ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[411] 手のひらにかかる虹――

闇藤ばん #1☆2004.06/29(火)19:54
一話 影▽


彷徨いながら歩いていく道
今日もまた、彷徨いながら明日を探す
昨日今日明日……日々繰り返す
戻れない、迷いの中から――


≪アサギー≫
少女ははたと立ち止まった。
そして、真後ろにいる、とげとげしたモンスターを見る。
そのモンスターはサンダースといい、ニックネームはWHITE。 外国語で、白の意。
純白のたてがみからきた、名前だ。
しかしその実体は、どうしようもなく口の悪いハラグロ単細胞である。
「何、WHITE?」
ミヤコ アサギ……少女の名は、そういった。
マサラタウン出身の、通称『少年趣味』。
男勝りで元気溌剌、後先知らずの三拍子そろった珍しい少女である。
そして――それ以上に珍しいことがある。
彼女は、モンスターの気持ち……いや、言葉を理解できるのだ。
小さい頃に宿った、特別な力らしいのだが……本人に、その自覚はない。
≪向こうにいる誰かが、手を振っているが――誰だ?≫
「誰だじゃなくて誰ですか。 えっと、あれは……」
『あの人』ではなく、『あれ』と言っているアサギも、人のことをいえない。
ここは、ヤマブキシティの郊外。
人影がほとんど無いので、アサギはよくここで憩っている。
滅多に人がこないとは思っていたが――物好きであろうか?
「アサギ―――!!」
しかも、名前を知っているときた。
WHITEの視力は、アサギよりもはるかに良い。
アサギにはやっと、人影が見えてきたところだ。
「姉さ――――ん! こっちだよ――!!」
ここで、アサギはぴんときた。
アサギのことを『姉さん』と呼ぶのは、この世でただ一人――彼女の、双子の弟である。
二卵性なのであまり顔立ちは似ていないが、秋の木の葉を思わせる髪と、まっすぐな瞳はそっくりである。
その名は、スオウ。 ミヤコ スオウ。
彼の名――スオウは、暗い赤。
対するアサギは、明るい青。
そのせいか、性格は正反対である。 スオウはアサギと違って、おとなしい。
そして、そのスオウの脇にいる人物――つんつんした茶色っぽい髪の少年。
彼は、オーキド トキワ。 アサギとスオウが十歳になった頃にマサラへと越してきた、あのオーキド博士の孫である。
彼は目立つことをするのが好きで、現在の目標は『カントー地方最強』になることである。
ちなみにこの目標は、アサギ・スオウにも共通だ。
「スオウ! それにトキワ!! 何してるの?」
ぜえぜえと荒い息をしながら、アサギは二人に聞いた。
二人の手には、建物の地図。
「よかった……姉さんから出向いてくれた」
「はぁ?」
「だから、これからオレたち、アサギを呼ぼうかと連絡しかけてたところ」
「だからなにっ!?」
と――スオウとトキワは、生真面目な顔をした。
「ロケット団の本部を叩きに、シルフに――潜入する」


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闇藤ばん #2☆2004.07/09(金)14:48
二話 威▽


行く果てもなく彷徨う心
それを拾うのは誰?
拾われなかった心の行き先は何処?
それは――遠い昔からの理。


「せんにゅう?」
「潜入。 先入じゃないぞ」
「スオウ……わかんないって」
スオウはトキワにつっこまれると、地面に『潜入』と書く。
しかし、アサギはそれどころではなかった。
「……よし!」
《ど……どうしたアサギ!?》
ちなみに、WHITEの言葉はアサギにしか聞き取れない。
だから、スオウやトキワの耳には、サンサン鳴いているとしか聞き取れない。
「あたしもあいつらにはツケがあるわ!」
「うわー……もえてるわな、お宅のお姉さん」
トキワは、笑いながらアサギを見る。
その横で、スオウは苦笑している――兄弟で、こんなにも性格が違うとは、すこし不思議だ。
「で……燃えてないでよ、姉さん。 計画があるんだ」
スオウは、細かい作業が好きである。
取り出した地図も、詳しく、わかりやすく色分けがなされていた。
「まず、一階には階段付近に一人の団員がいる――こいつは、確実に倒さなくちゃいけない」

スオウの説明が進んでいく。
アサギとトキワは相づちを打ち、気になったところを指摘し、作戦を立てていった。

「ねえ……スオウ、この五階からたまにある緑色に塗ってある部屋は、何?」
「オレも気になってるんだ。 それについての説明はなかったし……」
六階の説明が一段落付いた頃、二人はそろってそれを聞いた。
「これは……研究室、または研究材料室。 つまり、ポケモンがいるであろう部屋だ」
「……実験に使われる?」
「ああ。 生体実験に使われるポケモン達だ」
そのときWHITEが、突然放電を始めた。
毛並みも逆立ち、ビリビリいっている。
「WHITE、どうしたの!?」
《何かくる! 知らないやつだ!!》
「ど、どうしたんだそいつ!?」
「威嚇! 何か近づいてるみたい!!」
と、スオウとトキワはモンスターボールを取り出した。
「コンリン!」
「キャノン!」
スオウのボールからはロコンが、トキワのボールからはカメックスが出現した。
《……モンスター、図鑑で確認しろ!》
「オッケー!」
アサギは図鑑を、WHITEが見ている方へと向ける。
『ペルシアン シャムネコポケモン』
図鑑が、音声を再生する。
『ラッタ ネズミポケモン』
どんどんデータを拾っていく。
『ドガース どくガスポケモン』
だんだん、近づいてきた。
しかも、
「なんだ、あの数は!?」
そう、トキワがいったのにも無理はなかった。
おびただしい数のモンスターが、三人の方へと向かってきていた――。


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闇藤ばん #3☆2004.07/19(月)20:36
三話 力▽


