−翌日は昨日の雨が嘘のように晴れ上がった−



問い掛け



「…はぁ」

暖かな日の光が降り注ぎ、時折爽やかな風が吹く。
そんな天気とは裏腹に久々知兵助の心の中にはどんよりと黒い雲が立ちこめていた。

『−お前を、壊してもいい?−』

耳に残るのはあの言葉。
鉢屋三郎が耳元で囁いた背筋が寒くなるような言葉だけだった。

「三郎…」




あの後。
異変を感じて駆けつけた竹谷八左ヱ門に嗚咽を堪える背をさすってもらいながらも兵助は自分の身に起きたことが信じられなかった。

−友人だと思ってた。いや、少なくても『あの時』までは友人だった。

その友人が自分の体を組み敷き弄んだのだ。
簡単に受け入れられることではない。

でも…

「三郎…?三郎がやったのか、これ!?」

兵助が呟いた言葉が耳に届き、八左ヱ門の手に力が籠もる。

「あいつ…何考えてるんだ!」

そう言って険しい顔をして兵助から離れ、八左ヱ門は部屋の出入り口に向かおうとする。

−怒ってる。

はっちゃんがここまで怒るなんて珍しいな。

どこか他人事のように思いながら、兵助は咄嗟に体を起こし彼の上着の端をぎゅっと握った。

「兵助!?」

「…はっちゃん。駄目だ…今、はっちゃん三郎のところ行こうとしてるだろ?」

顔を俯かせ、震える声で話す兵助に八左ヱ門は振り返り、相手を見遣る。

「当たり前だろ。兵助にこんなことして…。さすがに一発殴らないと気がすまないんだよ。」

それは普段の彼からは想像も出来ない程物騒な言葉。

「駄目…駄目だ、はっちゃん。行かないでくれ…お願いだから…」

八左ヱ門の上着を握る手に力が籠もった。

「…兵助?」

さすがにそんな兵助に疑問を抱き、八左ヱ門は兵助の傍へと戻る。

「お…お願い。はっちゃん、このことは…誰にも話さないで欲しいんだ。…忘れてくれ」

「何言ってるんだよ、兵助!」

八左ヱ門は目の前の相手の言葉に信じられないというように目を見開き、その肩を掴んだ。

自分のものより薄いその肩は小さく震えている。

「だって…三郎は友達なんだ。大切な友達なんだよ!」

兵助の目から大粒の涙が零れ落ちる。

「俺が…俺が忘れれば…明日からも三郎と友達でいられるんだ。だからっ…」

零れる涙を拭おうともせず兵助が言葉を紡いでいく。

「俺なら…俺なら大丈夫だから。だから、はっちゃん…」

『忘れて。』

そういって涙目のまま無理矢理笑みを浮かべた兵助の顔を八左ヱ門は辛そうに眉を寄せ見つめた。

何で…何でお前がそんな無理しないといけないんだよ!

そう声に出してしまいそうになるのを必死に堪え、拳を握りしめる。

「兵助…っ…」

そのまま八左ヱ門が相手を抱きしめた。

「はっちゃん…」

相手の名を呼ぶと自分を抱きしめる腕の力が強くなる。
八左ヱ門の体温が布越しに伝わってくる。
その温かさに瞳を閉じ兵助は八左ヱ門の胸に顔を埋めた。

あぁ、はっちゃんの匂いだ。

安心できるそれに兵助の体から力が抜けていく。

「馬鹿野郎…っ」

耳の後ろで八左ヱ門がぎりっと歯を噛みしめ呟いた。

「ごめん…」

兵助はそう呟くと再び意識を手放した。




「久々知先輩!」

その声にぼうっとしていた兵助ははっと我に返った。
今は兵助が所属する火薬委員会中だ。

「あ…ごめんな。何、伊助」

取り繕うような笑みを浮かべ話しかけてきた下級生−一年は組二郭伊助に視線を向けた。

「あ…いえ、火薬の在庫表これで合ってますか?」

そう言って差し出された在庫表を受け取ると、伊助に「久々知先輩、どうかされたんですか?」と尋ねられてしまう。
しかし、まさか後輩に「友達だと思っていた奴に手込めにされました」などと言えるわけがない。

