【ぴくし〜のーと】
【ほかんこいちらん】
【みんなの感想】
ゆりりん☆ | #1★2006.09/18(月)20:09 |
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…えー、もうかなり古いですが、この話は http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/688.htm の「母の遺志を次ぐ少女〜偉大なる晴香〜」の主人公、晴香の 成長経過を詳しく書いた話です。 その為、おなじみのキャラもいれば新登場のキャラもいます。 また、一部設定に矛盾が生じている場合もございます。 それを理解した上でお読み下さい。 なお、感想は http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/simpressions/688.htm の方へ書いてくださるといいと思います♪ このテーマの感想テーマは手違いで消されてしまったので…。 一回ログ飛びしてしまったので、第1話〜30話は http://blog.goo.ne.jp/haha-show/ に掲載してあります。下へ行くほど古くなってるのでちょっと読みにくいですが…; ここに今から掲載するのは31話からです。 |
ゆりりん☆ | #2★2006.09/18(月)20:32 |
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キキーッ。一台の車がワルツハーゲンの門の前で停まった。 「西澤氏がお越しだ!」 挨拶係のコーディネーター達が、門の両脇で頭を下げる。 「…ふふん。」 三槻はそれを鼻で笑うと、ふてぶてしい態度で館内へ歩き出した。 「ようこそ。」 ご馳走係の者達が、三槻の座ったテーブルにご馳走を披露する。 「ふん。」 盛られたご馳走を一口食べるなり、三槻は皿を押しのけた。皿は派手な音を立てて粉々に割れ、床は皿の破片とご馳走が散らばった。 「もうちょっと美味いもん作れないのか。作り直し。」 相変わらずふてぶてしい態度の三槻。折角披露して貰ったご馳走を、作り直すように言った。 「も、申し訳御座いません…作り直します!」 召使いから布巾を受け取り、恵子が床を拭く。あつ子が急いで調理場へ向かう。 「おいおい、肝心のポロックはまだなのか!?オレを待たせんじゃねえよ。」 ――ポロック調理場―― 「ねえ、西澤さんってあんな人だったの?」 あいしゃが不安げに、自分の盛り付けた皿を見る。皿の上には美しく彩られたポロック、そしてパセリや花で綺麗に飾られている。だが、このポロックをあの男が気に入るかは分からない。 「大丈夫よ。一生懸命やったのだから。」 夏菜が優しく言う。晴香も元気を出して、と励ます。 「じゃ、行きましょう。」 愛里が言い、ポロック調理に加担した晴香達は一斉に宴席まで向かった。 「これがワルツハーゲンの優秀なコーディネーターの作ったポロックか。」 三槻はチラッと皿を見るなり、嫌味ったらしい口調で毒を吐く。 「はい。黄色いポロックは俺が調理致しました。」 龍雅は額あたりに血管が浮き出ているが、必死で怒りを抑え、真実を言う。 「そうか。てめえが調理したのか。所詮優秀とは言ってもガキなんだな…俺のポケモンにこんな低レベルなポロックを食わせるつもりか!!」 三槻が怒鳴る。龍雅の額は更に血管が浮き出ている。 「えー、緑のポロックは俺が調理致しました。」 「そっちも所詮ガキだ。ガキの作った味など信用できるか。クソ野郎。」 このふてぶてしい態度に、怒りを露にする一同。三槻は構わず毒を吐き続ける。 「で、飾り付けがそっちのガキ共だな。低レベルを通り越して有害なポロック、見ただけで食べる気失せたって言ってんだよ、オレのポケモン達がな!!」 そう言うなり彼は、先程と同じく皿を床へ投げつけた。皿はまたも派手な音を立てて、辺りに破片やポロックが飛び散った。途端、夏菜の中で何かが切れた。 「ったくよぉ、予想済みだったけどまさかここまで低レベルだとは思わなかったぜ…実力を見る気も失せたわ、さっさと部屋へ案内しろよな。」 そう言って彼が立ち上がり、歩き出そうとしたときだった。夏菜が彼の襟首を鷲掴みにしたのは。 「!?…うわあっ!」 凄まじい力で襟首を掴まれ、投げ飛ばされた彼。壁に背中をぶつけ、派手な音を立てて床に落ちた。 「なっ夏菜様…!」 晴香達は真っ青になりながらおろおろする。だが夏菜はお構いなしに三槻が落ちた方向へゆっくり振り返り、ゆっくりと言った。 「…あんた、最悪ね。」 |
ゆりりん☆ | #3★2006.09/18(月)20:56 |
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「何…この女め…」 三槻が立ち上がる。晴香達はおろおろしたままだ。 「…ポロックを粗末に扱う者に、ここへ来る権利はないわ。」 夏菜は三槻の怒りに怯みもせず、言葉を続ける。 「私共とて、貴方のような人にポロックを出すつもりはありません。…晴香達、帰るわよ。」 そう言い切ると、彼女はすたすたと退場しようとした。 「待て!」 三槻が彼女の背中に向かって叫んだ。夏菜は冷たい表情のまま、後ろに振り返った。 「このオレを投げ飛ばした罪は重いぞ…」 「テメーが悪いんじゃん。」 「ガキは黙ってろ!…そこの女、オレとコンテスト勝負だ!お前が敗北したら…オレの言う事は何でも聞く、その代わりオレが負けたらオレはお前の僕にでもなってやる!どうだ?」 歪な笑みを浮かべ、宣戦布告をする三槻。 「ど、どうするんですか…?」 「…いいわよ。」 「そうか。ま、オレの勝利は目に見えてんだがな。そこでだ。一週間だけ、練習云々の時間を与えてやる。手応えがないとつまんねえからな!…まあ一週間の間、せいせいオレの足元で努力でもしとくんだな!」 三槻は叫び終わると、玄関の方へ向かった。他のコーディネーター達がざわついている。晴香達は相変わらずおろおろしたままだった。 「…帰るわよ。」 「え…あ…」 晴香は夏菜の後に続き、部屋へ戻る事にした。そして折角作ったポロックは、全く口に入れても貰えないまま、結局処分される事となってしまった。 「どうするんだい、夏菜。いくら向こうが悪いとはいえ…相手はホウエン一で超有名な天才と呼ばれているコーディネーターなんだよ?」 あの後何とか片付けは終わり、夏菜は加寿子の部屋に呼び出されたのであった。 「…いいえ、私は全力を尽くして見せます。」 「そうかい。…いやあ、本当に頑固な弟子な事だ。…頑張るんだよ。」 加寿子は豪快に笑いながら、元弟子への格言を放った。 「はい。加寿子様…必ず成し遂げて見せます。ワルツハーゲンの名誉に賭けても…」 「どうするんですか!?何と言っても相手はあの西澤さんですよ!?」 今度は晴香やあいしゃが騒いでいる。しかし彼女は落ち着いたまま、答えた。 「…とにかくやるのよ。でないと、ワルツハーゲンの名はあの男に貶されたままでしょ。」 「そうですけど…いくら夏菜様でもカリスマ天才コーディネーターには敵いませんよ!」 あいしゃのその言葉に、彼女は反応したようだ。 「…そんな事、誰が決めたの?」 「え…」 「そうと決まった訳じゃないでしょ?だったらやらないよりはやるべきよ。」 どうやら夏菜は意地でも三槻相手に勝負を受けるらしい。 |
ゆりりん☆ | #4★2006.09/18(月)20:59 |
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えー、ここから下のレスはいずれ書き直しによって続きが書かれる予定ですので、それまではここから下は読まなくていいです; ホント、すみません^^; …って、もう九時だ…やばい。 明日学校だし家庭教師もあるしで大変だ…寝なきゃ。 |
ゆりりん☆ | #5★2006.07/26(水)03:18 |
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第四話 さて、試験前日。午前中はフリータイムだったが、見習いとしてここに残る為、皆は必死で実技の練習中だった。 「あいしゃちゃん、一緒に練習しようよ。」 「いいよー、でも裕樹やシュウも一緒にね!皆で仲良くしよう」 (裕樹君やシュウ君、てどんな子なんだろう?) 男子の二人と会うのは、今日が初めてだ。 「呼んどいたから、ここで待ったらそのうち来るよ。」 「そう…」 そのとき、晴香達と同い年…と見られる、二人の男の子が歩いてきた。あいしゃはその姿を見るなり、そちらへ駆け出した。 「んもう、遅いよ!」 「ごめんごめん…そっちの女の子は?」 白い髪を上げた、見映えのある男子が晴香の方を向いた。 「あ、私は晴香っていいます、あいしゃちゃんの友達です」 「そう。俺は斎川(さいかわ) 裕樹っていうんだ、よろしく!」 「うん…そっちはシュウ君、だよね?」 「そうだよ。僕は笹本(ささもと) シュウ。世界で一番美しい男さ」 「まーた始まった、シュウのナルシスト!」 あいしゃがふざけたように言うと、裕樹が笑った。 「じゃ、早いこと練習しよう。」 四人はそれぞれの手持ちポケモンを出し、毛づくろいを始めた。 夜。布団を敷き始めた一同。 「晴香ちゃん。」 「何?あなたは…優美ちゃん?」 「明日の試験は十時半からですって。」 「そうなんだ。ありがとう。」 優美はにこっと笑って晴香の傍を離れると同時に、ニヤッと笑った。 「ふふ…卑しい娘は落第すればいいのよ。これで晴香の落第は決定ね。」 パートナーであるゴクリンの毛づくろいをしながら、クククと笑った。 「今回の入門生は四十人、そのうち見習いとして残れるのは三十五人…」 上級生達と事務員達は会議室で、試験について打ち合わせをしていた。 「試験官はここにいる全員にお任せ下さい。」 「では任せるぞ。」 彩音が言うと、事務長はゴホンと咳払いをした。そして言葉を続けた。 「合格した三十五人に、このバッジを配るのはお前の役目だ。」 「はい。」 夏菜は『48』と書かれたバッジを受け取った。なお、これは『48回目にワルツハーゲンに入門した』という証である。よって、夏菜や彩音は『38回目に入門した』という事になる。 「では明日の試験、結果を楽しみにしておるぞ。私も暇ができたら見物に行くかもしれない…ハハハハハ。」 翌日――試験当日。受験生達は早朝から、ポケモンと一緒に演技の練習や、ポロック創作の練習を行っていた。 「ゴンベ、のしかかり!」 『ゴンッ!』 あいしゃのゴンベの「のしかかり」はなかなかポイントが高い。 「ミズゴロウ、うずしお!」 裕樹も負けじとミズゴロウに命令する。 「ははは…僕はもう余裕だから、ポロックでも作ろうかな。」 シュウはお気楽に一人でポロックを作っている。 「じゃ、私達も練習しようか、アチャモ!」 『チャモ!』 「今は午前七時…午前十時まで時間はたっぷりあるよね、大丈夫大丈夫…」 |
