ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

連載[1208] 気ままに吹く風のように

ローシェン #1☆2009.01/17(土)13:00
その0

突然だが俺の名はアルフという。
俺が昔入ってた群れのボスが昔人間と一緒にいたらしく、その時のお気に入りの場所からつけたらしい。

群れとはいえ、俺は前からいた訳ではなく、元々別な種族の群れから追放されたらしく、それを今のボスが入れてくれたというが、何故追放されたかは全く分からない。何しろ憶えていないくらいにチビだった時だし。
兎に角、そういう事あって今まで俺はずっと「ポチエナ」という、人間曰くそんな種族だと思い込んでいたのだ。
しかしお前は雷を操り、風のように速く走る者の種族だと教えられ、数年後実際に雷を操れるようになって以来、俺はこの群れにはいられないと感じた。

そして深夜に群れを抜け出し、何日も走って来たところが…人間の町だった。
いくら捨てられたとはいえ、良いことばかりされてたと人を評価したボスの言葉を信じ、群れに引き返さず夜の町を探索していたまでは良かった。
が、街灯が全くなく、おまけに月が雲に隠れていた夜の事だ。
おかしな外見の家の前で、俺はいきなり「イーブイ」という種族と間違えられ、この家の見張り番と称するヤミカラスにホイと捕らえられ、その家の隣にあった小さな家に放り込まれた。
そして一夜明け_一匹のメスのイーブイにこの建物が「研究所」であると教えられ、間もなく今日目的あって旅に出る少年少女にもらわれる運命を知ったのだった。

…少年少女か。目的が何かは分からないが、人間についていくのは中々面白いんじゃないか。
そう考えた時、扉が開き、あの時のヤミカラスを連れた男が入ってくると、俺と、俺といた三匹のイーブイを抱き上げ、ひょいと放された場所は広い空間だった。
そして今、此処に少年少女が入ってくる…。
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ローシェン #2★2009.01/24(土)12:30
その1

シンオウ地方のちょっと南にあるミチノク地方。海や山がある、と自然が豊富なだけでなく、特定のポケモンに反応し、ポケモンの姿を変えてしまう石もたくさんとれる場所。
その為か、最も多くの石に反応し姿を変える、珍しいポケモン「イーブイ」もたくさんおり、故にポケモントレーナーとして旅に出る少年少女がポケモンをもらう為研究所に寄った時は、必ずこのイーブイが渡された。
ちなみにミチノク地方。10歳になった少年少女は必ずポケモントレーナーとして旅に出なくてはならず、これは十年程前から決まっていた。

「じゃあ、これで全員だね」
今年もまた、10歳の少年少女がトレーナーとして旅立つ春がやってきた。クレモアの町にある研究所の博士、タイラは改めて渡すイーブイ達のいる部屋の前で、今年旅立つ三人の少年少女を眺めた。
…一人は博士の甥にあたるヨシヒト。「はい!」と元気よい声で三人から代表し返事を返した。
…もう一人はヨシヒトの友人であるレイ。女のような名前だが、れっきとした少年である。
…そしてこの二人をまとめていたミズキ。二人曰く「おせっかい」というが。
…最後が確か…霜月キン。
「って、何で六年前に旅立った君がいるんだ!」
「あの時は旅立った内には入ってませんよ!それでまた旅したいと思い立ってまた訪れたんです!」
「大体旅立とうとしても、君には昔ポケモンを…」
「あいつは夜用です。昼は全く使えませんよ。それにお宅のクロンとかいうカラス坊がイーブイを連れてきたところをそいつが見たっていうし」
「そうなんだよ、朝小屋に行ったら1匹別なのがいてさ。びっくりしたよ」
タイラ博士が先程から頭上を飛び回っているヤミカラス、クロンを見上げた。しかしクロン。おかまいなしに飛び回り、ミズキの肩に留まってみたりレイの鞄を引っかいたりとフリーダム状態であった。
「…ちょっ、博士、イーブイはまだですか?」
鞄からクロンを引き離しながら、しびれを切らしたらしいレイが言うと、ようやくキンとの言い争いで忘れかけていたイーブイの件を思い出す。
「あっ、そうだったね。じゃあイーブイも待ちくたびれていると思うし…」
「絶対待ちくたびれて寝てるか、部屋を荒らしているんでしょうね」
16歳の少女、キンがぼそっと呟いて最後に入ったが、「君のせいだろ」と博士に聞かれて返されたのは言うまでもない。

部屋に入ると、三匹のイーブイと一匹のラクライが其処にいた。
三匹のイーブイのうち、二匹はじゃれ合っており、一匹はソファーのクッション相手に何度もタックルをかましており、ねらい外れてドンとソファーから落ちていたりした。
一方のラクライは、はなれで一匹、部屋の家具を興味深げに眺め回していた。
キンの言う通りになってはいなかった。
「ルビー、ルビー!」
突如ヨシヒトがかがんでじゃれ合っている一方のイーブイを呼ぶと、その声に気付きイーブイが走ってきた。
「ちぇっ、あんた一人だけずるいわ!」
どうやらヨシヒト、少し前からもらっていたらしく、ミズキがしばらくふて腐れていたが、もう一方のイーブイを気に入ったらしく、そっとそのイーブイを抱いた。
「あんた可愛い顔してるわね。そうね、ドルチェって名前でいいかしら?」
ドルチェと呼ばれたイーブイは、ブイッと可愛く鳴いた。どうやら気に入ったらしい。
そしてクッションタックルのイーブイは、残ったレイがもらう事になった。
「…リン。オレについてきてくれるか?」
そう言ってレイがイーブイを呼ぶと、リンはレイに少しずつ寄っていった。
だがその間にも…タイラ博士とキンは言い争っていた。
「あいつは兎に角駄目なんスよ、進化した途端日差しを嫌って、やたらとトマトジュースを飲むようになったんですから!」
「そんな、ポケモンを駄目扱いするなんて、一体君のポケモン…確かソルに何があったというんだ!」
「最初はあいつ自身から「闇は嫌いだ」と言ってたんで、太陽に相応しいソル(太陽神)って名前にしたんですが、も、今は全然姿に相応しくないんで別な名前ですよ。なんで昼でも大丈夫というイーブイを…」
そう言ってイーブイ達の方を振り返ると、キンの目にうつったのは、10歳の少年少女三人が、おのおのイーブイといる姿だった。
「…イーブイ達よ…やはりお前等は運命を…」
「多分またポケモンをもらおうとした行いが悪かったからだろうね。クロンが昨日イーブイと間違えてラクライを連れてきただけまだ良かったとは思うが」
「そうか、ラクライ!」そう叫ぶとキンは残ったラクライに走り寄った。
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ローシェン #3☆2009.01/18(日)13:11
その2

