ころも | #1★2007.08/22(水)14:03 |
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1 憂鬱な毎日。 太陽が昇ってる。憂鬱な一日がまた、幕を開けることになるんだ。いつかこんなところから抜け出したいって思っても、白馬の王子様が現れるなんていう夢を見る年でもない。そんなに幼くないけど、誰かに知ってほしい。この気持ちを… 「起きなさい。フィリア。」 春風のような声が廊下から聞こえてくる。お母さんだ。 「はい。お母様」 ホントはこんな言葉、使いたくない。お母さんって、呼びたいのに…カチャッと戸を開けると、真紅のじゅうたんのひかれた長い長い廊下。廊下の壁には高そうな絵が飾ってある。ココはお城で、私は王女。簡単な理屈でしょ?それだけで、こんなヘンな言葉遣いで、こんなヘンなところに住んでいる。イヤになるのも仕方がない。でも、理由は、それだけじゃない… 「お父様!!フィリアの毛並みが乱れてる!!」 ホラ来た。首に豪華な宝石入りのペンダントをつけている、とても優しいお姉さま、フールのご登場。あ、いい忘れたけど、私はブースター。フールお姉様はとっても綺麗なエーフィ(勿論皮肉)だ。問題はそれ。家族の中で、私のことを嫌っている人が約三匹いる。フールでしょ。それから… 「こら!!フィリア!!毛はとかしてから来るって、何回いったらわかるんだ?!」 ブラッキーのお父様。それともう一人… 「あらぁ?フィリア、くせっ毛がまだ直ってないのぉ?」 シャワーズのダイラ。ダイラは私と三つ子だから、お姉さまって言わなくていいの。ふんっ。でも、そんなこと口に出したら殺される。私は炎タイプで、ダイラは水タイプだから。 「本当?申し訳ございません。お父様、フールお姉様。それにダイラ。私のくせっ毛、治る見込みがございませんの。」 ココまで丁寧に言うと、誰も口出ししなくなる。 「でも、ダイラ。フィリアのくせっ毛がなくなったら、フィリアじゃないだろ。」 ふぅ〜…良かった。ブラッキーのカタン兄さんだ。私の味方の一人。うん。お母さんと、カタン兄さんと、あともう一人。三つ子のもう一人の、えっと…サンダースのリダルだ。お母さんは、エーフィなんだけど、フールみたいに飾らなくて、でも、すっごく綺麗なの。はぁっとため息をついてると、 「お姉ちゃん。朝ごはん。」 と、小さな弟のリルイがやってきた。この仔はフールやお父さんみたいなポケモンにならなければいいんだけど… 朝食が終わると、私は真っ先に自分の部屋へ帰った。フールやお父さんたちと一緒にいるほうが疲れる。けれど、部屋へ帰って間もないときに、玄関でベルの音がした。 |
ころも | #2★2007.08/22(水)14:04 |
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2 タイミング、悪いな。ヘンな人じゃないといい。お父さんやフール達があんな風になったのも、訪問客のせいだから。 「はい」 あ。お母さんが開けてくれた。お母さんは私のこと、世界で一番よく分かってると思う。お母さん、私がフールにいじめられてることも、全部、知ってる。話を聞いてくれる。過去のトラウマがあるから、私が玄関のベルごときでビビっちゃう事も知ってる。感謝、だ。お母さんがいなくなっちゃう、もしくはお父さんみたいになっちゃったら、私、どうなっちゃうんだろう。ふぅ。こんな消極的で頼りない自分が嫌い。見栄っ張りって言うの?表でフール達にイイカオしといて、内面うだうだ言ってる。どうしようもないこんな性格。ミライを変えたいのに…大げさに格好つけてるんじゃなくて、本当に。窓の外では風が歌ってる。子供たちが笑ってる。廊下の向こうのドアでは、訪問客とお父さん、お母さんが話してる。こうやって物事考えることしかやる事が無くて、ヒマ。多分兄さん達は宿題に追われてるだろうし、リルイはお勉強の時間。ま、お父さんも私にはさじを投げてるわけ。ではなく 、私が結構成績いいから。成績さえ良ければお父さんは何にも言わないし。さっき言ったように、私は王女。学校がつまんない。友達なんて出来ないし。お嬢様学校に入れられてるのは私と趣味が合うような人じゃないし…でも、ジャマなのはなんと言ってもアクセサリー。うーん…ネックレスとか、首輪とか。