涼風 千春 | #1☆2004.09/07(火)20:29 |
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ここはホウエン地方、ミシロタウン。 ポケモンの研究者オダマキ博士が居る事で有名な町である。 「…と、ここか。」 そのミシロタウンから少し離れた草むら付近に降り立つ人が居た。 見た所、どうやら女の子のようだ。ボーマンダを連れている。 「有難うボーマンダ。ジョウトからの長旅だったからね、ゆっくり休んでおいて」 どうやらジョウト地方から来たらしい。 「…ここがホウエン地方。こっちの四天王は強いかな」 ふふ、と軽く笑ってボーマンダをボールに戻すと、その女の子は草むらを進んで行った。 「あ、わ、わ、ジグザグマだ!!」 所変わってこちらはミシロタウン。 どうやら、町の中へポケモンが入ってきたらしい。 ジグザグマ自体はあまり凶暴なポケモンでは無いが、ポケモンを持っていない人に言わせれば未知の遭遇に近い。 当然、逃げる事になる。 …が。 「はえェよジグザグマ!!どこまでついてくるんだーっ!!」 人がポケモンに走りで勝つなんて、滅多な事が無い限り難しい。 この走りに自信の有る人であっても、振り切る事は不可能のようだ。 で。 「たーすーけーてー下さいーっ…!!」 その人が助けを求めたのは、さっきの女の子で。 どうやら、いつのまにかミシロタウンから離れた所まで逃げてきていたらしい。 「…どうかしました?」 切羽詰った感じで話す人に対し、どこか間の抜けた感じで答える女の子。 ああ、無理か…と思ったとたん、草むらからさっきのジグザグマが飛び出してきた。 「ああ、あれに追いかけられてたんですね?」 やっと謎が解けた、といった感じで女の子は頷くと、腰のベルトにつけたモンスターボールを1つ手に取った。 「…いでよ、ザングース!!」 投げる、というよりも放ると言った感じでボールを宙に放つと、ボン、と音がして中から白と赤のモンスターが現れた。 「ザングース、みねうち!!」 そのモンスターはジグザグマに駆け寄ると、目にも留まらぬ速さで攻撃をしかけた。 ザク、と音がしたかと思うと、ジグザグマはもうフラフラで。 そこへ女の子は空だと思われるモンスターボール―正しくはネストボール―を投げた。 「…はい、どうぞ」 唖然としている人に向かって、女の子はジグザグマ入りのボールを差し出した。 「あ、ええと、有難うございまし…た。」 別に欲しいわけでは無かったのだが、ぼーっとしていたというか混乱していたというか、とにかく頭の中が真っ白だったために受け取ってしまった。 「ポケモンは気を抜くと危険です。気をつけて下さいねーっ」 女の子は、最後もまた間の抜けた感じで叫んで、101番道路の奥へと進んでいった。 「…一体誰だったんだ。」 女の子が去ってから、ああ名前を聞くべきだったなと後悔してみたが、今更どうにかなるわけでは無い。 |
涼風 千春 | #2☆2004.09/07(火)21:59 |
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女の子は、道を進んでいた。 「ええと、ここが101番道路?さっきのジグザグマはここに生息してるのか…。ふぅん。」 手にはポケナビを持っている。 道路の名前と生息しているポケモンを挙げているあたり、何かの研究目的のような感じもする。が、特に関心も無いようなので違うのだろう。 「ねぇ、ザングース。次の町までどれくらいだと思う?」 ザングースは、さぁ、といった感じで首を傾げる。 「だよねー、分かんないよねぇ。すぐそこって言ったってどれくらいなのやら…」 この時女の子が知っていた次の町の情報といえば「すぐそこにある」という事のみ。 「しょうがない。面倒くさいけどポケナビでも使うかなー…。」 女の子がポケナビに手をかけた、時。 ザングースが声を上げた。それも、何か嬉しそうな。 「どうしたのザングース…ああ、町!!」 見ると、前方には「すぐそこ」の町。 「全く…「すぐそこ」っつったって人は皆歩幅が違うんだから。遠かったじゃない…」 戻れ、と言って女の子はザングースをボールに戻すと、少し早足で町へと向かい始めた。 「あ、おまえポケモントレーナーだな!!よっし、勝負!!」 やっと着いた町―コトキタウンというらしい―でポケモンを回復させて、さあ出発しようと103番道路へ足を踏み入れた直後、 女の子は虫取り少年らしい人物に勝負を挑まれていた。 「あ、あのー…急いでるんですケド」 また今度にしてもらえますか、と続けようとした言葉も、「トレーナーは視線があったらバトル」という決まりのために無駄になり、 …結局バトルするはめになった。 「はー…まあいっか。良く考えたら急ぎの用事でも無いし」 敵の虫取り少年はケムッソを繰り出した。 まあ、この辺りに多く生息するポケモンである。 「ええとー。…行け、ザングースーっ」 こちらは、やはりいつも通りザングース。 「ケムッソ、たいあたり!!」 何と言うか、良く有る技である。ケムッソでたいあたりとは、もうちょっと何かひねって欲しいような気もする。 走る…というか這って来るケムッソを軽く避けて、切り裂く。本当に切り裂かれているわけではないが、ダメージは相当のようだ。 「ああ、負けちゃったよ。君強いね。名前は?」 結局―というか、虫取り少年は負け。ケムッソは一撃でひんし状態になってしまった。 「ああ、名前…エリナ。カントーからずっと旅してるんだ。」 じゃあね、とエリナは軽く手を振って、次の目的地のトウカシティへと向かっていった。 |
涼風 千春 | #3☆2004.09/08(水)18:35 |
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一体この大陸は、どうなっているのだろうか。 数歩進めばバトル、また数歩進めばバトル。 たまに調子良く進めたと思っても、またそのうちバトルを挑まれる。 こちらはまだダメージは無い…まあ、序盤だし当たり前だ。 ただ、こう何度も何度も挑まれると、体力よりも精神的にダメージをうける気がするのは気のせいだろうか。 ああ、もう嫌だこんな所…と思い始めた頃、今度は珍しく女のトレーナーが勝負を仕掛けてきた。 どうやら、年齢的にもそう遠くは無いようだ。 「こんにちは。私はジャズ。一度お手合わせ願えますか?」 その女の子の名はジャズ。バトルしよう!といった雰囲気では無く、むしろ茶道か華道か何かの試合ですか?と訊きたくなる雰囲気だ。 「あ…ええ、分かりました。私の名前はエリナ。よろしくお願いします。」 ぺこり、とお辞儀をすると、2人は適度に距離をとった。 「―じゃあ、行きますよ!!」 相手のジャズは、バトルになると性格の変わるタイプらしく、何やらかなり楽しそうだ。 ジャズの持ちポケは1匹。ボン!!と音をたてて現れたのは、ゲンガー。 「…ゲンガー!!これは相当のやり手ですね?」 ではこっちも!!と言ってエリナもポケモンを出す。 出てきたポケモンは、いつものザングースで無く、アブソル。 「…弱点をついてきましたか」 「それが後手でポケモンを出す側の利点ですからね。不利なのは…!!」 ゲンガーがアブソルに飛び掛って来る。 体重はあるのだが不定形なためにフットワークは軽く、アブソルは避けるので精一杯だ。 「…攻撃で先手を取られる点は、不利、ですね!!」 その言葉を合図に、2匹は距離をとる。 「あれ、右腕に1つだけボールをつけているんですか?」 ジャズはある事に気付く。エリナのボールは腰に巻かれたベルトについているのだが、左腕にも1つだけボールがついているのだ。 「…ああ、特別なんですね?もしくは便利…どちらにせよ!!」 ざ、とゲンガーが地面を蹴る。その先にあるのはアブソルで無く、エリナ。 「…ッ、何を…!!」 「それはおそらく切り札!いざとなれば出す気なのでしょう?ならば、先に出せないようにするまで!!」 バシィン!!という音とともに、中心のボタンが壊れ、ボールが地面に落ちる。 「ああ、メインウェポンが!!」 ジャズの読み通り、それはメインウェポン―切り札。 「さあ、あとは残りを徐々に倒せば良いだけ…」 ジャズがゲンガーに次の攻撃を命令しようとした、その時。 「…でも、サブウェポンはまだ居ますよ?」 いつの間に出したのか、ゲンガーの背後にはサーナイトが居た。 「サブウェポン!?…ちっ、居たのか!!」 「サーナイト、サイコキネシス!!」 2人の、全く異なる叫びが重なり、さらにそれにサイコキネシスの音―念派の作り出すあの嫌な音だ―が、加わった。 バチィン、と音がして、エネルギーが飛び散る。そこには、倒れたゲンガーと、余裕の笑みで立っているサーナイトが居た。 「…ああ、負けてしまった。」 ジャズはそんなに悲しそうな様子も無く、なぜか口元には笑みが広がっている。 「私、手ごたえのある相手と戦ったの久しぶりで。…楽しかったです。」 「私もです。あなたのゲンガー、強かったです。…このモンスターボールの事、ここまで読まれたのははじめてです」 エリナは、さっき直したばかりのボールを腕に取り付ける。 その時、ジャズから驚くべき言葉がかけられた。 「ふふ。…そうだ、友達になりませんか?」 エリナには旅の途中で出会って友達となった人は居なかった。 友達は、旅によっては邪魔といっても過言では無いし、何より別れる時が辛い。 「友達、ですか?…私はそれより、ライバルのほうが良いかな。」 ライバル。それもエリナは持っていなかったが、それなら良いと何故か思えた。 「ライバル!!良いですね。じゃあ、また何処かで会いましょう?…ライバルのエリナ。」 「ええ、必ず。ライバルのジャズ!!」 そして、2人は全く異なる道、エリナは103番道路、ジャズは空―どうやら飛行用にオニドリルを持っているらしい―を、進んでいった。 |
涼風 千春 | #4☆2004.09/08(水)22:12 |
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ここはトウカシティ。 ミナモほどではないがそれなりに大きな町で、家の大きさもまちまちだ。 「あー、ここがトウカ?何か中途半端に都会って感じだなぁ」 エリナはいま、フレンドリィショップを目指して歩いていた。 薬を買うわけでは無い。だいいちこんな所で売っているきずぐすりでは、エリナのポケモンだと何個も使う事になるだろう。 エリナが欲しいのは、モンスターボールだった。 「いらっしゃいませー」 カラン、と音がするドア―鈴か?―を開けて、店内を見回す。 お目当ての物を見つけるとレジへ。 「すみません。これを下さい。」 「ハイ、モンスターボール5つですね。」 数回やりとりをして、買う。 「有難う御座いましたー」 またカラン、と鳴らして、出る。 ―エリナは、何故モンスターボールを買ったのか。 それは、「あるポケモン」を捕まえるため。あるポケモン、とは… …色違いの、ラルトス。 色違いのラルトスとは、どういう事か。 エリナはいわゆるポケモントレーナーであり、同時にポケモンコレクターでもある。 珍しいポケモンが居ると聞けばすぐ飛んでいくし、勿論、育てもする。 要するに、珍しく強い―そんなポケモンを探しているのだ。 まあ、もちろん普通のポケモンが嫌いという訳では無い。むしろ、ポケモンは全員好きだ。 ただ、「コンテスト」と「リーグ」。この二つに出場する以上、こういったポケモンが有利になる。 カントー・ジョウトと旅して数々のコンテストやリーグを撃破してきたエリナにとって、 ここホウエンのランクの高いコンテストやリーグは、次の目標。 そのためにここへ来たと言ってもいい。それくらい、なのだ。 さて、話を戻そう。 色違いのラルトスが何故ここに居ると分かったか。それは、友達のリビスのおかげである。 リビスはポケモン評論家…であり、研究者だ。 各地に部下なんかも居るし、その情報網はなかなかの物だ。 そのリビスに、情報を提供してもらっている。 今回は「トウカ近くの草むらに、光る…色違いのラルトスが居るらしい」との事だった。 まだホウエンに来たばかりのエリナは「そらをとぶ」事が出来ないので、地道にこう歩いてきたわけだ。 「っつあーっ。何処に居るんだラルトス…」 しかし、よく考えてみればラルトスはただでさえ出現率が低い。 さらに色違いとなると、まあ時間がかかるのはしょうがない事で。 エリナはさっきから、かれこれ2時間は草むらを歩き回っていた。 「ポチエナとかケムッソは出てくるのに、何でラルトス出ないかなぁ…」 色違いじゃないのはたまに出てくるけどさ、とぶつぶつ言いながら草むらをまた進む。 と。目の前が一瞬明るくなって。 「…居た!!」 目の前には色が普通と違う、ラルトスが居た。 |
