ぴくの〜ほかんこ

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連載[1166] つまりそれはとりとめもない

HAPPY #1★2008.04/30(水)19:30
つまりそれはとりとめもないお話。
どこにでもあるような旅のお話。
少年とポケモンが仲良く旅をしているとか、ね。


第一章 旅の始まり、旅よ始まれ


その少年は部屋でファミコンをしていた。
黒い髪に赤い帽子。深い茶色の瞳にはチカチカとカラフルな光が映っていた。
ぼーっと画面を見つめながら、それでいて手は高速で動かしているその様子はまさしく末期のゲ・エ・マ・ア☆
ステージクリアでもしたのだろうか、明るく安っぽい音が部屋に響き渡る。
と。
「ミオちゃんミオちゃんミオちゃんみーおーちゃーんー!」
「こらキサラギ、ちゃん付けで呼ぶなゴルァ!」
部屋に一人の少年――キサラギというらしい、が駆け込んできた。
茶色のツンツン頭に可愛らしい顔立ち。
その童顔には不服そうな表情が浮かんでいる。
そんな少年を、ミオと呼ばれた少年は怒鳴りつけた。
よい子に注意。
ゲームばっかりしてるとイライラしやすくなるよ。ちなみに根拠はない。
「む。でもミオちゃんはミオちゃんだろ?」
「いや、どうせならミオさんとかミオ様とかミオ王子とか呼べよ」
「お前何様だよ!」
ぞんざいな態度のミオに、キサラギはツッコミを入れる。
手をばたばたとさせながらツッコミを入れる姿は非常に小動物的である。
「って、そうじゃなくってぇ!」
と、そこでキサラギはなにかを思いだしたらしかった。
はっとした、という表現がよく似合うような表情をしている。
そしてもう一度手をばたばた。
「ほら、だから、あの、あれだよ!」
「どれだよ」
「もうーッ! わかれよ!」
「わかるか」
言うべき事を忘れてしまったのだろうか。
ばたばたばたばたばたばた、だーっ。
一定時間ばたばたしたあとに、いきなりキサラギは走り去ってしまった。
ミオは呆けたような顔をしている。
「え、え〜と? キ、キサラギさん…?」
おずおずとミオが呼びかける。
それと同時に階段を上ってくる足音。
そしてひょこん、とキサラギは顔だけ部屋に出し、びしぃっ、と指をミオに突きつけた。
「そうだ! お前じいさんのところに来いよな!」
「…は?」
「それだけだから!」
そして今度こそ本当にキサラギは走り去ってしまった。
ミオはキサラギの言葉を脳内で反芻。
「…嫌だなぁ…」
ぽつりと呟き。
部屋にはいかにもメンドくさそうなミオと、底抜けに明るい映像と音をまき散らすゲームだけが残されていた。
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HAPPY #2☆2008.04/30(水)20:19
「って、おいおいおい。ジジイいねえし、なんだよ」
5分後。
ミオは大きな研究所の入ってすぐのところに立っていた。
こそこそと本棚の影から奥を除く様子は変態のやうである。
そんなミオの視界には、うろうろとするキサラギが映っていた。
しかしミオは、キサラギなど目にも入っていないように研究所をあとにする。
そして向かうはミオの家の隣家。
ミオが控えめに扉をノックすると、中から「ハーイ」と声。
その言葉を聞いて、ミオは控えめに扉を開けた。

