風のグラエナ | #1★2006.07/15(土)23:51 |
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プロローグ 双子の兄は、行方不明になった。 ティニアとかいう世界の奴に、無理矢理この世界から引き離され、兄は、ティニアで行方不明になった。 「ユウキの、馬鹿野郎…俺をひとりにしやがって!」 何故、兄が、救世主に。 一方的に異世界へ招かれ、その戦いで行方不明―世界が平和になったのに対し、彼はあるべき場所には帰れず―それは、あまりにも理不尽すぎる。 ―なんで― 兄を呼び、兄を苦しめた世界が憎い。何よりも。 「…私が、憎いか。」 世界を憎む者の兄―ユウキを、ティニアへと呼んだ張本人―スイクンは、ケイに静かに尋ねた。 「…憎いよ。 何で、ユウキは呼ばれたんだ!?関わりの無いあんた達の為に!? 一方的に大役押し付けておきながらこの世界に帰ることすら許されねぇってのかよオイ!俺はこんなに待ってんのに! あんた達が、ユウキを苦しめてんだ!」 せき止められ、渦巻く感情が溢れ、爆発して、ケイを叫ばせた。 汚れた世界の空の下で、互いに支えあって生きてきた双子。 どちらが欠けても、自分達は― 「…否定は、しない。」 水の君主は、静かに目を伏せた。 そして、再び顔を上げ。その赤く透き通った瞳で、ケイを射抜くように見つめた。 「―お前は、真実を知りたいか?」「シン…ジツ?」 「−お前は自らが憎む世界を、見る事を望むか?」 |
風のグラエナ | #2★2006.07/16(日)22:25 |
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第1話 異世界ティニア そこは、ポケモンと人とが共に生きる世界、ティニア。 かつて別世界から”ヘイキ”と呼ばれる破壊の道具が用られ、ティニアが破滅されかけたときの傷跡は、五年経った今もいまだに残っている。 それは後に、ティニアへの侵攻者―エメラルドの名をとって、エメラルド・ショックと呼ばれるようになった。 「―ッ」 ケイは目を覚ました。 まず、飛び込んできたのは眩しいほどの、雲ひとつ無い青い空。 続いて、暑さを感じた。 「ここは…。」 何故か全身が激しく運動した後のようにだるかったが、ケイは体を起こした。 目に飛び込んできたのは、廃墟と化した町。 暑い風に乗って、砂塵が舞う。どうやら、この町は砂漠に位置するようだ。 ふと。カア、とカラスの鳴き声がした。 再び空を仰ぐと、5話の黒い鳥達が、ケイの上を舞っていた。 多分、この廃墟を縄張りとしていたのだろう。辺りには、人の屍―既に骨のみと化している―がどこかしこに転がっている。 久しぶりに見つけた新鮮な獲物―自分を狙っているのだろうか。 ―カア、カア。 「あれ…?」 目を眇めて、カラスを見ていたケイは眉根を寄せた。 カラスは―自分が知っている”カラス”ではないようだ。鳴き声はカラスだが、それはケイが知っているカラスより一回り大きくて、嘴も太かい。 なんとなく、嫌な予感がした。 ―刹那。 「カアァッ!」 「うわやっぱりいぃっ!?」 雄たけびと共に、カラスが5羽全て襲い掛かってきた! ぐるぐる、と輪を描きながら、ケイを中心とした包囲網を作る。 太陽の光を浴びて、カラスの嘴がきらり、と白く眩しく光った。 「−!!」 声にならない叫びと共に横へと転がり、カラスの第一波の攻撃をかわした。 カラスはすごい勢いで突っ込んできたくせに地面にぶつかることなく、ふわり、と器用に再び空へと舞い戻る。 「カラスが襲ってくるなんて聞いてねぇぞ!」 襲いくるカラスの嘴、爪をギリギリで交わしながら叫ぶ。 ―と。 空が、急に翳った―ような気がした。 「クケエェッ!」 カラスとは別の声があがる。 |
風のグラエナ | #3★2006.07/16(日)22:42 |
