ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[554] EVOLUTION・壱

劇場タワーGS #1★2005.02/06(日)20:21
〔序章〕※肥大化につき流します
ある春の日。
その日も公園では、少年達のポケモンバトルが繰り広げられていた。
「ハッサム、“メタルクロー”だ!」
指示を受けたハッサムは跳びあがり、攻撃態勢に入った。
「マッスグマ、“みずのはどう”で打ち落とせ!」
マッスグマの口から強烈な水流が放たれた。その直撃を受けたハッサムは墜落する。
「まだだ!“きりさく”!」
地面に激突する寸前、ハッサムは体勢を立て直し、マッスグマに一撃を見舞った。
不意を突かれたマッスグマは倒れこむ。
少年はハッサムに追撃を加えるよう指示する。
――が、2匹はあさっての方向を向いていた。
次の瞬間、凄まじい炎の塊が2体を直撃した。
「な!?」
凄まじい炎が収まったとき少年達が見たものは、“かえんぐるま”の直撃を受け倒れた2体と、攻撃を仕掛けたバクフーン、そして黒いスーツの男だった。
「だ…誰だ!何すんだ!」
男は無言のまま両手にモンスターボールを構え、投擲した。
異常なほどの光を放つボールが、ハッサムとマッスグマを包み込む。
その光が収まったとき、公園からは男も、バクフーンも、2体も消えていた。
ただ、立ち尽くす2人の少年の姿だけがあった。

その時点では、これが「第二次スナッチ事件」の第一幕だと気付く者はいなかった。
また、それすら世界を震撼させる大事件の前座に過ぎなかったということにも。
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劇場タワーGS #2★2005.01/22(土)19:23
〔1・覚醒〕
チリリリ…
ああ、チリーンの声が聞こえる。
ジリリリ…。
いや、あれは目覚ましのベルか…

「やばい、寝坊だ!」
シュウジは慌てて飛び起きた。
今日は街でポケモンバトルの大会が開かれる。
それに備え、早起きして特訓するつもりだったのだ。
だが元々早起きの苦手なシュウジは、結局寝坊してしまったのである。
「マサムネ、急いでいつもの広場まで飛んでくれ!」
指示を受けたマサムネ―オオスバメが窓辺に降り立った。
超人的な速さで着替えを済ませ、シュウジはマサムネの背に飛び乗る。
黒い髪はボサボサのままだが。
「頼む、急いでくれよ…」
マサムネは一瞬呆れた顔をしたが、勢いよく早朝の空へ飛び立った。
ほどなく、目指す広場が見えてくる。
マサムネが着陸しようとしたとき――不意に広場で眩い光が炸裂した。
「あれは…」
最近起きている「第二次連続スナッチ事件」。
それの目撃証言にあった「眩い光」と見て間違いないだろう。
――とうとうこの街でも起きたか。
案の定、広場から不審な黒服の男が駆け出すのが見えた。
「よし、捕まえてやるか」
大会まではまだ時間がある。それより、犯人を捕まえればきっと表彰してもらえるはずだ。
いや、これほどの事件なら間違いなく表彰してもらえる。
「マサムネ、あの男を追ってくれ!俺の表彰状がかかってる」
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劇場タワーGS #3☆2004.11/13(土)18:49
〔2・追跡〕
「チッ」
カンザキは腹立たしげに舌打ちをした。
「第二次連続スナッチ事件」が起き始めてからというもの、P課(ポケモン事件担当課)に所属する警部であるカンザキに休みは無かった。
イライラが募るところへ、またスナッチ事件が起きた。カンザキは爆発寸前だった。
「け、警部、現場の状況は」
部下の1人、マガキが恐る恐る話しかける。
「犯人を示す痕跡は一切無し。閃光を見たという目撃証言。いつもと同じだ」
この数週間、ポケモンの強奪―スナッチ事件はひっきりなしに起こっていた。
当然、「第一次連続スナッチ事件」の犯人であるスナッチ団の関与も疑われたが、彼らは全員牢の中。スナッチマシンも(1つを除き)押収されていたため、関与は否定された。
さらに、現場に何の手がかりも残されていないことが解決を困難にし、現場の刑事達のストレスは否応なしに溜まっていった。
「全く、牢にぶち込む前に仕置きしてやらにゃ気が済まん」
「警部、仮にも現職警官がそんな台詞を吐いていいんですか?」
「冗談だ、冗談」
そのとき、聞き込みに当たっていた部下から連絡が入った。
「事件の直後、公園から駆け出した不審人物がいたそうです。さらに、オオスバメに乗った少年が不審人物を追っていった模様。至急確認に当たってください」
「チッ」
やっと一段落したと思ったのにこれだ。全く気に入らない。
「ウチのガーディにも仕置きさせてやらねば…」
ぼやきながら、カンザキは歩き出した。
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劇場タワーGS #4★2004.12/20(月)17:51
〔3・逃亡〕
こちらに気付いたのか、男はだんだん狭い路地に分け入っていく。
「待て表彰状!」
マサムネは路地を縦横無尽に飛行し、男を追跡する。
やがて、男は一番狭い裏路地へと逃げ込んだ。
「もらったぜ表彰状!」
マサムネは勢いよく裏路地に飛び込んだ。
不意に目の前が真っ暗になった。路地が黒い煙で覆われている。
「“えんまく”…いや“スモッグ”か?」
もしそうなら、長時間吸うのはまずい。
マサムネは急いで上空へ離脱した。新鮮な空気を胸一杯に吸い込む。
その間に男の姿は消えていた。
「げっ、エントリー終了まであと6分だ!」
この大会に出損ねたらまた一ヶ月待たねばならない。
シュウジがマサムネに方向転換を指示したときだった。
「待てオオスバメと少年!」
スーツ姿の人々がこちらを見上げ、叫んでいる。どうやら刑事のようだ。
「俺、何か悪いことしたっけ…」
なんにせよ、時間を取られるわけには行かない。
「マサムネ、逃げ…」
「アリアドス、“くものす”だ」
いつのまにか接近していたアリアドスの口から、何十本もの白い糸が放たれる。
マサムネは完全に糸に絡め取られてしまった。
「悪いが、スナッチ事件について聞きたいことがある。署まで来てもらおう」
反射的に腕時計を見る。エントリー終了3分前。
「あのー、俺忙しいんで抜けさせてもらいま…」
「“くものす”」
シュウジも白い糸に絡め取られた。
「さあ、おとなしく来るんだ。事情聴取だけだから」
――あんたらにとってはそれだけだろうけど…。
だが、刑事に逆らっていいことがあるはずもない。公務執行妨害で捕まるのがオチだ。
今は従うしか無い。
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劇場タワーGS #5☆2004.11/14(日)18:13
〔4・遭遇〕
事情聴取は、もう30分にも及んでいた。
室内からはひっきりなしに怒号が聞こえる。
「オッサンのせいで俺の表彰状と優勝が消えたんだよ!」
「いいから見たこと全部吐け!ガーディ嗾けるぞ!」
シュウジは大会出場を逃したこと、カンザキはおとなしく証言してくれないことで、それぞれ非常に気が立っていた。
おかげで事情聴取は一向に進まず、口喧嘩ばかりが展開されていた。
「だいたい、任意同行ってあんな乱暴なものなのかよ!」
「黙れ黙れ!!」
確かに、あれはやりすぎであった。カンザキの職権乱用ともいえる。
マガキも、それについては納得していた。
「とりあえず、二人とも落ち着いて話しあってください」
「しょうがねーな。話してやるからちゃんと聞けよ」
それから、シュウジは話し始めた。見たこと全てを。
「…つまらん!いつもの証言と同じでつまらん!」
収まりかけていたカンザキの怒りが、また頭をもたげてきた。
「んなこと言っても…」
「うるさい!このガキ――!」
マガキが慌てて止めに入る。
「まぁまぁまぁまぁ、じゃあシュウジ君、外で待っててね」
シュウジはやっと解放された…というか、追い出された。
「やれやれ、なんなんだよ今日は」
ため息をつきながら、何とはなしに向こう側へ目をやる。
そこに1人の少年がいた。
紺色のジャケットに身を包み、左腕には妙な装甲を付けている。
シュウジはその少年に見覚えがあった。
――たしか、ええと…なんて言ったっけ?
少年もこちらに気付いたらしく、歩み寄ってきた。
「俺が何か?」
「うああ!思い出した!お前は…」
「第一次連続スナッチ事件」を解決した、元スナッチ団の少年。
「俺はレオ。よろしく」
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劇場タワーGS #6☆2004.11/15(月)18:53
〔5・漆黒〕
奇跡としか言いようがない。
こんなところで、あのレオに会えるなんて。
今日は最悪の一日だと思っていたが、そうでもないらしい。
「ところで、何でここにいるんだ?」
「スナッチ事件解決に協力してくれって、お呼びがかかったんだ」
「例の相棒は?」
「あいつは呼ばれなかった。ダークポケモンは出てないそうだしな」
レオがそこまで話したとき、カンザキとマガキが部屋から出てきた。
「君がレオ君か。急に呼び出してすまない」
カンザキはレオに対し、丁寧に応対する。シュウジに対する態度とは大違いだ。
シュウジはまた腹が立ってきた。
「ちょっとオッサン、さっきの俺に対する態度はなんだったんだよ」
蒸し返されて、カンザキもまた切れた。
「うるさい!出て行け!」
「ああ出て行ってやるとも!」
シュウジは威勢よく警察署を飛び出していった。
やっぱり今日は最悪の一日だ。
角を曲がろうとしたとき、道の反対側に黒いスーツの男がいるのが見えた。
「あっ、表彰状!」
向こうも気付いたらしく、急に駆け出した。
だが、今度はシュウジも負けてはいない。男を全力で追いかける。
やがて道は行き止まりになった。
男はつかの間動揺したようだったが、すぐにモンスターボールを取り出した。
ボールからはオクタンが繰り出される。
「そっちがその気なら…マサムネ!」
シュウジもマサムネを繰り出し、戦闘態勢に入った。
だが、男は動こうとしない。
「誰がバトルをすると言った。オクタン、“オクタンほう”」
オクタンの口から墨の塊が射出される。
それは狙い違わず、シュウジに命中した。
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劇場タワーGS #7☆2004.11/16(火)19:04
〔6・怪人〕
まさか、こちらを狙ってくるとは思いもしなかった。
視界がはっきりしないのは痛みのせいだろうか。
辛うじて見えたのは、シュウジを守るように戦うマサムネの姿だった。
「マサムネ…」
それほど素早い方ではないオクタンは、トレーナーなしのマサムネにも翻弄されている。
「目障りだな。“れいとうビーム”」
オクタンは頭を振り、攻撃をさらに広範囲に拡散させる。
マサムネは直撃は免れたものの、翼が凍りつき墜落した。
「なかなか強いオオスバメだな。記念に貰っていくとしよう」
男がモンスターボールを取り出す。
マサムネを助けなければ。
だが、手足が言うことを聞かない。
モンスターボールが光り始める。
「エーフィ、“サイコキネシス”!」
男とオクタンが宙に浮き、次いで落下した。
「レオ!?」
そこに現れたのはレオとエーフィだった。
「なんだか騒がしくなってきたんで、様子を見にきたらこれだ」
「ありがとうよ」
レオは男の方を向く。
「さぁ、観念してもらいましょうかね、泥棒さん?」
「ま…まだだ!」
突如、男は「口から黒い煙を吐いた」。
「な!!?」
男の姿は煙が晴れる前に消えていた。
「表彰状、結局ダメだったな」
レオは見ていなかったらしい。呑気なものだ。
――なんだアイツ、本当に人間か…?
シュウジの頭は、その考えで満たされていた。
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劇場タワーGS #8★2004.12/20(月)17:56
〔7・解放〕
薄暗い部屋の中に、逃げ出した黒いスーツの男の姿はあった。
「子供に追い詰められるとは不甲斐ないな、Γ(ガンマ)」
低く重い男の声が響く。
「申し訳ございません。次こそは必ず」
「その少年のオオスバメを奪えば、失敗は帳消しにしよう」
男はその「声」に傅く。

