ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

連載中[621] 黒羽の天使は除夜の鐘とともに。

ポケ先輩 #1★2005.06/28(火)18:25
#0

――わたしが地上に降りた理由はただ一つ
  彼女をさがすため

#1「begin」

>2004年12月27日 ホウエン地方上空

そこに、長い尻尾をたなびかせ羽ばたく一匹のポケモンの姿があった。
れいとうポケモン、フリーザーである。
そのフリーザーの上に乗っている少女、彼女がこの物語の一応の主人公。
名前を、雪野花月(ゆきの かづき)という。
「一応とは何よ、失礼ね」
ややっ、聞こえていたか。ゴメンナサイ。
で、彼女が向かっている先は、ホウエン地方の北東に位置する小さな町、マライカタウン。
フエンタウンに近く温泉も豊富にわき出る、山の合間にある町だ。
なぜか別名が「天使が降りる町」。そこで「天使」にかかわる事件が起きたと聞いて、はるばる(というくらいでもないが)カナズミシティから、文字通り飛んで来たのだ。
といっても、事件を解決しようとしてではない。ようするにただのヤジウマ精神である。
「何よ」むっとする花月。でも事実じゃん。
「あっ、見えてきたよ。あの町だね」
フリーザーが花月に呼びかけた。花月は向き直り、公園に着地するように指示する。
公園には、すでに先客がいた。花月と同じくらいの年の少年だ。
「おー、やっときたか」
「玄児、お待たせー」
少年の名は原野玄児(はらの げんじ)。花月の友達で、マライカタウンには里帰りに来ている。
彼が、花月に「事件」のことを教えたのである。

>その少し後、マライカタウンの路上にて

「メール読んだんだけど、あれって本当のことなの?」
花月は、玄児に質問した。「あれ」とは、この町で起きているある「事件」のことである。
「もちろん。おとぎ話なんかじゃなくてな、現実に起きてるんだよ。ちょっと詳しくおさらいすっか」

「それ」が目撃されたのは、2週間前の夜だったそうだ。
子どもを寝かしつけていた母親が、ふと窓を見ると、外を人が通りすぎて行った。
しかし、その部屋は2階である。バルコニーもない。
さらに冷静になって思い出してみると、その人影には羽がはえていた。
しかも、夜の闇のように真っ黒な羽が。

「これが第一の目撃証言。それからもその『黒い羽の天使』は、1日の終わりには必ずその姿を見せる。
ただ…顔はまだわかっていない」
と玄児が事件のあらましを話したにもかかわらず、花月は
「ふーん」とあまり興味がなさそうに言った。当然玄児は納得が行くはずもない。
「何だよ!天使の話をしただけで目の色を変えて大騒ぎしたくせに!」
「だってもっと大きい事件かと思ったんだもん!ほんのうわさレベルじゃない!
て言うか『黒い羽の天使』って玄児が考えたの?すごくダサいよ」
「いや…町の人がみんなしてそう呼んでるからなぁ。で、今夜そいつの捕獲作戦が実行されるわけだが、お前は当然来な」
「ハァーイ!行きまぁ〜す!」
玄児の言葉が切れる前に、花月は大声で答えた。
「やっぱり興味があるんじゃねぇか!」
「そりゃあ、【天使】をこの目で見れるチャンスがある、と聞いたらねぇ」
「それ以前に他人の耳元で大声をだすなと――」
玄児の声が途中で途切れた。
「お帰り、玄児くん」
玄児の前には、郵便配達の少女が一人、立っていた。
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ポケ先輩 #2★2005.05/09(月)22:25
#2「うぐいす」

「…」
呼びかけられた玄児は、ただ固まっていた。そんな彼に少女は

  「お帰り、玄児くん」

と、同じセリフを、もう一度発した。
「…鶯…なんで…」
玄児は、まるで自分の見ているものが信じられないというような口調で、言った。
「玄児?この人誰?」
花月はよくわかっていないのか、いまだに目を見開いたままの玄児に向かって問いかけた。
その言葉で、鶯と呼ばれた少女は花月に気付いたようだ。花月に「あらっ」と声をかける。
「あなたの名前は?私は桜 鶯(さくら うぐいす)。」
そう言いながら少女は服についている名札を見せた。確かに、彼女の名前が書いてある。
「えっ!?あっ、わたしは雪野…かづ…き…」
突然名前を聞かれたことにとまどっている。というよりも、相手がよくわからなくて警戒している、と言ったほうが適切だろうか。
「かづきちゃんか。いい名前だね。じゃ、私配達があるから。郵便局で待ってるね」
少女はそういうと、モンスターボールを投げた。中から出てきたのは、カイリュー。
「アルテミス、いくよ」
そして鶯とカイリューは飛び去っていった。
「待ってるね」の言葉は自分ではなく玄児に向けられたのかな、と花月は思った。
その時、前から今さっき飛んでいったはずの少女が走ってきた。そして花月達に話し掛けた。
「ねぇ、さっきねえさんがここ通らなかった?あたしと同じ顔をしてるの」
花月は思わず、
「え、あなたたちって双子なの?」
と聞いた。
「『あなたたちって双子なの』。ふん」
その少女は、花月の言葉を反復する。
「まあよく言われるけどね。でも違うの」
と少女はつまらなさそうに言った。困惑する花月に玄児は「三つ子なんだよ」と耳打ちする。
「で?通ったの?」
「あ、はい。でも今しがた飛んでいってしまいました。」と花月。
「それより鶯に何か用事でもあるのか?」と玄児。なぜかタメ口だ。
「そうよコレ。お弁当忘れてんのよあのバカ姉。全くこっちの身にもなって欲しいわよ」
(バカ姉って…)と花月は思った。しかしそんなことは口にせず、こう言った。
「郵便局で待てばいいんじゃないですか?」
その花月の言葉に、玄児と謎の少女は顔を見合わせ、
「あー、その手があったか」
と声をそろえた。
(この二人はバカか…?)と花月はひそかに考えた。
「じゃあお兄ちゃんも呼ばなくちゃ」と少女が言ったとき、

「ここにいるけど?」とすぐ近くで声がした。

「うわぁ!」
全員ビックリして、体をのけそらせながら声のした方角を向いた。
鶯にかなり似た顔がそこにあった。彼が「お兄ちゃん」のようだった。
「はじめまして。鶯の弟、隼(はやぶさ)です。ほら、雁(かりがね)も挨拶」
「かりがねです…」
どうやら雁は、兄である隼には頭が上がらないらしい。
花月はもう一度自己紹介をすると、郵便局へ歩き出す一行についていった。
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ポケ先輩 #3★2005.04/30(土)11:26
#3「For Dear〜」

>10分後、郵便局の前にて

「着いたな。…まだ来てないみたいだ。どうする?」
玄児が皆に聞くと、まず花月が答えた。
「そーだねぇ。じゃ、みなさんポケモンも紹介しあいませんか?」
「それでいいかもね。姉さんも案外仕事が速いから。
 あっ、花月?別に敬語じゃなくていいからね」
「うん。タメ口で全然かまわないよ」
さっき出会ったばかりの二人にそう言われて、花月は少し赤面した。
「え、じゃあ、二人のことも、呼び捨てでいいの?」
「全然」
即答したのは隼だった。では、雁はというと。
「そぉねぇ〜。あたしのことは
『偉大なる桜雁同士』、または『絶対なる雁様』
って呼んでちょうだい。ていうか呼べ!」
まるでどこかの社長の息子か水ポケ使いのチャンピオンをほうふつとさせるような表情で、恥ずかしげもなく言った。
「こらこら、冗談はやめなよ」
兄はどこか申し訳ない顔で、雁をしかった。
「…いいじゃんちょっとぐらい」
なぜか雁は小さくなっていた。
「ごめんね。雁はちょっと自己中心的だから。僕も姉さんも大変なんだ」
「心中お察しするですたい…」
花月は妙な語尾で言った。