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空が翳ったように思われたのは、現在自分に襲い掛かってきているカラス(仮名)よりひときわ大きな翼の鳥が現れたからだった。 「ケエェッ!」 巨大な翼から起こされた風が、カラス達の輪を乱す。 色とりどりの鮮やかな翼を持った巨鳥は、ケイを庇うようにして地面へと降り立った。 「な、何だ…?」 なんだか良く分からないが、ケイのことを護るつもりでいるようだ。 巨鳥は、俺(♂と仮定)に任せろ、とでもいうようにケイに視線を投げかける。 (何で…。) 見ず知らずの人間を何故この人…じゃなくて鳥は護ろうとしてくれているのだろうか。 まあ、助かるのならこの際誰が助けてくれても構わない。 カラスの餌食になるよりはマシだ。 巨鳥は大きく翼をはばたかせてぶわり、と空へと舞い上がった。 その美しい翼が、金属質な銀色に輝く。 太陽の光の影響―ではなく。 ごいぃん! 「ピギャアッ!?」 豪快な打撃音と共に、カラスのうち2羽が巨鳥の翼に激しく叩きつけられ、墜落した。 普通に羽でぶつかったのなら、あんな硬い音は出ない。 あの翼は、本当に金属へと変質していたのか― 残りの四羽が挑みかかるものの、巨鳥は悉く彼等の爪を、嘴を交わし、自分の攻撃を必ずヒットさせるという、見事な戦いっぷりを発揮していた。 4VS1であるのに明らかに巨鳥の方が有利だ。 数分で、カラスたちとは蹴りがついた。 蹴りがついたところで、ふわり、と巨鳥はケイの目の前へと降り立った。 その黒い瞳が、ケイをじっと見つめる。しかし、そこに宿る光に、敵意の色は無かった。 「…有難う。」 ケイは思い切って礼を言ってみた。 すると―どうだろう。 巨鳥が、嬉しそうに目を細めたのだ。 人間のように。 そして。 『…ほぉ。本当に良く似ておるわ。』 喋ったのだ。人間のように、ではなく、まさに人間の如く― |
風のグラエナ | #4★2006.07/18(火)23:11 |
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「しゃしゃしゃ、鳥が喋ったあぁっ!?」 巨鳥もケイに驚いたのか、 『…御主、我が言葉を解す事が出来るのか?』 「へ?アンタが人間の言葉を喋ってるんじゃ…。」 『私はお前の言葉を話してはおらぬ。 おぬしが、我が言葉を理解しておるのじゃ。 稀に見るテレパシーという能力じゃな。』 巨鳥は続ける。 『お前に瓜二つのユウキという男は、お前のように異種族間での言葉を解す能力は無かったが、己のイメージを具現化する能力を持っておった。』 「ユウキのこと、知ってるのか!?」 巨鳥の口からユウキの名が出た事に、ケイは驚いて問うた。 巨鳥は小さく首を傾げ、 『…異世界より召喚され、この世界を救った者じゃ。 今は行方不明となっておるが。御主はユウキに瓜二つじゃが、ユウキと何かつながりがあるのか? もしや、双子か?』 その問いに、ケイは胸を張って答えた。 巨鳥が語る世界を救った者としての兄が、弟として誇らしかったから。 「おうっ!俺はその双子の弟のケイだぜ。」 『双子、か。弟が居たとは初耳じゃな。 じゃが、何故おぬしはここに?』 ケイは、スイクンに出会ってから、この砂漠の町で目覚めるまでの経過を簡単に話した。 『…真実、か。 それを探す気か。』 「ああ。そうだよ。 でも、この世界の事、全然分からねぇし。ちょっと困ってんだよね。」 『−ならば、私が御主についていってやろうではないか。」 「へ?」 突然の巨鳥の申し出に、ケイは目を丸くした。 確かに、この世界に住む彼(♂と仮定)ならば、良い案内役となるだろう。 「本当にいいのか?後から何か払わそうたって…。」 『人間どもが欲しがる金品など、私には必要ない。 自由気ままな身で、それも気に入ってはいるが、相手が居ないと時々つまらなくての。 そのお前の兄の真実とやらを探す旅に加わってやろうではないか。』 「本当に…いいのか?」 信じられないと言った様子で再び問い掛けてくるケイに、巨鳥は微笑みかけ。 『構わぬて。私も久々に人間と旅がしたくなってきた。 私はピジョットのゼウスという者だ。ゼウスと呼ぶがいい。』 「俺は、ケイ―改めて、ヨロシクな、ゼウス!」 こうして、ケイはピジョット・ゼウスと共に、ティニアへの新たな一歩を踏み出したのだった。 |
風のグラエナ | #5★2006.07/30(日)23:01 |
