Because Friends...



「その様子じゃそっちも見つからなかったようだね」

骨女の声に一目連の隣に立ち、輪入道の吹かす煙草の煙をぼんやりと見つめていた俺−−は、そちらへと視線を向ける。

しかし、その隣には地獄少女−閻魔あいの姿はなかった。

「・・・そっちにもいなかったんだ?」

−お嬢がいなくなった−

輪入道達に言われたのは今朝だった。
それからすぐにこちら・・・−いつも夕暮れに包まれている世界に来て、連達と探し続けてたんだけど・・・

「おめえさんもだめかい。つくづく能なしだな、俺たちゃあ」

それまで黙っていた輪入道が煙草の煙を吐き出しながら小さく呟く。

「いうなよ」

連が小さな声で答えた。

「全く。どこいっちまったのかねぇ、お嬢はさ」

「仕事するでもなく、気がつくとことんこと、ぷいっと消えちまってる」

・・・確かに最近のお嬢はどこか変だった。
何か悩んでいる・・いや、あれは何か「追いつめられている」と表現した方が良いのかもしれない。

それでもどうかしたのか、と尋ねれば「何でもない。大丈夫だから」と言うだけだった・・・。

「お嬢もほら。年頃だから。」

連のおちゃらけた発言に俺が思いきり足をダァンッ!!と力一杯踏みつけたのと骨女が連にお嬢愛用の笛を投げつけたのは同時だった。

「いってぇ〜!」

「冗談言ってる場合かい」

「少しはお嬢の心配しろよな!」

2人でキッと連を睨み付けると連が情けない顔をして俺たちを見る。

「だからって、投げることも踏むこともないだろ!いってぇ〜・・・」

頭と足をしゃがみこんでさすっている連を見て俺は溜息をつくとトン、と縁側から彼岸花が咲き乱れている庭へと降りる。

「・・・?」

「もう一度、その辺見てくるよ。もしかしたらもう帰ってきてるかもしれないしさ。・・・そうじゃなくても・・柴田とあの女の子のこともあるし。」

俺のその言葉に3人がぴくっと反応する。

・・・俺には何も教えてくれないんだな、肝心なこと。

俺は、連達のことを何も知らない。

いつから生きているのか、とか、何でお嬢が地獄少女をしているのかとか、何であの柴田って親子にお嬢が注目するのか、とか・・・。

「・・・じゃあ俺、ちょっと行ってくるから」

そう言ってきびすを返す俺の手を掴んだのは輪入道だった。

「まて、。帰ってきた」

「え・・・?」

その言葉に3人の視線の先を追うとそこにいたのはあの蜘蛛だ。

その背中の目があちこちに動いている。

「なんだい、あっちにいるのかい」

骨女がどことなく安心したように息を吐いた。

・・・え?あっちって・・・?

「あっちっていうのは、達の世界のことだよ」

いつの間にか連が俺の反対側の手を握っている。

「そっか。・・・じゃあ、迎えに・・・」

「まてよ・・・!?もしかしたら・・・!」

俺の言葉は輪入道のせっぱ詰まった言葉に遮られた。

「少しまずいことになってるかもしれねぇ」

「・・・え?」

「行くぞ!」

訳が分からないままの俺にそう言うと輪入道が車輪だけの姿になる。
その瞬間、俺の耳に何かが届いた。

誰かの・・・泣き声が・・・

「・・・お嬢?」

ドクンと心臓が嫌な音を立てた。

・・・胸騒ぎがする。



「来たのね」

「地獄少女!」

滝の上で閻魔あいが柴田一とその娘のつぐみをみて呟いた。
閻魔あいから送られるヴィジョンで見えた景色−桜の大木と滝がある土地に伝わる「七つ送り」。
山神様に無病息災、五穀豊穣をお願いするため、7年に1度、7歳になったばかりの娘を山に捧げるという風習。

そして、その「七つ送り」に捧げるために生きたまま土に埋められたのがあいだった。

同時に、その子ども達を鎮めるために寺を作ったのがあいの幼なじみの「柴田 仙太郎」だったのだ。

「まだ残っていた。・・・忌まわしい血は絶えていなかった。その血が私を惑わせた」

あいはいつも以上に静かな声で話す。

「忌まわしい・・・一体何を言ってるんだ!?」

一が眉を寄せながら聞き返すが、あいは何も言わない。
その途端、つぐみの中にあいからのヴィジョンが送られてきた。

哀しいヴィジョンが・・・。



−−っ!!

