ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[549] 未来のポケモンマスター 〜冒険のはじまり

アウストラロピテクス #1☆2004.11/07(日)21:32
“ポケットモンスター”略して“ポケモン”
この世界には、「ポケモン」と呼ばれる不思議な生物が生息している。
人々は、その「ポケモン」を戦わせあったり、ペットにしたりしている。
“カントー地方”この地方は、ポケモンが生息する地方ということで、かなり有名である。
ポケモンについての研究所や、ポケモンを戦わせる事を一種のスポーツとして受け入れている機関があるのも事実だ。
そして、その機関の名こそ、誰もが知っている“ポケモンリーグ”だ。
ポケモンリーグを目指す者は、この世界でも数多くいる。
ポケモンリーグを制覇した者には、“ポケモンマスター”という、偉大な称号が与えられるからだ。
そのポケモンマスターを目指す者は、子どもでもゴマンといる。
例えば、カントー地方の小さな町、マサラタウンに住む一人の少年だ。


#0 プロローグ


「かあちゃん、ただいまー」
少年の声だ。
どうやら、学校から家に帰ってきたらしい。
トレードマークの赤い帽子と、赤い上着、そして水色のズボンを身に着けており、その少年はさっさと靴を脱ぎ捨てる。
「お帰りなさい、サトシ」
その少年の母親だろうか。
さっきの少年に「サトシ」と呼びかける。
「サトシ、今日は算数のテストが帰ってくる日だったわね?」
母親は、階段を上がって自分の部屋に行こうとする「サトシ」を呼び止める。
「え?いや、今日は算数のテストは帰ってこなかったよ。」
少年、いやサトシはそう言ってさっさと階段を上がっていった。
その言葉に、母親は首をかしげる。

「バタンッ」
サトシは、部屋の扉を閉めると、ランドセルの中から、算数のテストを取り出した。
本当は、今日母親に見せるべき物の。
「…まいったな〜、こんな点数でかあちゃんに渡したらひっぱたかれるよな〜」
サトシは困り顔で、四つ折りにされているテストを開く。
テストには点数の欄に赤いペンで“65”と、しっかりと記されている。
そっと開いたテストをチラリと見ると、再び四つ折りの状態に戻し、サトシはため息をついた。

「サトシ、オーキド博士から電話よ」
下の階にいる母親の声だ。
その声に、サトシは「はーい」と答えながら階段を下りる。
ちなみに、オーキド博士とはマサラタウンでポケモンの研究をしている博士のことだ。

サトシが階段を駆け下りると、四つ折りにされた算数のテストがポツンと残された。
その算数のテストの裏の右下の隅に、ラクガキがされている。
影をかたどったように黒く、ニヤけた顔のポケモンと、長い耳とツノが特徴のポケモンが草むらで戦っている、そんなラクガキだ。
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アウストラロピテクス #2★2004.12/11(土)01:43
『ピーカーチュウー――!!』

家の1階にあるテレビのCMの音だ。
どうやら黄色い体に、長く先端が黒い耳と、赤い頬が特徴のポケモンがCMに出ている。
ピンク色のサーフボードで波乗りをしたり、色とりどりの風船を体に縛り付けて空を飛んだりと達者な芸を見せた後は、カメラに向かって鳴き声と共に電撃を放つ、そんなCMだ。
『ポケモン好き集まれ!ポケモンだいすきクラブ!!』
テレビの中で紳士風の老人とその周りに子どもが集まり、そう叫んだ。
どうやらポケモン愛好会のCMだったようだ。
ところが、急に明るい背景のテレビ画面からパッと切り替わり、ニュースキャスターの男性が画面に表れた。

『…えー、臨時ニュースが入りました。先程、トキワシティより、全身黒ずくめで前身には赤い“R”の文字がプリントされいる服装の人物を目撃したという情報が入りました。警察では、恐らくポケモンマフィアのロケット団の団員ではないかと、調査を進めています。』


#1 お楽しみ


「もしもし、オーキド博士ですか?」
先程母親から呼び出されたサトシが電話の受話器を手に取り、近所のポケモン研究所、「オーキドポケモン研究所」の所長を務めているオーキド博士と会話をしている。
『おお、サトシ君、元気にしているかの?』
「はい、元気です!」
サトシは持ち前の元気さで答えた。
「ところで博士、今日は何の用ですか?」
『おお、よく訊いてくれたの。実はな、お前さんにちょっと今から研究所へ来て欲しいのじゃよ。』
「研究所ですか?」
サトシは驚いた。
それも、サトシ自身が研究所へ行く事は多いが、オーキド博士自身が研究所へ招くことは結構大事だからだ。
「…で、研究所で何をするのですか?」
サトシがそう訊くと、オーキド博士は少し間を置いてから答えた。
『はっはっは、それは研究所へ来てからのお楽しみじゃ!それじゃあな、サトシ!』
オーキド博士は出し惜しみの匂いも出しつつ大きく笑うと、そのまま電話を切った、
「(『来てからのお楽しみ』、」か。よっぽど大事なんだろうな)」
そうサトシは胸を高鳴らせ、母親に「いってきまーす」の声と共に家を飛び出した。
ここからオーキド博士への研究所は近い。
5分間、空でも見ながら歩いていればすぐに着くのだ。

「ガチャ」
サトシが研究所の扉を開けると、いつもの風景が広がっていた。
分厚い本が収納されたいくつかの本棚に、熱心に研究に励む研究員、オーキド博士機械オンチのため、あまり使われていない愛用のコンピュータ、そして何に使うか検討もつかない機械…のようなモノ。
何も変わったことが無いように見える。
ただ、今日はテーブルに3つのボールらしき物が横に並べられていることを除いて。

「よお、サトシ!お前もオーキドのじいちゃんに呼び出されたのか?」
トゲトゲとした茶色の髪で、半袖のほとんど黒に近いシャツと、薄紫色のズボンを身に着けた、サトシと背が同じくらいの少年が話しかけてきた。
「ああ、そうだけど…ってまさかシゲル、お前もか?」
サトシはそう答えた。
この少年の名前は「シゲル」だそうだ。
また、その少年、シゲルがオーキド博士のことを「オーキドのじいちゃん」と言っている事からして、恐らくシゲルはオーキド博士の孫に当たるのだろう。
「ハハッ!驚いたぜ。まさかじいちゃんがお前なんかに目を着けるなんてよぉ」
シゲルはサトシをバカにしたように言う。
「な、何だと!お前だってそんな大したヤツじゃねぇだろ!!」
シゲルの言葉に、サトシはついムキになる。
「あなたたち、いい加減にやめなさいよ。まったくいつもいつもケンカばかりして…」
少女の声だ。
ケンカに入ろうとするとする犬猿の仲の2人を注意しつつ、飽きれたように言う。
その少女は長い髪に白い帽子、そして水色のシャツと赤いミニスカートとルーズソックスを身に着けている。
「ああ、わかったよ、ミユキ。オレが悪かったよ」
どうやら少女の名前は「ミユキ」と言うようだ。
きっとケンカする2人をまとめる役なのだろう。
「ミユキ、お前もまさか…?」
そうサトシが訊く。
「ええ、そうよ。あたしもオーキド博士に呼ばれたのよ」
「と言う事は、オレとシゲルとミユキと、3人ともに同じ用があるんだろうな」
そうつぶやくとサトシは、さっき気にしていたテーブルに並んだ3つのボールのようなものにチラリと目を配る。

「おお、すまんすまん、待たせてしまったの」
オーキド博士が、そう言いながらトイレの扉を閉めて出てくる。
用を足す時間にしては長すぎる、とサトシ達は思ったが。
「博士、結局今日は何の用事でオレ達を呼んだのですか?」
「ついでに手は洗ったのか?」
サトシの言葉に、シゲルが余計に付け加える。
「そうじゃ。お前達を呼んだのは他でもない」。ホレ、そこのテーブルに3つのボールが置いてあるじゃろ?」
オーキド博士はそう言って、サトシがさっきまで気にしていたテーブルに乗った、3つのボールのような物を指差す。
そして、サトシ達3人は一斉にその方向を見る。
「これらの名前は『モンスターボール』。ポケモンを収納しておくための、携帯に便利な道具じゃよ」
サトシがにらんでいた通り、やはりこれらのボールはただのボールではなかった。
そして何故か、サトシの期待は高まる。
「その名前が『もんすたあぼおる』ってのは分かったよ。で、結局何なんだ?」
シゲルがオーキド博士を急かす。
「ウォッホン!…実はな、お前たちにこのモンスターボールを…」
オーキド博士が咳払いと共に説明をしようとした、その時だった。

「パァァン!」

「!!」
研究所の外から何かが破裂したような音がした。
研究員も含めた一同は、すぐに音のした方へ首を向け、そしてその方へ駆け出していった。

一体何が起こったのだろうか。
そして、その先には何が待っているのだろうか。
全く予想がつかないが、とにかく今はそれを確かめる時だ。
この、破裂音の正体を。
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アウストラロピテクス #3★2004.11/23(火)18:12
破裂音の正体を確かめるべく、サトシ達は研究所を飛び出し、その真相を目の当たりにした。
小さな爆発でもあったのだろうか、研究所の前には火薬の匂いを纏った煙が辺りを包む。
その煙越しに、何やら紙クズのようなものが散らばっている。
「これは…爆竹のケシズミのようじゃの」
オーキド博士が紙クズを拾い上げ、そう言った。
「バクチクですか?じゃあこれが、さっきの破裂音の正体も…?」
サトシが、半分飽きれた様につぶやく。
「そうみたいね。きっと子どものイタズラでしょうね」
ミユキは完全に飽きれている。
「まったく、最近の子どもは危ないのぉ…」
オーキド博士も飽きれている。
そして、オーキド博士が研究所へ戻ろうとした。
だが、その時だった。

「ガシャァァン!」

「!!」
突然、何かが割れるような音がした。
「何じゃ!今の音は!」
「博士、慌てるのは後よ。早く研究所へ戻りましょ!」
慌てるオーキド博士にミユキが助言をする。
ミユキ達がすぐに研究所へ戻ると、そこは想像を絶する光景が広がっていた。

「モ、モンスターボールが…」
オーキド博士が顔を歪め、つぶやいた。
続いて入ってきたサトシ達も、声を揃えてこう叫んだ。

「無くなっているッ!!」


#2 黒い影


サトシの目の前に広がっている光景は、先程研究所へ入った時とはまったく別のものへと豹変していた。
さっきの音は、窓ガラスが割れた音だろうか。
辺りにはガラスの破片が散らばり、ア然としているサトシ達をあざ笑うかの様にそれらはキラキラと光り輝く。
本棚や、研究員のデスクこそは荒らされてはいないものの、明らかに異常を思わせる事がある。
そう、それこそが、さっきまでは机の上に規則正しく3つに並んでいたモンスターボールがコツゼンと消えてしまっている事である。
「オーキド博士…これは一体…?」
顔が半分青ざめつつあるサトシがオーキド博士に訊く。
「…そうじゃのう。まったく手の込んだやり方じゃ」
オーキド博士は右手をアゴに当て、荒らされたテーブルに目を向けながらつぶやく。
「…どうやらさっきのバクチクも、これらのガラスも、コツゼンと消えた3つのモンスターボールも、子どものイタズラでは済まされそうにないのう」
「恐らく、バクチクで私達をワザと異変に気付かせて外に出し、そのスキに誰かが窓ガラスを割り、そして素早くモンスターボールを奪って逃げたのでしょうね」
「ほっほお、なかなかの名スイリじゃのう」
「いいえ、礼にはおよびません」
研究員の推理に、オーキド博士はすっかり感心しきっている。
だが、そこへミユキが口を挟む。
「なかなかの名スイリ…と言いたい所だけれど、いくつか納得がいかない点があるわ」
「…どういうことですか?」
研究員は静かに言い返す。
「あなたは先程、犯人は窓ガラスを割ってから研究所に侵入したと言いましたね」
「…ええ、言いましたよ」
心なしか、研究員の声は少し曇ったかのように聞こえる。
「ですが研究員さん、あたし達が窓ガラスの割れる音を聞いてここへ戻るまでに、1分もかからなかったでしょう。それでも犯人は入りづらい小さな窓から入り、そしてモンスターボールをバッグなどに詰め、そしてまた小さな窓から出て行くことが本当に可能だったのでしょうか?」
「う〜む、確かにそうじゃのう…」
ミユキの言葉に人の言葉に左右されやすいオーキド博士はまたもや納得してしまっている。
「でもミユキ、仕事の素早いドロボーなら簡単なことじゃねえのか?」
「そうですね、その可能性も無いわけではありませんね」
サトシの言葉に、研究員は同感する。
しかし、ミユキの表情からはコトバに詰まったことすら感じられない。
「…じゃあ研究員さん、説明してもらえるかしら?…その、懐に隠されている3つのモノの正体について」
そう言ってミユキは、研究員の懐に指をさす。
しかし、その言葉に今度はオーキドが口を挟む。
「じゃ、じゃがミユキくん、まさかキミはこの研究員が…」

「黙りな、そこの薄汚いジジイ」

「!!」
喋るオーキド博士を食い止めた。
先程から、言葉に雲行きが怪しくなっていた研究員が。

「やっぱり…あなたが…!!」
ミユキの目は、ジリジリとその研究員を睨みつける。
「どど、ど、どういうことじゃ?ミユキくん!」
「ついでにオレもワケわかんねえ!」
動揺したオーキド博士と、さっぱり状況を理解していないサトシがミユキに答えを焦らせる。
「フン、そこのいまいましいガキに代わって我が答えてやろう」
そう言って研究員、いや、今となっては誰か分からないが、その誰かがバサリと音を立てて白衣を脱ぎ捨て、そしてカツラとメガネも投げ捨てる。
白衣の下に隠されていた服装は黒く、その服には赤く大きな“R”の文字がプリントされている。
そしてカツラの下に隠されていた髪の毛は赤黒く、メガネの下に隠されていた目は嫌味に笑っている。
「お前…一体何者なんだ!?」
サトシはその怪しい誰かに、複雑な気分で話しかける。
「我はポケモンマフィア、ロケット団の幹部のキザクラ。この研究所に珍しいポケモンがいると聞いてな、ちょうど散歩代わりに立ち寄ったのさ」
「な、何だと…?」
サトシの複雑な心情は、次第に怒りの方へ傾いてゆく。
「まったく、薄汚いジジイと頭の悪そうなガキ共、そしていかにも役に立たなさそうな研究員しかいねえと思ったからここを落とすのは楽勝だと思ったのによ、今となってはこのザマだ」
「お前…モンスターボールを盗んだだけでなく、オーキド博士のことを悪く言うなんて…!!」
怒りに傾いたサトシが、ロケット団幹部のキザクラと名乗る者を睨みつける。
「フン、『許さないぞ!』、とでも言う気か?…まあ精々怒るがいい。だが我は時間なのでな、この辺りで撤退させてもらおう。…さらばだ」
キザクラは去っていった。
サトシ達の煮えたぎる怒りと、台無しとなった「おたのしみ」への悲しみを残して。
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アウストラロピテクス #4★2004.12/11(土)01:45
「…えーと、犯人の男の服装は黒ずくめで前進には赤いRの文字、髪は赤黒色で目はつりさがっている、と」
間もなく、オーキド博士達が呼んだ警察の婦人警官がそう言いながら、オーキド博士達の証言をまとめてに手帳に書き写す。
「それで、他に犯人の特徴は?」
婦人警官はペンを片手に、どんどんとオーキド博士に証言を要求する。
「そうじゃのう、…お、そう言えばそいつは、ロケット団幹部のキザクラなどと言っておったのう」
「『ロケット団』…?」
さっきまでスラスラとペンを走らせていた婦人警官の手が、何かを感じ取ったかのように反応する。
「お姉さん、知っているのですか?…その、『ロケット団』のことで」
サトシが訊く。
「ええ、数年前から現れた組織でね、私も良く知らないんだけれど、その組織はポケモンを悪事に使ったり、商売道具として扱っているの」
「ポケモンを悪事に使う…?」
「ええ、詳しい事は警察で捜査中だけれどね」
そう言って婦人警官はペンを手帳にはさみ、手帳をパタンと閉じるとさっさとポーチにしまった。
「じゃあ、また詳しいことがあったら警察に連絡をお願いしますね。連絡先はこちらの名刺まで」
その言葉と名刺を残し、仲間の警察官とともに彼女達はその場を後にした。
「サユリさん、か…」
サトシが連絡先の載った名刺を読み上げる。
どうやら彼女は新米の人だったようだ。

「それじゃあオーキド博士、ケーサツの人達も帰っちゃったことだし、仕切りなおしましょうよ」
サトシがオーキド博士に言う。
「『仕切りなおし』?…どういうことじゃ、サトシ君?」
「…決まっているじゃないですか博士。もちろん、おたのしみのことですよ」


