sk | #1★2005.05/21(土)08:32 |
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我は行く 我が主を追って どこまでも―――。 月の調べ 〜オーバーチュア〜 我が主と離れ離れになったのは、もうずいぶん前になる。 あれは忘れもしない、あの日。 「ほらティンク、早く!」 雨の中を元気に走る、金髪で青い瞳の一人の少女。 彼女の名は、ヴィンス。 そして、その後を追う1匹のブラッキー。 彼の名は、ティンク。 ヴィンスと生まれたときから一緒に暮らしている。 ヴィンス達は「アメタマが大量発生した」とのうわさを受けて、アメタマを捕獲すべく、急いで雨の中を走っていた。 「あ、ティンク!いたよ!」 2人の目の前に現れたのは、1匹のアメタマ。 こちらに気づき、向かってきた。 「ティンク、お願い!」 ティンクは、1歩前に出て、身構える。 2匹は、バトルを開始する。 アメタマが、みずでっぽうを放つ。 「ティンク!右へよけて!」 ヴィンスの指示で、ティンクは右へと跳び、それを回避する。 「そのまま「かみつく」!」 バシィ! ティンクのかみつくが、アメタマにヒットした。 アメタマは、ひるんで数歩後ろへと下がる。 その隙に、ヴィンスはモンスターボールをアメタマへと投げる。 バシュッ! アメタマの体が、ボールへと吸い込まれる。 カタ...カタ...。 ボールが、左右にふれる。 カタ...。 ...ボールの揺れが止まった。 「捕獲完了...っとv」 ヴィンスはボールを拾う。 アメタマは、パソコンへと転送された。 「これで...あと1匹だね。」 ヴィンスは、図鑑を開く。 未捕獲なのは、レックウザただ1匹。 「じゃ、図鑑を完成させにいこっか。」 そういうと、ヴィンスはボールを投げる。 中から出てきたのは、ネイティオ。 彼の名は、フィート。 ヴィンスとは2年前に出会った。 「フィート、「そらをとぶ」!」 フィートは、ヴィンスを乗せ、空高く飛び上がった。 「結構遠いから、無理しないでいいよ、フィート。」 空の上で、ヴィンスはフィートに言う。 フィートは、小さくうなずいた。 目的地である「そらのはしら」にはまだ程遠い。 と、その時。 空がにわかにかき曇り、雷が鳴り始めた。 …と思いきや、今度は突然雲が晴れ、光が差し込む。 (この急な天気の変化は…!) ヴィンスは腰を落とし、身構える。 下のほうの綿雲が、急に晴れた。 「フィート!右へ旋回っ!」 ヴィンスは、急いでフィートに指示を出す。 が、指示を出すのが遅すぎた。 「きゃあっ?!」 ヴィンス達は、晴れた雲の合間から飛び出してきた何かに突進され、バランスを崩す。 その衝撃で、ティンクの入っているボールが、宙へと投げ出される。 「っ...!ティンクっ!」 ヴィンスは、ボールに手を伸ばす。 だが、それを何者かの「はかいこうせん」が遮る。 ティンクの入ったボールは、そのまま雲の谷間へと消えた。 「ティンク!ティンクーッ!」 …ヴィンスの叫びは、虚しく空へと吸い込まれていった。 あの日以来、我は主と離れ離れになってしまった。 主は無事だろうか? 主はまだ、我の事を覚えてくれているだろうか? 主はどこにいるのか? やさしかった主の事を、忘れた時はない。 主との再開を願い、我は旅を続けている。 その後、我は山へと落ちた。 山へと落ちたその衝撃で、我の入ったボールは壊れ、そして開いた。 ボールは粉々になったが、主がきちんとボールの手入れをしてくれていた為、我は無傷で済んだ。 それ以来、我は主を探して、休まず旅を続けている。 太陽照りつける日も、冷たき雪の降る日も、北風吹きつける日も。 ただただ、再開を願って。 あと、もう少しで会えそうな気がする。 もう少しで…。 我の名は、ティンク。 主の名は、ヴィンス。 共に、古き仲なり。 我、いつか再会を信じるなり。 ‐月の調べ オーバーチュア 終わり‐ |
sk | #2★2005.05/21(土)08:33 |
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雲の合間から、ようやく月が出た。 ティンクは、それを合図に歩き出した。 月の調べ 〜第1話 青い希望〜 現在地は、屈強なポケモン達の住むシロガネ山。 どうやら、落ちる間に随分と遠くまで風で流されたらしく、ティンクの入ったボールはカントー地方まで飛ばされてしまったのだ。 ティンクは風の運ぶ匂いを道標にして、ひたすらホウエン地方を目指していた。 主との再会を祈って。 ガサッ…。 その時、突如背後の草むらで音がした。 (…敵か?) ティンクは身構える。 草むらから出てきたのは、青い短髪に銀の瞳の小柄な少年。 「あれー?どうしたの、キミ。迷子?可愛いねーv」 その少年は、ティンクをひょいと持ち上げる。 「わぁーv結構重たいねーv」 突如、笑顔で話し掛けて来たその少年に、ティンクはあっけに取られる。 「あ、そうだ!キミ、ちょっとこれ、つけてくれる?すぐ終わるから。」 その少年は、あっけに取られているティンクに、青い首輪を取り付ける。 「これでよしっ・・と。いい?ボクに何か話してみて。」 「話せと言われても…お前と我では言葉が通じないだろう?」 …ティンクが、喋った。 自分の声が人間の声になっていることに、ティンクは驚き、飛び上がる。 「な…?!何だこれは?!おい、我に何をした!」 ティンクは、その少年をにらみつける。 「もう、そんなに怒らないでよーvでも、成功だ!ポケモン語翻訳機「PK5」!ついに完成したぞ!」 その少年は、うれしそうにそこらじゅうを飛び跳ねる。 …ティンクは、完全に無視されている。 「おい…我にも分かるように説明しろ。」 ティンクは、再びその少年をにらみつける。 「あー、ゴメンゴメンvキミ、一人称「我」なんだー。「僕」とかにした方がいいよー。馴染みにくいもん。」 「…我の質問に答えろ。」 「えー?もうちょっと言葉使い直しなよー。それが人に物を頼む態度ー?」 どうやらティンクは、完全にからかわれているようだ。 「っ…教えてください。」 「へへーvOKOKvこの機械はね、キミ達ポケモンの言葉がわかる、僕の大発明なんだよっv」 「…それは凄いな。」 「でしょーv今から「商標特許」取って、世界に売りさばくのだ☆」 (…現実的な子供だな。) 「んで、キミにこの商品のマスコットキャラになって欲しいんだv」 「ふざけ…じゃなくて、嫌です。お断りします。」 ティンクは、出かかった本音を敬語へ直す。 ところが、その少年はにこっと笑って、一言。 「無理v」 「…何故だ?…じゃなくて、何故ですか?」 今ひとつ慣れない言葉使いは、喋りにくい。 「だってもう、その首輪外れないもんっv」 満面の笑みを浮かべる、その少年。 「…へ?」 「ま、そういうことでさ。固い絆で結ばれた二人の旅!いいねぇ!」 「おっ・・おいっ!」 「僕、トパーズ!君の名前は…。」 「ティンクだ。…我には主がいる。貴様と旅をする気はない。」 そういって、ティンクはトパーズにそっぽを向ける。 「つれないねぇ。じゃ、そのトレーナーさんに許可もらうからさ。案内して。」 「…今は…いない。」 ティンクは、顔をうつむける。 「…そか。じゃあそれまで、僕が君のトレーナーになってあげる。」 「何?」 「一人じゃさびしいでしょ?宜しく、ティンク。」 ティンクに手が差し伸べられる。 「…。」 ティンクは、差し伸べられた手をチラッと見て、またそっぽを向く。 「キミが探してるのって、多分僕の知ってる人だよ。」 「何…?」 トパーズの口から発せられた、意外な言葉。 その言葉に、ティンクは問いを投げかける。 「その人物の名は…?」 ティンクは振り返り、真剣な目でトパーズを見つめる。 「…「ヴィンス」って言うんだ。「ティンク」って名前のブラッキーを探してたよ。キミの事…だよね?」 「…ああ、そうだ。我の…主だ。」 地面に、しずくがこぼれ落ちる。 空も、それにつられて泣き出した。 どっちが先か、泣いたのが空だけだったのかは、その場にいたトパーズも分からなかったが…。 「雨が降ってきたね。寒いから、ボクの家まで来なよ。…一緒に、その人も探してあげる。」 ティンクは、無言で小さくうなずいた。 「じゃ、君の新しいトレーナーとして、僕をよろしく。」 空から落ちる雨粒に「フレンドボール」の優しい光が反射して、一瞬、雨空に虹を作った。 「これからよろしく、ティンク。…会えるといいね、ヴィンスさんに。」 優しい笑顔で、トパーズはヴィンスの入ったボールを見つめた。 月の調べ 〜第1話 青い希望 終わり〜 |
sk | #3★2004.03/15(月)15:36 |
