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ピカチョー | #1★2008.05/07(水)22:07 |
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プロローグ『起源 〜To End Of All〜』 古の昔、神は無より有を作られたという。 有の原始成分は光と闇。 光と闇が生まれ、そこで初めて神はその御身をお知りになった。 次に神は火を、氷を、雷を、虹を、嵐を、陸を、海を、空を、可能性を、時を、願いを創造されたという。それぞれにふさわしき化身とともに。 そして神はまた、化身を祭らせるため、多様な命を作りたもうた。 そして神は最後に自らを崇める生物、人間を創造なさった。 (中略) そして、その人間は人間が他の生物と共に生きることができると神に示したという。 最後にその人間は言った。 「神よ、私たちに再起の好機をお与えください。私たちは決してかような過ちを繰り返しはしない」 神はその寛容な心で、その誠意を汲み取り仰った。 「そなたの誠意を認め、今回は、許そう。だが、次はない」 そして、それが人間と神の最後の交流であったといわれている。 (後略) 世界創世神話より(一部省略) |
ピカチョー | #2★2008.05/07(水)22:09 |
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第一話『必然 〜By Accident〜』 「…――そして、それが人間と神の最後の交流であったといわれている、ねぇ。くだらないな。まったく…。」 そう言い放つと辞書ほどある分厚い本を荒っぽく閉じる。 「さて、寝るか…」 純白のシーツで身を固めるベッドにどっと飛び込む。そして電灯を落とした。 朝日が昇って間もないころに目覚めた。 鏡には長身といわれるほどの青年がさも眠そうに突っ立っていた。 容姿はさして強い印象を受ける特徴はないだろう。 髪の毛は程よく短く刈ってある。スポーツ刈りだ。 服装はよれよれになって肩までずり落ちたパジャマである。 しばらく青年は鏡に映った自分を眺めながら、呆けていた。 やがて思い出したようにせわしなく働き始める。 洗面所では水の流れ落ちる音が聞こえる。 その音がやむとしばらく衣ずれの音が聞こえた。 そして青年はエプロンの紐を首に回しながら、現れる。 服装は先ほどと違い卸したばかりのようなきれいな服である。 しばらく、まな板をたたく音や、水が沸きあがる音が続く。 そして、食卓に目玉焼き、味噌汁、白飯を並べると いただきます、とつぶやき、朝げに箸をすすめる。 食器類を洗うとサックに次々と詰め込んでいく。 あの辞書のようなほんもまた然り。 サックを左肩に背負うと、そのまま玄関へと向かう。 玄関を出ると、そこがマンションであったことを視界全体で捕らえることは容易だった。 ガチャッ、という音がした。そしてドアノブを押し引きしてみた。 ドアが開かないことを確認すると、マンションの玄関へと向かう。 マンションを出ようとすると 「今日も早いねぇ、珠玉さん」 ポケモンに囲まれたマンション管理人に声をかけられる。 「そうですかねぇ」 珠玉と呼ばれた青年はそっけなく返す。 珠玉がここにきたのはおよそ1年前、そのときここのアイドルポケモンである イーブイが盗まれたらしい。その推定時刻にちょうど入居手続きを行っていたために犯人と グルではないかとおよそ2〜3ヶ月、人によっては半年ほど疑ってきた。 もちろん疑った人間にはこの管理人も含まれている。 そんなことがあったためあまり管理人をよくは思っていない。 だからさっさと、マンションを後にする。かなりの早足である。 向かう先はトップレベルを謳われるタマムシ大学だ。 珠玉はここにかなりトップに近い成績で入った実績を持つ。 彼の特徴をついでに挙げるならばこの、高学歴、高学力に加えた 運動能力であろう。空手や、新体操、陸上といったような競技を 高校生のころまで続けており、やってないようなスポーツでもかなりの成績を残す実力を持つ。 この方面だけでどこにでも推薦入学できる、などと囃されたものだった。 空がだんだん青く変わっていく。そんな空を仰ぎながら歩いていると 突然黒い点が空中に現れたのに気づいた。それが降って来ているのにも。 彼の持ち前の視力はそれが卵、のようなものであることを捉えていた。 落下予測地点は少し前方だ。彼の足で走れば十分落下に間に合う。 彼はサックを地面にほうりながら、前方に走り出していた。 動機があるわけでもなく、反射的に足が出ていた、というのが一番近い表現だろうか。 少しでもショックをやわらげるためにと、空中に飛び出しゆっくりとキャッチする。 そしてそのまま前方に1回転しながら、着地する。 「うっへぇ…思いっきり鈍っちゃったな」 そういいながら嘆息を漏らす彼の腕に抱かれているのはまごう事なき卵であった。 |
ピカチョー | #3★2008.05/07(水)22:19 |
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第二話『出会い 〜Cause Of All〜』 時代背景は、ロケット団がカントーで解散しておよそ1〜2年ほどたったころ。 この時代にポケモンの卵、というものの存在は一般にしられていない。 ポケモンに触れたことさえない珠玉に、卵のことがわかる道理はなかった。 「さて、これはタマゴ…だよなぁ」 目を細めてぶつぶつ言いながらいぶかしる。 そして、はじめてみるやたらサッカーボール程の白色のタマゴを指でノックする。 返ってきた鈍い音は、中が空洞ではないことを示している。 そして次に突然タマゴを振りはじめる。特に意味はない。 傍から見れば、大きな卵を持った大学生が卵をたたいたり振っている光景は ともすれば滑稽そのものである。 上下にシェイクした後に、前後にもシェイクさせる。 そこに突然響くビシリ、という無機質な音。珠玉の肩が大きく上下した。 そして思わず、落としそうになるのを寸分の所で堪える。 すぐに、なめまわすようにタマゴのひびを探す。が見つからない。 恐る恐るもう一度タマゴをノック。再び、無機質な音が響く。 タマゴからは真っ白な小さな手がはみ出す。が、珠玉はタマゴから 飛んできた殻が額に当たった痛みでもだえていて、全く気づかない。 おそらくその小さな腕は意図的狙ってとばしたのだろう。 当たっても何とか理性がタマゴをほうるのは抑制したものの、両腕で前に突き出される。 両腕を使えずただ悶えながらもそのうちに何とか割れゆくタマゴに目をやる。 ひとつ、またひとつと亀裂が入り殻が零れ落ちていく。 心に余裕があれば、すなおに感動することもできたろうが掛け値なしに痛い。 割れているはずなのだが、中にはタマゴと見紛う純白のものが入っていたようだ。 とうとう、珠玉のつきだされた腕の上でおそらくすべて割れきったようだ。 思ったとおり、雪のような白さをその身に宿しやはり、サッカーボールほどの大きさである。 「おぉ、うまれた――というか、困ったな」 おもわす感嘆の声を漏らす。悶えながら、とはいえど生命の誕生する瞬間には感動を覚える。せめて、ゆっくりと見たかったなぁ、という思いも後になってこみ上げてきた。 「…っ、どこから、どう見えもこれはポケモンだもんなぁ」 そのポケモンはいかにも機嫌が悪そうにしている。まぁタマゴの外から揺さぶられたのだからその気持ちは言わずもがなである。 困ったのはそのポケモンが不機嫌なことではなく、別にある。 それというのも珠玉は同世代がポケモンに燃えるころ、さして興味もなかったため 全くポケモンに触れるようなことはしなかったというものである。もちろん、基本的な知識は 一般常識に分類され、彼の頭に記憶されている。しかし、あくまで、基本であり、 この純白なポケモンの知識まではもちろんなかった。彼は、厄介ごとに巻き込まれたという 気持ちと半ばヤケになって誓ったポケモンは持たないという決意を曲げるかもしれない その思いが混ざり合った大きなため息をつく。 腕時計を確認し、時間に余裕があることを確認すると、腕の上に座り込む そのポケモンに目をやる。そして大きく嘆息する。 とりあえず、突き出されたままの腕をこちらに引き寄せると そのポケモンを抱き抱え進行方向に踵を返すと、ポケモンセンターを探し、歩き始めた。 |
ピカチョー | #4★2008.05/29(木)07:37 |
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第三話『日常 〜Omen〜』 汗だくの青年が扉のまえで肩を揺らしている。 その腕には、真っ白なそして小さなポケモンが抱かれていた。 そのポケモンがタマゴか生まれたことをあらかた話し終える。 「話は大体理解できましたけど」 ポケモンセンター勤務の女性が答える。 どうも、本当に理解したのか疑わしいような様相である。 タマゴからポケモンが、ということを突然言われて理解、というのも難しい。 珠玉は黙ったままである。 「とりあえず、検査した結果、いたって健康なようです」 「ふぅん」 生返事を返す。どうもほかの事を考えているようである。 まだ少し息があがっている。 「で、どうするんですか?」 珠玉の態度に焦れたのか、その女性の口調が少し強くなる。 「どうするもなにも…」 原因は大方わかっている。おそらく最近の捨てポケモンのことで疑っているのだろう。 マサラ出身者の珠玉はポケモンを捨てるということが遠い世界の出来事のように思えていた。 しかしタマムシに来てからというもの耳元で騒がれるような錯覚を起こしそうになる ほど騒がれている深刻な事態であったことをほぼ毎日痛感している。 突然キッと睨まれる。 ほとんどタマゴを口実に捨てようとしている、とでも思われていることは明白だった。 このまま口論を繰り返しても理解してもらうにいたることはまずないだろう、そう判断する。 苦虫をかまされたような顔を何かしら遠慮しろといいたくなる程うかべ、舌打ちすると 「わかりましたよ、自分が面倒見りゃいいんでしょう」 そういって、手を平を上に向けて、突き出しながらら 「モンスターボール、ください」 「ハイ?」 女性は拍子抜け、といった表情をこれまた隠さずに出す。 その後、ポケモンフーズなるもの、モンスターボールなどを一式受け取り あらかたの躾け方や、いわゆる飼い方のようなものまで大方習い、帰路に着く。 ポケモンセンターとマンションはさほど離れたところにはなかったのだが 灯台下暗しというもので、探しつくまで1時間町を駆けずり回った。 その後、ポケモンセンターにいわゆる軟禁をされ、時間的にも、精神的にも もはや大学へ向かうだけの精神力など残されてはいなかった。 「そーいえば、こいつ、なんて名前なんだろう」 別にどっちでもいいというような表情を浮かべながら、独り言をつぶやいた。 それからおよそ1ヶ月でそのポケモンは当初の2倍ほどの大きさまで成長した。 また、RADIT(レイディット)とそのポケモンは名づけられた。あまり深い意味はない。 これがまたヤンチャボウズであり、日常生活で支障なく、というのが この1ヶ月、ポケモン初心者の限界であった。これでも珠玉本人も本屋で本を買うなどの 努力は払ってきたが、それでもこのあたりが限界であった。 いや、むしろ、この値は一般的には早いものであったかもしれないが。 とにかく、このヤンチャボウズ、力がやたらと強いため、珠玉の部屋が 非常に閑散としたものになった、壁に穴あり、床が抜けていたりETC…。 ただ、この1ヶ月、ポケモンバトルに関するものは全く教えていない。 もともと、いまさらバトルを必要にするなんて考えてもいなかったためである。 護衛として育てるという必要も彼自身が普通に強いため全くといって良いほどない。 まぁ、本当に自分の愚痴でも聞いてもらえればいい、それくらいに思っていた 珠玉をほんの些細なきっかけがポケモンバトルへと引き込んだのかもしれない…。 >あとがき 間奏話『ごあいさつ』 …えー、何か、超々ご無沙汰しております。 いっそ多くの方は初めましてかと思われます。 3年ぶり?に物語なぞ書いてみたのでのらりくらーりとアップして行きます。 ただ、今アップしてるところは実は5年前、という私が初めて文章を書き始めた頃の作品で、目も当てられないがっかりなレベルで文章が進んでおります(笑) 何というか、まだまだ文章が他人行儀なのが我ながら伝わってくる次第です(笑) かと言って今上手いかと言われた別問題ではございますが。 一体第何話から最近書いたものかとか考えてみたりとかしてもらうと楽しい、かもしれません? ということで、お付き合いいただければ幸いでございます。 |
ピカチョー | #5★2008.05/29(木)07:38 |
