えるる | #1★2004.05/14(金)17:00 |
---|
〜プロローグ〜 私はハネッコ。 ふわふわ飛んで旅をしているの。 旅って言ってもただ風に流されて行くだけなんだけどね。 つまらなくないかって? そんなのぜんぜん。 むしろとっても楽しいわ。 だってみんなのいろいろな顔が見れるんだもの。 そしてそれをひとつずつ 頭の中で絵本にしていくの。 それをまとめたものが 私だけの「風物語」。 私が感じた風のひとつひとつに 物語があるの。 風っていつも忙しいみんなには同じに感じるかもしれないけど、 同じようでみんなちがうのよ。 怒っている風、 泣いている風、 笑っている風。 今日の風はどんな風? あなたも心の目を開いて、 感じてみたらどうかしら? え? どれもはじめてで違いが分からないって? じゃあ 今から私が感じてきた全ての風を 私の「風物語」を ひとつひとつ 紹介してあげるね。 |
えるる | #2★2004.07/10(土)17:38 |
---|
【第一章 春の風】 春の風は暖かく、全てを祝福しているよう。 でも時にはそれはうざったく、 時には全てを笑うよう。 第一話 〜春一番〜 《それは全ての者に春の訪れを告げる喜びと慰めの風。》 私の横を一筋の風が走っていく。 私の涙を乾かしながら。 私を慰めるように。 慰めなんていらない。 今日、私の全てが否定された。 私は今までみんなの迷惑にならないように耐えてきたのに どんなことをされても耐えてきたのに ただ自分の花を盗られただけで そんなの私が受けてきた屈辱と比べればなんてこともないのに なのに それが重大なことと言われ そんなことをされたら誰かに助けてもらえって言われて それを聞いたら私がいままで耐えてきたことが無駄だったように思えて 私の頬を一筋の涙が伝った。 みんなの前で泣くこと以上の屈辱はないのに。 なのに 風はそんなのなんてことないと言うように 私の紫の頬を吹きぬけていく。 私はただのムウマ。 決して強くない ただのいじっぱりなムウマ。 |
えるる | #3★2004.05/20(木)19:21 |
---|
第二話 〜東風〜 《それは春一番に続く祝福の風》 窓の外を春の風が吹き抜けていく。 それは病気がちなぼくに「外においでよ」と話し掛けてくるようだった。 でも ぼくは喘息のせいでなかなか外に出られない。 春は花粉などもあるから余計に出られない。 だけどぼくは ないしょで外に出てしまったんだ。 春の風をあびたかったから。 ぼくのポケモンが欲しかったから。 ばくはあるトレーナーに手伝ってもらいながら なんとかポケモンを捕まえた。 白い体に赤い角がある ぼくのはじめてのポケモン ぼくのはじめての友だち。 それからぼくは 少しづつだけど 明るくなって 元気になって ポケモントレーナーになって いつかあのトレーナーに勝てるように がんばってるんだ。 |
えるる | #4★2004.05/16(日)13:46 |
---|
第三話 〜春嵐〜 《それは春に起こる災いの嵐》 私は風より速く野原を走る もっともっともっと速く もっと速く行かなくちゃ…! 山のふもとの村まであと少し 急がなくちゃ 災いはすぐそこまで来てる。 早くしないとみんなが あとちょっと… 痛っ! 足を挫いたって止まるわけにはいかないの… これが私の役目だから… 「見ろ!あの崖の上を!あいつがいる!災いが起こるぞ!みんな逃げるんだ!」 かすかに聞こえる人の声。 間に合ったみたい… がやがやと人やポケモンが去って行くのがわかる。 この山にいるのは私だけ。 もうこれで、私の役目は終わったのね。 私のこの足ではもう逃げられないけど みんなは助かるわ…。 解けかかった雪で真っ白な山の上を春の暖かい嵐が通り、雪は全て雪崩となって消えた。 一匹の雪のように白い体と夜の闇のように黒い角を持ったポケモンと だれもいない村の民家や市場とともに。 さっきまで賑わっていた村とともに。 |
えるる | #5★2004.06/27(日)16:40 |
---|
第四話 〜薫風〜 《それは緑の匂いを運ぶ風》 そこは一面緑の世界。 永遠に緑の常盤の世界。 どんなに壊したって どんなに荒らしたって 自分で治る緑の世界。 その回復力の元になっているポケモンがいるの 小さな透けている羽に緑の体をもった 時空を越える森のポケモン 幻のポケモン そのポケモンは決して人に捕まらない どんなに清らかな人も信用しない 正に森の神と言えるポケモン そのポケモンは永遠に 森の中でみんなを守り続けるの。 ずっとずっと この世界が続くかぎり。 森のみんながいるかぎり。 この風が吹くかぎり。 |
えるる | #6★2004.05/20(木)19:24 |
---|
