かめたん | #1★2007.06/16(土)04:52 |
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【読む前にお読みください(少なくとも上の二つ)】 ・この物語は、主人公の心情をとても深く描いた、俺の超力作です。ただ、人が死ぬ場面があるので、こういったものに慣れていないなら読まないほうがいいでしょう。 ・もし、この作品がぴくしぃに不適切だな、と感じたら、感想のほうにご報告をお願いします。直ちに凍結し、削除依頼を提出致します。 ・誠に申し訳ございませんが、最初に公開予定だった小説とは全く違います。今回発表する作品はその作品のリメイク版(主人公を変えて視点を変更し、主人公の殺しの場面を省いたもの)なので、皆さんご待望(かもしれない)ミツハニー♂とかが出てきません。申し訳ございませんでした。 ・みっちりと見直ししましたが、中には誤字や脱字があることがございます。あったら、誠に申し訳ございません。 ・あえて注目を外して投稿しています。別に気にしないで下さい。 それでは物語をお楽しみください。いきなりプロローグから始まりますが、そこは気にしないで頂きたいと思います。 タイトル:破られた夏 プロローグ 「…はぁ…。」 俺はハクタイの森に歩き出した。 相棒のキュウコンは複雑そうな表情を見せていたが、俺が歩き出すと相棒も後ろから付いて来た。 ハクタイの森まで数歩しかないのに、頭のなかで色々な思いが駆け巡り、そこまでの道のりが限りなく長い時間に思えた… |
かめたん | #2★2007.06/16(土)04:51 |
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I ハクタイシティ、それは俺の過去そのものだった。 俺は昔…生まれたときから、ハクタイシティに住んでいた。 俺の家の隣には友達の家があり、その隣にも友達の家があった。 開発も何も無く、隣には深い森があり、緑もあふれ、山もあり、とても恵まれていた。毎日学校をサボってここで遊んだ。 俺は不良グループに所属していたのだ。所属、と言うか、単につるんでた、と言ったほうが正しいか… あの頃は、朝日が昇るすぐに俺は起きて、「学校に早く出かける」と称して近くの公衆電話から電話をかけて学校に休みの連絡を入れ、森で待っていた友達と、色々な虫ポケモンを捕まえたものだ。 蛹のような外観のポケモンが進化して鮮やかな羽を持つポケモンになった瞬間、俺や友達は歓声をあげて喜んだ。 そのポケモン達は俺達のパートナーとなった。 朝、森に落ちている落し物を探すのは俺達の日課だった。 仲間にキョウというやつが居て、ヤミカラスを一匹持っていた。そいつは俺と同学年の四年生だったにもかかわらず、三平方の定理やら友愛数やら数学の知識が豊富であり、計算がとても速かったため、仲間からは「公認会計士」と呼ばれ不良グループの会計を務めていた。今では数学教師をしている、と聞いている。 そいつは仲間やポケモン達と協力して、ハクタイ近辺に落ちているお金になりそうなものを拾い集めた。 特に、サイクリングロードにはとてもたくさん、お金になりそうなものが落ちていた。 ヤミカラスに掴まってサイクリングロードの柵に飛び乗って、朝の通勤ラッシュでごった返す自転車を見届けた後、トレーナー達が走行中に落とした食べ物やら土産やらを片っ端から回収したのだ。 考えてみれば、とても危ないことである… そうするうちに昼になり、俺達は蜜の塗られた木に向かった。甘い香りを放つ木にある作為的に塗られた蜜を舐めて食事を済ませる為だ。 発端は、ある夏の日の正午が差し迫った時の出来事だった。 俺達は虫ポケモンを集めて森で話し合いをした時、友達の一人が「いい知らせがある」と言った。 彼の名はフレディと言って、ガチャポンの盗聴器を作り直して性能を良くする、高度な技術を持っていた。故に、隣近所の話を盗聴する術に長けていた。 つまり情報通だった訳である。 名前がカッコいいということで、俺達仲間の中では幹部のような存在だった。 大将のシュンは、「続けろ」と言ってその話を聞いた。 フレディは言った。