シュウジが家に帰ったとき、既に時計は12時を回っていた。
「おかえりなさ〜い♪今日のお昼はね…」
「ゴメン母さん、俺ちょっと休んでから食べる」
シュウジは無愛想にそう言うと、2階の自分の部屋に上がった。
誰とも話したくない気分だった。“オクタンほう”の痛みもまだ残っている。
こういうとき、話好きな性格の母がいると苦労する。
「なんなんだ今日は…」
シュウジはベッドに腰掛けてつぶやいた。
特訓は出来ないし、警察には捕まるし、表彰状は逃すし、おまけに“オクタンほう”だ。
「呪われてんのかな、俺」
などと思わず口にして、シュウジは苦笑した。
――まぁ、いいか。
もう俺と「第二次連続スナッチ事件」の縁は切れたのだ。
明日からは普段どおりの日常が待っている。
もうあんな訳のわからない人間に遭遇する事もないはずだ。
「シュウジ降りてらっしゃい、今日のお昼は特辛カレーよ♪」
「やりぃ!」
こういうとき、話好きな性格の母がいると気分が晴れる。
昼からは、朝出来なかった特訓を日が暮れるまでやる事にしよう。

残念ながら、シュウジの楽観的予想は外れることになる。
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劇場タワーGS #9★2004.12/20(月)17:55
〔8・水魔〕
翌日、シュウジは今度こそ早起きして広場に向かった。
昨日できなかった特訓をするためである。
「行け、マサムネ!シンゲン!」
広場には、昨夜降った雨のために多くの水溜りができていた。
「足場は悪いけど、まぁいいか」
シュウジの心は早くも来月の大会に向いていた。

特訓が佳境に入った時、どこからともなく水音が聞こえた。
辺りを見回すが、誰もいない。
向き直ったとき、今度は強烈な水流がシュウジの足元を抉った。
「なにっ!?」
さっきまで誰もいなかったはずの広場に、あの黒スーツの男が立っていた。
もう表彰状などどうでもいい。人間じゃないかもしれない奴と関わりたくなどない。
だが、シュウジの心を読んだかのように男――Γは言い放った。
「お前のオオスバメ、今度こそいただく」
「マサムネ、降りて来い」
シュウジはマサムネとシンゲンを呼び戻し、戦闘に備えた。
だが、Γはポケモンを出そうとはしない。
「言ったはずだ。俺はポケモンバトルをする気はない」
言い終わらないうちに、Γの体に変化が起きていた。
腕にはスーツを破りながら鰭が生え、全身が水色に変わる。
「や、やっぱりこいつ人間じゃない!!」
異形の姿になったΓは、水流を放って攻撃してきた。
すかさずシンゲンが“10まんボルト”で反撃に出る。
「やったか?」
命中したはずだった…が、Γの姿はそこにはなかった。
近くの水溜りから、ズルリとΓの姿が現れる。
「甘いな。その程度で俺は倒せない」
Γの姿は、再び水溜りの中へと消える。
シュウジはあることに気付いていた。鰭、水色の体、それに水に溶け込む能力。
――こいつ、シャワーズそのままだ…。
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劇場タワーGS #10★2005.02/05(土)20:57
〔9・雷撃〕
水溜りに姿を潜めながら、Γは何発もの水流を放つ。
その威力は凄まじい。反撃の活路は全く見出せない。
「こいつ、マジでシャワーズ人間か」
Γはシャワーズの「水に溶け込む能力」を有している。
水溜りだらけのこの広場で戦うのは不利だ。
といって、長期戦に持ち込むのは絶望的だった。
「どうした?諦めてオオスバメを差し出す気になったか?」
Γの上半身が水溜りから持ち上がる。
――今だ!
「マサムネ、“つばめがえし”!シンゲンは“10まんボルト”だ!」
攻撃が当たる寸前、Γは“くろいきり”を吐き二体を撹乱した。
まずい。至近距離であの水流を食らったらひとたまりもないだろう。
「離脱しろ!」
間一髪、水流が当たる寸前で2体は戻ってきた。
「こうなったら仕方ねぇ。マサムネ、シンゲン、例のフォーメーションだ」
未完成ではあるが、今奴を仕留めるにはこれしかない。
マサムネはシンゲンを背に乗せ、空中へと舞った。
「勝負を捨てたかぁ!!」
Γの水流が直接シュウジを狙う。
シュウジは避けながら2体に指示を出した。
「シンゲン、マサムネの背から跳んで“10まんボルト”!」
シンゲンは勢いよく空中へ飛び出し、地上に向けて何発もの電撃を放つ。
Γは慌てて水溜りに溶け込んだが、電撃はその水溜りにも命中した。
「ぐあっ!」
マサムネはシンゲンを回収し一気に加速、Γへ止めの一撃を食らわした。
「空中からの電撃で地上全体を焼き、“つばめがえし”で止めを刺す…これが俺のフォーメーション、名づけて『天雷撃』だ!」
相手が水溜りに入れるなら、地上全体を電撃で焼き尽くせばいい、という事だ。
僅かにうめいた後、Γは地面に倒れ込んだ。
青い粒子のようなものが体から立ち昇り、やがてその姿は元の人間に戻っていった。
シュウジはそれを尻目にポケモン達を戻し、去っていった。
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劇場タワーGS #11★2004.12/20(月)17:49
〔10・開戦〕
それから数十分後、カンザキと部下達は広場の現場検証に来ていた。
鰭を生やした水色の怪物を見たと言う通報を受けてのことだった。
「どうせ何かのポケモンを見間違えたんだろう。誰もいないじゃないか」
「いえ、その怪物は人間そっくりだったそうです。逃げたんですよきっと」
マガキが慌てて補足する。
「新種のポケモンだといいな」
カンザキはマガキの話を無視する。
そこへ鑑識官が駆け寄ってきた。
「警部、何らかの遺留品と思われる物を発見しました」
差し出されたのは、ギリシャ文字のΓが刻まれたペンダントだった。