第五話 〜春疾風〜 《それは時に春風の怒りとなり竜巻を引き起こす》 みんなみんな 飛ばされてしまえ みんなみんなどこかにいってしまえ。 わらわの近くになんて来るでない ここで永遠に眠っているのはわらわだけで充分じゃ。 ここで永遠に珠とともに封印されるのなんて わらわだけで充分じゃ。 誰も封印を解くでない わらわが暴れたら取り返しのつかぬことになる 誰かがこっちに来る足音が聞こえる それに珠も近づいてきている 来るでない 来るでない 誰も封印を解かないでくれ みんな逃げてくれ だが 気がつくとわらわは紫色の玉の中にいた。 そして その玉は白い帽子を被った少年の手の上にあった。 その少年はわらわを旅に連れて行ってくれると言った。 わらわは嬉しかった。 いままでほとんどここから出たことがなかったからの だがわらわは断った。 また深い海の底で 海の調和を保つために。 この仕事はわらわにしかできないからの それに もうわらわは一人ではない ときどき あの少年がわらわに会いにきてくれるからの。 |
えるる | #7★2004.05/21(金)19:05 |
---|
【第二章 夏の風】 夏の風は湿気を帯び、少しべとべとしている。 だが風鈴を鳴らすその音は心地よく、 時には恐怖をあおることも。 第六話 〜流し〜 《それは梅雨の始まりと終わりを告げる風》 「ここのところ毎日雨だねぇ…。」 「つまんないねぇ…。」 「そぉ?私はみずやりの手間がはぶけていいけど。」 「そう思うのはアイリだけ!」 ぼくはプラスルのテンポ。 あっちはマイナンの女の子、リズム。 んでこのおばさ…じゃなくて、この人はご主人様のアイリ。 こんな人に捕まったぼくたちは不幸者だよね。 散歩してる時にパチンコでボールをバシッ!だよ?卑怯だよね。 しかも木の実のみずやりとかぼくたちにやらせるし、あのひとほんとは鬼バ… 「あらあらテンポ、何考えてるのかなぁ…(怒」 ヤバッ。 僕は慌ててアイリの横を見た。 …サーナイトのジャスミンだ! あのおば…じゃなかった、あのサーナイトぼくの心を読んであの凶暴ば…じゃなかった、アイリにチクったな…。 「で、どういうことかなぁ…?(怒」 もう、逃げるが勝ちだ! 「リズム、かげぶんしんだ!」 「はいよっ!」 ぼくたちは合わせて30人くらいに増えた。 「リズム、梅雨時C型フォーメーションだっ!」 「…あんたらいつのまにそんなん考えてたの?」 アイリの顔がひきつっていく。…ヤバい。 「あいよっ!いくよ、てだすけ!」 「おっけー…」 ぼくは一気にエネルギーをためる。 その間にリズムが、ひかりのかべでジャスミンとアイリからぼくを守る。 「…でんげきは!!」 ぼくはピンポイントでアイリとジャスミン…じゃなくて部屋中に干してある洗濯物の物干し竿を狙った。 竿はこげて折れた。 ようするに…。 「えぇ!?」 アイリとジャスミンの上に大量の生乾きの洗濯物が落っこちるってこと。 ジャスミンの念はひかりのかべでシャットアウト。落っこちる瞬間に解除。 見事に作戦通り。 「よし、逃げるよリズム!」 「ほいっと。」 ぼくたちはあちこちにかべをはって迷路みたいにしながら部屋中を逃げ回る。 「…(怒」 アイリが無言で来る。でもかべがあるから平… えぇ!? アイリはかべをたたきこわしながら向かってくる。 「テンポ…アイリがキレたみたいよ。」 「…おばあちゃんちに逃げよう。あなをほる!」 「あたしもっ!」 これで追って来れない。 アイリはぼくたちのおばあちゃんちのことをしらないから安心だ。 …帰ったときがすごいけど。 |
えるる | #8★2004.05/26(水)19:27 |
---|
第七話 〜台風〜 《それはすべてを洗い流すが同時に自然の恵みでもある風》 「はうっ、はぶっ、たすけてっ!」 ここは台風により増水した川。近くには天気研究所がある。 私はサンダース。 不慮の事故のためイーブイから進化してしまった。 そのため、ご主人様から捨てられてしまった。 そして私は見知らぬ土地で一人になり、誤ってこの川に落ちてしまった。 「だっ、誰かっ、助けて!」 もちろん私は泳げない。 こんなことならシャワーズになっていたらよかったと思った。 「誰か──────」 口に一気に水が流れ込んでくる。 誰か、誰か、誰か…。 私は水の底へと沈んで行った。 もう、誰も気づかない…。 その時私は見た。 水底で青白く光るものを。私と同じくらいの大きさだったからたぶんポケモンだ。 そして私は気を失った。 ───コレカラハキヲツケルンダヨ、ワタシトオナジニナラナイタメニ─── 頭の中でその言葉が渦巻く。 気がつくと私は研究所の中にいた。 その隣には私の知らないポケモンがいた。後からそのポケモンはポワルンと言うのだと知った。 研究所の人間は私を迎え入れ、私を住まわせてくれた。 私が水の中で見たものをみんなに話すと、研究所の人間が昔その川では大洪水が起こり、多くのポケモンが溺れて死んでしまったということを教えてくれた。 そして、その中には私と同じサンダースやイーブイもいたそうだ。 私はその哀れな魂達が助けてくれたのだと信じた。 それから私は川に花を流すようになった。少しでもその魂達を慰められるようにと。 少しでも助けてくれたことに対するお礼ができるようにと。 そしてそれは今では近くの村の習慣となっている。 |
えるる | #9★2004.06/02(水)13:29 |
---|
