ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[689] ふぁんしぃラグちゃん

霜月◇優里 #1★2007.03/05(月)18:03
第一部・登場人物紹介
「初めましてもといお早うございますもとい今日はもとい今晩はもといおはこんばんちわもといハローもといぐっとあふた…以下略なの」
最初にしゃべったのはラグちゃん。
この物語のタイトルともなっている一番重要といえば重要な存在。
ラグラージなのに、そのくりっとした目や丸っこい手足、可愛い口元などで
この世のどのラグラージとも全く違う生き物に見える。
そして最大の特徴、「なの」。
ミズゴロウ・ヌマクロー時代には無かった口癖なのだが。
「…挨拶も説明も長い」
後ろで白けている人間は、このラグラージの主「ユイ」。
可愛い顔して超怪力。3tバットを振り回し手持ちのポケモンたちを叱り飛ばす。
そんなユイの好物は麺類。特にラーメン。特に醤油豚骨。
いつも暇があればラーメン屋をはしごするほどラーメン好きである。
そして、
「ずるいずるいずるい何で2人だけ無駄に説明長いんだYO2人のアフォっプリ
なんぞ読んでいけばすぐに分かるだろーがYO!!」
叫んでいるのはドラン。説明略。というわけにもいかないので。
口癖は見てのとおり。性格も見てのとおり。全て見てのとおりのボーマンダ。
「何でオレだけ超適当なんだYO!ぐーれーてーやーるーぅ…YO(ぎぃぃ)」
そして黒板を引っかくのが好きという超迷惑人。困ったもんだ。
「っっさぁぁ――ぃい!少しは静かにできねぇのかぁ!」
切れた。誰がっていったら、この家一番の切れ家。そして頭良い。
こいつの名はアブリュー。短気なお菓子好き。myおやつを戸棚に溜めている。
何かズレた者が多いこの家でそこそこまともなヤツ、である。
「ふぁーぁ…」
「今日もにぎやかで楽しいね」
フィーラときのっち。キュウコンとキノガッサの女の子である。
フィーラは超低血圧につきなかなか布団から出られないらしく。只今起床。
とろろそばが好きというよく分からないやつ。おくりびやまに両親がいる。
きのっちは歌を歌うのとお菓子を作るのが好きな子。そしてのんびりや。
たまにドランにちょっかいを出しては返り討ち。よく分からない関係だ。

「…ひっでぇ、一番最後ですかいな」
よく言えば一番普通、悪く言えば影が薄い。その名はライアン。ライボルト♂。
料理が飛びぬけて上手い。どこかのレストランに勧誘されかけたことも。
ラグちゃんのようにアホっぽくもなければ、ドランのようにやかましくもなく、
アブリューのようにすぐに切れるやつでもないのでネタにしにくいのが影の薄い原因かしら、もう少しはっちゃけたキャラになるべきかねぇ等と考えているらしい。
最後の紹介、しかも何故か一行改行されている事に軽くショックを
受けているようで。

第2部・本編
日常的な非日常
♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪ 〜 ♪
「ユイ〜腹減ったZEー」
「ねぇユイ『だがしかし』って『駄菓子菓子』に聞こえない?なの」
「カーペット染みできてるよー誰か何かこぼしたー?」
「あー誰かmyおやつ喰っただろ?!オイてめーかフィーラ!」
「だってあれ元々あたしのおやつだったのにアブリューが勝手に戸棚に入れちゃったんじゃないかー。アブリュー理解しなさい!」
「ねーユイそろそろご飯作るー?でも冷蔵庫空っぽなんだけどー?」
毎日がevery day.じゃなくて毎日がお祭り騒ぎ馬鹿騒ぎ。
「ぁーうっさいうっさい!ドラン腹減ったならライアンと一緒に夕食の材料買って来いきのっち染みとっとけアブリューケチ臭く言うな黙っとけフィーラあんたには喰う権利があるラグちゃん…そんな事どうでもええわい!」
喉が枯れるほど叫ばなければ聞こえない。それがこの家のなんとやら。
ラグちゃんは1人物凄く不満げな顔だ。
「だって『だがしかし』って『駄菓子菓子』じゃないかーなの」
「『だがしかし』、は『だ』が一番高いけど『駄菓子菓子』は『菓』あたりが高いじゃん。別物別物こじつけこじつけ」
真面目に意見を返す。律儀だ。
「うがーフィーラめ貴様などーっ」
「ケチ臭い男だねアブリューは!それだから彼女の一人も作れないんだよッ」
「今はそんな事関係ないね。お前こそ彼氏いるのかよ!」
「ハヤトんとこのエナルト君と仲いいもん!あんた候補すらいないじゃないッ」
後ろでは誰かと誰かがミジンコクラスの小さい争いを繰り広げている。

                        すこーん。

「さてと討論に戻りましょうか」
「へ?何の討論なの?」
「駄菓子菓子。」
はぁ、とため息をつくラグちゃん。軽くムカつく。
「そんなミジンコクラスの小さいことを…なの。人間、というか生き物は論理だけでは生きてはいけないのだよ、譲るとかいう精神を持とうなの」

                        すこーん。

「ユイ〜材料買ってきたZEー」
「ねぇユイ染みなかなか落ちないよー?」
「今日のご飯オムライスねー」
今日もユイの戦いは続く。
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霜月◇優里 #2★2006.12/05(火)19:46
幻の大繁盛
* + * + * + * + * + * + * + * + * + *
今日は日曜日、空は雲1つ無く見事に晴れている。まさにピクニック日和だ。
しかしユイはそんな日に行列のできるラーメン屋に行こうとし、ラグちゃんはねっころがりながらポケモンのゲームをしている。
勿論パートナーはミズゴロウ。
と、ユイが
「ラグちゃんも一緒にラーメン屋行かない?」
と言いながらラグちゃんを引きずって玄関へと向かう。
これにはラグちゃんも抵抗のしようが無い。関係の無い話だが、人に聞いておいてどちらか選ぶと不満気な顔をされる、というのはよくあることだが、これはどうなのだろうか。

コガネ駅前にある人気のラーメン屋『幻のラーメン・ちぢれ亭』に到着した。
ユイの住んでいるところはアサギシティ。近いとはいえないが、チャリのチェーンが摩擦熱で火を噴くのではないかというくらいすっ飛ばして来たので異常なほど早くコガネへ来れた。
「流石噂のお店…開店したばっかなのにすごいなぁ」
店の入り口からは列の最後尾が見えないくらい並んでいた。
これは1時間以上待たないと無理だろう。
ちなみに、タマムシにはここと隣くらいしかお手ごろな店が無い。デパートのレストランなんて高い高い。安値で食べれるからというのも人気のひとつかもしれない。
「待つの面倒だから別の所で食べようなの。折角コガネまで来たんだからデパートのレストランがいいの」
ラグちゃんここまで来ておいて抵抗。しかしユイが聞くはずもなく約1時間待つはめに。
しかし、何かおかしい。店から出てきた人々は皆隣の定食屋に入っていく。
噂のラーメンは量が少ないのだろうか。
そして待つこと1時間と20分、やっと店の中に入る事ができた。
ユイは席に着き、辺りを見回した。
カウンターでは皆話題になっている「幻ラーメン」を食べている。
ラーメンはオドシシとバリヤードが作っていて店の中にいい匂いが立ち込めている。
「ふぅ、お腹空く…店内はいい雰囲気だね」
ノートにごそごそと書き込んでいる。ユイはラーメン屋へ行く度にメモを取る。将来ラーメンについて書いた本出したりサイトを作ったりしたいとか。
ここまで来ると何か怪しい人だ。

ユイは置いてあったメニューに目を通す。しかし品は1つだけ。
「幻ラーメン2つ!」
「タダだよ」
とレジ係のニャースに言われた。わけが分からない。それに無料ならレジ要らないのでは。
そんなことを考えているうちにおいしそうな醤油豚骨ラーメンが出てきた。
「見た目は普通なの」
「きっと味に秘密があるんだよ」
早速ずるずると麺をすする。2人の顔がなんか眩しい、輝いている。
「おいしい…!」
「ホントに幻のラーメンなの!」
なんとなく味が薄い気がするが、2人ともスープまで飲み干した。
しかしなぜか満腹感がない。
「あの〜、おいしかったんですけど、満腹感が得られなくて…」
「そりゃそうだよ。なんたって『幻』なんだから」
そう、実はオドシシの力でラーメンの幻を見せていたのだ。
「ひどい…匂いと味と食感のせいでよけいお腹空いたの…」
「1時間も待ったのにお腹空いただけって…」
「まぁ味がよければすべてよし!席が空かないから出てった出てった!」
2人は帰りに隣の定食屋に寄った。味は微妙だったが空腹が限界だったので美味しく感じられる。ちなみに何故かいまいちなのになのにやたら込んでいる。
何となくもしかして、とユイは思ったが、いくらなんでもそんな手の込んだことはしないだろと考えたので言うのをやめた。
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霜月◇優里 #3★2006.12/08(金)20:56
秋の昼間のラブラブの
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季節は秋。小春日和で暖かい中、ラグちゃんがうつぶせで昼寝している。
まるでスライムみたい、触ったらどろっとめり込むんじゃないかなどとどうでもいいことを考えながら横に座る。
いつものなら遠くまで足をのばしてラーメンなど食べに行くのだが、今日は近所のお店で済ませた。海が目の前のアサギシティならではのラーメンで、私のお気に入りのお店の1つ。
「さて、と…」
暇だ。皆それぞれ自分の時間を楽しんでいる。
ラグちゃんは今さっきあったようにごろ寝している。アブリューも寝てるらしい。
ライアンはドランと共に海へ魚をとりにいった。夕食は任せろと言っていた。
フィーラときのっちはコガネへと遊びに。久しぶりらしく張り切っている。
というわけで私は何もすることがない。暇だ。暇だ…。
そこへ。

ぴーんぽーん♪

誰だろうか。柴商店の梅谷おばあちゃんだったら話し相手になって丁度いいのにな。
「早くあけろよ。どうせ暇なんだろー?」
うっさい黙れ帰れ。何でこいつなんだ…。
チェーンだけかけドアを開ける。やっぱりだ、ハヤトだ。
ハヤト。私の幼馴染でありライバル…と言うほどではないけれど、彼も殿堂入りを果たした立派なトレーナー。
「家の中がやけに静かだなオイ」
「帰れ帰れ。こっちは忙しいんじゃい」
「どうせ皆自分の時間を楽しんでてユイだけ暇なんだろ?」
そうかそうかこいつは人の心を読めるのかコノヤロウ。ってんな訳無いけどね。
「呼んだ覚えはないわい」
「この家には呼ばれないとこれないのか?」
「友達とか知り合い以外はね」
「俺は友達とか知り合いの中に入ってないのか?」
「入ってないと思いますがねーぇ」
「ああそうか俺は友達以上かそうだったな」
「断じて違う。命かけても絶対に違う。ちなみにそれも知り合いの枠に入るし。身の程を知れよ白髪男め」
「白髪で悪いか。つーか白銀と言え」
「どこからどう見ても白髪だ」
「それはおいといて…郵便は?知り合いでも友達でも無いんじゃないの?」
「郵便も」
「宅配は?」
「宅配も」
「警察は?」
「警察も」
「救急車は?」
「…分かったから入って。どうせ暇だし」
「あっそ、勝ったことだし帰る」
「…」
こんなことがこの頃毎日続いている。口で勝てる日は来るのだろうか。力ではとうの昔に勝っているけど。

それでも、結局暇だし楽しいので、暫く遠くのラーメン屋には行かないでいいや。
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霜月◇優里 #4★2006.12/15(金)19:35
ドタバタという名のクリスマス
……☆ ……★ ……☆ ……★ ……☆ ……★ ……☆
それは、ある日ユイが言ったことから始まった。
「ねぇ、そろそろクリスマスパーティの準備しようよ」
「毎年23日に準備してるのに、今回は気が早いな」
アブリューの言うとおりだ。まぁいつも前日に準備してはアレが足りないこれが足りないといって騒いでいるから、成長したのではないだろうか。
「毎回準備の時間が足りないのは承知でしょ。今回は気合入れてやろうよ。
まずフィーラときのっちは料理の材料買ってきてよ。それから、ラグちゃんやドランは飾りの準備してね。オーナメントはそこの押入れにあるから。
アブリューとライアンは…そうだ、ツリー出すの手伝って」
そう言ったら6マイナス1匹の行動は早い。
「「「「「にっげろ〜!」」」」」
ラグちゃん・ドラン・ライアンは一緒にトイレに駆け込んだ。
(狭いらしく、細々とした悲鳴が漏れてくる)
そしてフィーラときのっちは2階の押入れの中に立てこもり、その場をやり過ごそうとする。

1匹ぽつんと取り残されたアブリュー。
「…アブリューは手伝ってくれるよね?」
アブリューはうなずくしか術が無かった。


「…休憩させろよ」
「ごちゃごちゃ言わない!5匹もいないんだから、その分負担が重くなるのは必然的じゃん。イヤなら5匹連れ戻してきてよ」
今アブリューがえっさほっさ運んでいるのは商店街のくじ引きで当たった巨大なツリー。 ユイの身長位あるそのツリーは、アブリュー1匹では辛い物がある。
「…」
絶対5匹連れて来てやる…。まずはトイレに向かった。
中にはあの3匹が鮨詰めになっているはず。
「おい、出てこいよテメェラ!」
アブリューが乱暴に戸を開けると、そこにはあの3匹が。
「ちゃらりらりら〜ん♪今から瞬間移動のマジックをするZE!」
そういってドランが戸を閉める。3・2・1!
「…」
そこにライアンとラグちゃんの姿は無く、ドランだけ残っていた。
「ああしくった!これで3匹ともトンズラして準備をサボるって作戦だったのにぃ」
ずぎゅーん。
自爆。
「…来てくれるな?」
アブリューは とくせい プレッシャーを つかった!▼
ドランは ガクガクと うなずいた!▼
ドランを みちづれに した!▼
アブリューはラグちゃんとライアンを見つけるべく、ドランを問い詰める。
「あの2匹は何処行ったんだ?」
「知らねーMON」
「もう1度言おうか。あの2匹は何処へ行ったんだ?」
アブリューは とくせい プレッシャーを つかった!▼
ドランは きょうふで ふるえあがった!▼
「分かった分かったYO!2匹はマッチョブリテン共和国のペレトン皇女に気に入られたからバリレンド祭りに参加してるんだYO!」
「嘘付けッ!つーかそんなめちゃくちゃな設定にひっかかると思ったのか?!」
「YES.」
アブリューの きりさく!▼
きゅうしょに あたった!▼
ドランは たおれた!▼
「仕方ない、先にフィーラときのっちを引っ張り出すか」
メス2匹が押入れに逃げたのは分かっていたが、先にラグちゃん共をとっ捕まえて絞めたかったのだ。失敗したけれども。
<ユイの家F2>
アブリューは押入れに耳を当て、中の音を聞こうとする。
「ねぇ、そろそろ出てもいいんじゃないの?」
「まだ分かんないよ。とりあえず夜の分の食料はあるんだし、一晩ここで過ごそうよ」
「食料って?」
「実はね…ホラ、アブリューって戸棚にMyおやつ溜めてるでしょ。アレからちょっと拝借したのよ。アブリューには秘密にしてね♪絶対アブリューに4分の3殺しにされるし」
「てかアブリューってほんっと心狭いよね」
「すぐ切れるしおかしは絶対に分けないし。けっちーなぁ」
そろそろいいだろう。何事にも限界があるものだ。
「ぐちぐちと好きなこといいやがって」「マッハパーンチ!!」
きのっちのマッハパンチがアブリューの顔面にクリーンヒット。
不意打ちだったのにくわえ、効果抜群なのでアブリューは気絶した。
「うっはっはっは余裕だねΣb」
「…ちっくしょう(うわ言)」
アブリューはここでこの2匹までも逃がしてしまった。