ゆりりん☆ | #6★2006.07/26(水)03:25 |
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第五話 「あれ…?」 午前九時半――だんだんと、人気が無くなっている。 「どうしたんだろうね、アチャモ。」 『チャモ…』 裕樹もあいしゃもシュウも、いない。だんだん不安になってきた。現在時計は九時四十五分を差している。 「…体育館へ行ってみようか。」 晴香は急いで体育館へ向かって走り出した。 「あ、上靴忘れてきちゃった…いけない!」 上靴を急いで取りに行き、そして再び体育館へ向かった。 「ハア、ハア…」 体育館の前で上靴に履き替える晴香。そこへ、青い髪の少年が出てきた。 「ど、どうしたんだ?お前…」 「あ…十時からここで試験がある、と…」 すると、少年は目をまん丸にして驚いた。 「違うぞ、九時半からだぞ!?急げ、今すぐ!!」 「えっ!?」 パニック状態の晴香。しかし今は急ぐしかない。晴香は上靴に履き替え、踏み靴をしたまま中へ駆け込んだ。 中には、もう既に全ての門下生が座っており、一番前であの老婆、すなわちトップコーディネーターがマイクで何やら開会の言葉を述べている。 『…おや?』 「どうしました、加寿子(かずこ)様。」 後ろでハアハア喘ぎながら汗だくで立っている、晴香の姿に気付いたトップコーディネーター…加寿子。 『お前はこの前見かけた子だね…ここにいるという事は試験を受けるのかい?では何故そこにいるんだね?試験を受ける子達は皆楽屋へ行ったよ?』 チラッチラッと、緑や赤の制服を着た門下生――中級生が晴香と加寿子を交互に見ている。 「す、すみません、時間のミスでした、てっきり十時からだと…」 すると、両脇に立っていた上級生達のうち、夏菜が口を開いた。 「時間に遅れる事はもっての外。という事はお前の落第は確実…試験を受けるまでもないわね。」 その隣に立っていた彩音がじっと晴香の方を見る。他の上級生達も、様子を眺めていた。体育館は騒がしくなってきた。 「静粛に!」 加寿子が怒鳴り、周りを落ち着かせると、晴香の方を見て言った。 「お前は落第だ。出て行きなさい」 「そんな…!」 「早く!」 体育座りで、舞台の方を向いていた中級生達も暑さの限界のよう。両脇に立っている上級生達も、汗を拭う者はいないものの、かなり暑そうだ。 「…」 晴香は暑さにかねて一礼し、すごすごと体育館を後にした。 「あいつ…」 体育座りで、暑さのあまり汗を拭いまくっていた龍雅が言った。 「仕方ない。時間の管理は基本だ…」 彼の隣で体育座りをしていた少年は暑さに耐えかねて額を一拭いし、出て行く晴香をじっと見ていた。 |
ゆりりん☆ | #7★2006.08/03(木)13:43 |
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ぐずっ。拭っても拭っても、涙が止まらない。鼻も垂れてくる。 「何で…」 ワルツハーゲン内は静かだ。皆、体育館へ集合してしまい、誰一人として残っている者はいない。いるとすれば、召使いや食堂の人物だけだ。 「アチャモ、イーブイ。ごめんね。」 『チャモ〜…』 アチャモは悲しそうに晴香の目を見る。 「…皆は、終わったのかな?」 …そのとき、晴香は視線を感じた。振り返ると、一人の少年が立っていた。 「これで全員終了、ね…」 彩音が得点を書いた紙を回す。一方、他の者は筆記試験の採点中だった。それも終わったようだ。 『暫くの間、待ちなさい。得点を判定する。』 百点満点の筆記試験の得点と、同じく百点満点の実技試験の得点を足したのが、試験の得点だ。 「計算機を貸して。」 「はい。」 何人かで分け合い、採点を続ける加寿子達。見習い達は首を長くしている。会場で座っている中級生達は、次第にざわついてきた。 (あれ、真志(まさし)は…?) 先程までそこ等に座っていた中級生、真志の姿が見当たらない。彩音はきょろきょろしたが、やはりいない。 「真ー?」 ざわつきの中、真志を探そうと、龍雅が呼んでいる。なお、真志は彩音の実の弟である。 『結果を発表する!』 加寿子が半ば怒鳴り声に近い声で叫んだ。辺りは一気に静かになった。 …いよいよワルツハーゲンの見習いとして残れる者の名前を挙げられるときがやってきた。 『首席は――筆記九十八点、実技九十六点、計百九十四点獲得した斎川裕樹!』 歓声が上がる。裕樹は加寿子の前まで行く。 (晴香は大丈夫なのかな…) 礼をしながらも、裕樹は晴香の事が心配なのであった。 『次席は――筆記百点満点、実技九十三点、計百九十三点獲得した琴宮あいしゃ!』 またしても歓声が上がる。あいしゃは裕樹と同じく賞状を受け取りに行く。 「…試験を、受けたい?」 少年は泣いている晴香の目線に合わせてしゃがみ込み、優しく問う。晴香はコクリと頷く。 「そうか。…姉ちゃんに頼もうにもな。」 ふうとため息を吐いた少年。実はこの少年こそが、先程消えた真志という少年だった。年は十四歳。 「安心しろよ。とりあえず俺、姉ちゃんに聞いてみるからさ…」 |
ゆりりん☆ | #8★2006.08/03(木)14:05 |
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真志は晴香の頭にぽんと手を置いた。そして微かに微笑んだ。 『以上で、選抜試験を終了する。落第者は門前へ、合格者は美広に続いて教訓所へ向かいなさい。』 加寿子の言葉に従って、見習いはぞろぞろ退出する。 『中級生は見習いが退場しきると同時に退出せよ。』 体育館から、人がいなくなっていく。「暑かった」などの文句も聞こえてくる。 「晴香、大丈夫だったか?」 裕樹やあいしゃが晴香の周りに寄ってきた。 「…俺が何とかするから、大丈夫だ」 真志が言った。裕樹達は呆気に取られた。 「あ、俺の事知らないよね?俺は紺野真志、彩音様の弟だ。」 さて、人のいなくなった体育館で打ち合わせを始めた加寿子と数人の上級生。 「それにしても裕樹は優秀な子だね…4の問5は殆どが間違えていたというのに」 「そうですね。ここは知識・理解です」 見習いの成績をつけるべく、詳しく点を付けていく。 「お待ち下さい」 「おや…?真志、どうしてここに残っているのだ。」 全員の視点は、体育館に入ってきた真志に集中した。そしてその左手には、晴香の右手がしっかり握られている。 「この子は才気ある、素晴らしい子です。もう一度だけ、チャンスを与えてやって下さい」 「真志、あんた…!」 彩音がたしなめる。が、彼は怯まない。 「チャンスは一度きりで、問題を出してやって下さい。答えられないとなれば、確実に落第…という手は?」 「…」 反論できない上級生達。真志は成績が優秀な上、ワルツハーゲンに何かと貢献している事で名が知れていたのだ。 「仕方ない…では、仮見習い…徳宮晴香の試験をこれより行う。チャンスは一度きり。」 加寿子が咳払いをして、晴香をじっと見ながら問題を出した。 「今から凡そ100年程前――伝説のコーディネーター「伸也」が存在した。彼はその圧倒的な魅力で、全国のコーディネーターを次々と勝ち倒していった。 しかし…そんな彼の前に立ちはだかった人物「由紀」がいた。 由紀に敗れた伸也が哀しみを暴露し、叫んだと言われる山の名を答えよ。」 全員が息を呑んだ。5歳の子供にこのような難しい問題が分かる筈がない――そこにいた誰もが、思っている事だった。しかし… 「それは柴岡山でございます。」 晴香は笑顔で答えた。加寿子は目をまん丸にした。いや、驚いたのはその場にいた全員だった。彩音や夏菜も、大変驚いていた。 「柴岡山は長く険しい事で有名。彼のコーディネーターとしての人生を山にたとえ、険しい道のりの末叫んだのでございます。」 加寿子は明るい笑顔に変わり、言った。 「聡明なようだな、この者は。…よし、夏菜。お前にこの子を任せる。」 |
ゆりりん☆ | #9★2006.08/26(土)15:05 |
