湊 | #1★2005.03/04(金)19:59 |
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舞優と2人の魔法使い ■プロローグ 「これで4匹目、っと!」 そう言いながら、少年は白と赤のボールを、籠から拾い上げた。 そして、部屋をキョロキョロを見渡した。まるで人に見られたくないかのように。 この部屋は奇妙だった。 天井まである本棚にはここぞとばかりに本が押し込まれている。 机の上には、羽ペンから勝手に蒸気を噴出すわけのわからんポットまで、様々なものが散乱している。 魔法使いの部屋みたい―――と誰もが思うこの部屋。 事実、魔法使いの部屋だ。 この部屋に、侵入者はボールを握り締めて立っていた。 ボールに入っているのはポケットモンスター。略してポケモン。 少年の教科書には『幻獣』として書かれているこのポケモン達、実はこの学校の教材である。 侵入者の少年が、何故このポケモンを盗んだか、というのは、今話すべきことではない。 「さーてと、先公にバレる前に、とっとと退散すっか」 少年は、開け放された窓の方を向いた。 と、誰かの視線を感じ、彼は机のほうを再び振り向いた。 誰もいない。しかし、少年は何かがおかしい、と思った。 机の上に、さっきまでなかった水晶がある。 「ん?何じゃこりゃ」 興味を持った愚かな少年は、水晶に顔を近づけた。 水晶には、とても丁寧に何かが彫られてあった。 ライオンの頭。山羊の胴体。ドラゴンの尾。 キメラだ。 そう思った瞬間、彼の花畑の如くおめでたい脳に、何者かが囁いた。 《何百年ぶりだろうか…私の姿を見ることのできる者が来るのは…》 「は?今の誰だ?」 まったく解っていない少年。 《ということは、お前がこの世界の危機を救う救世士の1人か?》 無視する声。 「きゅ…きゅーせーし?…んまぁ、そうって言うならそうかもな…」 しかし、水晶が怪しい光を放った瞬間、少年は事を察した。 「えぇ!?ちょ、ちょっと待てや、おっさん(?)!」 彼の叫び声も、その声を発したものと共に、水晶に吸い込まれていった… 数分後、先生が来たころは、少年と彼の荷物、盗まれたポケモン、そしてキメラの水晶はどこにもなかった。 これから 魔法界から飛ばされてきた少年達と ホウエン地方の少女の、摩訶不思議な冒険がはじまる。 |
湊 | #2★2005.03/05(土)13:41 |
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第1部 孤独なキメラ・炎の獅子 ■第1章 波の音が聞こえる。 子スバメが、天空で舞う朝。 トウカシティに住む、10歳の少女、舞優(マユ)は、砂浜を散歩していた。 (はぁ…3日も前にお母さんに許可貰ったのに…) 落ちている貝殻を蹴飛ばしながら、マユはため息をついた。 彼女は、コーディネーターを目指していた。 母親には、もうすでに許可をとってある。しかし、彼女はまだ出発の準備さえしていなかった。 何故? 1人じゃさみしいから―――彼女はこの事を聞かれたら、決まってこう答えた。 このあとに、とある事件がなければ、彼女は一生こう答えていただろう。 マユは、砂浜に座って、コバルトブルーの海を見つめた。 首にかけた、コカリナとかいう笛が、鎖をチャラチャラいわせながらゆれている。 行きたいのに行かれない。仲間がほしい。 マユは強く望んだ。 できればポケモンではなく、人間がいいな。 お兄ちゃんみたいな存在の人… と、ボーッとして考えていた彼女は、頭上に影がさしてハッとした。 次に聞こえたのは、誰かのあわてた声。さらに、それはだんだん近づいてくる。 「うわーっ!あぶねーッ!避けろ、そこの女ァ!」 この主語のない意味不明な言葉が頭上から降ってくるものだとマユがわかったころは、もう遅かった。 ドサッベキッ ドサドサドサッ … … … … 「いってぇ〜。あーあ、言わんこっちゃない…避けろっつーたのに…」 倒れたマユは、背中の上で誰かが喋ったのがわかった。 「…ねぇ!いいから下りてよ!私の背中から!」 マユが叫ぶと、背中が軽くなった。立ち上がって見ると… 直下してきたのは15歳くらいの少年だ。よくよく見ると、美形に見えない事はない。 彼の服装は、まるで御伽噺や童話の、ある重要な役柄によく似ていた。 そう、魔法使いだ。 「あなた…ひょっとして魔法使い?」 マユが聞くと、少年は驚いたように言った。 「うん。まぁそんなもんだな。ここじゃ珍しいのか?」 「珍しいも何も、いないよ」 「ふぅん…ああ!あっちゃー…」 突然、少年の目が、とある一点に釘付けになる。 マユがその目を追うと… 首からかけたコカリナは、見るも無残な姿になっていた。 この大マヌケな少年が落ちてきた際に、砕けてしまったようだ。 マユの胸に、なにかがこみ上げてきた。 おじいちゃんからもらった、大切なものなのに… マユの目に大粒の涙が溜まると、少年はあわてた。 「わ、わ、ごめん!魔法で直すわけにはいかないし…どーしよう・・? とにかくごめん!俺にできることあったら、なんでもするから!」 “なんでもするから” 「え?」 再び顔を上げたマユの目には、もう涙はなかった。 「じゃ、旅についてってくれる?!」 波の音が聞こえる朝。 子スバメが天空を舞う朝。 舞優とへっぽこ魔法使いの旅は、こうして幕を開けたのだった。 |
湊 | #3★2005.03/05(土)14:14 |
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■第2章 「行ってきまぁす!」 マユは元気に家を飛び出した。 こうやって旅に出られるのも、あの直下少年のおかげだ。 コカリナは壊されちゃったけど。 マユは町外れの木の密集している所で、足を止めた。 「準備できたよ!行こ」 すると、どこからともなく、例の直下少年が湧いてk…いや、現れた。 服装は、5時間前の魔法使いの漆黒のローブではなく、 そんじょそこらのトレーナーのような服装に着替えたようだ。 「遅かったじゃねーか。5時間も待ってたんだぜ…」 彼はここまで文句を言ったが、マユの顔を見てこれ以上は言わなかった。 「いいじゃん。長い旅になるかもしれないんだから。ところで…まだ名前聞いてなかったね」 マユは目の前のへっぽこ魔法使いを睨みつけながら言った。 「私は上条 舞優。で、あなたは?」 「俺?…まぁ、虎珀とだけはいっておk…」 彼の奇妙な名前に、マユはおかしな反応をした。 「もしかして…犬○叉かなんかのパクリ?」 「違う違う!マユの好きなように呼べよ」 マユは少し考えたが、やがてこう言った。 「虎珀の『珀』とって『ハク』っていうのは?」 … … … … 「(ジ○リのパクリか…?)別にぃ…」 「じゃ、ハクで決まりだね!ヨロシク、ハク!」 「お、おう」 そのときだ。 「おーっ、トレーナーはっけーん!」 2人が振り向くと、見るからにおぼっちゃま、という感じの少年がいる。 「どっちか勝負しようよ」 「どうする?私がやっていい?」 マユがハクの方を向く。ハクは頷いた。 「ああ。お前の実力、見せてもらおっか」 「よぉし!」 マユはモンスターボールを出した。 「見ててね、私のポケモン達を!」 2個のモンスターボールの中から、ポケモンが現れた――― |
湊 | #4★2005.03/13(日)11:26 |
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■第3章 勝手にハクというニックネームをつけられた虎珀は、唖然とした。 たしかに、マユのポケモンは美しかった。が、イマイチ名前が良くない。 「らっしー、『オーロラビーム』!」 らっしー、という名前のタマザラシが、『オーロラビーム』を相手のマッスグマに食らわせた。 「マッスグマ、『みだれひっかき』でやっつけてやれ」 『みだれひっかき』が、らっしーを襲う。 「へっへーんだ、そんなんで私のらっしーはやられ…って!」 マユが言いかけたとたん、らっしーが倒れた。 やばい。マユの脳裏にこんな言葉が横切る。やられる。 「えぇい!じゅぺる、やっつけちゃって!」 マユの2個目のボールから、これまた変な名前をつけられてしまったジュペッタが現れた。 「ふーん。マッスグマ、『すなかけ』」 ばさばさばさっ! 砂がじゅぺるに降りかかる。 「『ナイトヘッド』!」 ボロンボロンゴォンゴォン 謎の効果音と共に、マッスグマが倒れる。 マユの勝ちだ。 「あーあ、負けちゃった…あっけなかったなぁ。家に帰ってじいやと将棋して遊ぼう」 すごすごと引き上げるおぼっちゃま。 彼の姿が見えなくなると、マユは満面の笑みでハクの方を向いた。 「ねっ!私のらっしーとじゅぺるの華麗なる戦いを見た?」 「…ん〜、まぁ。実力はまぁまぁじゃねーの?」 ハクの反応に、マユは機嫌を損ねたようだ。 「何よ、その反応。もっとこう…なんかないの?」 「そうだな…名前がカタカナだったら、もっと良かっただろうに」 マユの機嫌メーターが、最低線を超した。 「私のネーミングセンスにケチつけるわけ?ひどい!あんたはどうなのよ?!」 「えぇっ?!俺ぇ?」 意表をつかれた(?)ハクだが、すぐに落ち着き払ってポケモンを出す。 見たこともないポケモンたちだ、とマユは思った。 きっと、別の地方のポケモンなんだろうな… 「んーっと、こいつがヘルガーのRUGA(ルガ)、 この可愛いやつがキレイハナのHANA(ハナ)とメリープのMERU(メル)。 そいでもってトゲチックのTOGE(トゲ)!」 なるほど、ナウい(死語)名前である。 「へ、へへん!今回は私が名前では負けたかもよ? でも、ひらがなはひらがなで可愛いんだから。じゃ、ハク、行こう」 マユは負けを認めると、さっさと森に入っていった。 あまりのナウい(死語)名前に文句のつけようがないに違いない。 と考えていたハクだが、マユがとっくのとうに森の奥に入っていってしまったのに気づいた。 「あ!待てよ、おいてくなってば!」 そう叫ぶと、彼もトウカの森にとびこんだ。 |
湊 | #5★2005.03/13(日)11:28 |
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■第4章 「うわぁー!虫!虫!」 「しゃーねーな…」 ヘルガーのRUGA(ルガ)が火を吐く。ケムッソをおっぱらうためだ。 ハクによると、本当に当ててしまうとやりすぎで危ないらしい。 それを言ってしまえば、全ての草ポケモンに炎技が使えなくなってしまうが。 マユは虫が苦手なようだ。小さなケムッソにも怯える。 「コンテストに虫ポケモンが出てきたらどうすんだよ」 「ま、まぁ、そのときに考える!きゃあ!ケムッソ!」 「へいへい…」 さっきからケムッソを追い払ってばかりだ。まったく前に進まない。 ここは森ではなく、ケムッソ園ではないのか、と思い始めた自分を、ハクはアホらしく思った。 「ほーらほらほら!マユ、ケムッソだって可愛いじゃん。嫌なら好きになればいいだろ!」 「え…そ、そう?」 マユはどもりながら言ったが、足元にいるケムッソを見て、悲鳴を上げた。 「ほら!可愛いじゃねーか」 振り向いたマユの顔に、ハクはケムッソを突き出した。 … … … … … … 「キャァアァアァアァ!」 こりゃだめだ。でも、このケムッソ園は抜けられるだろう。 ハクは思った。 何故なら、驚いたマユが彼をひっぱって、猛スピードで出口を目指しているからだ。 |
湊 | #6★2005.03/13(日)11:29 |
