道具屋さんとの秘め事
淡い木漏れ日がステンドグラスを超え、陽の色に染めていく。
金無垢に輝く荘厳な巨大十字架が見守るこの教会は、緩やかな風の一陣も許さない崇高な場所だった。信仰者は御されているかの如く頭を垂れ続け、思い思いの祈りを捧げている。
太陽が傾いては、その装飾を遺憾なく煌びやかせているその雰囲気に、無宗教の僕でさえ祈らずには居られない。
それでも、いくら祈ったとしても僕のこの願いは届きはしないだろう。
無宗教である僕が毎日欠かさずに教会に祈りに来る理由。それは、一人十字架の前に佇む女僧侶にある。
本人が言うには、未だ駆け出しの身。いつか自分を迎えに来る勇者様を、ただ健気に、ただ只管に待ち続けているという。
可笑しな話だ。
僕は魔王が人々を畏怖させているこの世の中で、一人肩を竦めている。
聞けば、自称勇者として魔王討伐に向かっている一行は腐るほど居るという噂だ。一心に平和を望むのか、名声目当てか、腕試しか。何れにせよ、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるという楽観的思考が、皆を襲うような恐怖から押し上げているのかも知れない。或いは、まだまだこの辺りの魔物が弱いからと、魔王を軽視しているのか――。
「あ、アルスさん」
思いを巡らせていると、僕に気付いた僧侶さんがぱたぱたと駆け寄ってくる。当然、僕に対する好意での行動ではないだろう。毎日毎日教会に来られたら、その顔を嫌でも覚えてしまう筈だ。
「やぁ、僧侶さん。今日も熱心だね」
優男を騙って言う僕の視線は、自然と彼女のたわわな双丘に向かっていた。
穢い。
自分でもそう思った。
「それはアルスさんもですよ。きっとアルスさんは、私以上に神に祝福を受けているでしょうね」
違う。そんな筈は無い。
爽やかに笑って見せる僕の脳裏には、そんな馬鹿正直な返答がぐるぐると渦巻いていた。
「僧侶さんは、ずっとこの街に居るんですか?」
「ええ。私はこちらで生涯お仕えしようと思っています。私がこの街を離れるのは、それはきっと勇者様が私を必要としてくれたらのお話です」
そう言って、僧侶さんはすっと十字架をその吸い込まれそうな緋色の瞳に宿した。その眼差しの輝きは、まだ見ぬ勇者に思いを馳せているに違いない。
嫉妬していた。形の無い勇者に。僧侶さんをこんな表情にしてしまう勇者が、憎くて憎くて、仕方なかった。
「アルスさんも、ずっとこの街に?」
「ええ。僕はしがない道具屋ですからね。一応この街唯一の道具屋でもありますから、離れるわけには行きませんよ」
あどけなく微笑んでみせる僧侶さんへの返答に、何ら嘘は無い。僧侶さんがこの街にいる限り、僕がこの街を出て行く理由など微塵も無い。
一度は、僧侶さんが何れ加わるだろう勇者一行に、商人として旅立とうと思ったこともあった。でも、僧侶さんの心はきっと、勇者に付いて離れないこともまた知っていた。僧侶さんを勇者に奪われる瞬間を、僕は見たくは無かった。
「嬉しい。これからも祈りに来てくださいね、アルスさん」
屈託の無い僧侶さんの笑みが、妙に胸に突き刺さった。
それでも小さく頷いた僕。だが、ただ勇者への憎悪だけを胸に抱いていた僕自身に、僕はまた苛立ちを覚えていた。
幽光照らす朧月昇る頃、僕はふっと息をついて道具屋を閉めた。
ちらほらと見える旅人に、少しずつ薬草を売る毎日。退屈ではない。旅人が各地から仕入れてきた情報を聞くのは、耳を躍らせずには居られない。だが心の片隅には、常に彼女への想いが募っていた。