昼用ポケモン、最後の希望の光。それがキンの目の前にいる一匹のラクライだった。
体の大きさからみてオス、人間に年齢を換算すれば私くらいか。
よく勘違いばかりして博士や私を困らせていたクロンが、小屋からイーブイが脱走したと勘違いし、連れてきたポケモンをよくみたら野生のラクライだった、というから、野生なだけに人を怖れるかと思ったがそうではないらしい。
そんなことをラクライの目線に近いようかがんで、しばらくラクライを見つつ考えていたキンだったが、すぐ最初に気付くであろう事をキンはしばらくして気付いた。
「おうい、そこのラクライよう…」
『アルフだ。俺の名はな。群れのボスがつけてくれたんよ』
「じゃあアルフ。お前他のラクライと色が違うんだな」
普通のラクライの色は、黄緑色をしている。しかしこの、アルフというラクライは、黄緑の部分が南の島の綺麗な海を思わせるような、そんな水色をしていたのだ。
ちなみにキン。ポケモンの言葉が理解出来るというのを今のうちに補足しておく。そしてこのような能力を持った人は、この世界では二割ぐらいいるとされている。
『色…?ラクライって普通どんな色してんだ?』
「知らないって奴か!?お前のいた群れってどれだけ色違いがいたんだい」
『ん、俺がいたのはポチエナとか、グラエナの群れだったからな。でも俺が違う種ってのは分かってたさ』
キンは納得した。ある種族の群れに、別な種族のポケモンが混じっているケースは少なくはない。
『俺の種族は、雷を操り、風のように速く走るっていうのは知っていて、種族がラクライというのは此処で初めて知ったよ』
「確かに。電流で足を刺激して速く走るようになる…」此処でキンの言葉が止まった。
不意にまわりを見回すと、ヨシヒト、レイ、ミズキ、そして三人のイーブイ、ルビー、リン、ドルチェがぽかんと見ていた。
「あー…博士、じゃあ残ったラクライもらっても良いですよね」
咳払いしてゆっくりと立ち上がると、「別にかまわんさ」と返された。…中々このラクライ、馬が合いそうな気がする。
少なくともアルフもそう思っている様子だった。

「あの、ところでキンさん、さっきラクライと話していたのは…」
研究所から出た時、先程の会話を目撃していたレイが言った。「えーいキンさん言うなっ、それじゃ婆くさいだろっ!私の漢字はこう…「琴」と書くからコトと呼びなさいっ」
「…すみません」
あまりのキン、いやコトの声の大きさでレイは逃げ出すようにリンを抱いてコトのそばを離れた。そしてミズキやヨシヒトのところへ行くと、おのおの旅の目的を話し始める。
「トップコーディネーターになりたいんだ、だからポケモンを強くして、シンオウに行きたいの」
「そうそう、ミチノク地方にコンテスト会場なんてなかったもんな。それじゃあレイはどうなんだ?」
「んっと、ポケモンマスターになる!そんだけ」
三人がそんな会話をしている間にも、コトは既にクレモアの町を離れ、歩き出していた。

『あれ、あいつらに何か言わなくていいのか?』
「どうせ直気付くさ、それに私はあの子等の旅とは違うんだし」
『でも旅に出た、っていうから目的とかでもあるんじゃないのか?あの…三人みたいに』
「いやそれがさ…六年前旅に出た人達の報告を聞いたりしているうちに、こんな鳥カゴのような町を出て大空へと飛びたくなってさ」
『つまり放浪か…この町を出たいだけに』
アルフが溜息をつく傍ら、コトは微笑していた。
研究所が見えるところでコトが振り返ると、博士が三人にポケモン図鑑とモンスターボールを渡していた。
そういや私も六年前にもらったな。でも両方とも今は押し入れかな、それともリサイクルされていたり、バラバラにされてどこかの埋め立て地にでもあるのかな。

黒髪、黒い目の少女と、青い毛並み、黒い目のラクライの背中を、春の風が砂ぼこりをまいあげ_吹き抜けた気がした。
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ローシェン #4★2009.01/24(土)11:42
その3

