魔王の花嫁・3



彼の指先はなおも乳首をいじり回しており、指の腹で押し潰すようにされると甘ったるい息が鼻から抜けた。
あの葡萄酒に何か入っていたのだと、遅まきながら気付く。
けれどなぜ、お互いに婚儀も決まった身でありながら一体どうして。
「リト…………可愛い、愛しい我が弟よ……」
十にも満たない頃から繰り返し聞いていた兄のこんな言葉。
次代の王として幼い頃から厳しく育てられていたギルファス。
武芸に秀で、自分にも他人にも高い要求をする父は尊敬する人物ではあっても癒してくれる相手ではない。
リトレスを産んで間もなく亡くなった母の面差しを持つ、穏やかな気質の弟だけが彼の唯一の心安らげる相手だったのだ。
おまけに目標として仰ぎ続けた父は変節し、倒すべき敵と和解せよという。
兄の立場としてみればたまったものではあるまい。
だからリトレスはまるで恋人に接するように自分に接する、兄の行き過ぎた態度を咎めずに来た。
ギル兄上もその内本当に心許せる友なり恋人なりを見付け、弟離れしてくれるだろうと。
だがギルファスの自分への態度は露骨になる一方。
自分が心許せる相手を見付けるどころか、リトレスにそのような相手が出来かけたと見るや第一王子の権限を公然と振りかざして邪魔してくる。
なまじ容姿に優れ、武芸に秀で、知力に長けた非の打ち所がない青年である。
打倒ラズウェイに固執している点は見受けられるものの、イルハザール全体の総意を見れば隣国との融和政策に反対している者の方がまだ圧倒的に多いのだ。
今回の婚儀はいわば王の独断専行。
将軍職にある者の中にも半公然とギルファスを支持する者がいるぐらいである。
だから決して兄だけが血気盛んというわけではない。
けれど弟への執着心だけは、明らかに常軌を逸していた。
しかしまさか、このような強硬手段に出て来るとは。
「兄…………、こんな、馬鹿なこと、あっ、何をッ…………!?」
執拗に胸元をいじっていた指先が下肢へと伸びた。
緩く開いた状態だった足を割られ、性器を握り込まれる。
「…………もう先が濡れている」
まだ耳元にあった唇にそんなことをささやかれ、リトレスはかあっと顔を赤らめた。
自分がすでに正直な反応を返し始めていることに気付いてはいる。
多分これも葡萄酒に混ぜられていたもののせいだろう。
頭はぼんやりとしており、体は指一本まともに動かせないのに、兄の動き一つ一つに素肌は共鳴し熱くなっていく。
だがこのまま流されるわけにはいかない。
「おやめ下さい! わ、私は、ラズウェイの姫と結婚、ンッ……!」
悲鳴を上げた唇を唇でふさがれた。
苛立ちを流し込むような口付けに、喉の奥で我知らずあえいでしまう。
貪るような口付けをしながら、ギルファスの指先は握り込んだリトレスの性器を乱暴に扱き立てている。
鈴口をぐりぐりと擦られ、痛いほどの刺激にリトレスは薄い胸を弾ませた。
「……ふぁ、あ、ああっ……」
ようやく唇を解放された瞬間、唾液とともに甘い声が漏れ出てしまう。
慌てて唇を引き結んだ弟の赤く染まった顔を、兄は至近距離からうっとりと見て言った。
「ラズウェイ女などと結婚はさせない………」
切れ長の青い瞳の底にある狂気にも似た想い。
ぞくりと背筋を走った寒気に従って逃げ出したいのに、いまだ体は全く自由にならない。
「今宵お前は、私と結ばれるのだから。さっき言っただろう……?」
言われてリトレスは思い出した。
乾杯の直前、「私とお前の結婚に」と兄は確かに言った。
「兄……どうか、お、お考え直し、を……私とあなたは、実の…………ん…、ふ」
懇願する唇をまたふさがれ、熱い舌に口腔を舐め回される。
そうしながらギルファスは、弛緩したリトレスの膝を立てさせ左右に割った。
「ん、ん…………あ、あに、うえ…………っ、兄……あっ……!」
いったん弟から顔を離したと思いきや、ギルファスはその顔を開かせた足の狭間に伏せていく。
制止する暇もなく、扱かれ屹立した性器の先を口に含まれた。
「はぁっ…………!? ……あにッ、ん、は…………っ」
生々しい音を立てながら、舌先が幹に絡み付く。
一番直接的な性感帯への強い刺激に、リトレスは背を寝台から浮かせて体をわななかせた。
「兄……上っ、やめ、だめ……っ、ですッ、だめ…………!」
必死に叫んでも、ギルファスの動きは止まらない。
喉の奥で扱くようにされるたび、逆らいがたい快楽が脳天まで突き抜けた。
「いや……ですっ、ギルっ、こんなっ、ああぁ、あーっ…………!」
根本のふくらみまでにも丹念に這わされた舌に惑わされる。
酔いと薬の回った状態では抵抗も空しく、リトレスはギルファスの口の中に精を放ってしまった。


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