湊 | #1★2004.12/22(水)20:21 |
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1章 クリスマスイブの前日に ミナモシティを歩いている少年とグラエナがいた。少年はチョーカーを首につけ、左手首に青いバンダナを巻いている。かなりの美形だ。そのバンダナの内側にたくさんのジムバッチがあることを知っている人は、この地方にはまずいないだろう。グラエナはそれとおそろいの青バンダナを首に巻き、そこだけにふさふさと生えた黄金の毛を隠していた。このグラエナ、ただのグラエナではない。そして少年も、少年のパートナーたちも只者ではなかった。 グラエナは近くに誰もいないことを確かめると、低いハスキーボイスで少年に話しかけた。実は少年のポケモンは、みんな言葉を話せるのだ。 「なぁ、龍、クリスマスイブ前日だし、もう真夜中なんだから『ミナモのモナミ』にでもとまろうぜ…俺、もう寒くて、寒くて…」 しかし、龍はグラエナを跳ね除けた。 「…ホウエン地方で喋るなと何度言わせるつもりだ?グラニス、少しだまっていろ。…『つきのこころ』でお前の言いたいことはわかるんだから…クリスマス?だからなんだって言うんだ。わざわざ祝うなんて馬鹿げてる…」 龍にしては長い台詞だ、とグラニスは思ったが、気にしないことにした。 『つきのこころ』というのは、龍のチョーカーの羽を象った銀の金属の中央にはめてある一見サファイアに見える石だ。この石を身につけていればポケモンの言葉がわかる、というよくあるパターンの代物なのだが、言葉をしゃべる龍のポケモン達にはいままで必要なかった。 グラニスが黙ると、龍はミナモデパートの玄関に飾ってあるクリスマスツリーを見てため息をついた。たしかに明日はクリスマスイブだ。さらに深夜とくれば寒いのは当たり前だろう。しかし『みんしゅくモナミ』に泊まろうとしても、真夜中に来た客はまず泊められない、というのはわかっている。 天狼 龍(てんろう りゅう)はホウエン出身ではない。かといってカントー出身でもジョウト出身でもない。他の世界から来て、ポケモンの世界にやってきて旅をしている。悪く言えば『異世界から来たよそ者』だ。 グラニスがどこかの家のクリスマスパーティの準備の匂いをかぎつけて、鼻をくんくんしているのを見ていた龍は、少しはなれたところで聞こえてきた悲鳴で過剰反応した。周囲の家で悲鳴に気づいた様子はない。とするとあの悲鳴の人物を助けに行かれるのは龍だけしかいない、というわけだ。 「…いくぞ、グラニス!」 そうグラニスに声をかけた龍は、人並みはずれたスピードで駆け出した。 |
湊 | #2☆2004.12/22(水)16:51 |
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2章 猫耳の少女 路地を曲がったとたん、龍はとんでもないものを目撃した。 女の子が、壁に追い詰められている。そして女の子を追い詰めていたのは黒装束の怪しさが服を着たような男だった。その男を見たとたん、龍は鳥肌が立った。この男、実はここ数年、『つきのこころ』とグラニスを狙って龍を東西南北どこへでも追い掛け回している集団の1人だったのだ! 「……待て。」 龍が静かな、そして威圧感たっぷり殺気たっぷりの声で言った。振り向いた男は、龍と女の子がクリスマスプレゼントかなにかだったかのような反応をした。 「誰かと思ったら天狼のボウズか。この娘とお前を持ち帰ったら、ボスはd…」 ボスはなんなのかはわからずじまいだった。なぜかというとグラニスが男にとっしんをお見舞いしてやったからだ。男はあたかもバイ○ン○ンのように雪のふる夜の空へと飛ばされた。 