「さ、本題に戻るよ!ほら花月、あんたが言い出しっぺなんだからキョトンとするな!」
いつの間にか元の調子を取り戻した雁が叫んだ。
「あ、そうだったね。じゃあまずはわたしから。みんな、出ておいで!」
そういって花月は腰につけていたボールをすべて投げた。
出てきたのは、
ユキワラシ、ルナトーン、フシギバナ、フリーザー、ブラッキー、キレイハナの6匹であった。
「「え、フリーザー!?」」
隼と雁は驚いた。それが普通の反応というものだろう。
「俺はすでに知ってたけどな。だけど、メールで知らされたときは本当にびっくりしたよ」
「そりゃそうだろうね。そういえばキミのポケモン、カノープスだっけ?どう、大きくなったかい?」
「ええ。すっかり立派になりましたよ。ほら」
そう言うと玄児もモンスターボールを投げた。中から1匹のピジョットが姿を現した。
「おぉ…」
隼は笑みを浮かべたまま、満足げに息を漏らした。
「じゃあ、あたしの番だね。それっ!」
雁は手に一つずつ、合計2個のボールを投げた。
「これはワタッコに、…アゲハント…?」
なぜ花月は疑問符をつけたのか。その理由は、雁が出したポケモンの姿を見れば明らかだった。
ワタッコは普通の色である。しかしもう片方のポケモン、アゲハントは羽がやや白く、全体的にも花月が見たことのない色をしていた。要するに

「色違い、か。」

玄児がぽつりと言った。そういうことである。
「あれっ、隼はポケモンは?」
花月が問う。それに対し、隼は恥ずかしそうに言った。
「いやー。僕はポケモンバトルが苦手でね。せっかくゲットしたケムッソもうまく育てられなくて、雁にあげちゃった。」
「あたしとお兄ちゃんはいつも一緒だから、別に問題ないよ」
「でも色違いでしょ?結構運がいいってことじゃない!」
「それでもバトルができなくちゃね。僕にはポケモントレーナー、ってのは荷が重すぎたのさ」
でも…! と花月が言おうしたところを、雁が止めた。
「はいストップストップ!!その話はまた今度。で、あんたに質問があるんだけど」
「? なにかな」
「フリーザーはどうやってゲットしたのさ。それだってすごいことでしょ?」
「ええっと、その…、そんなにすごいって、わけじゃあ…」
「じゃあなんなんだ。話してくれないと解らんゾ?」
雁は語尾を上げて言った。
「それなら言うけど、笑わないでよ?」
花月はそう切り出すと、フリーザーと初めて出会ったときのことを話し始めた。
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ポケ先輩 #4★2005.05/02(月)21:35
#4「雪月花」

寒い洞窟を、少女が一人、歩いていた。
目指すものがどこにあるかはわからない。
しかし、この洞窟にいることは確かなのだ。
それだけは間違いない。だから、彼女は歩く。
ポケモンがとびだしてくる気配はなかった。
前もってスプレーをかけておいたからだ。
手持ちのポケモンは休ませておくべき。
彼女が、そう考えていたからだった。

ふたごじま。
それが、この洞窟のある島につけられた名前だ。
もともとは、二つのバラバラな島だったらしい。しかし火山の噴火の影響で、島はくっつき、一つになった、という話が伝えられている。
そして、この島にはあるウワサがあった。
伝説の鳥ポケモン、フリーザーが、この島の洞窟のどこかに、いる。そんなウワサだった。
実際に見た人間もいて、そのウワサは「事実」として世間に認知され始めていた。
花月もまた、それを聞いて、やってきた者の一人だった。



…どれほど歩いただろうか。
いまだにフリーザーは見つからなかった。
――ふぅ。少し休憩しよう。
花月はそう思い、重たそうな岩にもたれかかった。
「よっ、と」       ズルズルズルズズズ…
花月にはわからなかったが、岩が動いていた。
勘のいい方はお気付きだろうが、この岩は「かいりき」で動かせる岩だったのだ。
この場所では、ついさっきまで4,5人ほどのグループがたき火をして休んでいた。
そのたき火の熱で地面が解け、動かないはずの岩が動いてしまったのである。
そして花月は…

「きぃやゃあぁああぁぁああぁぁああぁぁ!?!?」
岩とともに奈落の底へ落ちていった。
花月は眼下に広がる水面を見つめ、自分が波乗りできるポケモンを持っていないことに気が付いた。
そして(わたし、死ぬのかな…)と思いながら、無意識のうちに指をモンスターボールにかけていた。

花月は凍てついた水の中に沈んだ。
水面に叩きつけられた衝撃で、ルナトーンがボールから飛び出る。
すぐに花月の危機を察すると、自分の主人を猛スピードで水上に引き上げる。
「大丈夫か花月!」
呼びかけると同時に、地面へと上がる。
少しの間気を失っていたが、花月は意識を取り戻した。
「…う〜…ん…」
「大丈夫か?骨折とかしてないか」
「寒い」
と、花月は一言だけいった。
「こんなに濡れちゃってるもんな。よし、ちょっと待ってろ」
次の瞬間、服はキレイにかわいていた。
「念力で服についていた水の分子を揺らして、温度を高めて蒸発させた。これでもう大丈夫だろう」
「?」花月は理解していないようだった。
???「つまり電子レンジと同じ事をしたんですよ。チーン、ってね」
ボールの中から声がした。
「それなら分かりやすいね、ブラッキー」
そう、今の声はブラッキーのものだった。

「いやー、すごいすごいスゴイ!あたしも長い間生きてるけど、そんなサイコキネシスの使い方なんて初めて!」
今度はボールの中からではなく、外からだった。といってもルナトーンじゃないし、花月でもない…じゃあ一体…

「あっ、フリーザー!!」
花月がすっとんきょうな声を上げた。今まで探していたポケモンが、すぐ目の前にいたのだから。
「あたしをゲットしに来たんだよね?」
「え、いや、あの、その、…」
確かに自分はフリーザーを探していた。でもここに着いたのはただの偶然である。
「ウソはだめよん」
フリーザーがハッパをかけた。
「あ、えっと…、はい、そうです」
思わず花月は敬語で言った。その言葉に、フリーザーは意外すぎる反応を示した。
「そーでしょお!じゃ、はい。ゲットしちゃって」
「 … … … … … は い っ ?」
花月は、いや、ルナトーンも含め他の手持ちポケモンもボールの中で、いっせいに目を白黒させた。
――今、なんて言ったコイツ??
花月たちは皆思った。
その胸中を知ってか知らずか、フリーザーは言葉を続けた。
「ずっと誰もこなくてタイクツだっだのよねぇー。だからいっそのこと、ゲットされちゃおっかなぁ、なんてね。」
「え、いや、それは…」
「あによ(何よと言うつもりだったらしい)、文句あるの?」
「…(対応に困っている)」
渡りに舟とはこのことだろうが、ふつうポケモンはバトルしてから、ゲットするものである。だからこそ、花月もずっと、手持ちを温存しておいたのだ。
「…」
「見たところロケット団じゃなさそうだし。もう痛いのは嫌なの」
それでも花月たちの決心はつかない。皆、押し黙っているばかりである。
「たとえモンスターボールでも、逃げやしないからさっ!」
その言葉で花月は腹をくくった。むしろ、なんか寒くなってきたので早く決着をつけようとした、と言うべきか。

カヅキは モンスターボールを なげた!

花月の投げたボールが、フリーザーに当たる。
フリーザーはまるで赤い影のようになり、ボールの中へ飲み込まれた。
地面に落ちたボールは何度か揺れると、静かにその動きを止めた。
「これでゲット…、…だよね…。達成感、なさすぎ…」
花月はため息をついた。
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ポケ先輩 #5☆2005.05/03(火)19:10
#5「ESCAPE TO THE SKY★彡」

「…で、帰りはフリーザーに船まで運んでもらったの」
花月の話が終わった。
隼「へぇ…。君って、クスノキかんちょうさんの娘なんだ」
「感心したと思ったらそっち!?」(バシィツ!)
雁は思わずツッコんだ。そう、実は、花月の父親はクスノキかんちょうだったのである。
「まあ、そうじゃなきゃわたしがふたごじままでどうやって行ったんだ、って話しだし」
「でもさ…、フリーザーをゲットできたのはあんたの腕がどうのこうのと言うよりも…」
「ただ運が良かっただけ、ってことになるのかな」
隼は平然と言った。この人、花月が傷付くかもとか思わないんだろうか。
しかし当の花月は何ら気にしていない様子だ。と、そんな花月の頭を誰かがバシバシと叩いていた。
「ちょっと花月ィ!その話はするなって言ったジャン!あたしのイメージが低下するから、って!」
フリーザーだった。
「イタタタタ…いいじゃんか別に。てかそういう話しかたしてる時点で既に低下してるって」
「えぇーっ、そんなこと無いよぅ」
そんなやり取りを花月とフリーザーがしているうちに、ふと雁が何かに気付いた。
「あっ、あたしのポケモンのニックネーム言うの忘れた!このままじゃ花月にだけじゃなく読者の皆さんにまでただの『ワタッコ』と『アゲハント』で記憶されちゃう!」
さりげなく失礼っぽいことを言いながら雁は2匹の元へ駆けて行き、こう言った。
「ではあらためて。
こっちがワタッコの「アポロン」(♂)。
で、こっちのアゲハントは「デメテル」(♀)よ。」
「「よろしくおねがいします」」
2匹は礼儀正しくあいさつをした。つられて花月も「よろしくおねがいします」と頭を下げながら言った。