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第四話『始まりのきっかけ 〜First Contact〜』 初夏の休日。 日が昇って間もない頃はまだ少しだけ冷える。しんと冷えたような空気を吸って、今日もまた一日が始まる。 いつもの習慣で、そんな時間に目を覚ました珠玉は淡々と炊飯器でご飯を炊き、数日溜まった洗濯物を済ませ、布団をベランダに干すなど『家事』業務をこなしていく。 ポケモンを飼いはじめて早1ヶ月、ゆっくり出来るのはポケモンが寝ているこの時間帯位のみ。手は動かしつつも、心配事のない時間に体の動くままに任せて頭を使わないのは楽だ。 あらかたの用事は済ませ、新聞の一面に目を通した。そこでご飯が炊き上がったというアラームを鳴った。 そして、その安らぎの時間は脆くも崩れ去る。 ――ピンポーン―― どうやらうちのインターホンが鳴らされているらしい。 ――こんな時間に誰だよ…。 見ればまだ九時を回っていない。癒しの一時を邪魔されて、ちょっとムッとする。学友にこんな時間に連絡もなしに尋ねてくる非常識は居ない。となれば勧誘か何かか。 そう推理して、居留守を決め込もうかと思った。 しかしインターホンの押される間隔が次第に短くなっていく。 ――さっさと帰れよ…。 そんな願いはあっさり無視され、インターホンが連打され始める。 ――誰だよこの非常識! ここマンションだぞ、と零しながらずんずんとドアに近付き、しぶしぶドアを開けた。 するとそこには女性――髪は首の辺りのところで切りそろえたショートカット、若葉色のワンピースに白のカーディガンを着たやや、かわいい…と表現しても良くはないこともないかもしれない部類の女性――がひらひらと手を振って笑いながら立っていた。 一瞬硬直。 自分でも顔が引き攣ったのが分かった。 「新聞は間に合ってます」 バタン。 「また連打するワヨ?」 と女性の高い大きな声が響く。その声に嫌そうに再びドアが開いた。 「冗談だって」 「ちょっと本気で引っ叩こうかと思ったワネ」 「で、なんか用なわけ、アスカサン?」 「あらあら、ちゃんとレディにさん付けくらいは出来るようになったんだ」 「高慢ちきめ」 ぼそりと一言。 なんとも甲高い音が響く。 「…。…で、なにか用?」 「アンタねぇ、用事なけりゃ、来ちゃいけないの?」 「うん」 もう一回、甲高い音。 「それにしても案外、アンタにしては汚いワネェ」 部屋に上がりこんだアスカは部屋の中央の座布団の上で正座している。 「…ほっとけ」 真っ赤になった両頬を押さえながら、洗面所に歩いていく。 ――そういや、知り合いに一人居たな、非常識…。 なんてガッカリしながら、服をパジャマから着替える。洗面所から出るとアスカはキョロキョロと物珍しそうに部屋を見回していた。 改めて部屋を見渡すと、確かに汚い。でも壁や床に空けられた穴は、どうしようもないじゃん…。 着替えた珠玉を見とめると、 「っと、なにか食べたいナァ、な〜んて」 猫なで声。 「うわ、き」言い掛けて目が合った。「…。…食べてないの?」 アスカはコクリと頷く。それからふと目に付いた分厚い神話を本棚から抜き取る。 「あら、コレ懐かしいじゃなーい。昔よく聞かせてもらったワネェ?」 「ん、あぁ、それね」 「コレってポケモントレーナーが生まれた起源じゃないかって言われてるのヨネェ、知ってた?」 「まぁ、常識の範疇としては…」 アスカはぱらぱら本をめくっていく。そして裏表紙を見て、腕が止まる。 「アンタ…返却期限…1ヶ月前じゃない」 裏表紙には大学の図書館で貸し出されたことが明記されているカードが刺さっていた。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ 珠玉宅から最寄のカフェ。 「で、結局何の用?」 「しつこいワネェ」 「…逆に何の用もなくマサラの田舎から出てきたとか、不気味だろ?」 「せっかちな男は嫌われるワヨォ?」 「はいはい」 この女性――アスカは珠玉の幼馴染だ。同じマサラの出身で、今は家でやっている花屋を手伝っているそうだ。見た目こそ、珠玉の意見ではなく、世間一般の男が評する限りにおいては可愛いと言われるものの、その中身はただのオバサンだ。 ぼやっと、ただのオバサンだ、とか考えたらギロッと睨まれた。わかるのかよ。 アスカの頼んだホットケーキと珠玉の頼んだオレンジジュースが運ばれてくる。 このカフェの朝のホットケーキは折り紙付き、と大学の学内誌で書いてあった。 「それでサァ、なんでも最近口座から急にお金が結構な量が引き落とされてるらしいじゃない? どうかしたノォ?」 一口サイズに切り分けたホットケーキを一口、アスカが幸せ一杯な笑みを零した。 「おばさん、心配してたワヨ?」 「何だ、アレのパシリか」 露骨に嫌な顔を見せる。 別にどうという事もないのだが、いわゆる反抗期的なものだ。というより、そもそも珠玉はあの超牧歌的な地元があまり好きではない。それが嫌でもう勉強してタマムシまで出てきたのだ。 「心配してたワヨ?」 アスカがもう一度押してくる。しかしその手はホットケーキを順調に平らげていき、とても心配してるヤツのやる事じゃない。 全て平らげた。人におなかいっぱい奢らせて満足げな顔を浮かべて、「ごちそうさま」を満面の笑みを浮かべて言って来る。アスカの厄介なところの一つは、自分は可愛いっていうのを承知した上で行動している点だ。残念ながら、世の中には可愛ければ許される事が多々ある事を珠玉も知っている。 「それで?」 「ん?」 「ホントにどうしたノヨ? 何かあったんデショ?」 急に真顔で詰め寄られた。 咄嗟の事に何と答えようか思案しあぐね、えー…と間の伸びた声を出して、腰の辺りからボールを取り出した。 こいつが原因、とテーブルの上にボールを置く。 「あら、ポケモン! どしたの、アンタ?」 「ちょっとしかるべく事情により…」 「なにそれ? …まぁいいワ。でもアンタってポケモンは…」 「事情が事情なんだ、察しろ」 「で、で、どんなポケモンなの? 出していい?」 急にテンションをあげるアスカを前に、大きくため息をついて、外でね、とだけつぶやいた。 |
ピカチョー | #6★2008.05/29(木)07:39 |
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第五話『始まりのきっかけ 〜First Battle〜』 カフェを出た。広い路地の端っこでアスカはボールを受け取ると早速ボールを開いた。 そして出てきたポケモンを「アラかわいい〜!」なんて言いながら抱き上げた。 「ねぇ、この子何て名前なの?」 「レイディット」 「レイディット…じゃあレイちゃんね、よ・ろ・し・く〜!」 勝手に人の付けた名前を改変しながら、アスカがレイディットの手を握って握手みたいな真似をしている。 「なぁアスカ、これってなんて名前のポケモンなんだ?」 「へ!? 何でアンタがわかんないノヨ?」 「そんな真っ白なポケモン、探してもみつからなかったし」 ちょっと不貞腐れた感じで珠玉が口を尖らせる。 アスカは自分の抱いている、白くて小さなポケモンをしげしげと見つめた。 「まぁ、マサラタウン出身だからってみんながみんなポケモン博士なわけでもないもんねー」 アスカも一人つぶやきながら、もう一度レイディットを抱きなおした。 二人の出身、マサラタウンにはポケモンに関するオーソリティ、オーキド博士が研究所を構えている。それだけでもマサラタウン=ポケモンに詳しいの図式が成り立ってしまうわけだが、幸か不幸か一年前、数年ぶりにポケモンリーグの制覇者が現れた。しかも二人も。それがどちらもマサラタウンの出身者。 「そう、それ。どいつもこいつもマサラの出身ってだけでポケモン詳しいとか言ってくるからさ〜」 珠玉も熱を入れて同意した。何かよっぽど嫌な事でもあったんだろうな、と想像しながらアスカも相槌を打つ。 「ん〜…わっかんないワネェ…。まぁ、アタシも別にポケモンに詳しいというほど詳しいわけでもないからナァ」 「へ〜、今まで散々偉そうにしてたのに?」 「っさいワネェ。でもアンタよりは知ってるワヨ」 珠玉が半眼でアスカに物申すと、ぎろりと睨まれた。 「それで? もうポケモンバトルとかは慣れた訳?」 「…は?」 さも当然のようにアスカが切り出した。その珠玉がポケモンバトルをしている事に何の疑いもない真っ直ぐな瞳に、少し息苦しさを感じてしまう。 「だ、か、ら! ポケモンバトルよ!? まさかアンタ、やったことないとか」 「ないな」 「えぇぇ!?」 公衆の面前で、アスカが大音量で叫んだ。ただでさえよく通る声、視線を集める事難しからず。 「ちょ、ちょ、アスカ、やめろって恥ずかし」 「むしろアンタが恥ずかしいワヨ!? ポケモン捕まえて一ヶ月間バトルもしたことないなんて!? ちょっと信じられない!?」 「あー…」 もうメンドくせ…なんて相変わらず、いやさっきよりたくさんの視線が集まる中、残念な気持ちで呻いた。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ タマムシシティ東部にある7番道路。 ヤマブキシティとタマムシシティを結ぶこの短い道路の一端ある草むらの中に二人は居た。 「で、教えるって何をさ」 珠玉がポケモンバトルをした事がないという事実を知ったアスカの曰く「じゃあこの美少女ポケモントレーナーのアスカ様がポケモンバトルについて教えて差し上げましょーじゃないノ!?」だそう。 バカじゃねぇの、と突っ込んだ珠玉の頬はちょっと赤い。 「何から教えてほしい?」 満面の笑みを浮かべて問い返された。凄く楽しそうだ。 ――何から…と言われてもなぁ。 興味もなければ知識もない。いわゆる何がわからないかすらわからない状態というヤツだ。 「そもそもレイディットがどういうことが出来るかとかもわかんないわけだからなぁ」 「そういえば、そうよね」 そういってアスカはしばらくさも難しげな顔をして考え込む。 「ん〜…そう、ネェ…」一唸りしてから、ニヤリと笑って珠玉を見る。「この天才トレーナーアスカ様の勘はではァ」 「はぁ?」 思わずさっきと同じ事を言い掛けて、アスカにものすごい形相で睨まれた。仕方がないので自制して、言葉を促す。 「水を差さないように。とにかくこの子は“たいあたり”とか、 “でんこうせっか”が覚えられると思うわけ」 「…。…ふぅ〜ん…」 「あぁ、そうなのネ…」 珠玉のあまりの反応の薄さに、気付いてしまう。 ――コイツ、まず“たいあたり”や“でんこうせっか”が何か、すらわかんないノネ…。 思わず頭を抑えて溜息。 珠玉においそんな残念そうにするなよと言われ、いや実際残念ヨと心中考える。 ここで本来ならなぜそう言った推理を出来たかというところまで言いたかったのに。 「…まぁ良いワヨ。とにかく覚えさせてみましょうじゃない」 「…どうやって?」 「ふっふ〜ん、わたくしめにお任せください、モンスターボール貸して」 「レイディットの?」 大仰なお辞儀で執事気取りなアスカにボールを手渡した。 ――何がそんなに嬉しいんだか…。 などと思いながら、それに付き合ってしまってる自分に気付いて苦笑する。 アスカはレイディットのボールを開くと、その小さな体を抱き上げた。 そしてそのまま進み始める。 「やっぱ手っ取り早くいくには直接ポケモンバトルするのが良いワヨネ〜」 何て言いながらアスカが目の前の草むらにがさがさと分け入っていく。珠玉もこれに続く。 「こ〜の〜あぁ、たぁ、りぃ、だぁ、と…ポッポやピジョンが覚えるはずネ」 何て言いながら慣れた手付きで草むらを掻き分ける。 ずんずん進んでいくアスカの後について歩く。 ふと、背後で草むらの揺れた気配がした。 何気なく、そっちの方へ振り返ろうとした瞬間だった。 振り向きざま、考えるより早く反射神経だけで体が動いた。飛び退り、元いた空間から鋭い風切り音が鳴った。 「うわ!?」 珠玉の叫び声にアスカも振り返る。 「ウソ!? ピジョット!? 何でこんな所にいるノヨ!?」 「え、何、ひょっとして、結構まずいのか?」 「結構、どころじゃないかも」 アスカの声が緊張しているのがわかった。 相手の強さがわかるのか、レイディットも低く唸り声を上げて警戒している。 目の前にいるポケモン――身の丈ほどもある大きく、そして優美な鶏冠が美しい鳥は、ひどく興奮しているらしい。何度も甲高い声を上げながら、バサバサと羽を広げたり閉じたりしている。 恐らく、縄張りに踏み込んでしまったとか何かなんだろう。 ただ、野生動物特有の殺気が貫いてくるのがよくわかった。 「…いつでも、逃げれる準備だけ、しといて」 アスカが言いながら、ボールを投げた。 行くワヨブロッサム、という掛け声と共にポケモンが現れる。こちらもやはり身の丈ほどの大きなポケモンだ。重心の低いガマガエルのような胴体と背中に咲かせた大きな花が特徴のポケモン。 珠玉も見覚えのあるポケモンだ。アスカが大事に育てていたポケモン。フシギバナ。 「ツルのムチ!」 フシギバナが花の下からツルを伸ばす。そして勢いを付けてピジョットに叩きつけた。 それを受けながらピジョットが翼を広げた。そして一挙動に飛び上がり、勢い付けた猛スピードでフシギバナに体当たりを放つ。しかもその一撃で攻撃の手を休めず、二撃、三撃と攻撃を繋いで行く。 「ちょ、早すぎるワヨ!? ブロッサム、眠り粉!」 悲鳴に似た叫びでアスカが指示を出す。それを受けてフシギバナが粉を大量に噴き出した。しかし、それを見るやピジョット、動きを止めて翼を羽ばたかせる。風起こし。粉を吹き飛ばしたところでもう一度さらに瞬速の動きで攻撃を再開。 どう考えても、劣勢だ。 あまり動きの素早くないアスカのフシギバナに対して、ピジョットの動きが早すぎる。 少しだけ、考えた。 今自分に出来る事。 