龍は女の子に駆け寄った。どうやら自分より5,6歳年下のようだ。 「…大丈夫か?」 龍がしゃがんで女の子と同じ目の高さにあわせた。女の子は頭を抑えていた手を離した。 龍は絶句した。手の下からビヨーンとでてきたのは猫耳だったからだ。驚くやら呆れるやらで龍が女の子をまじまじと見ていると、女の子はいきなり泣きついてきた。 グラニスはあっけにとられた。クールで滅多に感情を出さない無口で用心深い龍が、見ず知らずの小さな猫耳少女に泣きつかれて絶句しながら頭をなでている。まるで猫と主人のようだ。 龍も困り果てていた。こんな寒い中、深夜に見ている人はいないだろうが、こんなのは絶対他人には見られたくないシーンだ。いままで沢山の女に惚れられたし泣かせてきたたが、自分にしがみついて泣き喚く奴は初めてだった。それも幼い猫耳の少女だ! 猫耳少女は泣き疲れるとありがとう、と消え入りそうな声で言った。 「…家は・・どこだ?」 龍も消え入りそうな声で聞いた。猫耳少女は眠そうだったが、 「フエン…だよ…」 と言った。そして……寝た。 膝の上で寝られたとたん、龍はカーッと熱くなったのを感じた。恥ずかしい、というのもある。こんな寒い中、膝の上で幼い女の子に寝られるなんて… 「ヒューヒュー♪デキてる、デキてるぅ〜?」 グラニスがはやし立てる。しかし、今の龍にはこれしか言えなかった。 「……だっ・・黙れ!」 |
湊 | #3☆2004.12/22(水)17:51 |
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3章 「お兄ちゃん」な龍 目覚めた龍は、くしゃみをして、それからブルブルっと身震いをした。どうやらあのまま寝てしまったようだ。寒いのは早朝ということもあるが、風邪をひいたのだろう。 猫耳少女は膝の上ですーすー寝息を立てて眠っている。おめでたい奴だ、と龍はため息をついた。グラニスは龍の傍らで寝ている。グラニスの体制から見ると、猫耳少女には寒い風は当たらなかったようだ。そしてグラニスはふさふさの毛皮がある。しかし、完全なる無防寒な龍は、しっかり風邪をひいてしまった、というわけだ。 と、いきなり猫耳少女が目を覚ました。そして、猫そっくりの黄色い目で龍を見、そして起き上がった。 がつん。 「痛ッ!!」 少女の頭が龍の顎にヒットした。この少女、かなりの石頭のようだ。 「あっ、ごめんなさい・・」 この朝っぱらの騒動で、グラニスが目を覚ました。 「ん?ん?朝からデートの誘いでもしてんのか?」 「…黙れ。」 龍がぶつけられた顎を押さえながら言った。そして、しまった、と思った。グラニスは、言葉を喋ってしまったのだ。しかし、少女はグラニスより龍の顎を気にしていた。 「お兄ちゃん、ごめんね。」 「お…おにい…ちゃん?!」 龍は半ば呆れ、半ば絶句しながら言った。初対面の人間にお兄ちゃんと呼ばれたのは初めてだ。そのことで絶句している龍に少女は気づいていない。 「あたし、美猫(みねこ)っていうの。この子はにゃんこでこのこはひつじんっていうの!」 そういうと美猫はポケットからモンスターボールを出して、エネコとメリープを出した。龍はさらに呆れた。 「…じゃあなんで昨日襲われた時に出さなかったんだ?」 美猫はさっぱりわからない、という顔をした。 「え〜、だってポケモンは友達だから。友達って戦わせたら友達じゃなくて親分と子分になっちゃうでしょ?」 なんだこいつは!龍はもう追及する気がなくなった。友達、というのは間違ってはいないが、とんでもないカン違いをしている。龍はいそいで話題を変えた。 「…ポケモンがいるんなら、自分で帰れるだろ?」 しかし、美猫は大きく首を振った。 「だめなの。だからお家までつれてって!」 龍は硬直した。どうやら今年のクリスマスは、この猫耳少女を家に送るので潰されそうだ。 |