涼風 千春 | #5☆2004.09/09(木)18:51 |
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ちょこん、と地面に座ったラルトスは、とても可愛くて。 しばらくはゲットする事も忘れ、ただぼーっと眺めていた。 がさ、とラルトスが立ち上がった時、やっと我に返ったエリナは、とりあえずバトルのための間隔をとる。 「危ない危ない…これがあいつの戦法?」 野生のラルトスといえば、技はなきごえのみ。エリナは余裕でゲット出来る。 …筈だった、が。 「…っ何!?」 前方から、どうやらエネルギーをためているらしい気配がする。と、野性のラルトスが撃てるはずも無い「サイケ光線」を、目の前の色違いのラルトスは撃って見せた。 「…サイケ…光線!?何で!?」 エリナがひるんでいるうちにラルトスは2発も3発も連続で撃ってくる。 ポケモンを出す間も無く、エリナはひたすら逃げるしか無かった。 それから10分ほどたって。 今までずっと連続で撃ってきた疲れからか、ラルトスの攻撃には間が開き始めた。 「…チャンス!」 エリナは素早くボールを取り出すと、放る。中からはザングースが現れた。 「ザングース、みねうち!」 その事に気付いたラルトスは、もう一度サイコエネルギーを集める。 ザングースが攻撃する瞬間、相手もサイケ光線を撃っていて。 バシンッ 何かがはじけるような音がした後、2匹とも地面に倒れた。 「…どうして、野生のラルトスに?」 観ると、大分手加減して撃った筈の攻撃で、ラルトスも危険な状態である。 「…とりあえず、ポケセンへ!!」 2匹をボールに収め(ラルトスも結構すんなりと入った)、エリナはトウカシティへと走り出した。 「ご利用有難う御座いました。またどうぞ」 ヴィーン、とドアが開き、中からエリナが出てくる。 手には全回復をしたザングースと色違いのラルトスの入ったボールがあった。 「とりあえず、さっきの謎を解かないと。何でサイケ光線を…っ!?」 エリナはポケナビでステータスを確認していた。と、そこには「サイケ光線」の字は無く、代わりに 「わざマシン50」 という文字があった。 「わざマシン50?これって…何、技の名前じゃ無いじゃない。」 技の画面から、ステータスの画面へ切り替える。と。 「…ええっ!?こいつレベル5よね…?」 レベル5にしてはありえないステータス―…とくこう・とくぼう共に200、という、文字。 そこから視線を少し上へ上げる。と、そこにも、意味不明の文字が。 こうげき・ぼうぎょ共に0…。まず、ありえない事だ。 「これは、…誰かが意図的に操作しない事には有りえない…。一体誰が?」 |
涼風 千春 | #6★2004.09/09(木)22:14 |
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信じられない。レベル5のラルトスが放った技が「わざマシン50」だったこと。 とくこう・とくぼうの値が200ずつ、こうげき・ぼうぎょの値は0だという事。 そして。…こんな馬鹿げた事を、行った者が居るという事。 「…何で…何で、誰が、こんな事を…?酷い…」 ラルトスは今は元気だし、特殊攻撃を何発かくらった所で別に平気だろう。 しかし、打撃攻撃を加減も無しにくらってしまうと、確実に、 …ひんしになる。 一歩間違えば命の危険もあるだろう。 エリナはとりあえずラルトスをリビスの元へ送ろうと、もう一度ポケモンセンターへと向かう。 あまり観られてはいけない気がして、少し人通りの少ない所へ出てきていたのだ。 「移動してて正解だったわ…こんなの警察にでも観られたら、凄い騒ぎになってたわよ…」 はぁ、とため息を1つ吐いて、足を速める。 もう少しで着く、という時になって、何だか周りが慌しくなって来た。何か逃げているらしい人も居る。 先は結構な人ごみで、見通しは悪い。奥で何が起こっているかを自分で確かめる事が不可能だと判断したエリナは、とりあえず隣の人に訊いてみる事にした。 「…あの。何があったんですか?」 恐る恐る訪ねてみる。すると、その人は怯えきった表情でこんな事を言った。 「マグマ団だよ!マグマ団のやつらがさっき此処を通ったのを、見た奴が居るんだ!」 ああ、まだこの辺りに居るかもしれない!その人は最後にそう言い残して、逃げていった。 「…マグマ団…」 その名前は知っていた。ジョウトでもニュースで流れていたし、それに、起こした事件もなかなか悪質なものだったために、エリナもはっきりと覚えていた。 今のマグマ団の中には、旧ロケット団幹部と繋がっている者―繋がっていた、の可能性もある―が居るとされ、 ロケット団の使っていた薬品を利用したり、また、改良したりしているらしい。 その薬品も、たとえば、ポケモンを強制的に進化させるだとか、ステータスを異常な高さまで引き上げるだとか、そういったポケモンにまつわる物が多い。 「…もしかしたら!」 …もしかしたら、このラルトスはマグマ団が? |
涼風 千春 | #7★2004.09/25(土)15:55 |
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エリナはとりあえずポケセンへ戻り、リビスに報告する事にした。 「…あ、リビス?私。エリナ。」 テレビ電話の画面―パソコンだ―に話しかける。 「あ、ああ。エリナ。どうだった、色違いは?」 「…それが、ね」 不思議そうな顔をするリビスに、エリナは今まであった事を全て話して聞かせた。 「…そっか、そんな事が…。うん、確かにマグマ団の可能性は高いね。あいつらは何をするか分からないし。技名については―…何だっけ、わざマシン50?あれは調べとくよ。」 「うん、お願い。御免ね。」 その後は普通の世間話やらポケモンの調子やらを話して、リビスの元へラルトスを送り、接続を切った。 「―ふぅ。私にはまだ何も出来なさそうね。…旅を再開しようかしら」 エリナはぐるっとポケセンの中を見回す。と、イスの背もたれの上あたりに貼ってあるポスターが目に入った。 「―…トウカシティジムリーダー、挑戦者求む…?ああ、そうか、ここにジムあったのか。すっかり忘れてた…」 エリナの目的はジム制覇でもある。ここのジム戦を逃がす訳には行かない。 「そっかー、ジムかぁー…まだ明るいし、今から行こうかな。」 時間は夕方か昼なのか際どいあたり。まだジムリーダーは居るだろう。 よっし!と気合を入れたエリナは、ボールの中のポケモンを見、走って行った。 トウカシティジム。リーダーはセンリ。 「…良し、行こう」 ぐ、とドアを押す。すると、内側へするっと開いた。 「こんにちはー。ジム戦お願いします」 少し大きめの声で言うと、中から一人の男が出てきた。 「…ああ、勝負か。分かった。名前は?」 「エリナです」 「よし、じゃあ早速始めよう。私の名前はセンリ。使用ポケモンは3体。良いな?」 「ハイ!お願いします。」 二人は、地面に描かれたバトル用のコート―バスケットボールやドッジボールなんかより遥かに大きい―の外側へ出、向かい合う。 「…試合…開始!」 二人はほぼ同時にボールを投げる。音をたてて現れたのは、ケッキングとフシギバナ。 ちなみに、エリナのポケモンであるフシギバナは、カントーから連れて来たものである。 「…ほぉ、フシギバナか。珍しい。」 「珍しい上に強いですよ?…覚悟!」 ぐ、と2匹は向かい合う。 先に動いたのはケッキングだった。だるそうな動作とは裏腹に、なかなか素早い。 「へぇ、けっこう早いんですね。さすがジムリーダー様。…でも!フシギバナ、はっぱカッター!」 フシギバナはその場から動かず、駆けてくるケッキングに無数のはっぱカッターを浴びせる。 しかし、ケッキングの方も手でガードをしながら走ってくる。一部は当たっているようだが、それほどダメージは無いようだ。 「…さぁ、どうする?もうすぐ私のケッキングはフシギバナの所へ辿り着くぞ?」 近づけば近づくほど、パワーのあるケッキングは有利である。フシギバナといえば大体は遠距離攻撃を得意としているし、決定打を与えるのは離れて居る時の方が良いだろう。 しかし、エリナのフシギバナはその場から動こうとしない。さっきまで出していたはっぱカッターも止めている。 「…?何をしている?」 そんな状況を見て、エリナは口元に微笑を浮かべている。 「ええい、きりがない!ケッキング、からげんき!」 ぐお、とケッキングが迫ってくる。しかし、エリナは指示を出そうとしない。 エリナは何故か、秒数を数えていた。 もうすぐケッキングの攻撃がフシギバナに当たる、という時。 「…3」 エリナのカウントダウンも、3までカウントされていた。 「…2」 ああ、危ない、ぶつかる!という時。 「…1、…0」 がくん、と目の前のケッキングの動きが止まる。 「…!?ケッキング!?どうした!?」 「チャンス!」 今まで微動だにしなかったエリナが、素早く指示を出す。 「フシギバナ、はかいこうせん!」 か、とフシギバナの花が光ったかと思うと、目の前に居たはずのケッキングは向こう側の壁に叩きつけられていた。 「…とくせい…なまけ、か。」 ああ、いつも一撃で沈めていたから忘れていたよ、とセンリが言う。 「自分のポケモンのとくせいくらい覚えておいて下さいね?」 エリナは、はかいこうせんの反動で動かないフシギバナをボールに戻す。 センリも、戦闘不能…ひんし状態になったケッキングを戻す。 「…でも、勝負はまだこれからだ。」 |
涼風 千春 | #8★2004.09/11(土)00:02 |
