これがあなたのデスマスクですと手渡されたとき、ぼくはそれほど驚かなかった。
笑っていれば万事快調というのは普段から気をつけていることだし、ぼくはそのことを厭味な考えだなんておもわない。
だけど、デスマスクの裏面をたしかめたとき、ぼくの脳裏によぎったのは彼の顔だった。
彼は屈託なく笑う男だった。
それだけじゃない、彼の中には様々な感情が雑然と、だけどひととおりそろえられていたんだ。
くだらない冗談にお追従笑いをつくったのはぼく。もっと面白いことを言えと上司を侮辱したのは彼。
たまたま次の仕事が彼にまわったのを、そのせいだ、なんて考えるぼくは卑屈だろうか。
怒ったり笑ったり、いそがしい男だった。
彼の近くでは、いろんな議論がわきおこった。ぼくの近くでは、いろんな議論が収束した。
ぼくはまわりが穏やかであるほうが何かと過ごしやすかったんだ。