#3 仕切りなおし


「『仕切りなおし』といわれてものぉ〜」
オーキド博士は困り顔で言う。
それもそのはず、窓ガラスの後始末は警察の人達が行ったものの、肝心の『モンスターボール』が盗まれてしまったのだから。
「そもそもじいちゃん、オレ達をここに呼んだ理由をまだ聞いていないんだけど」
シゲルが退屈そうに言う。
「そうじゃのう、今さら『おたのしみ』で片付けても遅いようじゃ。実はお前達にポケモンの良さを実際に触れて分かって欲しいと思って、お前たちを集めたのじゃ。しかし、ちゃんと3人分用意したのに、今となってはこの状態じゃ」
「そうだったのか…」
シゲルがオーキド博士の想いに納得する。
「だがせっかくお前達を集めたのじゃ。もちろんこのままで終わらせるワケではあるまいぞ!」
「おおっ、さすがは太っ腹のオーキド博士だぜ!」
「だからと言ってじいちゃんが中年太りしているワケじゃあないぜ!」
盛り上がったオーキド博士を、サトシとシゲルが煽り立てる。
「(さっきまで思いっきり困り顔だったじゃない…)」
ミユキはオーキド博士のことをじっと見ている。遠い目で。

「…では、早速代わりのポケモンを調達するぞ」
そう言ってオーキド博士はパソコンデスクに座り、滅多に使わないパソコンのマウスやらキーボードやらを、カチカチと動かし始めた。
「でもじいちゃん、パソコンでどうやってポケモンを仕入れるんだ?」
「まあ落ち着け、見ていれば分かる」
オーキド博士の横でパソコンの画面を見ているシゲルに対し、オーキド博士は黙々とパソコンをいじっている。
やがて、パソコンの画面には一人の若い茶髪の男の顔が現れた。
オーキド博士はマイクを着け、何かを交信するようだ。
「おお、久しぶりじゃのう、マサキ君」
『あ、オーキド博士やないですか。一体何のようでっか?』
パソコンの画面越しに、大阪弁で喋るその男はマサキと言うようだ。
「実はマサキ君、君に何でもいいから、そっちで余っているポケモンを3匹ほど貸して欲しいのじゃ」
『余っとるポケモンやて?ちょっと待ってや。すぐ終わるさかい』
そう言って、マサキは交信を中断し、ポケモンを探し始めたようだ。
「オーキド博士、さっきの語尾の『さかい』って何ですか?」
サトシが訊く。
「ワシに大阪弁を訊かれても困る」
あっさりとした返事だった。

『…あ、オーキド博士ェ、見つかりましたで』
しばらくすると交信が再開し、再びマサキの顔が画面に現れた。
「おお、それは本当か。早速こちらに回して欲しい」
オーキド博士がそう迫るが、マサキは頭をポリポリと掻いた後、恐縮そうにこう言った。
『あ…それが余っとるポケモン、2匹しかあらへんのや。まあその辺呑んでくれたらええけど』
「2匹か…まあとにかく、貸してくれるだけでもありがたいのう」
オーキド博士は少しため息をついたが、すぐに取り直した。
『まあまあ、ワイは“貸す”なんてシリの穴の小っこいことは言わん。その2つのボール、オーキド博士にやるわ』
「いや、本当に貸すだけで…」
『まあまあまあ、イーブイの方はワイのお気に入りやからここにももう1匹おるし、ピッピの方もフジはんに飼い主が見つかったって報告しとくわ。ほな送んで』
オーキド博士が遠慮するも、マサキの方はお構いナシのようだ。
「ヴィヴィヴィヴィヴィ…」
いつのまにかオーキド博士がボーゼンとしている間に、サトシ達が今まで気になっていた研究所の謎の装置が作動音を上げる。
「ヴィヴィヴィ…プシュー…」
謎の装置が、最後に蒸気を飛ばすような音を出して止まった。
サトシ達は何が起こったのか、さっぱり理解が出来ない。
『よし、ちゃんと送ったで。ほな、これで用は済んだことやし、交信切っとくで』
そう言ってマサキは、あっさりと交信を切った。
「…それにしても博士、何ですか、このギョーギョーしい機械は?」
サトシはさっき動いた、謎の装置に指をさす。
「ああ、あれかの。あれはをパソコンのやり取りによって、ポケモンを自由に送ったりするる機械でな、マサキ君はその機械の開発者なのじゃよ」
「へぇー、パソコンを自由に送ったりする機械か…」
「サトシ、ちゃんと話を理解しているの?」
サトシの言葉に、ミユキはすかさず突っ込む。
そしてオーキドは、その装置から送られてきた2つのモンスターボールを取り出し、ボールのスイッチを2つ同時にカチッと音を立てながら入れる。
そしてモンスターボールは赤の部分と白の部分が、ちょうど2つに割れ、中から何かが出てきた。

「ブイブイ〜♪」
「ピピッピ!」

2つのボールから出てきたポケモンの内、1匹目のポケモンは茶色い毛に覆われ、長い耳と太いシッポ、そしてエリマキのような首周りの肌色の長い毛が特徴のポケモンで、2匹目はほんのりピンク色の身体をしており、小さい天使のような翼と大きく先端が茶色い耳、そしてくるくると巻かれシッポが特徴的なポケモンだった。
「このポケモンはイーブイとピッピじゃよ。サトシ、ミユキ、シゲル、好きなポケモンを選べ。
オーキド博士がそう言った。
「じゃあ、あたしはそのピッピってポケモンにするわ。」
そう言ってミユキはピッピの方へ近づいた。
ピッピは人間には慣れていたのか、ミユキが来ても怯えた様子は無かった。
「じゃあオレはこのイーブイってポケモンに…」
サトシがそう言ってイーブイに近づこうとした瞬間…
「ちょっと待った!そうなると結局オレはどうなるんだよ!」
シゲルがそう叫んだ。
「まあ落ち着け、シゲル。ここは公平にじゃんけんで決めなさい」
オーキドがケンカしようとする2人を止め、そう言った。
サトシとシゲルは、しぶしぶじゃんけんを始めるが、結果はシゲルのパーが決まり、サトシはしぶしぶイーブイをシゲルに譲った。
「ブイ♪」
サトシはミユキとシゲルがポケモンをなでている所を、じっと見つめているのであった。遠い目で。
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アウストラロピテクス #5★2004.12/06(月)13:25
「博士!結局オレのポケモンはどうなるんですか!?」

まだポケモンをもらっていないサトシが、オーキド博士に対して不満を言っている。
それもそのはず、サトシにとって、ポケモンを扱う事は小さい頃から憧れていたことだからだ。
そして、そのポケモンと共にポケモンマスターを目指すことが、サトシ自身の夢であるのだ。
「まあまあサトシ、落ち着くのじゃ。いまからそのポケモンを捕まえに行くつもりじゃ」
「オーキド博士自身が捕まえに行くんですか!?」
自信満々にオーキドが言うと、サトシが驚く。
「当然じゃ!ワシも、小さい頃はよく森で虫取りアミを片手にポケモン取りに走ったモンじゃ」
「虫取りアミでですか?」
「そうじゃ。ムカシは『もんすたあぼおる』なんてシロモノは無かったからのう」
「へぇ〜、それで、何を捕まえたんですか?」
「…ワシの話にキョーミがあるのか?…話すと、ちと長くなるが」
その言葉に、サトシは首を横に振ってこう言った。

「…やっぱりいいです」


#4 カッコ良いポケモン


「…それじゃあサトシよ、今からポケモンを捕まえに行ってくるぞ」
支度を整え、サトシのためにポケモンを捕まえに行こうとするオーキド博士が研究所の玄関のドアのノブに手をかける。
「待って、オーキド博士」
サトシがオーキド博士を呼び止めた。
「博士、オレもポケモンの捕獲の作業を手伝います。だからオレも一緒に…」
「ダメじゃ」
サトシがそう言おうとすると、オーキド博士はそれを止めた。
「マサラタウンの草むらには、野生のポケモンがワラワラといる。じゃからサトシよ、お前の身に何かあってはキケンじゃ。今は研究所にの残っておれ」
そう言うと、オーキド博士はさっさと研究所を出て行った。

「オーキド博士、心配性なんだ…」
サトシがそっとつぶやいた。
「ピッピ!」
「ん?」
さっきミユキがもらった、ピッピの鳴き声だ。
「サトシ、あなたは博士がどんなポケモンを捕まえてくると思う?
ピッピを抱きかかえたミユキが、サトシに話しかける。
「そうだな…。オレは、ゲンガーやニドリーノみたいなカッコ良いやつがいいなぁ…」
サトシは、妄想を膨らませている。
「う〜ん、ゲンガーもニドリーノも、この辺りには生息していないようね」
「何!?」
サトシの妄想に、ミユキが水を差す。
「ゲンガーの生息地はシオンの里って言う所だし、ニドリーノの生息地は22番道路だからね。マサラタウン辺りの草むらだったら、せいぜいポッポやコラッタ…あとはキャタピーとかかな」
「いやに詳しいな、ミユキ…」
知識の無いサトシはミユキの言葉にすっかり感心しきっている。
「まあとにかく、カッコ良いポケモンがいいなぁ…」
ガラスの無い窓から覗かせる、快晴の淡い青空を見上げながら、サトシはそう言った。

一方、オーキド博士はと言うと、青々とした草むらを必死にかきわけながらポケモンを探していた。
「…はぁ、はぁ…見つからんのぉ、ポケモン」
オーキド博士はすっかり息を切らし、一休みにと、草のマットに腰をかける。
「いや〜、疲れた疲れた…はぁ、はぁ…」
そのままオーキド博士は寝転び、風の薫りに酔いながら白衣のポケットに忍ばせてあったチョコレートを取り出す。
「はぁ〜、この暑い中じゃ。チョコもすっかり溶けてしまったわい」
オーキド博士はねっとりとした銀色の包み紙を開け、チョコレートを口に運ぼうとした。
しかし、次の瞬間…

「キキーッ!」

「な、何じゃ、今の鳴き声は!?」
はっとオーキド博士は飛び起き、鳴き声のあった方見回すと、そこには木が生えていた。
だが、木が喋ったのではない。その木の上には、丸っこく肌色の毛に覆われ、ぶたのような鼻と長いシッポと手足が特徴のポケモンが右手でぶら下がっていたのだ。
そのポケモンは長い手足を器用に使い、木から木へと軽々と飛び移ってゆく。
「な、何じゃ、あのポケモンは!?」
オーキド博士がそう見とれている間に、そのポケモンはオーキド博士の手からまんまとチョコレートを奪い、再び木に飛び移った。
「ああ!ワシのチョコが!」
「ウキャキャキャ!」
そのポケモンは嬉しそうに、チョコレートを口に詰める。
だが、銀紙ごと口に入れたためか、口の中に電流が走り、驚いたそのポケモンは木からストンと落っこちてしまった。
「ウキャー!ウキャキャキャ!」
そのポケモンは高い鳴き声を上げながらのた打ち回る。
「何が起こったか分からんが、とにかくチャンスじゃ。今の内に捕まえるか」
オーキド博士はのた打ち回るそのポケモンに、あらかじめ用意しておいたモンスターボールを向け、そのまま投げようとする。
「ゆけっ!モンスターボール!」
「ウキャ!?」
オーキド博士が勢い良くモンスターボールを投げたが、そのポケモンはすかさずチョコレートを銀紙ごと飲み込み、パシリとモンスターボールをシッポで跳ね返す。
「なぬっ!それならもう1発!」
オーキド博士が威勢良く投げるも、そのポケモンは木に飛び移り、軽々と避ける。
オーキド博士も負けじと3発目、4発目と投げていくが、まるでパターンかのようにそのポケモンは次々と避けていった。
やがて、オーキド博士の用意していたモンスターボールは尽き、そのポケモンは木々の中へ溶けていった。
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アウストラロピテクス #6★2004.12/06(月)13:27
「…ただいま帰ったぞ…」
オーキド博士が湿った声で研究所のドアを開ける。
あたかも、隙間風でドアが開いたかのように。
「あ、オーキド博士。どうでした、ポケモン捕りは?」
期待に満ちたサトシが目を輝かせる。
「う、うム…、実は、ポケモン捕獲にしっぱ…」
「博士博士博士!何を捕まえたのですか!?コラッタですか?ポッポですか?キャタピーですか?」
目を真珠にしたかのように輝かせたサトシは、ドアを背にしたオーキド博士にジリジリと近寄る。
「こ…コラ!まずは落ち着かん…」
「ええっ!コラッタを捕まえたのですか!?」
「サトシ、まずはオーキド博士の顔から離れなさい。それとエリ首も放して」
興奮するサトシをミユキがなだめる。
「バカだろお前…」
シゲルがサトシに対して、横目でつぶやく。

「…サトシよ、落ち着いて聞くがよい。…ポケモン捕りは、その…、失敗に終わった」
その言葉に、興奮していたサトシが石化した。


#5 思い出のファミコン


「…はかせぇ…、『しっぱい』ってどおいうことですかぁ…?」
「なんだったんだよ!さっきまでのムダなコーフンは!!」
フ抜けた声のサトシにシゲルが怒り混じりのツッコミを入れる。
「失敗は失敗じゃ。サトシにはすまんが、もう研究所にも残っているポケモンはおらん」
「そ…そんなぁ…」
石化したサトシが、音を立てて崩れるかのように床に手を着いた。
「…まあポケモンについては後日何とかする。取り合えず今は諦めてくれんかの」
悔し気なサトシが、帽子を目の下まで下げる。
「ハハ、残念だったな。お前だけポケモンをもらえなくて」
嫌味気に笑ったシゲルが、サトシの肩をポンと叩く。
「…るせぇよ…」
「ん?何か言ったか?」
帽子を目の下まで下げたサトシが怒りに震える。
「ウルセェっつってんだよこのギザギザアタマがぁ!!」
「!!」
サトシの叫びに周りの研究員までもが凍りつく。
「あーそうですかそうですか。ギザギザアタマは心までギザギザですか。どうせならまーるいモンスターボールもギザギザになって握った時に手にブッスリ刺さって病院送りになっちまいな!!」
そう言ってサトシは研究所のドアを乱暴に開け、研究所から走り去っていった。
「…コドモかアイツは」
あきれた様にシゲルがつぶやく。…というかあきれている。

「何でオレだけポケモンが無いんだよ!何でオレだけ、何でオレだけなんだよ!!」

その時のサトシは夢中だった。
それも、何に夢中になっていたかが分からないくらいに。
サトシが気が付いたときには、家の2階の自室にいた。
ご飯…ムシャクシャはしていたけれど、多分食べていたと思う。
空は藍色か黒かはっきりしないような夜闇に包まれ、その中でサトシは部屋の電気も灯さずに塞ぎ込んでいた。
「はぁ…」
無音の空間のなかに、ため息のみが広がる。
ふとサトシは昼間、置きっぱなしだった四つ折りのテストを開き、黒影のようなものと角と耳が長いもの、すなわちポケモン同士が戦っているラクガキを見ると、それを中心とするようにクシャクシャに丸め、ゴミ箱へ投げ込んだ。
そしてサトシはもう一度深くため息をつくと、今度はすすり泣くような顔で先程よりも深く塞ぎ込んだ。

ふとサトシの横目に、あるものが目に入った。
…ファミコンだ。ちょうど、部屋の真ん中でテレビと一緒に繋がれている。
サトシはそれをじっと見つめ、あることを回想した。

昔、サトシが5歳の頃、よく母親にこのファミコンをねだったことだ。
母親がデパートへ買い物へ行くたびに、サトシは値段の高いファミコンをねだり、デパートの床を泣きながらのた打ち回ったのだ。
それを母親に引きずられつつも必死に抵抗した事は、今でも覚えている。
ちょうど、5年前の今頃だろうか、やっとの思いで誕生日を期に、ファミコンを買ってもらったことはさらに深く覚えている。
そのファミコンと一緒に買ってもらったのが、あるゲームソフトだ。
とある主人公が冒険をして、お姫さまを救うという設定である。
『おれもつよくなって、いつかはこのゆうしゃみたいにかあちゃんをたすけるんだ!』
プレゼントを貰った直後のセリフ。
とにかくその日は嬉しくて、夜も眠れないくらいに興奮をしていたのだ。
ちなみに、ゲームソフトはこの1本しかない。
よく10歳の今まで飽きずに遊び続けた物だ。
今では、「スーファミ」こと、スーパーファミコンが主流だというのに。
いや、最近では携帯型でなんとかボーイと言う物も発売されたそうだ。
どっちにしろ、サトシの小遣いは、ぶたざる型ポケモンの貯金箱の金額も合わせて3000円しかないのだから、高いゲーム機などは到底買えそうにない。
これでも一応、サトシ自身にしては貯まっている方だが。
そんなファミコンだが、今ではすっかり遊ぶ機会も少なくなり、ホコリがかっている。
だけど忘れはしない。あの日、我が家に夢にまで見たファミコンがやってきたことは。
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アウストラロピテクス #7★2004.12/30(木)01:13
「…ポッポ、ポッポー…」
朝だ。
窓の外から、小鳥ポケモン、ポッポのさえずりが聴こえる。
知らない内に、空は水にわずかな青色の絵の具を垂らしたかのような水色に、日の光が混ざった色になっていた。
その中で、サトシはどうやら眠ってしまったようだ。
ミユキやシゲルはあの後何をしたのだろう。…サトシが、研究所を一目散に出て行った後に。
仲良くポケモンと一緒に戯れたのだろうか。…今となってはもうどうでも良いことだが。
そう、もうどうでも良いのだ。…ポケモンなんて。ポケモンマスターなんて。