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「ぐっどもーにん♪」 ティンクは、ボールから出されて目を覚ました。 目の前にいたのは、パジャマ姿のトパーズ。 「おはようv」 トパーズは、満面の笑みでティンクに話し掛ける。 「…おはようございます。」 ティンクは、半分寝ぼけながら返事を返した。 月の調べ 〜第2話 今始まったばかり〜 「ねぇ、何食べる?」 「…?」 「朝ごはん。キミもお腹すいてるんでしょ?」 トパーズは、エプロンと三角巾を身に付ける。 「そこまで世話になるわけには行かない。…そこらの木の実でいい。」 そう言って、ティンクは外へのドアへと歩き始める。 「あー、もう。どこ行くの?僕はキミのトレーナーだよっ。世話ぐらい出来るよ。」 「しっぽを掴むな。痛い。」 「キミが素直じゃないからだよ。」 「…承知した。食べる。」 ティンクは、しぶしぶ了解する。 「そう来なくっちゃねv何がいい?」 「なんでもいい。」 「あ、そう?だったら助かるなvちょっと、ここに座って待っててv」 「…ああ。」 …コン、パカ。ジュー。 (くんくん…。) 卵を焼く、いい匂いがする。 「あ、いいにおいでしょv今日のご飯は目玉焼きだよーv」 「卵は好きだぞ。」 「そう?良かったーv」 「…野菜もあるか?」 ティンクが、少し恥ずかしそうにトパーズに聞く。 「あるよv何がいい?」 「にんじん。」 即答。 どうやら、ティンクはにんじんが好きらしい。 「おっけーv…んーと。にんじんは…あ、あったあった。生?ゆで?焼き?」 にんじんを片手に、トパーズが聞く。 「出来れば千切りしてゆで。」 「…おv千切りって言ったね、今v」 やけにうれしそうに、トパーズが言う。 「ああ。それがどうかしたか?」 「フッフッフッフ…今日こそ僕の新発明「千切りスライサー」が活躍する時がきたね!」 高々と上げられたトパーズの右手には、なにやら怪しい小さな機械が握られている。 「何だそれは。」 「いい?こうしてにんじんを機械に取り付けて…スイッチオン!」 …ゥィィィィィィン! シュッ、シュッ、シュッ…。 機械の刃が回転し、にんじんを千切りにしていく。 「おお。」 「どう?この見事な千切り。」 「…トパーズが作ったのか?」 「そうだよv人呼んで「発明博士」の僕にかかれば、こんなのちょろいちょろいv」 トパーズは、えっへんと胸を張る。 シュッ、シュッ、シュッ…。 ガコン。 「何だ?止まったぞ。壊れたのか?」 「あ、平気平気。ちょうど50グラム切ったから止まったんだ。」 「量も設定できるのか?!」 「まぁねーv」 「すごいな…。」 「へへーvこんなに褒めて貰えたの初めてだよvありがとv」 トパーズは、にこっと照れくさそうに笑う。 「…ん?」 「どうしたの?」 「いや…何やら焦げ臭いような…。」 ブスブス、ジュー…。 「わ!目玉焼き火にかけっぱなし!」 「な、何ぃ?!」 …2人の目の前に並んだのは、まっ黒い『何か』。 「…今度、目玉焼きを焦がさないで作れるような発明をしよう。」 トパーズは、机に顔をくっつけながら言う。 「ここまで焦げるともはや芸術だな。」 ティンクは、その黒い物体を鼻の先でつつく。 「こげた食品は健康に悪いんだよね…。でも捨てるのはもったいないし…。」 「なら、たい肥にでもすればどうだ?」 ティンクが笑いながら言う。 「そうか!それだ!」 突然、トパーズはガタッと椅子から立ち上がった。 「な…何だ?」 「今からたい肥を作る機械を発明するんだよ!この目玉焼きが腐る前に!そうすれば、もったいなくないじゃん!」 幼い子供のような笑顔で、トパーズは語る。 「…発明はそんな短時間で出来る物ではないぞ。」 冷静に対抗するティンク。 「平気!12時間あればできるから!」 「そんなに慌てなくとも…。」 「いい?僕、この「発明部屋」にいるからさ。用事があったら声かけて!じゃ!」 そう言い残して、トパーズは扉の向こうへ消えた。 残されたのは、ティンクただ1匹。 ぐぅー。 ティンクのおなかの音が、むなしく部屋に響く。 「腹が減ったな…目玉焼き…は食べれる代物では無いし…にんじんは生…まあ、生でもいいか。」 もぐ、もぐもぐ…。 ティンクは、千切りのにんじんをほおばる。 (ポケモンである我が火を使うのは安全面に問題があるからな…生でも・・まあ、結構…。) 皿にトパーズの分を残して、ティンクはごちそうさまのおじぎをする。 「おい、トパーズ!にんじん、そっちに持っていこうか?」 皿を頭に載せて、ティンクが叫ぶ。 「…いや、いい。これが終わったら食べるから。」 「そうか、分かった。」 ティンクは、皿を机の上におく。 (トパーズって、随分と研究熱心だな…。) 部屋の中には、様々な道具がおいてある。 (…?) その中に気になる物を見つけ、ティンクは近くへと歩み寄る。 そこには、1通の手紙が、読まれたままおいてあった。 手紙には、こう書いてあった。 『しんまいトレーナー トパーズくんへ やくそくを まもりにきました。 おぼえていますか?ヴィンスです。 キミのほしがっていたヨーギラスの たまごがうまれました。 そのうちのひとつを あなたにわたします。 たいせつに そだててあげてください。 もし なにかこまったことがあれば いってくださいね。 ポケモンマスターに なれるといいですね。 わたしはいつでも あなたのちょうせんをまっています。 ヴィンスより』 「…!」 ティンクは、急いで手紙の横にある封筒をひっくり返す。 『れんらくさき ピースフルポケモンリーグ』 (ピースフル…ポケモン・・リーグ…?) ポケモンリーグといえば、バッジを全て集めたものだけが挑戦を許されるという、名誉ある大会である。 地域によってトレーナーの人数とそのポケモンのレベルは異なるが、大体レベル50程度で4、5人の構成である。 それが「連絡先」に指定されているということは、ヴィンスがそこにいる、つまり、リーグが連絡先に指定されているということは、ヴィンスがそこにいるという事なのだ。 「主は…夢を果たしたのか…。」 ヴィンスの夢、それは「図鑑の完成」と、ポケモンリーグの四天王の1人、もしくはチャンピオンになる事だった。 ティンクはその手紙をくわえると、トパーズのいる発明部屋へと入った。 「トパーズ、汝の夢は何だ?」 一生懸命に機械をいじるトパーズの背中に、ティンクは声を投げかける。 「歴史の教科書に載るほどの発明家になる事。それと…。」 トパーズは立ち上がり、ティンクの方を向く。 「…それと?」 トパーズは、ティンクのくわえている手紙を指差す。 「ヴィンスさんを超える!そして、ポケモンマスターの称号を手に入れる!」 「…我も一緒に行って良いか?」 「勿論!さあ、そろそろ行こうか!僕らの旅は、もう始まっているんだから!」 トパーズはバッグを背負うと、目玉焼きを片付け、家を一直線に飛び出した。 一度も振り返らずに。 そう、彼らの旅は今、始まったばかりなのだから。 月の調べ 〜第2話 終わり〜 |
sk | #4★2004.03/15(月)15:34 |
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「ねぇ、ティンク。」 トパーズは、歩きながらティンクに話し掛ける。 「何だ?」 「まだ…キミに僕の仲間を紹介してなかったよね。」 「ああ…。」 「今、紹介するよ。」 そう言って、トパーズは腰のボールに手をかけた。 月の調べ 〜第3話 対決!ホーク団!!(前編)〜 「出ておいで!ヴォムゼラ!」 ボールが開き、中からポケモンが現れる。 「この子は「ヨーギラス」の「ヴォムゼラ」。レベル5の時、僕の家でかえった。今はレベル18。僕の大切な友達さ。男の子だよ。」 「ヴォムゼラ、よろしく頼む。我はティンクだ。」 「ティンクさんですね。よろしくお願いします!」 ヴォムゼラは、笑顔で手を差し伸べる。 「ヴォムゼラも喋れるのか?」 ティンクは、目を丸くして言う。 「ああ、昨日キミが寝てる間に、徹夜で同じのを作ったんだ。」 「すごいな。」 「へへっ…。あ、そうだ。」 「?」 トパーズは、ポケットから図鑑を取り出す。 「キミのレベル、見せてもらえる?」 トパーズは、図鑑をヴィンスへ向ける。 「…勝手に見ろ。」 「ありがとv…んーと…。」 ピピピッ。 図鑑の画面に能力の詳細が表示される。 「ティンク レベル85…だって。凄いじゃん!」 「フン…。」 ティンクは、照れ隠しにそっぽを向く。 「技は…っと。どくどく、つきのひかり、かみつく…あれ?」 トパーズは、目を丸くする。 「……NO DATA…?」 「どうかしたか?」 ティンクは、図鑑を覗き込む。 「普通、技を覚えていないところには何も表示されない。でも、ここ。ほら…4番目の技「NO DATA」になってるんだ。つまりこれは、キミがまだ未発見の技を持ってるんだよ!」 確かに、図鑑には「NO DATA」と記載されている。 「…それは凄いのか?」 ティンクは、トパーズを見上げる。 「もちろん!新しい未発見の技を持ったポケモンが今、結構見つかってるんだ。」 「へえ…。」 「まさかティンクもその1匹だったなんてっ!ねえねえ、使ってみて!」 トパーズは、ティンクに迫る。 「…この技をか?」 「うん。僕、見てみたいな!」 「承知した…少し、離れていてくれ。」 「え?…あ、うん。」 トパーズは、数歩後ろへと下がる。 「吹き飛ばされるなよ。」 「…え?」 その瞬間ティンクの体が強く光り、空中に凄まじい光を放つ球体が出現した。 「せいっ!」 ティンクの声と同時にその球体は7つに分かれ、空中で絡み合い、1本の光となった。 ドガァァンッ! その光は空中で大爆発を起こす。 「わぁ?!」 強烈な衝撃波がトパーズを襲う。 一方、ヴォムゼラは平然とその場に立っている。 トパーズは吹き飛ばされぬよう、必死でヴォムゼラにつかまる。 …衝撃がおさまった。 