ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

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モイスチャー #1★2007.12/16(日)13:27
注:ポケモンが普通に喋ります。了承の上でお読みください。

人とポケモンは、いつの時代も共に暮らしてきた。
それは変わることのない真実であって、これからもそうであると誰もが信じている。
このお話の舞台は、カントー、ジョウト、ホウエンなどの地方とどこかでつながっている『サイト地方』。
その中の、海に面した大きな街、『シンエンシティ』から1つの物語が始まろうとしていた。

「プロローグ:謎の卵」

シンエンシティの中心部近くに存在する建物、『トレーナーズスクール』。
そこでは、多くのトレーナー達がジムリーダーや四天王、そしてサイト地方のチャンピオンを目指して日々精進している。
そうでない者は、ブリーダーやジョーイさん、コーディネーターや科学者などを目指して勉強に励むのだ。

そして今、トレーナーズスクールの闘技場では、午後の自由練習時間に、練習バトルが繰り広げられていた。
「ボーマンダ!コンボ攻撃で行くぜ!」
「うおぉー!ドラゴンクロォー!」
今、ボーマンダに指示を送った少年、ケンイチ(17歳)は、スクールの1年生の間でも学習、実戦の両方でトップの成績を誇る優等生だ。そんな彼は憧れの存在として多くの女子生徒に慕われている。
「バシャーモ!ブレイブバード!」
「わかった!はあぁー!」
一方、バシャーモのトレーナーはレナという女の子(17歳)で、実技だけでは飛び抜けた実力を持っている。
彼女は特に男子に人気があり、告白されることも多い。
ちなみに、ケンイチとレナの2人は『憧れの人』として、学校内にそれぞれのファンクラブを作られていた。それは2人にとってうっとうしいだけのものなのだが。

それはさておき、今、2匹のポケモンが技を繰り出してぶつかり合った。
ドォーン!
「ぐはっ!」
弾き飛ばされたのはバシャーモの方だ。
そこへ、ボーマンダが宙を舞うバシャーモに追撃を仕掛ける。
「りゅうのいぶき!がぁぁー!」
「なっ!?」
空中でのバシャーモに遠距離攻撃の『りゅうのいぶき』を当てることは簡単であった。
攻撃の爆風が止むと、バシャーモは膝をついて肩で息をしていた。
「バシャーモ、お疲れ様。」
レナがモンスターボールにバシャーモを戻すと、ケンイチも同じようにボーマンダを引っ込めた。
「ボーマンダ。完璧なコンボだったぜ。…地上戦だと、お前のバシャーモの機敏な動きに対応できねえ。だからボーマンダの得意な空中戦に持ち込ませてもらったぜ!」
2人が握手をすると、その横から1人の少年が歩いてきた。
「2人とも、いいバトルだったな。…俺もポケモン欲しぃ〜!」
その少年の名前は、タクヤ。
彼は、トレーナーズスクールでは平凡な成績の少年で、ポケモンを持っていないために実技を受けることが出来ない。
しかしそれでもポケモンとの出会いを信じて、彼は日々トレーナーとしての腕を磨いていた。
「お前だって、いつかはベストパートナーに逢えるさ。」
ケンイチは、彼にそう言って元気付けた。
タクヤ、ケンイチ、レナの3人は友達で、特にレナとタクヤは幼馴染であり、2人はケンイチとトレーナーズスクールで友達になったのである。

ケンイチとレナがバトルの練習をしている間に、学校の自由練習時間は終わって放課後になっていたようだ。太陽の光が少し赤みを帯びていた。
「ケンイチもレナもお疲れ。一緒に帰ろう。」
3人はすぐに支度をして、一緒に家路へと足を進ませる。
「あたし今日はタクヤの家に泊まりたいんだけど、いい?」
「ああ、いいけど…おとといもその前の日も泊まったじゃん。レナの親は心配してないのか?」
「タクヤの家にそんな頻繁に泊まってるのか…そんなに深い関係なのかよ?」
3人がそんな話をしながら砂浜の側の道路を通ったとき、タクヤは砂浜の波打ち際に何かを見つけた。
「あれは、ポケモンの卵…?」
彼は、運命的な何かを感じた。
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モイスチャー #2★2007.10/26(金)23:24
「第1話:誕生」

タクヤは、吸い寄せられるようにポケモンの卵に向かって走る。
砂浜の細かい砂が靴にたくさん入っていたが、彼にとってそんなことはどうでもよかった。
ケンイチとレナは急いでそれを追いかけ、彼が卵を抱えたところでやっと追いついたようだ。
2人がタクヤを見ると、彼の顔に驚きと喜びの表情が伺える。
「この卵、まだ温かい…生きてる!」
ケンイチもレナもその事実に驚くと共に、不安も感じていた。
「拾った卵だから何が生まれるかわからねーぞ?」
「あたしも同感。生まれたのがビッパとかコイキングみたいなのだったらショックでしょ?」
しかし、タクヤは何かの確信を持っているようだった。
「いや、これは運命的な出逢いに決まってる。その証拠に…こんなに強い鼓動が卵から聞こえてくるんだ。」
2人は卵に耳を当てると、心に響くような強い鼓動が伝わってきた。
ドクン…!ドクン…!
「恐いくらいだぜ…。」
「強いポケモンは生まれそうだけど…。」
2人はタクヤを止めようと思ったが、彼の嬉しそうな表情を見てそうするわけにもいかなかった。

それからケンイチは自分の家に帰り、タクヤもレナを連れて帰宅した。
「早く生まれないかな〜…。」
「可愛いポケモンだといいわね。ピチューとかピンプクとか…あたしはリオルだといいなぁ〜。」
タクヤもレナも、生まれてくるポケモンの話題で盛り上がる。
時間はあっという間で、気付くと夜遅くになっていた。2人はそれぞれの布団で眠り、彼は卵を抱いて眠る。
「行け〜…。」
タクヤはポケモンバトルの夢でも見ているようだ。すると…
ピシッ…!
卵にひびが入った。その音でタクヤは目を覚まし、レナを起こす。
「レナ、卵が…!」
「むにゃ…え…?」
その瞬間、抱いていた卵が光を放ち、ついにポケモンが生まれた。

「んう…」
それは、白っぽい肌をしていて瞳が紫色、長い手には3本の指、耳のような角、紫色の長い尻尾を持っているポケモンだった。
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モイスチャー #3★2007.12/23(日)14:18
「第2話:チビのお世話」

生まれたばかりのポケモンを見たタクヤは、嬉しそうな顔をしてポケモンを抱きしめた。
「俺はタクヤだ。よろしく!」
「あー、…うー。」
「こいつにはまだ名前がないから、しばらく『チビ』って呼ぼう。」
生まれたばかりのポケモンは言葉が話せないので、これからはタクヤが教えていかなければならない。
その上、ポケモンを卵から育てる場合は、育て方によって大きく性格が変わるので、初心者にはあまりお勧めできない。
「きゃー!かわいい〜!!あたしにも触らせて!」
レナがチビを触ると、くすぐったそうにして彼女の手から逃げた。
「でも、こんなポケモン見たことないな。」
タクヤは、机の上のカバンからポケモン図鑑を出してチビに向けた。
図鑑の検索結果が読みあげられる。
「該当するポケモン、無し。世界にはまだ発見されていない新種のポケモンや、目撃者の少ない伝説のポケモン、存在しているかもわからない幻のポケモンがいる。この図鑑には新種、伝説、幻のポケモンを除くカントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ地方のポケモンが全て記録されている。」
「一番考えやすいのは、新種のポケモンだってことか。」
「あたしもこんなポケモン初めて見た。」
「うー。」
タクヤもレナも、考えても仕方ないと再び寝ることにしたが、そこで問題点に気付いた。
「あ!こいつが何を食べるかがわからないじゃん!」
そこで、レナがアドバイスをする。
「くさタイプだったら光合成するかポケモンフーズを食べるし、みずタイプだったら魚を主に食べるわよ。あと、ノーマル、かくとう、エスパー、あくタイプのほとんどは人間の食べ物も食べるの。わからないならポケモンフーズをあげるのが無難ね。」
「う〜ん、見た感じだとノーマル、エスパーのどっちかだと思うんだけどなぁ〜。とりあえずポケモンフーズをあげてみるさ。」
タクヤはチビを置いてポケモンフーズを用意しようとしたが、チビが離れようとしなかったので、チビを背負ったまま用意することにした。
「はい、ポケモンフーズだよ。」
彼がポケモンフーズを差し出すと、チビは勢い良くそれを平らげる。しかし味が合わないのか、何とも言えない顔をしていた。
しかし、食べ終わった数分後には布団で眠っていたようだ。
そうして、タクヤとレナの忙しい夜は終わった。

次の朝。放射冷却の影響により肌寒かったが、それが眠気を覚ましてくれた。
「タクヤ、おはよ〜…」
レナが眠そうにして朝の支度をする。
「レナ。1つ頼みがあるんだけどさ…」
「ん?」
「俺、チビの世話で1週間くらいスクール休むから、レナから先生に伝えておいてほしいんだ。」
「1週間でいいの?…じゃあ、伝えておくわね。」
レナが家を出てスクールへ向かった。
タクヤはチビを育てられるのか?
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モイスチャー #4★2007.10/26(金)23:56
「第3話:チビの名前」

チビの世話が始まってから1日目。タクヤはスクールを休んでいる間、チビの事についてよく知る事にした。
「はい、ご飯だよ〜。」
「ごあん…?」
チビの知能は高く、もうタクヤの言葉を真似して覚えようとしているようだ。
ちなみに食べ物は、人間の食事を好んでいることがわかった。
「チビ、おいで。」
「う〜…」
タクヤが撫でてあげると、チビは彼に抱きついて甘えてくる。その仕草が彼はたまらなく愛しかった。
そうしてチビの相手をしていると、やることもなく暇になってしまったので、テレビを点ける事にした。
「テレビでも観ようか。」
「…?」
タクヤがテレビを点けると、ニュース番組が放送されていた。チビはそれに驚き、画面に顔を近付けていた。
「テレビは離れてみるんだよ。」
彼がチビを抱えてソファーに座り、テレビ画面を見ていると、ポケモンのニュースが始まった。
「シンエンタウンの砂浜に、迷い込んだ1匹のラプラスが打ち揚げられました。幸い、打ち揚げられた直後に発見され、現場近くにいたレンジャーが駆けつけて助けたため、命に別状はありませんでした。」
「ラプラスがここにもいるんだな。」
「あぷあう…?」
チビはさっきより言葉を真似するのが上手くなっていた。
「そして次のニュースです。南アメリカのギアナ高地周辺で、幻のポケモン『ミュウ』が発見されたそうです。目撃者はそこで絵を描いていたところ、数秒間だけ目の前に現れたそうです。」
「幻のポケモン、ミュウ…どんなポケモンだろう?」
タクヤはそのニュースに興味が沸いたようだ。
「みゅー?」
チビも画面に見入っている。
「そして…こちらが、目撃者の描いたミュウの絵です。本人はそっくりに描いた、ということです。」
ニュースキャスターが見せたその絵のポケモンは、ピンク色の肌、青い目、耳のような角、そして長い尻尾が特徴だった。それは、チビに少し似ていた。
「チビ、何だかミュウに似てるな。もしかするとミュウの子供だったりするかも。」
「みゅー♪」
チビの嬉しそうな顔を見て、タクヤは何かをひらめいたようだ。
「よし決めた!お前の名前は『ミュウツー』だ!」
「つー?」
チビは首をかしげる。
「ああ。ミュウの子供みたいだから、『ミュウツー』だ(ちょっと単純だけど、語呂がいいから覚えやすいし)。」
ミュウツーは、笑顔で自分の名前を呼び、練習していた。