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「行け、ヤルキモノ!」 ボン、と、ボールの中からヤルキモノが出てくる。 「ヤルキモノですか!じゃあ、こっちは!」 エリナもボールを投げる。出てきたのは、ザングース。 「ヤルキモノ、きりさくだ!」 ヤルキモノはとん、とジャンプすると、ザングースに飛び掛ってきた。 「ザングース、避けて!」 間一髪、ザングースは横へ逃げることが出来た。 「続けてだましうち!」 流石にだましうちは避ける事が出来ず、ザングースは攻撃を受けてしまった。 「…っ、ザングース、体制を立て直して!一気に行くよ、きりさく!」 ザングースは一回転して立ち上がると、その勢いでヤルキモノに向かってとっしんして来る。 「受け止めろ!」 ガン、という音がしてぶつかる。ザングースの爪はヤルキモノに封じられ、しかし、相手のヤルキモノも身動きの取れない状態だ。 「…ザングース、一旦離れて!」 ザングースは体を捻り、抜け出す。その拍子にヤルキモノは一瞬バランスを崩した。 「ヤルキモノ!距離をとれ!」 しかし、攻撃する間も無くまた距離をとられる。 「…なかなかやるじゃないか、エリナ、だったか?」 「有難う御座います。でも、まだまだこんなもんじゃ無いですよ!ザングース!」 ぐい、とエリナは空を指差す。すると、ザングースは地面に爪をつき立てた。 「…かいりき!」 ぐおぉ、と一声ザングースが鳴くと、地面が割れ、一部が崖のようになって空を指した。 「ザングース、そのまま押し倒せ!」 もの凄い音がして、土煙が立ち、相手のポケモンを自分のポケモンも見えない。 …そして、煙の中から現れたのは。 ザングースだった。 煙がはれてから観てみると、ヤルキモノは下敷きさえ免れたものの、破片に当たってしまったらしく、戦闘不能の状態だった。 「…ち、2体目目もやられたか…」 2人はポケモンを戻す。そして、最後の3匹目。恐らく、最強のポケモンを出してくるだろう。 「…行け、ケッキング!」 センリは、二度目のケッキング。しかし見るからにレベルが高そうで、1匹目と同じ戦法では負けてしまうだろう。 それを知って、か。 エリナが出したポケモンは。 「行け、ボーマンダ!」 「…!」 ボーマンダ。まず、大きい。パワーも強いだろうし、翼もある。 エリナは、このポケモンに乗ってずっと旅して来たのだ。 「ボーマンダ、じしん!」 ぐらあ、と地面が揺れ、さっきのかいりきのせいもあって、亀裂が入った。 「…落ちるなよ、ケッキング!岩を伝って行け!」 丁度亀裂の横をはしっているさっきの大きな岩―あの持ち上げたやつだ―の上を、ケッキングは走る。 「逃がさない!ボーマンダ、かえんほうしゃ!」 赤い炎が岩を熱する。所々ひびも入っているし、この先岩を渡る事は出来ないと判断したのか、ケッキングは地面へ降りた。 「待ってたわ!さあ、最後!これで決める!ドラゴンクロー…!」 ケッキングが降りた場所は、丁度真ん中辺りで、周りを岩で囲まれている。そこへ降りると計算していたエリナは、そこへ事前に向かっていた。 つまり、ケッキングは地面に降りた場所には。 …ボーマンダが、居た。 技はドラゴンクローだったが、ケッキング以外にも地面に当たったらしく、地震のように床が揺れた。 何秒かして、揺れが収まってからその辺りに目をやると。 満足そうなボーマンダの前に、戦闘不能のケッキングが倒れていた。 「ふぅ、負けてしまったよ。本当に強いね。君ならきっとチャンピオンも夢じゃ無いだろう」 「本当ですか?頑張ります。」 センリからバッチを貰ったエリナは、今まで集めてきたバッチ―カントーのもの、ジョウトのもの、そして今貰ったバッチ―を眺めた。 これだけあると、流石に美しい。 しかし、エリナの目的はポケモンリーグ。まだまだ、ホウエンの旅は始まったばかり。 「じゃあ、近くに寄ったらまたおいで」 「はい。それでは。」 最後にペコン、とおじぎをすると、エリナは今晩泊まる事にしたトウカのポケモンセンターへと歩いていった。 |
涼風 千春 | #9☆2004.09/11(土)19:23 |
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チュンチュン、と外で小鳥が鳴いている。 只今の時刻、午前6:30。 エリナは昨晩セットしておいた目覚まし時計の音で目を覚ました。 「…んー…眠いいぃ…」 エリナは寝起きが悪い。時と場合によってはスッキリ起きる事もあるにはあるのだが、 それは旅をしていたら絶対にありえない事で。 「あーあ。家だったら目覚め良いんだけどなー…」 ようはそう言う事である。 顔を洗い、歯を磨き(エリナは起きたら直ぐ磨く派だ)、昨晩買っておいた卵サンドにかぶりつきながら服を着替える。 …ある意味器用だ。 起きてから30分。丁度7時、出かける準備が出来た。 靴をはいて部屋を出、ポケセンのドアを開ける。 ヴィーン、とドアが開き、閉まる。 エリナは朝の空気をおもいっきり吸い込んだ。 「んー…、空気が美味しい。やっぱり此処は草木が多いものねぇ」 やっぱり田舎なのかぁ、と言いながら、トウカシティを出る。 トウカシティを出ると、とたんに緑が多くなった。 前方には森も見えるし、左手には海もある。 「へぇ、素敵な所。海に森に町って、三拍子揃ってるじゃない…」 進んでいくと、前方にあった森がはっきりと見えてきた。 「…トウカのもり?へぇ、ちゃんとした森なんだ…」 がさ、と、森に足を踏み入れる。森の中は薄暗く、丁度いいくらいに涼しかった。 森の中には道があった。獣道とは違い、人が草を刈って作ったのだろう。 その道ははっきりと分かる訳ではないが、真直ぐ、森の出口へと向かっていた。 森の中ごろへ差し掛かった時、右手の方から声が聞こえてきた。 「…デボンの社員から取り上げ―…」 「それは―…だろう。もういちど作戦を―…」 「―…薬は完成している。あとは実験体を―…」 何やら物騒な話である。 エリナは出来る限りか関わらないようにしようと、少し歩くスピードをあげようとした。 しかし、さっき声の中に聞いたことのある声が混じっているのに気付いたエリナは、思わず立ち止まってしまった。 「―…エリナというトレーナーは注意する必要があるだろう、それに―…」 その「声の主」が誰だか、エリナは思い出せないでいた。 その上自分の名前を言うものだから、さらに混乱し、考える事もままならないまま、気付けば森の出口付近に居た。 「…私、どうやってここ来たんだろう」 まったくもって危なっかしい。エリナはこれで全国を旅しているのだから、本当は誰でも旅が出来るのではないかと思う。 「…聴いた事のある声。それに、私の名前を知っている。そのうえ【注意する必要がある】―…って…一体誰だったんだろう」 エリナは、今考えても分からないものは分からないと思い、とりあえず次の町へと進むことにした。 「…では、エリナが次のターゲットですか、ボス?」 |
涼風 千春 | #10★2004.09/12(日)21:50 |
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トウカの森を抜けて、着いたのは、カナズミシティ。 なかなか大きな町らしく、通りにも人が多い。 中心付近には「デボンコーポレーション」という、有名な会社の本社もある。 「っくあー、人多ッ…」 あーあ、人ごみは嫌いだ、とかぶつぶつ言いながらエリナはポケセンを目指す。 とりあえず大体の建物の場所は把握している。 「えーと、これがデボン社で、あっちがジムで…」 歩きながら確認していく。 と、建物の影になってあまり見えない辺りで、言い争っている人達が居た。 どうやらポケモン勝負をしているらしいが、グラエナを使っている方の人は時折相手の手を見ている。 何かあるのか?と思い見ると、その手には何やら機械らしきものが握られていた。 遠くから見ていると、その勝負はグラエナが優勢で、相手のポケモンらしいマリルは段々後退していた。 「行けグラエナ、かみつく!」 ぐおぉ、と吠えて、グラエナは飛び掛る。とうとう町の外へと出てしまった。 「ち、マリル!みずでっぽう!」 マリルも負けじと反抗するが、どうやらレベルはグラエナの方が高いらしい。みずでっぽうを弾き返し、かみつくをヒットさせた。 「ああ、マリル!」 ばたり、と倒れるマリル。どうやら戦闘不能のようだ。 「…さぁ、それを渡してもらおうか」 す、と指差されたのは、マリル側の人間の持っている、あの機械で。 「こ…これだけは渡すものか!」 マリルをボールに戻し、その機械をぎゅっと握り締める。 グラエナはじりじりとその人へ近づき、今にも噛み付きそうな雰囲気だ。 これはただの戦闘ではない。一方的な脅しだ…そう判断したエリナは、 「ちょっと、何してるの。嫌がってるじゃない。無理矢理取り上げようとしてるし」 と言いながら、数歩前へ出た。 「…おぉ、お前は。ふふ、丁度良い。グラエナ、そいつを見張ってろ。」 グラエナは指示された通り、機械を持って睨んでいる人の方へ向き直る。ぴく、とその人が動いて、固まる。 まあ、グラエナのとくせいはいかく。…人間が睨まれたら、普通は動けないだろう。 「お前はエリナ、と言ったか?真面目に聴いてなかったからあまり覚えてないが…」 聴いてなかった?しかも私の名前を知っている?エリナの頭の中はもうすでに疑問符で一杯だった。 「…何故私の名前を知ってるの?それにその服。…マグマ団?」 その人が着ている服は赤く、フードには角らしいものがあり、胸元にはMをデザインしたのであろう模様。 一般的にこういう面倒な作業をさせられる、いわゆる「したっぱ」だろう。 「ほぅ、やはり知っているか。…ラルトスを捕まえたそうだな。」 ぴくり、とエリナが反応する。何故ラルトスのことを?もしや、本当にマグマ団があのラルトスを操作したのか。 そんな事を考えながら、数歩下がる。 「あのラルトスは我が組織の実験体でな。…まあ、感付いていただろうがな」 ふふ、とその男は笑い、ボールに手をかける。 ああ、やっぱりそうだったのか、と思った時には、もうすでに相手はポケモンを出していた。 「…グラエナ。」 そいつが出したのは、グラエナ。どうやら2匹所持していたらしい。 相手が悪タイプとなると、こちらの手持ちでは少し不利になる。 普段ならば切り札として出すはずのサーナイトは使えないだろう。だとすると、あのレベルの高そうなグラエナに対して出し、勝てるであろうポケモン。 「…誰にするかな。」 悪タイプに対しこうかばつぐんな技は何だったか。考えても、今まさに飛びかかろうとしているグラエナの前では頭が回らない。 「ええい、この際誰でも良いわ。出てきて、ザングース!」 ボン、と出てきたのはザングース。ザングースはノーマルだし、こうかばつぐんとまでは言わないが、まあ大丈夫だろう。 「ザングース、ブレイククロー!」 が、と爪が宙を斬る。グラエナは跳んで交わし、一回転して着地した。 「…上から指示が来てるんだ。エリナは我が組織の事を嗅ぎ回ってるらしい。面倒な相手ならば始末しろ、とな。」 ああ、あの森で聴いた声はマグマ団の会話だったのか。では、私はいつそんな事を知られた? そこまで考えて、エリナはぶんぶんと首を振った。今は目の前のバトルに集中しなくては。 「…さぁ、大人しく始末されてくれ。」 |
涼風 千春 | #11★2004.09/13(月)19:09 |
