ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[633] 短編な存在

ラング #1☆2005.02/21(月)19:49
僕と君の思い出の場所。
草、風のにおい、やさしく僕らを照らす太陽。
以前と何も変わっていなかった。


        草原にて


 僕はその日、草原に出た。
ご主人様が休憩をするので、しばらく自由にしていいとのことだ。
僕は久しぶりに草原の風を受けた。
故郷である草原の大地を久しぶりに踏みしめる。
 とても懐かしい想いがこみあげてきて、僕は思わず駆けだした。
草をかきわけて走るこの感覚は本当に久々だった。
この草原の草の匂い、肌身に感じる風、どれも僕は好きだった。
(昔はよくこうやって走ったなあ…本当に懐かしいよ)
立ち止まってそんな感傷に浸っていた僕の背後に、誰かが近づいてくるのを感じた。
 僕は振り返って、ハッと息をのんだ。
そこにいたのは昔、僕と一緒にこの草原を駆けた仲間だった。
「よう、久しぶりだな…」
彼は僕に話しかけてきた。妙によそよそしさを感じてしまったのは僕の気のせいだろうか。
しばらく会わなかったせいか、一瞬彼が別人のように思えてしまったが、よく見ると昔の面影が残っており、彼だと分かる。
「う、うん」
僕はぎこちない返事を返した。何を話せばいいのか分からない。
昔はよく、くだらないことを言い合ったりして笑ったものだったのだが。
「お前、人間についていっただろ」
僕は頷いた。彼の表情が妙にこわばっているように見える。
昔、この草原に来たトレーナーに僕はついていくことにしたのだ。
そのトレーナーは僕が今も信頼していた。
「…どうしてだ?」
「え?」
「どうしてかって聞いてんだ」
彼は少し強い口調で僕に尋ねる。
僕は黙って考えた。

トレーナーが信頼できる人だったから? 

この草原に飽きていたから?

バトルに負けて逆らえなかったから?

色々な言葉が頭の中に浮かんでは消え、消えてはまた浮かんできた。
理由なんてそう簡単に出てこない。彼はどうしてこんなことを聞くのだろう?
ca9d68-238.tiki.ne.jp
ラング #2☆2005.02/21(月)19:50
「…分からないんだったら、人間と一緒にいる意味ないだろ?」
「そんなことないよ」
僕は首を横に振る。
人間といるのが嫌だったのなら、出会ったときにさっさと逃げ出していたはずだ。
「なあ…戻ってこないか。この草原に。また俺と一緒にこの草原を走ろうぜ? 草の上に寝ころんで空を眺めようぜ、なあ?」
彼の必死さに少し戸惑ったが、僕はすぐに冷静になって答える。
「悪いけど、それは出来ないよ」
彼は僕の答えに衝撃を受けたのか、息を呑む。
そして言う。興奮と怒りと迷いの入り交じったような口調で。
「なんでだよ…理由が見つからないんだろ? だったら」
「確かに人間といることで、自由に走り回ることは出来ないし、自分の好きなことが出来ない時だってあるよ…」
彼の動揺を僕は落ち着いて受け止める。
「…だったらどうして?!」
「でもね、失った自由の分だけ今まで感じることの出来なかった経験ができたんだ」
「経験?」
彼は首を傾げる。何とも言えない表情をしていた。
「いろんな町をみたり、他のポケモンとバトルしたり、どれもここでは出来ないことばかりだったよ」
「…」
とても嬉しそうに話す僕の様子に彼は言葉を失ったようだった。
無理もないかもしれない。
彼はきっと昔のようにまた一緒にいられると思って、僕に話しかけてきたんだろう。
まさか僕に断られるなんて思ってもなかったみたいだ。
彼のどこか悲しそうな表情は、僕にそう思わせた。