「ちょっとぼんやりしていただけだから。大丈夫だよ」

「でも…」

心配かけないように笑いかけながら答えるが伊助はまだ心配そうだ。

その時、ばたばたという足音が廊下の方から聞こえてきた。

「…やっと来たか」

その音に兵助が小さく溜め息をつき廊下へと視線を向ける。

「遅くなりましたーー!!」

それと同時に部屋に飛び込んできたのは四年は組斉藤タカ丸だった。

「遅い!」

開口一番兵助はタカ丸を怒鳴りつける。

「すいません、授業が長引いちゃって…あれ?」

困ったように笑みを浮かべていたタカ丸は何かに気がついたかのように真っ直ぐに兵助へと歩み寄る。

「斎藤?」

その行動を不審そうに兵助が見つめている。

「久々知先輩、もしかして調子悪い?」

「…何いってるんだよ、お前」

尋ねられた言葉に微かに息を飲むも、なるべく冷静に兵助は答えた。

何か気付かれたのだろうか?
いや、そんなはずはない。

そんな兵助に気にせずタカ丸が兵助に手を伸ばす。

―自分に真っ直ぐ伸ばされた手―

『兵助、声出せって』

その手が三郎のと重なった。

「―――……!!」

耳の奥にあの声が甦り無意識に体が強張り、瞳をぎゅっと瞑る。

すると、ぺたっと額に何か置かれる気配がした。

「え…?」

ゆっくりと瞳を開けるとタカ丸が兵助の額に手を置いている。

「熱っ!先輩、熱いよ!これ熱あるんじゃない?」

そう言われれば頭がぼぅっとして体が重い気が…する。
でもそれは昨日のことが原因だと思っていた。

でも…

「熱?」

それを認識した途端、ぐらっと激しい目眩に襲われる。

「…ッ!」

バサッと手にもっていた在庫表が足元に落ちる。

…気持ち悪い。

「久々知先輩…!」

誰かの焦ったような声が耳に入る。
そしてそれを最後に兵助の意識は途切れた。




「っ…ァ、やあ…三郎ッやだ…いやだ!」

三郎の手がびしょ濡れのシャツをまくし上げ、素肌を余すところなくまさぐる。
その手はまるで熱を持っているかのように熱い。

「兵助」

自分の名を呼ぶ三郎の瞳は冷え切っていた。
何も感情を宿さない瞳。

だが、その息は獣のように荒い。

三郎が自分を性の対象としてみている。
その事実に兵助の心は傷つき、どうしようもない悲しさが心を支配していく。

三郎の頭巾で両手首を頭の上で一括りにして縛られた。
両足を大きく広げられて、三郎の目前に自分の全てが晒される。

「い…やだ、三郎!見るな、見るなぁ!!」

羞恥と絶望、屈辱で瞳が潤んだ。
しかし、そんな兵助に構わず三郎は足をさらにぐっと開かせ、その指が兵助の最奥に触れた。

「ッ…ひ」

まだ解されてもいないそこに指を差し込まれ体が一気に強ばる。

「っ…う、ア!」

「…きついね、兵助のココ」

三郎が冷たく笑い、無理矢理もう一本指を差し込んだ。

「あ…ァア!!」

その痛みに兵助の瞳からはよけいに涙が零れ落ちる。

「痛い?でも、これからもっと痛い目にあってもらうんだけどさ」

そういうと三郎はその指をゆっくり動かす。

「――っ!!」乾いた指が兵助のナカを探るが、それに快感など伴わない。
あるのは異物感と激しい痛みだけ。

「さ…ぶろ…っ!三郎!」

こんな馬鹿げた事はやめて欲しくて。
いつもの友人に戻って欲しくて。

隣で笑ってる時のあの優しい瞳が見たくて−

