ぴくの〜ほかんこ

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[38] 朝の月<短編>

アビシニアン #1☆2003.09/13(土)11:13
「おーい、祐紀!フィールドワークに行くぞーっ!」
「へいへい。」
父親に呼ばれた裕紀なる少年は、自宅の二階から下を見下ろしていた。
「明日…そうだ、明日になれば誰かが隣に引っ越してくるんだ!オレ、絶対にソイツと仲良くなるんだっと!何せジムリーダーの子供だもん、きっとポケモン好きだろうな…」
なんて空想していると、
「裕紀ーっ!!早く来ないと置いていくぞーっ!」
父であるオダマキにこんな事を言われる始末。まぁ、そんな事を言いながら、彼は必ずと言っていいほど裕紀を連れて行くので、裕紀は少しくらい待たせても平気だと分かっていた。
「今行くーっ!!」
……103番道路
「よし、103番道路にもジクザグマが生息している…っと!こんなもんかな。おーい、父さ…?」
いつの間にか、父・オダマキはどこかへ消えていた。
「もうっ、まーたどっか行ってるな!?父さん方向音痴だから…こないだなんて、いつの間にかトウカシティにいたし…。」
事実、オダマキはフィールドワークの最中に裕紀の視界からよく消えていた。そして、とんでもない場所に出現するのだからたまらない。
「…ったく、今度は何処に行ったんだか…」
立ち上がって父を探しに行こうとしたその時、
「あれは…!」
遠い空の彼方から、なにかが飛んでくる。それは、どんどん裕紀に近づいてきて、
「…!!?」
彼の足元に着地した。青と白の体、深紅の目。それは、裕紀とて一度、それも絵でしか見たことのないポケモンだった。
「…オマエ、ひょっとして…あのラティオスなのか?」
裕紀の問いに、ラティオスらしきポケモンはゆっくり頷いた。
「…なあ、…オマエってすごいよな!世界中飛び回ってるって雑誌で読んだぜ!他にもなんだかよく分かんないけど、すごい能力があるとか…マジなのか?」
ラティオスは、見た方が早いだろうとでも言いたげに裕紀を見つめた。そして…
「うわぁ…!」
裕紀の視界から草むらは消え、木の上に立ち並ぶ家々が映し出された。
「オマエ、ヒワマキにも行ったのか?これってツリーハウスだろ?オレ、写真以外で初めて見た!」
ラティオスは、興奮気味に話す裕紀を不思議そうに見ていた。そして、「背中に乗れ」と合図する。裕紀がその通りにすると、ラティオスは一気に飛び上がった。
「す、すげぇ!ミシロタウンがあんなに小さく見える!オマエ、やっぱすごいよ!!」
そして…いくらか飛び続けたラティオスは、コトキタウンに降り立ち、また飛びたとうとする。
「ラティオス…もう行くのか?」
ラティオスは、僕も君との別れが惜しいよ、と目を閉じ、次の瞬間には飛びたっていた。
「……ラティオス、ラティオスーっ!また、いつかどこかで会おうなっ、絶対!!」
どこかでラティオスの声が響いたようだった。と、その時…
「おーっ、裕紀!まーたオマエどっか行ってたな?父さんなんかホレ、こんな事まで分かったぞ?」
「はぁ…(いつも自分がどっか行ったとは認めないんだから、全く!)」
「さぁ、帰って昼飯だ!」
「あーあ、父さんってどうしていつもこうなんだ…。」
翌日…
「ん…うわぁぁっ!?」
裕紀は窓の外を眺めようとしてひっくり返りそうになった。それもそのはず、窓からは昨日会ったラティオスがぬぅっと覗き込んでいたのだから。
「…オレさ、今日当たり旅に出ようと思う。そしたら、オマエとまたどっかで会って…最高のパートナーになろうぜ!」
ラティオスは、合点承知!と微笑んで、またどこかへ行ってしまった。空の彼方、朝の月を目指すように。
「おっと、今日は隣の家にだれかが引っ越してくるんだっけ!よーしっ、オレは絶対にソイツと友達になるぜ、なるぜ!!」

                         fin
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