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翌日――いつものように調理中。 「晴香。」 「どうしたの、あいしゃ。」 「ちょっと来て、お知らせが貼ってあったの。」 「何々…」 あいしゃに続いて広告掲示板へ向かう晴香。 「あ、来た来た。」 掲示板の前には、たくさんの見習いが集まっている。 「えー、遠く過ぎて見えないよ…」 目を凝らして連絡事項を見る晴香。 「…今度、見習い同士で競い合いがあるんだって。」 「え?」 連絡事項を見終わって、戻ってきた愛里が、晴香に教えてくれた。 「ありがとう、えっと…貴方は…」 「愛里だ。」 「あ、そうそう、愛里ちゃんありがとう!」 「夏菜様、今度行われるという見習いの競い合いとは、一体何ですか?」 部屋に戻ってくるなり、晴香は何やら縫っている途中だった夏菜に問いかけた。 「あら、見たの…それは秘密よ。」 「何故…」 「だって教えれば、皆はそれに熱中して、今の作業を疎かにし兼ねないからね。」 「そうですか…」 晴香はしゅんとした。だが夏菜の方は絶対に口を開こうとはしない。 「もう寝なさいよ。遅いからね…」 「はーい…」 布団を敷き始めた晴香。翌日、同期生達から情報を得られるよう、祈りながら… (課題は木の実のへた取りなのだから、日頃の修行の成果の見せ時なのよ。許してね…) 夏菜は心中で呟くと、机の上に書物と筆を置き、勉強をし始めた。 その翌朝、晴香は早速情報を収集しようと試みたが、誰一人として競い合いの課題を知る者はいなかった。 「残念だね…」 「うん…でも仕方ないよ。木の実のへたでも取っとこう…」 そこへ優美が駆けつけてきた。 「皆!競い合いの課題、分かったわよ!」 「本当!?」 「うん、課題は『木の実の汁絞り』だって!伯父様から聞いたよ!」 だが優美は嘘つきな事で有名だから、嘘の可能性も低くはない。あいしゃは首を傾げた。 「そう…まあ半信半疑で許してあげるけど。もし本当なら、ありがとう。」 「何よ…ふん!」 優美はあいしゃを睨むと、木の実の籠を取りに行ってしまった。 |
ゆりりん☆ | #10☆2006.08/26(土)15:17 |
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「汁絞り、ねえ…本当なのかな?」 「さあ…優美って嘘つきだし、違うような気がしないでもない…」 全員が半信半疑だったが、今ここで考えても答は出ない。だったらいつもの作業に取り掛かり、暇があれば汁絞りの練習を極めればよい。 「…行こう。」 「うん。」 … 課題が汁絞り、との噂はいつの間にか隙間風のように広まって行った。48期生の生徒はそれ程出世欲の高い生徒が多い訳でもないが、問題は先輩の47期生。非常に狡猾で、出世欲の強い者が多いのだ。しかも今回の競い合いは47・48期生合同でやるとの事。当然、47期生の生徒達は勝つ為に汁絞りの練習に熱中している。 「ふふ、皆騙されてる…」 優美はニヤッと笑い、籠をしまって部屋へ戻った。 (でも晴香やあいしゃや裕樹は騙されなかったようね…) 『カメーww』 「美味いか?カメール。」 出来たての青いポロックをカメールに与えている真志。カメールは美味しそうに、ポロックを平らげている。 「真志。」 そこへ、彩音がやってきた。真志は気配を感じ、後ろを振り向いた。 「あ…姉ちゃん。どうしたの?」 「聞いたわよね?今度の見習いの競い合いの事は。」 「ああ、聞いたけど…」 真志は砂ぼこりを払いながら立ち上がる。 「それじゃあ、そのときの試験官はあんたにやって欲しいの。できる?」 「え…なんで?」 「夏菜ん所の弟子に首席を取って欲しくないのよ…でも私は弟子持ちだから試験官として出る事はできないの。だからあんたに出て、晴香を妨害して欲しいのよ。」 「そんな…実力で敵わない人のする事だと思うけど…」 「もうこの際いいわ、それでも…分かった?詳しくは後で話すわ。分かったわね?」 |
ゆりりん☆ | #11★2006.08/28(月)19:44 |
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さて、数日後。教訓室には、たくさんの見習いがいる。 「緊張するなー…」 裕樹が呟く。一枚一枚の座布団の前には籠に盛られた木の実と、小さな皿がある。この皿は、へたを集める為の皿として取り扱われている。 「これって、取ったへたを置く皿、だよねえ?」 「そうだね。って事は…」 あいしゃは優美の方をチラリと見た。一方、他の生徒達は騒いでいる。 「静かにー…」 一番前の座布団に座った真志が呼びかける。見習い達の声が小さくなっていく。 「さて、お前達は今日、第一回目の競い合いを行う。課題は『木の実のへた取り』だ。」 えーっ、汁絞りと聞いていたのに、と見習い達は騒ぎ出す。優美はクスッと笑う。 「うるさい!」 真志の怒鳴り声で、またもや静かになる。 「へた取りはポロック作りの基本だからな。お前達がここでどれ程指先から血の滲むような特訓をしてきたかが窺えるのが楽しみだ。」 一方、外では彩音と夏菜が教訓室へ向かって廊下を通行していた。 「…」 彩音が後ろを振り返る。夏菜は目を逸らすように下を向く。 「…行くわよ。」 二人は急ぎ足で、教訓室へ向かった。 「では――」 真志は、ふうと蝋燭の灯火を消す。ドアもカーテンも先程閉めてしまった為、辺りは真っ暗になってしまった。いや、この狭い部屋は暗いだけでなく暑い。人数が大勢いるから余計に。 「…」 辺りは静かになった。へた取りに集中しているのだ。 (ごめんよ、晴香――…) 晴香も一生懸命、へたを取る。木の実の種類はランダムだが、種類によってへたの取れにくさが違う。晴香の席の皿には、へたが非常に頑丈な種類の木の実が多く置かれていた。尤も、これが彩音の策略なのだが。 (うっ、固い…) 晴香の指先が赤くなっている。へたは中々取れない。 「はい、そこまでだ!」 真志の合図と共に、到着した彩音が証明を付ける。夏菜がカーテンを開ける。 「やめろと言ったらやめるんだ。」 まだ続けようとしている見習いを宥めると、真志は立ち上がり、へたの数を数えながら回り始めた。 |
ゆりりん☆ | #12☆2006.08/28(月)19:55 |
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真志はへたの数を数えながら歩き回る。見習い達は手を膝に置いて、結果が発表されるのを待つ。一方、部屋の脇に立っている彩音は晴香の小皿を見て、目を丸くした。晴香の皿の木の実はへたが取れにくい性質だったにも拘らず、晴香は比較的多めにへたを外せているのだ。 「…では、結果を発表する。」 確認し終えた真志が席へ戻り、結果をいざ発表し始めた。見習い達は唾を呑んだ。 「首席は裕樹――三十二個。」 見習いの視線が裕樹に集中する。裕樹は得意げに笑う。 「次席は二人いる。…まず、愛里――二十八個。」 彩音がほくそ笑んでいる。愛里はあまり表情を変えないまま、ふうとため息を吐いた。 「そして晴香――同じく二十八個。」 またも視線が集中。優美は悔しそうに、チッと舌打ちをした。 「以上が結果だ。首席の裕樹には褒美として五泊六日の里帰りを許可する。また、次席を取った二人の褒美については、後ほど加寿子様が詳しく説明なさる。それを待機するように。」 そう言い放つと、真志は部屋のドアを開け、見習いを開放した。 「暑かったねー!それにしても晴香、凄いじゃん!」 「えへへ…そう?」 「うん、優美が悔しがってたよ!」 あいしゃが笑いながら言う。そこへ裕樹も話に参加した。 「裕樹も家へ帰れるんだあ、いいなあ〜。」 「はは…」 「あ、私加寿子様に呼ばれてるんだった、急がなきゃ!」 晴香は用を思い出し、急いで加寿子の部屋へ向かった。 「あら、晴香。」 加寿子の部屋へ入ると、夏菜に彩音、愛里の姿が。三人とも、加寿子の座っている椅子の前に正座をして座っている。 「夏菜様…あ、彩音様も。」 彩音は晴香の方を睨むと、視線を逸らしてしまった。 「晴香、待ってたんだよ…とりあえずお座り。」 晴香が三人に並ぶようにして、座り込んだ。 「…実はね。次席を取った君達には、ある『課題』を出そうと思っているんだ。」 「課題?」 「そうだ。その課題とはね…ここから遥か南の『ムロ島』へ向かい、伝説の『スターの実』を取ってきて、伝説のポロックを作る事なのだよ。」 「伝説の…」 「ポロック?」 |
ゆりりん☆ | #13☆2006.08/28(月)21:29 |
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「ああ、そうだよ。」 加寿子はゴホンと咳払いをした。 「ムロ島に存在するという伝説の『スターの実』で作るポロックは、どんな木の実も敵わない…まさに『神の味』。同じ成績だった二人には、どちらがそのポロックを作れるかで勝敗を決めるとしよう。だが取ってくるだけでは駄目だ。真心を忘れてはいけないよ。」 「…はい、加寿子様!」 晴香はにこりと微笑んで言った。 「いい返事だね。愛里は?」 「はい。」 「よし、明日から早速出発してきなさい。後、夏菜と彩音も同行しなさい。」 「承諾しました。」 「姉ちゃん、明日から出かけるんだって?」 「ええ、そうよ。」 身支度をしている夏菜の所へ、龍雅が飛んできた。 「俺も行きてーよ!」 「駄目よ。」 「嫌だ、俺も行く!!」 懇願する龍雅。だが、行かせてくれそうもない。 「ちぇっ…」 龍雅は部屋を後にして、男子寮へ戻った。そして次に真志の部屋へ訪問した。 「えっ!?こっそり着いて行く、て事か!?」 「大声出すなよ!!…そうだよ。だって、秘伝のポロックが作れるかも知れないんだぜ?」 「…」 その台詞を聞いた途端、真志の心は揺れた。 「…分かった。支度をしよう。後、船に同乗したら一発でばれるよ。」 「そうだな…」 … 翌日、裕樹は里へ帰り、晴香達はムロ島へ向かう船へ乗ろうとしていた。 「ではこの船はムロ島へ向かいます。よろしいですか?」 キャモメを頭に乗せた老人が言う。 「いいわよ。」 彩音が言い、男は船内へと一行を導いた。一行が船へ乗ると、船は港を離れた。 「暫くさよならですね…生まれ育ったワルツハーゲンとは。」 愛里が、離れて行く本島を眺めながら呟いた。数日間外出し続ける事など、彼女等にとっては初めてだ。 「うー、潮風が気持ちいい!」 「こら、叫ぶなよ。」 船の後を、二匹のポケモンが泳いで行く。カメールとアリゲイツだった。そしてカメールの上には真志が、アリゲイツの上には龍雅が乗っている。 「船がいきなりバックしたら俺達、木っ端微塵だな。」 「確かに…」 さて、船と、その後ろに続くポケモンの目的地は皆同様――ムロ島だった。 |