#6 小包、オーキド宛


今日は日曜日だ。
学校の授業は無いので、近所の子ども達は勉強を忘れて1日中遊びまわるのだ。
その中で、ミユキとシゲルは、今日もオーキド博士の研究所へ来ていた。
サトシは、相変わらず塞ぎ込んでいる様だが。

「お使いですか?」
ミユキの声だ。昨日オーキド博士から貰ったピッピの入っているモンスターボールを、今日は腰につけている。
同様に、シゲルもイーブイの入ったモンスターボールを腰につけている。
「ああ、そうじゃ。ここから北のトキワシティのフレンドリィショップにワシが予約しておいた物がある。トキワシティまでの道には、ポケモンが飛び出してくる草むらがあるが、お前たちもポケモンを持ったからには大丈夫じゃろう」
「それで、じいちゃん、一体何を予約したんだ?」
シゲルが訊く。
「はっはっは。そこまでは秘密じゃ。それでは諸君、控えの伝票は持たせたから頼んだぞ」
そう笑ってオーキド博士は、ミユキとシゲルを見送った。

マサラタウンとトキワシティを結ぶ道、1番道路。
草むらが青々と茂ったこの道路には、コラッタやポッポ等が生息する。…と言っても、人間にはあまり危害を加えないポケモンなので、ポケモンを持っていない一般人でもよく通ることが多い。
だが、念入りにポケモンを持って通る人達もいるようだが。
この1番道路では、マサラタウン普通の子どもから、一人のポケモントレーナーへと旅立っていく人達も何人も見送っていったそうだ。オーキド博士もその1人なのだろうか。
いずれミユキ達も、見送られる立場になってゆくのだろうか。
「いやー、オーキド博士も心配性ね。トキワの森ならまだしも、わざわざ1番道路を通るくらいでポケモンを持たせるなんて」
「全くだ。まあ、オレはオーキド博士の予約したモノの方が気になるな」
「どうせ特注品のモンスターボールか何かでしょう?大した物じゃ無い事は確かだけど」
そんな会話をしながら、ミユキとシゲルは1番道路を抜けて行った。

「トキワは緑 永遠の色」
自然豊かなこの町は、緑がイメージカラーであり、このようなキャッチコピーが作られているのだ。
この町はマサラと同様、極めて大きな町とは言えないのだが、ポケモントレーナーが、バトルによって傷ついたポケモンを無料で治療する、いわばボランティア施設のポケモンセンターや、トレーナーには欠かせない、ポケモンを捕まえるモンスターボールやポケモンの傷を治すキズぐすりが売られている24時間営業のフレンドリィショップがあるのは、マサラタウンとは違ったところだ。
ミユキとシゲルはこの町へ着くなり、早速オーキド博士が注文した品があるというフレンドリィショップへと向かった。
「いらっしゃいませー」
コンビニ風の内装の店内で、店員がお決まりのように頭を下げる。
「すいません、あたし達、オーキド博士に頼まれてこれを受け取りに来ました」
そう言ってミユキは、店員にオーキド博士から渡された控え用伝票を差し出す。
「はい、オーキド様ですね。少々お待ち下さい」
そう言って店員は、奥の在庫を探し始めた。
やがて、店員が小包を持ってそれをミユキに差し出した。
その小包には、「シルフカンパニー」と書かれている。
「えーと、料金は前払いでしたから、控え用伝票を受け取らせていただきますね。」
そう言って店員は小包の受け取り用伝票にハンコを押し、「ありがとうございましたー」と言うと再び頭を下げた。

「シゲル、この小包、思ったより軽いよ」
店から出てきたミユキが、同じく店から出てきたシゲルに小包を持たせてみる。
「…ん、本当だな。こりゃあ、中はほとんど発泡スチロールだな」
「でもこれが仮にモンスターボールだったとしても、それは重いわ」
「確かに。だとしたら研究機材か?」
「オーキド博士、機械オンチだけどね」
「それと、この小包に書かれている『セルフカンパニー』とか何とか言うのも何処かで聞いたことあるし」
2人は小包の中身を色々と想像しながら、マサラタウンへの道のりを折り返していった。

一方、こちらはマサラタウンの、サトシが住んでいる家。
『…うム、それで、サトシ君のお母さん、そちらの準備は出来ているようで?』
「はい。昨日からうちの息子、晩ご飯も食べずに自室に引きこもっているんですよ。ですがそれだけに、良い機会だとは思いますがね」
『そうですか、それはありがたいです。それではサトシ君のお母さん、後は頼みましたよ』
「はい。…オーキド博士」
どうやら、電話越しで話していたようだ。
「ピッ」という音を最後に、2人の交信は途絶えた。
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アウストラロピテクス #8★2004.12/17(金)18:52
「はぁ〜」
サトシは勉強机を前に、深いため息を着いていた。…と言っても勉強をしているわけではないが。
塞ぎ込んだ様子は昨日よりは引いたものの、完全に回復したとは言えない。
だが、サトシはある物を見つめていた。
…カレンダーだ。4月のとある日が、赤いサインペンのインクの丸で囲まれている。
その丸の下に、サトシ自身が書いた、「誕生日」という文字がある。
…そう、今日はサトシの誕生日なのだ。
だが、毎年楽しみにしている誕生日を、これほど鬱な気分で迎えたのは初めてかもしれない。
いや、よくよく考えると、たかがポケモンを貰えなかっただけでこんなに塞ぎ込んだ自分がバカだったのかもしれない。
じゃあ、今から次の算数のテストへ向けて猛勉強するか?…いや、サトシには「ベンキョウ」という言葉は全く相性が合わないのだ。
…いずれにしろ、今年の誕生日だけは何だか全然楽しみが沸いてこない。
6歳の誕生日の日に、ファミコンを買ってもらった日とは全く反対で。


#7 プレゼント


「おぉ、やっとコイツが届いたか!」
ミユキとシゲルが持ち帰ってきた小包を、オーキド博士は早速開けてみる。…あたかも物凄く心待ちにしていたかのように。
「…何ですか?その中身って」
ミユキが、オーキド博士が小包から取り出したモノを見ながら尋ねる。
「はっはっは、これが見ての通り、ポケモントレーナーの必需品セットじゃよ」
「…見てもゼンゼン分かりません。それに、何でこんな物注文したのですか?」
オーキド博士が取り出した物は、何やらプラスチックで出来たようなカードが3枚と、何とも言えない変な機械が何個か入っている」
だが、これがポケモントレーナーと何の関係があるか分からない上、何故オーキド博士がこんな物を注文した理由も分からない。
「博士、一体これは何のつもりですか?」
「そうだよ、じいちゃん。今度は通信販売で変な浪費グセを付けるつもりか?」
ミユキとシゲルが同じような疑問を抱く。
「はっはっは。このオーキドが直々に教えてやろう」
「いやに張り切っているわね」
オーキド博士は、自信満々に、これらのカードや機械の説明と注文した理由を長々と話し始めた。

―その夜
「サトシ、ご飯よー」
サトシの家で、母が2階にいるサトシを1階から呼ぶ。
しばらくすると、サトシは「はーい」と返事をすると共に階団を駆け下りる。
だけど、サトシが階段から下りた先は、見慣れたいつもとは違うもので迎えてくれたのだった。

「ハッピーバースデー・サトシ!」

そのすぐ後に、母親の持つクラッカーが「パァァン」と鳴った。そしてこの迎え声は、母親から息子のサトシによるものである。
サトシはクラッカーから弾け飛ぶ金銀色のテープを浴び、色めきたった表情でいる。
「母ちゃん、これは一体…」
サトシが家の壁に張り巡らされている簡単な飾り物と、テーブルに並べられたご馳走を目の前に、呆然と言う。
「決まってるじゃない。今日はサトシ、あなたの11回目の誕生日だから、ね」
「誕生日…か。すっかり忘れかけていたな…」
誕生日は毎年、母親と二人で祝う。じゃあ父親はどうしたのかというと、それには色々と深い訳があるのだ。
とにかく、サトシは毎年、誕生日のプレゼントを楽しみにしているのだ。
まあ、プレゼントは毎年秘密なのだが。
「サトシ、今年のプレゼントはいつもとは一味違うわよ?何か分かる?」
母親が、プレゼントを渡す事を楽しみにするようににっこりと笑う。
「なんだい母ちゃん。今年のプレゼントは映画のチケットか?ほら、最近公開された、線路の上で男の子が4人くらい歩いてるあれとか」
サトシがプレゼントの内容を当てて見せるが、母親は「ハズレよ」と言わんばかりの顔でプレゼントが入っている箱を取り出す。箱は結構小さい物である。
「これはオーキド博士から。中身は開けてみれば分かるわ」
母親はサトシよりも期待しているかのように箱をテーブルの上に置いた。
「へぇ、オーキド博士からかぁ。珍しいな。じゃあ、お下げの女の子がレンガの上を歩いている映画とか…」
そう期待を膨らませながら、サトシは包装紙を剥がしてゆく。やがて、サトシは箱の中身を取り出し、表情を変えた。
「!?…これは…何?」
一目見ただけでは、何に使うか分からない道具が何点かある。
まずは、箱の上のほうに入っていたプラスチックで出来たカード。水色で右上にIDナンバーのようなものが振り込まれている。
次に、赤色のボディで、液晶の画面と青いランプと十字キーとが色々と付いた、ナゾの機械。
最後に、白と水色のツートンカラーで、上の方に小さな赤ランプがある万歩計のような機械。
一体何に使うのだろうか。全く検討が付かない。
「母ちゃん、これって何に使うの?何かの会の特典とか?ひょっとして、オーキド博士が頼んだお友達に紹介するとトクするキャンペーンとか?」
カードや機械を色々な角度で見るサトシに、母親が何かを告げる。
「フフ、それもハズレよ。実はね、これ、『トレーナーキット』っていう、ポケモントレーナーの必需品なのよ」
「『ポケモントレーナー』!?」
ヤブから棒に母親から告げられた言葉に、サトシはかなり驚愕した。
何せ、こんな物が渡された理由が、サトシにはウスウス予想出来たからだ。
だがその驚愕をサトシは押さえ込み、サトシはすぐにそれぞれの商品に付属されている説明書を読んだ。
まずは、水色のプラスチックのカードからだ。

・トレーナーカード
ポケモントレーナーの必需品。いわば免許証のようなものです。
カード表面に顔写真を貼り、名前と御使用年月を書き込めば、いつでもご使用可能です。
右上のIDナンバーは、いわばシリアルナンバーです。
カード表面下部にはポケモンリーグ認定バッジをはめ込むことが出来ます。
カード裏面は、お客様のポケモンによる対戦成績が記録され、他にもポケモン交換などの記録も残ります。
また、万が一このカードを紛失、または破損された場合、原則として再発行は出来ません。当社もそれに関する責任を一切負いかねますのでくれぐれも正しくご愛用下さい。

次に、サトシは赤いボディの機械の説明書に目を向ける。

・ポケモン図鑑
見たことの無いポケモンに遭遇した時のためのトレーナーの必需品です。
本品をポケモンに向け、左上のボタンを押せばそのポケモンの種族、属性等と進化系統、そしてそれに関する詳細を示す事が出来ます。
また、本品では現在カントー地方で生息が確認されている146種類のポケモンに対応しています。

最後に、サトシは白と水色の万歩計の様な機械の説明書に目を向ける。

・バトルサーチャー
本品の電波送信スイッチを入れると、周りのポケモントレーナーのバトルサーチャーに反応して赤ランプが光り、そのトレーナーとポケモンバトルを申し込むことが出来ます。
また、本品の電波受信スイッチを入れると、自分のバトルサーチャーが反応することがありますので、その時はバトルを申し込んだトレーナーとポケモンバトルを楽しむ事が出来ます。
また、ポケモンバトルをしたくない場合や、周りに障害物がある場所、病院や航空機内では電波受信スイッチをお切りください。

サトシが説明書を読み終えると、オーキド博士がサトシに何を託してくれたのかが分かったような気がする。
オーキド博士は以前、こんな事をサトシ、ミユキ、シゲルに言っていたのだ。
自分はサトシと同じくらいの年齢の頃、自分もポケモンマスターになると誓い、この町を、マサラタウンをとかげポケモン、ヒトカゲと共に旅立っていったのだ。しかし、オーキド博士はあと一歩のところでポケモンマスターに及ばず、それ以来はポケモンの研究に徹したと。
だからオーキド博士は、自分が果たせなかった夢を、サトシに託したのだろう。
いや、託されたのはサトシだけでなく、きっとミユキやシゲルも誕生日プレゼントとは言わないが、このキットをもらって同じ思いをしているのだろう。

ポケモントレーナーとして旅立つ道具は揃った。じゃあ、あと一つ必要なものは…

「サトシ、説明書、読み終えた?」
「あ、母ちゃん…」
説明書をとっくに読み終わり、色々と回想していたサトシに母親が呼びかける。
「フフ、サトシも冒険に出てがるんだから、男の子なのね」
「母ちゃん、オレの事、分かっていたんだ…」
サトシも何かを理解したような顔をしている。それに対し、母親は「当然でしょ?」と言わんばかりの顔だ。
「さぁ、サトシ、今度は私からのプレゼントよ」
そう言って母親は、先程よりもさらに一回り小さい箱を取り出す。
サトシは静かに、そして穏やかにその箱を開ける。

ポケモントレーナーとして旅立つ道具は揃った。じゃあ、あと一つ必要なものは…そう、冒険には欠かせない大切なパートナーなのだ。

プレゼントの箱の中から出てきたのは、1つのモンスターボールだった。
それを目にしたサトシは、一瞬驚愕の表情を隠せなかったが、聡はそれを落ち着かせ、そのモンスターボールを緊張して汗ばんだ手で掴む。
そして思い高まる中、サトシはそのモンスターボールを力いっぱい投げた。
「ポン!」という音と共に現れたのは、黄色い身体で、長く先が黒い耳と丸く円らな瞳、そして短い手足に赤い頬と根元の茶色いギザギザのシッポのポケモンが姿を見せた。

「ピッカ」

そのポケモンは、サトシの方を見つめてそう鳴いた。
早速サトシは、そのポケモンにポケモン図鑑を向ける。

ピカチュウ ねずみポケモン
しっぽを立てて 周りの気配を感じ取っている。だから、むやみにしっぽを引っ張ると噛み付くよ。

そんな図鑑の説明が出た。どうやら、このポケモンの名前は「ピカチュウ」と言うらしい。
決して、「カッコ良いポケモン」とは言いいがたいけれども、サトシにとっては、ピカチュウが「カッコ良いポケモン」に感じる。そんな気がするのだ。
何も姿や様相の事を言っているのではない。本当にカッコ良いポケモンは、トレーナーの見ていないところでも一生懸命である心を持つものこそを指すのだ。
サトシは、そのピカチュウの瞳を見てそう判断したのだ。

「よろしくな、ピカチュウ」
「ピッカ!」
サトシがそう話しかけると、ピカチュウは愛想の良い返事をしてサトシに飛び掛った。

その後、サトシはご馳走を食べ、そして寝床に付くかと思いきや夜を徹して久々に「ファミコン」をやっていた。
ポケモンマスターへの道のりとなる冒険は、明日に控えているというのに。
だからこそ、サトシはファミコンをやっていたのだ。
母親と一番深く思い入れのる物で遊び倒すことで、冒険の途中、いつも一人きりで心配している母親を忘れないようにするために。
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アウストラロピテクス #9★2004.12/17(金)18:55
「…ポッポ、ポッポー」
今日も小鳥ポケモンのポッポが、春風のベースに乗せて朝のアラームを告げる。
「…ん…、朝か…」
昨夜、ファミコンに熱中している内に熟睡してしまったサトシが、目蓋をこすって窓を見上げる。
窓から漏れる朝の日差しは、サトシをゆっくりと包む様。
空は、まだ朝なので淡い色合いだが、陽が昇ると共に快晴の青さを増してゆくだろう。
「…そうだ、今日は色々と忙しい日だったんだな。まずはオーキド博士にも色々言わないと…」
サトシは熟睡する自分を前にしていたために一晩中作動してすっかり熱がこもったファミコンの電源を切り、サトシは黄色いリュックサックを取り出す。
その中へ、昨日オーキド博士から貰った誕生日プレゼントのポケモン図鑑と、カントー地方のタウンマップを壁から剥がして入れる。
リュックの肩ヒモにはバトルサーチャーを取り付け、サトシはそのリュックを自室のドアの横に置く。
そしてサトシは寝間着から普段着に着替え、ズボンのポケットの中にトレーナーカードを入れ、ベルトにはある物を取り付けた。サトシの相棒、ピカチュウの入ったモンスターボールを。


