ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[663] 幻想の破壊者 ‘C’

闇藤ばん #1☆2005.04/02(土)11:57
Vol.0 ‘if’


もし、人の姿になれたなら?
この姿から解き放たれたら?

決して歴史の表舞台には出てこない、
でも、そんな話はたくさんある。

人の形を、ポケモンがとるとしたら?

この物語は、そんな幻想の物語。



「この馬鹿やろーっ!」

目尻に傷がある、不良のような青年が言った。
深くかぶったフードからこぼれる金色の髪と、精悍な顔立ち。
それにもかかわらず、青年は罵声をあたりにとどろかせる。
そして、驚くべき早さで走っていた、逃げている。
対して追うのは、赤い装束の一団。
舞台は、えんとつやまの洞窟。
反響したその声に、顔を上げる女性。どうやら、何かの機械を直していたようだ。

「…馬鹿ね」

女性は白衣を着て、緩やかなウェーブのかかった紫苑色の髪を無造作に垂らしている。
見たのは、素早い身のこなしで紅蓮の炎を翻弄する金色の雷。
研究者のような、そして誰から見ても美人の女性は、白衣を翻した。
そして、右手を紅い一団に向ける。
鋭く、ひと言。

「シャドーボール」

黒い弾が手のひらの中に収縮し、霧散する。
それはくろいきりのように、追っ手の目をくらました。
青年はここぞと走り込み、壊れた機械の陰に隠れる。
そして…女性の右手で、後頭部を強打された。

「…この幽霊野郎が…」
「私は野郎ではない」

もう一撃。

「…ったく、わかりましたって! だから暴力反対!」

青年は小声で反発した。
洞窟の中は蒸し暑く、青年はフードをとる。
そこから現れたのは、真っ直ぐな二本の耳であった。
そう、彼らは『破壊者』。

「ふぅ…まったく、近づけないぜ、ありゃ」
「そりゃそうよ、あんたみたいな騒音の塊がいけば」
「なんだとエクトプラズマ」

にらみ合う二人。
火花が散っている、ばっちばっちと。近くにいたらやけどしそうだ。

「とりあえず、リオンさんには報告しなきゃね」
「リオンなら、『例の場所』の近くにいたぜ。リカとサギリと一緒だった」

リカ、サギリ、それにリオン。
リカは繊細な体躯の少女で、新米の『破壊者』だ。
一方のサギリは熟練の『破壊者』だが、かなり若い。
そしてリオンは、そんな四体の上司、もとい『トレーナー』。
そう、四体の『破壊者』の正体は『ポケモン』。
リオンのもつ特殊な力により、ポケモンの姿という『殻』を変形させられたものなのだ。
もちろんながら、四体の『破壊者』はこの姿を快く思っているし、仕事の内容もとても気に入っている。
『破壊者』、それはすべてに破滅をもたらすモノ――。



「ここにいたのか」

『ここ』、それは巨大な噴火口の近く。
中には熱い溶岩、そしてそれにも耐えられる『存在』が眠っている。
小さな岩陰に、さっきの二人はいた。
そう、リオンに会いに。

「正面突破、それどころか背後からも隙がない。ポケモン一匹はいれやしない」
「そうだね…僕もこんな格好してるけど、信用されてる一部の幹部しか中枢にはいけないみたい」

リオン、年齢にしては背のとても低い少年が言った。
潜入している組織、マグマ団の団員服を着ているが、かなり大きいようだ。
打開策として、それっぽく特別に仕立てた服を着ている。
その様子に、最初はどの団員も彼を馬鹿にしていた。
しかし彼自身の才能が広まるにつれて、逆に今では幹部昇進の話も来ている。
彼は妙に勘がいい、今まで数度このアジトが危機に瀕した際、能力を発揮した。

「どうしましょうか…このままでは、無駄に時間がかかりますよ?」

控えめに、リカが言った。彼女といいサギリといい、この暑い空間に押し込められて限界が近いのであろう。
二人の本性はそれぞれメガニウムとゴルダック。暑いのは苦手、水のほとんどないこのアジトでの生活は辛い。
一方の青年と女性の本性はサンダースとムウマ、こちらはそうでもないが、やはり水が恋しい。
ちなみにリオンは、乾燥した生活も嫌いだが湿ったのも嫌、本気でわがままである。