見れば、アスカの腕の中で、ただソワソワとしているレイディットの姿がある。 きっと、アイツももどかしいのだろう、この目の前のピンチに対して何も出来ない自分に。 ピジョットが一際甲高い声を上げて、翼を振るった。それにフシギバナが打たれて吹っ飛ばされる。一瞬宙に浮いて、何とかもう一度着地するも、もうどう見ても体力の限界だ。 我慢の限界。 それはほぼ同時。 レイディットがアスカの腕を振り払って前に飛び出すのと、珠玉が「行くぞレイディット!」と叫ぶのが。 「ちょ、ちょっと待ちなさいヨ! 何してるのアンタ!!」思わずアスカが叫ぶ。「こんな小さな子が、ピジョットの相手なんか出来るわけないじゃない!!」 しかし、その言葉を、珠玉もレイディットも無視。 次の瞬間、ピジョットが高速で体当たりを放ってきた。 「レイディット、それだ!」 咄嗟に叫んだ。 叫びを聞いた。言葉の意味を理解したのか、本能か、レイディットの体が動いた。 真っ直ぐ飛び込んできたピジョットのスピードをさらに超えるスピードで、一旦右方へと跳ぶ。次の瞬間鋭角を描いてレイディットが方向転換、ピジョットに攻撃を加えに掛かった。 「え?」「うそ…!」 思いも掛けないスピードに、止めようと必死だったアスカはもちろん指示を出した珠玉すら呆気に取られてしまった。 レイディットの瞬速の攻撃は、しかしかろうじてピジョットが避けてしまう。 「…そう、それだレイディット、えー…と、はやてだ! 疾風!」 「え?」 一瞬、何を言っているのかわからなかった。それが、今レイディットが放った攻撃に付けた名前だと気付くのに少し時間が掛かった。 しかし、レイディットはすぐにその意味を理解し、珠玉の方を向いて頷いた。 「行け、疾風!」 無我夢中で指示を出した。 レイディットも無我夢中で体を動かした。 ビュッと、空を切る音が聞こえた。 次の刹那、ピジョットの胸元に、白い塊が突き刺さるのが見えた。 それがレイディットだと気付くのに、二秒ほど掛かった。 そして、その『疾風』という名の『でんこうせっか』がピジョットを三メートルほど後方まで突き飛ばした。 そう、まるで砲弾のようで。 すぐさまピジョットは立ち上がるが、どの程度のダメージを負ったかは、体がガクガクしている様子を見ればすぐにわかった。 「…に、逃げるワヨ!!」 咄嗟にアスカが叫んで、意外な事態にボウッとしていた珠玉もハッとする。 その時点でアスカが自らのフシギバナとレイディットをボールに戻し、回れ右の体勢。 「あ、ああ!」 珠玉も急いでその場から回れ右して駆け出した。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ 「ハァ…何か、疲れちゃったワ」 「俺も…」 「変な事ばっかりダワ、今日は」 ポケモンセンターに駆け込んで、アスカと二人で息を吐く。 「あんなとこにあんな危ないポケモンがいるのもヘン、レイちゃんがあんな強いポケモンを見様見真似のでんこうせっかでふっとばせるのもヘン、も〜何なのヨ!?」 「やっぱ、おかしいんだよな?」 「そりゃあ。アンタ、そこらへんのコラッタにあんな風に吹っ飛ばされないでしょ?」 「…確かに」 「まぁ別に強くて損する事はないは思うケドォ」 「そうだな…それにしても、疲れた」 珠玉は大きく息を吐き出した。 色々、考えてしまう事はあるけれど。 結局レイディットは何者で。 タマゴが降って来たのは何故なのか。 こんなに強いポケモンなんてありうるのか。 それ以外にも、野生のポケモンと初めて直接対峙した、背筋がゾクリとするような感覚。 焦点の絞れない思考の中で、考えが浮かんでは消えて行く。 ただその中で一つだけ、確実にわかった事がある。それは… 「俺、もうポケモンバトルはいいや…」 「何でヨ!!」 |
ピカチョー | #7★2008.05/29(木)07:41 |
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第六話 ――それに神は激怒した。 行き過ぎた人間の行為を粛清。罪を罰するため。 あらゆる天変地異が地上を襲った。大災害、大飢饉に流行り病。そうした荒んだ世の中で、果ては狂った人間の百鬼夜行が跋扈した。 そうした世にあって、正気を保つものは日々を怯えながら暮らし、そうでないものはまさしく畜生のように日々人を襲い暮らした。 そんな中、それは神の温情か。 瞳に光を宿す赤子が誕生する。―― アスカの来訪からおよそ一週間。 その日は朝の一限から授業。時間割をある程度自分の裁量で決めることのできる大学では、割り合いと一限目は珍しい。今日は英語の授業だ。 朝もいつものように早々に仕度を済ませ、珠玉はいつもと変わらぬ時刻にマンションの出入り口をくぐった。 いつもと違う事と言えば、いつもは受付にポケモンと囲まれている管理人のおばあさんがいないことぐらいだ。 外は曇天。空気に重さを感じる、嫌な天気だ。 ――これは降るな…。 洗濯物は部屋干しで正解だ。 そんな事を考えながら、マンションの入り口の面するあまり大きくない路地を歩いた。 そう、そこで、違和感は覚えていたのだ。 でもその正体が何かはわからない。 空を見上げて、きっとこの黒い雲がそんな気にさせるのだろうと何となく思い馳せた。 そして、ほどなくして大きな道路に出た。 そこで、違和感が何か、判る。 ――人…。 その通りには、誰一人として、歩いて居なかった。 この時間ならいつもは集団で歩く小学生や、眠そうに自転車を漕いでいる中高生、疲れた顔したサラリーマンやら、たくさんの人が歩いているはずなのだ。 腕時計で時間を確認する。AM8:20。 大学の授業には余裕で間に合う時間。 ドキリ、と心臓が跳ねた。 いくら何でも、不気味すぎる。今日が祝日ではない事も確かめる。 「夢でも、見てるのか…?」 思わず呟いた。 とりあえず、下手にほっぺたも抓ってみた。痛い。 「夢じゃない…」 ほっぺたを抓りながら、もう一度呟く。 「…どう思う、レイディット?」 ボールを開けるでもなく、空気に問いかけてみた。 それでもとりあえず大学には向かっていた。 不気味な感触に苛まれながら、気付けばそこは、初めて珠玉がレイディットと出会った場所。 そこには、足音も、話し声も、騒音も、何一つしない。風さえ吹いていない。すごく、世界が無機質に感じた。 ――まさか、テレビでよくあるドッキリってヤツとか? 考えて、自嘲しながらすぐに否定する。そんな訳はない。 ハハ、と力なく、笑った。 直後。 「「“ひのこ”」」 火花が光って、反射的に顔を腕で覆う。数瞬遅れて、痛みが腕に走った。 咄嗟に辺りを見渡した。 そいつらは、探すまでもなく珠玉の正面に立っていた。 「…誰だ、お前ら?」 相手は二人。 その足元には二匹のポケモンがいる。尻尾に炎を灯した一本角の赤いポケモンと、鳥のような嘴と足をしていながら二足歩行に適した体付きをしている赤と黄の羽毛に覆われたポケモン。――珠玉は知らなかったが、リザードとワカシャモと言うポケモン。 リザードの尾に灯る炎を見て、すぐにそいつが攻撃してきたのだと言う事はわかった。 しかし、それ以上に目に付いたのが二匹のトレーナーと思しき二人だった。 その二人は一様に、白、だった。 頭には、周囲に白い膜を垂らした被り物。正面の布だけレースのようになっていて前は見えているようだが、顔を覗き知る事は出来ない。 体は肩から足元まで伸びるゆったりとした真っ白のワンピース。それを腰の辺り帯で巻きつけて固定している。 一見、どこかの民族衣装のような格好をした二人はしかし、被り物の下からでも窺い知ることが出来るだけの殺気を放っていた。 「貴方が知る必要はありません」 珠玉の誰だ、という問いに対して一方が答えた。 少なくともそこまででハッキリした事は、相手は珠玉の友達になろうとしているわけではないって事だ。 ――左の…あのドラゴンみたいなのは炎タイプ。右は…鳥タイプとかか…。多分、あの揃った衣装からするとなんかの集団で、多分、俺を狙ってやってきた。 狙われる意味などわからない。でも、少なくとも何らかの組織がバックにいる可能性は低くない。一瞬で手持ちの情報からここまで推理を展開させる。 「…じゃあ、質問を変える。何が目的だよ、金か?」 飽くまで警戒態勢。向こうは既にいつでも戦える状況なのだ。珠玉は持っている手提げの中にあるモンスターボールに手を伸ばす。 「お前の持っているヒノアラシを出せ」 「ひ、ヒノアラシ?」 「そうだ」 「ヒノアラシって…もしかしてコイツの事かよ」 言って、モンスターボールを投げる。中からは背の丸い、ネズミのようなポケモンが現れる。いい加減見慣れた自分のレイディットだ。 「おお!」「まさか本当に!」 レイディットを出した瞬間、二人の反応が大きく変わった。 ――な、何だ? 思わぬ反応に、意表を付かれた。 珠玉自身、レイディットについては知らない事が多すぎる。どうやらレイディットの種族名が“ヒノアラシ”というらしいことも今わかったほどなのだから。 「さぁ、そのヒノアラシ、渡していただきましょうか」言いながら一方が腕を差し出して来る。ボールを渡せという事らしい。 「…何で、だよ?」 「元々それは俺達のポケモンだ! それを返せと言って、何が悪い!?」 手を差し出した方とは違う方が叫ぶ。 「だから、それがどういうことだって聞いてるんだよ!」 思わず珠玉の声にも力が篭る。 「…それは明かす事が出来ません。どうか、どうか穏便に事を運ばせていただきたいのですが…」 二匹もポケモンをチラつかせておいて、挙句攻撃までして穏便に、とは良く言ったものだ。要はただの脅しじゃないか。 「そんなんじゃあ、あんた達を信用を出来ない。残念だけど、渡せない」 思わず、言葉が突いて出た。 自分でも気付かないほどにレイディットを大切に思っていた。そんな自分には気付かないけれど。 「…どうしても、ご理解いただけませんか」 「だから、あんた達が何者で、一体なんでレイディットがあんた達のポケモンかっていうのを説明しろって言ってるんだよ!」 別に、話し合う気がないわけじゃない。 あまり気分の良い奴らではないが、筋さえ通せば、別れは惜しいが返すことだって考える。 ただ、あまりにも高圧的な相手の態度にムカッときた。思わず叫んでしまった。 その叫びをただ静かに聞いていた白装束が、口を開く。 「それは、」一段と、声のトーンが低くなったのに気付いた。「残念です」 次の刹那、ワカシャモがその俊足で跳びかかって来る。咄嗟の事に指示が遅れた。次の瞬間、レイディットがワカシャモの蹴りを受けて宙を待った。しかし、空中でくるりと体勢を立て直して着地。 そこを畳み掛けるようにリザードとワカシャモが攻撃を仕掛けてくる。 「イリュージョン!!」 次の瞬間、レイディットが掻き消え、別の箇所に現れる。二匹同時に。 「“かげぶんしん”か」 白装束の一人が呟く脇で、攻撃のタイミングをずらされた二匹がバランスを崩して体勢を崩した。 「今だ! “疾風”!!」 二匹いたレイディットの一方が再び掻き消える。――そう見えるほどの速度で弾丸のように走る。 白い雷。 一瞬でワカシャモを打ち抜いて跳ね飛ばす。 な、という呻きを珠玉は聞いた。 ――アスカと特訓した甲斐あったな…。 アスカが来訪した日の午後。あれから、アスカのポケモン話に付き合いながらもレイディットは“でんこうせっか”を特訓し、その要領を得た。そして同時にアスカの持っていた技マシンで『イリュージョン』と名づけられた“かげぶんしん”を習得した。 数少ないが、それがレイディットの手持ち技。 ――勝てる…な? そんな思いが過ぎった。 「レイディット、もいっちょ疾風!!」 次の瞬間には、のこった一匹も同様に打ち抜いて、戦闘不能に追いやった。 レイディットを得たいの知れない奴らに取られるかもしれない。負ける訳にはいかない。そのプレッシャーと慣れないポケモンバトルの緊張とで、心臓がいやな跳ね方をしているのを感じながらも、「勝った。」そう思った。 いや、実際そうだった。 そうだった、はずなのに。 「はははは!! これはまた想像以上に素晴らしい!!」 「ええ、これは、ついにこれは我々の悲願が達成されるかもしれません!」 ――な…んだ、こいつら…。 その反応に、いよいよもって不気味さを覚えた。 正体がわからなくて怖い、とかそういう不気味さじゃない。 そもそも、“違う”んだ。 そう直感した。 珠玉が生きているような常識の“外側”。たぶんそういうところに居るんだと、わかった。 「マサラの血とは、素晴らしいな!」 一方が、そんな言葉を吐いた。 ――…マサラ!? 急に、目が眩むような錯覚を覚えた。 まさか、ここで忌むべき故郷、マサラタウンの名を聞こうとは。 ――何だ? どういうことだ? マサラ? 何で知っている? 「烈、お喋りが過ぎますよ」 もう一方が珠玉の方に視線を送りながら烈と呼ばれた方を窘めた。マサラの言葉に動揺している珠玉に気付いたらしい。 ――あいつら、さっきからレイディットに過剰な反応を示してる。…つまり、アイツらは多分、レイディットについて俺よりは、何か知っている。そして、アイツらにとってレイディットは、何か特別な存在…。 白装束の二人が、それぞれ自らの倒れているポケモンに歩み寄って行く。 そう、自分のポケモンがやられたことなど二の次で。レイディットが強い事の方が嬉しいと、そう言ったのだ。 敵の見せる僅かな隙、必死で思考する。 ――アイツら、レイディットの実力は、今まで知らなかった。だからあんなに驚くんだ。 僅かな情報から、出来得る最大限の推理を展開する。 何より決定的な単語。 ――今まで知らなかったレイディットの実力を知った上で、『マサラの血は素晴らしい』。アイツらが知っていた事は、俺がマサラの人間だって事。アイツらが知らなかったのはレイディットの実力。それはつまりレイディットと俺を、少なくとも何か意図的に引き合わせた。その上でまた取り戻しに来ている。何だ、“レイディットを強くしうる”マサラの血って、何の事だ? 必死で、思考する。 だが、そこで思考は行き詰る。情報が足りない。 「おい、お前ら」 マサラの血って何だ? そう、問おうとした。そこで珠玉は言葉を失った。 【生物が簡単なものから複雑なものへ、下等なものから高等なものへと変化し、発達すること】 進化。 ポケットモンスターと呼ばれる生き物の、最大の特徴。それが進化。 二人の手元には注射器が握られている。その針は、自らのポケモンを刺している。 「何…やってんだよ…!?」 二匹のポケモンの様子がおかしい。 二匹とも苦悶の表情を浮かべながら、それでも姿形が見る間に変わっていく。 リザードは、その背に翼が生まれ、体格が一回り大きくなる。 ワカシャモはより流線型をしたしなやかな体付きへと変化し、いわゆる格闘に適した形になっていくのがよくわかった。 それが、明らかに“ポケモントレーナー”がやって良い範疇を超えている事など、珠玉でもすぐわかる。 そう、それが、昔アスカのフシギダネが進化した時のことを否定されているようで。 この一ヶ月のレイディットと一緒に過ごした時間を否定されてるようで。 ポケモンを、道具とか戦う物とか、そういう風に勘違いしてるヤツだと一目でわかって。 「テメェッ!!」 駆け寄って、注射器で何かを注入している一人を思いっきり顔面から殴り飛ばした。 渾身の一撃に後ろに吹っ飛ばしたが、既に全て注射され終わった後だった。 容赦なく急所を狙って殴り飛ばした。その一撃で気絶とまでは行かなくとも脳震盪を起こしてしばらくは動けそうもない。 「クソ!!」 吐き捨てながら、もう一人も殴りに行く。 「…リザードン…きりさく」 後ろで、呻くような声がした。 次の瞬間、全身に電撃が走ったみたいな感覚が迸った。咄嗟に、どうなったかわかった。 すぐさまそのまま前に飛び込んだが、既に時遅し。 飛び込んだままの体勢で、体が動かなくなる。 ――や、べ…。 妙に背中が生暖かい気がする。傷の深さはわからないが、あまり浅くはない。それだけわかる。 ――嗚呼、出血多量って、眠くなるんだな…。 意識が遠のく。 「…ヒノアラシをすぐ手放していれば、こんなことにはならなかったのにな」 白装束が、哀れむように呟いた。 ポツリと、大粒の雨が一滴。 「…雨、か」 少しだけ、後味が悪いのか、憂いを含んだ声で言う。 それを、寸での所で保つ意識で聞く。 一粒、また一粒と水の跳ねる音。それはすぐに多重奏へと変わって行く。 ――クソ…レイディットは、渡さ…。 そこで、とうとう意識が潰えた。 第六話『動き始めた作戦 In A Shower』 >あとがき 間奏話・2『言い訳』 どうも、ピカチョーです。さりげなく近況報告などしてしまうと、最近こちらには全然足を運んでいませんでしたが、相変わらず元気してました(笑) おともだちぶっくとか見てると知った顔も多くて嬉しい限りです。 さて、三話ずつムダに挟んでいる間奏話ですが、単純に著者的に精神の限界が訪れて、言い訳したくなってくるのが3話ずつなのでしょう。 ログ落ちしてる感想を自分で上げるのは何となく残念なのでしばらくこんな感じで行こうと思います(笑) で、前回の間奏話で、どこからが最近の〜とか書きましたが、すみません、過去書いたヤツも今ガンガン直してます(駄) すみません、見るに絶えず耐え切れませんでした。ていうか、ストーリー運びもキャラ立ても残念すぎて、今後のストーリーに多大な支障を来たしかねないので、どうか許してください(笑) ということで、ストーリーの中身まで何となく差し変えてます(笑) まぁ、この世界のどこかには、残念なままの作品が残っている可能性もありますが…。 あとテキトーに解説。第4話、第5話。これは元々は一つのお話でした。がちょっと長すぎやしないかい!?ということで二話にわけました。 第6話。本当は第5話との間に一話あったのですが、要らない話だったので省きました。なんで書いたんだろ…。 ちなみに今回投稿の第6話、ディレクターズカット的な感じです。ゲームのディレクターズカットというと、カットされた部分が増えるというものみたいですが、こっちはカット『した』方です。 むしろ既にアウトだろ、という感は正直否めませんが、これはもう…ということで。 そう、本当はこれが言いたかっただけ(駄) 一応、データとしては残ってるんだけどさ。多少ストーリーに関係ない事はないんだけど、なくても良いんで省きました(駄) ついでに第七話以降の宣伝。 いわゆる『カントー動乱期』の本編に入ります。よーやっと。長くてすみませんでした。今後はもー…ちょっと軽快に進む…んじゃないかなーなんて未来の自分に期待。 ちなみにこの600番の記事、24話の投稿の猶予はありますがゆうに突破する事請け合いというか、3周くらいしそうな勢いです。ごめんなさい。あと、第6話は正直ちょっと長すぎたかな…と思うので、次回以降は抑え目目指します…(笑) |
ピカチョー | #8★2008.05/29(木)07:42 |
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第七話『月明かりの中で Begin To Travel』 「おい、やめろ、やめてくれ!」 必死で叫んだ。 「くそ、動けよ、俺の体! おい!! おい!!」 真っ暗闇。 黒い腕。 空中から現れたそれは、真っ白なヒノアラシ――レイディットを持ち上げる。 一方で気絶しているのか、ぐったりとしたまま、レイディットは動かない。 「そいつは…そいつは俺のポケモンだ! クソ、待て、待ってくれ!!」 喉が潰れる勢いで叫ぶ。でも、そんなことどうでもいい。 必死で叫ぶ。 ひたすらあがく。 それでも、体がピクリとも動かない。 「クソ、クソ、クソ!」 見る間にレイディットが彼方へと連れ去られる。 「やめろぉぉおおッッ!!」 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ 「やめろぉぉおおッッ!!」 大声が部屋に響いた。 バサリと突き飛ばされた布団が目の前を飛んで落ちた。 大きな声で、目が覚めた。それが初めに気づいたこと。 次に気づいたのは、自分がベッドの上に座っていること。 そして、自分を起こした大声がが自分の声だと気付いたのは、濡れたタオルを持ったまま目を大きくしている女性と目が合ってからだった。 「…えーと、気が付いた?」 気まずい沈黙のあとに、女性がおずおずと尋ねる。 「…そのようです…」 「大丈夫…そうね…」 「はい…」 耳の先まで熱くなる。寝言で叫んでしまった。恥ずかしい。 その頭の端で改めて考える。 長い間眠っていたせいか思考は亡羊として焦点が定まらない。辺りを観察しながら、一つ一つ思い出していく。 ――ここ、どこ。この人、誰。何でこんなところに。アレは…夢、か? レイディットが連れて去られる感覚。 何だか心の一部がごっそり掴み盗られる感覚で、思いだす。 「れ、レイディット! あの! あの! 俺のポケモン知りませんか!?」 弾かれたように慌てる男を見て、女性は気圧されながら言葉を返す。 「ぽ、ポケモン…わからないけど、カバンの中とか?」 女性が指さす方――自分の枕下に置かれている手提げカバンを見つけた。 確かに自分のものだ。 パッと引っ手繰って、カバンの中身を漁る。 正直、覚悟はしていた。 レイディットを必要とする二人組み。その目的のためなら手段も方法も選ばないと言わんばかり。思い出しただけで胸糞悪くなる。 指の先が、硬い球体にぶつかった。 まさか。 急いで握り、取り出した球体。それは、紛れもなくモンスターボール。 ドキリ、と心臓が跳ねる。 カチリとボールの先についたボタンを押した。ボールが開く。 「れ、レイディット…!!」 中から現れたのは、よく見慣れた自らのポケモン。 「よ、良かった!!」 言いながら、ぎゅっとレイディットを抱きしめる。 「…えーと、どうか、したの?」 その大仰な振る舞いに、女性が尋ねた。 「あ、いや、その…えー…」 何をどう説明して良いのかわからない。そう、何より自分自身が一番今情報が足りていない。 「その、とりあえず、あなたが誰なのか、とここがどこなのか、を教えていただいてもよろしいでしょうか…」 思わずこちらから尋ねてしまった。 「あれ!? わたしの事、知らない!?」 「え? あ、えー…す、すみません…」 逆に驚かれた。 そんなに有名人なのだろうか。 確かに珠玉はテレビをあまり見ない。バラエティもドラマも正直言って興味がない。 言われて観察したその女性は、確かに美人だ。歳も自分とそう離れていないだろう。まさかこの歳で政治家、なんて事はないだろう。となれば、タレントか何か、なのだろう。 「んー、まぁ、知らないなら知らない方が都合が良いけど…。ここはわたしの家。あなた、なぜかうちの前で気絶してたのよ? 大雨の中。本当は救急車とか呼ぼうかとも思ったんだけど、出来ればわたしの家の場所、知られて欲しくなかったから」 「…はぁ」 どうやら、相当に有名人。だからプライベートはしっかり守りたい、という事らしい。芸能人も大変なんだろうな、と他人事ながら思いやる。 「熱はあったけど、他は別に異常もなさそうだったし。今も思ったよりずっと元気で良かったよ」 ――え? 記憶と違う。珠玉が気絶した理由は…と思考しながらも会話は絶やさず続ける。 「それはどうもご親切にありがとうございます」 「もううちの前で気絶するのはやめてね」 ――何が、どうなってるんだ? 珠玉は深々と頭を下げる。名前…と思ったが本人としてはあまり知られたくない事らしい。特に自分の名前も聞かれなかったし、早々にお別れしたいのだろう。もちろん珠玉もそのつもり。 「お水、飲む?」 「お願いします」 女性が、取ってくるねといいながら部屋を出て行く。 それを見届けてから、背中に手を伸ばした。 ――傷…ない。 そう、あの時確かに、背中を爪でザックリとやられた。間違いない。 ――まさか、本当に全部夢? レイディットは確かにここにいる。背中に傷もない。 襲われた証拠となるものが何もない。 ただ、それにしたら何故こんな知らないところで見ず知らずの女性に介抱してもらっているのか。 わからない。 んー、と頭を捻っても、大した想像すら出来ない。 そこで、ガチャリと扉が開いた。 「…あなた、もしかして、珠玉…って名前?」 「え? はい、そうですけど、何で」 知っているんですか、と問うより早く、女性が訊いた。 「あなた、人、殺したの?」 「――…え?」 何を言っているのか、判らなかった。 人? 殺す? 殺人? 「…どういうこと、ですか?」 「テレビで今ニュースやってた。タマムシシティで、二人の白装束を着た男の人が殺されたって。目撃者の話によるとその犯人は二十歳前後の青年で、珠玉って呼ばれてた…とか」 「な!? う、ウソでしょう!?」 頭が真っ白になる。 ――殺人犯? 俺が? 待て待てと、自分に語りかける。殺されかけた記憶なら、ある。それがまさか、加害者の側? 身に覚えのない罪。そんなもの問われても、それは罰されかねる。 「…ううん、ウソじゃないわ」 何がどういうことだか、わけがわからない。 ただ、一つわかっているのは、自分の立場が限りなく危ういという事だ。 「…わたしね、あなたのポケモンを見た時、あなたは良い人だな、って思った。一体、どういう事情があるのかはわからないけど、多分、逃げた方が良いと思う。わたしは何も見なかったから」 ――に、逃げる? 頭がくらっとする。 自分は、タマムシ大学に通う二十歳の男。大学二年生で、日々を平凡と過ごしているただの大学生。最近ポケモンを飼うようになったのが変化。 そう。ただ、それだけ。 それが。 「それが、どうしてこんなことになった…!?」 思わず頭を抱えてしまう。 とにかく、どうすれば良い? 残った理性でそれを考える。 手がかりは、きっとあの白装束だ。珠玉の推測が正しければ、きっと他にもいるはずなのだ。 ――あいつらを、追う。 ふっとアイディアが降って来た。 キーとなるのは、白装束と、白いヒノアラシ。なぜかはわからないが、まだ手元にいるレイディットを、いつかあいつらは再び狙ってくる。それは珠玉の中でほとんど確信だった。 「あの…俺、行きます。」 「行くって?」 「とりあえず、タマムシシティから離れて、それからは…そこで考えます」 「…そう、なら、とりあえずここから南に行くといいわ。すぐ南がサイクリングロードで、セキチクシティまで繋がっているから」 「あ、ありがとうございます。その、何から何までお世話になって、なんて御礼をすれば良いか」 「んーん、気にしないで。わたしのこと、誰にも言わないでくれたらそれでいいから」 女性がにっこりと微笑む。 その微笑を見て、ふと思い出した。 ――アスカ…。もう、ニュース、見たかな…。お袋に、親父に、…あー、オーキドの爺さんとか…。 次々と自らの親しい人たちの顔を思い出した。