#8 冒険のはじまり


サトシは2階の自室から1階の茶の間に降り、母親と朝食を食べながら会話を交わした。
「あら、今日は起きるのが早いじゃない、サトシ」
「まあね。今日はオレが旅に出る日だから」
「サトシがうちのご飯を食べるのも今朝で最後ね」
母親は浮かない顔をしながら言った。
「寂しいのか、母ちゃん?」
「少しはね」
「…母ちゃん…」
サトシも少し浮かない顔をする。
「でも、嬉しいわ。昔はファミコンを泣きねだっていた日もあったのに、今ではすっかり大きくなってお母さんを離れる歳になって。ほら、あなたまで浮かない顔してどうするの」
そう言って、母親は浮かない顔をしたサトシにそう呼びかけた。
「…そうだね。何も言わなくても、母ちゃんはオレがいずれ旅に出る事は知っていたんだね」
「ええ。あなたにもそれが分かるようになったのね。立派だわ」
そういった母親に対し、サトシは箸をご飯が入っていた茶碗の上に置き、こう言った。
「行ってくるね、母ちゃん。ご飯、美味しかったよ」

リュックサックを背負ったサトシは、オーキド博士にも一言言っておこうとオーキド研究所へ走った。
きっとそこには、ミユキやシゲルも待っているのだろう。
「ガチャ」
サトシは研究所のドアを開け、そこにはミユキやシゲルがいたが、真っ先にオーキド博士の方へ走った。
「オーキド博士、おはようございます!」
「ム、サトシ君かね?」
サトシの呼びかけに、オーキド博士が振り向く。
「おお、どうじゃったか?昨日のワシのプレゼントは」
オーキド博士は自慢げに言う。
「はい、ありがとうございます」
「はっはっは、どうやら詳しい事はサトシ君のお母さんから聞いておるようじゃのう」
「はい、そうです。…あ、それと一昨日は研究所を抜け出して…その、すいませんでした」
サトシは頭を下げ、小声で謝った。
「なあに、そんな事はもうどうでもいいのじゃよ」
オーキド博士は相変わらず笑っている。

その後オーキド博士は表情を変え、咳払いをした。
「コホン!…サトシ、ミユキ、それにシゲルよ。昨日、君達にトレーナーキットを渡したのは他でもない。実は、ワシは君達のお母さん達と話し合い、君達が前々から待ち望んでいた事、すなわちポケモンリーグへ目指す事を認めようという結論に至ったのじゃ」
オーキド博士がそう言うと、しばらくの沈黙が流れ、シゲル、ミユキ、サトシはこう言った。
「へへ、やっぱりな。じいちゃんがポケモンをくれるからには、オレはこんな展開を待ってたぜ」
「ええ、あたしもポケモン者としては、出来るところまで進みたい。そう思っているわ」
「ポケモンリーグか…、道のりは遠いけど、オレは必ずポケモンマスターになってマサラタウンへ帰るぜ!」
それぞれ3人がそういった後、オーキド博士は再びにっこりと笑った。
すると、シゲルがサトシにこう話しかけた。
「なあサトシ、せっかくじいちゃんから旅の許可を貰ったんだから、ウォーミングアップに一発やるか?」
シゲルがそう言ってトレーナーカードを突きつけると、サトシはうなずき、同じくトレーナカードを突きつけた

「ああ、いいぜ!早速ポケモンバトル開始だ!!」
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アウストラロピテクス #10☆2004.12/16(木)21:23
シゲルにポケモンバトルを挑まれたサトシ。
サトシの答えはもちろん「イエス」だった。
オーキド博士の研究所を駆け出し、大地を踏みしめる2人は早速モンスターボールを突きつけあう。
シゲルの所有ポケモンはイーブイ。サトシの所有ポケモンはピカチュウ。
2匹とも手に入れたばかりのポケモンなので、まだまだ扱いには慣れない2人だが、戦う姿は「クサレ縁」という名の鎖に絡まれながらも真剣そのものだ。


#9 初めての戦い

「ガチャ」
オーキド博士が2人の声を聞きつけ、研究所の外へ出てきた。
「ほぉ…、ポケモンバトルじゃと?…いやぁ、見るのは久々じゃのう」
モンスターボールを突きつけあう2人の姿を見たオーキド博士は、そう言って期待に満ちた顔をしている。
「まったく、2人ともポケモンを持ち合うなり話が早いわね」
その横で、見物をするミユキ。落ち着いた表情だ。
「ピッピ、あなたもいずれは同じように戦うんだからお手本として見ておくのよ」
そういって、ミユキはピッピをモンスターボールから出す。
ピッピは、「ピッピ♪」と可愛らしい鳴き声を上げると、ミユキに抱えられた。
落ち着いた表情のミユキとは対照的に、真剣な顔つきのサトシとシゲルは同時にモンスターボールを宙に放った。

「ゆけっ!ピカチュウ!!」 「ゆけっ!イーブイ!!」

2人が力強く投げたモンスターボールはそのまま地に降り、光と共にそれらのポケモンはモンスターボールから放たれる。
「ピカー!」 「ブイー!」
2匹のポケモンはモンスターボールから出るなり、お互い鳴き声で威嚇し合う。
「えーと、ピカチュウは電気タイプのポケモンだから…」
モンスターボールを投げた後、サトシはポケモン図鑑を開きながら何かを考えているようだ。
「早くしろよ。普通のトレーナーは旅立ちの前日にこういう事は念入りにチェックしておくものだろ?」
その間、待たされているシゲルが前日にファミコンで遊んでいたサトシを急かす。
「『ピカチュウのような電気系のポケモンは“電気ショック”という技が使える』…か」
シゲルの言葉を聞いていなかったサトシはそうつぶやいた後、ポケモン図鑑のスイッチを切ってピカチュウに指示を与える。
「ピカチュウ、まずは電気ショックでイーブイに先制攻撃!」
サトシはピカチュウに人差し指を突きつけ、そう指示を与えた。
その僅かながらの間、サトシは何かを感じていた。
全身から煮えたぎる興奮、それが身体から手から指の先へと伝い、ピカチュウと心が同調するかのように感じられたのだ。
…気のせいだろうか?
「ピッカー!」
サトシの指示をピカチュウは鳴き声で返した。
そして、ピカチュウの頬には少しずつ電気が溜まってゆく。
「(やっぱりだ!)」…サトシはそう確信した。
サトシの指示が、ちゃんとピカチュウに伝わっていた事を。ピカチュウと心が同調していた事を。
「チュウゥゥー!」
そう叫んだピカチュウの頬からは、さっきまで溜めていた電気が思いっきり弾け飛び、その電撃はイーブイを目掛けて走ってゆく。
「イーブイ、避けろ!」
シゲルがすかさずイーブイにそう指示を出すが、その指示が一歩出遅れていたのか、その電撃はイーブイを襲った。
「…ブ…ブイー」
イーブイはよろよろと立ち上がる。
「初戦から大打撃を喰らうとは…。イーブイ、今はモンスターボールの中で休んでいろ」
イーブイには僅かながら戦う力が残っていたが、初めて戦いということでイーブイの身を案じたシゲルは、イーブイをモンスターボールの中へ戻した。
「あれ?シゲル、もうイーブイを戻したのか?」
シゲルの行動にサトシは、少し疑問を抱く。
「ああ、最初からブッ倒れるまで戦わせてはイーブイも疲れるだろう。確かにポケモンセンターでは体力は回復できるが、精神的な疲労までは回復できないからな」
「なるほどね」
シゲルの言葉にサトシは納得した。
「ひとまずこの勝負はお預けだ。いつか次に戦うときは強くなっておけよ、サトシ」
シゲルの言葉にサトシは、口元に笑みを浮かべながらこう言った。
「お前もな、シゲル」

その後、サトシもピカチュウをモンスターボールに戻そうとした。
「戻れ、ピカチュウ」
そういってサトシはモンスターボールをピカチュウに向けるが、ピカチュウは「ピッカ」と鳴くとそっぽを向き、そのままモンスターボールから遠ざかってゆく。
「おい、ピカチュウ、何で戻らないんだ?」
そうサトシが言いかけるも、ピカチュウは「ピッカ」と鳴いてそっぽを向くばかりである。
それを見ていたオーキド博士が、サトシにこう言った。
「フム…、どうやらこのピカチュウは、野生の血が強いためかモンスターボールに入る事が好きではない様じゃの」
その言葉に、サトシは疑問を抱き、こう言った
「でもオーキド博士、ピカチュウはさっきまでは何嫌がることなく、大人しくモンスターボールに入ってましたよ?」
その言葉を聞いたオーキド博士は、少し考えた後こう答えた。
「それならば、ピカチュウはポケモン同士と戦う事で今まで薄れていた野生的本能を取り戻したために、モンスターボールを嫌がったのじゃろう。まあ、こんな事は滅多に無いがな」
その答えに、サトシは「なるほど」と納得する。
「ハハ、そうかもしれないな」
オーキド博士の答えに、同じように納得したシゲルが口を挟んだ。
「このイーブイも、モンスターボールで大人しく休んでいると思いきや、何故か勝手に出てきたんだよ。しかも、そこからイーブイはモンスターボールへ戻ろうとしないのさ」
「シゲル、お前もか…」
その姿にサトシは呆然としている。
さらに、今度はミユキが口を挟んだ。
「あたしのピッピも、あなた達の戦いっぷりを見ているうちに野生の帰ってきたようで、モンスターボールに戻ろうとしないのよ」
「ミユキまで…」
サトシはさらに呆然と、ミユキと彼女に抱えられているピッピの姿を見ている。
「いやはや、珍しいモンじゃのう。普通のポケモンではちゃんとモンスターボールの中に納まっているというのに、3匹もこんな特殊なケースに当てはまるとは」
オーキド博士はそんな3匹を見て、すっかり感心している。
やがて、3匹のポケモンがモンスターボールに戻らないと言う事が分かった後、ミユキがある提案を出した。
「ねえサトシ、シゲル、あたし達が持っているポケモンにニックネームを付けてみない?」
「「『ニックネーム』?」」
サトシとシゲルが同じような合間で聞き返す。
「そう、いわば愛称ね。種族名で呼ぶのもおかしいと思うから」
「なるほど。…で、ミユキはそのピッピにどんな名前を付けるんだ?」
サトシは提案者であるミユキに訊く。
するとミユキは、もう決めていたようですぐに答えた。
「あたしはね、このピッピに『ムーン』って付けるの」
「へぇ、いいんじゃないか?」
サトシはそう答えを交わす。
「サトシはそのピカチュウにどんな名前を付けるの?」
今度は、ミユキがサトシに訊く。
そしてサトシは、少し考えた後こう答えた。
「オレは、このピカチュウに、『アース』って付けるぜ」
サトシは自分が考えた名前を、どこか誇らしげに言う。
今度は、シゲルがこう口を挟んだ。
「オレのイーブイの名前は『サン』。確かに種族名で呼ぶよりかは気分がいいな」
3人ともそれぞれの所有ポケモンにニックネームを付けるとそのポケモンを肩に乗せた。

「…そろそろマサラを発つ時間だな。これで、オレ達の家も、オーキド博士の研究所も見納め…か」
サトシがそうつぶやき、自分の家の方を少しだけ見た。
そして、これから旅立つ3人はオーキド博士に最後の別れ挨拶をした後、シゲルだけは先に走っていったものの、2人は始まりの白い色、マサラタウンを離れ、次の町へ向かった。
永遠の緑の色、トキワシティを目指して。
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アウストラロピテクス #11☆2004.12/21(火)22:17
サトシ、ミユキの2人はトキワシティへ続く1番道路を歩みながら会話をしていた。
「それにしても、シゲルは何で自分だけ先に走って行くのかしらね」
ミユキが独り言を言いながら草むらの上を歩く。
「まあアイツは『一匹ウィンディ』的な性格だからな。好きに旅させてやろうぜ」
同じく草むらの上を歩くサトシは、そう答えてシゲルのことを気にかけていない。
「そうね。サトシと一緒にいたらケンカが絶えなさそうだし」
「ミユキ…、それは余計だ」
ミユキの言葉にサトシはキッパリと言った。


#10 トキワの町並み


1番道路を抜け、トキワシティに着いた2人はフレンドリィショップへ向かった。
トキワシティはマサラタウンと同じく、人口の少ない小さな町だが、ポケモンセンターやフレンドリィショップ、はたまたポケモンジムまであるというのだ。
ポケモンジムとは、ポケモンリーグを目指す者ならば必ず通らなくてはならないいわば登竜門である。
ポケモンジムはカントー地方の8ヶ所にあり、そこにはそれぞれ「ジムリーダー」と呼ばれる、強力なポケモンとそれを扱うポケモントレーナーが待ちかまえている。
そのジムリーダーの強力なポケモンとの勝負に見事勝てば、ポケモンリーグ認定の「リーグバッジ」が手に入る。
そのリーグバッジを8種類全て見事集めきれば、ポケモンリーグで更なる強者と戦う事が出来る。
だが精々、毎年10万人の人々がポケモンリーグを目指すとすると、リーグバッジを4個以上集められるのは2万人位で、更にその中からリーグバッジを8個集めきれる人数は2000人にも満たないと言われている。ポケモンリーグへの道は実に極めて厳しいのだ。
そしてサトシ達は現在「10万人」の中の1人であり、後々サトシ達はその道の厳しさを味わうであろう。
ちなみにここ、トキワシティのポケモンジムは、数ヶ月間の中で、ジムが開かれるのはたったの数日だけだと言う事から、そのジムは「開かずのジム」と呼ばれ、更にジムリーダーの名はトキワジムの関係者でも知らされていない。
どちらにしろ、旅立ったばかりのサトシ達の実力で8つのジムの中で随一の実力を誇るトキワシティジムに挑むことは、まだまだ先の話になりそうだ。

トキワシティへ着いた後、真っ先にフレンドリィショップへ向かった2人は、この旅の先で色々と必要になるモンスターボールや、ポケモン用の薬を買い揃えていた。
「えーと、ポケモンを捕まえるためにもモンスターボールは5個、近くにポケモンセンターが無い時のためにキズぐすりは3個、後は…」
そう確かめながら、サトシは買い物カゴにそれらの商品を詰めていく。ミユキも、サトシと同じ商品を同じ個数ずつ詰めているようだ。
「サトシ、この先のトキワの森ではビードルのような毒針を持ったポケモンが出てくる事があるから、どくけしは買っておいた方がいいわよ」
「そうだな。ポケモンが毒にかかると、じわじわと体力が削られるそうだからな」
ミユキが傍でサトシにアドバイスを送り、そしてサトシは買い物カゴのどくけしを2つ入れる。
「あたしは念のため、まひなおしを買っておこうかな…と」
ミユキは、どくけしを2つ買い物カゴに入れたサトシとは別に、まひなおしを1つ買い物カゴに入れる。
買う物が決まった2人はレジに並び、会計を済ませると買った物をサトシはリュックに、ミユキはポーチに詰めて店を出た。

「ミユキ、買い物は済ませたんだから、そろそろ次の町へいこうぜ」
トキワシティのジムが閉まっていたことを知ったサトシは、もうこの町にもしばらく用は無いと思い、次の町を目指そうとミユキに言う。
「そうね。あたしだってポケモンマスターを目指す内の1人なんだから、いつまでもここにいたって仕方が無いわね。それよりサトシ、このトキワシティからはどの町に繋がっているの?」
その言葉にサトシはリュックから取り出したタウンマップを広げ、トキワシティ周辺の部分に目を配る。
「えーとこの町からは…ニビ、ニビシティが近いな」
そう答えたサトシにミユキはこう言った。
「ニビシティ?…そこも、ポケモンジムがある町よね」
その言葉にサトシは「ああ」と言いながらうなずき、それに続けてこう言った。
「いきなりジム戦があるのなら、味方のポケモンが1匹だけじゃ苦戦は必至だな」
「ジムリーダー相手でしょ?それだと苦戦必至どころか、一方的に負けるわよ。対策としては、仲間のポケモンを増やす事が先決ね」
ミユキがとっさに言い返した。
「そうだな。ここで仲間のポケモンを増やすとすると、トキワの森辺りがいいな」
サトシがそう言うとミユキは納得し、2人は共にトキワの森方面へ向かって行くのであった。

