龍ノ丞 | #1★2005.09/06(火)17:08 |
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一話 へりくつ -ジリリリリリ- …静かな朝、小さな家の一室で、五月蝿く時計の音が鳴り響く 数十秒ほど時計は鳴り続けたが、叩き潰すような音がひびき,時計は静かになった。 「はぁ…」 窓に目をやり、外を眺める。 雲一つない空が広がる朝のワカバ。 道理で昨晩、冷えたと思ったわけだ。 窓からまだ人の少ない町を見渡してみると、人間と…いろいろな生き物…「ポケットモンスター」が居るのが見えた。 友人のテツが、昨日「ポケモンマスター」になりたいのだ、と、ワカバを発った。 …最近、町では、旅に出る人が増えてきている。 「…ふん、ポケモンなんざ…」 もともと嫌いなのと、友人が行ってしまったことで取り残されたような気がしたのもあって、ポケモンのことを考えるとイライラした。 -わけのわからないピンクの球体。 頭に巻き毛のようなものがある。付け毛みたいだ。 背中に草をはやした原始動物のような緑の生物。 なんか粉でてるぞ。 ネズミのような紫の生き物。 出っ歯だ。家にいると大変そうだ。いろいろと。 ポケモンなんてくだらない。 何が「パートナー」だ。アホらしい。- 「りゅう、まだ寝てんの?」 階下から母親の声が聞こえた。 「うるせっ、まだ九時じゃん。もうちょい寝る。」 りゅうは怒鳴るようにそう言うと、布団をかぶり直した。 「何言ってんのバカッ。今日はそうはいかないのよ。貴方には行ってもらわなきゃいけない所があんのよ!だいたい九時は普通おきる時間よ!」 -行ってもらう所…?- りゅうは不安にかられた。 「旅とか言うんじゃねぇだろうな!」 布団のなかから、母親に聞こえるようにそう怒鳴る。 「違うわよっ!旅なんかどうせあんたは行けないでしょうが! 泣いてかえってくるのがオチよ。 もう、いいから早くおりてらっしゃい!」 母親は怒りをあらわにしはじめている。 りゅうは少し母親に虞れ(おそれ)ながら、眠そうに一階へと向かった。 同時に、少し安堵の気持ちもあった。 ダイニングのドアをあけると、其処には母親と年子兄貴のナオがいる。ナオは、なにやらよそ行き用の服に、馬鹿デカイバッグをもっていた。 「で、何。」 突慳貪にりゅうは母親に訪ねた。 母親…理子(リコ)はりゅうのその言葉を聞くと、一つため息をついてから、どこからかいきなり大きなバッグと、二つのモンスターボールをりゅうに押し付けた。 りゅうはポケモン嫌いだ。 押し付けられたモンスターボールに過敏に反応した。 「うわっ!なんでモンスターボールが!旅じゃねぇっつったじゃん!」 りゅうは一歩後ろに飛び退き、理子に向かって言った。 「えぇ、旅じゃないわよ…」 理子は、其処迄言って中断し、ナオをちらっと見てからため息をつき、続けた。 「旅じゃないわ。旅をするのはナオよ。でもね…ナオが、貴方も一緒に来いって聞かないわけよ。」 理子はそう言って、ナオに「そうよね?」と聞いた。 りゅうは愕然とした。「旅じゃんッ!」 「いや、微妙に違うわ 貴方はいわばお付きみたいなものよ」 一人で言って一人で納得している理子。理子はいつもこういう様にりゅうを動かす。 お手伝いはさせないわ、だけど親孝行くらいできるでしょ、だなんて言って手伝いをさせたり、 勉強はしなくていいけど計算してね、と言って数学をやらせたり。 と言っても、それはすべてりゅうが素直でない為なんとか言うことを聞かせようとした理子なりの方法、なのだけれど。 「なっ。」 「だってりゅうさぁ、ポケモンへの反応おかしーんだもん。」 ナオはケタケタ笑っている。 「はぁっ!?マジで行かなきゃならないの!?」 りゅうは、理子にそういって、ナオをキッと睨んだ。 理子はまたため息をついてからなだめるように言う。 「じゃ、貴方は何時迄も此の家にいるつもり? そんなにこの家が好きなの?」 「家じゃなくて母さんが好きなんだろ? りゅうはマザコン」 ナオがまたケタケタと笑いながら茶々をいれた。 「黙れっ!」 りゅうが近くにあった「ポケモン図鑑」(736ページケース付き)を両手で投げた。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 「…あーもーめんどくさ、行くよ、行くから。そのかわりポケモンいらないし。」 「ポケモンいらないの?あ、そう…まぁでも、一応持っておいて。」 「一応ね。」 理子の「お願い」に軽く答えて、りゅうはバッグの一番使わさなさそうなポケットの一番奥に、モンスタボールを押し込んだ。 こんな扱いをされてしまった不幸なポケモンがなにかは、まだわからない。 「ポケモン可愛いし、かっこいいのにねぇ。」 りゅうのその行動を見た理子はそうつぶやいて、ナオと共にため息をついた。 こうして、りゅうにとってあまりにも突然な旅がはじまった。 周りがなんと言おうと旅には違いなく…。 |
龍ノ丞 | #2★2005.04/20(水)16:57 |