たとえ相手の数が多くとも
挑戦だけはしてみるものさ
たとえ負けたって それは
明日への新しい架け橋になるのだから……


「コンリン、でんこうせっか!」
「キャノン、みずでっぽう!」
「WHITE、でんげきは!」
三人のうち、誰一人全体攻撃技を持っていない。
そのため――
「RED、BLOWN!」
「バナリン、オニリン!」
「フレイム、ファントム!」
三人はそれぞれ、ポケモンを新たに繰り出した。
アサギはリザードンとピジョット。
スオウはフシギバナとオニドリル。
トキワはブースターとゴースト。
「REDはかえんほうしゃ、BLOWNはつばさでうつ!」
赤い帯がモンスターの群れを焼き、風が勢いよく舞う。
「バナリン、つるのムチ! オニリンはドリルくちばしだ!」
ムチが力強く地を叩き、空をくちばしが切り裂く。
「フレイム、かみつく! ファントム、さいみんじゅつ!」
鋭い歯がきらめき、術がすべての眠りを誘う。
三人はバラバラに戦ってはいたが、息が合っているので間違っても味方を攻撃したりはしない。
「フェザーダンス!」
「しびれごな!」
「サイコキネシス!」
様々なタイプの技が繰り出され、そして、相手を追いつめていく。
が――万事うまくはいかなかった。
≪危ない!≫
「えっ……きゃあぁ!」
BLOWNがアサギに注意を呼びかけたとたん、何かが頭からつっこんできた。
「アサギ!」
「姉さん!!」
アサギは、まるくなることしかできなかった。
強烈な痛みが体に響き渡り、気力を削っていく。
「ラッタの……ひっさつまえば!」
「くそ……どうにかできないのか!?」
さすがに、どんなにポケモンを扱うのがうまいトレーナーでも、このような事態は初めてだ。
ポケモンが人を襲う。
「くっ……BLOWN」
≪大人しくしててください!≫
「でも……」
≪大丈夫です。なんとかなりますよ……!≫
REDが大きく息を吸い込んだ。
そして――赤ではなく、紅蓮の炎をはき出す。
REDの真の力は、計り知れない。
「すっげー……おっと、見とれてる場合じゃないか……」
「オニリン、かぜおこし!」
「フレイム、すなかけ!」
風に砂がのり、強力な目つぶしとなる。
「えっと……WHITE、だったよな」
WHITEは、アサギの元でうなずいた。
「お前の強力な電撃を……わかるか?」
トキワの前では、キャノンが待機中だ。
WHITEは大きくうなずくと、渾身の一撃を放った。
「キャノン!」
――カメックスは、待ってましたとばかりにキャノン――砲台から水を発射した。
それに先ほどの一撃が加わり、さらに……
「バナリン、ねむりごな!」
大量の、睡眠薬が放たれる。
これが、明暗を分けた。


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闇藤ばん #4☆2004.07/31(土)17:17
四話 覚▽


目覚めた場所。
それは大抵、見たこともない場所
なぜなら――
そこが、新しい旅の始まりなのだから


はっと、アサギは息をのんだ。
「……! 姉さん、気づいたんだね」
アサギの寝かされているベットに、スオウが駆け寄る。
「スオウ……ここは何処?」
≪とある研究者の家だ≫
ベットの脇に控えたREDが、そっとアサギに耳打ちした。
そっと、でないと――スオウに感づかれる。
「ミナキさん、っていう人なんだって……いま、用事があるっていって出かけちゃってるけど」
「……ミナキ、さん?」
≪なかなか有能な学者のようだぞ≫
≪本当に。 研究熱心そうよね≫
≪でも、あの格好は……魔法使いか?≫
――WHITEの頭に、REDの拳が命中する。
≪失礼なことは言うんじゃないわよ≫
「……進歩のないやつ」
ついついアサギは、声に出して笑ってしまった。
部屋の奥で本を読んでいたスオウが、ぎょっとした顔でアサギのことを見る。
「ね、姉さん……」
しかしアサギは気づかず、けたけたと笑い続ける。
そんなときだった――外気が、流れ込んできた。
アサギの髪が、ふわふわとなびく。
外気は、何かによって開け放たれたベット脇の窓から流れ込んできていた。
「え……?」
窓の外に目を向けるアサギ。 そこには――
「なんだ、おきてたのか?」
見慣れないモンスターにのって、宙を漂うトキワの姿があった。
アサギは、それを図鑑で確認する。
『――該当データ 無し』
「えっ!?」
いままで、彼女の図鑑がそう示したことはなかった。
壊れたのか、と思ったその時…別の声がした。
「カントーにはいない、特別なモンスターなんだ」
トキワの後ろから、新たに影が現れる。
特徴的な髪型に、紫のスーツ。そして、真っさらなマント――彼がきっとミナキさんなんだな、とアサギは思った。
「…着地」
そのモンスターは、赤い翼をはためかせてベランダへと降り立った。
小さな竜。 それが第一印象だ。
「もどれ、ディン!」
ミナキはボールにモンスターを納める。
トキワは丁度よいタイミングでベランダに着地し、持っていた茶封筒を部屋の中央にあるテーブルの上に置いた。
……改めて部屋を見回すと、そこにはたくさんの写真や額が飾ってあった。
しかも、それぞれには必ず――青い四つ足のモンスターが写っている。
なんの意味があるのだろう、とアサギは首を傾げた――。


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闇藤ばん #5☆2004.08/03(火)14:23
五話 窓▽


窓の外から見える空
そこからでたいと思う気持ち
でも許されない――
だから できることから始めよう


「改めまして……私はミナキ。ポケモン伝承研究家で、専門はジョウト地方における伝説のポケモン。その中でも、スイクンに関してはかなり自信がある」
かなり大きなテーブルの周りに、四人はいた。
ミナキの自己紹介に続いて、アサギが自己紹介をする。
マサラタウン出身のトレーナーで、夢は大きくポケモンリーグチャンピオン。家は宿屋を営んでいて、スオウの姉である、と。
「なるほどね……さて、トキワ君の話だと、どうやら君たちはシルフカンパニーに潜入する作戦を立てているようだが……」
ミナキは、茶封筒の中身を取り出した。
「スオウ君の作戦や地図はよくできている。だけど、もう少し詳しいデータがここにあるんだ」
中身はなにやらいろいろなことが書き込まれている紙で、時折図がはいっている。
几帳面な、きれいな文字で様々なことが記されていた。
「私は、このシルフ本社ビルに軟禁されている人を助けたい。だから、君たちに協力してもらいたいのだ」

ミナキの話によると、この本社ビルは到底一人では攻略できないと言う。
確かに、その紙に記されていることを見るととんでもない装置が大量に設置されていることが伺える。

「四人で行けば、一人の時より何千倍も安心だ。かなり辛い潜入となりそうだが、是非やり遂げたいんだ」
ミナキが、三人――アサギ、スオウ、トキワ――のことを見る。
その瞳は、燃えていた……いつかのアサギのように。
「……ミナキさん、一つ良いですか?」
「…何だい、スオウ君」
「ミナキさんの助けたい人って、どういう人ですか?」
スオウがミナキに問う。
「……あまり大声ではいえないのだがな」
その言葉に、四人は机の上で額を寄せ合った。
「……シルフカンパニー社長の令嬢、と言えばいいのだろうか」
「はぁ!? れ、令嬢!!」
「うっせーアサギ!」
アサギの頭に一発ぺしんと、トキワの平手があたる。
「その令嬢は、社長の直接の子供ではない。養子だ。そしてさらに……私の探し求めていた人なのだ」
「……運命の人?」
「それとはまた違う。私のこの研究にでてくる、水晶を身に宿して生まれてきた人なのだ」
「つまりそれは?」
「スイクンと有一対等に話せる、奇跡の人なのだよ」


