レザード | #1☆2004.08/15(日)04:34 |
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ポケットモンスター・アドバンスジェネレーション セカンド・ストーリー 〜神々の伝説 古代ロマーナの遺産〜 > 序章 我は、コレクター > 過去にオレンジ諸島に住む炎の神ファイヤー、氷の神フリーザー、雷の神サンダーをコレクトし、遂には、その3匹の神の頂点に立つ深海の神ルギアをコレクトしようとするが失敗し、巨大な天空城と世界遺産級のコレクションを失ったジラルダンだったが、偉大なる伝説の操り人となったサトシとルギアの世界を救うポケモンバトルを見て、もう一度最初からやり直してみようと再び旅立っていった。 > 第一章 カイオーガの石像とワイマール公爵家 > 古代ロマーナ帝国の蒼穹の神殿に収められていたポケメア石で作られた四体の石像。 それは、古代ロマーナ人の信仰と文化を知る考古学的貴重な芸術作品であったが、ロマーナ帝国崩壊後にその四体の石像は、行方不明になってしまったが、その内の三体の石像は、世界的コレクターであるジラルダンが所有していた。 天空に浮かぶ巨大な天空城の城主であるジラルダンは、書物と自慢のコレクションに囲まれた執務室で古びた本を優雅に眺めていた。 「大地の神、大海の神、天空の神、深海の神…。満月の夜に四体の神の像が揃いし時、神への道を示す…」 ジラルダンの傍らには、天空の神ホウオウに仕える三神獣と言い伝えられている伝説のポケモンの一匹、炎を司る神獣エンテイが安心した様子で眠っていた。 すると、天空城の総合制御システムを統括する人工AI「ソフィア」から定時報告が入った。 「ジラルダン様。まもなく天空城は、目的地であるジョウト地方の城塞都市「ヴェルン」に到着します」 すると、映し出された3D映像には、四方を山と小高い丘で囲まれた中世の面影を残した城塞都市が広がっていた。 ジラルダンは、エンテイとメイドのミカエルとウリエルを連れてヴェルンにあるヴィストリア城に向かった。 ワイマール公爵領の総領府ヴェルンは、ジョウト地方の中でも有数の名門貴族であるワイマール公爵の領地で、主な産業はブドウやリンゴなどの果樹産業やワイン産業であり、高品質の高級ワインが昔ながらの伝統的なワイン工房で生産されていた。 ジラルダンたちがヴィストリア城を訪ねると、栗色の髪にメガネを掛けた少し細身の中年貴族が出迎えてくれた。 「ようこそいらっしゃいました。ジラルダン公爵殿」 貴族流の丁寧な礼をするこの領地の領主であるワイマール公爵にジラルダンは、いつもと変わらない優雅で落ち着いた表情で礼を返すと、豪華な客間の方に通された。 ワイマール公爵のメイドたちから香りの良い高級な紅茶を出されたジラルダンは、その高貴な香りを楽しみながらカップを口に運んだ。 「どうですかな。ジラルダン殿、カントウの宮廷の方では?…」 「相変わらず貴族や議員たちの勢力争いは耐えないようですが、我々のような人文者にとっては、歌や学術研究にさしつかえはありませんから。毎日のんびりと過ごせますよ」 「噂では、左大臣に入閣するように陛下から要請があったとか?!」 「ええ。まぁ…」 「それは凄い!」 ワイマール公爵が興奮したように席から乗り出して訪ねてくると、ジラルダンは、いたって冷静に話を続けた。 「しかし、お断りしました」 「えっ! それはまたどうして…」 ワイマール公爵が驚いてますます身を乗り出す。 そもそも、左大臣とは、天皇直属の役所の一つ太政府の長官職で、太政大臣の下、右大臣の上の比較的位の高い役職で、現在は、立憲君主制よる議会制民主主義の下、政治主導権の中枢は、国民から選ばれた国会議員や貴族議員によって政治が行われているため、昔のように天皇自ら政治に携わることは殆ど無くなったが、主に天皇の行う国事行事などの政治に関する補佐を行う役職であり、貴族や天皇に大きな影響を与える役職として、政治的に利用されることも多くなっていた。 そのため、宮廷にいる大貴族たちにとって、その役職は魅力的なものとして、競争率も高かったが、天皇から正式に政府へジラルダンを左大臣に推挙することは、まさに異例の事態であった。 しかし、ジラルダンがあっさりとそのことを辞退してしまったことにワイマール公爵は、驚きを隠しきれなかった。 「なんとも。もったいないことを…」 驚きを過ぎて落胆するワイマール公爵にジラルダンは、静かに言った。 「私みたいな政に興味が無い者が左大臣として帝の側でお仕えするなど、迷惑なことです。それよりも私は、この世界に散らばった歴史のかけらを集めている方がしょうにあっています…」 「そうですか…」 ワイマール公爵は、少し納得したように席を座り直した。 すると、ワイマール公爵のメイドがジラルダンの傍らで静かに控えるエンテイに豪華な深めの器に注いだミネラルウォーターとポケモンフーズを差し出した。 「お上がりなさい。エンテイ…」 ジラルダンがエンテイにそう言うと、エンテイは、静かに器に注がれたミネラルウォーターを嘗め飲みし始めた。 「よく育てられているようですね、そのエンテイは」 「いえ。私も未だ駆け出しのトレーナーに過ぎませんからまだまだですよ」 「しかし、さすがはジラルダン殿のポケモンですな、あの伝説の三神獣であるエンテイをお供にしているとは、いやはや、こちらも感服してしまいます」 行儀良く食事をするエンテイを見ながらワイマール公爵が感心する。 「実は、娘も小さい頃からチルットを育てていまして今では、チルタリスに進化して、毛の手入れやポロックの調合やらで、私には、何が何やらで…」 「お父様ぁ…」 すると、艶のある栗色のセミロングの髪に、真紅の法衣を纏った少女がチルタリスを連れて客間に入ってきた。 「ア、アイゼル!…」 ワイマール公爵は、驚いたように席を立つと、少女を抱きしめた。 「会えて嬉しいよ、アイゼル。でも、学校の方はどうしたんだい…」 「あら、お父様。前にメールで夏休みに成ったから来週に帰ってくるって書いて知らせたけど読んでないの?…」 「ああ! そうだった。アイゼル、お帰り。疲れただろう、何か飲むかい。それとも、メイドに言って、軽い食事を作らせようか」 娘を溺愛するワイマール公爵にジラルダンは、静かに微笑する。 「べつにお腹も減ってないから、大丈夫よ。それより、お客様を退屈させているわよ、お父様」 「ああ、そうだった。どうもお恥ずかしいところをお見せしてしまって、ジラルダン殿」 ワイマール公爵が照れくさそうにジラルダンに向き直ると、アイゼルがそんな父親の姿を見てクスクスと笑った。 「紹介します。娘のアイゼルです」 「初めまして、アイゼルです。それでこの子は、チルタリス」 「チルゥ…」 貴族流の貴婦人礼をするアイゼルにジラルダンは、席を静かに立つと、丁寧に礼を返した。 「初めまして、ジラルダンです」 「あっ、もしかして、ポケモン美食アカデミー主宰のジラルダンさんでは」 「ええ。そうですが、ご存じなのですか」 「はい。よくテレビで拝見していますわ。あの綺麗で美味しそうな料理が鉄人とポケモンの共同で作られているなんて感心してしまいます。…そうだ。ねぇ、ジラルダンさん。宜しければ、私もゲスト審査員として鉄人とポケモンの料理を食べてみたいんですけど…」 ポケモン美食アカデミーとは、ジラルダンが創設し、主宰をやっている。カントウにあるシェフとポケモンが共同で料理を作り、対決し、審査する新しいポケモンコンテストバトルとして注目され、そのポケモンコンテストバトルの頂点に立つのがジラルダンが所有している炎の鉄人、水の鉄人、草の鉄人、鋼の鉄人たち四人の鉄人シェフとそのポケモンたちであった。 「はい。喜んで、今度のポケモンキッチンスタジアムでのバトルに招待しましょう」 「あ、ありがとう御座います!」 喜ぶアイゼルにジラルダンは、微笑すると、ワイマール公爵に向き直った。 「ところで、ワイマール卿。私の記憶が確かならこのヴィストリア城にあのポケメア石のカイオーガの石像が何処かに隠されていると…」 すると、今まで、緩んでいた顔を引き締めたワイマール公爵が真剣な表情で、ジラルダンの質問を受け取ると、執事に例の物を持ってくるように頼んだ。 暫くして、客間に白い布が被さった物体がメイドたちによって、運び込まれると、執事の手によって、布が取り払われた。 するとそこには、豪華な額縁に収まった280×336pの中世初期に書かれた大きな絵画が現れた。 「これは…」 ジラルダンの問いにワイマール公爵は、静かに口を開けた。 「この絵は、今から約700前に第五代ワイマール公爵、ピピン1世の命で描かれた「刻の扉のピピン1世」と呼ばれる絵画です」 「なかなか、興味深いタッチの絵だ。私のコレクションに加えたい程の作品ですが、この絵とカイオーガの石像がどういう関係が…」 「ピピン1世の伝承によるとこの絵がそのカイオーガの石像の在処を示す手掛かりだと言うことなのですが、私も詳しくは知らないので…」 苦笑するワイマール公爵にジラルダンが頷く。 「これが、財宝の手掛かりなの?」 「アイゼル?!」 すると、いつの間にか絵画の前に立っているアイゼルにワイマール公爵が驚いた。 「面白そうじゃない。ねぇ、お父様。私もジラルダンさんとカイオーガの石像を探すわ」 「何を言っているんだ、アイゼル。これは!」 「だって、そのカイオーガの石像って、ご先祖様が子孫の私たちのためにこんな謎めいた絵まで描いて残してくれた物なんでしょう。だったら子孫の私たちが見つけないとせっかく財宝を残してくれたご先祖様に申し訳ないじゃない」 「確かにそうですね。ワイマール公爵、お嬢さんにも財宝探しを手伝って貰いましょう。こういうことは、一人でやるよりできるだけ大勢でやった方が財宝も見付かりやすいでしょう」 「ジラルダン殿がそうおっしゃるのであれば否定はしませんが…」 「では、お嬢さん。ぜひ宝探しに協力してください」 ジラルダンの申し出にアイゼルは、嬉しそうに悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「いいわよ。でも、お嬢様は、止めて。アイゼルでいいわ」 「チルゥ…」 アイゼルの傍らでチルタリスが嬉しそうに鳴いた。 「では、アイゼル。一緒にこの絵の言っている手掛かりを探してみようか」 |