第八話 〜いなさ〜 《それは怒り暴れ狂う風》 「へぇ〜…いいじゃん。」 アイリがまた雑誌を読んでる。 おっと、あたいはマイナンのリズム。前に会った人もいるよね。 あの後どうなったかって?…そりゃぁ…ね。 で、今日もまたアイリが何か企んでるみたいなんだよね…。 「リズム、テンポ、あんたらこれにでてみない?」 アイリがニヤリと笑う。 …ヤな予感。 「何々…?『ポケモン肝試し大会 in送り火山』!?」 予感的中。あそこって変な感じするんだよね。 もしかしてあたしってば霊感少女!?(マテ 「え〜。や…いえ、是非行きたいです。」 テンポが言った。アイリのあの顔じゃ逆らえないよね。 「あっそう。え〜と…日付はあさってだね。」 …近っ。ちょっとまってよ。 「はい、きよめのおフダ。使っていいよ。」 そう言ってアイリがあたしらにおフダをわたした。 なんだかアイリが妙にやさしい。 …すんごくヤな予感。 〜そしてあさって〜 「じゃあバニラ、送り火山につれてって。」 バニラはアイリの性悪ペリッパー。しかも♀。ウザいやつNO.1。 そんなこんなで、送り火山についたときにはあたりに霧が立ち込めてた。 それでなぜかちょうちんとおフダ持たされて、いよいよ出発。 「みてみてリズム、キョンシー。」 テンポがおフダをおでこに貼ってぴょんぴょんはねてる。 っつーか10代でキョンシー知ってる人も少ないって。 で、何々…頂上に行って宝玉もどきを取って来ればいいのね。 …っていうかなんでこんなに人がいないワケ!? 出発点にはたくさんいたじゃん。 もしかしてここって霊界?あたしらもうオダブツしちゃったの?ってんなワケあるかい! っつーかあたしらしか見えねー! 霧のせいだよね、ね! 「ぎゃぁ!」 テンポが叫んだ。 「何!?何!?」 「ヒ…ヒトダマが…(がくがくぶるぶる」 テンポの指の先を見ると…マジでいるー!!ぶっちゃけありえねー!! 「ぎゃー!!」 あたしらはいっきに山を登った。 っつーかヒトダマついてきてるー!! 来るなー!!来るなー!! 「リ、リズム、夏用D型フォーメーションだっ!!」 テンポが水鉄砲を出す。お小遣いをためて買ったやつだ。 「こんな時に!?」 「やるの!!いくよ!?」 「しょうがないな…はいっ!!」 あたしは水鉄砲を出しながらでんこうせっかでヒトダマの後ろに周った。 「せーの、発射!!」 あたしたちはヒトダマめがけて水鉄砲を発射した。 ヒトダマは逃げていった。 それと同時に紫の光が見えたかと思うと、意識がいっきに遠のいた。 そして気がつくと、あたしたちは山のふもとにいた。 「…ほぇ?」 テンポがきょとんとしている。 「あんたたちが遅いからジャスミンにひきもどしてもらったの。なんで3時間も山の中にいるのよ。しかも気絶してるし。」 …ちょっとまて、3時間!?気絶!? 「あとこのこ、あんたらと一緒にここにひっぱってきちゃったみたいだから手持ちにいれることにしたわ。ロコンのショコラよ。」 アイリの後ろからロコンが出てきた。…かなりやせてるわね。 「そうそうこのこ、なんだかすごいのね。しっぽから丸い炎が出せるし、ものすごい威力のあやしいひかりができるのよ。さっきそのへんのカゲボウズにやったら一発で気絶しちゃった。ショコラ、二人に炎見せてあげな。」 ショコラは尻尾から炎を出した。 ちょっと、あれってさっき見たヒトダマじゃん。それに気絶も説明がつく…。 …あたしらすんごくカッコ悪いね。 しかもこれからすんごい嵐が来そうな予感。 |
えるる | #10☆2004.06/06(日)12:08 |
---|
第九話 〜日方〜 《それは強風となり雨を誘う風》 「あら。これは一雨来そうね…。」 私はルリハ。とある島の住人よ。 牧場のハネッコたちが地面にうずくまってる。これは雨の予兆。 「じゃあ、ぱぱっと洗濯物を取り込んじゃおうかしら。コルク、かぜおこし!」 コルクは私のオオスバメ。 とある事件の後、もっとみんなを守れるように進化させてあげたの。 …とそれどころじゃないみたい。 雨がものすごいどしゃぶりになって降ってきた。 「コルク、もどって!」 私は家まで走った。 玄関を空けると、私のキュウコンのシルクと、私の娘のナギサが迎えてくれた。 「おかあさん、大丈夫?」 「うん、平気よ。」 来月で5才になるナギサの差し出すタオルを受け取りながら、私は笑顔で答えた。 「さすがに夏は夕立が大変ね。油断してるとすごいことに。じゃあ、夕飯の支度でもしようかしら。」 「今日のメニューは?」 「そうね、カレーにしようかしら。」 私が答えると、ナギサは怒った顔をして、 「ちょっと暑いとすぐ手抜きになるんだから。」 と言った。 …だれがそんな言葉教えたんだか。 |
えるる | #11☆2004.06/10(木)19:24 |
---|