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「悪いけど、始末されるつもりは無いわ」 「ほぉ、強気だな。」 じり、と距離を詰められる。それに従い、グラエナもザングースへと近づく。 「…あんた達、ポケモンの生体実験なんかして、何をするつもり?」 エリナは、今まで思っていた質問をぶつけてみた。 しばらく、時間は稼げるかもしれない。そう思ったからだ。 だが。 「…そんな事、言えるわけ無いだろう?こう観えてもしたっぱの総轄を任せられているんでね。」 どうやら考えが甘かったようだ。おまけに、どうやら幹部まではいかないものの、なかなか高い地位に居るらしい。 「へぇ、そうなんだ。…じゃ、倒すしか無いようね!ザングース!」 ザングースが、ガッ、と地面を蹴る。 グラエナには劣るがなかなか素早く、そのまま敵に突っ込んだ。 「ザングース、かいりき!」 ぐぉ、と腕が宙を斬る音が鳴る。グラエナは冷静にそれをかわすと、ザングースの横から跳びかかった。 「…ザングース、避けて!」 しかし、そう言った時にはもうすでに遅く、ザングースはグラエナの鋭い爪を一発受けてしまっていた。 何とか2発目をかわし、距離をとる。 「…どうした?避けているばっかりか?」 マグマ団の奴が、挑発するように少し笑いながら話しかける。 「そうかもしれませんね?でも…!」 グラエナの後には、もうすでにザングースが居て。 「どう、話していて気付かなかった?ザングース、きりさく!」 ザク、という音がして、ザングースの一撃が決まる。 「…ハァ、決まった、わね。」 グラエナはぐったりとしている。どうやら急所に当たったらしい。 「ふ、ふふ。流石だな。しかし、これではどうだ?」 マグマ団が倒れたグラエナに近づく。そして、薬らしい物を飲ませた。 とたん、グラエナは立ち上がり、もの凄いスピードでエリナとザングースの周りを走り始めた。 「…ちょっ、!?かげぶんしんでもないのに、何でこんなに早いの!?」 「これが我がグラエナの本当の力だ!」 マグマ団の奴はこちらをちらっと見ると、どうやら手も足も出ないようだ、と確認したらしく、 そのままさっきの男―機械を持っている奴だ―の方へ向かった。 「さぁ、助けは来たが、残念ながら俺には力及ばなかったな。さぁ、その機械を渡せ。」 「…だ、駄目だ!これだけは、命に代えてもデボン本社に…ッ!」 が、とグラエナがその男に乗りかかる。喉元には、爪。 「…命に代えても、か。さぁ、それを渡せ。でないと、本当に死ぬ事になるぞ」 「…!!」 ああ、やばい。エリナはそう思ったが、グラエナをどうにかしない事にはどうしようもない。 「…ええっと、何処かに弱点があるはずよ、こういうのには。…何処だ…」 グラエナをじっと観察する。と、走っているグラエナには、今までの余裕の笑みが無い。 おまけに、怪我をした所からはまだ血が溢れ出ていて。 「…ちょっと、このグラエナ、無理矢理走らされてるみたいじゃない!」 走っている、というより、走らされているような違和感。それも操られているのでは無く、走らなければならない、というような…。 「…待って、さっきの薬って、もしかしてあのラルトスに投与した物と同じような物、って事は考えられないかしら」 十分に在り得る。あのラルトスはこうげき・ぼうぎょを犠牲にする代わりに、どうやらとくこう・とくぼうを上げられていたのだろう。 だとしたら、今グラエナは、…すばやさを上げられている? だとしたら。他のステータスが何か一つ、極限まで下がっている筈なのだ。 「…まだ、勝てるかもしれない!」 |
涼風 千春 | #12☆2004.09/15(水)18:43 |
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「…そう、か。何かが下がっている筈なんだ…一体何が下がっているんだろう…ぼうぎょ?とくぼう?それともこうげき?とくこう?」 しかし、下がっているのは1つだけ。何が下がったのかは分からない。 「んー…ぼうぎょ系という事を願って。数撃ちゃ当たる!!」 いけ、ザングース、とりあえず攻撃!と、エリナはめちゃくちゃな指示を出す。 ザングースは、でも理解はしているらしく、走り回るグラエナを目で追って、攻撃を見切る。 グラエナは、攻撃はしてくるらしい。時折ガッ、と地面へ爪が当たるような音が鳴り響く。 その様子を見るかぎり、どうやらこうげきは下がっていないらしい。 とくこうはやとくこうはもともと高いほうでは無いので、それを下げてもそんなに上がらないだろう、と、考える。 しかし「上がる」やら「下がる」やらを使っていたので、何やら訳がわからなくなってくる。というのがエリナの本音である。 「ええい、もう良い!多分下がってるのはぼうぎょ!ザングース、ブレイククロー!」 …完璧に勘である。 ザングースは、ガシィン、とグラエナの爪を受け止め、封じる。その隙に横腹に一発入れると離れた。 だん、とグラエナが倒れる。どうやら勘が当たったらしい。 「…いよっしゃあ、あとはあいつだけ!」 その時のノリでびしぃっとマグマ団を指さす。しかし、その時にはもうすでに機械が奪い取られていた。 「…お生憎様。コレはしっかり頂いたよ」 いくぞ、グラエナ!男はそういうと、道路を走っていく。 「ちょ、ちょい待て!」 エリナはすぐに後を追いかける。もうすでにさっき脅された人は気絶していた。 「…あれ、見失ったか…」 しばらく走った所で、一旦立ち止まる。 こちらへ来ていたと思っていたのだが、マグマ団の目立つ服は、もう無い。 「…あーあ、折角ここまで来たのに…」 ふぅ、と肩を落とす。すると、近くからブルーの服を来た人物が近づいてきた。 バンダナをまいているらしい。それと、此処から観る限りでは男のようだ。 「…ちょっと、さっき誰を追っていた?」 そいつは口を開くや否や、いきなり質問をしてくる。何だこいつ、と思ったが、とりあえず答える事にした。 「…マグマ団のやつ、です」 「マグマ団!やはりな…」 え、やはりって?エリナはそう言おうとしたが、それよりも早く相手が 「そうか、有難う。では」 とか何とか言って行ってしまった。そいつが誰なのかも何でそんな事を訊いたのかも分からないままだった。 「…一体、何なんだ…最近。マグマ団やらわけ分からん人やら…」 まあいっか。エリナはそう言って、左手に付いているボールを手に取る。そして、 「出てきて、ボーマンダ!」 出てきたのはボーマンダ。どうやら、あの「メインウェポン」はボーマンダの事らしい。 「えっと、カナズミまでお願い。」 よいしょ、と言ってまたがると、ボーマンダは翼を広げ、カナズミの方角へ飛んでいった。 |
涼風 千春 | #13☆2004.09/19(日)17:43 |
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ヴィーンー…と、ドアが開く。 「こんにちは、ジム戦お願いしますー…」 ここは、カナズミジム。 エリナは一旦カナズミに戻り、ジム戦をする事にした。 そのためにちゃんとポケセンから電話で連絡をいれてもいたのだ。 「…あ、エリナさん、でしたっけ?私がリーダーのツツジ。では、始めましょうか」 向かい合わせになる。ジム戦の場合、普通のバトルより若干遠めだろうか。 「…では!ファイト!」 同時にボールを投げる。と、エリナのほうが高く飛んだらしい。先にツツジのボールが開いた。 「いでよ、イシツブテ!」 中から現れたのは、イシツブテ。 次の瞬間、エリナのボールも開く。 「…さぁ、バトルよフシギバナ!」 フシギバナ、だった。 「…ち、相性的に不利ですか…」 「先手必勝!いけ、フシギバナ。はっぱカッター!」 フシギバナの背中から無数の葉が飛び出て、放たれる。 イシツブテは宙に浮いている上小さいので、当たりにくいだろうと判断しての攻撃だ。 案の定イシツブテは数発くらってしまい倒れてしまった。 「戻れイシツブテ!」 ばしゅん、とボールの中へ戻っていく。次にツツジが出したのは、 「さぁ出番よ!ノズパズ!」 出てきて、どうやら向いた方向は西だったらしい。一回転して、エリナの方向―丁度北だ―を向き、止まった。 「ノズパズは北しか向けない!後に回り込めば勝ち同然!」 エリナはそう言って、フシギバナをノズパズの後へ向かわせる。 「…甘い!ノズパズ、がんせきふうじ!」 ノズパズは地面をガン、と削り、放る。その力は凄まじく、岩雪崩れとまではいかないが大量の岩がフシギバナの行く手を塞いだ。 「どう、これで後へは回れない!」 土煙が収まってから改めて見回すと、ノズパズの後をぐるっと囲むように岩が突き刺さっている。これではバックを取る事が出来ない。 「…普通に勝負しろってか…」 |
涼風 千春 | #14☆2004.09/24(金)00:18 |
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「行け、フシギバナ!はっぱカッターで押せ!!」 フシギバナが攻撃に備え、少し体を前へ傾ける。すると、 「さぁノズパズ!がんせきふうじ、ですよ!」 下を向いて隙を作ってしまったフシギバナの周りに、岩が轟音を立てて突き刺さる。丁度、ノズパズと向き合う形に岩が囲んだ。 「さぁ、これで条件は同じ。…もっとも、フシギバナは後方を守る必要は無いですがね。…さぁ、いくわよ!」 す、とツツジが宙―正しくは真上―を指差す。そして。 「…いわおとし!!」 があぁあぁっ、ともの凄い音を立てながら、上から岩が落ちてくる。 フシギバナは思うように動けず、ただ1つ残された出口からも土砂が入って来て出られないために、もろにくらってしまった。 「…ッ、フシギバナ!大丈夫!?」 どうやら持ちこたえたらしい。性格が「がんばりや」なのもあるのかは分からないが、これまでもこの「頑張る」というか「持ちこたえる」というか、いざという時に助けられた事は何度もあった。 「…よし、フシギバナ。ここは一気に、…かたをつけよう」 エリナはそう言ってフシギバナに何か囁くと、フシギバナは「出口」に向かって体当たりを始めた。 「…?」 ツツジとノズパズは、意図が掴めないといった表情でこちらを見ている。 「…何をするのかは分かりませんが、今こそチャンス!ノズパズ、もう一度いわおとしを!」 ガン、とまたノズパズが岩を削り、落としてくる。 ついさっきの攻撃より勢いが強い気がする。 「…さぁ、これを待ってたのよ!フシギバナ!!」 と、その「いわおとし」がフシギバナへ当たろうとした時。 いきなりエリナがフシギバナへ新たな指示を出した。 「ソーラービームで、吹っ飛ばせ…!!」 |
涼風 千春 | #15☆2004.09/25(土)15:45 |
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ドン!と凄い音がして、緑色の光線と共に岩がノズパズへと向かっていく。 「…さっきのたいあたりは、固まっている岩を崩し、同時にソーラービームのエネルギーを溜めるための時間稼ぎよ」 「…!」 だんっ、とノズパズは地面に叩きつけられる。どうやら不意打ちであったために、防御やら受身やらは全くしていなかったらしい。 動かない所を観ると、どうやら戦闘不能なのだろう。 「…なるほど。マサラタウンのエリナ、私の負けです」 ボールにノズパズを戻すとエリナのほうへ手を伸ばし、握手を求める。 しかし、エリナは手を取るか躊躇っていた。 「…あの、どうして私の出身地を?言っていなかったのに…」 原因は、つまりそれだ。エリナは電話でも「マサラタウン出身です」とは言わなかったし、ホウエンに来てからも一度も口に出していない。マサラとは優秀なトレーナーを沢山旅立たせている所であるし、マサラだから強いのか、と言われたく無いからである。 「…あら、知らないの?あなたがポケモンリーグやコンテストのマスターランクで優勝するたびに新聞に載ってたわよ。エリナって聴いてすぐピンと来たわね」 どうやら一度も口に出さなくとも名前さえ言えばどこ出身か分かるくらい有名らしい。そんな事を知らなかったエリナは少しの間呆然としていた。 「…あ、あぁ、そうだったんですか。すみません。知りませんでした…」 焦って握手をする。しかし、エリナの頭の中は握手なんかよりも「自分が何故か有名だった」(何回も優勝しているのだから当たり前ではある)という事だけだった。 「あーあ。折角今まで言わなかったのに、名前でばれるのかぁ…いっそ開き直って【えぇ、そうですよ】とか言ってみようか…」 はぁ、とため息を吐く。エリナは新たなバッチを手に入れ、カナズミのポケモンセンターへと帰る途中だった。 すると、例のマグマ団による脅しのあった現場に、またもや人影があった。 本能的に隠れ、様子を伺う。すると、あの青い服にバンダナという格好をした人物が2・3人居た。 「…あれ、あれも何かのグループなのかな…」 じっと耳を澄ます。すると、暫くして声が聴こえてきた。 「―マグマ団とエリナ、両方を捕らえる必要がある」 |
