「あ、あれって桃の花ちゃうん?」
氷帝学園中等部の卒業式がゆっくりと迫ってくる3月の休日。
青空がどこまでも広がる中、忍足と宍戸は2人で都立の図書館にきていた。
ぼんやりと本を読んでいた宍戸にカウンターの方を見ていた忍足が小さく話しかけてくる。
「桃の花・・?」
その声につられてカウンターの方を見ると小さな花瓶いっぱいに薄ピンク色の花がいっぱい付いた枝が飾られていた。
「へぇ・・、あれ桃の花なんだ。」
「多分な、桜にはまだもうちょい先やろうし・・梅はもうおわっとるからなぁ・・・。」
図書館の司書達が少しその花瓶の隣に小さな雛人形を飾っている。
考えてみれば今日は3月3日・・・。雛祭りの日だ。
「そっか。今日は雛祭りか・・。っていっても俺んちは女の兄弟いないからピンとこないんだよな・・・。お前んちは?」
カウンターから本へ再び視線を移しながら宍戸は隣に座っている忍足に尋ねた。
「俺んところは姉ちゃんがおるからな、毎年この季節になると大変やったで。雛祭りパーティーするから男は出て行けって何度もいわれたわ。」
その時の苦い思い出がよみがえったのか忍足は微かに苦笑いを浮かべる。
それは大変だな・・。
「あ、そういえば宍戸1ついいこと教えたるわ。」
「いいこと・・?」
何かを含んだような笑みを浮かべながらそういってきた忍足に宍戸は少しだけ嫌な予感を覚えてソファの上を移動した。
「あっ、ひっどー、なんやねん!その態度」
「い・・いや・・別に・・」
「ま、ええわ。あんな・・・」
忍足は宍戸の耳元で何かをこしょこしょと囁いた。
その日の夕方、宍戸は跡部邸−あとベッキンガムを訪れた。
その手には一枝の桃の花の枝がきれいにラッピングされたものをもっている。
「坊っちゃまは今ご自室で入浴中です。お待ちになって頂けますか?」
年配の執事に跡部の部屋へと案内され、そう尋ねられる。
「はい、かまわないですよ。突然押しかけてすいません」
そう、今日は跡部とは会う約束はなかった。
しかし、忍足にあることを聞き思わずここにきてしまったのだ。
「坊っちゃま、宍戸様がいらっしゃいました。」
執事が跡部の部屋のドアをノックしていうと部屋の中からは「入れ」と短い返事が聞こえてくる。
カチャ・・とドアが開けられると夕日が差し込む部屋の中、下にはズボンをはいているが上半身は裸で濡れた髪をごしごしとふいているというセミヌード姿の跡部がいた。
「どうした、いきなりだな、宍戸」
跡部の青色の瞳がすっと優しげに細められる。
その瞳を見た途端宍戸は自分の頬が赤く染まるのを感じた。
それは跡部が宍戸にだけみせる表情だったから−・・
「・・わ・・わりぃ・・急にきちまって・・」
「んなこと気にするような仲じゃねぇだろ。」
跡部がちらりと執事を見ると執事は頭を下げて部屋を出て行く。
部屋の中には跡部と宍戸の2人だけになる。
その時になって宍戸は跡部から甘い香りがするのにきがついた。
「・・・なんか跡部、甘いにおいがするな。」
「ああ・・・。知り合いからもらった桃のバスオイルを使って風呂にはいったからな。てめぇもあとで入るか?」
そういうと跡部がくすりと笑みを浮かべる。
いつもの人を見下ろすような笑みではなく優しさを宿した笑みだ。
「な・・っ・・な、なにいってやがる!俺はそういうつもりできたんじゃねぇよ!」
「あーん?俺と一緒に甘い夢をみたくてきたんじゃねぇのかよ。」
跡部がぐいっと宍戸を引き寄せる。
「うわっ!?」
完全に油断していた宍戸は簡単に引き寄せられ裸の跡部の胸に顔を埋めてしまった。
その途端柔らかい桃の香りが鼻を掠める。
跡部はそのまま宍戸を優しく抱きしめている。
「亮・・・」
そっと顎に手をかけられると宍戸は少しだけ頬を染めたまま顔を上げた。
それに満足したように微笑むと跡部は宍戸に口づけを落とす。
甘い甘いキス・・・。
「っ・・・」
その甘さに誘われるままに体を密着させるとキスが少しずつ深くなっていく。
「ンぁ・・ッ」
ぱさ・・と音がして宍戸の手から桃の枝の花束が柔らかい絨毯の上に落ちた。
それをみた跡部が小さな声で「俺も同じ気持ちだ」と囁いた。
敵わない・・・。テニスでも恋愛でも・・跡部には敵わない。
でも、
(・・・嫌じゃねぇんだよな・・・)
自分の中で結論が出たのか宍戸はゆっくりと瞳を閉じた。
『あんな・・・』
『なんだよ・・・?』
『桃の花の花言葉ってな、「私は貴方に夢中です」っていうんやって』
Fin
Sweet Scents Of Peach Flower
〜あとがき〜
沙紀様、16000HITおめでとうございました!
ものすごく遅れてしまい申し訳ございませんでした(土下座)
リクエストは「跡宍で雛祭り」でした。
雛祭り・・・というより桃の花の話しになってしまいましたが・・・(汗)
気に入って頂ければ幸いです。リクエストありがとうございましたv
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