第十話 〜スコール〜 《それは突然現れる風》 私はクルミ。 コガネラジオで放送している「オーキド博士のポケモン講座」のアシスタントって言えばわかるかしら? 「クルミちゃん、放送まであと3分だよ!」 「はーい。」 あの人は局長。 ここで一番偉いんだけどポケモンの腕は一番弱いのよね。 ばさばさ… あら、大変。 …っとこのこたちは私のヤミカラスのアラレとミゾレよ。 ヤミカラスを持ってるなんて以外だった? こう見えても悪タイプは好きなのよ。 で、こんなことしてる場合じゃないのよね。 え?番組のことじゃないわよ。 ばたばた… ほら来た。 「我々はロケット団!ここのラジオ塔を占領しに来た!」 みんなセンスの悪い黒服姿。 「あらあらロケット団は3年前に解散したんじゃなくて?」 「良くぞ聞いてくれました!我々はあの事件の後も陰にひそんで復活の機会を狙っていたのだ!いまここでジョウトのラジオを使い、サカキ様にこのことを伝えるのだ!」 …それってまだ復活してないんじゃ? ま、いっか。 「わかったらおとなしく席から離れろ!」 局長も周りの人もみんなこの人たちにつかまったのね。 「えぇ、分かったわ。」 あいては少し油断したみたいね。 私のバトルの腕はすごいのよ。 「…あなたたちがクズの寄せ集めだってことがね。」 「何!?キサマそんな口を利いていいとでも…」 「いいのよ。ヒサメ!」 ヒサメは私のニューラ。レベルは95ってとこかしら? もちろんそんなのにあいつらのラッタがかなうはずも無いわ。 「さ、もどって。」 私はヒサメをボールにもどした。 近くにはロケット団の山。 「さ、アラレにミゾレ、下のクズも片付けてきて。」 二匹はカ〜ッと一つ鳴くと、下の階へ飛んで行った。 「で、ヒョウはみんなを助けてきて。あなたの鼻ならすぐ見つかるでしょう?」 ヒョウは私のヘルガー。 ほんとに悪タイプばっかりだって? いいじゃない。べつに。 あ、3匹が帰って来たわ。 こんな早いなんてよっぽどあいつら適当なのね。 あら、もう一人だれかくる。ロケット団がまだ残ってたのかしら? 「クルミちゃん、大丈夫か!?」 そこに来たのは10才くらいの男の子。 「あなたは誰?」 「あ、オレ?ワカバタウンのゴールドっつーんだ。ってなんだこのロケット団の山はぁ!?もしかしてクルミちゃんが!?」 なんだかカンがいいのね…。 それで、私はとっさのいいわけにこう言った。 「あぁ、これ?赤い髪でブーツを履いた君と同じくらいの年の男の子が倒してくれたのよ。」 すると男の子は言った。 「えぇ!?このニューラのつめあとと言い、もしかしてシルバーのバカヤロウか!?」 「え…えぇ、たぶん。」 すごい偶然もあるものね。 「くっそー!またあいつに先こされた!あ、急いでんからじゃあな!いつもラジオ聞いてるからな!」 なんか私、悪いことしちゃったかしら? ごめんね、シルバー君。 |
えるる | #12★2004.06/15(火)18:55 |
---|
【第三章 秋の風】 秋の風はさらさらと、高い空を駆けて行く。 高い高い青空を、私には決して手の届かない青空を、 とても速く駆け抜ける。 第十一話 〜やまじ〜 《それは強く吹き降りてくる風》 はじめまして。 私はポケモン環境保護委員会副委員長のフウカよ。漢字で風歌。風華でも風花でもないのよ。 え?よく聞こえなかった? もう一回しか言わないからよく聞いて。 『ポケモン環境保護委員会副委員長のフウカ』よ。 分かったわね? 私の仕事はカントー、ジョウト、ホウエン全域の野生ポケモンの事故件数の調査と、最近の環境問題についていろいろな対策を実戦すること。 副委員長でもちゃんとこういったことをやるのよ。 じゃあまず手始めに、カントー、ジョウト、ホウエンでそれぞれ多い事故や事件とその被害ポケモンを教えてあげましょうか。 まずカントー。 密猟が一番多いわね。あそこは空気もきれいだし保護区域もたくさんあるから。 やっぱりピカチュウとピッピ、プリンの被害が多いわ。 その三匹は保護ポケモン(特別なことがない場合売買禁止)に指定されてるから許可証のないペットショップで売っていたらすぐ教えてね。 捕獲は素人には無理だからOK。捕まえられるくらいのベテラントレーナーなら預けても安心だもの。 次はジョウト。 交通事故が多いわ。観光地も多くて車も多いからね。 それにキャタピーやビードルなどの逃げ足の遅いポケモンも多くて危ないわ。 ヤドンの井戸事件などもあったし。 それと良質の防具や武器を作るためにエアームドの密猟も相次いで起きているわ。 早く武器なんかいらない世の中になればいいのに。 そしてホウエン。 実はここが一番深刻なの。 表向きには「自然の豊かなホウエン地方」なんて言われているけど実際は事故件数NO.1。 ポケモン協会が被害を甘く見ているからね。 ジグザグマの年間交通事故件数だけで軽くカントーとジョウトの合計を超えちゃうわ。 ただでさえ光に集まるドクケイルやイルミーゼの光と間違えて集まるバルビートなどの事故も多いのに。 それにアクアとマグマの騒動が治まったといったって異常気象による被害は簡単に回復しない。 火山活動の停止に水位上昇。111番道路の砂漠の拡大。でたらめもあったもんじゃないわ。近いうちに植林の依頼がくるわね。 それにここのところ観光客も増えてるし。 あーもー。こういうことを考えるだけで頭痛いわ。 まぁ、こういうのをどうにかするのが私の仕事なんだけどね。 あら、仕事の依頼が入ったみたい。 場所は…アサギの海岸。 よし。あそこならここ(本部/ジョウト地方コガネシティ)からネイティオのパピルで充分ね。じゃあ… 「第5総合保護班!出動よ!!」 |