某暴力女に殴られ数十分後。
これじゃあどうしようもない。2階でうろうろしつつげっそりとため息をついた。
「…仕方ない、一度戻るか」

「ただいま」
いかにも「疲れた」という声で言ったが、ユイは慰めの声をかけるどころか
「何処行ってたの?もうみんな準備してるよ」
と言っただけだった。
「へ?みんなってことはラグちゃんもライアンも?」
とりあえずみんなが集うリビングへ向かう。そこには『脱走者』5匹が何も無かったようにえっさほっさと準備していた。
「アブリュー何サボりたいからって逃げてたの。そんなことするなんて卑怯なの」
お前だろうが。と言いたいところだったが、その気持ちを抑えて聞く。
「いつから手伝い始めたんだ?」
「いつからって始めからだよ。トイレから出てから」
リースを取りに行ったラグちゃんの代わりにライアンが答えた。
―――どうなっているんだ。トイレからリビングへワープして、手伝いを始めたっつーのか?あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない…。
いかにも『ワケが分からん』という顔のアブリューにライアンが話しかける。
「じゃあ、マジックの種明かしでもしましょ♪ついてきてよ」
言われるがままついて行くとそこはトイレ。ライアンはトイレの中に入り、
「ここ押してみて」
と壁を示した。とりあえずやってみる。
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霜月◇優里 #5★2006.12/24(日)13:11
ドタバタという名のクリスマス・後編
☆…… ★…… ☆…… ★…… ☆…… ★……
ライアンが指差した壁を押してみると、音もなくくるりと板が回転する。忍者屋敷にありそうな仕掛だ。
2匹はここから廊下に出てリビングに行ったらしい。
「でも、手伝う気があったならなんでこんなことしたんだよ?」
アブリューは とくせい プレッシャーを つかった!▼
ライアンは はくじょうした!▼
「つまり折角なのでアブリューをはめるため。以上!」
そう言った刹那、ライアンは電光石火で逃げ出した。
「…」
ライアンが言った事の意味と、何故いきなり逃げ出したのかを考えていたら後ろにユイが。
「アブリュー、サボりたいから『5匹連れ戻してくる』なんて嘘ついたんだって? 5匹ともオーナメントとかの買い足しに行ってただけだったらしいよ。アブリューもサボった分やってよ!」
なんじゃそりゃ。5匹ともオレが怒られるように仕向けたってことですか皆さん。皆で仲良く話し合ってオレをオレを…そんなにオレの性格が気に喰わないかコノヤロウ!―――後でまとめて締め上げてやる!
ユイの小言を背中で受け止めながら、そんな事を思っていた。

この後、5匹は誰かさんに10分の9殺しにされて暫く動けなかったそうな。

そして時は立ち、ついにその日はやってきた。
3時になってから、クリスマスのご馳走の用意が始まる。
「ライアンとフィーラときのっち調理手伝って!ドラン達は食器出して!!」
皆スイッチが入ったように慌しく動き出す。しばしば誰かと誰かがごっつんこ。
「いよっし、パーティのはじまりだよ!」


現在午後6時。色々と苦難はあったが、やっとパーティだ。
すんごく腹立つこともあったけど、オレ頑張ったよね神様仏様?
「おーい、サンタだぞ」
サンタもどきのハヤトがやってきた。意外にサンタ服が似合っている。白髪だからなのもあるかも。
しかし、誰がハヤトなんぞ呼んだのか。まぁ来たら来たで面白いんだけどね。
「サンタのくせにプレゼントという気の利いたものを持ってこないあたりアンタらしいね…。しかも呼んだ覚えないんですけど」
「この家には御呼ばれしないと来れないのか?」
「…分かった分かった上がりなさいよ」
テーブルの周りに1つ椅子が増える。
「こそこそ…うははうはは早速ラブラブと喧嘩なんぞ始めてー♪」
「ひそひそ…このクリスマスで2人はどのくらい接近できるのでしょーか?!」
やれやれ、また始まった。オレも気になるけどね…。

「そいじゃディナーをいただきましょうか。かんぱーい!」
それからは凄まじかった。

「オイラグちゃん手ェどけろ骨付きチキンが取れねェじゃねえKA!」
「ラグちゃんまだそれ食べてないのドラン1人で食いすぎなの!!」
ドラン以外の5匹はユイとハヤトの関係を気にしているのだが、ドランのせいで落ち着いて2人を見ることができない。頼むから静かにしてくれよコノヤロウ。
「あぁあポテトサラダこぼれたぁ!もったいないもったいない」
「ちょっときのっち僕のコップん中にポテトサラダ落ちたんだけど!」
「ドランの馬鹿ぁ!チキン全部喰いやがったなこのろくでなしぃッ」
暴走は感染するものらしい。
オレもどうにかゲットできたシーフードピザを貪りながら2人を見やる。
「ごめんねハヤトー、ケーキはちゃんと切り分けるから大丈夫だよ」
そんなずれたことを言うユイ。そしてその横であっけにとられているハヤト。
「でも皆個性的で楽しいじゃん。オレのポケモンはここまで凄くないよ」
後半何が言いたいんだか分からない。褒めてんのか貶してんのか。
「ポケモンたちは置いてきたんだけどね、ユイんとこ行くって言ったら皆そろって
ニヤニヤしてやんの…そんなんじゃないって言ってんのに」
ハヤトのポケモン達も2人の関係が気になっているわけで。恋のキューピットが
大勢いるだけありがたく思え、本当はうれしいくせにコノヤロウ。
「はは、うちのポケモン達もどーたらこーたら五月蝿いよ。困ったもんだよね」
ハヤトは苦笑した。その苦笑は何の意味だよ。
「さ、ケーキ食べよっか…」
パーティは終始楽しくそして一部熱々に過ぎていったわけで。

パーティが終われば、もちろん片付けがある。
「さぁ、片付け始めるよ!」
そう言ったら6マイナス1匹の行動は早い(別の意味で)。
「「「「「にっげろ〜!」」」」」
ラグちゃん・ドラン・ライアンは一緒にトイレに駆け込んだ。
(狭いらしく、やはり細々とした悲鳴が漏れてくる)
そしてフィーラときのっちは押入れの中に立てこもり、またもその場をやり過ごそうとする。おやつもちゃんと持っていった。

再び1匹ぽつんと取り残されたアブリュー。
「…アブリューは手伝ってくれるよね?」
アブリューはうなずくしか術が無かった。
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霜月◇優里 #6★2006.12/31(日)22:07
滅茶苦茶という名の年末年始
☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.  ☆゜+.
ぽりぽり…クラッカーを貪りつつ寝転がってテレビを見ている俺はハヤト。
今日は31日であり、クリスマスなんていうイベントもとうに終わり、年末の掃除も終わり、年賀状もとっくに書き終え後は年越しを待つのみとなったわけだ。
ちなみに大掃除は凄まじかった。何で緑色な上に半分くらいどろどろに溶けてるたくあんが箪笥の奥から出て来るんだよ。ちなみに賞味期限は1997年。
「ねーぇハヤトー?ユイちゃんに年賀状書いたのーぉ?」
「…書いた」
俺の返事を聞いてあからさまににまにましてやがるのはトドゼルガのドルア♀。
恋バナ大好きっ子につき、ユイが絡むといちいち五月蝿いわけで。
「ユイちゃんもあんたに年賀状出したんだろねーぇ…むっふっふ届いたら見せてねーぇ♪」
「分かったからあっちいけ」
「あー顔赤いー。ユイちゃんの事好きなの認めちゃいなよハヤトっ☆」
エアリス―――ドルアと仲のいいエアームドの♀―――までやってきた。
何でうちのポケモンたちはこうなのか。皆そろってそうやってそうやって。
「クリスマスの時の話もアブリューから聞いたよ。らっぶらぶだったんだってェ?」
そんなこと言ったのかあの短気野郎は。今度会ったら角へし折ってやる。
「正月もあっち行きなよ。家は大丈夫だからさ」
後ろからのっそのっそ来たのはグラエナのエナルト♂。
「エナ…お前までそんな事言うのか。お父さんは悲しいぞ」
「知らないね」
orz
「蕎麦とおせち料理が減るからいってらっしゃいな。ずっと帰ってこなくて良いよ」
3匹そろってスペシャルスマイル。
ドルアに突き飛ばされ外に追い出され躓いて積もった雪へ華麗にダイブ。
父さんは…父さんはお前達をそんな風に育てた覚えは無いぞ!

「おーい誰かいるかー?」
ここはアサギシティ。細かく言えばユイの家のドア前。
「おーぅ王子様のお出ましか」
アブリュー…角だけでなくその尾も折ってやるぞ。
「なに怖い顔してるんだっておわっ何するんだぐヴぁふぇぎぇ」
角を持ったまま廊下を引きずり捨てておいた。知ったこっちゃ無いね。
「「あっ、ユイの彼氏ー♪」」
♀2匹組みですか。この家の歓迎は全く持って素晴らしい。別の意味で、ね。
「あーでもごめんねー、ユイは友達んとこに年越しパーティに行ってあいにく居ないんだー。残念だったね」
ずずーん。
マジですか。まぁそれならそれで家に帰れるからいっか、回れー右ッ。
「逃がさないよハヤト…年越しして帰ってきたユイを迎えればいいじゃないか」
怖い。何か怖い。てかめちゃくちゃ怖い。先ほどの恨みだろうか…。
おっかない顔のアブリューがゆらりとハヤトに近づく。オレは思わず数歩引いた。
と、
「ぐぇッ」
蛙みたいな声になってしまった。足引っ掛けられたらしい。思い切り頭打った。
「どーんまい♪ユイが帰ってきたら愛のチカラで癒してもらいなよ」
頭ががんがん痛む。こんな状態で年を越せというのか。
そのままアブリューに足を噛まれながらソファまで引きずられていく。アブリューはにったにったとこっちを見てきた。あーあー今度こそその角をへし折ってやろうじゃないかアブリューよ。ついでにあったかそうな毛皮も剥ぎ取ってやる…ッ!

「さーさー年越しそばだよー♪」
ライアンときのっちがそばを持ってくる。もちろん俺の分もある。俺がこちらに来ること、というかドルア達に追い出される事を見越してたってワケですか皆様。
「ユイが居ないのは残念だけど、楽しく年越しを過ごしましょーなの」
にたにたしながらこちらを見たのはラグちゃん。こいつもなのか、ちょっと意外。
「別にユイが居ないなら居ないで平和じゃないKA」
ドランよ…お前だけが俺の味方か…。
そんな事を考えつつそばをすする。美味しい美味しい。
「あ、ちなみにそこはいつもユイが座ってるとこだぞ」
俺の口からそばが少量零れ落ちた。
にたにたアブリュー。くそう、その爪をも抜いてやろう。俺様を怒らせたことを後悔させてやろうじゃないか。
「だからどうした」
「わはは顔赤いの〜!単純単純なのーっ」「やっぱり好きなんだね好きなんだね」
「よっ、ラブラブーぅ♪」「ユイを泣かせるんじゃねーぞこんの色男め」「結婚式は着物?ドレス?披露宴には誰と誰と誰を呼ぶのー?」
ユイをよく思ってることは否定しない。だけどなぁ…。

「ただいまー…ってやけに静かだね。皆生きてるー?」
「あなたの彼氏に殺されましたー」「ユイ、あんな暴力男と付き合っちゃあ駄目だよ」「やめとけやめとけ、っていってもユイの方が勝ちそうだけど」「ユイが居なかったからすっごく不機嫌そうだったよ」「…オレ大人しくしてたのNI」
ハヤトをよく思ってることは否定しない。けどねーぇ…。

                           すこーん。
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霜月◇優里 #7★2007.01/02(火)21:52
不安心ラグちゃん
― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄―_― ̄
「ふぁふー…なんというか、なの」
自分って題名にもあるとおり主役じゃなかったっけか。最近はユイとハヤトばっかな気がしないでもない。
そもそもこの物語ってギャグでもなく恋愛系の話でもなくヒロインであるトレーナーとラグちゃん達のほのぼのとした毎日を描くお話じゃなかったけー。
「何そんなことで悩んでるのさ。僕に比べりゃもんのすごっく恵まれてるよ」
ライアンになんてこの気持ちが分かるか影薄野郎。とは言わないけれど、一応物語のタイトルに名前が出てるキャラとしては主役らしくいたいのだが。
「よし、決めた!なの」
「何を?」
「ぐれてやるの!」

「ぐれてやるの!」
その声を聞いたユイは軽くため息をついた。今までに何回も聞いたことのある台詞。しかしそれが実行されたことは一度も無い。皆無。ナッシングナッシング。
というわけでほっといた。でもナッシングナッシングだったその行動が今回に限っておこされようとは。