そういう宝石の物のこと。貴族は絶対つけるんだって。でも、お母さんとかはネックレスつけてるだけ。アクセサリーにも色々ある。フールやダイラはジャラジャラしたけばけばしいのをつけてる。性格と同じかな。私もこの前から無理矢理つけさせられて、仕方なくルビーのネックレスをつけてる。それが、ネックレスをつけたとたんに先生からはえこひいき。町の人からはものすごいお辞儀。最低。こう思い返してくると、いい事っていうのがあまりない。そう思ったとき、ノックの音がした。 「あの…フィリア?入るわよ?」 お母さんか…良かった。お父さんだったらアッカンベーして追い返すところだった。危ない。そこにはお父さんお母さん意外にもポケモンがいた。 |
ころも | #3★2007.08/22(水)14:06 |
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3 あれ?お父さん、お母さん…なんだ。カタン兄さんもいるじゃない。あとは…うわっ、すっごく綺麗なミロかロス。ライチュウ…何の用だろ?私なんかに…私が首をひねって考えていると、お父さんがわざとらしくコホンとせきをした。 「えーっと…フィリア…この方たちは旅の人たちだそうだ。」 それはそうでしょう。私の兄弟にはとても見えないもの。私は心の中でかすかにつっこんだ。 「右から…」 お父さんがそう言った時、カタン兄さんがちょっとよけた。あれぇ?よけたカタン兄さんの右の後ろ足に…金色の輪が無い…じゃあ、カタン兄さんじゃないって事? 「フィリア!!ちゃんと聞け!!右から、ブラッキーのリゲルさん。ミロカロスのレンシアさん。ライチュウのロイダさん。」 ポケモン名は省略してもいいから。絶対分かるって。 「はい。お父様。よく分かりました。で、この方達は私に何の用なのでしょうか。」 あ。ヤバイ。よく分かりましたって、皮肉を言ってしまった。気付いてないみたいだけど。 「だーかーらー!それを話に来たのだ!!」 はぁ…この王様の精神年齢、いくつなんでしょうか。ん?何か、私悪い事したっけな?それか、何か特別な事?でも、フールの方が私より綺麗。カタン兄さんの方が頭が切れるし…リダルもなんだかんだ言って勉強は出来る。うーん…ダイラは性格良くないから?けど、そうだったら絶対リルイの方が良い。どういうことだろ? 「あの…なんで私なんかを…?」 控えめに、でも、ちゃんと用件が伝わるように。…反応なし。 「そうですよ。こんな娘をあなた方にやったって、何の役にも立ちません。一番上のフールは綺麗ですし、言葉遣いもいいし、頭もいいし…」 フール、そんなに良い子か?言葉遣い、悪いぞ。頭、私より悪いし…どんな証拠からそんな事がいえるんだか…笑いをかみ殺していると、ミロかロスが口を開いた。 「あの。一言言わせて頂きますわ。父として、子供を比べるのはどうかと思いますの。このブースターに勝る者は、今のこの国の王家で一匹もいませんわ。しっかりとした判断力と、記憶力のよさ。フール様というのは、さっき会ったエーフィですわよね?あのポケモンより、何倍も優れています。」 声の感じからして、私と同じ年くらい。でも、オーラとか、態度とか、言葉遣いは…比べ物にならない。それに、言うことも筋道だってる。ミロカロスはそれだけお父さんに言うと、私の方を向いた。 「あの…貴方を、旅に一緒に連れて行きたいと思っているの。ダメかしら?」 「旅?」 私、お父さん、お母さんが固まっている中、ミロカロスは 「貴方には、トクベツな力がある」 と言った。私の手足は、一歩も動かなかった。 |
ころも | #4★2007.08/22(水)14:02 |
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4 今…今…何て言ったのだろう。私の耳が変?いやいやそんなはずは無いでしょう?こんなに大きな耳なのに…? 「あのぅ…今、何て?」 私よりも先にお母さんが口を開いていた。お父さんは息も出来ないくらい固まっている。ミロカロスの言っている事が、よく分からない。どぎまぎしている私。…あれ?何か視線が痛い。誰のだろう… 「お父様!」 甲高い声。聞き覚えがあるどころではなくさっき、ついさっき皮肉のシャワーを浴びさせられたフールとダイラだ。いつもなら威張ってやるけど、今はそれどころじゃない。