ゆりりん☆ | #14☆2006.08/28(月)21:58 |
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〜キャラの紹介〜 徳宮 晴香 5歳 ♀ 明るくて好奇心旺盛な元気娘。運動神経抜群。 幼くして両親を亡くしたが、今はワルツハーゲンで明るく過ごしている。 活発で利発な女の子。 斎川 裕樹 5歳 ♂ 正義感の強い性格。実は大富豪の御曹司。 コーディネーターとしての才能は卓越している。 船本 愛里 5歳 ♀ 晴香達の同期生で、彩音の弟子。クールな性格だが、根は優しい。 木の実を包丁で切るのが得意。 琴宮 あいしゃ 5歳 ♀ 裕樹の幼なじみで、能天気で陽気な性格。 だが頭はかなりいい。ポロックを盛り付けたりトッピングするのが得意。 笹本 シュウ 5歳 ♂ 裕樹とあいしゃの幼なじみ。ナルシストな性格が長所と短所。 幼なじみの裕樹にはしょっちゅう呆れられている。ポロックより演技が得意。 井上 優美 5歳 ♀ 晴香に意地悪ばかりしている、同期生。出世欲が強い。 川瀬 夏菜 18歳 ♀ 晴香の師匠。口数が少ないので誤解されやすいが、根は非常に優しい。 青いポロックを作るのが得意。黄色いポロックがやや苦手。 紺野 彩音 16歳 ♀ 愛里の師匠。我侭で負けず嫌いな性格。だが心の底には深い傷がある。 赤いポロックを作るのが得意。だがずば抜けた才能はあまりない。 川瀬 龍雅 13歳 ♂ 夏菜の弟。中々の暴れん坊で、喧嘩上等な性格。 だが姉にはべったり。成績は総合して中の少し下。 紺野 真志 14歳 ♂ 彩音の弟。非常に成績は優秀で、何かと貢献している。 性格はややオクテだが、しっかり者。姉には手を焼いている。秀才。 寺宮 加寿子 60歳 ♀ 現在トップ。年老いてはいるが、その才能は抜群。 昔夏菜の師匠を務めていた事もある。愉快で、面白い事が好きな性格。 |
ゆりりん☆ | #15☆2006.08/29(火)06:46 |
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海の旅路は思ったよりも長い。船の中で、愛里は彩音の膝の上で半分眠っている。 「まったく、何時になったら着くのかしら。」 彩音はイラつきながら、窓の外をじっと睨む。船が進むたびに波が水しぶきを上げている。 「夏菜様、到着したらまず何をするのですか?」 晴香が窓の外から夏菜へ視点を変える。そして質問を繰る。 「加寿子様曰く、まずは『海の家』へ向かうらしいわ。」 「『海の家』?」 「そう。海の家に住む一族は秘伝のポロックの作り方を知っているようよ。私達はその家で寝泊りするの。もう宿泊の依頼連絡は行き渡っているようだから大丈夫よ。それからは、家人が詳しく指導をして下さるから、晴香と愛里はそれに従って行動しなさい。」 「…はい。」 そのとき、船はゆっくりと止まった。正面には桟橋が見え、向こうには浜辺の町が見える。 「つ…着いたのね!」 「そうよ。さ、早く降りなさい。」 … さて、砂の上をジャリジャリ鳴らしながら歩く事数分… 「ここが『海の家』ですね。」 「そうよ。でも今日はもう夕方だから明日からね。きっと。」 彩音が、半分寝かけている愛里を抱き直した。相当腕は疲れているようだ。 「じゃ、私がチャイムを押します!」 晴香が意気揚々とチャイムを押した。ピンポーンと音が鳴ると、中から一人の中年男性が現れた。 「ようこそ、海の家へ。貴方方が今日から宿泊するという者ですね。」 「はい。大変急で申し訳御座いません。」 謝罪の礼をする夏菜と彩音。男性はあははと笑うと、一行を家内へ導いた。 さて、居間へ入ると、中年女性と、男性によく似た青年と、女性によく似た幼女が座っている。 「…では改めて自己紹介ですな。私は海野 辰夫(うみの たつお)。この家の家計を支える…いわゆる『亭主』。」 「はい。この度は泊めて頂ける事を真に感謝しております。」 「いえいえ、とんでもない…私は海野 多恵(うみの たえ)。辰夫の嫁よ。」 「あたしは海野 真弥(うみの まや)。お姉ちゃん達、よろしくね!」 「…俺は海野 椎(うみの しい)。よろしく。」 一人ずつ、礼を返す。さて、見る限りでは全員の自己紹介が終わった。 「待ちな。」 後ろから、しわがれた声がした。海野一家は大して驚きもしなかった、寧ろ最初から声がする事を分かっていたかのようだが、晴香達は少し驚いて後ろを振り返った。 「…この家の真の大黒柱、それがあたしだよ。」 |
ゆりりん☆ | #16☆2006.08/29(火)21:58 |
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「…きたね、おばーちゃん。」 全員の視点に、一人の老婆の姿。だが普通の老婆と違い、大変元気だ。 「んじゃ、改めていらっしゃい、海の家へ。あたしは海野 紀和(うみの きわ)、さっきも言ったがこの家の大黒柱だ。あんた達が噂の旅人だね。」 「はい。これからお世話になります。」 全員がぺこりと礼をする。 「ええ、今回私達は『秘伝のポロック』の作り方を教わりにやって来ました。」 晴香が頭を上げて礼儀正しく言う。紀和はガハハと、歯を見せて笑った。唾が数滴辺りに飛んだ。 「礼儀正しい子だね…、一応話は聞いてるよ。じゃあ早速明日からお前達二人には材料を採って来て貰うよ。今日はもう遅いがね。」 …その日はもう遅かった為、一行は夕食を賄って貰い、入浴し、すぐさま寝たのである。 「くっそー、寒い…」 その頃、龍雅と真志は寒さに震えながら、寝られそうな場所を探している。 「船の中、とかどう?このまま乞食みたいに寝るのは嫌だ…」 「そうだな…」 二人は先程晴香達の乗っていた、船の所までやってきた。当然中にはもう誰もいない。 「はあ…今日は疲れたな…」 真志はすぐさまコクリコクリと眠り始めた。龍雅もそれに続き、ふああと欠伸をした。 (来る意味あったのかな…俺等。) 龍雅は海の向こうをじいっと見つめた。ムロ島はちいさな島町。本島からは無論離れている。遥か遠くに見える本島には、無数の灯りがついている。 (ワルツハーゲンの皆はもう寝たのかな…) そんな事を考えているうちに、彼もいつの間にか眠っていた。 ぐっすり眠っていた一行にとって、朝の来るのは非常に早かった。 「んー、よく寝た!」 晴香が布団から起き上がり、辺りを見回す。 (そうだ、私達昨日ムロ島へ来て…それから海野家で一晩泊ったんだっけ…) 昨日の出来事を順に思い出す。そして隣を見ると、寝起きらしい様子の愛里がぼおっと座っている。 「愛里、おはよう!!」 「あ…おはよ、晴香」 愛里はまだ眠そうに目を擦っている。 「愛里、晴香、早く来なさーい!!」 彩音が怒鳴っている。二人は慌てて、布団から出て食卓へ向かった。 |
ゆりりん☆ | #17☆2006.08/29(火)22:24 |
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朝食を食べ終わり、四人は紀和に導かれて一つの部屋へ入った。 「…では晴香と愛里。お前達には今日から秘伝のポロックの材料を採って来て貰う。」 晴香と愛里が正座をして、紀和の話を聞く。 「午前九時から出発し、この島内の森の中にある『山小屋寺』へ行き、そこのお坊さんに『木苺ジャム』を一坪分頂くのだ。これぞ正に最高の調味料になるのだよ。」 紀和はこれから晴香達のする事を説明し切った。 「分かりました!」 晴香はにっこり笑って、元気な挨拶を返した。 「じゃ、出発して来ます!」 そう言って屋敷を出ようと立ち上がった彼女だが―― 「ははは、早とちりはいけないよ。晴香。出発は何時だと言ったかな?」 「あ…すみません。」 やる気満々なのはいいが、急ぎすぎてしまうところが晴香の欠点だ。 「晴香ちゃん達、頑張ってね。」 「ありがとう、真弥ちゃん。」 屋敷の縁側で、長女の真弥と会話をする晴香。 「おばーちゃん、元気ハツラツでしょ…えへへ、あれでも70代なんだよ。」 「へえ…元気なんだね、紀和おばあさん。」 「うん。自慢のおばーちゃんだよ!」 …そのとき、時計の短針が『九』を差した。午前九時だ。 「そろそろ出発だね…じゃ、行ってくるね!」 … 「では、先にジャムを採って帰ってきた方に軍配を置くとする。軍配は合計三回。今から、一回目の軍配の行方が決まろうとしている。」 「…はい。」 「では、行っておいで。」 晴香と愛里は出発し始めた。夏菜と彩音は海野一家の後ろで、二人を見送る。 「心配ですね…五歳の女の子がたったの一人で…」 彩音が呟く。だが紀和はまたも豪快な笑い声を上げ、愉快に言った。 「なーに、大丈夫だ。あの子達なら無事に帰ってこれるよ。きっとね。…この私が言っているのだ、だから絶対に大丈夫だ。」 「ばーちゃん…」 椎がやれやれといった表情で呟き、空を見上げた。雲行きが怪しい。雲は黒い。 「お兄ちゃん、雨が降りそうだね…」 「そうだな。」 「万が一土砂降りになれば、あの和尚なら宿泊を承諾して下さるだろう。」 辰夫の一言で、一同の心の中が少し晴れた。だが本物の空は相変わらず怪しい。 「ふーん、姉ちゃんの弟子達で対決、か…面白そうだな。」 「そうだな。それより雨が降りそうじゃない?」 雲行きを心配している真志。龍雅はそれをよそに、晴香達の後をつけている。 「ま、万が一大雨にでもなったら俺達の出番だな。姉ちゃん達にばれちまうのは確実だけど。」 上着を頭に被りながら、龍雅は自分が晴香達の事を助けた時の事を色々と想像していた。 |