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2話 「名前」 「ていうかさ…旅じゃん、これ…。何が「旅じゃない」だよ…。お袋…」 りゅうは、ぶつぶつ言いつつ、29番道路…ヨシノシティへの道を歩いていた。 そよそよとのんびり吹いている風は気持ち良くて じゃり、じゃりと足下から聞こえる砂の音も小気味良い。 ただし、己の状況やこれからのことを考えなければではあるけれど。 りゅうの少し後ろを歩いていたナオは、理子から貰ったポケモン、ポッポ♀を肩にのせてから、りゅうの独り言に口をはさむ。 「だましたんじゃないって。只単に乗せられただけじゃん。そこはやっぱ流石お母さんだ」 「…。」 りゅうは、ナオの言葉に少しムッとしながらも、反論ができず黙った。というよりは反論を考えるのが面倒だった。 ナオはニコニコしてその様子を眺めている。 そして、ポッポを方から指へとうつらせ 「名前なににしようかな?ねぇ、りゅう。 こいつ♀だから…「ナナ」にしようか。 お前は、ナナって名前でも良いかい?」 りゅうに相槌をもとめつつ、ナオは優しい声で、ポッポ…ナナに語りかける。 このポッポは、静かにコクリとうなずいただけで鳴いたりしなかったが。 ふと、ナオが思い出したように言った。 「そういえば、もらった奴、何のポケモンだろうねぇ」 ななはナオの声にちょっと驚いて飛び上がる。 ナオがそう言う迄、バッグの奥深くにつっこんだMBをすっかり忘れていたりゅうは、思い出したように 「あー…ポケモンね。…はぁ。」 と、ため息まじりに答えた。 「ちょっと見てみようよ」 「嫌。っていうかもうてめぇの出してるじゃん…。」 「…なんでりゅうはそんなにポケモン嫌いなんだ?そこまで毛嫌いしなくてもさぁ。」 ナオはナナを愛でつつりゅうに言う。 「うっさいなー。しらねーよンな事。」 りゅうはかったるそうに答えた。 傍ら、ナオとナナの幸せそうな雰囲気を少しだけ…「いいな」と思っていた。 「それ」がポケモンではなくネコやイヌなら、りゅうはある程度可愛がっていたかもしれない。 「…えー。オレ見てえなー。りゅうの…えぇっと、MB。それに、一応「自分が親」ってだけは認識させたほうがいいよ。その…MBの中のイキモノに。」 ポケモンという言葉に敏感なりゅうに気を使ったのか 皮肉なのか わからぬ口調で、ナオは言う。 「…うっさいな〜いいじゃんべつに。ポケモンいなくったって…死にゃしないでしょ…」 「戦闘になったら?」 「…。」 「ほら。やっぱ必要だろ?」 「…。いや必要ない!…兄貴が戦えばいいじゃん。」 どっちが年上なのかわからない態度。 ここまで偉そうな「弟」に、「つきあってやってる」ナオ。 とはいってもナオも少しイラついてきたようで、無言でりゅうの鞄をひったくった。 「あってめぇ!」 ナオは取りかえそうとつかみかかってきたりゅうをひらりと躱す。 そしてひったくった鞄のチャックをあけて逆さにふった。 バッグの中のものが一気に地面に落ちた。 ふでばこ、ポケギア、財布、おいしいみず、きずぐすり。 そして…赤色の、MB。 「おぉ、流石お母さんだ、何も言わなくてももうポケギアもきずぐすりも入ってるよ。準備万端だねぇ。」 ナオは、ケタケタと笑いながら転がるMBを拾う。 ところがナオはMBを手にし、何か異変を感じたようで、中からポケモンを出そうとしない。 ナオが2、3回MBを振った。 「…ン?」 りゅうは、急に真剣な顔になったナオに気づく。 「あ、兄貴。なんか…あったのか?」 「…いや…これ…。中に…ポケモン入ってない…。」 ナオは、りゅうの方を向いて苦笑した。 「…え?…」 ポケモンに期待してるわけでないりゅうもこれには少し驚いたが、 しかし、ポケモンが入ってないというのはりゅうにとってはとても好都合だ。 「きっと母さんはオレがポケモン嫌いだってことを考慮してくれたんだなっ」 りゅうは滅多にないほどの笑顔で言った。 「ははは…」 ナオはチョットガッカリしたように苦笑している。 りゅうは構わず、にこにこと落ちたものを鞄に詰め直した。 モンスターボールはちゃんと鞄の【奥の奥】に押し込んで。 鞄にすべて詰め終わった時、ナオが後ずさった。 ナオはりゅうの方を向いて引き攣って(ひきつって)いる。 「? どうしたんだよ。」 「…。ごめん、りゅう。オレ「そーいう」系、苦手…。」 「え?」 ナオはそう言うと、ナナを抱いて全力で、ヨシノの方へ疾走していった。 「…え、ちょっとまてよ」 ナオを追おうとりゅうも走ろうとしたその時、 妙に周りが暗くなってきたことに気づいた。 しかも、それは煙かガスの様だ。 「どこから出て来たんだ?」 脚をとめ辺りを見回す。 黒い塊が浮いて居ること以外には妙なものはない。 勿論そんな煙がでてくるような機械などというものもなく。 「…あれか?」 りゅうは少し嫌な気がしつつも、黒い塊に近付き、指でそれを軽く突いた。 「キャァ!」 「うわぁ!」 黒い塊が甲高い叫び声をあげ、りゅうはその声に驚き、飛び退いた。 ぐるん、と塊は向きを変え、顔を見せた。 「…ポケモン…!?」 黒い塊は、ちょっとつりあがった目に、身体のまわりに黒っぽい霧のようなものをまとっていた。 そしてその容姿とはうらはらに、かなり女らしい口調でしゃべりはじめた。 「…。どうも…こんにちは…。」 「え…あ、どうも…」 とっさにりゅうも挨拶を返す。 「…はじめまして…アタシ…ゴース…ゴースです… 一応…♀です…。 貴方…御主人様…ですよね…? アタシ…バトルとか…全然したことないけど…宜しく… ちなみに…好きなものは…夜… 静かで…空気が澄んでいるでしょう…? 声も…よくとおるの…。 アタシ…歌うのが好きなんです…」 「ゴース」という種族らしいその「イキモノ」は、まだ驚いてるりゅうの顔をのぞきこんで、またしゃべりはじめる。 「あの…聞こえてますか…? 眠ってるんですか…?」 「…え、いや。んなわけない…です…」 りゅうが応えると、ゴースはほっとしたようにまた喋りだした。 