湊 | #4★2004.12/22(水)20:20 |
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4章 空の旅・前編 龍は違う質問をした。 「じゃあどうしてここにいる?何故あの男に襲われていたんだ?」 美猫は少し困ってしまったようだ。 「ママにつれてきてもらったんだけど、迷子になっちゃったの。それであの人があやしいおじちゃんとかばんの交換してたの見ちゃったの。」 それは追いかけられるわけだ。ということは、この少女は龍と違って何かすごいものをもっているのではなく、単に闇取引の現場を目撃してしまっただけらしい。 「…じゃあ母親がまだ探しているかもしれないな。」 《じゃ、交番に行こうぜ☆》 とグラニスが龍に気持ちを伝えた。 「…!帰った、…って…」 交番で、龍ははたまた絶句した。なんと母親は一旦交番に来たが、昨日の夕方に帰ってしまったという。なんて無責任な母親だ。 「じゃ、この子は交番で預かっておくから、それからお母さんに…」 若いお巡りさんがそう言ったが、美猫は首を振った。 「このお兄ちゃんが送ってくれるの!」 「…お兄ちゃんって呼ぶの…やめてくれないか?」 お巡りさんは少し驚いたようだ。 「君が送ってくれるのかい?じゃあ頼んだよ。」 警察も無責任だ、と龍は思った。しかし、ニコニコしているお巡りさん、大喜びの美猫、そして意地悪そうに龍をみるグラニスの前では、さすがの龍も断るわけにはいかなかった。 交番を出ると、龍はグラニスをモンスターボールに入れた。飛んでいけはフエンにも早く着く、と推測したからだ。龍はグラニスの代わりにボーマンダのディルを出した。 《どうしたの、龍?その女の子は?》 「…迷子だ。フエンまで送れと言われた。」 ディルはその優しそうな目で龍を見た。どうしてこの目で威嚇が出来るのか、龍には疑問だった。美猫はというと、飛んでいけるので大はしゃぎだ。 「わーい、お空のポケモン♪お空のポケモン♪」 どこかで聞いたことのある台詞だが、龍もディルも気にしないことにした。 「ほら…行くぞ。落ちないという保障はないからな。」 龍ははしゃいでいる美猫に声をかけた。数分後、ディルは呆れる龍とはしゃぐ美猫を乗せて、ちらほらと雪の舞う空に飛び立った。 |
湊 | #5☆2004.12/22(水)19:52 |
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5章 空の旅・後編 「わーい、飛んでる飛んでるっ♪」 「あまり暴れるな…落下しても知らないぞ。」 ボーマンダのディルは、龍と猫耳少女の美猫を乗せてミナモ上空を飛んでいた。 《なぁ、どうして今年のホウエンはこんなに寒いんだ?》 ディルが龍に気持ちを伝えた。龍は美猫に気づかれないようにディルに囁いた。 「…今年は冷夏なんじゃないのか?」 「ねーねー、喉渇いたぁ。」 何の予告もなしに美猫が龍の服をひっぱって言った。龍は美猫を黙らせようと睨みつけた。しかし、美猫に「にらみつける」は逆効果だった。さらに騒ぎ立てる。 「喉渇いた〜!お水!お水〜!トイレ行きたい〜!」 龍は呆れた。ディルから気持ちが伝わってくる。 《どうする?ずっとこのまま、騒がせるの?》 「…しかたないな。…今一番近くの町は?」 《ヒワマキシティ、だね。ツリーハウスが見えるから。》 龍は再度ため息をつくと、ディルに指示した。 「……悪い、ヒワマキに降りてくれ。」 ヒワマキシティに降りると、美猫は水をがぶ飲みし、ポケモンセンターのトイレに駆け込んだ。その間に龍とディルはポケセンの外で待っていた。 