「こんにちはヤヨイさん」
家の中にいたのは一人の綺麗な女性だった。
さらさらと流れる茶色い髪に、ほんの少しだけあどけなさの残る顔立ち。
ヤヨイと呼ばれた彼女はミオが部屋に入ってきたことを視認して小さく会釈した。
そしてぱたんと読んでいる本を閉じた。
「あらぁ、こんにちは、ミオちゃん」
「ちゃんって…いや、なんでもないです」
苦情を言おうとしたミオを、彼女はただの笑みで押さえつける。
―うしろに鬼神やらなにやらが見えたなんて…嘘です。こんな綺麗な人が、そんな。
自分の考えを必死で否定しながらもミオはだらだらと冷や汗を流す。
「それより、キサラギはここにいないけれど?」
「知ってます」
「あらそう」
そう言うと、小さく微笑み、もう一度彼女は本に向き直った。
ミオはなんとなく、その本について聞いてみる。
「なにを読んでいらっしゃるんですか?」
ミオの言葉に、ヤヨイは本の題名を見せる。
『世界の拷問100選〜今日から実践してみよう〜』
ミオは即座に現実から目をそらした。
ヤヨイはニコニコと笑顔を見せている。
ミオはちょっとだけ後ずさりをしながら引きつった笑顔を作った。
「じゃ、じゃあ、俺はそろそろ行きますね」
「あらそう。私の弟のことをどうぞよろしく」
弟。
そう、彼女ヤヨイは―。
キサラギの姉なのであった。
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HAPPY #3☆2008.05/01(木)22:15
がさり、という音を立ててミオは草を踏みつける。
場所はマサラタウン近くの草むら。
一歩ミオが踏み出すために何かが草むらを駆けめぐる。
その足音を聞きながらミオは溜息をつき、眉をひそめた。
「こっちにもいないし。ジジイいい加減出て来いよ」
ぶつぶつとミオが呟いていると、その背後でがさり、と草が折れ擦れる音がした。
ばっ、とミオが振り返ると、何者かが頭突きをしてきているのが見えた。
「危ないぞ−!」
「うお」
「うぁあ!?」
慌てて避けるミオ。
顔面でビューティフル☆スライディングをする何者か。
がりがりがりと暫く地面でこすれたあとその人物は起きあがった。
それは老人だった。
白髪に、白衣。
しかし、その顔はまだずいぶんと若々しい。
「な、なんで避けるのじゃ!?」
「そりゃよけるだろ」
びっくり、とでも言いたげな表情をする老人。
いきなりの攻撃に、ミオは肩で息をしている。
さらに手を胸の前で構えてファイティングポーズ。
今すぐにでもこの老人を迎撃可能な状況である。
「まぁ、まぁ。落ち着くがよい。わしはお前を探して…べ、別に心配していたわけじゃないんじゃからな!?」
ずずーん、という効果音を背景につけて言う老人。
ミオはその様子を見て、顔をしかめる。
「ジジイのツンデレは一切可愛くない」
「そうかの? 流行にのってみたのじゃが」
あごに手を当てて考えるような仕草をする老人。
ツンデレについて考えているのかもしれない。
ツンデレに関して思考する老人…なんか嫌だ。
「いや、まあそんなことはどうでもいいのじゃ。言いたいことはただ一つ!」
ビシィッと、ミオに指を突きつける老人。
そしてにやりと不敵に笑う。
「草むらにはぁっ! 野生のポケモンがぁッ! 出るぞぉっ!」
「知ってるけど」
「なにぃ!?」
ががーん、という効果音を背景に以下略。
その姿はなんともあほらし…、とても愉快である。
こんな姿を見て、この老人こそがポケモン界の権威とも言われるカンナヅキ博士であるということに気付く人が果たしているのだろうか。

カンナヅキ博士。
ポケモン研究の第一人者にして、知らない人はいないと言われるほどの著名人。
そして彼は。
キサラギとヤヨイの祖父であった。
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HAPPY #4☆2008.05/03(土)00:32
「で、なんの用だよ?」
「それじゃそれ! わしはお前にポケモンを渡そうと思ってたのじゃ!」
ぽん、と左の手のひらを右の拳で打つ博士。
そしてそのままミオの手首をロック・オン☆
がしっとその手首を掴み、博士はずんずん歩き出す。
「ま、待てって。待てっつってんだろ」
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ〜」
語尾に音符でもつきそうな感じの博士。
逆にミオは戸惑いまくりである。
戸惑いのあまり、うっかり博士の腕を捻ったりしている。
…それは故意か…。
が、博士はそんなことは露も気にせずにミオを引っ張っていく。