その日の夜、タクヤはミュウツーに言葉を教えていた。
「俺は、タクヤ。お前は、ミュウツー。」
彼の言葉に続いて繰り返す。
「た、く…や。みゅ、う…つー。」
ミュウツーはすでに、間違わずに言葉を真似できるようになっていた。彼は嬉しくなって、思わずミュウツーを抱きしめる。
「ミュウツー、上手だね。よしよし。」
「タクヤ…んう。」
お互いの温もりは、その心も温め合い喜びとなる。
1人と1匹の穏やかな夜は、とても長く感じられた。
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モイスチャー #5★2007.12/16(日)13:30
「第4話:学校」

タクヤがミュウツーを預かってから1週間が経った。
「タクヤ、おはよー♪」
「うん、おはよう。」
ミュウツーは、もう言葉が話せるようになっていた。
「じゃ、急いで用意して学校に行くか。ミュウツーはしばらくボールに入ってて。」
「うん。」

タクヤは、ミュウツーをボールに入れて学校へ向かう。久しぶりなので少しルンルン気分のようだ。
「いってきまーs…?」
家を出た瞬間、彼の目の前に誰かが立っていた。
「タクヤ。久しぶり。」
「レナ!」
彼女の家はタクヤの家の2つとなりにあるので、学校に行くときはいつも一緒だ。
「一緒に行こ!(手を握るチャンス!)」
レナはそのまま彼の手を引いて、歩き始めた。
「ちょ、手はつながなくてもいいって!指まで絡ませてるし!(握力つよいな。)」

そして、学校にはあっという間に着いた。校門に入る直前くらいに、ケンイチとも合流した。
「よお、朝から熱っついな2人とも!」
「待てよケンイチ誤解d…」
タクヤの話が終わらないうちに、彼女が口を挟んだ。
「あたしとタクヤは同じ部屋で寝泊りする仲なんだから♪」
その瞬間、ケンイチの表情がひきつる。
「同じ屋根の下どころか、同じ部屋…!?」

〜授業は省略〜

昼休みになると、タクヤの席にケンイチとレナがイスを動かしてきて、そこでいろいろと楽しい話に花が咲く。
「タクヤ、お前のポケモンどうなんだ?」
「ケンイチは、タマゴが生まれたことは知ってたんだっけ。」
「ああ。」
「実は、もう言葉も普通に話せるんだ。すごいだろ?」
タクヤが嬉しそうに笑ったが、2人は不気味に思った。
「ちょ、それはねーよ。普通のポケモンでも言葉を理解するのに2ヶ月はかかるってのに。」
「あたしが見たときは『あ』ぐらいしか言えなかったじゃない。」
「なら、体育館で紹介するよ。」
タクヤが2人を体育館へ連れて行く間、ケンイチとレナはファンにばれないように顔を隠しながら移動した。
「ケンイチさん見なかったか?」
「レナちゃんも消えたぞ!」
校舎内で、そんな声が響いた。
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モイスチャー #6☆2007.12/16(日)17:01
「第5話:不良グループと団長スバル」

3人が体育館へ着くと、ポケモンバトルをしている生徒達がたくさんいた。

「いっけぇーヘラクロス!必殺、メガホーン!」

「カイロス!はさみギロチンだ!」

そんな生徒達の熱気と賑やかさに3人が紛れ込むと誰も気付かないようなので、タクヤは早速ボールを取り出して放り投げる。

「出て来い、ミュウツー。」

ボールから出たミュウツーがケンイチとレナを見ると、タクヤの足にくっついて様子をうかがうような仕草を見せた。

「タクヤ…誰?」

「大丈夫だよ。友達のケンイチとレナだ。レナのことは知ってるだろ。挨拶して。」

「うん。…えっと、ミュウツーです。よろしくね。」

ミュウツーは少し頭を下げて挨拶した。

「あ、ああ。よろしく…。」

ケンイチは少し戸惑ったように答え、

「それより、タクヤといっしょにいてどう?」

レナはタクヤとの生活についていきなり聞き始めた。

「タクヤはすごく優しいよ♪」

ミュウツーの満面の笑みに、タクヤも笑ってミュウツーの頭を撫でた。

しかし、その楽しい時間に水を差すかのように、タクヤたちの周りを囲む集団が現れる!

「お前がタクヤかよ?しかもポケモンまで弱そうじゃん!あははは!」

背の高い柄の悪そうな男が集団の中から現れ、タクヤの目の前まで歩み寄る。

「スバル!!てめぇ何しに来やがった!!」

ケンイチがスバルという男の前に出てくると、スバルはケンイチを見下した。

「ポケモンバトルでもしようかと思ってな。タクヤとそのチビの処刑として!そうそう、1つ言っとくが、余計な真似しやがったら軍団全員でリンチだ。ポケモンを出してもこの数じゃ勝てないだろ?」

「くそっ…どうにか助けられねえのか…」

「実戦未経験のタクヤと子供のポケモンを痛めつけるなんてあんた最低よ!」

ケンイチもレナも、何もできない自分が悔しかった。すると、

「ケンイチ、レナ。ここは俺がやるしかない。だから、見ててくれ。」

「タクヤ…」

3人の友情を見ていたスバルはイライラしてきたようで、ボールを構えて戦闘の態勢に入る。

「ぬるい友情なんか潰してやる…!」
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モイスチャー #7☆2007.12/20(木)17:36
「第6話:初バトル!」

「ぬるい友情なんか潰してやる!行け、ゴースト!」

スバルのボールから出たゴーストは、タクヤの側で震えるミュウツーを見て不気味な笑みを浮かべた。

「おいおい、こんな奴じゃ楽しむこともできねーだろ。でも、このチビどんなビビり方するか楽しみジャン…ウフフフ!」

「タクヤ…うぅ…」

タクヤは震えるミュウツーを撫でてやって、その後に耳打ちする。

「ミュウツー。できれば、相手が油断している間に一撃で倒すんだ。だから、ゴニョゴニョ…」

「でも、怖いよ…」

「大丈夫だよ、俺を信じて。」

タクヤの期待を裏切ることができないミュウツーは、涙目になりながらも勇気を振り絞ってゴーストと向き合った。

「ウヒョヒョー!そのビビり具合サイコー!あぁ…いますぐ潰してぇ…!!」

ゴーストは不気味に笑うと、スバルも笑みを浮かべて命令を出す。

「ゴースト!シャドーパンチだ!」

「待ってましたぁウヒョヒョー!」

ゴーストが手を伸ばしてミュウツーにシャドーパンチを打つ!

「来る…!」

そして、それをよけようとしたミュウツーだったが、飛んでくる手が見えなくなってしまいよけようがなくなってしまった!

「どこから来rうぐっ!うぁっ!(攻撃が見えないよ…!)」

斜めや下からミュウツーの顔にパンチが浴びせられる。

10発ほど連続でそれを受けると、ミュウツーは膝を付いてしまった。

「うぅ…!」

「ウヒョー!!その顔最高!じゃあそろそろ、とどめのナイトヘッドで潰しちゃおうかな〜?」

ゴーストは笑いながらミュウツーに近づく。すると、そこでミュウツーが顔を上げた。

「その前に、やられたお返しをしなきゃね…!」

「ウヒョ?」

何も知らないゴーストを見て、タクヤは勝利を確信した。

「今だミュウツー!ねんりき!」

「はあぁー!!」

ミュウツーが右手をかざすと、ゴーストの体がグニャグニャに変形していく!

「に、ニギャァー!!」

「ゴースト!何してんだ!ナイトヘッドで反撃しろ!」

悲鳴を上げるゴーストに、戸惑うスバル。そこに容赦のない追撃が加わる!

「ミュウツー、サイケこうせん!」

「くらえー!」

「ちょ、まってごめんなsニギャー!!」

サイケこうせんでゴーストは吹き飛ばされ、そのまま地面に転がって気絶してしまった。

「ゴースト!…この役立たずがぁ!!」

スバルは怒鳴りながらゴーストをボールに戻すと、一度タクヤの顔を見てどこかに行ってしまった。

「タクヤ、お前がいるから俺は…くそっ!」

スバルの最後に言い残した言葉が、タクヤ、ケンイチ、レナの心に引っかかった。
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モイスチャー #8★2007.12/23(日)10:44
「第7話:言葉の意味」

「ミュウツー、大丈夫か?」

スバルがいなくなった後、タクヤはミュウツーのもとへ駆け寄った。ミュウツーは怪我をしていて、頬からは赤い血が出ていた。

「痛いけど、大丈夫だよ。」

すると、ケンイチは持っていたバッグから『きずぐすり』を取り出した。

「タクヤ、こいつを使え。」

「ありがとう、ケンイチ。…ミュウツー、今治してやるからな。」

タクヤがきずぐすりをミュウツーの傷に使うと、痛みが和らいだのかゆっくりと息を吐いた。その様子を見たタクヤは、ミュウツーをボールに戻す。

「あとは、ボールで休んでて。」

そうしてタクヤたちは体育館をあとにしようとすると、彼らの周りには多くのギャラリーがいた。口々に何か喋っている。

「タクヤってあの2人と友達なのか!?」
「スバルを追い払うなんてすごいね!」
「あのポケモンどの図鑑にも載ってないけど、新種のやつかな?」

それを聞いてかタクヤは恥ずかしくなり、いきなりケンイチとレナの手を引いて教室まで走りだした。

「俺は自分で走るから手は離していいぜ。」

「タクヤ、かっこよかったわよ!」

「ちょ、待てレナ。人前でそんなにくっつくなって…!(あちゃ〜みんな驚いてるよ…)」

そして教室に着いたのはいいが、クラスメイトがタクヤたちの話をしていて、体育館と居心地はあまり変わらなかった。

「タクヤ君、レナちゃんと付き合ってるんだね。どこまでいったんだろ。…それにタクヤ君って、結構かっこいいかも!」
「ちくしょー!俺、レナちゃんが好きだったのに〜!でも、レナちゃんがあの野郎の事を好きなわけだし…うぅ…。」