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■第5章 「はぁ、はぁ…」 「お見事、マユ」 2人は『サン・トウカ』とかいうフラワーショップの前で休憩していた。 おそらく、あの距離をあの速さで走れたのは、現時点でマユくらいなものだ。 「ケムッソは苦手っていったじゃない…なんで顔に押し付けるのぉ… …?」 「可愛いじゃん。あの大きな瞳に…」 「あー、もういい!カナズミに行こう!カ・ナ・ズ・ミッ!」 「もう行くのか…?それより」 ハクは耳を塞いだ。 「頼むから耳元で叫ばないでくれ」 「わぁ!おっきーい!」 マユが叫ぶ。 でかい街だ。でかい以外の表現方法が見つからない。 「ショッピングショッピング♪」 「いや…金はあるのか?」 ハイテンションのマユに、ハクがツッコミを入れる。 「あなたの魔法道具を売れば良いじゃない」 マユはハクの荷物を指差す。 一見普通のカバンだが、この中には、彼が先生の部屋に忍び込んだ際に持ってきた荷物が押し込まれている。 たしかに、これらを売れば10万円にはなる。 「断る。これがなかったら、何かと困るだろ。お前はここの金はもってるのか?」 「2千円だけ」 マユが財布を振ってみせる。 結局2人は、傷薬3つ、穴抜けの紐1つ、虫除けスプレー1つしか買えなかった。 虫除けスプレーが手に入ったのはありがたい、とハクは思った。 何故なら、草むらに入るたびにマユに大騒ぎされなくて済むからだ。 ポケモンセンターでマユのらっしーを回復させると、2人はトレーナーズスクールの前でうろついていた。 「じゃ、これからどうするんだ?」 ハクがメリープのMERU(メル)を周りの目を無視して撫でながら尋ねた。 「んー、最近開通した、カナシダトンネルを通って、シダケに行こうかな。コンテスト会場があるし…」 マユはキルリアの『きり』と戯れて(?)いた。 「ね、ハク」 「ん?」 「もう少しこの街を見ていってもいいんじゃない?」 ハクは苦笑いをした。 「いや、俺に言うなよ。ほとんどお前が俺を引っ張っていくんだろ?」 「ってことは、いいってことだよね?」 「ああ」 マユは嬉しそうに顔を輝かせた。そして、何かを言おうとした、その時だ。 誰かの視線を感じる。 振り向いた2人は、変な人を見つけた。 美形とまではいかないが、ナウい(死語)お兄さんだ。 黒ずくめでも全然怖くない。むしろかっこいい。 しかし、鋭い目をあったとたん、2人は寒気を感じた。 男はフッと別の方向を向くと、角を曲がっていってしまった。 「何…あの人」 「…さーな」 2人はその角の向こうを見たが、あの変な男はどこにもいなかった。 あの怪しいあの男は一体何者か? |
湊 | #7★2005.03/13(日)11:26 |
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■第6章 『便利なトンネル開通まぢか!』 「っつーても、もう開通してるよな」 カナズミシティで、少女とへっぽこ魔法使いの少年は、看板を眺めていた。 3日間もカナズミをぶらぶら歩いていた2人だが、 そろそろヤバイというわけで、今こうして出発しようとしていた。 「よっし!じゃ、行こ。カナシダトンネル通ったら、シダケでコンテストするんだから〜」 マユが1人でえいえいおーをしている。よほど気合が入っているようだ。 その気合も、トンネルの中では意味はなかった。 「暗い!怖い!」 彼女の叫びがトンネルに反響する。 くらーいくらーいくらーいくらぁーいこわーいこわーい… … 「マユ!黙れ」 ハクが小声で言った。嫌な予感がする。 その予感は的中した。 マユの声よりすごい鳴き声と共に、小さなポケモンたちが押し寄せてくる。 ささやきポケモン、ゴニョニョだ。 「キャーッ!何これ!」 「お前が叫んだからだろ!」 そう叫びながら、ゴニョニョの波に押し流されていく2人であった… ゴニョニョたちは、騒音を発する2人の人間をトンネルから締め出すと、 またトンネルの奥へと引き上げていった。 「いってー!何だよ、あいつらは…」 「ハク!シダケについた!」 「へっ?」 「着いたって言ったの!」 見ると、どっかの町に着いていた。 ゴニョニョが送ってきてくれたのだろう。 (実際には彼らは、2人を追い出したかっただけなのだが。) 「ってことは…」 「そう!」 マユはめちゃくちゃ嬉しそうだ。 「コンテストよ!さ、早く!受付が終わっちゃうかもしれない!」 |
湊 | #8☆2005.03/13(日)18:09 |
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■第7章 「さぁ、これよりノーマルランクのポケモンうつくしさコンテストがはじまります!」 司会のお姉さんの声が、会場内に響いた。 「いえーい!」 他の観客に紛れ、ハクは思いっきり歓声をあげた。 その声は、ステージの上のマユにも届いた。 「らっしー、よかったね。ハクにも応援してもらってるよ☆」 らっしーは嬉しそうに鳴いた。 「さーて、出場されるトレーナーと、ポケモンのみなさんはこちら!」 エリートトレーナーのような人が、前に進み出て、ポケモンを見せる。 「エントリーナンバー1番!マキオさんのポッピーです!」 会場がざわざわする。 そのポッピーとやら、キャモメの名前である。 こんなにも合わない名前をつける奴が他にもいたとは、と、ハクは舌を巻いた。 「エントリーナンバー2番!ミサエさんのまろんです!」 ミニスカートらしき女の子のロコンに、会場がざわめいた。 こいつはかなりのところまでいくに違いない。 「エントリーナンバー3番!タロウさんのごっくんです!」 会場は静まり返った。 このゴクリンはたくましさならコンテストの鬼だろうが、うつくしさはイマイチだ。 最後はマユ。 緊張した様子で、前に進み出る。 「エントリーナンバー4番!マユさんのらっしーです!」 会場がミサエのまろんの時と同じくらいざわめく。 ハクがわざと騒音を出しているせいかもしれないが… それを知らないマユは、ステージの上でニッコリした。 「さぁ、ポケモンの紹介が終わりました。1時審査に入りましょう! 会場のお客様によるポケモンの人気投票です! では早速はじめましょう!投票お願いします!」 ハクは投票箱にダッシュし、らっしーに票を入れると、他の客を見た。 大半がまろんとらっしーに票を入れている。 「(よっしゃー、いい線いってるぜ…)」 彼はステージの上のマユにだけ見えるように、小さくガッツポーズをした。 「らっしー、票入ってるって」 マユが小声でらっしーに言う。らっしーは手を叩いた。 「さぁ!今投票が終わりました!」 客が全て入れたのを見てから、司会が言った。 「集計をしている間に、2時審査に入りましょう! 2時審査は、いよいよおまちかねのアピールタイム!技でアピールしまくりましょうー!」 お姉さんは観客にとびきりのスマイルを送った。 「でははりきってどうぞ!レッツ!アピール!」 |
湊 | #9☆2005.03/14(月)21:30 |
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■第8章 1回目のアピールが始まった。 最初は一番人気があった(と思われる)ロコンのまろん。 まろんは、綺麗な火炎放射でアピールし、美しい火の粉を撒き散らした。 会場がうける。でかいモニターで、まろんの名前の隣に、ハートが5個付いたのが見えた。 やばいぞ、マユ、らっしー。 次はらっしー。 すると、らっしーは冷凍ビームをくりだした。 まろんが驚いたようにらっしーの方を向く。 まろんのハートが1個減って、らっしーにハートが3個付く。 「見事だ、らっしー!」 ハクの他の観客に振り向かれるほどの大きな声は、もちろんステージ上のマユたちにも聞こえた。 「らっしー、がんばろっ!」 彼女はらっしーに声をかけた。 残りの2匹のアピールも終わり、コンテストもだんだん盛り上がってきた。 まろんの炎の渦、鬼火や、らっしーのダイビング、波乗りが妨害されつつも、どんどん決まってゆく。 (何故ダイビングや波乗りを覚えてるかって?…気にしないでください(蹴)) 4回目のアピールの時、らっしーの波乗りに会場がグワーンと盛り上がった。 ハートはかなりの量が付いている。 これはいける。 そして5回目のアピール。 ミサエがこっそりまろんに指示を出している。 妨害しようとしているのだろう。 マユは、というといろいろ考えながら指示を出している。 「(こりゃぁ下手したらヤバイことになるぜ…)」 見ているハクの方が緊張しているようだ。 最後のアピールがはじまった。 一番最初は4回目のアピールで高得点を取ったらっしー。 次は微妙な差で負けているまろん。 後はポッピーとごっくんだ。 「らっしー、ダイビング!」 らっしーはダイビングを見事にやってみせた。 これで妨害は少しは防げる。 「この勝負、もらったぜ…」 客席のハクは、1人でそう呟いた。 まろんは鬼火でアピール。どうやら、らっしーを妨害したかったようだ。 ごっくんのはきだす、ポッピーの鳴き声が終わる。 アピール終了だ。 「はぁい、そこまでぇ〜!」 司会のお姉さんがまた叫ぶ。 「みなさん素晴らしいアピールでした!これですべて終了です!おつかれさまでした!」 ここで隣の審査員のおっさn…ではなくおじさんの方を向いた。 「さて、残るはドキドキの結果発表ですねっ! 発表は審査員の方から行われます!」 「では…発表します!」 1時審査の結果は、1票差でまろんに負けたらっしー。 2時審査もまろんと互角に見えた。 しかし… マユが手を合わせ、祈る。ハクが指を十字に組む。 「優勝!マユのらっしー!」 会場がドーッと拍手や歓声に包まれた。 ステージの上で大喜びするマユとらっしー。 観客席で隣の知らないおじさんと手を握り合うハク。 コンテスト会場では、マユの歓声がこだました。 「やったやった!うつくしさコンテスト優勝よ!」 会場の隅っこで、あの怪しいお兄さんも、マユの歓声を聞いていた。 彼はフッと微笑むと、こう呟いた。 「やはりあの少年達で良いのだな…一刻も早く味方に付けないと」 本当にこの怪しいお兄さんは誰だ?! |
湊 | #10☆2005.03/16(水)17:54 |
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■第9章 数時間後。マユはルンルン気分でポケモン達とハクを従えてコンテスト会場を出た。 あの後、かわいさコンテストでは、ピチューのぴっちがメロメロで観客の目を釘付けにし、 かしこさではキルリアのきりがサイコキネシスを決め、 かっこよさではチルットのちるすが突付くをアピール、 たくましさでジュペッタのじゅぺるがのろいとうらみを連発したおかげで、 全てのリポンを手に入れたのだ。 「今日はみんなにお腹いーっぱい食べさせてあげるからね!」 マユの言葉に5匹が歓声をあげる。ハクがやれやれと首を振る。 「金はカナズミで使っちまっただろ?」 「え…そうだった…」 こいつ、しっかり忘れていたのか、と頭の中で思うハク。 しかし、こんなことで落ち込むマユではない。 「とにかく、お母さんに知らせなきゃ!ノーマルランクを全部優勝したって!」 ポケモンセンターでマユが連絡をとっている間、ハクは自分のポケモン達と一緒にポケセンの雑誌を読んでいた。 「な、HANA(ハナ)」 キレイハナに話しかけるハク。HANA(ハナ)が顔を上げる。 「俺たち、帰るとしたらどこなんだろう…学校に戻るわけにはいかねーよな…」 うなだれるHANA(ハナ)。 教材であるポケモンを盗んだからには、学校には帰れないだろう。 帰ったとしても逮捕されるか退学になるのがオチだ。 ハクとHANA(ハナ)はしばらく黙りこくっていたが、やがてハクが喋った。 「ま、いっか」 HANA(ハナ)が人間だったら、ずっこけるところだっただろう。 「くよくよしてもやっちまったもんはしょーがねーよな。明日のことを考えようぜ☆」 「んじゃ、明日はキンセツにでも行こっか」 背後からいきなり声がして、ハクが飛び上がった。 そして声の主がマユだったと知って、ホッとした。 「驚かせるなよな…で、反応はどうだった?」 「おめでとうって。帰ってきたらモモンパイを沢山くれるって言ってた」 「モモンパイって何だ?」 「モモンの実のパイだよ」 「ふーん…んっ?!」 ハクはいきなり変な気配を感じ取った。 彼が瞬間的に振り向くと、視界に入ってきたのはポケモンセンターを出る1人の男。 カナズミの怪しいお兄さんだ。 「ハク、どうしたの?」 「カナズミの変な男がいたんだ」 ハクが出入り口をぐいと指差しながら言った。 あの男が角を曲がるのがかろうじて見えた。 「なんか…私たちを誘い出したいみたい…」 マユが呟くと、ハクが猛烈に頷いた。 「なっ、なっ?そう思うだろ。俺も丁度そんな事を思ってたんだ」 彼はHANA(ハナ)が迷子にならないようにモンスターボールに戻すと、こう言った。 「追いかけようぜ!なんか行かなきゃならないような気がするんだ」 マユは頷いた。2人は再度頷くと、走って男を追跡しはじめた。 |