と、その時。いままで背景と一体化していたと言ってもいい玄児が、花月たちに呼びかけた。
「おーい。そこジャマだって」
見れば玄児のとなりに、眠そうな顔をした15歳くらいの男が立っていた。
「郵便局に寄りたいんで。早く帰って寝たいんだけどな」
隼「おっと失礼。ほら、みんなどいてあげて」
雁「あっ、姉さんならいないわよ?」
雁の言葉に男はビクッ! と反応した。しかし体の向きは変えずに
「じゃあ中で寝てる。」
と言い、郵便局へと入っていった。雁はその背中に
「せいぜい追い出されないようにしなー!」
と呼びかけた。男は聞いていなかったのか、そのままドアの中へ姿を消した。
「相変わらず姉さんは人気ね」
花月は「相変わらず」という言葉に違和感を覚えた。
「え、てことは鶯は人気者なの?」
「あー、それは姉さんが来てから言った方が…」
その時、バサバサと羽音が聞こえた。
「姉さんだわ」雁が言った。
見れば鶯が、カイリューに乗っていて、すでに着陸していた。
(名前は確か…「アルテミス」、だったっけ。)花月は思った。
アルテミスは映画「ミュウツーの逆襲」の初めにでてきたカイリューのような格好だった。
「ご苦労様」
鶯はアルテミスから降りてそう呼びかけた後、彼女をボールにしまった。
「あれ、隼にかづきちゃんまで…。みんなどうしたの?」
鶯はあたりを見回して言った。
「そうそう、これよこれ!ほら、お弁当」
「あ、忘れてたのね。ありがとうわざわざ」
「その言い方だと忘れてたことにも気付いてなかったのね…あたしの身にもなってよホント」
「ごめんね、アホな姉さんで」
「全くだわ」
そういう雁の様子は、どこか嬉しそうだった。
「あっ」と隼が自分の姉に呼びかける。
「姉さんのファンがまた来てたみたいだよ。中で寝てるって」
「OK。もう配達は無くて暇だから」
「あっ、あの」花月は会話に割り込んだ。
「何?私と玄児くんの関係ならあとでね。それとも…」
「なにかお姉さんはすごい事したんですか?ずい分人気みたいだから」
「弟達から聞いたの?」
「はい」
「どこまで?」
「いや、そんな詳しくは…」
「そう。あ、敬語は使わなくていいわよ。
そうねぇ…。じゃあ、とりあえずコレを見てくれる?」
そう言うと、鶯はカバンから何かを取り出した。――それは一体なんなのか!?
次回「HARMONY」に続くらしい(何)
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ポケ先輩 #6☆2005.05/08(日)19:39
#6「HARMONY」

鶯が取り出したのは、ポケモンコーディネーターならだれでも持っているもの――

   リボンケースだった。

「…でも金色だよ…?」
花月のその言葉を聞いた鶯は、ケースのふたを開けた。
そして、ふたの裏側を花月に見せた。そこには、とてもカラフルで大きなバッジがはめてあった。
「このバッジは…?」
「これはね、グランドフェスティバルで5年連続優勝したコーディネーターにのみ授与されるバッジなの。このバッジを手にするということは、名実ともに自分がトップコーディネーターの一人であるということの証なのよ」
「でもポケモンを持てるのは、10歳になってからじゃ…」
「ええ。だけど、私は10歳の時にグランドフェスティバルへ出場して、それから今年までずっと優勝して続けてきたのよ。来年のグランドフェスティバルももうすぐだけど、今回はちょっとお休みするつもり」
花月は、幼い頃に見たグランドフェスティバルの様子を思いだしていた。

両親が連れて行ってくれたその会場で、花月はポケモンコーディネーターという、自分が今までに知らなかった存在を知った。
(なんてキレイなんだろう…この人たちもポケモントレーナーといっしょで、ポケモンを信頼してるんだ)
子供心に、そう感じたことを思い出す。
その会場に集ったコーディネーターは、年代も性別も服装さえもバラバラだった。
つまり目の前の少女は、5年もの間あの会場で、色々な人と戦い、そして勝ちつづけてきたということになる。

「私のことを称して『人類最強のコーディネーター』と言った人もいるのよ。うふふ…、私がそんなにすごい人間に見えたのかしら?」
その人は別に間違っていないと花月は思った。
――この人は、強い。
そう確信した。しかし、心のどこかで、それを認めたくない自分があった。
「あの、鶯以外に、そのバッジをもらった人は…?」
「うーん…過去に2度くらいいたらしいわ。ただ、その人たちの名前はわからないけど。
近年に入ってからはいなかったらしいわね」
やっぱりこの人はすごいんだ。
花月は納得した。
「じゃあさっきの人は…」
「多分お姉ちゃんを一目見たいがために、ここまで来たのよ」
雁がこたえた。きっとそうだ。鶯には、ファンクラブだってあるに違いない。
しかもその会員数は、軽く1000人を超えているのだろう。その中の一人がこんな田舎の郵便局にやってきたって、不思議でもなんでもない。
「じゃあ、中に入るとしますか」
隼の呼びかけに皆が動いた。花月がポケモンをしまおうとすると、雁が呼び止めた。
「花月はニックネームはつけてないの?」
「うん。そのままがいいんだもん」
「なるほどねぇ…」
どうやら雁はその一言で納得したようだった。

>郵便局の中にて

「ただいまー。配達終わりました」
鶯の声に、カウンターの中にいた人物が反応した。
「おかえり。ところでさ、あんたの友人かい?」
気持ちよさそうに寝ている、さっき来た男を顔で示しながら、メガネをかけた女性は鶯に言った。
「多分そうですね。私は聞いてないからなんとも言えませんが」
「ところでこの人は?」との花月の問いかけに、その女性が答えた。
「私のことか。私の名は芝田 由梨佳(しばた ゆりか)。この郵便局の局長をやっている」
ややきつめの口調だった。目も鋭くて、髪の毛は金髪で三つ編み。
ちょっと近寄りにくい人だな、と花月は思った。
(でもホントは優しいんだよ)
と雁が花月に耳打ちした。
「わたしは雪野花月です」
「あら、そういう字だったんだ」
鶯はのんきにそう言った。

「とりあえず、その人を起こそうよ」
と花月が言うと、
「もう起きてるよ」とその男がこたえた。
「君、私に用があるの?」
そう言ったのは鶯だった。とたんに、男は態度を豹変させた。
「うっ、鶯さんっ!俺は山城 東(やましろ あずま)といいます!あ、あのっ、サイン…この手帳にサインしてもらえませんかっ!?」
男は…いや、東と呼ぼう。
東はサインペンと手帳を鶯に差し出した。彼は、鶯に相当な想いがあるようだった。
鶯はもう慣れっこだと言うみたいに、サラサラとサインを書いていた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとおございますっ!それであのー、すみませんが、俺のポケモンをちょっと見てもらえませんか?」
「えっとぉ、局長ー、いいですかー?」
「構わんよ。書類は私に任せろ。むしろ君には仕事して欲しくない」
「よくわかりませんがありがとうございますー。じゃ、ついてきて」
鶯と東は外へ向かった。
「『見てくれ』ってことは、その中にバトルも含まれてるわね」
雁がそう言っていたが、花月はむしろ局長の言葉に不自然さを感じていた。
「あのー、局長さん?」
「芝田でいい」
「じゃ芝田さん、一つ質問します。なんでさっき『仕事して欲しくない』なんて言ったんですか?」
その質問に対する芝田の答えは――次回に続くッ!
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ポケ先輩 #7☆2005.05/15(日)17:55
#7「Back to the Dance Floor」

