Happiness Of Being Both
「じゃ、行くぜ」
俺−一目連−の隣にいた輪入道が小さく息を吐き出したあと、俺と骨女に話しかける。
お嬢がいなくなった今、俺たちの役目も終わったようなもんだしな。
「私も。浮き世巡りとしゃれこむかぁ」
そう言った骨女の表情は何処までも晴れ晴れとしている。
俺もきっと同じような表情を浮かべているんだろう。
「・・・それを言うなら、地獄巡りさ」
ついいつもの調子で答えると2人が笑みを浮かべた。
「おめぇは、そうでもねぇだろ?」
「・・・え?」
「行くんだろ?のところにさ」
・・・全てお見通しってわけね。
2人の的を射た言葉と表情に俺は軽く肩をすくめる。
−。
俺たちの仲間でもあり、俺の恋人だ。
はまだ、お嬢がいなくなったことを知らない。
「あぁ・・・。お嬢のことも・・・伝えないといけないしな」
「そうか。よろしく言っておいてくれ」
「私も。」
「あぁ」
小さく頷くと2人とも最後に笑みを浮かべて別々の方向に歩き出した。
それにつられて俺も2人とは違った方向に歩き出す。
お嬢・・・。
俺は心の中で呟くと空を見上げた。
の住むマンションへ向かっている最中、俺は頭の中で今までのことを考えていた。
400年・・・本当に長かった。
刀として、何人もの人間を斬り、死んでいくのをただ見ているだけだった。
『探しているものがあるんでしょ?』というお嬢の言葉がまだ耳に残っている。
『あるが・・・あんたらといて、それが見つかるのか?』
そう尋ねた俺にお嬢は、俺次第だと答えたよな。
やがて、視界の中にマンションが見えてきた。
そう言えば・・・よくこの道を4人で通ったな。
もうずいぶん昔のことのような気がする。
「連」
「・・・?」
不意に前から声をかけられると、俺は立ち止まり無意識に伏せていた視線をあげる。
そこには、俺と向かい合うようにしてが立っていた。
「・・・」
少しだけ荒い息をしながらも俺をまっすぐに見て微笑んでいる。
「どうしたんだよ、そんな息乱して」
頭にポンと手を置きながら言うとは照れたように笑った。
「そろそろ、来る頃かなって思ってさ、ここまで迎えにきたんだ。」
彼はそう言うと俺の隣に並び、手をしっかりと繋ぐ。
・・・いつもだと、街中で少しでも触れると力一杯殴ってくるのに、珍しいこともあるもんだ。
それとも・・・
俺の手を握って微笑んでいるを見て俺は少しだけ感じた。
は・・・お嬢のこと、知っているのかもしれないと−。
「あがってよ、散らかってるけど」
あれから俺−−は連と手を繋いだまま、俺の部屋まで歩いてきた。
手を繋ぐって言うのは本当はものすごく恥ずかしかったんだけど・・・。
でも、そうしないと少しだけ不安もあった。
連が、このままどこか行っちゃうんじゃないかっていう不安。
「あぁ」
俺の言葉に頷くと、連は靴を脱ぎリビングへと向かう。
「の部屋ってこんなに広かったっけ?」
リビングを覗き込みながら連が言った。
そこにはもう誰もいない。
骨女も、輪入道も・・・。
そして・・・
「何言ってるんだよ、あ、適当に座ってて?今、コーヒーでもいれるから」
相手の背中を軽く押し、促しながら言うと連は素直にリビングに入り、ソファに腰をかけた。
そこは連の定位置だ。
俺はその様子を見てからキッチンへと足を向ける。
しかし・・・。
「」
連の落ち着いた声が聞こえてくる。
「コーヒーはいいからさ、ここ座れよ。・・・話があるんだ」
連は微笑んだまま自分の隣をぽんぽんと叩く。
俺はそれを見ると小さく息を付き、頷いた。
そうだよな、先に話しておかないと・・・ダメだよな。
辺りは静寂に包まれている。
隣に座った俺は黙り込んでいる連に視線を向けた。
連は何かを考えているようだったがやがてゆっくりと口を開いた。
「・・・。お嬢・・・だけどな」
・・・やっぱり。
その言葉を聞いて、俺の中の『予感』が確信に変わる。
「もう・・・いないんだろ?・・・お嬢」
「・・・知ってたのか?!」
連が驚いたように俺を見るが頷くことしかできない。
俺だって、詳しいことは一切知らないんだし。
ただ・・・
「詳しいことは何も分からないけど・・・聞こえたんだ、お嬢の・・・『ありがとう』っていう声・・・」
「そっか・・・。」
連は少しだけ瞳を細め、俺の頭にそっと触れる。
「なぁ・・・連、何があったか聞いても・・・いいかな?」
少しだけ戸惑いながら尋ねると彼は小さく頷いた。
「あぁ。っていうか、それを話しにきたんだしな」
そして、連はゆっくりと今までのいきさつを語り出した。
−−−・・・。
どれくらい時間が経っただろう。
全てを話し終わった後、連も俺も黙り込んだままだ。
「・・・お嬢・・・最期、そんな顔してたんだ。」
小さな声で呟く俺に連が頷いた。
「はっきりいって、あんな穏やかな顔したお嬢、400年ずっと一緒にいたけど・・・初めてみたかもな」
「そっか・・・」
連は顔を伏せて、俺と目をあわせようとしない。
俺は連の横顔を見つめたまま、そっと彼の手を握りしめた。
「・・・?」
「・・・連、これからどうすんだ?」
なるべく感情を抑えて、静かな声で話しかける。
だって、そうしないと・・・連を困らせてしまうかもしれないから・・・。
連は俺をまっすぐ見つめてくる。
金色に近い瞳が微かに細められた。
「さぁ、どうするかな・・・。もう、お嬢はいないし・・・。あいつらとも別れた。もう俺が帰る場所もないしな。」
連の言葉がズン、と胸に重たくのしかかる。
そっか、もう誰もいないんだ。お嬢も骨女も輪入道も・・・。
そして、連ももしかしたら・・・。
そんなの・・・!