レザード | #2☆2004.08/20(金)16:03 |
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> 第二章 ピピン1世の財宝 > 真紅の長い髪を持ったメイドが新しい紅茶を用意している最中、ジラルダンは、古い書物を片手に興味深げな表情で「刻の扉のピピン1世」を眺めていた。 「刻の扉のピピン1世」には、石壁と噴水を背景に銀色の砂が入った大きな砂時計を持った青年時代の若いピピン1世。そして、それを見つめる伝説ポケモン、ウインディがワイマール公爵家の紋章が描かれた黄金のメダルを口にくわえて、ピピン1世に差し出そうとしている所が描かれてあった。 「このポケモンって、ウインディよね…」 「ピピン1世のポケモンは、ウインディだ。記録にも、数々の戦場にウインディと共に参戦し、共に無事に帰還している」 ジラルダンは、片手に持った古い書物で前もって調べておいたピピン1世の記録をアイゼルに説明した。 「へぇー。ベストパートナーだったのね」 「チルゥ…」 「もちろん。私のベストパートナーはあなたよ、チルタリス」 「チルゥ!…」 嬉しそうに鳴くチルタリスにアイゼルは、優しく抱きしめてあげた。 「でも、この絵。さっきから見てて判ったんだけど。ピピン1世が持っているこの砂時計、私が小さかった頃にお祖父様から誕生日に貰った物と同じ物だと思うんだけど…。ねぇ?…」 すると、アイゼルは、紅茶の用意が終わった赤髪のメイドに声を掛けた。 「…はい、お嬢様」 赤髪のメイドは、アイゼルに向かって、礼儀正しく畏まった。 「私の部屋にある砂時計をここに持ってきてくれない。確か本棚の所に置いてあるから直ぐに判ると思うわ」 「かしこまりました…」 赤髪のメイドは、アイゼルに頭を下げると、静かな足取りで部屋を立ち去っていった。 ジラルダンは、赤髪のメイドが用意してくれた新しい紅茶を静かに口にすると、アイゼルに言った。 「さて、アイゼルの砂時計が、この絵と同じピピン1世の砂時計だとすると、他の箇所にも手掛かりが隠されていると考えられる…」 ジラルダンは、紅茶のカップをテーブルの上に静かに置くと、少し離れた所から絵を眺めてみた。 「そう言えば、この城には、幾つかの噴水を見かけましたが、確か…」 ジラルダンは、手に持っていた古い書物のページをパラパラと開けた。 「「ウインディの泉」…。なるほど、ピピン1世の時代に唯一造られた噴水が存在するようですね」 ピピン1世が残したメッセージの確信に近付きつつあるジラルダンは、次のパズルのパーツが見付かったかのように面白そうに静かに笑みを浮かべた。 「その泉でしたら、この城の最上階近くにある展望庭園にありますわ。宜しかったら、ご案内しましょうか…」 アイゼルは、不適な笑みを浮かべてジラルダンに訪ねる。 「ええ、ぜひ頼みます。アイゼル」 すると、ジラルダンは、南の陽当たりのよいテラスで気持ちよさそうに休んでいるエンテイに目を向けた。 「エンテイ…」 ジラルダンの呼び声でエンテイが目を開けると、身体をゆっくりと起こして、素速い動きでジラルダンの下へと駆け付けた。 「待たせたな、行くぞ…」 自分の足下で座るエンテイにジラルダンは、優しく頭を撫でやると、アイゼルの案内で、ヴィストリア城の中央塔の最上階近くにある展望庭園に向かった。 > ヴィストリア城の中央塔にある展望庭園は、小さな公園ほどの広さがあり、そこからは、城塞都市ヴェルンの街を一望でき、遙か向こうにあるマリンブルーの海が見える高さにあった。 景色の良さに暫く目を遣ったジラルダンにアイゼルが言った。 「あれが、ウインディの泉よ」 ジラルダンたちから見て、庭園に入って左側を指さすアイゼルに、ジラルダンは、目を向けた。 すると、二つある出入り口の中央の石壁にあるウインディの石像の口から水が流れ、それを中心に小さな噴水が階段状に折り重なった石造りの半円形状の噴水がそこにはあった。 「あれが、ピピン1世の…」 ウインディの泉は、古風なデザインながらも、噴水口には、白金を使い。所々に黄金のレリーフなどの装飾が施されていた。 「さあ、行ってみましょう!」 アイゼルに連れられて、噴水を中央から見上げると、その壮大性が明らかになった。 「この噴水を愛するセラスに捧げる。1289年、ワイマール公爵・ピピン1世…。なるほど、この噴水は、ピピン1世が妻のセラスにプレゼントとして建造されたようだな…」 噴水に取り付けられたレリーフを興味深く見るジラルダンにアイゼルが自慢げに言った。 「そうよ。だから、この展望庭園は、別名セラスの庭園って呼ばれているの。ねぇ、愛する人のためにこんな眺めのいい場所にこんな豪華な噴水をプレゼントするなんて、ちょっとロマンチックじゃない…」 「アイゼルは、ロマンチックな恋物語がお好きなようだね…」 「もちろんよ。女の子なら誰だって憧れるわ…」 楽しそうに言うアイゼルにジラルダンは、長閑に微笑した。 「あらっ? ジラルダンさん」 アイゼルの呼び声にジラルダンが振り向く。 「どうしました?」 「このレリーフって、あの絵でウインディがくわえていたメダルと同じ物のじゃないかしら…」 ジラルダンがアイゼルの言うレリーフを見ると、確かに大きさや形、デザインも全く同じ物だと断定できる黄金のメダルがあった。 「確かに、そのようだ…」 ジラルダンは、メダルのレリーフに触れて調べてみる。 「うんっ…。外れそうだ」 すると、メダルのレリーフは、噴水の石煉瓦から簡単に外れた。 「あらまぁ…。案外老朽化していたようね」 「いや、このメダルは、老朽化して外れたようではなさそうだ。それにこれはレリーフでもない。正真正銘のウインディのメダルだ」 落ち着いた様子で説明するジラルダンにアイゼルは、感心したように聞き入った。 「でも、どうしてそんなことが判るの?!」 アイゼルの問いにジラルダンは、メダルを裏返しにしてアイゼルに見せた。 「見てごらん…」 「あっ、これって…」 アイゼルは、そのメダルを見て驚いた。 「裏に文字が書いてあるわ。ええっと…。空の樽、サンダースの足、ロコンの尻尾、ドードリオの頭。ギャラドスの髭。水が汝を導くであろう…」 メダルの文字を読み上げるアイゼルが首を傾げる。 「何なのこの意味不明な文章は。少し、錬金術の調合レシピに似ている所があるけど…」 「チルゥ?」 チルタリスも、アイゼルを見て首を傾げた。 「いや、これは錬金術の調合レシピではなく、この噴水に何かをすれば、この噴水がカイオーガの石像の場所に導いてくれると言っているようだ。「水が汝を導くであろう」という意味はそのことだろう…」 「そうなの? じゃあ、その前の樽とかポケモンの足とか髭は何なの?」 アイゼルの問いにジラルダンは、少し眉をひそめながら答える。 「さあ、そこまでは未だ…」 「なーんだ…。それじゃあ、先に進めないじゃない…」 「チルゥ…」 残念そうにするアイゼルにチルタリスが慰めるように近付く。 「しかし、この噴水に何かをすればいいのは確かのようだ…」 ジラルダンは、再び噴水を見上げて何か見落としていないかと観察してみた。 すると、あることに気付いた。このウインディの泉の噴水は、全部で十二個の同じ小さな噴水で構成されていた。そして、数字の書かれた盾を持ったポケモンが描かれた黄金のレリーフが全ての台座部分に填め込まれていた。 「なるほど、そう言うことですか…」 ジラルダンは、静かに呟くと、懐から携帯電話を取り出し、リダイヤルボタンを押した。 「…ミカエル。すまないが、ハンカチぐらいの大きさの布切れを数十枚と傘を二本。それと、君はレインコートと深めの長靴を着て来てくれ、直ぐにだ…」 ジラルダンが携帯電話を切ると、アイゼルが不思議そうに訪ねた。 「ハンカチや雨具なんか用意させて、雨でも降るんですか?」 アイゼルの問いにジラルダンは、踵を返すと、微かに不適な笑みを浮かべて言った。 「直に判りますよ…」 アイゼルは、答えになっていないと思いながらこれから何が起こるか少し楽しみな感じがしてきた。自分では、この意味不明な文章の意味を理解できず、ジラルダンのように博識でもないため、これ以上いい案が浮かばなかったからだ。 少し不満だったが、この程度のことでやけを起こすほどアイゼルは子供ではなかった。 > 暫くして、白のレインコートと黒い長靴姿のミカエルがやってきた。背丈や歳は、アイゼルと同じぐらいの黄金のロングの髪を持った少し頼りげなさそうなメイドだとアイゼルは、感じた。 「お待たせしました、ジラルダン様。お申し付けの布切れと傘です」 ミカエルがジラルダンに傘を渡したところで、ジラルダンは、ミカエルに言った。 「布切れの方は、君が使ってくれ」 ジラルダンの言葉にミカエルは、首を傾げる。 「アイゼル。濡れるからこの傘を使いなさい」 アイゼルは、言われるがままにジラルダンから傘を受け取ると、早速広げてみた。 「どう、似合う。チルタリス」 「チルゥ…」 アイゼルの着ている法衣と同じ真紅の傘で、コーディネートもなかなかだった。 「そう。なかなか似合うじゃない。気に入ったわ…」 「あのう。ジラルダン様。これから何をするきなんですか?」 ミカエルが訪ねると、ジラルダンは、いつもと変わらない落ち着いた表情で、噴水の方に目をやった。 「このメダルに書かれてある文章は、このウインディの泉にある小さな噴水のことを言っているようだ。つまり、あの番号のふられた噴水をこのメダルの文章が示している数字のとおり、水を止めれば、我々を何処かへ導いてくれると、言っているのだろう。ただ、それが、直接カイオーガの石像の所に行くとは限らないでしょうが…」 「なるほど。それなら私でも意味は判るわ…」 アイゼルがメダルの文章の謎が解けて笑みを浮かべる。 「ミカエル。