「…まったく、すさまじいクリスマスだな…」 《しかたないよ。早くあの子を届けて、みんなでパーッとやろ?》 美猫がポケモンセンターから出てきたので、出発しようとしたときだった。 「あーっ、あーっ!!」 誰かの叫び声。振り向いた龍は、叫び声を上げた誰かのパンチを片手で受け止め、そいつの腹にメガトンキックを食らわせた. 龍、美猫、ディルは腹を押さえてうずくまっている少年を見下ろした。龍はそいつを知っていた。なぜなら、永遠のライバルの篤(あつし)という輩だったからだ。 「おい!馬鹿龍!何すんだよ!」 篤が龍にくってかかるが、龍はそんな篤のわき腹を蹴り飛ばした。 「…黙れ。…最初に殴りかかってきたのは貴様だろうが。」 ディルは、やっといつもの龍に戻った、と思った。普段龍は嫌いなやつと初対面の人には用心深く、冷淡にあつかうのだ。 「おい、そこにいる女の子、誰だ?まさか誘拐したのか?」 篤が立ち上がりながら言う。龍と篤の間に火花が散る。次の瞬間、格闘ゲーム実写版がその場でくりひろげられ、美猫、ディル、そしてヒワマキの人々はそれをあっけにとられて見ていたのであった。 |
湊 | #6☆2004.12/22(水)20:51 |
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6章 原始人とピタゴラス 「へー、迷子の子猫を家まで届ける、ってか。よくあるパターンだな。」 1時間後、ばんそこうだらけの篤が言った。龍はギロリと睨みつけた。篤に「睨みつける」は効果抜群だ。 「…そういうお前はここで何をしている?」 「そりゃーまぁ…」 篤は考えた。この行動からすると、ただの観光だろう。 「とりあえず、暇だからお前についていってやるぜ。ありがたく思え。」 「…原始人がウッホウッホと会話していたと思い込んでいる輩に付いてこられてありがたいと思うやつがいるのか?」 龍がバシッと言った。篤は変な顔をした。 「えっ?ウッホウッホって会話していたんじゃねーの?」 だめだこりゃ。龍は呆れた。どうやらこいつは脳みその入れ替えをしたほうがいいようだ。 「…お前はピタゴラスの定理も知らないだろ。」 「その前に12歳でピタなんとかのてーりを知ってるやつがいるわけないだろ。」 「…俺は知っている。それに全国各地にはそういうことをちゃんと知っている小学生は必ずいるぞ。それ以前に、お前はピタゴラスという人物すらわからないだろ。」 考え込む篤。その隙に龍はディルと美猫に合図をして、その場をそそくさと逃げ出した。 「ねーねー、あの人だーれ?ぴたごらすって何?」 早速美猫が大きな声で聞き始めた。 「…あいつは篤。俺をライバル視しているヤツだ。ピタゴラスの定理というのは直角三角形の斜辺の長さをc、他の二辺の長さをa、bとすると、a2+b2=c2であるという定理だ。」 ピタゴラスの定理を美猫が完全に理解したかは疑わしい。定理ってなーに?と聞きたそうな顔を見ただけでそれがわかる。しかし、美猫は質問できなかった。なぜなら邪魔者が乱入してきたのだ。そいつは頭上から降ってきて、龍に直下した。 ドサッ!バサッ! 篤だ。 「へーんだ、俺から逃げようったって、そうはいかないぜ!ピタゴラスっていうのは古代ギリシアの学者だろ!ネットの辞書で調べたぜ!ほーら、ピタゴラスがわかったから俺は天才だ!連れて行け!」 「………その前に、俺の背中から降りろ!」 こうして、邪魔な大荷物が増えたのだった… |
湊 | #7☆2004.12/23(木)12:51 |
