「なんだかんだいってももう昼間は結構あちぃな・・・」
ある初夏の日曜日。氷帝学園3年宍戸亮は手に参考書などが入った鞄を持って歩いていた。関東大会第1回戦−青学に負けた氷帝学園は全国への夢をそこでたたれてしまった。だがそれで落ち込んでいる時間はない。中3という立場であるため、だんだんと進路が色々な場面で関わってくる。もちろん宍戸はこのまま高等部に上がる気でいたのだが・・・。そのためには今回の中間テストがかなり響いてくるのだ。今、氷帝テニス部3年生は5日後に行われる中間テスト勉強に必死だった。
「数学は忍足が教えてやるって言ってたし・・・。医療は神月が・・・」
授業の苦手科目をそれぞれ教えあう、いわゆる勉強会を開こうと言い出したのは神月だった。そこで皆それぞれ得意分野を教えあうのだ。宍戸は地理・歴史担当。そして今はその勉強会前に跡部からいいわたされた。「個別勉強会」なるものだった。
「景吾ぼっちゃまはお部屋でお待ちです。どうぞお上がり下さい」
近所の者からは「あとベッキンガム宮殿」とよばれている跡部の家の玄関先では髪をびしっと固めた初老の男性が頭を深く下げて待っていた。
「・・こんちわ・・」
跡部の家へ行くたびに繰り返されるこの「お出迎え」に宍戸は未だになれていない。少しびくびくしながらも続けて頭を下げる宍戸を見て男性は頭を上げると涼しい顔をして玄関の扉を開いた。
「・・おじゃまします。」
宍戸が冷房がまんべんなく行き渡っている家の中に一歩足を踏み入れると続いて男性−執事も中に入り宍戸を先導するように前を歩いていく。
「景吾ぼっちゃま。宍戸様がお見えです」
一つの立派すぎる部屋の前で執事がドアをノックして声をかけると、中からは
「入れ−」
といういつも通りの命令口調が聞こえてきたのだった。
「外はどうだった・・・?」
跡部の部屋に入り鞄を床に置いたところで今までバスローブをきて椅子にふんぞり返っていた跡部が宍戸に声をかける。風呂に入っていたのか跡部の髪はまだ少し湿っていてふわっとシャンプーの香りがした。
「どうだったって・・・。かなり暑かったぜ。今日は結構気温高いんじゃねぇか?」
その質問の意図をはかりかねがら無難に答えて教科書などを取り出している宍戸を見て跡部がふっと微かに笑う。
「汗かいてきもちわりぃんだったらシャワー貸してやるぜ?」
シャワーという単語を聞いて思わず別の行為を思い浮かべてしまったのか宍戸がかぁっと頬を染めた。
「い・・・いらねぇ!!」
「そうか?べつにいいんだぜ。使ったって・・。あぁ、でも今から汗かくから意味ねぇか?」跡部がさらりとその言葉を返すと宍戸の頬がよけいに紅く染まった。
「きょ・・今日は勉強教えてもらうためにきたんだぞ!?」
「あーん?そんなこと分かってるに決まってるだろ、バーカ」
そういうと跡部は立ち上がり宍戸の方へ歩み寄り、宍戸の腰へと腕をまわした。
「あ・・・とべ・・っ!!」
いよいよやばいと感じた宍戸が跡部の胸を両手で押すが跡部はお構いなしに宍戸の唇をそっと指でなぞっていく。優しくその形通りになぞり終えると跡部は宍戸の後頭部に触れそのブルーの瞳を細めた。
「宍戸・・少し口あけろ」
「跡部・・・」
頬を真っ赤にして宍戸が困ったような声を出すが跡部は2人きりの時にしか見せない優しい笑顔を浮かべお互いの額をこつんとくっつける。
「・・・キスくらい大人しくさせろよ・・亮・・」
いつもの威張り腐った口調ではなく優しくそう囁かれると抵抗なんてできるはずがない、と宍戸ははっきりと感じていた。
「・・・・仕方ねぇな・・」
そういって微かに口を開けて瞳を閉じると温かいものが唇に触れる。
「ん・・・っ・・」
そっと跡部の背中に腕を回して体を密着させると微かにあけた唇の隙間から跡部の舌がそっと宍戸の口内に侵入してくる。歯列をなぞり、上あごの内側を優しく舐められるだけで体ががくがくと震え腰が抜けそうになっていく。
「ん・・ッ、ぁ・・」
そのまま自分の舌を絡め取られ跡部の舌と重ね合わされる。くすぐるように舌の先端を舐めたり軽く噛まれるとびくっと体が跳ねた。跡部はその様子を見て目を細めて笑っている。 「・・っあと・・べ・・っ」
少し苦しくなり跡部の胸をどん、と叩くと唇をそっと離された。
「・・・お前、本当に感度いいよな・・」
「・・・っしるかよ!」
恥ずかしさのあまり宍戸は跡部の首筋に顔を埋めた。その様子を見て跡部はよけいに笑顔を深める。
「さてと・・勉強会するか・・。その前にうまい紅茶でも持ってこさせてやるよ。座ってろ・・」
跡部はそれだけ言うと宍戸をふかふかのソファに座らせると部屋に付いている電話で何事かを話していた。それが終わると参考書をもって自分も向かい合わせのソファに座ったのだ。
それからしばらくはカリカリ・・・とシャープペンを走らせる音だけが部屋内に響いた。途中で執事が持ってきた氷がたっぷりはいっているグラスの中に入っているアイスティーがときおり、氷がとけてカラン・・・と涼しげな音を立てている。
「・・・そういやぁ・・跡部って進路どうするんだ?」
ノートから顔を上げることなく宍戸がそう尋ねると今までつまらなさそうな顔をして参考書を読んでいた跡部の動きが止まった。
「・・・そうだな。このまま高等部に上がるつもりではいるけど・・まだわかんねぇな・・」
「・・そっか・・。」
そういうと宍戸は再び手を動かし始める。
「・・どっちにしろ、お前の隣にいてやるよ。・・どこにもいったりしねぇからよけいな心配するんじゃねぇぞ」
その言葉に宍戸は思わず顔を上げた。
「・・・・跡部・・」
「・・あと3年だ」
跡部の優しい言葉に少し感動していた宍戸は首をかしげる。
「・・俺様が18になったらお前を嫁として迎えてやる。それまで俺のそばを離れるんじゃねぇぞ」
「・・・あぁ・・。約束する」
めちゃくちゃな言い分だがなぜか宍戸はとても安心したのだ。
「仕方ねぇから、お前の隣にいてやるよ」
その時、まだグラスがカラン・・・と鳴り響いた。
FIN
あとがき
さき☆様へ。5500HITおめでとうございます。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
リクエストは「跡宍で2人での休日の過ごし方」でした。
2人っきりの勉強会、お気に召して頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました。
04’ 11/20