これから私の指示するとおりにその布切れで噴水に栓をしてもらえないか…」 「えっ、私がですか!」 ジラルダンの頼みにミカエルが驚く。 「でも、それじゃあ。濡れちゃいますよ?!」 ミカエルの問いにアイゼルが呆れたように言った。 「あなたバカ? だからレインコートと長靴を着ているんじゃない」 「あっ、そうか…」 「判ったらつべこべ言わずに早く噴水に栓をしなさい!」 「はっ、はい! アイゼル様…」 アイゼルの言葉に少し圧倒されたミカエルは、噴水の縁に登ると、意外と深めなウインディの泉に入った。 小さいながら勢いのある噴水の水しぶきが身体に当たるが、レインコートを着ているため、意外と気にならなかった。 「いいかね、ミカエル。まずは、サンダースの足。サンダースの足の数は、四本。4の噴水に栓を…」 「はい、ジラルダン様」 ミカエルは、足下に気よ付けながら4の噴水に向かうと、吹き出る水と悪戦苦闘しながら白い布切れで栓をした。 「次は、ドードリオの頭とギャラドスの髭、3と2の噴水に栓を…」 ミカエルは、隣にある3の噴水に栓をしようと青い布切れを取り出した。 相変わらず噴水の水と悪戦苦闘していると、その水がアイゼルの方に飛び散った。 「ああ、もおぅ。ちゃんと水を塞ぎなさいよ!」 「ごめんなさい!」 傘で防御しながらアイゼルは、ミカエルに文句を言いながらも、ミカエルに的確なアドバイスを与える。 「ちょっと! それじゃあ完全に塞がらないでしょう。もっと縛りをきつくしなさいよ」 アイゼルの言うとおりに布切れをきつく縛ると、水が止まり、その用量で、2の噴水にも栓をすることに成功した。 「終わりました!」 「では、次は…」 「次は、6番よ。ミカエル! ロコンの尻尾は、六本。六番の噴水に栓をしなさい!」 ジラルダンの指示を押し切って、アイゼルがミカエルに指示を与えると、ミカエルは、言われたとおりに6の噴水に赤い布切れで栓をした。 「はい、できました!」 「最後は、空の樽…」 「ミカエル! 次は、空の樽よ。空の樽は…」 アイゼルは、次の指示を与えようと思ったが、空の樽などの錬金術の道具や材料ではあるが、ポケモンにはいない。どうしてよいのか判らず、ジラルダンの方に目をやった。 「おそらく、空の樽は、何もないという意味で、ゼロ。つまり、0の噴水を塞げばこのメダルの文章が完成します…」 落ち着いた素振りで言うジラルダンにアイゼルは言った。 「でも、0番の噴水なんてここには無いわよ」 確かに、アイゼルの指摘どおり、零が書かれた噴水はウインディの泉に存在しなかったが、ジラルダンは、表情を変えずにミカエルに指示を出した。 「ミカエル。一番上にあるウインディの口に栓を…」 「はい、判りました!」 水で足場の悪くなった石段を登って、ウインディの石像にミカエルは向かった。 「あのウインディの石像が0番だって言うの」 アイゼルの問いにジラルダンが静かに答えた。 「ウインディの泉の中で唯一、噴水以外で水を出しているのは、噴水の一番上にあるウインディの石像だけだ。それ以外の噴水の全てに番号があるのにあのウインディの石像だけ何もないのであれば、自然と納得できる…」 アイゼルは、ジラルダンの説明になるほどと納得しながら相変わらず水と悪戦苦闘するミカエルを見た。 「うわぁ…」 ミカエルは、水量が噴水よりも多いウインディの石像に栓をしようと必死になって、ついには、残りの全ての布切れをウインディの口に力任せで詰め込んだ。 「とっ、止まりました…」 レインコートのおかげで全身びしょ濡れは免れたが、長い間レインコートを着ていて作業をしていたためにメイド服の内側は汗まみれになっていた。 「よくやった、ミカエル。そこから降りて暫く休んでいなさい」 「はい、ジラルダン様。ありがとう御座います…」 ジラルダンの感謝の言葉を聞いて、どっと疲れが出たのか。ミカエルは、ウインディの泉から出ると、レインコートと長靴を勢いよく脱ぎ捨て、近くのベンチに倒れ込むように横になった。 ジラルダンとアイゼルがミカエルの方に目をやっていると、突然、石畳の床が振動し始め、聖堂がある東の塔の鐘が勢いよく鳴り響いた。 すると、ジラルダンの耳に石畳の床の下で、歯車やロープが軋む音が微かに聞こえてくるのが判ると、アイゼルは、何が起こったのかとオロオロと周りを見回した。 「なっ、何なのこれ?! 地震じゃなさそうだけど…」 「チルゥ!」 チルタリスを抱き締めながらアイゼルがジラルダンの方を見ると、ジラルダンは、慌てふためく様子もなく、いつもと変わらない落ち着いた表情のままウインディの泉を眺めていた。 ウインディの泉は、ミカエルが噴水に栓をしたせいで、水の放出量が一気に減少し、水面のかさも、下がっていた。 ジラルダンの側で、エンテイがジラルダンを護るように控えるのがアイゼルには見えた。 「どうやら。これは、正解だったようですね…」 そして、ジラルダンは、静か微笑した。 |
レザード | #3☆2004.08/28(土)17:59 |
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> 第三章 アクア団とポケモンバトル (前編) > ウインディの泉に隠された仕掛けが起動し、東の大聖堂の鐘が鳴り響き、展望庭園周辺が大きく揺れていた。 「何っ、あれっ…」 アイゼルがチルタリスを抱き締めながら揺れが収まるのを待っていると、下の方から砂埃が舞っていることに気付き、転ばないように気よ付けながらおそるおそる下の方に目をやった。 「ジラルダンさん! あれを見て…」 アイゼルの叫ぶような声にジラルダンは、落ち着いた様子でエンテイと共にアイゼルの方へ向かった。 ジラルダンがアイゼルのもとに辿り着くと、アイゼルが指さしたヴィストリア城の中央空中庭園から砂埃が舞い、敷き詰められた大理石の床が絵合わせパズルように分解し、庭園の中央にある大噴水の前に大きな穴が開くと、その下からピピン1世とウインディの石像がゆっくりと上がってきた。 すると、石像が完全に上がりきった瞬間、唐突に揺れが収まり、聖堂の鐘も鳴りやんでいった。 「あらっ? 止まったわ…」 「アイゼル。下に行ってみよう」 ジラルダンがそう言うと、二人は急いで、ピピン1世の石像が出現した中央空中庭園に向かった。 > 中央空中庭園は、ヴィストリア城の丁度中央階の広大なバルコニーとして造られた場所で、中央には城の中で一番大きな大噴水があった。 ジラルダンとアイゼルたちが中央空中庭園にあるその大噴水の前に来ると、原寸大だと思われるピピン1世とウインディの石像が静かに佇んでいた。 「まさか。ウインディの泉の謎の答えがこれだとは…」 ジラルダンがピピン1世とウインディの石像を興味深そうに見ながら呟くと、隣にいたアイゼルがハッとしながらジラルダンに言った。 「ねぇ、ジラルダンさん。この石像って、あの絵と同じだわ!」 アイゼルの言うとおり、この二つの石像の形やしぐさがあの「刻の扉のピピン1世」とまったくと言っていいほど類似していた。 すると、ジラルダンは、ウインディの石像の口に何かを填め込む小さな窪みを見付けると、ウインディの泉の手掛かりを示したあの黄金のメダルを試しに填め込んでみた。 「…ピッタリだ」 メダルは、綺麗にウインディの口に填め込まれた。 「じゃあ、後は、ピピン1世に砂時計を載せれば…」 「お待たせしました、お嬢様。砂時計をお持ちしました」 アイゼルが後ろを振り向くと、あの赤髪のメイドが銀色の砂が入った少し大きめな砂時計を持って現れた。 「グッド・タイミング。ありがとう、下がっていいわ」 アイゼルが嬉しそうに赤髪のメイドから砂時計を受け取ると、砂時計をひっくり返してみた。 すると、白銀に輝く砂が一定の速さで下の空間に落下し、一筋の銀色の線を作った。アイゼルは、砂時計の神秘的な輝きを堪能すると、さっそくピピン1世の石像に向かった。 「あったわ…」 アイゼルが見ると、ピピン1世の石像の手に砂時計を置くような窪みを見付けると、緊張と期待が奇妙に入り交じった面持ちで砂時計を置いた。 遠くからジラルダンとエンテイが静かにアイゼルを見守る。 砂時計を石像の窪みに置いたアイゼルは、砂時計が水平になるようにゼンマイの用量で左右に回して調整すると、機械仕掛けのバネを弾くような感触がアイゼルの手に伝わった。 すると、大理石の床の下から大きな物音がした瞬間、再び振動が走り、目の前にあった大噴水が中心から四つに分裂し、左右にスライドすると、その中央の下から蒼い光が吹き出し、壮麗なカイオーガの石像が出現した。 「素晴らしい…」 ジラルダンは、その壮麗なカイオーガの石像を見て、息を呑んだ。 高さが245pほどある壮麗なカイオーガの石像は、大海のように蒼く光輝くマリンブルーのポケメア石で作られており、その完成度は、その当時の古代ロマーナ人の技術と芸術の粋を結集し、自分たちが信仰する偉大なるポケモンの神々たちを壮麗かつ神秘的に作り上げていた。 「これが、ピピン1世の財宝!…」 「チルゥ!…」 アイゼルも、その壮大なスケールに圧倒されながら、先祖が残した財宝に思いを巡らせていた。 「すごいわね、チルタリス。私たちのご先祖様、子孫の私たちのためにこんな素敵な財宝を残してくれたのよ」 「チルゥ!」 「フッフフ。きっとご先祖様も、この壮大な神の像を見て、ポケモンをもっともっと好きになったのね。だから、ウインディの泉には、あんなにたくさんのポケモンのレリーフで飾られていたのね」 アイゼルが先祖に思いにはせながら、チルタリスを足下に放すと、蒼く光輝くカイオーガの石像に触れてみた。 鏡のように綺麗に磨き上げられた石像の表面に触れると、石像独特の冷たさが触れた手の表面に伝わり、さざ波の音が聞こえてきそうな神秘的な感じだった。 「こんな感触、初めてだわ…」 カイオーガの石像の魔力に吸い込まれそうな感覚にアイゼルは、心地よく酔いしれていると、背中に堅く冷たい感触が走った。 「そろそろ、その汚い手を退けてくれない…。その神聖なるカイオーガの石像は、貴方のような愚者が気安く触れられる代物じゃないのよ。世間知らずな、アイゼルお嬢様…」 「なっ、誰の手が汚いですって!」 