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7章 天気研究所のポワルン 篤が加わったことで、一つ困ったことが起きた。ディルの背中に3人も乗るのは少し無理がある。無理やり乗ったとしても、誰かが必ず落ちるだろう。龍のフライゴンのフラーでも3人は無理だ。フラーはフライゴンにしてはかなり小柄なのだから。彼らには歩いていくしか選択肢はなかった。 ヒワマキシティをでたとたん、篤がつついてきた。 「おい、なんでてめぇはそんなキザ野郎なんだ?」 龍のアイビームが炸裂する。 「……お前みたいなアホが俺の近くにいるからだ。」 2人の間に火花が散ったが、そんなことはつゆほども知らない美猫がそれを鎮圧した。 「わーい、おっきなお家〜!」 見ると、天気研究所がある。だが、そんなものにかまっている時間はない。今日中に美猫を厄介払いしたかった龍は、さっさと行こうとした。だが、そう簡単には事は進まなかった。篤という邪魔者がいたのだ。 「おっ、研究所じゃん!ここってポワルンがいっぱいいるらしいな。」 篤が美猫といっしょに立ち止まった矢先、天気研究所の影から1匹のポワルンが飛び出した。美猫の反応はというと… 「わー、かわいい!あれほしー。ちょーだい!」 「……駄目だ。」 龍は即刻言ったが、次の瞬間ギクリとした。美猫が目を潤ませている。 「ねぇぇ〜!ぽわるん〜!」 美猫の「ほしがる」は、龍には効果抜群、一撃必殺だ。瀕死こそはしなかったものの、龍はしぶしぶ従った。このポワルンを捕まえるしかないだろう。 「…シャドー、少しいいか?」 そう言って、龍はブラッキーのシャドーを出した。どうやらシャドーはボールの中で昼寝中だったようだ(ぇ)。 《ふわぁあ・・。わかった。で?こいつ俺の攻撃うけたらやられるぜ?》 「…くろいまなざしで逃げられなくしてくれ。」 シャドーが指示通りにくろいまなざしをお見舞いした後、龍はモンスターボールをポワルンに投げつけた。 こういうときに限って、捕まらないのがお定まりの展開である。ポワルンはすぐボールから出て、シャドーにこなゆきを食らわせた。 「わーい、がんばれ!がんばれ!」 美猫が叫ぶ。龍はこの猫耳少女が憎たらしくなったが、無視してポワルンにモンスターボールをまた投げた。 またポワルンがボールから出て、シャドーにこなゆきを仕掛けたのを見て、龍は今日中に美猫をフエンまで送り届けられるか判らなくなってきた。 |
湊 | #8☆2004.12/24(金)20:02 |
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8章 ギャンブル ポワルンは思ったより強い抵抗をした。龍がボールの中にシャドーを戻し、美猫にポワルンをあげたときは、もう11時18分前だった。5時にミナモを出発したのに、だいぶ時間を食ってしまったようだ。 一行は立ち止まった。目の前には海。なみのりで行くしかない。龍は篤のほうを向いた。 「…おい、お前が加わったせいで飛んでいかれなくなったんだから、お前が向こう岸まで渡せ。」 「はぁ?!お前のフライゴンがチビなだけだろ!」 そんな篤も、龍に足払い・スカイアッパー・ちきゅうなげを食らわせられた時点で、ついに諦めて自分のトドゼルガに龍と美猫を乗せることにした。 キンセツシティについたとたん、美猫のわがままがまた始まった。ゲームセンターだ。 「ねっ、ねっ、ぬいぐるみ〜!きもりのぬいぐるみー!みずごろうのぬいぐるみー!」 「…黙りな。」 龍は「ほしがる」を避けようとした。しかし、またまた篤が妨害する。 「ぬいぐるみぐらい、いいじゃねーか。冷たいヤツだな。」 「…お前がやれ。」 篤は悪運こそは強いが、ギャンブルについては女神も微笑んではくれなかった。キモリドールとミズゴロウドールをコインと交換するには3000枚(ゲーム参考)必要だが、現時点の篤のコインは24枚だった。 「おい馬鹿龍、お前が代われ。」 