我知らず、両頬を叩いていた。
僕はこの数年、ずっと教会に通っているのに、まるでまともな祈りを捧げたことが無い。無宗教であることは変えられないが、せめて世界の平和くらいは望まねば、本当に祟られてしまうと思った。
僕にもこんなちっぽけな良心が残っていたのか。
ふっと、自虐的とも言える笑みが零れた。
屋根に鎮座する十字架が天仰ぐ教会。
思えば、月光に照らされたそれに足を運ぶのは、初めてのような気すらした。
それもその筈。僧侶さんは夕方までには教会での職務を終え、自宅に戻っているからだ。今ならば、きっと邪念に惑わされずに祈りを捧げることも出来るだろう。
思いながら、鈍い金属音を響かせながら教会の扉をゆっくりと押し開けていく。だが、その先にいた人物の影に、僕は思わず扉に手を置いたまま目を奪われてしまう。
僧侶さんがたった独り、十字架の前で跪いていた。
「……? 誰ですか?」
こんな夜更けに入ってきたにも拘らず、僧侶さんはおっとりとした様子でこちらに振り向いた。だが僕を見た瞬間、ぱっと表情を明るくしてにっこりと笑い掛けてくれた。
その笑顔にまた、嫌に胸を抉られてしまう。
「ごめんなさい。こんな晩くに」
「いいえ。私も、なんだか眠れなくて」
こうやって祈ることを考えてしまった。そう、彼女の表情が語っていた。
「僕もそうです。……誰も、居ないんですね」
「はい。神父様の体調が悪いそうで……」
そう言い、僧侶さんは瞳を伏せる。月明りに照らされた瑠璃色の長髪が、妙に艶かしく見えた。
「そうなんですか」
反射的にそう答えはするものの、もう僕の視線は彼女に奪われたまま離れない。二人きりの密室であることも助長して、僕の視線は躊躇無く彼女を捉えていた。
今しかない。僧侶さんをこの手にするのなら、今この時以外にある筈は無い。
しかしそれでも、僧侶さんを悲しませたくなどは無い――。
勇者に僧侶さんを奪われて良いのか?
良い訳が無い。
ならば僕が、僧侶さんを奪ってやる。
悪魔の僕が、そう囁いた。
「あの……アルスさん?」
僕が普段見せない表情に少々驚いたのか、僧侶さんは僕の顔を覗き込んでくる。目と鼻の先に彼女の顔が迫ってきたとき、僕は僕を抑えられなくなった。
「んんっ……!」
彼女の柔らかな唇を奪う。驚いて硬直してしまったその身体を抱き寄せ、もっととばかりに何度も唇を押し付ける。
僧侶さんは僕の胸に手を添えて抵抗を測ろうとするが、その力はまるで蚊でも乗っているかのようだった。
「僧侶さん、僕、ずっと僧侶さんのことが――」
言うも、辛抱し切れずにまた彼女の唇を塞いでしまう。僧侶さんの少し荒い鼻息が僕の顔を擽るのが嬉しくて、僕の興奮はさらに苛烈さを増していく。
「だ、ダメです、こんなところで……神が見ていますから――んぅっ!?」
哀しそうな視線には目も暮れず、僕は彼女の口内にすっと舌を滑り込ませる。あまりにも暖かな感触に、僕の幸福感は爆発的に膨れ上がっていく。
「僧侶さん、舌絡めて……」
乱暴されることを怖れたのか、僧侶さんは素直に己の口の中を蹂躙する僕の舌をちろちろと舐め始める。献身的なその姿に、僕は下半身に血液が流れていくのを誤魔化し切れなかった。
「ぷぁ……」
ようやく口を解放され、僧侶さんは慌てて息継ぎをする。そんな仕草も何もかも可愛くて、思わず陶器のように白い素肌に指を滑らせる。でも彼女は、僕から瞳を隠すように顔を俯かせてしまう。
「僕は僧侶さんのことが好きだった。ずっと昔から……僧侶さんのことばかり考えてた……」