少しだけ、胸が痛んだ。 ――絶対、冤罪だって、証明してやる。 心の中で誓う。 グッと、拳を握ってから、女性のほうを振り返った。 「…本当に、お世話になりました」 言って、ベッドの上から降りる。立ち上がると、ずっと寝ていたせいか少し立ちくらみを覚えたが、どうやら五体満足。 早々に玄関まで案内してもらった。 出際に女性にアドバイスを受ける。 服装や髪型くらいは早々に変えたほうが良いこと。 本名は名乗るべきではないこと。 旅をする際にはポケモンセンターやフレンドリィショップのような公共の施設は利用しないほうが良いこと。 なぜこの女性が出会ったばかりの自分のことを、介抱し、あまつさえ今後のことを心配してくれるのかはわからない。が、この際だ。世話になれるものにはなるべきなのだろう。 敢えて何らかの理由を挙げるとすれば、チラリと見えた鳥ポケモン。ポケモン好きに悪いやつはいないという類のあれではないだろうか。 ともかく、そんなことを訝る余裕は今はない。問題は今後だ。 女性の好意に深々と頭を下げて礼を述べた。 「最近、またロケット団じゃないけど、物騒な事件が増えてるみたいだし、気をつけてね!」 ――その物騒な事件に俺も含まれてるんだろうな。 なんて考えながら、ありがとうと答え、女性の家を後にした。 外はどうやら明け方らしい。東の空が白んでいる。その下にはもうずいぶんと住み慣れたタマムシシティの高層ビル群が見えた。 「…ッ」 また、胸が締め付けられるのを感じずにはいられない。 朝の空気を大きく吸い込む。そして今側にいるたった一人の仲間に向かって語りかけた。 「レイディット…俺、殺人犯にされちゃったけど」 ボールに向かって喋りかける自分を、傍から想像し、少しだけ笑った。 ――いつの間に、こんなにレイディットのこと、ポケモンのこと、信頼するようになったんだろうな。 「もうちょっとだけ付き合ってくれよな」 そうお願いして。 西を見ればまだ大きな月がうっすらと輝いている。 ――覚悟、決めるか。 珠玉は駆け出した。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ その珠玉を、家の窓から見送った。 「ふふ…」 静かな部屋に、小さく笑い声が響いた。 |
ピカチョー | #9★2008.05/29(木)07:44 |
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第八話『旅の始まり The Last Of Safari Park』 「それじゃあ、どうもありがとう」 「は、はい! 道中お気をつけください、アニキ!!」 サイクリングロード終点。 セキチクシティとサイクリングロードを区切るゲートの傍でやけにキビキビと張りのある声が響いた。 正午を間もなく迎えようという時間。日差しも強く、汗ばむ陽気。 一人の青年が笑顔で手を振って別れを告げようとしている。その青年は、言うなれば特徴がないことが特徴と言えるくらい普通の青年。 その青年を見送っているのは、スキンヘッドやらリーゼントやら、古典に出てくるよう不良の鑑のような男数名。 五人ほどの不良たちはみな最敬礼をして青年を見送っていた。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ 時を五時間ほど遡る。 「へいへい兄ちゃーん、ここはサイクリングロードだぜ? 何歩いてるんだよ」 珠玉がセキチクシティを目指して南下していたときのこと。 数名の、いわゆる暴走族という奴に捕まった。 ――まだ朝の七時なのに…。随分早起きな暴走族だな…。 などと半ば他人事のように考えながら相手を見やった。 その暴走族は珠玉の周りに円を作ってグルグルとバイクを旋回させてこちらを威嚇している。 「…そういう自分たちこそ、サイクリングしてないように見えるけど…」 「うっせぇ!!」 とりあえず、正論を言ってみる。が、当然逆切れされる。 ――面倒くさいなぁ。 何が面倒くさいか。これからケンカと言う労力を使うことをするのはもちろん、そこでやっぱり怪我も免れまい。そしてそれ以前に、もうこんな集団と会話を成立させることから面倒くさい。 「よぉ兄ちゃーん、痛い目見たくなかったら俺たちに小遣い恵んでくれね?」 「ざっとゼロ五つくらいあればいいからよぉ」 ――十万以上、ねぇ…。 はぁ、とため息を吐く。 「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと掛かってこいよ」 面倒くさくなった。言い捨てて、半身に構える。 どうせ最後はこうなるんだ。 相手はバイク。一方こちらは足。どうせ逃げても逃げられないし、潔く殴り合おう。 ――どうせ最後はケンカになるんだし…。気は進まないけど。 そんなことを考えた。 その傍らで不良たちはああ!?とかいい度胸だ!とか叫びながら次々とバイクを止めだした。 そして頭を張ってるらしい男がバイクを降りて一番口を開く。 「よーし、ポケモ」「え?」 ゴス。 珠玉は正拳付きの構え。 一方、不良吹っ飛ぶ。 ――もろに入った…。 逆に申し訳なくなるくらいもろに入った。吹っ飛んだ。しかも何か言おうとしてた。 「ポケモ…ンバトル?」 言葉の先を推測して、あー、と呻く。 それに気づいた今頃には、すでにその不良は気絶しているのだから。 今の手ごたえ、吹っ飛び方。 ――多分、ちゃんとケンカしたことないんだろうなぁ…。 いわゆる、ポケモンバトルでの恐喝・脅し、そういった事しかしてこなかったんだろう。 そういう輩がいる事は珠玉も知っていた。ケンカせずとも不良ができる事くらい知っている。 しかし。 「そんなこと、知ったこっちゃないけど…」 そして、断末魔の悲鳴が響いて、尽きた。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ まさかの意外と健全だった不良を素手で更生させてしまった珠玉は、一路セキチクシティへ。 ――これから、どこへ行こう…。 考えながら、とりあえず大通りに沿って歩いてみる。 ――まずは、軽く変装くらいしたほうがいいのかな…。 果たして、指名手配を受けている自分がどの程度の情報で探されているのかはわからない。 しかし、おそらく今まで持っている自分の服装やかばんではあまりよろしくないだろう。 そこまで考えて、こんなことを考えざるを得ない自らの状況に改めて苦笑する。 しばらく歩くと、人が列を成して並んでいるのが見えた。 何だろう、と訝りながらもう少し近寄ったところで、珠玉も気づいた。 「サファリパークか…」 親子連れやらカップルやら。多種多様な人々の組み合わせが今か今かと入場を心待ちにして行列を作っている。。 呟いてから思い出した。 このセキチクシティは町の半分以上が『サファリパーク』という施設によって占められている。このサファリパーク、いわゆるポケモンの動物園のようなもの。今たくさんの人が並んでいる入場ゲートは、たくさんの珍しいポケモンを展示したスペースへの入り口だ。そしてその展示スペースの奥には、珠玉は入ったことはないが、実際に野生のポケモンを捕獲することができる場所もある、らしい。 カントー随一の観光名所と言える場所。 しかし。 「こんな所に寄ってる暇はないな…」 呟くと、そのまま長蛇の列に適当に割り込んで、そのまま列の向こう側へと入場ゲートを横切った。 そのまま、しばらく歩いた。 歩いてから、ふと気付いた。 『ポケモンをあるべきところへ!』『ポケモンを見世物にするな!』『サファリパーク断固反対!』 市内の至る所にこういった、もしくはこの内容に準ずるのぼりや看板が掲げられている。 それも、一個や二個ではない。なんとなく気に止めて来なかったが、思い返せば今まで歩いてきた道にもおびただしい数のそれらがあった。 ――こういう反対派って言うのは、どういう所にでもいるもんだしなぁ…。 やはり他人事は他人事。そういう運動が行われているのだな、程度の認識を留めたその時だった。 頭から白い布の被り物、体には真っ白のローブをやはり白の帯を巻いて留めた独特の白装束が目に入った。 忘れたくとも忘れられないその姿。 その白装束が三人いて、サファリパークの塀に向かって何かをしていた。 ――し、し、白装束!! 咄嗟のことに思考がフリーズしそうになる。 そこで咄嗟に辺りを確認する。珠玉がいるのはどうやらサファリパークの事務所の裏に当たる場所らしい。そしてそのサファリパークの事務所の裏で、白装束は何かをしている。 一人がボールを投げ、ポケモンを出した。ナゾノクサだ。 そのナゾノクサが大仰に頭に生えた葉っぱを振り回した。すると、事務所の裏に生えていた細い木が両断される。 そして、木が生えていた場所から、白装束がサファリパークへと侵入。 ――ふ、不法侵入…! …じゃなくて! 手がかり!! 白装束を追って、珠玉も駆け出した。 |
ピカチョー | #10★2008.05/29(木)07:45 |
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第九話『ライバル登場? The Last Of Safari Park』 ――あ、あいつら、どこへ…!? 細木を超えてサファリパークへ侵入。少し進んだ先にある低木を掻き分けて通路に出た。 いきなり現れた珠玉を見て、通りすがりの客が驚いた顔をしていた。が、そんなことに構っている余裕はない。 左右をバッと確認する。 園内には想像以上に人が多く、すでに白装束の姿は人ごみに紛れている。 ――クソ…ッ。 内心舌打ちをしながらどうするべきか考える。誰かに尋ねようという結論に至るまでに時間は掛からない。 「あの、ちょっと良いですか?」 「んー、何か用?」 声を掛けたのは、手近にいた同い年くらいの男。 「さっきここから白」 「ていうかさ、あんたこんなとこで何してたんだ?」 思いがけず、珠玉が尋ねるのを上掛けして相手の男が尋ねてきた。 ――ちょ、この急いでるときに…! 「いえ、ちょっと…!」 「なんだよー、ケチケチせずに教えてくれたっていいだろ?」 「いや、だから…」 「はっはーん、まさかあんた、いわゆる『ふほーしんにゅー』ってヤツだろ?」 「…え?」 言われて、気がついた。 白装束の三人組はサファリパークに不法侵入した。じゃあ、同じルートからサファリパークへ侵入した自分自身は…。 そこまで考えたところで、男が突っ込んでくる。 「お、もしかして図星? 図星?」 「い、いや、違…」 自分でも情けないくらい全力で否定してしまった。してから、それが余計自分を怪しくすることに気がついた。が、すでに時を遅し。 「じゃあワルモノは退治しないとな」 男が言いながらモンスターボールを構えた。 言い訳――と言っても掛けられた容疑ははその通りなので弁解のしようもないが、その余地も与えず男がボールを投げた。 「ちょ、ここ、人ごみのど真ん中!?」 「問答無用!」 ボールから現れたのは人の背丈ほどある大きなポケモンだった。四本の足で四つんばいに構えてこちらを睨んでいる。その太く逞しい胴体や腕は見ただけでその攻撃力が伺える。頭には二本のヒレ、そして尾の部分が一際大きな尾びれとなっている。 ――水ポケモン、かな…? 持っている数少ない情報で何とかそれだけ判断しながら、応戦のためポケモンを出す。 そんな二人の様子に、通行していた人々が輪を作って集まり始める。 「お、何その白いポケモン? オレでも見たことねーじゃん!? あ、もしかしてヒノアラシか!?」 「…さぁね」 「あーあー、格好付けちゃってさー!」 ――ホントに、わかんないだけどね…。 内心苦笑しながら、相手の挑発を受け流す。。 「でもなー、炎タイプでオレのグランに勝とうだなんてちょっとバカにしすぎじゃないの?」 あーあ、舐めてくれちゃって、と零しながら相手の男は目を細めている。 ――レイディット…って、炎タイプ…なのか? 衝撃の事実。 しかし、それを悟られないようにポーカーフェイスを… 「あれアンタ、もーしかして、知らなかった!?」 ――…バレた。 しかし、そんな珠玉の心情などいざ知れず、はっはっはー!などと腹を抱えて男が笑い出す。 かなりムカッときたが、知らなかったのは事実なので反論できない。 「じゃあグランとか絶対知らねーんだろカントー人? こいつはな、ラグラージっつうポケモンだ。タイプは水と地面。どっちも炎に対して相性がいいんだぜ? わかったか?」 カンペキにバカにされている。 それもそうだろう。珠玉の推測の通り、相手は水タイプらしい。相性が悪い。よくわからないが、地面タイプも炎に対して強いらしい。 そしてさらにはこの体格差だ。まさかこんな小さなレイディットで、何倍も大きなラグラージと言うポケモンを倒すことなど出来るわけがない。そう思われているのだ。 恐らく、正論。――通常なら。 「あら、まだ行けるとか思ってる? アンタ、結構バカだろ? っていうかさっきからわかりやすいヤッチャなー」 「…そ、そんなにわかり易いか?」 「おお、オレの人生の中の五本の指には入るわかり易さだわ!」 断言される。しかも初対面の男に。 ――そんなになのか…? すごく切なくなる。しかも間違ってないから悲しくなる。 「お、わーりわーり、そーんなヘコむなって」 「ヘコんでねーよ!」 「あ、そう? ま、どっちでも良いけどな。んじゃさっさと始めよーぜ!」 