和谷緋真 | #1☆2007.06/10(日)22:53 |
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『少年の夢』 静かに風がそよいでいる日に 見上げた空は真っ白な天井 ほかの人にとって、空というものは真っ青で、雲があって、太陽があったりするもの。 けれど俺は違う。 そう、俺にとっては地面も壁も空でさへ、すべてが無機質で真っ白なもの。 自分で言うのもなんだけど、そんななかで15年間もよくやってきたと思う。 ときどき見る夢がなかったら俺はおかしくなってたかもしれねぇな。 けどもうすぐその景色すら見えなくなりそうだ… 「もうすぐ俺、いなくなっちゃうのかな…?」 誰もいない空間でポツリと漏れたその言葉 返事を返してくれる人なんていないはずなのに ―あなたの願いは生きること…?― 俺の耳に誰かの言葉が聞こえた。 とうとう死神か霊かの類の声まで聞けるほどになったのだろうか。 ―死神や霊、とは少し違うわ。それより答えて?― 「・・俺の、俺の願いは・・ただ外で、野原とか道とかを駆け回って、自然たちと触れ合いたいだけで、・・でも、こんな生活を続けるくらいなら生きなくても、いい・・」 ―なら貴方の望みをかなえてあげる。 でも、そのかわり私の願いをかなえてほしいの― 「願い…?」 ―そう、私の願いはある宝石を見つけてほしいの。 正確にはそれを持っている人を見つけてほしいの― 「宝石…?でも俺この部屋から出れない・・」 ―心配ないわ、ただ今とは少し自分の姿や世界が変わるだけで…引き受けてくれるの?― 「あぁ、俺なんかでよかったらよろこんで」 ―ほんとに?!ありがとう!― そういうと誰かの声は聞こえなくなった すると、すぐに淡くて暖かい緑の光が部屋に満ち溢れた …けれど、それと同時に俺の意識もなくなっていった… |
和谷緋真 | #2☆2007.06/11(月)20:01 |
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『目覚めたその先』 なんだろ、俺、まだ意識がある…? 「…」 うっすらと目を開けるとそこには以前と変わらぬ無機質な白い空間で… でも前と違う。 人がとても大きい。 それにきれいな顔立ちをした少年が俺を見ていた。 その少年は俺を見てニッと笑った。 その笑顔はまるで太陽のようだった。 「やっと目が覚めたんだね!」 「なんで俺…」 「君喋れるの?なら話ははやいね。 …なんで君あんなところでへばってたの?」 「わかんない…目を覚ましたらここで…ここどこ?」 「…?まぁ、とりあえずジョーイさんとこにいってくるね」 目の前の人はなにか思慮深い表情をしたけれど、それはすぐに消えた。 そしてまたもとの表情にもどった後、この部屋をさろうとした。 「…いやだっ!もう一人は…!」 なじみ慣れたこの空間でまた一人ぼっちになるのはいやだった。 それがすごく怖かった。 ただその一心で彼の足にしがみついた。 そんな俺を少し驚いた顔で見ていた彼は「しかたないな」と苦笑しながらいうと俺を足から引き離し、その腕に抱き上げた。 その腕はとても暖かかった。 「ただジョーイさんのとこに行くだけなのに、まぁいいか。 あ、でもここからは「ブイ」としかいっちゃだめだからな。言葉は絶対に話しちゃだめだよ」 「ブイ!」”おう” 俺のそんな様子を見てまた彼は苦笑をもらした。 そして向かった先はジョーイさんのもと。 そこに向かうまでの光景に、俺は目を奪われた。 たくさんの人とたくさんの動物。 暖かい光と楽しそうな声。 そのすべてが俺にとっては初めてのものだった。 ジョーイさんに診察されている間も、ずっとその光景を眺めていた。 「はい、もう大丈夫ですよ!それよりとっても外が気になるみたいね」 そんな俺を見てジョーイさんはくすっと笑みをこぼし「おだいじにね」と言った。 そのあと俺はやっぱり少年の腕に抱かれた。 少年は「ありがとうございました」とジョーイさんにお礼を言った後、外に連れて行ってくれた。 本当に何年振りかもわからない外は、俺の憧れていた世界そのものだった。 |
和谷緋真 | #3☆2007.06/15(金)15:58 |