「なんでさっき『仕事して欲しくない』なんて言ったんですか?」
そう花月が問うと、芝田は静かに口を開いた。
「鶯が超一流のコーディネーターであることは知っているだろう」
「はい。本人から聞きました」
「そして鶯のポケモンはカイリュー。あの娘が手伝うから配達も速い」
似たようなことを雁が言っていたな、と花月は思った。
「しかしだな…」
そう言うと芝田は一拍置いてから、また話し始めた。
「アイツは、デスクワークだけは全然出来ないんだ。コピーするはずの書類をシュレッダーにかけてしまったことが何度もあった。
よく転ぶからお茶をいれることも出来ない。書類を巻き添えにされてはかなわんからな。
分かりやすく言うと、

アイツはとんでもないドジっ娘なんだよ」
「ええー〜っ!?」
花月は驚愕(きょうがく)した。無理もない。
人類最強のコーディネーターが、事務だけはからっきしだって?
「こら、声が大きいぞ。妹達には一応秘密なんだから」
「す…、すみません…」
外では鶯が、東のポケモンを見て何か言っている。
東の手持ちはジグザグマ、テッカニン、クチートのようだ。
――今クチートについて話しているみたいだから、バトルはもうすぐね。
花月は思った。
「そんなわけで事務は私たちがしているんだ。各地の郵便局を転々としてきたとアイツは言っていたが、
それは働きながらコンテストに出るため、だけの理由ではないだろうな」
その言葉に、花月は深く納得した。
それでもこの仕事を続けているのだから、鶯は郵便屋さんが本当に好きなんだ。
その意味でも、彼女はスゴイんだ。そう花月は思った。
「あっ、バトルするみたいよ」
雁が花月に呼びかけた。
「私の話は以上だ。見てきな」
「はい。ありがとうございました」
「あれが、人類最強だ」

>郵便局の前にて

「最初は誰からかしら?」
鶯が、東に言った。
「まずは様子見で。ダルマ、頼むぜ」
「アイアイサ〜!」
ダルマと呼ばれたジグザグマ(♂)が、一歩前に出た。
残りのポケモンは、東の近くのベンチに座っている。そこから、ダルマは出てきたのだ。
「忙しくてごめんね。アルテミス、頼むわ」
鶯が投げたボールから飛び出したカイリューは、郵便帽とカバンを脱ぐと、隼に渡した。
「オッケー。しまってくるよ」
そう言って隼は、郵便局の中へ去っていった。
雁「じゃああたしが審判ね。
ダルマVSアルテミス、始めっ!」

「ダルマ、あまえる!」
先に指示したのは東だった。
ダルマのしぐさに、アルテミスの闘志が削がれる。
「よーしいいぞ!次はメロメロだ」
ダルマが潤んだ瞳でアルテミスを見つめると、アルテミスはすっかりダルマのとりこになってしまった。
鶯「メロメロとはやるじゃない」
東「言ったはずですよ。ただのジグザグマと思って油断するな、って」
鶯「うふふ…、このぐらいでなくちゃ面白味がないわ。
  アルテミス、りゅうのまい」
東「なるほど…攻撃力を元に戻す気ですね?そしてついでに素早さも、と。
  では攻撃に移りますか!ダルマ、れいとうビーム!」
アルテミスが舞い終わったところへ、ダルマのれいとうビームが直撃!
ジグザグマが放ったとはいえ、カイリューの弱点をついているが…?
「この程度じゃへこたれないわよね?アルテミス?」
アルテミス「大丈夫です。次の指示を」
「うふ…アルテミス、ドラゴンクロー!」
こちらも大技だ。
アルテミスのツメが光り、ダルマに襲い掛かる!
…はずだった。
しかしメロメロでアルテミスは技を出せず、東に攻撃のチャンスを渡してしまう。
東「ダルマ、でんじはだッ!」
アルテミスはマヒになり、さらに技を出しづらくなってしまった。
「ジグザグマであそこまで出来るとはね…こりゃ難しいね…」
いつの間にか戻ってきた隼が、そうつぶやいた。
「あら、お兄ちゃんは本気でそう思ってるの?」
審判をしているはずの雁が、隼に言った。
「まぁ、勝負は最後までわからないけどね」
さて、鶯とアルテミスはどうするのか?ダルマはまだ無傷だぞ!?
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ポケ先輩 #8★2005.05/22(日)17:34
#8「MY」

少しとはいえダメージを食らい、さらに状態異常はメロメロとまひの重ねがけという事態におちいった鶯のポケモン、アルテミス。
対する東のポケモン、ダルマは未だに攻撃を受けていない。
しかし、やはり勝負の行方は最初から明白だった。

「アルテミス、もう一度ドラゴンクロー!」
今度は外れなかった。
「いてててて…もう…ダメぇ〜」(←ダルマ)
「ダルマ戦闘不能!東さんは、次のポケモンを出して!」
鶯は無反応だった。まるで、こうなる事は当然だ、とでも言うように。

「ダルマ…よくやったよお前は。ゆっくり休めよ」
「ふがいなくてごめんなさ〜い」
そう言いながらダルマは、その姿をボールの中へと消した。
「さて。次は誰かしら?」
「よし、テッカ!お前の力、見せてやれ」
「よっしゃあ!俺はダルマのようにはいかないぜ!」
テッカとは、テッカニン(♂)のニックネームのようだった。
(アルテミスは今まひ状態だから、特性が「かそく」なテッカニンには素早さで負けちゃうね…どうするんだろう鶯は…)
花月は、心の中でつぶやいた。
「テッカVSアルテミス、始めっ!」

「テッカ!かげぶんしん!」
またしても先手は東だった。あっという間に、無数のテッカニンが1匹のカイリューの周りを囲む。
しかし鶯は怯えることなく、むしろ顔には笑みさえ浮かんでいた。
「アルテミス。もう指示しなくても解るわよね?」
「当然です。」
その直後に、アルテミスの技が発動した。
アルテミスの体を中心として、大きなつむじ風のようなものが出来ていた。
その風に、テッカの分身たちはいっぺんに巻き込まれる!
東「『たつまき』か!やべぇ…」
竜巻に巻き込まれたテッカを、更なる攻撃が襲う!
テッカ「なッ…これは…『かみなり』ッ!!??」
竜巻を作ったアルテミスはその後すぐに、竜巻の中に「かみなり」を打ち込んでいたのだ。
いくら素早いテッカニンとはいえ、竜巻の中では身動きは取れない。
自分の弱点とはいえ、アルテミスの二段構えの攻撃を、甘んじて受けるしかなかった。

竜巻が止み、上空からテッカの体がふわりと落ちてきた。
東がそれを受け止める。
「テッカ…!」
「な…何だって…なんでマヒってんのにあんなに速い攻撃ができるんだよぉ…」
「テッカ…しゃべるな…!」
「なぁ東…俺が思うにあいつ、ダルマん時は絶対…手加減…して…た…ぜ…」
「だからしゃべるなって…!」
そう言って東はテッカをボールへとしまった。
「テッカ戦闘不能!以下同文!」
「賞状授与じゃないんだから略すなよ…」
玄児がツッコミを入れた。

「ってことはアタシか。アタシの出番か。見学とシャレ込もうと思ってたけど、そうは問屋が卸さない、か」
「サクラ、行ってこい」
「アタシにはそれだけなの?」
サクラと呼ばれたクチート(♀)は、頬をふくらませた。
「わかったよ…。あとで生クリームたっぷりのケーキを買ってやるから…」
「ホントに!?やったあー!ワンホールだよ?苺が乗っかってんのだよ?わかる?わかってる!?わかってるよね!?」
「わかってるわかってる。いいからバトルだ、ほれっ」
どうもこのクチートだけ、主従関係が2匹とは逆のようであった。
「あーめんどくさい。金だって…」「何か言った?」「いや、何も」「あっ、そう。」
この会話からもそれがうかがえる。
「さーて、ココはアタシがビシッ! と決めなくちゃね」

「鶯ってやっぱりすごいんだ…」
さっきのコンボの余韻がまだ抜けていないのか、花月はそう口にしていた。
歩き始めたサクラがそれを聞いて、怒りの表情で花月にさけんだ。
「ちょっとアンタァ!アタシには目を向けてない訳!?ふん!でもいいわ!この瞬間からはアタシが主役よ!アタシの華麗なるバトルに、きっとアンタも酔いしれるわ!いいわね!わかった!?」
そしてすたすたとアルテミスの前へ、サクラは歩いていった。
隼「キャラが強烈だね、あの子…」
花月「ふぅー。びっくりしたぁ。」


