魔王の花嫁・5
ギルファスが顔を上げ、リトレスもはっとして半ば閉じかけていた瞳を見開く。
誰か来た。
「入れ」
しかし、何でもないように兄が口にした一言にリトレスはもっと驚いてしまった。
てっきりこれが、ギルファスから逃れる契機だと思ったのに。
「兄上! ……ん、んっ」
恥ずかしい格好をさせられたまま、扉が開く音を耳にする。
すぐに近寄ってきた複数の人影を見て、リトレスの羞恥と混乱は頂点に達した。
「しょ、将軍! 司教様っ、あっ、これは…………!?」
入ってきたのはイルハザールの南方の守りを司る将軍グランセス、王宮内にある聖堂の主である大司教シーファー。
軍と宗教の中枢を担う彼らが、隣国との和平策を苦々しく思っていたことは知っていた。
それゆえにギルファスを支持する態度を公の場でも表明してきた彼らではあったが、なぜよりによって二人揃ってこんなところへ。
混乱するリトレスを見ても、しかし二人は全く慌てる様子がない。
「ああ、婚儀は無事に執り行なわれているようですね」
リトレスよりも更に柔らかな、おっとりとした笑顔のシーファーの言葉に体が強張る。
第一王子に組み敷かれる第二王子を見てのこの一言は、予備知識なしに出るはずがない。
彼らは知っている。
ギルファスの欲望を、企みを。
「そちらも無事に終わったようだな」
口付けだけはやめてくれたものの、ギルファスの指はいまだリトレスの中にある。
不穏な言葉を口にした彼は、不意にその指を引き抜いた。
「………………んッ」
ぴくんと身を震わせるリトレスの腕を引き、ギルファスは彼の体を引き上げる。
寝台の上に座った兄に背を向けた格好で、膝の上に足を開いて座らされた。
当然むき出しの下肢は、グランセスにもシーファーにも丸見えだ。
「……やっ…、兄、こんな、み、見られ、て…………」
何より先立つ恥ずかしさに顔を背けるが、背後のギルファスはそれを許さない。
呆気なくあごを掴まれ、前を向かされてしまう。
その上グランセスが、羞恥に震えるリトレスの側へと近付いてきた。
壮年のがっしりとした体躯を持つ将軍は、手にしていた布袋の口を開く。
そしてそこから取り出した物を、リトレスの前へと突き付けた。
「…………な……!?……」
驚愕に見開かれた瞳。
絶叫を上げたままに開かれ、死後硬直により歪んだ口元。
造作そのものが変わってしまっているように見えても、見間違うはずがない。
父だ。
父の無惨に切り落とされた生首が、ギルファスになぶられ息を荒げている自分を虚ろに見つめている。
「なっ…………、父、上……あっ…………!?……」
あまりのことに叫んでしまったリトレスの中に、不意に突き込まれた指先。
ぬちぬちと音を立てながら出し入れされる感触に、彼は思わずぎゅっと目をつぶった。
「あ、兄っ……、これ、これはっ…………あ、ぁ…………!?」
先程と同じように、前立腺の真裏をこすり立てられる。
片側の乳首も捕らえられ、転がされて声を殺せない。
「お前をラズウェイになど行かせはしない。そして私も、あの国の女など娶る気はない」
揃えた二本の指を何度も何度も弟の中に根本まで埋め込みながら、ギルファスは低い声でそう言った。
「グランセスもシーファーも同意見だ。いいや元々、王宮内であの国との和平を望んでいる者など少数派だった……当然だな。誤った考えなのだから」
父と弟の望みをそう一刀両断すると、ギルファスはまだぽたぽたと血を零している父親の首を蔑みの目で見つめる。
「誤った考えの者に王である資格はない。だから父上には玉座を降りて頂いた。多少荒っぽい方法にはなったが、他者の意見を受け入れず誤った考えを押し通そうとするこの男はしょせん器ではなかったのだ」
とろりと濡れた指が内部から引き抜かれた。
その感触に鳥肌立つ思いをしているリトレスの足が、開いた状態のままゆっくりと引き上げられる。
「あ、あに、う、え…………」
幾つもの衝撃にリトレスの声はかすれていた。
怯えるそのうなじにひどく優しく口付けをしてから、ギルファスはこうつぶやいた。
「だから私が王となり、イルハザールを正しい方向へ導く。まずはラズウェイの殲滅だ」
卑猥なぬめりが薄く口を開けた穴へと触れてくる。
そう思った瞬間、持ち上げられていた足を強く引き下げられた。
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