「…そうですか…よかった… そうですよね…確か人間の方って朝に活動してらっしゃるんですよね… アタシは夜に活動するんです… …えっと…お名前は…」 「あ、あぁオレ…?りゅ、りゅうだけど…」 「そう…りゅうさん…いいお名前… りゅうさん…おなじ景色を、夜と昼とで見た事有りますか…? …凄く違うの… 昼、凄く活気づいてる街も…夜になると凄く静かで… 人も少なくて…だから夜は…あたしの天下なの… あたしが…街を支配できる時でも…あるんです…」 「あ、そ、そう…」 このゴースは、あの空のモンスターボールに入っていたポケモンだったのかどうかはハッキリしないが、 ゴースはりゅうを主人としているようだ。 「あ、あのさぁ、えっと…アンタ、俺のポケモンなんだよね? だったら、名前とか…その…」 「…名前…?ニックネームですか…?あたしに…? つけてくださるの…?」 「あ、あー…うん、そう…それ…ニックネーム…。 。。。あ、ほら!ゴースだとさ…言い難いから…」 ゴースは、りゅうを今一度見つめてから、小さくつぶやいた。 「…嬉しいです! …どんなのにしてくれるんですか?」 ゴースは未だ決まらぬ名前を心待ちにして、りゅうに問いかけた。 ゴースの見た目は、りゅうの好みではなかった。 少し気味が悪くて、怖かった。 けれどその怖さが逆に受け入れる隙間を空けた。 「…そういえばお前…夜が好きなんだよな。 夜菜…よなにするよ。」 |
龍ノ丞 | #3★2005.04/20(水)16:44 |
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三話 「にしてもあの野郎(ナオ)、どこいったんだ」 「あの野郎」が誰なのか、よなは一瞬わからず少し考えた。 (…あの野郎?) よなはまた考え込んでから、ヨシノの方へ歩くりゅうを呼び止めた。 「りゅうさん、ところで…その、あの野郎って?」 りゅうは歩きながら少し後ろにいるよなの方を向き、 「うん、そうだよ。俺の兄貴。ナオっていうんだ。」 そう何気無く言い、またヨシノの方へ脚をすすめようとした時、よなが急に怒りだした。 「りゅうさん!お兄様のことをそんなふうに言っちゃ…言っちゃ…駄目で…す…。」 最初は恐ろしく大きな声で「怒鳴って」いたのに、すぐに小さな、蚊の鳴くような声になっていった。まるで山の急な下り道のように。 「えっ。え…あ…そ、そうだね…うん」 りゅうは流石にこれには目をまるくしている。 「…。すいません。…」 よなはそう言ったあとに何か言いたそうだった。 「…ポケモンって皆こんななのか?」 りゅうはよなに聞こえないほどの小さい声でつぶやいた。 しばらくして、りゅうとよなはヨシノについた。 よなは静かなままだけれど、まだ、何か言いたそうな…そんな感じがする。 りゅうは、ヨシノのポケモンセンターでナオを見つけると、すぐに傍へ駆け寄っていった。 そしてものすごい勢いでいままでの事を全て話した。 よなはナオのポケモン…ナナが外につれだした。 「やっぱり俺、ポケモンなんて嫌だ まるであれ(よな)といると人と話してるような気分なんだよ。 あれは人じゃあないのに。 なんでポケモンっていうのはここまで喋れて 考えれるんだ?」 りゅうは堰(せき)を切ったように喋った。 りゅうが話し終わると、ナオは、ちょっと考え込んだ。 それからりゅうをじっと見つめ「喋った?」とぽつりと言った。 「うん、だからそう言ってるじゃん」 「…りゅう、んなわけない。ポケモンは人とは喋れないよ?」 「…エッ?で、でもあれはたしかに俺と喋ったんだぜ。なんか夜が好きだって、自分の世界だ、とか…そんな事とか…。俺嘘は言ってねえからな」 りゅうはピリピリしている。 ナオはしばらく空(くう)を見つめ考え込んだが、すぐに 「まっ気にしなくていいんじゃないの?」 と言った。 その軽さがりゅうの癇にさわった。 「…。てめェめんどくせーだけだろうがよ、弟が悩んでるのに!ちょっとくらいは真剣に考えてくれよ!」 りゅうは今迄のイライラを爆発させるように、ばっと椅子から立ち上がり、大声で怒鳴った。 ポケモンセンターにいた人たちが、一気にりゅうたちの方を見た。 ナオはりゅうの腕をつかんでポケモンセンターをとびだした。 ポケモンセンターのすぐ前にはナナとよながいたが、それも無視してナオは歩いて行く。 引っ張られながら歩いて、ついたのは30ばんどうろ。 誰も来なさそうな小道に座り込み、りゅうの手を離した。 ナオはにこりと微笑むとりゅうに「此処に座れ」と手でうながした。りゅうは静かにナオの横に座った。 「あのままポケモンセンターにいるのはちょっと恥ずかしいじゃん」 とりあえず、ナオは怒っているわけではなさそうだ。 「…。」 「にしても、なんでポケモンが喋るのかねえ。ホントに喋った?」 「や、だから、ホントだって言ってんじゃん。マジで喋ったよ。」 言う言葉は突慳貪(つっけんどん)だが、口調は少し柔らかい。 「でもホント、気にする事ないんじゃない?むしろ…話せた方がさ、いろいろ良いし、羨ましいよ。」 「そーかァ?俺はやだなぁ…なんか、ほら、よなって♀だろー。なんか人間の女と喋ってるみたいで…」 りゅうは話し終わった瞬間「しまった」と口をおさえた。 「よな?なんだ、りゅう、ニックネームつけたんだ。いい名前じゃん」 だけどナオは深くは突っ込まず、さらりと流す。 「俺も喋れるのかなぁー。ポケモンと喋ってみたいな。」 ナオはぽつりと言った。 「多分喋れるんじゃないの?」 りゅうも、ぽつりと言う。 しばらく沈黙が流れてから、ナオはぽつりと言った。 「りゅうの赤色は僕の橙なんだろうねぇ。