湊 | #11☆2005.03/17(木)21:57 |
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■第10章 「み、見失った…」 マユとハクは、その場に立ち止まった。 追跡していた怪しい男を見失ったのだ。 「ね、ハク…罠かもしれないよ」 「… …」 「そんなことよりキンセツに行こうよ」 マユの言う通りかもしれない。 あの怪しい男、というかお兄さんは、どっかのワルの1人かもしれない。 だが… 「いや…罠なんかじゃない…あいつ、他の人間と違うみたいだった」 「罠は罠でも、作者の罠かもしれないじゃない」 たしかに、とハクは思った。あの作者なら十分やりそうだ。 そうだな、じゃあやめるか、と彼が言いかけた時だった。 「…フン…人間の考えることはわからん」 低い、妙な響きの声が近くの路地から聞こえた。 その声を聞いたハクは、背筋が寒くなるのを感じた。 先生の部屋で聞いた、あのわけのわからん輩の声だ。 この声は、マユの耳にも入ったようだ。 「今の…あの人?」 小声で聞く彼女に、ハクは頷いた。 「ああ。先生の部屋に忍び込んだ時に聞いた、あの声だ」 「何?先生の部屋に忍び込んだの?」 何も知らないマユが質問したが、ハクは全然聞いていなかった。 謎の男がブツブツ呟きながら遠ざかっていく。 「追いかけるぜ!」 2人は男に急接近した。 そいつは気づいているかどうかもわからない。 ずっと向こうを向いて、ブツブツ言っている。 もっと接近すると、彼の声が聞き取れた。 「まったく、マグマ団だのアクア団だのがそこらを荒らしまわっているし…直接私に頼めばいいものを」 何かのページをめくる音がする。 なにやら手帳か何かを見ているようだ。 「株価が下がってきているな…もうそろそろ上げてやろうか…」 「(何言ってんだ、こいつ…)」 ハクは頭の中で考えた。 しかし、次の男の言葉に、彼とマユは飛び上がった。 「…さて。救世士とその友達が来たようだ」 彼は気づいていたのだ。 男はくるりと振り向くと、ハクの目を、その漆黒の瞳で真っ直ぐ捕らえた。 |
湊 | #12☆2005.03/19(土)19:44 |
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■第11章 「あ、あんた!先公の部屋でも俺のところを救世士とかなんたら呼びやがって… 勝手に決めるなよな!」 一瞬すくんだものの、ハクがナウい(死語)お兄さんにつっかかった。 男は手にしていた何かをしまうと、やれやれといった感じで 「私が決めたことじゃない。救世士じゃなかったら、君みたいなワルをここに招かないさ」 と言った。ハクの頭に血が上る。マユはお兄さんとハクの顔を交互に見た。 「…じゃあ誰が決めたんだよ!」 彼はなんとか自分で怒りを抑えたようだ。しかし、マユは彼の拳がワナワナと震えているのを見ていた。 男がまたやれやれと首を振る。 「上司から言われたんでね…君とあともう1人をこの世界につれてこないと、この世界は滅びるぞって」 … … … 「それって…何が起こるの?このホウエンに…」 沈黙を破ったのはマユだった。 「ホウエン地方だけじゃない。カントーもジョウトもオーレも…その他の沢山の地方も…」 お兄さんは、これだから人間は困る、といった顔だ。 そんな彼の顔に、ハクは疑問を持った。 「…あのさぁ…いきなり見ず知らずの奴に救世士とか世界が滅びるとか言われても、信じるわけないだろ? その前に、あんたは誰なんだよ?」 彼にしてはいいことを言う。 男もそう思ったようだ。 「ほほぅ…君がそんなふうに言うとは思わなかったよ。 いいだろう、私の正体を教えてやろうではないか。 だが…見たら信じてくれるかい?」 マユとハクは顔を見合わせた。 「え…まぁ。でも悪魔とかトロールとかいったらその場で成敗するからなっ!」 男は頷いた。 そして…彼の体が、漆黒の炎に包まれた。 彼を包んでいた炎が消えた時、彼は人間の姿ではなかった。 マユがキャッと悲鳴を上げてのけぞる。 ハクは変わり果てた男の姿を、まじまじと見た。 ドラゴンの尾、山羊の胴体、ライオンの頭――― そして、その背中には、(作者の勝手な想像と思われる)漆黒の翼。 この体中真っ黒な獣は間違いなく――― 「私の名はアルファード」 男の姿だったキメラは、男の姿の時と同じ声で言った。 「この世界を守る者の1匹だ」 |
湊 | #13☆2005.03/20(日)12:06 |
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■第12章 「…わかったわかった…っつーことは、あんたは獣の中のお偉いさん、ってわけか」 「まぁそういう事になるな」 沈黙が流れる。 その沈黙を破ったのはアルファードだった。 「さて、話をまとめよう。君は救世士だと私は上司から言われた。 そして、君とあともう1人が私たちの味方に付かないと、この世界はパーになってしまう」 「ちょっと待ってください…それって、ハクが貴方達の敵側に付くこともあるってこと?」 マユが口を挟んだ。 アルファードが頷く。 「というわけで、君たちが敵側に付かないうちに、今こうやって私が出てきた、というわけだ」 「んっ?でも、どうして俺なんだ?」 ハクが難しい顔をしていった。 「作者と上司の都合だろう」 … … … … 「は、はぁ…。んじゃ、あんたは俺に味方に付けって言いに来たんだな?」 ハクが呆れ顔で言った。 アルファードが激しく頷く。 「ハク、味方に付くの?」 マユが聞くと、ハクはもっと難しい顔をして考え込んだ。 彼が考えている間に、アルファードはまた人間の姿に戻り、例の手帳を見てブツブツ言っていた。 「よーし!やってやろうじゃん」 いきなりハクが叫ぶ。 アルファードが手帳をパチン閉じる。マユがハクの顔を見る。 「マユの世界を守るため!これが俺の使命らしいからなー!」 「うむ、思った通りだ」 アルファードが満足そうにいった。が、ハクは彼の目の前でチッチッチと指を振った。 「ただし!条件があるぜ!」 マユとアルファードの脳内で疑問符がパレードした。 「手伝う代わりに、俺のところで俺がヤバイ事になんないようにしてくれ」 今度はアルファードが考え込む番だった。 しばらくして彼は何の前触れもなく、どこからともなく携帯電話を取り出した。 そしてどこかに電話をかけると、マユの知らない言葉でペラペラと誰かと喋った。 ピッ 10分後、アルファードが電話をきったときには、 ハクはウトウトしていたし、マユはピチューのぴっちと遊んでいた。 「君のところの仲間に連絡しておいた」 アルファードがハクを蹴飛ばしながら言った。 「こっちの金で5000万くれれば良いという事だ」 「世の中金だなぁ…その金はもちろんあんたが払うんだよな?」 ハクは蹴飛ばされた事に気づいていないようだ。 アルファードが困った顔をしながら頷いた。 「いいだろう」 その顔は、自分の5か月分の給料が全てなくなると語っていた。 「よっし、じゃあアルファード!よろしくなっ!」 ハクが微笑みながら言った。 「ああ。…ところで」 アルファードの顔が曇った。 「君、ここの世界に来る前に、私のことをおっさん呼ばわりしたな?」 |
湊 | #14☆2005.03/20(日)20:40 |
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■第13章 「あれ?付いてくるっていうことは、アルファードさんもコンテスト見るの?」 シダケを出たとたん、マユが質問した。 「いや…他にも仕事がドッサリ入っているからな」 「へー。そんなんで俺たちの子守してていいのっかなー?」 ハクが嫌みたっぷりに言う。 しかし、アルファードはそんな彼をグッと睨みつけた。 「ふん…人間ごときにはわかるまい… 君たちからちょっとでも目を離したらその間に敵の手に落ちてしまいそうだ」 「残念!俺たちゃあんたの考えてるほどヤワながきんちょじゃねーよ」 ある意味での守り神に、すさまじく無礼な態度を取るハク。 「それはどうかな、虎珀。君のデータは全て私の手元にある」 アルファードをそう言うとあの株価やらなんやら書いてある手帳を開いた。 「天狼 虎珀、15歳。誕生日は4月19日、規則を破った回数56829回。 そのうち48430回は先生に30回以上頭を下げている。 通知表は5段階評価で2890項目中2500項目は4以上。だが、内申書はとことん悪い。 そうそう、姉に怒られた回数は968259回で、泣かされたのは半数以上… これでもヤワながきんちょではないと言い切れるのか?」 アルファードが勝ち誇ったように言う。 ハクがやられた、という顔をする。 「お姉ちゃんいたんだ…」 マユがぽつんと言う。 しばらくの間、彼らは黙って歩き続けた。 「あれ…見て。あのおじいさん…」 もうすぐキンセツ、という時だった。 マユがいきなり立ち止まると、少し先の家を指差した。 見ると、庭の入り口で、老人が困り果てたようにタマゴを持っていた。 「お、おじいさん?どうしたんですか?」 マユが控えめに声をかけると、老人はため息をついた。 「わしはばあさんと育て屋をやっているんじゃが… 生まれたタマゴが、このタマゴの親のトレーナーに引き取ってもらえなかったんじゃ…」 「じゃ、あんたが育てればいいんじゃねーのか?」 あいかわらず無礼な言い方をするハク(アルファードに睨まれた)。 育てやじいさんは首を振った。 「もうみんなから預かっているポケモンを育てるだけで精一杯なんじゃ…」 じゃあ育てやをやめろ、と言い出しそうなハクの足を、アルファードが踏んづけた。 「え…じゃ、そのタマゴはどうなっちゃうんですか?」 マユが質問すると、老人は残念そうに 「生ごみになってしまうのぉ…」 と言った。 こんな可哀想な話を聞かされて、黙っている15歳の規則破りの常習犯ではない。 「よっしゃ!じーさん、そのタマゴ、俺が貰うよ」 「は?」 アルファードが思わず間の抜けた声を出したが、その声も育てやじいさんの言葉に掻き消された。 「おぉ!なんていい子なんだ、君は!ありがとう!」 育てやじいさんは、自分と同じくらいニッコリしている少年に、タマゴを手渡した。 この後のタマゴの運命をハクが知っていたとすれば、 彼はこのタマゴを他の誰かに譲ったはずだ。 タマゴから孵ったポケモンに、不幸が訪れないように―― |
湊 | #15☆2005.03/21(月)14:23 |