「サクラVSアルテミス、始めっ!!」
この勝負、ひと波乱あるかも…?
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ポケ先輩 #9★2005.05/23(月)20:39
#9「花の唄」(今回は東の視点からお送りします)

「サクラ、まずはかげぶんしんだ!」
サクラの残像が広がるが、今度は相手を囲んだりはしなかった。ただ純粋に、相手を翻弄するためだ。
また竜巻に飲み込まれてはいけない。
「アルテミス、分身にかえんほうしゃ!」
…鶯さんは速攻で勝負をつける気だ。
しかし麻痺しているせいで、少しカイリューの反応が遅れた。
そのタイムラグが、俺の狙いだった。
一瞬の隙を突いて、サクラが分身から飛び出、アルテミスに接近する!
「サクラ、かみくだく!」
相手は反撃しようとしたが、既にサクラの射程距離の中、それは無駄だった。
「――…――…ッ!」
急所に当たったのか、アルテミスはかなり痛がっている。
俺はそのタイミングを逃さず、さらに攻撃を指示する。

「サクラ、れいとうパンチだ!」
サクラは冷気をまとった拳を、アルテミスに3回もぶつけた。こう叫びながら。

「これは一撃も当てられなかったテッカの分っ!!()
 これは作者の嘆きと悲しみ!()

 そしてこれは、アタシの怒りよぉぉおおっっ!」()
(擬音は筆者の表現力がないので消しました。あしからず。)

何か欠けているような感じがするが、こんな状況だったはずである。
その後には、倒れているカイリューと、肩で息をしているクチートが残された。
「勝った…勝ったんだ、アタシ…」
サクラはそう言った。明らかに油断していた。俺も油断していた。
だからアルテミスが身体を起こしそして飛び上がるまで、何の指示も出来なかった。


気が付くとサクラは、遥か上空から降下した[ソレ]の攻撃をモロに受けていた。
「そらをとぶ、かよ…相性は悪いはずなのに…」
俺はぽつりと呟いた。
この瞬間に、俺の負けという結果で、勝負は終了した。
敗因は、力の明らかなる差と、俺の油断だった。
最後にサクラにぶつかったのが、アルテミスであったかさえも識別できていなかったのだ。
これでは負けても仕方がないだろう。
…ポケセンに行こう。
眠くなってきた。
ジョーイさんが仲間たちを回復している間に、俺は昼寝をしよう。

そう思いにふけっていると、鶯さんが俺に声を掛けてきた。
「東くん?」
「…ええ、そうですが」
声にイマイチ元気がない。もしこれが応援団の練習なら、俺はコンマ5秒でゲンコツをくらっているところだ。
「いい勝負だったわ」
鶯さんはそう言うと、手を差し出してきた。
お世辞だと分かってはいたが、俺はありがとうございますと応じ、鶯さんと握手した。


その時の俺は、ポケモンセンターで再びあの少女に出会う事や、その部屋で「天使」を目撃してしまう事なんて、ちっとも予想していなかった。


――そして視点は花月たちを見る「神」のもとへ戻る――
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ポケ先輩 #10★2005.05/28(土)21:45
#10「I really love you so」

鶯とのバトルが終わり、東はポケモンセンターへと去って行った。
「うーん。お腹すいちゃったねー」
花月がそう言うと、雁は待ってましたといわんばかりに口を開いた。
「じゃあ、あたしが知ってるおいしいお店の地図を書いてあげる。個人でやってる喫茶店なんだけど、コーヒーだけじゃなく料理もウマいのよ」
「ありがとー。でも雁たちはどうするの?」
「家に帰るよ」
と隼がこたえた。
雁は地図を書き上げると、花月に渡した。
「んじゃまたねぇ〜(雁)」「バイバイ(隼)」
「ばいばーい!」
花月は元気よく叫んだ。

渡された地図は、とても丁寧で、わかりやすかった。
花月と玄児は、その地図通りに進んだ。
そして5分後。
彼らはその店に着いた。
看板には、こう書いてあった。

    「CAFE SALT&SUGAR」

「ここだな」
玄児が言った。
外装は、まあ普通の喫茶店である。とりたて不自然な様子はない。
(ぐぅ〜)
二人は自分の腹の音を聞き、脱兎の如く喫茶店のドアの中へと入っていった。

カラン、コロン。
「いらっしゃいませー!」
一見して私服だとわかる服装の上にエプロンを着けた、まだ幼い少女が、花月たちを出迎えた。
「お好きなお席へお座りください!」
少女の元気な声が、花月と玄児以外に客がまだ数人いる店内へと響く。
うろたえる花月を尻目に、玄児はカウンターの中にいる、15歳くらいの少女に声をかけた。
「赤草さん、あの子、誰?」
赤草と呼ばれた少女は、え? と言った後、玄児の顔をじっと見つめ、そしてようやく質問の答えを口にした。
「あっ、クロナのことか。店の手伝いだよ。留守番させられないからなぁ、って言ったらさ、『じゃあ私も手伝いますっ!』ってさぁ」
「ちょっと待って下さいよ。留守番、ってことはあの子、赤草さんといっしょに住んでるわけ?いつ妹が出来」
「違う違う。あっ、そっか。玄児さんにはまだ話してなかったね。
  …拾ったのよ、あの子。いや、厳密に言えば違うんだけど…」
「あー、その話は後で後で!今はお腹がすいちゃってるからさ。うーん。…ちょっと赤草さんのお目こぼしでさー…、なんとかならない?」
「んもー。仕方ないなあ。ま、玄児さんには毎年秋にはお世話になってますから。でもあたしの身にもなってよねー?」
「はいはいわかってますって。花月、ただでいいそうだぞ」
「やったー。玄児ありがとー」
「あれ、その子は?」
「あっ、わたし?わたしは、雪野花月」
「ふーん。あたしは赤草 友里(あかぐさ ゆり)。一応トレーナーだよ。かづきさん、って呼んでいい?」
「別にいいですけど…」
「花月、ほら、何にするんだ」
玄児は、花月にメニューを渡した。
「えっと、わたしは…」


運ばれてきた料理はどれも平均的なものであったが、味は美味しかった。
そして、食事を終えたのを見計らってか、さっきの少女がやってきた。
「やっほ〜。玄児さんにかづきさん。料理には満足いただけましたでしょうか?」
「うん!美味しかったですよ!ごちそうさまでした!」
目を輝かせて花月が言った。
「大丈夫でした?」
玄児は料理の感想ではなく、店長との交渉が成立したかを聞いた。
「あーOKOK。お金は結構ですってさ。やっぱりやさしいもんね、佐藤さんは」
「佐藤さん?」
花月と玄児は目を白黒させた。
「あ、このお店、店長さんの名前にヒッカケてるの。佐藤俊夫さん。
 佐藤俊夫→さとうとしお→砂糖と塩 ってわけ」
「なんだそれ…センスねぇな…
ってそんなことはいい。クロナちゃん、だっけ?あの子を拾ったとか赤草さん、言ってたよね。それって、どういう意味?」
「あー。そんなこと言ってたっけ?うーんと、前の月の終わりごろだったかな〜。
その日は土砂降りの雨でね…あたしの家の前であの子、びしょぬれだった。
よくわかんない事をつぶやいてた気がするなぁ…思い出せないんだけどね。
で、あたしがお風呂に入れてあげて…って細かいのはどうでもいいよね。
そんなことがあって、あたしとクロナは一緒に住んでるの」
「クロナって、あの子の名前?」
「らしい…、ね…。見たことない子だし、記憶も失っちゃってるみたいだから確かではないんだけど…」
「記憶喪失!?じゃあ警察には知らせたんですか?」
「うん…。でも届け出はないみたい…。だからあの子が誰か、ってのはわかんないんだ…」
外では、雪が降り始めていた。
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ポケ先輩 #11★2005.06/18(土)21:53
玄児さんのアルバイトって何だかわかります?
彼が風を自由に操れる、「風使い」であることは前にお話しましたよね。
玄児さんはその力を使って、落ち葉の掃除をするお仕事をしているんです。
秋になると依頼を受けて各地を飛び回ってるんだそうです。偉いですよねぇ。
今度、彼の写真を送りますね。今年の秋が、待ち遠しいなぁ。
                          (赤草友里の手紙より)