さらに、女子からの熱い目線と男子からの悔しみの念が彼に絶え間なく当たっていた。

「(俺を見る目が明らかに違う…左にいるタケルは泣いてるし、後ろ向いた瞬間にサユリちゃんの赤い顔と視線が…)」

タクヤの心の中には、複雑なものが混ざり合っていた。


そして次の日。学校に来てタクヤがロッカーを開けると、手紙が一通だけ入っているのを見つけた。

『今から理科室に来い。話がある。  スバル』

手紙を読んだタクヤがすぐに理科室へ行くと、スバルが一人で待っているのを見つけた。

「来たな。…昨日の言葉の意味が知りてえだろ?」

「ああ。…お前言ってたけど、何で俺がいちゃいけないんだ?」

彼がスバルを見ると、その顔に怒りがこもっているのがわかる。

「俺もレナちゃんが好きだったんだよ!けど、何回告白しても断られた。レナちゃんに気に入られてるてめえが、俺にとって邪魔なんだよ!」

「レナは、お前の事嫌ってるようだったけdぐはっ!」

スバルのパンチがタクヤの顔に当たり、彼は吹き飛ばされた。そして、その口から出る血を見たスバルは、表情を変えた。

「てめえ…その血は!?」

「見たな…!!」

タクヤは、恐ろしい形相でスバルを睨んだ。
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モイスチャー #9★2008.01/14(月)10:25
「第8話:タクヤの秘密」

タクヤは恐ろしい形相でスバルを睨む。さすがのスバルも、それを恐れて後ずさりしてしまった。

「な、何をしやがる…!(俺があいつにビビるなんて、ありえねぇ…)」

「ミュウツー、さっきまでのあいつの記憶を消してほしいんだ。」

タクヤがボールを投げてミュウツーを出すと、ミュウツーはスバルの頭に手をかざした。彼の頭の中で、超音波のようなキィィン、という音がした。

「うぅ…!」

スバルが気を失い倒れると、ミュウツーがタクヤの方を振り向く。

「タクヤ、どうしてこんなことをするの?」

「あいつにとって、知らない方がいい事だったから。」

タクヤの顔には、穏やかな笑顔が戻っている。そして、口には血を拭いた跡が残っていた。彼はミュウツーをボールに戻した。

「タクヤ!」

レナが走ってきた。

「レナ、どうしてここに?」

「手紙が落ちてたの。それより、血が…。」

レナがポケットからハンカチを出して、タクヤの血の跡を拭いた。

「手紙って…あ、走ってて落としたのか。」

「早く教室に戻ろ。」

レナがタクヤを連れて行き、2人が見えなくなったところでスバルが目を覚ました。

「何で俺はここに…?」

スバルは何も覚えていなかった。


昼休みになると、生徒の多くは体育館やトレーニングルームでポケモンバトルや交換をしたりして、一部の部屋は空になる。3人は使われていない隣の教室でくつろぐ事にした。

「結局、ミュウツーって何タイプなんだよ?」

ケンイチが、ミュウツーと遊んでいるタクヤに尋ねる。

「生まれてすぐにねんりきで物を浮かせたりしてたから、たぶんエスパータイプだと思う。ほらミュウツー、肩車だよ〜。」

「うわぁー、高〜い♪」

ミュウツーの笑顔を見たタクヤは、つられて笑っていた。しかし、

「やっぱり、だっこして。」

ミュウツーは急にそう言うと、向き合った状態でタクヤに抱きかかえてもらう体勢になり、しばらくすると眠ってしまった。

「やっぱり、ミュウツーかわいいね。」

「ああ。」

レナがタクヤを見ると、彼は笑顔で返した。

「まるで親子ってやつだな!俺はいいと思うぜ?」

ケンイチが笑うと、2人の顔が赤く染まった。


3人と一匹の時間は楽しく過ぎていくが、近くでその様子を見る一つの影があった。

「タクヤ君…君のことをもっと知る必要がありそうだね。おっと…!」

「誰だ…!」

タクヤがその影の方を振り向くと、影はすばやくどこかへ消えてしまった。
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モイスチャー #10★2007.12/27(木)17:01
「第9話:理科系の男」

謎の影は、ものすごいスピードで走りながらニヤリと笑い、人差し指で眼鏡をかけなおした。

「タクヤくん。君も、私の仲間だったりするんですかね。」


タクヤがミュウツーをボールに戻して廊下に出ると、レナとケンイチもそれに続いた。

「タクヤ、一体どうしたってんだ?」

ケンイチが尋ねると、タクヤはさっぱりという顔をして答えた。

「いや、今誰かが見てたから。」

「タクヤ有名だから、きっと写真部なんかが撮ってたのよ。写真部の出した新聞ならそこの掲示板に貼ってあるわよ。」

レナが掲示板の方を指差すと、新聞には驚きの内容が載せられていた。

『1年8組のタクヤくんとレナちゃんの熱愛が発覚!レナちゃんのファンクラブに衝撃!』

新聞には、タクヤの腕にレナが抱きついている写真が大きく載っている!

「うわ!いつの間にこんな新聞が!?」

タクヤがそうして焦っていると、左から彼の顔目掛けて一枚のカードがシュルル!と空気を切る音を立てながら飛んできた。

「(彼の秘密がこれでわかるはずです…!)」

パシッ!

タクヤはカードをキャッチした。

「(よし!これで彼の手から血が…出ない!?)」

「鉄のカード…しかも端が全部鋭い刃物になってる…!」

タクヤは運が良かったのか、カードの端に触れずにキャッチしていた。

「そんなことが…って、あなた達いつの間に!」

「あたしとケンイチの身体能力を甘く見ないでよね!」

謎の男はレナとケンイチにあっさり捕まっていた。

「タクヤに何しようってんだてめぇ!スバルと同じ理由と目的だったら俺が相手してやるぜ?」

「いえ、僕はただ、タクヤ君の秘密を知りたくてね。あ、僕は理科クラスのコウイチって言います。」

コウイチはかしこまって座った。

「タクヤの秘密を知って新聞に載せるってか?お前が写真部なのは首から提げたカメラでもろバレなんだよ。」

ケンイチが尋ねると、コウイチは眼鏡をかけなおした。

「やっぱり、人のプライベートに手を出すのはやめておきましょう。…それより、タクヤ君とバトルさせてください。『誰も知らないポケモンの強さ』ってやつを記事にしたいんですよ。」

コウイチの頼みに、タクヤがうなずいた。

「軽く練習するくらいのバトルならいいよ。」

「では、放課後に体育館に来てください。…心配しなくても、他の人は呼びませんから。」


そして放課後。体育館は静まり返って、邪魔が入る事は絶対にないと言える程だった。タクヤとレナとケンイチが体育館に入ると、コウイチが待っていた。

「では、バトルしましょう。」

コウイチが眼鏡を掛けなおした。

「ああ。じゃあ、行くぞミュウツー。」

タクヤがボールを投げると、中から勢いよくミュウツーが出てきた。

「タクヤ、ケガはもう治ってるよ♪ほら!」

ミュウツーが1回転して全身を見せると、タクヤは頭を撫でてあげた。

「うん、治ってる。…今から練習で軽くバトルするけど、無茶しちゃだめだよ。」

「うん!」

ミュウツーが張り切ってコウイチの方を向くが、彼はボールを持っていないようだった。

「コウイチ君、ポケモンがいないとバトルできないけど?」

タクヤがコウイチの方を見ると、彼は少し笑っているようだった。

「まあ、見ててください。僕の真の姿をね…!」

すると、コウイチの体がまぶしいほどに輝き始めた!

「一体、何をするんだ…!」
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モイスチャー #11★2008.01/13(日)14:42
「第10話:トレーナーの遺志」

「一体、何をするんだ…!」

タクヤたちが眩しさに耐えつつコウイチの方を見ていると、徐々に見えるようになってきた。コウイチの本当の姿とは…

「さあ、バトルを始めますよ。」

「め、メタモン!?」

タクヤたちの驚く様子を見て、コウイチは咳払いした。

「やはりバトルは中断して少し話をしましょう。」

「何で人間に『へんしん』できんだよ?」

ケンイチがメタモンを指差す。

「私は、一度見て覚えることでどんな生き物にも『へんしん』できるんです。例えば、タクヤ君、あなたにも。」

メタモンがタクヤに変身して何度か場所を入れ替わると、見分けがつかなくなってしまった。

「ほんとにそっくりだな。」

2人のタクヤが同じ言葉を同時に喋る。

「おい、どっちが本物だ!?」

「あたしのタクヤは一人だけ。こっちに決まってるわよ。」

「本物のタクヤは絶対にこっちだよ♪」

迷うケンイチをよそに、レナとミュウツーは左側にいるタクヤを選んだ。すると、右側のタクヤがメタモンの姿になる。

「よくわかりましたね。私の『へんしん』にミスは無いはずですが…」

すると、レナとミュウツーは得意そうに答える。

「あたしとタクヤは長い付き合いしてるんだから間違えるわけないじゃない。少しの動きでわかっちゃうんだから。」

「ぼくもタクヤとは心がつながってるから、簡単にわかったよ!」

「なるほど…それならわかっちゃいますね。」

メタモンはコウイチの姿に戻り、眼鏡をかけなおした。

「だけどよ、お前のトレーナーはどこにいんだ?」

ケンイチの質問にコウイチは悩んだが、頭をかいてからため息をつき、話してくれた。

「私のトレーナーであるコウイチは、去年に交通事故で亡くなりました。彼は生前に、『伝説のポケモンを見たい』とよく言っていたのですが、それは叶いませんでした。ですから、その遺志を継ぐことにしたんです。」


話の後、ミュウツーとメタモンは軽くバトルした。バトルの最中でもメタモンは写真を撮っていた。
それも終わってタクヤたちが帰ろうとすると、コウイチが3人を呼び止める。

「伝説のポケモンについての情報を手に入れたら、その時はおしえてください。」

「ああ。すぐに伝えるよ。」

タクヤが最後にそう言うと、3人は家路を歩き始めた。
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モイスチャー #12☆2008.01/14(月)12:50
「第11話:レナの家族」