嫌みな言葉にアイゼルが振り向くと、そこには、あの赤髪のメイドが銃を突き付けて立っていた。 「貴方の血で、神聖な神の像を汚したくないから、おとなしくしていなさい。それと、貴方もよジラルダン公爵…」 赤髪のメイドがアイゼルに銃を突き付けたままジラルダンの方に目を遣ると、どこからともなく銃を構えた数人のメイドたちが現れ、ジラルダンを取り囲んだ。 エンテイが唸り声を上げながらジラルダンを護るようにメイドたちを睨み付ける。 「やれやれ、無粋なメイドのお嬢さんたちだ」 ジラルダンは、緊迫する状況の中で、怯む様子もなくいつもと変わらない落ち着いた笑みを浮かべた。 「何なのよ貴方たち!」 たまらずアイゼルが叫ぶと、アイゼルの前に立った他のメイドたちが衣服の肩や胸を掴むと、一斉にむしり取った。 剥ぎ取られたメイド服が空に舞い、アイゼルの前に現れたのは、青のベレー帽に青の迷彩柄の戦闘服に身を包んだ女戦闘員たちだった。 アイゼルは、一瞬驚いて声を失うと、彼女たちの被っている青のベレー帽に付いている紋章を見てハッとした。 「アクア団?!…」 アイゼルの呟きに赤髪のメイドは、一瞬微笑する。 「へぇー。世間知らずで無知なアイゼルお嬢様でも、私たちの名前くらい知っているんだ…」 赤髪のメイドが嫌みそうにアイゼルに言うと、アイゼルも、負けじと睨み返した。 「そうよ、私はミサキ。アクア団・特殊工作部隊アクア・ベレーの隊長よ…」 ミサキと名乗るアクア団の少女は、不適な笑みを見せると、アイゼルの背後にあるカイオーガの石像に目を遣った。 「それで。そのアクア団のアクア・ベレーが何で、私の城にいるわけ!」 「我々の目的は、そこにあるカイオーガの石像を奪取すること…。そこで、我々は、メイドとしてこの城に潜入し、ピピン1世がこの城に隠したカイオーガの石像を探していたんだけど…。どうしてもピピン1世が残した謎が解けなくてね。そんな時にお前たちが次々と謎を解いてくれたおかげで、このとおりカイオーガの石像を見付けることが出来た。そこだけは、感謝するわ…」 「貴方なんかに感謝されても嬉しくないわ!」 ミサキの嫌みな態度にアイゼルが叫ぶ。 「隊長。ラプラス−1と連絡が取れました。後10分で到着します」 「そう。了解したわマユミ」 副隊長のマユミから報告を受けたミサキは、アイゼルに向き直った。 「さてと、輸送ヘリが来るまで、そのままおとなしくしてもらいましょうか」 「誰が貴方の命令なんて!…。それにこのカイオーガの石像は、私のご先祖様が残してくれた財宝なのよ。誰が貴方たちみたいな汚らわしいこそ泥に渡してたまるもんですか!」 アイゼルの暴言にムカッときたのかミサキは、少し唇を歪めてから睨み返した。 「フッ、弱い犬ほどよく吠える。これ以上黙らないようなら、少し痛い目に遭って貰いますよ、お嬢様…」 メイド服姿のミサキが嫌みたっぷりにアイゼルに言った。 「出来るものならやってみなさいよ!」 アイゼルがその言葉を叫ぶと、ミサキに飛び付き、銃を握っていた右手を掴んだ。 「何っ!」 「貴方なんかの思いどおりにさせてたまるものですか!」 「このっ、放せっ!」 アイゼルを振り払おうとミサキが必死になっていると、弾みで、引き金を引いてしまい、空に向かって銃弾が放たれ、一発の銃声が響いた。 > 「あの音は、銃声だな。近くで狩りでもしているのか…」 自分の執務室で雑務をしていたワイマール公爵は、ふと、開かれた窓へと足を進めた。 「おや、あれは…。アイゼルじゃないか」 ワイマール公爵は、中央空中庭園にアイゼルの姿を見付けると、周りの状況も確かめずに大きな声でアイゼルを呼んだ。 「おおい。アイゼル、何を遣っているんだっ!…」 > 「お父様っ!」 「ワイマール卿!」 ワイマール公爵の呼び声に気付いたアイゼルとジラルダンは、ワイマール公爵の執務室がある中央塔に目を遣った。 「お父様、アクア団がっ…。早く警察と軍隊をっ…。早くっ!」 ミサキと揉み合いながら必死にアイゼルは、父親のワイマール公爵に助けを叫んだ。 「危ない、ワイマール卿!」 ジラルダンが叫んだ瞬間、ジラルダンを囲んでいた数人のアクア団員が中央塔の窓から顔を出すワイマール公爵に気付き、素速くライフルの銃口を向けた。 > 「なっ!」 ワイマール公爵が銃口が自分に向いていると気付いた瞬間、オート射撃で放たれた銃弾がワイマール公爵を襲った。 「うわぁ…」 ワイマール公爵は、透かさず、横壁に飛び込み、床に俯せになったまま左側にある出入り口に向かった。 > 激しく銃撃を行うアクア団員にジラルダンを護っていたエンテイが、背後から飛び掛かった。 「エンテイ。ほのおのうず!」 ジラルダンの指示にエンテイは、ほのおのうずを放ち、アクア団員たちを蹴散らした。 「くそぅ!」 エンテイに蹴散らされ、気を失い掛けているアクア団員が、最後の力を振り絞ってライフルの銃口をジラルダンに向け、引き金を引いた。 「グゥアッ!」 ジラルダンに向けられて放たれた銃弾は反れ、アクア団員は、意識を失った。 すると、倒れたアクア団員の横で静かに立ち上がるロングの白銀の髪を持ったメイドがいた。 「卿。ご無事ですか!」 透き通るようなアイスブルーの瞳に白い肌のメイドは、白銀に輝くクレイモアを腰に吊り下げた銀色の鞘に静かに納めると、何事もなかったように冷静な表情でジラルダンに敬礼した。 「ウリエルか…」 ジラルダンがエンテイを呼び戻すと、規則正しく直立不動で佇むウリエルに目を遣った。 「卿、ここは私が。卿は、アイゼル様と共に安全な所に避難を」 冷静沈着なウリエルらしい的確な判断をジラルダンに指示した。 すると、ウリエルは、再びクレイモアに手を掛けると、アイゼルと揉み合うミサキを捉え、素速い動きで駆け出した。 「させるか!」 ミサキの側にいたアクア団員たちがモンスターボールからポケモンたちを放った。 ウリエルの前に2まいがいポケモンのパルシェンとくらげポケモンのドククラゲが立ち塞ると、ウリエルも太腿の所に隠してあったホルスターからモンスターボールを取り出し、ポケモンを放った。 「ヘルガッ」 「エァー」 ウリエルのモンスターボールからダークポケモンのヘルガーとよろいどりポケモンのエアームドが現れた。 「ヘルガー、エアームド。援護を頼む!」 銃を構えるアクア団員にパルシェンとドククラゲ。誰もが戦況的に不利に思えたが、ウリエルは、怯む様子もなくヘルガーとエアームドに的確な指示を与えた。 「ドククラゲ。どくばり攻撃」 ドククラゲから無数のどくばりが放たれると、ウリエルは、素速く跳躍し、どくばりを回避する。 「パルシェン。とげキャノン」 透かさずパルシェンからとげキャノンが放たれ、ウリエルを襲うと、ヘルガーがかえんほうしゃを放ち、とげキャノンを打ち落とした。 「何っ! うっぁ…」 パルシェンのトレーナーであるアクア団員の懐に入ったウリエルは、クレイモアを素速く振るい、峰打ちを喰らわせた。 「エアームド。パルシェンにドリルくちばし」 高速に回転するエアームドのドリルくちばしがパルシェンに直撃し、戦闘不能となると、転がるように大理石の床に倒れ込んだ。 「おのれ! ドククラゲ、ようかいえき。そして、まきつくでエアームドを捕まえろ!」 ドククラゲがようかいえきをエアームドに放った。 「エアームド。回避っ!」 高速で飛ぶエアームドがドククラゲのようかいえきを回避する。 「はがねのつばさ!」 白銀に輝くエアームドの翼がドククラゲを直撃する。 「ドククラゲ!」 ドククラゲを操っていたアクア団員が叫んだ瞬間、ウリエルの斬撃がアクア団員に直撃し、崩れるように大理石の床に倒れ込んだ。 そして、そのままウリエルは、ヘルガーとエアームドたちと共にミサキに向かって駆け出し、揉み合っていたアイゼルが気が付いた瞬間、ウリエルのクレイモアがミサキを捉えた。 ミサキが切り捨てられる残像シルエットがアイゼルの目に飛び込んできたかと思うと、そこには、ミサキが着ていた黒のメイド服が胸元から腰にかけて真っ二つに切断されて舞っていた。 「ちぃ。代わり身か…」 ミサキの黒いメイド服を切り捨てた瞬間、ウリエルは、ミサキを切りそこなったことを察知すると、全神経を集中させ、周りを警戒した。 「上かっ!…」 ウリエルが素速く頭上に目を遣ると、飛び上がった戦闘服姿のミサキがいつの間にか両手に銃を構え、クロスさせて引き金を引いた。 「エンテイ!」 ジラルダンの素速い指示で、ミサキに突き飛ばされて尻餅を付いて座り込んでいたアイゼルを素速い動きでエンテイが持ち上げ、背中に乗せると、ジラルダンのもとに避難させ、チルタリスもエンテイに続いた。 すると、ウリエルは、身体を捻ってミサキの銃弾を回避する。ウリエルが回避した後には、ミサキの放った激しい銃弾の雨で原型をとどめていないほどボロボロになった黒のメイド服が静かに地面に落ち、アイゼルがいた場所の大理石の床まで粉々に砕け散っていた。 ウリエルが大理石の床で大きく滑りながら着地すると、ミサキが身体を捻って空中で一回転して方向転換してから着地し、間を空けずにウリエルに向かって銃弾を放った。 すると、ウリエルは、身体を後転させるように捻ってミサキの銃弾を回避する。 |
レザード | #4☆2004.08/28(土)18:03 |