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第2話 北天の騎士 ズルズル…ズルッ… 薄暗い店内で、只管パスタを啜る音ばかりが響く。 ズルルッ…ズルッ… そこには、妙な緊張感ばかりが漂う。 人々は皆、少年が口にスパゲッティを運ぶ様子を真剣に見詰めていた。 そして。 「よっしゃー!完食!!」 「うわあコイツ本当に食いやがった!」 「胃袋ブラックホールじゃねぇのか!?」 少年と、その周りから大きな歓声が上がる。 少年の前のカウンターには、かつて超大盛りスパゲッティが乗っかっていた大皿。 その向こうに立っていた店の主人は、化け物でも見るような目つきで少年―ケイを見つめた。 「ほ…本当に15分以内で喰いやがった…。」 砂漠にある小さなオアシスの町、エルカーク。 そこにある小さな酒場、「飛竜亭」で行われていた大食いタイムアタックに、ケイは挑戦したのだ。 異世界から来た彼は金を持っていない。 しかし、そのタイムアタックに勝つと、逆に10ディール(日本円で約20万)もらえるのだ。 文無しでユウキを探す旅を続けるのは難しいだろうし、また兆度腹も減っていて、かといって砂漠に食えるものがあるわけでもなく、イチカバチカで挑戦してみた。 結果。チョロイ。 「さて。約束どおり、10万ディールいただこうか?」 不敵な笑みを浮べて催促してくるケイに、主人は恐ろしいといった様子で10万ディール入りの皮袋を渡す。 中身のぎっしりと詰まった金貨を覗いて、ケイは満足そうな笑みを浮べた。 「有難う。」 腹も懐も一杯になって満足したところで、ケイは情報収集に乗り出した。 「ところでさ。この辺でユウキ…”黒き狼”を見たって情報は無いかな?」 「”黒き狼”?ここ数年見てねぇけど。知り合いかい?」 「まあ、そんなとこ。」 ケイは現実世界にいた時点で髪を茶色に染めており、青いコンタクトをしていた。 その為、普通の人間にユウキと瓜二つ、とは写らないし、ばれることは殆ど無い。 彼の事をユウキと似ている、と言ったピジョットのゼウスの鑑識眼は対したものだ。 ケイの大食いタイムアタックが終了した事で、その場にいた傭兵や冒険者達は再び自分たちの話や、食事へと戻る。 「…やっぱりそう簡単には分からねぇか…。」 情報収集は酒場だというのは現実世界のロールプレイゲームでは定番の掟。 実際にその掟に従って酒場に行けば、いろいろな場所からの旅人達が沢山いた。 が、求めている情報を簡単に手に入れられるほど、ゲームと違って現実は易しくないらしい。 「幸先いいスタートが切れるとはおもわねぇけど、ここまで情報が無いってのもなあ…。」 兄はこの世界じゃ超有名人だ。行方をしっている者が1人や2人いても可笑しくはないと思ったのだが。 ふと、後ろから声をかけられた。 「…ユウキの知り合いなのか?」 赤い髪に、褐色の肌。 巨大な剣を背中に背負った男。傍らには、ブラッキーが控えていた。 「…まあ、な。アンタこそ、何者だ?」 「私は北天の竜・レバニスと言う者だ。お前のことについて興味がある。 …私は、かつてユウキと共に旅をした。」 「!?」 やっぱり物事は上手くいくように出来ている、という事か。 ユウキについて何の手がかりも無い世界で、手探りでここまで来て、ついに手がかりを見つけた。 「…詳しく話、聞かせてくれよ。 俺は、ユウキを探してるんだ。」 騎士は、ケイの顔を暫く眺めた後、意味ありげな笑みを浮べて、「良かろう」と答えた。 |
風のグラエナ | #6☆2005.05/22(日)16:43 |
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次の日。 二人は、闘技場にいた。 ブラックとゼウスは上の方から見ている。 ここの闘技場は、ポケモンバトルではなく殴りあい斬りあいの場所だ。 軽くウォームアップに体をひねったり柔軟体操をしつつ、ケイはユウキのことを考えていた。 「なあ。」 「何だ。」 「ユウキって、そんなに強かったのか?」 「ああ。この大会でストレート優勝した。」 「ふーん。」 最後に軽く壁をけって着地し、ウォーミングアップは終わりだ。 「第一回Aブロックは、お前からだ。」 「分かった。」 ケイは堂々と闘技場へと入場した。 皆が「黒き狼!」と叫んで歓声をあげる。 俺はあいつと違うんだよな、と思いつつケイは相手の大男に、構えを取る。 ケイは何の武術も持っていない。 