そのころ、真っ先にマサラタウンを駆け出したシゲルはと言うと…
「ウイー!ヒック!これ、そこの若いの!待てと言っとろぉがこのコンチクショオが!!」
「すいません、オレは先を急いでいるんで…」
「やかましぃわバカモン!ワシの話を聞けと言っとろぉがぁー!」
空の一升瓶を片手に持ち、酒臭い息と共に1人の酔っ払った老人がトキワシティにて先を急ぐシゲルに絡んでいる。
「…何ですか?その話って」
しぶしぶシゲルが立ち止まると、酔っ払いの老人はアルコールで荒れた様子をそのままに、千鳥足で酒瓶振り回しつつこう絡んだ。
「えぇい!ジャマじゃジャマじゃ!道のジャマじゃ!ここはワシの寝床じゃあ!!」
「はぁ…、要するにさっさとどこかへ行ってくれとね。言われなくとも行きますよ」
シゲルは大きくため息をつきつつ、さっさとこの老人を払いのけようとするが、またもやその老人はシゲルに絡んできた。
「待てぇい!ワシの話を聞け言っとろぉ〜…ぐぅ」
「(寝やがった…)」
老人の千鳥足はバランスを崩し、そのまま倒れこんだかと思うと寝てしまった。
そのスキを合間見たシゲルは、何事もなかったと思い込ませつつトキワの森方面へ駆けていった。
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アウストラロピテクス #12☆2004.12/21(火)22:23
トキワの森。
その森の木々は、父なる空から生まれた白昼の陽光に照らされ、青々と光り、美しい。
それを飾るかのように、母なる大地から生まれた草は風を泳がせ、また美しい。
そう、ここは美しい緑の織り成す自然に恵まれた地なのだ。
ここに棲み付くポケモン達は森の恩恵を受け、静かに、そして何侵される事無く平和に暮らしている。もちろん、自然を破壊する悪徳な人間達の手も回ってくる事も無い。
しかし中には、あまりの自由さが返って、不満をもたらすこともあるという。
そして不満を持つ者は日常に退屈し、新たな冒険を求めていると言う。
例えて言うならば、同じ種族の中でも取り分け臆病な、1体の虫ポケモンなどだろうか。


#11 新たなる仲間


「じゃあ、あたしは2番道路周辺でポケモン探しをしているから、トキワの森出口のゲートで待ち合わせよ」
「分かった。じゃあな、ミユキ」
トキワの森の入り口の前で、ミユキはそう告げてポケモン探しをはじめた。
軽く返事を交わしたサトシは、その後トキワの森へ足を進めた。
森の中は木々の葉により、意外と外よりは涼しい。
地面も腐葉土となっていて、少し湿った感じが足の裏に吸い付くようで何ともいえない。
サトシが木々の方を見回すと、所々さなぎポケモンのトランセルやコクーンが張り付いている。
しかしサトシは、そのポケモンへモンスターボールを投げようとはしなかった。
何故なら、サトシはモンスターボールを差し出しても自ら逃げないポケモンを探しているからであり、さなぎポケモンのような元々逃げられないポケモンは相手にしないのだ。

「…ガサガサ…」

サトシが森を歩くその道中、かすかに草が震える音がした。
最初は風かと思ったが、その音は段々と大きくなり、まるでその音が近づいてきている様に思えたのだ。

「ガサガサ…ガサガサガサ…」

「!!」
サトシは息を殺し、音の源へ目を配る。
やがて、草の中で息を潜めていたそれは姿を現した。
しかしそれは、サトシが思ったより小さい体つきをしている。
30センチ程の緑を基調とした身体に、頭の部分は三つ又の赤い角と黒く丸い大きな目玉、そして体の節ごとに描かれている肌色のリング模様は、こちらを威嚇するよう。また、小さな丸い口とたくさんの小さい吸盤状の足は、どこか可愛らしげ。
サトシは早速、それにポケモン図鑑を差し向けた。

キャタピー いもむしポケモン

頭の先にある触覚に触れると、強烈な臭いを出して身を守ろうとする。

「そして属性は虫タイプ…と」
サトシはポケモン図鑑を閉じ、肩に乗っているピカチュウのアースを地面に降ろした。
「ポケモンを捕まえるコツは、まず弱らせてから…と」
読み覚えたマニュアルを思い返すかのように、サトシがそうつぶやいた後、サトシはアースに指示を与える。
「アース、まずは軽くでんきショック!」
サトシが人差し指を突きつけてそう叫ぶと、アースは共鳴するかのように「ピーカッチュ」と返事をし、頬から電撃を発射した。
「ピーカ…チュー!!」
アースの叫びと共にバチバチと弾け飛ぶその電撃は、見事キャタピーにヒット。
「キャタタ…ピー!」
痛みをこらえながらもキャタピーは、必死にアースへ「たいあたり」を繰り出す。
だが、キャタピーの動きが遅いため、アースは難なくキャタピーの攻撃を避けた。
「アース、もう一発でんきショック!」
「ピカッチュ!」
アースは更に電撃を飛ばし、避ける間もなくそれに感電したキャタピーは、かなりノびてしまい、仰向けに倒れた。
「今だ!」とばかりにそしてチャンスを見計らったサトシは、リュックからモンスターボールを取り出し、それを前向きに構え、そのまま腕を肩の後ろまで持っていく。
「ゆけっ、モンスターボール!!」
その叫びと共にサトシの手から放たれたモンスターボールは、キャタピーを目掛け森の空間を走ってゆく。
「ポムッ!」と軽快な音と共に、モンスターボールはキャタピーに命中。キャタピーはそのままモンスターボールの中へ吸い込まれた。
その後モンスターボールは何度か揺れたが、すぐにそれは治まった。
そしてサトシはキャタピーが収まったモンスターボールを拾い上げ、それを少し上にかざしてこう歓喜の声を上げた。
「キャタピー、ゲットだぜ!」

キャタピー捕獲後、ひと段落落ち着いたサトシはキャタピーの入ったモンスターボールを開けた。
「キャ…?」
少し怯えた顔つきで身体も震えていながらも、モンスターボールから出てきたキャタピーは大きな目玉でサトシをひっそりと見上げる。
「なあキャタピー、お前にも、ピカチュウのアースと同じように何かいい名前でも付けようと思うんだ」
「キャピ…?」
サトシの呼びかけに、依然と怯えるキャタピー。それでもサトシは話を続ける。
「そうだな、お前には何か可愛らしい名前でも…」
サトシはそのまま少し間を取った後、こう言った。
「そうだ、お前は今日から『フレイア』って名前だ。よろしくな、フレイア!」
「キャタ…」
サトシの呼びかけにも、怯えっぱなしのキャタピー、フレイアだが、体の震えだけはどうにか治まったようだ。

がんばりやな性格で、サトシと心が通じ合えるピカチュウ、アースと、おくびょうな性格で、どこか弱々しさ漂うキャタピー、フレイアを連れてサトシは、ミユキと待ち合わせているトキワの森出口のゲートを目指してひたすら走っていった。
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アウストラロピテクス #13☆2004.12/23(木)19:33
サトシがトキワの森へ足を進め、30分は経ったであろう。
しかし、そこは分け入っても分け入っても続くのは幾多もの高い木ばかり。
微弱な違いと言えば、地を這っているポケモンがキャタピーなのかビードルなのかという違いくらいだ。
サトシは、いい加減出口が見えてこないのかといら立ちつつ、ひたすら湿った土の上を歩くのであった。


#12 迷いの森


「はぁ、こんな事ならトキワの森を通らずに2番道路の脇道を通れば良かったのかなぁ…」
サトシが大きくため息をついた。
しかし、それをあざ笑うかのように未だトキワの森の出口は現れない。
サトシは自分がキャタピーのフレイアを捕まえた後、ろくに抜け道も知らないのにトキワの森を突き進んでいった事に後悔している。
ちなみに、サトシがここ通れば良かったと後悔している2番道路の脇道は、ミユキが歩いている。
もしミユキをあまり長く待たせたら、「遅かったわね」じゃ済まないだろうとサトシは不安になる。
進むか、引き返すか。今のサトシは、もうどちらでもいいという心境だ。
額の汗を拭い、サトシはひたすら歩き続けるのであった。

『ピピピ!ピピピ!ピピピ!』

「何だ!?いきなりトートツに…」
藪から棒に、サトシがリュックの肩ヒモに取り付けておいたバトルサーチャーが鳴り響く。
ほぼ無音のトキワの森を歩いていたサトシにとっては、この音に物凄く驚いたという。
「バトルサーチャーが鳴ったってことは、この辺にもポケモントレーナーが…?」
その瞬間、森の奥からも同じようにピピピと鳴り響く音をサトシは確認した。バトルサーチャーは、トレーナー同士が近くにいると共鳴するのだ。
早速サトシは、その音の源へ駆け寄る。
「おーい、バトルサーチャーの電波飛ばしたやつは誰だー?」
森一帯に響き渡るサトシの声にも反応したのか、そのトレーナーの方は自分の居場所を声で示す。
「おーい、そこの兄ちゃ、おれはここにいるぜ」
「『ここ』で分かるかよ!一体どこにいるんだ!」
そのトレーナーはそう言いうが、サトシには見つけられない。
「…ったく世話の焼ける兄ちゃだな。今からそこに行くぜ」
「(その焼ける世話は余計なお世話だ!)」
そのトレーナーは、サトシに対し仕方ないかとでも思ったのか、自分から姿を現した。…木の上から。
「兄ちゃ、こんな調子だとかくれんぼじゃビリだぜ?」
サトシと目を合わせたときの、そのトレーナーとの第一声がこれだ。
「悪かったな。でも少なくともオレの知り合いでわざわざ木の茂みに隠れるようなバカはいねぇよ」
怒り交じりにサトシは言い返した。
木の茂みに隠れていたトレーナーはサトシよりも背は低く、ボーズ頭で、見るからにサトシより年下である。
「おれの名前はユウジ。トキワ出身で、ポケモントレーナーの冷ややっこなんだぜ」
「『冷ややっこ』は豆腐だ。『タマゴ』の間違いだろ」
「うぐっ!…やるじゃねぇか、兄ちゃ」
トレーナー、ユウジにサトシが指摘する。
「そういや兄ちゃの自己紹介が遅れてたな。何て名前だ?」
「…オレはマサラタウンのサトシだ。言っとくけど、オレは急ぎの用があるからな」
自分のペースで訊くユウジに、眉間にシワを寄せたサトシはそう答える。
しかし、ユウジがまたもや自分のペースで話を続ける。
「へぇ…、急ぎの用ってどんなヤツだよ。おれにも聞かせてくれよ」
「…初対面なんだし関係無いだろ」
サトシはユウジの話を面倒そうに答える。
それを気にせず、ユウジは自分の話を続ける。
「ふーん、急用っって言っても、どうせこの先のニビシティに行くぐらいだろ?」
「!…どうしてそれを…?」
「図星か。…まぁおれならここからニビに続く道を知ってるけどな」
ユウジが他人事のように言う。
「それは本当か?だったら、その道をオレに教えてくれよ!」
その言葉に対し、ユウジはこう答える。
「…甘いぜ兄ちゃ。今の世の中、等価交換の時代だぜ?タダで教えてもらおうなんて、ムシが良すぎるんじゃねぇか?」
「(ガキのくせにそんなコトバ使いやがって…)」
嫌味っぽく言うユウジに、サトシはいら立つ。
「…で、結局何が欲しいんだ。カネか?冷ややっこか?ピッピにんぎょうか?」
いら立ち混じりの声でサトシが訊くと、ユウジはモンスターボールを前に突きつけてこう言った。

「おれは今日ヒマだから、ポケモンバトルが出来ればそれでいいぜ!」
「(…やれやれ、やっぱガキだ。…って、オレさっき忙しいって言っただろーが!このガキ何聞いてんだ!!)」
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アウストラロピテクス #14☆2004.12/29(水)00:54
「バトルのルールはお互いに1対1!これでいくぜ兄ちゃ!」
「…まぁいいぜ。その方が早く決着が着くし」
時間が無いことを気にしながらも、サトシはユウジの挑戦に応えた。
両者共にモンスターボールを構え、その2人の真剣さの余りトキワの森は沈黙に包まれる。
やがてすぐにその沈黙は破られ、2人は宙高くモンスターボールを投げ上げた

「ゆけっ!フレイア!!」 「ゆけっ!ビート!!」


#13 挑まれた戦い


ポンと言う音と共にモンスターボールから、2人のポケモンがそれぞれ光と共に姿を表した。
「キャタ」 「ビービー」
サトシの持つキャタピーのフレイアと、ユウジの持つ「ビート」という名のポケモンは、両者共に戦闘の態勢に入った。
「何だ、あの黄色い身体のポケモンは?」
サトシはポケモン図鑑を開き、「ビート」に向けてスイッチを押す

ビードル どくばりポケモン
頭にするどいハリを持つ。森や草地の茂みに隠れ、ひたすらハッパを食べている。

「分布はトキワの森付近…、キャタピーとは似たようなポケモンか」
情報をある程度見たサトシはポケモン図鑑をしまった。
「へへ、確かにキャタピーとは似たようなもんだけど、ちょっと違っていたりするぜ」
ユウジが何か自慢げな表情だ。
「何?」
サトシが振り向くと、ユウジはそのままビードルのビートに指示を出した。
「ビート、あのキャタピーにどくばり攻撃!」
「ビビー!」
ビートは頭の先に生えたツノの先端を向け、キャタピーを目掛け体当たり。
ツノの先がキャタピーのフレイアにチクリと刺さり、フレイアは痛々しい表情をする。
「キャピ〜!」
「大丈夫かフレイア!」
「ピー!」
サトシが声を掛けると、フレイアは起き上がって再び戦闘の構えを作った。
「ようし、フレイア、あのビードルにたいあたり!」
「キャピ〜」
サトシが人差し指を突きつけて指示をすると、フレイアは力を溜めてビードルに当たりかかった。
だが、
「ムダだぜ兄ちゃ」
「何?」
ユウジは自信満々の表情でいる。
それもそのはず、フレイアの攻撃を受けたビートは、まるで何とも痛く無さそうな顔をしているからだ。
「ビードルのツノにはキャタピーと違って、毒が仕込まれているのさ。だからそのキャタピーは毒に侵され、体力がじわじわと消耗しているんだ」
「『状態異常』ってヤツか…、すっかり忘れていたな」
サトシは表情は色めき立たせながらも、リュックの中を開けた
「とりあえず、こっちは毒を直す事が先決だ。どくけしを使うぜ」
「え?『どくけし』!?」
「…何でそんなに驚くんだ?」
スプレー型のどくけしをフレイアに吹き付けるサトシを見て、ユウジはまるで初めて物を見るような目をしている。
「うへー、そのスプレー、どこで買ったんだよ!おれにも教えてくれよ!」
「…トキワシティのフレンドリィショップでフツーに売ってたけど…」
「何ィ!そんなベンリな物が売っていたとは!!」
どうやらユウジは、「どくけし」を見るのが本当に始めてだったようだ。
サトシはあ然としたままフレイアの毒を除くと、何事も無かったかのように人差し指を突きつけた。
「フレイア!とにかくたいあたりでもう一度反撃だ!!」
「キャピー!」
すっかり元気を取り戻したフレイアは、たいあたりを繰り出し相手のビートに見事命中させた。
「うおぉ、兄ちゃ強えぇ!」
そのままビードルは、地面に倒れこんだ。
この勝負、どうやらサトシの逆転勝ちのようだ。

「…まさか『どくけし』を知らないポケモントレーナーがいるとはな…」
ひと段落つき、2匹を引っ込めた2人はそのまま話し合う。
「ところでユウジ、『どくけし』も知らないのにどうやってビードルの入ったモンスターボールを調達したんだ?」
サトシが訊くと、ユウジはお得意の自慢げな表情ですかさず「拾った」と答えた。
「バトルサーチャーは?」
「借り物」
ユウジの淡々とした答え方に、サトシはしばらく無言になった。
「実はおれ、トレーナーとしての知識はおろか、ポケモンの扱い方なんてゼンゼン分からないんだよなぁ」
ため息を着き、ユウジは自分が勝負に負けたことを悔やしがる。
「なんだユウジ?一回負けたくらいで男がそんなカオをするなよ」
そう言ってサトシは励ます。
「おれはまだ、兄ちゃみたいに旅に出られる歳じゃないけど、いつかはこの地方、いや、もっと広い世界を旅したいんだ」
ユウジは、木々の葉の隙間から少し除ける青空を見上げて言った。
「ならユウジ、いつかお前が旅に出られるようになったら、また戦おうぜ」
「いいぜ、兄ちゃ」
2人は掌を厚く交わした。