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闇藤ばん #6☆2004.08/06(金)16:15
六話 事▽


物事には意味があって
その意味は大抵大きな力を持っていて
物事には気持ちがあって
その気持ちは絶対大きな力になっている


「スイクンは、ジョウト地方に伝わる伝承の中では一番有名かもしれない。各地にたくさんの話が伝えられているからな」
ミナキはそういうと、一冊の本を取りだした。
「スイクンに関する伝承の一部だ。大半が、なんらかによって汚れた水を浄化したという内容なんだがな」
スオウは本棚に目をやり、同じような塗装・タイトルの本が山のようにあることに気づいた。
しかも、それぞれがけっこうな厚みをもっている。
「私は、小さい頃にこのポケモンに命を救われたんだ。だから、是非一目会いたい、礼をしたい――」
「……じゃあ、何で自分からあわないんですか?」
トキワが、ミナキに聞いた。
――その言葉にいち早く反応したのは、スオウであった。スオウは、さっきまで留守番をしていた時に読んでいた本を取り出した。
「この本に書いてあったんだけど、スイクンは水辺で溺れかけた子供と水晶を身に宿した者としか関わりを持たないんだ。だからスイクンに関する伝承とかは、すべて子供の時に見たことを思い出して書いているらしいよ?」
「ほぉ……ミナキさんは、もう十分大人だもんな」
トキワが、ミナキのことを見る。彼はアサギたちから見て典型的な『大人』であった。
「ちなみに、この手の話は非常に多い。少なくとも、各地に伝わる伝説のポケモン系はそうだ。自分から望んだ者としか交流をしない」
ミナキは本をしまうと、再び手紙を見た。
「彼女はそのような能力を持っている。しかし、彼女は強いポケモントレーナーではないから脱出はまず不可能だ……だから」
「シルフカンパニーのロケット団を、潰したいんですね」
アサギが言った。彼女は立ち上がり、続けた。
「あたし達も、協力します」
「……本当か?」
「姉さんは、まずうそはつきませんよ」
「頭の回転が遅くて、嘘なんか考えらんないもんな」
「………」
――次の瞬間、トキワは昼間から星を見る羽目になったのは言うまでもない――。


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闇藤ばん #7☆2004.08/17(火)20:54
七話 飛▽


空を飛ぼう――
空はいつもは見えない何かを示してくれる
空はいつもはできない何かを可能にする
だから、空を飛ぼう――


すぅ、と真夜中の街を何かが飛んでいく。
アサギとBLOWN、スオウとオニリン。
トキワは飛ぶ術がないため、ミナキのディンに相乗りさせてもらっている。
ミナキの家のあるタマムシから、シルフ本社のあるヤマブキまで。
「…あの空き地、意外とタマムシに近かったんだ……」
「僕たちはタマムシ方面から来てあそこにたどり着いたから――まぁ、見れば一目瞭然だね」
アサギもスオウも、もちろんトキワも、街と街の間の移動は徒歩ばかり。しかも、夜に飛ぶなんて初めての経験である。
昼間は見せない、更には地上からでは見せない街の表情…。
「……このあたりは、さすがに明るいよな」
「本当。昼みたいに明るい……ネオンって凄いわね」
「ああ。ポケモン達が誤ってぶつからないと良いが……」
ミナキはそういうと、二人に合図を送った。
ヤマブキシティのはずれについたのだ。
ここからポケモンセンターに向かい、そこから潜入する――それが一番、ポケモンにとってのリスクが少ない。
潜入先はビル三階にある例の“令嬢”が軟禁されているという部屋だ。
今日の昼間、トキワとともにそこへいき、潜入についてを話したらしい。
彼女は了解し、部屋の窓からはいるのが一番良いと指摘してくれたそうだ。
その際、自室周辺にいる団員は眠ってもらっておく……そんな約束も交わしてあるという。
「あの人は、そういう人なんだ」
「?」
「……実際に攻撃はできないけど、手助けは可能。そんな感じ」
ポケモン達をしまい、ポケモンセンターへ。
夜の街はタマムシと同様に明るいが、タマムシとは違って人気が全くなかった。
「……ロケット団の圧力か」
今日は珍しく無口なトキワが呟いた。
「……なぁ、約束してもらって良いか?」
「? いいけど」
約束――そう言うトキワの顔は、真面目でありなおかついたずらっ子のようだった。
そして……どこか怒っている。
「こんだけの勢力があるんなら、きっと親玉がこの街にいるはずだ」
「……ああ。 確かにボスはこの街にいるとのことだ」
「なら…そのボスを倒すのは、オレにやらせてくれないか?」
――アサギとスオウの脳裏を、とある記憶が駆けめぐる。
前にタマムシの地下アジトへ進入した際……トキワは、そのボスに敗れたのだ。
その時はアサギが駆けつけて万事には至らなかったが、しばらくの間、トキワは心も体もボロボロであった。
「今度の潜入はオレにとってのリターンマッチ……だから」
三人は無言で頷いた。
そう、約束……。


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闇藤ばん #8☆2004.08/22(日)09:33
八話 夜▽


真っ暗な世界に
一すじの明かりが差しました
――もういいのですか?
導をたどっていけば、そのうち…


真夜中のセンター…旅人達はぐっすりと眠りについているような夜半。
「スーオーウー、寝るなー!」
一部屋だけ騒がしい部屋が……アサギたちである。
超健康朝型人間のスオウは、今もふねをこいでいた。
潜入予定時刻は、丑三つ時……後約三十分。
「おーい……なんだったら、時間はやめるか?」
「……え?」
「彼女のことだ。きっと一時間ぐらい前から準備はしているだろうよ……ちょっくら聞いてみるか」
そう言うと、ミナキは窓を開けた……そしてモンスターボールに手をやる。
「キリー!」
マルマインが窓辺に現れ、光を発する。
「……よし」
一分ほどして、丁度シルフの方から光がかえってきた。
「ぜ、ん、いん、ね、むって、ま、す……よし、キリー」
ミナキはマルマインに合図を送り、光で返答をした。
「もーるすしんごうだねぇ」
ふわわとあくびをしながら、スオウが言った。
ちゃんと頭はおきているらしい。
「光や音、そのぱたーんで相手に意志を伝えるギジュツだよ」
「……わかるのか?」
「ちなみにいまみなきさんがおくったのは…いまからいきますのでよろしく……かな?」
ミナキはうんとうなずく。どうやらあたりのようだ。
「というわけで、今から行くぞ」
――その言葉に、三人はうなずいた。
そして、手持ちの状態を確認する。万全にしておかないと、後で困る。
「……用意はいいか?」
その一言に、スオウとアサギはモンスターボールから飛行手段をくりだした。
……長い戦いが、幕を開けようとしていた。