「俺が寝る前にあのマシンを使ったら、虫のマニアが集会を開いていたんだぜ。そいつらはいつも、木に甘い蜜を塗りつけて、虫ポケモンたちをおびき出しているんだってさ。その蜜がとってもおいしいんだって。」 彼の話は、俺をこの上なくわくわくさせる話だった。「その蜜がとってもおいしい」と言った瞬間、俺は思わず歓喜の声をあげた。 大将のシュンは暫く考えてから、「その蜜を盗めば俺達の食料はもっと確保出来るってことか。」と言った。 それまでの俺達は、フレンドリィショップのおばさんから売れ残った弁当を貰って食料を確保していた。 俺達は大声で笑って、そいつらを出し抜く手順を考え、話し合った。 俺達は各地の、と言ってもハクタイやソノオの周辺だが、蜜の塗ってある木を探した。 家にあった白地図に赤丸を付けて、何時ごろに誰が蜜を塗るかを計算した。 俺達は、物陰から蜜を塗る人を見届けたあと、その木によじ登って降りた。友達の手に握られていたジャム瓶には、甘い香りがする蜜が詰まっていた。 俺達は真昼間に、盗みをする快感と、木の香りが混じったその蜜の味を覚えた。 ある日、いつものように蜜を回収する為の下準備をしていると、俺は蜜を塗る前に男達が木の前に集まって話し合いをしていたメガネの男達を見た。 木に蜜を塗っていたメガネ男達は、自分達が監視をしないと蜜が盗まれてしまう事に気付いたようだった。 メガネ男達は炎天下であろうと蜜を塗った木を監視し続けた。 俺達は、別の作戦を考えざる終えなくなった。 友達の一人に、天才的な投球手が居た。名前はクロト…だった気がする。打率もかなり高かった。三本に一本はヒットを打っていた。そして異常に足が早かった。 今まで、仲間でグループに分かれて何か勝負する時、野球だけはやらないようにしてたのはそのためである。 俺達の作戦は、クロトがナナの皮を投げてメガネ男に当て、奴が憤慨してクロトを追いかけている間に、俺が木によじ登ってジャム瓶に蜜を詰める、というものだった。 当時の俺達に、それらがいかに悪質なものかという自覚は無かった。 その日のメガネ男は、真剣そうな顔つきだった。 大将の合図と共に、クロトがナナの実の皮をメガネ男に投げつけ、男が走って友達を追いかけると、俺はジャムを溜めていたビンに甘い香りのする蜜を詰めて草むらに隠れた。 計画が上手くいった俺達は、それらをコーラの空き瓶に詰めて味わった。 こうして昼食を済ませた俺達は、テンガン山の起伏を登れる限り登った。 あの急斜面を登るのは大変だったが、大将の命令だったので頑張って付いて来た。 はっきり言って、ロッククライムとかを使わないと登れないようなところだったから、登り終えた時には、俺達は本当に足腰を痛めていた。 しかし、登り終えた先には待っていたのは、実に美しい光景だった。 夕日は燃えるようなオレンジ色に輝き、ハクタイの森に吸い込まれるように沈んだ。 吸い込まれて見えなくなった空にある雲の裂け目がとき色に輝き、やがて夜が訪れて輝く星が俺達に囁いた。 足腰の痛みが取れると、俺達は山を下って、住んでいた場所に帰った。 そんな日が何日も続いた。 俺は本当に素晴らしい少年時代を過ごしたのだった。 |
かめたん | #3☆2007.06/16(土)17:56 |
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II 中学に入学した時だったろうか。各地で不良がフレンドリィショップで盗みをすることが有名になった。 フレディは、ハクタイシティは特に治安が悪く、狙われる可能性が高い、という情報を掴んだ。 これは何を意味するかと言うと、俺達が別の不良グループの脅威にさらされる恐れがあるということだった。 ハクタイで盗みを発生させる為に情報を掴んだ不良グループが、俺達の存在を嗅ぎつけ、一網打尽にさせられる可能性があった、ということである。 色々考えた末、合法的なやり方で別の不良グループを抹殺する、という結論に達した。 俺達は中学に入ると真面目に学校に通うようになった。 中学では、テスト時以外は授業中に、授業妨害をさせないという条件付きでポケモンを持ち込むことが許されていた為、授業中同じクラスだったフレディはパートナーのチルットを肩に乗せていた。