飴 玉 (竹←久々の場合)


―飴を貰った。


くれたのは一つ上の学年の善法寺伊作先輩で。

「あ、久々知。ちょうど良かった。良かったらこれ食べて」

たまたま廊下ですれ違った兵助に差し出された手には綺麗な和紙に包まれた飴玉が四つ乗っていた。

「え、いいんですか?」

「うん。たくさん貰ったからさ。お裾分け」

伊作にそう返され、兵助がありがたくその飴を受けとる。

「ありがとうございます」

礼を告げると伊作は気にしないで、と微笑んだ。


その後、用事があるという伊作と別れ、兵助は改めて手のひらの飴玉を見つめた。

数は四つ―

皆と食べたらちょうどいい数だ、と心の中で呟く。

「…探しにいこうかな」

そう呟くと兵助は友人を探して歩き始めた。



「いねぇな…どこにいったんだ?」

その頃。

竹谷八左ヱ門は保健委員会が管理している薬草園で一人、なにやら呟きながら薬草をかき分けていた。
しかしかき分けてもかき分けても八左ヱ門が探しているものは見つからない。

しかも今日はこの時期にしては珍しい程暑い。
制服をしっかり着ているからよけいに暑い。

いっそ上着だけでも脱ぐか、額に浮かんできた汗を手の甲で拭いながら考えていると、不意に背後に人の気配を感じた。

この気配は…

「はっちゃん?」

「兵助?」

お互いがお互いの名を呼んだのはほぼ同時。

そのまま八左ヱ門が振り返るとそこには友人の一人である兵助が立っていた。

「よぉ」

「何やってるんだよ。こんなところで」

不思議そうに尋ねてくる兵助を見ながら八左ヱ門は、いや、実はさ…と話し始める。

「さっき、新野先生に声をかけられてな。薬草園に毒虫がいたって言うから回収しに来たんだ。でもなかなかみつからなくてな〜」

困ったように笑いながら言う八左ヱ門に兵助は「大変だね」と言い、しゃがんでこちらを見ている相手の傍に寄った。

「俺も手伝うよ」

「え、いいのか?」

「うん、はっちゃん一人じゃ大変だろ?」

そう言って自分も相手の隣にしゃがみ、薬草をかき分ける。

「助かる。ありがとうな、兵助」

八左ヱ門は嬉しそうに笑うと兵助に礼を言うと、また薬草をかき分け始めた。

「いいって。」

小さく答えながらも兵助は隣にいる相手をちらりと盗み見る。
いつからこうしているのか、彼の額には大粒の汗が浮かんでいて、その手は土で汚れていた。

大体、八左ヱ門一人でやらなくても誰かに頼むとか色々手はあるはずだ。

それに。

(俺に言ってくれればどんなことでも手伝うのに)

一瞬薬草をかき分ける手を止め、浮かんできたその考えに兵助は首を傾げた。
もちろん、自分が出来ることは手伝うつもりだ。

でも、『どんなことでも』…?

