ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[412] Best Friend

美怜 #1★2004.07/01(木)20:35
あたし達は、世界一…ううん、宇宙一の、親友…。

だから、もう会えることはなくても、

心でつながってるんだよね…

〜1話 別れと出会い〜

「うっ…ひっく…」
 ホウエン地方のポケモンたちの霊が祀られる場所…送り火山。
 そこの一つの墓の前で、大粒の涙を流してすすり泣く少女がいた。側では1匹のオスのラルトスが、哀れむような目で彼女を見ている。墓の台座には、このような文章が彫られていた。

「ポケモン・サーナイト、名はサリア。この世に大いなる闘いを残し、ここに眠る。」

 そう。「サリア」と言う名のサーナイトは、つい先ほど、安らかに息を引き取ったのだ。息子を…ラルトス「ラスト」を遺して。
「レイラお姉ちゃん、もう行こう?いつまでも泣いてたら、母さんに笑われるよ?」
「やだっ、やだぁ!サリアとお別れしたくないぃ!!」
 ラストにこう慰められても、レイラと呼ばれた少女は首を左右に勢いよく振りながら、墓の前にかじりついていっこうにその場から立ち去ろうとしなかった。ラストが困り果てたその時。
「おうおう嬢ちゃん、隙だらけだぜぇ?」
 背後からいきなり声をかけられ、レイラはようやく墓から目を外した。
 そこには1匹の、オスの野生のヨマワルが、ニヤニヤ笑いながらその場でホヴァリングしていた。
「悪いけどそのラルトス、ぶっ倒させてもらうぞ。」
 ヨマワルはそういうや否や、「シャドーボール」を放つために気を込め始めた。そう、戦闘が始まったのだ。
「ラっ、ラスト!念力!」
「りっ、了解です!」
 レイラの命令を受け、ラストがエスパータイプの基本技・念力を放った。のけぞるヨマワル。
「うぐぅ!」
「いっ、今だ!」
 護身用にと、ミナモシティのデパートで買ったハイパーボールをヨマワルめがけて投げる。ヨマワルの体が、ハイパーボールの中に吸い込まれていった。中でヨマワルが抵抗しているのか、ボールは上下左右に小刻みに動いていたが、やがてそれは収まった。ヨマワルをゲットできた証だ。
「あ、危なかった…」
「けっ、返り討ちか。まあゲットされちまったもんはしゃあねえやな。」
 意地っ張りな性格なのだろうか、ヨマワルはボールごしにレイラに向かって負け惜しみを言った。それから彼女にこう言ってきた。
「そこに植わっちまったサーナイトのトレーナーだろ?そいつの代わりだと思って、まあ仲良くやろうぜ。何か愛称つけるか?」
「…ぇ?」
 急に言われて気が動転したのか、レイラはすぐに返答できなかった。と、横からラストが言った。
「ほら、彼もそう言ってるんだしさ!いつまでもうじうじしてちゃ、母さんに笑われちゃうよ!さっき言ったでしょッ?」
 無邪気な性格であるラストらしい言い回しだった。レイラはしばらく黙っていたが、やがてようやくいつもの笑顔でうなずいた。胸をなでおろすラスト。
 そして、ボールの中のヨマワルに向き直るレイラ。
 今彼女は言う。新たな友達にささげる、新たな名を。

「ありがとう、よろしく。ヨマ…じゃなくて、ワール!!」

〜続く〜
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美怜 #2★2004.07/02(金)19:04
突然現れた、新しい「友達」。

普段は捕まえてもすぐ逃がすのに…なんでだろ?