「じゃ、俺はここで。またな!」

ケンイチの家は、ここからだとタクヤとレナの家とは違う方向にある。彼は自分の家路を歩き出した。

「レナ、今日は自分の家に帰ったらどうだ?家族も心配するだろうし…」

「でも、家に帰るとパパやママに妹までいるから疲れちゃうのよ。」

そうか、という言葉も出さずにタクヤは悩んだが、答えはすぐに出たようだ。

「じゃあ、俺がレナの家に泊まるのはどう?」

「うん、それならいいかも。」

そうこう話しているうちに、2人はレナの家に着いた。

ちなみに、彼女の家はタクヤの家の向かいの3軒となりにあるので、いつでも行き来することができる。

ガチャ。

「ただいま。」

レナが家のドアを開けると、勢い良く彼女の両親が現れる。

「レナ〜おかえり。パパすごく心配だったんだよ〜!」

「ママも、パパと一緒にあなたの帰りを待ってたんだからぁ〜!」

レナの父は背が高くて眼鏡をかけているのが特徴的。母は親とは思えないような美人で高い声が特徴的だ。2人はとても優しく、いつもニコニコしている。

「あの、今日は泊めていただきたいのですが…。」

「おぉタクヤ君!もちろんいいよ!君とはもう家族のようなものだからね!」

レナの父は即答でOKしてくれた。


リビングでタクヤとレナがくつろいでいると、キッチンの方で夫婦が仲良く夕飯の支度をしていた。

「レナの両親、いい人じゃん。何で嫌なんだ?」

「今はそんなにないけど、かなりのバカップル夫婦なのよ…それも暑苦しすぎて疲れちゃうくらいに。それに、家の中も派手派手だと思うでしょ?」

「確かに、このカーペットの黄色やピンクは目が痛いな…。」

2人が話しをしているうちに、夫婦は味付けについての話をしていた。

「ママ、味はどうする?」

「そりゃ、私とパパの愛みたいに甘く、燃えるように辛くしなくちゃ。」

その会話を聞いたタクヤは、さすがに不安になってしまった。

「そうだ。あたしの妹が二階にいるから紹介するわね。」

レナはタクヤを連れて二階に上がると、3つのうち手前のドアをノックした。

「ツグミ、入ってもいい?」

「…いいけど。」

レナがドアを開けると、白と黒だけで統一された部屋がタクヤの目に映った。

「(ちょ、白と黒だけってのも怖いな…。)」

レナが入ったのに続いてタクヤが恐る恐る部屋に入ると、いつの間にか彼の後ろに肩ほどもない高さの何かがいるのを感じた。

「(後ろに何かがっ…!)」

「あたしが、ツグミだけど。」

彼はその声にビクッと反応して後ろを向くと、小学生くらいの少女、ツグミがいた。

「(怖かった…。)君がツグミちゃん?俺はレナの友達で、タクヤっていうんだ。よろしく。」

「タクヤさん…。」

彼女はレナに似ていなかったが、かわいい顔立ちをしていた。

「タクヤさん…」

ツグミは、タクヤの顔をまじまじと見ている。

そのプレッシャーに負けたのか、彼は自分から話を切り出した。

「レナはバシャーモがパートナーだけど、ツグミちゃんのポケモンはいるの?」

すると、ツグミはダークボールを手に取り、放り投げた。

「あたしのジュペッタちゃん…。」

すると、ボールから出てきたジュペッタが顔をカタカタ動かして笑い始める。

「ケケケー!ツグミは無表情だが実はシャイで甘えん坊なんだぜ〜優しくしてやってくれよな〜?」

「戻って…。」

ジュペッタはすぐにボールに戻されてしまった。


そうしていると夕飯ができたみたいで、レナの母の声が聞こえた。

「みんな〜ご飯できたわよぉ〜!」

タクヤ、レナ、ツグミの3人はそれぞれのポケモンをボールから出し、1階に降りる。

タクヤがレナの家で夕飯を食べるのは初めてで、その光景には驚いてしまった。

「やっぱりママの料理は最高だね!」

「パパに喜んでもらえてママも幸せよ!」

夫婦の暑苦しさはピークに達していて、見ている方が疲れてしまう。

「レナの気持ちがよくわかるよ…ってこの料理、美味いのかユーモラスなのか…って感じの味だな。」

「でしょ?まあ普通よりは美味しいからいいんだけど。」

「…ごちそうさま。」

レナとタクヤが話していると、すぐにツグミが食事を終えてしまった。

「(ツグミちゃん早いけど、食欲無いのかな?)」

「あたし、少食だから…。」

ツグミはタクヤの心を読んだように即答した。

食後にタクヤはミュウツーと風呂に入って、一日の疲れを流す。

「ミュウツー、今日は疲れたな。」

「うん。ぼく、眠くなっちゃった…。」

「あとは拭くだけだから、寝てていいよ。俺が拭いてやるから。」

「ありがと…。」

そうして風呂を上がろうとしたところで、タオルが無いことに気付く。

「あ、タオルが無い。」

「タオル、持ってきたけど…」

一番悪いタイミングでツグミがタオルを持ってきたので、気まずい状況になってしまった。

「ちょ、待っ…!」

「…」

タクヤは瞬時にタオルをもらって腰に巻くと、ツグミは何も言わずにリビングに戻って行った。

「ツグミちゃんに謝っておこう…。」

レナの家族も全員風呂に入ったので、あとは寝るまでそれぞれが自分の時間を過ごす。

「ミュウツー、寝ちゃったな。」

タクヤは背負っていたミュウツーをレナのベッドに寝かせ、頭を撫でてあげた。レナとバシャーモはその様子を見守っていた。


そして就寝時間。レナの部屋で彼女とタクヤはそれぞれの布団で眠り、タクヤはミュウツーに寄り添って寝ていた。

「…」

「ん…?」

すると、何かがタクヤの腕を掴み、そっと引いてきた。

「(誰なんだ…?)」

タクヤは布団から出て、誰かの手に引かれながらレナの部屋を出た。
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モイスチャー #13★2008.01/29(火)13:58
「第12話:正体不明の生物」

誰かの手に引かれるままについて行くと、そこはツグミの部屋だった。

「ツグミちゃん…?」

「タクヤさん…。」

すると、ツグミはタクヤを布団に寝かせてそこに寄り添ってきた。

「タクヤさん…。」

ツグミの心情を察したのか、タクヤはツグミを抱き寄せると、いつの間にか彼女は眠ってしまったようだった。

「(本当は甘えん坊なのか…。それより、このままだと布団から出られないな…。)」

タクヤはそう考えている間に眠ってしまっていた。

そして次の朝…

「ん、ツグミちゃん…おはよう。」

「タクヤさん…姉ちゃんが起きる前に…。」

ツグミは表情こそは変わらなかったものの、顔を赤くしていた。

タクヤがレナの部屋に入ると、ミュウツーもレナも起きたばかりのようだ。

「タクヤ、起きたらいなかったけど、どこに行ってたの?」

「トイレに行ってたよ。」

「そっか。」

タクヤは、ミュウツーの問いに自然に答えた。

タクヤとレナは夫婦が用意してくれた朝食を食べると、すぐに用意をして学校へ向かった。

「タクヤさん…。」

ツグミはボーっとしながら朝食を食べていて、ご飯が箸から落ちた事にも気付かなかった。

タクヤとレナはケンイチと合流し、学校に到着した。レナとケンイチはタクヤとは別の教室なので、ここで別れた。


「ふう…昨日は忙しい1日だったな…。」

3時間目の終わった休み時間にタクヤが肘をついて座っていると、いきなり彼の耳にすごい音が聞こえてくる。

キィィン!!

「うぁ…!これは…!」

タクヤは倒れてしまった。


そして昼休み。タクヤは保健室のベッドで寝ていた。

「ここは…うっ!」

タクヤは頭痛で意識が朦朧とする中、何かの気配を感じた。

「お前は…!やめろ…来るな!」


その頃、ケンイチとレナは保健室に向かっていた。

「タクヤ、どうしたんだろうな?」

「いきなり倒れるなんて…。」

すると、保健室がある廊下に差し掛かったところで、なにか大きな影が見えた。

「な…」

「何よこれ…」

驚くケンイチとレナに気付いた影が振り向くと、それは高さ3m近くある鎧のような黒い体、むき出しの牙、羽のような骨が背中から突き出た生き物だった。

「あんなポケモンが…!?」

ケンイチがポケモン図鑑をかざすと、図鑑の画面にはエラーの文字が表示された。

「エラー。認識したのはポケモンではありません。」

「ポケモンじゃないのか…?」

すると、その黒い生物はうなり声を上げて近づいてくる。

「くっ…行け!ボーマンダ!」

「あたしも!行くのよバシャーモ!」

ボーマンダとバシャーモがボールから出ると戦闘態勢をとり、間合いを詰める。

「ボーマンダ、ドラゴンクロー!」
「ガアァー!」

「バシャーモ!ブレイズキック!」
「とあぁー!」

2匹のポケモンが同時に動き攻撃すると、黒い生物はボーマンダのドラゴンクローを胸に受け黒い血を流し、バシャーモのブレイズキックを左肩に受けて火傷した。すると…

「キシャァァ!!」

黒い生物は右手の爪を振り回し、ボーマンダとバシャーモに襲い掛かる!

ザシュ!

「ガハァ!」

「ぐはっ!」

一撃でボーマンダとバシャーモは吹き飛ばされ、深手を負ってしまう。

「レナ、急いでポケモンをボールに戻せ!」

「戻ってバシャーモ!」

ケンイチとレナはポケモンをボールに戻すと、黒い物体は一度2人を見て、地面をも破壊するような脚力でどこかに走り去ってしまった。

「死ぬかと思ったぜ…。」

「一体何なの…?」
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モイスチャー #14★2008.01/29(火)14:01
「第13話:保健室の先生(大人のお姉さん)」

その頃、校内にその怪物がいることがすぐに広まり、学校の中はパニックになっていた。

「皆さん、落ち着いて運動場に避難してくださ〜い!」

教頭先生を始め多くの職員が生徒を誘導する。

しかし、ケンイチとレナはそれに構わず保健室へ向かい、入り口に着くと勢いよくドアを開けた。

「タクヤ!大丈夫か!?」

「タクヤ!」

すると、カーテンで仕切られたところにあるベッドがゴソゴソ動いていることがわかった。そして、そこから微かな声が聞こえた。

「レナ、ケンイチ、助けてくれ…!」

それを聞いたレナが急いでカーテンを開けると、そこには彼女の予想を超えた光景が広がっていた。

「タクヤ!って…何してんのよ!!」

なんと、寝ているタクヤの上に金髪の大人のお姉さんが乗っている!