涼風 千春 | #16☆2004.09/26(日)17:53 |
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「…!ちょっと、また何か私巻き込まれんの…!?」 ついこの間マグマ団と勝負したエリナである。そのマグマ団と、恐らく敵対しているのであろうこのグループ。 二つのグループにエリナは狙われる存在になってしまっていた。 「ちょ、…私何かした?;」 こんな時に「あーあ、私っておっちょこちょいだなぁ、あははは…」なんて言うわけにもいかず、ただただエリナは隠れて話を聴いていた。 良い具合に日も落ち、だんだん街も暗闇に染まっていっている。これならどうやら見つからずに済みそうだ。 そう思った、瞬間。 がさ、と例のグループの後の草むらが揺れる。何だろうと観てみると、そこにはグラエナが居た。 エリナはその瞬間何か嫌な予感がしたが、とりあえずとばっちりを受けないよう離れる。 グループが見えなくなり、丁度声だけ聴こえる辺りまで来た時、また新たな声が聴こえた。 「…おや、アクア団様じゃあないか?」 様、とは付けているが、その呼び方からしてどうやら嫌味に近いようだ。 「おや、これはこれはマグマ団さんじゃないですか」 さっきのグループ―アクア団と言うらしい―も返す。こちらも半分以上嫌味といった所だろうか。 どうやらエリナの嫌な予感が当たったらしい。 「あれ…」 エリナは声も聴こえない所まで逃げてきていた。 しかし、もう少し逃げようと思っていたのだが、「マグマ団」側から聴こえた声がまた自分の知っている人物の声である事に気付いて立ち止まってしまっていた。 「…これ、トウカの森の時も聴いた声。…一体誰?」 しかし、今から元の場所へ戻る勇気も無い。 エリナはまた疑問符を抱えたまま、とりあえずポケモンセンターへの道を辿っていた。 |
涼風 千春 | #17☆2004.09/27(月)22:43 |
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エリナはいつもより早い時間に起き、出発する準備を始めていた。 「…マグマ団と、あのアクア団とかいう連中。あの辺りのやつらから出来るだけ離れなきゃ…何で狙われんのかは知らないけど」 ぶつぶつ言いながら、エリナは持っている旅に最低限必要なもの―ナイフやら、野宿用の寝袋やら、着替えやら、そういった類だ―をリュックに詰め込む。リュックは両手を自由に出来るので、ポケモンを何時でも出せるという安心感があって好きだ。 「…ふぅ、これで全部、かな。結構荷物増えたなぁ…また整理しなきゃ」 よいしょ、とリュックを背負う。途端、出発した当時からは考えられない重みが背中を襲う。 旅をする、といってもエリナは半分観光のようなもの。行く先々でお土産類を買ってしまうので、荷物は減る事が無い。お金はマサラに居る両親から貰っているし、それと引き換えに向こうで必要なものを買って送っているので特に困る事は無いのだが、こうしばらく整理なんかをしないとすぐ重くなる。 「…さぁ、出発よ。とりあえず、ここから離れよう。」 がさ、と草を踏み分ける。現在の時刻は7時前。昼とは比べ物にならないほどの涼しい風がふいている。 さぁ出発だ☆そう思った時、後から声が聴こえてきた。 「…ぉ-ぃ…おーい…っ」 段々声が大きくなる。時折ぜーはー聴こえるのは走っているからだろう。 「…き、君。この間は迷惑を掛けたね」 観る。と、その話しかけてきた人物はマグマ団の脅しにあい、機械を取り上げられていた人だった。 今の服装はその時とは少し違った。 「…あれ、デボンの…社員さん?」 スーツのような服。これは此処カナズミに本社を構えるデボンコーポレーションの社員のものである。 「ああ、はい。このあいだは重要な機械を届ける途中だったのですが…もう少しで本社という所で奪われてしまいまして。でも、その時のあなたの戦いっぷり。凄腕のトレーナーなんですね?」 べらべらとまくし立てられる。エリナは完璧に現実逃避をしながら「あぁ、これがマシンガントークと言うのね…」と頭の片隅で思っていた。 「で、何なんですか?御免なさい、急いでるんです」 長々と強いだの頼れるなどと言われ(本人はお世辞だと思っている)、早く出発したいのにと苛立っているエリナはそう冷たく言った。 しかしその社員は気にも留めず 「あぁ、それなんですが。1つお願いがあるのです。…ムロという町―島なんですがね。に、ダイゴという男が居ます。その人にこれを渡して欲しいのです。」 とすん、とエリナの手の上に何かが乗る。見ると、それは手紙とこの間の機械と全く同じ物だった。 「念のため、同じものを二つ用意したんです。…まさか本当に奪われるとは…。この機械は私もよく知らないのですが、何かの重要な部分なのだそうです。このホウエンで悪事を働く大きな二つのグループ…マグマ団とアクア団は、此れを狙っています」 マグマとアクア。マグマだんはもう既にこの機械を手に入れている。だとすると、アクア団も死に物狂いでこれを奪おうとするだろう。 「…この二つを、無事ダイゴさんの所まで届けて欲しいのです」 |
涼風 千春 | #18★2004.09/30(木)19:07 |
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ざあぁぁ…と、波の音がする。 現在PM1:30。もうそろそろ一日のうちで一番気温が高くなる時間である。 エリナは、海の近くの道に佇んでいた。 「…海…どうしよっかなぁ…」 はぁ、とため息をつく。エリナは海を渡れないのだろうか。答えはNOだ。しかし今まで出してきたポケモン達の中には「なみのり」を覚えた者は居ない。では、一体今までどうやってきたのか。 それは、エリナの言う所によると「切り札」らしい。といってもメインウェポンでは無い。当たり前だが、ボーマンダは波乗りする事が出来ない。 つまり、今まで出してきたボーマンダ、サーナイト、ザングース、アブソル、フシギバナ―の他にもう1匹、連れているポケモンが居るのである。 それはエリナが「出来るだけ出したくない」ポケモンであり、なおかつ「一番頼りにしている」ポケモンでもある。 今までそのポケモンをボールから出した事はほとんど無い。負けそうになってしまった時と、有利なタイプが無い時。そして、今言ったように「なみのり」したい時である。 「…まだ此処(ホウエン)に来てから出した事無いんだよなぁ…できればずっと出したくなかったんだけど。」 かちゃ、とボールを手に取り、観る。それは嫌いなポケモンへ向ける軽蔑の眼差しで無く、むしろ大切に育てた自分のポケモンにこそ向ける事の出来るような愛情のこもった眼差しであった。 ―嫌いだから出すのが嫌なのではない。むしろ、出さないのはポケモンのため。もしくは自己満足の部類に入るのだろうか。 ふぅ、ともう一度ため息をつくと、もう一度ボールをベルトに付ける。出すか出すまいかまだ悩んでいるようだ。 「何かきっかけがあればなぁ。…この子を使うような。そうすれば吹っ切れるのだけれど。」 その時だった。誰も居ない筈の道―エリナが居る方の丁度反対側だ―の草むらが揺れた。 またグラエナでも出て来るのか?と思ったが、どうやら違うらしい。揺れてしばらく経っても出てこず、こちらを伺っているように思われる。 「…ちょっと、誰ですか。こそこそしてないで出てきたらどうですか?何の用事か知らないけど」 エリナが普通の調子で話しかける。と、もう一度草むらが揺れ動いて、2・3人、あの「アクア団」の服装に身を包んだ者達が現れた。 「…やあ、初めまして。我々は貴女の知っての通り、アクア団と申す者です。―その機械、頂きに参りました」 す、と伸ばされた腕の直線状にあるのは、エリナ。それはつまり、「怪我したくなきゃとっとと機械渡せ」と言っているのである。 「誰がハイ分かりましたって渡すのよ。これは私が預かっている物。誰にも渡しません。」 エリナは自分の背負っている重いリュックを観、また視線を元に戻す。 「…そうか、じゃあしょうがないな。力ずくで奪うまでだ」 ちゃっ、と音がして三人がボールを手に持つ。明らかにエリナが不利な3対1である。 「あら、随分と卑怯な手を使うんですね。ならば、こちらもそれなりに応じさせていただきます。」 さっきと比べて大分冷たい声である。エリナが手に持ったのは、さっき悩んでいたあのボール。どうやらやっと決心がついたらしい。 エリナがボールを目線の高さまで上げ、目で「早く出さないのか」とアクア団に問いかける。 すると、アクア団達が焦ったようにボールを投げた。 しかし、ボールはエリナの横を通り、後の海まで飛んでいった。そしてそのまま落ち、水の中でボールが開く。どうやら水タイプのポケモンのようだ。 「…サメハダーと、キバニア!!」 出てきたポケモンは、キバニア1匹とサメハダー1匹。どちらも凶暴で、しかも「さめはだ」の特性のせいで直接攻撃だと余分にダメージを負ってしまう。 エリナは持っていたボールを同じように海へ投げ入れる。そして、現れたポケモンは― 「…いでよ、スターミー…!!」 |
涼風 千春 | #19☆2004.10/01(金)19:34 |