ゆりりん☆ | #18☆2006.08/31(木)01:10 |
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「ポケモンがいっぱいだ、この森。」 晴香は山小屋寺を探しつつも、野生のポケモンに気を取られてしまう。おまけに花はたくさん咲いているし、木漏れ日が綺麗だ。 「可愛いーっ。」 一羽のチルットが飛んでいく。そして足元には、ナゾノクサが跳ねている。木にはキャタピーやビードルもいる。 「自然がいっぱいだね。ワルツハーゲンと同じで…」 咲いている花を眺めながら、晴香が呟く。 「えーっと、次はこの看板の前で右に曲がるのね。よし!」 地図を折りたたみ、やる気が出た晴香。相変わらず雲行きは怪しい。 「見つからないな…」 地図を片手に、歩き回る愛里。だがこちらも、寺は見つからないようだ。 「晴香は…晴香はもう見つけたのかな…」 黒い空を見上げて、ワルツハーゲンを思い浮かべている。 「…」 「着いた!…でも、何もないな。」 晴香は地図に書いてある場所へ到着した。が、辺りには寺などなく、高くて細い岩でできた塔がぽつんと一本あるだけだ。 「ここが寺なのかなあ…?」 しかし入り口などない。黒い壁におおわれていて、所々に裂け目がある。 「ここから入れるかな?」 … 「おい、なんか危なそうだな。」 「確かに…」 茂みから、晴香の様子を観察する二人。 「よいしょっと…きゃあっ!」 「晴香!」 晴香はひびの隙間から塔内へ入った途端、悲鳴を上げた。何が起こったのかは分からないが、助けざるを得ないようだ。龍雅は茂みを飛び出し、モンスターボールを投げた。 「リザードン、だいもんじだ!」 龍雅のリザードンが強烈な炎で、隙間の穴を広げる。これで彼等も通れる広さになった。 「さ、行くぞ真志!」 「分かった!」 そう言って隙間を通ろうとした二人だが… 「うわ、中は真っ暗な上に床がない…もしや地下深くまであるのか!?」 「分からないけど…」 うまく、隙間の穴口に手を掛けている二人。 「…真志、お前早く降りろよ。」 「な、なんでだよ…お前が先に下りろよ。」 二人は顔を見合わせ、黙りこくってしまった。暗い上に何処まで落ちるのか分からない穴に、自分から飛び込むのは勇気がいる。 「…さっさと降りろよ!」 「だからお前から降りろって!」 ぶら下がったまま喧嘩をする二人。そのとき、真志の手が汗で滑り、穴口を離れてしまった。 「うわああっ!」 真志は心の準備もできていないまま、姿勢も整えていないまま深い闇へと落ちていった。 「真志!!」 龍雅が叫ぶが、既に真志の姿は暗闇の中へ消えていた。龍雅の叫び声だけが、この不思議な塔の壁を反射し、闇の底へと木霊していた。 |
ゆりりん☆ | #19☆2006.08/31(木)01:26 |
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ピチャン…ピチャン…一滴、また一滴。その度に波紋が広がる。 「痛…」 気が付くと、自分は不思議な空間にいる。穴に落ちる前よりは、何故だか明るい。電気を消して暫く経った部屋の中のように、白いものは目立って見える。それ以外の色のものも、次第に見えてくる。 「晴香!」 ハッと横を見ると、葉が固められてできたベッドの上に晴香が横になっている。額を初めとする顔面、そして足には小さな切り傷が数個できていて、気を失っているようだ。また、水色の制服も土で汚れていて、スカートは少しばかり破けている。 「…でも一体誰が?」 葉のベッドは、誰かが意識的に作ったものと見なされる。そこに晴香がきちんと寝かされているという事は、誰かいるのだろうか。 『コノ、コノ!』 「お前はコノハナ…?」 奥から一匹のコノハナが出てきて、晴香の横にリンゴを置いている。真志が呆気に取られていると、今度はナゾノクサやチルットなど、森に住むポケモン達が大勢出てきた。 「お前達は…」 ナゾノクサは晴香の額に、一枚の葉を乗せている。 「この葉っぱは…薬草の葉?」 真志がそっと葉に手を伸ばすと、一枚の葉が飛んできて彼の手の甲を掠った。 「いてっ…」 『ダネ、ダネダネ!』 掠り傷から流れ始める血を舐めていると、今度はフシギダネが現れた。どうやらさっきのはっぱカッターは、このフシギダネの仕業らしい。 「お前達…もしかして…」 するとゼニガメがみずでっぽうを噴射している。そしてその横ではジュゴンがれいとうビームを発射し、水を氷らせている。 『ゼニ〜』 ゼニガメが鳴くと、またも奥からニドキングが現れ、氷を粉々に砕いた。そしてゼニガメは粉々になった氷を数個拾い上げ、晴香の額に置いている。 「もしかして、晴香の看病をしているのか?」 真志が言うと、ポケモン達は一斉に彼の方を向いた。 「…そうだよ。少年よ」 「え…?」 いきなり、しわがれた穏やかな声が聞こえた。振り返ると、そこには一人の和尚が立っていた。 |
ゆりりん☆ | #20☆2006.09/03(日)04:04 |
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「少年よ…よく来たね、『山小屋寺』に。」 和尚は穏やかな笑みを浮かべて、真志を歓迎する。 「はあ…ここが寺、なのですか?」 「そうだよ。」 「そうですか…」 どうせなら愛里が落ちていればよかったのに――真志は惜しい気持ちになった。 「…何か用なのかい?この寺に…」 真志は一瞬黙った。ここで用件を言ってしまえば、晴香の勝ちは確実だ。彩音の弟という立場上、軍配を愛里に置くように仕組まなければいけない。 「…いいえ。でも、もうすぐしたらもう一人の女の子が来ます、そちらの女の子は『木苺ジャム』を求めてこの森へやって来ました。」 「ほほう…木苺ジャム、ねえ…ところでお前達、その格好は、もしやカナズミシティのワルツハーゲンからやって来たのかい?」 「はい。実は訳あって、『秘伝のポロック』を海野家の人物に教わりに来たのです、大黒柱の紀和さん曰く、ポロックの味付けに木苺ジャムが必要だと言っておりました。それで、自分でそのジャムを見つける事が課題で、その少女はジャムを探している、という訳です。」 「そうか。…ではそなたと、先程穴に落ちてきた少女は?」 「(ギクッ)え、あ…それは…諸事情により、言えません。ごめんなさい。」 「ならいい。ではその少女が来るまで待つとしようか。」 和尚が言ったときだった。真志の後頭部に、石頭が直撃したのは。 「…いってぇぇえぇえ!」 暫く経ち、真志が頭を押さえて叫ぶ。落ちてきたのは、やっと穴に落ちる決心の付いたらしい龍雅だった。 「おやおや…そちらの少年もジャムが目的なのかい?」 「いてて…何だって!?もしかしてここが山小屋寺なのか!それならつじつまが合うよな、そこのオッサン頭禿げてるし!」 龍雅はとんでもない失言をしてしまった。真志が真っ青になった。 「失礼な坊主だ。」 「坊主はお前じゃん。」 「龍っ!!」 傍で見ている真志は冷や汗が溢れ出ている。だが和尚は既に腸が煮えくり返っていた。 「そこの奴にジャムは渡さん!!礼儀がまるでなっとらん!!」 「あーあ…」 「すみません、和尚さん。だけどジャムが必要なのは俺じゃなくてそこの女の子なんですよ。」 龍雅が言い、和尚は晴香の方を向き、そして真志を問い詰めた。 「何?そちらの少年、先程『この子は違う』と言わんかったか?」 「えっ、あっ…!」 「真志、抜け駆けしようとしたのか?もしや…」 「ち、違…!」 和尚は終にカンカンに怒ってしまった。 「お前達は無礼者に卑怯者だ!!チルタリス!!」 『チルー』 「うわあぁあぁぁ!!」 チルタリスに吹き飛ばされ、二人は半ば強制的に寺から追い出されてしまった。そして突き上げられながら穴の出口へと吹き付けられてしまった。 「うーん…」 晴香が目覚めると、身体中が痛い。しかし自分は固められた葉の上にいるし、何やらここは洞窟のような場所だ。 「ここは…」 「…『山小屋寺』だよ。ようこそ、お嬢ちゃん。」 悪いのは先程の少年達で、少女に罪は無いのだからと、優しくする和尚。 「木苺ジャムを探してるんだろう。私が用意しておいたぞよ。」 「えっ!?ホントにここが寺なの!?」 「そうだよ。ほれ。」 和尚は晴香が眠っている間に、ジャムの用意をしておいたらしい。日本古来の壷にきっちり入ったジャムを、差し出した。 「わあ!ありがとう、お坊さん!」 晴香はにっこり笑う。和尚は微笑み返す。 「あ、でも私、穴に落ちちゃったんだ…どうやって帰ろう?」 「大丈夫だ。フシギバナ。」 『バナッ』 フシギバナはつるのムチで晴香を巻き付け、ゆっくりと上へ挙げて行く。初めは真っ暗だったが、だんだん上が明るくなっていく。やがて、先程晴香達が通り抜けた塔のひびが見える高さになった。 「ありがとう、フシギバナさん!」 その声が届いたのか、ムチがゆっくりと晴香を解いた。晴香は器用にひびの裂け目に手を掛け、そこから外へ脱出した。 「結局見つかりませんでした。」 日も暮れかかっていた頃。愛里が残念そうに紀和に報告している。 「そうか。ではもう一人…晴香の帰りを待とう。」 彩音は眉を吊り上げた。愛里はビクッと、縮こまった。 (晴香はまだかしら…) 夏菜は彼方に見える夕日を眺めて、晴香の帰りを今か今かと待っていた。 「遅れてごめんなさい!」 遠くから、晴香が走っている。その手には、壷がちゃんと持たれている。 「晴香!木苺ジャムは手に入ったのかね?」 「はい、もちろん!」 晴香が満面の笑みを浮かべて、ジャムの壷を紀和に差し出す。紀和は壷を受け取る。 「一回戦は晴香の勝ち、という事だね。では明日から早速二回戦を行う!」 一番星が輝き始めた空に、紀和の甲高い声が響いた。カラスの鳴き声が聞こえる…。 「ヒック…」 部屋で、愛里は声に出さずに泣く。拳に涙が数滴落ちている。 「泣いてる場合ではないわよ、このまま引き下がるもんですか…見てらっしゃい。」 彩音は愛里を窘め、そして歯を噛み締めて襖の向こうを睨んだ。 |