「…そういえば。」

自分の考えに自分で首を傾げている兵助に黙々と薬草をかき分けていた八左ヱ門が声をかけた。

「ん?」

「兵助、俺に何か用事があったんじゃないのか?」

「…あ、そうだった」

その言葉に兵助は自分が八左ヱ門達を探していた理由を思い出し、懐に手を入れる。

少し入れておいただけなのに飴は兵助の体温で温まり、柔らかくなっていた。

「さっき善法寺先輩に飴をもらったんだ。で、四つもらったから皆にわけようと思ってさ」

そう言って手のひらに乗せた飴を八左ヱ門に見せる。

「お、それならとっとと終わらせて雷蔵たちと食おうぜ」

再び薬草に手を伸ばそうとした八左ヱ門がふと手を止めた。

「はっちゃん?」

「兵助、ちょっと口開けて」

「え…?」

いきなりの八左ヱ門の言葉にきょとんとしながらも兵助は言われた通りに小さく口を開ける。

「よし、ちょっと待ってな」

八左ヱ門は自らの懐に手を入れ、何かを取り出した。

「これは手伝ってくれてるお礼な」

カサッと乾いた音が辺りに響く。

「…?」

何、と言おうとした兵助の唇に八左ヱ門の指が微かに触れた。

その瞬間、兵助の胸が大きくドキン、と高鳴る。
そのまま口に何かを入れられ、反射的に口を閉じると甘い味が口内に広がった。

これって…

「…飴、だよな?」

「ああ。前もらったのを入れっぱなしにしてたのを思い出してな。美味いだろ、この飴」

確かに溶けかけではあるが甘みは強かった。

「…美味い」

「だろ?あ、でも兵助は豆腐の方がよかったか?」

「…なんだかそれじゃあ俺が『豆腐、豆腐』って言ってるみたいじゃんか」

もしここに彼らの友人である鉢屋三郎と不破雷蔵がいたら口を揃えて「「言ってるよ(だろ)」」と突っ込むに違いない。

「いや、実際お前言ってるじゃん」

それは八左ヱ門も例外ではなかった。

「だって豆腐は…」

「…兵助、その話は後で聞くから。まずは毒虫探そうぜ?」

放っておくと豆腐がいかに素晴らしいかを語り出しそうな兵助を遮り、八左ヱ門は薬草をかき分け始めた。

「…後でちゃんと聞いてもらうからな」

なんだか誤魔化されたような気がしてならない兵助だったが、何か思いついたような顔をして、自らの手のひらに乗っている飴を一つ手に取った。

そして…−

「はっちゃん」

「なんだ?」

こちらを見た八左ヱ門の口に先ほど自分がされたように飴を入れる。

「…兵助?」

「はっちゃんが食べてないのに俺だけ食べてるわけにはいかないだろ?」

にっこりと笑みを浮かべる兵助に一瞬呆気にとられていた八左ヱ門もすぐ笑みを浮かべた。

「ありがとうな、兵助」

「どういたしまして」

コロ…と口の中で転がす飴は甘くてどこか温く、そして八左ヱ門の指で入れられたためか、土の匂いがするように感じた。

まるで…

「…この飴、はっちゃんの味がする」

「そうか?」

思わず呟いた言葉に八左ヱ門がにかっと笑って返す。

「兵助からもらった飴も兵助の味がするぜ?」

「俺の味ってどんな味だよ」

まさか、豆腐とか言わないよなと付け足すと八左ヱ門は違う違う、と否定した。

「なんていうか…口では説明しにくいけど兵助、って感じなんだよな」

そう言って笑みを浮かべている友人に再び兵助の胸が高鳴った。

「…?」

しかし、兵助にはまだその高鳴りが何なのか分からない。

ただ、先ほど八左ヱ門に触れられた唇が。
八左ヱ門の口に飴を入れる際、彼の唇に触れた指が。

やけに熱く感じられただけだ。



そして。
そんな彼らの様子を影から面白くなさそうに見つめている鉢屋三郎に八左ヱ門も兵助も気が付いてはいなかった。





                                       

                                             fin



〜あとがき〜

…竹←久々です。
見えなくても竹←久々なんです。

ちなみに「飴の味」については久々知は天然でいっています。
それに天然で返す竹谷…。

二人して天然なので、不意に恥ずかしいことを口にする。
それを恥ずかしいと言った方も言われた方も思わない。
ただ、周り(主に雷蔵と三郎)が悶絶する。
で、なぜ周りが悶絶してるかさえ分からない。

竹谷と久々知はこんな関係がいい(ぇ)

そして、最後に三郎登場ですよ。
なんか出しやすいんですよね、三郎。

ちなみにこの小説の傾向は、竹谷←久々知←三郎です。
救いがないなぁ…


08' 5.5