#11「SNOW」

>10分後、喫茶店の前にて

「お待たせ〜!!」
そう言いながら友里が店から出てきた。待っていた花月と玄児は、笑顔で彼女を迎えた。
友里はついさっき、仕事を終えたところだった。
「今しがた花月と話したんだけどさ、俺と赤草さんがチームを組んで、花月と4vs4のダブルバトルをする、ってのでどうかな?」
「あたしの手持ちが3匹で、玄児さんは1匹だもんね。
 うん。それでいいよ。」
「あれ?さっきの女の子は?」
そう花月が聞くと、友里は笑顔で
「あっ、クロナは中だよ。ほら」
と店を指した。ガラス窓から、クロナがコーヒーカップを持ってこっちを見ている。

「よーし花月。出すポケモンを決めてくれよ」
「この雪じゃあフシギバナは辛そうだから…
 よしっ!決ーめたっ!」
花月は、ユキワラシ、フリーザー、ブラッキー、キレイハナを出すことにした。

「いちおうここは往来だ。あまり暴れさせんなよ」
「わかってるって(花月)」
「俺はカノープスしか持ってないからな。やられたら即退場ってことだ。
 ま、最後まで残ってるだろうけどね」
「玄児さん、あたしを見くびってない?」
自信あり気な表情で、友里は言った。
「悪いけど最初から飛ばして行くよ。ラプラ、よろしく」
友里が投げたボールからは、ラプラスが飛び出した。
「んじゃ俺も。カノープス、任せたぜ」
玄児も、ピジョットを出した。
―ピジョットとラプラス…でんきが弱点で共通だけど、でんき技だれも持ってないし…
キレイハナでラプラスの弱点は突けるけど、圧倒的に不利だし…
「うーん。じゃあこれで行くしかないか。

 お願ぁーいっ!ユキワラシ、ブラッキー!」

2匹がボールから飛び出す。
「よっしゃあーっ!やっと僕にしゃべれるチャンスが!」
「僕はすでに話してますけどね。まあいいか。
 あ、一応言っておきますけど♀ですからこの子は」
ブラッキーはユキワラシを指差し言った。

「はじめまして、かな。僕はラプラです。」
「むぅ…。余はカノープスじゃ。」
「ちなみに僕も、♂とみせかけて♀だったりします」
「ふむ」

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

一方その頃。マライカタウンではないどこか。
青柳 遊離(あおやなぎ ゆうり)は、自宅に届けられたある一通の手紙を見て、
「…はぁ」
とため息を吐いた。
「てかなんで私なの…年末ぐらいは好きにさせてって言ったのに…」
手紙をにらみながら、部屋の中をぐるぐると歩く。
「ゆうり…どないしたん?」
エイパム(♀)が隣りの部屋からひょいと顔を出し、遊離に声をかけた。
「あっ…ぽりん。いや、この手紙にさ、またゆうりへの仕事が書いてあったの。
 しかも緊急だってさ」
自分のことを「ゆうり」と呼ぶ少女は、あきれたように言った。
「ふーん。でも、詳細が書いてへん以上、いかんでもええのんちゃう?」
「ちょっ、ちょっと勝手に見ないでよ!」
いつの間にか遊離の肩ごしに手紙を覗いたぽりん。
見えたのはほんの一言。

   「マライカタウンへGO!」
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ポケ先輩 #12★2005.07/23(土)10:13
#12「FUNKY MODELLING」

このような展開ならば、普通ではバトルがはじまるところである。
しかし、そうはならなかった。

「誰かぁーッ! 万引きだー! 捕まえてくれー!」

花月は声のした方角、つまり後ろに振り向いた。
すると少し遠くから、若者の二人組が駆けてくるのが見えた。
手には何かを持っているようだ。この二人が万引きをしたのだろう。
後ろからは店主とおぼしき中年の男性が追いかけているが、追いつけなさそうである。

「あたしにまかせて。ラプラ、リーフ、ライライ、走ってくる2人組にサンダースティングよ!」

不意に、ボールを用意しながら友里がさけんだ。
(サンダースティング?何それ?そんなポケモンのわざってあったかな?)
と花月は思った。
友里が投げたボールからは、ライチュウとフシギソウが出てきた。

すると、ラプラがしろいきりを使い、友里たちの前に霧のカーテンを作った。
向こう側はすっかり見えなくなってしまった。
いつのまにか花月を追い越していた二人組も、霧に驚いて足を止めてしまった。
そして時間を置かずして、霧の中から2つの何かが飛び出した!
かたやソフトボールほどの大きさ、かたや高さ80センチほどのポケモンぐらいの大きさの2つの物体が、電気をまとって若者二人に襲い掛かる!

「「ぐあぁぁーッ!!」」
あわれな若者たち一人ずつに、謎の物体は直撃した。
やがて物体にかけられていた電流が弱まると、二つの物体の正体が明らかになった。
片方は、さっき友里がボールから出したライチュウ。
そしてなんともう片方は、はっぱカッターをいくつもまとめたものであった。

店主がようやく追いついた。
「ありがとうよ。って、友里ちゃんのライライじゃないか」
「えへへへ…ひょっとして、商品焦がしちゃった?」
「みたいだな。ベストセラーがすっかりウェルダンだ」
「あちゃー。御免ね〜」
「別にいいよ。君のおかげで、こいつらを捕まえられたんだから」
「アタシだけじゃないよ。リーフとラプラも。」
「そうか。本当にありがとうね。
 さ、来るんだ。家と警察と、場合によっちゃあ学校に連絡するからな」
店主は二人組を連れて去って行った。


「今のわざ…一体何だったの?ブラッキーはわかる?」
「うーん。出されたヒントだけで言える範囲までですが、
 まず霧で相手の視界から自分たちをさえぎり、次に霧の裏でフシギソウがはっぱカッターを発動。
 このとき、はっぱカッターはいくつもまとめてひと固まりにして、そしてその固まりにライチュウがでんじはをかける。はっぱカッターは事前に霧の外へと狙いを定めてたようですね。
 そしてライチュウ自身も、ボルテッカーで霧から飛び出す。こんなとこでしょうか」
「あら…正解だわ。そこまでわかるだなんて、すこいじゃん」
「いや…それほどでもないですよ」
「くすくす…謙遜しちゃって。自己紹介がまだかしらね。
 アタシはライライ。あっちのフシギソウがリーフよ
 今のわざは、アタシたち3匹が力を合わせて使うわざ。ルールに必ずしも従わない人だっているからね。
 だから、あれは護身術なのよ。バトルには適さないわ。
 ところで、あなたには何かニックネームはついてるの?」
「僕らにはついていないんです」
「あら。そうなの?まあいいわ
 リーフ、アタシたちはボールに戻りましょう」
「うん。わかった」
二匹は、ボールへと戻っていった。

「さあ、バトルを再開するわよ。」
友里が花月たちに呼びかけた。

「ブラッキー、ラプラにでんこうせっか!
 ユキワラシはこごえるかぜ!」
「ふん。カノープス!かぜおこしではね返すんだ!」
「ラプラ、ブラッキーにみずのはどうよ!」
「ふっ…無駄です!」
ブラッキーめがけてラプラが「みずのはどう」を放つも、ブラッキーは軽々とかわした。
そして、命中。
「…っつ…、結構痛いね…」
ラプラは表情を苦めた。
「でもこの程度じゃラプラは終わらないよ」
「それぐらい、わたしだってわかってるわ」
花月は友里を睨んだ。
友里もまた、花月を睨みつける。
二人の視線がぶつかりあい、そして不意に途切れる。
「ラプラ、れいとうビーム!」
「ブラッキー、サイコキネシスで弾いて!」
二匹の技が衝突する。
その間、ユキワラシには隙が出来ていた。

「カノープス、『はがねのつばさ』だ!」
玄児が突然に叫んだ。
その時、カノープスはユキワラシのすぐ側に位置していた!
「ユキワラシっ、れいとうビーム!」
花月はカノープスを迎撃しようとするも、一足遅かった。

「いたた…ごめんね花月ィ、僕もう無理だぁ…」
「…ユキワラシ…っ!」
ブラッキーとラプラの激突は、ブラッキーが「れいとうビーム」を完全に弾き返すという結果で終わっていた。
花月はブラッキーの無事を確認すると、ユキワラシをボールへと戻した。
「ユキワラシ、よく頑張ったわ。ゆっくり休んでね」