クレモアから一番近い町、トーチに行くには三つの道がある。
一つはガータビーチと呼ばれる浜を行く道、一つは見渡す限り草原が広がっている道路を通る道。
そしてもう一つは_コト達のいる、アルースという森を通る道だった。
「此処を通るのなんか六年ぶりだな」時々大木を見ながら歩くコト。
一方のアルフは森の木に圧倒されながらも『前にも来たことがあるのか?』と尋ねた。
「前にも旅した時があってね、その時だよ。でも昔は道があまり整備されなかったから迷って、それで三日後に奇跡的に戻ってこれたんだけど、もう旅はしない、これで終わりだ!と一人早々に帰ってきて」
『なのに、どうしてまた?』
「急にふっとこの町を出たくなって。今は放浪の旅だけど、そのうち目的も考えてみるかな」
『一生考えられなかったりして』にやと口角に笑みを浮かべるアルフ。
「なら地球が十五回回転するまで考えてやるよ」
そう言って道があらかた整備され、滅多に迷うことのなくなった森を歩くコト達だったが、しばらく歩くと一人の少年に会った。
「なあ、バトルしないか」
「勿論」コト自身昔からバトルはやっていたし、たいていのポケモンは夜用の“彼”がいれば勝てる自身はあった。
しかも日差しの当たるところではは強さが半減する“彼”も、この森では木の葉で日差しも当たらず、このバトルで出そうと思ったら出せる筈だったが。
この少年と一対一の勝負でいくことを決めると、コトは小声で「アルフ」と呟いた。
「とりあえずお前の強さを確認したいし、行ってくれる?」
『分かった』アルフが自信満々といった感じでコトの前に立った。
「レック、行け!」
それに対し少年はロゼリアを出した。かなり強そうな感じがする。
こうして森の中でバトルが始まった。
「…アルフ。まずどんなものか見たいし、好きに戦って」

最初に攻撃したのはロゼリアだった。華麗に葉を操り「葉っぱカッター」を勢い良く繰り出すも、簡単によけられてしまった。
『スピードなら俺の方が上だぜ』
空中で一回転して落ちる間際、アルフが口からきらびやかな星の弾丸を無数に発射する。
「[スピードスター]か」
先程の発言通り「好きに戦え」以外何も指示しないコト。確かにスピードの上では電気タイプのアルフの方が上だった。
「でも“戦略”の上ではどうか…」
その後もスピードの速さを生かし、低レベルな技ながらも連続攻撃をしかけてゆき、勝負は見えたようだった。
だがしかし。
「レック、葉っぱカッター!」
少年がアルフの攻撃の瞬間に叫ぶと、ロゼリアが素早く葉っぱを四方八方に散らし始める。
それを難なくよけた…ところまでは良かったが、ジャンプし着地した瞬間、アルフは目の前の景色が歪んで見え、バランスを崩して転倒したかと思うと、徐々に体の力が抜けていくのを感じた。
『何…これは…一体…』
『テクニックではあたしの方が上ね』
ロゼリアはウフフッと笑うとアルフの上に飛び乗り、葉っぱでビシビシとアルフを打ち付け始めた。
「丁度ラクライの落ちるところに「どくびし」をまいたんだ」
少年の解説に、そのくらい分かってるよと返したかったコトだが、こうなってくるとアルフのことが心配になってくる。
「耐えるんだ、アルフ…」

毒状態にされ、すっかりロゼリアのおもちゃと化したアルフ。
その目はこんな状態でもまだ目は死んでいないことをロゼリアと少年は気付いていないようだった。
気付いていたら、こんな状態ながらもそんな目をしたラクライを驚き、恐れるから。
「レック、とどめだ!花びらの舞!」
やがて今まで葉っぱを嗚呼つっていたロゼリアが花びらを操り始めると、次第に花びらの数が増えていった。
そしてその花びらがロゼリアの体を包むかのように集まると『はあっ!』という掛け声で四方八方に飛んでいった。
「アルフ!」コトが叫んだ直後、おそらくファウルペトゥル(=花びら)と思われる花びらが飛んできて、思わず「わっ」とよける。
何て危険な技なんだ、こんなものに当たったら間違いなく…そう思った直後。
アルフの目が青く光ったのだ。毛並みのような南の島の海のような感じではなく、深海のような、むしろ「蒼」と書いた方がいいような色に。
すると彼のまわりにぱっ、と白い羽が舞うと、ひょうと花びらを裂きながら向かうのはロゼリアのところ。
「レック、まもる!」
少年の指示空しく。指示よりもはるかに早い無数の羽の矢が次々とロゼリアを貫き_ロゼリアはバタンとその場に倒れた。
少年の唖然とする顔、未だ何が起きたのか分からないアルフ、よけたと思ったらまた飛んできたファウルペトゥルが服に刺さったまま「目覚めるパワー…」と呟くコト。
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ローシェン #5★2009.01/25(日)13:44
その4

[目覚めるパワー]その名の通りこの技は、ポケモンの隠された能力を引き出す技で、同種類のものでも環境、メンタル面、前世等で使うタイプが決まり、一度固定されたら一生そのタイプを使うしかない…というのがコトの知ってる限りの目覚めるパワーの知識。
普通だと覚えるのが難しい技なのに、よく覚えられたもんだ。
傍らの少年_リオがアルフをある程度治療している間、木の上でコトは考えていた。
「おい、もう済んだか〜」
「一応!」リオの返事をもらうな否や、ひょいと木の上から飛び降りると、アルフをボールの中に戻す。
_一応この程度の日差しなら、“彼”に頼っても大丈夫かな。
コトはリオにアルフの礼を言うと、早々に次の町へ行こうとしたが、不意に呼び止められて振り返った。
「待って、名前は何ていうんだ?」そう言えば自分は名乗っていなかったか。
「私は霜月キ…いやコト」
「コト…その道からすると目的地はトーチだな?」
「まぁ、そういうことでさ。今日旅に出てから今日中に着こうと」
「旅か…僕も旅なんだけどね。強いポケモンを捕まえにこの森に入ったんだけど」
「強いポケモン?」思わず反すうする。
「この森のボス、オオスバメさ。地元では右目の傷跡から「スカー」と呼ばれているという」
スカー…その名前を聞いた時、コトは六年前にこの森に入ったことを思い出した。