ゆりりん☆ | #21☆2006.09/03(日)04:29 |
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疲れ切っていた晴香と愛里は、すぐさま眠ってしまった。 「あらら、夕飯も食べずに…」 多恵がクスッと笑う。 「布団を敷いて移動をさせよう、風邪を引いて競い合いどころでは無くなるからな。」 辰夫が布団を出し始め、椎が二人を抱き上げる。 「明日はいよいよ二回戦だね、おばあちゃん!」 「そうじゃな…軍配はどちらに置かれるのか楽しみだ…」 紀和の口元が微かに笑った。 翌日。また、紀和の部屋で話を聞く二人。今度はまたも飾り付け用に『秘伝のお茶の子』という葉っぱを集めてくるらしい。 「今度は場所から何から全て自分達で情報を集める事。」 「はい!」 「相変わらずいい返事だね。では昨日と同じ九時に出発しなさい。」 … 「いい?愛里。この金貨を一枚ずつ貧乏な家に配って行って、それと引き換えに情報を集めるのよ、いいわね?」 「はい…」 愛里の心境は複雑になり始めていた。だが、彩音はそんな愛里の様子などお構いなしに金貨の袋を愛里に渡した。 「行ってきます!」 二人は再び出発する。海野一家と師匠達は二人を見送る。 「気をつけてねー!」 … 「わあ、こんな所もあったんだあ!」 『ムロ島集会所』という看板がある大きな家。晴香はそっと家の中へ入ってみた。 「中も広ーい!」 中は大きなテーブルやソファー、テレビが目立つ。しかし中にいて何かしていた人々の視線は、一気に晴香ヘ集中した。 「あれ、見慣れない顔の子だね。」 「いやいや、あの服はもしやワルツハーゲンから来たのでは?」 入ってきた晴香を見るなり、人々はひそひそ噂をしている。 「あ、あの!」 晴香が勇気を出してお茶の子の詳細を聞こうとした。 「えっと…私、実はワルツハーゲンから来た徳宮晴香といいます!それで…訳あって秘伝のポロックを作りたいんです、海野紀和さんはそれには秘伝のお茶の子が必要だと言っていました!…それで…えっと…何か知ってる人がいれば教えて下さい!」 その途端、空気が変わった。 「海野紀和さん、だって…」 「なんだ、海野一家には承諾済みなのね。」 「ならば教えてもいいかな。」 数人の町人がこちらへ寄ってきた。 「秘伝のお茶の子はね…ここからずっと西へ行った浜辺にある小屋へ行けば何か知ってる人がいるかもよ。」 「ホントですか!?」 「ああ。行ってみれば分かるよ…」 晴香の顔はぱあっと明るくなった。 「ありがとう御座います!失礼しました!」 一目散に家を退出し、西の浜辺へ向かって走り出した晴香。 一方、愛里は――… 「この金貨と引き換えに、情報を教えて下さい。」 「…嬢ちゃん、もしやワルツハーゲンの者なのではないのか?」 「はい、そうです。今回は訳あって秘伝のポロックの材料を集めております、海野家に只今宿泊しつつも材料を集め中なのです。」 丁寧に挨拶をする愛里。町人は人当たりのいい人が多かった為、情報はすぐに集まった。 「よし、西の小屋を目指せばいいんだな…」 「森を抜けたら次は洞窟が見つかったってよ…」 あれから何とか一晩、森の中で空腹を凌いだ二人。やっとの事で森を北に抜けた先には、洞窟の入り口が待ち構えていた。 「…この中で過ごそうか。今日は。」 「そうだな…食べ物があればいいけどな…」 二人の少年は空腹に堪えかねていたが、何とかそれを我慢しつつ、洞窟へ足を忍ばせた。 |
ゆりりん☆ | #22★2006.09/04(月)05:06 |
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晴香はムロ島の北にある浜辺を走り続けた。砂浜に小さな足跡が点々と続いている。 「…ん?」 晴香は途中、釣りの途中と見られる人に出くわした。 「釣りをしてるんですか?」 「え?うわあっ!」 いきなりひょっこり顔を出した為、相手はかなり驚いた模様。その拍子にうっかり手を放してしまい、釣りざおが海の中へドボン。 「あ…あの…」 釣りざおが落ちてしまったとおろおろする晴香だが、釣り人は頭を抱えて嘆いた。 「ど、どうしてくれるんだ小娘!あの俺の使っていた釣りざおは最高級の超プレミア物だったのに〜!!やい、小娘!!お前が代償として海へ潜って釣りざおを拾って来い!!」 「えっ…私これから用があるんです!」 「駄目だ!俺の釣りざおを海へ落とした罪は重い!」 「そんな…」 「ここ…かな。」 愛里は古びた一軒の小屋の前に立っていた。後ろを振り返ると、やはり砂浜に自分の歩いた小さな足跡が点々と続いている。 「…よし。」 ピンポーン。 「はい。」 中から出てきたのは、ぼろの着物と草履を身に纏った、少女が出てきた。 「あの…私はカナズミのワルツハーゲンから来た見習いコーディネーターで御座います。」 「はあ、そんな遠くから…それでうちに何の用ですか?」 「訳あって、私達は秘伝のポロックを作ろうと試み中なのです。海野紀和さん曰く、それを作るには秘伝のお茶の子が必要だと聞きました。そして町の人からの情報曰く、北西部の小屋でヒントを得られるとの事なのです、何か情報をお持ちでしょうか?」 少女は目を大きく見開いた。そしてくすっと笑った。 「そう、実は私がその町人曰く『秘伝のお茶の子』の持ち主なの。あ、私は佐原 寛子(さはら ひろこ)よ。」 呆気にとられる愛里。寛子はとりあえず愛里を家の中へ招いた。 「なあ、ちょっとやばいんじゃない?龍雅…」 「だな。ここはいっちょ助けに行こうか。」 洞窟の入り口で止まっていた二人は、晴香と釣り人が近くにいるのに気付いた。そして何やら揉めていると察知した龍雅は、喧嘩っ早い根性が災いして、すぐさまダッシュで二人の元へ駆け出した。 「ちょ、龍!」 まだ何も決めていないのに行動に走るのが龍雅の性分。真志が呼び止めるのも聞かず、龍雅は砂浜を走り抜けた。 「あいつ〜!!」 真志は半泣きで龍雅を追いかけて、洞窟を出た。いよいよ自分達の存在が知られるという決心は凡そ着いてはいたようだ。 |
ゆりりん☆ | #23☆2006.09/04(月)05:25 |
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「ゴルァ!!俺の姉貴の弟子をいじめてんじゃないぜ!!」 「な…誰だよ小僧!」 「りゅ、龍雅様!?どうしてここに…」 「詳しい話は後だ、とにかく行くぞ!晴香!」 龍雅が晴香の手を引いた時だった。 「待ちな、坊主。」 釣り人が再び呼び止める。 「何だよオッサン。」 相変わらず態度の悪い龍雅。和尚同様、釣り人は龍雅の態度に怒りを露にした。 「生意気だぞ坊主!弟子だか何だか知らないけどなあ、俺はこいつに釣りざおを落とされたから海に潜って拾って来い、と言ったんだぞ、何か文句があるか!」 「こいつはなあ、大事な用があるんだよ!そこまで言うなら俺が拾ってきてやる!」 苦し紛れに龍雅が発言した途端、釣り人の顔がにやっと笑った。 「それは本当か?」 「ああ、ホントだとも!!」 しゅる…龍雅は制服の紐を解き始めた。そしてズボン以外は全て脱ぎ始めた。 「龍、ほ、本当に行くのか?」 全速力で走ってやっと着いた為脈拍が非常に早くなっている真志が、苦しい胸を押さえながら訊く。龍雅はこくんと頷き、脱いだ制服を真志にパスした。 「…じゃ。」 龍雅は海の中へ飛び込んだ。 「晴香、早く行け。」 真志が晴香に耳打ちする。晴香はうろたえながらも、小屋を目指して走り出した。 「…愛里ちゃん、これが『秘伝のお茶の子』よ。」 寛子の家は茶道教室らしい。しかしこんな町外れに小屋がある為、あまり教室に学びに来る者はいないらしい。彼女の着ている着物がぼろな事から、その事がよく分かる。 「ありがとう御座います。」 愛里は深々と礼をしながら、お茶の子の入った瓶を受け取る。 「じゃ、私はこれで…」 そう言って愛里が立ち上がったときだった。 ピンポーン。 「あら、またお客様?」 寛子が玄関へ出る。するとそこには、長い距離を走ってきたと見なされる、顔を真っ赤にして息切れしている晴香の姿があった。 「も、もしかして愛里ちゃんのお友達?」 「はい、私は晴香といいます、秘伝のお茶の子を貰いに来ました!」 「そう…愛里ちゃん、少し分けてあげて。」 「え…?」 すると中からは愛里が瓶を持って出てきた。 「…お茶の子はもう、私が貰ったよ。寛子さん、お世話になりました。」 愛里はそれだけ言うと、何処か苦しそうな表情ですたすたと歩いて行ってしまった。 「あれ?晴香ちゃん、愛里ちゃんとお友達なんじゃないの?」 不思議そうに愛里と晴香の姿を変わりばんこに見る寛子。晴香は二回戦に敗れたショックで、涙を一拭いすると、寛子に礼だけして、走り出した。 |
ゆりりん☆ | #24☆2006.09/04(月)05:42 |