ただ、戦うすべは現実世界にいたとき、尊敬していた先輩から教わった喧嘩のやり方だけだ。 あの先輩は本当に強かった。 「黒き狼かぁ…待ってた相手だぜ。俺はお前相手の対策を練っていたんだからな。」 「へっ。それがどーした。」 「??」 大男は実際に見たユウキとは違う態度に少し戸惑ったようだが、それでもこぶしを構えた。 「レディー、ファイッ!」 声が響く。 まっすぐに、男がこぶしを突き出してきた。 それを軽く体を逸らしてかわす。 スウェーバッグ、というかわし方だ。 「お前、ユウキの足元にもおよばねえや!」 笑ってまっすぐに蹴りを繰り出しながら、ケイは声をあげて笑った。 彼が習った喧嘩のやり方は、生半可な戦い方ではない。 あの荒れた世界で、生き抜くための戦い方だった。 空手とは違う戦い方に大男は思いっきり戸惑う。 「遅いって!」 先輩の方は、柔道をやっていてそれを喧嘩法(?)とミックスしたものを使っていた。 それを、ケイに教えてくれた。 ケイは相手の胸倉を思いっきりつかむと、勢い良く引き寄せる。 相手はバランスを崩してたたらを踏み、 「うりゃあっ!」 ケイのひざに、思いっきりカオを打ちつけた。 更に男の足を引っ掛け、 「とぅっ!」 柔道の技で、一気になぎ倒してしまった。 受身をとれず、大男は伸びてしまった。 「勝者、ケイ・マキハラ選手!」 歓声が響いた。 |
風のグラエナ | #7☆2005.05/28(土)10:56 |
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「むぅ…ユウキではない?ケイといわなかったか?」 「いったいどういうことでしょう…偽名を使おうにも、ユウキは自分の顔が有名であることは分かっているはず。 なぜ…。」 「まさか、コピーの魔術を使ったのでは!?」 双子説を思いつかないユウキの刺客・ザムとアリア。 その間にも、ケイやレバニスは、余裕で敵をなぎ倒していっていた。 「クエェ…。」 ゼウスが眉間にしわを寄せた。 喫茶店で見たやつらを見つけたのだ。ここからは一時日本語版でお送りしよう。 「おい、ブラック。 あれって…喫茶店で見たやつらじゃねえか?」 「お?そうだな…ケイとレバニスの方を睨んでいるが…。」 「ケイって、ユウキの双子だよな…今回のことで、ケイをユウキと勘違いしてこの大会で「合法的」に倒そうとしてるのかもしれねぇぞ?」 「ああ。かもな。」 「うおらあぁ!」 ゴスッ!ケイのパンチが、剣士の剣と盾を潜り抜け、顔面に決まった。 むちゃくちゃ強い。ユウキにも引けをとらないだろう。 「勝者、ケイ選手!次の戦いは、一時間後です!」 ケイはウォーミングアップルームでラジオ体操(体が覚えているらしい)をしていた。 次の準決勝の相手は、ザムとかいう相手だ。 どんな状況にも適応できるように、体を解しておく。 後ザムというヤツに勝てば、Aブロック制覇で決勝に進める。 「…ユウキの野郎に、俺はまけねーぞ。」 ケイはつぶやいた。 タオルで汗をぬぐって、床においていたペットボトルに入った水(ティニアに来る前に水筒の代わりにペットボトルを持ってきた)を飲んだ。 結構これはこの世界では重宝する。 もうすぐAブロック決勝。 負けるわけには、いかない。 |
風のグラエナ | #8★2005.05/29(日)22:12 |
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「ザム・ベルゼント選手です!」 不気味な黒い服装の男が、歩いてくる。 ケイは戦いの構えをとった。 今までの奴らとはどこか一味違うようだ。 ちくちくと、殺気が肌をさす。 「レディー、ファイト!」 戦いが始まった。 ザムが、ものすごいスピードで拳を振り下ろしてきた。 ケイは右手で拳を振り落として、相手に蹴りを叩き込む。 が、足を掴まれた。すごい反射神経だ。 「なっ!」 「ふんっ!」 ザムはそのまま七、八回転ケイをぶん回すと、勢いよく彼を投げ飛ばした。 ジャイアントスイングだ。 が、ケイは受身を取って何とか大ダメージを免れた。 「なっ…立ち上がった!?」 「そういう大技は、受身をとれねーようにしてからじゃねーと、聞かないんだよっ!」 物凄い勢いで接近しつつ、ケイは右フックを撃つ。 