「どうだ?」 ティンクがトパーズに背を向けながらいう。 「………凄い。」 それは無意識のうちに、トパーズから出た言葉だった。 「…そうか。」 ティンクは少し嬉しそうに笑った。 「あ、そうだ。技の威力について見る機能があったっけ。 トパーズは、図鑑を覗き込む。 図鑑の画面にはこう出ていた。 『NO DATA いりょく:250 めいちゅう:100 PP:1 タイプ:エスパー 自分の持つ全エネルギーを光へと変えて敵に放つ。 使用後、特攻と攻撃が6段階下がってしまう。 この技に該当するデータがありません これは未発見の技です 名前を入力してください 入力後にポケモン研究会にデータが送信されます』 「に…にひゃくごじゅう?!」 トパーズは驚きのあまり、ぺたんと尻もちをつく。 「ああ。だが、特攻と攻撃がかなりダウンするので滅多に使わないがな。」 「すごいや!名前、何にする?」 トパーズは、ティンクに歩み寄る。 「…名前?」 「そうだよ!だって、キミが編み出した技なんだもん!キミが名前つけないと!」 「『これ』の名前…か。」 ティンクは空を見上げる。 「スターフレア。ぱっと燃え上がる星の意。どう?」 トパーズは、笑顔でいう。 「ぴったりだな。」 ティンクは目を細める。 「でしょ。」 トパーズも、ティンクに合わせて笑う。 …その光景を見ていた者が、草むらに1人。 空を飛べるポケモンばかりを使う悪の組織、「ホーク団」の下っ端のアフェルスだった。 (あのブラッキー、あんな技を使えるのか…あのブラッキーがいれば『あいつ』を捕獲できるかもしれない…。) アフェルスはポケットから携帯電話を取り出し、何者かへと繋ぐ。 トゥウルルルル…。 トゥ…ピッ。 「アフェルスか、どうした?」 電話から聞こえてきたのは、低い男性の声。 「あっ、ボス!いやしたぜ!『あいつ』を捕獲できるようなすごいポケモンが!」 「何?…よし、分かった。至急、そちらに増援を送る。お前はそいつの詳しいデータと現在地を送った後、そいつを足止めしておけ。『あの機械』を使ってもかまわん。但し、絶対に殺すな。必ず生きたまま捕獲しろ。」 「了解…。」 アフェルスは電話の液晶画面を通じ、ティンクのデータを転送する。 「…素晴らしい…!アフェルス、よくやった。こいつは素晴らしい!こいつをもっと強化すれば、十分に『あいつ』に対抗できる!」 受話器から、リーダー核らしき男の笑い声が響く。 「お褒めのお言葉、ありがとうございます…。」 「ああ、では…健闘を祈る。」 電話は、そこで切れた。 「さぁーて、あのブラッキーのトレーナーにゃ悪いが…。」 アフェルスは、機械のリモコンを左手で握る。 「『レックウザ』捕獲のための駒になってもらおうか!」 ピッ…。 リモコンのスイッチが押された。 周囲に地響きが響き渡る。 「ヴォムゼラ、ティンク!気をつけて!何か来る!」 「はいっ!」 ヴォムゼラは、元気よく返事をする。 「我にまかせろ!」 ティンクは身構える。 その時、地面に亀裂が入り、地中から2本のロボットアームが現れた。 月の調べ 〜第3話 終わり〜 |
sk | #5★2004.08/05(木)14:53 |
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「くっ…!」 ガゴォォン! 襲い来る2本のロボットアームから逃げ回るティンク。 トパーズはどう指示をすればいいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。 月の調べ 〜第4話 対決!ホーク団!!(後編)〜 「たかが機械に…我は負けぬ!」 ティンクは2本あるアームのうちの1本に向かって「どくどく」を放つ。 だが何度やっても、素早い動きでよけられてしまう。 その時、ティンクが技を出した隙を突いて、もう1本のアームが3本の爪を開きティンクの背後から襲い掛かる。 「ティンク!後ろっ!」 トパーズが叫ぶ。 「っ…!」 ティンクはそれを、間一髪で回避する。 その時に機械の稼動音とは違う「何か」の音を聞いて、ティンクは叫ぶ。 「おい!トパーズ!気をつけろ!このアーム、電気が走ってる!まともに触れたら感電するぞ!」 「あ・・うっ、うん!」 トパーズは、相変わらずオロオロとうろたえている。 (どうしよう…こんな時、どうすればいいんだろう…。) 突然の事態に、パニックに陥るトパーズ。 その時、ヴォムゼラがトパーズの服を引っ張った。 「トパーズは…ティンク君のトレーナーだよね…。」 「ヴォムゼラ…?」 「僕も、トパーズさんのポケモンです!僕らも…ティンク君と戦うべきじゃないんですか?!たとえ、力になれなくても!」 トパーズはヴォムゼラに「忘れかけていた大切なこと」を思い出させられ、目を覚ました。 トパーズは、キッと2本のアームをにらみつける。 (ティンクの攻撃が全く当たらない、あの異常にすばやい動き…。おそらく、装甲が軽いためになせる技だ…装甲を軽くすると必然的に強度は下がる。1撃でも、1撃でも攻撃を当てることができれば…!) トパーズは、必死で策略をめぐらす。 そして、2本のアームが地面から出ていることに気がついた。 (そうだ…!あの部分だけは、狙われても回避ができない!) 「ティンク!アームの根元だ!そこを攻撃するんだ!」 トパーズは、ティンクに叫ぶ。 「承知した!」 ティンクは、アームの根元に向かって「どくどく」を放つ。 腐食性の高いその毒は、瞬く間にアームを溶かして切断してしまった。 溶けたアームの切り口から、火花ほとばしる。 「もう一発!」 ティンクはもう1本のアームにも、「どくどく」を放つ。 もう1本のアームも先程と同じように切断され、地面に落ちる。 ティンクの勝利だ。 「ティンク!大丈夫?!」 トパーズは、ティンクに駆け寄る。 「心配ない。どこにも怪我はない。…疲れたから少し、休ませてくれないか?」 ティンクは、息を切らしながら言う。 「うん、分かった。…ごめん、ちゃんと指示してあげられかった。」 「いや、トパーズのおかげで助かった。ありがとう。」 「ありがと。じゃ…ティンク、休んでて。」 ティンクの体を、フレンドボールの光が包む。 ティンクが、ボールに戻った。 と、その時。 「お、お前らあ!なな、何てことするんだぁ!」 草むらから小枝まみれで飛び出してきたのは、アフェルス。 「…オジサン、誰?」 トパーズは、ティンクの入ったボールを磨きながらいう。 「お…オジサン?!」 「オジサン、僕に何の用事?」 「おいガキ!オジサンとは何だ!「オニイサン」と呼べ!」 アフェルスは任務も忘れ、カンカンになって怒る。 「じゃ、お兄さん、何の用事?」 「あのなあ、お兄さんはなぁ…。」 アフェルスは、服の小枝をはらい落とす。 「お兄さんは?」 トパーズは、アフェルスに問い掛ける。 「…お兄さんはなあ、かの有名なホーク団なのだ!いけっ!リザードン!」 アフェルスは、そう言うとリザードンを繰り出した。 「……………。」 トパーズは、黙ったまま立ち尽くす。 「どうした!ホーク団と聞いて恐れをなしたか?!」 アフェルスは腰に手を当て、ふんぞり返る。 「いや、ていうか…フォーク団って何ですか?グルメ品評会?」 トパーズは、頭をぽりぽりとかく。 「フォークじゃない!ホーク!鷹!たか!タカ!」 アフェルスは、つばを飛ばしながら大声で怒鳴る。 「もう、何でもいいですから、バトルなら後にしてください。」 トパーズはアフェルスにそっぽを向けて歩き出す。 「おっと、逃げようったってそうはいかねえな!」 トパーズの前に、リザードンが立ちはだかる。 「さあ、怪我しない内にそのブラッキーをよこしな。」 アフェルスはトパーズへ手を伸ばす。 「いやです。」 「なら、力づくだ!行け!リザードン!」 「グォオオオッ!」 咆哮をあげて、リザードンがトパーズへ飛び掛る。 トパーズは、カバンから小さなおもちゃの様な銃を取り出す。 「あーあ。「力づく」って言っちゃいましたねー?なら、僕も自衛策を取らせていただきますからね!」 そういうと、トパーズはリザードンに向けてその銃を撃った。 パシュッ! 銃から光のようなものが発射され、リザードンに命中する。 シュワァァァ…。 リザードンの体はあっという間に小さくなって、最後には手のひらに乗るまでの大きさになってしまった。 呆然と立ち尽くすアフェルス。 「…モンスターボールの光と同じ原理です。一時的にそのリザードンを縮小しました。明日になればもとに戻るでしょう。さあ、帰ってください。僕は忙しいんです。」 トパーズは、アフェルスをにらみ付ける。 「あっ…あひぃぃぃ!」 アフェルスはリザードンをつかむと、奇声を発しながら一目散に逃げていった。 「ふう…結局なんだったんだろ?あの人。ティンクを食べようとするなんて。グルメはいいけど…程々にしてほしいよなあ。」 …トパーズは、まだ「ホーク」を「フォーク」と思っているのであった。 月の調べ 〜第4話 終わり〜 |
sk | #6★2004.03/17(水)16:43 |