そのお姉さんがレナの方を振り返った瞬間にタクヤは抜け出し、急いでレナの後ろに隠れた。

「やっぱりタクヤ君可愛い。もっと可愛がってあげるから、いらっしゃい。」

お姉さんがそう言って手招きすると、タクヤはレナにしがみついた。

「あたしのタクヤに何するのよ!!」

「あら、レナちゃんじゃない。我慢できなかったからつい、ね。」

「何よそれ!!手出しといてそれはないでしょ!」

「あら、あたしと張り合うの?」

お姉さんの名前はマリアで、保健室の先生をやっている。彼女は、時々気に入った男子生徒を保健室に連れ込んで可愛がっているという噂があったが、どうやら本当だったようだ。

レナとマリアはにらみ合い、怒りをあらわにしていた。

「ちょっと待てよ!今はそれどころじゃねえだろ!」

ケンイチが2人を止めに入った。

「まあ、そうね。(あたしよりレナちゃんの方がボインね…)」

「タクヤ、大丈夫?(先生の方が背が高い…)」

「ああ。今は大じょ…ゴフッ!ゴホッ!」

タクヤは咳き込むと、苦しそうにして洗面台の前に立つ。

「タクヤ!」

「はぁ、はぁ…2人とも、先に行っててくれ。俺は後で行く…。」

レナとケンイチがうなずいてグラウンドを見ると、そこで怪物と生徒達が戦っているようだった。

「レナ、俺のボーマンダに乗れ!」

「そうさせてもらうわ。」

2人は、ボーマンダに乗って急いでグラウンドへ向かった。

「黙っててくれてありがとう、先生。」

「…それで良かったの?」

「2人には、近いうちに話すつもりです。」

洗面台には、黒い液体の流れた跡が残っていた。


「ボーマンダ!ドラゴンクローで行くぜ!」
「わかったぜケン。…ガアァー!」

「うそっ!?あたしたちが乗ってるのに接近戦!?」

ボーマンダはケンイチ、レナ、バシャーモを乗せているにも関わらず、上空から怪物目掛けて攻撃を繰り出す!

「キシャアァ!!」

すると、怪物はそれに対して構え、爪攻撃を繰り出した。

ザシュ!

「グアァー!」

「ギャァース!」

結果は同士討ちだ。怪物は膝をついて動きが止まり、ボーマンダはフラフラしながら地面に着地。その衝撃で乗っていたケンイチ、レナ、バシャーモが弾き飛ばされた。

「いたた…バシャーモ!今のうちにブレイズキックで攻撃!」
「わかった。」

バシャーモはすごいスピードでダッシュして怪物に近づくと、得意技のブレイズキックを繰り出した!

「とあぁー!」

バキッ!

攻撃は見事にヒット!しかし…

「グルル…!」

怪物は、バシャーモの攻撃を受けながらも反撃に爪攻撃をくりだしてきた!

ザシュ!グサッ!

「うあぁー!!」

バシャーモは一撃で深手を負い、自力で立つのがやっとの状態になってしまった。

「くそっ…防御力も、攻撃力も…高すぎる…」

バシャーモがやっと立ち上がったその時には、バシャーモに向けて爪が振り下ろされようとしていた!!

「万事、休すか…!」
「バシャーモ!」
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モイスチャー #15★2008.01/29(火)15:50
「第14話:カジカとサーナイト」

「万事、休すか…!」
「バシャーモ!」

その時だった。

「グルル…?」

怪物の手の動きが止まった。まるで、何かが押さえつけているように。

そしてそれは、唯一バシャーモの近くにいた生徒が助けてくれたものだとわかった。

「やっちゃってサーナイト!サイコキネシス!」
「はあぁ…!」

サーナイトが両手を怪物に向けると、怪物の動きが遅くなった。

「サーナイト、がんばって!」
「カジカ、無理だ…!(こいつ、俺のサイコキネシスを受けていながら動けるのか…!)」

怪物は、押さえられつつもゆっくりと爪を振り下ろした。

「キシャァー!」

ザシュ!

「うぁっ!」
「サーナイト!」

サーナイトが吹き飛ばされると、カジカという少女が側に駆け寄る。

「大したことはない、かすり傷だ。しかし、奴を押さえるのが無理だとわかった以上、倒すのは…」

その間に、怪物は肩で息をしながら迫ってくる。

「なら、少しでも時間を稼ぐしかないよ!」
「そうだな…じゃあもう一度…ん!?」

サーナイトが後ろを振り返ると、大きな白い影がこちらに向かって来るのが見えた。

「カジカ危ない!」
「え…きゃっ!!」

サーナイトがカジカをしゃがませると、それは2人の頭上を越えて怪物の前に着地し、カジカやレナの方を振り返った。

その大きさは怪物と同じく高さ3mほどで真っ白な羽毛に覆われいて、顔は鳥ポケモン、背中に大きな翼、太い腕、ムクホークのような力強い脚が特徴の生物だった。

「これってもしかして…敵が増えたとか…?」

レナは冷や汗をかいたが、以外にもその白い生物は怪物にいきなりとび蹴りを浴びせた!

ドゴッ!ガガガガ!!

怪物は吹き飛んだ後、地面に擦れてから減速し、やがて止まった。

「ギャァ…ガクッ。」

怪物は気絶したようだ。

「コォォ…!」

白い生物は、風のような音のする息を吐くと、再びレナやカジカ達の方を見た。

「何よこれ…」
「カジカ、俺の後ろに。」

「レナは私が守る。」
「ありがとうバシャーモ。」

すると、どこからともなくジバコイルが現れ、あっという間に怪物をどこかに運んで行ってしまった。

「…。」

それを確認した白い生物は、何も言わずにどこかへ飛び去って行った。

「助けてくれてありがと。あたしはレナって言うの。」

「あたしはカジカだよ。にしても、あれは何だったの?」

「わからないけど、ポケモンじゃなかった、って事だけはわかってるわ。図鑑を向けてもエラーが出たし…」

レナはバシャーモにきずぐすりを使っている。その間に、カジカはサーナイトをボールに戻してどこかに行ってしまう。

「じゃ、あたしはちょっと用があるから、さよ〜なら〜。」

「あ、ちょっと…」

カジカは、あっという間に見えなくなってしまった。

「レナ、大丈夫か!?」

そこでやっと、ケンイチが追いついてきたようだ。


「2人とも、お帰りなさい。タクヤ君は貧血を起こしてただけだから、もう少し休めば大丈夫よ。」

マリアの言葉を聞いて、保健室にもどったレナとケンイチは安心した。
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モイスチャー #16★2008.02/02(土)12:44
「第15話:恐ろしい夢」

「ゴポゴポ…(ここは…?)」

そこは、緑色の液体の中であることはわかっていた。近くを見渡すと、同じように液体に浸かった人がたくさんいることもわかった。

「では、そろそろ開始します。」

「よし。徐々に添加しろ。」

外で研究員たちが何かやっている。

「ゴボッ…!(あれは…!)」

液体の中で彼は、一人の男を見つけると怒りをあらわにした。

「もう遅い。」

ギュイーン…!ウィンウィン…!

機械が音を上げると、徐々に液体の色が赤くなってゆく。そして、彼は全身が焼けるような苦痛に苦しんだ。

「ゴボボ…!!」

彼以外に液体に浸かっていた人間は、徐々に体がひび割れ、砕けていく。多くの声にならない叫びが彼に聞こえた。

「おお…1つだけだが成功しそうだ…これで…」

その男が不気味に笑った瞬間、タクヤは現実に戻された。

「ガアァ!!…はぁ、はぁ…。」

目覚めた瞬間の彼は、恐ろしい顔をしていた。

「タクヤ、大丈夫?すごくうなされてたけど…」

「ダークライの仕業、じゃねえよな?」

目の前のレナとケンイチに気付いたタクヤは、元の穏やかな顔に戻った。

「あ、ああ。大丈夫だよ。」

「タクヤ君、貧血だから、明日まできつい運動はしちゃだめよ。」

マリアが忠告した後、3人は保健室を出た。

「…絶対に無理は禁物よ。」


次の日…学校の休み時間にレナがタクヤの席に行くが、彼は座っていなかった。

「タクヤはどこに行ったの?」

「屋上にいるって言ってたぜ?今日はちょっと授業受けないってよ。」

タクヤは、ケンイチに伝えておいたようだ。


「ミュウツー、チョコレートでも食べる?」

「うん!」

タクヤがミュウツーにチョコレートを手渡すと、ミュウツーはパリッとチョコレートを噛んでおいしそうに食べる。

「おいしい♪」

「後で歯を磨かないとな♪」

そうやって屋上でくつろいでいると、授業のチャイムが鳴った。

「次は4時間目か。(昨日のは、嫌な夢だったな…。)」

その頃、ある教室では…

「おい、カジカはどこに行ったんだ!ほんとによく授業をサボる奴だな。」

先生が激怒している間に、カジカは階段を上っていた。

「今はそんな気分じゃないの〜。」

すると、彼女のモンスターボールからサーナイトが出てきた。

「こら!また授業抜け出したのか!?」

「いいじゃない。他の人は困らないんだから。」

「まったく…いつもそう言って。」

サーナイトは呆れつつも、屋上のドアを開けたカジカに続く。

「ミュウツーちょっとくすぐったいよ。」

「誰か先客?って、あ〜!有名人のタクヤ!」

カジカが叫んでタクヤを指差すと、彼は振り返った。

「誰だ?って俺、有名人なのか?」

「レナちゃんとラブラブってほんと?」

「あの新聞か…まあ、俺はレナが好きだし、あいつも俺のこと好きだから。(やばいよもう学校で知らない人いなかったりして…)」

「熱いね〜!きゃ〜!」

「それはもういいから。ところで、君は?」

「あたしはカジカ。で、こっちがサーナイト。にしてもあんた、珍しいポケモン連れてるね〜。」

「僕はミュウツー。タクヤが名前付けてくれたんだよ♪」

ミュウツーは自己紹介すると、サーナイトの近くに歩み寄った。

「お姉さん、きれいだね♪」

「お姉さんじゃない。お兄さんだ。」

サーナイトは恥ずかしそうにしていた。

すると、カジカはいきなり特徴的な形のケースを取り出し、中に入っていたバイオリンを取り出した。

「バイオリン、持ち歩いてるのか?」

「うん。リクエストしたい曲はある?簡単な曲なら弾くけど?」

ミュウツーがバイオリンを不思議そうに見ている間に、タクヤは少し考えてからリクエストしてみる。

「じゃあ、パブロ・デ・サラサーテ作曲の『ツィゴイネルワイゼン』は?」

「ちょ…!(うわ、かなり難しい曲じゃない!っていうか弾けないし…!)」

「弾けるなら聴いてみたいんだけど。」

カジカにとって『弾けない』と言うのはプライドに傷が付くので、どうにかそれを言わずに回避する必要があった。そして…

「今はあんまりのる気にならないからそれは弾かないけど、『G線上のアリア』なら良いかな。(セーフ…)」

「そっか。じゃあそれにするよ。(さすがに無理だったみたいだな)」

カジカはバイオリンを構えると、G線上のアリアを弾き始めた。ゆっくりと流れる音楽が、タクヤとミュウツーの心に染み入る。

そして1分後…

「寝てるし…」

タクヤとミュウツーは眠っていた。カジカは呆れて演奏を止め、屋上を後にする。

「起こさなくていいのか?」

「いいの。」

そして30分後…

「…ん、あれ?」

タクヤが気付いた頃には、4時間目の終わるチャイムが鳴っていた。
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モイスチャー #17☆2008.02/02(土)15:11
「第16話:男の計画」

