在る日の出来事
―それはとても晴れた日の午後の事―
「はっちゃん?」
裏ウラ山の茂みの中。
辺りを警戒しながら進んでいた久々知兵助は自分がいることより少し離れた場所に友人の一人を見つけた。
「よぉ、兵助」
「何やってんだよ、はっちゃん。こんなところで」
兵助の問いかけは最もで、竹谷八左ヱ門は木の根本で両腕を頭の下にいれ仰向けに寝転がっていた。
これでは忍びも何もあったものじゃない。
「いや、さっきここ通ったんだけどあまりにも気持ち良さそうだったもんでな」
つい、と付け加える八左ヱ門に兵助は少し呆れたように息をつく。
「ついって…。はっちゃん」
そう言いながらも兵助は改めて彼が寝転んでいる場所を見る。
我先にとでもいうようにそこら一帯の木々が伸ばした枝が辺りを薄暗く見せている。
その中で八左ヱ門が寝転んでいる場所はそんなに木々が覆いしげっていないのか日だまりになっていた。
確かに寝転んだら気持ち良さそうだ。
「…はっちゃんらしいといえばはっちゃんらしいけどさ」
兵助はそう言うと八左ヱ門の隣に腰を下ろした。
「そうか?」
いつもの笑顔で尋ねる八左ヱ門を兵助は頷く事で肯定する。
そのまま木に背を預け、兵助はほっとしたように息を吐いた。
辺りはシンと静まりかえっていて、何の気配もなく時折吹く風も心地よい。
ふと上を見上げれば木々の間から見える空はどこまでも青く澄んでいる。
「裏ウラ山にこんな場所があったんだ。知らなかった」
「ああ。俺たち五年もこの山で授業や課題してきたのにな」
「きっと課題や授業の時はこんな風に周りをじっくり見る事ないからじゃないか?」
「そうだよな。課題の時なんかは特にそんな余裕なんかないしなぁ。」
「ろ組には三郎がいるから余計に、だろ?」
そう言って顔を見合せ笑い合う二人のすぐ側の茂みががさがさと揺れ始めた。
「「!!」」
その音に二人の目が鋭くなり、茂みを睨み付ける。
八左ヱ門が上半身を起こし、兵助が自らの懐に手を入れた。
お互いに目だけで頷きあい、地を蹴ろうとした瞬間。
茂みが大きく揺れ、それを掻き分けて現れた人物を見て二人は動きを止めた。
「「あ…」」
「兵助、ハチ!」
「雷蔵…」
「雷蔵かよ。驚かすなって」
そこにいたのは彼らと同じく紺色の制服を身に纏っている不破雷蔵だ。
肩の力を抜きながら言う兵助達に雷蔵は「ごめん」と謝りながらも友人達のそばに寄る。
「あれ?雷蔵、三郎と一緒じゃないのか?」
再び木に背を預けながら尋ねる兵助に雷蔵は小さく頷いた。
「うん。実は三郎とはぐれちゃって…。二人とも三郎見なかった?」
その答えに兵助と八左ヱ門は一瞬だけ視線をあわす。
三郎といつも一緒にいることを否定しないところが雷蔵らしい。
「…ハチ?兵助?」
返事がない友人達に雷蔵が不思議そうに首を傾げた。
「あ、すまん。三郎だよな」
八左ヱ門はそういうと兵助がもたれている木の上へ視線を向ける。
兵助も同様に太い枝を見上げていた。
「「三郎なら、そこにいるよ(ぜ)」」
「…え?」
異口同音で告げられた言葉に雷蔵も思わず二人の視線の先を見る。
すると、太い枝の上に人影が現れそれが音もなく雷蔵の隣に着地した。
「三郎!」
「なんで分かった?気配は完璧に消してたのに…」
その場にいる皆と同じ紺色の制服−そして、驚きの表情で彼を見てる雷蔵と瓜二つ、いや全く同じ顔をしている同級生は不満そうに唇を尖らせ兵助と八左ヱ門に尋ねた。
「気配を消してても三郎がいるってことくらい分かるよ」
さらりと何でもないことのように答える兵助に雷蔵に変装している鉢屋三郎はますます不満そうに眉を寄せる。
「大体、俺が木の上にいるっていつから気が付いてた?」
「最初…からだな」
それに答えたのは八左ヱ門だ。
「だったら何で声かけないんだよ!」
「だって三郎狸隠れしてただろ?だから声かけない方がいいかなと思ったんだ」
「〜〜〜っ!!兵助は!?」
すごい勢いで三郎が兵助の方を振り返った。
「俺も最初から。でも三郎何も言ってこないし、はっちゃんも何も言わないからそのままでいいのかなと…」