「……ミナキさん?」
「ああ。心強い仲間もいる」
窓辺…先ほど、光の返答があった窓辺のあたり。
四人はそこから、シルフの本社ビルに乗り込んだ。
「とにかく中へ」
窓が開いて、四人は部屋の中へと入った。
その中にいたのは――ミナキの言ったとおり、見事な水晶色の髪をした少女であった。
年はアサギたちより少し上ぐらいで、若草色のフレアスカートがとても大人っぽい。
深海色をたたえた瞳はまっすぐで、いわゆる『お嬢様』とはひと味もふた味も違った――初対面の三人は、イメージがかけ離れすぎていて思わず引いてしまった。
ちなみに……三人のイメージは、どうやらタマムシジムのエリカ嬢。
「初めまして、私はルリ・シルフ。シルフカンパニー社長の…養子です」


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闇藤ばん #9☆2004.08/28(土)19:09
九話 指▽


大切なんだよっていわれた
あの小指の契り…
絶対忘れはしないから
どこに行っても……いつになっても


薄暗い部屋――
「…養子?」
「ええ。出身はホウエンだときかされています」
大会社の社長の実の娘…それが彼女の肩書きだ。
少なくとも、アサギたちはそうだと思っていた。
「小さい頃、わけあって父の知り合いであるここにきました。どんなわけだとは聞かされていませんが…別に、私は気にしてなどいませんよ」
ルリは、そうだといって首元から何かを取り出した。
それは、ネックレス…指輪の通ったネックレスであった。
「初対面の人には聞くことにしてるんだけど、この指輪をみたことはある?」
「いいえ…」
「…ないですね」
「うーん…めだつもんだけど、ないです」
三人の答えに、やっぱり、とルリは微笑した。
「あなた達、トレーナーでしょ? だから、いろんなことを見聞きしてるんじゃないかなぁっておもったの。でも…やっぱり」
「…ホウエン地方の出身なんですか?」
スオウが唐突に、ルリに聞いた。
何か確信がありそうな瞳…アサギとトキワはそう感じた。
「ホウエン地方では、赤や青の髪は敬遠されると聞いています。それが関係してるんじゃないかなって」
「…そうですか」
ルリはきびすを返し、ドアの方をみた。
「ここは三階の南西に位置しています。まずは、北東に進んでいってください」
「了解」
「…地図の準備は?」
「そっちも大丈夫だ」
ルリは確認を終えると、戸を静かに開けた――丁度番をしていたであろう団員が、すぐ脇の壁に寄りかかっている。
…眠っている。
「…ねえ、あなた」
アサギは振り向く。そして、ルリから何かを渡された。
青いボール…中に何がいるかはわからない。
「あなたなら、この子を使いこなせるはず。いざというときの頼りにして」
「…ありがとうございます。借りさせてもらいます」
それ…その行為が、ルリにできる精一杯のことなのであろう。

五人は…歩み始めた。
それぞれの道…やるべきことの待つ道を。
夜は、静かに更けてゆく…。


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闇藤ばん #10☆2004.09/13(月)15:16
十話 戦▽


高鳴る鼓動
流れゆく汗
そして…時間
戦いは――幕を開けた


「でんこうせっか!」
「なっ…もどれ、ラッタ!」
アサギは、四階にいた。人質にとられている人々の救助にあたった彼女は、今のところ団員五連覇中である。
「WHITE、思いっきりやっちゃっていいからね」
《…少しは遠慮するのが人道だぞ》
彼女のただいまのパーティは、WHITEとGOLDのみだ。REDとBLOWNは救出した人々を外に運ぶ役目がある。
手薄なパーティだが、相手のパーティが偏りがちなので難なく倒すことができる。
「…さてと」
がらんとした部屋…隅っこに、がたがたとふるえる女性がいた。従業員であろう…アサギは手を差し出す。
「もう大丈夫です。ロケット団は倒しましたよ」
「…本当? 本当に?」
若い女性のようだが、おそれと不安で顔が…表情が、やつれているように感じられる。
アサギは手近な窓からBLOWNを呼び、女性を乗せるように頼んだ。
「ポケモンセンターに着いたら、まずは十分に食事をとること。そして、事情の説明を警察に」
「…わかりました」
BLOWNは頷くと、女性を乗せて空へと舞い上がった。
「よし、次よつぎ!」
――彼女の快進撃は、終わらない。


「つつく!」
「え…も、もどれ!」
五階…スオウとトキワは、それぞれ違う敵と戦っていた。
壁を隔てて、それぞれの声が伝わってくる。
テレポートブロックの巡り合わせで、似たようなところに二人はでたのであった。
「くっ…早くボスにお知らせしなくては!」
「ボスの居場所を知っているのか?」
スオウは相手に問いつめた…が、答えるわけがない。
団員は逃げ出す。すぐ先のブロックに向かうつもりだ。
「オニリン、これを!」
スオウはオニドリルに小さな発信器を持たせると、後を追わせた。そして、うまい具合に…団員の背に、張り付いた。
「よし…トキワ、うまくいきそうだぞ」
「了解!」
彼らの快進撃も、終わらない――。


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闇藤ばん #11☆2004.09/18(土)17:13
十一話 気▽


その気になれば何でもできる
そう信じていたい自分
それが弱いところだと
誰かに悟られたら――


「RED、頼むわよ」
《…これで何人目だ?》
それほどの人が、ぎりぎりの状態で、このようなところにいる。
その事実をアサギは信じたくなかった…信じられないにもほどがある。
「まだ六階…先は長そうね」
《体力の方は保ってるか?》
《ああ、相手がどくタイプばっかりで一方的に勝てる》
GOLD…滅多に口をきかない、静かなユンゲラー。
彼はここまでの快進撃の、大きな勝因となっている。
「しいていうとすれば、ヒメリのみが底をつきそう。ピーピーエイドも。技ポイントの回復が結構つらくて…」
《そうか。しかし、こっちで何とかできることじゃ…》
アイテムの払底に、悩む一行。
…しばしの沈黙の後。
「あの…」
救出された男性が、ポケットから何かをまさぐりだした。
小さな、赤い木の実がいくつか。まさしく…
「ヒメリのみ!?」
「ええ。私のシーフ…ニャースがとても好きなので、いつもポケットにしまってあるんです。だから、これを使ってください」
「でも…」
「そのかわり、シーフを…ロケット団の手から、救い出してください」
男性の目に、ほんのわずかだが…涙が浮かんだ。
犠牲となったのは人だけではない…アサギはそう、痛感した。