次の日。
ユイはのんびりと柴商店の梅谷おばあちゃんと他愛の無い話をして午前の時間を潰していた。
この萎びたお店にはアサギの者しか来ない。そしてその目的は買い物ではなく雑談。おばあちゃんは「メタセコイアからどこでもドアまで」という言葉の通り歴史とかどーのこーのの話が大好きらしいが、ユイの場合は歴史なんぞ興味ないので「おでんに牛筋は入れるべきかしら」などというさして重要性の無い話をしている。
「牛筋、私は好きだけれど煮凝っちゃうのよねぇ」
ほのぼのとおばあちゃんが言った。
「うちでも好きなやつがいるのだけれど、煮凝るから入れたくないって言ってもぎゃあぎゃあ騒がれるもんで…」
暫くのんびりと話をしていると、唐突におばあちゃんが言った。
「そういえば、あんたのとこのラグちゃんが朝飛び出してったよ。いったいどうしたんだい?」
「へ?」
買い物を頼んだ覚えは無い。どこかに出かけるとも聞いてない。
「えーと…どっち行きましたか?」
「あっちよ」
牧場方面。

おばあちゃんと別れてお昼ご飯を作るために家に戻った。どうせラグちゃんのことだから気まぐれに散歩にでも出たんだろう。
「ねーねーラグちゃん何処行ったのー?」
「さー、でもお昼時だから帰って来るでしょ」
適当に答えておいたが、そうして時は経ち夕方に。
「おっかしいねぇ…お昼に帰ってこなかった上に夕方なのに帰ってこない」
探しに行った方がいいのかな。方向は分かるしなぁ。
「いこっか…」
仕方ないかぁ。
ユイはすっきりさっぱりラグちゃんの「ぐれてやるの」という宣言を忘れていた。

すぐに見つかった、なんて展開になればいいものの。
「はーぁ…」
牧場付近端っこにちょっとおっかなさそうな集団があるが、あの中にラグちゃんは居ない。
と、その怪しい集団の会話が少し聞こえてきた。
「ラグラージのお頭ぁ!あんた強いっすねぇ」
後ろ足で耳を掻いているペルシアンが言う。可愛い。
「だってラグちゃんは殿堂入りしたスーパーラグラージなのー」
…はひ?
だってあそこにはポケモン数匹と木にもたれ掛かる逞しい体躯のラグラージだけ。大きく目立つヒレとエラは立派な物で、目は強い輝きを放つ。筋肉の塊と思える腕は地割れを起こすことも出来そうだ。ラグちゃんとは全然違う。
さらに集団の会話は続く。
「すごいですなぁ。あんただけで?」
のほほんとバンギラスが言う。集団だから怪しく見えただけなのかな。
「いや、超おっかないトレーナーとその愉快な仲間達となの」
言動だけではラグちゃん決定なのだけれど、声とか見た目とかが見事なまでに喰い違う。というかおっかないって何だおっかないって。
「あのー、そこのラグラージぃー」
声をかけてみた。
「あのー、そこのラグラージぃー」
聞こえてなかったようなのでもう一度。
ラグラージが振り返る。後姿だけでなく顔もカッコイイ。が、
「…うげぇ、なの」
明らかに顔しかめられた。やっぱりラグちゃんなのだろうか。
「ラグちゃん、なの?」
「…違うの」
さっき思いっきりラグちゃんって言ってたよねー。
「家、帰ろ」
「今ぐれてる真っ最中なの」
ユイははたと思い出す。ぐれてやるの、というラグちゃんの発言。それから考える―――何か機嫌を損ねるような事したっけなぁ。
「最近ユイとハヤトのラブラブ話づくしなの。題は『ふぁんしぃラグちゃん』の筈なのにラグちゃんの影が薄いなんて許せないの」
ラグちゃんはいつのまにやらいつも通りのへなへななラグラージに戻っていた。

「いっただっきまーす、なの!」
そいつの喰いっぷりはそれはもう素晴らしかった。
自分の前に並ぶ料理を一瞬で胃の中に収め、両隣の2匹の分もラグちゃんの血となり肉となった。
ドランの分に手を出そうとした時に思い切り噛まれ、やっとこさ治まったが。
今は夕食の時間。メニューはお子様ランチの如く盛られたハンバーグとサラダ。
「野生はそれなりにつらいの」
怪しい集団もといラグちゃんとつるんでいた仲間達は野生らしい。山菜とか魚とかをその時に調達して食す。もちろんそのまんま。
いつもライアンの手料理を食べなれている者にはちと辛いものがあるだろう。
「そういえば、何であの時やけに逞しかったの?」
「うーん、野生の血ってやつなの」
そういうものなのだろうか。
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霜月◇優里 #8★2007.01/09(火)19:07
寝る子は育つ 食べる人は駅を…
+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°+。*°
ある日。
「…」
ユイは絶句した。と同時に闘志の火が燃え上がる。
ここはアサギシティの端っこ工事現場。ここにも新しく駅ができるらしいけれど、予算が足りないとかで危ういらしい。
しかしユイの視線はそちらではない。
そのお隣のラーメン屋で、ユイがお気に入りの店だ。その店内の人物に視線が向いていた。
梅谷おばあちゃんの柴商店と並ぶ老舗であるこのラーメン屋には、今日のような平日にはアサギシティの者が来るくらいなのだけれど。
「あの人見たこと無い、というか何だあのおかわりの量は…」
とりあえず店に入る。戦いの火蓋は切って落とされた。
「おじちゃーん、いつものたんとお願いー!」
「はいよーッ 今日はいちだんと儲かるねーぇ」
その時店の外から見たその人物と一瞬目が合った。その人物に話しかける。
「初めまして、よく食べますねー」
「はい。今日は午前だけでも仕事がとても大変だったものでお腹凄く空いていたのですよ。やっぱりラーメンは塩ですよね」
「私はラーメンは何でも好きですけど醤油豚骨が一番ですね」
ここで沈黙。
「…僕はトッキュウと申す者です。そこの鉄道建設に携わっています」
「ペンネーム…?」
「本名です」
「これは失礼、私はユイ。このお店のラーメンが好きなぷりてぃ☆がーrぐはぁ!」
ラグちゃんに殴られた。いつの間にというか何で殴られないといけないんだ。
「ラーメン伸びるからさっさと喰えなの。あったく何言ってんだかこの耄碌娘が☆なnごふぇあぁ!」
3tバットは用法用量を守って正しく御使い下さい♪というわけで飛ばした。
「さぁてと…」
いっただっきまーす!
トッキュウさんは只今14杯目の塩ラーメンにさしかかっている。これは辛いが負けてられないぞぉ。
「何やってんだが、なの…」
帰ってきたラグちゃんがやれやれとため息をついた。

あれから2時間、何か知らないが繰り広げられた死闘はやっと終わった。
「な、なかなかやりますね…」
「そちらこそすごいですねぇ」
結果はユイボロ負け。敗因は色々あるがお財布の中身がやばい、というのが約70%を占める。
「実はいくらか前からこのお店に来ていたのですよ。美味しいのでつい朝昼晩と来てしまい、そしてついつい食べ過ぎてしまうのです」
知らなかった、というか凄い。
暫くは遠くのラーメン屋をはしごしていたからなぁ。
「ではさようなら。今度会った時はラーメンについて楽しく語りましょう」
「そうですね…」
今だけは、胃がラーメンに占領された今だけはラーメンのことについて楽しく語り合うことが出来る自信がない。

それから少し経った頃の話。
「梅谷おばあちゃん、そういえば駅建設の工事進んでないみたいですね」
「いやぁ、こんな話を聞いたんだけどね。建設に携わっていた人が予算を何と食費で使い切っちゃったらしいのよ。それで工事が中止になったそうよ。もしかしたら建設の話は無くなってしまうかもねぇ」
「あー、それは困るなぁ…いちいちコガネまで行って電車乗るのは面倒なんだけどなー」
その時は特に気にせずに話をしていたが、予算を食費に当ててしまったんじゃないかという人をユイは後で思い出し、ちょっと悪かったかなぁと思った。

(キャラ提供♪特急列車様)
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霜月◇優里 #9★2007.01/16(火)20:11
白髪男と愉快な仲間達
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺はハヤト。あのーほら、ユイからかってる男だって。
…それ以外言うことがないのですよ。
というわけでさみぃさみぃと呟きつつこたつに足を突っ込みみかんを食べていた。定番。
こたつの中でみかんではなくアイスクリームを食べるという人もいるらしいが、その行為俺には信じられない。
「おいハヤトよ」
「何だディアム」
ディアムとは俺のポケモンであるフーディン♂。
アホみたいに古めかしくて固くて、っていうときもあればカレーライスとかハンバーグとか子供じみた物が好きなよくわからないヤツ。
「今日の晩御飯は何だ」
何だよこの会話。
「餃子と味噌汁とその他1、2品」
「餃子と味噌汁なぞ何たる邪道な組み合わせ。中華ならば若布のスープなり卵のスープなどと合わせるべきではないか若者よ」
お前がこの家で一番若いぞ。
「ディアムーそんな細かいこといいじゃねーかー」
何か出てきた。ええとこいつはフライゴン♂のフェレル。
この家では年長さんなのだが、ディアムと全く反対で物凄く若々しい。そしてそのわりに和食が好き。
「オレ様ならばチャーハンにコーンスープぶっ掛けても平気でいけるぜぃ♪」
やめてくれそれこそ邪道。
「てことで棚にまだコーンスープの素があったからそれ使っていいかー?」
頼むからマジでやめてくれ。
ちなみにこの家ではまともに料理が出来るのは俺とジュカインのグロール。あいにくメス2匹は手が無いため料理は出来ず、手のあるフェレルはさっき言った様な素晴らしい組み合わせの料理を作ってくれやがるので論外。ディアムはスプーンより重いものは持てず、エナルトも4つ足なので無理なのである。
ユイの所のライアン欲しいぐらいだ。
「それなら肉じゃがにしよーぜ餃子なんてシケたもん喰ってらんねーよ♪」
餃子をなめんなよ。というか何で肉じゃがになるんだ、全然材料無いのに。
「だから買いに行こうぜィ♪つかオレ様が買ってきてやるよッ」
…物凄く心配なのでディアムとエナルト、それからドルアをつけといた。

「フェレルを買い物に行かせるなんて危なくない?」
「…保険として3匹も連れて行かせたから大丈夫だろ」
本当は俺が行けばいいんだけど、こたつから出れないから仕方ないじゃないか。
エアリスはどうなっても知らないよー、といいながら何処かに行ってしまった。
「たっだいまぁ!肉じゃがの材料と思しきものを買ってきたぜィ♪」
問題児帰還。物凄い嫌な予感を抱えつつ品物チェック。
・ところてん2パック
・熊肉の缶詰3つ
・コンビーフ缶3つ
・高麗人参
・とろろ芋
・マグロの頭
・その他おやつとよくある戦隊モノの玩具。
俺は無言でフェレルにアッパーをかました。当然だ。


時は少しさかのぼりお買い物に行くフェレル達。
「ところで肉じゃがって何入ってたっけ?」
フェレルは食べ物の味なんて気にしない、とりあえずお腹に溜まる且つ死ななければおっけー☆なヤツである。
「…お前家に帰れ。頼むから帰れ」
エナルトが静かに諭す。横ではディアムが頭を抱えていて、その後ろではドルアが腹を抱えて笑っている。
「何でだよ?変な事はしないからさ。じゃ、先行ってるぜーぃ♪」
「ちょ、待てよォ!」
マッハで飛んでいくフェレルを慌てて追いかける3匹。
「さて、肉じゃがといえば…」
スーパーについたフェレルは材料を思い出すべく肉じゃがを頭に描く。
「透明な麺状のヤツと人参と芋と肉と…そんなもんかぁ。すぐに済みそうだな」
棚をどかどか倒しながら商品を適当に掴みかごの中へ。
「透明な麺状の…これかな?ん、熊肉なんて珍しい、美味しいのかな。ついでにコンビーフも買ってみよう。芋も発見発見。何だ?変な人参だなぁコレ。折角なのでおやつと玩具も…。あ、マグロのお頭すげー!」
独り言をブツブツ呟きながらひとしきり品をそろえると、生鮮食品売り場へすっ飛んで行った。
「確か魚の目ってぐりぐりするとレンズが出て来るんだよな。モノは試しぃ♪」
「お客様…」

「フェレル!」
「おーぅ皆遅かったな。材料はもうオレ様が買ったぜ♪」
3匹が来た時には時すでに遅し、滅茶苦茶な品を買った上にマグロを勝手にいじり店員に怒られマグロの頭を買わされたフェレルがそこにいた。


「こんなので何作ればいいって言うんだよ…」
俺は頭を抱えた。いやはやこんなことになるとは。
「だからちゃんと材料買ってきたんだから美味しい肉じゃが作ってくれよ♪」
これの何処が『ちゃんと』なんでしょうかフェレル氏よ。
「これは別々で食べる他無いだろー…」
グロールがむむぅと唸る。
「もう全部まぜちゃえ♪意外と美味しいかもなッ」
そういったフェレルに高麗人参をぶん投げてやった。良い子はまねしないでね。
と、
「ゲストを連れてきたわよーんッ」
ドルアがどかどかと何かを引きずってこちらへ来た。
「…あの、何で僕ユイの彼氏の家に居るんでしょうか」
思わぬゲストの登場に俺は救われた気分になった。

ドルアに強制連行されてきたゲスト、ライアンに台所を任せることにした。
「えーと全部の材料は使えないからコンビーフサンドイッチでいい?」
1つしか使ってないじゃないか。まぁ致し方無いか。
かちゃかちゃとコンビーフの缶を開ける音がする。
「このコンビーフ開ける金具、ドランが好きだから持って帰っていい?」
「いいけど変わってるなぁ」
確かに鍵っぽい形だから可愛いけれど。
そうしているうちにサンドイッチが運ばれてきた。マヨネーズと和えられたコンビーフとレタスなどなどが挟まれている。
「じゃあ僕帰っていい?」
「あ、家に帰ったらユイちゃんに『ハヤトがユイの事大好き!って言ってたよ』って言っといてね。よろしくぅッ」
俺は無言でドルアにアッパーをかました。当然だ。

