魔王の花嫁・4



「は…………、ぁ……」
途方もない脱力感を感じ、ぐったりと寝台に身を預ける。
天井を向いた瞳から、涙が幾筋も頬を伝って流れ落ちた。
どうしてこんなことをされなければいけない。
無論リトレスだって、十分に兄のことは愛している。
けれどそれはあくまで血を分けた兄弟としてのこと。
なのにこんな………
「あっ……!」
弛緩した両足を掴まれる。
そのまま胸を突くように折り曲げられて、リトレスは思わず声を上げてしまった。
尻の奥までよく見える屈辱的な体位。
掲げられた足の向こうに、欲情に瞳を潤ませた実兄の顔があればなおのことの羞恥が全身を燃やす。
「リト………」
限りなく甘い、ギルファスの声。
異国の花嫁に向けられるべき睦言めいた口調で弟を呼んでから、彼はおもむろに腰元に手をやった。
いつの間にか服の前をくつろげていたようだ。
その動作に兄の意図を悟り、リトレスの顔から血の気が引いた。
「や…………やめて下さい、嫌、後生です兄上それだけは………!」
達したばかりで更に自由にならない体をよじり、彼は最後の抵抗を試みる。
だがギルファスのたくましい腕は、リトレスの抵抗などものともしない。
「ひ…………ッ……!?」
むき出しにされていた奥の穴にぬめる物が触れる。
それが兄の男根の先端だと悟り、リトレスは更に血の気が引くのを感じた。
「いや、嫌です、やめて下さい、そんな、そんな物を入れては、あっ…………!」
足を引き上げられたせいで、わずかに口を開けていた穴に何かが入ってくる。
びくっとして目を閉じたリトレスだが、思ったほどの衝撃はない。
「兄………? あ、ンッ……」
ぬちゅ、という音を立てながら入り込んできたものは細く、何度か見たことのあるギルファスの一物とは思えない。
おまけにそれはもう一本入り込んできて、リトレスの中を探るように蠢き始めた。
ギルファスの指だと悟った瞬間、くっと曲がった指先が内部のある一点をかすめた。
「あっ……!?」
途端に上がった嬌声に、彼は満足の笑みを浮かべる。
「ここがいいのか、リト…………?」
艶めく声でささやきかけられ、はっとしてももう遅い。
片手で弟の足を押さえ付けたまま、兄は二本の指で見つけ出した箇所を執拗にまさぐる。
指の腹でわずかにふくらんだ部分を撫で回されるたび、甘い痺れが背を駆けた。
「あっ、あっ……! ギルっ………、……やっ、やめて下さい……!」
ひとまず、彼の物に犯される恐怖は去った。
だがそれに代わって訪れた、ギルファスの指先に快楽を導かれるという恐怖にリトレスは悲鳴を上げる。
元来穏やかで控えめで、この年になっても性的欲望に乏しい若者である。
和平のためということでもなければ、第二王子という気楽な立場もありきっともっと結婚は遅かっただろう。
それがそんなところに指を突き込まれ、いいように淫らに鳴かされている。
しかも相手は実の兄だ。
妙な混ぜ物のせいだと思いはすれど、恥ずかしくて情けなくてぽろぽろと涙があふれた。
「リト……泣くな」
幼い子供のように泣きじゃくるリトレスの目の縁に、ギルファスは唇を寄せてきた。
盛り上がった涙を舐め取るしぐさにある優しさ。
それはずっと、たった一人の兄の少々行き過ぎた親愛の情によるものと信じてきた。
だけど本当は知っていた。
ギルファスの瞳にある欲望を。
下らない理由を付けては自分を私室へ呼び付けるその訳を。
隣国の、顔も知らない王女との結婚を承諾したのもそれが理由の一つ。
これ以上素知らぬふりをして兄の側には居られない。
越えてはいけない一線を越える前に、離れなければいけないと。
なのにギルファスの唇は、リトレスの涙を舐め取った後あえかに開いたその唇へと触れてくる。
「ん…………、ん、ん」
前立腺を刺激されながらの激しい口付け。
蕩けそうな快楽に、無知な体はずぶずぶと埋もれていく。
中途半端に残っている理性が恨めしい。
いっそこの快楽に流されて、何も分からなくなってしまいたい。
そう思った矢先、扉を叩く音が聞こえてきた。


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