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「…何だ、スターミーか?それなりの対応って、全く普通じゃないか」 はは、と相手は鼻で笑う。しかしエリナはそんな奴らを見て、口だけでにやりと笑った。 「あら、そう思いますか?ならバトルしましょう。そうすれば早いでしょ?」 手をこれまた目線の高さまで上げ、サメハダーを指す。サメハダーを中心に左右にキバニアが居るので、必然的にその辺り一角へ攻撃する事になる。 「…サメハダー!たきのぼ…「スターミー、10まんボルト!」 敵が全てを言い終わる前に、エリナが指示を出す。サメハダーは攻撃態勢に入っており、「たきのぼり」するために一旦潜ろうとしている所だった。 スターミーの体から一瞬もの凄い光が溢れる。と、次の瞬間、海は電撃―といっても被害は最小限に抑えられている―によって電気風呂と化した。 「な、10まんボルト!?」 スターミーは10まんボルトを確かに覚える。しかし違うタイプの技を出すとは思っても居なかったらしい。戦闘不能となったポケモンを急いでボールに戻している。 「あら、これで終わりですか?…次は?」 エリナは腕を下ろし、敵とまた向かい合う。その目は他の物へ向ける目とは明らかに違い、真っ暗な目の色にも関わらず冷たい氷のようだ。そして、口。満面の笑みでなく、口元だけが笑っている状況。相当、怖い。 「…き、今日は一旦退散だ!だが!諦める事は無い!」 悪役お決まりの捨て台詞を残し去っていくアクア団。 後には、何かがあったらしい、という足跡のみが残った。 「ふぅ。…結局出しちゃったね、スターミー。」 自らの判断で海からあがり、こちらへとやって来たスターミーを撫でてやる。すると、中心のコアがふんわりと光った。 ラルトスは人の前向きな気持ちを読み取ってツノのような物を光らせる、と聴いた事があるが、このスターミーは自分の意思によってコアを光らせる。言葉が喋れない分、これでコミュニケーションをとるのだ。 「ふふ、もう諦めたよ。…強すぎる、っていうのもあるけどね。何か、スターミーが辛い目に遭わないと良いと思っていたのだけれど。…それで良いのなら、これからも沢山外の空気を吸わせてあげる」 最後にぽん、とスターミーを叩いてやると、もう一度コアをやわらかく光らせた後、また自らの意志でボールのボタンを押し、入る。 エリナはあまりスターミーに強制はしない―まぁ、全てのポケモンにも言えるが―事にしている。 エリナはスターミーをなるべく出さないようにしていた。それは、カントーのリーグで優勝した年に他のトレーナーとバトルをした時、スターミーのあまりの強さ…レベルの高さに逆切れし、石やら何やらを投げつけてきた者が居たからだ。それはあまりにも身勝手な行為で、エリナとスターミーに非は無い。しかし、その時負ったポケモンにつけられたのではないスターミーの傷が―まだ消えていないのだ。 かちっと音がして、ボールがベルトにつけられる。よし、海を渡るのは明日にして、今日は一日買い物でもしに行こう。そう思って一度大きく伸びをする。 さっきまで真直ぐ威嚇していた為か、背中がぼきっと嫌な音を立てた。エリナは今までのことを特に気にした様子も無く、この後何を買うか、何処で買うかを考え始める。只今の時間は2:00。今が一番暑い時だ。 |
涼風 千春 | #20☆2004.10/02(土)19:31 |
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カナズミ⇒ムロの海上。天候は生憎風が強く、波も高い。 エリナはそんな状況の中、スターミーに乗ってかっ飛ばしていた。 スターミーは波乗りというより、リニアモーターカーか何かのように海面を滑るような移動をする。普通の波乗りより格段に速いのだが、それでもまだ「かっ飛ばし」ているのは、この天気のためである。 ふと空を見上げると、今にも雨が降り出しそうな重い雲が立ち込めていた。 「…雨、着くまでに降らないといいけど…波も高いし、やっぱり昨日のうちに行っとけば良かったかなぁ…」 はぁ、とため息を1つ。きのうアクア団に邪魔されたおかげで今こうして移動しているわけで。あれさえ無ければ今頃ダイゴという人に会って、戻ってきているころだろう。 「…にしても、アクア団なんて聴いた事無い名前だよなぁ」 マグマ団は良く聴く名前である。しかし、そのグループと対のようにあるアクア団。この名前は、エリナは今まで一度も聴いた事が無かった。 「マグマ団みたく公に行動しているのでは無く、もしかして、水面下で頑張ってるような感じなのか…?」 うーん、と頭をひねるが、答えの無い質問は考えても「推測」しか出してはくれない。エリナはそんな事より、と頭を切り替えると、目の前に観えてきた島に焦点を合わせた。どうやら、降リ出す前に着けそうだ。 ムロに入った途端に雨が降り出した。スターミーをボールに戻し、とりあえずエリナはポケセンへと急ぐ。 ドアを開け、ポケモンを預けてから入り口側のイスに腰掛ける。窓を観ると、先ほどより強まったらしい雨がガラスに打ち付けられるのが観えた。 あぁ、ダイゴという人を探すのは明日になるかな、と思いながら立つ。どうやら回復が終わったらしい。 ボールを受け取り、念のため訊いてみる。 「…あの、ダイゴという人を探しているんですけど、何処に居られるか知っていますか?」 どうせ知らないだろう、という、言わば駄目元での質問だ。しかし返ってきた返事は意外な物で、「いしのどうくつ」という所に居るらしい、という事だった。 礼を言ってからポケセンを出る。雨はまだ降っているが、さっきよりは幾分マシになったようだ。 いしのどうくつは、西の方向へ歩いていると見つかった(その頃にはもうすでにずぶ濡れで、傘を忘れた自分を憎んだ)。 入ってみると、そこは数歩先が見えない程度の暗さで、しかもその先へ進むに連れてだんだんに暗さが増しているらしい。 下手に動くと恐らく危険、だろう。 エリナはこのためにサーナイトと引き換えに連れてきていたピカチュウを出した。このピカチュウは自分がカントーに居た頃捕まえたもので、かなり長い付き合いだ。一時は自分のパーティの中に入っていたときもあった。 「さぁ、ピカチュウ。フラッシュをお願いね」 こくん、と頷いたピカチュウは、頬袋を微かにぴりっと光らせると、尻尾からなのか頬袋からなのかは分からないが暖かな光を出した。それによって足元から数メートル先くらいまでは見えるようになり、躓きそうになりながらも、エリナは奥へと進んでいった。 |
涼風 千春 | #21★2004.10/05(火)20:30 |
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カツーン、カツーン、と、特に音が出るような―ハイヒールのような靴を履いているわけではないのだが、足音が何度も反響して不思議な感じだ。こけそうになった時に足を踏ん張る音や、物を落としてしまった音、ふと零してしまった独り言等、どんな小さな音もこの場所では大きく聞こえてしまう。 どれくらい歩いただろうか。そろそろ足が疲れてきたかなぁ、という時、前方から声らしいものが聴こえてきた。もう少し進むと影も観え、どうやら男の人だという事が見て取れた。 その人はどうくつの行き止まりで何かを探しているようであり、何かを見張っているようでもあった。もう少し近づく。すると向こうもこっちに気付いたらしく、少し驚いたような表情をしたあと、こちらへ歩いてきた。 「…驚いたな、こんな所に人が来るなんて。何か用事かい?」 にっこりと人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら話しかけてくる、人。髪は銀のようであり青いようであり―淡い、不思議な色だ。 「あーえっと、ダイゴさんっていう人を探しているんですけど、知ってますか?」 とりあえず聴いてみる。と、その人はさっきよりももっと驚いた顔をして、言った。 「ダイゴは僕の事だよ。何かあったのか?」 今度はエリナが驚く番だった。ダイゴさんという人に容姿も何もきいていなかったために、会うのには随分苦労するだろうなぁと考えていたのだ。 まぁ、良く考えてみれば「いしのどうくつ」に居るという事も分かり、しかも行き止まりに来るまでにこの人にしか会わなかったのだから当たり前のような気もするが。 「あ、…あの、デボンの社員の方から、これを渡して欲しいと…」 がさ、とリュックのポケットを探り、お目当てのものを見つけると取り、渡す。 それをダイゴは無言で受け取ると、手紙を読んではっと息を呑んだ。 「…機械が1つ奪われた?しかもマグマ団に…それはヤバいな」 じっと自分の持っている機械を見た後、エリナに向かって 「有難う、助かったよ。僕はこれからデボンの本社へ向かう。何か大変なようだからね―…君は知っているのかい?」 エリナがこくん、と頷くと、ダイゴは「あまり深追いはしない方が良いかもしれないね」と言い残して、少し焦ったように出口へ走っていった。 残されたエリナは、疲れたしぼちぼち帰ろう、と思いつつ一歩ずつちまちま進む。 「―深追いしないほうが良いかも、か。でもきっと無理なんだろうなぁ。…何故かトラブルに巻き込まれる体質だし」 ほら、今もそうだし、と深いため息を1つ吐いたエリナは、先の方に見えてきた明かりを見、あぁ雨が止んでいるようだと思った後に駆け出した。 何とか次の町へ進めそうだ。 |
涼風 千春 | #22☆2004.10/10(日)15:26 |
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ずさ、と、砂に足が沈む音がする。 ここはカイナシティの前の砂浜。ムロからさらになみのりをして来た。 まぁ海水浴シーズン真っ只中というわけでは無いが泳げるらしく、ちらほらとパラソルも見える。 海の家もやっているらしい。 喉が渇いていたエリナはその海の家でサイコソーダを7つ(ポケモン達の分+自分の)を買うとカイナシティへ向かう。 …サイコソーダは買うまでが大変だったが。 歩いていると、「ポケモンコンテスト ハイパーランク」の文字があった。 「…へぇ、この町にハイパーランクがあるのね。まだこっち(ホウエン)のコンテストパスが無いから出来ないけど…とりあえず、先にリーグかなぁ」 ぶつぶつと独り言を言いながら(旅をしているうちに多くなったと自分でも思う)、進む。と、そこには見慣れた赤い屋根があった。 ポケセンである。 ドアを開け、ポケモンを預ける。回復するまでの間、少し散歩をしに行く。 治安が良いというわけでは無く、まぁあんまり安心して歩けないというのがあるが、大丈夫だろう。 歩いていると、「造船所」という看板が目に入る。南側が海なのだし、そういった方面の技術が優れていても驚くことでは無い。しかし、何事も「思いつき」で行動するエリナである。 興味を持ったのか、ふらふらとその「造船所」へ向かった。 「こんにちはー。船を作っているんですか?」 「あぁ、そうだよ」 側に居た、気の良さそうな男の人に話しかける。話によると、ここカイナシティでは船のほかに潜水艇も造っているらしい。「海底洞窟」か何か知らんが、研究のためのようだ。 「…なんだけど、クスノキ館長が、まだ潜水艇の部品が届かないんだって言ってたんだ。君、知らないかな?…知ってるわけが無いか」 はは、とその人は笑って、まぁそういう事さと言った。しかしエリナは途中から話の殆どを聞き流していて、全然別な事を考えていた。 「…あの、その【クスノキ館長】って人、何処に居られるんですか?」 「クスノキ館長なら、そこの海の科学博物館に居るんじゃないかな。」 その人はいきなりの質問に多少驚いたらしいが、こんな返事をくれた。 ありがとう、と小さくお礼を言うと、走る。 とりあえずクスノキ館長に会わなければならないのだ。 実は、エリナはあの「デボンの社員」の人に、もう1つ荷物を預かっていた。それはクスノキ館長と呼ばれている人物宛の物で、恐らく潜水艇の部品―大きさからしてエンジンの一部、もしかしたらそれ以上に大切な部品かもしれない。 「1つ奪われた」という事は、マグマ団はその潜水艇を狙っている事になる訳で。 一刻も早くエリナはその「海の科学博物館」へ向かう必要があった。 勿論、ポケセンでポケモンを受け取り、さらに走るスピードを上げる。目指す博物館は目と鼻の先だ。 |
涼風 千春 | #23☆2004.10/14(木)14:39 |