署に戻り、カンザキは資料を整理していた。
「ん?」
資料を見ているうちに、最近「人間型の怪物を目撃した」という報告がやたら多いことに気が付いた。
しかも、その怪物が目撃された周辺では、必ずスナッチ事件も起きている。
刑事としての長年の勘が、カンザキに何かを伝えようとしていた。
それを後押しするように、マガキが言った。
「警部、最初に怪物が目撃された現場にΘ(シータ)が刻まれたペンダントが落ちていたという報告が入っていたようです」
最初に怪物が目撃された場所は、最初のスナッチ事件が起きた公園に程近い。
そしてギリシャ文字の刻まれたペンダント。
証拠は揃った。
「マガキ、どうやらとんでもない悪党共が動き出してるようだ」
「警部もスナッチ事件と怪物目撃の関連性を疑っているんですか」
「疑ってるんじゃない。確信だ。何かとてつもない陰謀の匂いがする」
それからカンザキは深く息をした。
「戦闘開始、か…」
マガキも頷く。
――だが、今以上に忙しくなるのは御免だな…。
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劇場タワーGS #12★2005.02/05(土)21:01
〔11・連携〕
昼下がり、シュウジは行く当てもなく歩いていた。
連中がまた襲ってくるやも知れぬという不安を少し感じながら。
「おい、そこの小僧」
シュウジは後ろから誰かに呼ばれた。
振り返ると、そこには1匹のアブソルがいた。
「へぇ、珍しいな」
元々希少種であるアブソルが住宅街にいる。そうそうあり得ない状況である。
それもあるのだろうが、シュウジは何だかこのアブソルが気になった。
――さっき俺を呼び止めたの、こいつじゃないだろうな…。
「おい、返事しろよ」
予感は的中した。その言葉はアブソルの口から発せられている。
「えぇええ!?アブソルが喋ってる!!?」
人語を喋るポケモンなんて絵空事だと思っていたのに。
さらに追い討ちをかけるかのごとく、アブソルはまくし立てる。
「悪いか?ポケモンが喋っちゃ悪いってのか?」
やっぱり喋っている。その上饒舌で、短気だ。
「なんだよお前…」
シュウジの質問に、アブソルは戸惑っているようだ。
「俺は…誰だっけ?何処から来たんだっけ…」
人語を解し、よく喋り、短気で、その上記憶喪失のアブソル。
訳がわからない。シュウジの思考はもはや限界に達していた。
アブソルは返答を催促するように近づいてくる。
「そのアブソルは我々のもの。逃走した『実験体』だ」
高圧的な声と共に、アブソルの背後から黒いスーツを着た女が現れた。
――黒スーツ!?
まさか「奴ら」なのか。
「お前、こいつをどうする気だ!」
「連れ戻す」
女の手が鋭い鎌へと変化し、背からは昆虫のそれに似た羽根が生える。
同時に女はモンスターボールを投げ、トロピウスを繰り出した。
――こいつはストライク女か…。
「私はΛ(ラムダ)。お前のオオスバメもΓに代わって頂く」
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劇場タワーGS #13★2004.12/20(月)18:03
〔12・鎌鼬〕
Λとトロピウスは同時に宙に舞った。
トロピウスは“ソーラービーム”の発射体制に入る。
「させるか!行け、マサムネ!」
マサムネはトロピウスに突進を仕掛ける。
が、Λは鎌をクロスさせて寸前でマサムネを止めた。
「その程度か。Γを倒したのはまぐれだったようだな」
Λが身をかわした瞬間、強烈な“ソーラービーム”がマサムネの右翼に命中した。
「戻れ!」
翼がやられては、無茶はできない。
シュウジは代わりにヒデヨシとシンゲンを繰り出した。
しかし、相手のコンビネーションはこちらを上回っていた。
シンゲンにはトロピウス、ヒデヨシにはΛがそれぞれ個別に戦いを挑み、2体を分断した。
これでは連携は不可能だ。
しかも、空を飛べるトロピウスにシンゲンは思うように攻撃を当てられない。
ヒデヨシも、接近戦では鎌を持つΛに押されている。
このままでは、2体ともとても持ちそうにない。
「オオスバメを引きずり出すつもりだぜ」
アブソルが呑気に言う。
「わかってる!俺だってさっきから対策を考えてるところだ」
戦いが展開される内、かわされた“ソーラービーム”がアブソルの足元に着弾した。
「危ねぇじゃねぇか!!」
アブソルは頭の鎌に風を集め、鋭い刃にして放つ。
トロピウスはその攻撃に一瞬怯んだが、無視してシンゲンとの戦いに戻った。
「お前、“かまいたち”が使えるのか」
「使えちゃ悪いかよ!」
シュウジは不敵に笑った。
「いや、その逆だ。力貸してもらうぜ」
「俺は貸したくなんか…」
またも流れ弾がアブソルに当たりかけた。
「ほっといて逃げちゃおっかなー」
「…分かったよ。めんどくせーなぁ」
シンゲンとヒデヨシもそろそろ限界だ。一秒でも早く戦いを終わらせねば。
「お前の“かまいたち”。それがこの戦いの鍵だ」
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劇場タワーGS #14★2004.12/20(月)18:05
〔13・疾風〕
シュウジはシンゲンを戻し、代わってアブソルを繰り出した。
「何体新手が出ようと同じだ」
Λは動じることなく攻撃に移った。
トロピウスの“マジカルリーフ”、Λの“きりさく”が迫る。
「回避不能の“マジカルリーフ”か。だが…」
アブソルの頭の鎌が風を集め、“かまいたち”を放った。
Λは避けたが、“マジカルリーフ”は全てバラバラに切り裂かれた。
さらに、後方にいたトロピウスもダメージを受けたようだ。
「かわせないなら撃墜するまでさ」
Λの顔にも、流石に焦りの表情が浮かんだ。
「私はΓとは違う。お前などには負けない!!」
そのままΛは“きりさく”を発動し、シュウジに向かってきた。
「アブソル、こいつを頼む。ヒデヨシはトロピウスを狙え!」
Λとアブソルの鎌が組み合い、火花を散らす。
その隙にヒデヨシは“でんこうせっか”でトロピウスに攻撃を仕掛けた。
小回りの利くヒデヨシに翻弄され、トロピウスはみるみる体力を消耗していく。
「“マジカルリーフ”だ!」
ヒデヨシは至近距離から放たれた攻撃を避けきれず、体勢を崩した。
「“ソーラービーム”!一気に蹴散らせ!」
アブソルが困惑の表情でシュウジを見る。
「どうすんだよ!あいつやられちまうぞ!」
が、シュウジは不敵な表情のまま言った。
「“ソーラービーム”発動から発射までのタイムラグ。ヒデヨシの体制を崩すことで克服したつもりだろうが…」
ヒデヨシは突如向きを変え、こちらへと突っ込んできた。
Λは空中へ逃れる。
「あんたが空へ逃げることもお見通しさ!」
シュウジの態度はなおも崩れない。
――こいつ、何者だ?何故瞬時にこんな戦略を…。
だが、考えている暇はなかった。
アブソルは鎌にありったけの風を集中し、攻撃態勢に入っていた。
「新フォーメーション、行くぜぇ!!」
アブソルは渾身の力を込め、“かまいたち”を放った。
それはトロピウスに向かっていくヒデヨシに命中した。
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劇場タワーGS #15★2004.12/20(月)18:12
〔14・斬撃〕
Λは呆気に取られた。同士討ちだ。
「お前の作戦は失敗だったようだな!」
だが、シュウジはまだ笑っていた。
「よく見ろよ」
“かまいたち”を受けたはずのヒデヨシは健在だった。
それどころか“かまいたち”を身に纏い、“でんこうせっか”との相乗効果でさらに加速していた。
「“でんこうせっか”に“かまいたち”を加え、威力のみならずスピードも強化する…これが俺のフォーメーション第2弾、名付けて『疾風断』だ!」
――この小僧、やはり只者ではない。
「トロピウス、かわせ!」
既に遅く、超加速したヒデヨシの攻撃を受けたトロピウスが落ちるところだった。
ヒデヨシはスピードを保ったまま、こちらへ向かってくる。
「おのれぇぇ!」
Λは鎌をクロスさせて「疾風断」を防御した。
辛うじて直撃は逃れたものの、鎌には両方とも多くの皹が入った。
「くっ…」
今倒されてはΓの二の舞だ。それだけは避けねば。
「今回は私の負けだ。だが覚えておけ!必ず貴様を倒し、オオスバメとアブソルを奪いとってやる!」
Λは精一杯高圧的な態度を保ち、トロピウスを戻し飛び去っていった。
「あーあ、逃げられちゃった」
「しょうがないだろ、マサムネは翼をやられてんだから。それに『疾風断』もまだ不完全だったんだし」
そう言って、シュウジはアブソルの方を見た。
「まだ改良の余地がありそうだし、お前も俺のところで技を磨いてみないか?」
「…しょうがねーな。ニックネームも俺が決め…」
シュウジはアブソルの言葉を遮り、言った。
「ポケモンが自分でニックネームを決めるなんて有り得ん。お前は『ノブナガ』だ」
シュウジの屁理屈に、アブソル、いやノブナガはまた怒り出した。
「この野郎、誰のお陰で勝てたと思ってるんだ!!」
――そのワイルドな性格、信長っぽいと思うけどな…。
などとシュウジは思った。
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劇場タワーGS #16★2004.12/20(月)18:15
〔15・襲撃〕
ノブナガは苛立っていた。
シュウジは朝から新聞を読み漁るばかりで、特訓を始める気配がない。
とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「てめぇ!新聞ばっかり読んでないで特訓に連れて行け!」
「静かにしろ。気が散る。それに母さんに聞こえる」
シュウジは眉一つ動かさずに言った。
「なんで新聞なんか読んでんだよ!いつも特訓一筋のお前が!」
「だから静かにしろって。教えてやるから」
それから声を潜め、シュウジは話し始めた。
「この間の奴らに関する情報があるかもしれないと思って」
シュウジも、彼らとスナッチ事件の間に関係があるのではないかと疑っていた。
だから、ここ最近の事件記事を全て調べ、関連性のありそうな事件を探していたのである。
「でも、何にもない。唯一怪しいと思ったのはこれ」
シュウジはある記事を指さした。
「ポケモン遺伝子学権威、イチジョウ教授失踪…?」
「あの怪人共が遺伝子操作で作られたとしたら、こいつが一枚噛んでる可能性もある」
ノブナガは呆れた顔をした。
「遺伝子学研究者なんてそれこそ腐るほどいるだろ。考えすぎだよ」
確かに、失踪しただけで関連を疑うのは早合点かもしれない。
「名推理だと思ったんだけどな…」

カンザキはマガキからの報告書を見ていた。
《先日スリで逮捕された男が、偶然Θのペンダントを見て怯えた様子を見せた。例の組織に関係する人物の可能性あり。引き続き監視する》
「そう簡単に奴らの仲間が出てくるもんかね…」
一連の事件で彼らは一度しか遺留品を残していない。
そんな彼らの情報が、たかがスリから得られるとは思えなかった。
「レオ君ですら情報が掴めてないってのに」
カンザキがそう言ったときだった。
突如、警察署を大きな衝撃が襲った。机の上の書類が飛び散る。
同時に、外から声が聞こえた。
「スリで拘留されている男を渡してもらおうか」
高圧的な女の声だった。

予想を裏切り、スリの男から事件は進展した――。
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劇場タワーGS #17★2004.12/20(月)18:19
〔16・魔物〕
カンザキは慌てて外を見た。
そこには黒いスーツの女―Λ―と、今署を撃ったトロピウスがいた。
「スリを渡せ。さもないと、署ごと貴様らを吹き飛ばす」
――黒スーツの目撃証言も結構あったな…。
そんな事を考えながら、カンザキは階下のΛに向かって叫んだ。
「そんなもの、留置所にいるに決まっているだろうが!ここを襲うのは筋違いだ!」
Λはそれを聞いて笑い出した。
「何がおかしい!?」
「それぐらい気付いている。留置所にいるスリを渡せ。さもなくば…」
Λの背後から、屈強な男が姿を現した。
「やれ、Ε(イプシロン)」
男の骨格が音を立ててより強固に変形していく。
やがて男の姿はケッキングのそれに非常に近くなった。
「ルグァァ!!」
Εは野獣の如き咆哮を上げ、署に向けて“きあいパンチ”を放った。
壁面に巨大なクレーター様の皹割れが発生する。
「分かったか?スリの男…Θを渡さねば貴様らの命はない」
――なんてこった。あのスリ、こいつらの仲間だったのか。
数分前の予感が最悪の形で現実になってしまっていた。
相手は3体。しかも得体の知れない怪人が2人。勝算はない。
「署長も了承した。取引きといこう」
カンザキの言葉を聞くと、Λはどこかへ電話をかけた。
「Α(アルファ)、警察は要求を呑んだ。Θを連れて撤収しろ」
組織の手は既に留置所にも回っていたようだ。
だが、カンザキには秘策があった。
「留置所にはマガキとレオ君がいる。仲間を生け捕りにして洗いざらい吐かせてやる」

「私の名はΑ。我らの仲間、Θを渡してもらおう」
留置所に駆け込んできた“それ”は半人半馬、ケンタウロスの姿をしていた。
マガキは“バリヤー”を張り、レオはエーフィ、ブラッキーを出し戦闘に備える。
「ギャロップ男か。相手にとって不足は無さそうだな」
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劇場タワーGS #18★2004.12/20(月)18:23
〔17・共闘〕
「覚悟しろ化け物!」
カンザキは威勢良く叫ぶと、窓から飛び出した。
アリアドスが糸でフォローし、カンザキはゆっくりと着陸する。
「我々に歯向かうとは愚かだな。消えろ」
「ルグォォ!!」
トロピウス、Λ、Εが突進してくる。
カンザキはあえて動かず、機会を窺っていた。
「よし行け!ガーディ!」
すかさずガーディが相手の懐に飛び込み、“かえんほうしゃ”を放った。
トロピウスが体勢を崩す。
さらにアリアドスの“サイコキネシス”も撃ちこまれ、トロピウスは大きく後退した。
「グルァアァ!」
その後ろからΕが躍り出、強烈なパンチを何発も放った。
コンクリートの地面にいくつもの穴が開いていく。
――こいつもケッキング男なら怠けるのを待てば…。
だがΕは「なまけ」を持たないのか、休まず攻撃を続ける。
「どこを見ている!」
Λの声がした――と思った瞬間、“きりさく”がガーディとアリアドスに炸裂していた。
「人間風情が我らに勝とうなどと…」
カンザキも流石に焦りを覚えた。
「一億年早いわ!」
Λが空中で反転し、さらなる攻撃を加えようとする。
――まずい!もう一発でも食らったら…。
「“10まんボルト”!」
どこからともなく電撃が空中を走り、Λを撃墜した。
「小僧!?」
シュウジだった。
「オッサン、こいつらは無法者だ。全戦力で潰すしかないぜ!」
言葉の通り、既にシュウジは手持ちを全員繰り出していた。
「警察署が騒がしいんで、助けにきたのさ」
嘘である。元々は単なる野次馬としてきただけであった。
だが、カンザキにとって嬉しい助けであることに変わりはない。
「よし小僧、ここは手を組んでやる。協力して化け物を倒すぞ」
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劇場タワーGS #19★2004.12/20(月)18:28
〔18・火焔〕
エーフィとブラッキーは背中の毛を逆立て、激しくΑを威嚇する。
バリヤードも全力で“バリヤー”を張り、留置所を守っている。
Αはそんなポケモン達を一瞥すると、助走をつけ一気に跳躍した。
「甘いぜ」
留置所の中からマガキのドククラゲが姿を現す。
――伏兵か。
Αは前方に“かえんほうしゃ”を放ち、一気に後方へ飛んで着地した。
「流石、警部殿の精鋭は一味違うな」
Αは“かえんほうしゃ”で“バリヤー”を攻撃した。
あまりの熱と衝撃に、“バリヤー”がバキバキと激しく軋む。
「“だましうち”!」
後ろに回り込んだブラッキーが突撃を仕掛ける。
急激に“かえんほうしゃ”が打ち切られ、辺りは煙に包まれた。
「やったか?」
ブラッキーが地面に叩き落されている。
再び姿を見せたΑの手には、何処から出したのか黒光りする剣が握られていた。
「ルール無用。それが真の戦いというものだ」
振り下ろされる剣の風圧を受け、ブラッキーは一気に吹き飛ばされる。
まともに受ければ真っ二つにされてしまうだろう。
「“サイコキネシス”!」
エーフィが念動力で剣の動きを止め、間一髪で斬撃を止めた。
ブラッキーもレオの元に戻ってくる。
「遊んでいる暇はないのでな。一気に片付けさせてもらおう」
Αは大きく体を捻り、剣を思い切り“バリヤー”に投げつけた。
よほど硬いのか、剣は落ちずに“バリヤー”に突き立った。
Αは間髪入れずそこへ“かえんほうしゃ”を放つ。
一箇所に衝撃が集中し、“バリヤー”はそこから崩壊していった。
「まずい…」
留置所を守っていたドククラゲは、投げられた剣を受けて吹き飛ばされた。
そのままΑは強靭な蹄で独房の壁を蹴破る。
寸刻の後、眼鏡をかけた男―Θ―がΑによって担ぎ出された。
「さらばだ。またいつか戦おう」
Αはそう言い捨て、大きく跳んでレオ達の頭上を越していった。