まるで呪文のように、好きだ好きだと募らせてきた思いの丈を放出していく。やがて僧侶さんの頬を擦っていた掌は、彼女の豊満な胸へと移っていった。
「ひぁ……」
思わぬ行動に僧侶さんは堪らず声を上擦らせたが、特に抵抗する素振りは見せない。ただ息を荒くして、これからなされることをじっと見つめていた。
「僧侶さんの胸……ずっと憧れだった……ずっと触りたかった……」
僧侶さんに負けないくらい呼吸を乱し、僕は力任せに彼女の乳丘を揉みしだいていく。僕の想像以上にそれは柔らかく、堪らなく愛おしかった。
「い、痛っ……」
だが、力の加減を知らない僕の愛撫が僧侶さんを感じさせられる筈も無い。逆に痛みさえ与えてしまったことに僕は愕然とし、ふとごめんと謝罪の言葉さえ滲み出してしまった自分が居た。
僕は今強姦をしているのに。良心なんて、どこかに捨て去ればいいのに。どうせ僧侶さんは、見知らぬ男に奪われてしまうのだから。
「いえ、その……ゆっくり、してください……」
僧侶さんは恐らく、今まで体験したことの無い出来事に気が動転しているのだろう。とにかく僕を怒らせないように、なるべく僕がしたいことをさせてくれているように思う。きっとその胸中は、早く終わって欲しい一心なのだろう。
「ん……ふぁ……」
悩ましげに吐息を吹き掛けてくる。これも、ただ僕を満足させる為の演技なのだろうか。
「んんっ……」
それでも、この感触は偽りなどではなく、想い続けてきた僧侶さんのそれだ。僕は余計な詮索は捨て、彼女の愛撫に集中する。
掴むように、しかし決して指は食い込ませず、優しく揉んでいく。だが僧服の上からでも、それは十二分に男を悦ばせてしまう。今というときは本当に幸せなのに、やはり彼女を自分のものに出来ない悔しさがふつふつと込み上げてしまう。
「ああっ!」
立ち上がってきた突起をつんと弾くと、僧侶さんは面白いように身体を捩る。恐らく、誰にも触れられたことの無い場所に違いない。
「僧侶さん、ここ硬くなってるよ……。無理矢理されてるのに、感じちゃったの……?」
「そんな……こと……んぁっ!」
ぎゅっと摘むようにして責めていくと、僧侶さんは今までにも増して嬌声を絞り出してしまう。僕の愛撫で感じているその様が愛おしく、ぼんやりとした意識の中で僕はまた彼女に口付けした。
「僧侶さん、やっぱり服の上だけじゃ物足りないよ……脱がすね」
「え……? きゃあっ!」
同意も得ぬまま僧服を力任せに破り去り、僧侶さんの乳房を露にさせる。
綺麗だ。それは覚えず声ともなる。
形の良い膨らみは彼女の意志とは関係無くその存在を主張し、うっすらと掻いた汗に月光を灯していた。
「いやぁ……見ないで……ください……」
僧侶さんの力無き声は、反響もせずにぼぉっと消えていく。
大音声を出せば、嫌でもこの街に響くだろう。そして僕は僧侶を強姦した不届き者として処刑される。叶わぬ夢を追いかけ続けるのなら、それでも良いと思っていた。なのに、彼女の言動は不思議なほどにしおらしかった。
「どうして抵抗しないの? 大声出さないの? 僕は僧侶さんを抱き締められただけで、満足なんだよ……?」
「それは……ふぅん!」
僧侶さんの表情を確かめながら、彼女の絹のような肌に触れていく。頬を撫でた感触そのままに、その乳房をなぞる指も流れるように滑っていく。
僕としては、本当に抱き締められただけで悔いは無かった。今の僕の行動は、男としての純粋な欲望に操られているだけに過ぎない。でもだからと言って、僕のちっぽけな良心がこの行為を止められる筈も無い――。