ライアンが帰った後、食卓は緊張した空気に占領されていた。
「…誰から食べるぅ?」
「ハヤトお前から喰えよ…♪」
「お前のせいでこうなったんだ、フェレルこそ先に食べろ」
何でこんなことになったか。サンドイッチのお皿にこんなメモが貼ってあったのだ。
『この中の1個にはところてんと熊肉と高麗人参ととろろ芋とマグロとハバネロと一億光年先への切なる思いを混ぜたものが挟まれています。ロシアンルーレットな気分を存分に味わってね♪by.ライアン』
冷蔵庫にはハバネロも一億光年先への切なる思いも無かったはずなのだけれど。
「まだところてんと熊肉と高麗人参ととろろ芋とマグロとハバネロと一億光年先への切なる思いを混ぜたものが不味いと決まったわけではないぞフェレル。お前に味覚なんぞ無いのだから食べろ」
ディアムがスプーンでフェレルをつつく。
「そうだよ、ところてんのドリーミィなところと熊肉やハバネロのスパイシーなところととろろ芋と一億光年(略)のまろやかなところと高麗人参の薬ーミーなところが絶妙な風味をかもし出してるかもよ。名古屋人になったつもりで食べてみなよ」
一体何が言いたいんでしょうエアリスさん。
「…分かった、喰ってみるよ。最高の食べあわせを発見するのはオレ様だ!」
一体あの言葉でどう考えが変わったのでしょうかフェレルさん。
ぱく…むぐむぐ、ごくん。
「残念、これは普通のコンビーフサンドだ」
その刹那空気が凍ったのが分かった。―――自分がスペシャルサンドに当たるかも!
「さ、オレ様1個食ったからあと6個。ちゃちゃっと食べないと当たっちゃうぞ♪」
ピカピカスマイル。エアリスの言葉を聞いて食べる気になったわけでは無さそうだ。
カチ、カチ、カチ…時計の音がやけに大きく聞こえる。
秒針が12のところに来た瞬間、
「これだぁッ!」
各々直感で信じたサンドイッチを皿からひったくり口の中へ。
フェレルがにぃと笑った。フェレル以外の皆は笑うことが出来なかった。
「辛あぁぁーぁあ!」「ところてん嫌いなのにぃー!」「高麗人参…」「マグロの目玉部分ぐはァっ」「とろろ芋と熊肉ミスマッチだろッ」「一億光年先への切なる思い何ざ知らねーよ!」
何でだ、皆ハズレに当たった。ちなみに一億光年(略)の味はよく分からなかった。
フェレルが何も言わずにあのメモを見せ、指をさした。
『この中の1個 以外☆ にはところてんと(略)』
「『以外☆』…」
「小さすぎて読めねぇよ…」
グロールが果てしなく適切なツッコミをした。
俺は無言でフェレルにアッパーをかました。当然だ。

後日。
俺は無言でライアンにアッパーをかました。当然だ。
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霜月◇優里 #10★2007.01/22(月)21:54
出番増やそう大作戦
 *†* *†* *†* *†* *†* *†* *†* *†* *†* *†* *†*
ライアンは皆にやさしい。
ライアンは料理が得意だ。
ライアンは結構モテる方。
そして…
  ラ イ ア ン は 影 が 薄 い 。

「どーしてなのかなーぁ。個性が無さ過ぎるのかな?」
本人はその事を気にしているらしく。
「逆に影が薄いのが個性だと思うの」
「…」

とりあえず、皆の個性を調べてみることにした。
まずは主であるユイ。ヒロインにつき出番が多いのは勿論だが、他にも何かある筈。
「ぅおーら寝てばっかいないで家事手伝えーッ」
「あたしの大事な睡眠時間がぁー!」
ユイの手にはいつものアレ。逃げ惑うのは低血圧フィーラ。
「何か特徴的な持ち物があったほうがいいのかな…」
一応メモっておくことにした。さー次々。

「痛っ」
何かに躓いた。尻尾、だろうか。
「ライアンー、歩く時はちゃんと足元見ろYO。お前の爪痛いんだってBA」
「ああごめん…ごゆっくりお休みなされー。って痛っ」
また何かに躓いた。痛いと言ったもののお腹に着地したらしく平気だった。
「言われたそばから足元見てないの。内臓が飛び出そうだったの」
「おかげで助かったよ…ごめんごめん」
どーのこーのと後ろで何か言ってるが、そそくさと逃げた。
「んー…口癖か。見たり聞いただけで誰だか分かるもんな。
これは重要かもしれない」
赤ペンで大きめに書いておいた。他に何かあるだろうか…。

「♪るるー るーららー」
「真昼間から歌ってるし…」
きのっちは歌うのが好き。そして上手い。
きのっちはライアンが耳を傾けるのを気にすることもせず、夢中になって歌った。
♪風に ゆれるゆれるは 健気な小さき花
 君の 好きだった 青い小さな花
 好きだったよ 君に咲く花
 思い出すのは その素敵な笑顔――…
歌いながらとてとてとトイレに行ってしまった。トイレの中からも歌声が少し聞こえてくる。
「なにか特技があったほうが出番が増えるかもしれないね。でも料理は特技だと思うんだけどな…。もっと目立つ特技の方がいいかもしれない」
赤い字の下にこりこりとメモを取った。

夕方。
「ライアンー、そろそろ夕ご飯作るよー」
「任せロイヤル☆」
ユイはあっけにとられた。何コイツ何コイツ何コイツ、一体どうしたっつーんだ。
じゃじゃじゃじゃぁーん じゃーんじゃっじゃじゃーん♪
「UHAHAHAHAHAHAHAHA☆個性を強くしてみたのだッ!オレ様の変貌ぶりをじっくりと見ロイヤル☆」
言われるがままにライアンを頭のてっぺんから爪先まで…見なくても分かる。
頭。でっかいアフロの鬘。 顔。蝶のようなサングラス。 さり気なく爪は蛍光ピンクになっている。
ついでにいうと暴走族っぽい服(「根田歩毛上等」と刺繍してある。ネタポケ上等と読ませたいらしい)を着ている。
そして肩にかけているのはさっき弾き鳴らしたエレキギター。
「さぁ個性は十分強くなった!出番増えロイヤルーッ☆★」
投げキッス。



「自分の素の個性は大切にしようなの」
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霜月◇優里 #11★2007.01/30(火)21:15
乱入者と青春の友情
☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆
「はぁ〜い、うちウィン君。今度からふぁんしぃラグちゃんじゃなくて
ふぁんしぃウィン君になりました☆よろしぐふぁあ!」
「何勝手に話の名前変えてんの!つか誰さ?」
ユイの怒りと共にウィン君は3tバットでぶっ飛んだ。ホームラン。
※話の名前はふぁんしぃラグちゃんのままなのでご安心ください
「いやぁ、はっきり言ってラグちゃんなんかよりも僕の方が10000馬力でおもしろいよ〜」
馬力で面白さは計れないと思う。まだ1回もセリフを言えてないラグちゃんは激怒。
「まだ新人のくせして先輩にどんな口のきき方してるなの!」
怒鳴り声と共にハイドロポンプを発射。新人も先輩もありゃしないと思うのだが。
しかし、ウィン君は攻撃をひらりと優雅にかわす。そして
「オーバーヒート!」
ラグちゃんに反撃。すばやさが低いラグちゃんはウィン君のようにかわせなかった。
「ふっ、こんな攻撃余裕で耐えられるの…」
といいつつ、ちょっとふらつき後ろに足を引いたその瞬間!
「ふにゃぎゃあぁっ」
ラグちゃんが謎の悲鳴をあげ、足の裏を見た。何か刺さっている。
「アッハッハ!ドジな先輩を持ったもんだっ」
ウィン君があらかじめラグちゃんの周りに押しピンやら剣山やらケムッソの毒針やらハリーセンやら撒いておいたようで。
「ずるいのずるいのっ」
「このくらい気づきなよ、ダブリューモヒカンさんよォ」
ラグちゃんのボルテージがどんどん上がっていく。70、80、98、250。メーター故障、ずずーぅんっ。
「こんのがあぁあぁっ!(なのっ)」
ラグちゃんが落ちている押しピンやら(略)をウィン君に投げつける。
あまりにも早いのでウィン君は壁まで追い詰められ、すぐ横に剣山が刺さった。
ウィン君の額に冷や汗が流れる。ラグちゃんの間抜けな顔が何かやたら怖い。
ラグちゃんが最後の1発と言わんばかりにハリーセンを投げようとしたその瞬間!
「正式に勝負しなよ」
ユイからのやんわりとしているように見えるストップがかかった。
しかし実際は3tバットをラグちゃんの頭すれすれに突きつけていたのだ。
そして勝負は次回に持ち越された。

「でさ、『正式に勝負』っていっても何するのさ?」
ウィン君がユイに聞く。
「トライアスロンだよ」
何でだか全く分からないが、もうトライアスロンの準備が整っているようなのでさっそく2匹も準備する。バリバリノリノリのやる気満々。
「よーい…どん!」
最初は水泳らしい。ホントの所、ユイは(作者は)トライアスロンの順番を知らないのでご了承くださいな。
これならラグちゃんのほうが得意。ウィン君は必死に犬かき。
と、応援席からフリスビーが飛んできた。綺麗な弧を描きゴールまで飛んでいく。
「はっ…うおりゃおりゃーっ!」
派手に水しぶきを上げながらウィン君が水面を走る。マッハ3を記録、ユイ並みだ。
「そんなぁ…ユイ、あれ投げて!なの」
抜かされて青ざめているラグちゃんが言った。
ゴールの方に何かが飛んでいく。ラグちゃんの目が輝き始めた。
「ももいろポロックーッ!なのッッ」
2匹とも人参につられて走る馬のようだ、というかそのものだ。2人ほぼ同時に水泳ゴール!
次は自転車。ウィン君が妙なカッコで自転車に乗っている。まぁ四本足につき致し方無い。
スタート!したその瞬間。ラグちゃんがスリップ!
うしゃしゃ、とウィン君。顎をハンドルに乗せ、座る部分にお腹をつけ後ろ足でペダルをこいでいたわけだが、余った前足で油らしき物を撒いていたようだ。
気合で液体の水溜りを抜け、ラグちゃんは乗り方をウィン君と同じにした。そして
「ももいろポロックの欠片パワー!なの」
と叫んでマッハ5を記録した。ユイが実況のために同じ速度で走っていく。口の中に微量残ったポロックの欠片のみでここまでパワーが出るとはあっぱれあっぱれ。
そしてウィン君は風圧でかなり横にそれ、転倒してしまった!
「そんなぁ…っ」
ラグちゃんが圧勝の後、最後のマラソンに。
「こんなアフォに負けてたまるかぁ〜っ!」
2匹が叫ぶ。どっちもどっちだと思えてくる。というかそうだと思うんだ。
走ってる間に剣やら槍やら砲丸やら…長くなるので省略するがともかく凄まじい。
そして、ゴールまで後10メートル!そんなところでラグちゃんがこけた!
ウィン君はその横を走り抜けると思ったが、
「ちょっとドジな先輩さんよォ、何コケてんのさ」
といって手を貸した。そして2人3脚で同時にゴールした!
「兄さん、やっぱり争いよりも協力が1番って今気づいたよ!」
「そうなの、弟よ!これからは平和に行こうじゃあないか(なの)」
「青春ドラマ気取ってんじゃないよ暑苦しい…」
今こそバットの出番かと思ったが、ユイが割り込める隙間は1mmたりとも無かったので他人のふりをすることに決めた。

その後は自分達が前に撒いた押しピンやら剣やら油やら(以下同文)をざくざく踏みながら必死に仲良くピカピカスマイルで回収してたとさ。
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霜月◇優里 #12☆2007.02/08(木)22:24
大切なものは
○ + ● + ○ + ● + ○ + ● + ○ + ● + ○ + ● + ○
「イボーっっ!!」
お風呂あがり、後ろ足の裏を見て絶叫していたのはライアン。イボができていたらしく、大分ショックを受けているようで。
「イボぐらいで死にゃあしないの。全くライアンは大袈裟なの…」
「イボって同じマットとか使ってるとうつるんだよ。だから皮膚科行かないとッ」
「じゃあ隔離するまでよ。どうせイボなんてほっといても治るでしょー」
「ひっどー…」
実際はほっといても治らないものなのだけれど。

次の日の午後。
「皮ー膚ー科ー行ーくー皮ー膚ー科ー行ーくー」
言うまでもなくライアン。当たり前ながらもまだイボは健在。
「分かった分かった…診察料あげるから行ってらっしゃい」
お金を渡し、ライアンを玄関まで見送った。
「ふぁーぁ、昼寝でもしよかー…」
こたつにもそもそと潜りこみ、眠りについた。

「…ィ!ユイ!起きて起きてッ」
頭がぼうっとする。30分しか寝てないからすっきり目覚められるはずなのに。
「どしたのフィーラ?」
何というか変な違和感。舌が回りにくい上に地に足がついていないような感覚。
中途半端に昼寝したからだろうか。
「ライアンのイボ…癌だって」
私はその言葉がすぐに理解できなかった。頭がまわってないのもあるし、日常では聞くことの無い現実離れしているような言葉。
「何で?どういうこと?イボが癌なわけないじゃないッ」
癌で苦しんでる人だっているんだろうから、冗談でもそんなこと言うんじゃないよ!
私はフィーラに怒鳴った。冗談だと思いたかった、しかし空気が重すぎて。
癌のことなんてよく知らない。でもイボにしか見えなかったそれが癌なんておかしいんじゃないか。わけがわからない。
「だって皮膚科の先生がそう言ったって…」
顔をあげてフィーラの顔を見る。ぐすぐすと泣いていた。
そうだよ、わけがわからないのは自分だけじゃないじゃないか。フィーラだっていきなりそんな事を告げられてびっくりしているというのに、何で自分はフィーラを責めている。
「ライアンは別の病院に移って入院してるよ。でも治るかどうか…」
そのあとは言葉にならなかった。ひぐっ ひぐっ…嗚咽しか聞こえない。
それにしても展開が早過ぎる。癌、入院、治るかどうかは分からない。

ドランとフィーラに連れられて、私はライアンのいる病院に居た。
何故かライアンには会わせてもらえなかった。そのままライアンの担当となった先生のもとへ。
「先生、ライアンは治るんですか?いままでみたいに走り回れますか?障害とか残りませんか?料理できますか?それと…」
自分は先生に何を聞いているんだろう。それほどパニックになっていた。
「症状はかなり進行しています…」
そんな私に対して、先生はそうとしか言わなかった。