まともにアゴを殴られ、ザムは吹っ飛んだ。 (おかしい!ユウキが使ったのは空手で私はそれに対抗する力を極め―) 「考えてっと怪我すっぞ!」 更にケイの回し蹴りが、飛んでくる。 ザムは何とかそれを受け止めた。 「くっ!」 ケイは軽く後ろに飛んで間合いを取る。 「お前、マトモに戦う気あんの?そういう態度、選手にすげー失礼だぜ。」 「くそっ…黙れえぇ!」 ヤケ気味に、ザムはパンチを放った。しかし、あっさりと交わされてしまう。 「ふっ!」 気合とともに、ケイはザムの顔面に右手でパンチを放った。 ザムの防御が顔面にまわる。 しかし、それはフェイントだった―― 「ぐふっ!?」 左手の鋭いパンチが、ザムの腹をとらえた。 肺の中の空気を一気に押し出されて、ザムはむせた。 鈍いが激しい痛みが腹を中心に、全身に響く。 「戦いで興奮するのはいい。 だが、理性を忘れて、感情に走ったら―確実に、負けだぜ。」 ザムがゆっくりと腹を抱えて崩れ落ちる。 Aブロック優勝者は、ケイに決まった。 |
風のグラエナ | #9☆2005.06/04(土)13:52 |
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「…本当に、これでいいのか?」 リーザの言葉に、ファイはうなずく。 「…いいんだ。 ケイは、必ずユウキを見つける。 二人の力は、闇を切り裂き、光を放つだろう…。」 「レバニス!」 アリアを倒したレバニスに、ケイは駆け寄る。 アリアは、違反となっている行為…殺人を、犯そうとしたのだ。 アリアは、北天の竜・レバニスに、それを見破られ、倒された。 「大丈夫か!?」 「ああ…またしても、この世界で何かが起きようとしているのではないか? 前のユウキとの戦いで、私も多少は名を知られたからな…。」 とレバニス。 彼は、腕を切り裂かれていた。すでに、布を巻いて応急処置が施してある。 「く…ぅ…。」 重傷を負っているアリアが、よろよろと起き上がった。 「なっ!」 「私、は…ここで、負けるわけには…いかな、い!」 アリアの指が、大地に自らの血で黒い魔方陣を刻む。 そこから現れたのは…黒い、ウインディだった。 「あいつらを…倒せ…。」 アリアは微笑んで、目を閉じる。 「やっぱり何かあるんだな…ゼウス!」 「クエェ!」 ヒュウッ!風の音とともに、ゼウスがケイの隣に、ブラックを乗せて舞い降りてきた。 ブラックが背から、飛び降りる。 「こいつ、どうにかしねーと危ないぜ!ゼウス、戦えるか?」 「クエ。」 ゼウスは力強くうなずくと、ツバサを大きく動かし、加速してウインディへとかかっていった。 鋭いつめが、ウインディを切り裂く。 しかし、ウインディの傷が…一瞬で、治った。 「んなっ!?」 「恐ろしい再生能力を持っているようだな…ブラック!シxシャドウボール!」 「ガルッ!」 ブラックのシャドウボール。しかし、これは逆に吸収されてしまった。闇の力は、通じないようだ。 「ここは町だ…ラディアを呼ぶわけには行かない…。」 レバニスが忌々しげにつぶやいた。 そのとき。 青い影が、ウインディをやすやすと真っ二つに切り裂いた。 |
風のグラエナ | #10☆2005.07/01(金)19:02 |
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「ディオ!?」 ディオ、と呼ばれた獣。 青い、ワニのような獣だった。 「あれもポケモンか?」 「ああ…多分、ユウキがつれていた…。」 「何っ!?」 ディオはレバニスに向かって頷いた。 「久しぶりだね。」 不意に、上から声が降ってきた。 次の瞬間、二人の目の前に黒いローブを羽織った誰かが降り立つ。 「ユ、ウキ…。」 ケイの喉から、かすれた声が漏れた。 目の前に立っていたのは―双子の、半身だった。 「ケイ。元気だった?」 「ユウキ…本当にユウキなのか…!?」 「ああ。そうだよ。」 「馬鹿やろおぉ!」 ばきぃっ! ケイの拳が、ユウキの右頬を殴った。 ユウキは赤くなった頬を、さすって、苦笑いする。 「…ごめん。心配かけて。」 「生きてるんならどーしてさっさと帰ってこなかったんだよ、これを見せ付けられて俺がどれだけ悲しんだと思ってんの!?」 ケイはユウキの手にあのぼろぼろになったリストバンドをたたきつけた。 「僕もいろいろ後始末が大変だったからさ。スイクンたちも僕が死んだと思ったのか、会えなかったし…。帰る方法が、なかなかみつからなかったんだ。」 「…馬鹿野郎。」 涙が溢れかけた目元をごしっと擦って、ケイはやっと笑う。 「まあ、…あえて、よかったぜ。」 「うん。」 |