作戦成功の報はすぐさま齎された。
「ΑがΘを回収した。これ以上の戦いは無用だ。退くぞ」
Λは眼前のシュウジとカンザキには目もくれずに言った。
「逃がすかよ!」
シンゲンの電撃が翼に当たり、飛ぼうとしていたトロピウスは地上に不時着した。
「警察署を滅茶苦茶にしてくれた罰、きっちり払ってもらうからな」
2人は敢然とΛの前に立ち塞がった。
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劇場タワーGS #20★2005.02/02(水)21:21
〔19・蟷螂〕
Λは撤収しようとしていたが、トロピウスが戦おうとしている様を見て仕方なく地上に戻った。
「死に急ぐか。愚かな」
「潰す!」
マサムネの“つばめがえし”、ヒデヨシの“でんこうせっか”がΕに迫る。
さらにシンゲンの“10まんボルト”、ノブナガの“かまいたち”がトロピウスを強襲した。
――同時に4匹に指示を出すとはな。だが…。
「人間がお留守だ!」
Λは技の間隙を縫って、シュウジとカンザキへ疾走した。
アリアドスとガーディが迎撃しようとするが、スピードでは敵わない。
あっという間に2匹を抜き去り、Λは2人の前に出た。
と、ガーディがとっさにその眼前に炎を吹き付ける。
Λは一瞬怯んだが、渾身の”きりさく”でその場所を薙ぎ払った。
…しかし、何の手応えも伝わってこない。
「な!!?」
Λは後方に目をやって驚愕した。
既にトロピウスは倒れ、Εも肩で息をする状態だ。
そしてそこには、先程までこの場にいた筈のシュウジとカンザキの姿があった。
うろたえるΛにカンザキが語りかけた。
「アリアドスに特別太い糸を出してもらい、それを使って跳んだ。それだけのことだよ」
確かに、彼らの足元には白い綱のような物があった。
――その程度でこの私が騙されたというのか!?
「このぉぉ!!」
憤怒の表情を浮かべ、Λは渾身の力で突撃してきた。
「無駄だぜ」
闇雲に突っ込むΛに、「天雷撃」と「疾風断」が同時に命中した。
激しい爆風が警察署を包み込む。
悲鳴を上げながら、Εはトロピウスに乗り逃げ出していった。
「オッサンのおかげで勝てたな。ありがとう」
「ならオッサンではなく『警部殿』と呼べ」
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劇場タワーGS #21★2004.12/20(月)18:58
〔20・胎動〕
報告書をしているカンザキの元へ、鑑識課のツガミがやって来た。
「警部、Λの血液検査ですが…」
「えっ、何?」
報告書作りに付き合わされていたシュウジが首を突っ込んだ。
ツガミは少し驚いたが、平静を保って検査結果を告げた。
「Λの血液中からは、微量ですがストライクの遺伝子が検出されました。その後検査を行った際には、遺伝子は死滅していました」
「やっぱり、遺伝子操作で怪人化したんだな」
シュウジとカンザキは同時に頷いた。
「遺伝子学者を片っ端から当たれ。こいつらを作った奴が絶対にいる」
やっと事件に光が見えてきた。そんな気がした。
シュウジのテンションも否応なしに上がる。
「よーし、そうと決まれば殴りこみの準備を…」
「まだ何処の誰か決まった訳でもないんだぞ」
カンザキが苦笑しながらツッコミを入れる。
その様子を見て、ツガミは「親子みたいだな」と思った。

薄暗い部屋の中。Εは報告をしていた。
「Λが倒されたことは不可抗力だ。それに彼女は秘密をバラしたりはしないだろう」
「グ…」
報告を終えたΕは下がっていった。
入れ替わるように、身なりを整えたΘが入ってきた。
「《ファウスト》、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「構わん。これからも我らの為に尽くしてくれたまえ」
そう言い、《ファウスト》は闇の中に消えていった。
――表面上は許したと言っているが、今度ミスすれば命はない。
Θは言いようもない不安を覚えた。
そこへΑが入ってきた。
「礼はいらん。だが、この貸しは忘れるなよ」
「あ、ああ」
Αはそれだけ言うと部屋を出、Θもまた部屋から出て行った。

「いよいよ行動開始だな」
自室で本を読みながら、《ファウスト》は呟いた。
「破壊と創造。粛清が始まるのだ」
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劇場タワーGS #22★2005.01/20(木)21:15
〔21・邂逅〕
シュウジは大慌てで坂を駆け上がっていた。
今日は月に一度の大会の日であった。
先月出場を逃したシュウジは今度こそと意気込んだのだが…またも寝坊してしまったのであった。
まだ翼の傷が癒えないマサムネは使えず、仕方なくシュウジは走っていた。
「出られなかったらストライク女のせいだ…」
愚痴をこぼしながら坂を登っていたシュウジの足が――ふと止まった。
「どうした?遅れるぞ?」
ボールの中からノブナガが声をかける。

坂の上には、1人の少女が立っていた。
シュウジと同い年くらいに見えるその少女は、整った顔立ちの、所謂美少女であった。
見とれて足が止まるのも無理は無いくらいに。
「だらしねーなぁお前」
ノブナガの毒舌に、シュウジは我に帰った。
「そうだ、こんなことしてる場合じゃ…」
だが、シュウジはまた足を止めることになった。
少女が眼下の町へ向かって叫び始めたのである。
「人探しにご協力下さい――!」
シュウジは慌てて静止に入った。
「いや、朝っぱらからそんな大声出したら絶対怪しいだろ!?」
少女はキョトンとしている。いかにも「世間知らずです」といった様子だ。
「とりあえず、人探しなら警察に頼みなよ」
シュウジはそれだけ告げると立ち去ろうとした。
「待って!」
3歩も行かない内に呼び止められた。
「何?」
「警察へはどう行ったらいいのでしょうか?」
シュウジは思わず転びそうになった。
――それぐらい地図探して自分で何とかしろ――!!
しかし関わってしまった手前、放っておくわけにも行かない。
シュウジはしぶしぶ少女を警察に案内することにした。

シュウジは汗だくになって座っていた。
道中で少女がやたらと寄り道ばかりするので倍以上の時間がかかってしまったのである。
もちろん、大会のエントリー時刻などとうに過ぎていた。
「あいつ…」
当の少女は警察署内に入っていったところだった。
出てきたら一言文句を言ってやる。
シュウジは手で顔を扇ぎながら思った。
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劇場タワーGS #23★2004.12/21(火)17:36
〔22・催眠〕
家に着くなり、シュウジは自室に駆け込んで倒れた。
もう何もする気が起きない。まだ午前だというのに疲労の限界であった。
「あいつ、今度見つけたらブチのめす…」
物騒なことを考えながらテレビを付けると、傷害沙汰があったと言うニュースが放送されていた。
――またかよ。
近頃はスナッチや怪物目撃に代わり、この手の傷害事件が多発していた。
容疑者が容疑を否認する点と、「覚えていない」と供述する点が全てに共通していた。
――どーせ便乗してるだけだろ…。
シュウジはすぐに興味を失って、そのまま寝ようとした。
「ん?」
テレビにはどこかの警察署が映っていた。
その窓の1つに、僅かだが奇妙な形の装甲が映り込んでいた。
レオのスナッチマシンである。
シュウジは思わず身を乗り出して画面を食い入るように見つめた。
すぐに画面は切り替わってしまったが、シュウジはある確信を抱いた。
――レオが動いているなら、この事件には奴らが絡んでいるに違いない。
なんとも短絡的な思考ではあったが、シュウジは急激に気力を取り戻し、部屋から飛び出していった。
幸い、映っていた警察署は電車を使えば行ける距離だった。
「混ぜてもらわない手はないぜ…」
気力十分。シュウジは次なる事件(そして表彰状)へと期待を膨らませていた。

電車を降りると、駅のすぐ前にあの警察署があった。
「待ってろよ表彰状!」
シュウジは意気揚揚と警察署に乗り込もうとして…慌てて物陰に隠れた。
そこには、今朝の少女がいたのである。
――何でここに!!?
シュウジは頭脳をフル回転させ、一つの結論に達した。
――多分、捜索願を何処で出していいか分からずにあちこち廻って来たに違いない。
だったら聞くとかしてなんとかしろ――!!
「あ…」
考えている間に、シュウジの姿は少女にバッチリ捉えられてしまっていた。
――まずい!
シュウジは慌てて駆け出し、適当な部屋に飛び込んだ。
「シュウジ君!?何してるんだ?」
そこにはレオ、カンザキ及びマガキがいた。
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劇場タワーGS #24★2004.12/21(火)17:42
〔23・事件〕
正に願ってもない幸運。
「苦あれば楽あり」とはこの事だ、とシュウジは心の底から思った。
早速シュウジはここへ来た目的を話した。
「一般人のしかも子供の協力など…」
カンザキは猛反対したが、マガキの「シュウジ君が来なかったらあの時負けてたでしょ」という一言に痛い所を突かれたらしく、渋々OKしてくれた。
「じゃあ君には戦闘を任せよう」
「ちょっと待て!」
自分が戦闘?一体どういう事態なのか。
シュウジが混乱しているのを見て、レオが事件の概要を説明してくれた。