家にライアンがいない。それだけで家の雰囲気はがらりと変わるものと知った。
影が薄い影が薄いと言われているライアンだけれど、とても重要な存在だった。
ライアンが入院して何日か経った、と思う。毎日1匹病室を訪ねに行っている。何故か自分は会わせてもらえないので、お見舞いに行ったポケモンに様子を尋ねるのだけれど、皆は何も語らない。私が悲しむのが目に見えているからとでも言うのか。
私は気力を失い、それでもライアンがいない分家事を頑張った。それでも何かを忘れていたり、手を抜いたりすることはしばしば。
「…ライアンの手料理、食べたいね」
禁句となっていたことを誰かがポツリと言った。目頭が熱くなった。
夜。
何となく戸棚をあさっていたらアルバムが出てきた。
自分がいた。ラグちゃんたちがいた。そしてライアンがいた。
ページをめくる。ドランやラグちゃんともみくちゃに戯れるライアン。フィーラやきのっちや自分と楽しそうに料理を作るライアン。
思い出が蘇る。
いつかの春、花見に行った時頭にケムッソが落ちてきて驚きのあまり気絶したライアン。
いつかの夏、アサギの海で泳いで大量に魚を採ってきた。とても美味しい料理を振舞ってくれたライアン。
いつかの秋、りんご狩りでラグちゃん達と幾つとれるか競争した時に、ドランに邪魔をされた仕返しに特大のかみなりを落としたライアン。
いつかの冬、かまくらを作ったけれども狭いのに無理やり詰め込まれかまくらをくずしてしまったライアン。
そうさ、どれも他愛の無い小さなことさ。それでも。
私はベッドにうつ伏せになった。声を殺して泣いた。

ライアンが家からいなくなって数週間。日にちの感覚が無いから実感が無い。
その日皆で病院に行くことになった。実際は先生に呼ばれたのだけれど。
ずっと会わせてもらえなかったのに。嫌な予感がした、それと同時にもしかしたらと期待も膨らんだ。2つの相反する気持ちを抱きながら病室へ向かう。
「…」
絶句した。
個室の窓際にあるベッドに寝かされているライアン。
たったの数週間でライアンは随分変わった。ただでさえ痩せていたのにさらに肉が落ちてげっそりとした顔になっている。雨雲を呼び出すためにある立派なたてがみのけづやは失われ、形が分からないくらいぼさぼさに。そして目は辛そうにぎゅっと堅く閉じられている。
何で。何でだよ。どうしてライアンがこんな目にあわなければならないの。何でよりによってライアンなの。何でこんなに痩せてしまったの。どうして元気じゃないの。何でそんなに辛そうな苦しそうな顔をしているの。どうしてどうしてどうして―――
嫌な予感は当たった。先生がライアンにあわせてくれた理由も分かった。涙が止まらない、止めたくない、止められるはずも無い…。
「ライアンって何が好きだったっKE…」
何で「だった」って言うんだよ、ライアンはそこに居るんだよ。
それにしても、ライアンは好き嫌いが無くて何でも食べた。自分が作った料理だから、というのもあるけれど。
自分のポケモンの好みも分かってないなんてトレーナー失格じゃないか。
「茶碗蒸し…」
アブリューが呟いた。呟きが終わらないうちにラグちゃんが病室を飛び出した。
何でそんなに急ぐの。ライアンはまだ生きてるんだよ、絶対間に合うよ。いや、間に合うも何もライアンは死なないよ。そんなの嫌だよ。
私は泣いた。フィーラもきのっちもドランも泣いた。アブリューもプライドなんてほっぽりだして泣いた。私の、皆の涙腺は一体どうしたんだろう。
「ライアン喰え、茶碗蒸しなの!」
ラグちゃんが戻ってきた。ライアンが少しだけ目を開ける。
スーパーで買ってきたと思われる茶碗蒸しをスプーンで少しだけすくいライアンの口元へ。それでもライアンはいやいやをして食べようとしない。
「ライアン食べてよ!栄養つけないと元気になれないよッ」
きのっちの悲痛な叫びが部屋に響いた。
「おい早く食べろよ!少しでもいいからさ…お前の好きな茶碗蒸しだぞ?スーパーのヤツだけどさ。お前が作ったやつとは全然違うかもしれないけどさ。何でもいいから食べて早く退院して皆のためにまた美味しい料理作ってくれよ!」
アブリューもライアンに向かって怒鳴った。
「…り…とう」
ライアンのかすれた声。その口は確かに「ありがとう」と紡いだ。
刹那、皆の泣き声や嗚咽が止まり静かになる。
「…馬鹿、ライアンの馬鹿!」
私は叫んだ。馬鹿!馬鹿!何でそんな事を言うんだ!
私の意識は唐突にそこで途絶えた。

「らいあんのばかぁ…」
ぐすぐすとそう呟いている私に誰かが近づいてきた。
「僕が何かした…?もしかして診察料高かった恨み?」
私はがばッと起き上がる。急に頭が冴えてきた。私が今居るのは、自分の家。詳しく言えばこたつ付近。時計に目をやると、夕方4時と少し過ぎ。
「顔、凄いよ?涙でぐしょぐしょだし目真っ赤だし。一体どしたの?」
あららこたつ布団もぐしょ濡れだ、これは一回洗わないと。
そう呟くライアンをぼうっと見ていたら、
「僕の顔になんかついてる?というかその充血した目で見られると怖いんだけど」
と言われてしまった。
私は思った。そうかそうか、そういうことか。
夢、か…。
私はこたつ布団で乱暴に顔を拭い、言った。
「ライアン、いつもありがとうね」
「何だよいきなり。気持ち悪いなぁ」
ライアンはいそいそとこたつ布団を回収し、洗濯するべく運んでいった。

There is an important thing near immediately.
大切なものは、すぐそばに。
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霜月◇優里 #13☆2007.02/14(水)17:35
追跡組大奮闘物語
☆○o。 ☆○o。 ☆○o。 ☆○o。 ☆○o。 ☆○o。 ☆○o。 ☆○o。
「ハヤトー、明日デパート一緒に行こ」
「…はひ?」
俺はハヤト。こんなことがあったのは2月も中旬、暖冬とはいえまだ寒い頃である。
周りの誰かさん達はニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ…。
といっても、前にもこんなことがあった。
 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 
「ハヤト、明日一緒にデパート行こうよ」
「デパート?…ああいいよ」
俺はなんだかやたら張り切った。ファッションもいつも以上に気をつけて(え?いつもだって十分気をつけてるぞッ!)ユイになにかおごってやれるようお金も多めに持っていった。
「デートかぁ…ユイから誘われるとは思わなかった」
とにかく浮かれていた。でもそれは甘すぎる考えだった。
そして次の日。
「バーゲンに遅れちゃう!ハヤト早く走って4階だよ4階!!」
「はぁ?」
「荷物持ちが足引っ張ってどーする!連れて来なきゃ良かったッ」
ぽかーん。
ユイさん何それ。ユイのためもとい未来の自分のため一生懸命準備して張り切って来たっていうのにただの荷物持ちって。しかも連れて来なきゃ良かったとか…。
テメェふざけんじゃねーよと怒鳴ってやった。が、
「居ないし…」
俺がぽかーんとしている間にエレベーターに乗り込み戦場に向かったらしく。
虚しいな、俺。
 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
ということで全く期待していない。どうせ前と同じなんだろう、アホらしい。
この話を知っているのに、それでもニヤニヤニヤニヤニヤ(略)しているこいつらもアホらしい。そして目の前で人のことも考えず荷物持ちにしようとしている(と思われる)ユイさえももアホらしい。
「あーあー俺はどうせ荷物持ちだろ?バーゲンなんだろ?」
そんな言い方しか出来ない自分もアホらしい…。
しかし、
「違う違う、いつかは悪かったねー。今回は普通に2人で買い物などなど、のつもりだよ。あ、嫌なら前のお詫びで何か奢るって。ほんとごめんごめん」
俺のイヤな考えは一気に吹き飛んだ。アホらしいのは自分だけだ…。
勿論嫌なんて言うわけが無い。
「じゃあ、10時にコガネ…いや、久しぶりにミナモもいいな。
てことでミナモデパート前、でいいね?」

「ひそひそ…ミナモに10時だって。遠いから辛いね」
「どうせドランに乗っていくんだろうから、ドランに僕達の入ったボールを持ってもらおう」
「警戒が強くなるだろうから、上手く運んで、上手く追跡しないとNA」
「では諸君。ユイとハヤトのラブラブデート監視大作戦、頑張ろう!」
『おーッ!』

「おまたせー♪」
「おう」
ユイはドランに乗ってやってきた。
「デート楽しんで来いよNA」
ドランが耳打ちしてきた。お前味方(もとい鈍感)じゃなかったのか…。
「ささ、ドランは帰った帰った。そいじゃ行こっか」
「おうー」
いざデパートもといデートに出陣。デートってわけじゃないけど。

「さーぁ皆出て来いよNA」
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん…。
「あードキドキ!」「ユイとハヤトのデート見尽くしてやるッ」「やったねやったねらっぶらぶー♪」「ばれない様に静かにしろよ!」「興奮しすぎなの…」
「ラブラブカップルは先にデパート入ったZE。せーの、」
『れっつらごー!』

エレベーターに2人きり。いきなりこんなシチュエーションですかいな。
「別に1階上がるだけなのにわざわざ…」
「いんやいんや、どうせラグちゃん達が追跡してきてるんだよ」
まぁエレベーターなら追跡無理だし何処に行くかも分からないからね、成る程。
「てことで出来るだけ見つからないようにがんばろ。とりあえず服見てっていい?」
「どーぞどーぞ」

「うがあぁぁ嗚呼エレベーター乗るなんてぇ…」
「とりあえず1つの階に1匹居ればいいか」
「よし、無線持って。見つけたら連絡!よしばらけろ!」

「服買うの付き合ってくれてありがと。ちょっと屋上行こうか」
「おうよー。でもどうせ1階1匹ずついるんじゃ…?」
「逃げ場無いからまぁどうにかなるよ」
ちーん。屋上に着いた。
昼食までは時間が中途半端だ。とりあえず自動販売機で飲み物を買った。
「ほらよ」
「あんがと」
「ユイとハヤトはっけぇ―――ん!応答せよ、応答せよッ」
ライアンが居た。
「…逃がさんぞライアン」
「無線も預からせてもらおう」
しゅいーん。ユイが予備のボールに収める。
「困ったもんだね。あと5匹」
そうだな、折角ならば五月蝿い奴等さっさと捕まえようか。

「屋上からの連絡が途絶えた…」
「ライアン見つかっちゃったのかな?声でかかったし」
「声の大きさに気を配りながらすみやかに連絡するの!そろそろ昼食だからF5担当はレストランをよく見とくの!」

暫くの間屋上で他愛も無いことを喋りながらうろうろしていた。
「んーそろそろ昼食とらねぇ?」
「どうせ昼頃だとレストラン見張られてるよ」
俺腹減ったんだけどな。
「もう少しここ居ようよ。誰も来ないしさ」
ん、それも悪くない。

少したってから昼食をとりに行った。只今時間は1時半。
「さ、どこにしよ?」
「昼だから饂飩と蕎麦んとこでいいんじゃねーの?」
「そだね」
饂飩と蕎麦の店『あけび』の暖簾をくぐり、お店へ入る。
「あたしとろろ蕎麦ー」
俺は天ぷらうどんを注文した。と、
「いたよいたよいたよいたよやっと来たよ…!やっぱりここのお店入ったねッ。ずぅっと張り込んでたかいがあったよぉッ」
フィーラが居た。フィーラのテーブルには饂飩の器が4つ、蕎麦のざるが2つ。
「…ユイ、居るぞ?」
「無線出したらすみやかに排除する」
ボールの中から無線使われちゃあ意味無いもんな、成る程。
しかし、フィーラはいつまでたっても連絡をとろうとしない。1人占めのつもりか。
「どうすんだ?こっち見ながら蕎麦すすってるぞ。連絡とりそうも無いけど…」
「仕方ない、食べ終わったら強制連行すっか」
お金は私が奢る俺が払うと言い合った後、根気負けでユイが支払った。
「さぁて…」

「いつまでたってもレストランの方から連絡入んないね…もしかしたらライアンに続いて捕まっちゃったかな?」
「人数減っちまったNA。屋上とレストラン街はもう行かないとして、うまーく階を移動していけYO」

「あーこれかわいい!買っちゃおうかな?」
ユイがぬいぐるみに抱きついた。レストランのついでに寄った5階のお店だ。
「買ったろーか?奢ってもらったお礼だ」
「いいっていいって。あれはいつかのお詫びだから」
「気にするな。もう怒ってないって」
今日という代物であんなことけろりと許せる…っせーなくさいって言うな。
というわけで俺が買ってやった。嬉しそうで何より。
「いたよいたよ!買ってあげるなんていい事やってくれるじゃない!流石ッ」
「やっと見れたの…」
「いい雰囲気JAN」
「やっぱユイにはあの男しかいないな!くぅ〜ッ」
「アブリュー声でかいよッ」
さり気無く堂々と4匹いるし。俺は4匹にばれぬようそっとユイに耳打ち。
「丁度いい。まとめて捕獲してやろうじゃんか」
ユイがボールを投げる。あっけなく4匹は捕まった。
「無線はいいのか?」
「通信する相手が全員捕まったんだから意味無いって」
まぁそうだよな。これで心置きなく楽しめる。

「ふふふふふふ…甘いなユイはッ」

「今日は楽しかったね」
「おう」
「一緒に来てくれてありがと」
「おう」
おうしか言えてないとこ情けない。何故なら場所は再び「2人きり」の屋上。
水平線に沈む夕日がとても綺麗だ。ムード満点百点満点。
「素敵だね…ミナモまで来てよかった」
「だな」
「生返事ばっか…人の話聞いてる?」
「聞いてるよ」
「あ、じゃああげちゃおっかなーぁ…」
じゃあって何じゃそりゃ。ユイがかばんをゴソゴソあさりだす。
「はい」
綺麗な包装紙に包まれた小さな箱。
「今日バレンタインだよ。どうせあんたじゃ私以外くれる人いないでしょ」
悪かったね、別にモテないわけじゃねーよ。でもユイだけで…。
「…」
「顔赤いよ」
「夕日のせいだよ」
「ベタな言い訳ー」
「ベタで何が悪い」
というわけで、最高の1日は最高の終わり方で幕を閉じた。