「その檻を開けてもらおう!」
スオウは珍しく語勢を荒げていた。
「…何の目的で、か?」
対するはロケット団員…幹部レベル。何匹ものポケモンがはいった檻を前に、仁王立ちしている。
「その中のポケモンたちを助けるために!」
「ほぅ…小賢しい」
「なにっ!?」
スオウは普段がおとなしい分、怒りが頂点に達すると性格が豹変する…周囲の親しいものしか知らない、彼の一面だ。
「やれるものなら…かかってこい!」


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闇藤ばん #12☆2004.09/19(日)10:34
十二話 闘▽


大地を踏みしめて
ただひたすら想う
気持ちが満ちてくる――
今こそ、決別の刻


「バナリン!」
「アーボック!」
くさ・どく対どく。フシギバナの方がわずかだが劣勢である。
しかし仮にもその差はわずか…スオウにも、考えはあった。
「つるのむち!」
フシギバナは、むちを…窓ガラスに向けた。
ガシャ、ガシャーンと割れるガラス…わずかながらも昇り始めた陽の光が、部屋に射し込む。
「フシギバナは花――太陽が大好き。少しでも状況を有利にしたほうがいいから」
スオウは方位磁針を取り出した。
「東から昇る朝日、それを部屋に取り入れる!」
フシギバナの花に、光がともる。
それが何を意味するか――相手にも理解できたようだ。
「甘いわ! ソーラービームが一ターンで打てると思っているのか!?」
「その考えが甘いよ、幹部さん…」
光が、だんだんと部屋を満たしていく…真昼の、炎天下の砂漠のように、部屋に熱気がこもってくる。
「想い…それが、奇跡を起こす!」


ドッシャ――――ン!


「!?」
窓から見える景色がずいぶんと小さくなってきた、と思ったトキワは、突然の大振動でふらつく。
下の階で、何かがあったようだ…しかし、この階が何回かはわからない。
いや…わからなくていい。どこの階でもいい、ボスがいるのは最上階とは限らない。
…と、何かの声がした。
きゅうとなく声と、悲鳴。
トキワは、その方向へと急いだ――。


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闇藤ばん #13☆2004.09/29(水)09:37
十三話 水▽


流れゆくもの ここにあり
消えゆくもの ここにあり
姿形 いずれは移り
二度と元には戻らない


「ファントム!」
ゴーストタイプは、このような場合に大いに役立つ。
壁や床をすり抜け、一刻も早くそこへと向かう――鳴き声と、悲鳴のあがった方へ。
トキワは手当たり次第にワープパネルを抜ける。
襲いかかってくる団員は、瞬時に対処する。
今はあの悲鳴だけが…気になる、助けたい。
そう思う心が、そうしたのであろうか…道が、開けた。
小さな檻の前に、少女が一人。檻の中にいたのは…
「ラプラス…?」
絶滅の危機にさらされているポケモン・ラプラス。
シルフカンパニーに何故いるのか…数少ない生息地は、遙か南の島々であったはずだ。
「私のらぷうに手を出さないで!」
どうやら、檻の前にいる少女がトレーナーのようだ。
「うるさい! 元々そいつはロケット団のものだ!」
ロケット団員が、少女に詰め寄る。
話が矛盾している…そう思いつつ、トキワはモンスターボールを構えた。
「――おい、そこの」
「? なんだぁ…そこのガキ」
「…あいにく、もうガキと呼べるような年齢じゃないぜ、おっさん」
…火花が散る。
「ゆけっ、フレイム!」
「やっちまえ、マタドガス!」
火花が大きくなり、バトルがはじまった…。


「29! でんこうせっか!!」
《ういっ!》
「30! 10まんボルト!」
《楽勝!》
ばたたたたっ!…――アサギは、ここで一息ついた。
階段を上ったその瞬間、ロケット団員が束になって勝負を仕掛けてきた。
数はぴったり30体、WHITE一匹で十分な強さだった。
《しかしまぁ…よくこんなに人がいるよな…》
「ほんと。これを束ねるリーダーは…うん、よっぽどな人物なんだろうね」
《…トキワで勝てるか、心配だな》
「…きっと大丈夫だよ、あいつなら」
そうアサギを信じさせるのは、彼特有の気の持ち方であった。
――盛者必衰の理――彼の好きな言葉だ。
栄えるものもいつか滅びる、昔の話だ。
それは、万人に対していえること。
だから、おごり高ぶって他人に迷惑をかけるようなヤツは、許せない――彼の信念を聞いたとき、アサギは尊敬の念を抱いた。
そう、すべては――。


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闇藤ばん #14☆2004.10/10(日)16:18
十四話 雷▽


大きなものから
離れていれば大丈夫だと
小さき頃の幼い記憶
どうしようもなく怖かった――


「さて…ここの部屋はオッケー、次だ」
《だいじょうぶースオウ?》
「ああ、心配しないで大丈夫」
スオウも、弱いがポケモンとの会話能力を持っている。
アサギのが強すぎるのか、スオウのが弱すぎるのか…とにかく、使えるときに差がある。
アサギのは四六時中可能だが、スオウのは自分が危機に陥ったときのみ…まさに、今。
スオウはガラスの破片で右腕を切っていた。
「とにかく…早く助けなきゃ」
明るくなる前に…昼になるまえに。
無駄に騒ぎを大きくしても、駄目だ。
《無理しないで…困るのは》
「ああ、わかってる」
スオウは血のにじむ腕を支え、階段を上った。


「アサギ…っ!」
「トキワ!?」
トキワは、壁に寄りかかっていた。
「どうしたの…」
「ちょっと吹き飛ばされた…爆風に」
トキワはバトルの行く末を語る。
「フレイムを出したのが失敗だった…マタドガスのだしたガスに引火して、そのまま大爆発」
《…どいてくれないか》
と、アサギの背後にGOLDが歩み寄る。
アサギが従ってどくと、GOLDはトキワの左頬にできた大きな打撲の跡に手を当て、目を閉じた。
語りかける…治癒力を高める、一番の方法。
そのものが治ろうと、元気になろうという気を引き出す。GOLDはポケモンで言葉は通じないが、気持ちは通じる…。
「さすが…ありがとう」
アサギではできないような、人ではできないような力を、ポケモン達は備えている。
そう…その力を使って、悪事を働くなど、許せない。
「よし…ありがとな、ユンゲラー」
《どういたしまして》
もちろんこの言葉は、トキワに届いていない。
「じゃあ、いくか!」
少年達は再び、戦乱の地へと向かった…――。