アルースの森を迷いに迷い、ポケモンを倒していくうちに“彼”も進化した。
だが一向に出口は見つからず困り果てた時、『どうした?』と頭上から声がした。
見上げるとそこには紺色の大きな翼、右の目に傷のあるオオスバメー確かスカーと名乗っていたーがいた。
そいつはこの状況を判断すると、出口まで連れていくが、あんたのそのポケモンといつか勝負する、という条件で出口まで案内し、そして別れる間際彼を呼ぶ言葉を教えてくれた。
それが…そこは度忘れしたが、その後町の人に会って何とかなったところまでは覚えていた。

「スカーか。そいつは会ってみたいな」
コトがふっと漏らした言葉をリオは聞き逃さなかった。
「なんなら僕と探す!?」
この流れでいけば普通に承知してくれるだろう。だが彼女は違った。
「嫌だけど」
コトの反応につい言葉を失うリオ。しばらく無言でいたが、目は口ほどにものを言うというもので、目は明らかに「チクショー!」と叫んでいた。
「そんなの自分で探しなさいよ、君なら出来る、グッドウィルドッドビズ」
「それを言うならグッドラックじゃ…」
「とりあえず頑張りなさい、君ィ」
「頑張りなさい!?何でそんな、急に敬語に…」
そこでリオの言葉が止まった。ただ同年代の少女コトの肩をたたき、そっと一本の木の枝を指さした。
枝の上、そこには紺の翼、鋭い眼光、美しい尾を持つ鳥型のポケモンが留まっていた。
ばさっ、と音をたてそのポケモンが目の前に来ると正体が分かった。
右の目の傷、まさしくスカーだ。
彼の姿を見た途端リオは構える間もなくボールをとり、目の前に投げた。
だが現れたのはあのロゼリアではなかった。
森トカゲポケモン「ジュプトル」。
ジュプトルもまた、前方のターゲットに劣らぬ鋭い眼光を持っていたが、ターゲットは『何だこいつ』と言いたげな表情をしていた。
『「グッドウィル」で来たは良いが、先にこいつを倒してから…ってやつか』
独り言のようにも聞こえるこの言葉に、コトは「グッドウィルだったんだ」と呼ぶ言葉を度忘れしていた真実と、「ま頑張れ」という思いを伝えた。
六年前の約束を果たしたいし、ちょっと酷いがリオは負けてくれ。
コトが見守る中、スカーは小さく頷くと、ジュプトルに向き合った。
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ローシェン #6★2009.01/29(木)18:02
その5

いきなりスカーの電光石火が先にジュプトルを襲った。
風を切る音がすさまじく、それは相手を威嚇する咆哮のようにも聞こえた。
「ジュノ、リーフブレードで受け止めろ!」
だがジュプトルも負けじと腕の葉っぱを長い剣に変え、正面からスカーを受け止めた。
コトも見ていて迫力があるように感じた。森のボスとここまで互角とは…“彼”がスカーと戦うのは次の日ぐらいになるだろうか。
それでも直に戦いたい気持ちの方が強く、つい「早くジュプトル、負けてくれないかな」と思うのだった。

どっ、と静かな森にポケモンの倒れる音。そ音は森のボスの強さを表しているかのようで、いくら森トカゲという分類ながらも、やはり相性も大きく関係しジュプトルは無理だったようだ。
「く…っ、レック、いけるか!?」リオがジュプトルを戻し、新たにロゼリアを出す。
直後コトは近くの木の影に隠れた。
と、アルフの入っていない、別なボールが振れる。
『何故隠れたんですか』アルフの声とは違い、低く、より大人びた声。
「ファウルペトゥルに当たりたくないから」
『ファウルペトゥル?』
「ファウルボールみたいなものだよ。あのロゼリアの花びらの舞って四方八方に散るからさ」
『成る程』
刹那、高いかけ声ひとつと共に、花びらがコトの横を無数に飛んでいった。今度は前方に花びらの刃が飛んできても大丈夫。
そう安心すると、風を切る音、何かを裂く音、悲鳴、そして何かが落ちる音がした。
「そんな馬鹿な…」落胆するリオの声と同時に木の影から飛び出すコト。手にはボールを持っていた。
「スカー。まだいける?」
リオに替わってスカーの前に来たコトは、早々にボールを投げる構えをしていた。
『…いつでも来い』ばっ、とスカーが飛翔する。
「なら行かしてもらうよ!」そう言ってコトはボールを投げた。
手持ち尽き、ただそのバトルを観戦するリオは「まずい」と感じていた。
彼女の腰のボールの数からして、あのロゼリアと互角に戦ったラクライ意外にもポケモンはいるようだが、ラクライと同じ強さとすると、絶対ロゼリアのように切り札を使っても終わるだろう。
当然そんな考えなど聞いていないコトの投げたボールからは、全身を茶色っぽい布で包んだポケモンだった。大まかな形からして獣型とされるそのポケモンは、圧倒的な「力」を持っていた。
その力は並外れたもので、森のボスが六年くらい前に見た時とは大きく変わっていた。まるで「お前と戦う為だけに強くなった」と言いたげに。

シャドーボール、と言おうとしてコトは口をつぐんだ。今まで飛翔していたスカーが突然降りたからだ。
『戦意喪失か』語りかけるように言う茶色の布をまとったポケモン。
『ああ、充分お前は強いさ。今度会った時は…更に強くなってるからな』
遠い目をしたスカー。いくら言葉の分からないリオでも、森のボスとされるオオスバメをあそこまで追い込んだポケモンの強さは分かっていた。
ラクライと打って変わって…。唖然とする観客、余裕の笑みをする主をしり目に、ポケモンは上を見上げるとその布をオオスバメの方へと投げた。

そして正体を現した「バン」。
深夜を思わせる漆黒の毛並み。額の美しい金に光る輪に紅の瞳。
細い四肢や長い耳、尾にもついている金の輪。
そして首には青い綺麗な石のついたピンをはさんだベージュ色のマフラー。
彼_月光ポケモン「ブラッキー」は、その姿からもう強さを感じ取れた。

