それは新宿のコマ劇前で友人と待ち合わせをしている時のことでした。
「あの〜、すみません!」
声を掛けてきたのは結構軽そうな感じの見知らぬ男でした。
ああ、これは今巷で大人気のカツアゲというやつだな、
お金ないですって言ってもじゃあジャンプしてみろよとか言われるんだろうな、
それでポッケに入れてあった小銭がチャリって鳴っちゃって、
あるじゃねえかって言われて殴られるんだろうな、
だったら最初から素直にお金を差し出した方がいいな、
そう思った俺はこういう時のためにと準備してあった、
小額のお金を入れてある予備用の財布に手を掛けました。
これが二浪の知恵というやつです。
「ホストに興味ありませんか?」
どうやらカツアゲではなかったようです。
しかしこの男、セミの裏側のような顔をしていることで有名な俺を、
そんな華やかな仕事に勧誘するとは何を考えているのでしょう。
「いえ、顔面が不自由だから無理です」
すると男はこう言葉を続けました。
「充分カッコイイから勧誘したんですよ!」
以前、女の子にプリクラを撮ろうと誘った際に、
全力で嫌がられた俺がカッコイイはずなどありません。
見え透いた嘘を言うだなんて、
この人のノルマはどれだけ厳しいのでしょうか。
「いやでも空気を読む能力も不自由なんで無理です」
空気が読めないなんてホストとしては致命的です!
さすがにこれ以上は何も言ってくるはずがない。
しかしそれは甘かったのです。
「むしろそういう人大歓迎ですよ!」
ええっ!!
なんと手ごわい奴でしょう!
「しかもホストになれば、いろんな女の子とヤリ放題ですよ!
魅力的じゃないですか?!」
なかなか引き下がってくれません。
これはどうすればちょっと面白く上手く断れるかを考えなくてはなりません。
そこで俺は閃きました。
「いや、魅力感じないですね、
俺、実はゲイなんで」
「えっ・・・・・・」
男、絶句です!
さすがにこれ以上何も言って来るまい。
そう思った俺に、3秒ほどの沈黙の後、男はこう言ったのです。
「・・・・・・僕もです」
ダッシュで逃げました。
膝が震えていました。