「まず、ここ数週間で似た傷害事件が多発していることは知っているな。我々はその裏に何か関連があるのではないかと考えて捜査を続け、ある事実に至った」
そう言いながら、レオは一本のビデオテープをシュウジの目の前に出した。
「証拠品 無許可の視聴厳禁」とラベルにある。
「このビデオには強烈な暗示を起こさせる映像が仕込まれている。容疑者は全てこれを見た直後意識がハッキリしなくなり、気がついたら逮捕されていた、らしい」
つまり、ビデオを使って容疑者達に事件を起こさせた黒幕がいることになる。
しかし事件はあちこちで起きている。ビデオも当然方々にある。
「これはあくまで推測だが、犯人はESP(超能力)で、各地のビデオに暗示をかけたのではないかと」
スリーパーなど催眠術を得意とするポケモンを使えば、遠地のビデオに細工するのも不可能ではないだろう。
だが、いくらなんでも各地のビデオ全てに暗示をかけるのは不可能だ。
その時、ふと恐ろしい想像がシュウジの頭をよぎった。
「奴らの一味…スリーパー人間なら、そんな芸当も可能なんじゃないだろうか」
その一言で場がざわめいた。
カンザキはそれを静めると、レオに代わって話を始めた。
「そして昨日、ネット上にさらなる犯行を思わせる書き込みがあった」
カンザキは一旦言葉を切った。
「テレビを通じて全国民を暗示にかけ、暴走させると」
そんなことになれば、この国だけでは済まず戦火を他国に広げることは十分予想できる。
最終的には世界規模の大戦争に発展する恐れもあるだろう。
「そこで、我々はレオ君のエーフィにESPを探知してもらい、発信源を特定、容疑者を確保するという計画を立てた。だが、容疑者が妨害してくる恐れもある。そこで君に戦闘要員として加わってもらうという訳だ」
この事件を阻止できるか否かに世界の命運がかかっているかもしれない。
非常な緊張感から、シュウジはその場で硬直した。
「いつ見つかるか分からん。すまんが今日はここにいてくれ」
その言葉を聞いて、シュウジはこんな状況でも少しほっとした。
――これであいつに会わずに済みそうだ。
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劇場タワーGS #25★2004.12/21(火)17:46
〔24・決行〕
「作戦決行だ!」
シュウジが警察署に来て6時間後、事態は動いた。
「『全国民』だからキー局だと言うのは分かった。さらに粘ってやっと局を特定できた。今から向かうぞ」
「ちょっと待てよ!」
いくらなんでもキー局のある首都までは遠すぎる。行く頃には手遅れだ。
カンザキはシュウジの考えを見透かしたような、意味ありげな笑みを浮かべた。
やがて刑事達とレオが集結し、場は緊迫した雰囲気に包まれた。
「では行くぞ!ケーシィ!」
誰のものか、ケーシィが前に進み出てきた。
そして強烈な念を放った…と思った瞬間、シュウジの意識は急に遠くなっていった。

「昼寝してる場合か!付いたぞ」
シュウジが目を開けると、、もうそこはテレビ局の前だった。
確かに、ケーシィの“テレポート”を使えば移動の問題は解決する。
カンザキがいつになく緊張した面持ちで話し始めた。
「ここからは2手に分かれて行動する。1組は局内の容疑者の確保、もう1組は…」
カンザキが話し終える前に、辺りの物陰から不穏な集団が飛び出した。
集団はみな虚ろな目をしている。武器を持っている者もいた。
「こいつら――操られてる奴らの足止めだ!」
言い終え、カンザキはレオ、マガキを伴って局へ走り込んでいった。
シュウジはそれを見送って、はたと気付いた。
――俺は逮捕に加われないってこと!?
捜査に協力しても、裏方では表彰状など貰えない。なら取るべき手段は一つ。
シュウジは後方の刑事に向かって言った。
「後はよろしく♪」
そして、シンゲンに周りの集団を蹴散らさせるとシュウジはテレビ局へ入っていった。
刑事たちは追う暇などなかった。

局内はやけにひっそりとしていた。局員の姿が全く見当たらない。
これでは埒があかないとカンザキ達を探していた時、エレベーターが降りてくる音がした。
エベレーターからは数人の局員が出てきた。
「あの、さっき入ってきた刑事達はどこに…」
局員達の目は虚ろだ。シュウジの声も聞こえていないようである。
彼らは無言のまま一斉にシュウジに向かってきた。
「“10まんボルト”!」
シンゲンは慌てて電撃を放ち、襲ってきた局員達を気絶させた。
この様子では犯人は局内も既に手中に収めているようだ。
即ち、テレビ局内は敵だらけということになる。
「こりゃ嵌められたかな」
シュウジは誰に言うともなしにぼやいた。
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劇場タワーGS #26★2004.12/21(火)17:50
〔25・犯人〕
襲い来る局員を蹴散らしながら、シュウジは上の階へと歩を進めていた。
途中盗み聞きした刑事達の無線から犯人の居場所は分かりつつあった。
そして、シュウジはそのドアを開けた。

「ようこそ」
その部屋――編集室に入ったシュウジを出迎えたのは、スリーパーに酷似した姿の男だった。
男が操作している機器は何か怪しげな光を放っている。
「私はΖ(ゼータ)。よくここまで来れたな」
やはり警察は局員に叩かせる手筈になっていたらしい。
「君は強いらしいな。この後ラジオ、インターネットとあらゆるメディアを通じて全人類を洗脳するつもりだったんだが…」
Ζは機器から離れ、部屋の中に立った。
「先に君を消さなければならないようだ」
Ζは“サイコキネシス”を無数の衝撃波に変えて攻撃してきた。
シュウジに避けられた幾つかは壁を砕き、機器を破壊した。
「何故こんな事を企む!」
避けながらシュウジは問い掛けた。
「世界を滅ぼすだけなら、もっとストレートにやりゃいいだろう!」
Ζは攻撃の手を止め、苦笑しながら返答した。
「それでは無意味。愚かな人類は自らの手で滅ぶべきだ。その後は我々『AH(アドバンスド・ヒューマン)』の時代が来る」
Ζは臆面もなく言い切ってみせた。
シュウジの中で何かが切れた。
「ふざけんな。勝手に世界の命運を決められてたまるかよ!」
背後から飛び出したシンゲンの“10まんボルト”がΖに直撃した。
だが、Ζは平然とした顔で立っていた。
「我々も進化している。そんな攻撃では倒せないよ」
攻撃が再開した。衝撃波が部屋を抉り、削り、砕いていく。
次第にシュウジは逃げ場を失っていった。
部屋から出ようとすれば背を向けることになる。それは自殺行為だ。
「だったら!」
ノブナガも繰り出され、2匹はΖに同時攻撃を仕掛けた。
「今のうちに…」
シュウジは廊下に出、部屋を転々としたが、逃げ切ることは叶わなかった。
逃げる内にだんだん外壁が近くなっていた。
「そろそろか」
Ζは最大級の“サイコキネシス”を放った。
それは避けられたが、窓を破り巨大な穴をあけた。
「さらばだ」
次に放たれた“サイコキネシス”がシュウジを襲った。
シュウジは防ごうとしたが、そのまま窓から投げ出された。
シンゲンとノブナガを戻す暇もなかった。
「せいぜい自分の無謀を嘆くことだな」
Ζは残忍な笑みを一杯に浮かべた。
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劇場タワーGS #27★2004.12/25(土)22:19
〔26・再戦〕
落ちながらもシュウジは意識を保っていた。
――マサムネは翼が治ってない。駄目か――?
その時、傍らに黄土色の影が見えた。
次の瞬間、シュウジの意識は何処か遠くへと飛んでいった…。

「寝てる場合じゃないぞ!」
目が覚めた瞬間、カンザキに思い切りどやしつけられた。
「下にケーシィがいたから良かったものの、後一歩でお前はあの世行きだったぞ」
“テレポート”で地上に飛ばされたようだった。
まんまと敵の術中に嵌った悔しさに、シュウジは思い切り地面を叩いた。
「そうだ、シンゲンとノブナガは…」
カンザキは上のほうを見やりながら答えた。
「時折、戦闘らしき音や光が見える。戦ってるらしい」
悪タイプのノブナガがいるとはいえ、ポケモンだけで叶う相手ではない。
「まだ動くな。怪我はなくてもショックは残ってる筈だ」
カンザキが静止した。
「悪いね」
シュウジは跳ね起き、カンザキの腹に一発食らわした。
「どんな状況でもポケモンを見捨てない。それがトレーナーだろ?」

案の定2匹は苦戦していた。
“サイコキネシス”の余波を受け続け、シンゲンもスピードを活かせない。
とうとう直撃を食らってしまった。
体力は十二分のノブナガがシンゲンを庇う。
「もうすぐ援軍が付く。君も我らの下に戻るのだ」
1人なら何とかなるが、3人相手ではシンゲンを守りきれない。
――こんな時だけは奴がいないと…。
紫の影がノブナガの視界を掠め、超高速でΖを弾き飛ばした。
ヒデヨシだった。その傍らにはシュウジがいた。
「無事だったか!」
ノブナガは思わずシュウジに飛びついた。
「刑事達に助けてもらった。怪我はないから安心しな」
Ζは忌々しげにシュウジを睨み付けた。
「よもや生還するとは…。ポケモン共々今度こそ消してくれる」
シュウジは怯むことなくΖと相対した。
「てめぇは二度と日の目を見られなくしてやる」
彼らの卑劣な野望がシュウジの怒りに火をつけた。
シンゲンも回復し、再び立ち上がった。
「覚悟しやがれ!」
シュウジは地上まで聞こえそうな程の声で宣言した。
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劇場タワーGS #28★2004.12/21(火)18:04
〔27・戦略〕
「ほざけ餓鬼が!」
思い切り侮辱されたことに腹を立て、Ζの攻撃はさらに激しさを増した。
壁も床も穴だらけになり、機器は原形を止めぬまで砕かれていた。
壁が破られて移動範囲は広がったが、それでもポケモン3匹を連れた状態で逃げ切るのは至難の業だった。
「1匹くらい戻せよ!やられるぞ!」
ノブナガが忠告するが、シュウジは聞き入れようとしない。
「今3匹で勝つ戦略を立てたところだ。崩す訳にはいかねぇ」
シュウジには勝算があった。