しかし、俺達の仲間のほとんどはポケモンを持ち込んでいなかった。 俺達は何をしていたかというと、フレンドリィショップの監視を行い、別の不良グループの万引きを摘発することにしたのだ。 不良グループを摘発しても、俺達が不良であることがバレてはまずい、ということになり、真面目に授業を受けているフリをするようにした。そして、ポケモンを用いてフレンドリィショップの監視を行った。 万引きグループが犯行を行うと、「フレンドリィショップに預ける」と称して引き取られた俺達の仲間のポケモンが店員さんに知らせ、キョウのヤミカラスが不良グループの計画書やら名札やらを奪う為に襲い掛かった。フレディは、トランシーバーを耳に付け、店内の様子を念入りに盗聴した。そのことがバレないように、チルットを肩にとまらせて耳を隠していたのである。 こうして、俺達は自分達の存在を知られずに、別の不良組織を粉砕することに成功したのだ。 俺は、これを「合法的ステルス攻撃」と命名し、更に自らの組織の名前を「ステルス組織」と命名した。大将は微笑んだ。 テスト中はカンニングを避ける目的でポケモンの持込は禁止されていた。しかし、俺達はカンニングなどの卑怯な手を使う気は無かった。俺達の家の近辺には塾は無かったので、「テストは我等に任せよ」という組織を立ち上げて度々勉強会を開いた(フレディの予想問題は、盗聴を使わなくても必ず的中した)ので、俺達の中学での成績はかなり良く(キョウはいつも数学で満点以外を取ったことが無かった)、また仲間のメンバーも増えた。しかし、俺達は「他の不良グループ」の奴や、「薬をキメてる奴」を勉強会に入れようとはしなかった。 この時点で、俺達の名は広く知れ渡った。しかし、「テストは我等に任せよ」という勉強組織の名で。つまり、不良グループとして名が知られることは無く、立派な組織として有名になった。 ただ、組織が裏で何をやっているかを探ろうと、別の組織の仲間が俺達の組織に流れ込むこともあった。俺は面接担当だったので、「誠に申し訳ございませんが、現在会員数が異常に多い為、入会できません」と丁寧に断った。 俺達の勉強会は放課後の学校で行われた。 夏休み。長い長い休暇だったが、俺達は、以前にやったような蜜を盗む行為はしなくなった。 夏休みには、キョウが夏休みの宿題に関する質問を電話で受け付けた。フレディは電気の分野を担当した。 そんなある日、テンガン山の起伏を登って夕日を見た。俺は、今まで何回も登っていたので、そんなに苦痛には感じなかった。しかし次の瞬間、俺は胸が張り裂けそうなほどの苦痛を感じることになった。 いつもの場所で夕日を眺めようとした時、俺の家から、黒く大きな煙が立ち昇っているのを俺は見つけたのだった。 煙の元を見ると、立派だった俺の家の屋根が真っ赤に燃えていた。 俺はそれを見て目の前が真っ暗になり、大将が駆けつけるまで気を失っていた。 俺の家は全焼した。父や母の写真も残らず焼け焦げた。俺はその日以来、両親に会ってはいないのだ。 消防団の話では、焼けて亡くなった可能性があるが、まだ定かではない―消防団の人は苦い顔をした―と言った。 それからずっと、父や母の顔を思い浮かべ実家の灰の前で泪を浮かべて立ちすくむ俺がいた。 あれから、俺はどのように暮らしたか。それは話すと長くなる。 先ず、俺の組織内で、俺の親に頼んで引き取ってもらうよう聞いてみる、という話が持ち上がった。 だが、俺は拒否した。今までお前等にお世話になったのに、またお世話になるわけにはいかない、ときっぱり言い切った。 なかなか引き取り手は見つからなかったが、遂にキッサキシティに居る親戚に預けられることが決まった。 キッサキは、ここからかなり離れたところにある町である。転校を余儀なくされた。 大将は会員達に、俺に貢物を差し出すよう命じた。 大将からは、お手製の立派な千匹ハニー♂(ミツハニーを折り紙でおり、それをつなげたもの。7mもの長さだった)を渡され、キョウは世界中のコインと切手(かなりのレア物もあった)のコレクション、フレディはお手製の(部品も全て購入したらしい)超遠距離盗聴器、クロトからはボールポケモンのマルマイン、等…他にも数々の貢物が渡された。 俺は「ありがとう」と言うと、全員に書いた手紙を配り、その町を後にした。 俺はキッサキに到着すると、親族の方が迎えてくれた。 それからは俺は前とは別の学校で生活した。長い間… |