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> 第三章 アクア団とポケモンバトル (後編) > その全てが一分も満たない時間で起こっていたため、アイゼルは、驚きを隠せなかった。 「人間業じゃないわね、あれ…」 二人のハイレベルな戦いに少し圧倒されながら素直な感想を呟いたアイゼルは、エンテイの背中から静かにおりた。 「ありがとう、エンテイ」 アイゼルは、自分を助けてくれたエンテイを優しく撫でて遣った。 「アイゼル。怪我はないかね」 ジラルダンが訪ねると、アイゼルはいつもと変わらない笑みを見せた。 「ええ、それより。後ろの方が騒がしいようですね」 ジラルダンが背後を振り向くと、副隊長をマユミを始めとする無事に残った数人のアクア団員たちが再びジラルダンたちを取り囲もうとしていた。 「君たちも、そろそろ退散したらどうかね…」 「フッ、他人の心配より、自分の心配をしたどうです」 余裕を見せるジラルダンにマユミは、嫌みを言いながら背後のアクア団員たちに指示を与えた。 「なら、これで判らせてあげましょう…」 アクア団員たちが一斉にポケモンをモンスターボールから放った。 「アイゼル。戦えますか…」 「ええ、もちろん。このまま観戦しているなんて、我慢できないわ」 「では、余り無理をしないように。援護を頼みます」 「オッケー。行くわよチルタリス!」 「チルゥ!」 やる気満々のアイゼルとチルタリスがジラルダンの横に立った。 「エンテイ。ほのおのうず」 エンテイのほのおのうずがアクア団員たちのポケモンたちに直撃し、隊列を崩した。 「チルタリス。ソーラービーム!」 アイゼルの指示で、チルタリスが太陽のエネルギーを集める。 「させるか! トドグラー、チルタリスにアイスボール」 「トドッ」 アクア団員のたままわしポケモンのトドグラーがチルタリスに向かってアイスボールを放った。 「エンテイ。かえんほうしゃ」 すると、ジラルダンのエンテイがトドグラーにかえんほうしゃを放ち、アイスボールを迎撃する。 「チルタリス。一気に行くわよ、ソーラービーム!」 「チルゥー!…」 チルタリスから強い光の光線のソーラービームが放たれた。 「迎撃体勢を、いや、防御だ!」 アクア団員たちがそれぞれのポケモンに指示を与えるが、間に合わず、ソーラービームに吹き飛ばされた。 爆風で砂埃が舞い、一瞬視界が遮られた。 「どうよ。思い知ったでしょう!」 「チルゥ!!」 砂埃が舞う中、突然チルタリスにつるのムチが巻き付いた。 「何?!…」 「油断したわね…」 砂埃が晴れると、アイゼルたちの前にツルじょうポケモンのモンジャラやたねポケモンのフシギダネなどのくさ系ポケモンたちが現れ、その奥にマユミが立っていた。 「アクア団だからといって、水系ポケモンしかいないと思っていたのが、貴方たちの敗因よ!…」 嫌みに笑みを浮かべるマユミにアイゼルは、険しい表情で次の行動を模索すると、マユミは、腰のベルトに付けたホルダーからモンスターボールを取り出し、ポケモンを放った。 「出番よ、ライボルト!」 大きく唸りを上げるほうでんポケモンのライボルトを出したマユミは、素速く指示を与えた。 「ライボルト。チルタリスに10まんボルト!」 唸りを上げ、身体が放電したライボルトは、チルタリスに向かって10まんボルトを放った。 「チルタリス。つるのムチから抜け出すのよ!」 「チルゥゥゥ…」 何とか藻掻いてチルタリスは、つるのムチから逃れようとするが、ライボルトの10まんボルトを回避することは出来なかった。 「チルタリスっ!」 くさポケモンたちのつるのムチで身動きが取れなくなっているチルタリスには、絶体絶命危機であった。しかし、アイゼルは、最後まで諦めようとせずにチルタリスに指示を与える。 アイゼルが叫んだ瞬間、ライボルトの10まんボルトが炸裂し、スパークが飛び散る。 「何だと…」 マユミは、ライボルトの10まんボルトでチルタリスを仕留めることが出来ると確信していた最中、突然チルタリスの前に出たエンテイが10まんボルトを喰らい、チルタリスを攻撃から庇った。 「エンテイ!」 アイゼルの呼び声にエンテイが唸り声で返す。 「よくやった。エンテイ」 ジラルダンがエンテイを賞賛するが、10まんボルトのダメージは、意外と強くエンテイの体力に影響を与えていたことは確かだった。 「例え、神に仕える伝説のポケモンでも、所詮はただのポケモンに過ぎないわ。次は庇いきれるかしら…」 「そんな、チルタリス! 早く抜け出すのよ。早くしないとエンテイが…」 「チルゥゥ…」 アイゼルには判っていた。エンテイがこれ以上電撃を喰らえば、例え伝説のポケモンでも、戦闘不能に陥ることを。アイゼルに緊迫した焦りが出る。 「落ち着け、アイゼル…」 ジラルダンが焦るアイゼルに落ち着くように促すが、エンテイのためにも必死に藻掻いて抜け出そうとしているチルタリスを見て、焦らずにはいられなかった。 「これで終わりよ。ライボルト、かみなり!」 ライボルトの全身が再び放電し始めると、凄まじい電気エネルギーを放った。 「エンテイ。はかいこうせん!」 ジラルダンがかみなりをはね除けようと大技であるはかいこうせんをエンテイに放たせた。 互いの放った凄まじい技がぶつかり合い、圧力に押し潰されそうになる。 「エンテイ。保ってくれ…」 ジラルダンの思いに答えようとエンテイも、全身の力を振り絞って、はかいこうせんの圧力を上げると、ライボルトのかみなりが押され始めた。 「やばいわ。ライボルト、下がって!」 マユミの素速い指示にライボルトは、かみなりを放つのを止め、後ろに跳躍した。 そして、凄まじい爆発音と共に大理石の床が破壊され、真下の大広間のジャンデリアが天井ごと落下し、粉々に砕け散った。 爆風が晴れると、エンテイは、肩で大きく息をしながら前足を付いた。 「さすがわ神に仕えるポケモン。凄まじい破壊力だわ。でも、これで本当のチェックメイトよ…」 マユミ以外のアクア団員たちは、さっきのエンテイのはかいこうせんに巻き込まれ、むき出しになった大広間に落ちたり、負傷したりして全滅していたが、殆どの力を使い果たして瀕死の状態になりかけているエンテイと何とかつるのムチから脱出できたもののライボルトと相性が悪いチルタリスでは、ジラルダンとアイゼルたちに勝算は少なかった。 「これで、終わりにしてあげる…。ライボルト!」 再び、エンテイとチルタリスの前にライボルトが立ち塞がる。 エンテイと凄まじい大技の持久戦を繰り広げたというのにライボルトには、まだ余裕がありそうな感じだった。 「ライボルト。10まんボルト!」 マユミの指示で、再び10まんボルトを放とうとしているライボルトにエンテイが、最後の力を振り絞って、ジラルダンの前に立った。 「もういい、エンテイ。お前はよくやった、後は私に任せてボールに戻れ…」 ジラルダンがモンスターボールを出してエンテイに言うが、エンテイは、首を振ってジラルダンの指示を拒否し、最後まで誇り高き神に仕える神獣として敵の前に立ち塞がった。 「愚かね…。行けぇ! 10まんボルト…」 エンテイの行動を愚かしく思ったマユミは、今度こそ最後にしようとライボルトに10まんボルトを放たせた。 「チェクメイト…」 マユミの勝利を確信した笑みにライボルトが10まんボルトを放った瞬間、高速で近付く陰がライボルトを横切った。 「ピカチュウ。きあいパンチ!」 ライボルトの10まんボルトを避け、ピカチュウがライボルトの間合いに入り、きあいパンチを喰らわせた。 「ライボルト!」 マユミは、思いがけない不意打ちに焦った。 ピカチュウのきあいパンチがライボルトに直撃し、戦闘不能陥るが、ライボルトの10まんボルトは、確実にエンテイたちに向かってきた。 「チルタリス! まもるで、ライボルトの10まんボルトを受け止めて!」 「チルゥ!」 アイゼルの素速い機転で、ライボルトの10まんボルトをチルタリスがまもるで受け止めて、エンテイを護った。 「そんな…。バカな! 戻れ、ライボルト!」 マユミは、倒れたライボルトをモンスターボールに戻す。 「クソォ。こうなったら私が…」 「そうはさせないわよ!」 「何、誰だ!」 銃を取り出そうとするマユミに背後から少女の声が聞こえてきた。 「ライトニング・ボルトっ!」 「…グゥワァ!」 マユミが振り返った瞬間、高速で飛んできた光の球体が腹部を直撃し、数メートル吹き飛ばされて気を失った。 「ミカエルか…」 ジラルダンが静かに呟くと、庭園にある柱の陰からメイド服姿に長く大きな杖を持ったあのメイドのミカエルが現れた。 「ジラルダン様。ご無事ですか…」 照れくさそうにするミカエルにジラルダンは、優しく笑みを見せた。 「ああ、助かったよ、ミカエル」 「ピカチュウ…」 ミカエルの身体を駆け上って、ピカチュウは、肩に乗った。 「よくやったわ。ピカチュウ、あなたのおかげよ」 ミカエルに感謝されてピカチュウは、嬉しそうに鳴いた。 「へーえ。ミカエルって、魔法が使えたんだ…」 アイゼルが少し感心したようにミカエルに言った。 「チルゥ…」 アイゼルのもとにチルタリスが疲れた表情で戻ってくると、アイゼルは、チルタリスを優しく抱き締めてあげた。 「ありがとう、チルタリス。あなたもよくやったわ…」 「チルゥ」 アイゼルの笑みと役に立てたことにチルタリスは、嬉しそうに鳴いた。 「私からも、感謝する。アイゼル、そして、チルタリス…」 すると、一瞬。アイゼルの思考が止まった。今目の前で起こった現象が常識的に信じられなかったからだ。 「えっ…。もしかして、今喋ったの…。エンテイ、あなたなの…」 目を丸くするアイゼルとチルタリスにエンテイは、ゆっくりと体を起こした。 「驚くのも無理もない…。しかし、これはお前たちに人間の言葉で感謝の意を伝えたかったのだ、驚かせたのは許せ…」 「驚くも何も…。なぜあなたが喋れるのよ! それを先に説明しなさいよ!」 アイゼルの問いにジラルダンが前に出た。 「アイゼル。エンテイは、元々神に仕えるポケモン。人の言葉を理解し、話す事なんて彼ら神に近いポケモンたちにはそう難しい事ではないんだ。ただ、彼らも人を驚かせないために人前で人の言葉を喋らないようにしていただけなんだよ…」 余り説明になっていないような気にもなったが、アイゼルの心に何かが沸き立つような感覚が起こった。 「そうなの…。でも、凄いじゃない。さすがわ伝説のポケモンだわ…」 アイゼルは、感心しながらエンテイに笑みを向けた。 「お前が、初対面の人間と自ら会話するなんて初めてのことではないのか…」 ジラルダンが珍しそうにエンテイに訪ねると、エンテイは、主人であるジラルダンに微笑を見せた。 「そうでもありません、マスター。アイゼルとチルタリスは、私を護るために命を賭けて戦ってくれた者たちです。もはや、初対面とは言えません…」 「そうか…」 エンテイのマスターであるジラルダンにとって、エンテイが自分以外に進んで話し始めたことに興味を抱いていた。 > 「向こうは、片が付いたようだな…。どうやら残っているのは貴様だけのようだ」 クレイモアを構えるウリエルは、余裕の笑みを見せながらミサキに問い掛けた。 「そうみたいね…。でも、それなりに時間は稼げたわ…」 ミサキは、銃を持ち上げて軽く振ると、空になったカートレッジが落ち、素速く新しいカートレッジを銃に装填した。 「まだ抵抗するつもりか…」 「いいえ。これで一旦終わりにするわ…」 ミサキが不適な笑みをウリエルに見せると、ミサキの背後から大型の輸送ヘリが出現し、ヘリの下に取り付けられたアームがカイオーガの石像を捕らえた。 「待て!」 ウリエルがミサキを捕らえようと前に踏み出したが、ミサキは、再び銃をクロスさせて放ち、その隙にカイオーガの石像に飛び乗った。 「勝負はまた今度ね…」 「待て、貴様!」 「残念だったわね、ジラルダン、アイゼル。カイオーガの石像は遠慮なく頂いていくわよ。じぁねぇ…」 ミサキは、勝ち誇ったように笑みを浮かべると、ミサキとカイオーガの石像を載せた大型の輸送ヘリは、ヴィストリア城から凄い速さで離脱し、そのまま海が見える南の方角に向かって消えていった。 |