「…そうだ、兄ちゃ、良かったらこれ、食ってみなよ」
ユウジは腰のポケットから、青くて硬そうな木の実のような物を取り出す。
「何だいこれは?」
「オレン。オレンの実だ。トキワの森によく転がってるぜ」
「…それにしてもやけに硬いな。まるで石だな」
サトシはオレンの実の中身を必死で取り出そうとするが、それはびくともしない。
「兄ちゃ、コイツを石にぶつけりゃあ簡単に割れるぜ。こうやって…な」
ユウジが手本を見せると、サトシも同じようにオレンの実を石にぶつける。
「お、本当だ。簡単に割れたな」
パキッという音と共にオレンの実が割れると、サトシはそれを口にした。
やがて2人がオレンの実を食べ終わると、ユウジがさらに余分に何個かのオレンの実を手渡した。
「これらは兄ちゃが、バトルで疲れたポケモンに使うといいよ」
「ありがとう、ユウジ」
そう礼を言うと、サトシはそれらをリュックに備え付けているきのみぶくろにしまった。

「それじゃあ兄ちゃ、約束通りニビシティの道まで案内してやるよ」
「最後までありがとな、ユウジ」
「カタいコトバは抜きだ」
ユウジがサトシの先頭へつくと、そのまま2人は歩き始めた。
2人がいつか、また再び戦う事を願いながら。
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アウストラロピテクス #15★2004.12/30(木)01:28
誰がその正体を知るのだろうか。
誰がその存在を望んだのだろうか。
それらの答えは、何一つ知られていない。


#13外伝 ロケット団の野望


「オツキミ山…ですか?」
「そうだ。首領の命令でな、貴様が指揮を取ることとなった」
「…かしこまりました。直ぐにでも支度をしましょう。…【如月】のキザクラ様」
「くれぐれも【文月】の名に恥じぬように。では後は貴様に任せようか」

ここはとある場所にある、ロケット団のアジト。
ロケット団とは、カントー地方を中心に悪事を働く組織である。
去年くらい前までは大して名の知れた組織では無かったのだが、ここ最近、カントー地方の大都市、ヤマブキシティを中心にその名は広まっていると言う。
そう、サトシ達が旅に出る前、オーキド博士の研究所を襲ったのも、その“ロケット団”なのだ。

「恐れなさい、この私がもたらす不運を」
ロケット団副幹部であり、【文月】の異名を持つライデンは身支度を整えた、
その目からはまるで悪意のようなものが感じられ、見るものを恐怖に陥れる。
彼の任務は、ニビシティとハナダシティを結ぶ、月見の名所として知られるオツキミ山を襲撃する事だ。
この山には遥か昔、かなりの強さを誇ったと言われるポケモンの化石が埋まっているのだ。
しかしオツキミ山では本来、環境保護や近隣の住民の苦情のため、掘削機などを使用して化石等を掘り当てる事が禁止されているのだ。
だからこそ、ロケット団はその禁止を破る。ポケモンの化石を欲しいがために。
「向かいなさい、その資眠る山々へ」
ライデンは静かに、そして何処か厳かに団員達へそう言うと、それらを連れてオツキミ山へ向かって行った。

「…フン、どうせ奴の事だ。大した獲物など持ち帰ってこないだろう」
オーキド博士の研究所を襲撃した張本人、【如月】の異名を持つキザクラはそう言って嫌味に口元を上げた後、アジトの研究房に入った。

「ヒトカゲ…、フシギダネ…、ゼニガメ…、…大した収穫ではなかったな」
オーキド博士の研究所から盗んできたポケモン3体の入ったモンスターボールに対し、キザクラはそう言った。
研究房には色々な機器が所狭しと並んでおり、その中でも現在キザクラが手に掛けようとしている物は、「急成長マシン」と記載されている、ちょうどポケモン一体は丸々入りそうなスペースがある機械である。
「戦力として期待できそうな物は…ヒトカゲくらいか」
そう言ってキザクラが3つの内、ヒトカゲと呼ばれるポケモンの入ったモンスターボールを手に取ると、その「急成長マシン」の中にそれを放り込んだ。
中からは、何も知らなさそうな表情のヒトカゲが出てきて、見たことの無い機器を見回している。

「…貴様らの哀れな命と引き換えに我は力を手に入れる。…悪く思うなよ?」
そう不穏な笑みを浮かべたキザクラは、その機械に手を掛けた。

誰がその正体を知るのだろうか。
誰がその存在を望んだのだろうか。
それらの答えは、何一つ知られていない。

しかし、ただ分かる事は、それらが“悪”であることなのだ。
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アウストラロピテクス #16★2005.01/06(木)17:52
サトシは無事、ポケモントレーナーに憧れる少年、ユウジに案内されてトキワの森を抜けた。
しかし、そこで待っていたミユキはサトシに長時間待たされたことへ怒りで煮えたぎっていた。
それはもう、グレン島の火山を連想させると言うか何と言うか、ヘタに口も利けない状況と言うか。
サトシは必死にご機嫌取りをしようとしたとか…。

「すまん、この通りだからさ、もう機嫌直せよ」
サトシは頭を下げ、ミユキに必死で謝った。
ミユキの答えは無論、ノーコメント。
「本当に悪かったよ。だからさ、機嫌直せって。50円のベトベターガムならおごってやるからさ」
ミユキはまだ口を利いてくれない。
「…分かったよ。サイコソーダでどうだ?」
サトシが必死に説得すると、
「…分かったから、もうオゴリもいいわよ。一応あたしだってポケモンを捕まえられたんだから」
しばらく無口だったミユキの反応は何だか、仕方なさそうに言う感じだ。
するとサトシは顔を上げ、その後は何事も無かったかのような態度となった。
「ふぅ、良かった良かった。300円超えたら財布の中がエライ事になったよ」
「(なんかまた腹立ってきた…)」


#14 頼もしき仲間


「…でさ、結局ミユキの方は何を捕まえたんだよ」
サトシは何かと興味有り気な顔つきをする。
「あたし?…あたしは、結構頼りになりそうなポケモンよ。ジーニストって名前のピジョンなの。サトシは?」
ミユキは返事を兼ねてサトシに訊く。
「オレはキャタピーを捕まえた。フレイアって名前のな」
その返事に、ミユキは浅くうなずいた。
「じゃあさ、せっかくお互い捕まえたんだから、ニビジム戦の練習も兼ねて一度ポケモンバトルでお互いのウデを試そうぜ」
そう言ってサトシは、キャタピーのフレイアの入ったモンスターボールを構える。
「いいわよ。お互いに2対2のバトルね。あたしの準備は万全よ」
同じくミユキも肩乗りのピッピ、ムーンを地面に降ろす。
「ルールはお互いに手持ちポケモンに2体、それじゃあ早速始めるぜ」
サトシが威勢良く構えていたモンスターボールを投げると、中から鮮やかな光と共にキャタピーのフレイアが現れた。
一方で、ミユキはポケモン図鑑をフレイアの方へ向けて色々と調べているようだ。
「フレイア、まずはいとをはくでピッピの動きを封じるんだ!」
「キャター!」
サトシの指示フレイアが威勢良く鳴くと、そのまま口から白く太い糸が放たれた。
「キュルキュルキュル…」
キャタピーの放った糸は、そのままピッピを縛り付ける。
「まずい、ここで素早さが下がったわね。それならムーン、こっちははたく攻撃で反撃よ!」
「ピッピー!」
ミユキの指示に従ったピッピのムーンは、フレイアの吐いた糸に絡まれながらも平手打ちを「パチン!」とフレイアの顔にかます。
「キャタタ…」
ムーンの一撃に、防御の弱いフレイアは少しの間ひるんだ。
「負けるなフレイア!そのままたいあたりで応戦だ!」
「キャピー!」
サトシの指示に反応したフレイアは、顔に響く痛みをこらえながらも必死でムーンの方へ向かっていく。
「ドスン!」
その鈍い衝突音と共に、ムーンは高く鳴き上げるとそのまま倒れてしまった。
「ごくろうさま、ムーン」
ミユキはモンスターボールをムーンに向けると、そのまま中へ収めた。
「やったな、フレイア」
「キャタッピ♪」
サトシの呼びかけに、先程のはたくで少し顔に傷を負いながらもフレイアは笑って応えた。
「ムーンを倒すとはなかなかの腕前ね。でも、ジーニストではそうはいかないわ」
ミユキは自信満々の声で言うと、モンスターボールを宙に投げた。
「ポン!」
モンスターボールは空中で割れ、中から出てきたポケモンはフレイアよりも遥かに体格の大きい鳥形のポケモンだった。
「ピジョオォー!」
ジーニストと言ったか、そのポケモンはモンスターボールから出てくるや、そう高く声を張り上げた。
鳴き声の小さいキャタピーのフレイアとは、体格も鳴き声も大違いだ。
「何だ、あのポケモンは?」
サトシがそのポケモンにポケモン図鑑を向け、スイッチを押す。
「ピッ」

ピジョン 鳥ポケモン
有り余る体力の持ち主で、広い縄張りを飛び回り、遠くまでエサを探しに行く。

「へぇ、こりゃあ手強そうな相手だ」
サトシはそう言うとポケモン図鑑を閉じた。
そしてサトシは、フレイアに指令を出す体制に入ったようだ。
「それじゃあフレイア、まずはたいあたりを…」
「いいえ、こっちが先よ」
「何!?」
サトシの声がミユキにかき消されたかと思うと、ミユキのピジョン、ジーニストはいきなり攻撃の態勢に走った。
「ピジョオォー!」
ジーニストは滑空し、鋭い目つきでフレイアという獲物を捕らえるとそのまま突進した。
「ドスーン!」
「キャ…!」
ジーニストの唐突な突進により、フレイアは2,3メートル程弾き飛ばされるとそのまま倒れこんだ。
「キャ…タ…」
「フレイア、今はボールの中で休んでな」
サトシはモンスターボールの中にフレイアを収めた。
「…何だったんだ?今の技は」
サトシが、先程ピジョンのジーニストの繰り出した技についてミユキに訊いた。
「『でんこうせっか』よ。素早さの高いポケモンだけが使えて、目にも留まらぬ速さで相手のポケモンに襲い掛かるわ」
「その『でんこうせっか』ってやつ、結構強いな」
「そうね。まあ、元々ジーニストが動きが速くて強いのも理由の一つだけど」
ミユキがそう言うと、ジーニストはバサバサと音を立てて元の位置に着いた。
「よし、それならアース、お前の番だ!」
「ピーカー!」
サトシの肩に乗っていたピカチュウ、アースが地面に降りて身構えた。
「アース、相手は飛行タイプだから電気タイプの攻撃だと相性がいいぞ」
サトシはアースにそう言い聞かせた。
「でんきショックを出す気?でも、素早さならジーニストの右に出る者はいないわ」
それに対し、ミユキはどこか自身有り気な顔をする。
「ジーニスト、かぜおこしでアースの体制を崩すのよ!」
「ピジョオォー!」
ジーニストは翼をはためかせ、風を仰いでそれをアースに叩きつけている。
「ビュオオォー!!」
「ピ…ピカ…」
轟音の鳴り響く強風に煽られ、アースはバランスを崩して足を踏み外し、そのまま5メートル程吹き飛ばされた。
「アース、しっかりしろ!」
「ピカ…チャ〜」
サトシがアースに呼びかけるも、ピカチュウはそのままひるんでしまった。
「ジーニスト、チャンスよ。そのままでんこうせっかで一気にトドメよ!」
「ピッジョオオォー!」
ミユキの声と共に、少しの間ジーニストは身構えたかと思うと、そのままアースを目掛けて突進した。
「ドスーン!」
その轟音と共に砂煙が少しの間舞ったかと思うと、既に決着は着いていた。
砂煙の中には、まるで何事も無かったかのようにミユキの元へ戻るジーニストと、その攻撃を受けて倒れたアースの姿があった。
「やるな、ミユキ。…アース、しばらく休んでな」
サトシはアースを近くの岩に腰掛けてやった。

「それにしても強いな、そのジーニストってヤツは」
「ええ、何せポッポの進化系のピジョンを捕まえたんだからね」
「進化?」
ミユキが自身気に言うが、サトシはポケモンの「進化」という言葉を知らないようだ。
「何だ?『進化』って」
「あら、知らないの?進化って言うのはポケモンがある程度の戦闘経験を積めば、更なる強さを持つポケモンに成長する過程のことよ」
「へぇ、それじゃあオレのアースやフレイアもどんどん戦えばもっと強いポケモンに進化できるのかな」
「ピカチュウのアースはどうか知らないけど、キャタピーであるフレイアは、進化の段階がとても早いって言われているわ」
「なるほど…」
サトシはフレイアの入ったモンスターボールを持って見つめていた。
だが、次の瞬間…

   ググッ…

「?」
サトシの持っているモンスターボールが、僅かながらも急に揺れ出したのだ。
サトシは急いでモンスターボールからフレイアを出すと、何だかフレイアの様子がいつもと違う気がするのだ。
すると間もなく、フレイアの全身は眩い光に包まれていった。
「何が起こっているんだ…?」
サトシが見守る中、ミユキはこう言った。
「進化ね」
続けてサトシもこう応える。
「進化?…これがか?」
2人がそう言っている内に、その眩い光からはある姿が現れた。サトシの知っている“キャタピー”ではないある姿が。
その姿に、サトシはトキワの森の中にもいたそのポケモンの姿を思い出した。
「これは…」
サトシはすかさずポケモン図鑑を取り出す。
「ピッ」

トランセル さなぎポケモン
身を守るため、ひたすらカラを硬くしても強い衝撃を受けると中身が出てしまう。

「こいつは…トキワの森でも見かけたな。よく木にへばり付いていた」
サトシが頭の中に思い浮かべていた事を完全に思い出した。
「トランセルはさなぎポケモンだから、あまり戦闘に向いているとは言えないわ」
「でも、一応戦闘経験を積まないとまた進化できないだろ?まさかこの状態が最終進化系とは思えないし」
ミユキの言葉に対し、サトシはトランセルのフレイアを見て言った。
「そうね。こういうタイプのポケモンは、外敵から身を守る事によって次の進化が出来るんじゃないかしら」
「身を守る…か。とにかくよろしくな、フレイア」
「…ンー…」
サトシの呼びかけに、トランセルのフレイアは殆ど無言で応えた。

その後サトシとミユキは、石の灰色がイメージカラーだと言う町、ニビシティを目指そうとするのだった。
そこで待つ、ジムリーダーと呼ばれる強敵と戦うために。
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アウストラロピテクス #17★2005.01/06(木)17:58
ニビシティジムリーダー・タケシ
岩のような固い意志を持つ彼は、訪れる挑戦者達を強力な岩ポケモンで次々と苦しめる。
時に要塞のごとく高い防御力で守りを固め、時に鬼のごとく相手に鉄斎を喰わせる。
攻防共に能力の高い岩タイプのポケモンを扱う彼を倒せたトレーナーは、極僅か。
その極僅かの中に、サトシやミユキと同志である一人のトレーナーがいたそうな。


#15 岩の紋章、グレーバッジを賭けて 【前半戦】


サトシ達はニビシティに到着し、先程の戦いで傷ついたポケモン達をポケモンセンターに連れて行き回復させていた。
「ニビシティジムのジムリーダーはタケシ…、自分のポケモンを守りつつ攻撃していく戦法を得意とする…か」
サトシはポケモンセンターの本棚に陳列されているポケモントレーナー向けの雑誌、「ポケモンジャーナル」のニビシティジムに関する記事を読んでいた。
「どうサトシ?タケシには勝てそうな気がする?」
ポケモンジャーナルをブツブツとつぶやきながら読むサトシを横に、ミユキが様子を問う。
「正直言って、簡単には勝たせてくれそうにもねぇ。力押しで戦っても、防御力の高い岩ポケモンの前じゃまるで歯が立たないからな」
サトシはポケモンジャーナルをパタンと閉じ、そう深刻そうに答えた。
「そうね、いくら攻撃力の高い私のジーニスト(ピジョン)でも、楽な相手ではないわ」
ミユキも簡単には勝てそうもないと言う。しかし、サトシ程深刻そうな答え方ではない。
「ミユキ、少し訊きたい事がある」
「何?」
「ミユキ…、何か対策でもあるようだな」
「ええ。大したことじゃないけどあるわよ」
ミユキは軽々と答えた。
「何だよ、その『タイサク』って」
「…教えない」
「秘密かよ」
サトシは不満そうにボソリとつぶやいた。
『サトシ様、ミユキ様、ポケモンの治療が終了しました。カウンターまでお受け取りください』
館内アナウンスが聞こえると、サトシはポケモンジャーナルを本棚に戻してミユキと一緒にポケモンを受け取った。
「準備は万端だな。ミユキ、まずはタケシと先に戦ってみて、その『タイサク』ってやつを見せてくれよ」
「ええ、いいわよ」
サトシ達はそう言い交わすと、ポケモンセンターを出てニビシティジムへ向かった。