「いやっ君が強いブラッキーを持っていたなんて」
「強くなんかないさ。私の友達にはポケモンリーグでベスト八に入った人もいるし」
「ベスト八!?」
「それに比べたら私はただのトレーナー。それくらい世界は広いってやつよ」
あの後スカーは満足そうに森の奥へと消えていき、二人は別れて違う道を行くことになった。
「それじゃあまた、何処かで会う日まで」
「何か忘れてたような気がするけど、君も元気で。今度そのブラッキーと戦ってみたいよ」
「直バトルに決着が着きそうだけど」
そんな会話をし、リオはクレモア側、コトとバンはトーチ側の方へと進んだ。

「しかしあのブラッキーは凄かったなぁ…何しろ森のボスとされるオオスバメをあそこまで追いつめるし…って、すっかり目的を忘れてた!そうだ、あのオオスバメ!あれを捕まえる為に此処に来たんじゃないかぁ!」
その後アルースの森を丹念に探し回ったリオだったが、後に諦め、ガータビーチで強いシードラを捕まえたらしい。
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ローシェン #7★2009.01/31(土)17:50
その6

「くそう…あそこであいつをスルーすべきだった…」
いつもの元気よさはなくなり、夕暮れ時とあって一層暗くなった森をよたよた歩くコト。もしリオとかいう人に会ってなかったら、今頃トーチに着いていたのに。
流石のコトも暗いところは苦手で、つい幽霊とかが出てきたらーとネガティブなことばかり考えてしまう。
普通の女子ならこの気持ち、一度体感したことがあるだろう。
『仕方ないですよ、それに約束も果たせたしいいでしょう』
一方のバンはブラッキーというだけあって怖がる様子はない。というより、寧ろスカーと戦った時より元気な様子だった。
元々闇が嫌いでエーフィになりたいというから、太陽神から「ソル」という名前にしたのに、何処でどう間違えたかブラッキーに進化し、それに伴い名前も「バン」に…。
バンパイアの「バン」もあるが、「晩」ともかけていた。
そんな彼だから、当然暗闇の恐怖に同情してくれる訳がなく。
『さーて日も暮れてきましたし、今日はこの辺で野宿でもしますか』
「野宿!?それはまずいって!」
『ふぅん、それはまたどうして』バンの瞳がより紅く見えた。
「そんな野蛮なことなんて出来な…ぐへっ」
暗闇の中、バンの突進がコトにヒットした。
昔は臆病で甘えん坊だったイーブイが、進化した途端真面目ながらもたまーにサディストになるなんて、六年前までは思わなかっただろう。
いや、イーブイ時代から既にこの突進は存在していた。丁度甘える時に背中に頭をすりつける癖があった彼だが、それが突進に変わったのである。
しかし…よろめいた拍子に木に激突するコト。突進されたところと、木に激突した痛みがそれを事実だと語っていた。
「アルフはそんなことしないのに〜…。てかさっきの提案は絶対私に突進したいが為に言っただろ…て何処!?」
暗い上に一人…全身の血が引いた覚えがしたコトの肩を、そこに何かがとん、と叩いた。
「バン…?」何の躊躇もなく振り返ったコトの目に映ったのは、独特のウェーブがかった髪に首の数珠、そして全体的にひらひらとした体を持つポケモン、ムウマ。
しばらくムウマと目が合い、フリーズしていたコトだったが、いきなりムウマが『ギャアア!』と鋭い叫び声をあげると、ようやく森全体に響き渡るような声で「わ″ーっ!」と絶叫をあげた。
『コト、一体何処にいるんだ…?俺に心配かけて』
その直後茂みから絶叫なんかなかったかのようにバンが顔をのぞかせ、そのまま固まってしまった。

『ホントすみませんでした、生まれてきてごめんなさい。マスターからも夜泣きで人を驚かすのはやめろと言われているんですけど、どうしてもムウマの血が…あっ、うるさくてすみません、私元々生まれてこなかった方が良かったんですかね?』
ネガティブに謝るムウマーシーナという名だというーをしり目に、コトはバンとしばらく話していた。
「お前が敬語使ってないの初めて見たよ。だってイーブイの時からそうだったし」
『シルヴィさんに、信頼する人間には礼儀正しくせよ、そう言われたからです』
「じゃあどーしてたまに“信頼する人間”に突進するのかを聞きたいね」
バンがむっとする。『俺の楽しみを奪うつもりで?』
「楽しみって…」其処に昔の「じゃれ合う」彼の姿はなかった。
今や「楽しみ」なんて。コトが落胆すると、控えめに『あの』とシーナが言った。
『私、マスターに貴方の安否の確認と、トーチまでの案内を頼まれて此処に来たんですけれど』
「はあ、ところでマスターって、もしかして平山っていう人?」シーナが頷いた。
「そっか!今日トーチで合流するって約束してたんだ!」
『あの、ではトーチに早く着く近道教えましょうか?』
「宜しく、ついでにポケモンも休めたいし」ボールの中のアルフを忘れてはいなかった。
『じゃあ早くしろ』バンがシーナを上目遣いで睨むと、ようやく一行は歩き出した。
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ローシェン #8★2009.02/07(土)12:56
その7

