はー、と手に息を吹きかける。
近頃はすっかり寒くなってきて、とてもいられない。鼻が垂れるし、手は凍えるし、気分は落ち込みやすいし。こんな季節には、かなりの遠出をしてでもここにくる。この森は一年中温暖だ。私の故郷と同じように日照時間の短い冬が来ても、木々は瑞々しい。日が当たらなくても枝葉の下は暖かい。ここ数年は余計恋しくなってきたものだから、家族の制止も問答無用だ。
森だからまともな入り口なんてないが、太い根の走る領域へ一歩踏み出すと神聖な空気に覆われ、こごまっていた背筋もしゃきっと伸びる。はー、と気持ちの強張りを解くと同時に、上から声が降ってきた。
! ああ、キミはどうしてもう!」
森の中心の大木からあっという間にやってきたのか。風に乱れたのか、それともいつもの寝癖か、まあとにかく髪を乱して昨年の離別の時と変わらない語調が懐かしく、嬉しくて笑みが漏れる。
「やっ、ハーレクイン。どうしてた?」

ハーレクインは私の隣をぷかぷか?と浮きながら文句を垂れる。去年はどうして何も言わずに帰ったのだとか、一昨年もそうだったとか、今年も風邪を患いながらやってきてどうかしているとか。まったく「どうしてもう」は私も言いたい台詞だ。最初は人間は立ち入るなだとか、病気ってなに?だとか、冷たい目であしらってきたのに、今ではどうしてこんなに甘くなったのか。ここに来たくなるのは土地の利点だけではなくて、この人が居るのが大きい。どうしても会いたくなってしまう。
「まあまあ、ハーレクイン」
「おいらの話聞いてる?」
「聞いてるけどね、これね、お土産だからあげるね」
「はあ・・・、ありがとう」
「今年もよろしくおねがいいたします」





「もういいよ・・・今年はねぐらをちゃんと作っておいてあげたから、そこへ来るといい」
そういうとハーレクインは私に手を伸ばした。
「? ありがとう。・・・えっ?」
なぜ突然握手なんだろう、と思いながら握り返すと、手を引き上げられた。浮いたままのハーレクインに膝も抱えられ、横抱きにされる。これっていわゆるお姫様抱っこ・・・!
「いやっあの、自分で歩くからいいから」
「いくら活発な風邪ひきでも、病人はおとなしくしててよ」
ハーレクインは病気になったことないから、辛さなんてわからないだろうに。そんなことを言い返すと、半目で言い返された。
「ずっと放っておいて以前ぶったおれたじゃないか。死ぬのかと思うくらい辛そうだった」
ぐうの音もでない。
風邪が悪化した末に昏倒したようであの時のことは覚えていないけど、この人には数日にわたる看病をさせて相当迷惑をかけた。
目を合わせていられなくて視線を下げたら、私の肩に添えられている彼の手に力が入ったのを感じて、見上げなおす。
彼は再び交わった視線になぜだか眉を寄せた。二重の綺麗な目が、細められた。
「だから、今度は悪くなる前においらに任せてよ」
土地だけじゃない、温かい言葉に笑みがこぼれてた。身体の力を抜くと、ハーレクインも目元を緩めて微笑んだ。