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■第14章 「タマゴなんぞ貰って…どうするんだ?目玉焼きにでもするのか?」 「うっせー!孵すにきまってんじゃねーか!…これだからケダモノは…」 ハクがアルファードの口調を真似した。 彼らはハクが貰ったタマゴについて大舌戦していた。 アルファードは、そんなもの邪魔にすぎないとか、お前のことだからすぐ捨てるとか言い、 一方のハクは、そんなことはない、俺はこいつを孵して立派なポケモンにするんだ、 とキンセツまでずっとこうやっていた。 「まぁまぁ…ハクもアルファードさんも…」 マユがなんとかしようとするが、2人は睨みあったままだった。 「へっへーんだ!ケダモノにゃ、人の情とかはわかんねーんだよ!」 ハクが舌を出してベロベロバー(ぇ)をしてみせる。 「人の情?じゃあ去年の7月16日に蟻をつぶして遊んでたのはどこの誰だ?!」 アルファードが鼻で笑い飛ばす。 マユはため息をついた。 「ね…きりがないから、もうそろそろ結論出したら?」 「このメタリック合金脳みそ野郎にそんなものが通用すると思うか?!」 2人が同時にマユに言い、2人は相手を睨みつけると、同時に別の方向に顔を背けた。 この人たち(アルファードは人ではないが)の精神年齢は自分以下ではないのか、 とマユは心の底で思った。 「フン…舞優の言う通り、きりがないではないか。もうそろそろ諦めたらどうだ?」 しばらくして、アルファードが言った。 ハクが石を高く蹴り上げた。 「諦めるぅ?あんた、このタマゴを生ごみにしようっていうのか? 自分の守ってる世界の生き物を殺してどーすんだよ。上司にバレたら大変だな!」 「ああーっ!もうやめてよーッ!」 マユが大声を出したので、2人は驚いた。 「いろいろ言うんなら、私がそのタマゴ貰うよ」 「それがいい」「え〜?!俺が貰ったんだぜ?!」 2人が同時に言う。そしてまた睨みあう。 …………… 「おい!なんで俺が育てたらダメで、マユならいいんだよ!」 「舞優ならお前と違ってちゃんとしているからな!」 2人の間に火花が散る。 「も う や め て っ て 言 っ た で し ょ ー ッ !」 マユがさらにでかい声で叫んだので、彼女の両脇にいた2人はかなりビビッた。 彼女の怒鳴り声は、夜のキンセツにぐわんぐわんこだました。 家々の電気が次々と点く。 「…まずいな。間違いなく怒られる」 アルファードはそう言うと、マユの背中を押し、ハクを蹴りながら路地へ逃げた。 「あんたのせいだぞ!」 路地に入ったとたん、ハクがアルファードにつっかかる。 「黙れ!…君が諦めれば、舞優もあんな大声を出す必要はなかったはずだ!」 2人はまた睨みあっている。 マユがまた大声で怒鳴ってやろうとした、そのときだ。 バボン! 近くで爆発音がして、3人はサッと音のしたほうに向いた。 「これは…魔法の気配…!」 マユは隣でアルファードが呟くのを聞いた。 「そ!さっすがアルファドさん、わかってるね」 音のしたほうから、誰かの声。 その誰かは、ゆっくりと3人の方へ近づいてきた。 |
湊 | #16★2005.05/01(日)14:06 |
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■第15章 「だっ、だっ、だっ、誰だーっ?!」 パニック状態のハク。 いきなりわけのわからんやつが暗闇から爆発音をさせて参上すれば、驚くのも無理もない。 「あ、何?僕がわかんないの?」 わけのわからんやつがそう言うと、パッと明かりが点いた。 マユは目を見張った。 光はそのわけのわからんやつの持っている、28cm程度の木の棒の先端から出ていた。 その光に照らされたわけのわからんやつは――― 「み、み、み、み…!」 ハクは今にも壊れそうだ。 「湊――ッ!」 「何だと?!」 アルファードがサッとわけのわからんやつの方を見た。 「この平気で魔法をぶっ放す輩が、 15歳で5月13日生まれの萩山湊、次代生徒会長と噂されている性別不明の謎の奴だと?!」 「うんうん、そうだよ。わかってんじゃん」 湊はニッコリした。 マユは改めてこの謎の生命体を見た。 髪の毛は長くもないし短くもない。男といわれれば男に見えるし、女と言われれば女にも見える。 中途半端そのものだ、とマユは思った。 「ところで…」 やっとこさ落ちついたハクがぽつんと言った。 「ミラ、お前はどうしてこんなところに…」 「み、ミラ?」 マユが素っ頓狂な声を出すと、ハクと湊が頷いた。 「ああ。『みなと』だから『ミラ』。入学式についたらしいぜ」 「まっ、人によっては鯨座の変光星ミラが由来みたいだけどね…」 ミラは肩をすくめた。 「君は変光星ではなく変性星、の方がピッタリかもしれんな」 アルファードが冷たく言い放った。 たしかに、この人の性別は見たときによって違う風に感じる。 謎だ。 「あ、そう言ってもいいのかな? 今、キンセツの住民一同が、さっきバカ騒ぎした連中を探してるよ。知らせよっか?」 「…ごめん」 「んでもって、お前はどうしてこんなところにいるんだ?」 キンセツの住民一同がバカ騒ぎをした連中探しを諦めた10分後、ポケモンセンターでハクが聞いた。 ミラこと湊は、悪戯っぽく笑った。 「そりゃー、どっかのあほんだらが松木先生の教材をごっそり盗んだせいさ。 あの後校長直々に、君を連れ戻して来いって言われたんだ」 ハクは硬直した。 「虎珀はこっちで仕事ができた。しばらく帰すことはできない」 アルファードが素早く言った。 ミラが彼のほうを向く。 「ん?ああ、この世界の破滅を防ぐ手伝い?」 アルファードは猛烈に頷いた。 ミラがニヤッと危ない笑みを浮かべる。 「やっぱり!じゃ、僕も手伝うか!」 「はぁ?!」 ハクが復活した。 「どうしてお前が…早く帰ればいいだろ」 「ところがどっこい、そうはいかないだ」 湊はかなり楽しそうだ。アルファードまでも頷いている。 「どうしてなんですか?」 マユがアルファードに聞くと、アルファードは半ば呆れ、半ば困ったように答えた。 「実は…湊はもう1人の救世士なんだ…」 … … … … … … 「おい!待てやケダモノ!」 ハクがアルファードに食って掛かる。 「なんでやで?!なんでこいつといっしょに行かなならへんのや?!」 関西弁混じりで喋るハク。 「知るか。私が決めたことではない」 「じゃあどこのどなたはんか?!上司か?!」 アルファードは、黙ってミラを指した。 ポケモンセンターに、押し殺した絶望の叫びが響いた。 |
湊 | #17☆2005.03/23(水)17:30 |
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■第16章 次の日。 窓の外では、空が明るくなり、キャモメが数羽飛んでいた。 目覚めたマユは、ポケモンセンターのロビーの椅子の陰で、 ハクとアルファードがコソコソと話し合っているのを発見した。 「何はなしてるの?」 マユがいきなり聞くと、2人はビクッとした。 「マユか〜。いきなり話しかけるなよ。湊かと思ったじゃねーか」 ハクが口を尖らせる。 「いや…実は、昨夜ハクに極秘事項をバラしてしまって…」 アルファードが困った顔で言った。 「なーに?極秘事項って」 2人の男(アルファードは人間ではないが)は、顔を見合わせると、同時に答えた。 「ミラが運命を決めているってことだ」 ……………… マユの目が点になった。 なぜそんなことを知っているかと言うと、それはすべてアルファードのせいだった。 「んで、なんであいつがメンバーに入るって決められるんだ」 ミラとマユが眠っているころ、まだ起きていたハクが、ウトウトしているキメラを起こしながら言った。 「…湊の好みの展開だからだ」 「は?」 ハクがマヌケな声を出し、またウトウトしはじめたアルファード人間形体を揺さぶった。 「違う違う!どうしてあいつはあんたの上司じゃないのに勝手に運命を決められるんだ?」 「わからないのか?」 アルファードがしつこいぞ、という目でハクを見ながら言った。 「作者の名前を見たまえ。ただし、大声は立てるな」 数時間たって(ぇ)、ハクが戻ってきた。 「ぎゃわぁぁああ!(?)アルファ――ド――ッ!」 「黙れ!夜中の3時だぞ!」 「それどころじゃないって…」 ハクが絶句した。 「なんで教えてくれなかったんだよ…ミラが俺たちの運命まで決められるって事!!」 |
湊 | #18☆2005.03/24(木)22:10 |
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■第17章 「うむ、教えてしまってはネタバレになるからな」 「じゃああんたの設定がいきなりナメクジに変えられてもいいのか?!」 アルファードの眉がピクリと動いた。 「教えて何になったというのだ?とくに何もならないだろう」 「んまぁそうだけど。でも、知ってたら知ってたで…」 アルファードはライオンのように欠伸をした。 「何だ?舞優のコカリナを粉々にしないですんだかもしれない、と?」 ハクが誰かのように激しく頷く。 「まぁ、粉々にしてしまった今でも、直す方法はあるだろう」 「えっ?!ドラ○もんを誘拐するとか…」 アルファードがずっこける。 「…一体何処まで馬鹿なんだ、君は…」 「えっ、じゃあどうすんだよ」 キメラは目の前の間抜けな少年を見ながら、こやつの頭の中は完全なる花畑だ、と思った。 「少し使っていないだけで忘れるとはな…自分で思い出せ」 ハクが何か言おうとしたが、アルファードは彼の台詞をさえぎった。 「もう明日にしろ。私の自由だけでなく、睡眠時間も奪うつもりか?」 「とまぁこんなもんだ」 ポケセンロビーの椅子の陰で、ハクがコソコソ話す。 今他の人がこの光景を見たら、警察に電話してもおかしくない。 誰だって、15歳くらいの少年と10歳くらいの少女、 さらにそこに20代くらいの怪しいお兄さんが椅子の陰でコソコソやっていれば怪しむだろう。 「ってことは、ミラさんが作者…ってこと?」 「そういうことになる」 「へぇ、何の話?」 背後で聞き覚えのある声。振り向く3人、背後に湊。 「なっ、なんでもありませんっ!」 サッと立ち上がり、敬礼しながらハクが棒読みで言った。 舞優とアルファードも、激しく頷く。 「ふーん」 騙されたふりをするミラ。そしてそんな彼(彼女?)に見事に騙される3人。 「んっじゃ、行こうか。舞優ちゃんもコンテストに行かなきゃいけないしねっ」 「は、はい!」 ガチガチに緊張しているマユに、ミラが笑いかけた。 ハクのタマゴが、コトンと動いた。 もう少しで孵りそうだ。 |
湊 | #19☆2005.03/26(土)13:06 |
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■第18章 「次のコンテスト会場は…ハジヅケだったよね?」 歩きながらミラが言う。 「あ、はい。そうです」 マユが答えた。 一行は、次のマユのコンテストのため、スーパーランクのコンテスト会場へ向かっていた。 「コンテスト優勝したらリボン貰ってハイ終わり、じゃなくて賞金とか貰えねーのか?」 「世の中お金だけじゃないよ」 ハクの台詞にマユがつっこんだ。ミラが爆笑する。 「どこが面白いんだ?」 ハクが爆笑するクラスメイトの顔をじろじろ見ながら聞いた。 「ハハハ…やっぱり金とかほしいのかって思ってね…あ、岩だ」 4人は立ち止まった。目の前に岩がある。これでは通れない。 「あーあ、これじゃ、ハジヅケに行かれないね」 「『りゅうせいのたき』を通るわけにもいかねーしな」 困った顔をする2人。再び爆笑するミラ。 「だ・か・ら!どこが面白いんだ!人が困ってるっていうのによ」 ハクがつっかかると、ミラは笑いながら例の木の棒を取り出した。 「魔法で砕こうというのか…」 アルファードがぽつんと呟いた。マユの目が輝く。 「えっ、魔法?!見たい見たい!見せて!」 しかし、ハクは眉をひそめた。 「非魔法族の前で見せちゃいけないんじゃなかったのか? 規則を破るようなやつじゃなかったぜ、お前」 ミラは完璧に無視した。そして、何かをブツブツ呟くと、バシッと岩を叩いた。 どんがらぐわっしゃ―――ん! …………… 岩は跡形もなく壊れた。 マユがすごいすごい、と手を叩く。ミラが得意そうに微笑む。そしてハクが口を尖らせる。 「俺の質問はッ?!」 「ごめんごめん。先生に許可貰ったからさ。虎珀も僕の監視下では使っていいって」 ハクが呆れ顔をする。 「はぁ?!俺は犬か!お前な…」 「あ!トレーナー発見!」 ハクの台詞が、どっかのだれかに中断された。 見ると、テレビ局の人のようだ。 「誰ですか?」 マユが聞くと、話しかけてきた女の人が微笑んだ。 「私マリ。こっちが相棒(?)のダイよ。私たち、インタビュアーで、トレーナーに取材してるの」 「えっ、マジ?!」 ハクが興味を示した。ダイが頷く。 「で、君たちと戦って、インタビューしたいんだけど、いいかい?」 「悪いが、今は急いでいr…」 「ハイハイハイ!俺やりまーす!」 ハクがアルファードの台詞をさえぎって、手を挙げて進み出た。 「虎珀、舞優がコンテストにd…」 「んじゃ、僕もやろっかな」 次にアルファードの台詞を台無しにしたのはミラだった。 「湊まで!舞優のことも考えt…」 可哀想なアルファードは、最後の最後まで台詞を全部言わせてもらえなかった。 「じゃあ、さっそくインタビュー開始よ!」 |