どこかの研究所で、一人の男がモニターの映像を見ている。

「そろそろ…か。」

そこに、研究員が1人現れて尋ねた。

「しかし、なぜここまで待つ必要があったのですか?」

男は笑う。

「熟成…」

「は…?」

研究員が考えていると、男は語り始めた。

「君は知っているかね?…ガチョウに多量の餌を与え病気にし、それによって脂肪が蓄積された状態の肝臓をフォアグラと言う。太ったガチョウの肝臓が珍味とは、人間も考えたものだ…。」

「どういうことですか?」

「収穫時まで、待つ必要があったのだよ。そして今が、その時だ!」

男は、テーブルに置かれた料理の中のフォアグラを、フォークで突き刺した。

「君も食べるかね?前祝だが、遠慮することはない。」

「私にも、他の研究員にも手に入るんですか?」

「もちろんだ。私の計画に協力してくれたのだからな。」


そして学校では…

「レナ、ケンイチ。」

タクヤが2人のもとへ行くと、レナがタクヤに弁当を手渡した。

「これ、ツグミが作った弁当なんだけど、タクヤに渡してって言ってたわよ。」

タクヤが弁当のフタを開けると、中身はきれいに盛り付けられていた。ご飯の部分には細い海苔で『タクヤさんへ ツグミ』と書かれていた。

「ツグミちゃん、こんなきれいな弁当作れるんだな。まだ小さいのに。」

「あ、言い忘れてたけどツグミは15歳よ。」

「え、うそ!?」

「タクヤ、レナの家で何があったんだよ…?」

タクヤたちはそんな話をしながら弁当を食べていた。その時…

ガシャ−ン!

「何だ?」

ガラスの割れる音に教室のみんなが一斉に振り向くと、普段着の上に白衣を着た若い男が、ジバコイルに乗って現れた。

「タクヤ。覚えているだろう?お前が誰よりも私を憎んでいるのだからな。」

男が笑うと、タクヤが怒りをあらわにした顔で彼を睨む。

「レン…なぜあの時と変わってないんだ!まさか…!」

「その通りだ。お前の母さんは、私の一部になってしまったのだよ。」

「今、何て言った…!?」

2人が睨み合っていると、レナがタクヤの腕をつかむ。

「どうしたのよタクヤ…それに、お母さんって…?」

「失せろ…!」

「え…?」

彼は、ケンイチやレナの前で初めて暴言を吐いた。ケンイチもわけがわからないようで、タクヤに尋ねる。

「タクヤ、お前どうしたんだよ?らしくねえだろ?」

「失せろって言ってるだろうが!」

タクヤが叫ぶと、教室にいた生徒がみんな逃げ出してしまった。

「お前は…絶対に許さん!」

「お前一人で勝てると思っているのか?」

「どうせもう長くない命だ。道連れにしてやる。」

すると、タクヤの体が徐々に大きくなり、全身から白い羽毛が生え、背中に翼が生えた。脚は鳥ポケモンのそれになった。それは間違いなく、昨日現れた白い生物だった。

「レナ、ケンイチ。お前らは俺に騙されてたんだよ。バカが。保健室に行きゃ全部わかるだろうよ。」

タクヤでなくなってしまったそれが喋ると、謎の男・レンと共にどこかへ飛んでいってしまった。

「タクヤ…何なのよ?冗談でしょ…?」

レナは、タクヤが飛んでいった方向を見て放心状態になっている。

「タクヤ…お前…。」

ケンイチは、レナを連れて保健室へ向かった。
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モイスチャー #18★2008.02/02(土)17:02
「第17話:優しい嘘」

タクヤとレンは、広い空き地にいた。

「ここなら、誰にも被害が及ばないと考えたわけだな?」

「死んでいいのは、俺とお前だけだ!」

タクヤがいきなりジバコイルに攻撃を仕掛けると、ジバコイルはスパークでタクヤを迎え撃った。

バチバチバチ!

「ぐあぁー!!」

「お前はムクホークをベースにしてある。でんきタイプの技には弱い。」


その間、保健室では…

「マリア先生!タクヤが…!!」

ケンイチがレナを連れて保健室に来ていた。

「もう知っちゃったのね?…いいわ。タクヤ君から話すように言われてるから。恋人のあなたには特につらいかもしれないけど、それでも聞いて。」

マリアがレナを見ると、彼女は力の無い目でどこかを見ていた。

「タクヤ…またいじめられたの…?あたしがいなきゃほんとにだめなんだから…ほら立ちなさいよ…」

放心状態のレナを見て、マリアは気の毒に思った。

「タクヤ君の父親・レンは、タクヤ君やそのお母さん、お兄さんや他の大勢の人を、ポケモンと合成させる実験に使ったの。実験でお母さんは死んで、お兄さんは黒い怪物になった。唯一成功したのがタクヤ君だったらしいけど、その命もそろそろ…。」

「何だよそれ!何のためにそんなことを!?」

「永遠の命…らしいわ。レンは、ポケモンと合成した人間の細胞を自分に組み込むという経由で、最後に幻のポケモン・ミュウの細胞を自分に組み込むらしいの。ミュウは、永遠の命を持つポケモンだって…。タクヤ君の言ってたことはここまでよ。」

マリアが話を終えると、ケンイチは疑問に思った。

「タクヤはさっき、俺達を騙してたとか言ってたけど…」

「タクヤ君はきっと、あなた達を巻き込みたくないからそう言ったんじゃない?ほらレナちゃん、しっかりして。あなたはタクヤ君にとって一番大切な人なんだから。」

マリアがレナを揺すると、レナは正気に戻った。

「あ、うん…タクヤ、ひどいじゃない。あたし達に何も言わないで…。」

すると、ケンイチはレナの手を引いて放送室へ向かう。

「まずは放送室で仲間集めといこうぜ。」

そして、2人は放送室に着くと休む間もなくケンイチはマイクを手に取った。

「全生徒に連絡する。戦えるトレーナーは今すぐ近くの広い空き地へ向かってくれ。助けたい奴がいるんだ!今すぐ頼む!」

その放送を聞いた生徒の約半数は、声の主がケンイチだとわかり、急いで学校を出て走りだした。大人数の足音が響く。

「みんな、感謝するぜ!俺もすぐに向かうからな。」

ケンイチの放送はここで終了した。

「あたし達も急いで行くわよ!」

「俺のボーマンダに乗れ!すぐに着くはずだ!」

ケンイチはボールからボーマンダを出すと、ものすごいスピードで飛んで行く。

「タクヤ…待ってろよ。今行くからな…!」

「タクヤ…!」
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モイスチャー #19★2008.02/04(月)12:14
「第18話:置き土産」

ケンイチを先頭に、多くのトレーナーがタクヤのもとへ向かう。走る者もいれば、ポケモンに乗って行く者もいた。

「みんな!白い方が味方だ!間違っても当てるなよ!」

ケンイチが拡声器を使って呼びかける。

そして、5分後には先頭の彼が空き地に到着した。そこでは、既に戦いが終わっているようだった。

「レナ…ケンイチ。なぜ、来た…?」

タクヤのその大きな体は、大の字になって地面に倒れていた。

「少々遅かったようだな。」

レンの周りには、ジバコイルやドータクン、メタグロス、そして無数のマルマインとレアコイルがいた。

レナは、タクヤの側に駆け寄る。

「タクヤ…あたしに何も言わないで何やってんのよ…!」

「レナ…。」

タクヤは、笑顔でレナの顔を見た。

「てめえがタクヤを…!ボーマンダ!『りゅうのまい』だ!」
「うおぉ…!」

ボーマンダが空に上がり激しく舞う。その場に強力な威圧感が生じた。

「ケンイチさん!今、全員到着したぜ!」

声の方には、200人あまりの生徒がいる。

「みんなは、レアコイルやマルマインを倒してくれ!」

ケンイチが指示すると、みんなはそれぞれのポケモンを出してレアコイルやマルマインとバトルを始めた。

「戦力は互角、と思っているのか?違うな!行け、キメラ。」

レンの後ろから、あの黒い生物が現れた。それはタクヤの兄だった人間だが、今はそうではない。

「行くわよバシャーモ!」
「ああ。だが、奴に生半可な攻撃は通らない。どうする?」

レナが悩んでいると、そこにタクヤが上半身を起こして、小さな声で言った。

「レナ。奴の弱点は背中だ。背中の真ん中にある薄い皮膚の下に、動力部がある。」

「ありがと。…ケンイチ…ゴニョゴニョニョ」

「おう、任せろ!…ボーマンダ!」

ケンイチが指示すると、ボーマンダはキメラに高速で接近し、動きを止めるべく腕をつかんだ。

「ぐおぉ…!!」

「キシャァ…!」

体勢は力比べの状態で、ボーマンダは押されていた。

「早くしろ!もうやべぇ…!」

「わかった!」

バシャーモが走ってキメラの背中に接近すると、そこでバシャーモは意表を突かれる!

「ピギャァー!!」

キメラは背中の尖った骨を伸ばし、バシャーモに攻撃してきた!

「なっ!?これでは近付けない…!」

バシャーモが離れると、その時にはボーマンダはピンチになっていた。

「腕が…ぐあぁ!」

その時だった。

「ケンイチさん!俺達に任せてくれ!」

1体ずつレアコイルやマルマインを倒した数人の生徒達がポケモンを使ってキメラの体を押さえた。そこに、バシャーモが接近して攻撃の態勢に入る。

「バシャーモ!ほのおのパンチ!」
「とあぁー!」

バキッ!