言うが早いか、臨戦の構えを取っていたラグラージが動いた。 マッドショット、という男の掛け声とともにラグラージが泥の塊を吐き出した。 「レイディット」 言う間に泥がレイディットに直撃する。 直撃した勢いでレイディットが吹っ飛ばされた。 相手の男が追撃のタイミングを伺うべくレイディットを注視するのが見えた。 しかし。 空気が、止まる。 相手の男も、珠玉も、周りの観衆も。 誰もがしばし、硬直して。 「…あ」 最初に声を発したのは、相手の男だった。 「れ、レイディット!?」 戦闘不能。 珠玉がレイディットに駆け寄る。見れば、泥の中で気絶している。 「あー、えー…いや、えー…」 あまりの弱さに、男もどうやって声を掛けるか決めあぐねている。 周りの観衆に至っても同じ。ドンマイとも声が掛けにくい状況に、誰もが次の一手を踏み出しかねて。 「…戻れ、レイディット」 そんな中、珠玉は小さく呟いた。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ 「あっはっはっは!」 サファリパークの西へ向かう通り。一際大きな笑い声が響いた。それに衆目が集まるのを感じて一言。 「お前、声大きすぎ」 はぁ、と珠玉がため息を吐く。 「いや、わーりわーり、まさかこの年になってようやっとポケモン持った、なーんて原始人みたいなヤツがいるなんて思いもしなかったんだわ」 腹いてー、と腹を抱えて男が笑っている。それに、ほっとけ、とだけ返しておいた。 ――白装束の連中は見失うし、変なヤツにはつかまるし…。 最近不幸続きだな、と不幸な自分を思い馳せる。 結局、バトルが終わってすぐに、サファリパークの職員に捕まった。誰かが通報したらしい。 当然、公共の場でポケモンバトルなど繰り広げた迷惑を、事務室に連れて行かれてこっぴどく叱られる事となった。 よく考えたら当然。 結局、珠玉の不法侵入についてもうやむやに流されてしまった。 隣を歩いている男を見れば、全く懲りてない、という顔をしている。きっと、こういうことが日常茶飯事なのだろうな、と男の私生活が透けて見える思いだ。 「ところでまーだ自己紹介してなかったな、オレはヒロキ。ホーエン地方から遊びに来てんだわ。よろしくな」 再び珠玉がため息を吐いたところで。 隣の男が自己紹介をして手を差し出してきた。 咄嗟のことに、「あ、ああ」と煮え切らない返事でつい握り返してしまって。 「で、アンタの名前は?」 「えーと、俺は…」 そこで言いよどむ。なんと自己紹介したものか…。 「俺は?」 迫られ、焦る。 ――本名はまずいだろ、偽名、なんか偽名考えなきゃ。 今は追われる身。本名をむやみに明かして回る訳にも行かない。 僅かな時間、必死に考える。 もうこの際何でも良い。 意を決して、口を開く。 「俺は…こ、コウ。コウだ! よろしく!」 「へぇ、コウ、ね。よろしく」 もう一度、改めて握手。 ここが、ポケモントレーナー『コウ』の冒険の始まり。 |
ピカチョー | #11★2008.05/29(木)07:46 |
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第十話『喋るラプラス 〜The Last Of Safari Park〜』 ――妙な男に捕まった。 正直な感想はそれだった。サファリパークの職員に捕まった後、足早に立ち去ろうとしていたコウを呼び止めて、一緒に回ろうぜ、と一言。 少しコウは渋ったが、それを強引に引きずり回されることになった。 改めて隣の男を見る。 金に近い茶髪。耳にピアス。典型的なアソんでる大学生のイメージだ。比較的整った顔に黒縁のメガネを掛けている。そのメガネの下の表情は普通にしていても自信が滲み出ているのがよくわかった。背は少し低めだが、程よく筋肉のついた体つきによく焼けた肌は健康的。そこに黒のTシャツにジーパン、という非常にラフな格好。にもかかわらず、どことなくお洒落さを感じさせられる。恐らく、胸に下がったペンダントや、高級そうな革靴なんかからそんなイメージを受けるんだろう。 訊けばヒロキも大学生だそうだ。そこでカンペキにコウの中でアソんでるヤツ認定が下される。 大人しく真面目、に分類されるコウとはおおよそ反対のタイプ、そう感じた。 「いや、それでな、実際のところポケモンバトルって言うのはさぁ」 「…はぁ」 熱弁。 かれこれ三十分以上コウは「はぁ」と「へぇ」と「すごいな」と「なるほど」の四単語しか発していない。 ――なんでどいつもこいつもポケモンの事となるとこんなに熱くなるんだろうな…。 確かにポケモンは良い。と思う。 それは一ヶ月レイディットと言うポケモンとすごした正直な感想だ。 でも、だからと言って、みんなのようにポケモンを戦わせる夢中になったりは相変わらず出来ない。 何でもヒロキはホウエン地方で各地のジムを回り、八つのバッジ全てを集めた、らしい。 それだけでヒロキがコウが敵うべくもない実力者、ということはわかるが。 「ポケモンの育成って言うのも結局のところはさっきも言ったけど…」 大仰に身振り手振りを使って活き活きと話すヒロキを見て、そこまで熱くはなれない自分を浮き彫りにされているように感じてしまう。 ポケモンといるのは楽しいと思う。屈託なく動き回るレイディットを抱きかかえて頭をよしよししたりする間は癒される。レイディットが自分の言葉を少しずつ、少しだけでも理解を示してくれることは喜びだ。自らのポケモンが成長すればするだけ、幸せを感じる。 でも、それだけ。 それ以上の何か、がなければコウはきっとヒロキのようにポケモンを愛せない。同じポケモントレーナー。でもそこには何か歴然とした壁がある。そう感じた。 「おい、アンタさっきからちゃんと聞いてるわけ?」 「ん…ああ、聞いてるよ」 「ホントかよ…?」 急にヒロキが話を止めた。と思った矢先、唐突にヒロキが尋ねてきた。 正直げんなりしていたが、かと言ってそれを言うわけにも行かない。 「コウ、顔にもうげんなりしてますーって書いてあるけど?」 「…。」 言うわけにも、行かないけど…。 「…と、ところでヒロキ、今どっかに向かってるわけ?」 「ん、ああ、人と待ち合わせしてるんだわ、今。コウのせいで待ち合わせに遅れちまったし、コウもちょっと一緒に謝ってくれよ?」 「いやいやいや、なんか色々おかしいだろおい」 思わず突っ込まされた。多分騒動が起きたのもコウに非がないとは強く言えないが、起こしたのはヒロキ。 しかも待ち合わせしているのなら、何を三十分もポケモンについて語っているのか。 「いやー、どうせ十分遅れたら三十分遅れるのも一緒いっしょ。細かいこと気にすんなって」 どう考えても一緒じゃない。 が、もうどうせ本人のことなので口を出さないことにした。 と、そこで。 「…人語を、理解するポケモン?」 ふと左手に立っている看板の大きな表題が目に付いた。思わず読み上げる。 「どした?」とヒロキ。 「いや、何でも…」 ただでさえ、遅れているらしい待ち合わせにこれ以上遅れては相手にさすがに失礼すぎる。まだ見ぬその人になぜか見知らぬコウが配慮して、先を急ごうと看板から目をそらした。 “…ち…さい” 「え?」 頭の中に、声が響くような感覚。最初は、ヒロキが何か言ったのかと思った。 “お待ち下さい” 次ははっきりと聞こえた。 「誰だ?」 「だーからどしたよ?」 先ほどから様子がおかしいコウを、ヒロキが呆れながら尋ねる。 しかし、それに答えるより先に、さっきの声が頭の中に響く。 “私は、あなたたちニンゲンがラプラス、と呼ぶポケモンです。” 「ラプラス?」 訊きながら、もう一度看板を見れば、それがラプラスの紹介文であったことがわかる。 「おーいコーオー。コウってば。さっきから何?」 「何って、ヒロキには聞こえて…」 「…何が?」 「…あ、いや」 全くわかっていない、というヒロキの顔を見て、言葉を濁した。 呻きながら看板の向こう側、柵の中の池を覗く。 そこには、一頭の大きな海獣が浮かんでいた。 「ラプラス、乗り物ポケモン…へーえ」 ヒロキも様子のおかしいコウに諦めをつけたのか、看板を熟読しはじめる。 池の真ん中で、ラプラスの目は確かにコウを射抜いていた。 それに少し、背筋をゾクリと何かが走った。 ラプラスと言うポケモンは、どうやら非常に高い知能を持っている。ただ、所詮ポケモンはポケモン。高い知能とは言え幅は知れている。 ラプラスに限らず、知能の高いと冠されるポケモンはそういうものだとコウは思っていた。 しかし目の前のラプラスは、違う。 それが一目でわかった。 ポケモンの頭の良さのアベレージを、コウは知らない。たとえばレイディットの場合なら、レイディットがわかる単語は『疾風』『イリュージョン』『ご飯』『逃げる』など、いわゆる単語のレベル。 それでもコウとしては、予想以上に頭の良い自らのポケモンに感動したくらいだったのに。 “あなたを見込んでお願いがあります。私を、ここから出して欲しいのです” 目の前のポケモンは、それはもう流暢に文章を作り上げ、そしてコウに訴えかけてくる。 信じられないような出来事なのに、それでも今頭に響くこの声が、目の前のラプラスのものだと素直に感じた。 「やっぱり、檻の中は辛い?」 思わず尋ねた。 サファリパーク沿いに無数に立った「サファリパーク反対」ののぼりは記憶に古くない。 “そうではありません” しかし、返ってきた答えは、コウが予想するものとは全く違っていた。 “私は、ふたごじまに元々住んでいて、つい一ヶ月ほど前に捕獲されてしまいました。もちろん、今は当時のように自由ではありませんが、今それ以上にここを出たい理由は私の使命にあります” 「使命?」 “はい。ふたごじま最深部。そこにふたごじまのヌシ様がおられます。ヌシ様は、あのあたりに住まうポケモンの長として長らくあの辺り一帯を統べて参りました。しかし、近日、そのヌシ様をニンゲンが捕獲しようとしているようなのです” 「…それを、食い止めることがラプラスの使命?」 “はい” 話は大方飲み込めた。が、しかし、こんな話をポケモンからされたと言って、誰が信じてくれるか。 「話は終わったわけ?」 と後ろからヒロキが話しかけてきた。振り向いて見えた表情はやたらとニヤニヤしている。 ――こいつは…絶対に信じないだろうな…。 確信。 「あー、もう少しで終わりそうだよ」 適当に流しておいてラプラスを振り返った。 “白装束” 急に、思いがけぬ単語を押し付けられ、脳に電撃が走ったみたいに目が覚めた。 「な、し、白装束が、どうか、したのか」 “そのヌシ様を捕獲しようとする連中です。彼らは、その話をしながら私の前を通り過ぎて行きました” 「し、白装束…!」 「どしたよ、何か決定的なカミングアウトでもされたわけ?」 ヒロキが尋ねてくる。が、それに答えるより先に、ラプラスにはっきりさせておかなければならない。 コウが口を開こうとした矢先。ラプラスが言う。 “白装束は、あなたが以前襲われた白装束と相違ありません。殺人容疑で追われ身のコウ、さん?” あまりの衝撃に、思考回路がスパークした。 一体、なにがどういうことだか、意味がわからない。 “あなたの心を読むことくらい造作もないことです” 戸惑うコウに、ラプラスが言葉を添える。 そこまで言われて、やや心が落ち着いた。 そんなことがラプラスに出来るのか、とかそういう疑問すら思いつかなかった。 そんな細かい疑問以上の感情が、コウを支配していたから。 その感情が、心を読むと言う言葉すらたやすくコウに納得させた。 そして、ラプラスは今のコウの状況を全て見抜いた上で、コウにコンタクトを取ってきた。 ――どんだけ賢いポケモンだよ。 それこそ人以上。 そこまでわかった上で、その情報だけでコウが後には引けなくなるのを知った上で、コウを利用しようというポケモン。 今一度、目の前のポケモンにゾクリとした感情を覚える。その感情の正体は、畏怖。自分よりも優れかねない目の前のポケモンへの畏怖。 しかしそれでも。 「ははは…」 自分でも痛いほどよくわかる、白々しい笑いを立てた。 笑いながら、自分の心が決まった。 「良いだろう、ラプラス。そこから連れ出してやるよ」 逃げるわけには行かないから。 グッと腹を決め、ラプラスの依頼を引き受けた。 |
ピカチョー | #12★2008.05/29(木)07:46 |