かめたん | #4☆2007.06/16(土)18:03 |
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III 俺が転校したのが中学三年生だったので、進学先も決めなくてはいけなくなった。 俺は、世界的な権威を持つ「神殿大学」に入学したいと思っていた。なので、神殿大学付属高校に入学することにした。 試験はそれほど難しくは無かった。だが、あの組織のお陰か、と思うと、仲間を置いてここに来たという感覚からくる後ろめたさに、胸が痛んだ。 夜に、仲間達と遊んだ夢を見て、俺は辛くなった。 俺は高校生になった。 神殿大学付属高校に入学した俺を待っていたのは、氷のように冷たい視線だった。 殆どの奴は、俺をひどく嫌っていた。更に、ヨウイチという男は、特に俺を嫌った。 奴は放課後にヤクザに依頼して俺に嫌がらせをするように仕向けたのだ。 朝、登校するなり頭上から水が滝のように降り注ぐ。戸を開けると仕掛けを施したバケツが傾き、大量の水が降り注ぐのだ。 昼、昼食を食べようとすると後頭部を手で押され、給食に顔を突っ込む羽目に合う。俺が怒ると、そいつは俺がたまたま手が当たった、とふざけたことを言い、責任を逃れる。 夜、家に何通も間違い電話がかかってきて、とても逃れられない状況に合う。俺は仕方なく電話回線を抜いた。 さて、明日はどうやってこれを回避しようか。かなり考えたが、ヤクザはそこら中で俺を監視している。つまり、迂闊に元居た組織に連絡する訳にも行かない。 結局、俺は懐に折り畳み傘と道端で拾った毬栗を持って学校に来た。 朝、俺は折り畳み傘を裏返しにして扉を開けると、なんとチョークの粉が混ざった水が大量に降ってきた。 俺は折り畳み傘でそれらを受け止め、被害を受けた時間をノートに記録し、先生に物的証拠として提出した。先生はかなり驚き、それでは毎朝教室で見張っていることにする、と言った。 その様子を伺っていたのか、ヨウイチはその日は俺にちょっかいを出さなかった。 翌日俺が登校すると、頭から水を被った先生が突っ立っていた。 先生は、どこに仕掛けがあるかを確認する為に教室に入った。しかし、まさかドアに仕掛けがあるとは思っていなかったので、思いっきり水を被ってしまったのだ。 この学校ではポケモンの授業以外ではポケモンを持ち込むことが禁止されていたので、先生はポケモンも連れていなかった。水を防ぐ術は…無かった。 結局、先生が激怒してヨウイチとヤクザ達はこの学校を退学になり、俺はそれ以来ある程度の人間関係を築くことができた。 その夜は電話がかかってこなかった。暇だったので、寝る前に、ふとフレディから貰った盗聴器を使ってみようと思った。 俺は盗聴器のイヤホンを耳に当て、耳を澄ました。 「キュウゥ…」 暗い月明かりの中で、俺はポケモンの悲しげな鳴き声を聞いた。 窓から目を凝らすと、キッサキ神殿の天辺に、蒼い鬼火に身を纏ったキュウコンが居た。 その時の俺のパートナーは、アゲハントとマルマインしか居なかったので、そいつを捕まえる事にした。大人気ないとは思ったのだが… 窓からこっそり抜け出し(と言っても、きちんとした格好で出た)キッサキ神殿で鳴くキュウコンに囁いた。 「ここに来いよ」 キュウコンは神殿の天辺から飛び降り、見事に着地して俺に擦り寄った。 見たことのないその眼差しや、鮮やかに輝くその尾はとても暖かかった。 俺はパートナーを新たに手に入れた。 キュウコンはいつも、蒼い鬼火を身体に纏わりつかせ、白い体を青白く光らせていた。 熱風を吐いたり、緑の泡の球を吐き出したりする様も、とても特徴的だった。 退屈な俺を喜ばせるのにはぴったりのポケモンだった。 |
かめたん | #5★2007.06/16(土)18:07 |