「キレイハナ、頼むよ!」
次に花月は、キレイハナを出した。
「オーホッホッホッホッホ!!ようやく私の出番ですわね。
 お二人方とも、覚悟なさいませー!!」
仲間がやられたっていうのに、ずい分と余裕だなぁ君は。

キレイハナが現れて、友里とラプラは緊張した。
友里は玄児に目配せをすると、すぐにラプラに指示をした。
「ラプラ!キレイハナへ、れいとうビーム!」
キレイハナへの攻撃!――しかし、キレイハナはそれをひらりとかわした。
だが、そこへ…
「カノープス、『つばさでうつ』だ!」
「キレイハナ、しびれごな!ブラッキーはサイコキネシス!」
ブラッキーの「サイコキネシス」によってカノープスの動きが止まる。
そのためカノープスは、キレイハナが放った「しびれごな」でまひになってしまった。
「くっ…、なかなかやるではないか」
カノープスはそう呟き、玄児のもとへ身を戻した。
花月は狙いをラプラに定め、キレイハナとブラッキーにこう言った。
「いい?キレイハナはラプラに集中して。ブラッキーはキレイハナへの攻撃をカバーするのよ。OK?」
「わかりました」「了解ですわ」
2匹はそれぞれ頷くと、ラプラへと向かっていた。

「カノープス、かぜおこし!」
ブラッキーはとっさに念力で防御壁を作り、キレイハナをかばった。
「ラプラ、ふぶき!」
「ふぶき」のパワーに、防御壁も破けそうになる。
「ブラッキー!何とか耐え続けて!」
ブラッキーは歯を食いしばって耐えていた。
そんなブラッキーをちらりと見て、キレイハナは駆け出した。
「この壁があとどれくらい持つかですね…」
キレイハナとラプラの距離は徐々に縮まっていく…10m、9m、8m、7、6、5、4、3、2、1、そして。
「喰らいやがれですわ!
 ゼロ距離からの、『マジカルリーフ』っ!!」
しかもそれは、連発だった。
さすがにこの攻撃には耐え切れず、ラプラは倒れてしまった。
「ラプラ…おつかれ…。」
友里は落ち込んでいた。自信があっただけに、やられた時のショックも大きかったのであろう。
少しうつむいてラプラをボールに戻す。
だが、すぐに表情を戻し、2つ目のボールに手をかけた。

「出ておいで!リーフ!」
友里の2匹目は、フシギソウのリーフ。
「よーし。頑張るぞ!」
口調は明るいが、表情は硬い。どうやら♂らしい。
ブラッキーに速攻でやられそうな気がするが、果たして…――
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ポケ先輩 #13★2005.09/07(水)18:46
友里がフシギソウを出したちょうどその時、
空に異変が起きていた。

「あ、何か嫌な予感…」
花月は呟いた。
空は白から灰色へと姿を変え、雪も激しくなり始めてきた。
「バトルは中断したほうがよさそうだな…
 早くポケモンセンターへ行こう」
玄児の言葉に花月も友里も従った。
各々のポケモンをボールに戻し、吹雪の中をポケモンセンターへと向かっていった。

「残念だね。」
誰かがぽつりと言った。


#13「tant pis pour toi」

>ポケモンセンターにて

「それでは、お預かりいたします」
ポケモンをジョーイさんに預けると、三人はホッと息をついた。
「外見てみろよ…大変なことになってるぜ」
玄児の言う通りだった。外は猛吹雪に見舞われ、
もし彼らがあのままバトルをしていれば、無事ではなかっただろう。
南に位置するこの地方の、温泉地に吹雪が…
彼らが寒気を覚えたのは、ポケモンセンターの暖房設備が充分ではなかったから、ではないだろう。
寒気と同時にある種の期待を抱いていたのは、花月だけだった。

>夜、同所にて

「そろそろ吹雪もおさまってきたしな。俺は実家に帰るぜ。
 じゃあな、花月。また明日」
「あたしも失礼しますね。
 花月さん、また」
玄児と友里が帰宅し、花月はポケモンセンターに取り残されていた。
「うーん、ちょっとさみしいなぁ」
花月のポケモンたちは既に回復していたが、彼女はそれでも空しい気持ちでいた。
とりあえず、今日泊まる部屋へと向かう。
花月の部屋は2階にある、シングルベッドの少々狭い個室だった。
体をベッドへと投げ出し、天井を仰ぎ見た。


少しうとうとしていたようだ。
時計を見ると、さっきから15分ほど経っている。
(…とりあえず、ロビーに下りてみようかな。)
花月がそう考えて、立ち上がったその時。


――外から、視線を感じた。


「?」
花月は何が起こったのか分からなかった。
(ポケモンたちはボールの中、この部屋にバルコニーは無い、
 それなのにどうして…)
そう思考を巡らすと同時に、花月は窓へと駆けていた。

(今…!見えた!「黒い羽」が…!)

その影を追いかけるように、花月は窓をバンッ!!と開けた。
そして花月はさらに信じられない事を目の当たりにする。

「えっ…そんな…」

(ウソでしょ…?目の前で影も形もなくなるなんて…)

花月が追いかけた「黒い羽の天使」。
そいつは、花月の前で音も立てずに消え去った。



今見たものが信じられないものの、誰かに伝えたくて仕方が無くなった花月。
急いでロビーへと駆け降りる。
するとそこには、見覚えのある人物がいた。

「ちょっと待って下さいよ。一体何があったんですか?落ち着いて最初から…」
「だからさっきから言ってるじゃないか!

 誰かが外から、部屋を覗いてたんだよ!!」

(えっ、この人も「天使」を見たの…っ!?)
「あれっ、東さん…?」
「…あ、あんたはさっきの…、
 えっと、名前何だっけ」
「雪野花月」
「そうだかづきちゃんだ。悪いね。人の名前を覚えるの苦手でさ」
「あの…お二人は?」
さっきまで東に詰め寄られていたジョーイが、おずおずと口を開いた。
「あっ、そういえば私も」と花月は質問を無視し、自室で起きた出来事を話した。



その後。
ジョーイの連絡により警察がポケモンセンターにやってきて、
花月たちは先の事件について簡単な質問をされた。
そのさなか花月は、
(黒い羽の天使がもし人間に捕まったらどうなるんだろう…?)
と考えていた。
そして警察が去ったのちに、花月は重大なことに気付いた。
「あっ、そういえば天使が着てた服、わたし見覚えがある…」
どうしてもっと早く思い出さなかったのかと後悔しながら花月は、
ある人物の部屋を、東と共に訪ねた。

コンコン

「誰だ?開いてるぞ」
中からの声。
「失礼します」「あ、おい待てよ」
前のは花月、後ろは東の台詞。って言わなくても分かるか。

ドアを開けると、そこにはパジャマを着た少年と、
少年のポケモンであろう、メタモンとポリゴン2、そして色違いのイーブイがいた。
「あ、カツキさん、さっきとは格好が」
「うるせぇなー。人が何着ようがいいじゃねえかよ。
 …そっちのあんたは?」
「俺は…なんか知らんがこの子に連れてこられただけだ。
 名前は山城東。東でいい」
「オレのことはカツキって呼んでくれ。
 こいつらはオレの仲間で、ブラン(メタモン)、U(ポリゴン2)、そしてシャトー(イーブイ)だ」
「…よろしく」「よろしくな」
「…なあ花月、こいつとは知り合いか?」
「ええ、ついさっき」
カツキと花月が出会ったのは、つい数時間ほど前のこと。
花月と玄児と友里が、吹雪で閉じ込められていた時であった。
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ポケ先輩 #14☆2006.07/27(木)11:11
#14「トルバドゥールの回想」

>同日 ポケモンセンター 夕方

少し時間を戻して、花月たちがポケモンセンターにまだ閉じ込められていた頃のこと。
友里は、この町に伝わる昔話を話し始めていた。

――ここが、「天使が降りる町」と呼ばれるのは知ってるよね。
「あ、はい」
――で、何でそうなったかって言うと、その起源は戦国時代の終わりごろにまでさかのぼるの。
 当時、この辺りには集落もなく、あるのはただの山ばかりだった。
 それも人が住めないような、それはそれはひどい場所だったそうなの。
 そんな場所へ、逃げ延びて来た一団がいた。負けた武将の配下か、あるいは農民たちだったか。
 彼らは他に住むあてもなく、この地へたどり着いたの。もう動けない、だけどここには土地がない。
 どうしたらいいのかと悩んでいた彼らの前に…それは不意に現れた。