えるる | #13★2004.07/08(木)18:26 |
---|
第十二話 〜季節風〜 《その風は、かわりばんこにやってくる》 「こりゃひどいですね、フウカさん。」 第5保護班班長のジュンジが言った。 …確かにひどい。 アクア号の開通とバトルタワーの建設に伴う海の汚染。 そしてホウエンの一部にしかいないはずのヘイガニとシザリガーの大量発生。 ホウエンからのトレーナーが捨てたポケモンが増えたんだわ。 その時、岬に青い光が見えた。 もしかしてあれは… 「大変!!みんな早くなみのりであの岬へ!!アユミは近くのトレーナーを避難させて!ヨリコは本部に応援を要請して!」 岬は通常の状態…の様に見えた。 実際、今にも崩れ落ちそうな状態。 それを泥と苔だらけになったたくさんのサニーゴたちが支えている。 青い光はそのなかの色違いサニーゴのものだった。 そして岬には灯台。 確か今週はあの中に人はいなかったはず。 今週ここのジムリーダー、ミカンさんはこの灯台の持ち主で、今日は会議があったからこの町にはいない。 灯台には鍵がかけてあるから入れない。 不幸中の幸いとはこのことだわ。 「みんな!!早く岬へ!アユミも早く!!」 みんなが「なみのり」で海を進む間、私は「そらをとぶ」で一足先に岬へ行った。 「サニーゴたち、もう大丈夫よ。」 私は岬に近づき、そう呟いた。 「フウカさ〜ん!!こいつらが!!」 これはジュンジの声。 私が振り向くと、シザリガーの大群がみんなを取り囲んでいた。 倒すわけにもいかないから、みんな苦戦している。 「パピル!こころのめ!そのままさいみんじゅつ!」 シザリガーはみんなとろーんとしている。 「みんな、ボールを!それとできるかぎり多くのエスパー技が使えるポケモンを出して!フィーネ!」 フィーネは私のサーナイト。♀よ。…なんて言っている場合じゃないわ!! サニーゴたちも限界が近い。 なんでこんなに気がつかなかったのかしら。 「みんな!タイミングが勝負だから集中して!」 全ての流れを感じ、タイミングをはかる。 …今だ!! 「みんな、サイコキネシス!!」 サニーゴたちは少しずつ海に戻っていく。 あとちょっと…。 ミシ… この音は…。 「みんな!がんばって!!」 岬が崩れかけている。 ミシ…バキ… サニーゴはあと五匹…。 間に合え…!! ミシ…バキ… あと三匹… お願い!! あと一匹…青いサニーゴだけ… ミシッ!バキバキ!! 「大変!!崩れる・・!!」 お願い!! 崩れないで!! トレーナーの私には指示を出すことしかできないのが歯がゆい、もどかしい…。 こんな感覚、前にもあったわ。 「フウカさん!!早く…」 「きゃぁぁ!!」 岬が崩れてくる。 私ももう、終わりかな。 その時、岬が急に止まった。崖の土もいろいろな所から集められ、修復されていく。 そして海岸には…エーフィーと赤い帽子のトレーナー。 「レッドさん!!」 そのとなりではヨリコが手をふっている。 「ちょうどコガネのゲームセンターで遊んでいるとの情報があったのでー!つれてきましたー!!」 私はそれを聞くか聞かないか、青いサニーゴを目で探した。 私の足元にいる。なつかれたみたい。 私は砂浜に降りると、レッドさんにお辞儀をした。 「あなたの協力のおかげで、たくさんのポケモンを助けることができました!ここに委員会を代表して、お礼を申し上げます!」 レッドさんは「ははは・・」と照れくさそうに笑った。 「それと…あなたはどうしましょうか。」 私は青いサニーゴを見た。頑張り屋さんな♀。 ついていきたいと言うような目。 「そうね。私について行きたいなら、連れて行くわよ。」 サニーゴはうれしそうに笑った。 「名前は…そうね、海と空の青色だから、スィーニーがいいかしら。」 サニーゴはうれしそう。決定ね。 「じゃあ、今日から仲間ね、スィーニー。」 新しい仲間をつれて、私はコガネへ戻る。 きれいな夕焼けの色、コガネシティへ。 |
えるる | #14☆2004.07/08(木)19:32 |
---|
第十三話 〜野分〜 《それは野を掻き分けて進む風》 「フウカさん…。このシザリガーどうします?」 書類を整理している私の後ろでボールをたくさん抱えたヨリコが言う。 「そうね…。とりあえずホウエンに送るかどこかの護衛につけるかよね。」 前回の任務で保護した大量のシザリガー。 みんな人間に捨てられたり傷つけられたりしたポケモンだから心が荒れている。 「護衛って…;そんな場所なんてないですよ。それにホウエンでもヘイガニなどの大量発生は問題になっているし…。」 「そうね…。少なくともリライブくらいはしなきゃね。」 任務を片付けても問題はまだたくさん残ってる。 「みなさーん!委員長から電話でーす!なんでもホウエンの砂漠問題を調べてきてほしいんだとかー!」 事務所内に響くアユミの声。 「えぇ〜…。そんなのホウエンの支部にたのみなよ〜。」 