でも、そんな私をほうっておいてフールは言葉を続ける。 「この子を旅に?この子が一番優れている?ミロカロスの頭がおかしいのですわ。あのこの方が私よりも優れているなんて、ありえませんわ。」 ミロカロスの頭がおかしい?頭の中が?そういうことは、ありえない。私は頭を左右にぶんぶん振った。あの賢そうな黒い目が頭のよさを表している。フールは、そんなことも分からないのか。 「まさか!」 次に叫んだのはお父さん。まさかなんて、ずいぶんなことを言うな。別に自分が頭がいいなんて思わないけど、今回はミロカロスに賛成。お父さんはまるっきり私達のことを比べてるし、しっかりとした判断力は…あるっけ? 「あなた方はこの子の素性をわかってはいないんです!今日しか見ていないから!」 もやっとした気持ちになった。ミロカロスはあとなんていうの?ミロカロスの方を見た。が、今度口を開いたのはブラッキーだった。 「今日しか、見ていない。それは認める。けど、貴方はブースターのことを毎日見ていない。しっかりと直視していない。正面から向き合って話をしていない」 しずかで、落ち着いていた。でも、その声は説得力の塊みたいだった。あ。体が動く?この言葉でとかされたように、私の思考回路も体の動きも尻尾も揺れもなめらかに動くようになった。こんなところにいるよりも、もっといい所にいた方がいい。お父さん達を助ける手段を探さなくちゃ。私は頷いた。 |
ころも | #5☆2007.08/22(水)14:22 |
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5 「フィリア!」 ダイラとフールの怒りの叫び。でも、そんなの聞いている私じゃない。未来を変えなくちゃって、自分で言った。自分で。だから、変えなくちゃいけない。私はもう一度行った。 「行きます。行かせて下さい。」 それから、ブラッキーの後ろのお母さんを見る。微笑んでる。けど、泣いてる?今まで見たこと無いくらい嬉しそうに笑っているというのに、涙が頬を伝っている。 ――― これで、良かったの? ――― 私の中で声が言った。その瞬間、ミロカロスと目が合った。表情は変わってないけど、ブラックダイヤモンドのように真っ黒い目の中が、輝いている。かすかに、頷いたような気もする。これで、良かったんだ。フールたちが目を吊り上げてたって、これで、良かったんだ。もう一度、ブラッキーの後ろを見ると、お母さんは、激しく頷いている。 「フィリア!何てこと言ったのよ!」 フールの起こった声が響く。私は、言い返した。初めて、フールに言い返した。 「私の人生、あんたのものじゃないわ。」 部屋が、沈黙に包まれる。でも、冷たい沈黙じゃない。お母さんは、笑ってた。 「そうと決まったら、明日、出発だ」 ライチュウが気楽に言った。何だか緊張が解けた。 「では、空いているお部屋をお貸しいたしますわ。」 お母さんが、にこやかに言った。フール達は、出て行った。 私はベッドに入ってからも眠れなかった。お母さんが、心配だった。色々考えてみると、突っ走りすぎたかもしれない。そう思った。そんな時、ノックの音がした。お母さんか、あの旅の人達だ。きっと。 「...どうぞ」 私は起き上がった。旅の人達なら、しっかり話さなくちゃ。でも、入ってきたのはリルイとカタン兄さんとリダルだった。 「え?!ええ?!兄さん達!どうしたの?!」 リルイは寝ている時間だっていうのに、ひょこひょこ歩いてきた。 「がんばれよ」 カタン兄さんが言った。 「大丈夫。母さんは、俺達がいるから」 リダルも言った。 「お姉ちゃん、いってらっしゃい」 リルイも言う。何だか、恥ずかしいけど、嬉しい。涙が出てきた。頑張らなくちゃナ。って、思った。そして、言った。涙声になったけど。 「うん。頑張ってくる」 |
ころも | #6☆2007.10/08(月)13:39 |