「ダメ……です、アルスさ……ああっ!」
堪らず、僧侶さんの乳房にしゃぶり付く。赤子のような可愛らしい吸い付きではない。欲情した男の、卑俗なそれだった。
「す、吸わないで……だめぇ……」
汗の酸味が先ず感じられたが、それ以上にどこか甘みを覚えてしまう。これは彼女に対する感情からの錯覚なのだろうか。しかしそれも助けるような形となり、僕は構わず僧侶さんの胸を責め立てていく。
「ひぅうううっ!」
口の中で乳首を舐め上げ、かと思えば強く吸い上げる。がくがくと膝を震わせる僧侶さんの初心な反応は、僕を愉しませるには十分過ぎるものだった。
「じゃあそろそろ……僧侶さんの大切な部分を見せてもらおうかな」
到底自分が言っているとは思えない、あまりに冷たい一言だった。だが僧侶さんは既に観念した様子で、僕に身体を預けてしまっている。理性としての僕は、ただ暴走する僕を傍観し続ける他無かった。
「きゃぁっ!」
僧侶さんを石畳に押し倒し、また無理に僧服を剥いでいく。無意識の内に下着すら取り払ってしまったらしく、瞬く間に彼女の蜜壷が姿を現した。
「やだ……見ないでください……」
理性としての僕がぎょっとするほど、僧侶さんの陰部はじっとりと濡れそぼっていた。だが彼女から見る僕は、まるでそれが当然のように見下ろしている。そして餓えた禽獣のように股をぐっと開かせ、そこに顔を埋めていった。
「いや、アルスさんダメ! お願いぃ……!」
彼女が吐き出す愛液を残らず舐め取るかのように、何度も何度も舌を這わせる。それなのに愛液はとめどなく溢れ、知らず知らずの内に僕の鼻まで濡らしていくほどだった。
「ひぅ、あ……やぁ……」
愛らしい僧侶さんの嬌声に、僕の動きも徐々に激しさを増していく。摩擦で陰唇が削れてしまうのではないかというほどに舐め上げ、歯止めの利かなくなった僕は猿臂を伸ばして乳房にまで手を掛けた。
「両方だなんて……私、もうっ……!」
僧侶さんは徐々に切羽詰っていき、いやいやをするように髪を振り乱す。僕はそれに呼応するかの如く動きを早め、ついには彼女の陰部の中に舌を押し込んだ。
「んんーーーっ!!」
瞬間、僧侶さんの身体が痙攣を起したかのようにびくびくと震える。そして陰部を犯す舌を押し出すかのように飛沫が上がり、僕の顔を濡らしていった。
僧侶さんはその間、声にならない悲鳴を上げ続け、その終末には彼女の潮吹きも終わりを告げた。
「あはぁ……あぁ、ごめんなさい……」
僧侶さんは痴態を見られたことに耳まで真っ赤に染め上げていたが、何よりも僕を濡らしてしまったことが申し訳無かったのか、虚ろな眼差しの中で詫びを入れる。
そんな彼女が殊の外可愛らしくて、顔を濡らしたままに接吻する。
「どう? 愛液の味がするでしょ?」
「そんな恥ずかしいこと、言わないでください……」
増してカーッと頬に瞳と同じ色を宿し、僧侶さんは思わず眼を背ける。だがそこで僕の痩せ我慢も限界に達し、有無を言わせず怒張を彼女の目の前に露出させた。
「えっ……?」
「今度は僕を気持ち良くして欲しいんだ。良いだろう?」
言うと、僧侶さんの華奢な腕を興奮に喘ぐ肉棒へと導いていく。彼女は抵抗することも忘れ、凶悪な程にびくびくと己の存在を誇張するそれに目を奪われてしまっていた。
「こうやって……擦って……」
促されるまま、僧侶さんの白妙を湛えた指が、どす黒く膨張した僕の逸物に犯されていく。僧侶さんがそれを見る瞳は官能的に揺れていて、それと同期するかの如く独りでに肉棒が扱かれていく。
「アルスさんのこれ……すごく熱い……」