何となく…もっとこの子と一緒にいたいんだ…

〜第2話 友達になれる何匹か〜

「わーる?それが俺の名前か?」
 レイラに「ワール」と名づけられたヨマワルは、こう聞き返してきた。
「そうだけど。気に入らなかった?」
「いや、別に。一度決めたら当分変えられないからな、愛称は。確認させたかっただけだ。」
 質問を質問で返したレイラに、ワールはちょっとだけ偉そうに、きっぱりと言った。
「そっか。変えないよ。あなたはワール。」
「…あっそ。で、あんた等はどちらさん?」
「あっ、ごめんごめん。あたしはレイラ。こっちはラスト。」
「サリア母さんの…このサーナイトの息子だよ。」
 ラストがこう名乗った。それから、レイラに言った。
「でも珍しいね、レイラお姉ちゃん。普段はせっかく捕まえてもすぐポケモンセンターに直行して、逃がしちゃうのにさ。」
「あん?そうなのか?」
「うん。手持ちは、友達になれる何匹かでかまわないから。」
 真意を確かめるかのように尋ねたワールに、レイラはこう返答した。
 ポケモンは、ある意味で危険な生物。ノーマルタイプやベイビイポケモンならまだしも、最終進化形態や希少価値のあるポケモンだったりすれば、強力な技が使える。これすなわち、その技がいつ人間に影響してもおかしくない事にもつながる。そのため、トレーナーは皆ポケモンを扱うための免許証を持たなければ、モンスターボールを買う事も許されない。
 免許は、全国にある受験会場(大抵はポケモンセンター)で半日ほど講義を受け、その翌日行われる簡単なペーパーテストに合格できれば取得できる。受験は13歳以上の、義務教育をしっかりこなしている者であれば誰でも受けられる。その免許には自分の身分証明やポケモンの基礎知識、バトルのルール、手持ちポケモンのパラメータ、現在までに入手したポケモンが自動的に登録される図鑑システム等が内蔵されている。つまり、つい先ほどにはワールが…ヨマワルが図鑑に登録された事になる。
「なるほど。ま、人それぞれだよな、うんうん。」
 ワールはうなずきながら言った。もし彼が人間の姿だとしたら、壁に寄りかかって腕組みでもしているのだろうか。
「だけどあなたは特別だよ。うーん…なんて説明したら良いんだろ…」
「つまり、ワールは「友達になれる何匹か」の中の1匹ってことでしょッ!?」
 ラストが言った。
「………そう…だね!!」
 レイラも返した。その時。

「レイラー!?何やってるのー!?早く降りてらっしゃい!!」

「あ、ママが呼んでる!はぁーい!!今行くー!!」
 レイラは2匹をボールに戻しながら叫んだ。
 それから意気揚々と、母が待つ1階に向かって、階段を駆け下りて行った。

…宜しくね、あたしの新しいお友達♪

〜続く〜
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美怜 #3★2004.07/04(日)14:44
この子達は、私の大切な「友達」。

だけど、何もこの子だけが、

友達じゃないんだよ。

〜第3話 もう1人の友達〜 

「ほぉ〜、なかなか良い部屋に住んでんじゃねえか!」
 ミナモシティの郊外にあるレイラの家の自室で、ワールとラストはようやく狭苦しいボールの中から開放された。
「そうでもないよ…あたし、ズボラだし。」
 レイラは少し恥ずかしそうに言った。と、ワールは夕日が差し込む出窓の側に、滑るように飛んで行った。124番水道を望む断崖絶壁に建てられた家だけあり、風景も美しい。
「おぉ〜!きれいだなぁー☆ま、ちょっとばかし眩しいがな…」
 目を細めながらワールが言う。ゴーストタイプである彼は、明るい場所や光が差し込む場所はあまり好まないようだった。
「夜はもっときれいだよ!月明かりが水面でキラキラする様はとても素敵だよっ♪」
 ラストが明るく言った。
「期待してるぜ。…あ。なあレイラ。あの島は何だ?」
 ワールが、海岸線の向こうにぽつんと見える、小さな島をしっぽで示した。
「あぁあれ?あれはトクサネシティ。海の向こうの小さな町よ。私の親友があそこにいるの。」
 レイラがこう教えた時だった。