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負けたんだ。私、負けちゃったんだ――… 砂浜で立ち止まり、涙を拭う。視界が霞んで見える。 「あれ…?」 ぼんやりと、二人の人間の形が見える。目を擦ると、その姿ははっきり見えた。 「真志様!」 真志と釣り人だという事を認識した晴香。彼等の方へ走って行く。 「晴香…どうだった?」 「…駄目でした。愛里がもう先に到着していて…」 「そう。」 自分の姉の弟子が勝ったというのだから、本来真志は喜ぶ立場にいる筈だが、何故だか彼の心境は複雑だった。涙ぐんでいる晴香の頭にぽんと手を置いた。 「と、ところで龍雅様は?」 「それが、まだ戻って来ないんだ。」 「そうですか…じゃ、私ここで待ちますね。」 水平線に、壮大な夕日が沈んで行く。一日も、もう終わりに近い。愛里はもう海野家の屋敷に到着して、軍配を貰っているのだろうか…晴香は夕日を眺めながら呟いた。 「くそ、ポケモンが邪魔して中々…」 龍雅は釣りざおを見つけたものの、メノクラゲが大量に泳いでいるお蔭で中々手が伸ばせない。おまけに海水パンツではなく制服のズボンを履いている為、足が重い。 「うっ…」 酸素が足りなくなった。龍雅は一旦海面まで上がる事にした。 ザブン。 「龍!見つけたか?」 プハア、と息を継ぐ龍雅。海水で濡れた髪の毛は、ぺったり頭に貼り付いている。 「いや、見つけたけど…メノクラゲが邪魔するから取れないんだ。」 「そう…じゃ、これ使えよ。」 真志はモンスターボールを懐から出し、龍雅にパスした。モンスターボールからはカメールが出てきた。 「そいつの攻撃は結構強力だし一時的にポケモンを追っ払う事も出来ると思うから。」 「ありがとよ、真志!」 龍雅は再び海へ潜った。釣り人は待ちくたびれたようで、そこら中をうろちょろ歩いている。 「取れたぜ!」 龍雅が再び水面へ上がってきた。その手にはちゃんと釣りざおが持たれている。 「おお、やるなあ坊主。」 釣り人は釣りざおを受け取り、龍雅は海から上がった。海水が髪や手から滴り落ちては、砂浜に水滴となって落ち、染み込む。 「ちょ、俺もう…駄目…」 疲れがどっときた龍雅は、海から上がってくるなり倒れてしまった。 「龍!大丈夫か!?」 「龍雅様!」 倒れた龍雅を負ぶおうとする真志。しかし濡れている為か、いつもより重い。とても、海野邸まで担げるとは思わない。 「…しょうがねえなあ。俺が負ぶって行ってやる。」 「え!?」 「なあに、遠慮はいらん。それにこの坊主は釣りざおを拾ってくれたんだしよ。ところでお前達の寝場所は?」 釣り人は龍雅を負ぶうと、二人に道を訊いた。二人は顔を見合わせた。 (ど、どうする?) 「(…仕方ありませんね。)海野邸です。」 晴香が恐る恐る答え、釣り人はよっしゃあと言うと、龍雅を負ぶいなおして歩き出した。真っ赤な夕暮れの海を背景に… |
ゆりりん☆ | #25★2006.09/04(月)06:05 |
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翌朝、真志が目覚めると、布団の中だった。 「あ…そうだった…」 昨日あの後、海野邸まで帰って、姉達を大層驚かせ、着いてきた成り行きを説明し、龍雅が倒れたという事実もきちんと説明し、海野邸に宿泊させて貰えるようになったのだ。 「真志、朝食できてるわよ!」 「はーい…」 真志が食卓へ向かうと、そこには昨日の疲れは何処へやら、呑気に牛乳を飲んでいる龍雅の姿。彩音や夏菜、晴香に愛里、そして海野一家も朝食を食べ始めている。 「お、お前もう回復したのか?」 「もちろん。この俺様が一晩寝てリフレッシュしない事はあり得ないだろ。」 コトンと空になった牛乳瓶をテーブルに置き、口に周りに着いた牛乳を拭く龍雅。彩音が隣の空いている席の椅子を引き、真志に座るように言った。 「…晴香ちゃん達、今日はいよいよ最後だね!」 真弥が満面の笑顔で言う。愛里は黙っているが、晴香はそうだね、と言って笑い返した。 「ところで龍雅達は、二日間ずっと何処にいたの?」 夏菜が口に運ぼうとしていた箸を持っていた手を止め、龍雅に問いかけた。 「さあね。…野宿だよな、真志。」 「…まあな。」 「凄いな、お前等…」 椎が呆れたように呟く。隣では辰夫が二人の野蛮さに爆笑している。 {愛里、今日は最後の決戦なのだから何としてでも勝つのよ。そうしたら…秘伝のポロックを作る権利はお前に渡るんだから。} {はい…} 愛里は小さな声で返事をすると、目玉焼きが刺してあるフォークを口に入れた。 「…じゃ、ごちそう様。」 紀和がカタンと箸を置き、口を拭く。次に出る言葉は、もうお約束だ。 「…では本日、三回戦―決戦を行うよ。また部屋で話すからね。お前達、朝食を食べ終わったらすぐにいつもの部屋へ集合。」 紀和はそう言い切ると、部屋へ向かった。多恵が食器を台所へ運ぶ。 「では三回戦について説明する。」 空気が張り詰めた。いよいよ今日で勝負が決まるのだ。 「お前達には伝説の木の実『スターの実』を採ってきて貰う。この木の実はここからまたも北西にある洞窟の中にあるという。但しこの木の実は大変珍しい幻の実とされていて、採集しようとした者はいるが、実際に採集した者は誰一人としていない。」 いつもに増して、口調が重い紀和。相当、見つけるのが難しいのだろう。 「…今回は洞窟の中を探索するのだから、五歳の子供だけでは危険だ。という訳で龍雅は晴香に、真志は愛里に付き添いをしなさい。」 「はい。」 返事はしたものの、やっとこさこの屋敷でゆっくり過ごせると思っていたのにと、二人は少し憂鬱気味だった。しかし紀和がそのような事を気にする筈も無い。 「…では九時に出発しなさい。」 紀和のその最後の一言で、話は終わった。一行はゆっくりと部屋を退出し始めた。 |
ゆりりん☆ | #26☆2006.09/07(木)07:42 |
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龍雅は晴香の手を引いて、洞窟の中へ進む。自分の持参していたライチュウのフラッシュで周りは明るいものの、領域が少ない為、見えにくい事に変わりはない。 「怖い…」 「大丈夫だって。」 ズバットが飛び回る様子が窺える。また、チョロチョロ流れる水の音も聞こえる。 「…最深部に、スターの実があるって聞きましたね。」 「ああ。見つけるのは相当難しいらしいけど。」 … 一方、真志と愛里は穴を掘って地下へ進もうとしていた。 「小さい女の子に洞窟を探検させるよりはましだろ…」 真志のサンドパンが地面を掘っている。 「スターの実が本当にあるのか心配です…」 「…そうだな。」 もし晴香達が勝てば、自分は姉に責められる立場に強制的になるだろう。真志は穴へ潜り込むまでの間不安と焦りが募っていた。 「どっちが勝つかな。」 海野邸では、紅茶の入ったカップを手に、紀和がにやけている。 「おばあちゃん、やはりあの洞窟は危険なんじゃ…」 「なあに、危険だからこそ遣り甲斐があるってもんだよ!」 椎と真弥が心配しているが、当の紀和は何のその。 「まあ、スターの実と木苺ジャムとお茶の子でもう秘伝のポロックを作る材料は十分に揃うからね…ラストスパートだよ。」 (早く帰ってきなさい、愛里、真志…) 彩音は苛立っていた。これでもし軍配が相手に置かれたら、自分達の負けは確実。しかしこの勝負で勝てば、勝ちが確実になる。まさに『一か八か』の状態だ。 「今日の夕方頃に四人が帰ってくるとすれば、ポロックを作るのは明日になるね。」 「そうでうねえ…きっと二方ともお疲れでしょうしね。」 多恵がおほほほと笑い、朝食の食器を流しに台所へ向かった。 「オニドリル、かぜおこし!」 龍雅のピジョットのかぜおこしが、野生のマクノシタに命中する。 「かっこいい、龍雅様!」 「そうか?ポケモンで戦うなら真志の方が凄いけどな。」 「いえいえ、龍雅様も十分凄いです!!」 感激している晴香。龍雅ははいはいと言い、足を一歩一歩踏み出す。 「最深部、って言われてもなあ…」 このまま洞窟の中で永久に出られなくなったら…という考えが、彼の脳裏に浮かんで消えた。しかしそんな不安は拭いきれない。 |
ゆりりん☆ | #27★2006.09/17(日)17:08 |
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…「うわああっ!!」 「どうしました、龍雅様…きゃあっ!」 ズバットの大群に襲われた二人。逃げようと足を踏み出した途端、穴に落ちたのだ。 「助けて!!」 無駄だと分かっていながらも、叫んで助けを求める晴香。 「晴香っ…」 穴に落ちて行く二人… 「あれ?」 一方、穴を掘り進んでいた二人は不思議な空間へ着いた。どうやらここから上に行けば洞窟に通じるらしい。 「綺麗な場所だな…少し休む?」 「はい…疲れましたね。」 愛里はしゃがみ込む。地面の手触りから察するに、この空間は鍾乳洞だろう。 「…ふう。」 真志はため息をひとつ吐き、愛里の横にしゃがみ込んだ。 「うわああ…」 「え?」 上から聞き覚えのある叫び声がしたかと思った真志。そして次の瞬間、自分は横に退いていた。そして、その行動は正解だった。もしもさっき自分がそのまま座っていれば、上から落ちてきた龍雅と晴香がまたも頭に直撃していただろう。 「いてて…ここは…?って、真志!」 「龍…お前達もここに?」 「いや、なんかいきなり穴が空いて、そっから落っこちたんだよ。」 「そっか。お前よく落っこちるよなー…」 そのとき、後頭部を押さえていた晴香の目にある物が留まった。 「あ…ねえ、愛里、龍雅様、真志様!」 「何だ?晴香。」 「あれ…」 晴香の指の先には、積み上げられた岩…そしてその上には、七色に光り輝く美しい木の実…『スターの実』が置いてある。 「わあ、綺麗!」 「本当だ…どうする?この場合…」 「え…」 二方が同時に発見したスターの実の行方に困る一行。だが愛里が口を開いた。 「…最初に見つけたのは晴香だから、この勝負は晴香の勝ちです。」 「愛里…」 「真志様。これは私の決断です。お許し下さい。」 「…そうか。」 「晴香、実を取れよ。」 龍雅に急かされ、木の実に手を伸ばした晴香。そのとき… ガラガラガラ!! 「きゃっ…」 いきなり岩が盛り上がり、その岩は全部繋がっているものだという事を証明した。そしてその繋がっている岩というのは岩蛇ポケモンのイワークだったという事も。 |