レザード | #5★2004.09/18(土)01:18 |
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> 第四章 冒険の始め方 (惨劇の後の空中庭園) > 「ジュンサー警部」 若い制服警官がヴィストリア城の中央空中庭園の惨劇の後を見渡していた制服姿の婦人警官に声を掛けた。 「負傷した容疑者19名。無事に警察病院に護送いたしまた」 「そう、判ったわ。ありがとう、トミー巡査」 トミー巡査が下がった後に少し溜息を付くと、再び中央空中庭園に目を遣った。 ヴィストリア城の中央空中庭園は、床一面に鏡のように磨き上げられた大理石を敷き詰められているのだが、大噴水周辺の大理石は、砕け散り、生々しい銃弾の後が中央塔の壁や庭園の床に穴を開け、一部では、激しい爆発により、下の階の天井ごと落下し、大きな穴や裂け目が床に開いていた。 ヴェルンのジュンサー警部も、これほどの現状は、経験がなかった。 事件詳細は、こうである。 ワイマール公爵家のメイドとして潜入したホウエン地方を拠点として主に活動している謎の秘密結社、アクア団の特殊工作員たちがジラルダン公爵とアイゼル嬢が発見した第五代ワイマール公爵、ピピン1世の遺産である「カイオーガの石像」を強奪しようとして、戦闘となり、激しい戦闘の末、結果的にミサキというアクア団員にカイオーガの石像を強奪され、南の方角に輸送ヘリで逃亡した…。 「アクア団。噂には、聞いていたけど。遂に本土まで現れるなんて…」 ヴェルンのジュンサー警部は、再び荒れ果てた庭園に目を遣った。 「…一波瀾ありそうね」 静かに呟いたヴェルンのジュンサー警部にトミー巡査が慌てた様子で再び駆け寄った。 「警部。本庁より、管理官が到着しました!」 トミー巡査の言葉にヴェルンのジュンサー警部の予想は適中した。 アクア団が関与した事件に本庁が乗り出したのだ…。 |
レザード | #6☆2004.11/14(日)02:23 |
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> 第四章 冒険の始め方 (大型強襲特装潜水艦アテルガティス) > 広大なスカイブルーの海の上空を黒い大型輸送ヘリが突き進んでいた。 アームで引き上げられた蒼く光輝くポケメア石で作られたカイオーガの石像を格納庫に収納したアクア団・特殊工作部隊アクア・ベレーの隊長ミサキは、直ぐにコックピットに入った。 「マウア。状況を報告して」 操縦席に座るミサキと同じぐらいの金色の髪の少女が慣れた様子で口を開いた。 「システム、レーダーに異常なし。現在。当機は、目的地点、Bアルファに向かって飛行中。あと五分で、目的地に到着します」 「アテルガティスからの連絡は?」 ミサキの問いにマウアは、冷静かつ的確に答えた。 「未だありません。こちらから連絡しましょうか隊長?」 「そうしてちょうだい。」 ミサキの指示にマウアは、素速く操縦を自動モードに切り替えると、通信機でアテルガティスにアクセスしはじめた。 「こちら、ラプラス−1。アテルガティス、応答せよ。こちら、ラプラス−1。アテルガティス、応答せよ…」 「通信を受信。こちら、アテルガティス。ラプラス−1、現状を報告せよ…」 マウアは、通信回線が繋がったことを確認すると、通信機のメインモニターを開き、アテルガティスのオペレーターを確認する。 「隊長。繋がりました」 マウアは、振り向かずに背後に立つミサキに報告する。 ミサキは、無言でメインモニターに視線を遣った。 「こちら、ラプラス−1。現在地、エリアD−117を飛行中、後257秒でそちらに到着する。回収を頼む」 「了解、ラプラス−1。本艦が浮上後、メインハッチに着艦せよ」 「了解した」 マウアが通信を終えると、前方方向の海面から勢いよく水飛沫が起こり、中からメタリックシルバーの装甲が煌めくマリーメイア級、大型強襲特装潜水艦「アテルガティス」が緊急浮上し、その巨体が太陽の光に照らし出され、白銀に輝いていた。 船体には、アクア団の紋章と共に真紅のサメハダが描かれており、堂々としたフォルムを醸し出していた。 ミサキたちが乗る大型輸送ヘリがアテルガティスのメインハッチにゆっくりと着艦すると、ミサキは、マウアをヘリを任せて直ぐに艦のブリッジに上がった。 悠然とした白銀に輝くアテルガティスは、ヘリを回収し終わると、静かにメインハッチを閉じ、青い海の中へと消えていった。 ブリッジの自動ドアがスライドし、ミサキが入室した。 「アクア団・特殊工作部隊アクア・ベレー。只今帰還いたしました」 ミサキは、直立不動で敬礼すると、戦略ボードの奥に佇むミサキと同じくらいの少女に目を遣った。 その少女は、アクア団員の戦闘服の上に真紅のコートと頭に二角帽を被り、茶色掛かったロングの金色の髪に浅黒い肌、透き通るようなブルーサファイアの瞳を持っていた。 「よお、ミサキ。早かったな、それで首尾の方は…」 司令室の奥に佇むその少女は、この大型強襲特装潜水艦アテルガティスの艦長ナギサ。アクア団士官訓練所以来の親友で、陽気で、勝ち気な性格だが、ミサキにとっては、心から命を預けることが出来る戦友でもあった。 ナギサは、悪戯っぽい笑みを浮かべながらミサキに近付くと、ミサキは、親指を立てて見せた。 「上出来よ。…でも、パーフェクトまで…。いいえ、下手をしたら後少しのところで、ミッションが失敗し、私の命も無かったかも…」 「…何かあったのか?!」 ミサキの遠くを見るしぐさにナギサが察するような視線を向ける。 ミサキは、今回実行したオペレーションに基づくミッション結果で、ワイマール公ピピン1世が残した暗号解読に苦戦したことやジラルダンとアイゼルとの攻防、そして、ウリエルとミカエルとの戦闘で、マウア以外のマユミ副隊長を始めとするアクア団員を失ったことをナギサに説明した。 「…そうか。マユミ達を…。そりゃあ、辛いよな」 いつも真面目でクールにきめているミサキを仲間のアクア団員たちは、冷血な奴だとか妖艶な海の魔物に例えて血塗られたスキュラと影では呼ばれているが、ミサキを知るナギサは、意外と仲間思いな所があると知っていたため、カイオーガの石像を強奪する際に負傷したマユミたちを残して緊急離脱してしまった自分に少しだけ後ろめたさを感じていることを察した。 「怒らないのね。他の部隊長なら、何故部下を見捨てて自分だけ戻ってきたんだと激怒するくせに」 微かに嫌みな笑みを加えたミサキの指摘にナギサは、そうかと軽く受け流した。 「そう心配しなくても大丈夫よ。マユミたちがこの程度で命を落とすはずはないわ、私が見込んだ優秀な部下ですもの。一段落したら機会を見てマウアと一緒に救出作戦を決行するから」 「おれも、手を貸すぜ」 ナギサの申し出にミサキは、嬉しそうな笑みを見せる。 「ありがとう、ナギサ。でも、その前にあのカイオーガの石像を本部に輸送しないと、イズミ隊長が首を長くしてお待ちかねよ!」 「なぁーにこのアテルガティスなら本部まで半日も掛かんねーよ。さっさと彼奴を運んじまって、マユミたちを助けに行こうぜ!」 ミサキとナギサは、メインモニターに映し出されたメイン格納庫内でカイオーガの石像の入ったコンテナを輸送ヘリから保管庫に移そうとしているマウアたちに目を遣った。 そして、ナギサは、踵を返した。 「よし、アテルガティス。アクア団本部に向けて全速前進!」 ナギサの号令の下、大型強襲特装潜水艦アテルガティスは、その巨体を海の中に隠し、一路アクア団本部に進路を向けた。 |
レザード | #7☆2005.05/01(日)22:25 |