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第十一話『龍を駆る少女 〜The Last Of Safari Park〜』 「さて、どーっかのだーれかさんのせいで道草食っちまったけど、待ち合わせはここで間違いないよな」 ヒロキがジトリとコウを見やりながら、呟いた。 もう弁解するのも面倒くさい。たくさんの矛盾も全て聞かなかったことにしよう。 場所は園内フレンドリィショップ前に立てられた、ポケモンのモニュメントの前。 なるほど確かに待ち合わせの場所としてはそれなりにわかり易い。 「あ〜、居ねぇな〜」 ――そりゃあ…。 見れば既に聞いたところの待ち合わせ時刻を一時間弱オーバーしている。怒ってどこか行ってしまっても何ら不思議はない。 それにガシガシと頭をかきながらヒロキが一つため息。 「しょ〜がないな〜、ちょーっと探してくるから待っててくれ!」 「は、お、おい、待てよ!」 しかしその言葉を聞かぬまま、ヒロキは人ごみに紛れて行った。 ――せめて誰と待ち合わせているかくらい…。 心中思うが、既に時遅し。 「しょうがないなぁ…」 独りごちて、近場に見えた柵の方まで行って寄り掛かった。 柵の中にはまるまるとしたポケモンが卵を抱いている。 柵に据え付けられた看板にそのポケモンの名前が書いてある。 「ラッキー…」 丸くて、妙に癒し系のポケモンを見て少し和む。 柵の上で腕を組んで顔をうずめる。 立ち止まると、今まであったことが目まぐるしく脳裏に蘇ってくる。襲われたこと。殺人犯の容疑者にされたこと。ラプラスに助けを求められたこと。何もかもが、状況を一転も二転もさせるような衝撃の出来事ばかり。 それに改めてげんなりとした。 「あー、アイツさっさと帰って来いよ…」 腕の中で呻く。 「誰かと、待ち合わせですか?」 「え?」 女性に声を掛けられた。鈴のように透き通った声だ。 腕の中でぼんやりとラッキーを眺めていたところに突如声を掛けられて、呆気にとられて訊き返してしまう。 そこで、振り返る。 「…ッ。」 息が、詰まるかと思った。 振り返った先にいた女性が放つ、異様なまでの存在感。 黒のジャケットの下に着ている白のワンピースが、輝いて見える。 足も長いし腕もスラリと伸びている。背も高い。コウより少し低いくらいで、ヒロキよりは高い。いわゆるモデル体型。 白の大きなハットが日差しを遮っている。そして、そのハットの作る影の中。 薄く微笑む女性の笑顔が、コウの動きを止めた。 ――う…わ、すごい美女…。 あまり女性に興味がないコウでも思わず唸るほど。 見れば道行く人もすべからく彼女に目を奪われているようだ。 「どうか、されましたか?」 無垢に尋ねてくる彼女の質問に、「いや、あの」というのが精一杯。 「ワタクシも、今待ち合わせをしているんですけど、いつまで経っても帰って来なくって…」 言って、ハァと頬に手を当ててため息一つ。 そしてすぐに、一緒ですわね、と笑顔を向けられた。 その仕草から表情まで、何一つとってもまさに造形美。 「そ、そう、ですね…」 相手の笑顔だけでドキドキする。自分の言葉が面白いほど硬いのが、自分でよくわかった。 「あなたは、こちらの方なんですか?」 「い、いや、俺は…」 そこまで答えかけたところで。 「ねね、お姉さん、ちょっと良いかな?」 コウの言葉を遮って、そんな言葉が飛んできた。 見れば、二人の二十歳すぎくらいの男がニヤニヤしている。 「ちょっと一緒にお茶でもしないかい?」 「こんな冴えない男ほっといてさー」 ――さ、冴えなくて悪かったな! いきなりの失礼さに、顔が引きつる。 「その、ワタクシは…」 男の強引な誘いに強く断りきれないのか、女性が言葉を濁した。 「よし、じゃあ行こう! 決まりだ!」 男の片方がそう言うや否や、女性の腕を強引に掴む。 「いや、その…」 そこまで来て、いい加減見かねたコウが口を開く。 「…冴えない男で悪いけど、嫌がってるだろ、その人。離してやれよ」 こんな絶世の美女が困惑して助けを求めている。ように見えた。 それを助けないほどコウも男を捨てちゃいない。 そう、朝みたいな要領でやっつけてしまえば良いのだから。 考えながら、半身を取る。 それを見て、二人の男が粘着質な笑みを浮かべた。 「まさか、お前がポケモンと戦う気なのか?」 ニヤニヤと人をバカにするように笑いながら、間髪入れずに男がボールを投げた。 「…もしか、して」 「いけ、デルビル」「ドードリオ、目にもの見せてやれ」 二人の男が叫びながらポケモンを取り出した。 ――ちょ、俺さっき怒られたばっかり!? ついさっき、どこぞのトレーナーとバトルをして怒られた事は記憶に新しい。が、既に時遅し。 出されてしまった以上は戦うしかない。二匹のポケモンをどう倒すべきか考えながらボールを構えて、気付いた。 ――レイディット、今戦闘不能…。 一瞬にして血の気が引く。 ――や、やば…。 色々やばいが、何が一番問題かって、偉そうに大見得切って止めに掛かったのに、為す術なくやられるのは半端なく格好が悪い。 でも、こんな強引な男だ。そう、易々と諦めでもしたらこの女性が何か大変な目を見るに違いない。 そこまで考えて、ならばどうすべきか。そう自らに問うたその時だった。 「わざわざお気遣い頂き、痛み入ります。でも、わたくし一人で何とかなりますから」 後ろで、声がした。 さきほども聞いた、鈴を転がしたような澄んだ声。 ――何とか、なります? その意味を考えるより早く。 光が弾けて轟音が辺りを支配した。 一瞬の出来事。 その轟音が響くより一瞬早く、声が聞こえた。 極大のフラッシュと轟音より、強く感情を支配する、そういう声。 「タチアオイ、破壊光線」 その声は、確かに女性が放ったものだった。はずだった。 しかしその記憶に焼け付いた声は、とても鈴を転がしたようなものではない。まったく同じ声、声量、トーンだと、頭では理解できる。しかし、その声は、この世のものとは思えないほど腹の中からザワリと不安を掻き立てるような、そんな荘厳さを含む声だった。 あまりの轟音に、サファリパーク全体が音をなくしたみたいに静かになった。 その轟音の原因。二人の男より少し後ろの地面がバックリと抉れてクレーターのようなものが出来ている。 「あ、あそこ…コンクリじゃなかったっけ…?」 男の片方が、恐る恐る尋ねた。 もう一人の男も、答えこそわかってはいるようだが、あまりの出来事に答えかねているようだった。 そして最後にコウは見る。その尋常ではない威力を放つポケモン「タチアオイ」を。 そのポケモンは、女性の後ろで長い蒼い体を空中でくねらせている。首と尻尾の辺りに宝玉を飾った一本角のポケモン。ドラゴンポケモン、ハクリューだった。 あまりの出来事に、コウを始めとしたその場の全員が凍り付いて。 静かになった空間に、再びあの鈴のような声が転がった。 「お茶、お付き合いいただけますか?」 とびきりの笑顔が、男たちに振り撒かれた。 とびきりの、トゲ付きで。 |
ピカチョー | #13★2008.06/10(火)20:30 |
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第十二話『ラプラス奪取の秘策 〜The Last Of Safari Park〜』 ふたりの男がそそくさとその場を退散して行くのを見た。 そして、改めて女性の方を見た。 少しやりすぎてしまったかしら、とか何とか言っている女性の笑顔を見て、コウも逃げ出したくなる。 そのやりとりを見ていたらしい通行人も、すべからく女性に目を合わせないように明後日の方を向いて逃げるように歩いていた。 「…ず、随分と、お強いんです、ね…」 あはは、と乾いた笑い。自分でも白々しさをひしと感じるが、感情には逆らえない。 笑いながら、考える。 今の威力と言い、スピードと言い、きっとレイディットの最高速でも容易に上回… 「手加減はしたつもりだったのですけどね…」 「え?」 思考が止まる。 女性を見る限り、自慢でも謙遜でもなく、きっとただ単純に事実を述べているようだ。 そしてこの時のコウは知る由もないが、女性のハクリューは、破壊光線を放った後に襲われるはずの反動を一切受けていない。つまり、反動も必要ないほどに弱めた出力だったのだ。 そこで、誰かが全速力でこちらに駆けつけて来ているのに気付いた。 流れる人の波を無理やりこじ開けてここまで走って来たらしい。よっぽど急いできたらしく肩でゼェハァと息をする男にコウが声を掛ける。 「あ、ヒロキ」「ヒロくん…!」 コウが発言すると同時。隣で声がした。 「「え?」」 同時に、声を漏らした。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ コウの説明を全て聞いて、ヒロキが大きなため息を吐いた。 いや気持ちはわかる。 「ヒロくん、この方は…?」 そのタイミングを見計らって、女性がヒロキに尋ねた。 「あ、ああ、コイツはコウ。まぁさっき何やかんやあって仲良くなったんだ」 「あらぁ、それは素敵ですね!わたくしもちょうど先ほどお話させていただいてたの!」 ――え、あれ、何だこれ。突っ込みどころが多すぎて喋る気がしないのは…。 げんなりとしたまま女性に説明するヒロキ。その『何やかんや』で本当に仲は良くなったのか? しかもその隣で手を合わせて嬉々とした表情を浮かべている女性の方も、何か、何か違う。少なくともお話している女性が閃光と爆音を撒き散らしたのは、コウの人生経験上、一度もない。 「あ、紹介が遅れました。わたくしはユカと申します。こちらのヒロくん…ヒロキの姉です」 「ああどうも、えー…コウです。よろしくお願いいたします」 ユカと名乗った女性が優雅にお辞儀をする。それに倣ってコウも軽く頭を下げた。少しだけコウも『コウ』という名を名乗る事に慣れてきた。 それから、数秒ほど。 ――今、何か変な事言ってなかったか? 「どうかされましたか?」 さも不思議そうにユカが尋ねてきた。コウが何かを思い出そうとしていた表情が気になったのだろう。 「いや、普通にユカがオレの姉貴だーって事に驚いてんだろ」 「…え、え? ええ? ちょ? ええ!?」 何だかもう、言葉が出てこない。 思考が回らない。 「コイツ、オレの姉貴なんだわ、双子の」 「ま、マジでか!?」 「おお、大マジだわ」 「そ、そらあ…とんだ偶然もあるもんだな…」 ――姉弟そろって迷惑な双子だな…。 思わず考えてしまった。 そして、改めて二人を見比べる。背はユカの方が高いのが残念だが、顔の輪郭や鼻のライン、くちもとなんかは確かに似ている。双子と言われれば、納得は出来るが…。 「にしても、ユカ、あれほどポケモン使うなっつっただろが!」 「うふふ、ごめんなさい、ヒロくん」 溜息を吐いて頭をガシガシと掻きながらヒロキがユカを注意する。 どうやらこの双子の関係は、ヒロキが一般人でユカが無茶をやらかして叱られる方らしい。しかもユカの方に反省の色は一切ないし。 ――あれ、おかしいな。さっきヒロキが無茶をやる奴とか思わなかったっけ、俺…。 そのヒロキでも呆れるほどの姉、か。 改めてゾッとした。 _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ 「さぁ作戦会議だ!」 そう嬉々とした声を上げたのはヒロキ。それをわー、楽しそうですわねー、とユカが拍手を送る。 「…。」 そんな双子に、声を掛けられずに、思わず引いてしまうコウ。 おーい元気が足りねーなーなんて言われても、ちょっとしょうがないんじゃないだろうか。 三人はサファリパーク園内にある喫茶店の一角にあるテーブル席に腰掛けている。 ちょうど昼の忙しい時間が過ぎた頃合いだったためか、店内に人は多いもののすぐに座る事が出来た。 「ところで、作戦とは何の作戦なのでしょうか?」 と、ユカが尋ねた。 「ああ、事の始まりはこの頭ん中がエスパーのコウがだなぁ」 「誰がエスパーだ!?」 「ヒロくん、そういう言い方はよくありませんわ。言い直すなら脳み」 「いや、ユカは言い直さなくて良いよ」 今、何か一瞬すごい事言おうとしてなかったか? 的中しているコウの予感を他所に、ユカの言葉を無理やり遮ったヒロキが話を進める。 「まぁ、要約するとコウが『喋るラプラス』ってヤツを助けたいんだとさ」 「まぁまぁ。それはまた大変ですわね!」 だんだんこの双子に付き合ってるのが疲れて来た。 常識人のコウには若干この二人を同時に相手をするのが荷が重い。 ――さて、ともかくどうやって助けようか。 わいのわいのやっている二人を他所に、思考を巡らし始める。 とそこで。 「ならここの園長さんにお願いしましょう」 指を立ててユカが提案して来た。 「園長?」とコウ。 ヒロキもうなりながら腕を組んで考え込む。 「園長か〜。でも、い〜きなりオレらみたいないっぱしの人間が『ラプラスくださ〜い』だな〜んて言ってくれるわけ…あるか」 「何で!?」 思わずコウが突っ込む。 それをヒロキが黙って指差した。その指先の指すほうには、ユカの姿。 「あ〜…」 なんか、妙に納得。この美女なら、お願い事などお手のもの、というやつなのだろう。 「よ〜し、作戦会議終わり!!」 ――一体これのどこが作戦だよ。 言うが早いか、ヒロキが手もとのアイスコーヒーを飲み干すと足早に立ち上がる。 「じゃ、行こうぜ!」 「…どこへ?」 それを同じくアイスコーヒーを啜りながら、コウが静かに尋ねた。 「え、どこへって…どこだ?」 「…サファリパークの事務所ではありませんか?」 「あ、そう。事務所。オレもそれを言おうと思ってたんだ!」 ユカの言葉に、わが意を得たりと言う顔でヒロキが言う。 ――まぁ、もう行くだけ行ってみるか。 何だか面倒くさくなってきた。 もう二人に任せてみるかという気になって、コウも立ち上がった。 >あとがき 間奏話・3『思いのほか長くなったリメイク編』 今更なんですが、文字の色とか設定変えても書きなおしの場合は反映されないのですね…。涙。 さて、8話目から突入しましたThe Last Of Safari Park編はいかがでしょうか? いかがも何も誰も読んでなかったりしたら少し切ないんですが(笑) 恐らく14か5話目くらいでサファリパーク編は終わると思うのですが…。 ついでにサファリパーク編から一話辺りの分量は減らしてみましたがいかがでしょうか? 結局書く総量は変えていないので結局長いは長いんですけどね…。 ここは何か長いほうが良いとか短いほうが良いとか、もう引っ張らなくて良いからちゃっちゃとストーリー進めて欲しいとかありましたら教えていただけたら幸いです。 あ、あとちなみにきっとお気づきの方が大半だと思う…というかまぁなんつーか読んでる人がたくさんいるという残念な前提ですが(笑) サファリパーク編からはほぼ一から文章作ってます。で、書いてるわけですが、ストーリーがほぼ変わってます(笑) ま、まぁアレです。これ書いてる間に赤緑もリメイクされたし、そんな感じで(知らん) で、ついでにここで重大な問題発生。 もともと過去ログで放置されてた自分のスペースを掘り出してここまで進めて参りました『カントー動乱記』でありますが、そろそろテーマが大きくなりはじめているのアラートが…(笑) 多分しばらくは正直面倒くさいんで自分でまとめたりとかアップとかはしないと思うんで、そこで相談。というか質問? 私は実はここが容量問題で喘いでいた時の人間ですので、なんとなーく心配してたりするんですが、今はもう大丈夫なんでしょかね? 大丈夫なら思い切って次のテーマに行こうと思うんですけど…。 あと、一話か二話くらいは大丈夫そうなのでそれ書きながらどうするか決めようかとは思ってるんですけどね。 まぁ、なんつーか、容量食いですみません、毎度(ぇ) |