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6 朝。起きたら雨が降っていた。今さらだけど、行くべきか。行かないべきか。私がいて良いものか。だって、あの中に紛れるんだ。格好いいブラッキーに強そうなライチュウにものすごく綺麗なミロカロス。私、大丈夫?弱気な私が顔を出したと言うことに気付くまで、時間はかからなかった。アレだけカタン兄さん達に強き言ったのに...リルイにガンバレって言われたのに... ――――これで、良かったんだ――― 昨日の声がまた言った。とたんに、勇気がわいてきた。よぉし。行ってやろうじゃないの。 「望むところよ!」 調子に乗りすぎて大声で言ってしまった。でも、嬉しい。やっと自分自身に正直に生きられた気がする。今までずっとずっとお父さんかお母さんの言いなりになってきたから。嬉しい。また、涙が出てきた。やっと、本当の自分にめぐり合えた気がした。今までの殻を、破れた気がした。この興奮、いつになったら冷めるかな?いいや、いつまでたっても冷めないよ。自分に勝てた。涙が止まらない。この興奮、冷ましてやるものか。私。 「止まんないから。絶対に」 きっちりと、約束した。自分自身に。雨が降っている。さっきからずっと。同じように。でも、私は違う。さっきとは変わった。自分に勝てたんだもの。サイコーじゃないのよ。 ――――私の人生、私のものなんだ―――― こんなに小さな事が分かっただけなのに、感動。自分に拍手。自画自賛。少しずつ、けれど確実に、答えが分かってきた。少しづつ、テンションもあがってきたかも。今まで、雨の日にテンションがあがったことなんて、無かった。でも、今日、上がった。目の前の鏡に映る自分。昨日より、少し、成長したかな?心の中の幼い自分の問いかけに、ついつい笑ってしまう。そして、答える。昨日より、ずっとずぅっと成長した。って。さあ、出発だ。ベッドからとび降りた。 その瞬間、ある重大なことに気付いた。ショックで上手く立てない。心の中で叫ぶだけじゃ叫び足りないから、ホントに叫んじゃった。 「何の目的で何処へ行くか、全然聞いてないじゃない―――!」 |
ころも | #7★2007.11/06(火)11:20 |
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6 さっきの興奮がまだまだ残っていて、結構いいキブン♪そんな中でも、雨が私の部屋の窓を叩く。けれど窓は痛いとは言わない。じっと、ずっと、透き通るガラスのまま。硬くて、綺麗で、でも何だか親しみやすくって...いつしか、こんな風に強くなりたいって、思うようになってた。心に秘めたこの思いは、誰にもいえない。 けど、窓だって我慢してるんだから、私も我慢する。私の憧れは、今のところ、窓だったりする。その窓に、私は今鼻をピタンと貼り付けている。さっき叫んだら、口から小さい火の玉が出てきた。それで鼻の頭に少しかかった。自分から出したヤツなのに、熱くって熱くって。で、ドン!と、窓に追突...しょぼっ! でも、それが以外に気持ちよくて、5分くらいこのまま...まだまだ夜。たぶん夜中の2時3時。だから、私はまだまだこの格好でこの私の部屋の中にいてもいいの。私の手は、窓枠にある。私の耳はたれてる。目は、つぶってる。雨が嫌いだから。そのヘンテコな体制のとき。 「ちょっと、入るわよ!」 つんけんした声。とげとげしい声。怖い。何で今の時間に?何で私に?私の鼻は無意識に窓枠から離れていた。私の手は無意識に床の赤いじゅうたんの上にあった。けれど、目だけはつぶったままだった。怖い。自分の目の前にある現実が。さっきまで暖かかった私の心が、炎タイプでいつも温かいはずの体が、冷えていく。私の弱い部分が顔を出す。 ――――――もう、イヤ――――― 涙が頬を伝う。と、同時に扉が派手な音を立ててあいた。フールがたっていた。さっきの興奮はとたんに冷めた。 「フンっ!あんたも随分落ちこぼれたものね?」 視線が怖い。私は、さっきの私と別人になっていた。 「あの連中はあなたの本性を知らないから、あんなことを言っているだけって、自分でも分かっているでしょう?」 痛い。無理。絶えられないこの痛さ。実の姉なのに...フールに、言われるなんて。血がつながっているのに。この痛みは、さっきのとは違う。自分自身の弱さの痛みじゃない。フールに、信じてもらえない痛さ。息ができないほど痛い。目を開けるのが怖い。目を開けて、そこにいるのがフールだと知るのがイヤ。フールじゃないかも知れないと、目を閉じていれば期待できる。表面だけの期待ができる。 「どうなのよ?目ェ開けなさいよ?」 開けたくない。イヤだ。 「...イヤ。」 私の小さな小さな答えに、フールはどんな言葉を返してくるのだろう。 「ふぅん...炎タイプの何でもないお馬鹿さんで、本性知られないだけで威張ってられるヤツ。その人、本当は弱いのね?」 怖い。痛い。悲しい...なんで、信じてくれないの?なんで、優しくないの?なんで、昔のフールじゃなくなっちゃったの?弱い自分じゃないけど、本当の自分が、悲しんでいた。もう、私にはどうにもできない。そのとき、追い討ちをかけるようにフールが言った。 「あんたはいつまでも負けて生きているんだねぇ...」 と。 |