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『少年が夢見た世界』 木漏れ日あふれる森 暖かく光を注ぐ太陽 頬をくすぐる優しい風 楽しそうに踊る花々 いろんな色に染まった木の実たち それが俺の夢見て、憧れていた世界 「キラキラ輝いてるとこ悪ぃんだけど、お前のことキッチリ聞かせてもらうぜ」 「!(ビクッ)」 俺はちょっと吃驚した。話しかけられたことがじゃなくて、その雰囲気に。 だってさっきまでの彼とは違って、天使みたいだった雰囲気はまるで悪魔みたいに。 言葉遣いも違うし、声だって1オクターブさがってる。 「いいけど、それよりもなんか雰囲気変わってねぇか?」 「へぇーお前なかなか言うな。でもまだ俺『話していい』とは言ってないぜ?」 「あ!」 そうだった!すっかり忘れてた; 「はぁー、まぁいいけどよ。それより何であんなところで倒れてたんだよ?」 「あんなところって、俺どんなところで倒れてたの?」 「オニドリルの縄張りで、まるでピクリともしなかった」 「俺、知らない…。だって目を覚ましたらあそこで…それまでは病室でっ、それに人だったんだ」 以前の姿ではないことは、彼を含めた人の大きさと、俺が四足歩行になっていることで理解した。 「人…?なるほどな、だから言葉が話せるってわけだ。けどお前今、けっこうレアな姿してるぜ?」 彼はそういうと俺に鏡を見せた。 そこに移っていたのはもちろん以前の俺ではなく、首周りにふわっとした毛があって、人だったとは思えない姿だった。 「今のお前はイーブイっていうポケモンだ。それも他のイーブイとはちょっと違う、まぁ悪事を働くやつの格好の餌だな」 「…!」 それを聞いた瞬間とても怖くなった、もしかして彼もその一人なんじゃないかって思ってしまったから。 「毛の色は他のイーブイたちと大差ないけど目が違うんだ。一般的なイーブイの瞳の色は黒っぽい。」 「…けど俺の瞳の色は琥珀色…」 俺はだんだんと怖くなって自然と後ずさっていった。 「そういうことだ、あと俺の名前はミズキ。安心しろ、俺はお前の思ってるようなやつじゃねーよ。」 なんで彼は俺の心をこうも動かすんだろう。 その言葉を聞いて俺の体から恐怖というものが消えた。 「俺はリオウ、璃珱って書いてリオウ」 「璃珱…女みてぇな名前、それに春っぽいし。お前は夏っぽいのにな!」 ちょっと笑われたけどいやな気分にはならなかった。 なんだかミズキさんの笑った顔見てたらすっげー落ち着くんだ。 「そっか、まぁだいたいわかった。…ってことはお前行き先ねーんだよな?」 「うん、この世界のことも全然しらないし…それに宝石を捜さなくちゃ…」 そうだ、宝石…でも結局俺をこの世界に送ったのは何だったんだろう…? 「宝石…?」 「あぁ、この世界に送ってくれたのが言ったんだ。俺の願いをかなえる代わりに私の願いをかなえてって」 「お前の願いって?」 「外で、野原とか道とかを駆け回って、自然たちと触れ合うこと」 「ずいぶんと小さな願いだな。もしかしてお前おぼっちゃんだったのか?」 「ううん、病室から出れなかったんだ。生まれてからほとんど。」 「それで宝石探し、ねぇ」 そういうと彼はため息をつき、呆れたような顔をした。 「なら俺と一緒にこい!その願いとやらも、お前をここへ連れてきたやつの条件も、かなえてやる」 「ホントっ?!」 「あぁ、来るか?」 「うん、ミズキさん!」 俺は嬉しくてミズキさんに飛びついた。 なんとなくだけど、俺はこの人についていかなくちゃだめな気がしたんだ。 |
和谷緋真 | #4★2007.06/24(日)23:57 |
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『第一印象において見た目は大切』 一緒に旅することが決まったはいいけど、まさかミズキさん一人で旅してんのかな? 「そういえばミズキさんって一人で旅してるの?」 「いや、あーそういえばまだ紹介してなかったな」 そういうとミズキさんは赤と白の小さなボールを6つ取り出すと、それぞれを俺のほうに向かって投げた。 そこから出てきたのは俺のように人じゃない、でもそれぞれが全然違った生き物だった。 「みんな、こいつはリオウ、今から俺たちの仲間になったからな、挨拶しろ」 ミズキさんにそういわれた生き物たちはいっせいに俺のほうを見てきた。 「初めまして、リオウっていいます」 その中でも最初に口を開いたのは大きくてトラとライオンをかけたようなのだった。 「へぇー、こいつが仲間ねぇ…いったいどういう風の吹き回しなんだか…」 そいつは俺のことを見下して、じっと見ていた。 「確かにねぇ…でもそんな言い方ないだろう?」 その次に話したのは、横にいた黒と白の頭に鎌のようなのがついてるやつ。 「そうよ、ライはただでさえ大きいんだから、この子が怯えちゃうじゃない」 その次は体が長いやつ。どうやら女の子らしい。 「そういうお前も十分にデカイけどな」 からかうようにいったのは黄色くてほっぺたが赤いやつ。 「うわぁー僕はヒノ、よろしくねぇー」 ちょっと場の雰囲気が読めてなさそうなやつは糸目でモグラみたいな感じ 「おいおい、この子が困ってるだろ;」 最後のやつは黒くて何か黄色の模様がある。 なんだか一番まともそうだ。 なんというか俺は漠然とした。 こんなキャラの濃いなかでやっていけんのかよ、俺…; それが、これから仲間になるであろう彼らを見て思った、最初の印象だった。 |