痛みに体を震わせながら兵助が声を枯らして相手の名を叫ぶ。

頼むから…いつもの…いつもの三郎に戻ってくれよ!俺の友人の鉢屋三郎に…

兵助の声には答えず、三郎は指を引き抜くと自分の下半身を露出させた。

「…っ!!」

―恐い…!―

「さぶろ…っ!」

ズン、という振動を体中に走り兵助は目を見開く。
次に訪れたのは身を裂くような痛み。

「痛っ…!やだ…三郎、恐い!!やだ、やだぁ!!!」

あまりの恐怖と痛みに我を忘れて泣き叫ぶ兵助。
そんな兵助の頬を三郎は―…

―優しく撫でた

「…兵助」

労るような優しい声。
三郎の手が兵助の頬を優しくなで続ける。

「…っ…三郎…?」

その手の動きに固く閉じていた瞳をあけ、兵助が相手を見上げる。
自分に覆い被さるようにして自分の頭の横に手をついている友人。

「兵助…」

三郎の顔は辛そうに歪められ、その声は今にも泣き出しそうだ。

「…―何で…」

何で三郎がそんな顔するんだよ―

その表情が今にも消えてしまいそうな程不安げで。
兵助は自分がこんな目に遭っていることも忘れて、三郎に触れようとするが、手を縛られているためそれは叶わない。

しかし、次の瞬間。
三郎の顔からすぅっと表情がなくなり、三郎がグッと腰を押し進めてきた。

「――――っ!!!!」

受け入れるような構造になってないそこが悲鳴を上げている。

「三郎…っ三郎!!」

三郎は先ほどと同じ冷たい目で兵助の耳元に口を寄せると何かを呟いた。

『…――』




「…ぅ」

微かなうめき声を漏らし、兵助はゆっくりと瞳をあけた。

―喉が異様に乾いていた―

動かすのも億劫だが、周りの状況を確認しようと首を動かす。

ツン、とした消毒液の匂いが辺りに充満していた。
ここは…

「…医務室?」

兵助は今、医務室に引かれた布団の中に横たわっていた。
三郎のあの表情が、声が脳裏に焼き付いている。

「…今のは…夢か…?」

昨日、三郎に無理矢理された時の事ははっきりとは思い出せない。
ただ、三郎のことをまだ友人だと思っている自分がいて、だからあんな夢を―

そこまで考えて、兵助は布団の端をぎゅっと握った。

―違う

覚えてる。
頬を撫でた三郎の手の温かさも、辛そうに眉を寄せたあの表情も、震えるあの声も―
心が覚えてる。

でも…

「あの時、三郎はなんて言ったんだ?」

耳元で囁かれた言葉だけがどうしても思い出せない。
痛む頭に手をやると、額に冷たいものが置かれていることに気がついた。
それを掴み持ち上げると水で濡らされた手ぬぐいだった。
額に置かれていただからだろうか、兵助の体温で温かくなっている。

「手ぬぐい…?」

その時、すぐそばの衝立の向こう側で誰かの話し声が聞こえてきた。

「あ、ちょっと待って」

話し相手にだろうか、そう告げる声の主が動いた気配がして、一人の生徒が衝立の影からひょいとこちらに顔を出した。

深緑の制服に同じ色の頭巾。

「あ、久々知。気がついた?」

「…善法寺…先輩。」

それは保健委員長の六年は組善法寺伊作だった。




+++
え〜…と(汗)
18禁の境界線が分かりません(ヲィ)
ご意見等ありましたら遠慮なく言って下さい。
お願いしますOTZ
そして、第二話目なのに痛い、痛いよ。
尚かつ中途半端で終わらせてすみません(汗)


2008.5.18