ぴくの〜ほかんこ

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[672] 不思議な奴の物語・短編集・

疾風 #1★2005.04/10(日)17:08
それなりに広い草原で、草の上に身を横たえた少年がいた。
流れる雲を目で追いながら、少年は呟いた。
嗚呼、面倒。

  不思議な奴の物語・「バトルが好きじゃない少年」・

『...何が面倒なんだ?』

少年の視界に、雲ではない真っ白なものが広がった。
サラサラとした、心地よい感触の毛並みが、少年の目に映る。

「あー...、何?」

せっかく空を見ていたのに。
目にかかる毛を掻き分けて、少年は再び空を見た。
しかし、今度はズシ。と腹筋辺りに、何かの重みを感じ、視線をずらした。
と、そこに映るのはやはり白い毛並みと、黒く、特徴的な角。

「....おーい?俺、重いんだけど。」
『知るか。人の話を聞け。』
「....お前、人じゃないじゃん。」
『揚げ足を取るな!!』
「うおっ、聞こえたのか?」
『いくら小声でも、ここまで近いと聞こえるに決まっているだろうが。』
「うっわー、地獄耳!てか、耳あんの?お前。」
『..........本気で怒るぞ。』 
「げ、悪かったって!解ったから怒るなよ〜。なぁ、アブソル?」

.....ちっ。と軽く舌打ちすると、アブソルは少年の上にのしかかったまま、
ズリズリと上に上ってきた。
そして、少年の目に、アブソルの特徴的な真紅の目が見えた。
アブソルの目の中にも、少年がいる。

「アブソル、何の用?」
『バトル。』
「はァ?」

アブソルは、言いづらそうに口をもごもごさせた後、
少年があまりに嫌な顔をして聞き返してきたので、
多少気分を害した表情で、もう一度、簡潔に主語だけを述べた。

『バトル。』
「俺の言いたいこと、解ってるよな?」
『.....バトル。』
「アブソル?俺、本当に怒るぞ? 」
『....。』

だんだんと、声が低くなってくる少年に、アブソルは最後には何も言わなくなってしまった。
むしろ、無理だ。と、あきらめたのかもしれない。
さっと、少年の体の上からアブソルが退いた。
少年は、黙りこくってしまい、酷く不機嫌そうな顔のアブソルを見て、
溜息混じりに体を起こした。

「解ってくれ。俺、本当にバトルだけはダメなんだ。」

そう言うと、まるで子供をあやすかのように、アブソルの頭をなでた。
アブソルは、それだけじゃ収まらない。といいたげに、頭をふり、手を払った。
そして少年に背を向け、反抗的な態度を取った。
少年は、あー...と、面倒そうに呟いた。

「あぁ、もう...。悪かったって。今度、一緒にバトルの練習なら、やってやるから。」
『...本当か?面倒じゃないのか?』
「...っとおいおい。面倒って意味、解ってたわけ?」
『当然だ。俺はお前のパートナーなのだから。』
「流石だねぇ。まぁ、いいさ。じゃあさっさと練習始めるぞ?」
『了解。でも、いいのか?面倒で嫌いな、ポケモンバトルの練習だぞ?』

少年は、酷く自嘲気味に笑った。

「まぁね。自慢じゃないけど、俺はバトルが大嫌いさ。
 大事な仲間が、ボロボロになるのは耐えられない。
 それも、俺の指示のせいで傷つくとか、そういうのって辛すぎるし。
 でも、練習なら別に良いさ。傷つく奴はいないから。」

アブソルは、微かに悲しげな光を宿す少年の目をみて、
静かに呟いた。

『.......お前は、甘いんだか、優しいんだか...。』
「どっちでもいいさ。天使だろうが、偽善者だろうがさ。
 それともやめる?俺はそれでもすっごくいいんだけど。」
『やめるわけがないだろう。』

風そよぐ、静かな草原。
その中を、一筋の白い閃光が駆けぬけた。
一人の黒い少年を連れて。


続くんだか短編だからここで終了なんだか。
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