やがて一同は広い廊下に出た。
「”かまいたち””10まんボルト””でんこうせっか”!」
3匹の同時攻撃が繰り出された。
「邪魔だ!」
Ζは怒りを込めた最大級の”サイコキネシス”でそれを相殺した。
同時に自分の体に”サイコキネシス”をかけ浮遊する。
あっという間にシュウジの目の前に着陸した。
「後悔するがいい!」
避けることは叶わず、シュウジは真正面から”サイコキネシス”を受けた。
「ぐぁっ!」
廊下の向こうまで吹き飛ばされる。全身が激しく痛んだ。
ポケモン達が駆け寄ってくる。
「終わりだな。軍師がいなければ所詮はただの獣よ」
『獣』呼ばわりされたこととシュウジを傷付けられたことで、ノブナガは爆発した。
「後悔するのはてめぇだぜ。その面ボコボコにしてやる」
並々ならぬ怒りがその眼に宿っていた。
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劇場タワーGS #29☆2004.12/25(土)22:30
〔28・集中〕
ノブナガを先頭として3匹はΖに挑みかかった。
Ζは”サイコキネシス”で応戦するが、ノブナガに防御され、また相殺され、ダメージを与えることは出来ない。
流石に疲れの色が見え始めた。
「ならばこれでどうだ!」
Ζは最大級の”サイコキネシス”を放った。
3匹は相殺しようとしたが、”サイコキネシス”は分裂し攻撃を回避した。
「やばい!」
このままではシュウジに当たる。
ノブナガが駆け出すがとても間に合いそうにない。
当たるか…と思われたとき、シュウジは横に転んでかわした。
「俺の心配はするな。そいつに…集中しろ…」
肩で息をする状態ながらも、シュウジはポケモン達に檄を飛ばす。
「よし、やろうぜ」
ノブナガが小さく呟いた。
「第3の…最強のフォーメーションでこいつを…ぶっ飛ばそうぜ!」
ヒデヨシとシンゲンが頷いた。
彼らの力がぐんぐん上昇していくのがΖには分かった。
――この上何を仕掛けてくる気だ…?
思わず体が震え出す。
Ζは恐れを感じていた。彼らの尽きることない力に。
「対AH用フォーメーション、『疾風迅雷撃』始動だ!」
3匹は一斉に駆け出した。
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劇場タワーGS #30★2004.12/27(月)18:55
〔29・撃滅〕
「来るな!来るなぁぁ!!」
Ζは半狂乱の状態で次々に衝撃波を繰り出した。
――なんなんだこいつら!?消えろ!消えろ!
冷静さを欠いた攻撃は一発も命中することはなかった。
左手のシンゲンが”10まんボルト”、右手のノブナガが”かまいたち”で反撃に転じた。
Ζは防ぐ間もなく吹き飛ばされた。
「馬鹿な…こんな下賎な者共に私が…進化した人類である私が…」
正面からヒデヨシが”でんこうせっか”で突っ込んできた。
シンゲンとノブナガがその後ろに回り、それぞれ雷と風をヒデヨシに纏わせる。
「その低レベルな頭脳も進化するべきだったな!」
雷と風、2つを纏ったヒデヨシの突撃――「疾風迅雷撃」がΖを襲った。
さっきと逆に、今度はΖが窓から放り出された。
最後の瞬間を想像し、Ζが失神した瞬間…彼の体は地上にあった。
「流石に死なれるわけにはいかんからな」
ケーシィ、そしてカンザキだった。
憮然とした表情だったが、同時に誇らしげでもあった。

「《ファウスト》様、Ζの計画は失敗したようです」
Θは沈痛な面持ちで告げた。
だが《ファウスト》は至って冷静だった。
「構わん。これはまだ序章だ。これから人類に齎される恐怖と…戦慄と…絶望の。
既に次の手は打ってある。心配することはない」
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劇場タワーGS #31☆2004.12/28(火)18:01
〔30・休息〕
刑事達が突入した時、シュウジは既に起き上がっていた。
「大丈夫かい?」
シュウジは笑って答える。
「ああ。あとこの事は母さんには内緒に…」
とっくに限界だったシュウジはそのまま倒れると気絶してしまった。

次に目が覚めたとき、シュウジの目に入った物は病室の白い天井とカンザキの顔、そして、
「うわ!?」
今朝の少女が病室にいた。
「偶然お前が搬送されるところを見て、心配になってついてきたそうだ。
じゃあもう行くぞ。お邪魔になってはいかんからな」
何やらニヤニヤしながらカンザキは病室を出て行った。
少女は一礼すると傍の椅子に腰掛けた。
「私はマナと言います。今朝は御免なさい、あんなに振り回してしまって」
やけに礼儀正しい。やはりどこかのお嬢様だろうか。
「こっちこそ心配かけて御免な」
照れくさそうに頭を掻きながら言う。
「奇遇にも程があるよな…。愛の力ってか?」
ボールの中からノブナガが茶々を入れる。
シュウジは黙ってノブナガを外に出し、振りかぶって脳天に一発お見舞いした。
その様子を見てマナがくすくすと笑う。
シュウジはまた彼女に見とれてしまった。
今日は色々あったが、これで帳消しに出来そうだ。
「苦あれば楽あり」。
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劇場タワーGS #32☆2004.12/29(水)21:50
〔31・喪失〕
とうとう夢の中にまでマナが現れた。
夢の中でもシュウジはその笑顔に見とれてしまう。
と、不意にノブナガが現れた。
「よくも殴ってくれたなぁ――っ!」
ノブナガは容赦なしに”かまいたち”を撃ってくる。
シュウジは汗びっしょりで目が覚めた。
「楽あれば苦あり」。

報告書を作成しながら、レオはひとり自問していた。
――俺はこのままでいいんだろうか…。
シャドー制圧の功績を買われて協力を引き受けたはいいが、協力するどころか足手まといになっているのではないか。
事実、Θをみすみす逃がしてしまった。
「オーレに帰ったほうがいいのかな…」
レオはすっかり自信が失せてしまっていた。
ため息をついていると、街の空が赤く染まっているのが見えた。
「火事!?」
しかも既にかなり大きく燃え広がっているようだ。
レオはあわてて部屋を飛び出した。
すぐに刑事の1人が寄ってきた。
「通報によると、例のΑが犯人らしいぞ」
忘れもしない、煮え湯を飲まされた相手、Α。
リベンジを果たす絶好の機会と言えた。
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劇場タワーGS #33☆2004.12/30(木)19:03
〔32・怒号〕
既に刑事達は臨戦態勢を整えていた。
「我らの目的は消火作業の支援、及びΑの確保だ。奴は手強い。遭遇したら必ず応援を頼め」
カンザキも疲労が残る体に鞭打って指示を出している。
「出動!」
刑事たちが一斉に駐車場のパトカーへと向かう。
レオはそれを呆然と見送っていた。
カンザキがその様子を見咎めて寄ってきた。
「どうした?行くぞ」
レオはおずおずと口を開く。
「俺、自信がなくなっちゃったんです。俺は過去の栄光に縋ってるんじゃないか、そのせいで皆さんに迷惑をかけてるんじゃないか、って…」
帰ろうと思うことまで、レオは洗いざらい思いをぶちまけた。
カンザキは黙って聞いていたが、レオが話し終わると顔を真っ赤にして怒鳴った。
「警視庁の信頼があったからお前はここにいるんだぞ?それを裏切る気か!
それに悩むなら後にしろ。今は緊急事態だぞ」
念を押し、カンザキは署を出た。
――悩むなら後にしろ、か。
至極正論である。今も街は燃え続けているのだから。
レオはとりあえず従うことにした。
そして、愛車のアクセルを大きく踏み込んだ。
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劇場タワーGS #34☆2004.12/31(金)16:47
〔33・惨劇〕
街の様子は凄まじかった。
十数軒の建物が今も燃えている。全焼したものも少なくない。
焼け出された人々は燃える家を見て途方に暮れている。
この地獄絵図を見て、激情せぬ者などいないだろう。

レオも例外ではなかった。
バイクを駆り、街中を血眼になって捜索していた。
――よくもこんなに多くの人々を…!
「Αを発見。至急応援願います」
無線の声に、レオは我に帰った。
急いでバイクを走らせると、カンザキ達とΑが交戦しているのが見えた。
レオはオーダイルを繰り出し、戦列に加わった。
不利な相手が増え、Αの表情に緊張が走った。
それでも華麗なフットワークで水流をかわしていく。
「この野郎!」
レオは焦っていた。一刻も早くΑを倒したい。

――倒す?
ふと気付いた。
建物への被害は甚大だが、死傷者の報告は入っていない。
人類を打ち倒すことこそ彼らの目的ではなかったか。
――なのに一人も殺していない。矛盾している。
これは本命ではないのか――?
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劇場タワーGS #35☆2005.01/02(日)18:35
〔34・信頼〕
一度湧き上がった疑念は払えない。
レオはマップを取り出した。
今燃えている街の反対側に遺伝子研究所がある。
…。

「警部、これは陽動かもしれません」
後方にいたカンザキはレオからの無線を受けた。
「どういうことだ?」
「この街の反対側に遺伝子研究所があるんです。本当の狙いはそこなのかも…」
カンザキはしばし沈黙した。
戦力が減れば苦戦は必至だ。しかし。
「お前はそれを信じているのか?」
「はい」
「なら信じたようにやればいい。責任は俺が取る」
カンザキは確信した。
これでレオの自信が完全に回復したであろうことを。
――そうだ、お前は皆から信頼されているんだ。
勢いのいいエンジン音が聞こえた。
レオは行ったようだ。
「警部、バリヤーがそろそろ限界です!」
マガキから苦境の知らせが届いた。
カンザキはちらとレオが向かった方を見、前線へと駆けていった。
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劇場タワーGS #36☆2005.01/03(月)21:00
〔35・自信〕
――「信じたようにやればいい」
その通りだ。すっかり忘れていた。

レオは急ぎ研究所へと向かっていた。
信頼してくれている人々の為に。

やがて研究所の厳つい門扉が見えてきた。
妙に凹んでいる。何か強力な衝撃が加わったようだ。
さらにバイクを進めると、門を殴っているΕの姿が見えた。
「ビンゴ!」
思わす叫んだ声に、Εが気付いた。
「何故!?何故ここが!!?」
ひどく混乱しているようだ。
「直感、かな」
レオはバイクを止め、エーフィとブラッキーを放った。
2匹は真っ直ぐにΕへ向かう。
「レオは邪魔者、排除!」
Εは地面を勢いよく殴り付け、強烈な衝撃波を走らせた。
2匹は悠々とそれをかわす。
2発、3発と衝撃波は放たれるが、1発も命中はしない。
「何故だ!!??」
さらに混乱するΕにレオは言い放った。
「頭に血が上った奴は負けるのさ」
その言葉は自信に満ちている。
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劇場タワーGS #37★2005.01/04(火)18:39
〔36・双極〕
レオの挑発を受け、Εはさらに烈火のごとく怒り狂った。
「ウルァァア!!」
地面を連打し、無数の衝撃波を走らせる。
だがむしろ、前よりも狙いは定まっていなかった。
「だから言ったろ」
”サイコキネシス”と”だましうち”が左右から炸裂する。
Εは大きくよろめいて体制を崩した。
エーフィとブラッキーはレオの下に戻る。
「陰!」
レオが大きく叫んだ。
ブラッキーが毛を逆立たせ、力を収束させる。
「陽!」
エーフィも同様に力を集めていく。
「双 流 破!!」
”悪”の力を纏ったブラッキーと”超”の力を纏ったエーフィ。
2体は互いの力を螺旋状に絡み合わせ、Εへと突撃した。
Εは拳を上げ最後の抵抗を試みようとしたが、それよりも早く2匹はΕの下に到達していた。
Εの体は大きく吹き飛ばされ、向こうの塀にぶつかってやっと止まった。
――あの塀、弁償しなきゃいけねぇのかな…。
などと考えていると、勝利した2匹が戻ってきた。
「ありがとう。これからもよろしくな」
レオは優しく彼らの頭を撫でてやる。
2匹は嬉しそうに目を細めた。
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劇場タワーGS #38☆2005.01/05(水)18:32
〔37・銃声〕
レオは早速報告をした。
「レオです。研究所を狙っていたΕは確保…」
誰も応答しない。それとも応答できないのか。
レオは不安を覚えながら愛車に飛び乗った。