「とにかくミライとユウリは例のルート発見、リカは情報収集、サギリは僕と同行してほしい。最悪、あの『存在』が目覚めるのを阻止しなくてはならない」

ミライとユウリ、それが青年と女性の名前だ。
二人にあてがわれた仕事『例のルート発見』というのは、『存在』が眠る場所にいける道を探す。その道は信頼されている幹部しか知らず、彼らも必死に隠し通している。
場所の見当は大体ついてきたが、そこを通行するために必要な『何か』を持っていないために、作業は足踏みしている。
そのためミライは新ルートを、ユウリは『何か』の解明を進めている。
ちなみにミライがあんなにも騒ぎを起こしているのに平気なのは、マグマ団の団員服を着用しているからだ。騒ぎを起こす際はそれを脱ぐ。

「これは重要な仕事、下手すると、ホウエンの存続に関わる」

深刻そうに、リオンは言った。

「あの『存在』を目覚めさせてはいけない」


† To Be Continued
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闇藤ばん #2☆2005.04/30(土)18:18
Vol.1 ‘Mirage’


それは真夜中の出来事だった。
たくさんの声が、アジト内に降る。

「早く、なんとかせねば!」
「逃がせ! 被害がでないうちに!!」
「この暴れ竜が…!!」

そのような喧騒の中眠る強者――リオン。
幼い頃から、どんな環境でも生活できるように訓練を積んできた結果だ。
どんな環境。その力を持つ故に、迫害されても、孤立しても。
そんな彼を安らかな眠りから覚ましたのは、ユウリ。
どんなにぐっすり眠っていても、コワイ夢を見たらひとたまりもない。
外から精神的なダメージを与えるのだ。瞬時、リオンは目を覚ます。

「無駄なところでエスパー技を使わせないでください」
「…はい」
「早く着替えて、様子を見に行こうぜ」
「…はぁい」

ポケモン達の方がよっぽど元気だ。
生返事をし、リオンは側にかけてあった上着を手にする。

「真夜中…子供はもう寝る時間だよ?」
「お前は16だろ」

この世界では、十分大人である。

「情けねぇな…いくぞ!」



部屋を出て、騒ぎの核心へ。
どうやら、昼間ミライが一撃ぶちまかした場所のようだ――赤い人影が、いくつも蠢いている。
リオンは見知った男性に声をかける。自分より頭二つ分以上大きい青年…――マグマ団幹部のホムラに。

「どうしたんですか?」
「どうしたもなにも、ぼやぼやしてる場合じゃない。カイリューが暴れてる」
「アジト内で?」
「ああ…昼間、このあたりで捕まえたカイリューだ。かなり力が強くて、監視がゆるんだとたんに逃げ出してこうだ」
「なるほど…」

リオンはゆっくり、仲間に近寄る。
ユウリ、ミライ、サギリ、リカ…かけがえのない仲間達。彼らは彼らで、リオンのことを見た。
何がこれから起ころうとも、思いは変わらない。

「ミライは情報収集、どさくさにまぎれていくつが資料を奪取」
「りょーかい」

ミライはそういうと、黄色い髪をフードから覗かせて人混みの中へ。

「サギリ、こっそり消火活動を。みつかるな」
「わかった」

火の手が上がる方へ、サギリは駆けてゆく。

「ユウリ、カイリューのいる位置への近道を頼む、リカは邪魔になるものを処理してくれ」
「やれやれ、道案内ね」
「承知しましたっ」

ユウリは『勝手知ったる我がアジト』と言わんばかりに、するすると抜け道を急ぐ。
リカは邪魔になる箱や壁、機材を退けてゆく、植物の蔓を使って。
人ではできないことを、ポケモンは平気でする。
今の状況もそうだ。人の手先となって働くものも有れば、破壊するものもある。
炎の向こう。リオンは自分たちではない『破壊者』を止めるため、急ぐ。

(罪もないポケモンが、このように荒れ狂うなど…あれ?)

炎の中、リオンは立ちつくす。
どうしたのか、とユウリとリカが立ち止まる。

「カイリュー…だよね?」
「ええ」
「…ちょっとおかしいかも…カイリューなら、こんな無駄に暴れるようなこと…」

カイリュー。彼らは人間の言葉をも理解できるのではないかと研究されている種族。
性格は穏和で、よほどのことがないと暴れない。
しかしそれでも、このように一歩間違えれば命を奪うようなことはしないはず。

「ユウリ、カイリューがいるのは何処?」
「多分…発電室。あそこが一定以上やられると、このアジトは機能しなくなるわ」
「…となると…」

嫌な予感とともに、リオンは走る。
炎が、蜃気楼のように…姿無き『不安』となって、揺らめいていた。


† To Be Continued
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[663]

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