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闇藤ばん #15☆2004.11/03(水)15:32
十五話 炎▽


燃えろよ燃えろよ
すべてを焼き尽くすまで
焼けた後の大地からは
また新しい命がはぐくまれる


「…らぷう、どうしたの?」
アサギとトキワが去った後、のびたロケット団とともに少女がいた。
≪あの二人は…いくのかしら≫
ラプラスはとても頭がいいことで有名だ。この少女と話しているうちに、人の言葉を覚えたらしい。
「どこへ…上?」
「ええ、上よ」
と、りんとした声が響いた。少し弱ってはいるが、それは、少女にとってとても聞き慣れた声だった。
「ルリお姉ちゃん!」
「無事かしら、ユウリちゃん?」
「うん…ほら、元気!」
ユウリと呼ばれた少女は、くるりと一回転してみせた。怪我はないよ、というアピールである。
≪ルリさんもご無事で…しかし今まで、どうなされていたのですか?≫
ラプラス、そしてユウリはこの部屋で…この、社長室への有一の出入り口となる部屋で、なかば人質として扱われていたのだ。
しかし幼いユウリにはそれがわからず、現状を知っているのはラプラスのみである。
「軟禁されてたわ…いまさっき助かったところ」
≪となると、先ほどの二人は≫
先ほどから始まった戦い…それを起こした者達。
「二人…一人とか、三人じゃなくて?」
≪ええ。確かトキワさんとアサギさんという名前だったような…≫
ルリの脳裏に、嫌な予感がよぎる。
スオウがいない。


「スオウ君…その腕はどうしたんだっ!?」
腕をかばいながら階段を上ってきたスオウに、ロケット団を拘束していたミナキは驚いた。
「ちょっとへまを…なにか、押さえるものはないですか? 消毒はできたんですが」
持っていたおいしいみずを傷口に当て、流せるものは流した。
「そうか…ここに座って」
ミナキは傍らに倒れていた椅子をたたせ、スオウに座るよう促した。
「押さえるものならここにある…傷口を」
ミナキは自分のマントを引き裂いた。そして包帯代わりにスオウの傷口を押さえる。
スオウは最初驚いた、そしてわびた。しかしミナキが平気だというと、スオウもおとなしくなった。
「さて…アサギ君とかは別行動かい?」
「ええ…最後にあったのは、ここです」
五階…顔さえあわせなかったが、会ったといえばここだ。
「わかった…しかし、この部屋」
「ええ…暑いですね、異様に」
二人がそう思った、瞬間。
窓ガラスが吹き飛び、炎の奔流が部屋をなめた。


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闇藤ばん #16☆2004.11/14(日)15:18
十六話 危▽


その瞬間が一番危険だと
彼の勇者は言った
気がゆるんだとき 落ち着いたとき
そして――


「シャワリン!」
「ディン!」
戦場と化した、部屋。
炎の踊る中、二人と二匹は動いた。幸い、広い部屋だったので戦うのに不自由はなかった。
炎が部屋の隅をなめ、黒煙を上げる。
「シャワリン、なみのり!」
まずは消火…スオウはシャワーズに、水を放つよう命じた。
しかし、焼け石に水…――効果はあまり、ない。
「ここは七階だ! すべてが焼けたら――!」
高いビルは折れ、そこに待つのは惨劇。
「ディン、はばたけ!」
「ボォォォォオ!」
ばさばさと、紅い翼が炎を斬る。炎と炎の間、陽炎の先に見えたのは――炎の龍、リザードン。
アサギのではないとスオウが感じた理由は、その背に乗っていた黒い人影であった――ロケット団。
「くっ…残党が」
「まだいたのかって? …ええ、私はサカキ様のすぐ近くにいましたから」
黒い人影の顔が、炎の加減によって浮かび上がってくる…女性。
金にカールする髪を熱風に揺らし、上機嫌そうな表情をゆるませる。
「サカキ様の言うとおり、可愛いのとおっきいのと、二匹のネズミが紛れ込んでいたようね…ふふふ…ここで、サカキ様の夢の前で朽ちるがいい!!」
女性が腕を上げた。リザードンが、息をためる。
かえんほうしゃの合図だ――と、そのとき。
「ピジョォォ!」
突然の疾風に、リザードンがあおられる。
何かと思えば…姉さんのピジョット。
「なっ…小賢しい!」
リザードンが翼でなぎ払おうとする、しかしピジョットはそれを優雅にかわした。
それどころか…攻撃を、随所随所に仕掛けていく。
「スオウ君、今がチャンスだ!」
ミナキさんの言葉に、僕はうなずいた。


…そのころ。
「でてこい、サカキ!」
シルフカンパニー、最上階。誰もいない社長室。
トキワは姿を現さないサカキに、声を荒げていた。
「お前の部下の大半は倒した、もう後はない…でてこい!」
アサギはそれを静かに見守る。いざというときのフォローにしか、これからはまわれない。
トキワと交わした約束。忘れるわけにはいかない。
「でてこい、わるあがきは…」
「するつもりはない、そのようなもの、無様なだけ」
「「!?」」
突然の声に、振り返る二人。そこには…大柄な男が、たっていた。
すべての元凶、サカキ。
「戦ってやろう…丁度私の腹心も、ネズミ二匹を相手に戦ってることだしな」
サカキは、ボールを構えた。
「さぁ…かかってこい!」


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闇藤ばん #17★2004.12/22(水)20:11
十七話 想▽


伝われ 届け 舞え
私の 僕の 俺の 自分の
かけがえの ない 明日への
なにも ない 思いを…――


空を飛ぶものというのは、エネルギーの消費が激しい。
なので激戦続きで疲れ切ったシャワーズの攻撃でさえ、避けることがままならなかった。
リザードンはその翼にまともに水の奔流を受け、さらにミナキのディンによる追撃で、ふらふらと飛ぶことしかできなくなっていた。
燃えさかる炎は、場の様子を受けてか、さらに高く、紅く燃える。
リザードンは炎を、すべての力を出し切ってまではき続ける。ロケット団の方も、死力を尽くす。
土壇場というものは、体勢を大きく立て直すこともある。
が、このときばかりはそれはおこらず…つめが甘く、ピジョットに翼を強打された。
何も言わず、ただ一瞬で、リザードンは落ちてゆく…。
ミナキは無言で、竜にうなづいた。竜は真っ直ぐに下降していく。
「命を奪うほど、残虐ではないのでね」


「ちょっと、どうしろってのよ!?」
わらわらと、ドアの向こうから人の波が押し寄せる。
すべてが黒い装束姿、ロケット団。
アサギの目の前はすべて黒く、そしてすべてがボールを構えていた。