風のグラエナ | #11☆2005.07/18(月)12:02 |
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帰ろうとも思ったんだ。 でも、帰る方法は分からなかった。 でも、僕がこの世界を歩き続けたのは、帰る方法を探すためじゃなかった。 僕が探していたのは、ユウナだった。 最後に、言いたいことを伝えられなかったんだ。 ユウナがいなければ、今の僕はいなかった。 ただ、一言最後に伝えたかった。 ありがとう、って。 それに… 僕は、帰りたくなかった。 「なーにボサっとしてんだよ。」 ケイに頭を小突かれて、考え事をしていたユウキははっと我に返った。 「ああ、ごめん。ちょっと考え事。」 「お前、いっつもそうだよな。ちったぁ気楽な性格になれよ。」 カカカ、とケイは豪快に笑った。コイツは明るくていいよな、とユウキは思う。 ―ユウナ。 ユウキが思い出しているのは、あの全ての始まりの村だった。 ユウナとであった場所。 この世界での物語は、そこから始まった。 「ユウナ…。」 「え?なんて?」 ケイの声は、聞こえていなかった。 「ユウキ?どうした?」 「まーた物思いに耽ってるよコイツ。」 ―会いたいのに。 「なー、昼飯何にするー?」 「”飛竜亭”という酒場の食事が美味いぞ。」 「ひりゅーてー?何かよう分からん名前だな。 とにかく、腹減ったんだ。さっさとそこ行こうぜ。」 ―どこにいるんだ? 「ユウキ!ぼさっとしてっと置いてくぞ!?」 「どうした?」 「ユウナ…。」 「…。」 ―「会いたいよ。」 「会いたいって…誰に?」 ケイはユウキに問うた。 しかし、ユウキは黙ったまま、涙を手の甲でぬぐった。 時々、今のように泣きたくなることがある。 進まなきゃ、とわかっているのに。 「ユウナ…か?」 レバニスの呟きに、ユウキは小さく頷く。 「ユウナって?」 ケイの問いに、レバニスは 「―俺たちの、旅の仲間さ。」 |
風のグラエナ | #12☆2005.09/11(日)18:30 |
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「俺たちの、旅の仲間だよ。」 「え!?何々!?女? 女たらしこんだんだっ!憎いったらこのこのっ!!」 ケイはユウキをからかってひじでちょいちょいとつつく。 しかし、ユウキは。 沈んだ表情のままだった。 「…行方不明とか?」 「…探しても、村へ行っても。 ユウナは、見つからなかったんだ…。」 ユウキは唇を噛んだ。 なるほど。 ケイは一人勝手に頷く。 つまり、ユウキは自分の意志で帰ってこなかったのだ。多分。 ユウナとかいう女にほれていて、会いたくてずっと探していたのだ。 だから。帰りたくても、帰れなかった。 ユウナに会いたい、という気持ちの方が強かったのだ。 兄に見放されて弟としてはいい気分ではないことは確かだ。 しかし、そこに恋愛が関わってくるとなれば話は別。 男って恋に落ちると只の阿呆になるしなー…と納得した。 こんなに簡単に納得できるのは、多分転校してゆく彼女を追っかけていき、そのまま消息不明になったクラスメイトを知っているからだろう。 「…ごめんな、ケイ。僕は…身勝手だよ。」 「いいって。俺のクラスにもそーゆー奴いたし。悲しい男のサガって奴だし、会えたから特別に許してやる。」 ぽんぽん、とケイはユウキの肩を叩いた。 「んでもって、お前を見つけたらさっさと”帰る”つもりだったけどさ。 ユウナって女探し、俺も手伝ってやる。 惚れた女を放っておく男ってのは最低だからな。」 「ケイ…。」 「そんな顔するなって。兄弟なんだから、兄の恋を応援するってのは弟として当然だろうっ!」 「有難う…。」 レバニスが、躊躇いがちに口を挟んだ。 「強大の絆に浸るのは別にいいが…飯を食べにいかないか?」 「応っ!」 三人は元気よく、飛竜亭目指して歩いていった。 |