似ているから違うことに気づかないんだ、きっと」 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - そのころポケモンセンター前に…よなとナナはおらず、29番道路のほうへ移動していた。 ナナは、子供の身長くらいの木にとまっていた。 よなもちょうどナナの前くらいで浮いている。 「ねぇねぇ、いきなりだけど、なんで敬語なの?」 「え…さ、さあ…なんか敬語じゃないと…いけないような気がして…ヘンかしら…?でもずっとそうしてき…」 「あ、そう、じゃ敬語でいいわ」 ナナはよなの話をさえぎった。 「にしても元気ないねーどうしたの」 「え…いえ…別になにも…」 「や、いつもと違うから聞いてんだよ。っていうかよなってあれだね、暗い」 ナナは、自分のペースで話を進める上、はっきりとものを言う。 「え…く、暗い…ですか…。」 「うん。」 ナナは気にせずきのみをついばんでいるが、よなは結構ダメージがあったらしく、さらに暗くなっている。 もう、よなの周りの草木は今にも枯れそうなほどだった。 |
龍ノ丞 | #4★2005.04/20(水)16:14 |
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「よなとナナ、どこいったんだろうねぇ…」 ナオとりゅうは、よなとナナを探してヨシノシティを歩き回っていた。 「あーくそ。ほんとどこいったんだ?あいつら」 りゅうは結構イライラしているらしく、どこかで拾った(折ったのかもしれない)、小枝をぶらぶらと振り回していた。 「りゅう、危ないからやめろよー。 …あー、もしかしたら、29番道路のほうに行ったのかなぁ…ちょっと探してくるから、待ってて。あ、どこにも行くなよ?」 ナオはそう言うと、29番道路の方へ走って行った。 「…」 あたりは暗くなってきており、あまり人はいなく静かだ。 りゅうは近くの木陰に座り込んだ。 「はー。閑だなー」 動いちゃいけないというのだから探しにもいけない。 ふと当たりを見回してみると、近くにいた男が空を眺めていたのが見えた。 りゅうもつられるように空を眺め、雲の動きを目で追ってみた。 「おにーさん」 それでも閑すぎて欠伸をしそうになったとき、誰かが誰かを呼んだ。 声のする方を見ると、先程の男がいた。 男は薄ら笑いをうかべながら空を眺めている。 またあたりを見回してみたが、やっぱり周りには誰もいない。 どうやらこの男、空を眺め乍ら誰かを呼んだらしい。 (…オレのことかな?) りゅうがそう思った時、また男が喋った。 「うん、おにーさんだよ」 男はりゅうの考えを予測したのか、空を眺めながらそう言うと、視線をゆっくりとりゅうへ向けた。 唇の両端がゆがみ、男の顔には薄ら笑いがうかぶ。 「おにーさんを呼んだの。」 男はしっかりとりゅうの目を見、確認するように言った。 とにかく、気味が悪いのだ。 男はいつのまにか、りゅうの隣に腰かけている。りゅうは男の顔をそっと見てみたが、全く覚えのない顔。 見た目は14、15くらい…のようだ。 色白のあまり丈夫そうではない肌は、血管が透けて見えるほど薄く、身体もとても細い。 身体は弱そうで幼く見えるが、雰囲気等は落ち着いており、ずっと年上に思えた。 どことなく、ナオと似て居るような気もした。 「おまえ、誰だ?俺になんか用?」 りゅうはぶっきらぼうに男に言う。 男がちらりとりゅうの方を向き、また視線が合った。 その男の目を見るのは嫌だった。全てを見透かされそうで「深い」から。 それからこれは錯覚だろうとも思ったのだが、その男に見られている時は、いつも、他からも視線を感じる。 男が正面から自分を見ていても、背中からも、横からも、上からも男に見られているような気がしてしまう。 そしてその視線を感じると、別に逃げる気も無いのに「逃げられないのだ」という言葉が頭を支配する。 その感覚がとても嫌いだった。 りゅうはぱっと目をそらした。 男はりゅうのその反応を見ると、また、薄ら笑いを浮かべた。 りゅうは男の顔をきちんとは見ていなかったが、また笑ったのだろうというのは感じて、なんだか少し腹が立った。 男の目を見て逆に睨み返してやろうとも、思ったのだが。 |
龍ノ丞 | #5★2005.04/20(水)16:15 |
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五話 シュウジ どれほど時間がたっただろうか 男はそれから黙ったまま。 男からりゅうのことを呼んだのに、男はりゅうの「お前はだれだ」という問いにも答える気配は無く…というか何か話そうとする気配すらない。 ただぼーっと…空を見つめている。 耳は、聞こえているようだが。 この空間に二人きりというそれだけでりゅうは精神的に何故か辛く、気を紛らわすようにりゅうは時計を見た。 まだナオがかけていってから30分しかたっていない。 りゅうが、もうこのまま寝てしまおうか、等と考えていると、どこからか聞き慣れた声がした。 「ごめん!!」 謝っているのにどこかへらへらした声…、ナオだ。 その少し後ろからナナとよながついてきている。 ナオが帰ってきてくれたことにりゅうは心底喜んだ。というより、安心した、の方が良いだろうか −これで男と二人きりじゃなくなる− 「おっせぇなぁ…どこまで行ってたんだよ」 ま、それでも文句は言うわけだが…いつもならきっと怒鳴りちらしているだろうに、男と二人きりというストレスから開放されたからか、わりと明るく言った。 「ほんとごめん。でも結構走り回ったんだよ…」 ナオの言葉に反応したよなが申し訳なさそうにうつむいた。 