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IV キッサキの雪の生活にも慣れたころだろうか。夏なのに雪が降る、というのは不自然だった。 あるとき、俺を引き取った親戚の婆さんから「話がある」と呼ばれた。 「お前、大学に行かずにここから里帰りしたらどうじゃ」婆さんはそう言った。 俺はむっとした。何故、ここでの生活に慣れてきた時に、ここから離れる必要があるのだろうか。俺は婆さんに「何故ここを離れなくてはならないのだ」と聞いた。 婆さんはにこにこ笑って、「お前も大きくなったからのぉ…」とか言った。 婆さんは一週間後も更にその次の週も、里帰りの話を持ちかけた。俺は断ったが、断れば断るほど婆さんの誘いはエスカレートした。 ある日、遂に堪忍袋の尾が切れて、「何故里帰りする必要があるのかちゃんと話しやがれ」と言い、婆さんを睨み付けた。 婆さんは途端に顔を真っ青にして、暫く黙っていたが、俺の鋭い目を恐れてようやく口を開き「か…金が必要なんじゃ」とか細い声で言った。 俺は、「何故金が必要なんだ」と聞いた。 すると、婆さんは更に顔を真っ青にして震え上がり、暫く沈黙が続いた。そして前よりもか細い声で言った。 「…そ…その…お前の父親の側近と名乗る者が、わしを脅迫したのじゃ…!あんたの息子を引き渡さねばわしを殺す…と…。だ…だからわしは…金を出すから構わないでくれ…と、言ったのじゃ…。頼む、このことは黙っていてくれ…。」 俺はその場に立ち竦んでしまった。 父親が脅迫した、と言う事を聞いた俺は、脳裏に様々な考えが走った。 俺の父親、母親の記憶はとても曖昧なものだった。両親が居なくなって初めて、俺は両親が居ない事の辛さを知ったのだった。 俺の両親は、俺を置いて失踪したが、その後に俺の身柄を引き渡すことを要求していると言う事は、もしかすると、もしかすると…両親は俺を殺す可能性がある…ということだ。だが、何故俺を殺す必要があるのだろう。俺を殺しても、何処からか両親に金が支払われる可能性は殆ど無い。それに、俺を最初から殺すつもりだったのなら、俺を家で殺害して放火して逃げればよいのだ。何故、父は俺がここに逃れて来てから、俺の引渡しを要求したのだろうか。 もしかすると、父は俺が死んでいなかったことに後から気付いて、俺の身元を探って殺そうとしているのだろうか。だったら何故、婆さんをわざわざ脅迫したりしたのだろう。俺の命が危ない事が分かってしまう。当然婆さんは俺を守ろうとして金を出すが、金も次第に無くなっていくから、俺を差し出さざる終えない状況になる。だが、時間を稼いでいる間に俺を逃がすことは可能だ。父が婆さんを脅迫する理由…金がなくなったことを口実に婆さんを殺すか、俺が居なくなったことを口実に婆さんを殺すか、そのどちらかだ。 少なくとも、俺は今この状況から、そしてこの場所から逃げなくてはならない、ということだ。 長い沈黙の後、俺は口を開いた。 「…分かった。じゃあ、俺がここに居ないことがばれないように、毎日俺の着替えを洗濯して干してくれ。それと、トイレを定期的に流して、水道代金が減ったことが悟られないようにしろ。それと、毎日の食費が減った事がばれないように、今まで頼んでいたお米と同じ分のお米を頼んでくれ。後の事は、頼んだぞ。」 婆さんは小さく頷くのを見ると、俺は早足で部屋に戻り、モンスターボール三つ―この中にはアゲハント、マルマイン、そしてキュウコンが入っている―と冷蔵庫に突っ込んであったお茶のペットボトルとこつこつ溜めた十万円を鞄に突っ込んだ。 その夜は幸い、夏なのに猛吹雪だった。俺の家を監視している輩も居ないだろう。俺は家を出ると、吹雪の中で人気の無い林の中を歩き始めた…。婆さんのあの時のにこにこ笑いは、嘘の笑いだったのだ…。 |
かめたん | #6☆2007.06/16(土)18:09 |