風のグラエナ | #13☆2005.09/13(火)22:01 |
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1000年に一度だけ、沈黙が破られる。 やがて星の神は目を覚ます。 目覚めた瞳が見つめるのは、無数の星が輝く銀河の空。 冷たく、優しくゆったりと自身を包む暗く明るい海の中で、星の神は最後の瞳を開いた。 最後の瞳に映し出されたのは、時を超えた双子の兄弟。 「それにしてもさあ。」 がつがつ、と五杯目のご飯を食べながらケイは口を開いた。 「ユウナとはどこで別れたんだ?」 「アルトマーレで。」 「あるとまーれって?」 「水の都だ。」 とレバニスが補足説明した。 それでケイは一気に納得し、 「ああ、ベネチアみたいなもん?」 「ベネチアとは?」 「僕達の世界の水の都さ。」 ユウキは一口水を口に含み、 「あそこで、僕はケイのところへ強制送還されるはずだったんだ。 だけど、…気がつけば、僕は空の柱にいた。」 もとの世界には帰れなかった。 冷たい空気の中で、ユウキの瞳に映っていたのは、空に輝く無数の星。 空の柱の向こうに、故郷の穢れた世界がある。 だが、実際立っているのは、ユウナと歩いた彼にとっての大切な”夢の世界”だった。 ―帰れないのは、きっとまだ何か残っているんだ― ユウナにはっきりと別れを言えなかった事? 何でもいい。この世界にとどまれるというのならば。 ―ユウナに、僕の気持ちを伝えよう。 ケイ、もう少し待っていて。 ごめんね。こんな兄で。 僕は、僕の大切な人にどうしても伝えなきゃいけないことがあるんだ…。 |
風のグラエナ | #14☆2005.10/09(日)17:10 |
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ユウキ?ユウキ? いるの? ここはどこ? 冷たくてたまらないよ。 真っ暗で何も見えないよ。 ―ユウキ 助けて― 冷たい指が、そっとユウナの頬を撫でる。 ―大丈夫だ。もう直ぐ、奴は来る。お前を助け、お前を殺すために。 黒く長い爪が、ユウナの頬を浅く裂いた。 鮮血が、ユウナの頬を、肩を滴り落ちる。 恐怖に、ユウナは目を見開いた。 誰? 誰なの? 助けて…助けて助けて助けてぇっ! ―天と地を司る兄弟。彼らは、互いを殺し、そしてお前を殺す― 「…世界が、再びバランスを崩し始めたのかもしれないな…。」 レバニスは呟いた。 ユウキ、ケイも頷く。 「ああ。じゃなきゃ俺らの事殺そうとはしねぇもんな。標的は多分ユウキ。俺と勘違いして襲ってきたから。」 「…まあ、確かにそうかも。敵たる夢は排除すべき存在だから。」 「でさ、思ったんだけど。ユウナが行方不明ってのは、もしかしてさらわれたんじゃねーの?」 「!?」 ユウキは驚いてケイの瞳を見つめた。 ケイはそのまま続ける。 「だから、ユウキをおびき寄せてぶっ飛ばしたれ、って奴。 ドラマでよくあるじゃん。自分から出てこない奴を、誰か誘拐しておびき寄せるって奴。 きっと自分から出られない理由があるんじゃねーの?」 ユウナを連れさらった。 もし、それが事実ならば。 絶対に、そいつは許さない。 |
風のグラエナ | #15☆2006.03/07(火)19:53 |
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「―まだ、僕にはすべきことが残っている。」 小さな宿・「黒鍵」の一室で、ユウキはケイとレバニスに語りだした。 「だから、まだ、ここに残っているんだと思う。」 「…女探し?」 「それもあるだろうけれど、…この世界自体が、まだ、僕を必要としている。 そして、ケイが呼ばれたのも、それに関係あるんじゃないかな?」 「…俺が? 俺は、真実を確かめろってスイクン、だっけ、にこっちに連れてこられたんだけど。あれ…?」 ―オマエが真実を確かめたいというのなら、真実を確かめてくるがいい。 「どうした?」 「いや、なんでもない。」 あの言葉には、もっと深い意味がある気がした。 あの言葉の向こうには、まだ何かがある、と直感的に思った。 シンジツ?真? …俺達の、夢? 夢、という言葉が妙に引っかかった。 「やるべきことがある。