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だんっ、と最後に一度大きく踏み切ってから勢いをつけドアを開ける。 すると、普段は受付の人が居るであろう場所には誰も居なく、代わりにあちこちに例の「赤い服」を着ているマグマ団が居た。 「…あぁ、誰だ、お前。」 入り口付近に居た人物―こいつは絶対に下っ端だと直感で分かった―に見つかり、声を掛けられる。と、その声で気付いた奴らがわらわらと寄って来、入り口から数歩進んだところで囲まれてしまった。 「あちゃ、ちょい遅かったかなぁ」 あーあ、とエリナは肩を落とす。こんな大勢で囲んでも物怖じしないのが気に障ったのか、マグマ団の下っ端を統率しているのであろう下っ端(言いにくい、早口言葉にならないだろうか)らしい人物が進み出てきた。 「…おい、何故此処へ来た?何か用か?」 口調は精一杯優しくしているつもりなのだろう。しかし、顔は常にエリナを睨んでいる。 「…クスノキ館長が無事かを確かめに来ました。あなた方、何か狙っておられるんでしょう?」 エリナは特に何も隠さず、こう言う。すると一気に周りがざわめいた。 「そうか、…そこまで知っているのか。ならば始末するしか無いようだな?」 そのざわめきを手で制すと、その統率している人物―さっき密かに聴こえたが、皆にはB隊長と言われているらしい。B班か何かなのだろうか―が言った。その途端周りに居た部下達はエリナを囲む円を広げる。どうやらバトルをするつもりらしい。 「…残念だったな。この俺はマグマ団の中でもバトルはトップクラスなんだ。ここでおしまい、だ」 ぶん!と、相手は唐突にボールを投げてきた。出てきたのはキュウコン。 「…!!キュウコン!」 戦うには水が望ましいが、辺りに水は見当たらない。おかげに、周りには高そうな機械やら何やらが並んでいるために水技も使えない。 エリナは暫く悩んだ挙句、せいっという掛け声と共にボールを投げた。 「…さぁ、出ておいでアブソル!」 こん、とボールが床に当たると、まばゆい光と共に中からアブソルが現れた。どうやら水ポケを使うのは諦めたらしい。 「キュウコン、おにびだ!」 ぐおぉ、と一声鳴くと、キュウコンは尻尾を広げた。するとその尻尾の一本一本の先に、青白い不気味に揺れる炎が灯っている。 当たれば火傷をしてしまうおにび。何とかして止めるか、防ぐか、避けるかしなくてはならない。 しかし、周りは機械にかこまれている上に他のマグマ団も居る。今のところ手出しはしないつもりだろうが、不利になればポケモンを出してくるだろう。 「…っくそ、どうにかして…避けないと」 |
涼風 千春 | #24★2004.10/19(火)22:43 |
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「…とは言うものの、うーん、おにびっつったら機械もやばいんじゃね?」 エリナの恒例独り言である。おにびは、まぁアブソルが一撃当たったとしても、残りの8発は必然的に周りの機械へ向かう事になる。 そうなると、水技を使わずとも影響は出る事になるだろうし、良く考えてみれば、別に電気技でも草系でも何かしら攻撃が当たれば機械は直ぐ壊れるのである。 助けに来た、とは言ってもただ自分の意思で来たのであって、助けを求められたのではない。 もし戦いで機械を壊して文句を言われても、言い返せないと言えば言い返せないだろう。 つまりエリナはこの場に居る以上、「機械を守り」つつ「相手を倒す」事を考えなくてはならないのである。 「…んな無茶な…どうやっておにびを攻略すんのよ…;」 しかしそこまでぶつぶつと言った時、ふとエリナが顔を上げた。キュウコンは今まさにおにびを放とうとしていて、少し前足の方に重心を置き、尻尾をこちらへ向けている所であった。 エリナはそのキュウコンを観、自分のアブソルを観、周りの機械とその辺りに居るマグマ団(下っ端)、そして指示を出しているマグマ団(B隊長)も観た後に、自分のベルトに手をかけた。 そして、いきなり 「アブソル!かみつく!!」 とアブソルに指示を出す。いきなりであったためにキュウコンはおにびを放つタイミングが遅れ、アブソルはそれを予感していたためにおにびを軽くかわす事が出来た。 勿論、かわした後のおにびは機械へ向かっていく。マグマ団も居たが、当たりたくないからかは知らないが(恐らくそうなのだろう)、次々と避けていく。 攻撃の目標を失った炎は真直ぐにしか飛びはしないし、かわすのも楽だ。 そして、もう少しで当たってしまうのではないかというときに、突然炎が水鉄砲のような物で消された。 その水は最小限で、機械よりもギリギリ離れている所なので機械に影響は無かった。そしてその技を放ったポケモンは、その「機械」の近くで待機していたエリナのスターミーであった。 「…何時の間に、別のポケモンを!?」 B隊長は焦って叫ぶ。キュウコンは技を外した衝撃か、ただただイラついているだけなのか、目が赤く光っている。 「あら、気が付かなかったの?アブソルにかみつくの指示を出した時。貴方はアブソルの攻撃に気を取られていたのかもしれないけれど、あの時よ」 つまり、あのベルトに手をかける―というのは、スターミーのボールを取り、指示を出した後機械の方へ投げるための準備だったのである。 これで機械の心配は無くなった。と、思ったその時。 「…ほぅ、なら俺も同じようにポケモンをもう1匹出さなくてはな?」 す、と上げた手の中には白い、あのボールを10個買ったらついてくるオマケボール―何故か使いたくないような気がするあれだ―があった。そして、それを放る。 中から出てきたのは、色違いの、茶色がかったグラエナであった。 |
涼風 千春 | #25★2004.10/27(水)18:58 |
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「…ッ、い、色違い!?」 今まで野生では何度か目にしたことがあったが、トレーナーが出してきたのは初めてで、エリナは驚く。 その上どうやら大切に育てられているようで、レベルは見るからに高そうだ。 グラエナはアブソルにじりじりと近寄りながら、睨みつける。 グラエナの特性はいかくだ―アブソルも負けじと睨み返すが、流石に特性には勝てないらしい。 ジャンプして1歩下がるとスターミーの横に並んだ。 キュウコンとグラエナ。タイプの異なるこの2匹を相手に、しかも1匹は相性不利という状況で戦わなくてはならない。 おまけに、相手は問答無用で飛び系の技を使ってくる。 「…おや、色違いを持っているとは思わなかったようだね。珍しい上に強いんだ、このグラエナは。さあ行け!」 ざ、と1歩足を踏み出してスターミーとアブソルを指差す、B隊長。 それに従ってグラエナとキュウコンが一度に飛び掛ってくる。 「…ッ、向かい打て!スターミー、キュウコンにサイコキネシス!アブソル、グラエナにきりさく!」 いきなりの事に驚きつつもエリナも命令を下す。 エリナはダブルバトルというホウエン独自のバトル形式に慣れているわけでは無かったが、1対3等のバトルの経験はあるので戸惑う事は無かった。 駆けてくるキュウコンをサイコキネシスで作った壁ではじき返したスターミーは、直後に10まんボルトを放つ。いきなり現れた壁に激突した挙句電撃を浴びたキュウコンは、なかなかの大ダメージを受けたようだ。 その隣でグラエナと対峙していたアブソルはグラエナの攻撃をかわし、横から攻撃しようと狙う。しかしそれに気付いたグラエナも半回転して跳び、体勢を立て直す。 一旦2匹とも引かせ、距離を開ける。なかなか手ごわいと思ったのはエリナだけでは無いらしく、B隊長のほうも同じ判断をとったようだ。 「…へぇ、やるじゃないか。おまえのスターミー、レベルも相当高いようだしな」 下から睨むような格好で話すB隊長。スターミーのレベルを見極めたという事は、結構トレーナー暦が長いのだろう。 「…貴方こそ。そのグラエナ、色違いだから強いっていう訳でも無さそうだし。」 ちっ、と舌打ちする音が聞こえる。エリナはあのグラエナがおかしいのではないかという疑問を持っていたのだが、相手が舌打ちしたという事は当たりなのだろう。 マグマ団という事は、この間戦った人と同じく変な薬を使っている可能性もある。他にもなにかあるかもしれない。 再び襲い掛かろうとしているグラエナとキュウコンを目の前にして、エリナは首を突っ込むのではなかったと心底後悔した。 |
涼風 千春 | #26★2004.10/28(木)20:35 |
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「決めるぞ、キュウコン!グラエナ!【だいもんじ】【はかいこうせん】!!」 エリナは一瞬耳を疑った。こんな狭い部屋の中でそんな大技を一気に二つも放てば、全壊するに決まっている。 だがB隊長は本気のようで、キュウコンとグラエナも戦闘態勢に入っている。 キュウコンは九つの尻尾の先を1つにまとめて大きな炎を。グラエナは口を開けて眩いばかりのエネルギーを。それぞれ見た目は違うが、同じくらいの破壊力を持つ技を溜めているのである。 大技は使う前の準備と、使った後の反動があるものが多い。しかし、はかいこうせんは反動があるものの、だいもんじは続けて何発かは打てるという厄介な物である。 こうなれば、同じだけ、もしくはそれ以上のパワーをぶつけて弾けさせる―もしくは、技事自体を止めてしまう、という事しか解決策は無い。 しかし、技同士をぶつけさせる場合、それもそれで大きな力が起こるため、避けるのと大して変わらない被害が予想される。 つまり、技をいつ放つか分からない状況で相手の懐に飛び込み、倒さなくてはならないのである。 それを悟ったエリナはスターミーをそのままにしてアブソルを戻すと、新たにポケモンを繰り出した。 …ボーマンダ、である。 どうやら接近戦では近づく時に打たれると判断し、遠くからの攻撃に切り替える事にしたらしい。 「スターミー!キュウコンにサイコキネシス!ボーマンダ、グラエナにかえんほうしゃ!」 まさにだいもんじとはかいこうせんが発射される、という時。ギリギリ直前に放たれたサイコキネシスとかえんほうしゃが敵に届き、厖大なエネルギーをその場に残したまま2匹は吹き飛んだ。 後の何も無い壁に2匹は叩きつけられ、意識を失う。それをB隊長はボールに戻したが、その顔は笑みを浮かべていた。 「…?」 倒した筈なのに、と、エリナは疑問を抱く。それが顔にも表れていたらしい。ハッハッハ、とB隊長は笑うと、さっき2匹の残したエネルギーの大きな塊を指差しながら言った。 「何故倒した筈なのに喜んでいるか、か?それはな、このエネルギーさ!これで任務は終了だ。どうやら上で部下が館長を捕らえたようだ。もうここに用は無い。…爆破する!」 |
涼風 千春 | #27☆2004.11/03(水)12:40 |