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> 第四章 冒険の始め方 (天空城) > ミサキとナギサが乗る大型強襲特装潜水艦アテルガティスがアクア団本部に向かった頃、ヴェルンから南西30キロの海上上空にジラルダンの天空城が南西に向かって航行していた。 ミサキがカイオーガの石像を強奪してから直ぐにジラルダンは、ワイマール公爵に簡単に事情を説明してから早々にメイドのミカエルとウリエルを連れ、天空城に戻り、ミサキを追ったのだが、巨大な天空城の飛行速度とミサキの大型輸送ヘリの飛行速度では、追跡するのにも限界があった。 「ジラルダン様。追跡中の大型輸送ヘリが南西45キロの地点で反応が消えました」 天空城の総合制御システムを統括する人工AI「ソフィア」がジラルダンに報告する。 「軍事衛星「メタトロン」の索敵から、大型輸送ヘリは、海上に浮上した大型潜水艦に収容された模様。その後、大型潜水艦は、南東に向けて潜行したのちロストしました」 ジラルダンが座る天空城の総合制御管制室の司令席の前に3Dのカントウ、ジョウト、ホウエンの地図が映し出されると、天空城の現在地を示す赤い天空城と追跡している大型輸送ヘリを収容した大型潜水艦が青で表示された。 「このままの進路で行けばホウエン地方か…」 ジラルダンは、飲みかけのワイングラスを置いた。 「卿。直ぐに私のヴァルキュリアで、奴らの追撃をご命令下さい! 必ず石像を奪還して見せます」 ジラルダンの前に立つウリエルが珍しく焦った様子で懇願する。 「あのミサキって言うアクア団の隊長にかりを返したいのは判るけど、焦らない方がいいんじゃない?!」 ウリエルがジラルダンの背後に目を向けると、司令席の後ろからチルタリスを抱いたアイゼルが現れた。 「アイゼル様! 何故ここに?!」 驚くウリエルにアイゼルは、余裕の笑みを浮かべると、ジラルダンの横に立った。 「何故って、あのカイオーガの石像は、私のご先祖様が残してくれた大切な物なのよ! それなのにアクア団に盗まれてハイそうですかって、見てる場合じゃないでしょう! それに、あのミサキっていういけすかない奴が私を「世間知らずの愚か者」呼ばわりしたことを後悔させてあげるんだから!」 異常に気合いを入れて喋るアイゼルにウリエルは、さっきまでの焦りが一瞬遠のいた。 「し、しかし、それとこれとでは、アイゼル様がここにいる説明になっておりません。それにご両親のワイマール公爵には…」 「ウリエル…」 ウリエルの的の得たアイゼルへの質問にジラルダンが突如静止した。 「もはや、引き返すことは出来ない。我々は、このままカイオーガの石像追跡を行う。アイゼル嬢のことは、後で私からワイマール卿に事のしだいを説明しておきますから。…それで、宜しいですね。アイゼル」 「はい。ご配慮、感謝します…。ジラルダン公」 アイゼルは、貴族式の礼をとると、最後に悪戯っぽい笑みをジラルダンに向けた。 「良かったね。チルタリス」 「チィルゥ!」 嬉しそうに鳴くチルタリスとじゃれ合うアイゼルを見て、ウリエルが肩を落として溜息を吐いた。 「さて…。諸君も知っての通り、我々は、カイオーガの石像を強奪したアクア団一味を追跡しているわけだが、このままこの天空城で追跡すれば、彼女らに逃げられてしまう。かと言って、ウリエルを出して、強引に奪還すれば、せっかくの石像に傷が付いてしまう…」 口元に指を置いて考え込むジラルダン。 「ターゲットがこのままホウエンに行く可能性が高いのなら沿岸の海路を沿って追うよりも、山脈を越えて陸路で先回りをした方が無駄な労力を使わずに済むか…」 すると、ジラルダンは、素早く席を立つと、ウリエルたちに言った。 「これより、天空城は、ジョウトの山脈を越え、奴らの先回りした後、ホウエンの沖合でターゲットを確保する」 「はっ!」 ウリエルを始めとするミカエル、ラファエル、ガブリエルの四人のメイドたちは、ジラルダン命令を受け、それぞれの担当席に着いた。 「アイゼル。宜しかったら、そちらの席にお座り下さい」 ジラルダンの勧めで、司令席の隣にある席に座ったアイゼルは、面白くなってきたと思い笑みを浮かべる。 「お茶は、如何かな。アイゼル?…」 「ええ、喜んで頂きます」 そう言って、ジラルダンから温かい紅茶の入ったカップを受け取った。 |
レザード | #8☆2006.12/24(日)12:45 |
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> 第四章 冒険の始め方 (追加ミッション) > 「艦長っ、本部より、通信が入りました」 「よし、出せ」 「はっ」 ナギサの指示でメインモニターに表示させた。 すると、メインモニターに美しいロングの紅髪にアクア団上級幹部の制服を着たアクア団筆頭幹部イズミの姿が映し出された。 「アクア団、特殊部隊、アテルガティス艦長、ナギサ」 「はっ、ここに」 ナギサは、胸に拳を当ててイズミに礼を取る。 「作戦の首尾の方はどうだ?!」 「はっ。オペレーション通り、ターゲット奪取に成功いたしました。しかし、潜入したアクア・ベレーに多数の脱落者が出てしまい。このミッション終了後に許可が戴ければ、救出ミッションを決行したいと考えております」 イズミは、ナギサの報告に軽く頷くしぐさを見せる。 「そうか。いいだろう。今回のミッションの詳細は、後の報告書で確認するとして、アクア・ベレーの救出ミッションは、許可する」 「ありがとう御座います、イズミ隊長」 イズミの気前のいい返答にナギサは、表情を崩さずに内心ガッツする。 「しかし、その前にもう一つ。ついでのミッションを遣って貰いたい」 イズミの言葉にドキッとするナギサ。 やっぱり、只では、済まないようだな。 今度は何だ。辺境遠洋でのポケモン採取か、それとも、何処かのマグマ団基地の奇襲攻撃か…。 どれを取ってみても、難戦が予想されるミッションだろうとナギサは、感じ取っていた。 「アクア団・考古学調査部からの要請で、蒼穹の神殿でのカイオーガの石像の設置検証をしたいそうだ。このミッションの提案自体が考古学調査部からだったので、むげに却下するわけには、いかなかったからな。頼めるか、ナギサ艦長」 「はっ、畏まりました」 ナギサは、再び直立不動で胸に拳を当ててイズミに礼を取る。 「現場には、既に考古学調査部のロアン研究員達が向かっている。17:00までに合流するように、健闘を祈る…」 メインモニターからイズミの映像が消えると、ナギサは、静かに手を下ろして、踵を返した。 「追加ミッション? まあ、仕方ないわね…」 ナギサの目にミサキの姿が入る。 「ゴメン…」 ナギサは、済まなそうにミサキに言うと、ミサキは、唇を緩めて俯き加減のナギサに行った。 「仕方ないじゃない。本部のいいえ、イズミ隊長の命令じゃあ。私でも拒否できないわ。さっさと追加ミッションを済ませて、マユミ達の救出ミッションを遣りましょう」 ミサキの前向きな言葉にナギサは、内心済まないと思ったが、クヨクヨしても始まらないと気持ちを切り替えた。 「そうだな。よし、これより、アテルガティスは、ホウエン地方、蒼穹の神殿に進路を取れ!」 こうして、アクア団・大型強襲特装潜水艦アテルガティスは、ホウエン地方の蒼穹の神殿へと向かうことになった。 しかし、この司令が実に困難なものかミサキとナギサの二人には、感じていた。 |
レザード | #9★2007.08/10(金)01:08 |
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> 第五章 ホウエン沖海戦 (ブラッキーの悪夢) > 14:30、ホウエン沖。 「こちら、連合軍。ホウエン方面軍所属、航宙戦艦ルミエール。方面総司令部へ定時連絡、当艦及びホウエン沖・エリアGに異常なし。引き続き通常警戒に当たります、どうぞ…」 「こちら、ホウエン方面総司令部。了解した、引き続き通常警戒に当たれ…」 「了解しました…」 ルミエール司令室でオペレーターの少女は、定時連絡を終えて大きく背伸びをした。 「うっ、うんー…。定時連絡終わりっと…」 「ナツミ少尉。通常警戒といっても、任務中だ。気を抜くな」 ナツミは、慌てて畏まると、背後の艦長席に座っているルミエール艦長ナタル少佐に敬礼をする。 佐官クラスの階級章と灰色の軍服を正しく着こなし、艶のある短い黒髪と紅い口紅の唇が大人の女性の美しさを醸し出しているが、その真っ直ぐとした鋭い瞳には、相手の手の内を見抜くかのような警戒感を感じさせた。 少し苛ついた表情を見せることが多く別に怒っているわけではないのだが、ナツミが初めてナタルと会った時には、嫌われているのじゃないかと心配したが、根が真っ直ぐで規律と組織を重んじる性格なので、誤解されやすいこともあるが、意外と部下には優しい一面持っている。 「(厳しい人だけど、悪い人じゃないのよね…)」 「何か私に言いたいことがあるのか…」 敬礼して暫くナタル見詰めていたナツミは、ハッと我に返ると、苦笑いしながら席を戻した。 「いっ、いいえ。任務に戻ります!」 ほっと、軽く一息深呼吸するナツミにナタルは、少し苛ついた表情になるが気にすることなく、艦長席手前の警戒モニターに目を遣った。 「艦長!」 このルミエールのもう一人のオペレーターでナツミと同期に配属されたエリカ少尉が緊迫した様子で叫ぶ。 「どうした、エリカ少尉」 「エリアB方面から未確認の潜水タイプの構造物がこちらへ接近中!」 「何だと! ホエルコではないのか?!」 「今、ライブラリーで検索中です」 エリカは、ルミエールのメインデータシステムにあるライブラリーからデータを照合する。 「出ました。アクア団所属、マリーメイア級、大型強襲特装潜水艦アテルガティスです!」 アクア団のアテルガティスと言えば、アクア団の特殊精鋭部隊としてホウエン地方西部で起こったシンバ戦役での旗艦を含む空母三隻、戦艦八隻の連合軍第2艦隊所属、カルミナ艦隊を全滅させた部隊として知れ渡っていた。 「総員、第一級戦闘配備! 対艦戦用意! ナツミ少尉、方面総司令部へ緊急連絡。」 「はっ、はい!…」 アテルガティスの出現に動揺するクルー達を落ち着かせるように的確な指示を出すナタル。 「こちら、ルミエール。方面総司令部、応答願います。・・こちら、ルミエール。方面総司令部…」 「艦長! 敵は、仕掛けて来るんでしょうか…」 ホウエン方面総司令部に連絡を取るナツミから目を離したナタルは、手前の席にいたルミエールの副艦長ジークフリートに目を遣る。 副艦長のジークフリート大尉は、少し怯えた様子でナタルに聞く。 「おそらくな。敵が何かの任務中なら、我々が発見した時点で、早急に消しに掛かるだろう。ここまで接近しないと判らなかった我々にも、落ち度があるが。今は、そんなことを言っても仕方がない。対艦準備を急げ」 「はっ、はい!」 ジークフリートは、ナタルに促され、慌てた様子で副艦長席のルミエールの武装システムを起動させる。 > 13:32、大型強襲特装潜水艦アテルガティス。 アテルガティスの艦内に緊急配備を知らせる警報が鳴り響き、アテルガティスのアクア団員達が慌ただしく自分の持ち場へと駆け回っていた。 「どうしたのナギサ!」 