僧侶さんはあたかもその言葉しか知らない子供のように、熱い熱いと呟き続ける。
僧侶さんに夜の教会で手コキをさせている。そのあまりにも背徳的な状況に、彼女の拙い動きにも必要以上に感じてしまっていた。
「うあぁ……」
「アルスさん……気持ち良いですか……?」
僕は声を出すことも出来ず、ぶんぶんと首を縦に振ることしか出来ない。
擦られている内にこちらも熱が入り、つい腰さえも押し出してしまっていた。
「はぁ……はぁ……アレスさん……」
僧侶さんも顔を上気させ、肉棒を食い入るように見つめながら懸命に扱き続ける。徐々に僕は意識を保つことすら手放して、蠱惑的な官能に身を預けてしまっていた。
「これは……何かお汁が……?」
僧侶さんが不思議そうな表情をして屈むと、導かれるように潤った唇を鈴口に近付けていく。そして暖かい感触が亀頭に広がった瞬間、僕は白い欲望をありったけ彼女の顔に打ちつけた。
「きゃあぁ!?」
僧侶さんを想う気持ちが、そのまま濁流となって彼女に襲い掛かる。彼女の顔は勿論、僧帽にまでも飛び散っていく。白濁は僧侶さんの頬を好き放題蹂躙した挙句、顎から滴り落ちて彼女の膝に鎮座した。
「これが……精液、なんですね……」
僧侶さんは頬に付いた精液を指で掬い取り、ぽぉっとした様子でじっとそれが流れ落ちる様を見続けていた。
「僧侶さん、舐めて……」
未だ衰えを知らず、白濁をだらしなく垂らしている肉棒を再び僧侶さんに近付ける。彼女は嫌がる様子も無く、先ず床を穢さんと意気揚々と逸物から離れようとするそれを口に含む。そして、裏筋から鈴口までねっとりと舐め上げた。
「くぅ……!」
僕の喘ぎに気を良くしたのか、僧侶さんは更に舌を往復させて責め立ててくる。だがそれは、射精から這い上がった僕の僅かな理性をまたも奥底に追いやってしまうことになる。
「んむぅ!」
僕は僧侶さんの頭を掴むと、そのまま腰を振り乱して彼女の口を犯していく。ねっとりとした感触に思わず腰が砕けそうになりながらも、構わず欲望の赴くまま只管肉杭を離しては埋める。僧侶さんが苦しそうにもがき、その目尻に涙を湛えたとしても、僕の欲望は止まることを知らなかった。背筋を擽るような快感に溺れながら、馬鹿の一つ覚えのようにストロークを強める。やがてそれは僧侶さんの喉を叩くほどに奥へと進み、彼女は尚も辛苦に呻いた。だが、子宮口を押すようなその錯覚に苛まれ、僕は幾度も僧侶さんの喉を犯してしまう。
「んぐっ、んぅ! ぐっ、うぐぅっ!」
白く穢された顔を歪ませ、僧侶さんはただ僕の動きを身を委ねるしかない。そんな類稀な征服感が、僕を二度目の射精へと促した。
「んうぅっ!?」
二度目だというのに、白濁の勢いは一度目にも増して水勢を極めた。未だ肉棒に蓋をされている僧侶さんは、必死になって精液を嚥下していく。しかし、暴力的なまでに猛り狂う精液の勢いに、飲み込み切れなかった白濁は僧侶さんの口から溢れ出る他無かった。
「けほっ、こほっ! はぁ……はぁ……」
喉に絡みつく精液を剥ぎ取るように、僧侶さんは本能的に咳嗽を続ける。冷え切った石畳に蹲る彼女を、僕は自分でも信じ難いほどに冷たく見下ろしているだろう。だがその表情とは不釣合いなほどに、未だ欲望と肉棒の状態は比例し続けている。
そして僕は、僕の本能は、己を充足させる為の行為を一つに絞っていた。
「僧侶さん、入れるよ……」
「アルスさん……」
僧侶さんは、遮二無二喉を犯されてしまったというのに、言葉の拒否すら忘れて恥ずかしげに腕を僕の首に回した。その瞳は、ただ懇願するかのように潤んでいた。