ピカチョー | #14★2008.06/10(火)20:35 |
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第十三話『園長 〜The Last Of Safari Park〜』 「…じいさん、アンタ何やってんの?」 ヒロキが、呆れた表情で尋ねた。 サファリパーク事務所。ついさっきコウとヒロキが怒られた場所だ。それを話したらユカが微笑みながらそれは災難でしたね、とコメントをくれた。確かにとんだ災難だ。この双子に絡まれる結果を招いてしまったのだから。 その事務所の、ちょうど入り口から反対側にある一番遠くの窓。二階に備え付けられた窓から、一本のロープが投げられた。 何事かと思った次の瞬間、老人がロープを伝って、地上まで降りてきていた。 そこをヒロキを始めとした三人に見つかったところ。 「お、何や、事務所に何ぞ用か?」 関西弁――しかもすこし擦れた感じの関西弁で気さくに老人が答える。 「事務所の…方ですか…?」 出来れば、違って欲しい。 違って欲しいけれど…。コウが尋ねるのと同時。 「ああぁぁっっ!! また園長が逃げ出したぞ!?」 二階の窓から、叫び声が聞こえた。 「む、ちょっと匿ってくれへんか?」 言うが早いが老人が傍の茂みに飛び込んで姿を隠す。 ほぼ確定。 この関西弁の気さくなじいさんが、どうやらサファリパークの園長らしい。 カントー随一の観光施設。サファリパーク。 そのトップたる人間。 想像では、もっとこう、しかめっ面のよく似合う白髪交じりでしかし経営なんかもう敏腕を発揮しまくるような初老の男性をイメージしていたのに。 「随分、気さくな方です…ね?」 ヒソヒソとユカがコウに耳打ちしてくる。 そこに事務所から出てきたらしいサファリパークの職員と思しき人が数名走ってくる。 「君たち! この窓から老人が降りてきたのを見ていないかい!?」 早々に尋ねられた。どんな老人だ。 と、突っ込みたかったが、実際に見てしまったのだ。その老人は、今コウの後ろにいる。 「い、いえ…」コウが喋りかけたのを遮ってヒロキが喋りだした。 「そのじいさんならあっちの人ごみの方に走ってきましたぜ」 「ありがとう! あんのクソジジイめ!」 台詞を言い捨てるが早いか、職員たちが駆けて行った。きっとよっぽど恨みがあるのだろう…。何かわかる気もするが。 その後姿を見送ってから、ヒロキが喋る。 「これで良いかい、園長さん?」 「いやー、素晴らしい。おかげで助かったわ」 言いながら、園長が茂みから出てくる。 それにいたずらっ子のような笑みを浮かべながらヒロキが尋ねた。 「んで、爺さん何やってたんだ。また脱走って?」 「お、聞いてくれるんか兄ちゃん! せやねん、それがな〜」 などと言って、いきなり園長が身の上話を始める。 それを、腕を組んでうんうん、と相槌を入れながらヒロキが同情を示している。 それを他所に。 「ねぇ、ユカさん」 「なんでしょう?」 「なんでヒロキは園長とこんなに親しげなんですか?」 「さあ…でもヒロくんは敬語とか使えませんからね」 「あ、左様ですか」 敬語を使う使わない以前の問題ではなかろうか。と思いこそすれ、何だか話は上手く行っているようなので、もう突っ込まないことにする。とりあえず、この辺りでそろそろユカの感性が若干ズレている事に、コウも気付き始める。 見れば、園長とヒロキが手を取り合って、深く頷き合っている。 少し見ないうちに何であんな事になってるんだ。 「ヒロキ…どうした?」 「おいコウ! じいさんの話聞いてなかったのかよ!?」 「あ、いや…うん…」 「だーからー。じいさん、旅に出たいらしいんだわ」 「…旅?」 「せやねん。もともとわしがこのサファリパークを作ったんも、わしが今までに出会ってきためずらし〜いポケモンたちをもっと他の人にもぎょーさん見て欲しゅーて作ったんや。せやけど、サファリパークの規模が拡大してく内に、やれポケモンが可哀想だの何だのゆーてくる連中も増え始めてな…」 そこまで話を聞いて、あー、とコウが呻いた。 サファリパークの外にあったのぼりや看板。 もちろん多くの人は素直に普段見る事の出来ないポケモンを楽しんでいるだろう。しかし、そうは感じず、サファリパークの在り方に文句を言う人も少なからずいる。 それはきっと、善意から作ったサファリパークのトップからすれば、不本意極まりないことだろう。 「えーっかげん、こういう経営とか何とか、疲れとったんや。そしたらちょーど一年くらい前か? 一人の男の子がうちに来てな。その子がわしの失くした入れ歯を持ってきてくれてんけど」 「い、入れ歯…?」 思わず突っ込んでしまった。 「せやねん、わしの歯、全部入れ歯やねん」 見るか、と言いながらにかっと笑って歯を見せられる。 全て金色の歯は、一目で自然な歯でない事がわかる。それにコウ、引き笑い。ユカが素晴らしいです、と熱の入った一言。どこが。 「まぁ、入れ歯はええねん。で、その男の子がやな、これまたポケモンとたっのしそーに旅をしとったんや。それ見てからまーまた昔みたいに旅がしたくなってもうてなー」 活き活きと語る園長。 それに、その気持ち、わかる!とヒロキが間髪入れずに行く。 「そのお年でその好奇心、素晴らしいですわ」 「おお、姉ちゃんもわかってくれるか、うれしいわ」 ガシッと三人で手を握り合って、何かしらの友情を分かち合ったらしい。 旅がしたくて旅を始めたわけではないコウには、正直あまり共有できる価値観ではないが、そういうものなのだなと頭の隅で納得した事にした。 「よーし! そーれじゃあ爺さん! オレ達がここから連れ出してやるよ!」 「おお、ほんまか!?」「それは良いですわ!」「ちょ、ヒロキ!?」 三者三様の反応。 一人反応の芳しくないほうに向かってヒロキが訊く。 「何だよコウ?」 「いやいやいや。そ、そんなことして良いのか? 第一連れ出すって一体どこへ?」 「クチバ港まで運んでくれたらそれでええわ」 すかさず園長。 ――まぁ、当の本人がこれなら、良いのか? 何だかもうよくわからない。 「んでさぁ爺さん、ものは一つ相談なんだけど」 「どないした? えー…」 「あ、オレはヒロキ。こっちがユカ。そっちがコウ」 遅れた自己紹介をヒロキがする。 そしてそのまま、ヒロキが本題に移る。 「サファリパークにさ、喋るラプラスっているじゃん。それを出来ればこのコウに譲ってあげて欲しいんだわ」 その言葉にハッとした。 園長と言い、双子と言い、あまりの破天荒さに忘れていたが本来の目的はラプラスの救出なのだ。 ヒロキの言葉に、園長。 「ええで」 「軽!?」 およそ即答。 サファリパークの園長と言うのはそこまでの権力を保持しているものなのか。 「ただし、それはわしの一存では決められへん」 「それはつまりどういうことになるんですか?」 「ふむ。たとえば夜中にサファリパークに侵入して、盗んでくとかどうや?」 「ど、どうやって、それ…」 最初から最後まで、全部犯罪。 しかも、それをサファリパークのトップが言うか。 「まぁ、かまへんかまへん。どうせわしがおらんようなったら早かれ遅かれ閉園する事になるんや」 「へ、閉園、しちゃうんですか、サファリパーク?」 園長がさらりと述べた一言。 尋ねたコウを始め、三人の意識に引っかかった。 「それはまたなぜでしょう?」 ユカが尋ねた。 それに一つこくりと頷くと、園長は答える。 「サファリパークのポケモンはな、やっぱどうしてもほぼ野生のままやねん。中には凶暴なやつらもおるわ。うちの職員だけでそうゆうポケモンを扱いきれへんねんな」 「あー、なーるほどねー」 ヒロキがうんうんと納得する。 ――でも、だったらそれこそ逃げ出して良いのかな。 と、考えてしまうがきっとこの園長、止めても聞かない。 「よし! 事情はだーいたい飲み込めたぜ! じゃあ今日の夜、作戦決行だ!」 とかヒロキは一人で突っ走るし。 園長、喜んでるし。 ユカは頑張りましょう!とコウに向かって意気込んでくるし。 今やろうとしてる事、全部、犯罪ですが…。 「あ、俺今犯罪者なんだっけ…」 そこで、決定的な事実に気付いてしまう。 何だか複雑な感情がグルグルして、は〜と大きくため息をついた。 |
ピカチョー | #15★2005.09/15(木)20:04 |
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イルがカッコ良いです、イルが。ディーも好きだけど…(謎) |
ピカチョー | #16★2005.09/15(木)20:05 |
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燃えると言えばマテリアル・パズル。今月新刊発売ですね。楽しみです |
ピカチョー | #17★2005.09/15(木)20:06 |
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ちなみに同じ作者さんの清村くんと杉小路くんよの新刊も今月… |
ピカチョー | #18★2005.09/15(木)20:07 |
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さらにちなみに同じ作者さん原作のバンブーブレードの新刊も今月… |
ピカチョー | #19★2005.09/15(木)20:08 |
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一体何冊描いてるんでしょうねェ(笑)いや、全部かいますが(ェ) |
ピカチョー | #20★2005.09/15(木)20:08 |
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スパイラルの新刊も今月でしたっけ…出すぎだよ…(ぇ) |
ピカチョー | #21★2005.09/15(木)20:10 |
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スパイラルは来月で終わるようですが。とりあえず、どう言う終わり方をするのかが楽しみです |
ピカチョー | #22★2005.09/15(木)20:11 |
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そういえばさいはてのことうのかんばん…書き主はおそらくエメラルドに登場しませんが… |
ピカチョー | #23★2005.09/15(木)20:12 |
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かのじさまがミュウを見つけたのって南米じゃなかったっけ?そもそも南米や中国と言う概念があるのか怪しいけど |
ピカチョー | #24★2005.09/15(木)20:13 |
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もしかしたら、今回の話、どこかにきれいに整理されて読めるトコがあるかも(謎) そんでミュウ云々はそこで投稿する長編にちょっぴり絡む予定です(劇謎) |
ピカチョー | #25★2008.06/19(木)16:10 |
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どーもおはこんばんちは。ピカチョーです。 とりあえず、テーマが大きくなりすぎたようなのでそろそろ次のテーマと言う奴に変え時なのかな、とか考えているんですが…。 やり方がわかりませんorz まぁ、別にそんなに慌てて変える必要もないとは思って結構のんびりしてるんですけど(まて) ちなみに多分このサファリパーク編で転換期を迎えてしまった事を鑑みると、多分テーマが5とか6とかまで行ってしまうんじゃないかとがくがくしております。 んーむ。 |
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