アテルガティスのメインブリッジに駆け込んできたミサキがナギサに訪ねる。 「ちぃ、ドジった。すまねぇ、ミサキ。連合の艦に発見されちまったみたいだ」 口もとを少し歪めて、刻々と変わる現在の状況を判断するナギサは、艦長席に座らずブリッジの中央にある戦略ステージの制御パネルを開く。 「この時期なら連合の勢力圏ギリギリを通っても、大丈夫だと思ってたが、見込みが甘かった」 悔やむようにナギサは言うが、今そんなことを言っても仕方がないことは判っていた。 「艦長。敵連合艦の詳細データが出ました」 「こちらに回せ」 「はっ」 慣れた手つきでパネルをカチャカチャとタイプしたナギサは、オペレーターから受け取った詳細データを戦略ステージに3Dで表示した。 「これって、まさか…」 ミサキは、驚いた様子で小さく声を上げる。 「ああ、連合の最新鋭航宙艦。ルギア級、特装航宙戦艦ルミエールだ。まったく、何でこんな海の上に航宙艦が居るんだ! それも最新鋭の!」 奥歯を噛み締めるナギサ。 「でも、戦うんでしょう…」 落ち着いた様子で不敵な笑みを浮かべるミサキにナギサは、何かを察した様にニヤリと微笑してみせる。 「ああ、今なら援軍が来る前にこの海域を突破することが出来る。それに、相手は最新鋭と言っても航宙艦だ。潜水艦と戦う武装は、限られているはずだ」 「あたしも、出るしね!…」 「やっぱりな。お前の機体は、シンバの時から第三格納庫の奥で何時でも出られるようにメンテしてあるから、好きに仕え…」 「ありがとう、ナギサ」 「おい、ミサキ…」 素早く出撃しようとするミサキにナギサが呼び止めた。 「無事に帰ってこいよ。お前には未だ、マユミ達を救出するミッションが残っているんだからな…」 すると、ミサキは、静かにナギサの方へと振り返り、不適な笑みを見せる。 「心配しないで、ナギサ。あたしを誰だと思っているの?! シンバ戦役でアクア団のブラッキーの悪夢と呼ばれたこのわたしが、あんな最新鋭航宙艦一隻に負けるわけないでしょ…」 不適な笑みを見せるミサキにナギサは、悪戯っぽい笑みで答える。 「じゃあ、行ってくるね!」 「ああ。ミサキ、彼奴らにギャフンと言わせてこい!」 メインブリッジから駆け出していくミサキを見送ると、ナギサは、静かに踵を返し、気持ちを切り替えると、対艦戦の準備に戻った。 > 14:42、特装航宙戦艦ルミエール。 「艦長、後106秒で本艦の射程域に入ります」 副艦長ジークフリートが淡々と艦長のナタルに伝える。 「進路そのまま。トマフォーク、クロノハンマー、照準!」 「はっ、進路現状を維持」 「ミサイル一番から十八番まで装填完了」 「敵アクア艦、照準修正、ターゲットロック!」 ナタルの指揮で、オペレーターのエリカ少尉、副艦長のジークフリート大尉、操舵士のデイヴット中尉が素早く発射準備を整える。 ルミエールの後方部と先端部の発射口が開く。 「ナツミ少尉。方面総司令部への連絡は?!」 ナタルがオペレーターのナツミ少尉に尋ねると、ナツミは、少し慌てた様子でナタルの方へと振り返った。 「そっ、それが…」 「何だ。報告は、要点だけを簡潔に報告しろ」 「はっ、ハイ! 艦長!」 癖なのか慌てているのか畏まって敬礼するナツミに呆れる様子もなく、いつもの少し苛ついた顔でナツミを見る。 「それがその・・。方面総司令部への通信が繋がったことは繋がったんですが・・。途中で通信が切れました。恐らく、敵艦からのジャミングだと思われます・・。でも、方面総司令部からは、援軍は送ると伝えてきました。」 「そうか…」 ナタルは、少し残念そうにナツミから目線を反らせた。 「やむを得ん。本艦のみで交戦し、方面総司令部からの援軍到着まで時間を稼ぐ!」 ナタルは、自分達の置かれた状況を把握すると、メインモニターに映し出されたレーダー表示のアテルガティスに目を遣った。 「艦長、敵艦、本艦の有効射程内に入りました」 エリカがナタルに報告する。 「トマフォーク、クロノハンマー、撃てぇ!」 ナタルの号令でルミエールのミサイル発射管から水中の敵でも攻撃できるミサイルがアテルガティスに向けて勢い良く発射された。 > 14:44、大型強襲特装潜水艦アテルガティス。 「敵連合艦より、ミサイルが発射っ、数18っ!!」 「何だと!」 オペレーターの悲鳴のような報告にナギサは、前に出て戦略パネルに表示されたミサイル表示に目を張った。 「迎撃ミサイル発射! 一発も、アテルガティスに当てるんじゃねぇぞ!」 「了解っ。迎撃ミサイル発射します!」 アテルガティスの船体前方のミサイル発射管から、迎撃ミサイルが発射された。 ルミエールから発射されたトマフォークとクロノハンマーがアテルガティスの迎撃ミサイルで全弾撃破される。 「全弾撃破っ!」 「よし、良くやった!」 戦略ステージに3Dモニターが開き、戦闘機動兵器コマンドスーツ。略称CSに登場したミサキが表示される。 「ナギサ、出るわよ」 「おう。派手に暴れてこい。こっからも援護するからよ…」 ナギサは、陽気に答える。 「ありがとう、ナギサ。でも、その必要ないかも…」 「言ったな、こいつ…。ブラッキーの調子はどうだ」 ミサキの3Dモニターの左斜め下にCSの搭乗装備を着たミサキのポケモン、ラッキーが元気に鳴いて返事をした。 「上々みたいよ。トライデントのPSSも異常なしよ」 「そりゃ良かった」 「ミサキ。トライデント・ブラッキー出るわ」 「了解。アテルガティス、緊急浮上。派手に敵の目に引きつけてやれ!」 ナギサの号令にブリッジのクルー達の士気も上がり、アテルガティスが海上に緊急浮上体勢をとる。 > 14:47、特装航宙戦艦ルミエール。 「艦長っ。敵艦アテルガティスがこちらに向かって緊急浮上してきます」 「何だって!」 オペレーターのエリカ少尉からの報告に副館長のジークフリートが慌てた様子で声を上げが、ナタルは、冷静に対処する。 すると、ルミエールの前方の海面から勢いよく水飛沫が起こり、中からメタリックシルバーの装甲が煌めく巨大なアテルガティスが出現した。 ナツミは、その光景に息を呑んだ。 「艦長。敵艦より、CS反応を確認!」 ナツミは、ハッと我に返る。 「この機体パターンはっ。トライデント・ブラッキーっ!」 「何だとっ」 いつも冷静なナタルから驚きの声が上がり、ナツミは、ただ事ではないと感じた。 「トライデント・ブラッキーというと、シンバ戦役の「ブラッキーの悪夢」アクア団のミサキですかっ」 ジークフリートが慌てた様子でナタルに振り向く。 「そう、シンバ戦役でカルミナ艦隊を壊滅させたのは、アテルガティスではなく、あのトライデント・ブラッキーと言ったほうが正確だ。たった一機のCSが十一隻の連合艦を撃沈したなどと、信じがたいことだが、これは間違いのない事実だ…」 ナタルの少し苦々しい口調にルミエールのブリッジに驚愕と重い空気が流れる。 「敵CSこちらに向かって突っ込んできます。凄い速さです!」 オペレーターのエリカ少尉が声を上げた。 「対CS戦用意っ! 対空防御。アルテミス、エストック機動っ。シールドレベルをワンランク上げろ」 「了解。アルテミス、エストック機動っ。迎撃システムオープン」 素早いナタルの指示でルミエールは、防備を固める。 「クロノハンマー。一番から十八番まで撃てぇ!」 ルミエールの両側面のミサイル発射口から十八発のクロノハンマーが打ち出され、急速接近するトライデント・ブラッキーを襲った。 > 14:50、トライデント・ブラッキー。 ミサキのトライデント・ブラッキーの計器類が敵ミサイルの接近を確認表示する。 「敵のミサイル…」 ミサキは、慌てる様子もなく、口元に余裕の笑みを浮かべて手前の小さなモンスターボール型のカプセルの中にいる相棒のブラッキーに目をやった。 「行くわよ。ブラッキー」 「ブラッ!」 「かげぶんしん」 「ブラッ!」 すると、十八発のクロノハンマーがトライデント・ブラッキーを捉え一斉に襲った。 しかし、クロノハンマーは、トライデント・ブラッキーを何もなかったように貫通し、トライデント・ブラッキーが虚像のようにロストする。 「ブラッキー。でんこうせっか」 「ブラッ!」 素早い機動力でクロノハンマーの隙間をまるでブラッキーがでんこうせつかしたように擦り抜けていき、その一発をビームアサルトライフルで破壊し、周りにあった他のクロノハンマーを誘爆させる。 そして、追撃装置で追ってくる残りのクロノハンマーを軽くかわし、ビームアサルトライフルで素早く正確な射撃で的確に残りのクロノハンマーを一掃した。 「良くやったわ。ブラッキー」 「ブラッ!」 ブラッキーは、ミサキに誉められて嬉しそうに鳴いた。 > 14:51、大型強襲特装潜水艦アテルガティス。 「さすがですね。ミサキ隊長。PSSも好調のようですし…」 「ああ、シンバ戦役中に開発され、実戦投入された「ポケモン・シンクロ・システム」。トレーナーがポケモンの技や能力を引き出し、システムをかいして、CSにシンクロさせ、通常のCSの何十倍もの戦闘能力を発揮させる画期的な新世代型CSシステムだが、システムを使用するにあたっての搭乗するトレーナーとポケモンの過大な負荷、また、急激な負荷による精神消耗は、命に関わる危険性もある。だから、未だにこのシステムを搭載された機体は、アクア団の中でも精神能力が強い一部の幹部か部隊長クラスのエース級CSパイロットなど数える程度にしか投入されていない」 「自分。ちょっとミサキ隊長のことが、心配になってきました」 ナギサのいつも見ない真剣な言葉に話を聞いていたアクア団員が動揺する。 「そう心配するな。あいつの強さは、イズミ隊長も、おれも、認めている。そこらの精神負荷でめげるような奴じゃない」 ナギサの自信に満ちた様子にアクア団員も、動揺が和らぐ。 「それにあいつは、ああ見えても、負けず嫌いの頑固もんだ!…」 「えっ?!」 周りにいたアクア団員達の小さな驚きと動揺を尻目にナギサの無邪気な笑い声がブリッジに響いた。 |
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