「…確かに人間と一緒にいることで、失ったこともあるよ。でも、その逆に得ることの出来た物もたくさんあったんだ」
彼は僕の方をじっと見る。濁りのない、彼の綺麗な瞳が僕の目に、そして彼の目にも僕の瞳が映る。
「お前は、自分の判断に間違いはなかったって自信持って言えるか?」
「うん…って言ったら嘘になるかもしれないけど、僕はそう信じたい。少なくとも、僕は人間と一緒にいて、不幸だと思ったことなんてないよ」
僕の答えを聞いた彼は、あきらめたようにふっと笑うと、
「お前は、戻ってくる気はないんだな…」
と、呟くように言った。
そんな悲しそうな表情の彼を僕は今まで見たことがなかった。
「うん、やっぱり僕の居場所は人間の所なんだ」
「…そうか、じゃあ一つお前に言っとくよ」
俯いたまま、彼は静かに息を付く。
少しの間沈黙が流れた。
「どんなに遠くに行っても、どんな楽しい経験をしても、お前の故郷はただ一つ…この草原だけだ。
俺はいつまでもお前のこと、友達だって思ってる…だから、俺のこと忘れないでくれよ。言いたかったことはそれだけだ。じゃあな!」

 彼はそう言って駆けだした。
身を翻した彼の瞳から一滴の涙がこぼれ落ちたのを、僕は知っていた。
「あ…」
僕は彼を追いかけようとして、足を止めた。
ここで追いかけても、未練が残るだけだ。次に会うことがあるかどうかも分からないのだから。
「…忘れないよ、君のことは絶対にね」
ここで言っても彼に届くはずはないのに、いつの間にか僕は口にしていた。
彼との会話、一緒に走った記憶、思い出――――それらが、自然と僕をそうさせていたんだろう。
昔の友の、小さくなっていく後ろ姿を僕はずっと見つめていた。


         END
ca9d68-238.tiki.ne.jp
ラング #3★2005.03/24(木)22:55

      私の隣には


 広く澄み渡る草原
 私はその真ん中に腰を下ろしている
 アイツは私の視線の先に腰を据えていた

 きっと私はまだ信じきれていないのだろう
 あれが本当にアイツなのかと

 大きく広がる真紅の翼
 四肢には鋭く尖った爪が見える
 いつの間にか背丈は私を追い越してしまった
 前に私の胸に抱いてあげていたのが嘘のようだ


 どうしてこんな不安な気持ちになるのだろう
 今までずっと一緒にいたはずなのに
 どうしてこんなにも落ち着かないのだろう
 側にいて安心できる存在だったはずなのに

 ひょっとして私は
 アイツのことが怖いのだろうか
 姿を大きく変えてしまったアイツのことを
 恐れているのであろうか

 そんな私の心の変化に気がついたのだろうか
 アイツは私に視線を向ける
 どこか寂しそうな瞳を


 そのとき私はハッと気がついた
 そのアイツの表情は
 昔私とアイツがケンカをした後
 アイツがいつも見せていた表情を
 思い出させるものだった


 どこか不安そうで

 寂しそうなその表情を


 私は何を迷っていたのだろう
 どんなに昔の面影を残していなくても
 どんなに姿が変わってしまっても
 アイツはアイツだ

 ほかの誰でもない

 昔から私の側にいたアイツ以外の
 誰でもなかった


 私は駆け足でアイツの側に駆け寄ると
 蒼くて大きな体を抱きしめ
 一言こう呟いた


 ごめんね と


 私に久しぶりに抱かれたのが嬉しかったのか
 それとも私の気持ちの変化を読みとったのだろうか
 アイツは甘えたように小さく声を上げた


 時はいろいろなものを変えていく
 それは人の心であったり
 誰かの姿であったり

 きっと私の心も
 時が経つにつれて少しずつ
 変わっていったのだろう


 たしかに昔と同じように接するのは無理かもしれない
 けど そんなことはもう気にならなかった
 私がアイツの側にいるように
 アイツも私の側にいる


 それに気がつくことができただけで充分だったから


        END
ca9d69-064.tiki.ne.jp
[633]

このページは http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/633.htm のアーカイブです。

ぴくの〜ほかんこ