ナナはどこ吹く風、といったカンジだったが。 「あ、どちら様?」 と、ナオが男をちらりと見て言った。 横に並んで座っていたので知り合い同士に見えたのかもしれない。 りゅうは少し苦笑してから、「いや、知らない人なんだ」となるべく自然に言えるように、と気遣いながら言った。 「あ、そう」 ナオがそう軽く流した時、りゅうは自分への視線を感じた。 どうやらこの会話に男が反応したらしく、りゅうをじっと見つめているようだった。 りゅうはナオが居る事から、と、ヘンな自信でもついたのか…、男をきっと睨んだ。 「おい、お前、だれなんだよ?」 ナオはりゅうのいきなりの行動に少し驚いている。 男は、りゅうのその言葉に驚いた風に目を丸くしていたが、すぐに目を細めて薄ら笑いを浮かべた。 「僕は君のことは知らないさ。」 男はさらりとそう言った。 りゅうは予想外の返答に少し困った顔をして、少し唸った。 「ん、あー…え、っと…んじゃあ、なんなんだよ?俺になんか用があるんじゃねーの?何?」 りゅうは少し早口に言った。 男は無表情に黙ったままりゅうを見つめていた ふわ、と風が吹く。男はぱっと額に手を覆うようにあてた。 「君はだれだい、なんで俺に用事があるんだい、って聞いてるんだけど。」 りゅうの問いなど忘れたかのように額に手をあてている男にりゅうは少しイライラして、黙ったままの男に、子供に言い聞かせるように言った。 りゅうがそう言い終わると、男は額から手をおろし、口だけをゆがめ、笑みをうかべた。 「別に知らなくたっていいんだぁ、…だって僕のストーリィにおにーさんたちは全く関与してなかったんだもの。 今は…関与せざるを得なくなっちゃったけど…でもどっちにしたって…脇役だけどね」 男は女のような高い声でそう言うと、ひゃひゃ…と小さく声を出して笑った。 「はぁ?」 りゅうはまったくわけがわからなかった。 「僕が名乗ってないし名乗る気もないんだから、君は僕のこと知れるわけがないんだよ」 男がぽそりぽそりと言った。 「ああっもう、だから俺になんか用があるのか!?」 りゅうは少し声を荒げて男に言った。 ナオがりゅうに対して困ったように苦笑した。 だがあくまで他人事、といった感じだが。 「…ああ、確かに僕からおにーさんに呼びかけたんだっけ いやあ、あれはね、気付いてもらえるかなって思っただけだよ それと…おにーさんがどんな人か知りたかったの。」 男は少し早口にそう言い、少しうつむいた。 「ああ、でもその時は、…まだいなかったし、今も気付いてないみたいだから…いいんだ、もう。 だから用は無いの。無いっていうか…無くなった…だけどねぇ…」 男は今度はゆっくりと言った。 それでもりゅうが不可解な顔をしていることに気付くと、また少し考えてから口を開いた。 「ああ…、ボクはねえ、シュウジって言うの。」 また少し沈黙が流れて、りゅうはしばらく考え込んだ。 −シュウジなんてやつは知らない。 だいたいさっきからこの…シュウジとやらが言ってる事が意味がわからない…− 「あ…ボクの言ってることは、君たちはわからないはずだよ でもね、多分、いつかわかるか…それか、ボクが言うからさぁ。 今此処で全部言っちゃうと、ボクのストーリィが台無しになるから。」 シュウジはまるでりゅうの考えてることを見抜いたように言うと、軽く首をならした。 「…さ、伝えたいことは伝えおわったし、そろそろボクはサヨウナラ…」 シュウジは薄ら笑いを浮かべて言うと、モンスターボールからネイティオを出してそれに飛び乗った。 「じゃあね。」 シュウジがそう言うと、すぐにネイティオは夜空へ消えていった。 「〜ッ、…なんなんだよぉ…」 あまりにもわけのわからないままコトが進んだことに、りゅうはイライラして言った。 「あー…どうでもいいけど、あのコ…シュウジだっけ。おでこにえらく大きいキズがあったよ。…あ〜、アザだったっけな?」 ナオがごにょごにょと小さい声で言う。 「キズぅ? なんだそりゃ」 りゅうがそんなことはどうでもいいという風に言うと、ナオは「やっぱり」といった感じでうつむいた。 「んー、とりあえずご飯食べよ〜よ」 ナオはまぁいいかという風にりゅうの手をひっぱって言った。 「あ、そういや俺もはらへったな」 りゅうの頭はまだシュウジのことで一杯だったが、今はとりあえず置いておくことにした。 ナナがぴょこぴょことナオたちについていく。 よなは、少し距離を置いて後へ続いていった。 「よな、どうかしたの?」 ナナが、少し考え込んだ様子のよなに話しかけた。 「…なんでもない…。ただ、…ちょっと…、なつかしい香りがして」 「あ、そう。早くおいでよ」 ナナはそう言うとさっきより足早になってナオたちについていった。 「あ、はい…。」 よなはナナについていこうとちょっと早く進みながら、少しだけ、ネイティオの飛んでいった夜空を眺めた。 |
龍ノ丞 | #6★2005.04/20(水)17:27 |