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V 猛吹雪はさすがに厳しかった。 俺はキュウコンを繰り出すと、キュウコンに熱風を吹いてもらいながら、猛吹雪で枝がきしむ林の中を突き進んだ。しかし、さすがのキュウコンもここまで寒いと当然ダメージを受ける。俺は持ってきたスキーウェアを被せ、キュウコンに拭きかかる吹雪を払いのけた。 俺は、近くに人が居ないかどうか辺りを見回しながら、氷の風に逆らって南に進んだ。 二時間ぐらいは歩いた。多分あともう少しでテンガン山に着くだろう。 まだ猛吹雪は止まない。しかし、実は吹雪が止まないほうが好都合だ。というのも、吹雪が無いと雪の上に足跡が残ってしまうし、他の奴等にも見つかり易くなってしまうからだ。 しかし、俺達を助けてくれる吹雪も結構厄介者だ。キュウコンは傷薬を飲み、熱風を吐いて体温を温存して歩き続けているが、そろそろ傷薬も底をつくだろうし、その後はテンガン山が俺達を待ち受けているのだ。 逃げる、というのは悲惨だ。 そんなことを考えながら進み続けると、背中から強い風が吹いて俺は叩きつけられた。 しかしラッキーだ。雪に叩きつけられたのでは無く、それはごつごつした岩、テンガン山だったのだ。 俺達はようやく目的地に到達した。 テンガン山早く到着する事が出来たのは、確かにある意味では本当にラッキーだったが、ある意味災難でもあった。 吹雪の中を風に逆らってまっすぐ進むより、強風の中をごつごつした安定感の無い岩を登って進むほうが、危なっかしかった。 時に、岩から岩へ飛び移る時がとても冷や冷やした。飛び移った瞬間、その岩がつるつるしていて、つるっと滑って断末魔の叫びをあげながら谷底に…落ちていくようなことは無かった。キュウコンがいつも尻尾で俺を絡め取って助けたのだ。 もっと酷い事もあった。飛び移った瞬間に、岩がガラガラガラ…と崩れて谷底に落ちそうになった。寒さの中でアゲハントが背中にへばり付いてホバリング運動をしていなかったら俺は本当に絶命していた。 結局、吹雪に吹かれたこと以外、何も問題なくテンガン山を潜り抜けた。 さて俺は、テンガン山を潜り抜けてハクタイに自力で戻ってきたのはいいが、そこからが問題であった。 まず、俺の家があった場所に別の家が建っていた。つまり、俺は家に帰れない。 そして、そこら中にギャングみたいな奴が居て、とても荒廃している。これでは迂闊に町に顔を出すわけにはいかない。 更に、どうも俺を探している奴が居るらしい。俺が隠れている場所から100m離れた場所で、サングラスをかけた男がきょろきょろと辺りを見回し、山中を巡回している。吹雪はもう吹いてはいないが、この場所にずっと隠れていると、多分あの男もこちらに向かってくるに違いない。 俺は、手元にあった石ころを掴み、高く放り投げて男の真後ろ―と言っても10mは離れていたが―に落とした。 「コツッ」という音が響き、その男は後ろを振り向いた。そして、男は遠くのほうに人が居たと勘違いして―少なくとも俺はそう思った―俺が居る場所とは全く正反対の方向へと歩いていった。 俺は男の姿が見えなくなるまで息を殺して黙り、その後に忍び足で歩き始めようとしたその瞬間だった。 俺は妙案を思いついた。 俺は、自分の家だった場所の家に入り込み、思いっきり音がするようにして扉を閉めた。 その家の中はひっそりと静まり返っていた。しかしすぐに、物音に気付いた家の住民がスリッパを履いてやって来て、「はっ」と息を呑んだ。 俺の父だった。 「馬鹿な…何故お前がここに…?!」父親は俺がここに居ること事体が信じられないようだった。 そう、俺の真の狙いはそれだったのだ。 もうどんなに低く見積もっても五十を超える父は、自分から人を探すような真似をしたりすることは絶対に無いと、俺は考えたのだ。 俺は冷たく言った。 「悪いが、感動のご対面はそこまでだ。何故俺の身柄を引き渡すように親戚に要求したのか、そしてお前が何故生きているのか、答えろ」 父は怯えた表情を浮かべ、呟くように言った。 「…く…くく…当然お前を殺す為だ。」 父はそう話しながら、前の表情が嘘だったかのように嘲笑し、懐から銃を―それは冷凍銃、冷凍ビームを撃つ銃だった―を俺に向けた。 俺は一切動かなかった。勝算があったのだ。 「バーン!」 静寂を突き破り、爆発音が聞こえた。 裏庭に忍び寄った俺のマルマインが爆発したのだ。窓ガラスが砕け散り、鮮やかなカーテンが燃えていた。 「何が起こったんだ?!」父は振り向いた。 次の瞬間、俺はあっという間に懐からモンスターボールを取り出し、中からキュウコンを繰り出して「熱風を放て!」と言い放った。 父はすぐに振り向いて冷凍銃を撃とうとしたが、俺のキュウコンのほうが圧倒的に早かった。