「やったなやったNA!」
「らっぶらぶじゃーん!いつのまにチョコ用意してたとはッ」
「流石に2人とも思わなかっただろうな。ユイが没収した無線、スイッチ切ってなかったから丸聞こえだな」
「無線の予備持ってたから僕も聞けたしね」
「今回は最高だったのー」
というわけで、最高の1日は最高の終わり方で幕を閉じた。
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霜月◇優里 #14☆2007.02/21(水)16:41
ハヤト劇進!
 ←…  ←…  ←…  ←…  ←…  ←…  ←…  ←…  ←…  ←…
「おう、懐かしいな。こんなの残ってたんだ」
「あーグロールかわいい、あの仏頂面にもこんな時代があったんだねぇ」
「で大仏面のグロールの隣にボーッと突っ立ってるいかにも生意気そうなクソガキがどっかの白髪さんか♪」
「仏頂面かつ大仏面で悪かったな」
「生意気かつ白髪のクソガキで悪かったな」
今見ているのは旅をしていた頃の写真。誰かが押入れの中で寝た際に見つけたらしい。別に寝ていたのは1世紀先からやってきたネズミ嫌いの某猫型ロボットでもアフロ星からやってきた(もとい降ってきた)年齢性別共に不詳な謎のアフロ星人でもないと思われるが、今のところ誰が引っ張り出したか不明なので可能性が無いとは言えない。
話を戻そう。
そいでもってこの写真は旅立つ直前、つまり今から約2年前。たった2年間でホウエン・カントー・ジョウトを回りきり殿堂入りを果たしたという功績は我ながら凄いと思う。
勿論最初のパートナーは現在仏頂面かつ大仏面のグロールであり、その頃はまだキモリ。
「そうだよなぁ、こいつにもこんな頃があったもんなぁ…」
「お前こそあの時は元気と若さと可愛さ溢れるいい子だったのに、今はどうなのかねぇ」
今は可愛げの欠片もないけれど。
「で、折角ならこの機会に出会いとか教えてよー」


俺はホウエンで野生ポケモンにコケにされながらも必死に研究をしているあのオダマキ博士の一人息子である。
父はホウエンの初心者トレーナーにポケモンを授ける、という役目も担っており、必然的に俺は小さい頃からポケモンとの関わりがあったわけだが。
ぶっちゃけ俺はポケモンに大した興味は抱いていなかった。人間と同じ生き物であるから触れ合うのは楽しいと思う、それでも旅に出るとかポケモンに関わる仕事に就いたりなんて考える事も無かった。
普通なら皆10歳になると喜び勇んでポケモンとの冒険へと旅立つ、けれども俺はしようと思わなかった。ずっとここにいてポケモンと触れ合い、まぁそのうち家業を継ぐんだろうななんてぼーっと思いつつ毎日を過ごした。
しかしある時その考えは変わる。一人のベテラントレーナーが父のところを訪ねに来たのだ。
初心者の頃に色々お世話になったので、殿堂入り報告とお礼をしにきた、と。
その時俺は丁度父のポチエナにのっかられていた。そこを見られた、トレーナーに。
ついでに笑われた。その上。
「君、ポケモンと仲いいんだね。やっぱり博士の子供だな、そういう血っていうか…」
血なんて関係ないと思ったけれど、適当に笑っておいた。
「あ、丁度いい。博士とゆっくり話をしたいから、私のポケモンの相手でもしてもらえないかな。いいこだから大丈夫、悪戯したら叱っていいから」
俺は育て屋の従業員か。

預かった「いいこ」は1匹のジュカイン。何で1匹だけなのか聞いたら、たくさん居たら大変でしょ、と。
「…こんにちはジュカイン。殿堂入りしたんだって?凄いね」
「…」
「あ、ニックネームとか付けてもらってるのかな。何て名前?」
今思うと何でこう頑張っていたんだろう。人様のポケモンだからだろうか。
「ヒイモリだ、面倒ならわざわざ相手にするな」
「別に面倒なんて思ってないけど。どうせ俺も暇だし」
「お前のポチエナが相手してほしがってるぞ。行かなくていいのか?」
「俺のポケモンじゃなくて父さん…オダマキ博士のだ」
ぶっちゃけこんなやつよりもポチエナと遊んでいたかったのだけれど。
無愛想なやつだといらいらしていると、ふいにヒイモリが話しかけてきた。
「お前は旅に出ないのか?」
「…気が向かないんだよ。というか興味が無い」
余計なお世話だ、とまでは言えなかった。
「ふぅん、オダマキ博士の息子だからもっとポケモンに興味持ってるかと思った」
「皆言うよ。血なんて関係無いね」
「…研究所に俺の弟がいるはずだ、グロールっていうキモリ」
何なんだろうこいつは、無愛想かと思ったらよく喋りだすし。
「グロールねぇ、あのクソ根性悪い…」
グロールは最近研究所に来たわけではなく、結構前から居た。しかし他のポケモンとは仲良くしつつも俺には愛想すらふる事無く。嫌なやつだと思っていた。それと兄弟というと何かしっくりくる。
「そいつと一緒に旅に出る気は無いか?」
「…はぁ?」

「初めまして、隣に越してきた皐本由衣です」
そんなことがあったのはあれから1ヶ月くらい経った頃。
俺はグロールと仲良くしようと努めていた。何というか、ヒイモリは輝いていた。無愛想だけれど、それでも旅が楽しいのか、輝いていた。あのトレーナーも輝いていた。
それで、自分がかっこ悪く感じたから。旅に興味を、初めて興味を抱いたから。
「サワモトユイちゃんはジムリーダーであるセンリさんの娘さんなんだよハヤト。折角隣になったんだから仲良くしなさい」
「ハヤトっていうんだ、よろしくね」
そのユイが父からポケモンを貰ったのはわずか数時間後。
「いやはやフィールドワーク中に野生ポケモンに襲われて…そこをユイちゃんがそのミズゴロウと協力して助けてくれたんだ。やっぱり親があのセンリさんなだけあるね、もうミズゴロウと意気投合しているよ」
軽く闘争心が。こちらは1ヶ月たってもあのグロールとは分かり合えないのに。
「ん?ユイちゃんなら早速出かけたようだよ。でもまだこの付近に居るだろうね」
俺はグロールを連れ出し走った。自分の方が経験あるのに悔しいじゃないか。
そして、
負けた。
走ってユイに追いつき勝負を申し込んだものの、やはりミズゴロウとの息はぴったしだった。それに比べてこちらは…口に出したくすらない程の酷いざま。
旅に出たいと思った。ポケモンと共に強くなってユイに勝てるように、そしていつかのトレーナーと会えるように。
「父さん、俺旅に出たい!」
「へぇ…お前がそんな事言うなんてねぇ」
言ったのはグロールだった。ふっと笑って肩に乗ってきた。
「強くなって、俺のアニキのトレーナーと戦うんだって?ついて行ってやらんでもない」
「ああハヤト、父さんは嬉しいよ…」
そうして、俺はグロールとあのポチエナと共に一歩を踏み出した。


「ん、今思ったらキモリのころもあんまり可愛げ無かったなぁ…まぁあの頃はまだグロールも小さかったから何か可愛かったけど」
「悪かったね進化するにつれて無愛想になるだけで」
その会話を聞いていたエナルトがははと笑って言った。
「でも、何だかんだ言って仲良かったじゃん。今もね」
「気が合うというよりも俺にしてみればお世話してたという感覚だったけどなぁ。ご飯作ってあげたりとか」
グロールもははと笑う。
「で…そのヒイモリのトレーナーとは会ってないよね?というか名前は」
「ん、名前はなぁ…」

仲間と共に、ハヤト劇進。その始まりはこうだった。
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霜月◇優里 #15☆2007.03/05(月)17:51
ユイ爆進!
 …→  …→  …→  …→  …→  …→  …→  …→  …→  …→
「いらっしゃいウィッシュちゃん、セイシェル君」
「少しの間お世話になります」
「宜しくお願いします」
ここはユイの家。シンオウにいるユイの友人から「ちょっと事情があるから1週間だけ面倒見てー」と言われて預かったグレイシアとトゲキッスが来たのだ。
「こちらとしても超超腹黒多重人格極悪非道怪力有害物質のユイをどうぞよろしくなの。お客さんの前では猫かぶってこんなににこやかにしているけれども、少し慣れたら平気で3tバット振りかざしてくるので気をつけたほうがいいの」
「君も口が過ぎないようにね」
ラグちゃんがどうなったかは言うまでもない。
「そういえば、ユイさんはシンオウ以外は全て殿堂入りしたんですよね」
「そそ、長い旅だったよー」
「よくそんな旅に出る決意が出来ましたね、旅立ちのきっかけは何だったんですか?」
「ん、それはね…」


私は元々ジョウトにいた。父センリの事情で家族3人ホウエン地方ミシロタウンへと引っ越す事になったのが決まったのは10歳の誕生日を迎えるほんの少し前だった。
「こことお別れなんて…さみしいよぉ」
今の街にもたくさんの友達がいる、人間もポケモンも。ずっと暮らしてきたここを離れるのも、友達と離れ離れになるのもユイは嫌だった。
「ユイちゃん、離れても友達だよ?手紙いっぱい書くからね!お返事ちょうだいね!」
「大きくなったらポケモンのバトルするって約束、忘れてないよね!」
「あそこに作った秘密基地、いつかまた行こうね!」
引越しの準備を済ませた朝、友達がユイのもとへ押しかけた。
子供の自分がどうにかできる問題じゃないんだ。引っ越さないといけないという事情が変わる事は無い。
「私ももう少しで10歳だから、旅に出たらきっと会いに行くよ…」

家を出る直前、上空を旋回していた者が降りてきた。
「エアロス!」
ジョウトでの友達のひとり、エアームドのエアロス。この子とも離れがたい。
「ねぇ…お父さんから聞いたけど、新しい街はとても小さな田舎町なんだって。今みたいに友達出来なかったらって思うとすんごく心配なの。エアロス、ついてきてくれたりしない?」
エアロスは悲しそうに笑った。エアロスにはたくさんの兄弟がいて、エアロスは一番の姉さん。一緒に行きたいと思っても離れる事は出来ない。
「ごめんね、困らせちゃったね。そのうちまた来るから、そのときにまた会おう…」

父と母は先に新居へと向かった。私は今引っ越し屋のトラックの荷台の中。
段ボール箱にもたれかかり、ほんの少しだけ日の射す窓に背を向け小さくなって座っていた。
心の中は、不安ばっかり。心配ばっかり。晴れ晴れする事なんてなかった。
「はぁ…」
友達に会いたいよぅ。早く大人になれればいいのに。
トラックがブレーキをかけ、荷物が雪崩を起こす。目的地へと着いたらしく。
荷物に埋もれたユイはがさごそとトラックから這い出す。
「あ…っ」
何でだろう、見たことのある風景。記憶の隅っこにほんのかすか残るのどかな雰囲気。

「ユイ、長旅お疲れ様。2階にユイの部屋があるから簡単に片付けてらっしゃい。お隣に挨拶へ行くから早くね」
母に促され部屋へ入る。ユイの心は少しときめいた。
「パソコンある…」
早速いじってみた。父のお使いでポケモンセンターのパソコンをいじった事はあるから使い方は分かる。
どうぐのボックスにはキズぐすりが入っていた。引き出してバッグの中へ。
部屋もそこそこ広く、もようがえなぞもしてみたくなる。ポケモンと一緒に旅に出たら、もっと色んな事出来るだろうな。
ポケモンと一緒に旅に出たら―――友達とも会えるじゃないか。
「ユイまだー?お隣のオダマキ博士のところへ行くわよー」
あぁ、何かこの街に覚えがあると思ったら、父の用事で一緒に来たことがあったんだっけ。オダマキ博士のところにも寄った筈。その時には博士の一人息子は居なかったけれども、研究所のポケモンと遊んだんだっけ。

挨拶が済んだ後、ぷらぷらと街を散歩した。といっても決して広くは無いのですぐに済んだ。と、
「誰かーッ、誰か助けてくれー!」
オダマキ博士の悲鳴が聞こえてきた。方向は101ばんどうろ。
慌ててそちらへ駆けて行くと。
「あ、ユイちゃん!そこにあるバッグの中のポケモンでこいつらを追い払ってくれーッ」
博士はポチエナに集られていた。襲われているというよりは遊ばれてら。
それはさておきバッグの中をあさり、たまたま手に触れたボールを投げる。ボールから赤い光が溢れ出て、それが実体化し―――
「か、かわいっ!」「君誰?」
私とそいつの声がハモッた。そいつは種族名でいうミズゴロウ。
「ん、見たことあるなぁ…ひょっとしてユイ?」
私はこれとあった覚えは全く…いやもしかして。
「あぁ、いつかユイちゃんが来た時に居たミズゴロウだよ。覚えてる?」
博士のんびり説明してる余裕あらば逃げればいいものを。
「ミズゴロウ、えーと…ポチエナを追い払って!」
「いつもの事だから別に追い払う必要も無いんだけどね…ハイドロポンプ!」
あれ、ミズゴロウってこのレベルでハイドロポンプ使えたっけか?

