック。ごめん、お願いします」
「お任せ下さい、陛下v」
「何とか明日の執務時間までには使えるようにしときますから。」
「俺が部屋まで送っていきます。行きましょうか、ユーリ?」
「う、うん。」
俺が頷くとコンラッドはゆっくりと歩き始める。
「あ、陛下。そうだ、これどうぞ。この山は何とかしますが、それとは別に陛下ももし願い事がありましたら・・」
サヤさんはそういうと俺に一枚の短冊を差し出してきた。
「うん、ありがとう。サヤさん。」
コツコツ・・・という足音が静かな血盟城の廊下に響く。
俺は、コンラッドと手をつないだまま、彼の部屋に向かっていた。
「ところで、ユーリ。どうしたんですか?こんな時間に・・」
俺の手を優しく握りしめたまま彼が振り向いて尋ねてくる。
そのダークブラウンの髪と美形揃いの眞魔国では少しだけ地味だけど十分格好いい顔が窓から差し込む月の柔らかい光に照らされていた。
「え・・あ、うん。なんか眠れなくてさ。コンラッドならまだ起きてるかなって思って・・」
「そうですか」
そういって柔らかく微笑むコンラッド。
その顔を見ると胸がドキンっと高鳴った。
彼の薄茶に銀の光彩を散らした瞳が優しく細められている。
俺、この顔に弱いんだって!
「コ・・ンラッド・・っ」
いつの間にかコンラッドの部屋の前に着いていた。
「ユーリ・・」
コンラッドは俺を抱き寄せるとそっと腕の中に閉じこめる。
「コンラッド・・・っ」
そのままコンラッドの顔が近づいてきて、瞳を閉じるとコンラッドの唇が俺の唇に重なる。
「っ・・・」
「ユーリ、愛してます。心から」
唇が微かに離れ、それでもお互いの鼻と鼻がぶつかりそうなほど近くで囁かれた。
「コンラッド・・俺も・・」
そう答えるとコンラッドの手のひらが俺の頬に触れ、そのまま2度目の口づけを交わす。
「ユーリ・・これは、貴方に差し上げます。これが俺の願いですから」
コンラッドはそう言うと、懐から何かを取り出した。
それは・・・−
「短冊・・・?」
「はい。そして、これが・・・」
コンラッドはそう言うと短冊に唇を寄せ、ちゅっと音を立てて口付ける。
「−・・俺の願いです。」
そのまま短冊を差し出され、俺はそれを読んだ。
「コンラッド・・これ・・!」
英語で書かれたその願い事はものすごく短いものだったけど・・これなら俺でも絶対に叶えられるよな?
『With You Forever...』
コンラッドは俺をぎゅっと抱きしめると俺の耳元で囁いた。
「ずっと・・ユーリと共に・・いさせて下さい。」
「うん、ずっと一緒にいような、コンラッド」
俺はそういうと彼の背に−俺の一番愛しい人の背に腕を回した。
Fin
〜あとがき〜
久しぶりのコンユです!(ヲィ)
そして、七夕ネタ。
七夕・・・今年は晴れるといいな、と思います。
そして、あと少しでユーリの誕生日〜!!
早いな、1年って(笑)
コンユ七夕小説。少しでも楽しんでいただければ幸いですv
ここまで読んでいただきありがとうございましたvしたv