「ん、ふぅうん……」
陰唇に亀頭を宛がっただけだというのに、僧侶さんは悩ましげに吐息を漏らす。
夢にまで見た、僧侶さんとの性交。こんな形だけれど――いや、こんな形でしか、僧侶さんを奪うことは出来ない。
僧侶さんは僕の愛撫で絶頂し、僕の精液を飲み、僕の子を孕む。誰が何と言おうと、この筋書きだけは狂わせはしない。
「う、あぁあああっ!」
しとどに濡れそぼった蜜壷に、肉棒は予想以上にすんなりと滑り込んだ。しかしやはり僧侶さんは初めてらしく、破瓜の痛みに眉を顰める。だが、僧侶さんの純潔を失わせたという事実が、僕の欲望に拍車を掛けた。
「僧侶さんの処女、僕が奪ったんだ……! 僧侶さんは僕のものだ! 勇者なんかに、渡して堪るかっ!」
僕の本能、欲望――、いや、もしかしたら本心だったのかも知れない。その肝胆が火山噴火の様に爆発し、僕の肉棒は僧侶さんの膣をめりめりと抉っていった。
「アルスさん、アルスさん……っ!」
僧服を恣に破られた僧侶さんの手に指を絡ませ、暴欲に任せて深々と膣を裂いていく。僧侶さんは紅涙すら流してその痛みに耐えている。
普段の僕であれば、大丈夫ですかの一言も掛けただろう。だが、我欲に蝕まれた今の僕に彼女を重んじる余地など無い。あるのはただ、人間としての、獣としての本能だけだ。
「動かすよ、僧侶さん……!」
いてもたっても居られなくなり、僕は息も絶え絶え声を絞り出す。すると、僧侶さんはぎゅっと目を瞑ったままに頷いた。
「ひぁっ、くっ、ああっ!」
彼女を労わることも知らず、僕は欲望の丈を打ち付け始める。全神経がまるで肉棒一本に集まっているかのような感覚に酔い痴れ、思う儘に僧侶さんの膣内を愉しむ。さらにこれだけでは足りないとばかりに腫上がった乳房にも貪り付き、右手でもう片方の乳首をころころと転がした。
「だ、ダメぇ! アレスさん、そんないっぺんにされたらぁ……!」
僧侶さんはまるで否定感を感じられない甘ったるい声で鳴き、快感に身を捩らせる。そして最奥をこつんと叩かれた瞬間、彼女の身体は面白いようにびくびくっと震え上がった。
「ぅううううんっ!」
僧侶さんは破瓜したばかりだというのに、軽く絶頂に達してしまったようだ。その瞬間ぎゅっと逸物を締め上げられ、突発的な射精感に襲われるも、何とか堪えて抽送を再開する。
「ら、らめ……イッたばかりなのにぃ……」
呂律が回らないとばかりに、僧侶さんは目線をあらぬ方向へ向ける。だが、ピストン運動が激しくなるにつれて、欲望と共に覚醒していく。
「そ、僧侶さん、僕も、もう……っ!」
僧侶さんに覆い被さり、あらん限りの力で腰を打ち振るう。僧侶さんの敏感な膣は何度も僕の肉棒を締め上げては弛め、それを望むかのように射精を促している。
大きな前後運動は、自然と細かな振動に移り変わり、僕の限界を誘った。
「も、もうダメだ! 膣内に、膣内に出しますからっ!」
「な、膣内だけはダメぇ! お願い、抜いてぇ!」
僧侶さんの哀願は、一歩遅かった。
子宮口に亀頭が叩き付けられた瞬間、鈴口からはち切れんばかりの精液が迸る。稲妻が走るような快感は体全体を駆け巡り、糸の切れた人形の如く僕は僧侶さんに凭れ掛かってしまう。
「熱い、熱いよぉ……。アルスさんの、せいえきが……」
僧侶さんはうわ言のように呟き、白濁の熱に魘される。だが、それは僕も同様だ。三度目の射精は、魔王との決闘すら比較に出せてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「……ごめん」