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月の調べ 〜第5話 新たなる追っ手〜 うっそうと木々の生い茂る森の中を歩く、ティンクとトパーズ。 「もう休んでなくていいの?ティンク。」 トパーズは、ティンクに聞く。 「ああ。平気だ。」 ティンクは、トパーズの方を向きながら言う。 「…無理しないでね。」 トパーズは、心配そうにティンクの顔を覗き込む。 「無理はしていない。…トパーズこそ、怪我はないか?」 「うん、ティンクが戦ってくれたから…。」 「そうか、良かった。…おっと。」 ティンクは足元に生えていた小さな一輪の花を、踏まないようによける。 「ねえ、ティンクはボール嫌いなの?」 トパーズが、ティンクのボールを右手に持ちながらいう。 「いや…嫌いではない。何かあった時すぐに対応できるよう、外にいるだけだ。」 「ありがとう。」 トパーズは、笑顔で言う。 「…礼には及ばん。先を急ぐぞ。」 ティンクはそう言って、歩調を速める。 「何でそんなに急ぐの?」 トパーズは、早足で歩きながらティンクに言う。 「さっきイキナリ襲ってきたあの機械…あれと似たようなのが、再び襲ってくるかもしれない。ここは早く森を出たほうがいいだろう。」 そんな会話が2人の間で飛び交っていた、その時。 バサバサッ、バキィ! 近くの木で、木の枝の折れる音がした。 「な、何?!」 トパーズは木を見上げる。 木の枝を砕きながら、何かが落ちてくる。 「トパーズ!ふせろ!早くっ!」 危険を察知したティンクが叫ぶ。 「うっ、うん!」 トパーズは、言われるがまま地面へと伏せる。 ズゥン! 木から降りてきたのは、ロケットランチャーのようなものを手にした、一人の大男。 「やぁーっと見つけたべな。さ、とっとと捕まえて帰るべ〜。」 そう言うとその大男は、ロケットランチャーをティンクへと向ける。 ランチャーには、ピジョットのデザインが施されている。 「マッハ2!秒速約680メートル!捕獲率100パーセント!ピジョットランチャー、発射だべ!」 そう言うとその男は、ティンクへ向けてランチャーの弾を放つ。 弾が無音でランチャーからティンクの真上まで放たれる。 「つーかまえた、んだな!」 その大男が不敵にニッと笑うと同時に、ティンクの頭上で弾が激しい光と共に炸裂する。 「っ…?!」 ティンクはその光に、一時的に視力を奪われる。 それと同時に、ティンクの体の上に何かが覆い被さってきた。 振り払おうと手足をばたつかせるも、それは絡まるばかり。 やっと視界が晴れた時、ティンクの目に最初に飛び込んできたのは目を抑えてうずくまるトパーズの姿。 「トパーズっ!……?!」 トパーズの方へ駆け寄ろうとしたのだが、手足が上から覆い被さっている網の様な物に絡まって身動きが取れない。 「くそっ…!」 ティンクは、網に「かみつく」を繰り出す。 だがその網は硬く、とても噛み切れる様なものではなかった。 「そんな事しても無駄だべー。この網は鉄が織り込まれてるからなぁー。無理すると歯が欠けちゃうよー。」 後ろで響く、低い声。 ティンクのいる地面に、大きな影ができる。 先ほど木から降りてきた大男だった。 その大男は、ティンクに覆い被さっている網の端を手で束ね、片手でひょいと持ち上げる。 「はっ…離せ!」 ティンクが叫ぶ。 「そんなの嫌に決まってるべ。せっかく捕まえたのに、誰が逃がすべ?」 大男の目が、鋭くティンクをにらみ付ける。 ギリ、と歯を食いしばるティンク。 と、その時。 「…僕が逃がすんだよっ!」 大男の背後で、トパーズの声が響いた。 その声に、大男は後ろを向く。 そこには、まだチカチカする目を抑えながら立つトパーズの姿があった。 トパーズの手には、先ほどリザードンを小さくした銃が握られている。 「なーんだ。誰かと思ったらちっさいガキだべか。早く子供はお家に帰るだよ。お母さんが待ってるべ?」 大男は笑いながらいう。 「うるさいっ!ティンクを返せえっ!」 トパーズは大男に突進する。 「やれやれ…怪我しても知らねえだべよ!行くだべ!ピジョット!」 大男は腰のベルトにあるボールから、ピジョットを繰り出した。 「がんばれ!ヴォムゼラ!」 トパーズもヨーギラスのヴォムゼラを繰り出し、応戦の準備をする。 「ピジョット、一気に決めてやるべ!「つばさでうつ」!」 「ヴォムゼラ、「すなあらし」!」 同時に指示を出す2人。 ヴォムゼラの持っている「せんせいのつめ」が光り輝く。 周囲に砂嵐が巻き起こる。 その砂嵐のあまりの激しさに、視界はゼロになる。 「こんなんじゃ何も見えねえべ!けっ、運のいいやつだべ!」 大男が目を砂からかばいながら言う。 「まあいい、この砂嵐が晴れたら一気に決めてやるべ。」 大男は、のんきに座り込む。 その隙に、トパーズは大男のすぐそばまで来ていた。 そして砂嵐の晴れた、その時。 トパーズは大男の手に握られているティンクの入った網に先ほど手にもっていた銃を放った。 ティンクはあっという間に小さくなり、するりと荒い網の目を抜けて地面へと降り立つ。 「恩にきる、トパーズ。」 「当たり前でしょ、君のトレーナーなんだから。」 トパーズは片目をつぶって、ウインクをしてみせる。 「な、なんだべさー?!」 突然の出来事に困惑し、ずりずりと座り込んだまま後ろに下がる大男。 その大男の手に、何かがコツンとぶつかる。 「な、何だべ?」 そこには、目を回して横たわるピジョットの姿があった。 「な、なんで〜?!」 大男は悲鳴を上げる。 「あの「すなあらし」の中で、トレーナーが指示を出してあげないからだよ。いくら視界が利かないからって、放って置くのはまずかったね。悪いけど、その間に攻撃もさせてもらったんだ。」 トパーズはかすかに笑みを浮かべながらいう。 「だからって、そんなのにオラのピジョットが負けるはず…!」 「レベルが多少離れていても、「こうかがばつぐん」の攻撃を立て続けに受ければ、たいていのポケモンは「ひんし」状態になる。ましてやさっきはトレーナーからの指示がなかったんだ。急所に当てることはたやすいさ。」 トパーズはカバンから筒のような物を取り出し、大男に向ける。 「なっ、何をするきだべ!」 「君を警察に突き出すに決まってるでしょ。だから、今から君を捕まえるんだよ。この捕獲網で。」 トパーズは、筒のスイッチに手をかける。 「そっ、そんなのゴメンだべ!戻るべ!ピジョット!」 大男はピジョットをボールに戻すと木によじ登り、木と木の木の間を飛び回りながら、一目散に逃げていった。 月の調べ 〜第5話 終わり〜 |
sk | #7★2004.03/25(木)10:53 |
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「う〜ん、案外身軽だねぇ。」 目の上に手を当て、点のように小さくなった大男の背中を見送るトパーズ。 と、その時。 大男が木に登るときに木を蹴飛ばした衝撃で、木から1匹のワタッコが落ちて来た。 「わた〜!わたわた〜!」 ワタッコはおろおろと木の周りを歩き回る。 そして、トパーズとティンクに気がつくと、突然襲い掛かってきた。 月の調べ 〜第6話 迷えし森の試練?!〜 「わたわた〜!」 「僕は負けませんよ!」 体が小くなってしまっていて戦えないティンクの代わりに戦うヴォムゼラ。 しかし相性が悪い。ワタッコの攻撃に、ヴォムゼラは防戦一方だ。 「ヴォムゼラ!「すなあらし」だ!」 トパーズがこの不利な状況を何とかしようと指示を飛ばす。 ヴォムゼラとワタッコは、ほぼ同時に技を繰り出す。 ワタッコの放った技は「しびれごな」だった。 ワタッコの「しびれごな」が、風に乗りヴォムゼラへと襲い掛かる。 だが、ヴォムゼラの周囲に砂嵐が巻き起こり、それを吹き飛ばす。 大気を飛び交う砂に光は遮断され、ヴォムゼラの周囲の世界は真っ暗になる。 「よし!ヴォムゼラ、そのまましばらく待ってワタッコが疲れるのを待つんだ!」 トパーズは赤外線スコープを右目に装着し、ワタッコとヴォムゼラの戦いを見守る。 その時、「すなあらし」の中でうずくまっていたワタッコが起き上がり、「すなあらし」の風へと乗りヴォムゼラの方へ接近し始めた。 「まずい!ヴォムゼラ、ワタッコに「ずつき」だ!」 トパーズはヴォムゼラに大声で指示を飛ばす。 その声は「すなあらし」による音に消されることなく、ヴォムゼラへと正確に届く。 ヴォムゼラは砂嵐の中のかすかな影を見極め、右へと飛んで「ずつき」を繰り出す。 だが、「すなあらし」の生み出す風の速さがあだとなり、攻撃は空振りに終わる。 (すなあらしの中心には必ず、すなあらしを発生させているポケモンがいる。「すなあらし」を発生させる為に。技の選択を誤った…!これでは逆効果だ!) 「ヴォムゼラ!逃げるぞ!」 トパーズは黒いボールを地面へと投げつける。 そのボールは風船のように割れ、中から黒い煙が噴き出す。 「けむりだま」である。 「もどれ!ヴォムゼラ!」 トパーズはヴォムゼラをボールに戻すと、急いでその場を立ち去った。 「大丈夫だった?ヴォムゼラ。」 ワタッコから逃げ切ったトパーズは、ヴォムゼラに「ミックスオレ」を渡しながら言う。 「ありがとうございます。僕は平気です。」 「そか、よかった。」 トパーズはにこりと笑う。 「あ、あれ?」 ヴォムゼラが周囲をきょろきょろと見渡す。 「どうしたの?ヴォムゼラ。」 トパーズがヴォムゼラに聞く。 「ティンク君が…いないです…。」 「ふーん…って、嘘ぉ?!」 トパーズの声が森中に響き渡る。 トパーズは急いで右肩を見る。 先ほどまでここにティンクを乗せていたはずなのに。 「いない…。」 先ほど走ったときに落として来てしまったのだろうか…。 「ボールに戻しとくべきだった…!ヴォムゼラ!探しに行くよ!」 「はいです!」 そのころ、肝心のティンクは、というと…。 「くそっ、何だこれは?」 じたばたとワタッコの頭の綿の中でもがいていた。 トパーズは逃げるとき、別のワタッコとぶつかっていたのだ。 そしてその時に、ティンクはワタッコの綿の中に入り込んでしまったのである。 現在地は緑あふれる町、コートランシティ。 その一角の「ワタッコ森林公園」でございます。 森林の奥はワタッコが大量に出現し、危険ですので立ち入らないようお願いいたします。 月の調べ 〜第6話 終わり〜 |
