魔王の花嫁・2
リトレスにとっては父も兄も共に大事な家族である。
母である王妃が亡くなって以来、彼らの争いを幾ばくかでも制止出来るのは自分しかいないのだ。
だがそう思う一方で、兄の自分への強すぎる執着に耐えられなくなって来ているのも確かだった。
父によく似た兄とは対照的に、リトレスは面差しも性格も母によく似ている。
だから私がお前を愛しく思うのも当たり前のことなのだと、ギルファスは何でもないようにしばしば口にした。
人目もはばからず、例えすぐ側で父が顔を強張らせていようともお構いなしで。
「どうした? リト」
真横から聞こえてきた声に息を飲む。
気付けば膝の上、固く握り締めていた拳の上に、ギルファスの手がそっと重ねられていた。
「あっ…………いえ、何でもっ……」
素早く彼の手を振り払い、リトレスは慌てて目の前の杯を掴んだ。
「ああ、そうだな。先に乾杯をしよう…………私とお前の結婚に」
ふふ、とおかしそうに笑うギルファスも自分の杯に唇を寄せていく。
額ににじむ汗を意識しながら、リトレスは温めてあった葡萄酒を口に含んだ。
味など全く分からなかったが、とりあえずこれを飲んでいる間は兄と話をせずに済む。
しかし話が終わらなくては、部屋を出て行くことも出来ない。
本当はそもそもここへは来たくなかった。
けれど今回の結婚のことだと匂わせた挙げ句に、もう会えなくなるのだからとまで言われれば断り切れるものでもない。
これが最後。
この夜を乗り切れば、良き兄弟としての仲を保ったまま自分はラズウェイへと行けるはず。
そう思いリトレスは、半分ほど空けた杯を置いてギルファスへと向き直った。
「あの…………兄上。今宵はなぜ、急に、私を……? あっ」
見つめた兄の顔が突然の雨に降られた湖面のように揺らぐ。
それ以上声を上げることも出来ないまま、リトレスの意識は暗闇へと飲み込まれていった。
***
頭が重い。
体がだるい。
おまけに、兄の顔が近すぎる。
「兄…………上……?」
ぼんやりと目を開けた瞬間飛込んできたのは、視界いっぱいに広がるギルファスの精悍な顔立ち。
「あ、に…………、ん……ふ」
寝台に横たえられている、と意識した瞬間、唇に柔らかいものが触れた。
ついばむように数度触れたそれは、やがてぬめる肉塊をリトレスの唇の隙間に差し込んでくる。
それが兄の舌だと悟った瞬間、はっと身を起こそうとした彼はあることに気付いた。
四肢は痺れたようで、かすかに指先を動かせるのみ。
おまけに自分は全裸で、ギルファスにのし掛かられ深い口付けを受けている。
「……ギルっ………、ん、んん、ぅ」
何重にも重なった混乱を、更に深めるように兄の口付けはますます激しくなっていく。
「んん、ん、んーっ………!」
押しのけようにも腕が上がらない。
噛みつくことさえままならず、ただただいいように口腔を舐め回された。
いい加減息が苦しくなったころ、やっと解放される。
「……リト」
涙目になって自分を見上げる弟の頬を、ギルファスは恍惚とした表情で見ながらそっと撫でてきた。
「兄上………、な、なぜ、こんな…………こと、あっ」
真意を問いただそうとする言葉に応えるのは、胸元へと伸びた兄の指先。
口付けに反応してか、ぷくりと芯を持ったとがりを摘み上げられリトレスは体をわななかせた。
兄が自分に何をしようとしているのか。
それが分からないほどリトレスも子供ではない。
けれど混乱する意識とは裏腹に、ギルファスになぶられる乳首から切ないうずきが全身へと広がっていく。
「兄………、やっ、ああっ…」
視界を横に滑った兄の唇が耳朶を甘く噛む。
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