そしてついた場所は。
「結局研究所じゃねぇか…」
さっきまでミオが変態の如く覗いていた研究所だった。
博士は、その中を我が物顔で歩いている。
と、即座にかけてくる人物が一人。
「遅すぎー!」
キサラギだった。
ぷんすかとしている彼の頭を、博士は軽く撫でる。
「すまんのう。ささ、こっちにくるがよい」
そう言いながら博士はキサラギとミオを研究所の奥の方へ連れて行く。
奥の奥、本棚と本棚に囲まれているその場所に、机が一つおいてあった。
その上には三つの球が。
―モンスターボールだ。
ミオは記憶の中からその球体の名前を探り当てる。
「そこに三つのモンスターボールがあるじゃろ?」
博士の言葉にミオは、その球体がモンスターボールであることを確信する。
「わしも昔はバリバリのトレーナーじゃったのだが今ではもうこんな老いぼれとなってしもうた」
「全くだ」
「だな!」
「ちょっと待てぇっ! わし、偉い人じゃぞ!?」
いかにも納得した風なミオとキサラギに、博士はツッコミを入れる。
が、すぐに咳払いをして話を元に戻した。

「わしはもうポケモンバトルなんざできんよ。だから、このうちから一匹ずつ、お前らにやろうと思うのじゃ」
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HAPPY #5☆2008.05/20(火)23:52
「え! まじでか! やた、やったーっ!」
無駄にわたわたとしてよろこびを表すキサラギ。
その顔には、例えようもないほどの喜びが浮かんでいる。
眼をきらきらと輝かせている姿は、まるで玩具を与えられた子供のようだ。
いや、まんまそうなのか。
「ふっふっふ、でもな、でもな」
にやり、という笑いを作るキサラギ。
胸を張り、得意げにミオを見る。
「俺は大人だからな! 先にミオに選ばせてやるぜ!」
「すでにその台詞がガキくさいんだが」
はぁ、と溜息をつくミオ。
その言葉を聞いて、キサラギはショックを受けたようだった。
がーん、という言葉がよく似合う表情をしている。
「え、えと、だ、だったら俺が先に選ぶんだからな!」
「欲張るなよ子供じゃないんだから」
「じゃ、じゃあどうすればいいんだーっ!?」
からかいが多分に含まれたミオの言葉にさらにキサラギは慌てる。
とてもとても微笑ましゅうございますね、まる
しかしミオはそんなキサラギを無視して、モンスターボールを吟味する。
と、ミオの髪を博士が強引に引っ張った。
そのままミオの顔はぐりん、と90°回転。
表情は分かりやすく怒りを示していた。
「ふふふ。なんですか博士。いい加減俺キレますが」
「はっはっは。まあまあ落ち着くがよい」
うふふあははと笑い声が宙に舞いますが雰囲気はとっても殺伐。
主にミオの怒りが原因だろう。
そりゃあ髪の毛いきなり引っ張られたら誰だって怒りはするだろうが。
「まあ、これを見てみろ」
そんなミオの怒りをナチュラルにスルーして博士は、ミオとキサラギに何かを見せる。
それは、小さなカプセルだった。
赤と白の二色のそのカプセルは、どうやら薬らしい。
「なにそれ、毒?」
「ちげぇよ麻薬だろ?」
「お前らはわしをどんな犯罪者にしたいんじゃ…」
いけしゃあしゃあと自分勝手な意見を述べるミオとキサラギを見て、少し落ち込む博士。
しかしそこはしぶと…あきらめない博士、そんなことではへこたれない。
そのカプセルをミオとキサラギに突き出し、叫んだ。

「これを飲むとポケモンと話せるように、なるのじゃっ!」
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