キュウコンは真っ赤になった火を口から吐き、部屋中が真っ赤に燃え上がった。しかし、父は辛うじて避けていた。 「親に勝とうとするなど、百年早いわ!」父はそう叫ぶと、背中に火を纏う二足歩行の妙なポケモンを繰り出した。多分炎タイプだろう。 二足歩行対四速歩行なら、四速歩行のほうが圧倒的に早い。俺はそう思い、「焦がせ!」と叫んだ。同時に父は「バクフーン、焼き払え!」と叫んでいた。 二足歩行の奇獣が全身から火を放ち、廊下が燃え上がった。 キュウコンの炎はに命中し、バクフーンと呼ばれたポケモンは全身が炎に包まれ、吹っ飛んだ。特大のダメージだ。そして、キュウコンには炎の攻撃は効かない…そう思っていたが、バクフーンの炎はキュウコンではなく俺の胸をめがけて放たれていた。スキーウェアが燃え出した。 そりゃあ、俺も父を直接狙ったからしょうがないか。 俺はスキーウェアを脱ぎ捨て(当然、中にしっかりと服を着ていた。)、「熱風だ!」と叫んだ。それと同時に、父は「バクフーン、ブレイククロー!」と叫んでいた。しかし、同時に叫んだのは父だけではなかった。 「オクタン、ハイドロポンプ!」 俺の目には、老けた母の姿と赤いからだに黄色の吸盤を持つポケモン、オクタンが目に映った。 |
かめたん | #7☆2007.06/16(土)18:18 |
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VI 次の瞬間、キュウコンは熱風を吐いてバクフーンとオクタンを攻撃した。 バクフーンは、先ほどの攻撃の影響で炎に慣れたのか、ちょっとは怯んだがすぐにキュウコンに襲い掛かり、その腕にある強靭な爪でキュウコンに襲い掛かった。 キュウコンはひらりと身をかわすと、バクフーンの懐にその尻尾を叩き付けた。バクフーンは張り倒された。俺は、キュウコンの尻尾がそこまで硬いとは思っていなかった。 その圧倒的優勢な状況に、遅れながら命令に反応したオクタンがハイドロポンプを撃った。しかも、俺も巻き込んで。 俺とキュウコンは水圧で吹っ飛んだ。そして、俺がついさっき入ってきた鉄製の玄関ドアに衝突した。 キュウコンは俺の体が受け止めたので衝撃のダメージは少なかったが、水技をストレートに受けてかなり危ない状態だった。俺は、熱い状況から離脱できたのは良かったと思ったが、腰を痛めて動けなかった。仕方なく俺はキュウコンに叫んだ。 「エナジーボールをオクタンに撃て!」 二対一では、勝てるわけがない。だが、俺はこうでもしないと、父や母は玄関ドアに衝突して動けなくなっている俺に追い討ちをかけるに違いなかった。 エナジーボールは見事オクタンに命中し、ゴムボールのように跳ね上がって元に戻り、オクタンは動かなくなった。気絶したのだ。 母がオクタンを手持ちに戻すと、今度はかなり鍛えられたミロカロスを繰り出した。う、もっと厄介だ。一部始終を見ていたキュウコンも後ずさりした。こうなると負けたも同然だ。 だが、俺は簡単に諦められない。何故両親が俺を捨てて逃げ、しかもその後に殺そうとしたのか、その真実を知るまではここを離れる気は無い。俺は、最後のモンスターボールを取り出し、アゲハントを繰り出した。このアゲハントは相当鍛えられている。このバクフーン相手に勝てるかどうかは分からないが。 俺は「アゲハントはバクフーンに銀色の風!キュウコンはミロカロスにエナジーボール!」と叫んだ。結構長い指示だ。 これだけの指示を与える瞬間に、両親はそれぞれのポケモンに指示を与えた。 ミロカロスはハイドロポンプをキュウコンに撃ってきた。もうやられたか、と思ったが、ミロカロスのハイドロポンプはエナジーボールの威力と殆ど互角で、激しくぶつかり合っている。どちらも精神を集中させて攻撃しているようだ。 アゲハントはバクフーンに銀色の風を吹かせた。バクフーンは目が眩み、ブレイククローで殴るように攻撃してきた。幸いアゲハントは全てかわした。俺は、アゲハントに向かって叫んだ。 「ミロカロスに痺れ粉!」 俺が叫んだのは、アゲハントはバクフーンの攻撃をかわすためにミロカロスの頭上に飛び上がった、まさにその瞬間だった。アゲハントはすぐに空中で回転し、痺れ粉を振りまいてバクフーンの背後に回った。 