sk | #8★2004.07/31(土)06:13 |
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「やれやれ…とんだ災難だった。」 やっとのことでワタッコの綿から逃れたティンクは、トパーズを探して森の中をうろついていた。 月の調べ 〜第7話 主の足跡 雲の間に隠れた闇〜 ティンクは、広大な公園の中をうろついているうちに大きな広場へと出た。 そこにいたのは、帽子をかぶり白い服を着た一人の人。 性別はおそらく男性、モンスターボールをいくつか所持していた。 (…この男、先刻襲ってきたリザードンと同じにおいがする…。) ティンクは体制を低くして、その男へと近寄る。 (小さいのも、なかなか便利だな。) 腰のモンスターボールの中には、小さくなってしまったリザードンがしょぼくれた表情でたたずんでいた。 (やはり、さっきのフォーク…じゃなくてホーク団員の男か…懲りもせずまだこんな所にいたとはな。…ボールに名前が書いてあるな。…アフェルスというのか。) と、そのときアフェルスの携帯電話が鳴った。 「おっと…ボスからか?」 アフェルスは緊張した表情で電話に出る。 「もいもし…なんだ、ライアンか。」 がっかりしたような顔で会話を続けるアフェルス。 「ライアン、そっちはどうだ?フィート…ネイティオは捕獲できたのか?」 (…フィート…?!まさか、主の…?) ティンクは声を聞き取りやすくするため、アフェルスにさらに接近する。 「…そうか、そっちもまだか。ああ、こっちか?」 アフェルスは、不敵ににやり、と笑う。 「順調すぎるぜ…!今、標的の真横にいる。」 言い終わるか終わらないか。アフェルスはクルリと振り向き、草の陰に身を隠していたティンクを草ごとつかんで持ち上げた。 「ライアン、捕まえたぜ。今そっちに行く。じゃあ、忙しいから切るぞ。」 アフェルスは携帯電話の電源を切ると、自分の目の高までティンクを持ち上げ、笑った。 「残念だったな、お前が近づいてきていることは、リザードンがちゃんと見て知ってたんだよ。」 ところが、ティンクは余裕の表情を浮かべ、微動だにしない。 「…そんなことで、我を捕まえたと思っているのか?」 そう言うとティンクは、アフェルスの指に力いっぱいに噛み付いた。 悲鳴をあげてしりもちをつくアフェルス。 それを差し置いて、かろやかに地面に着地するティンク。 「これにこりたら、もう人のポケモンを奪うなんていう、くだらない事はやめるんだな。」 そういって、ティンクはその場を去った。 月の調べ 〜第7話 終わり〜 |
sk | #9★2005.01/19(水)09:05 |
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いつしか日も暮れ、夜。 藍色と灰色が絡み合った空に、真っ黒な影を落とす森。 「不気味」という言葉がぴったりである。 月の調べ 第8話 星のない夜は 「ティンク、どこにいるのかな…。」 黄色の寝袋に入り、天を仰ぐトパーズ。 「無事だといいけど…。」 夜間の散策をあきらめ、寝ようとしたそのとき。 「おい、寝るなら向こうの方がいいぞ。ここは草むらが近いからな。」 背後から聞こえた、聞きなれた声。 「ティンク!」 そう言うやいなや、トパーズはティンクに駆け寄ろうとする。 …が。 「あいでっ!」 寝袋に足が絡まり、派手に転倒。 「あははははは…。」 恥ずかしそうに苦笑いするトパーズ。 「まったく、おっちょこちょいだな…。」 あきれたような、安心したような声でティンクは言った。 ティンクはいつのまにか、元の大きさに戻っていた。 体の模様が少し青白く、金に輝いていた。 いつも見ていたはずなのに、この日はやけにそれが美しく見えた。 その夜は、草むらから離れた木の根元で、キャンプを張った。 そして…朝。 トパーズ一行は、大変な窮地に立たされていた。 トパーズたちの周りには、いるわいるわ。ワタッコがずらり。 昨日のワタッコが、仲間を連れて報復にきたのだ。 「…どうしよ、ティンク。」 「話し合いでどうにかなる問題では…なさそうだな。」 ふう、とため息をつくティンク。 「争い事は本来、好きではないのだが…な。仕方ない。トパーズ、我が戦おう。」 ティンクは、数歩前に出る。争い事は本来好きではない…と言うわりには、とても楽しそうだ。 「我が相手になるぞ!さあ、どこからでもかかってくるがいい!」 いっせいにティンクに襲い掛かるワタッコたち。 ティンクは、それを片っ端から「かみつく」で倒していく。 数十分後。 一目散に逃げ帰ってゆく数え切れない数のワタッコたち。 と、息一つ乱さずそれを見送るティンク。 呆然と立ち尽くすトパーズとヴォムゼラ。 「やれやれ、もう少し骨があると思ったのだが。」 ふう、とティンクはまた、ため息をつく。 相変わらずの強さである。 いつもの光景が、やっぱり、うれしくて。 大切な日常。 普段ならすぐ手が届く。 でも、それは突然逃げていってしまったりもする。 だから、大切なのかもしれない。 「どうしたの、ティンク。浮かない顔して。」 トパーズは、心配そうにティンクの顔を覗き込む。 「いや…なんでもない。朝食を作るんだろう?手伝おう。」 そう言うと、ティンクは朝食の支度の手伝いに取り掛かった。 とても満足したような表情で。 月の調べ 第8話 終わり |
sk | #10☆2005.03/29(火)15:33 |
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月の調べ 第9話 到着とハプニング 目の前に広がる建物。 ついに、コートランシティにたどり着いたトパーズたち。 「…ここか?トパーズ。ピースフル地方、最初のジムのある場所は。」 ティンクがわくわくしたような表情で言う。 「戦闘場所が室内だから、スターフレアはやめといてね?」 トパーズが念を押す。 「分かっているさ。」 ティンクは空を見上げる。 「…一雨来そうだ。」 ヴォムゼラも空を見上げる。 「そうみたいですね。空気が湿ってますから。」 「じゃ、早めにポケモンセンターに行こっか。」 トパーズはヴォムゼラをボールに戻す。 と、その時。 どんがらがっしゃーん! 「るるー…。」 「…あいたた…もう、リリスってばぁ…。」 突如上空からトパーズたちの目の前に現れたのは、一匹のラルトスと金髪で金の瞳の女性。 「ひっ…人が落ちて…?!」 突然空から落ちてきた一人と一匹に驚き、トパーズは後ずさりする。 「…平気か?」 ティンクはラルトスを起こす。 「るるー、るるっ、るるるっ!」 大丈夫、と言うように、そのラストスは元気にジャンプする。 それを見たトパーズも慌てて自分のすべきことを思い出し、その女性に声をかける。 「ええと、大丈夫…ですか?」 「ああ、ありがとう。この子、テレポートが下手でさあ…。」 その女性は立ち上がり、ぽんぽんとズボンについたホコリを払いのける。 「私はメア。この街のサーカス団の一員よ。」 差し出された手を、トパーズは握り、握手を交わす。 「僕はトパーズ。で、この仏頂面のブラッキーがティンク。で、ボールに入ってるこのコがヴォムゼラ。」 ヴォムゼラは、ボールの中から笑顔で手を振ってみせる。 「全く、誰が仏頂面だ…。」 ティンクは空を見上げる。 「おい、もう降ってきそうだ。早くポケモンセンターに…」 と、その時。 「わーっ!すっごーい!!」 突然、メアが歓喜の叫び声を上げた。 「腹話術上手ね!うちのサーカス団に来ない?団長喜ぶよ!さ、早く早く!!」 「え、ちょ、ちょっとっ…!」 …トパーズたちは、強引にメアに引っ張られ…。 「…で、トパーズ…。」 サーカステントの舞台裏で、何故か舞台衣装に着替えているティンクとトパーズ。 「あ、あははっ…。」 気まずそうに、トパーズは笑う。 「何故…貴様はそれほどまでお人よしなんだ、この馬鹿!断わらないか!!」 「だって…メアさんが強引に…。」 「断るチャンスぐらい、いくらでもあったぞ!なんだ、このいくじなし!ホーク団とのバトルで、少しは肝が据わってきたと思ってたのに、オドオドオドオドと…。」 「…まぁ、いいじゃんvそんなに怒らないでよv」 いつもどおり、笑ってごまかすトパーズ。 「よくないッ!何だ、このピンクやブルーのひだひだフリフリひらひらした、キラキラぴかぴかツルツルした飾りは?!」 「…そんなこと言いつつ、きちんと着替えてるじゃん。」 「一度引き受けたんだから仕方ないだろう。いまさら逃げ出したりしたら、迷惑が掛かるからな。」 散々文句は言ったが、いつもどおりマジメなティンク。 「でも、腹話術と勘違いされちゃうなんてね…。」 「まあ、普通我らが喋ることは無いのだから…当然か。」 「これからは、喋らない方がいいかもね?」 「ああ…。」 ガチャリ、と後ろのドアが開いた。 「おっまたせー!着替え、終わった?さささ、こっち来て!!」 メアが満面の笑みを浮かべ、ドアの向こうに立って手招きをしている。 「あ、はいっ!!」 トパーズたちは、駆け足でそちらへと向かった。 月の調べ 第9話 終わり |