「おぉ〜い!!レイちゃ〜ん!!」

「あ、噂をすれば♪」
「あん?親友って、あいつの事か?」
 声の主は「ハーバーメール」を持った、1匹のキャモメだった。
「ううん、この子…キャモメのキャミーちゃんはね、あたしの親友のアイカのポケモンなの。ちょっと前に引っ越しちゃって…でもこうして文通してるから、ちっとも寂しくないわよ。」
 レイラはキャミーを腕にとまらせながら言った。
「アイちゃん、元気?」
「ウン!超元気!ラスト君も元気s…ってあれ?いつの間にヨマワルなんて手持ちに入れてたの?」 
 キャミーは、ふとレイラの側で浮かんでいるワールに気付き、言った。
「あー、うん。ついさっきサリアが死んじゃったの。でも新しくこの子が来たから、今は平気!」
 それを聞いたとたん、キャミーの顔から笑顔が消えた。
「サリアおばさんが死んだ…!?」
「母さん、最期に言ってたんだ。「私よりももっと良いお友達を見つけなさい」って。それはきっとワールの…このヨマワルのことなんだよ。」
 信じられない、と言うような表情で聞き返すキャミーに、ラストは苦笑いしながら言った。
「うん。もう大丈夫。あ、手紙書かなきゃね!待っててキャミーちゃん♪」
 レイラは無理に笑顔を作りながら、机の引き出しから「オレンジメール」を取り出し、机の上に広げると、手紙を書き始めた。
「あーしてこーして…よし、出来た☆はいっ、キャミーちゃん!」
 レイラはあっという間に手紙を完成させると、慣れた手つきで便箋を折りたたみ、買った時についてきたジグザグマ型のシールで止めると、キャミーに持たせた。
「…じゃあ、あまり落ち込まないでね、レイちゃん。」
 キャミーはそう言い残すと、白い羽を散らしながら飛び立った。

〜続く〜
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美怜 #4★2004.07/20(火)19:09
この子が新しく友達になったから、もう寂しくないと思ってたけど。

やっぱり、悲しいものは悲しいみたい。

なんだか、涙が出てきちゃった…

〜第4話 ホントの気持ち〜

 キャミーの姿が完全に消えた事を確認してから、レイラは振り向いた。涙を必死にこらえているのが、誰の目から見ても手に取るように分かる。
「レイラお姉ちゃん…?」
「…だい、じょぶ。」
 心配そうに声をかけるラストに、レイラはそれだけ返答した。目が潤んで、今にも雫がこぼれ落ちそうだ。
 しばらくの沈黙の後、ついにレイラの瞳から、一粒の雫が流れ出てしまった。
「…あれ?どうしたんだろ、あたし…あはは、ごめんね。」
 無理に明るい口調で話そうとしても、無意識のうちに声が震え、涙が余計に増える。たまらず、ワールが口を開いた。
「あのな、レイラ。そんな無理しなくても、バレバレだぜ。泣きたきゃ泣けよ?俺は友達なんだろ?」
「そうだよお姉ちゃん。特に僕とは、僕が生まれたばっかりの頃からの付き合いじゃない!無理しなくて良いよ?」
 ラストも、ワールに続いて口添えした。
「………ぅ…」
 2匹の言葉で、とうとうこらえられた涙が一気にあふれ出た。そしてレイラは思い切り2匹に抱きつき、大声で泣いた。
「…そうそう、それで良いんだよ。」
 いきなり抱きつかれてあっけに捕られていたワールだが、やがてしっぽで彼女の頭をゆっくりと、優しくなでた。ラストも優しい笑顔で、泣きわめくレイラを見守る。その時。
「…!!」
 突如、ラストの体が、ぶるぶると激しく震えだしたのだ。
「な、何??」
 突然の事で、レイラは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「こりゃあ進化の前触れだな。さっきの俺との戦闘で経験値をたっぷり授かったらしい。俺に感謝しろよ?」
 少し偉そうな口ぶりで、ワールが言った。レイラはあわてて机の上にあったポケモン免許証をつかみ、開いた。
 その時、ラストの体の震えは収まっていた。
「…わ…ぁ。」
「僕、大人になったよ?お姉ちゃん。」
 ラストは、進化を遂げた。
 免許証の画面には、「おめでとう!ラストはキルリアに進化した!」の2行の文字が、はっきりと映し出されていた。
「こりゃあ、サーナイトの最後の贈り物かもしんねえな。そうだろ?」
 キルリアになったラストの頭をしっぽで軽く叩きながら、ワールが言う。
 レイラは、すっかり泣き止んだ笑顔で、うなずいた。
 
〜続く〜
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[412]

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