湊 | #20☆2005.03/29(火)19:03 |
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■第19章 「よっしゃ、TOGE(トゲ)、行ってこい!」 「ミルザム、早めに終わらせてね…」 ハクのモンスターボールからはトゲチックのTOGE(トゲ)が、 ミラのモンスターボールからはライボルトが出てきた。 「おおーっ、見たこともないポケモンだー!」 中継に夢中になりながらも、ポケモンを出すマリとダイ。 バクオングとレアコイルだ。 「TOGE、『サイコキネシス』をレアコイルにでもやっちまえ」 「何、その指示…まぁいいや、ミルザム、バクオングに『かみなり』」 ぺれれれれぺれれれれぺれれれれ ばりんばりんばりんばりん(謎) 素早い2匹は、それぞれ指示されたポケモンにサイコキネシスとかみなりを食らわせた。 「おーっ、お2人とも強いです!」 マイク片手に興奮するマリ。 バクオングがミルザムを踏んづけた。レアコイルが10万ボルトでTOGEを攻撃する。 「わー!ハクー!ミラさーん!がんばれー!…あれ?」 2人の後ろで応援していたマユは、アルファードがいないのに気づいた。 「ん?…アルファードさん、どこいったのかな…」 アルファードがいないことに気づいていないへっぽこ魔法使い2人組は、バトルに夢中になっていた。 「TOGE!『ゆびをふる』だ――ッ!」 「ミルザム、もう一回『かみなり』。バクオングにね」 TOGEは両手の人差し指を、空気をかき回すように振った。 そして、いきなりハッとしたように顔を上げると、次の瞬間熱い炎をレアコイルに向かって噴射した。 レアコイルが倒れる。少し遅れて、ミルザムのかみなりを食らったバクオングも倒れた。 勝った。 「シャァア――ッ!やったな、TOGE!ありがと」 「ミルザム、お疲れ様」 ポケモンを戻す2人。駆け寄るインタビュアー。 「凄かったぞ!あ、君たちの名前は?」 楽しそうにインタビューに答えるハクと、無表情で答えるミラ。 そんな2人の後ろでは、マユがアルファードを探していた。 「あれれぇ?数分前には手帳見ながら 『…む、カー○キャ○ターさ○らのフィギュアの通信販売だと?』とかなんとか呟いていたのに…」 「なーに言ってるんだ?」 後ろからいきなり声がして、マユは飛び上がった。 振り返ると、ハクとミラがマユの顔をのぞきこんでいる。 どうやら、インタビューが終わったようだ。 「アルファードさんがいないんだ…探してるけど、どこにもいないの」 「へっ? 『君たちからちょっとでも目を離したらその間に敵の手に落ちてしまいそうだ』 って言ってたのに?」 ハクがそっくりに真似する。ミラが呆れ顔でハクを見ながら呟いた。 「まっ、とりあえず探しに行ったほうがいいんじゃない?」 ハクの鞄の中のタマゴが、さっきよりも激しく動いた。 もうすぐ生まれそう! |
湊 | #21☆2005.03/31(木)20:38 |
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■第20章 「アルファードさーん!」 マユの声がそこらへんに響き渡った。 「あいつ、どっかで迷子になんてるんじゃねーの?意外と方向オンチかも」 マユの後ろからついてくるハクは、あんなやつどーでもいいんだ、といった感じだ。 そんな彼を、隣のミラを小突く。 「何言ってんのさ。あの人がいなきゃ、この世界は救えないようなもんさ」 「へぇ〜ボタン連打していいか?」 ハクが苦笑いした。それにつられてミラも笑う。 「ね、2人とも!早くアルファードさん探さなきゃ!」 振り返ったマユは、怒ったように言った。 彼がいないと、このへっぽこ魔法使い2人組みをマユだけで面倒みなくてはならないからかもしれない。 「おいおい、あんなやつ探して何になるっていうんだよ?ただ邪魔なだけだろー」 ハクが肩をすくめた。 「そんな風に言えるのかい?あの人が5千万ださなきゃ、虎珀は退学か逮捕だよ」 このミラの言葉で、ハクは探す気になったようだった。 「よーし、マユ、とっととあのケダモノを探そーぜ」 「誰がケダモノだと?」 ハクの背後から、アルファードがにゅっと顔を出した。 ハクは5mのけぞった。 「なっ、なっ、いきなり何だよ、どっから湧いてきた?!」 「湧いてきたとは失礼な…そこにいたら舞優の声がしたから…」 アルファードはとある方向をぐっと指し示しながら言った。 そのとある方向で、砂が渦巻いているのが見えた。 砂漠の砂嵐だ。 「砂漠がどうかしたんですか?」 マユが質問すると、アルファードが気難しい顔をした。 「同じ種族の気配を感じてな…」 「あんたらの敵じゃねーのか?」 ハクはどうでもいいけど、とでも言いたそうだった。 「いや…なんか懐かしいようなものが…」 アルファードは表現に困っている様子だ。 そんな彼の背中を、ミラがバンバン叩いた。 「ったく、いきなりどっか行くんだからさ…もうこんなことが無いようにしてよ〜」 「…は、はぁ…」 作者相手に何も言えないアルファード。 そんな彼にハクが(アルファードにとって)史上最低の侮辱をした。 「首輪して綱につないだほうがいいんじゃねーの?」 …………… 「私を何だと思っているんだ」 「精神年齢の低いドジな獣のお偉いさん」 …………… 居心地の悪い沈黙が流れる。 「はいはいはーい!そんなことは置いといて!ハジヅケに行くよ〜!」 沈黙を破ったのはミラだった。 彼女(彼?)はハクとアルファードの背中を押し、マユに行こう、と声をかけると、 押されている2人が前につんのめるくらいにぐいぐいと押していった。 |
湊 | #22☆2005.04/01(金)20:53 |
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■第21章 「何が精神年齢の低いドジな獣のお偉いさん、だ」 「事実を述べたまでだよ!ったくいつまでもうるせぇな」 ミラに押されながらも、ハクとアルファードはまた喧嘩を始めた。 「私をタマゴから孵ったばかりのポチエナとカン違いしているのではないか?」 「あ、ハク!あのタマゴはどうなったの?」 アルファードの台詞に、マユが割って入った。 ハクは鞄を開けようとしたが、ミラに押されているため、開けることができない。 「おいミラ!止まれ」 ミラが急停止した。押されていた2人のうち、1人はそのまま地面にべちゃっと倒れた。 「あ、ごめん、ハク」 ミラが地面に倒れているクラスメイトに詫びた。 「ごめんじゃねー!タマゴが割れたらどうすんだよ…」 鞄をゴソゴソあさりながら、起き上がったハクが不機嫌な声で言った。 「えーと、どっこだー?!…っと!あったぜ」 ハクが重そうにタマゴを引っ張り出した。 マユはタマゴをしげしげと眺めた。 このタマゴはテレビで見たタマゴとちょっと違う。色が全体的に紫色っぽい。 最大の特徴は、変な模様があるところだった。 「何だ?この模様は」 アルファードが顔をしかめながら模様を指した。 「知らねぇよ。もともとあったんだ」 その時、タマゴがピクピクと動いて、4人(正確に言えば3人と1匹)は飛び上がった。 「これって、そろそろ孵るんじゃないの?」 マユがずっとピクピクしているタマゴを指しながら言った。 「うーん、そうらしいねぇ」 ミラはタマゴをそっと突付いている(タマゴはもっと揺れた)。 「ってことは、俺はそろそろコイツの兄貴になるってことか!」 ハクは嬉しそうにタマゴを撫でた。アルファードが鼻で笑い飛ばす。 「フン…兄というのはロクなことがない。弟の世話を全てやらされるからな」 「そうなんですかぁ。一人っ子の私にはわかんないな」 マユが呟くと、ミラが微笑みながら彼女の背中を叩いた。 「んま、一人っ子のほうが気が楽かもね。親を独り占めできるし」 「おいおい、弟の身にもなれっつうに」 ハクがタマゴを鞄に入れずに、鞄と一緒によっこらせっ、と持ち上げながら言った。 「兄弟関係話より、早くハジヅケに行ったらどうだ?舞優のコンテストがある」 「あ、そうだった」 「いっけねー」 アルファードの言葉に、マユとハクはあわてて歩き出した。 「弟、か…」 アルファードは走っていく人間3人を見ながらぽつんと呟いた。 そして、寂しそうにフッと微笑むと、3人の後を追いかけた。 |
湊 | #23☆2005.04/02(土)20:10 |
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■第22章 「あっちぃ〜!」 ハクの力の抜けた声が、ほのおのどうくつに響いた。 「タマゴがゆで卵になっちまうぜ、こんなんじゃ」 「はいはい、いろいろ言ってないで!暑いならこの灼熱地獄をとっとと出りゃいいじゃん」 ミラがハクの背中を押す。 「火山が近くにあるから、こんなに暑いんですね」 マユが隣のアルファードに言った。 「…しかし、最近はいつもより暑いな…何かが変わったようだ」 と言ったアルファードは、いきなり立ち止まり、道端の細い道に目を向けた。 マユも一緒に立ち止まった。 「どうしたんですかぁ?」 マユが聞くと、前方のへっぽこ魔法使いコンビも引き返してきた。 「何だ何だ?金貨でも落ちてたのか?」 ハクがアルファードの顔を覗き込む。 「…ヤツを感じる」 「?」 人間3人組の脳裏で疑問符がパレードする。 「ヤツって?敵ですか?」 「いや、違う…味方のはずだ。君たちにとってはな…」 そう呟くと、アルファードは道を塞いでいる巨大な岩に向かって歩いていった。 「アルファドさーん、それは押さないと無理だよ」 ミラが岩をコンコン叩いているキメラ人間形体に向かって言った。 しかし、アルファードはミラを無視して、岩をガツンと蹴った。 ガラガラガラガラ! 轟音を立てて岩が崩れる。 ……………… 「おいミラ!なんでお前のキャラは超人が多いんだ!」 「知ーらね」 ハクがこのシーンにすかさず突っ込む。 そうこうしているうちに、アルファードが3個目の岩を破壊する。 「アルファードさん、凄いですね」 さっさと奥に1人で行ってしまうアルファードに、追いかけてきたマユが尊敬の眼差しを向けた。 「大したことじゃない」 アルファードが後ろからへっぽこ魔法使い2人組みもついてくるのを確認しながら言った。 「んで?この先に何がいるんだ?『ヤツ』って言われてもわかんないぜ」 さっぱりわからん、という顔をするハク。 そんな彼を無視して、ズンズン進むアルファード。 マユは明らかにおかしい、と思った。 出合った時からインタビュアーと戦うまで、 (ハクに挑発されない限り)冷静だった(はずの)アルファードが焦っている。 「なっ、無視すんなってば…ぁあ?!」 角を曲がった時、マユ達は信じられないものを見た。 |
湊 | #24☆2005.04/03(日)20:22 |