みんな疲れているからいやがっている。 「あっちの支部は海水位の上昇や火山活動の問題で手一杯なんだそーです!」 「うっそ〜…。」 まだ残る暑さと疲れでみんなだらけている。 「しょうがないわね…。みんな一斉にテレポートで行きますか。フィーネ!」 私たちはサーナイトのテレポートでホウエンの砂漠まで飛んだ。 「あぢ〜…。」 吹き荒れる砂嵐。枯れ果てた大地と水。ひどいとは聞いていたけどこれほどとは思わなかった。 「やぁ、君たちが保護委員会のメンバーだね。」 後ろからの声。振り返るとそこにはミクリさんとダイゴさんがいた。 「あ、はい。それにしてもこのありさまは…。」 私は思わず聞いた。 「温暖化さ。」 ダイゴさんが言う。 「ちょっと前まではもう少し草木があったんだが、ほとんど砂嵐に埋もれてしまった。」 「なるほど…。」 「それで君たちにやってもらいたいのが、植林作業だ。もっともそう簡単にはいかないがね。」 ミクリさんも答える。 「確かにこの砂嵐ではすぐ埋まっちゃう…。」 私は心配になってきた。本当に私にこの広い砂漠を草原にできるのか…と。 でもそれじゃあ始まらない。 「みんな!とりあえずは作業開始よ!」 砂嵐の弱いところから少しずつ植えていく。 フィーネのバリアとサニーゴのスィーニーのみずでっぽうで苗木を守りながら。 「さ、こんなもんで今日は休むわよ。」 気がつくともう夕方だった。 みんな汗だくである。 そして次の日─── 「う…そ…。」 昨日 植えた苗木のほとんどが埋まってしまった。 「なんで一晩のうちにこんなに深く…。」 私は20cmほど掘ったところに昨日の苗木をみつけた。 「これがこの土地の怖いところなんだよ…。」 ダイゴさんが呟く。 しばらくそこに立ち尽くしていると、どこからかノクタスやサボネア、サンドなどあらゆるポケモンがあつまってきた。 「なんでこんなにポケモンたちが…。」 ポケモンは次から次へと集まってくる。 そして最後にはボスゴドラやフライゴンまで集まってきた。 「もしかして…スィーニー?」 スィーニーは色違いの青いサニーゴ。もしかして水とまちがえて集まってきたのかしら? 「…もしかしたらこのポケモンたちが植林を手伝ってくれる かもしれないな。」 ミクリさんが言う。 「あぁ…。」 ダイゴさんも言う。 「よし、ミロカロス!ハイドロポンプだ!」 ミクリさんのミロカロスが地下水脈を引っ張り上げる。 「私も!スィーニー!」 スィーニーも加勢する。 しばらくするとそこにひとつのオアシスができた。 「よし、ここは一旦引くぞ。」 「はい、フィーネ。」 テレポートで私たちはえんとつ山の頂上に飛んだ。 ここからは砂漠が一望できる。 そこからはさっきのポケモンたちが砂を掘り返して苗を植え直しているのが見えた。 「フウカさん…。」 「えぇ…。」 「どうやらこれで任務は終わりのようね。」 私たちは、ミクリさんとダイゴさんにお礼を言ってその場を去った。 いつかあの砂漠が大草原に変わることを願いながら。 |
えるる | #15☆2004.07/09(金)19:22 |
---|
第十四話 〜風巻〜 《それは秋の終わりを告げる風》 「さて…。」 私は今カントーに来ている。 今回の任務はイワヤマトンネル周辺の産業廃棄物の浄化。 今、クリスタルさんが所持しているスイクンがカントー中を回って浄化に当たっているそうだからそこまで大変ではないだろう。 「じゃあ、やりますか。」 さまざまな毒はあたりの土や草までもを汚染する。 それをポケモンたちの力も使って除去していくという極めて地道な作業がつづいた。 そしてその作業は3日に及んだ。 「なかなかきれいにならないっすね、フウカさん。」 「まぁね…。」 ジュンジの声に答える。 「あら…?」 ちょうどその時、ポツポツと雨が降り始めた。 勢いはだんだん強くなる。 そしてそこに、一頭の青いポケモンが見えた。 「あれが…スイクンね。」 ただ、スイクンはどこか元気が無かった。 よく見ると、毒を受けているようだった。 「あら、大変!スィーニー!」 スィーニーがスイクンの傷口を洗う。どうやらアリアドスに毒攻撃を受けたようだった。 …アリアドス? 今はこのカントー地方一帯にアリアドスはいないはずなのにどうして…。 するとスイクンの後ろから緑色の小さなポケモンが現れた。 そのポケモンはスイクンの傷をあっという間に治し、枯れた大地に手を当てた。 みるみるうちに、そこは100年も前から存在していたような森になる。 聞いたことがある。 ほこらに現れ木々と語り、善を癒し悪を苦しめて森を守るポケモンの名を。 「セレ…ビィ…?」 緑のポケモンは小さくうなずくとスイクンとともにどこかへ飛んでいった。 そしてその翌日、ヒワダから一通の手紙が来た。 それは委員長からの手紙で、なんでも自分が退職するためこの私を委員長にしたいんだそうだ。 内容はこうだ。 [はっはっは!君の活躍は見ていてとっても楽しいよ!ってことで私はここ、ヒワダでのんびりくらすことにするよ。どうも最近、体がうごかなくてねぇ。じゃ、これから委員長の仕事がんばってね! by委員長] 「なんつーテキトーな手紙…。」 ジュンジが言う。 「まぁ、とりあえず…。」 みんなが言う。 「フウカさん、委員長就任おめでとうございます!」 |