ころも | #8★2007.11/26(月)15:54 |
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7 「あたしは、弱いのかなぁ?」 涙で前が見えないけど、フールのきつい視線だけは、なぜか痛いほど強く見える。怖くて、怖くて、でも、正解がなんなのか分からなくて、暗闇を手探りで進んでいる。そんな気分。窓を打つ雨が強い。悲しさを倍増させていく。本当の意味が分からなくなって、自分が何故いるかの本当の意味が分からなくなって、誰にというわけでもなく、ポツリと尋ねた。 「あたし、弱いのかなぁ?」 イエスかノーか。それだけの単純な問題なのに、分からない。答えが。知りたくない。けど、知りたい。矛盾する私の内面をよそにフールは気味悪そうに私を見てる。あなたに、尋ねているの。 「あたし...弱いのかなぁ?」 ゼッタイにゼッタイに、今度も答えは返ってこないと思ってた。けれど。 「あぁ。今のお前は弱い。」 力強く低い声が返ってきた。声は扉のほうからする。涙でぼやけている目をそっちにやると、黒い姿が見えた。 ...カタンさん?フールもそう気づいたのか、私に回れ右をして、扉のほうを向いた。 「ふぅん。しっかりと意見を言える人ね。良いじゃない。気に入ったわ。頭もよさそうだし。」 先に口を開いたのは、私ではなく、フール。雨は、降り続けている。冷たく、何の感情も持たずに。そう。何の感情も入っていない声が、私にもフールにも味方しない声が、また、響いた。 「お前に気に入られて、何になる?利になることは全くない。」 ごしごし目をこすると、カタンさんはフールよりも私を見ていた。目が、赤い眼が、真剣に私を見ていた。それに、フールは気づいていない。あの、カタンのどこかしら元気付けるような強い目が私を見ていることに、気づいていない。カタンが、自分を見ているとでも思っているのだろう。予想は的中。私の恐ろしい姉はカタンにとっておきの、しいて言うならば営業用スマイル。で言った。さっきまでの冷たい声ではなく、きんきらきんの、純粋とは程遠い声で。 「あらぁ?そんな事なくってよ?私はこの国の次の女王となる人。村の雄は皆、私に気に入ってもらおうとするわ。でも、私はその中から選んだことはないわ。どう?理屈に通っていると思わないこと?」 ...フールは、カタンが好き?まさかね。私はいま、直感で思った事実を取り消そうとぶんぶん頭を振った。雨の音はいっそう激しく聞こえる。大好きな人と(まだ分からないが、きっとそう。)話せるのがうれしいらしく、フールは、私がいることを忘れたようだ。けど、どうでもいい。フールの恋愛感情や声や顔なんて、今の私には関係ない。本当は、私が話すべきなのだ。言いたいことを。この真っ黒な部ラッキーに...いや、話さなくては。ゼッタイに。ゼッタイに。よぉし。 「あのッ!」 私が一生分の勇気を使い果たしていった言葉に、フールは冷たい目を向ける。怖い。でも、もう、恐れない。恐れたくない。弱くなりたくない。空気をいっぱい吸う。切り出そう。自分の言葉で、自分の意思を伝えるために。切り出そう。ここで私を伝えなければ、カタンの言う通り、弱い。弱いまんまだ。昼、レンシアさんにかばってもらった。でも、私はもう、かばってもらっちゃいけない。自分の足で、進まなければいけない。雨の音が強い。窓を叩く風の音が厳しい。ついに4足で立って、全身の毛を逆立てているフールはこの世のものとは思えないほど恐ろしい。でも、もう、怖がりは卒業。フールの後ろの私を信じてくれている、漆黒のブラッキーは、私を光る赤い目で見つめている。 私よ。 さぁ、進みだせ―――――― |
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