「輪入道、もっと飛ばせないのかよ!!」

輪入道に乗り込んでいる連が大きな声で輪入道に話しかける。
俺たちは今、お嬢がいるであろう場所に向かっていた。

「これが精一杯だ!」

そんな会話が交わされる中、俺の意識は朦朧としていた。
やけに心臓の音が大きく聞こえて、周りがかすんで見える。

・・・胸が・・締め付けられるように苦しかった。
目の前が真っ暗になって、ただ、聞こえるのは誰かの「やめてっ!助けてっ・・・仙太郎!」という泣き声だけ。

この声・・この声は・・

「お・・・嬢?」

そう呟いた途端、俺の中にヴィジョンが流れ込んできた。

・・・哀しい・・哀しい・・ヴィジョンが・・。

「・・・っ!!!」

・・・?どうしたんだい!?」

俺の異変に気が付いた骨女が俺の肩を揺さぶる。

俺は息苦しくて、ただ悲しくて涙があふれてきた。

・・・今のが・・お嬢の最後の姿・・・。

「・・・七つ送り・・だって・・。・・お嬢はそれで・・選ばれたんだな・・?」

俺の言葉に連と骨女が息をのんだ。

、何で・・・。」

「・・・分からない・・・。分からないけど・・『見えた』んだ」

 

「埋められた・・・埋められたの!?貴方、仙太郎さんに」

つぐみがあいに話しかける。

「えっ!?」

その言葉に一が驚いたようにつぐみを見る。

「もう一度殺そうというの?時を越えて、またあの時のように。・・・私はすべてを受け止めたというのに。」

「・・・私は殺されたりしない!消えてしまえ!」

あいが怒りを含んだ声で叫ぶと周りに黒い靄が現れ、地獄送りする時に出す花があちらこちらに現れた。

あいの顔は憎しみでゆがんでいる。


「・・・お嬢!!」

「いたよ、お嬢だ!!」

大きな滝が見えてくると同時に連と骨女が叫んだ。

「・・・っ!」

その声にバッと外を見た俺は息をのんだ。

お嬢の周りに集まっている黒い靄、そしてあの花−それらはお嬢を飲み込もうとさえしている。

「やっぱりここか!」

「お嬢っ!!」

思わず叫ぶがお嬢はこちらをちらりと見ただけで再び視線を柴田達に向けた。

まずいっ・・・!