えるる | #16★2004.07/12(月)17:36 |
---|
【第四章 冬の風】 冬の風は厳格で、全てを拒み吹き荒れる。 だがそれを乗り越えた時のみ、春の喜びを感じられる。 第十五話 〜木枯らし〜 《その風はあたりを冬にし去っていく》 そこにいるのは誰…? お願いだから、私に近づかないで…。 私の体はこんな変な色だから、近づかないほうがいいのよ…。 私はヴェール。 色違いのマリルよ…。 こんな変な色をしているから、みんな私が嫌いなのよ。 こんな色だから、私はみんなから捨てられたのよ。 そうよ、こんな色だから─── 「ねぇ、マリルさん。」 後ろからの声。 そこにいたのは♀のエネコ。 「マリルさんってば!」 私は大きい声にびっくりして水に飛び込んだ。 私はその時、気づいてしまった。 私は嫌われているのではなくて、自分が逃げていることに。 私に近づく手を、 光に続く道を、 自らの手で払いのけていることに。 今、 どんなに暗い闇の中でも どんなに冷たい水の中でも 光輝く自分の体に やっと気づいた。 自分が光を抱いていることに やっと気づいた。 でも私は今までたくさんの手を払いのけてきた。 だから私は、次のチャンスまでみんなと仲良くできないのかもしれない。 |
えるる | #17☆2004.07/12(月)19:02 |
---|
第十六話 〜ミーニシ〜 《それは冬の新しい風》 私はエネコロロのクレセントですわ。 意味は三日月、美しい名前でしょう? もちろん家だって豪華ですわ。 庭もミナモのコンテスト会場の5倍はあるんですのよ。 あら?あれはなにかしら? お屋敷の庭の向こうに見えるのはふたつの影。 この庭を覗きながら何かを話し合っているようですわ。 「よし、ここをこうして…。いくよ、リズム!」 「はいよっ!」 庭に入ってくる二人の小さな黄色いポケモン。耳は赤と青。 私の美しい庭に入ってくる泥だらけのポケモン。 「ちょっとあなたたち!人の庭に勝手に入ってこないでほしいですわ!」 「ヤバ!どうしよリズム!」 「どうしよもこうしよも逃げ…。」 「逃げたらまたあの鬼バ…いや、アイリに…。」 「二人でごたごた言ってないでとっとと逃げたらどうですの!」 私はご主人様に教わった飛び切り美しい「みずのはどう」をおみまいしてやりましたわ。 でも…。 「おっと、このくらいならアイリのスパルタ特訓のお陰で避けられるもんね!」 「それよりもこんなに広い庭があるんだからちょっとくらい遊ばせてよ!」 あの二人はひらりとかわしてしまいましたわ。 「だめですわ!この庭が汚れてしまうじゃないですの!」 私は次にマジカルリーフをやりましたわ。 特別な訓練を受けて身に着けた、私しか使えない技ですわ。 「おっと、ひかりのかべ!…ずいぶんな技使うんだね。」 「痛っ!もう、そんなに喧嘩したいなら受けてあげるよ!」 マジカルリーフは赤い方のポケモンをかすった。 「の、のぞむところですわ!」 私は普段バトルなんてものはしないのですが、この時は受けてしまいましたわ。 …本当はやりたくないのに。 「へん!アイリのスパルタ特訓はダテじゃないよ! 「うるさいですわ!10まんボルト!」 「そのくらいならぼくたちのほうが強いよ!10まんボルト!」 私はその…私のよりもはるかに強い10まんボルトを浴びてしばらく気を失っていましたわ。 「大丈夫?ちょっと強くしすぎたかな…?」 「この薬草、いる?甘いし痺れに効くよ。」 「い、いらないですわ!」 本当は欲しかった。あの苦いまひなおしよりずっとましだと思ったから。 「ほら、いるんでしょ?あたしは霊感少女だから。」 「(…ちがうだろ)」 「あ、ありがとうですわ!でもうれしくなんかないですわ!」 素直になれない自分が恨めしかった。 そして そのことから自分が「染められた存在」であることに気づいた。 だから私は、 しばらくそのポケモンのトレーナーについていくことにした。 「ほんとに?地獄にいくようなもんだよ?」 「行きますわ。」 そして私は、自分を探す旅に出た。 そう、「本当の自分」を探す旅に。 |
えるる | #18★2004.07/16(金)18:01 |
---|