その後の流れは驚くべきって程早くて。
博士を玩具にして楽しんでいたポチエナを撃退した私達(私も入れていいのだろうか)を見て、君にそのミズゴロウを託そうとか言われた上に、今日が誕生日なのをいいことに母もそれじゃあ旅に出たらどうかしら、などと言い出して。
そいでもって勢いで「旅に出た」私は現在102ばんどうろに居て。
願いが叶ったとはいえ、いきなりすぎて不安なのだけれど。
「そういえば初めてミシロにきた時君が生まれるところに立ち会ったんだっけね」
「そうそう。そいでもってもう1回くらい来た時また会って、その時は親馬鹿並にぼくに言葉教えようとしてたよね。自分だって3歳くらいでまともに言葉使えなかったのに」
「小さい頃なんてそんなもんよー」
と、ミズゴロウと思い出話に花咲かせておりますと。
「待てユイ、勝負させろ…!」
お隣のハヤトだ。白髪を赤黒のバンダナで簡単にくくっている。少しはなれたところに無愛想そうなキモリを引き連れ。
「ん、いいけど?」
勝負はあっさり決まった。こちらが強い、というよりも相手の息がまるで合ってない。
本当に博士の子供なのかな。ついそう思ってしまった。それが顔に出てしまったらしく、
「俺ン事なめてんじゃねぇよ、次はこうはいかねーぞ…!」
悔しさ丸出しで去って行くハヤトの背中を見て思った。―――今度は負けるかも。今は気が合っていなくとも、博士の子だから、次会うときには・・。
それでも、どんどん強くなって、どんどん遠くに行けるようになって、そして。
「…うん」
色んな人に出会いたい。色んな人に再会したい。ハヤトともバトルをしたい。道が開けた。希望が見えた。
「行こう、ミズゴロウ!」


「というユイちゃん武勇伝!如何でしたかな♪」
「あぁ、ユイにもこんないい子な時代があったんだっけなの…」
「ハヤトって人弱かったんだね」
「じゃあそのミズゴロウは親がハイドロポンプを覚えてたんですね」
「…皆ひどいなぁ」

仲間と共に、ユイ爆進。その始まりはこうだった。
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霜月◇優里 #16☆2007.03/15(木)07:36
おやつ大戦争
 × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
ハヤトはいた。
「…こういうのってどれにするべきか」
「真心がこもってれば何でもいいんじゃないかー♪」
コガネデパートの某コーナーに。
天井からは『ホワイトデー特集』などと書かれたチラシがぶら下がり、棚には菓子製品だのかわいい包みの箱だのリボンだのが並べられている。
引き連れてきたのはエナルトとグロールだけだった気がするのだけれど、
「ハヤトの愛が最大のぷれずぇんとなのよーぅっ」
なんか余計なのが居るがとりあえず無視。
「ハヤト、これにしておけば?」
エナルトが差し出したのは、金平糖。

「こんなのでいいのかぁ本当に?」
「可愛いからいいじゃないか」
結局購入した金平糖はホワイトデーのコーナーとは関係無い駄菓子屋のところにあったものである。ちなみに何故か余分に数袋買う羽目になった。
「ホワイトデーって感じ全然無い気がするんだけどなー…」
「わーいわーい金平糖ー」
「昔口の中でころころ転がしたりしてずっと舐めてたなぁ」
思い悩むハヤトの後ろでは金平糖で喜び勇む自分のポケモン達。結局自分達が欲しかっただけらしく。
「時にハヤトよ。金平糖はどうやって渡すのだ?」
それが一番問題なんだよなあ。家に行ったらユイんとこの「あれら」に冷やかしを受けに行くも同然、堂々呼び出しなんてしたら追跡してくるのは目に見えている。
「あたし達が届けてあげようか?」
ふざけるな貴様。

3月14日。
ユイの手には一袋の金平糖が握られていた。
「ユイそれどったの?」
「ん、ちょっとね」
金平糖といえば昔色によって味が違うと思ってたんだよなあ。黄色はレモンとか、ピンクはいちごとか。
それはさておき、こんなことになるとは思いもしなかった。

「金平糖ー!」
最初に来たのはきのっち。
「もしかしてあたしが好きだから買ってくれたとかー?流石ユイー!」
「いや、そうじゃないんだけど…」
聞きもせずに彼女は小躍りしながら持ち去って行った。
「うっほほーいこんぺーとー♪」
きのっちが口に一粒放り込もうとした時。
「きっさまー!このオレを差し置いておやつを喰おうなどという何とも卑劣な事を…その行為、万死に値するっ」
いきなり躍り出てきたアブリューのかまいたち。口に入ろうとした金平糖を弾き飛ばす。
「あーっ!」
しかしその金平糖はアブリューのほうには飛ばず、大きくそれてドランのもとへ。
「漁夫の利ってやつだZE」
その一粒を悠々とキャッチし堪能したドランは勝者の笑みを浮かべる。が。
「くそーぅドランめぇ!」
きのっちの スカイアッパー! きゅうしょに あたった!▼
ドランは たおれた!▼
食い物の恨みは強大であった。
「ついでにアブリューにもマッハパーンチっ」
「ごへぁっ!」
アブリュー戦闘不能。弱点と女の恐ろしさには敵わない。
「ふんふん…これは正しく金平糖のにほひ…」
「あーフィーラ一緒に食べようー」
「ちょ、オレを差し置いてーッ」
「あらアブリュー復活早いね」
「はっ!ナメてんじゃねーぞオレ様のおやつへの愛情をーっ」
アブリューが袋を奪うべく勢いつけて飛び込んできた。あれはきりさくの構え。
「あれ、皆何やってるのー?」
入ってきたのはライアン。手が濡れているのはご飯の支度をした後だからだろう。
「うあぁどけライアンー!」
アブリューの進路に丁度立ってしまったライアン。嗚呼どこまでも不幸な男。
アブリューの きりさく! きゅうしょに あたった!▼
嗚呼不幸にもクリーンヒット。
「うぎょおッ!」
そいつは思わず放電してしまい。
その電気は3月というのに未だに火を湛えたストーブへと向かい。
当然の如く。

「ユイちゃーんハヤトからのラブラブプレゼントよぅ♪」
「ドルア…」
お昼過ぎにやって来たのはハヤトとトドゼルガのドルア。手にはリボンのついた金平糖。
それにしても、何度呼びかけてもチャイムを鳴らしても応答無し。
「ユイー、留守かー?」
幾度かの呼びかけの後、やっとユイが出てきた。何だかげっそりしているような。
「ああハヤト…何か用?今すんごい色々と忙しいんだけど」
「ん、バレンタインのお礼というわけでコレ持ってきたんだけどいらんか?」
「嫌ーねーハヤト、ユイちゃんが受け取り拒否するわけ無いじゃないー」
ドルアを無視しそれを差し出す。
ユイの表情が変わった。
「こんぺーと…見たくない…うぅ」
「え?金平糖嫌いだっけか?」
「20分前に嫌いになった」
げっそりとため息をつくユイ。ハヤトはますますわけが分からない。
と、
「金平糖…」
後ろからきのっちが来た。多少ぼろぼろな気がしないでもない。
「金平糖…」
続いてアブリューも来た。多少息切れてる気がしないでもない。
「金平糖…」
さらにドランも出てきた。多少痣できてる気がしないでもない。
第2次おやつ戦争勃発。

「亡者なの…」
第一次おやつ戦争勝者はのんびりと金平糖を味わっていた。
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霜月◇優里 #17☆2007.03/23(金)21:21
カセキ掘り in MY HOME
 * □ * ■ * □ * ■ * □ * ■ * □ * ■ * □ * ■ *
「ユイ、ひなあられとかまだ残ってるよー?」
きのっちが言った。腕に抱えられているのは、2袋のひなあられと1袋のわたあめ。
ひな祭りなどとうに過ぎ、その上雛人形も押入れへと帰還したというのにも関わらず、食べ切れなかったり飽きたりなどの原因で残った和菓子がユイ宅に存在していた。
「ひなあられなら賞味期限とか長いんじゃない?とりあえずしまっとけば誰か食べるって。あ、賞味期限切れてる生菓子はアブリューのMyおやつのところに混ぜておけば気づかずに処理してくれるって」
そしてとてつもなくいい加減なユイ。
オス集団にはお使いを頼んでいる上、フィーラはハヤトの家に遊びに行ったので家にはユイときのっち2人だけ。故に今がチャンスなのである。
「分かった、戸棚入れとくね」
きのっちが戸棚の扉を開ける。きぃぃといかにも年代モノという音を立てながら開いたが、
「あれ、何か落ちた…」
きのっちが拾い上げたのは。
「…栗金団?」
「クリントン?」
その聞き間違いは無理がある気がするが。
ともかくそれは、紙の小皿にのってラップをかけられた状態のくりきんとんだった。
ラップをかけてあるとはいえ、水分は完全にとんでいる。
「どうすんのこれ」
「アブリューのとこ入れといて」
ユイは自分のポケモンよりも食材の方が大切らしい。
「あんなものがあるとは思わなかった…お正月のおせちの分だから、2,3ヶ月ものかあ。探せば他にもあるんじゃないのぉ?」
「食材はちゃんと整理してるつもりだからこれ以上は無いと思うよ。くりきんとんはアブリューが食べる!って言ってたから取っといたやつなのに」
少々不機嫌気味なユイ。
「でも、こんなぱっさぱさの、流石にアブリュー食べないと思うけど」
「じゃあお湯少し入れとけばもどせるかな」
カップラーメンじゃああるまいし。

「くりきんとんのことは忘れよう…あー喉渇いた」
あれからお湯を沸かしくりきんとんにかけてみたものの、詳しくは説明する気になれないがあまり良い結果にはならなかった。
しかしアブリューのおやつ行きというのは変わる事無く。
それはさておき、ユイは冷蔵庫へとかけていく。と、
「痛っ」
床においてあった箱に足を引っ掛けてしまった。海苔なんかが入っていそうな缶の箱。
ただ、気になった事がひとつ。
「蹴った時重かった…何が入ってるんだろ?」
「また何か変なもんだったりしてーっ」
きのっちが意気揚々と箱を開ける。
ぱこっ。
箱。
「マ、マトリョーシカ…」
缶箱の中に入っていた紙箱も開ける。
入っていたのは、メロン4分の1カット。
「カスカス…」
「あ、でもいい匂いはするね。腐っても鯨ってやつぅ?」
ちょっと違うぞ。

「メロンのことは忘れよう…」
あれから懲りずにぬるま湯にメロンを浸したが、決して良い結果にはならなかったので、アブリューのおやつ行きとなったのだった。
「絶対まだあるって、探そ探そ」
ユイはきのっちを無視。しかし正直言ってもう出てこない、という自信は無い。
クリスマスの料理は残っていないとして、いつかの誕生日とか、お月見とか、残り物が放置されそうな機会は山ほどあるのだ。今の流れからしても出てくるだろう。
「あー発見♪」
聞きたくない、聞きたくない。
「この袋何か色々入ってる。一口チョコ、するめいか、プチゼリー、ラムネ、ソーダキャンディ、それから…」
「もしかして、アブリューの旧Myおやつ?!」
旧Myおやつ。それは以前の出来事。数年前にも地味におやつを収集していたアブリューだが、ある日おやつが丸ごと行方知らずとなり発狂同然で暴れた事件があった。
あの時はラグちゃんが犯人とされ血祭りにあげられたのだが。
「自分で失くしてたとはね…ラグちゃんが知ったらどうなるのやら」
「これもアブリューんとこ入れとこうよ、自業自得じゃん」

「冷蔵庫の中も見てみよう、何か面白いものありそうじゃん」
こちらとしては面白くもなんとも無いよ、と心中うなるユイ。
しかし、今回はきのっちだからまだ良かった。フィーラでもどうにかなっただろうが、オス4匹の場合だとその事でからかったり脅したりと軽く半世紀ぐらいは利用されそうだ。
この機会に徹底的に探し出した方がいいのかもしれない。
「ん、探そう」
「よおっし、化石発掘inまいほーむ!」

それから10分。
「ただいま帰ってきたZE!」
「ちょっと遠くのスーパーで特売やってるって聞いたもんで、そっちにも行ったから遅くなっちゃったよ」
「収穫たっぷりなのー」
「おやつもな」
どたどたと帰還してきた4匹。しかしおかえりの言葉は無く。
「返事無いの…何か夢中になってるとかかな、なの」
ラグちゃんを先頭に台所へ。そこには、冷蔵庫の野菜室へ顔を突っ込む1人と1匹が。
「ユイ、奥に何か黒い物体があるよ?」
「こっちからだと手届かないからきのっち取って」
「へいよ」
きのっちが野菜室から取り出したものは。
「えーと…卒業証書とか入れるよくある黒い筒?でも何でこんな物が?」
「しかも野菜室だZE」
それに誰も卒業証書など貰う機会は無いはず。
「何か入ってるねこの筒。もしかしてお父さんの卒業証書とかあったりして」
ユイの父センリはトレーナーズスクール出の優等生であった。それからジムリーダーになったとか。
しかしそれがここにあるのもおかしいのだけれど。ともかく開けてみる。
すぽ。
そこに入っていたのは、かつお節ブロック。つまりまだ削っていないやつだ。
「でも、こんなの買った覚えも貰った覚えも無いよ?削る道具も家には無いわけだし」
「もしかして…!」
何を思ったか、アブリューはかつおブロックと思われるものを真っ二つに。
切られたかつおを拾い上げて断面を見たライアンは一言。
「これ、かつおのたたきじゃない?」
「課長のたたき?」
大分無理があるぞ。
「ちょ、筒の中にまだ何か入ってるの。四角い発泡スチロールのトレーなの…」
つまりカツオのたたきのパックであった。ユイは賞味期限を確認。
1996年2月27日。
「…」
もう、誰も何も言わなかった。

後日談。
アブリューはMyおやつを食べた後、原因不明の腹痛に襲われたらしい。
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霜月◇優里 #18☆2007.04/01(日)20:22
April Fool dream!
 ○Oo。 ○Oo。 ○Oo。 ○Oo。 ○Oo。 ○Oo。 ○Oo。
今日は日曜日。ユイはコガネのシンオウ物産展へ遊びに行っている。
そんなとき、ユイ宅の古めかしい黒電話がこれまた古めかしい音を奏でた。
「もしもし、どちらさんなの。ってユイかなの」
「今コガネデパートにいるんだけど、晩御飯何がいい?」
「高級なものがいいの」
「じゃ、キャビア買っていこう。『レストラン ル・フェーヴル』も使ってる凄いやつなんだって」
ラグちゃんは息を飲んだ。―――ル・フェーヴルと言ったらシンオウ地方トバリシティにある超有名レストランじゃないか。数多の美食家達を唸らせた、伝説の料理人が生み出す芸術とも言える料理がウリらしい。
しかし今日は嘘をついてもいいなんていう日。そんな高級品をこの塩っ辛い家計の中で買えるわけがないのだから、9割方嘘だろう。
そんな事を考えていたのに気付いたのか、ユイがこんなことを言ってくる。
「どうせ信じないだろうから、ポケナビから写真送っといたよ」
デボンコーポレーションはいつの間にカメラ機能をポケナビにぶち込んだのだろう。
それはさておき、パソコンを起動させチェック。
「ほんとだ、なの」
ここから、エイプリル・フール・ドリームは始まったのだった。