トーチの町のポケモンセンター。シーナにつれられ入ったコトとバンは、真っ先にアルフのボールを預けると、シーナについていった。
『えと、この先の…』シーナが言いかけた時には、既に二人(一人と一匹)の姿はなく、慌ててシーナが追いかけると、彼女らは親友と対面していた。
「ハト!」
「コトちゃん!久しぶりねぇ!」満面の笑みを浮かべ、穏やかな声、口調に似合う、ゆっくりとした話し方で再会を喜ぶのは、コトの親友、平山鳩子。
「六年まえの“あれ”ですっかり町に引きこもってたと思ったのにぃ」
「馬鹿やろっ、引きこもってたら神経がどうかしてくるさ」
「そうよねぇ…あっ、一応シルヴィ出しておくねぇ」
バンの存在に気づくと、ハトコは一つのモンスターボールを手にし、目の前に投げた。
現れたのは美しいヴァイオレットの毛並みを持ち、首に星形の石のついた首輪をしたエーフィ。
ハトコの相棒でもあり、またバンの最も信頼するポケモンでもあった。
『シルヴィさん!』バンがエーフィを認識するなり向かっていく。
『久しぶり、バン君』
この仲の良い二匹。実はバンは幼少期にとある研究所の実験体にされるべく、一族が皆殺しにされ、生き残った彼が逃走したところをシルヴィに助けられたという。
そしてシルヴィの存在あって、精神が崩壊寸前だったバンの心はあらかた元に戻り(それでも人間不信なところは戻らないが)、二匹はいつしか固い絆で無すまれた_というくらいだから、そら再会は嬉しいものだろう。
「それはそうと、改めて。ポケモンリーグベスト八おめでと!」
「そんな…別に名誉あるもんじゃないよぉ、だってベスト八とはいえ取材なんかされないしぃ」
「でも私の中では、失礼だけど嫉妬するほどできる人だよ」
「でもコトちゃんだってポケモンと会話できるじゃん!」
「まぁ、それはそうだが…」コトが口を開いた直後、
【霜月琴さん、ポケモンの回復が終了しました。受付までお越しください。繰り返します霜月琴さん…】
なめらかなアナウンスに、椅子に座っていたコトが立ち上がった。
「おっ、もう終わりか。早いな」
「あれっ、まだポケモン持ってたのぉ?」
「博士からもらったもんだけど。後で紹介するよ」
そう言って受付へと走っていった。

『…ありゃっ、もうトーチに着いたんだ』
しばらくあたりを見回すアルフに現状を伝え、ハトコを紹介すると、早速アルフはハトコに興味を示していた。
「あらぁ、結構人に慣れてるのねぇ。名前は?」
「アルフ。中々合ってる感じだろ?」
「そうねぇ…あっ色違いなの、珍しいわねぇ」
ハト湖が抱こうとすると、ひょいと手の中をアルフがすり抜ける。
「言うの忘れてたけど、アルフは抱かれるの嫌いだから」
「なんだぁ…」困り顔で苦笑いしつつアルフをなでるハトコだったが、ふと思い出して鞄の中から二つのボールを取り出した。
「そうだ、コトちゃんから預かってた、これねぇ」
「ああ、はいはい」
コトが受け取ったのは、二年前に会った時にハトコに渡していたポケモン。アルースの森で迷った者同士仲良くなり、六年前につかまえたポケモンだったが、ワケあって親友に預けていたのだった。
「強さ的には…バン君よりちょこっと劣るくらいかなぁ」
「バンより…分かったよ。ところでこっちのボールがロコンのラミで、こっちがエアームドの…ダルタニアンだっけ、ムースクトンだっけ、あっバザンだったかな。まぁそんな名前のやつか」
『ソレイユ!』今までシルヴィと話していたバンが突進をかましてくる。
「だーっ、何かいつもの突進と違う気が…」
『シルヴィさんから教えてもらった[粉砕する突進(エンド・オブ・ラッシュ)]の実験には丁度良いかと』
「よかねー!」
こうしてトーチの夜は更けてゆくのだった…。
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ローシェン #9★2009.02/12(木)17:36
その8

翌日はアルースの森の出口付近にいた。
広場のところでコトとハトコの手持ちが呑気に遊んでいるが、さっきからシルヴィとバンの姿はない。「すぐ戻る」と言って森の奥へと去ったのだ。
「あのリザードンがレノンでぇ、レントラーはフレディ。フローゼルはコリーンでぇ、リーフィアはオリビアっていうのよぉ」
「そんでムウマはシーナか。やけにネガティブだったよ昨日」
「でもねぇ、人を脅かすのは天下一品ってくらいなのよぉ、私も呆れててねぇ」
「昨日それで死ぬかと思いました」とコトが小声で呟く。
そして視線をポケモン達の方にうつすと、平和さがすごく伝わってきた。
強そうなポケモンも童心にかえったようで、見ていて面白い。
アルフもあそこまでハジけてトレヴィル…いやソレイユやオリビアと楽しそうに跳ね回って…いた(過去形)。
『それなら俺の面白い技を見せてやる!』不意にアルフが言う。
『え、ちょっと、単なる罰ゲームでの隠し芸なのに、あたし達を巻き添えにしないでね…』
『アルフ、流石にそれはやばいって』
『止めても他に思いつかないんで…じゃ、いくぜ…「目覚めるパワー」!』
目覚めるパワー…またあの技を見せるつもりなのだろうか。しかし思うように発動できず、ソレイユもオリビアも完全にフリーズしていた。
『…えっと、某カードマンガのネタやりまーすあたたたーっ』
『それは違うだろ、やるならカードを何枚も引く真似しなきゃ…』
『某格闘マンガ、ってやつね。一応それを隠し芸としておこ』
力なく笑う二匹。まわりのポケモンは楽しそうなのに、此処だけはしん、としていた。
「あらぁ、何があったのぉ?」
「目覚めるパワーは、あの時ピンチ状態だから出せただけって、やつか」
「…?」
「あっ何でもない、何でもない」あわてて否定したところでガサっと音がした。
シルヴィとバンが帰ってきたのだ。
『さーて[粉砕する突進(エンド・オブ・ラッシュ)]をあらかた覚えたし、誰に使おうかな…』
ぎろ、と紅の瞳とコトの黒い瞳が合った時、コトは自然と目をそらした。
「ねえハト、シルヴィに[粉砕する突進]てオリジナル技教えた?」
「うん、[とっておき]と[突進]を合わせて、突進を[とっておき]の技のパワーぐらいにする技よぉ」
「とっておきねぇ…」確かバンは両方使えたはず。だからできる確率も高い。
あんな技をくらったら生身の人間は…そう思うと改めてバンの扱いづらさを実感するコトなのだった。