機械の壊れる音がすると、キメラの動きが止まった。全員はそこから離れると、キメラは爆発して消滅してしまった。

「何っ!?まさか貴様…弱点を!」

レンは焦ると、ジバコイルコイルに乗って逃げようとする。それを、飛べるポケモンを持つ生徒達に止められた。

「てめえは許されねえ。」

ケンイチがレンを指差す。

「まだレアコイルたちが残って…全滅…!?」

生徒達は苦戦しながらも、全てのレアコイルとマルマインを倒していた。

「ふふ…あははは!」

レンは、この状況にも関わらず笑った。

「何がおかしい!?」

ケンイチが怒ると、レンは周りの人間を見下した。

「私は生きている限り、必ずまた貴様らを狙う。それに、まだ負けたわけじゃ…がはぁっ!」

タクヤのパンチで、レンが吹き飛ばされる。

「二度とそんなことができない体にしてやる!」

タクヤはレンをさらに数発殴ると、彼は自力で立てない体になっていた。

「一生その壊れた体で生きろ。人に支えてもらいながら生きれば、優しさが染みて少しはまともな人間になるだろう。」

しかし、それでも彼は笑っていた。

「ここまでやるとは、さすが私の作品だ!まあ、置き土産でも受け取ってくれたまえ!」

「置き土産…?」

彼らの周りには、戦えなくなったレアコイルやマルマインが無数に転がっていた。そして…

「『だいばくはつ』だ。」

レンの指示に反応して、ポケモン達が光り始めた。そこには、多くの生徒がいた。

「やめろー!!」

ドゴォー!!

タクヤの叫びと、多くの人間の恐怖の声が爆発に飲み込まれた。
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モイスチャー #20★2008.02/07(木)11:51
「第19話:生まれ変わる時」

爆風が巻き起こった瞬間、タクヤは思った。

「(助ける!俺の命に代えても…!)」


そして…

「…あれ。生き、てる…?」

爆風が止むと、全ての生徒が無事だった。ケンイチは周りを確認すると安心したが、安心できない要素が1つだけあった。

「ぅ…。」

タクヤは、人間の姿に戻っていた。その体は重症を負っていて、体や口からは黒い血が止め処なく溢れ出ている。

「タクヤ!!」

レナが泣きながらタクヤを抱き寄せると、彼は優しく笑っていた。ケンイチもタクヤの側に寄る。

「よか…た。みん…な、無事…」

「こんな時まで何言ってんのよ!自分の心配しなさいよ!!」

「タクヤ、てめえ死んだら許さねえぞ!わかってんのか!?」

タクヤはうなずくと、ミュウツーをボールから出した。

「ミュウツー…ごめん…な。」

「やだ…タクヤ…やだよ…うぅ…。」

ミュウツーはただ泣いていた。

「レナ…」

すると、タクヤはレナの体に腕を回して抱きついた。

「あぁ…あったかい…レ…ナ。大好き…だよ。」

彼女の目から、たくさんの涙が流れる。

「タクヤ…行かないでタクヤ…!」

「俺…は、死な…ない…!絶対…!ミュウツ−、レナ…」

そう呟いた瞬間、タクヤはレナの腕の中で眠りについた。全身から力の抜ける瞬間が、彼女にはわかった。

「え…タクヤ?…あは、もう騙されないんだから!寝てるんでしょ?起きなさいよ早く。」

返事の無いそれに話しかける彼女だったが、数秒後には泣き崩れていた。

「タクヤ…ぐぅっ…!」

ケンイチを始め、多くの生徒が涙を流した。


数分後…

「タクヤ…ずっと好きだから…うぅ…!」

そうやって、レナが言葉をかけたときだった。

「あ、あれは…!?」

ケンイチが指差した方向をみんなが見ると、曇り空に強い光が差し込み、雲に大きな穴が開いた。そしてそこから、光る何かがこちらに降りてきた。

「ミュー…。」

小さなピンク色の体、耳のような角、長い尻尾、青い目のポケモンが、そこにいた。

「あれは…?」

ケンイチがポケモン図鑑を向けると、図鑑がデータを読み上げる。

「ミュウ。しんしゅポケモン。今でも幻のポケモンと言われる。その姿を見た者は全国でもほとんどいない。」

「幻のポケモン…!」

すると、ミュウはタクヤの体に手を当て、青い光を放ち始めた。

「ミュミュミュー…!」

その光景を誰もが黙って見る。

すると、タクヤの体がみるみるうちに回復し、冷たくなっていた体には温かさが戻っていく。そして…

「ん…」

死んだはずのタクヤが目覚めた!

「タクヤ!」

レナとミュウツーがタクヤを抱きしめると、彼は苦しそうにしながらも抱き返した。

「ん、苦しいよ。…ミュウ、君が俺を…?」

「もう、あんな姿になることもないでしょう。あなたは人間として生まれ変わったのですから。」

ミュウがテレパシーで言葉を伝えた。

「ありがとう、ミュウ。」

「私の子を育ててくれたお礼です。」

ミュウがミュウツーを見ると、ミュウツーは不思議そうにしている。

するとそこに、レンが腕で這ってタクヤの近くまで来た。

「私の、研究が…せっかくミュウの細胞を持っているというのに…」

「こいつ、まだ…!」

ケンイチがレンを取り押さえようとしたが、何か様子がおかしいので少し離れた。すると…

「必ず…ギャッ?ガハァッ!」

レンの体が破裂した。そしてそこから、1つの影が現れる。

「愚かな奴だ…まあ、充分に使えたが。」

それは、銀色の髪、青い目、赤い首周り、真っ黒な体が特徴のポケモンだった。
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モイスチャー #21★2008.02/08(金)15:43
「第20話:最後の敵と生存本能」

「あの男の心は、私にとって最高の栄養だった。おかげで力が溢れてくる。」

そのポケモンは、小さく笑った。

「何だあのポケモンは!?」

ケンイチがそのポケモンに図鑑を向けると、図鑑がデータを読み上げる

「ダークライ。あんこくポケモン。月が出ていない夜には、ダークライがおそろしい夢を見せるという話が伝わる。」

「あれがダークライか…。兄貴が作った図鑑、すげえな。」

ケンイチが感心していると、ダークライが語り始めた。

「いかにも、私がダークライだ。早速だが、わかりやすく伝えよう。」

ダークライは一度咳払いして、周囲にいる生徒全てに聞こえる声で話す。

「私は、永遠の闇に満ちた世界を創ろうと思う。全ての人やポケモンが負の感情で満たされた、日が昇ることのない世界を。」

周囲は驚いて何も言えなくなる中、タクヤが口を開いた。

「なぜ、そんなことを?」

その言葉を聞いたダークライは、淡々と語りだした。

「悪魔は、平和な世界では短い間しか生きられない。だから人やポケモンが苦しむ世界を創る。悪魔はその世界にいれば、ずっと生きていられるからな。」

「どういうことだ?」

「つまりだ、私が生きるために、皆にはずっと苦しんでもらおうというわけだ。」

ダークライの言葉に、レナは疑問を持った。

「みんなを苦しめずに生きる方法はないの?」

「人やポケモンの怒り、悲しみ、苦しみが、私の吸う空気や食べたり飲んだりする物に当たる。お前達は、空気を吸わなかったり飲まず食わずで生きられるか?人間や多くのポケモンも、生きるために他の生物を犠牲にしているだろう?同じことだ。生きるための本能、自然の摂理なのだからな。」

誰も、その言葉に反論することができなかった。

「さあ、私のダークホールを受け入れ、永遠の悪夢に身を委ねるのだ。そうすれば私は死なずに済む。私を見殺しにしないでくれ。」

自分の命が惜しくて逃げ出す生徒が数十人いたが、多くの生徒達は、嫌がりながらも逃げることができなかった。

だがここで、タクヤがダークライの前に立った。ダークライはタクヤに語りかける。

「お前は一度死んだ身だ。だから死ぬ苦しみがどんなものかわかっているだろう?私を助けると思って、協力してくれ。」

ダークライの目は青く怪しく光っていた。ケンイチは、それを一瞬にして見破る。

「タクヤ!ダークライの『さいみんじゅつ』だ!逃げろ!」

しかし、もう遅かったのかタクヤは逃げなかった。

「この人間はもう、私の手に落ちた。さあ、受け入れるがいい。」

ダークライがダークホールのエネルギーをタクヤの胸に当てようとしたが、そこで彼はダークライの腕をつかんだ。

グググ…!

ダークライがどんなに力を込めても、それ以上手を動かすことができない。

「何だこの力は…!?私のさいみんじゅつも効かなかったというのか!?」

タクヤは、紫色の眼をダークライにまっすぐ向けた。ダークライはその強い眼差しに怯む。

「どっちを選んでも、それが正しい答えだって言うことはできない。かといって、選ぶことから逃げる事もできない。俺は人間だから、人間の本能に従う事にした。生きるために、君を倒す。倒さなきゃいけない。」

「貴様っ…!(強固な意志を持つ者に、さいみんじゅつは効かない、か…)」

「ミュウツー。」
「うん!」

タクヤはミュウツーの頭を撫でた。

今、最後の敵とのバトルが始まる!
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モイスチャー #22★2008.02/14(木)22:02
「第21話:ダークライの力」

「ミュウツー、ミラクルアイだ。」
「うん!」

ミュウツーの目が紫色に光ると、ダークライの体の輪郭がはっきりと写った。これで、エスパー技が当たるようになる。

「ミュウツー、サイコキネシス!」
「はあぁ…!」

ダークライの周りをミュウツーのサイコパワーが覆い、捕らえた。身動きの取れないダークライは、そのまま地面に数回たたきつけられる。

しかし、何度地面に叩きつけてもミュウツーには手ごたえがまるで無かった。

「何だ?その攻撃は?」

ダークライは2人を嘲笑う。
そこで、タクヤがダークライの様子を見ると、わかったことがあった。

「叩きつけられる瞬間に影に入って衝撃を吸収してるのか!」
「え!そうなの!?」

「ご名答。だが、これはまだ初歩。」

ダークライは数体に分身する。そして、息を合わせて全ての分身が一斉に攻撃してきた。

「さあ、どうかわす?」

「ミュウツー、シャドーボール!」
「うん。はぁ!たぁ!」

ミュウツーが全ての分身にシャドーボールを放つと、その中の1体だけが消えずに残った。どうやら本物のようだ。しかし、あまりダメージを受けていないように見えた。

「フフ…ウォーミングアップはここまでだ。」

「シャドーボールでもダメージがあまりないのか…どうすれば…」

タクヤが考えている間に、ダークライが徐々に間合いを詰めてくる。

「くらえ、あくのはどう!」

ダークライの体から黒い何かが全方向に放たれた!