「それじゃあ俺がバカみたいじゃないか!」
地団駄さえ踏みそうな勢いのまま三郎が吠える。
「さ、三郎落ち着いてよ」
慌てて雷蔵が声をかけるが三郎の怒りは収まらない。
「嫌だ!というか、何でハチと兵助には見つかるんだよ。兵助に至っては俺と雷蔵の見分けさえ完璧だし!」
不破雷蔵と鉢屋三郎といえば五年ろ組の名物コンビで、二人を見分けることの出来る者は珍しい。
しかし、目の前にいる久々知兵助はその珍しい方の部類に入るのだ。
彼は昔から一度も三郎と雷蔵を間違えたことがない。
「三郎と雷蔵は全然違うだろ?」
三郎の言葉に兵助はきょとんとして尋ね返す。
「いやでも、見分けが付けられるのはすごいよな。俺も最近やっと分かってきたけど」
「あはは…」
八左ヱ門の言葉に何と答えて良いか分からず苦笑するしかない雷蔵の隣で三郎が体をぶるぶると震わせている。
「それに」
兵助はそこで一旦言葉を句切ると両腕を頭の後ろに置く。
「三郎って、なんか空気があるんだよな」
「おー分かる分かる。なんて言うか『構って欲しい〜』みたいな空気だろ?」
「ハチ!!」
八左ヱ門の言葉に三郎が声を荒げるが、その頬は心なしか少し赤い。
「それなら僕も分かるかも…。確かに三郎ってそういう空気あるよね」
「雷蔵!?」
雷蔵にまで肯定され三郎は目を見開いた。
「それもあるけど…」
兵助はそういうと何かを考えるように顎に手を添える。
「…なんだよ」
恨みがましげに兵助を見て声を低くする三郎に構わず兵助は言葉を紡いだ。
「『俺を見つけて』って感じだよな。どちらかというと…」
「あー確かにそっちの方が近いかもな」
「!!」
頷く八左ヱ門を見ながらも兵助の言葉に三郎は思わず息を飲んだ。
「三郎」
その肩を雷蔵が優しく叩く。
「雷蔵…」
「大丈夫。どんな姿をしていても三郎は三郎なんだし。僕たちは君が何処にいても見つけるからさ。」
にこりと笑いかける雷蔵に三郎は今度こそ言葉を失った。
そのまま顔を伏せ拳を握りしめる。
しかし、最早その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「三郎、もしかして照れてるの?」
「うわー俺、三郎が照れたところ初めて見たかも。」
「俺も」
珍しそうにいう八左ヱ門に兵助も頷く。
「ハチ〜〜〜!!」
真っ赤な顔のまま八左ヱ門に掴みかかろうとしていた三郎だが、不意にがさがさと揺れた茂みにその動きを止めた。
見ると雷蔵や兵助、そして八左ヱ門も茂みへと視線を向けている。
「…やぁ。」
やがてその茂みから申し訳なさそうに出てきたのは深緑の制服を着た上級生−六年は組の善法寺伊作だった。
「善法寺先輩」
「楽しそうな話してみたいだね」
そう言いながら近づいてくる伊作に四人全員が違和感を覚える。
なぜか伊作の顔には苦笑が浮かんでいた。
「…ところで。今が五・六年合同の実技授業中だって覚えてる?」
「「「「…あ」」」」
伊作のその言葉に四人がハッとする。
それと同時に伊作の後ろから彼と同じ色の制服を着た人影が現れる。
「まずい…」
「…まずいな」
「まずいよね…」
「まずすぎるよな…」
四人の背中を冷や汗が流れた。
かくして、五・六年合同実技授業である「鬼ごっこ」は六年生が五年の大半を捕まえ、六年の勝利で幕を閉じたのだった。
Fin
〜あとがき〜
な ん だ こ れ OTL
五年生に夢見ててごめんなさい(汗)
五年生好きなんです、大好きなんです。
特に竹谷が…!(ヲィ)
え〜…鉢屋は普段は飄々としているんだけど、友人の前では無意識に自分の素を出してるとかだったら萌える…とか思いまして(汗)
私は鉢屋をなんだと思っているんだろう。。。
ってかなぜ五・六年で鬼ごっこなのかはしるもんか!(ぇ)
え〜ここまで読んで頂きありがとうございました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
(作成日:2008.4.27 UPした日:2008.4.28)