sk | #11★2005.05/21(土)08:33 |
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月の調べ 第10話 再戦!ホーク団!! 「団長!このタッグが今回スカウトしてきた、超有望な天才さんです!!」 メアが背中を向けて座っている、大柄な男性に声をかける。 「あー?またおまえは人様に迷惑かけただか?どうせまた、無理矢理連れてきたんだべ?」 聞き覚えの、ある声。 「すまねえなぁ、うちの団員が迷惑かけただ。」 その男は、ゆっくりとイスから立ち上がり、振り向いた。 「あなた、この間の…!?」 トパーズは驚いて、半歩後ろに下がる。 その大男は先日、森で出会ったホーク団の一員のピジョット使いだったのだ。 「チィ、まさかこんな所で会うとは…。」 ティンクは姿勢を低くし、身構える。 「…んあ?どこかで会ったべ?」 ところが、相手は着替えたトパーズたちに気付いていないようだ。 「まぁーた、可愛らしいお嬢さんとブラッキーだべなぁ。」 「か、可愛いお嬢さん…?!」 …確かにトパーズは、少し女顔では、あるが。 帽子を被っていたせいも、あったのだろうが。 「団長、今回は無理矢理じゃないですよ。…よね?」 メアが、トパーズに詰め寄る。 「ええ…まあ。」 少し曖昧だが、返事を返すトパーズ。 いいえ、と言える雰囲気では、無かった。 「じゃあ、今から舞台でやってもらいますから、団長は観客席の方に移動しといてくださいね!」 ずるずる、と再びメアに引っ張られ。 トパーズたちは、再び舞台裏へと戻った。 「…あの、メアさん?ちょっと、話があるんですけど。」 トパーズは、小道具の入った箱を片付けているメアに声をかける。 「はい?何?まだ少し…時間はあるよ?」 「いえ、そうではなくて…さっきの、団長さんの事なんですが…。」 「ああ、ビグルフ団長が何か?」 あの大男の名は、どうやらビグルフというらしい。 「実は…。」 トパーズは森で起こった出来事を、事細かにメアに伝えた。 ビグルフがホーク団の一員であること、ティンクを狙ってきたこと。 メアも、すぐには信じられないようだったが。 「…確かに…。」 暫くたって、メアが口を開いた。 「確かに、その時間団長は出かけていて、帰って来た時に服に砂がついていたし、あの団長のピジョットが珍しく負けたと聞いていたから、はっきり覚えてます。」 「…ほぼ間違いない、な。」 ティンクが立ち上がる。 「でも…あの人がそんな事をするなんて…。」 メアは、困惑を隠しきれない様子だった。 「…おい、メア。」 ティンクが、メアに声をかける。 「今から起こることは、真実だ。目をそらさず、きちんと見ておくんだな。」 「メアさん、行ってきますね。」 そうしてティンクとトパーズは、ステージへのドアを開けた。 スポットライトに照らされた、音楽の流れる賑やかなステージ。 目の前の客席には、ビグルフが腰掛けていた。 「まぁ、緊張せずにやってくれりゃーいいべな!」 笑顔で、声をかけてくるビグルフ。 「確かにメアさんの言う通り…にわかには信じられないけど…。」 「フン、本当の悪人は…どいつもこいつも、うまく化けるもんだ。」 「…そんなもんなのかなぁ。」 「そういうものだ。」 2人は、小声でひそひそと会話を交わし。 「ところでビグルフさん、以前…お会いしませんでしたか?」 トパーズが、帽子を脱いだ。 「んー…?…ま、まさかおめえら?!」 ようやく気付いたビグルフは、慌てて立ち上がる。 「いくぞ、トパーズ!」 「オーケー!!」 次の瞬間、2人は素早くサーカス衣装を脱ぎ捨てた。 下には、普段通りの服。 「いけぇ!ヴォムゼラ!」 ボールが開き、赤い閃光とともにヴォムゼラが飛び出す。 「負けませんよ〜!!」 気合十分、といったところか。 「いくべ、ピジョット!クロバット!」 ビグルフも、それに対抗してポケモンを繰り出す。 2本の光が、まるで矢のようにテントの上へと飛んでいく。 「何…?上に…?!」 ティンクは上を見上げる。 だが、スポットライトが眩しく、相手がどこにいるか分からない。 「チィ…。」 頼みは「音」だが、クロバットの羽音はとても聞き取ることは出来ない。 ピジョットの羽ばたく音も、様々な方向から聞こえるステージ音楽にかき消される。 「まずい、な…。」 ティンクは、悔しそうに舌打ちをした。 あざ笑うかのように、楽しそうに。 あちらこちらから、ステージ音楽が鳴りつづけていた。 月の調べ 第10話 終わり |
sk | #12★2005.05/21(土)08:39 |
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上空から、クロバットの「エアカッター」が2匹に放たれる。 だが、当然2匹が気付くわけは無い。 真上から照り付ける無数のスポットライトで、相手の姿は光の中。 その上ステージ音楽が、音までも消しているのだから。 「…危ないっ!」 「わっ…?!」 とっさに、ティンクがヴォムゼラを庇った。 ティンクの右肩に、軽い痛みが走る。 「す、すみません…ティンクさん。」 「気にするな、それより次が来る…!」 月の調べ 第11話 曲芸師は笑う<前編> 2匹は、微かに聞こえてくる技の発動音のみを頼りに、ひたすら逃げ回るしかなかった。 そのすぐ横で、必死に策をめぐらせるトパーズ。 (ここはサーカステントの中…大技は使えない…僕のスコープなら、2匹の動きは見えるけれど…。) トパーズは、上を見上げる。 猛スピードで動き回る相手。それを見て大声で伝えたところで、対応が間に合わない。 攻撃を放っても、避けられてしまうだろう。 このスコープをティンクたちも使えればよいのだが、それも出来ない。 (何か…何か…?!) 必死で策をめぐらすが、何も思い浮かばない。 ポタリ、と床に汗が落ちる。トパーズはそれを目で追い、地面を見た。 (…汗…。) と、突然、トパーズはハッと顔を上げた。 (…汗…?!) 普段、一度につけないライトまで一気につけているせいだろう、かなり暑い。 ステージに入った時より照明がきついのは、恐らく上に2匹を放ったスキにつけたのだろう。 だが、照明のスイッチの場所が分からない。探そうにも、ビグルフがいる。 あの大男と接近戦になれば、ほぼ100パーセントかなわない。 「まてよ…そういえば、確か…!!」 観客席の電気は、消えたまま。 トパーズの後ろには、丁度観客席の照明のスイッチがあった。 「イチかバチか…これでっ!!」 トパーズは、観客席のスイッチを全て入れた。 …次の瞬間、バチンという音とともに、全ての明かりが消え、辺りは暗闇と静寂に包まれる。 「なっ…なんだべさ?!なして電気が消え…?!」 慌てふためくビグルフ。先程まで相当明るかった影響で、全く何も見えない。 「簡単なこさ。ブレーカーが落ちたんだよ。」 暗闇の中で、どこからともなく聞こえてきたのは、トパーズの声。 「…一気に電気がついたから、膨大な電気が流れた。すると安全のために、ブレーカが落ち…回路は遮断され、電気の供給はストップされる。」 「ぐむむっ…。」 ビグルフは、数歩後ろに下がる。 「復旧にはもとの電源を操作する必要があるけれど…制御装置は控え室…手の届く範囲じゃない。…これで、照明による目くらましは封じたよ!」 暗闇に目が慣れはじめ、それぞれの位置関係が分かりはじめる。 まず、一番に確認できたのはティンクの姿。わっか模様の光で、割と早く場所がわかった。 その横にはヴォムゼラが、トレーナーのトパーズは舞台の端に。 そしてピジョットとクロバットは、観客席側の上空の照明へととまっていた。 「さあ、これで堂々と戦える…覚悟しなよ!」 …それを見て、ふふ、と誰も分からないくらい小さく、ティンクは笑った。 (だいぶ…戦闘にも慣れてきたというか…随分しっかりしてきたな…。) 以前は窮地に陥った場合、半パニック状態になってしまっていたが、今ではきちんと落ち着いて作戦立てが出来ている。 冷静に状況を見極め、きちんとした指示を出せている。 先程も、トパーズはクロバットが暗闇が得意であるのを知っていた。 暗闇での戦闘になれば、目が慣れるまで反撃は不可能。そのスキにかなりのダメージを負ってしまうだろう。 だが、ついさっきまで明るかったので、暗闇の得意なポケモンでも目の慣れるのには時間がかかる。 暗闇に慣れるまでは、やはりティンクのわっか模様が光っていても、狙いを定めるのは難しい。 しかし、復帰はクロバットが断然早い。暗闇で活動するポケモンなのだから。 その状況でティンクにちょっかいを出せば、レベル差があってもかなりしっかりしたダメージを与えることは可能だ。 しかし、トパーズはスコープがあるので暗闇でも行動・指示が出せる。 …勿論、ここで2匹に攻撃しても当たらない。ティンクとヴォムゼラには、2匹の位置は分からないのだから。 だが、ビグルフを攻撃する…ということは可能だ。その場合、クロバットはティンクと戦っていては対応できない。 そして、クロバットがビグルフを守るため、ビグルフの目が慣れるまでは攻撃してこないのも予想済み。 クロバットはポケモンとトレーナー、2人の信頼関係がよほど深くないと進化しないポケモンなのだから。 「へっ…だけんど、まだまだこのテントには、仕掛けがいくらでもあるんだべ!例えば…ピジョット!クロバット!」 2匹は、照明の鉄枠から足を離す。 「…『光炎万丈』!!」 ビグルフの指示を聞き、天上から垂れ下がっているカラフルなロープのうち、ピジョットは黒、クロバットは紫を勢いよく引っ張った。 次の瞬間、地響きとともにステージの一部が沈み始める。 「何だ…?」 「わわっ…?!」 2匹はステージの隅へと寄り、安全を確保する。 …せり上がってきたのは、上空に向いた5個の火炎放射器と、数十個の岩の設置されたバトルフィールド。 照明とは別の電源で作動していると思われる。 「ジムにあるフィールドに全く劣っていない…火炎の威力は、当たったら相当なものだ…!!」 「ふっふっふ…これは、火の輪くぐり曲芸用のステージだべ!不慣れなフィールドでは、いくら強くとも不利は必至!!…さあ、こっからだべな!」 月の調べ 第11話 曲芸師は笑う<前編> 終わり |
sk | #13★2005.07/03(日)10:10 |
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「ピジョット、『フェザーダンス』! クロバット、『どくどく』! じわじわいくべ!」 「ティンク、ヴォムゼラを守って!!ヴォムゼラは『すなあらし』で『どくどく』を吹き飛ばすんだ!」 ティンクは『フェザーダンス』をヴォムゼラの代わりに受ける。 彼の技は特殊技のみ。物理攻撃力を下げる『フェザーダンス』など、怖くはない。 ヴォムゼラも、うまく砂の防護壁で『どくどく』を遮る。 月の調べ 第12話 曲芸師は笑う<中編> 「なかなか、やるべな…じゃあ、これはどうだべ! ピジョット『こうそくいどう』! クロバット『いやなおと』!」 「ヴォムゼラ、『あなをほる』で地中へ逃げてかわして!ティンク、ピジョットに『かみつく』っ!」 「まかせて下さいっ!」 『いやなおと』をヴォムゼラはすんでのところで回避する。 「甘い…見切ったッ!」 ティンクの『かみつく』も華麗にヒット。 ピジョットはティンクとともに地面に落ちるが、ティンクを振り払いまた空中へと戻っていった。 「チッ…しかし、ヴォムゼラばかり狙ってくるな…。」 ティンクは、ビグルフを睨む。 「攻撃を分散させるより、片方を集中して倒したほうが効率がいいからね…。ヴォムゼラには厳しいかな、今回は。」 「だが、勝てる。このままいけば、な。」 「うん…普通に戦えば火炎放射器の炎には当たらないで済む、大丈夫だ。」 ヴォムゼラが、勢いよく掘った穴から飛び出してきた。 勿論、空を飛んでいる相手には当たらない。 「がはは、それなら『すなあらし』の方が良かっただぁよ! 隙だらけだべ! クロバット、『どくどく』!」 クロバットの攻撃が、穴から飛び出してまだ空中にいるヴォムゼラへと襲い掛かる。 「…残念、かかったね…! ヴォムゼラ、『まもる』! ティンク、『かみつく』ッ!」 「な…! し、しまったべ!」 攻撃を空振りしたクロバットに、ティンクの一撃が炸裂する。 クロバットは少しふらついたが、すぐに体制を立て直した。 「チィ…まだまだだべ! ピジョット、クロバット! 『ふきとばし』!!」 「何を…? 僕の手持ちはこの2匹だと知っている筈…『ふきとばし』は…!」 それを聞いたビグルフは、にやり、と口元だけで笑った。 「効果が無い…と言いたいんだべか? ところがどっこい!!」 2匹が『ふきとばし』を放つ。 「なっ…?!」 「こ、これは…っ?!」 「しまった…2匹の『ふきとばし』の風同士が絡み合って…! 火炎放射器から出る炎を巻き込んで…まるで『ほのおのうず』だ!」 一瞬のうちに、2匹は炎に完全に囲まれてしまった。 「これだけだと思わない方がいいべさ! クロバット『どくどく』! ピジョット『こうそくいどう』から『はがねのつばさ』!」 空気の渦に巻き込まれ、中に閉じ込められている2匹に『どくどく』が雨のように襲い掛かる。 「く…うぁ…!」 「わぁ…!」 そしてその渦が晴れた次の瞬間、ピジョットの『はがねのつばさ』がティンクにクリティカルヒットした。 渦の中でヴォムゼラを守っていたせいで大量の猛毒を浴びてしまっていたティンクは、毒により身動きが取れない状態になってしまい、攻撃を回避できなかったのだ。 殆ど声になっていない悲鳴とともに、ティンクの体は空中へと放り出される。 「ティンク!!」 トパーズの悲鳴に近い叫び声が、炎によって赤く照らし出された薄暗いテントに響き渡る。 相手の攻撃は、まだ終わらない。 クロバットは今度は『エアカッター』を放った。 ティンクにダメージを与えるとともに、ヴォムゼラを足止めして援護をさせないためだ。 受身も取れず、ティンクはまともに地面へと叩きつけられる。 だがティンクは、この凄まじい猛攻を受けても、なお立ち上がろうとする。 しかし、もう体が言うことを聞かない。ティンクは地面へと崩れ落ちる。 …ティンクは戦闘不能、トパーズの戦力はヴォムゼラのみになってしまった。 もっとも、通常の『どくどく』と攻撃なら、これほどのダメージには至らない。攻撃を食らっても、全ての毒を浴びることは無いからだ。 だがティンクは渦の中にいたので、放たれた猛毒をほぼ全て浴びてしまっていた。 そのため、毒により麻痺に近い状態に陥り、更に回復する暇すら無いような凄まじい猛毒と攻撃ダメージにより、一瞬で倒されてしまったのだ。 「そ、そんな…?!」 あのティンクが一瞬にして倒されてしまうなど、トパーズは想像もしていなかった。 「もっ…戻って、ティンク…!」 トパーズは、慌ててティンクをボールに戻す。その手と声は、震えていた。 ヴォムゼラと相手2匹の間には、力量の差がありすぎる。 …もう、これでは勝てない。勝てそうに無い。 「どう…すれば…?」 トパーズは、頭の中が殆ど真っ白になってしまった。 ――このまま、負けるのか? もうそのことしか、考えられなかった。 月の調べ 第12話 曲芸師は笑う<中編> 終わり |
sk | #14★2006.04/06(木)22:33 |
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「だっはっは! そのヨーギラスさえいなければ、そいつをかばって倒されることも無かったのに…大変だべなぁ、足手まといのせいで!」 ビグルフはもう勝ったも同然、と言った感じの態度だった。 トパーズはうつむいたまま、何も返事を返さない。 月の調べ 第13話 曲芸師は笑う<後編> …炎の揺らめく音とピジョットの羽ばたきの音以外、何も聞こえてこない。 しばらくの間、沈黙が続く。 「…ううん、こんな弱気じゃあ…君に笑われちゃうよね。」 沈黙を破ったのは、トパーズだった。 トパーズは、手持ちの携帯回復装置にティンクのボールをセットする。 (ポケモンセンターに行くまでの間…頑張ってね、ティンク…!) 通常、モンスターボール内であれば一定値以下に体力は下がらない。 だがあまりにひどい毒のため、ティンクは今も弱り続けてしまっている。 これを子供のヴォムゼラが受けていれば、相当危険だったであろう。 「ヴォムゼラは足手まといじゃない…僕が…。」 そこまで言うと、トパーズはまた喋るのを止めた。 少し間を置いて、再び喋り始める。 「…僕が、証明してやるさ。」 トパーズは勢いよく顔を上げ、キッとビグルフを睨みつける。 自信に満ちたその表情は、どことなくティンクを思わせた。 「どうやって、だべ?」 「さあ、作戦を敵に教えると思う?…ヴォムゼラ!」 トパーズは攻撃に巻き込まれないよう、後ろに飛ぶ。 そして、つま先で地面をトントン、と数回蹴った。 「生意気な…!!さっきと同じ作戦で片付けてやるべ!」 再び、2匹が『ふきとばし』を放つ。 またしても一瞬のうちに、ヴォムゼラは炎に完全に囲まれてしまった。 「クロバット『どくどく』! ピジョット『こうそくいどう』!」 空気の渦に巻き込まれ、中に閉じ込められているヴォムゼラに『どくどく』の雨が襲い掛かる。 間髪いれず、ビグルフが叫ぶ。 「ピジョット、『はがねのつばさ』でとどめだべ!」 渦の晴れた直後、再びピジョットはそこに突っ込んだ。 だが、そこにヴォムゼラの姿は無かった。 「な…?!」 困惑し、ピジョットのスピードが大きく落ちる。 「…今だ、ヴォムゼラ!『あなをほる』から『ずつき』!!」 「はいっ、いきますっ!!」 低空飛行していたピジョットに、『あなをほる』の威力も加わった『ずつき』が炸裂する。 岩の欠片が飛び散り、あたりに降り注いだ。 「く…!」 ビグルフが腰にしていた2匹の空のボールが、石に当たり弾き飛ばされる。 ピジョットはそのまま、地面へと倒れこむ。 「…これでも、足手まといと?」 「…な…なんでだべ?! 指示も出してねえってのに…!!」 それを聞いたトパーズはくす、と笑うと、トントンとつま先で地面を蹴って見せた。 「モールス信号…って知ってる? アレと似たような奴だよ。…かなり単純化してあるんだけど。」 「くっ…それで指示を出したんだべか…。」 「その通り。使う場面は限定されるけど…ね。うるさいと、きちんとヴォムゼラに伝わらないし。」 と、その時だった。 「キシィ…バキィン!」 「『?!!』」 バトルで損傷していた火炎放射器の1つが、止め具が壊れて倒れこんできたのだ! しかもその先には、戦闘不能に陥って身動きの取れないピジョットがいる!! 「ピ…ピジョットぉおっ!!」 ボールに戻せればよかったのだが、ビグルフの手元にはボールが無い。 何とビグルフは、ピジョットをかばうため、火炎放射器が倒れていく場所に向かって突進していった! 「無茶だ! 人間があの炎を受けたら…!!」 「分かってるべ! だがなぁ、見てるわけにもいかねえだろっ…!!」 ビグルフは最後の加速に、ダンッと大きく踏み切ってピジョットに向かっていった。 一瞬、時が止まったような。 そんな感じが、した。 「ビグルフーッ!!」 トパーズが思わず叫ぶ。 …時が再び動き出す。 最後の金具の外れた火炎放射器は、勢いよくピジョットとビグルフに向かって倒れこんだ。 月の調べ 第13話 曲芸師は笑う<後編> 終わり |