和谷緋真 | #5☆2007.07/02(月)20:30 |
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『無知な自分』 あいかわらず俺は6匹に囲まれています。 やっぱりこれからいろいろ不安だけど、この人たちとはうまくやっていかなくちゃ…! けど、今自己紹介したのって俺とヒノってやつだけだよな…; …よし…!怖いけど、いつまでたってもこうしてるわけにはいかねーしな。 「ねぇ、皆の名前はなんていうの?」 俺の言葉を聞いてヒノとトラみたいなやつ以外のやつらは、皆一瞬鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。 「はははっ、確かに、悪かったね。 あたしはアブソルのアウラ。覚えといとくれ」 その後すぐに苦笑しながらそう告げたのは頭に鎌みたいなのが生えているのだった。 それに続いて、体が長いの、黄色くてほっぺたが赤いの、黒くて黄色の模様があるやつ、トラのようなやつの順に、皆の紹介が始まった。 「私はオオタチのフィラ、よろしくね」 「俺はピカチュウのジュン。よろしくな」 「俺はブラッキーのリクっていいます。よろしく」 「俺はウィンディのライ。まぁ程々に頼むぜ」 アウラにフィラにジュンにリクにライ、そしてヒノ 俺は改めて皆の顔を見た。 気のせいかもしれないけど、さっきよりもピリピリとした感じが消えた気がする。 「紹介は終わったようだな」 傍で見ていたミズキさんが話しかけてきた。 「うん、あ、でも聞いていいかな?」 「何だ?」 「皆が名前の前にアブソル、とかオオタチとかつけるんだ。 それにミズキさんも俺のことイーブイって…それっていったいなんなの?」 俺がその言葉を口にした瞬間、場の時が止まった。 「えっ、何?なんか俺まずいこと言った…?」 静寂な時間が流れる中、ライの怒鳴り声がそこに響いた。 「はぁ?そんなこと常識だろうが!?お前何年生きてきたんだよ?」 「えっと、15年くらいだけど…」 何で俺、こんなに驚かれてるんだろう? 「15年?嘘つくなよ。お前みたいなチビがそんなに生きてるわけねぇだろ?! せいぜい生きてて3年ってとこだ。 おい、ミズキ!こりゃいったいどういうことだ?!」 「あいつ、なんて言ってんだ?リオウ」 いきなり吠え出したことにミズキさんも少しばかり驚いていた。 あっ、そっか。ミズキさんにはこの人たちの言葉がわからないんだ…。 「えと、俺が15年生きてるっていったら嘘だって…。 せいぜい3年がいいとこだろうって。 それに俺が聞いたことは常識だって…。 ねぇ、俺そんなに悪いこと聞いたのかな…?」 なんだか少し悲しくなってきて、いつの間にか見上げていたミズキさんの顔が波打っていた。 そんな俺の頭にミズキさんは手のひらを載せてよしよしってしてくれた。…ちょっと痛かったけど。 「あ”ぁーお前は何にも悪くねぇよ。だから泣くな。 まだ、皆には言ってなかったが、こいつ本当はこの世界にいたやつじゃないんだ。 イーブイになる前は俺と同じ人だったんだよ。 だからこいつの言う15年っていうのは嘘じゃない。 それとリオウ、イーブイとかいうのは種族名のことだ。 俺たち人にも種類があるだろ?黄色人やら白人やら…そいつのことだ」 ミズキさんが説明し終えるとまた静寂の時が流れた。 「その様子だとこいつら、まぁポケモンのことも知らねぇんだろうな。 ゴメンな、すべてお前が悪いんじゃねぇよ。俺のミスだ。 …となるとポケモンについてや戦い方も知らなきゃな…。 アウラとリク、頼めるか?」 尋ねられたリクは「俺でよければ」と答え、アウラはフッと笑いこういった。 「かまわないよ、がんばるじゃないかリオウも。 けどあたしはリクやミズキのように甘くはないよ、それでもいいかい?」と俺に尋ねた。 俺は涙で滲んだ目を一度だけこすって「やるっ!」と答えた。 浮かれてなんていられない。 俺はまだこの世界のこと何一つとして知らなかったんだから…! |
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