だから、僕はまだここにいる。 そして…レバニスにまた会った。 ケイも必要とされて、…この世界にきた。」 「…もし必要とされているのなら、俺は誰に必要とされているんだ?」 ケイの問いに、ユウキは分からない、と言った風に首を振る。 「…分からない。でも、少なくとも僕は、ケイを必要としている。それは確かだ。」 「ユウキ…。」 やっぱり持つべきは双子…じゃなくて、兄弟…でもなく。 心が通い合える仲。 ―それにしても、おそらく死んだのだろうって言ってた癖に…意外とアッサリ会えたな。 ここでも妙に引っかかった。 が、元来ケイは考え事が苦手なのだ。これ以上は何も考えないことにした。 「まあ、とにかく。進んでいきゃ、何か分かるってことだよな?」 「…多分、ね。後、足りないのは―」 ユウナだけ。 最期の瞳は、真実の瞳。 真実の瞳が映し出すのは、悲しき夢たる真実。 ―君達になら、変えられるかもしれない。 星の神は静かに、天と地なる兄弟に問うたー 真実は、必ずしもひとつではない。 運命は、決まってはいない。 背くために、それはある。 |
風のグラエナ | #16★2006.05/02(火)00:12 |
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「―炎よっ!」 朗々と響いた声と共に、暗い夜空へと立ち上る赤い炎の柱。 煌々と輝くそれは、暫くゆらゆらと揺れていたが、やがて竜の形を取って空へと舞い上がった。 ―炎の、ハクリュー。 精霊によって司られる元素の一つ、炎。 呼び出す術者によってその姿は様々な形をとる。 この少女が呼び出した場合、それはハクリューの形となって現れるらしかった。 「っだから!俺たちは只の旅人で―!」 「黙れっ!村の宝は渡さぬ!」 炎のハクリューが牙を向けたのは、村の入り口に立つケイ達だった。 「飛竜亭」で食べながら下手に留まるのは危険だ、という結果になり、3人は「辺境の中の辺境」と呼ばれるクレイリィ・ヴィレッジへと来た。 ここをを訪れる旅人は滅多に居ない。地図にも名前が記されているだけの、小さな小さな村。 道が切り立った断崖だったり、道を昼寝中のハガネールがふさいでいたりといろいろあるせいだ。 ここなら、奴らもそう簡単には追って来れないだろう。というわけで、ぶっちぎりでここへと来た。 「クオォ…。」 威嚇するように、ハクリューが声を上げる。 「…どーして分かってくれねぇかなあ。」 「さっさと立ち去れ! さもなくば、その身を焼くぞ!!」 …少女は必死で叫ぶが、今ひとつ迫力が無い。 ユウキが仕方なく前へ出て、 「分かってくれないかな?僕たちに敵意は無い。 只、一晩止めて欲しいだけなんだ。明日はエルクへ向かうから…。」 「エルクへ向かうのにこんなところを通る者はおらぬっ! ゆくのだ!炎の力よっ!」 少女はキレたらしく、炎のハクリューを放ってきた。 周りの空気を焦がしながら、ハクリューがユウキに迫ってくる。 その首の宝珠が、赤く光り、空気が陽炎のように揺れて― 「うわあっ!?」 間一髪で、ユウキは放たれた炎を交わした。 「ったく…話を分かってくれない人だなあ。」 「んなろっ!ユウキに何をする!」 「フゥーッ…!」 ケイの殺気に反応して、ハクリューは標的をケイに変更した。 その燃え続ける炎の身をくねらせ、一気に突っ込んでくる。 「ケイ!危ないっ!!」 ケイの格闘能力では、確実にハクリューに勝てないだろう。 特殊な力を操る、ユウキか、レバニスでなければ。 「るっさいわあぁっ!」 しかし、完全にぶちきれたケイはそんな事も考えずに、無謀にも炎に向かって鋭い正拳突きを放った。 「馬鹿ーっ!!」 その瞬間。 「クオヲォンっ!?」 青い光と共に、ハクリューの形をとっていた炎が四散した。 「え…?」 「そんなっ!」 驚くケイとショックを受ける少女の間に、しわがれた声が割って入った。 「―もう、やめるのじゃ。エナ。」 「長老っ…!」 急な展開についていけず、おろおろするケイ。「なあ、どうなってるんだ?」 そんな中、ユウキは、一人考え込んでいた。 (ケイの力は…僕の”創造”とは反対の”破壊”…?) |
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