 そう、「天使」よ。
 そしてその天使はある奇蹟を起こした。そう、この場所に人が住めるように、山を丸ごと消し去ってしまったの。
 …あはは、ホントに目が点になってる。
 まぁ信じてはもらえないだろうね。学者たちも、この昔話の裏づけは未だに取れていないし。まだ謎なんだよ?事実かそうでないかさえも、まだ分かってないの。
 話を戻すね。
 彼らはその「天使」を崇め、村の守り神として、丁重におもてなしをした。天使を模した偶像も、その時に作られたと言われているの。
 だけど、天使はある日突然、村の人々の前から姿を消したの。
 まさに忽然と、ね。
 その後彼らは、天使の再来を願うために、天使を模した像を御神体として、「黒羽神社」を作った。
 そうよ。その時に現れた天使もまた、黒い羽を持っていたの。
 それ以来、この地域の人々は、天使をたまに見かけるようになった。
 だけど、捕まえたと言う報告例は、まだ無いの。


「ほぉー」と、花月の方角とは違う所から、声がした。
驚いて友里たちはそっちを見る。すると、黒いハットを被った少年が、興味深そうにメモを取っていた。
「え、ちょっと君は?」と友里が問い掛ける。
「あ、お話ありがとなー。いやぁあの神社にはそんな意味があったのかー。何かのシャレだと思ってたぜ」
「いや、だからなんで、そんな風に熱心にメモを取ってるのかなーって。」
「あ、これ? 情報収集だよ。情報は出来るだけ多く持っていたくてね」
「じゃあ君も天使に興味があるの?」とは花月。
「いや、別にねーけど…ってそういやぁまだ名前言ってなかったな。
 オレの名はカツキ。カツキって呼んでくれ」
「あ、私と似てるー」「えっ?」
これがカツキとの出会いであった。
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ポケ先輩 #15★2007.02/12(月)06:12
♯15「over the night」

>山城 東

「ふぅむ、それがこの兄ちゃんってわけだ」
花月の話を聞いた東は、相槌を打った。
「ってコトで、オレは明日また黒羽神社へ行こうと思う。
 今度は花月も来るか?」
「あ、はい」
カツキの提案によって、花月の明日の予定が決まった。
「よーし、じゃあ俺も付きそわせて貰おう」
「「えっ!?」」
東の言葉に、顔を見合わせる二人。
「何だその反応は…。俺だってアイツの正体が知りてぇんだよ。
 このままじゃ気になって寝れやしない。」
(それはどうだろうな…)とカツキは疑問に思ったが、口には出さなかった。
「それに、何か事でもないかと思ってたところさ。いい退屈しのぎになりそうだ」
こうして、明日神社に向かうメンバーが決まった。

その後。
花月は自室のベッドに寝転がり、思考を巡らしていた。
頭を支配するのは、やはりさっき見た天使の事である。
(…私は一度、あの黒い羽の天使に会っているに違いない…
 でも、いつどこで? それが分からない…
 天使…天使には出会った事がある)
そうして思い出すのは、幼い頃の思い出――

>原野 玄児

どうしてまた、出会ってしまったのだろう。
この町なら、彼女とは会わないだろうと思っていた。
>  「お帰り、玄児くん」
俺は、何故彼女に恋したのだろう。
住む世界が違うと解っていながら。
思いを伝えたあの日の記憶が、苦く鮮明に再生される…

「ごめんね。結論は、まだ、出せない。」
そう、彼女は答えた。
今にして思えば、グランドフェスティバルと言う大きな目標があったから、彼女はそんな返事をしたのだろう。
だが、当時の俺にとっては。

それは「振られた」と言う事と同じだった。

彼女は全国各地の郵便局をたらい回しにされ、それでも仕事の合間をぬってコンテストに出場していた。
俺と彼女が出会ったのも、告白をしたのもその流れの途中、彼女が各地を転々としていた時のことだった。

振られた俺は、そしてどうしたか。
実家に戻ったのだ。
旅は一時中断。その代わりに、自分の持つ特殊能力を生かした仕事をする事にした。
仕事と言っても、ただ単に落ち葉を風で巻き上げて、一箇所にまとめるだけだ。
その「風」が、自分の力で起こせるというだけ。
「風使い」と聞こえはいいが、やる事はこんなささやかなボランティアだ。
でも、旅をしていて、偶然彼女と出会うと言う可能性が無くなっただけで、とても気楽になれた。
また顔を合わせるのが、とても恐かったのだ。

だけど、今日。
俺は再び出逢ってしまった。
しかも、「お帰り」だなんて。
普通、俺から言う台詞じゃないのか?

やはり、忘れる事なんて出来なかったのだ。
振り切る事は許されなかった。
眠りに落ちる直前でも、彼女の事を思い浮かべる。
彼女の顔。
>「ねぇ、さっきねえさんがここ通らなかった?あたしと同じ顔をしてるの」
彼女の華麗な戦術。
>アルテミスの体を中心として、大きなつむじ風のようなものが出来ていた。
彼女の、微笑み…
>「それ以前に他人の耳元で大声をだすなと――」「お帰り、玄児くん」

俺は、決心する。
もう一度。
彼女の、「今の」気持ちを確かめてみよう。

>雪野 花月
私がその天使と出会ったのは、まだ幼稚園に通っていた頃だった。
私は、お父さんとお母さんを迎えに行こうとして、だけど道が分からなくて、結局迷子になってしまった。
そして、一人泣いていた。そこへ、私と同じ位の女の子が通りかかった。
女の子は私を見ると、何も無かったかのように通り過ぎて行こうとした。
その女の子の、服を私はとっさに掴んでいた。
「うぅぅ…一人にしないでぇ…」
女の子は私を睨み言った。
「何よアンタ…放してよ」
その女の子には、普通の子と違う所があった。
背中には白い羽が生えていたし、頭の上には蛍光灯のような輪っかが浮いていた。
だけど、その時の私にはそんなのはどうでも良く、この子が私を置いて行かない事が一番重要だった。
「ちょっと、放してってば! アタシは急いでいるの!」
「行かないで…おねがぁい…」
「だから…放しなさいよ!」
「いやぁぁっ…」
そうやって女の子は私を放そうと抵抗を試みた。
だけど、私の小さな手がそれでも服を掴み続けているので、女の子は私と一緒に、お父さんとお母さんのもとへ向かう事にしたのだった。

そのおかげで、私はお父さんとお母さんに無事に会うことが出来た。
だけど、お礼を言おうと振り向いたその先に女の子の姿は無く、お父さんもお母さんも「そんな子居たかい?」と、逆に訊ねるだけ。
その女の子には羽が生えていた、輪っかがあったと言うと、お母さんは笑って
「花月、きっとそれは天使さまだよ」
と言ってくれた。
「花月が困っていたから、助けに来てくれたんだ」
――パパ、私その天使さまにもう一度会いたい。会ってお礼が言いたいの。
「大丈夫だよ、天使さまはいつもお前のそばにいてくれる。だから、お礼は今言えばいいんだ」
――ううん、会いたいの! もう一度!
「ハハハ、きっと会えるさ」

そう、もう一度、あの天使に会いたい。会って、お礼を言うんだ。
それが、わたしの願い事。
そして、もうすぐきっと、叶うはず。
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ポケ先輩 #16☆2007.02/12(月)06:12
#14「Broadbanded」

PIPIPIPI
部屋に響く単調な電子音。
「あ、赤草です。」
電話の向こう側からは、懐かしい声が聞こえた。
「あ〜、久しぶり〜。元気だったー?」
うん…? と少女は考える。この声の主は、誰だっけ?
「もしかして…遊離?」「せいか〜い。」
起き抜けでアンニュイだったテンションが、一気に上昇する。

いきなり声を張り上げた由里と電話の相手は、それから他愛も無い話を続けた。
と、不意に遊離の口調が少し変わった。
「それでね、今日か明日にもそっちへ行こうと思うの。」
「え、何で何で〜?」
あたしに会いたいのかなー、なんて由里は期待していたが、直ぐに裏切られる羽目となる。
「実はね…」
そして、その「理由」は、由里の身にはちと重過ぎた。

2004年12月28日。
この日の朝も、町は寒かった。
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[621]

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ぴくの〜ほかんこ