ポケモンセンターから歩いて5分くらいの所に、ニビシティのジムはあった。
それは、ポケモンセンターより一回り面積の広い建物である。
ジムの看板には、「ニビシティポケモンジム リーダータケシ 強くて固い意志の男」と書かれている。
その看板にサトシは少し目を配ると、必要以上に重く感じるジムの扉を開けた。…いや、正確に言えばジムの扉は自動ドアなので、「開いた」と言った方が正しいか。
「頼もー!オレはここのジムリーダーのタケシってヤツと戦いに来たー!」
サトシはジムの中に入るや否や、道場破り張りにそう叫んだ。
「サトシ、そんなに大声を出さなくてもいいでしょ。それに、サトシが戦うのはあたしの後じゃない」
ミユキはサトシの耳元で言った。
すると、サトシの叫び声を聞いた者がサトシの前に現れた。
「おー、挑戦者か。今日は何かと客人が多い日だな。俺はこのジムのリーダーを務める、タケシだ」
その声の主は、このジムのリーダーであるタケシだった。
目の細い事以外は大してパッとしない、年恰好などは青年風の男だ。
「挑戦者達よ、名は何と申す?」
「オレはマサラタウンのサトシ。このジムに挑戦しに来た」
「あたしは同じくマサラタウンのミユキ。まずはあたしの挑戦を先にしてもらえるかしら」
ミユキはサトシより前に立って言った。
「ほぅ、相手は女子供か…。だがこのタケシ、一切容赦はしないぞ」
「ええ、こっちはなおさらよ」
タケシとミユキは目を合わせると、奥にある石のタイルで敷き詰められたバトルフィールドで互いに向き合った。
そこへ、黒いスーツと七三分けの髪型、黒縁のメガネがよく似合う、1人の男性が現れた。
『オーッス!実況兼審判はこの私、ジャッジ・ハイバラが進めさせていただきます!果たして勝つのは挑戦者ミユキか!?それともジムリーダーのタケシか!?』
ハイバラの声はエリに取り付けられているピンマイクが拾い、地声でも大きいというのにピンマイクによってさらに拡大された声はジム全体に響き渡る。
「うるさいよオッサン」
『オ、オ、オッサンですとぉ!?』
サトシがすかさず入れたツッコミに、ハイバラは動揺し、まるでマンガのリアクションの様に黒縁のメガネがズリ落ちる。
だがその行動はプロと言うべきか、黒縁のメガネをクイッと上げ、スーツのエリを左右に動かして整えると、まるで何事も無かったかのようにうるさい実況に戻った。
『…失礼しました。これより、マサラタウン出身の挑戦者ミユキと、ニビシティジムリーダーのタケシとの対戦を始めます』
「頑張れよー、ミユキー!」
サトシは手でメガホンの形を作り、声援を送った。
『制限時間無制限、入れ替えは自由。だが、岩ポケモンメインのニビジムだけに、手持ちポケモンは1体だけのガチンコ勝負だ!それでは両者位置について…ファイト!』
ハイバラが忙しそうに叫びまわり、戦いの火蓋が切り落とされた。ちなみに、「ファイト!」とはバトル開始の合図である。
「いくわよ、ジーニスト!」
ミユキがモンスターボールを宙に投げると、中からピジョンのジーニストが現れた。
「ピジョオォー!」
ジーニストは相変わらず、気迫のある高い鳴き声を上げている。
「相手はピジョン…、それならこっちはロッキー!お前に任せるッ!」
「ワッショイ!」
タケシの出したポケモンは、全身が石で出来た小さなポケモンだ。
早速ミユキは、ポケモン図鑑をそれに差し向けスイッチを押した。

イシツブテ 岩石ポケモン
山道などに多く生息。気付かずに踏みつけると、怒り出すので要注意だ。

「…“岩石ポケモン”ね。そのイシツブテってポケモンの硬さが伝わってくるわ」
「ははは、そうだろう。岩ポケモンの硬さはハンパじゃない。ミユキと言ったか、さてどう出るかい?」
「…決まってるじゃない」
タケシは腕を組んで笑うと、ミユキは自信そうにそう言い返した。
『おぉーっと挑戦者ミユキ!ここで何を思いついたかァ!?』
ハイバラは相変わらず大声で実況。それをサトシはうるさいと言わんばかりの目つきで見ている。
「…まともに戦っても勝てないんじゃ、こっちはくだらない小細工をするまでよ」
「何?」
自信そうなミユキを前に、タケシは少しだけ色めく。
「ジーニスト、まずはすなかけよ!」
「ピジョオォー!」
「…すなかけだと?命中率を下げる作戦か?」
ジーニストの巻き上げた砂は、見事イシツブテのロッキーに降りかかり、その周りにも砂が散る。
「ワワ、ワッショ…!」
『おーっと、タケシのイシツブテのロッキー、大丈夫なのかァ!?』
ロッキーの目には砂が入り痛そうだが、それをロッキーは目をこすって取り除く。
『良い子は目に砂が入ったとき、こすらずにまばたきして砂を取るんだヨー!』
相変わらず実況のハイバラは、落ち着き無く叫び続ける。
「たかがすなかけ程度の小細工で俺のロッキーをナメて貰っては困る。ロッキー、構わずいわおとしだ!」
「ワッショォーイ!」
ロッキーが威勢よく叫ぶと、突然ジーニストの上から何個もの大きな岩が落下した。
そしてその攻撃は、ミユキが避けろと指示を出す間もなくジーニストに見事命中。
「ピ…ジョオォ…!」
『おぉーっと、こいつぁ痛そうだァ!』
「ジーニスト!大丈夫!?」
山積みになった岩の中から、ジーニストは荒い息を立てて抜け出した。
ジーニストの全身は傷だらけで、至る所に血のにじんだような箇所がある。
「(今のイシツブテの攻撃…、岩ポケモンなのにどこか軽やかで、それでいて岩ポケモンならではの重量感ある強力な攻撃…。やはり手強いわね)」
ミユキは傷ついたジーニストと、余裕着々のロッキーの表情を見て思った。
「ほぅ、これまでロッキーのたいあたりを真に受け、皮一枚で耐えた奴と出会うのは久々だな」
タケシは少しの笑みを浮かべている
「しかし、その一撃でピジョンの残る体力もあと僅か。どうやら挑戦者ミユキ、ここまでのようだな」
タケシは我が勝利を確信した。
しかしミユキは、ジーニストが倒れそうな状況にも関わらずタケシと同じように笑みを浮かべる。
それもそのはず、次の言葉にその理由があるからだ。
「…まだよ、あたしが焦るのはね。何も砂を掛けるだけが『対策』じゃないのよ」
そう言うとミユキは、何色めくことなくジーニストへ指示を出した。
「ジーニスト、ここでかぜおこしよ」
「ピジョッ!」
「…この傷でまだ動くつもりか?…しかもただのかぜおこしだ。この状況下では俺にはただのムチャとしか思えん」
タケシの言葉に構わず、ジーニストは羽ばたき、風を起こす。
無論、その風は岩タイプのロッキーには全く通用しない。
ただ、それが“風”だけの話の場合だが。

「…な、何だあの茶色い風は!」

タケシは突然色めき立った。
その茶色い風というのは、正確に言えば先程ジーニストの撒いた砂が風と共に舞い上がり、それが一団となってロッキーを叩きつけているのだ。
「ワ…、ワッショ…イ…!」
先程の「すなかけ」とは比べ物にならない程の膨大な量の砂粒に四方を囲まれたロッキーは、身動きが取れない。
「…そう、これがあたしの狙いよ。…本当のね。ジーニスト、たいあたりでトドメよ!」
「ピジョオォー!」
動けない獲物は狙い易いのか、ジーニストは心置きなくロッキーに体当たり。
「ドオォォ…ン!」
その衝撃でロッキーは弾き飛ばされ、石のタイルの床に着いた時には既にダウンしていた。
「ついに…倒した…!」
「…ピジョ」
少しの沈黙が辺りを包んだ後、実況のハイバラはこう叫んだ。

『ジムリーダー・タケシのイシツブテがダウン!よってマサラタウン出身の挑戦者、ミユキに軍配が上がったァー!』
「おーい、やったじゃねぇか、ミユキ!」
サトシは歓喜の声を上げ、そしてミユキも
「ありがとう、サトシ」
と少し微笑んで言った。
最後に敗れたタケシは、ミユキにこう言った。

「攻めるわけでもなく、守るわけでもないその小細工とやら、なかなか気に入った。…ほら、勝利の暁のグレーバッジだ。受け取りな」

ミユキはその確かな重量感のあるグレーバッジを受け取り、トレーナーカードにはめ込んだ。
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アウストラロピテクス #18☆2005.01/23(日)16:17
「待って、フォルゼ」
「サリカ…お前も付いて来るのか?」
「うん。あたし、ずっと1人でフォルゼを待ってるなんてイヤ。だからあたしも付いて行くの」
「サリカ…。…大丈夫か?お前はすぐに怯えて、俺の横で泣いたりしないか?」
「うん!あたしはもう泣き虫サリカじゃないもん!」
「…本当に泣いても知らねぇぞ?」
「大丈夫だよフォルゼ!さ、早く木の実採りに行こうよ!」
「…はは、分かった分かった。じゃあ俺の体につかまれ。飛ぶぞ」
「うん!」

ここは自然豊かで、今日も爽やかな風の吹くトキワの森。
そこには良く言えば勇敢、悪く言えば無鉄砲なモルフォンのフォルゼ、そして同じ種族でも取り分け泣き虫で臆病なキャタピーのサリカがいた。
既に親のいないサリカにとって、フォルゼはまるで兄のような存在だ。
また、二匹は揃って木の実が好物であり、中でも色々な味の混ざった不思議な味のオレンの実は、大好物の類に入る。
今日ばかりはキャタピーのサリカが付いて行くことになったのだが、いつもはモルフォンのフォルゼが木の実を採りに行くのである。
そしてフォルゼが採ってきた木の実を、待っていたサリカと一緒にお気に入りの切り株の上で食べるのだ。

ただ、今となってはもう昔の話だが。


#16 岩の紋章、グレーバッジを賭けて 【後半戦】


「次の挑戦者は…、確か、サトシと言ったな」
ミユキとのバトルを終えたタケシが言う。
「この俺の岩ポケモンに勝てる自信があるのなら、挑むが良い。さあ、どうする?」
「もちろんだ。必ず勝ってみせるぜ!」
タケシの選択に、サトシはすぐに答えた。
「良い心構えだ。…最初の内はな。いずれ君も岩ポケモンの恐ろしさ、真に受けるさ」

『バトルのルールはさっきと同じく、時間無制限、ポケモンの入れ替えは自由で1対1のガチンコ形式だ!』
審判兼実況のハイバラが叫んだ。
『これより、ニビジムリーダーのタケシとマサラタウンの挑戦者のサトシのバトルを行う!それでは両者位置について…ファイト!』
ハイバラの試合開始の合図と共に、にらみ合う両者はそれぞれモンズターボールを宙高く投げ上げる。
「ゆけっ、フレイア!」 「ランボー、手加減なしで行け」
サトシがそう言い放ち、投げたモンスターボールからは、トランセルに進化したばかりのフレイアが顔を出した。
「…ンー…」
フレイアは殆ど無言の鳴き声を発する。
しかし、対するタケシのモンスターボールから出てきたポケモンは、サトシの想像を絶するポケモンだった。
「イウォオオォォーン!」
そのポケモンは低いうなり声を上げ、いくつもの岩が連結したような身体から岩同士が擦れ合う鈍い音を発しつつ、フレイアを見下ろす。
その対格差は、遥かにタケシの岩ポケモン方が大きく、フレイアは今にも潰されそうだ。
『おぉーっと、こいつぁ手強そうだァー!』
その光景に、すかさずハイバラが言葉を挟む。
「何だ、あのポケモンは…?」
サトシはすかさずポケモン図鑑を取り出し、その岩の塊のポケモンに向けてスイッチを押した。

イワーク いわへびポケモン
地中を物凄い勢いで掘り進み、エサを探す。通った跡はディグダの棲家になる。
「コイツは『ランボー』って名前でな、俺が一番信頼できるポケモンだ」

タケシがどこか自慢気に言う。
また、さらにサトシがポケモン図鑑のページを送ると、こんな情報もあった。

体長 8.8m 体重 210.0s

「!!」
サトシはその驚異的な数値に驚いた。
その体長は、フレイアの何十倍もの差があるからだ。
その対格差ではフレイアの「たいあたり」は無意味であり、一方でイワークのランボーの攻撃を喰らったらひとたまりもないだろう。
「(まずいな…やっぱりフレイアじゃあマズかったか…?)」
苦い心情でサトシは思った。
しかし、フレイアは、「…ンー!…」と鈍い鳴き声を上げ、ゆっくりと起き上がると、やや気迫に欠けるが、真剣な目つきでイワークを睨む。
「…だよな、フレイア。やっぱやるっきゃないよな!」
戦闘意欲満々なフレイアに釣られ、サトシもそう意気を上げて言った。
「相手はさなぎポケモンのトランセルか。だからと言って、手加減はしないぞ」
タケシがそう言い、更に続ける。
「ランボー、手加減抜きでがんせきふうじ!」
「イウォオオォォー!」
タケシの叫びのすぐ後に、ランボーのうなり声がジム全体に響き渡ると、突然にフレイアの頭上から巨大な岩が轟々と鳴る岩の擦れ合う音と共に降り掛かる。
「危ないフレイア!早く避けるんだ!」
「…ンー…!…」
サトシがそう叫ぶが、それは空しく、素早さの無いフレイアにとってとても避けきれるものでは無かった。
「ズドドオォーン!」
サトシの叫んだ束の間がすぐに過ぎた後、フレイアはその岩の下敷きとなった。
だが不幸中の幸いか、頭部のみは岩の下敷きではなかった。
「…ン…」
しかしそのフレイアの鳴き声は、ランボーを睨み付けた時よりも遥かに小さく、そして弱々しい。
そして、そう既にランボーへ反撃する力など残ってないであろう。
「フレイア!しっかりしろ!」
そう言い放ってサトシはフレイアに駆け寄る。
「…フッ、こいつは聞いて呆れるな。やはり自信満々なのは最初だけ、か」
「な…」
タケシがそっと呟いた言葉に、サトシが色めく。
「…そう言えば、数時間前にも同じマサラタウン出身の少年がここを来ていたっけな」
タケシが続けた言葉に、サトシの心に何かが引っかかった。
特に、「マサラタウン出身」という言葉に対して。
「なあタケシ…、その少年の事だが、そいつは自分の名を『シゲル』って名乗っていなかったか?」
もしやと思ったサトシが訊く。
だが、その問いにタケシは首を横に振ると、こう言った。
「…さあな。とにかくその少年は、とてもなく強かった。見事なポケモンさばきで俺の自慢の岩ポケモンをなぎ倒しては、ハヤテの如く去っていったぜ。…まさに『ニビシティジム開業以来の天才』に相応しいな」
『ああ、そうだったねー。その子はポケモンさばきはスゴかったけど、私のジャッジさばきを見せる間もなくバトルは終わっちゃったんだよなー』
ハイバラも、その「マサラタウン出身の少年」の凄さを認めている。
「(シゲル…、ひょっとして、オレが見ていない間に…?)」
自分の見ていない間に強くなっていた永遠のライバル、シゲルや、先程見事な戦略で勝利を成し遂げたミユキの事を思うと、どうも自分だけが取り残されている事を強く感じる。
だが、サトシの心の片隅にある、何処か負けず嫌いな感情が完全に退いた訳ではない。
…だが、大打撃を受けたフレイアの身を案じると、やはりここまでか、とタケシの言葉に同感してしまう。

「すまないな、フレイア…」
サトシがそう言って、フレイアを岩の下敷きから引き抜くと、リュックの中からある物を取り出した。
オレンの実だ。トキワの森で、ユウジからお裾分けをしてもらった物である。
「取り合えず、これを食べて元気を出せ。後はモンスターボールのなかでゆっくりと休んでていいから」
しかし、サトシが差し出したオレンの実を、フレイアはすぐには食べなかった。
フレイアはそのオレンの実を、何処か懐かしげに見ていたのだ。


   フォルゼ…


フレイアは思い出に浸るかの如く目を閉じると、そのままオレンの実にかじり付いた。
時に辛く、時に渋く、時に甘くも苦くも酸っぱくも感じられるという、不思議な味がフレイアの口の中に広がる。
それを噛み締めるほど、オレンの実はトキワの森にいた頃のフレイアの姿を思い出させる。
オレンの実に色々な味が混ざっているのと同じく、トキワの森にいた頃も色々な体験があった。
特に、あの頃が一番印象に残っている。
フレイアがまだ、サトシとの面識も無く、泣き虫で臆病な“サリカ”という名前の頃を。
その頃のフレイアは他の皆と比べてとても臆病で、同種族でもあまり顔を出さなかった。
しかし、フレイアはそれを制していわく、心に誓った。このまま、フォルゼや森の他のみんなに遅れを取っていた自分に決別するために。
泣き虫で臆病な“サリカ”ではなく、強くてたくましい“フレイア”に大きな一歩で成長するために。

その瞬間、フレイアの身体は光を帯びた。
それは静かに、そして華やかに何かが変わっていた。
光の中では、フレイアの背中の殻は割れ、そして2枚の大きな翅(はね)がゆっくりと現れる。
その一部始終に、サトシは勿論の事、タケシやミユキ、そしてハイバラも見とれていた。

