「ハジメマシテ」



―それはまるでテレビのリモコンの「リピート」を延々と押し続けているような毎日だった。

朝起きたら朝食食べて身支度して会社行って仕事して。
会社が終わったら何処にもよらず真っ直ぐ一人暮らしのマンションに帰る。

それが私の日常だった。

今の会社に入って2年目。

今の私には会社帰りに食事に行く友達も、家で私の帰りを待っていてくれる家族も恋人もいない。

―もう何年も本気の恋すらしていなかった。

これといった趣味もなく、味気ない毎日に馴れきっていた。


そんなある日。


私の運命はある出会いを境に大きく変化した。



「…ボーカロイド?」

久しぶりの休日。
大型のショッピングモールでウインドウショッピングを楽しんでいた私の目にそんな文字が飛び込んできた。
大型の電化製品店の店頭。
山積みの箱の隣では法被を着た中年の男性がスピーカーを使い、宣伝している。

「さあさあ、今話題のボーカロイド初音ミク!ご要望に答えての再入荷です!在庫は今ここに積んである限り!早い者勝ち、売り切れごめん!さあいらっしゃいいらっしゃい!」

その威勢のいい声に私は冷やかし半分で店の前に行く。
店の前にはすでに人だかりが出来ていた。
人々の隙間から覗くと青緑色の髪の少女が描かれたパッケージが目に飛び込んでくる。

「あ、可愛い…」

16、7歳くらいだろうか。

「そこのお姉さん、貴女もいかがですか?『初音ミク』!」

パッケージの少女の可愛さに目を奪われていると店員が『初音ミク』のパッケージを一箱私に差し出してくる。

「え…」

「楽しいですよー何て言ったって、貴方が作った歌をこの子が歌うんですから」

「…歌う?」

小さく首を傾げながらも好奇心に負けてその箱を受け取った瞬間―。
ビビッと体に電流が走り私は目を見開いた。

『―やっと会えた』

何故か分からないけど心の底からそう感じた。

「…初音…ミク」



―パチン。
微かな音を立て、蛍光灯がつき、部屋が明るくなる。

「…ただいま」

返事のない部屋に向かいそう呟くと私は机の上に買ってきたものを置いた。
外はすでに薄暗く、時刻は夕食時を回っている。

「つい買っちゃった…」

ソファに腰を下ろすと私は一つの紙袋をあけ商品を取り出す。

『VOCALOID 2 初音ミク』

「…ボーカロイド…歌を歌うために生まれてきた子、かぁ。」

パッケージを包んでいるビニールをはがし、箱を開けていく。
中に入っていた取り扱い説明書を手に取り、まずは1ページ目に目を通した。

「えっと…まずはインストールね。っと…」

リビングに置いてあるパソコンに向かい電源をいれる。
それまで暗かった画面が明るくなるのを確認してから中に入っているCD―ROMをパソコンにいれた。
ウィィィン…という微かな電子音が聞こえ、説明書の通りにインストールをクリックする。

「あとはインストールされるのを待つだけね。」

そう呟くと私はパソコンから離れた。
インストールしてる間に買ってきた食料品などを片付けないと…。

アイスとかもあるから溶けちゃう。

「よいしょ」

食料品が入ったビニール袋をキッチンへと持っていき、中身を冷蔵庫へと入れる。
全て入れ終わりリビングに戻るとすでにインストールは完了していた。

「あ、終わってる終わってる。えっと」

パソコンの前に座り、ソフトを起動させると画面に『初音ミク』が現れた。
彼女の青緑色の髪と同じ青緑色の瞳が真っ直ぐに私を見つめている。

『ハジメマシテ、マスター』

感情を一切感じない機械的な声。
しかし、私は初音ミク―ミクににこりと笑いかけて答えた。

「初めまして、ミク。これからよろしくね」



―それが全ての始まりだった。そしてこの日から遠くない未来。私はかけがえのない『友人』を得ることになる。








                                         fin



+あとがき+

ずっとフォルダ内に眠っていたVOCAL@IDのss。
ミクとマスターの初対面話。
当家のマスターは女性です。
マスター+ミク目指して書いたものです。
なんか色々間違ってる気がするよorz(起動画面とか起動画面とか…/汗)
ここから物語がスタートする…的な感じですね。
続きは…まぁ、追々で(汗)

ここまで読んで頂き有り難うございました。


2008.12.1