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ダンダン、と、乱暴に階段を下りてくる音が聞こえてくる。 B隊長の向こうにある階段を見ると、マグマ団の男が館長らしい男の白衣を掴んで降りてきている所だった。 「よぉ、B隊長。命令の男、連れてきましたぜ」 口調は、恐らく上官だと思われる相手に向かって言う口調には聴こえない。 だがB隊長は気にせずに皆に撤退を命じると、エリナと対峙した。 広い博物館の中に、エリナとB隊長は二人(+ポケモン達)で居た。 「さぁ、早く攻撃でも何でもするがいい。まぁ、その間にしたっぱが館長を連れて行くだろうがな。追っていけば此処を爆破するまで」 B隊長はもう1つボールを取り出すと、投げる。中からはマグマッグが現れた。 「こいつがスイッチだ。…こいつがかえんほうしゃをすれば、この博物館はさようなら。」 に、と笑ってB隊長はマグマッグを指し示す。マグマッグはというと、得意そうに、こちらも笑みを浮かべていた。 エリナはじりじりと後退する。一旦ポケモンは全てボールに入れる。 とん、とエリナの背が壁に当たった。 「…あなたに命令されたのは館長誘拐と此処の爆破のみ?」 エリナが問う。その口調は何時もと変わらない、あの冷たい響きを持っていた。 「さぁ、どうだろうなぁ。…もうそろそろ良いか?」 B隊長はどうやらマグマッグに指令を出し、逃げるつもりらしい。 入り口の方向に体を向けようとした時、エリナが声を上げた。 「スターミー、マグマッグにサイコキネシス!」 キィーン、という嫌な音がして、マグマッグは念波によって吹き飛ばされる。 その隙にエリナはアブソルをボールから出すと、何かを伝え、入り口を指した。 「さぁ、追うのよ!」 だっ、とアブソルは入り口へ向かう。 そうはさせるか、とB隊長はさらにグラエナを出して阻もうとしたが、それはエリナが出したフシギバナによって防がれた。 アブソルはしたっぱ達を追うために外へ飛び出す。 フシギバナはグラエナと対峙する。 スターミーはスイッチであるマグマッグを、今この部屋の中心にあるエネルギーがすべて放出されるまでの時間稼ぎをする。 これがエリナの考えた作戦だった。 「どう、私の読みは当たっているかしら。このエネルギー、いつまでも此処にあるとは考えられない。いつかは消える―少しずつ、エネルギーを放出してね。」 「…ッ」 B隊長はやばいと判断したのか、早く爆破させようとマグマッグに指示を出す。 しかしそれはスターミーによって弾かれ、だんだんと、エネルギーは色を失っていった。 ドッ、と入り口の方で音がする。見ると、フシギバナがグラエナを倒した所だった。 B隊長はグラエナをボールに戻すと、エリナを睨む。 その時、もうすでにマグマッグは戦闘不能になっていた。 「さぁ、もう終わり?今頃、私のアブソルがしたっぱ達に追いついてる頃ですよ」 「…ちっ!皆、戻れ!」 外に出ていたポケモン全てをB隊長は戻すと、窓へと駆け寄る。そして、その窓から逃げて行った。 「あーあ、…したっぱ達と正反対の方向に逃げて合流できるのかしら」 あの人阿保?とエリナは思いながら、回りを見渡す。 どうやらエネルギーは消えてなくなったようで、まわりの機械や展示物に被害は無いようだ。 エリナもポケモンを戻し、入り口へと進む。 さぁ、館長を助けなければ。 |
涼風 千春 | #28☆2004.11/10(水)13:43 |
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入り口を出てしばらくすると、マグマ団らしき集団と自分のアブソルを見つけた。以外に近い所だったので助かった、とエリナは思った(バトルで疲れてたんですきっと) 「はーぁ。色々ごちゃごちゃしてて訳分からんかったけど一応お終いですか?」 エリナはほっとしつつ館長をマグマ団から助ける。マグマ団は戦う気力をもう持ち合わせていないらしく、これまたB隊長とは逆の方向へ、しかも散り散りに去っていった。 「…本気で馬鹿?;」 さて、あの人達はどうやって合流する気なのだろうか。知っているのはマグマ団と、そして居るのならば神のみ…だ。 エリナはとりあえず館長に機械を渡す事にした。両手で持つと丁度か少し大きいくらいのその機械は見た目のわりに随分と重たく、エリナは運ぶのに(inリュック)相当疲れていたので、これまた「ほっと」した。 館長はお礼を言い、そのあと、重い機械と奮闘しつつ家へ帰って行った。 …そして、エリナは。 「ああ!潜水艇が危ないって事言うの忘れた…!!」 終わった物はしょうがない。諦めろ。 そんな声が何処からか聴こえてきそうだった。 「ああ!どうしようループ!今から追いかけたら…間に合うわけ無いか。家…も知らないし!わーどうしよう…!!」 エリナは重大な事に気付き、慌てだす。それを横で呆れながら見ていたループは何かに気付き、エリナの服の裾を引っ張る。 服が引っ張られているのに気付いたエリナは、ループの向いている方向を見る。するとそこには、「アクア団」と思われる人物が立っていた。 「…っ、何か用?」 驚きつつ、エリナは言う。しかしアクア団は何も言わずにエリナをじっと見て、言った。 「おまえアクア団に入らないか?」 「!?」 いきなりの勧誘。それも、マグマ団と対立しているというアクア団に。 「…何、いきなり。それって新手の戦法か何か?」 エリナは流石に本気では無いだろうと思い、言い返す。しかし、アクア団は本気だったらしい。 「いや、本気だ。…マグマ団にはやり手のトレーナーが一人居る。そいつに対抗できる人材がこっちには無いんだよ」 マグマ団の中で、やり手のトレーナー。さっきの人かなとも思ったが、「一人」というあたり相当強いのだろう。 そして、私の実力と比べて対抗できるだろうと言っているあたり、どうやらエリナが戦った事のある相手のようである。 「ちょ、…そのやり手のトレーナーって誰よ。」 教えてくれるかは分からないが、訊いておきたかった。アクア団には入らないだろう。そうすると、本格的に二つのチームから狙われる事になってくる。 そうなった時のためにも、少しでも情報を。そう考えていた。 アクア団は思ったより口が軽いらしい(多分そうだ)。 「…教えて欲しいか?マグマ団のエースはな、…ジャズって奴だ」 |
涼風 千春 | #29★2004.12/05(日)14:13 |
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「…ッそんな、馬鹿な!」 ジャズ。少し前に戦った、「ライバル」の…ジャズ? 「ちょっと待って。それって、黒眼で黒髪の女の子だったりする訳?」 エリナは一旦冷静になろうと質問する。 ジャズ、と言われて思いつく人なんて一人しか居ない。 もしその「ジャズ」だと言うのなら、今までに何度かあった「聞いたことのある声」… それは、マグマ団に情報提供していたジャズだったのではないだろうか。 そこまで考えたところで、アクア団が質問に答えた。 「あぁ。丁度お前と同じくらいで、黒眼、黒髪。そして女、だ。どうだ、心当たりあるだろう?」 最近無くなって忘れていたが、あれは、確かにジャズの声だった。 「こんにちは。私はジャズ。一度お手合わせ願えますか?」 「―…エリナというトレーナーは注意する必要があるだろう、それに―…」 「…おや、アクア団様じゃあないか?」 …そうだ。あの時も。あの時も。 全て、ジャズの声だったんだ。 エリナは全て思い出した。あの時自己紹介したジャズの声も、森の中で聞いた仲間に教える声も、アクア団相手に喋っていた声も。 「…そんな。何でジャズが?」 一回しか会った事が無いとはいえ、ポケモントレーナーにとってバトルは挨拶といっても良いほどのものである。大抵はそれでその人の性格や癖を知るし、外れる事も少ない。 最後にあんな別れ方をしたのもあって、エリナは「ジャズは良い奴」だ、と判断していたのだ。 「さぁな。ただ、お前と戦った時はすでにマグマ団に所属してたのは確かだぜ」 そこでエリナは気付いた。もしかしたらジャズは私がどれくらいの実力を持っているのかを「はかりに来た」のかもしれない、と。 だとしたら、エリナはマグマ団に何割か手の内を明かしてしまった事になる。 「…ッ、そんな…騙された、って事…?」 |
涼風 千春 | #30☆2005.03/07(月)22:31 |
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「さぁ 騙されたって言い方は良く無いんじゃないか?そいつは自分が何にも属さないとか言って無いんだろう…まぁショックを受けるのは分かるがな。そろそろあっちも攻撃してくる筈だ。もう一度言う。面倒を起こしたくなければ…アクア団に入れ」 混乱するエリナに向かって、追い討ちをかけるようにアクア団員は言う。 勿論エリナは何を言われているかなんて理解出来ず、ただただ「裏切られた」…そう感じていた。 しばらく―と言っても数秒だが―経ち、エリナもやっと状況が飲み込めてきた。 自分と戦ったジャズという女はマグマ団員であり、そいつは自分の戦法やポケモンの一部を知っていること。 マグマ団にしてみてもアクア団にしてみてもエリナのような人物は危険とされており、マグマ団は今にも攻撃を開始しそうだという事。 そして、―マグマ団に一人で対抗したとして、勝てる確率は低い事。 「…それって脅し?私が簡単にアクア団に入るとでも?」 エリナは戦闘体勢に入った。今は結論を出す事が出来ない。でも、今ここに居る事がマグマ団に知れれば襲撃は早まるだろうし、ましてやアクア団に入ることなど考えられない。 ―とりあえず、今は一旦引かなきゃ エリナはそう思い振り切ることにしたのだ。しかし、そう簡単に行く筈も無かった。 「おやおや反抗的だな。…もしこちら側に付く意志が無いと判断すれば仲間が一斉に攻撃するぞ?」 どうやら周りにもアクア団が潜んでいるらしい。 エリナはチッと小さく舌打ちすると、ボールを掲げていた手を下ろし、こう言った。 「…少し時間を下さい。考えたい事があります」 簡単に要求を聞き入れてくれるとは思わない。でも、何としても此処で答えを言う事だけは避けなければ―ここは街の中だ、人通りは少ないが、厄介な事になりかねない。 向こうはしばらく考えた後、しょうがない、という風にこう言った。 「じゃあ期限はあさってだ。あさっての午後8時、この街にある湖に唯一立っている街灯の下―分かったな」 逃げるとかそんな事は考えるなよ、いい返事を期待してる、とそいつは言い残し、歩いていった。それと同時に周りの圧迫感のような物も消え、「ああ本当に居たのか」とエリナは何故か冷静に感じた。 さて、あさっての答えをどうするか―難題な上時間もない。 エリナはボーマンダに乗ってポケモンセンターへと急いだ。 潜水艇の事など とうに頭の中から消えていた。 |
涼風 千春 | #31☆2005.03/11(金)19:01 |
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エリナは一旦ポケモンセンターに戻り、パソコンを立ち上げてリビスに連絡を取っていた。 「…アレ、エリナじゃん。久しぶり。どうしたの?」 ロード中と出ていた画面がぱっと変わり、リビスが画面に出る。 「…久しぶり。ちょっと相談があって」 少し声を潜め、何時もと何処か違う雰囲気のエリナを観、リビスは首をかしげた。 そんなリビスを今度はエリナが観、また視線を画面の下へ戻し、暫く悩んだ後こう言った。 「…ちょっとややこしい事になっちゃって。話す前に、大分前に言った『わざマシン50』の事、何か分かった?」 「ああ、あれね…やっぱりポケモンの技なんかじゃない。それとね、実はわざマシン〜ていう技は他にも報告されてるの。すばやさが300を越えるレベル8のオニスズメが覚えてたというわざマシン40、とかね」 他にもラルトスのようなポケモンは居る。それはつまり突然変異等で無く、意図的に作られたという証拠になる。 より一層深刻な顔になったエリナを観て慌てたのか、リビスは話題を変えた。 「そっそれよりさ!エリナは何のために電話して来たのか聴かせてよ」 リビスは気を使ったつもりらしいが、エリナにとっては逆効果である。 しかしエリナはその暗い顔を無理して笑顔にし、軽くこう言った。 「…ううん、やっぱ良いや。大して重要な事じゃないし…ちょっと連絡入れとこうかな、と思って」 えへへ、と明らかに何処かおかしいエリナを観てリビスは小さくため息をつくと、 「無理しないで」 と一言声をかけ、接続を切った。 |
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