「な…っ!」
サカキが突然、トキワにとある映像を見せつけた。
アサギと、周りにたかるロケット団…この数を相手に太刀打ちするのは、百戦錬磨の勇者でも苦しい展開だ。
ましてやアサギは、トレーナー歴もまだ短い新参者…たとえ力があっても、隙をつかれたら終わりだ。
「ネズミにはふさわしい末路よ。なに、他の仲間も今頃…」
「なめんなよ! キャノン!!」


決断。それはあらゆる意味で、命をかけた。
一歩間違えれば、アサギの運命は転落へと向かう。
《…やんなきゃはじまんねえぜ、アサギ》
ひとつ、
《ええ。無理だとわかっていても…》
またひとつ。
《完全に、勝算がないわけではない》
静かな空間に、
《…信じるしかないな》
アサギにしか感じられない、言霊が舞う。
黒い装束、すべてから逃げることはできない。むしろ、袋のネズミ。逃げられない、一戦たりとも回避できない。
アサギの勝利の確率は皆無だ――しかし、完全に無いわけではない。
黒装束は、表情一つ変えずにアサギを壁際まで追いつめた。一人の少女が相手なのだ、負けることはないと思っているのだろう。
彼らには確実性と、余裕があった。それはアサギには全くない。
一方のアサギには…信念があった。想いもある。
何よりも、仲間がいる。心強い、戦友達が。
「戦闘態勢に…」
四つの方向、アサギの右前、左前、そして左右。
「…格の違いを見せてやる――!」


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闇藤ばん #18☆2004.12/28(火)17:03
十八話 転▽


可能性は一つじゃない
 可能性は限りない
  だからこそ そうやって
   ここに立っていることができる


WHITE、RED、BLOWN、GOLD。
そのときまでには、なんとかアサギの元へと舞い戻ってきていた。
四匹と一人、対無限。
勝利を確信したロケット団員は、次々に襲いかかってきた。
「でんげきは、きりさく、つばさでうつ、ねんりき!」
単発で高威力、なおかつ技が出るまでのスキが少ない技を連呼する。
力は万全ではないが、しかし力の差がそれを埋めていた。
とりあえず、あと少しの間は保つ。
根拠のない期待だが、彼女は応援を求めていた。


「キャノン!」
「ガルーラ!」
トキワとサカキとの戦いは、熾烈を極めていた。
トキワが攻めればサカキは受け流し、サカキが攻めればトキワは避ける。
一撃一撃の威力が高いサカキと、敏捷さでそれを埋めるトキワ。
サカキの使用するじめんタイプに対して、トキワの使用するカメックスはみずタイプ。相性も、戦いを助けていた。
しかしながら、サカキの最終手段はノーマルタイプ…ゴーストタイプで技を無効化しつつ戦うのも手だが、逆に致命傷を与えることが困難になる。
「ピヨピヨパンチ!」
「避けてみずでっぽう!」
相手に体当たりする形で繰り出す技は、テンポとタイミングさえつかめば避けるのは簡単だ。軌道を調整できない上に、相手にスキを生ませる。
しかしみずでっぽうのような間接的な技も、相手の動きを追っての攻撃は無理だ。軌道を読まれたら、避けられる。
一進一退、戦いはとどまるところを知らない。


「さてと」
ミナキはディンが回収したロケット団員をかつぐと、地図を広げた。
団員は気絶しているだけで、その手持ちのリザードンも、気絶している間にスオウが回復させてしまった。しかし、戦うだけの気力はない。
「ボスの部屋に向かうか…ん?」
「…揺れてませんか…ビル」
ビルが揺れている。地震ではない、変な揺れだ。
「…!? スオウ、逃げろ!」
天井を見上げていたミナキが、スオウの腕をつかんだ。丁度つかまれた場所が怪我をした場所で、スオウは苦い顔をする。
が、それは一瞬で危機を感じた表情へと変わる――天井がゆがんでいる、その上、崩れはじめている。
そして…――。


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闇藤ばん #19☆2005.01/27(木)20:10
十九話 落▽


オチテイクノ キミノソバヘ
ボクハオモウ イトシイクライ
コウカイハシナイ ソノタメニ
イキテイタコトヲタメライモセズ


「フェザーダンス!」
その声が、彼の頭上で響き渡った。
舞い落ちてくる羽は、数え切れないほど…壊れた部屋に、壊れたビルに、雪のように降りしきる。
複数体で舞っていると、スオウは思った。
一匹じゃここまでできない、と。
そしてほぼ同時に、天井がゆらゆらと…スオウはミナキに腕を引かれ、廊下に出た。

その瞬間、天井と、黒い装束が降ってくる。

「サンキュー、RED、BLOWN、そしてキミ」
頭上を見る…――そこにはスオウの姉、アサギがポケモン達と共にいた。
見慣れぬ、茶褐色のとりポケモンと一緒に。
「あ、スオウ、ミナキさーん! こっちは片づきましたよ!」
黒装束を踏まないように――ほとんどが、落下したショックで気絶している――、アサギがスオウ達二人の元へ飛んでくる。REDの背に乗って。
室内で体躯のいいリザードンに乗るのは前代未聞だが、今は許される状況下である。
壁の一角から空が見えるほど、あたりは崩れていた。
「派手にやったね、姉さん」
「仕方なかったのよ、包囲されたらこうしかできないし…フェザーダンスの羽っていうクッションがなければ、この作戦はつかえなかったし」
アサギも、悪を懲らしめることはしても傷つけることはない。
「ルリさんから借り受けたこの子…フェザーダンス、覚えてたから」
「そいつはヨルノズク。フェザーダンスは、本来なら覚えられないが…なにがあったのか、そいつは覚えてるんだ。こう考えると、まだまだ奥が深いよな」
ミナキが言った。
アサギとスオウ、トキワの図鑑にない知識を、ミナキは与えてくれる。
今もそう…ヨルノズクという名前も、特別なことも。
「念のため、ねむりごなかけとくよ」
まるで、調味料をかけるかの手軽さだ。スオウはフシギバナをくりだし、なむりごなを団員にかける。
追っ手の心配は、これでない。烏合の衆だ、これだけアサギが暴れれば手出しをする者もない。
三人は無言のままに、最上階を目指した。
最終決戦の場所へと…――。


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闇藤ばん #20☆2005.03/11(金)20:41
二十話 陽▽


陽のあたる部屋で 心地よいメロディーを聴く
とても平和な 世界の断片
その背後に隠れている 本当の世界
真実を知るのは 神のみなのか?