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■第23章 舞優たち人間3人組は、その場で硬直した。 道の行き止まりに、大きな赤い八面体のクリスタルが浮かんでいる。 その中心部に、オレンジ色と黄色の謎の生き物らしきものがうずくまるようにいる。 「なんじゃありゃぁ…」 後ろでハクが裏返った声で呟くのが聞こえる。 「…下がっていたほうがいい」 アルファードがマユに言ったので、マユは言われたとおりに下がった。 マユが下がったのを確認すると、 アルファードはクリスタルの1歩手前まで進み、ブツブツと何かを唱え始めた。 「なにするん…」 「黙らっしゃい!」 マユが振り返ると、ミラがハクの後頭部に強烈なローキックを食らわせるところだった。 と、いきなりアルファードがブツブツ言っている方向から赤い光が射してきた。 「え…何?」 振り向こうとしたマユは、もっと強い真紅の閃光が射してきたため、思わず目を覆った。 覆っていた手を目から放したとき、マユの目が捕らえたのは、 先ほどあった赤い水晶ではなく、まったく別のものだった。 黄金のライオンだ。 オレンジ色の鬣が、炎のようにゆらゆら揺れながら、金色の光の粒を辺りに撒き散らしている。 ライオンの前足首で小さな(おそらく飛ぶのにはむいていない)翼がピクピク動いていた。 金色の獅子の背には、実際にはあるべきものではない、大きな純白の翼。 そのライオンは、鬣をブルブルと振ると、その赤い瞳で周囲を見渡した。 獅子の赤い目が、彼の目の前のアルファードに向けられる。 次の瞬間、ライオンは驚きのあまり目を見開き、口をあんぐりと開けた。 「兄貴!兄貴じゃん!やっぱりそうだ、アルファ…」 「黙れ。貴様に私のことを兄と呼ぶ資格などない」 アルファードが氷の如く冷たい声で、突き放すように言った。 マユはライオンとアルファードの顔を交互に見た。 ライオンの顔は、(何故か)恐怖でひきつっている。 アルファードはというと、その漆黒の瞳に憎しみをありったけこめて目の前の獅子を睨みつけていた。 彼の目を見たマユは、恐怖を感じた。 一体、何があったのだろう…? 「でも…でも、血縁関係はあるじゃないか…」 ライオンはひかえめに言ったが、かえってアルファードを爆発させてしまった。 「血縁関係だと?父親で繋がっているだけだ!私は貴様をあの日まで弟だと信じていた! 貴様は私が苦しんでいる時、何をしていた?!あの後仲間から聞いたぞ… 貴様は私を笑っていた!そうだろう?兄より、地位のほうが大切だったというわけだ! そんな輩を弟と思う奴がいたらお目にかかりたいものだ…!」 「ちっ…!違う!あれはその…」 ライオンはあわてていったが、アルファードはもうライオンに背を向けていた。 「あのぅ…とりあえず、ここを出たほうがいいんじゃないかな…」 しばらくして、マユがおずおずと声をかけた。 ライオンが猛烈に頷く。腕組をしているアルファードは、横目でチラッとマユを見た。 「……それもそうだな」 「んじゃ、んじゃ、とっととここから出ようぜ!」 空気の読めないハク。と、彼の腕の中のタマゴが、さっきより激しく動いた。 「え?」 タマゴに亀裂が入る。 「これってまさか…?」 ミラがハクとタマゴを交互に見ながら言った。 タマゴからは何が孵るのか? そしてアルファードとライオンの関係は――― |
湊 | #25☆2005.04/04(月)14:13 |
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■第24章 「孵るぞ孵るぞ〜!」 興奮するハク。彼の腕の中のタマゴに、もっと亀裂が入る。 「何が孵るのかな?」 マユもワクワクしながら言った。ハクはめちゃくちゃ嬉しそうに(何故か)周囲を見渡した。 ハクとライオンの目がちょうど合う。 1人と1匹は、まったく同じ事を考えていたらしい。 「何が出るかな♪何が出るかな♪」 1人と1匹は声をそろえてノリノリで歌いだしたが、 背後のアルファードから発散される殺気に気づいてやめた。 そんなことをやっている間に、タマゴの殻の1部が割れて下に落ちる。 「おっ、おっ、お――ッ!」 ハクが3回目の『お』を言った瞬間、タマゴの殻がパリーンを割れ、中のポケモンが現れた。 タッツーだ。だが、普通のタッツーとは違っていた。 全体的に光っているような感じがする。 通常のタッツーでは水色のところが、どっちかというと青緑色っぽい。 クリーム色のところは、薄めの赤。 そして、その背中には、タマゴにあったのと同じ、奇妙な模様。 「うわぁ、すっげぇ。虎珀、こいつ色違いだよ」 ミラがハクに言ったが、ハクは聞いていなかった。 「わぁぁああ!可愛い――ッ!」 殻を放り投げ、タッツーを食い入るように見つめている。 危険だ。 「この世のものとは思えないほどの美しさ!こいつが人間だったら、俺は彼女にs…」 「そのタッツーは雄のようだな」 ハクの台詞を中断して、背後からアルファードがビシャリと言った。 ……………………… 「ま、まぁいいじゃねぇか!」 ハクが顔を赤くして言った。そして、またタッツーに目を向ける。 「よーし、名前はKIRA(キラ)!よろしくな、KIRA(キラ)!」 「まんまじゃん」 ハクにミラがすかさず突っ込む。もちろんハクは聞いてもいない。 「あ、名前って言ったら、あなたの名前は?」 マユはすっかり存在の忘れ去られているライオンに聞いた。 「ん?俺はリージェ!なんか知らねーけど、『炎の獣神』とも呼ばれてるぜ☆」 「…それは自慢か?」 ライオンのリージェにアルファードが冷たく言った。リージェは口を噤んだ。 「まっ、とにかくここを出るんじゃなかったっけ?コラ虎珀!いつまでジャレてんのさ!」 3人(というか1人と2匹)に言ったミラは、KIRA(キラ)とジャレているハクに怒鳴りつけた。 「あ、そうだった!…というか、コンテストがあったんだっけ」 ハッとするマユ。 ミラがフンフン(?)と頷く。 「やる人が忘れちゃ困るっ!とりあえず、早く行かないと、ね!」 そう言うと、彼(彼女?)は1人でバッと出口にむかって走っていってしまった。 「あ!おい待て!マジでおいてくなよ〜!」 あわててハクも追いかける。 「じゃ、俺たちも行くか!」 リージェがマユに言った。マユはニッコリ笑った。 「うん!」 |
湊 | #26★2005.04/08(金)19:31 |
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◆番外編 『暗闇の中、今だかつて無い召喚が行われようとしている…。 舞優とアルファードは指を繋ぎあい、呪文を唱えた。 「虎珀さん、虎珀さん、お越し下さい」 次回!「ついに動いた十円玉」 虎珀は宇宙人!?お楽しみに! 』 (『いきなり次回予告』http://ikinari.pinky.ne.jp/より) * 朝っぱらだと言うのに、カーテンを閉めきった部屋。 ガムテープでめちゃくちゃにしてあるので、光はどこからも入ってこなかった。 この真っ暗(でむし暑い)部屋の真ん中のテーブルに正座して、紙と十円玉を見ているのは、 舞優とアルファードだった。 「…2回も呼び出したのに来ないとはな…」 ブツブツ文句を言うアルファード。 「私が見たところによると、彼は『マイナンライフのこんにゃく林』を食べていると思われる」 「でも、どうしても知りたいことがあるんです…もう1度、やってくれませんか?」 マユが懇願すると、アルファードはこれで終わりだぞ、とため息をついた。 2人(というか1人と1匹)は指を繋ぎあい、呪文を唱えた。 「虎珀さん、虎珀さん、お越しください」 … … … … … 何も起こらない。 「言っただろう?彼はやはり『マイナンライフのこんにゃく林』を食べているのだろう」 と、アルファードが言った、その時だった。 ズズズズズ… 十円玉が紙を擦る音。アルファードは異様な気配を感じた。 このいやーな気配は、間違いなく作品中最強のギャグキャラのものだ。 ついに虎珀が始めた。こんにゃく林を食べながら。 「アルファードさん、蝋燭つけてください」 緊張した声でマユが言う。アルファードが蝋燭を灯す。 蝋燭の光に照らされた十円玉は、たしかに虎珀が居座っていた。 「それで、何を知りたいんだ?」 アルファードは机の上に蝋燭を置きながら、マユに尋ねた。 彼女は悪戯っぽく笑うと、十円玉にのりうつりながらこんにゃく林を貪っている 宇宙人だという噂の虎珀に聞いた。 「虎珀さん、虎珀さん、アルファードさんがマジレンジャーを毎週見ていると言う話を リージェから聞いたんですが、本当ですか?」 「!!」 動きかける10円玉。しかし、アルファードがマユの腕をぎゅっと握った。 「ま、舞優、その話はヤツのでたらめだから…」 「ええっ、でも気になるんですぅ」 「…プライバシーの侵害だぞ」 好奇心旺盛の目で見る舞優。焦るアルファード。 そして舞優の指先の十円玉(&ハク)は、そんな2人をよそに ぐいぐいと少しずつ動いていくのであった… (予告作成者:うさりんさん) *この物語はフィクションのはずです。 本編の連中には一切関係ないと思います(爆) |
湊 | #27☆2005.04/09(土)16:58 |
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第2部 灰の降る道・砂漠の水晶 ■第25章 ここは113番道路。この灰の降る道に、舞優とへっぽこ魔法使い達はいた。 「わぁ!火山灰が雪みたいだね」 マユが道に降り積もった火山灰を掬い上げながら言った。 「おっ、ほんとだ。火山のやつか?」 マユの隣に腰を下ろしながら、救世士虎珀も火山灰を摘まんだ。 「ふーん、これってカザンバイって言うんだ」 後ろから、リージェが覗き込んだ。 人間の姿では、彼はアルファードにそっくりだった。 しかし、その子供っぽい真紅の瞳と、鬣のようにクシャクシャの赤い髪は兄とまったく正反対だった。 まるで性格のようだ。 「火山灰くらい知ってろよな…。どーでもいいけど」 リージェの背中を小突きながら、ミラこと湊がニヤニヤしながら言った。 「…早く行くぞ」 アルファードはそう言い放つと、ハクの隣をスッと通っていった。 「あっ、待てよ!おーい!」 ハクは立ち上がると、火山灰を蹴散らしながらアルファードを追った。 「いやー、弟参戦でアルファドさん拗ねてるね」 その後ろを早足で追いかけながら、ミラが隣のマユに言った。 「俺、なーんにも悪いことしちゃいないぜ」 リージェが2人に追いつきながら言う。 「えっ、でも笑ったんじゃないんですか?」 マユが尋ねると、リージェは口を尖らせた。 「敬語は使うなって!…んまぁたしかに笑ったけどs…」 「おーい!おっせーぞ、お前ら!」 リージェの台詞を妨害して、かなり向こうからハクが叫んだ。 「はいはい、わかりましたよーッ!」 ミラはそう叫び返すと、マユとリージェに行こう、と声をかけて走っていった。 「遅いじゃねーか。ケダモノはもうとっくに、そこらの火山灰を袋の中にぶちこんで そこの店に入ってったぜ。一体何をやらかすつもりなんだか…」 3人(というか2人と1匹)がハクのところに着くと、ハクがとある店を指しながら言った。 「『ガラス細工のお店 火山灰からガラスの道具』」 マユが看板を読み上げたとたん、アルファードが湧いて出た。 手には、黄色のビードロを持っていた。 「へっ、アルファドさん、何それ」 ミラが彼のビードロを指しながら聞く。 「…ビードロだ」 「そりゃわかるけど」 ハクが突っ込んだが、アルファードにとってはそんな事はどうでもいいようだった。 「コンテストの受付に行こうとしても、舞優が来なかったからな… そこらへんの火山灰なんぞを集めて作ってもらったまでだ」 店の人は、こんな怪しい(でもかっこいい)お兄さんが袋をドンとカウンターに置いて ビードロを作ってくれと言ったとき、どうしたのだろう、とマユは勝手に考えた。 「はいはい、すみませんでしたぁー。じゃ舞優、早く行こう。とっとと受付を済ませなきゃ。 というわけで、そこの獅子兄弟と虎珀は、コンテストが始まるまでに来てねー」 「えっ!また置いていくのかよ!」 ハクが呆れた声で言ったが、ミラはもうすでにマユをひっぱって走っていってしまった後だった。 「うぅ〜ん、コンテストやるのねぇ〜」 こんな光景を、店の裏から見ていた女の子が1人。 また怪しいやつが増えるのか?! |
湊 | #28☆2005.04/12(火)18:28 |