そこで、僧侶さんは何か気付いたかのようにすっと快楽から醒めていった。それはきっと、いつもの僕の表情を見たからなのかも知れない。欲望という欲望は潰え、自然と僧侶さんの膣からなえた肉棒が抜け落ちていた。
「僧侶さんが好きなのは、本当です。だからずっと教会にも通ってた。でも……こんなの誰も望んでない」
言い訳がましいことは分かっている。その情けなさに、僕は覚えず自らの唇を噛み締めていた。だが鉄の味が染み渡ろうと、この罪が消えないこともまた知っていた。
「謝らないでください。なんだか……惨めになってしまいます」
「うん……」
彼女の言うように、僧侶さんは本当の意味で惨めなのかも知れない。無理矢理犯され、神聖な僧服を破かれ、白濁を顔に掛けられた挙句、膣内に精を浴びせられる――。女性として、この上ない屈辱だろう。
「僧侶さんが、勇者と一緒に旅立ってしまうのが嫌だった。ずっと一緒に居たかったんだ。だからこういう展開も……何度も思い描いてはきた」
独り言のように、それはぽつぽつと込み上げてくる。静寂を嫌っているのか、僕はこれまでに無いくらい饒舌だった。だがその理由は、あまりにも卑しい。
「どうして……言ってくださらなかったのですか?」
「僧侶は神に仕えてるから……その、性行為は禁忌なんだろう? だから交際とかも――」
僕の言葉は、文字通り尻すぼみだった。しかし僧侶さんはほんの少し一驚して見せるも、それも束の間で何故かくすくすと笑みを散らし始める。
「な、何?」
「その制度は、だいぶ昔に取り払われました。宗教が人を束縛してはならないと」
「そ、そんなぁ……」
生涯に掛けての勘違いに、僕は羞恥と共に脱力する。
もし、この事実を知っていて、僕に勇気があって、奇跡が起きて、僧侶さんが頷いてくれたら――。
だがその結果を知る前に、僕は全てを台無しにしてしまった。何を起すにも、もう遅い。まさに、後戻りの出来ない取り返しの付かないことを起してしまったからだ。
「でも、アルスさんは私の膣内に出してしまいました。責任は取ってもらいます」
「ああ、うん。覚悟は出来てるよ」
絞首刑、斬首刑、火刑――様々な死罪刑が頭を過ぎる。教会で僧侶を強姦ともなれば、その罪の重さは素人でも察することは出来るほどだ。
「では……私と偕老同穴の契り、結んでいただけますね?」
「うん……って、ええっ?」
思わず彼女を二度見してしまうも、一度目も二度目も、彼女は微笑んだままだった。
「まさか私をそんな風に想ってくださっていたなんて、思いませんでした。でもいくらなんでも強引過ぎます。普通の女の子ならそっぽ向かれて終わりです」
僧侶さんの言葉の端々から察せられる柔らかさ。なるべく僕を責めないようにしようという配慮が窺い知れる。
「それでも……お慕い申し上げていました、アルスさん。ですが、やはりこんな形では酷いです。でも、これを断るともっと酷いですよ」
何度も見た、常人からすれば見飽きたと揶揄してもいいほど、僕はこの笑顔を見続けてきた。でもこの状況でその笑顔は、僕の涙腺を決壊させるに十分過ぎるほどだ。
「え、えっと……?」
僧侶さんは涙の理由が分からないとばかりにおろおろと目を泳がせるが、女の子をこれ以上困らせられないと、ぐっと袖でそれを拭う。そして、厚かましいとは思ったが、やはり僕の語彙ではこれ以上の言葉を絞り出すことは出来なかった。
「僧侶さん、じゃあ、これからお願いします……」
「はい、アルスさん」
Fin
2010年 3月 30日
瓦落多