神のみぞ知る。本当にソレだった。
「地図見ても迷うなんてね…ありえないな」
「トキワ…巧くやってるといいけど」
「というよりこれは駄目なの?」
アサギは窓――もはや枠のみで機能はしていない――をあけた。ステンレス製の枠が陽に反射して輝く。
「直接いきましょうね」
…スオウの勘が語った。
これはもう、止められない。

「さて…もう終わりなのか?」
「何を…ぼろぼろのくせに」
両者とも、ポケモンは勿論トレーナーも、ぼろぼろであった。
流れ弾にあたったり、ビルが崩れかけていたり、もろくなってきていたり…――。
トキワが言った。
「次の一撃で、決めるぞ」
カメックスがうなづく。
「では…こちらも」
ガルーラがうなづく。
「うなれ激流、吹き飛ばせ…」
「うなれ鉄拳、打ちのめせ…」
同時に、
「なみのり!」
「メガトンパンチ!」

――…そして、壁の一部が崩壊した。

「トキワ!」「生きてるの!?」「というより…ほこりが…」

視界がはれるまで、何があったかはわからなかった。

「な…スオウ、アサギ、ミナキ…さんか?」
「あ、声はしてる。生きてる? 怪我とかしてない?」
「姉さんが無理するから…」
「…キャノン、よかったらみずでっぽうぶちまけてくれ」
「カメー」

返事が聞こえて少し、皆の顔に冷たい水がかかる。
目が覚める、生き返るような水。
そして視界も復活し、やっとお互いの顔を確認できるようになったとき。

「壁ぶち抜き…どうしたんだ?」とトキワ。
「地図見ても迷うし、最終手段で」さっと答えるアサギ。
「もしかして…リザードンで突っこんできたのか?」…いぶかしげな顔。
「…ねえトキワ、神風特攻隊って知ってるかい?」泣きそうな弟。
「まぁ、一心同体にならないとできない作戦ではあるわ」自信満々。
「そうだよな…一心同体、ってのが大事なんだな」と、同感しかけ、「でもこれはひどいよ姉さん」と。

そして、冷静な大人が一人。

「サカキ…――逃げられた」



「…結局、勝ったのはトキワみたいだね」
「ああ。キャノンが動けたからな」
REDがぶち抜いた、社長室の壁。
もはや全開で、青空教室よろしくである。
「だけど…っ!! また逃げられたのかよ!?」
トキワの声、悲痛な叫び。
答えたのは、あの直後に合流したルリであった。
「そうみたい…でも、もう後はなさそうね。シルフのこともある、私のこともある…」
これ以上、逃げるのは無理だ。
あと少しで、ロケット団は…。
「…しかし、貴方が助かってよかったよ」
と、ミナキ。警察やポケモンセンター、その他諸々に連絡をしていた彼は、通信機をしまった。
その黒い機体に陽が反射する。
「しかし…お綺麗ですね、その髪」
スオウが、陽にきらめくルリの髪を見ていった。
綺麗な水晶色。陽の下だと、さらに美しい。
「アサギもこんぐらい綺麗ならなぁ…」
「はぁ!? どーせあたしはマサラの少年趣味ですよっ!!」
ふんっ、とそっぽを向くアサギ。
そして、彼女は見る――遠い空に、
「…あ、虹がでてますよ!!」
「いつの間に…もう昼なんだな」
「…久々にみました、虹」
アサギの隣に、ルリが歩み出る。
手のひらを上に、太陽の方に向ける。
見た角度のせいか、アサギにはまるで、ルリが虹を手のひらに乗せたように見えた。
「私の生まれ故郷では…――」


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闇藤ばん #21☆2005.03/13(日)20:11
最終話 虹▽


消えてしまうけど
美しいものは
人の心に光を残し
空の彼方へ消えていく


「じゃあ、あたし達はこれで――」
ヤマブキシティ、ポケモンセンター。
アサギとスオウ、トキワは旅立とうとしていた。
まだ見ぬ、新たなる世界へ――夢を手にするため。
見送るミナキとルリ、そしてシルフカンパニーの職員達は、笑顔であった。
また会える、そう信じていたから。
「いい旅になりますように、祈っています」
「いえ、その必要はありません…もう、十分にいい旅ですから」
「そのようだな…三人は、これから何処へ?」
ミナキが問う。一番最初にアサギが答え、
「セキチクシティかな。次のバッチがあるし」
「俺も…バッチがあるからダブるな」
「僕も一緒に行くよ。セキチク、グレンと行くのが一番楽なルートだし」
続いてトキワ、スオウ。
「そうか。私はまた研究に戻る…追っているものがあるからね」
「がんばってくださいねっ」
「ああ、そっちもな」
そして――時が訪れる。
三人は笑顔で、別れを告げた。
一年足らずで、再会することとなるとは思わずに…――。



「あら、いけない」
三人が去ったあと、ルリは気づいた。
「三人の名前…聞かずじまいだったわ」
「でも…聞かないでも、いいと思う」
もう、彼らとは…『絆』で繋がっているのだから。



「さてと、BLOWNで飛ばそうかな?」
「いや、タマムシに出てサイクリングロードを下った方が早いと思うよ?」
「でも、あそこって確か…暴走族のたまり場じゃ」
「別に喘息持ちもいないでしょ? あ、もしかして…トキワ、自転車乗れないの?」
「なんだとマサラの少年趣味!」
「いったわね、この温室育ち!」
「まぁまぁまぁまぁ…」



『私の生まれ故郷では――』
手を掲げたまま、ルリが語る。
優しく、包み込むように。
『手のひらに虹がかかる、という言葉があるんです』
ルリは4人――アサギ、スオウ、トキワ、ミナキ――の方を向く。
『虹は、どんな条件でできるか…知ってますか?』
『確か、雨上がりの空…太陽と反対の方向にできるんですよね?』
『そう、正解』
スオウの答えに、ルリは微笑む。
『雨という苦難を乗り越えて、すばらしいことが起きる…空にかかる虹のように』
風が吹いた。一陣の風が。
皆に等しく吹き渡り、髪を揺らし、服をはためかせる。
太陽光線と雨――光の欠片が、生み出した虹。
古今東西、虹を美しいと思う人はたくさんいるであろう。
その虹が、何故かかるか…それは奇跡とも、普遍とも、偶然とも、必然ともつかない。
それが、今。
光の欠片が生み出した、今という瞬間。
『…とても、綺麗な言葉ですね』
『うん、僕もそう思う』
『ロマンチック、とでもいうべきか?』
『ああ…そうだな』
笑顔が、きらめく。虹のかかる空の下。

これは、長い歴史の中の、一瞬の出来事。

  ――『手のひらにかかる虹―― …NakedTales…』 END――▽
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[411]

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ぴくの〜ほかんこ