Αとの戦いは長引いていた。
警官隊、Αの双方がかなり消耗している。
「でぃやぁぁッ!!」
Αは雄叫びを上げ、最後の勝負を挑んできた。
「甘いわ!ガーディ!アリアドス!」
カンザキの指示で2匹が飛び出し、アリアドスが生成した”クモのす”にガーディが着火した。
その「炎の網」はΑに覆い被さり、動きを封じる。
「名付けて『炎舞網』!なかなかの技だろう」
風が唸る。
「炎舞網」は一太刀で切り裂かれていた。
「人間がぁぁ!!」
Αは大きく跳び、剣に体重を乗せる。
カンザキが固唾を飲んだ瞬間。

一発の銃弾がΑを打ち落とした。
地上に落ちたΑはしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。
撃ったのは、マガキだった。
「君!何を…」
カンザキがマガキを問い詰める。
「先程本庁から全署に連絡がありまして、その…」
マガキは震えながら言った。
「AHに対し、問答無用で射殺することを許可する、と」
勝ち鬨を上げていた刑事達が、水を打ったように静まり返った。
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劇場タワーGS #39★2005.01/06(木)18:59
〔38・怪異〕
署に戻ったレオは、カンザキから射殺許可のことを聞かされた。
「『AHが人類の敵であることは明確であり、これを排除することは当然である』だと。あと、発表はまだ控えるように、と」
欠伸を交えながら、カンザキが言った。
レオは愕然とした。
「彼らだって元は人間だ…それに、人間の心を失っていない者だっているかも…」
カンザキはレオの言葉を遮った。
「とにかく、現場の俺達に出来るのは現場で戦うことだけだ。時局がどう動くか、目を離すなよ」
話し終えると、カンザキは仮眠室へ向かった。
レオは釈然としないものを抱えつつも、自室へ戻った。
こんなに疲れた一日は初めてだ。

夜更けの街。
1人の若者が買出しから戻ろうとしていた。
鼻歌交じりに歩いていると、目の前の路地から蔓のような物がうねっているのが見えた。
「…!」
悲鳴をあげる間もなく、彼は路地に引きずり込まれた。

数十分後、戻らない仲間を探しに出た若者が路地に入った。
「お、おい…」
そこにあった物は血だまりと、その中に浮かんだ、半分溶解した腕だった。
そして、傍らには若者が買いに出た食べ物が落ちていた。
極度の恐怖で若者が意識を失う。
同時に、何処からとも無く哄笑する声が路地に響き始めた。
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劇場タワーGS #40☆2005.01/07(金)18:12
〔39・挑戦〕
翌朝、目が覚めたシュウジにカンザキからのメールが届いていた。
『AHによると思われる連続殺人事件が発生したため、レオ君はそちらに向かった。君は心配しなくてもいい』
非常に事務的で型通りな文面だ。
「子ども扱いするなっての…」
シュウジはひとりごちた。
そう言えば、まだ早朝だというのに院内がやけに騒がしい。
昨夜あったという大火事のせいだろうか。
今日ぐらい、のんびりさせてもらいたいものだ。

シュウジが受付で手続きをしていると、マナが病院に入ってきた。
「シュウジ君、もう退院なの?」
「仮入院だったからな。元々無理矢理だったし」
シュウジは苦笑する。
元気そうなシュウジの様子に、マナも安堵したようだ。
と、シュウジの携帯がメールを着信した。
タイミング最悪、などと思いつつシュウジはメールを開く。
『母親は預かった。返してほしくば三丁目の廃工場に来い。 Δ(デルタ)』
Δ。ギリシャ文字のコードネーム。
シュウジの頭に「報復」の二文字が浮かんだ。
「個人攻撃かよッ…!」
呟くと、シュウジは急いで病院から駆け出した。
もうのんびりなどとは言っていられない。
マナは呆然と立ち尽くすばかりだった。
「何?また事件?」
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劇場タワーGS #41★2005.01/20(木)21:19
〔40・変幻〕
シュウジはマサムネと共に廃工場に降り立った。
待ち受けていたのは仮面の男、Δ。
「やっと来たな」
母はΔの傍らにいた。気を失っている。
「母さんを返せ」
怒気を孕んだ声でシュウジが凄む。
Δは肩をすくめた。
「言われなくても、僕と勝負して勝ったら返してやるさ。だが…」
言葉を切り、Δは右腕を伸ばしてシュウジの足元を抉った。
「負けたら、仲良くあの世へ行ってもらおう」
伸びた腕の先は刃になっていた。
よく見ると、刃と腕の境界は紫のゲル状になっている。
――メタモン男…。
武器変身が出来るとしたら厄介だ。銃でも持ち出されたら。
「先手必勝!」
シュウジは素早くヒデヨシを放った。ヒデヨシはマサムネと共に高速でΔの周りを飛び回る。
Δは何か汚い物を見るような目をした。
「目障りだな…」
彼の両腕が大きく伸び、2匹を捕らえた。
Δはそのまま跳び上がり、勢いを利用して2匹を地面に叩きつけた。
「小細工で勝てると思うなよ」
Δは両手を刃に変えた。魔剣とも言うべき禍々しい刃に。
――今までのやつらとは桁が違う。
シュウジはいつになく戦慄を感じていた。
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☆2005.01/22(土)20:27 #42☆2005.01/09(日)18:52
t-raru.gif
969
ログ飛びでデータがおかしくなっています…。
劇場タワーGS #43★2005.01/25(火)18:33
〔41・蒼光〕
シュウジの注意が逸れた一瞬を、Δは逃さなかった。
「放心してていいのかなッ!?」
両腕の刃を構え、Δが人智を超えた超高速で駆け出した。
シュウジは急ぎシンゲンとノブナガを繰り出した。
同時にマサムネとヒデヨシも立ち上がり、突撃を仕掛ける。
――4匹の同時攻撃なら…。
「小細工通じないって…わかんない?」
Δの足が独楽の軸の様な形に変形、体を捻ると高速回転を始めた。
強風が巻き起こり、”10まんボルト”と”かまいたち”の軌道が逸らされる。
怯まずに突っ込んだマサムネとヒデヨシも、Δの腕が変形した盾に阻まれた。
Δには掠り傷1つ付いていない。

――歯が立たない。
シュウジは心から、「負けるかもしれない」と思った。
初めて浮かぶ感情だった。

「じゃ、ね」
我に帰ったときには、既にΔがすぐ目の前に来ていた。
右腕の刃がゆっくりと振り上げられる。
シュウジは目を閉じることも忘れ、それをただ眺めていた。

と、静寂を裂いて蒼い光条が空間を走った。
不意を突かれたΔは防ぐ間もなく、光条によってまるで氷像のような姿と化した。
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劇場タワーGS #44★2005.01/25(火)18:28
〔42・飛翔〕
Δが凍りついたことを確かめ、シュウジは”れいとうビーム”の来た方を見た。
そこにいたのはニョロトノ―名はフラット―と、その主人。
マナだった。
「お前…どうして?」
「急に駆け出したあなたの様子を見て、ただ事じゃないと思って追いかけてきたら…」
氷が罅割れる音が響く。
シュウジとマナは慌てて後ずさる。
縛めていた氷が砕け散り、Δがその中から立ち上がった。
「舐めた真似を…」
Δは憎悪を剥き出した表情で2人を睨みつけた。
――と、その表情が俄かに困惑のそれへと変わった。
Δは、まるで何かを思い出そうとするように頭を抱えた。
「隙ありッ!」
今度はシュウジが不意を付く番だった。
4匹の同時攻撃を受け、Δは地面に叩きつけられた。
「止めを…」
Δは勢いよく空へと飛び上がった。
その足はブースターのような形に変形し、腕は翼に変わった。
「今日のところは逃げるよ」
Δは捨て台詞を残して飛び去っていこうとする。
「逃がすかよ!」
シュウジはマサムネを呼び戻し、その背に乗って飛び立った。
マナもチルタリス―名はシャープ―を繰り出し、それに追随した。
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劇場タワーGS #45☆2005.01/25(火)18:29
〔43・至高〕
Δの視界が追い縋る2人と2匹を捉えた。
「しつっこいなぁ」
Δの右腕が砲に変形し、灼熱の火炎弾を撃ち出した。
シュウジとマナは慌てて旋廻を指示、回避した。
その間にもΔは遠ざかっていく。
「弾の迎撃頼む!俺は奴に接近する!」
マナに伝えると、シュウジはマサムネを一気に加速させた。
彼らを狙う火炎弾はシャープが”りゅうのいぶき”で迎撃していく。

火炎弾の心配は無くなったが、Δには依然として追いつけない。
シュウジは焦りを感じていた。
「上、上!」
ボールの中のノブナガが叫ぶ。
”りゅうのいぶき”の射程を外した上からの火炎弾が迫っていた。
マサムネは左に曲がって回避する。
次の瞬間、Δの両腕が再変形し、両腕から黒煙が噴き出された。
Δはマサムネとシャープの視界から完全に消えた。
相手の出方が分からないのでは追撃は続行できない。
「逃げられちゃったね…」
マナが残念そうにシュウジに声をかけた。
…だが彼からの返答は無い。
シュウジは俯き、ただ黙りこくっていた。
彼はその後、公園に戻るまで一度も口を利かなかった。
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劇場タワーGS #46☆2005.01/26(水)21:59
〔44・無力〕
廃工場に戻り、母から感謝と労いの言葉をかけられても、シュウジは反応さえしなかった。
マナとも、気が付いたら別れていたというような風だった。
黙ったままシュウジは自室に戻り、ベッドに腰掛けた。

自分は完全に負けていた。
マナの助けが無かったら殺されていた。

自分の強さに多少なりとも自信を持っていたシュウジは、その現実に打ちのめされていた。

無関係のマナを巻き込んでしまったこともそうだ。
自分がもう少し冷静に動いていれば良かったのだ。
警察署になど行こうと思わなければ、それで終わっていたのに――。

もし彼女が怪我でもしたら、ましてや命を落とす羽目にでもなったら、完全に自分の責任だ――。

「強くなれ…」
そんな言葉が口をついて出てきた。
そして、シュウジはまた黙って家を出、広場に向かった。

それから彼の、ポケモンのみならず己にも試練を課す究極の特訓が始まった。
今以上に強くなる。ただそれだけの為に。
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劇場タワーGS #47☆2005.01/27(木)19:02
〔45・黄昏〕
ポケモン達の能力、技を0から見直し、戦略を再構築する。
自分自身にも過酷なトレーニングを課す。
「究極の特訓」は続けられた。