その痺れ粉は、ミロカロスを麻痺させるだけの力は無かったが、ミロカロスの気をそらすのには十分な量の痺れ粉だった。 ミロカロスは、粉を避けようと少し動いた。 次の瞬間、さっきから精神を集中させていたキュウコンのエナジーボールがハイドロポンプの水圧を突き破り、物凄い勢いで放たれた。透き通る球体はミロカロスに見事命中し、ミロカロスは吹っ飛んで母に覆いかぶさった。母は身動きが取れなくなった。 それに気付いた父が母に駆け寄った。俺はその瞬間に、キュウコンに「熱風!」と叫ぼうとしてやめた。 永遠の時間が流れたように思えた。母は全身が光に包まれた。そして、母は消えてしまった。 俺は、何故母が消えてしまったのかが分からなかった。俺はミロカロスに攻撃しただけだ。何故母がいなくなってしまったのだろう…。俺を見捨てて逃げ出したのに、俺は何故かとても辛くなった。 父は、暫く呆然と立ちすくんでいた。しかし、次の瞬間父は懐から携帯電話のようなものを取り出した。 俺はそんなものを始めて見たと言うのに、その物の正体が何か分かってしまった。…爆弾なのだ。 父がスイッチ押した。同時に俺は「やめろ!」と叫んだ。俺は母を目の前で失ったと言うのに、父まで失ってしまうのか。何故、俺はこんなことをしてまで父や母を追い詰めたのか。今更のように俺は自分を責めた。 「ピッ…ピッ…ピッ…」時限装置は動き出した。 父は、「あと10秒だから、お前は逃げろ。」と言い、それから黙りこくってしまった。 「……」 俺は考えた。今、ここに残れば、母や父に真実を聞けるのだろうか。何故母があのようになってしまったのか、聞けるのだろうか? 暫く黙っていた。しかし、目の前にアゲハントが羽を揺さぶっているのを見た瞬間に、俺はふと立ち上がり、キュウコンとアゲハントをボールに戻して俺は扉を蹴破り、走って家から逃げ去った。腰の痛みは取れていた訳ではなかったが、体が勝手に動いた…。 次の瞬間、真っ白な光とともに父と母、俺がくらしていたはずの場所は燃え上がり、凄まじい轟音とともに崩れ去った。 |
かめたん | #8★2007.08/04(土)18:23 |
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VII あれからかなり歳月が過ぎた。 「これで…よし…」 俺は、ハクタイシティのとある空き地の片隅に花を添えた。ハクタイの森で採って来た、美しいナナの実の花だ。 父は何を考えていたのか、母は何を想っていたのか、それは俺には全くわからなかった。 俺の事を殺したくて仕方が無かったのだろうか。 …でも、父はあの時確かに、「あと10秒だから、お前は逃げろ。」と言った。俺に生きていてほしかったんだろう。 そう思うことにしよう。 俺の鞄に、熱で溶けてボロボロになった超遠距離盗聴器が入っている。もう使い物にならない。 俺はこれを一回しか使わなかった。隠し事とかそういうものは無いほうが良いのだろう。何回も使わなくて良かった。 でも、持っていると友の暖かさが伝わってくるのだ。どんなに離れていても通信している、そんな感じがするのだ。 夏が破られても、友の絆は破られていない…そんな感じがした。 今日もナナの花が風に揺らいでいる。 明日は甘い蜜の香りが花をくすぐる夏の日。 明日からは、テンガン山を登る、若い少年の姿が見えるだろう。 その少年達も、美しい夕日を見るだろう。あの頃の俺のように。 今からでも、まだ若かった頃に戻って、父や母ともっと一緒に居たかった気がした。 Fin. 短い作品でしたが、読んでいただき誠にありがたく思います。 もし問題があれば、感想のほうにお願いします。 ※本当は、この物語は「父」が主役として出てくる予定でした。しかし、「父」が主役の物語では、「ポケモンが人を殺める」という設定が入っていたため、その部分を修正する関係で、こちらの「俺」が主人公の物語の公開を先にしました。 ※物語の全てを見ていただいて、皆さんにこの物語が正当なものであるかを評価して頂きたいと考えているので、一気に公開しました。 |
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