「ツナ、今日部活ねぇんだ。一緒にかえらねぇか?」

暑さも夕方になるとだいぶ落ちついてくる初夏のある日。
山本は帰ろうとしているツナに声をかけた。

「山本、うん。いいよ、帰ろう?」

いつもならこう言う時「十代目!俺も一緒に帰ります!」と大騒ぎする獄寺は、今日は用事があるとかで学校を休んでいる。

「じゃあ行こうぜ?帰りに何か食べていくか?それかツナ、おれんち来る?寿司くらいごちそうするからさ」

いつも通り微笑みながらも山本の様子はどこか違っていた。

「え?いいよ、悪いし」

「なんだよ、遠慮するなって。親父もツナに会いたがってるしさ。」

そのままガシッとツナの肩を抱くとツナの顔がかぁっと真っ赤になる。

「え・・う、うん。じゃあ寄っていこうかな」

「おう。じゃあ折角だから今日は俺が握ろうかな、寿司」

「え、山本が握るの!?うわー楽しみかも」

そういって笑うツナ。
そんなツナを見ながら山本は少しだけ切なさそうに微笑んだ。

 
「え・・・ツナが・・?」

一昨日。
獄寺によって山本はツナがディーノと付き合ってるという話を聞いた。

「そうだ。あの跳ね馬のヤロー!十代目がやけになついてると思ったらやっぱりそういうことだったんだよ!」

ガァンと獄寺が壁を殴る。

「・・・獄寺・・」

「・・でも・・十代目が幸せなら・・俺は・・っ・・」

そう言うと獄寺は拳をぎゅっと握りしめた。

 
(・・・なんて獄寺は言っていたけど・・俺はどうなんだろうな)

帰り道−ツナと一緒に歩きながら山本はぼんやりとそんなことを考えていた。

(ツナのことは好きだ。命の恩人だし、大切な友達だし・・・。それに可愛いと思うしな)

「そういえばさ、山本。野球の方はどう?もうすぐ試合なんだろ?」

「・・・あぁ。」

(俺は獄寺みたいにツナの幸せのために身を引くことが出来るか・・?)

−『できねぇ』−

その答えが出た時、山本の足が止まった。

「・・・山本?」

そんな山本を見て怪訝に思ったのかツナも足を止め、山本へ視線を向ける。

「山も・・・−」

「ツナ・・・。俺、ツナが好きみてぇだわ」

「・・・え?」

一瞬強い風が吹いた。

ツナは驚いたように目を見開いている。

「や・・ま・・もと・・?」

夕日が2人を静かに照らしている。

「俺と付き合ってくれねぇ・・かな・・」

真剣な声で言うとツナの肩がぴくりと震えた。

「・・ごめん、山本」

そう言い、ツナは力一杯頭を下げる。

「俺・・す・・好きな人・・っていうか、付き合ってる人がいて・・だから・・山本とは・・付き合えないんだ・・。ごめん!」

頭を下げたまましどろもどろになりながらそう言うツナを見て山本は苦笑いを浮かべた。

「・・・謝ることじゃねぇって。ツナに好きな奴がいるの知ってて告白したんだからな、俺」

ツナの肩をポンポンと叩きながら山本が告げる。

「・・・え?」

「・・あのおじさんだろ?ツナが好きな奴って」

(・・・まだおじさんだと思ってるー!?)

山本の発言を聞き思わず心の中でつっこむツナ。

「う、うん。ディーノさん・・が好きなんだ。俺・・・」

顔をかぁあああっと真っ赤に染めながらぼそぼそと答えると山本はツナの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「あーそっかぁ。ふられちゃったな、俺!」

「そ、そんな・・・」

意地悪くそう言うと途端に慌てたようにツナが答える。

そんなツナを心から愛しく感じて不意に山本はツナを抱き寄せた。

「ツナ・・・」

「や・・・山本!?」

自分の腕の中にすっぽりと入ってしまうツナ。

(そんなツナのことが俺は好きなんだよなぁ)

すると突然背後から声が聞こえてきた。

「そんなところでハグしあってるなよな、お前ら」

からかうようなそれでいて落ちついた声−。

「ディ・・・ディーノさん!?」

耳元でツナの慌てたような声を聞き山本はツナを抱きしめる手を緩めた。

「よぉ、ツナ。山本」

「・・・ちわ」

そんな山本の様子を見てディーノはツナをそっと山本の腕から抱き上げた。

「ディ・・ディーノさん!?」

ツナはよけいに頬を染め、ディーノを見つめているがディーノはお構いなしにツナを姫抱きにする。

「迎えに来たんだぜ、ツナ。折角日本に来たのに、リボーンに聞いたらまだツナは学校だって言うからさ。」

「す・・すいません」

そんなツナをディーノは愛しげに見つめていた。

(・・・敵わねぇな)

その様子を見ていた山本は人知れず小さく溜息をつく。

「じゃあな、ツナ」

「え・・・っ!?や、山本・・・?」

背後からツナの声が聞こえるが山本はそれを振り払うようにして走っていく。

「・・・ごめん、山本」

ツナは再び小さく呟いた。


心地よい風が吹いている。
家の近くまで走った山本は足を止め空を見つめた。

「・・・ふられちまったな・・」

(・・・分かってたはずなのにな。ツナがあの人の事を好きだって事はずっと。でも・・)

切なさそうに笑うと山本は口元に笑みを浮かべたまま空を見つめた。
その瞳が微かにうるんでいたことを知っていたのは日が完全に沈んだあとの淡い紫色の空と登ったばかりの月だけだった。



              

                      

                                 Fin

〜あとがき〜

え、えっと・・・かなめ様!大変お待たせ致しました!
本当にすみませんでした。
しかも思い切り季節はずれの作品です(爆)
ディノツナ←山・・になっているのでしょうか、これ(汗)

遅くなって本当にすみませんでした。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました。

The Parting Day