19回目のスロットでとうとう篤が龍に言った。龍はしかたがないのでアイビームで篤を除けるとコインケースをひったくりスロットを始めた。 3分後。周囲のギャンブラー(?)達は絶句した。34回連続で大当たりを出した人間はこのゲームセンター初の記録だ。いや、ポケモン史上初かもしれない。 とにかく龍はコインを山のようにカウンターに積んで、キモリ、ミズゴロウドールと交換した。(ついでにアチャモドールとも交換した。) ゲームセンターを出たのは2時半。篤のせいでここでもずいぶんと時間を食ってしまった。ぐずぐずしている暇はない。 「…早く行くぞ。」 龍は一声掛けるとさっさとフエンへ向かった。日が暮れぬうちに、美猫が自転車をせがむ前に、フエンに送り届けなければ。 美猫をフエンに送り届ける前に、自転車をせがまれるのと等しいくらいとんでもないことが起きるなんて、龍たちは知る由もなかった。 |
湊 | #9☆2004.12/24(金)20:14 |
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9章 襲来 えんとつやまロープウェイ乗り場に着いたのは4時過ぎ。ここまで来るのに疲れてしまった、というのもあるが、美猫が道中でドンメルを欲しがった(これは「ほしがる」に強い篤が対処してなんとかなった。)のも、篤が龍に喧嘩を売ってきたというのも影響していた。このやけに手を焼かされた猫耳少女ともあともう少しでお別れなのだろう。そう思うと、龍の心のどこかで不思議な感覚がした。 「わーい、わーい!お山!お山!」 美猫ははしゃぎまくっている。 「ほーら、早く登ろうぜ。フエンの温泉に早くつかりてーし。」 篤はなぜか美猫と手をつないでいる。龍は呆れたが、何も言わないでおいた。 ロープウェイは意外とゆっくりだった。美猫はそのゆっくり登るロープウェイから外を見て騒いでいた。よくまあ鼓膜が破れなかったものだと龍はつくづく思う。 「あれって雪?!すごーい!」 「あれはなー、火山灰っていって、山が…どうなるんだ?教えろ。」 「……そのミニマム脳みそ使って、自分で考えな。」 龍は素っ気無く言った。なぜホウエンに雪が降っているのかが未だにわからない。今年はどうしてこんなに寒いのだろう。 「ん〜、おい、馬鹿龍!顔色悪いぞ。」 はっとした龍の目には、篤の巨大化された鼻が見えた。次の瞬間、ロープウェイがグラリと揺れ、数秒後には篤は座席に倒れていた。 「いってぇな!折角人が心配してやってんのに!」 篤が立ち上がりながら言う。龍は篤を無視して、また座席に座りなおした。顔色が悪いのは、きっと風邪のせいだ。疲れやすいのはそのせいかもしれない。美猫を送ったら、すぐに寝こむ羽目になるだろう。 ロープウェイが山頂に着いた。篤と美猫は火山灰を手に取りながら遊び始めた。龍はなんてやつだ、と思いながら彼らを観察していた。そのとき、その幸せに水を差す輩がやってきた。 でこぼこ参道から黒装束の男たちがこちらにめがけてやってきた。龍、篤、そして美猫は瞬く間にやつらに包囲されてしまった!あの男たちだ。いきなり大ピンチだ。 「さぁ、その猫耳娘と『つきのこころ』と黄金のグラエナをよこしな!」 意味不明軍団の1人が叫ぶ。(龍は何年もこいつらに追いかけられてきたが、この団体の正式名称はわからない。)龍は鼻で笑い飛ばした。 「……理由は知らんが、この子と『つきのこころ』とグラニスを渡すわけにはいかないな。」 美猫が龍の手を握った。手が震えている。手を握られても、龍は何の抵抗もなかった。龍は美猫の手を握り返した。 |
湊 | #10☆2004.12/24(金)21:47 |