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六話 ムユウ 丁度、夜中の0時を過ぎた頃だろうか。 エンジュシティの、少し古い家屋の表でごそごそとうごめく2つの影があった。 「ムユウ、…いるかどうか見てきてくれる?」 家の前の影の一つ…青白い肌の男が、もう一つの影…ネイティオをなだめながら、暗やみにむかって話しかけている。 「ああ、今日もか…。わかった…。 だけど…シュウジ、どうして家出…しないんだ?」 暗闇の中から、つりあがった目と4本指の手が浮かび上がる。 シュウジはその言葉を聞くと、一瞬だけ、悲しそうな笑みをこぼした。 「…傷だらけになってもか? 馬鹿みたいじゃないか、さっさと見捨てればいいのに」 ムユウはつり目を更につりあげて言った。 シュウジは悲しそうな顔になって、ぽつりと言った。 「…。そんなこと言わないで。ボク寂しがり屋だから。一人じゃ、生きていけないんだよ」 わかってくれ、とでも言うように、シュウジがしんみりとした声をいっそう鎮めて言う。 「…おれじゃだめなのか」 ムユウは、悲しげに、そして少し怒ったように言うと、そのままシュウジに背を向けて、 古ぼけた家の壁へすうっと消えていった。 「もうじき、全部終わるからさあ、そしたら誰も寂しくなくなるんだ。アノヒトもやさしくなって、ムユウも…」 シュウジは蚊のなくような小さな声で、懇願するように呟いた。ムユウに聞こえていないのはわかっていた。 ネイティオが、慰めようとしたのか、無表情なその顔をすこしだけゆがめて、シュウジの軽く耳をかむ。 シュウジはネイティオに、大丈夫だよ、とでも言うようににっこりと笑ってみせた。 「シュウジ! 今はいない。」 ムユウがさっき消えていった壁から、ぬうっと顔をだして言った。 「そっか、ありがとう。ネイティオ、戻って」 シュウジはネイティオをモンスターボールへ戻すと、静かに家に入っていった。 「ムユウ、いつもごめんねえ。 今日さあ、ちょっと良い兆しがあったからさあ…」 「気にするな…。 兆しって、何だ?」 「それは、言えないよぉ。ボクも一応ストーリィってのを考えて行動してんだからさ、言っちゃったらつまらないでしょ」 シュウジがひゃひゃ、と笑いながらそう言った。 「なんだよそれは。 まあいいよ、楽しみにしてていいんだな」 「うん、もちろん」 シュウジは、明るく答えた。 |
龍ノ丞 | #7★2005.04/20(水)16:16 |
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第七話 記憶 トレーナー用の宿泊施設で、りゅうたちは食事をすることにした。 ナオは施設に入ってすぐ、食堂の方へ行き、メニューボードを見た 「バターロールのセットでいいか。どーせ夜だし」 ナオも諦めたようにそう言うと、少し早歩きでりゅうを追いかけるように食券販売機の方へと歩いていった。 ナオのバターロールセットも、よなとナナのモンスターフードも、全て平らげられてお皿が綺麗になっても、まだりゅうの皿の料理(というほどのものでもなかったが)はほとんどのこっていた。 りゅうは、バターロールを口にふくんではいたし、 もしょもしょと、食べているようなそぶりでもあったが、食事は進んでいない。 ナオはりゅうの口元を見た。 もう、だ液を含み過ぎてしまってるのか、口元のパンの部分はふにょふにょだ。 りゅうは、本当に”ふくんでいるだけ”で、皆が食べてる間中、ずっと考え事でもしていたようで、まったく食は進んでいなかった。 「お、おいりゅう?早く食べろよ、なんかもう口あたりのパンがふやけてるよ」 ナオは半ば呆れた様に言った。 「ん…ふぁ」 りゅうがふらりと生返事をした瞬間、口元でふにゃふにゃになってしまったバターロールはぼとりと音をたてて床に落ちた。 「あ〜あ、そら見ろ」 「…」 いつものように、「うるせえよ」の一言二言返ってくるかと思いきや、りゅうは大人しくバターロールを片づけ、ほとんど手をつけてない皿等も片付けてしまった。 「え、お前食べないのか」 りゅうは返事をせずに皿をかたづけおわるとそのまま2階の寝泊まりする部屋の方へと行ってしまった。 ナオはとりあえず少し夜風にあたりたかったので、ナナとよなをつれて宿泊施設を出た。 ふと、近くの地面に目をやると、さっきのシュウジがネイティオにのってとびさった時についたものだろうか、土を強く蹴ったような跡があった。 あんまり関係なさそうで、さっきの時もずっとナオは蚊帳の外状態だったのだが、やはりなんとなく気にはなる。 相手が知ってるだけなら特別気にはならないだろうが、シュウジがりゅうにとても執着しているような気がした。 -シュウジのことで…何かひっかかっている。 何か、自分とりゅうと、シュウジが関わりがあるような気がする。 …いや、やっぱりシュウジのことは知らない…。でも、なんだろう、何か、シュウジのもっていたもの シュウジの身近にあるもの それが、俺とりゅうに関係あるような気がする…- 「何だっけ、なぁ…」 ふと、ナオはぽろりと思いを口にだした。 独り言のつもりだった。 「…え…な、何が…ですか…?」 暗い声が、星空の下で響いた。 「…?」 りゅう…なわけはない。りゅうは外にでてきてないし、そもそもこんな声じゃない… 「…誰?」 ナオはあたりを見回したが、よなとナナしかいない。 「…まさか」 ナオはりゅうの言っていたことをふ、と思い出した。 そうだ、ゴースのよなが喋る、って… その時、何かの記憶が頭をよぎり、ナオはとてつもない、恐怖感に襲われた。 …似たような経験があるような気がする、いや、似たような…しかし似ていないような…。…大きい…黒いカゲ…。 「ど、どうしました…?」 また、よなの声が響いた。 -これだ、この声だ、どこかで聞いたような、懐かしい音なのだ、だが、とてつもなく恐ろしいもののような気がして、自分が正気じゃないような、正気じゃなくなるような気がする、いや、これはどこだ、どこで聞いたっけ、何処だったっけ、、何処どこ何処何処何処どこドコ何処- ナオの顔がだんだんと青くなり、ほほを汗がつたった。そのまま、ぽたりぽたりと、汗が地面におちていく。 -何処何処何処どこどこどこどこ何処どこどこドコ何処どこ…知らなきゃいけない…気づかないと…- 「…な、ナオさんっ!?」 ふらり、とナオが倒れる。 ナオの異変によなとナナは慌てた。 ナナは、ナオのオデコを軽くくちばしでつつく。 … 「い、いててっ」 少しして軽くナオが叫んで、ばっと跳ね起きた。 ナオは、起き上がると、真っ青ではったが、冷静な顔でよなの方をじっと見つめた。 ナオは少し、考え事をしているようだった。 |