特訓を開始して4日目。
疲弊しきって水を飲んでいると、マナが広場に入ってくるのが見えた。
「何で…」
「あなたのお母様に聞いたの。最近ボロボロになって帰ってくるって言うから、心配してあちこち探して…」
相変わらず彼女の行動力には頭が下がる。
だが。
「俺に構うな。これは俺の問題だ」
マナは意に介する様子もなくそのまま近付いてきた。
「あの時、俺がもっと強ければ奴に勝てた。――他人である君を巻き込み、危険にさらすことなく。
君をこれ以上この戦いに関わらせない為に、俺は強くなるしかないんだ」
シュウジは息を継がずに一気に語った。
「…だから、もう俺に構うな」
すぐ近くまで来ていたマナが歩みを止めた。
それを見、シュウジは立ち上がり特訓を再開しようとした。
「…嫌」
その言葉と共に、鳩尾にマナの肘打ちが炸裂していた。
「な!!?」
激痛が走る。
せめてビンタにしてくれ、とか、そんなに怒らせたのか、などと考えながら、シュウジは意識を失った。
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劇場タワーGS #48☆2005.01/28(金)19:05
〔46・慟哭〕
目を覚ますや否や、シュウジは開口一番怒鳴った。
「何しやがる!せめてビンタにしろ!」
「ごめんなさい。こういう事は初めてだから…」
マナの謝罪が終わらないうちに、シュウジは立ち上がろうとした。
「待って」
マナは小さい、だが強い声で呼び止めた。
「私、巻き込まれたわけじゃない。あなたを心配して自分から関わっただけ。
それに、あなたが心配するほど私は弱くない」
シュウジは思わず振り返った。
「何が言いたいんだ…」
「…一緒に戦わせて。他人としてじゃなく…仲間として…」
マナは涙を流していた。
「そんなに無理しなくても、一人で背負いこまなくてもいいじゃない…」
シュウジの眼からも自然と涙が零れ落ちる。
「バカヤロウ、なら最初からそう言えばいいだろ…」
シュウジは涙を拭い、顔を上げた。
「でも、仲間になるからには特訓に付き合ってもらうからな」
精一杯の強がりに、マナは大きく頷いた。
黄昏の公園に二つの影が並んで走り始めた。
ノブナガが茶化す声さえも、今のシュウジには遠く聞こえた。
シュウジの心の中から、知らぬ間に迷いや恐れは全て消えていた。
――本当の戦いはこれからだ――。
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劇場タワーGS #49☆2005.01/29(土)20:46
〔47・疾走〕
とある街。
建物の間を駆け抜ける、異形の影と一輪バイクの姿があった。
一輪バイク――レオに追われているのは連続殺人犯にしてウツボット男のΗ(イータ)。
その体形ゆえ走りは速くなく、今にもレオが追いつかんばかりだ。
「ケッ!」
Ηは蔓を街灯に巻き付けて回転し、レオ目掛けて溶解液を吐き掛けた。
「溶けちまいな!」
が、紫の閃光と共に溶解液は消滅した。
エーフィが”サイコキネシス”で相殺したのだ。
「無駄な足掻きは止めな。食人植物さんよ」
一輪バイクの車体が目の前に迫っていた。
「くそっ」
Ηは蔓をありったけ伸ばし、近くの建物の屋上に引っ掛けた。
そのまま地面を蹴り、Ηは一気に屋上まで到達した。
「悔しかったらここまで…」
エーフィは”サイコキネシス”で重力を制御、壁を駆け上って屋上に到達した。
紫の閃光が炸裂し、数秒後ぐったりしたΗを引き連れてエーフィが下りてきた。
「流石だなレオ君」
ようやく追いついた刑事の一人が言った。
「時にレオ君、止めは刺さないのかね?」
「ええ、こいつからは色々聞き出したい事があるので」
レオは視線をエーフィに向けた。
「こいつの力を借りて吐かせてやるつもりです」
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劇場タワーGS #50☆2005.01/30(日)21:27
〔48・魔人〕
警察署にΗを連行したレオは、彼をそのまま取調室の椅子に拘束した。
「今までこいつらは一度も口を割っていない。だから確実に割らせる方法を考えたんです」
レオはエーフィに目で合図を送った。
エーフィが念力でΗの頭脳に働きかける。
やがてΗの目は虚ろになっていった。催眠状態になったのだ。
「成る程、これなら確実に自白させられるな」
刑事の一人が感心したように呟いた。
今やΗの如何なる秘密もレオの手の内、という訳だ。
「じゃあ聞こうか。あんたらの親玉はどこの誰だ?」
Ηがゆっくりと口を開いた瞬間。
「ぐぉぉおっ!!」
突然、彼は頭を抱えて苦しみだした。
Ηは椅子が倒れんばかりの勢いで数分間のた打ち回った後、今度は打って変わって静かになった。
困惑しながらもレオは再度声をかけた。
「あんたらの親玉はどこの誰だ?」
Ηは答えない。
代わりにふふふ、と含み笑いをしながらレオの方を向いた。
「無駄だよ。この男の記憶は既に消去された。私の手によってな」
その声はΗの物ではなくなっていた。
「貴様、一体何者だ!」
レオの問いかけに、Ηの姿をした者は含み笑いをしながら答えた。
「私は《ファウスト》。AHの統率者にして新たなる”神”だ」
Ηの姿をした者は、まるで演説でもするようにそうのたまった。
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劇場タワーGS #51☆2005.02/01(火)20:38
〔49・巨悪〕
レオと刑事達はΗから少しずつ距離を取っていった。
《ファウスト》はその様子を一瞥しまた話し始めた。
「私は部下とテレパシーで交信する事が出来てね。今回もΗが急を知らせてきたので、彼には悪いが憑依させて貰ったのだよ」
俄かには信じがたい言葉だ。
が、目の前で展開されている以上信じない訳にはいかない。
レオは動悸を抑えながら問い掛けた。
「貴様がAHの統率者なら…貴様は何のために人類を滅ぼそうなんて馬鹿げた事を企んでいる?」
《ファウスト》の笑いが含み笑いからはっきり嘲笑に変わった。
「愚問だな。新たな物が古い物を滅ぼすのは当然。
ちなみに、私が離れた時点でΗの記憶は消える。悪く思わないでくれたまえ」
そして、驚愕する刑事たちの前で《ファウスト》は別れの挨拶をした。
「諸君、来るべき戦いの日に会おう…」
《ファウスト》の笑い声が次第にか細くなっていき、やがてΗがガックリと首を垂れた。
「待…!」
刑事達は、レオでさえも動悸を抑えることが出来なかった。
自分達の前に立ちはだかる敵の凄まじさ、大きさを目の前で見せ付けられたのだから。
――勝てるのか――?
「勝たなきゃいけない…」
レオは自分に言い聞かせるように言った。
そうとでも言わなければ、このかつてない重圧に押し潰されそうだから。

「来るべき戦いの日」のために、今怖気づく訳にはいかない。
分かってはいても、レオの心臓は依然激しく鳴っていた。
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劇場タワーGS #52☆2005.02/02(水)21:10
〔50・幕間〕
シュウジとノブナガが自室で語らっていた時。
いきなりシュウジが質問をし出した。
「なぁ、マナっていい奴だよな」
「はぁ?」
唐突なシュウジの問いかけにノブナガは唖然とした。が、一応答えた。
「確かにいい奴だな…出会って間もないお前のことあそこまで気にかけてくれて。うん、滅多にいないイイ奴だ」
ノブナガは太鼓判を押した。
「だよ、な…」
シュウジはどこか上の空である。何か考え事をしているようでもある。
ノブナガのポケモン離れした頭脳がフル回転し、一つの結論を導き出す。
「成る程、恋か」
「!!??」
その言葉にシュウジの顔はマトマの実のように真っ赤になった。
ノブナガはオロオロするシュウジにさらに畳み掛けた。
「もうこれはアイツが可愛いからだけじゃない、間違いなく恋だ。俺の勘に間違いはない!」
…図星だったようだ。シュウジは赤い顔のまま俯いた。
「よし!俺が応援してやる!今から告白に行けぇっ!」
シュウジは以前真っ赤な顔のままで首を横に降った。
が、とうとう覚悟を決めたらしく、彼は立ち上がった。
「…失敗したら承知しねーぞ」
「ラジャー☆」
ノブナガが威勢良く返事を返す。
かくして、1人と1匹は緊張しつつ街に繰り出すのであった――。
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劇場タワーGS #53☆2005.02/03(木)21:16
〔51・憤怒〕
以前聞いた話によると、マナは駅前のPCに逗留しているらしい。
早速シュウジとノブナガはそこへ向かった。

着いたはいいが、流石にいきなり会いに行くのは気が引ける。
シュウジとノブナガはロビーの隅で作戦会議を始めた。
「やっぱ覗いて帰るだけに…」
「最初の威勢はどこ行った?しかもほぼ犯罪だぞお前」
会議が喧嘩に変わり始めた頃、右側の廊下から少女が出てきた。マナだ。
「よし行け!」
「いやまだ心の準備が…」
1人と一匹が大モメしているとは露知らず、マナは出口に向かいながら携帯を取り出し、何処かへ電話をかけ出した。
「もしもし。キョウスケさんに替わって頂けますか…」
…「キョウスケ」。明らかに疑う余地も無く100%男性名。
シュウジにはもはや後の会話を聞く余裕は無かった。
「男か」
「は?」
ノブナガの返事を待たずして、シュウジは怒りに燃えた顔を上げた。
「分かんねぇのか?男だ!デートだデート!」
ノブナガ、再び絶句。
――何だそのとんでもない思考の飛躍は――!!?
「血祭りだ…マナに近付く奴は血祭りだッ…!」
ノブナガには目もくれず、シュウジは血走った目で駆け出していった。
一世一代の馬鹿で阿呆だとは思いながらも、それでも放っては置けず、ノブナガも渋々シュウジの後を追いかけた。
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劇場タワーGS #54☆2005.02/04(金)20:38
〔52・凍結〕
ノブナガが追いつくと、シュウジは血走った目で依然マナを尾行していた。
「おい、それじゃ犯罪者…」
「血祭りだ…」
シュウジにはもう周りの声など聞こえていないようだ。
マナが歩き出すとと同時に、シュウジはササッと次の物陰に移った。
「打首獄門だ…ッ」
もうノブナガにはツッコむ気力さえない。

一人と一匹が尾行を続ける内に、マナは商店街に差し掛かっていた。
と、商店街の中から何だか騒がしい声が聞こえる。
「何だ?」
シュウジは少し冷静さを取り戻し、何が起きたか調べることにした。

シュウジの見たもの、そして聞こえた話によると、どうやら商店街中の店の商品がカチコチに凍結されてしまったらしい。
おまけに、銀行に強盗が入ったという話も飛び出していた。
「成る程、商品を凍結して人々の目を引き付け、金を盗ったって訳か。
シュウジ、こいつぁ奴らの仕業かも…」
シュウジの目が再び血走っていた。
もはやその形相は鬼かと見まがうほど激しく変貌していた。
「そいつがキョウスケだ…そいつがマナの…血祭りだぁぁ!!」
ノブナガ、三度唖然呆然。
――だからなんでそういう思考になるんだよ…。
だが、ツッコむ前にシュウジは犯人を追い爆走していた。
――一世一代どころじゃねぇ、こりゃ千年に一度の馬鹿だ…。
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