「目覚めるパワーか…」アルフは遊んでいるポケモン達のかたわらで、一匹落ち込んでいた。
この技は群れにいた時も数回成功しているものなのに、何故かいつもは思うように発動できないのである。
しかも成功できるかどうか分からない技を失敗して白けさせるとは…一生の不覚だった。
こんな強力な技をいつでも使えるなら良いのにな…空を見上げて考えた時、背後で「どうした」と声がした。
「バン、シルヴィさん」振り返らなくても声で分かる。
「ええ、そうよ」
「シルヴィさん、そしてバン、一体何の用で?」
「ん、目覚めるパワーを簡単に使える方法教えよっかなーって」
「え?…な、何で考えていること分かるんスか!?」
「さっきのを聞いていた」
「あ…」声に出ていたのか。アルフは早速お願いした。
「分かったわ。案外目覚めるパワーって扱いやすいのよ。現に私があの子達に教えたら、早いこは五日ぐらいでできたもの」
「そうなんスか」
「あとね、バン君は二日でマスターしたわ」
「覚えが早いんだ…」
「お前よりはな」アルフ、少しブルーになるも、シルヴィの言うことを聞いた。
「目覚めるパワーはね、他の技とは出し方が違うの。例えば渡しなら何もしなくても念力が出せるように、アルフ君もすぐに電気ぐらいは起こせるでしょ?」
「はいっ」
「でも目覚めるパワーはそうはいかない。何というかな、自分の体にある力をぶつける、というか、オーラを一気に放出する、そんなイメージを考えながらやってみて」
それからシルヴィは「手本が必要かしら」とバンと目配せした。するとバンは静かに目を閉じた。
そしてしばらくするとバンの周りに赤い炎が立ち、陽炎が揺らめくと、それはすぐに消えた。
「炎タイプ」とアルフは思った。
「じゃあアルフ君も、やってみて」
「はい」バンのようにはできないが…アルフは一生懸命イメージすると、体の底から力が溢れ出る感触を覚えた。
この感触、ちょうど[目覚めるパワー]を使う時と同じだ。
「…バン君、彼の目に気づかない?」
「ああ、青く光ってますね」
「彼、貴方より早く覚えるかも」
そんな二匹の会話は聞こえなかった。ただ「えい!」とかけ声をあがえると、周りにぱっと無数の白い羽が散った。
そしてそれは一気にひょうと音をたて、四方八方に飛んでいった。
「おっと」二匹は思わず避けたが、他のポケモン達には当然飛んでいき。
「わあ!何だこの羽!」
「!ソレイユ!あの子よ、あのラクライ!」
「オリビア、それホントか!?というと、本当に出来たんだなぁ…」
遠くを見たら、コトやハトコも驚いてこちらへと走っていた。
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ローシェン #10★2009.03/28(土)15:57
その9

「うーん…傷薬十五個だろ、あと毒消し、麻痺治し、眠気ざましもいるし…使わないとは思うがモンスターボールもいるかな」
ハトと別行動する午後、コト達はポケモンのアイテム専用店にいた。
その為、先ほどからコトは棚と睨めっこをしていたのだ、
『…マトマって、トマトジュースみたいな味がするんだよな』
そう言って木の実を物色するのは、全身に布を巻いたバン。街灯や建物の明かりぐらいは大丈夫だが、彼曰く「四時ぐらいの微々な太陽、日向でさえ無理」だという。
『人間の作ったものか…』
暇なアルフはというと、店内を歩き回っていた。群れを抜け出した時に初めてこういう物を見た時は、本当に驚きと興味の感情しか抱いていなかったが、今見ると中々面白いものである。
そして、目の前の布切れっぽいものについた、きらきらしたもの等、人間界にはこういうきらびやかな物も多い気がする。
アルフがポケモン用のマフラーのショーケース前にたっていると、アルフの前に陰ができた。
「そっか、アルフも私の仲間になったんだから、こういう目印も必要だよね」
『目印?』
状況をいまいち理解していないアルフおかまいなしに、コトは「店員さーん、その、マフラー見せてもらえます?」と店員を呼んでいた。

「さて、出したはいいが何色がいいかな。白…ベージュ、いやベージュはバンか…何しろ水色に何色が合うかなんて分からんし…」
「水色ならオレンジ色なんかが似合うんじゃないでしょうか?」
その後あっという間にコト、店員によってリカちゃん人形並の着せ替え人形と化し、ますます状況が分からなくなっていくアルフ。
そんな中、彼は目を白黒させながら遠くを見ていた。
この手触りが良い布切れっぽいのをどうしようというのだろうか。
とりあえず目が合ったバンに口パクでSOSを伝えようと試みたが、直にそっぽを向かれ、試食用の木の実を呑気に食べている始末だった。
「あっ、これとかどうだろ」
その中でコトが手にしたオレンジ色のマフラー。その色を見た時アルフは集点がぱっとマフラーに合った。
…色といいい、形といい、夕日のようなきれいな色をしている。
さっきから同じ形状のものを何度も巻いては取り、の繰り返しだったが、これなら巻いても良いかもしれない。
「ん、アルフ、これがいいのか?」
『それだよそれ、別なモン買ったらスパークすっからな!』
「げっ、バンみたいな事はせんといて!分かったよ、じゃあお会計お願いします…」