龍ノ丞 | #8★2005.04/20(水)16:16 |
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八話 黒いカゲ よなの声はナオの頭で妙に響きくらくらとさせる。 だんだん慣れてきたのか、気が遠くなるようなことはなかったが…。 これではマトモに話ができない。 よなの声を聞くだけでキモチワルクなる。 「え〜っと…よな…ちゃん、俺のこと知ってたっけ?」 「え?いえ…知りません…。」 「…だよなぁ…」 わかっていた返答だった だが、じゃあ何故こうも、どこかで会ったような気がするのだろう。 ナオは自分の記憶を整理しようと目をつぶって考え込み、10分ほどはそうしてみた。しかしなにも思い出せない。 また10分ほど考え込んでみると、さっき自分が頭の中でめぐらしていた”黒いカゲ”という言葉を思い出した。 自分の頭の中で思ったことなのだからなにかあってのことなのだろうが、ちっともその言葉についての何かを思いだすことができない。 どうしてあんな言葉が思い浮かんだのか…自分でもわからなかったが…それこそ脳の深い部分にあった言葉なのだろう 「むー…わからん」 半ば諦め気味につぶやき、目を開けた。 開ける寸前瞼の裏になにかぼやっと見えた様な気がしたが、目をあけるころには無くなっていたものだから、目が疲れただけだろうと思った。 「…どうか…なさいました…?」 よながおずおずと、ナオに聞いた。 「ん、別に何も無いよ」 ナオは不安そうなよなをなだめるように優しい声で言おうとつとめた。 しかしさっき…目を開けたころからだろうか、何か目がちらつき、そちらに気が行ってしまったのか中途半端にくぐもった声になってしまったが。 「…?」 目をまばたきすればするほどちらつきは増え、ちらつきどころか何か目のようなものまでうっすらと見え始めた。 ナオは、まばたきをしないでいるとそのちらつきは無くなるということに気づくと、恐る恐る目を閉じた。 するとどうだろう、瞼の裏にはっきりと、黒い影と、つりあがった目が浮かんでいるのだ。 ナオはそれを認識するとすぐに、目を開けた。 それからなるだけ瞼を閉じぬようにした。 空(くう)を、さっきまでそのつりあがった目の存在していたように思えた場所を見つめてみたが、勿論何もあるわけがない。 「だ、大丈夫?」 よなが不安気にナオに言った。 すぐさまあたふたと焦るように施設の方へ…空をすべっていった。 よなの身体(?)にまとわりつくガスが、長い尾のようになって、ゆっくりと先の方から消えてゆくように移動していく。 さっき見えたつり上がった目ははっきりとナオの方を見ているような気がしたが、瞼の裏に何かが存在するなどありえない。 それが幻覚か何かの類いだと思ってはいたが、やはり恐ろしかった。 もう一度軽く目をつぶってみたが、やはり瞼の裏にはその目があった。 しかし、幻覚と言ってもこれほど続くものなのだろうか?などと、不安を消してしまうような考えが次から次へと湧くように出て来た。 得体のしれないものは怖い。認識できないのは恐ろしい。 ナオはまた目をつぶった。 やはり見えた、黒い影につり目のソレは、どことなく、嗤っているようだった。 |
龍ノ丞 | #9☆2005.09/06(火)16:57 |
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九話 モヨ ジョウトのどこかの,ちいさな町。 とてもかわいらしい女の子が手にモンスターボールを握りしめて,のどかな山道をかけていた。 表情はうれしさに満ちあふれている。 女の子は,町のはずれの大きな家へと走っていった。 門をあけ,きれいな扉をどんどんとたたく。 すぐに扉がひらいて,女中が女の子に挨拶をする。 「あらきょうこちゃん,お帰りなさい。」 「ただいまっ」 女の子は女中への挨拶はそこそこに,靴を脱ぎ捨ておくの部屋へとかけていく。 「おかあさま,ただいまっ!」 「…あら,おかえり,京子。どこに行っていたの,何もいわずに…。」 女の子…京子の母親はリビングで一人刺繍をしているところだった。 京子は母親へかけより,ひざに抱きついて甘え,うれしそうな声でしゃべりはじめた。 「んっとね,えとね,ポケモンつかまえてきたのっ!あのね,すごくかわいいおばけさんなんだよ」 京子はとてもうれしそうな声で言う。 「あら…。何のポケモン?」 「…わかんにゃい…。でもかわいいのっ。あっ,お部屋にいってぽけもんちゃんとお話してるねっ。」 そういうと,ぱっと女の子は部屋を出ていった。 「はいはい…。ご飯の時にはちゃんと降りてくるのよ。」 女の子が階段をかけあがっていく足音が屋敷に響いた。 「…にしてもポケモンがしゃべるわけないのに…あの子ってば,もう。」 母親がすこし愛しそうに,小さな声でそうつぶやいた。 京子は自室の扉をきっちり閉めると,モンスターボールを開いた。 どろん,とゲンガーがあらわれる。 部屋の様子を見てどこにつれてこられたのやらとしばらくオドオドとしていたものの,京子を見るとすぐうれしそうな顔をした。 