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■第26章 ………… ハジツゲに着いた一行は、言葉を失った。 コンテスト会場の前に、黒山の人だかり。 一般人はもちろん、インタビュアーまでたかっている。 「何だ何だ何だ?強盗でもあったんか?」 つま先立ちで人だかりの頭越しに見ようとしているハク。 「違うと思うよ。だってお巡りさんいないもん」 マユはそう言ったが、彼女の顔には、この人だかりの中で受付ができるだろうか、と書いてあった。 「何?オマワリサンって」 リージェが興味津々で聞く。 みんながしらける。 「…Police、つまり警察だ。…日本語をしっかり復習しておけ」 アルファードはそっけなく言うと、人込みを掻き分けて、中に行ってしまった。 「おい、待たんか」 ミラはそう言うと、アルファードの後を追って、人だかりの中に姿をくらました。 「お前もだろ!とにかく行こうぜ」 ハクはそう言うと、目の前の太ったばばa…ではなくおばさんに、 気づかれないように肘鉄を食らわせながら人込みに紛れた。 マユとリージェが後を追うと、人だかりの中心部に出た。 中心に派手なお姉さんが立っている。 お姉さんが抱いているのはドジョッチ。オレンジ色のリボンをつけていて、すごく可愛い。 「魚沼さん!今後のご予定は!」 フラッシュが(何故か)たかれる中、インタビュアーの1人がお姉さんに質問した。 「んー、千裕はぁ、久しぶりにチィちゃんと一緒に スーパーランクのコンテストに出たいと思います☆」 (また何故か)わーっと拍手が沸き起こる。 コンテスト会場に駆け込む輩も何人かいた。 マユとリージェが一緒に人込みを出ると、アルファードが狂ったように手帳をめくっていた。 「魚沼 千裕、魚沼 千裕…ああ、いたいた…」 「ん?アルファドさん、何やってんの?」 後ろからへっぽこ魔法使いコンビもやってきた。 「あの女のデータだ。 魚沼 千裕、全国的なコーディネーターとして有名。 可愛さコンテスト部門の、全国ポケモンコンテスト優勝。次の年も、その次の年も優勝している… その相棒はドジョッチのチィちゃんとやらで、その可愛さで観客を釘付けに…」 「おいおい、そのデータはどっから持ってくるんだ? 全国ポケモンコンテストっていうのは、どうせミラが勝手に作ったヤツだろ?」 アルファードの言葉を遮ってハクが呆れた声で言ったが、アルファードは聞いてもいなかった。 「今回のかわいさコンテストスーパーランクに出るそうだ… 舞優、今はあの女とステージに上るべきではない。 だが一緒にやるとしたら……君ならなんとかできるだろう」 彼はそう言うと、パタンと手帳を閉じた。 マユは頷くと、コンテスト会場の方向を見た。 まだ人だかりがわっさわっさと固まっている。 「早く行かないと!あのウオヌマとかいう女のファンで、コンテスト会場に入れないかもしれないぜ」 リージェはあわてた様子で言ったが、その声は楽しそうだ。 「よーし、じゃあ、一か八かで強行突入だ!」 ハクはそう言うと、マユ、ミラ、リージェを連れて、コンテスト会場に突入した。 「…やれやれ…」 その場に残されたアルファードは、大きくため息をついた。 「今混んでいるなら後で出直してくれば良いものを…」 |
湊 | #29☆2005.04/15(金)22:02 |
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■第27章 ハクはマユの腕を引っ張りながら、コンテスト会場内の人込みの中をズンズン進んでいった。 周囲の人たちは、みんな魚沼さんを応援するんだろうな、とマユは思った。 「す、すみません」 受付に着き、マユが人込みから這い出ながら、コンテストパスを出して言った。 「うつくしさ、たくましさ、かっこよさ、かしこさ、かわいさコンテストに出たいんですけど」 とたんに、周囲の人たちが静かになった。 「ちょっと、およしなさいよ」 背後から、太ったばb…おばさんがマユにヒソヒソ声で言った(ハクは眉間に皺を寄せた)。 「他のコンテストはともかく、かわいさコンテストはおよしなさい。魚沼さんに勝てるわけがないわ。 ここにいるどのコーディネーターも彼女と同じステージに立ちたくないの。 まぁ、だから4人集まらなくて困ってるんだけどね…」 「マユがどうしようと、あんたが口出しすることじゃないぜ。ま、俺もだけどな」 隣にいたハクは、おばさんに(無礼にも)冷たく言って、マユの顔を覗き込んだ。 「な、マユ。出るだろ?」 マユは少し迷っていた。 このおばさんが見ず知らずのマユに、出るなと忠告するくらいだから、魚沼という女の人は相当すごいのだろう。 かわいさコンテストに出ても、負けるのがオチかもしれない。いっそのこと、次回にしてしまおうか。 “だが一緒にやるとしたら… …君ならなんとかできるだろう” フッと、マユの頭に誰かさんの言葉が浮かぶ。 自分の優勝を願っている人も、しっかりいるではないか。 「もちろん!全部でるよ」 マユの頭に浮かんだ言葉を言った張本人は、コンテスト会場の外にいた。 そして、会場からミラとリージェがつまみ出されるのを観賞していた。 「ちぃっ、人数制限だって!虎珀はちゃんと入れたのにさぁ」 ミラはものすごく腹を立てていた。自分の作った設定が気に入らないようだ。 「だよな〜。人間って何考えてんのかわかんないぜ」 リージェはそう言ったが、視線は地面をちょこまかと歩いている蟻に向けられていた。 「な、兄貴もそう思うだろ〜?」 リージェはアルファードの方を向いたが、アルファードは完璧に無視した。 「なぁ、兄貴ってば」 「… …」 「兄貴ぃ」 「黙れ、産業廃棄物め。貴様などに兄呼ばわりされたくはないわ」 アルファードはビシャリと言った。リージェは一瞬怯んだものの、こりずに言った。 「じゃ、兄貴以外に何て呼べばいいんだよ?!」 「何でもいい」 考えるリージェ、面白そうに見ているミラ、曇り空を眺めるアルファード。 「んじゃ、『あーちゃん』」 … … … … … アルファードが指の間接をバキッと鳴らした。 「えっ、じゃ、『あっちゃん』は?」 … … … … … … … 「普通に呼べ」 あっちゃん(違)は今にもリージェの首の骨を折りそうな感じだ。 「普通って何を基準に普通なんだよ」 リージェが口を尖らせる。そんな彼に、ミラが答える。 「普通は普通だよ」 「じゃ、虎珀とかいうのが呼んでる『ケダモノ』は?」 … … … … … … … … … … アルファードの堪忍袋の緒が切れた。 |
湊 | #30☆2005.04/17(日)20:31 |
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■第28章 外でアルファードがリージェをズタズタにしている間に、 コンテスト会場ではかわいさコンテストが始まろうとしていた。 観客席は超満員。そして、観客の半数以上は魚沼とかいう女を応援していた。 そんなやつらに囲まれた、ごく少数の魚沼ファンクラブではない人々の中に、ハクは紛れ込んでいた。 「さぁ、これよりスーパーランクのポケモンかわいさコンテストがはじまります!」 シダケのコンテスト司会と同じ事を言っている。 だが、他の観客はそんなことをまったく気にせずに、(何故か)歓声をあげていた。 「さーて、出場されるトレーナーと、ポケモンのみなさんはこちら! エントリーナンバー1番、チヒロさんのチィちゃんです!」 会場のファンクラブたちが、ハクが鼓膜が破れるかと思うくらいの大声で一斉に歓声をあげた。 ハクが耳を塞ぎながらマユの方を見ると、ガチガチに緊張しているのが見えた。 「(おい!アピールタイム始まる前から緊張してどーすんだっつうの!)」 ハクは叫んでやろうかと思ったが、周囲の連中がやかましくて、叫んでもマユには聞こえないと判断した。 「さぁ、ポケモンの紹介が終わりました。1時審査に入りましょう! 会場のお客様によるポケモンの人気投票です! では早速はじめましょう!投票お願いします!」 あっという間にポケモンの紹介も終わり、恐怖の1時審査に入った。 マユの投票箱に票をぶち込んだ(?)ハクは、周囲を見渡して唖然とした。 予想以上に魚沼のチィちゃんに入れる人が多い。 マユや他のポケモンに票を入れたのはハクしかいないようなものだった。 これは駄目だ。2時審査に賭けるしかない。 ハクはマユにギリギリまで近寄った。 「マユ…!マ〜ユ〜…!」 後ろから囁くと、マユは飛び上がった。 「あ、ハク…」 「お前なぁ、アピールする前に緊張してどうすんだよ」 ハクが半分呆れながら言うと、マユは申し訳なさそうに俯いた。 「うん…思ったより難しいみたい。勝てるかな…」 「諦めるな!これからだろ!勝ったらアルファードに金出させてモモンパイ奢ってやるから!」 ………… 2人の間に沈黙が流れた。マユの表情が緩む。 「それってハクの奢りじゃなくてアルファードさんの奢りじゃん」 「いいのいいの!あいつのモノは俺のモノ!俺のモノは俺のモノさ!…なーんてな」 マユがふきだす。ハクが心の中で一種の勝利の雄たけびを上げる。 「おーっと、じゃ、2時審査頑張れよ! 他のヤツが魚沼とかなんたらいう厚化粧ばばあの味方しても、俺だけはお前の応援すっから!」 ハクはそう言うと、観客席にダッシュで戻っていった。 「全国の魚沼さんに失礼だよーっ」 マユは彼の背中に呟いた。 「ぴっち、元気がでてきたね」 マユはもとの位置に戻りながら、ピチューに言った。 「よーし、ぴっち、前みたいに張り切ってがんばろっ!」 「ぴっちゅー!」 マユとぴっちは、ステージの上で、一緒に小さくえいえいおーをした。 「さぁ!今投票が終わりました! 集計をしている間に、2時審査に入りましょう!」 司会がまた喋りだした。 「2時審査は、いよいよおまちかねのアピールタイム!技でアピールしまくりましょうー! でははりきってどうぞ!レッツ!アピール!」 観客がどっと歓声をあげた。 勝てる。マユは自分に言い聞かせた。 絶対勝って、お兄ちゃんみたいなコーディネーターになるんだから。 |
湊 | #31☆2005.04/19(火)20:08 |
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■第29章 1番最初にアビールするのは、やはり魚沼 千裕のチィちゃんだった。 「チィちゃん、『ドわすれ』よ」 魚沼が指示すると、ドジョッチは可愛いポーズをして見事なドわすれを決めた。 ハクとマユが会場が爆発したかと思ったくらいの大声で、彼女のファンクラブが歓声をあげる。 次はマユの番だ。マユはすーっと息を吸った。 「ぴっち、思いっきりやってきてね」 ピチューのぴっちは頷くと、そこら辺に思いっきり魅力を振り撒いた。 『メロメロ』だ。 これには魚沼ファンクラブもざわめいた。 マユの後の2匹が、ガチガチに緊張し、アピールができなかった。 「しゃぁー…!、お見事お見事、さっすがマユだぜ」 ハクは周囲の他の観客に聞かれないように呟いた。 2回目のアピール。 次はマユが一番最初。ぴっちは『おんがえし』でアピールし、観客を(強制的に)盛り上げた。 2番目のチィちゃんは『ねむる』で、その場でぐっすりと眠った。 (ハクはコンテストが終わるまでチィちゃんが起きませんようにと密かに願った。) 「ぴっち、いい線いってきてるねっ」 マユがぴっちに言った、そのときだ。 3番目のマッスグマが、口から破壊光線を炸裂させた。 ぴっちがめちゃくちゃ驚いてひっくり返った。 「そんなぁ…」 目の前のでかいモニターに表示されたぴっちのハートが一気に下がる。 ぴっちを見ると、耳で顔を隠しながらマユを申し訳なさそうに見ていた。 「マジかよ、おーい!そんなのってアリかってんだ…」 観客席のハクは、モニターを凝視しながら言った。 「キンセツで騒ぎ立てた時と等号で引ける(?)くらいヤバイじゃねーか…」 3回目のアピールは、マユは一番最後になってしまっていた。 チィちゃんは眠ったまま、すさまじい『いびき』を披露した。 (ものすごいいびきだったが、マユとハクは耳を塞がなくてもよかった。 魚沼ファンクラブが騒いでいたからだ。) そのアピールを見たとたん、マユは一筋の明るい光が見えたような気がした。 これは絶対勝てるはずだ。 マッスグマはアピールを見ていた。 その次のププリンがぴっちに『メロメロ』で攻撃(?)したが、ぴっちは平気だった。 いよいよぴっちの番だ。 ぴっちは観客をじっと見ると、漆黒の瞳をウルウルさせて、思いっきり甘えた。 前のポケモンたちが、ありえないほど驚く。 マユはぐるっと観客席を見回した。ハクと目が合う。 ハクは親指を立てて、「すっげぇぞ」と目で伝えた。 トップに躍り出たマユとぴっち。その後に魚沼さんとチィちゃんがつづく。 ぴっちは『メロメロ』でアピール、チィちゃんは『ねむる』でアピールし、ついに5回目のアピールになった。 「さぁ、ついに5回目のアピールです!」 司会のお姉さんの声が、会場内に響き渡った。 ぴっちはまた前に進み出ると、その場で丸まって眠り始めた。 隣で魚沼 千裕がくやしそうに歯を食いしばる。 チィちゃんは『じしん』をくりだした。もちろん、眠っているぴっちを驚かすことはできない。 それどころか、次のマッスグマの『はかいこうせん』でかなりの痛手を受けた。 ププリンの『なきごえ』のアピールが終わる。 アピール終了だ。 結果が知らされた時、会場内は静まり返った。 ファンクラブはほとんど全員、ポカンと口を開けている。 発表した審査員は、客の顔を見てオロオロしている。 そんな静まり返った会場で、何の前触れもなくファンクラブの1人が 「すごいぞ!よくやった!」 と叫び、大きな拍手をした。 それにつられて、ポツンポツンと拍手が起こり、 最後にはカントーにまで聞こえるんじゃないかというくらい大きくなった。 ステージの審査員の前では、マユとリボンをつけたぴっちが微笑んでいた。 |