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10章 火口へ 意味不明軍団は次々とやってきた。さすがの龍と篤も焦った。まさかこんなにいるとは思わなかったからだ。山頂には3人と意味不明軍団のほかには誰もいない。風邪を引いている龍には、ポケモンで戦いながら女の子を守るなんてことはかなりの荒業だ。 3人はだんだん火口へ追い詰められていった。 「なかなかやるじゃねーか。」 意味不明軍団の1人が言った。ユンゲラーをつかっている。 「……俺を甘く見ているのか?」 龍はフライゴンのフラーに指示を出しながら言った。美猫とはまだ手をつないだままだ。 「おい馬鹿龍、俺たち、火口に追い詰められてるぜ!」 篤が歯軋りしながら言う。火口に追い詰められているのはわかっている。しかし、どうしようもない。相手は何十人もの大人、こっちは12歳の少年が2人と6歳くらいの猫耳少女だ。 「さぁ、もう降参しろ!お前たちに勝ち目はないのだ!」 意味不明軍団のユンゲラー男が叫ぶ。しかし、龍は吼えた。 「…そんなのまだ決まっていない!」 男はニヤリと笑うと、猫なで声で言った。 「それなら決着をつけてやろう!ユンゲラー、サイコキネシス!」 ユンゲラーの放ったサイコキネシスが、龍を吹き飛ばした。 美猫の手から、龍の手が解けたとたん、美猫は寒気に襲われた。寒いからではない。恐怖だ。篤も呆然としている。世界で1人しかいない、自分のライバルが、火口へ、煮えたぎるマグマの中へと落下していくのを見ながら。 篤は龍のフライゴン、フラーの声で我に返った。 「馬鹿篤!早く助けに行くわよ!あんたのライバルがマグマに飲み込まれる前に助けなきゃ!」 篤は美猫の手をひっぱって、彼女と一緒にフラーの背に飛び乗った。フラーは意味不明軍団の男たちが行動するよりも早く、溶岩へと落下していく龍を追って、火口の中へと急降下した。 龍は空中でなんとかしようと奮闘していた。しかし、時間は止まってはくれない。このまま、美猫を送り届ける前に死んでしまうのだろうか。 龍がマグマに落ちるまで、あと数メートル。フラーは、必死で龍を追い、マグマに後足が着きそうなところで大きく前足を広げた。 |
湊 | #11☆2004.12/24(金)21:58 |
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11章 救出と復讐と美猫の友達 フラーはマグマにスレスレで龍をその細い前足で受け止めた。 「龍!大丈夫?!」 フラーが半ば怒鳴るように上昇しながら言った。 「かっこつけにもほどがあるわ。」 「…かっこつけてなんか…いない。」 龍も負けてはいなかった。怒ったような口調でフラーに言い返す。それを篤が仲裁した。 「おいおい〜、せっかく助かったんだから、喧嘩すんなよ。そんなことより、目の前にいる意味不明軍団はどうするんだ?」 篤の言うとおりだった。火口から出ると、呆然とした意味不明軍団の男たちが立ち尽くしていた。 龍、篤、美猫がフラーから降りたとたん、意味不明軍団はやっと動き始めた。 「けっ、まだ生きてやがる!」 「……よくもやってくれたな、げすやろうども!」 龍は毒舌とともにモンスターボールをあと2つ投げた。エーフィのライト、ミロカロスのシュフィがフラーの横に並ぶ。 「フラー、破壊光線、シュフィ、吹雪!」 《まかせて!》《よーし!》 フラーのはかいこうせんとシュフィのふぶきが、男たちを次々と吹き飛ばしている。それを見た篤も、バシャーモ、トドゼルガ、ハッサムを出した。 「バシャーモ、オーバーヒート、トドゼルガ、吹雪、ハッサム、みねうちだ!」 龍のポケモンたちと篤のポケモンたちは、驚くべき連携プレーで、男たちとそのポケモンを空の彼方へと吹き飛ばしていく。