「・・・嫌だよ・・・。」
「?」
顔を俯かせて答える俺を連が驚いたように見つめている。
「嫌だ・・嫌だよ、連。いかないで・・・どこにも・・・いかないでよ。俺と・・・いてよ・・・」
よけいに連の手を強く握りしめる。
やばいっ・・・泣きそう・・・
「確かに・・・もう連はあの家には戻れないかもしれない。でも・・・帰る場所は・・・あるじゃんか!」
キッと連を強く睨み付けながらも口が止まらない。
駄目なのに。
こんなこと言ったら。
俺に連を縛る権利なんてないのに・・・
「・・・」
連がそっと俺の頬に触れる。
−温かい・・・−
手から伝わってくるぬくもりに俺は感情のままに言葉を紡ぎ出した。
「・・・っ・・俺は人間で、連は妖怪だから。連にしてみたら俺と一緒にいる時間なんてほんの少しかもしれない。一瞬かもしれない。でも・・・。俺の残りの時間、全部連にあげるから。だから・・・ッ・・帰る場所がないなんて悲しいこというなよ・・・っ・・・。連の帰ってくる場所は・・・ッ・・・ここにあるじゃんか!」
肩で息をする俺を連はまっすぐに見つめたまま、何も話そうとしない。
・・・駄目、なのかな、やっぱり・・・。
俺じゃ・・・お嬢達の代わりにもならないのかなッ・・・。
段々と落ち込んできた俺は握っていた連の手をそっと緩める。
「・・・っ・・・ごめん、変なこといって・・・」
次の瞬間、俺は連に床に押し倒されていた。
「・・・っ・・・連!?」
連はそのまま俺の唇に自らの唇を重ねる。
「ッ・・・連・・・っ」
覆い被さるような体勢で頭の横に手を付き、連は俺を見下ろしている。
「いいのか・・・?」
「え・・・?」
「俺は・・・人間じゃない。それに・・・のこと、きっと一生離せなくなると思う。それでも・・・俺といたい?」
連の顔は逆光でよく見えない。
でも・・・
そんなの始めから決めているから。
連が好きなんだって気が付いたあの時から・・・
「うん。連といたい。連じゃなきゃ・・・嫌なんだ。大好きだから。だから、一緒に・・・いてよ」
そっと連の頬に触れながら答えると連も同じようにして俺の頬に触れる。
そして、そっと俺の目尻をぬぐった。
え・・・もしかして・・・
「分かった。俺も・・・が大好きだから、一緒にいたい。それに・・・泣いているを放ってどっかいったりしたらお嬢達に怒られそうだしな」
俺・・・泣いてた!?
そのことに気が付くと同時にぼっと顔が赤くなるのを感じる。
た・・・確かに泣きそうだったけど・・・っ!
でもマジで泣くなんてっ・・・!
瞳を袖でごしごしと擦る俺の手を連がそっと取り、しっかり握りしめる。
「連・・・」
「ありがとう、。」
そっと俺を抱き起こし、連は自らの胸に俺を閉じこめた。
「しかし、の家にお世話になるんだったら俺も働かないとな。今度は偵察とか調査、じゃなくてさ」
俺の髪をそっと撫でながら連がくすくすと笑う。
「そうだな。でも・・・焦らなくてもいいよ。・・・ずっと一緒にいるんだからさ」
にこりと笑みを浮かべながら答えると、連が俺の唇にそっと口付けを落とす。
「とりあえず、今日は2人で・・・こうしてよう?」
唇が離れると俺は連の胸に顔を埋めた。
連は俺の髪を梳きながら小さく頷く。
でも、お互いの手はしっかり繋いだまま離さない。
好きな人が・・・大切な人がそばにいるってこんなに嬉しいことだったんだ。
もう、『地獄少女』も『閻魔あい』もいない。
全てが終わった。
でも、全てのことは夢ではなく紛れもない現実。
全て実際に起こったことだ。
そして、俺の隣にいる『一目連』という存在も夢ではないから。
・・・ずっと一緒にいような、連。
Fin
〜あとがき〜
ずっと書きたくてやっと書けた地獄少女最終話ネタです!
えっと、テーマは「一目連のその後」ですかね(笑)
一番最後の場面から話が始まっているのはそのためです。
しかし・・・お嬢〜(泣)
そして、今回はアニメ沿いのためお嬢が消えていますが、今後書くものはおそらくいつもの4人+爽太で書くと思います。
やはり、氷月は地獄少女はお嬢も輪入道も骨女も一目連も皆好きなので(笑)
「Happiness Of Being Both」少しでも楽しんで頂ければ幸いですv
それではここまで読んで頂き、ありがとうございましたv