「駄目だ、お嬢!」

「やめるんだよ!感情で人を殺めちゃいけない!」

「お嬢が地獄に流されるぞ!」

その言葉に俺は骨女達を見たが今はそれどころじゃない。

何とかお嬢をとめないと。

「私はそれでもかまわないっ・・・」

「お嬢っ!!」

身を乗り出して叫ぶ俺を連が必死に押さえる。

「いけねぇ、憎しみで心を支配されちまってる!」

「そんな・・どうすればいいんだよっ!」

柴田達をとらえたお嬢の手から黒い靄が放たれていく。
その靄がまるで弓のように柴田達へ一直線にとんでいく。

「やめろっ!!」

思わず叫ぶと同時に輪入道がその靄につっこみ、なんとか柴田達に当たることを避けさせた。

「っ!!」

輪入道から飛び降りると俺たちはお嬢を見上げる。

・・・嘘だろ・・お嬢。こんなの・・お嬢らしくないよ。

「お嬢っ!!やめろ!」

「逃げろ!!」

連が振り返り、柴田達に向かって叫ぶ。

「・・・え・・でも・・っ」

「いいから早く!!ここは俺たちが何とかするから早く行け!」

「何してる、急げ!」

それに続いて俺と輪入道が叫ぶと柴田は頷いて娘の手を取り走り出した。

しかし・・・−

「消えろ・・・!!」

低い声が聞こえると同時にお嬢が再び靄を放つ。

「お嬢、やめるんだ!」

「・・・っ!」

それを見た途端、俺は無意識に地面を蹴っていた。

ただ、とめたかった。

お嬢に誰も傷つけて欲しくなかった・・・。

お嬢は・・きっと本当はそんなこと望んでいないはずだから。

「伏せろっ!!」

そう叫ぶと同時に俺は柴田達の前に飛び出した。



「・・・っ!!」

!!」

連達の悲鳴にも似たような声が離れた場所から聞こえてきた。

お嬢の靄を真っ正面から受けた俺はそのままはじき飛ばされ、反対側の木にだぁんともろにぶつかり、そのままずるずると崩れ落ちる。

「ぐっ・・・」

もろに背中を打ち、呼吸するのもままならない。

・・・ちょっと・・やばいかも・・。

っ!!」

俺に駆け寄ろうとする連を見て俺は小さく首を振った。

「来るな!それより、柴田達をっ・・・!!」

口の中に血の味が広がる。
舌を噛んだみたいだ。

そのままお嬢を見上げるとお嬢は無表情のまま俺を見つめている。

「・・・お嬢、もうやめろ・・頼むから・・っ。」

俺の瞳からは涙がこぼれていた。

哀しい・・・哀しい・・。

これが・・お嬢の中の『闇』。

「・・・ずっと1人で・・こんな闇を抱えてたんだよな。・・・ごめん、お嬢・・お嬢っ・・」

お嬢は俺から視線をそらすと驚いたように俺を見ている柴田達を見る。

「何してるっ!!早く逃げろよっ」

そう叫ぶと柴田が再び走り出そうとした瞬間、恐れていたことが起きた。

「消えろっ!!」

「うわっ・・・」

「きゃぁああああ!!」

お嬢が放った靄が柴田達にぶつかり2人はそのまますごい勢いで滝壺に落ちたのだ。

「っ・・・!!」

「お嬢ーーー!!」

輪入道が悲痛な叫び声をあげる。

その声にハッとお嬢を見るとお嬢は桜の木のところで浮いていた。

その瞬間、雷が桜の木に落ち、桜の木は激しく燃えだした。

まさか・・っお嬢が地獄に・・っ・・

「待て・・やめろ・・やめてくれっ・・」

何とか立ちあがろうとするとズキンと体中に痛みが走る。

「私はかまわない。・・この怨み・・・っ!」

お嬢が感情を露わにした声で叫んでいる。

「地獄へ流すがいい!!」

そう言うお嬢の瞳からは涙が溢れていた。

やめろ・・やめろ・・・っ・・・

「『やめろーーーーーー!!!!!』」

俺の絶叫があたりに響いた。




                        

                                                 <Fin>




〜あとがき〜

ついにやってしまいましたよ・・・。「夕暮れの里」パロディ!!(爆)
いやぁもう、ネタバレが激しくてすいません(汗)

昨夜、25話を見たときから書きたくて書きたくて仕方がなかったのです。

・・・お嬢ーーー!!!

ものすごい哀しい話。
「惑わせた」ってことはやはり、柴田親子にあったことであいちゃんの中で何かが変わっていったんだろうな。
あいちゃんにとって「柴田」は憎むべき相手だったのでしょうか・・・。
最後の涙が切なかった・・・。
あいちゃん・・・。

本当はあいちゃんをぎゅっと抱きしめる爽太が書きたかったのですが、それはまた次回・・・(ヲィ)

ではでは少しでも楽しんでいただければ幸いですv

ここまで読んでいただきありがとうございましたv



                             
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