「…フリー…」

キャタピーでもトランセルでもない、その蝶のような美しい姿をしたポケモンは、そう高く鳴いた。
「これは…」
その姿にサトシは見とれつつ、ポケモン図鑑を取り出す。
「ピッ」

バタフリー ちょうちょポケモン
ハネの猛毒のりんぷんには水を弾く性質があるので、雨の日でも飛び回れる。
主な使用技 ねんりき、しびれごな、かぜおこし等

「『ねんりき』…?聞いた事の無い技だ…」
サトシは、主な使用技に記されている、「ねんりき」の効果を確かめた。

ねんりき エスパータイプの一般的な技。毒や格闘タイプの特効に加え、岩や地面タイプなどの防御力が高いタイプにもよく効く。稀に相手を混乱させる。

「効果が高いと分かっちゃ話は早い。フレイア、イワークにねんりき攻撃!」
「フーリー!!」
サトシは人差し指を突きつけてフレイアに指示をすると、すっかり元気を取り戻したフレイアは赤い複眼から波動のような超能力の瘴気を発した。
「…ジジ…ジジ…ジ…」
そのは瘴気は電流が渦巻くような音を発しながら、イワークのランボーを包み込んだ。
「イ…、イウォオォォー!」
その瘴気に包まれたランボーはその巨体に似合わず、いとも簡単にバトルフィールドへ轟音を叩き出して倒れこんだ。
その意外な逆転劇に、タケシは驚くばかりだった。
そして、そこから少しの沈黙が流れた。
『…この逆転勝負、マサラタウンの挑戦者、サトシに軍配が上がったァー!』
その沈黙を破るかの如く、ハイバラはそう叫んだ。
逆転の末、最期に敗れたタケシはこう言った。

「…フッ、ポケモンバトルは最後まで結果が見えないものだな。…俺の完敗だ。このグレーバッジの重み、君が持つに相応しい」
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アウストラロピテクス #19☆2005.02/17(木)14:45
―ここ、3番道路周辺で最近、野生のマンキーによる食料の略奪等の被害が出ています。くれぐれもエサを与えないようにお願いします。 ニビシティ警察署

これは、3番道路の電柱にいくつか張ってある、野生のマンキーに対して警告を呼びかけるポスターだ。
何でもそのマンキーは人間の持つ食べ物を見ると瞬間的に反応し、それに向かって木々を器用に伝いながらその人間の食べ物を盗ってしまうのだと言う。
マンキーの好む物は、個人差はあるものの大抵はキャンデーやチョコレートといった、甘いものである。
数日前、オーキド博士がポケットに忍ばせておいたチョコレートを取り上げたのもそのマンキーというポケモンだ。
今日もそのマンキーはひたすら、食べ物を狙って木々を飛び交っているのだろうか。


#17 暴れ野党


グレーバッジを手にし、ニビシティのジムを後にしたサトシとミユキの2人は、次の目的地を目指そうとしたいた。
サトシはタウンマップを広げ、ニビシティの所から人差し指で示しながら次に目指す町を探していた。
その結果、ニビシティから月見の名所として知られるオツキミ山を超えた所にある、ハナダシティという町を目指すことになった。
また、ニビシティからハナダシティまでの間に位置するオツキミ山では、野生のポケモンも多く生息していると言う。
その為、オツキミ山の前にはポケモンセンターが設けられている。
そしてサトシとミユキは、そのポケモンセンターの中で山を越える準備をしているのだった。

「サトシ、オツキミ山にはズバットやパラス等の毒を持ったポケモンが生息しているんだって」
「毒を持ったポケモン?」
ミユキの言葉を言い返したサトシに、ミユキがポケモン図鑑のとあるページを見せる。

ズバット こうもりポケモン
口から超音波を出しながら飛ぶのは、前に何があるのか調べながら飛んでいるからだ。

パラス きのこポケモン
穴を掘り、木の根っこから栄養を摂るが、ほとんどは背中のキノコに奪われる。

ここまでは大まかな普通のページだったが、少しページを送った所の、「主な使用技」の欄を見ると、確かに共通して「どくのこな」と書かれていた。
「…本当だ。オレは既にどくけしを1つトキワの森で使っちまったからな。さすがに残りの1個で山を無事に越えられる保証は無いからなぁ…」
そしてサトシが大きく息をつくと、そのまま言葉を続けた。
「ちょっとひとっ走り、ニビシティのフレンドリィショップまで走ってくるか」
そう言ってサトシはまたリュックを背負おうとしたが、そこでミユキが止める。
「ちょっと待ってサトシ、この辺には、解毒作用のあるモモンの実が、木に生えているそうよ」
「何だって?」
サトシは足取りを止めた。
「とても甘い木の実だそうで、お金も掛からないからポケモントレーナーにとっては大変重宝されているそうよ」
「へぇ…、そりゃいいな」
その説明にサトシはすっかり納得している。
「じゃあミユキ、オレ、早速そのモモンの実ってやつを取ってくるぜ」
すっかり気の乗ったサトシはポケモンセンターから出て行こうとするが、ミユキはそれを止めた。
「待ってサトシ、それならあたしも一緒に…」
「いや、木の実拾いぐらいオレ一人で十分だよ。それじゃあ行って来るぜ」
ミユキの言葉をよそに、サトシはそのままポケモンセンターを出て行った。
「全く…。そう言えばサトシは一度言い出したことは、意地でも突っ走る性格だったわね」

サトシがポケモンセンターを出て行った先には、確かにモモンの実らしき木の実の生えた木が何本かあった。
早速サトシはその木に駆け寄った。
「へぇ…、これがモモンの実か。よく熟れてるな」
モモンの実に手を伸ばし、サトシはそれを取ろうとした。
だが、次の瞬間…

   「ウキーッ!」

「! 何だ、今の鳴き声は!?」
どこからともなく、恐らくポケモンであろうがそれらしき高い鳴き声がサトシの耳に響いた。
そして、いつの間にかサトシが取ろうとしていたモモンの実がコツゼンと姿を消したいた。
そしてサトシが眩しく照りつける日光をかき分けながらも木の上を見上げると、そこには尻尾で器用にモモンの木の枝にぶら下がる一匹のポケモンが、器用にモモンの実を食べて満足気な顔をしていた。
早速サトシはそのポケモンに、ポケモン図鑑を向けた。

マンキー ぶたざるポケモン

「さっきの鳴き声はコイツのか…」
そう呟いた後、サトシは腰につけているバタフリーのフレイアが入ったモンスターボールを、宙に放り投げた。
「ゆけっ、フレイア!」
サトシのその掛け声に共鳴するかの如く、中からバタフリーのフレイアが姿を出した。
「フリー!」
早速サトシは、フレイアに指示を与える。どうやらサトシは、このマンキーを捕獲する作戦に出たそうだ。
「フレイア!まずはねんりきで弱らせろ!」
「フ〜リ〜!」
サトシがそう言い放ってフレイアに人差し指を突きつけると、フレイアは了解代わりの鳴き声を上げて赤い複眼から瘴気を発した。
「ジジ…ジ…ジジ…」
「ウ…ウキャ!ウキャキャ!」
マンキーはその瘴気に包まれ、必死にもがいている。
「…よし、今だ!ゆけっ、モンスターボール!」
そう言ってサトシは、勢い良くモンスターボールをマンキーに投げかける。
しかし、マンキーはそれをとっさに「パシリ」と音を立てて平手で打ち返した。
「やってくれるじゃねぇか」
モンスターボールを跳ね返したマンキーにサトシはそう吐き捨てた
「ウキャキャキャ!」
それをあざ笑うかのようなマンキー。
近隣住民から苦情が来るのも無理はない。
「こうなったらフレイア、しびれごなッ!」
「フリ〜!」
サトシの掛け声に答えたフレイアは、羽を静かにはためかせ、黄色く燐粉を彷彿させるような粉、と言うか燐粉そのものを撒いた。
「ウギ…、ウギャ、ウギャギャー!」
マンキーは先程の「ねんりき」よりも更に大きなリアクションで必死にもがく。
しかし、何処か様子がおかしい。サトシはそう感じた。
いくら何でもあのマンキーのもがき方は大袈裟過ぎるからだ。
「ウギュギュギュギュ〜!」
「なんだアイツ…、水タイプのポケモンでもないのに、あんなにもがくかなぁ…」
サトシはマンキーの暴れまわる姿を見て言った。
有り合わせの知識ではあるが、一応水タイプが電気系の技に弱い事くらいは知っている。無論、格闘タイプのポケモンが微弱な電流くらいでは倒れない事くらいは大よそに把握できるが。
「(取り合えず、ここはこのスキを突いていくべきだな…)」
そうサトシは確信する。
「ゆけっ、モンスターボール!」
威勢良く2度目に投げられたモンスターボールは、見事のた打ち回るマンキーに命中。
マンキーがモンスターボールに押し込められた後の数秒間、ボールは小刻みに揺れる。
その合間が少しじれったい。まあ、その短いようで長いその合間が、ポケモンの捕獲の醍醐味だと主張する者もいるが、気の早いサトシにとってはその間呼吸も止めてしまう位に緊張が走り、その小刻みな揺れがさっさと止まらないかと祈るのである。
「…カチッ」
その瞬間、ボールは止まった。
やっと揺れは治まり、サトシの緊張も和らぐ。
「ヒヤヒヤさせやがって」
そうつぶやくとサトシはフレイアをモンスターボールに戻し、緊張の根源であるモンスターボールを地面から拾い上げる。
「…ふぅ、マンキー、ゲットォ…」
僅かながらも緊張は冷や汗となって残っているのか、サトシの声は何だかやるせない。

一幕落ち着いて小一時間後、サトシは何個かのモモンの実をリュックに付属している木の実袋に入れ、少し遅くなったが、ミユキの待つオツキミ山前のポケモンセンターに戻った。
「…やべぇ、またミユキに怒られっかなぁ…」
前にも一度、ポケモンを捕まえて待ち時間を延ばしてしまったことがあった。
あの時は茶を濁らせてその場を凌いだものの、次で2度目になる。
“フーディンの顔も三度まで”…とか言うことわざがあったような。65点の算数以外にもテストでロクな点数を取ったことのないサトシにとってはフーディンではなくサンドの方が覚えやすいとか…というのは、今は関係ないであろう。確実に。
しかし、そんな不安の片隅でサトシは同時にあることを考えていた。
新しく仲間に加わった、甘党で気が荒そうなマンキーの名前を…。

――グレイム。…よし、我ながらもいい名前を付けたもんだ。これからも頼むぜ、相棒よ!
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アウストラロピテクス #20☆2005.04/28(木)22:28
「探しなさい、前に壁があろうとも」
私の名はライデン。ライデンという名はあくまでも愛称のような物だが、一応ロケット団の副幹部で【文月】の異名を持つ。
幹部のキザクラ殿いわく、首領の命令だそうでここ、オツキミ山に足を運んだ。
何でも遥か昔、絶大なる力を誇ったと言われているポケモンの化石が眠っているとか。
その化石から取り出した遺伝子を基に、その絶大なる強さを誇ったポケモンを現代に復元させることも可能になったそうだ。
“力”…か。私にはそんな物など興味は無い。
私にはお前さえいてくれれば何も要らぬ。ロケット団もどうなろうと構わない。
だからフウデン、その時まで待っててくれ。お前が甦る、その日まで…


#18 神秘なる山


「すまん、ミユキ。また遅れちまった」
「やっぱり、ね。マサキさんに電話を入れといて正解だったわ」
ミユキが言うべき事はもう何も無かったかのようだった。
まるで、サトシの帰りが遅くなるのを最初から分かっていたのかのように。
「ミユキ、マサキさんって…まさかあの人か?」
「そう。まさかあの人なマサキさんよ」
サトシは、そのマサキという名前に対する覚えが鮮明である。
以前、オーキド博士の研究所でミユキにピッピを、シゲルにイーブイをプレゼントした本人だからだ。
どうやらカントー地方の隣にある、ジョウト地方の都会街のコガネシティ特有の話し方をする気さくな人だ。
実はこの人、パソコンを通じてポケモンを遠く離れた所に転送をする装置の開発者、いわゆるスゴ腕な方だ。
「でも何でまたわざわざマサキさんに?」
「あら、知らないの?マサキさんはここから先のハナダシティの近くの岬に住んでいるのよ。折角だから、お礼の一言でも言っておこうと思って」
「へぇ、それで、その後は?」
「『いっぺん来てみるさかい。めっちゃオモロイもん見したんで』って、軽いノリでこんなことも言っていたわ」
「そじゃあキマリだな。その『オモロイもん』ってやつもすごく気になるし」
サトシは期待に胸を膨らませている。
そして、サトシ一行はポケモンセンターを後にし、オツキミ山を越えてゆく山道に向かっていった。

「暗っ!」
そう声を張り上げたのはサトシ。
その声が僅かながら壁や天井に響いている。
正確に言えば、“山道”と言うより“洞窟”といった方が正しい。
天井を見回せばズバットが何匹か羽を休めているのも印象的だ。
オツキミ山は周りに木が生えているような山ではなく、まるで鉱山を彷彿させるような岩山だからだ。
現に、“月の石”と呼ばれる石が発見されているからだ。
ちなみに、月の石と言うのは本当に月から降ってきた石らしい。とても胡散臭いが。
この山では大昔、オムナイトやカブトが生息していた海であり、そして隕石が降ってきてそれらの生物が絶滅し、代わりにそれらが化石化した死骸と隕石と共に降ってきた月の破片がここに眠っていると言う。ますます胡散臭い。
取り合えずサトシ達は、道をかき分けながらも道なりに足を進めていった。
――とその時

「ドンッ」

サトシの体が、誰かとぶつかった感触がした。
無論、ミユキはその後ろを歩いているのでサトシがぶつかった者とはミユキではない。
「あっ、ごめんなさ…」
サトシがそう口を開けた瞬間…、
「うおっ?…ああ、ただの通行人じゃったか」
その「誰か」は途端に驚いて言った。
そして同時に、サトシも驚いた。
そう、「誰か」が一瞬振り向いた時、暗闇に紛れながらも一瞬見えてしまったのだ。

――「R」


服の前身には、そう描かれていた。
しかし、それは紛れもなく、悪の組織、ロケット団の一員を示すマークだったのだ。
「なにやってんッスかクロマツさん!通行人だからって容赦するなって幹部のお偉いさんが言ってたじゃないッスか!」
ふと、何処からか誰かがそう叫んだ。
もっとも、声色が先程のものとは違っているが。
「ガハハ、そう怒るでないギンタケよ。別に金目のものは持っている気配は無かったぞ?」
「いやいや、そういう問題じゃないッスよ!クロマツさんがクビになったら俺も連帯責任になるんッスよ!」
「まあ気にするでないぞ。テキトーにつっ立っていればばカネが入ってくると言ったのはオヌシではないか」
「いやいやいや!それは今のようにチョイ偉さん達がいる状況じゃなくって、周りに誰もいない時だけ…ってゴホン、ゴホン。…やっぱなんでもないッス」
「おや?やはりオヌシは今、まずいことを言おうと…」
「黙れッス。アッシらはここでケービするッス」
サトシは、長々と続く会話に割り込む事が出来ず、呆然と立ち尽くしていた。
「あの、すいませんがちょっとお話が…」
少しの間が空いたとき、サトシはやっと話に割り込む事が出来た。しかし、心なしか敬語口調になっている。
「…じゃなくてアンタ達、ロケット団だな。ここで何をしている?」
普通の話し方に戻ったサトシ。
「ん?アンタはさっきギンタケとぶつかったガキじゃねぇッスか。コドモがこんなところをウロウロしちゃいけねぇッス。ガキはさっさとコドモ料金で帰りやがれッス」
「ガハハ!ギンタケよ、語尾に『〜ッス』が付いているせいで何のオドシにもなっておらんぞ?」
「ガハハは黙ってるッス」
「…ちょっと待ってくれ、焦点がさっきからズレまくってるんだけど」
またしても2人だけで盛り上げってしまいそうなので、すかさずサトシが口を挟む。
そしてミユキは、そのやり取りを黙って聞き流していた。
どうやら、語頭に『ガハハ!〜』を付け者がクロマツ、語尾に『〜ッス』をつける者がギンタケというようだ。
「…まあ要するにガキはガキでも侵入者ッスね。アッシらは所詮、バイト感覚で雇われた身ッスから、軽く相手をしてやるッス」
「ガハハ、了解じゃな」
ギンタケ、クロマツがそれぞれモンスターボールをサトシ達に向けると、サトシ達も負けじとモンスターボールを向け返した
「望む所だ!挑まれた戦いには受けて立つぜ!」
「…仕方ないわね。結構時間の無駄になりそうだけど、ここが洞窟だけにお先真っ暗…関係ないか」
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ぴくの〜ほかんこ