日曜日の昼。一通りやることは終わらせたので、僕は日がな一日寝転がりつつ雑誌を眺めていた。いつも愛読しているグルメ雑誌で、今回はかの有名店『ル・フェーヴル』が取り上げられていた。
「一度はここの料理長にここで働かないか、って言われたんだよなあ」
と僕がしみじみ浸っておりますと。
「ライアン、キャビア料理ってどんなのがあるの?」
唐突にラグちゃんが聞いてきた。
雑誌やテレビで料理の勉強はしているけれども、そもそも高級食材と全く縁の無い日々を過ごしているので、すぐには思い付かなかった。
「えぇとそうだね…というか何でそんな事気になったの?」
僕が聞き返すと、ラグちゃんは黙ってパソコンの画面を見せた。
画像が粗いものの、ユイが手に小さなキャビアの缶を持っているのが、しっかりと確認できた。
「なんてこったい…」
あいにく缶に印刷された文字までは読めないが、色とデザインからしてあの店愛用のキャビアと見て間違いない。
つまりはこういうことか。ユイが凄いキャビアを買ったから、それに合う料理を作れと。
無茶だ。まずあの高級キャビアと一緒に料理出来るような食材が家には全く無い。スーパーの安食材なんか使えたもんじゃない。それに、悔しいけれど僕の知識も足りない。
そのまま食べたほうがいいのではないだろうか。
それをラグちゃんに言ったら、
「そっかなの」
とだけ応え、「キャビア食べてセレブの仲間入りなのー」とはしゃぎながら行ってしまった。
「た、単純だなあ…」
僕は苦笑するしかなかった。

日曜日の昼下がり。お昼ご飯を食べた後というのはどうしてこんなにも眠くなるのだろう。
そんなことを思いつつぼーっとテレビを見ていた。タマムシデパートでやっているシンオウ物産展の特集をやっているらしく、生中継で色々お店を映している。
あまり興味が無かったので寝そうになっていたのだが、横で一緒に見ていたきのっちがふと話しかけてきた。
「あれ、あそこにいるのユイじゃないの?」
ユイも行っているのだから生中継に映っていてもおかしくない。しかし、きのっちの驚きポイントはそこではなかった。
「手になんか持ってるよ…あ、あれじゃない?キャビアキャビアー!」
そんなアホな。いちばんケチだからこそお財布のヒモを握る事になったユイがホイホイと三大珍味なんて買うわけないじゃない。
それでもちょいと気になり顔を上げて画面を見つめる。確かに、ちょっとそれっぽい缶の入っているビニール袋を提げているけれど。
「どうしよどうしよッ、キャビアなんて初めてだよわーい!キャビアはご飯とパンどっちに合うんだろ、ねえフィーラどう思う?」
きのっちはすっかりその気のようで。
でも私だって食べた事も生で見たこともないんだから答えようがない。いくらにちょっと似た風味で、そいでもって程よくしょっぱいとかいう話は聞いた事あるけれど。
あれこれ想像していたら私もなんかウズウズしてきた。た、食べてみたい…!
「凄いもんなんだからそんな感じの雰囲気の中食べたいよね、ひとつ歌でも創ろうかなー♪」
一人(もとい1匹)テンション上げ上げできのっちは部屋を出て行った。
雰囲気か、雰囲気は大切だよね。―――私も何か準備しておこうかな。まだ見ぬ世界の珍味のために!

「いったい皆そろって何やっているんだ…?」
「あまごいじゃないKA」
ンなわけないだろ、とドランに言い返してからちょいと考える。家に居る4匹そろって何だか忙しない。ラグちゃんは小躍りして何か買いに行ったし、ライアンは渋い顔しながら一生懸命料理本とにらめっこしているし、きのっちは別部屋で何か歌ってるし、フィーラはどこからともなくキャンドルやらクリスマスのとき使った飾りやらを引っ張り出している。
皆うきうきって感じで、2匹は完全に蚊帳の外。
「祭りかパーティでもやるつもりか?」
「だからあまごいだってBA」
うっせーな。
ドランは頼りにならない。仕方が無いのでじっとして動かないライアンに話しかける。
「なあ、なにやってんだ?」
「キャビアに合う料理を調べてる」
レストランに修行に行くために勉強でもしているのだろうか。
それでライアンお別れパーティをするというパターンが考えられたが、お別れパーティであんなに明るくないよなぁ。
一人悶々と推測していたら、
「ユイがシンオウ物産展でキャビア買ったんだってさ」
ああ、今日はエイプリルフールか。

「ただいま、いいもん買って来たよ!」
意気揚々とユイが帰ってきた。手には複数の袋。
「おかえりユイ!キャビアは?」
「ほいよ」
ユイが小さな缶を取り出し、くいっといとも簡単に開けてみせた。
かちゃっ。ボッ!
「えーと…」
「今日は何の日 ふっふ〜 ってことでエイプリルフールジョークでした♪」

その日の夜は、きのっちの歌が録音されたテープの流れる部屋の中、真っ白なテーブルクロスの敷かれたこたつの上にライアンの渾身の料理達と大量のキャンドルとそれからユイの買ってきた缶型ライターやら物産展のたらこやらが並び、とてつもなく奇妙な光景となった。
April Fool dream―――馬鹿が夢見る4月。こいつらの夢は、こんなのでした。
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霜月◇優里 #19☆2007.04/07(土)17:11
死刑囚ドラン
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そもそも、何で私は昨日あいつらを部屋に呼んだのだろう。
その上遊びで「まきびし」何ぞ使わせたのだろう。

夜。
何時ごろだろうか。皆寝静まっているような真夜中の事。
ユイが寝返りをうった刹那、
「ッ痛あぁぁ嗚呼ー!」
何かが刺さった、右腕に。
恐る恐る右腕を見ると、拾い損ねたまきびしがざっくり刺さっている。
そこからは沢山の血。シーツは一気に真っ赤に染まった。
「うげえぇぇ…エアロスめぃ…。」
昨日、ユイはボックスに入れっぱなしだったエアームドのエアロス、マッスグマのカーナ、トロピウスのクロムと久しぶりに戯れた際に、遊びでまきびしを撒いていたのである。
でもそれをエアロスのせいにするのはお門違いというものだ。しっかり回収しないどっかの誰かさんが悪い。
話は変わるが、ユイの部屋は防音壁になっているのでどんなに大音量で音楽かけようともでかい鼾かこうとも「ハートのウロコ大好きだああ!」と叫ぼうとも外には全く漏れない。
なので、今回のような悲鳴をあげようとも誰も助けになんて来ないのである。
「うぅ、ドラン出ておいで」
やっとこさ掴んだボールから熟睡中ドランが出てくる。
「何だよ…もう朝KA?それとも寝れないからって道連れKA?」
ユイは黙ってドランに右腕を見せる。
「ん、えぇと空腹が限界だったので腕がホットドッグに見えてしまい、思い切りかぶりついたら流血しちゃいました、ってことKA?」
「はずれ。エアロスのまきびしで怪我したから病院連れてって」
「あっそ。どうせユイなら死にゃあしないから大丈夫だYO(欠伸)」
ユイの ばくれつパンチ!▼
きゅうしょに あたった!▼
「分かりました分かりましたってBA orz」
とりあえず出る準備をしようとユイがまきびしを引っこ抜こうとするとドランが「抜かない方が良いらしいZE」と言うのでじゃあどうしようととりあえずタオルを持って来てわたわたとタオルを腕にきつく縛っていたころには夜中3時になっていた。
「ああドラン、机に書き置きしておいてよ。朝ご飯までには帰れないだろうし」
「了解したZEー。何て書いとこっかな、普通じゃ面白くないSHI」
「ドランまだ?腕痛いんだけど」
「あいあい今書き終えました隊長ー、じゃあ病院まで逝くZE☆」

「エアロス…今度会ったときにはハリセンボン飲ーます…♪」
1人と1匹は夜の街に飛びたった。


時刻は朝7:30。
「ふぁー、お腹すいた…今日はハムの焦げる匂いがしないな」
食い気満々でボールから出て来たのはきのっち。顔も洗わずふらりふらりといざ向かうは台所という名の聖域。
「あれ、ユイもライアンも起きてないじゃん。めずらしい」
こんなことは元日の朝くらいしかない。とりあえず皆を起こしに行く。
そろったのは中々起きないアブリューを除いて4匹のみ。
「…ユイとドランが居ない」
「へ?きのっち、ちゃんとベッドの下も見た?机の裏も見た?天井も見た?それとあとえっと屋根裏は?ゴミ箱の中は?トイレは?換気扇は?」
「というかあのね!ベッドに血がべったり付いてて…どーなってんの?!」
そんな中、ドランの書き置きに気づいたのはラグちゃんだった。
「何か書き置きがあるの!えーと『探さないで下さい ドラン』だってなの」
「ドランが何か知ってるのかも!まさか…」
フィーラが真っ青になりながら、最悪の状況を考える。
数日前、ドランが物産展で大切そうに買って来たキャラメルプリン(1ヶ350円)をユイが何も知らずに食べてしまったという出来事があった。
「まっさかその恨みでざくっと…?!」
「そんなわけ無いじゃん、ユイがいなかったら僕たち生きていけないし」
そういう問題なのかライアンよ。
「収入の方はいつもどうり牧場で働くなりすればどうにかなるの」
「ご飯はライアンがいるもんね♪」
そんなことを話し合ってどうする一同よ。
「でも…毎朝『ラグちゃん早く顔洗えきのっちとフィーラ早く朝ごはん食べろドラン大人しくしとけライアン皿洗い早くしろアブリューはえーと目つき悪い!』って怒鳴る人が居ないのは寂しいよ」
「…」
ユイ自体を探すより、ユイの存在意義を探すのに必死な4匹だった。

「あなたならどうってことないでしょうが、とりあえず傷口を縫わなければなりません。だから日帰りは無理です。無理ったら無理です」
ここは病院。居るのは先生とユイとドランだけ。
「別に日帰りしたいなんて一言も言ってないですけど…」
「とにかく、今日は3tバット振り回したりしちゃいけませんよ」
「振り回す原因がここには無いから大丈夫ですよ…ドラン、こういう状態だからもう少ししたらこのことラグちゃん達に知らせに行ってね」
「アイアイサーだZE☆」

とりあえず落ち着こうということで、ライアンが朝食を作った。
黄色い溶けかけのバターがのったトースト、こんがり焼けたハムエッグ。
すっかり腹減りな一同は味わう事もなく一気に平らげた。
「で、何だっけ?」
「何だっけって…」
ユイの存在は朝食のトーストとハムエッグよりも軽かった。
「それにしても、やっぱ血があったからドランが…」
「人殺しって捕まったらどうなるんだっけ?なの」
「ぇーと…死刑?」
「「「ええぇっ?!」」」
「いくらなんでもそれは困るよォっ」
「ドランを助けなきゃ!」
「でも何処に居るか分からないの」
「…」

「それじゃ、ドラン頼んだよ」
「行ってくるZE☆」
そういって病院を出発したドラン。
「皆を連れてきたらユイきっと喜ぶNA…ってなんだぁ?パトカーKA?」
『そこのボーマンダ、直ちに止まりなさい』
ゥイーンと唸りながら近づいてくるパトカー。拡声器で呼びかけてきた。
「オレなんか悪い事したっKE…物産展のプリン(1ヶ350円)の恨みに、勝手にユイの金ネコババしたからKA?でもそれだけで追われるKA?」

ォーンゥオーンウイーン…
「救急車?」
「霊柩車?」
「消防車?」
「パトカーなの」
…。
「って見て、ドランが追われてるんじゃないの?!」
「早速なの?!助けないとなの」
外に出る一行。そこには、
『そこのボーマンダ、直ちに止まりなさい』
ゥイーンと唸りながら近づいてくるパトカー。拡声器で呼びかけてきた。
「オレなんか悪い事したっKE…物産展のプリン(1ヶ350円)の恨みに、
勝手にユイのお金でプリン買ったからかNA?でもそれで追われるKA?」
そんな光景が。
「「「「どーらーんーっっ!!」」」」
「Oh皆、どーなってんだYO!」
「話は後なの、今助けるの!はいどろぽぉんぷ、なの」「かえんほうしゃぁぁっ」「かみなり」「スカイアッパー!」
何でこの方達は強硬手段しか出来ないんだろう。パトカーを破壊、破壊、破壊。
「こんなことして大丈夫なのKA?」
「だって…ドランが死刑になったらやだもん。とにかくこっち来て!」
「何でオレが死刑…」

そしてユイ宅。
「で、どーなってるんDA?」
「ドラン、ユイを何処にやったの?なの」
「病院にいるZE。お見舞いに行ったら喜ぶZE☆」
「へ?ユイ生きてるの?」
「右腕ちょっこり切っただけで死ぬわけないだRO。ユイの生命力を忘れたKA?あれはもうこの世のものとは思えない、ゴキブリの進化形みたいなヤツだZE☆」
「ドラン、今の言葉このアブリューがしかと聞いたぞ。ユイに伝えといてやろう」
「「「「「アブリュー、やっと起きたの?!(現在10時)」」」」」
アブリューの楽しみはおやつと睡眠である。

とりあえずドランは今までの事を話した。
「それじゃあお見舞いに行こうなの」
「でもさ、パトカー壊したけどどうしよう…」
あ。
そんな時ニュースが流れる。
『先日脱走したマッチョブリテン共和国の王女の愛ポケモンであるボーマンダの「マルセイユ・リヴェーラ・オンディーヌ」略してマリオがアサギシティ付近で発見されましたが、謎の集団によりパトカーを破壊され逃亡しました。
王女は「見つけて下さった方に1千万!」と言っております。引き続き情報を集めています。』
「ドラン、もしかしてボーマンダのマリオと間違われた?」
「お前王女のとこ行って来いなの。そのお金でパトカー弁償するの」
「ちょ、勝手な事言うなYO…」
「それがこの世の平和のためだって。そっちに行ってる間本物探しといてやるよ」
ライアンは陽気にそういったが絶対探さないと思う。
「「「「「だから行ってらっしゃい♪」」」」」
「…」
何というか、薄情だなーぁ。ドランは悲しくなった。

ここはユイのいる病室。傷口を縫ったので安静にしていろとのこと。
「やっほー、ユイ元気?エアロスのまきびし刺さったんだって?」
と言ったフィーラを先頭に、ユイのベッドの周りにわやわやと集まる5匹。
「あれ、ドランはどうしたの?」
「え、ちょっとね…」

あれから1ヵ月後。
「ドラン本当にどうしたの?」
「え、ちょっとね…」
おわり。
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ぴくの〜ほかんこ