「保健委員会ののろしの段」その後(六年生)


かくして学園長の突然の思いつきで行われた「委員会対抗戦」は幕を閉じた。
そして、結果的には学園長に振り回された生徒一同と教師軍は揃って疲れた体を引きずり学園目指して歩いていた。

「まさか今回の事、全部学園長先生が仕組んだことだったなんてなー。全然気が付かなかったなぁ」

体育委員長の七松小平太が歩きながらそうぼやく。

「本当だよね。僕たちだけじゃなくて先生方も振り回されたって事になるし」

その言葉に苦笑しながら同意したのは保健委員長の善法寺伊作だ。

ちなみに今、各委員会の委員長を務める六年生は固まって歩いている。
もちろん、自然にそうなったのだが。

「しかし今回は文次郎なんかにのせられてまんまと学園長先生の思惑通りに私まで動いてしまったのが悔しくてならんがな」

「なんかとはなんだ、なんかとは!」

歩きながら言い争いをし始めそうな作法委員長立花仙蔵と会計委員長潮江文次郎の間に割り入ったのは伊作だった。

「二人ともそこまで。でも本当疲れたねー。サポートに回った僕らでさえ、こんなに疲れたんだからきっと下級生はへとへとだろうね」

「…そうみたいだな」

用具委員長の食満留三郎が前方を歩いている下級生の固まりを見て頷いた。
みると下級生達は足腰さえおぼつかないまま歩いているのがほとんどだ。

「あれでは学園まで持たない奴続出だろうな」

仙蔵の言葉に全員が苦笑を浮かべつつ黙り込んだ。
それは今の下級生達を見ていれば充分あり得る話だ。

「もしそうなったら僕たちも手伝った方がいいよね。上級生としてさ」

「仕方がないか。」

「そうだね、あいつら頑張ったんだもんな」

「ああ。本当に頑張っただろうしな」

「…今度は俺たちの番ってことか」

文次郎の言葉に図書委員長の中在家長次が無言で頷いた。

もちろん自分たちだって疲れ切ってはいるが、本当に疲れているのは今回頑張った下級生達だ。
それを痛い程分かっているからこそ誰一人、伊作の意見に反論はしなかった。

「明日は下級生達を労うとするか」

「へぇ、仙蔵がそんなこと言うなんて珍しいね」

「伊作」

「あははは、ごめんごめん。でも…大変だったけど楽しかったよね」

「うん!楽しかった!な、長次」

「ああ」

六年生にもなると他の学年と関わる機会はぐんっと減る。
特に下級生については委員会で関わるぐらいしか機会がないのだ。

だが、今回の委員会対抗戦で自分たちの委員会の下級生はもちろん、他の委員会の下級生達を知ることが出来た。

それは六年生にとっては大きな収穫だ。

「下級生はもちろんだが、上級生達の新しい面をみることも出来たしな」

「…無意味ではなかったってことか」

文次郎がどことなくしみじみ言った言葉に仙蔵がその顔に笑みを浮かべた。

「まぁ、いい暇つぶしにはなったな」

「もー…仙蔵」

そういいながら全員で笑い合った。


その数分後。
下級生…特に一年生が次から次へと力尽き、上級生達がてんてこまいしたのは、また別の話だ。


+あとがき+

「保健委員ののろしの段」のその後話です。
見張り台を爆破した後、全員でぞろぞろ歩いて帰っていたらいいなぁ…という妄想です。
やはり最高学年の六年生だと五年生や四年生とはともかく、下級学年と関わるのは委員会ぐらいじゃないかなぁ…と。
委員会でのお兄さん的な立場の六年生が大好きです。

(旧雑記にて2008年5月8日掲載)