残るは、ユンゲラーの男、龍を火口に突き落とした張本人だ。 「……先ほどはよくも火口に放り込んでくれたな…」 龍がじりじりと男に詰め寄る。その瞳には怒りの炎が燈っていた。男は硬直したまま動けない。龍がまだ生きているのが信じられないのだ。 「…今度はお前を空に放り出してやる番だ!」 龍はライトに指示を出した。その龍の声に、誰かの声が重なる。 「ライト、サイコキネシス!」 「にゃんこ、ひみつのちから!ひつじん、でんきショック!りゅう、ウェザーボール!」 男はその攻撃を受けて、見事に天空に飛ばされた。篤がやっほー、と歓声を上げる。龍は、先ほどのひみつのちからと電気ショックとウェザーボールをライトと一緒に食らわせたのは誰かと振り向いた。そして、唖然とした。 攻撃したのは、美猫だった。エネコとメリープとポワルンといっしょに、まだ呆然としている。 「お前…何でやったんだ?…親分と子分じゃなかったのか?」 龍が尋ねると、美猫はやっと首を振って、こう答えた。 「お兄ちゃんを見てて、ついやったの…でも、親分子分じゃないもん!だって、あたしとこの子達は、戦った今でも、まだ友達だし、何よりもお兄ちゃんとお兄ちゃんのポケモンは、親分子分じゃないもんね!」 それを聞いたライトは、龍を見ながら気持ちを伝えた。 《そりゃあそうよ。私と龍は友達よ…ね?》 龍は、答える代わりにフッと笑った…… |
湊 | #12☆2004.12/24(金)22:05 |
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12章 聖夜のグラエナ 美猫の母親と父親は、それはもう大喜びだった。ぺこぺこと何度も頭を下げ、涙声でお礼を言った。美猫もやっと龍の名前を覚えたようで、 「ありがと、りゅーさん」 と言った。 「……硫酸みたいだからやめてくれ。」 そういった龍は、あることを思い出した。 「…さっきえんとつやまで『りゅう』って言ったのは…」 美猫はきゃはは、と笑った。 「ぽわるんの名前!篤っていう人が、『ばかりゅう』って呼んでたから、お兄ちゃんの名前、わかったんだ!だから記念に『りゅう』って名前付けたの!」 隣で爆笑している篤の足を、龍は思いっきり踏んづけた。篤は、『ばかりゅう』という名前をつけたらよかったのに。でもそれだけでも笑えるぜ、と大爆笑していたのだ。 外を見ると、日が暮れていた。目標は日が暮れるまで。目標は達成できなかったけど、美猫を送り届けることができた。 「おい、馬鹿龍!とっとと帰ろうぜ。」 篤は美猫の家の玄関から出ようとしていた。龍も、少しためらうと、美猫に手を振って、篤といっしょに出て行った。 少し歩いた龍は、美猫に呼び止められた。 「言いたいことを言うの、忘れてたの…」 「…ありがとうはもう言ってもらったぞ。」 美猫はちがうの、と首を振ると、息を吸ってこう言った。 「好き、って、言いたかったの。」 そのとたん、龍の頬が赤くなった。 篤が風呂に入るといって別れた後、龍は、グラニスとまた歩き始めた。 《じゃ、サンタの龍は美猫をご両親にプレゼントしたってわけか。》 グラニスがつっついた。龍は『つきのこころ』をいじっていた。 「…まぁ…そういうことになるかな。」 《美猫みたいなちびっこに告白されたの、初めてだっただろ?》 グラニスが意地悪く言ったが、龍は無視した。グラニスがさらにかき回す。 《告白された時、なんて答えたんだ?》 「…黙れ。お前はいろいろ言うな。…早く行くぞ。」 そして、こう付け加えた。 「今から走れば、クリスマスパーティに間に合うかもしれないだろ!」 まいごのこねこちゃん 完 |
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