「ありがとうございましたー」という声とともに店を出た時には、既に日向の下を歩く時間となっていた。
「いんやあの店員良かったなー、数割割引してくれたし!」
『いつか割引した分請求書が来るかもしれませんよ』
「そんな店ないから!サービス精神ゼロだから!」
コトとバンが話をしつつ歩いている中、アルフがショーウィンドーの前で立ち止まった。
ショーウィンドー越しの品物なんか目になかった。ただ首のオレンジ色のマフラーと、そのマフラーを留める白い星型のピンがさっきから気になって、ショーウィンドーにつる自分が誇らしく思えてきたのだ。
『う〜ん、プラマイゼロ、むしろプラス…』
自分でも妙な言葉を口走った時、数メートル先で「何やってんだ〜」とコトの声がした。
アルフは声のする方へと駆け出した。
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ローシェン #11☆2009.03/28(土)15:44
その10

すっかり空が暗くなり、窓から三日月が輝く夜。
数時間前に合流したハトコも、今は自室に戻って何をしているかは分からない。
コトもハトコが自室に戻った時に同じく自室に戻ったが、その時窓の三日月が目に飛び込んだ。
こんなに奇麗な月は数ヶ月ぶりだっけな。
そして月といえば、気づけばコトの横に座って月を見上げるバンがいた。一方のアルフは欠伸をしている。
「そういえばバンって月が好きなんだよね」
ブラッキーだからだろうか。イーブイの時は太陽が好きだったのに、正直、この変化は少し驚くばかりである。
「そうだ、こんなタイミングに言うのもなんだけど、この町、明日には出発するから」
『ふぅん、了解…』
アルフの欠伸混じりの返答が聞こえ、思わずアルフのところを見ると、彼は既に鼻ちょうちんを出しながら眠っていた。
一方のバンは夜行性だからか、まだまだ元気という感じが凄くする。
アルフも寝てるし、とコトもまた寝床に入ると、そのまま意識は夢に堕ちた。

まわりを見渡せば、数えられないくらいある木々。上を見上げれば雲ひとつない青空で、下は青々と茂草の上をアルフが走り回っていた。
「…平和だなぁ」
ピラミッド状に乗せてある三本の丸太棒の上に座り込み、コトは呟いた。
事故とか事件に巻き込まれたり、嫌なことがなかった日も確かに「平和」だが、口に出してまで言うくらい、そう感じたのはこの環境の中だからだろう。
だがいつまでも平和に浸っていては先へ進めない。コトが森の奥に向かって指笛を吹くと、まずアルフの動きが止まった。
『せっかく蛾を追いかけてたのに』
ばたばたと飛んでいく蝶、ではなく蛾を見つめるアルフ。蝶じゃないんだ…。
そこに森の奥からバンが飛び出すと、ようやくこれでアルースの森を出れるようになった。
「二匹ともそろったね、じゃ行くぞ」
多分ここに来るのも、当分はないだろう。
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ローシェン #12☆2009.03/28(土)15:56
その11

『今日はフレロって町に行くんだろ?』
トーチのポケモンセンターに行く途中アルフが尋ねた。
「まぁね、でも遠いから今から行かなきゃ、最悪、深夜に着くことになるね」
『そこまで遠いの!?』
「いや、場所的には近いらしいけど…何か、近いけど遠い、という感じだそうで」
『見えるけど見えないってのと似てるな』
『…もしかしたら近いけど、迷いやすいところがあったりして遠いと感じるとか』バンが呟いた。

「もう行くのぉ、コトちゃん」
コトの親友は彼女らを町と道路の境目まで送ってくれた。
「次の町は着くのに時間がかかるっていうし」
その時バンは小声でシルヴィと話していた。
『日差しや虫タイプ、格闘タイプのポケモンには気をつけてね』
『そんなの分かってますよ』
バンの返答にシルヴィは二股の尾を揺らし、笑顔で頷いた。
「…それにケータイだってあるしさ、そんな二度と会えなさそうな顔はしないでよ」
「そうよねぇ、また会えるものねぇ」
ハトコは最後まで笑顔であった。
そんな親友に見送られ、トーチを出ようと一歩踏み出した矢先、「ちょと待ってぇ」の一言で足がもつれ、コトは前のめりになった。
「渡したいものがあるのよぅ、忘れていたけどねぇ」
「そういうのは先に言いなさいっての…で、何なのそれって」
足下のアルフもコト同様、興味深げにハトコを見上げていた。
『…ふっ、コミカルなヤツめ』
バンはコトの前のめり姿を思い出していたが。
「んっとね、…あった、これだわぁ」
ほいとコトの手に置かれた者は、紙に包まれどんなものかは分からなかったが、大きさでいえばDSライトぐらい、重さは小型の辞典より少し軽めぐらいのものだろうか。
「何なの、これって…」
「コレはポケモンセンターに着いたら見て。後これも渡しておくねぇ」
次に手渡されたのは、薄めの封筒。光にすかすとかすかに五百円札が見えた。
「うおっ五百円!…ありがとう、ハト!」
「いいってぇ、私のささやかな贈り物、として受け取って」
何とも嬉しいことだろうか。しかし冷静に考えると、彼女の肩書き―リーグでベスト八であること―を思い出すと、そんなの直に手に入るものなのだろう。

「じゃあねぇ、コトちゃん!」
「ハトも元気で、シルヴィにド突かれないように!」
『シルヴィさんはド突きませんっ!』
『やれやれ…』
にぎやかに去っていく一行を見送りつつ、ハトコが呟いた。

「そういえば、何で今更旅しているんだろぉ」
「ふぃ?」
シルヴィも分からない、というように首をかしげた。
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ぴくの〜ほかんこ