第十七話 〜颪〜 《それは冷たく吹き荒れる風》 …もう、冬なのね。 この季節になると思い出すひとつの記憶 それはいつも、何年たっても鮮明に 心の奥から蘇る 吹雪へ消えた あの人の記憶。 私はリュンヌ。 意味は月。 ただのグラエナ。 あれはとある冬のこと。 私はふっかつそうを採りに冬の山へ行った。 でもその帰り道、私は猛吹雪に見舞われた。 私の故郷はホウエン地方。雪なんて滅多に降らない。 だから私は足場を取られ、崖から転落しそうになった。 その時助けてくれた赤い影。 どこか…故郷で見たことのあるような人。 その人は無言で私を洞窟に避難させるとまた外へ出て行った。 その洞窟の中にはほかにもたくさんのポケモンがいた。 あるものには怪我があり あるものは凍傷になっていて あるものは命の灯火が消えそうだった。 私はかごの中に入っているふっかつそうをポケモンたちに配ると重傷のポケモンたちの手当てをした。 その時だった。 外を大きな雪崩が過ぎていったのは。 雪崩は様々なものを飲み込んでいった。 それ以来私はあの影を見ていない。 身内のサーナイトによって無事は分かったのだが、どこにいるのかさえも分からない。 でも もしも二人がお互いを探しているのなら いつかきっと巡り会うはずだ。 そう信じていたある日 私は意外な場所で再会を果たした。 「行け!バシャーモ!」 建物の中に響く声。 「バトルタワー100人抜き、おめでとうございます!」 続いて受付をしているご主人様の声。 私の心の中の冬が やっと終わった気がした。 |
えるる | #19☆2004.07/16(金)18:28 |
---|
第十八話 〜空っ風〜 《それは冷たく乾いた冬の風》 あれから何年経ったのかな? ところどころに草木が残っていただけだった大地は 見事な森林になってる。 季節は冬 空には千年彗星。 ここはとても寒いところ。 ぼくといっしょに過ごして ぼくといっしょに笑って ぼくといっしょに悪を倒したあの男の子と白いポケモンは どこに行っちゃったのかな? 「また、いっしょに遊ぼうよ…。」 ぼくから流れる涙。 きっともう、あれから千年経ってるんだ。 もう、ぼくを知ってる人はいないんだ。 そう、ぼくは一人なんだ…。 ぼくは人の願いを叶えるためにここにいる。 でも、ぼくはそんなことしたくない。 ぼくだって、叶えたい夢はある。 神様のいじわる。 なんでぼくの夢は叶えてくれないの? ぼくはまた、あのこに会いたいよ。 なんで千年も眠っていなきゃいけないんだよ。 その時、崖の上を飛び渡っていく影があった。 白い体、黒い角。 その影はぼくの前に来て止まった。 「君…あのときのアブソル?」 ぼくは訊く。その中にこめられたわずかな希望。 もうこの世にいないとわかってるのに。 「あのときっていうのは…?それとあなた…もしかしてジラーチ?」 ぼくはそのこが自分の名前を知っていることにおどろいた。 「なんでぼくの名前を知ってるの…?」 「なんとなく、前に会ったことがあるような気がするの。」 「ぼくも。」 「ふふっ…。」 「あはは…。」 神様はぼくにひとつの幸せをくれた。 そのあと千年ごとに そのアブソルは生まれ変わった。 神様は ぼくに「ともだち」という最高のプレゼントをくれた。 千年彗星の最後の日 ぼくは 「また会おうね」 と言った あのこも 「えぇ、またいつか」 と言ってくれた。 ぼくはまた 千年の時を眠る。 |
えるる | #20☆2004.07/23(金)20:24 |
---|
第十九話 〜魂風〜 《それは敵の方角より吹いてくる風》 さみしさと、孤独と、風の冷たさ。 そして捨てられたポケモンの魂。 これらがひとつとなり、それは悲しいひとつの命になった。 そしてそれは汚れたぬいぐるみに宿り、 一匹のジュペッタになった。 常に寂しさや恨みを抱えた、悲しいポケモンになった。 「人間なんか、大嫌いだ。」 つぶやいたって、聞いてくれる生き物はいない。 大都会の裏路地、昼でも暗い闇の世界。 同じようなポケモンが集まるこの場所。 そしてここは決して忘れることの出来ない場所。 そう、クチートだった前世の自分が捨てられ、その命が消えた場所。 こんな場所来たくなんかないのに、勝手にここに引き寄せられているような気がする。 私はここに何を求めているのか、わからない。 もうここにはなにも残っていないのに、それでもなにか希望があるような気がして。 そしてまだ前世の飼い主が頭に残っていて。 私を捨て、去って行ったときの表情。 悲しい眼をして、振り返らずに走っていくのを見送った記憶。 全てが鮮明に甦る。 そして今でも自分が元の飼い主を信じているような気がして。 そんな自分が歯がゆくて。 それを認めたら、自分が崩れてしまいそうな気がして。 でも、私は決めた。 記憶に決着をつけると。 朝の光の中、差し伸べられるひとつの手。 そんなものを夢見て。 私は向かう。 元の飼い主の家へと。 |
えるる | #21★2004.07/24(土)11:57 |
---|
〜エピローグ〜 どうだった? 私の作った「風物語」。 一筋の風にこめられた いろいろな想い。 あるものは友を想い あるものは故郷を想い あるものは開放を願い またあるものは平和を願う。 そんないろいろな想いや願いをのせて 風は今日も吹いていく。 今は小さくても 時間が経つにつれ大きくなる。 そしてそれは天災となって町を襲ったり 風車を回して恵みを与えたりもする。 私はそんな風になりたい。 みんなの涙を乾かして 悲しみを拾って 喜びをふりまいて。 ─────そしていつか、みんなが幸せでいられる世界を作りたいな。 〜 お わ り 〜 |
このページは http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/362.htm のアーカイブです。