湊 | #32☆2005.04/22(金)19:19 |
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■第30章 ハクはやっとのことでコンテスト会場から抜け出した。 魚沼ファン、報道陣などで会場が恐ろしいことになっていたからだ。 人込みを抜けると、包帯やらなんやらでミラの不器用な治療を受けたリージェ、 汚らわしい物を触った後のように手を拭いているアルファード、大爆笑して声が出なくなっているミラがいた。 「お、幸運ボーイのお出ましだ!」 ハァハァ言いながらミラが言った。そして発作でも起きたかのようにまた爆笑し始めた。 「舞優は?」 ハクの方を見向きもしないで、アルファードが尋ねる。 ハクは肩をすくめて見せた。 「報道陣に捉まってるぜ。おそらく朝刊の見出しは 『魚沼千裕、10歳の少女に敗れる!』だろうな」 「んー!?勝ったのーぉ?!」 笑いがやっとこさ治まったミラが、まだヘラヘラしながら聞いた。 「そうに決まってんだろ!そっちは何があったんだ?っつーか何がおかしいんだよ」 ハクが質問すると、ミラはふきだした。 「獅子兄弟がいろいろとね… アルファドさんが『兄貴って呼ぶな』って言ったら、リージェがわけのわからん呼び方してさ。 んでもってアルファドさんが○斗○○拳ととスカイアッパーと 踵落としと肘鉄と右フックとライ○ーキ○クをリージェに食らわせてねぇ」 ここで、ミラはまた笑い出した。 「結局呼び捨てで呼んで、お互い兄弟として認めないってことで一件落着したんだけどね…」 「まっさか兄k…じゃねぇ、アルファードがあそこまで暴力的だとは思わなかったぜ〜」 リージェが包帯を引きちぎりながら言った。アルファードが顔をしかめる。 「暴力的?あの程度で?フン、人間の考えることはわからんが、 貴様のような産業廃棄物の考えることのほうがもっとわからないな」 「みんなー!」 アルファードの台詞をさえぎって、背後からマユが走ってきた。 「おっかえり、マユ!どうだった?」 ミラが聞くと、マユはニーッと笑った。 「あのねっ、コンテストは全部優勝したよ。それで、テレビ局の人に、インタビューされたの! あんなに沢山の人に囲まれたの、生まれてはじめてかも!」 「あ!」 ハクはとあることを思い出し、くるりと方向転換した。 そして、目の前のキメラ人間形体に両手を差し出した。 「何だ?この手は…」 眉間に皺をよせるアルファード。 「金!」 …………… 「は?」 「金くれって」 ハクの言葉で、ますますアルファードの眉間の皺が深く刻まれた。 「…どうしてまた?」 「いやぁ、マユに優勝したらモモンパイをあんたの金で奢ってやるって約束したんだ」 キメラはふざけるな、とでも言いたそうだった。 「…君は一体いくつ私から奪えば気が済むんだ」 「しらねーよ。とにかく金!マユのためなんだから!」 アルファードが何か言おうと口を開きかけた、その時だ。 「ごっめんなさぁ〜い、舞優さんですかぁ〜?」 振り向くと、この世のものとは思えないほど不細工なミニスカート。 何なんだこいつは? そしてアルファードはハクに金を与えてしまうのか?! |
湊 | #33★2005.05/07(土)20:31 |
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■第31章 … … … … … 気まずい沈黙が流れる。 「…誰?あんた」 数十分して、リージェがやっと口を開いた。 その口調は、いつもの弾むようなかんじではなく明らかに警戒していた。 「すっみませぇ〜ん。あたしぃ、舞優さんのファンになったんですぅ〜。んでぇ〜…」 「…あのさぁ、その口調やめてくれねーか?」 ハクは思いっきりこのミニスカートの女を嫌っているようだった。 女はムッとしたようにハクを見た。 「ごっめんなさぁ〜い。でもこれクセなんですぅ〜」 少しならまだ許せるが、これほどにもなると逆に頭にくる。 「それで、舞優に何のようなんだい?」 どーでもいいけど、という口調でミラが言った。 「そぉそぉ。それでぇ、舞優さんたちのぉ役にぃ立てるような事したいなぁってぇ思ってぇ」 「えっ…でも特に無いよ」 マユがキョトンとすると、ミニスカートはまあまあ、といった感じで手を振った。 「遠慮せずにぃ。あっそうだぁ。これ貸してあげますぅ」 ミニスカートはそう言うと、ゴーグルを3つ、マユの手に無理矢理押し付けた。 「何これ」 リージェが兄のように眉間に皺を寄せながら言った。 「こっれはぁ、『ゴーゴーゴーグル』って言いますぅ。 これをつけるとぉ、砂漠の砂嵐から目を守ってくれるのでぇ、砂漠の中にも入れちゃいまぁす」 「は…はあ」 マユは手にもった3つのゴーゴーゴーグルを見ながら曖昧な返事をした。 と、後ろからアルファードがいきなり覗き込み、隣の弟と同じところに皺を寄せた。 「何故3つだけなんだ?」 彼の質問に、ミニスカートはいきなりあわてだした。 オロオロして、周りをキョロキョロ見回し始めた。 「えーっとぉ、3つしかなかったんでぇ…んぢゃ、あたしはこれでぇかえりまぁす」 「あ!待って!」 ミニスカートが帰りかけたとき、マユが呼び止めた。 「名前はなんていうの?」 「えーっとぉ、コマキっていいまぁす。ぢゃあこれで」 ミニスカートのコマキは、さっさと行ってしまった。 … … … … … … … … 再び沈黙が訪れる。 「なんだったんだ、あいつ…」 しばらくしてハクがぽつんと呟いた。 「3つだけ…まるで俺たちが砂漠に突入しようと考えているのを知ってるみたいだ」 ゴーグルを摘まみながら不機嫌な声で言うリージェ。 そんな彼の言葉に、人間3人衆(?)が顔を上げた。 「え?砂漠行くの?」 「そうだ」 ハクの質問に答えたのは、口を開きかけたリージェではなく、その後ろのアルファードだった。 「どうも何かがいるようだった…この産業廃棄物と同じような気配がする」 「じゃ、あんたの嫌いなヤツがいるってことか?」 ハクがアルファードを突っついた。 キメラは無視した。 「じゃあゴーグル借りた…というか押し付けられたわけだから、砂漠に入るの?」 マユが聞くと、魔法族の連中がいっせいに頷いた。 (それがあまりにも滑稽だったのでマユはふきだしかけた。) 「よーし、じゃあものすごく急展開だが砂漠に行くべさ」 「なんで訛るんだよ」 人間3人が走っていくのを、リージェはぽつんと見ていた。 「…どうした?」 背後からアルファードが尋ねると、リージェはサッと振り返った。 「な、兄…じゃねぇ、アルファード、あんたは感じなかったのか? あのゴマシオとかなんとかいう女から…」 「コマキだ」 アルファードは訂正してから、少し考え込んだ。 「いや…特に怪しい気配は感じられなかった。ただ、舞優や魚沼のような普通の人間とは違っていたな」 「あいつ、絶対なんかあるはずだ」 そう言いながら歩き出したリージェの表情は、いつもと違っていた。 |
湊 | #34★2005.05/08(日)13:15 |
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■第32章 「ガーナのサッカー協会会長♪」 「ニャホ♪ニャホ♪タマクロー♪」 113番道路に、ハクとリージェの音痴な歌が響き渡った。 ハクは、マユがスーパーランクのコンテストで優勝して上機嫌のようだ。 リージェはコマキのことをすっかり忘れて、ハクにつられて歌っている。 「や、ご機嫌麗しく。でも音が外れてるよ」 後ろから耳を塞いだミラが指摘する。だが、超ハイテンションの彼らは聞こえないフリをして歌い続けた。 「やめろ、近所迷惑だ」 アルファードが吼える。歌がピタリと止む。 「近所っつーたって、もうここらに家なんてないぜ」 ハクはいいところだったのに邪魔すんな、とでも言いたそうだ。 「そーそ。ってことでハク、2番から歌おうぜ!」 「じゃ、あの家なーに?」 リージェの台詞を中断して、マユが言う。 彼女が指差した先には、『ケンコーばあさんのいえ』と書いてある看板と民家。 … … … … … … … 「お尋ねしますがね」 ミラが意地悪く言った。 「あれを家と言わずに何と言うんだい?」 … … … … … … … 「じゃ、砂漠にレッツゴー」 リージェがごまかした。 マユは、リージェは本当にアルファードの弟なのかと疑った。 性格がありえないほど違う。 「砂漠と言えばピラミッド!ピラミッドといえばエジプト! エジプトといえばアフリカ!アフリカといえばガーナ! ガーナといえば…」 ハクが何故か拳を空高く突き上げて喋り始めたが、背後から忍び寄ってきたミラに蹴り飛ばされた。 「はい、もうニャホニャホタマクローはいいからさっ、 砂漠に行くんだろ?人間諸君はゴーゴーゴーグルを装着しよう」 「あれっ、リージェとアルファードさんはいいんですか?」 ゴーグルをつけながらマユが尋ねると、リージェがあっ、という顔をした。 「そーだよ、兄…じゃねぇ、アルファード!俺たちゃどうやって砂漠に突n…」 「知るか」 アルファードが冷たく言い、顔を背けた。 その反応で、ハクは忘れていた事を思い出した。 目の前のキメラ人間形体に再び両手を差し出す。 「…この手はまさか…」 眉間に皺をよせるアルファード。 「金!」 … … … … … … 「は?」 「だから金くれって何度言ったらわかるんだよ」 沈黙が流れる。 次の瞬間、アルファードがけろりとした顔で叫んだ。 「じゃ、砂漠にレッツゴー」 マユは思わずニヤッとした。なんだ、似てるとこあるじゃん…。 |
湊 | #35☆2005.05/10(火)19:32 |
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■第33章 「なっ…」 一行は砂漠のど真ん中に立っていた。 「…んじゃこの砂嵐はッ!ありえねぇじゃn…」 ここまで言いかけたハクは、口の中に大量の砂が入ってむせこんだ。 いつもいつも砂嵐が吹き荒れるこの砂漠。 しかし、今の砂嵐に比べれば、普段の砂嵐はそよ風のようなものだった。 今は砂漠にある全ての砂が舞っているようだ。 ときどきでかい木や石、トレーナーの落し物(さっきは空のモンスターボール)が飛んでくる。 砂と一緒にミキサーに入れられたみたいだ、とマユは思った。 この状況ではさすがのハクとリージェもニャホニャホタマクローは歌えない。 「兄…じゃねぇ、アルファード!たしかに気配はするけどよ、 本当に行くのか?このままじゃ埋まっちまうz…」 リージェは先頭をズンズン行く漆黒の獣に叫びかけたが |
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