sk | #15☆2006.04/06(木)22:31 |
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一瞬、黒い影が炎に照らされたフィールドを駆けた。 と同時に火炎放射器は何かに弾かれ、ビグルフ達へは直撃せずに地面へと倒れこんだ。 ゆらめく陽炎の向こうで、星が光ったように見えた。 「あっ…?!」 「全く…無茶な人間だ…。」 月の調べ 第14話 新たなる目的 「ティンクさん?!」 そう、火炎放射器からビグルフ達を守ったのはティンクだったのだ。 ヴォムゼラは、慌ててティンクに駆け寄る。トパーズもすぐその後を追った。 少し遅れて、クロバットも寄ってきた。先ほどビグルフを助けにいけなかったのは、飛び散った石の破片で翼を痛めていたためのようだ。 まだ辛そうに低空を這うように飛んでいる。傷は浅そうだが、まだ翼が衝撃で痺れているようだ。 「『スターフレア』で軌道を捻じ曲げた…。この状態では…これで精一杯だったがな…。」 ティンクは、僅かに傷の入った程度の火炎放射器をちら、と横目で見た。 「な、なして助けたべ?! 下手すりゃあ、お前だって巻き込まれてたべ!」 ビグルフはがば、と立ち上がる。 ピジョットは片方の翼をかばうように座っているが、それ以外は割と元気そうな様子だ。 「何故…か。さあ…我も知らぬ…。ただ…。」 言い終わる前に、ティンクは床に崩れ落ちる。 「ティンク?!」 「おっ…おい、お前さん…しっかりするべな!」 「ははっ…やはり、ボールから出るんじゃ…なかったな…。くそ、力が…早く…。」 ティンクをフォローしようと触ったビグルフは、その異常なまでに高い体温に目を見開いた。 普通なら動けもしない体力で、大技を放ったのが原因だった。 「分かってるべ、早くポケモンセンターにっ…!! その体でボールから出てくるなんて…死ぬ気だべか?! おい、早くコイツをボールに!」 「はっ…はいっ!」 トパーズは、慌ててティンクをボールに戻そうとする。 「ちがうっ…! 早く…早く逃げろォッ、皆!!」 「え…?!」 「みんな、これを見てください! 早く逃げるです!!」 ヴォムゼラが指差していたのは、先ほどからの衝撃を蓄積して… 「まずいべ、早く逃げねえと爆発するっ!!」 「火炎放射器か…ッ!! 戻って、ティンク、ヴォムゼラ!!」 「クロバット! すまんがフォローを頼むべな! ピジョットを…!!」 慌てて逃げようとするトパーズたち。だが…!! 閃光が一閃、トパーズは思わず目を覆った。 …が、いつまで待とうが灼熱の炎も、大爆発の轟音も、襲い掛かってくることは無かった。 「…?」 恐る恐る目を開けると、そこにはあのラルトスの姿が。 僅かに破片が周囲に散らばっているだけだったが、大きく破損した火炎放射器の本体部分には、確かに大爆発を起こした痕跡があった。 「何が…一体…?」 カシン、と金属の少しこすれる音と共に、ポケモン図鑑が作動する。 『NO DATA いりょく:-- めいちゅう:100 PP:20 タイプ:エスパー 相手の攻撃を、呼び出したブラックホールに吸い込み無効化する。 連続で出しても失敗しないが、「まもる」などと違い相手より素早さが高くないと通用しない。 使用後、1割の確立で特攻が1段階減少。 この技に該当するデータがありません これは未発見の技です 名前を入力してください 入力後にポケモン研究会にデータが送信されます』 「『ダークネス』…リリスの特殊技なの」 いつの間にか、トパーズの背後にはメアがいた。 「ダーク…ネス…?」 「…セットの後始末は私がしておくわ。団長との話し合いも…さ、早くその子をポケモンセンターに。」 メアは視線を落とし、ちらとビグルフを見る。 「あっ、どうも…では、失礼します!」 トパーズは、慌ててトパーズはポケモンセンターに走り出す。 履いていた靴のスイッチを押し、加速する。 と、その時。 突然ピッ、とポケモン図鑑が反応し、データが送信された。 「え、あ…あれ、何で入力してないのに…?」 確かに画面には「ダークネス」という名前と「送信完了」の文字。 「いや…それより…!!」 ポケモンセンターに駆け込んだトパーズは、緊急窓口にティンクのボールを渡す。 「お願いします…!! 症状はクロバットからの『どくどく』と、猛毒状態に大技を使用したことによる体への負担による発熱です。」 震える声で、何とか最後まで言い切るトパーズ。 「分かりました、お預かりします。治療完了まで奥でお待ち下さい。」 慣れた口調でボールを受け取り、治療室へと運ぶ。 「この書類に記入を…。」 渡された書類に記入しながら、トパーズは奥へと進む。廊下にある小さな椅子に案内され、そこに腰掛ける。 書類はすぐに書き終わったので、座るとほぼ同時に手渡した。 「…あちらの窓から、ティンクちゃんのご様子はお伺いになれますが…」 「あ、みっ、見ます!!」 慌てて立ち上がり、窓ガラスにへばりつくトパーズ。 そこにいたのは、さまざまな機械につながれたティンクの姿。 その光景に、トパーズは言葉を失った。 「もうすぐ目が覚めると思いますが…暫くは、全身に回った毒の影響で歩くのも困難でしょう…。」 「そう…ですか…。」 「はい…元のように戦えるようになるまでは、早くても1ヶ月は必要でしょう…。」 「そんな…。」 「この子の持つ特殊技の反動が主な原因ですね…通常なら、この量の毒でも1週間あれば回復します。ステータス異常のある場合、あまりこの技の使用はお勧めできません。」 「…はい…。」 トパーズは、暫くティンクが回復するまで通常の待合室で待機することになった。 …と。 「トパーズ! いるべかぁ?!」 息を切らして駆け込んできたのは、ビグルフとメア。 「ティンクは?! 平気かっ?!」 トパーズを見つけ、急いで駆け寄ってきた。 「え、ええ…何とか。」 「いや…本当、すまんかったべ…!!」 言い終わると、ビグルフは突然がば、と土下座した。 トパーズは少し目を丸くしたが、すぐに普段の表情へ戻る。 「いいですよ。…顔、上げてください。やっぱり理由があったんですね…ビグルフさん」 ビグルフは、恐る恐る顔を上げた。トパーズは、安心したような笑みを浮かべていた。 「ああ…アイツ、レックウザに...ただ憧れてただけだったんだべ。だが…いつの間にかこんな事やっててなぁ…気付いた頃には引き返せなくなってて…全く、何やってんだか」 「…。」 トパーズは、ちらとクロバットの入っているボールを見る。 「大丈夫、今からでも戻れますよ」 「…幹部クラスの裏切りを、普通許すべか?」 「皆がいるじゃないですか、戦えばいいんです。」 トパーズはしゃがみこみ、ビグルフと目の高さをあわせる。 「…。」 「大丈夫、あなたはそのままでいい…」 意味ありげな台詞を言うと、トパーズはウインクした。 「それは…どういう…?」 「あなたが次の悪事を働かなきゃいけなくなる前に、ちゃちゃっと壊滅させてきますよ。僕達で。」 とんでもないトパーズの発言に、大慌てするビグルフ。 「…な、正気だべか?!」 「はい、勿論!」 満面の笑みで、返事を返すトパーズ。 「…まあ、それには我も同意だが、な」 トパーズがその声に慌てて振り向くと、そこには元気そうにこちらに歩いてくるティンクの姿があった。 「え…? ちょ、ティンク?! もう歩けるの?!」 慌ててティンクに駆け寄るトパーズ。 が…慌てすぎて足が絡まり、トパーズは派手に転倒した。 「フン…ちゃちゃっと壊滅させるんだろ? とっとと行くぞ」 つん、と転んだトパーズの頭を鼻でつつくと、すたすたと歩き出した。 タフなヤツ、とぼそりと呟くトパーズ。 「…何か言ったか?」 じろ、と睨まれ、トパーズはぶんぶんと首を振る。 地獄耳…! などと呟きかけたが、心の中だけで止めておいた。 月の調べ 第14話 新たなる目的 終わり |
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