「ミュウツー、テレポートだ!」
「うん!」

ミュウツーの姿が一瞬にして消え、ダークライの頭上に現れる。しかし…

「ぐはっ!」
「ミュウツー!!」

ミュウツーはダメージを受けていた。しかし、肉体に傷は無い。

「どうなってるんだ!?」
「タクヤ…うぅ…」

ミュウツーが地面に膝をついた。

「あくのはどうをよけることはできん。ここまでだ。」

ダークライがタクヤに迫ると、ケンイチが前に出てきた。

「タクヤ、一人で戦わなくていいだろ。ここは俺が…!」

「だめだ。ケンイチのボーマンダもみんなのポケモンも、もう戦えないくらいにダメージを受けてる。」

タクヤはケンイチを止めた。すると…

「邪魔をするのであれば、それまで眠っていてもらおう。」

ダークライがケンイチとボーマンダにダークホールを放つ。それは彼らの目に見えた瞬間に当たっていて、1人と1匹は一瞬にして眠ってしまう。

「ケンイチ!」

「眠っているだけだ。だが、私が近くにいる限り奴は悪夢に苦しむことになる。」

小さく笑うダークライを、タクヤは睨んだ。

「みんな、下がっててくれ。…お前は、俺の仲間を巻き込んだ。許さない…!」

タクヤが手を横に上げると、レナや周囲の生徒が後ろに下がった。

「ミュウツー、『はどうだん』はいける?」
「ん、うん…まだうまくできないと思うけど。」
「俺を信じて。…心で撃つんだ。」

ミュウツーは『はどう』の力を手にためると、ダークライに向けて放った!
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モイスチャー #23★2008.02/16(土)12:48
「第22話:最後の力」

ミュウツーは『はどう』の力を手にためると、ダークライに向けて放った!

「遅いな。」

ダークライは『はどうだん』を簡単にかわした。しかし…

「ミュウツー!」
「うん!」

タクヤの合図でミュウツーが消えると、『はどうだん』の飛んでいく方向に現れた。

「これなら…!」

ドムッ!

ミュウツーは、『はどうだん』を手で打ってダークライの方向にはね返した!

「うおっ!?(こんな方法が…!)」

ドゴォーン!

爆風で砂煙が上がる。

「当たった…でも、効いてるのか…?」

タクヤが様子を見ていると、ダークライがユラユラ動きながら煙から出てきた。そして、ミュウツーもテレポートしてタクヤの側に戻る。どちらも大きなダメージを受けているようだった。

「うぐっ…貴様…!」

「タクヤ…うぅ…。」
「ミュウツー…!また、あくのはどうを…?」

お互いの体力はもう少ない。ミュウツーとダークライは向き合うと、どちらもピタリと動きを止めた。

「最大パワーで『はどうだん』だ!」
「うん。はあぁー…!」

「ダークホール!おぉぉ…!!」

2匹の力はとても強く、周りで砂嵐が起こる。そして、どちらにも力の差はないように見えた。

「今だ!」
「はぁっ!!」

「ウオォッ!!」

ミュウツーとダークライはそれぞれの最大の攻撃を繰り出した!

ドゴォー!!

「(俺が付いてる!一緒だから…!)」
「(タクヤ…信じてる…!)」

「(負けぬ!生きるために…!)」


爆風が止むと、そこにいた者は全て吹き飛ばされて気を失っていて、ダークライやミュウツーも倒れていた。

そこで、タクヤがまず目を覚ました。

「…ん…大丈夫かミュウツー!」
「ん、うぅ…タクヤ…。」

ミュウツーはかなりダメージを負っていたが、大丈夫なようだ。

すると、周りの生徒やケンイチも目を覚まし始める。

「ケンイチ!」

「がはぁっ!…夢か…!?はぁ、はぁ…」

そして、タクヤがレナの体を起こすと、ゆっくりと目を覚ました。

「…ん、タクヤ。」

「レナ。大丈夫か!?」

「あたしは大丈夫よ。(タクヤ…なんかドキドキしてきちゃった。)」

「他のみんなは…よかった、無事だ…」

みんなが無事なのを確認してタクヤは安心すると、ダークライが上半身だけを起こす。

「くっ…うおぉ…!」

「ダークライ!」

タクヤがミュウツーを抱き上げてダークライを見ると、ダークライは笑っているようだった。しかし、そこから悪意は感じられなかった。

「強い…な。しかし、なぜ、そんな…に、強く…なれる?」

タクヤは、もうダークライに戦意が無いのを知ると、笑顔で答えた。

「俺一人じゃこんなに強くなれないよ。…みんながいるから、みんなに支えられて生きてきたから…そして、そんなみんなを守りたいと思ったから。…人間には、そんな力があるんだ。」

ダークライにはその言葉が眩しかった。そして彼は、穏やかな笑顔を見せた。

「そう…か。うら、やましい…な。私…も、今度は…人間に、生まれ変わり…たい…ものだっ」

ダークライは力を振り絞って最後の言葉を口に出すと、シュウウという音を立てながら煙のように消えてしまった。

「ダークライ…。」

タクヤを始め、レナやケンイチや他の生徒も、雲のない青く澄んだ空を見つめていた。ただ1つそこにあったのは、白い月だけだった。
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モイスチャー #24★2008.02/18(月)11:01
「エピローグ:旅立ち」

戦いは終わり、タクヤ達が帰ろうとすると、ミュウが彼を引き止めた。

「待ってください。」

タクヤは、何かを察したようだった。

「ミュウ…そうか、ミュウツーは君の子供…返さなきゃ…な。」

しかし、ミュウは首を横に振った。

「いいえ。この子、ミュウツーはあなたが育ててくださったのですから、あなたの子供のようなものです。これからもお願いしますね。それだけ、言いたかったんです。」

「ミュウ…ありがとう。ミュウツーもお礼言わなきゃ。」
「うん、ありがとう♪えっと、お母さん…?」

「ふふふ♪では、縁があれば、この世界のどこかで、また…。」

ミュウはそう言い残すと、青空に浮かぶ白い月の方向へと飛び去っていった。


次の日…

「タクヤ。おはよ♪」
「ミュウツー、おはよう。」

タクヤとミュウツーは急いで支度をすると、家を出て学校へと歩き出す。その途中で、レナの家に寄った。

「タクヤさん…」

「あ、ツグミちゃんおはよう。レナは?」

「あたしなら、今準備が終わったとこよ。行こ!」

ツグミが呼ぶまでもなく、レナが出てきた。

「レナ。」

タクヤは、彼女の手を指を絡ませて握った。

「あ、タクヤ…(タクヤから手を握ってくれた…)」

「やっぱり、恥ずかしいからやめた。って…すごい力…」

「離さないわよ。タクヤ!」

タクヤは、そのままレナに手を引かれながら学校へ向かった。


そして学校に到着…

「タクヤ、相変わらず熱ぃな!ここちょっと気温高いぜ〜!」

「今日はタクヤから手握ってくれたのよ!」

「ちょ、学校の中まで手繋いでたら目立つよ…。」

周りを見ると、こちらを見て悔しそうにする男子や楽しそうにしている女子がたくさんいた。

そして、昼休み…

「ケンイチ、俺とバトルしよう。」

「タクヤ、いきなりどうしたんだ?まあ、バトルなら受けて立つぜ!」

2人がバトルを始めて数分後…

「やっぱり、負けちゃったな。ミュウツー、大丈夫?」
「ん、うん。ちょっと痛いけど…」

「負けるかと思ったぜ…」

ケンイチは冷や汗をかいていた。

そして時間は過ぎ、放課後。タクヤとレナとケンイチは、夕日の見える砂浜を歩いて家路へと向かっていた。そこでタクヤは、ある事を決意する。

「俺さ、旅に出ようと思ってるんだ。1人で。」

「おい待てよ。俺も一緒に行くぜ!」

「そうよ!タクヤがいない生活なんてあたしには考えられない!」

納得しない2人に、彼は真剣な顔で話す。

「俺は、トレーナーとしてもっと強く立派になりたい。でも、人に頼ってばかりじゃだめだと思う。俺には夢があるから。夢は、自分の力でつかまなきゃ。だから…」

「タクヤ…」

「2ヶ月したら、一度帰ってくると思う。それまでは自分でやっていきたいから、連絡もしないと思うけど…」

2人には、彼を止めることができなかった。

そして次の日の朝…

「ミュウツー、持って行きたい物は用意した?」
「うん♪」

タクヤとミュウツーが支度をしていざ行こうとしたときに、インターホンが鳴った。彼が玄関に出てみると、そこにはレナとその家族に、ケンイチ、保健室のマリア先生がいた。

「タクヤ、2ヶ月したらもどって来いよな!そんで、その時もバトルしようぜ!」

「ああ。今度は負けない。楽しみにしてるよ、ケンイチ。」

すると今度は、マリア先生が前に来て話す。

「タクヤ君、レナちゃんから話は聞いてるわよ。よかったわね。…ところで、帰ってきたら私といい事しない?」

顔を近づけてくるマリアに、タクヤは後ずさりした。

「ちょ…俺にはレナがいるから…。」

「そうよ!タクヤはあたしといい事するんだから!」

「い、意味が違うって!」

すると、マリアとレナは睨み合った。

「あら、タクヤ君は私のようにスレンダーな方がいいに決まってるじゃない。」

「違うわよ!タクヤは絶対にグラマーなあたしの方が好みなんだから!」

2人が言い合っていると、そこでタクヤが止めに入った。

「ケンカはいいから。まあ、どっちかといえばグラマーな方が好みだけど…。」


しばらくみんなで話をしてから、タクヤは旅路を歩き出そうとした。その時…

「タクヤ、ちょっと待って!」

「レナ?あ…」

タクヤの頬にレナの唇の温かい感触が伝わった。お互いの顔が赤くなると、お返しにと彼はレナを抱きしめた。

「タクヤ…絶対帰ってきて。(ドキドキしすぎて苦しいよ…)」

「好きだよ、レナ…必ず帰ってくるから。待ってて。」

2人の体が離れると、彼は笑ってみんなに告げる。

「じゃ、行ってくる。」

タクヤは、大切な友達に手を振りながら旅路を歩き始めた。

「旅では、どんなことが待ってるかわからない。でも俺は、立ち止まらない。夢をつかむために。…風が俺を導いてるみたいだ。きっとそれにまかせて行けば、何かが見つかるかもしれない。」

タクヤはそう思いながら、風の導くままに歩いて行った。

〜FIN〜

第2章に続く…?
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[1127]

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ぴくの〜ほかんこ