ゆりりん☆ | #28☆2006.09/17(日)17:19 |
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『…ようこそ。』 「え…?」 本来ポケモンは人間の言葉を話さない。だが、何故かこのイワークは口を動かしていないが、声は伝わってくる。 『俺はイワーク…この洞窟の最深部――『虹の空間』の番人をしている。』 「番人?」 『そうだ。もしお前達がこの木の実が目的でここへ来たのなら…俺を倒せ。もし俺を倒せたのならば、俺は負けを認めてこの木の実をくれてやる。』 そう言うなり、イワークはいきなり晴香達に襲い掛かってきた。 「危ない!」 足が竦んだ愛里。彼女を庇った晴香の腕に、イワークの固い尾が掠った。 「いったあ…」 「大丈夫か!?晴香!」 「はい…」 掠り傷から血が滲んでいる晴香を、龍雅は負ぶった。 「龍雅、逃げろ!俺が何とかするから…」 「え?」 「カメール!」 真志の投げたモンスターボールから、カメールが飛び出してきた。 「みずでっぽうだ!」 『カメッ』 ザバアア…大量の水がイワークに命中する。 『うわああ…分かった分かった、お前達の実力は認めた!』 イワークは苦痛に耐えかねたのか、そう叫んだ。真志はカメールにみずでっぽうを辞めるようにいい、モンスターボールに戻した。 『ふう…お前達、この俺を倒すとは中々だ…今までの人間は誰一人として俺を倒せず、すごすごと帰っていった。だけどお前達は力を合わせ、この虹の空間へたどり着き、そして俺を倒した。まあ俺を倒すには『根性』『勇気』『仲間を思いやる気持ち』がなけりゃ駄目だからな。仕方ない。この戦いはお前達の勝ちだ。さ、受け取りな。』 イワークは木の実を掴んだ尻尾を、一行の方へ向けた。 (どうする?晴香…) (…二人で、受け取ろう。) 尻尾の木の実を、そっと取る。その木の実は、とても固く、噂どおり伝説の木の実だ。 『じゃ、出口まで案内してやるよ。着いてきな。』 イワークの後に無言で続く一行。歩いている間、勝負の軍配の行方に関しては、あえて誰一人として触れる事はなかった。 |
ゆりりん☆ | #29☆2006.09/17(日)17:34 |
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さて、イワークに案内され、洞窟を抜け、海野邸を目指す四人。 「…楽しかったね。」 「そうだな。」 少年二人の後を歩きながら、余韻に浸る二人。 「さ、帰ったらシャワー浴びようぜ。真志。」 その前では龍雅が、泥だらけの顔を拭って真志に言った。 「お帰り。」 紀和がにこにこ笑いながら言う。 「ただいま。…これが木の実です」 せーの、と言い、晴香と愛里は二人で木の実を差し出した。途端、紀和がぶっと吹き出した。 「紀和さん?」 「ははは…イワークから話は聞いたよ。あれはあたしのポケモンだからね。」 「ええーっ!?」 二人は報告の方法に困っていたのに、当の紀和は初めから一連の流れが分かっていたらしい。 「この戦いはお前達二人の勝利だったんだってね。本当によく頑張ったね…」 紀和は二人の頭を撫で撫でした。そして屋敷の中へと一行を導いた。 「美味い!」 シャワー直後の龍雅は、只今四杯目のお代わりをしたところだ。 「よく食べるわね…龍雅。」 「当たり前だろ、今日は腹ペコだ!」 その隣では、鯖の味噌煮を口に放り込む真志。こちらも風呂上りの為髪の毛が濡れていて、首にタオルを掛けている。 「…よくやったわね、晴香。お疲れ。」 「はい、夏菜様!」 晴香はにっこり微笑む。 「それで…勝敗の行方はどうなるの?」 一人、場の空気が読めていない彩音。折角これまで、誰もが無言で伝心していた事なのに、この一言でそれが台無しになってしまった。 「…そうだねえ、引き分け、だね。」 紀和があっさり返事をする。しかし彩音の性分から、これで彼女が納得いく筈が無い。 「むむ…」 愛里は隣の席で、浮かない顔をして彩音の表情をじっと観察していた。 「私達は、今夜の船で一足先に帰るわ。」 突如、カタンと箸を置いて立ち上がった彩音が宣言した。全員の視点が彩音に集まる。 「そんな…いきなり何故?」 「…愛里、夕食が終わったらすぐに荷物をまとめて。今夜八時出航の船に乗るわよ。」 彩音はそう言い切ると、荷物の置いてある部屋へと姿を消してしまった。 |
ゆりりん☆ | #30★2006.09/17(日)17:53 |
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「…どうしたんだろうね。」 大きめの一口コロッケを頬張りながら、紀和が言う。 「さあー?真志お兄ちゃんはどうするの?」 「あ…じゃ、俺も一応帰る。」 「真志…」 「…ごめん、龍。」 真志は空になったお茶碗と箸を置き、姉と同じく荷物の置いてある部屋へ向かった。 「ちぇーっ。」 龍雅が不満そうに言う。一方の愛里も夕飯を食べ終えたようで、師匠とその弟を追いかけて向こうの部屋…荷物の部屋へと消えた。 「…そっか、愛里帰っちゃうんだ。」 晴香は少し落ち込み気味。 さて、日はどっぷり暮れ、空には星が輝くようになった。 「じゃ、晴香、秘伝のポロックの作り方を訓えるよ。ポロックの作り方は基本と同じ。だが、木苺ジャムやお茶の子の量が味の味噌なんだ。」 紀和の話をメモに取る晴香。紀和は横で、スターの実を切っている。基本的に作り方はワルツハーゲンで習った事と同じだから分かるのだが、所々のコツを掴まなければ、秘伝の味とは言えない。 「まず、木苺ジャムは大さじ一杯分、だ。ポロックを八個作る場合はね。それからお茶の子はほんのちょびっとだけでいいんだ。香りをそそる物だからね。」 紀和は擂ったスターの実と他材料、そして木苺ジャムにお茶の子をボールに流し込み、泡だて器でかき混ぜた。とは言っても、材料をボールに入れてかき混ぜるというのはワルツハーゲンのやり方と同じなのだが。 「…そしてこれを型に流し込んで冷やせば…OK。」 紀和は氷水の入った壷に型を放り込んだ。これで冷凍すれば、ポロックが完成するのだ。 「やったあー、秘伝のポロックの作り方分かっちゃった!」 喜ぶ晴香の手のひらに、紀和が三つの種を握らせた。 「これはスターの実の貴重な種だからね。これをワルツハーゲンの庭園で埋め、他のコーディネーターに伝授していくのだ。」 「分かりました!」 晴香はにっこり笑い、受け取った種を大切にしまった。 翌朝―― 「ありがとう御座いました!」 「いやいや、どう致しまして。」 「晴香ちゃん、またきてね、ばいばい!」 海野一家に見送られ、晴香、夏菜、龍雅はムロ島を後にする。 「楽しかったですね。」 「そうね。その種は大切に取っときましょ。」 「はい!」 そう言いながら、三人は船に乗り込む。そして船はついに港を離れた。 「さようならー!!」 「またねー!!」 手を振る晴香。海野一家は船が小さくなるまで、一行を見届けた。 |
ゆりりん☆ | #31★2006.09/18(月)13:28 |
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「こら、ゴンベ!木の実をつまみ食いしちゃ駄目!…きゃあっ!」 台の上に置いてある木の実をいくつか平らげてしまったゴンベ。飼い主のあいしゃに見つかるなり、機敏に逃げようとする。 「んもう、怒られるのは私なんだからね?」 『ゴン〜』 そこへ。 「あいしゃ…」 「愛里!お帰り。あ、彩音様もお帰りなさい。」 彩音は船酔いしていたようで、ふらふらと自分の部屋に戻っている。愛里はあいしゃにコクリと頷くと、彩音の後を着いていった。 (そういえば晴香達はまだなのかなあ…) 「んー、疲れた疲れた。」 龍雅は座ったまま眠りこけている。晴香は甲板で、小さくなっていくムロ島を眺める。 「ありがとう…海野さん。」 晴香は懐から、ティッシュに包んだあの秘伝のポロックを三つ取り出して、モンスターボールからアチャモ、サンダース、チルットを出した。 「食べてみて?」 『チャモ?』 そう言われたアチャモはポロックのにおいを嗅ぎ、くちばしで啄ばんだ。 『…チャモ〜ッww』 「美味しい?」 『チャモチャモ!』 アチャモはたちまち、ポロックひとつを全部平らげてしまった。一方のサンダースとチルットも、ポロックをがつがつ食べている。 「よかった。美味しくできたんだ…」 晴香はスターの実の種を三つ、大切にティッシュに包んでしまってある。 「え?」 「加寿子殿、実は…」 その頃加寿子は、部屋に訪問へきた事務長から重大発表を聞かされていた。 「実は、ホウエン地方の頂点にいる、あのカリスマ天才コーディネーターが、来月ここに訪問に来ると連絡が入ったのだよ。」 「そ、そうなのですか…ではお持て成しの下拵えが必要ですね。」 「そうだ。夏菜殿や晴香殿、龍雅殿が帰還したらこの事を報告するように。」 |
ゆりりん | #32★2006.09/18(月)20:34 |
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えー、ログ飛んじゃったので続きは別所に書きます。 アドレスは後ほど貼りますねー。 …まあ、文章は保存して置いてたから大丈夫だけど(遠い目) ってか書くこと無いよorzエラー出るから何か書かんとあかんらしいけど。 まあこれから新展開だから見てくれてる数少ない人は瞬きは禁物です(滅) 後、サブキャラの方が活躍するかも。 |
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