「うふふ,ポケモンちゃん,今日からこのおうちでもよろしくねっ。」 京子のその声に,ゲンガーはにこりと笑った。 「そうだ,ポケモンちゃんのお名前なんていうの?」 「…僕,ボクは,モヨ。モヨって呼んで」 ゲンガーのモヨ…は,照れくさそうに小さな声で言った。 「モヨくん?わかったっ,モヨくん!」 京子はうれしそうにモヨの名前を何度かつぶやいた。 とんとん,と扉をノックする音がした。 「ご飯ができましたよ」 女中が扉の前でそう言ったのが聞こえた。 「はぁい!」 京子は女中に返事をしてから,モヨの手をにぎり,言った。 「ごはんよ,いきましょっ」 「エっ?」 モヨは驚いて目をまるくする。 「なぁに,たべたくないのっ?」 「いや,そういうわけじゃないの。でも,ボクポケモンだし…」 「いいのよっ,おかあさまも横にポケモンちゃんをつれているもの」 京子はそう言うとなかば強引にモヨの手をひき,食堂へとつれていった。 |
龍ノ丞 | #10☆2008.07/09(水)23:30 |
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*十話・ モヨと京子 京子とモヨはいつも一緒だった。 ご飯を食べるときも,ままごとをするときも,鬼ごっこをするときも,寝る時も,お勉強のときも,いつも。 「ねえねえモヨ,あのね,きいてきいて」 「あのねモヨ」 「モヨ,聞いてよ,よこのくみちゃんがね,わたしにこんなこといったの」 京子は毎日モヨに話し掛け、モヨもまた京子の話をうれしそうにきいていた。 その日は町のお祭りだった。 「京子、そこの橋の手前でおじさんが屋台をなすっているのだけれど、お手伝いにいってみる?」 「うんっ、いきたいっ!! あっ、ねえ、おかあさま、モヨも一緒につれていってもいい?」 「モヨ?…ええ、いいわよ、すきになさい」 「わーいっ!じゃあ、いってきます! モヨ!おいで!」 京子はカバンを侍女の手からひったくるとモヨとしっかり手をつなぎ、叔父のやっている屋台へとかけていった。 夕暮れ時、いつもは静かな時間帯だったがその日はさすがに、祭りというだけあって殷賑を極める町中。 人の波をかきわけ屋台へなんとか到着した京子。 見たところ叔父はわたあめの屋台をやっているらしかった。 「おじさん!こんにちはっ。 ほらモヨ、あたしのおじさんっ!」 京子は叔父ににっこりと挨拶をし、後ろでモゾモゾしているモヨを前にひっぱりだし、促す。 モヨはいつものごとくひどくおどおどしながら、京子の叔父に軽く会釈するとまた京子の後ろへと隠れた。 「おや京子ちゃん。 …その黒いのは、ポケモンかい?おやまぁ、なかなか強そうな風貌なのにえらく女々しいやつなんだねえ。いやしかし、会釈ができるとは感心だ。」 叔父は笑いながら言うと、綿飴を二つ作り、それぞれ一つずつ京子とそれからモヨにも渡した。 「ほら、食べなさい。 ポケモンも綿飴くらいは食べられるだろう」 「わぁあぁあ、ありがとーっ!!」 京子は甲高い声でお礼を言うと、すぐに綿あめをほおばった。 「…ありがとう、ございます」 モヨも京子以外の人間にかまってもらえたのがうれしかったのか、礼を言った。その瞬間、叔父の顔がこわばった。 「…京子ちゃん。このポケモン、今しゃべらなかったか」 「? やだおじさん今さらっ! モヨはねえ、しゃべれるのよ!すごいでしょっ。」 「いつから?」 「出会ったときからよ!いつもお話してるわ。」 叔父は忌ま忌ましいものでも見るかのような目つきでモヨを一瞥しすると、少し離れたところへ京子をつれていった 「京子。…異端すぎる。…お母さんは知ってるのかい」 「いたん?? …ううん、おしゃべりするのよって言ったけど、しんじてくれなかったの」 突然雰囲気のかわった叔父にすこしこわがり、戸惑いながら京子は答えた。 「いいか京子。ポケモンってのは本来はしゃべらないものなんだよ。…人の言葉など知らない。…あいつはおかしい。町の人に見つかる前に、どこかに捨ててきなさい。」 「どうして?お話できるくらい、別にいいじゃない。」 「駄目だ。捨ててきなさい」 京子はいつもモヨにしゃべりかけていた。 モヨは表情豊かに京子の話を聞き,また会話もしていた。 しゃべるポケモン,モヨを見て気味悪がる人は多かった。 それにモヨは京子以外の人間にはとたんに消極的になっておどおどし始め、京子以外の人間に話しかけられるとドモるばかりというその性格もいけなかったようで、周囲の人間はモヨを疎ましく思うばかりだった。 そんなモヨを,悪ガキたちは京子の見えないところで虐めようとする。 しかしモヨは,どんなに攻撃をうけても平然としていた。 いや,精神的にはつらかっただろうので,攻撃を受けるたびにびくついたり,泣きべそをかいたりしていたが, 普通にダメージを受けるということがなかった。 モヨはレベルはとても低かったが,100レベルのポケモンにはかいこうせんをくらっても,まだたっていられた。 というよりむしろ,攻撃を受け付けていないようだった。 ポケモン離れしているモヨを,京子以外の人間たちは忌み嫌った。 また,そんなモヨをかわいがっている京子をも周りは気味悪がった。 母親ですら,「さっさとモヨを捨ててきなさい」と毎日のように小言を言うようになった。 京子は,周りがモヨを嫌えば嫌うほどモヨをかわいがった。 また京子は,そんな周りを見て自分をわかってくれるのはモヨしかいないのだと思うようになっていった。 モヨも京子にとてもなつき,京子を大事にした。 |
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