ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[694] ユキイロ保護地域

えるる #1★2005.09/13(火)20:24
プロローグ

グレン島 ポケモン屋敷内秘密研究所。
「はぁ…はぁ…あー…あたしってバカ…。」
半分溶岩に埋もれた屋敷内を一人の少女が走り抜ける。
複雑に入り組んだ内部は、おおまかにしか分からない。
今のところ追いかけてくる者は無いが、それも時間の問題である。
そこら中至る所に、隠しカメラがあるのだから。
「やっぱしちょっとは計画するべきだったなぁ…カギ突破したからって浮かれてたのか…。」
意味の無い独り言を呟く。
後ろからドタドタと誰かが走ってくる音がした。
──2回目脱走作戦、やっぱり無理かな?
足音は前からも聞こえてくる。
このままでは前と後ろから団員とそのポケモン達に挟み撃ちにされる。
少女は諦めたのかそこに座り込む。
だが、そこには一向に団員が来ない。
──あれ?どうしたんだろう…?
次に、何かがバキッと折れる音がしたかと思うと大量の水がこちらに流れ込んで来た。
少女と水の距離が2mくらいのところで、凄まじい放電。
何かが焦げる匂いが漂ってくる。
「あーもうしつこい!」
再びバキッ。こんどは呻き声付きで。
こう、さっきのよりは鈍いバキッ、だったように思う。
──何?一体何が起こっているの?
「あ、いたいた〜。」
音のした辺りから少女の方にプラスルが歩いてくる。
──誰?何なの?怖い、怖い、怖い…!
「…あれ?」
次の瞬間、少女はそこには居なかった。
代わりに僅かな空間の歪みだけが残っていた。



コガネシティ、東地区。
「…。」
だんだん外も暗くなってきたかという時間に、ウバメの森方面から黒い影が走ってくる。
いや、影が黒いのは当然なのだが…この影は本当に果てしない闇を思わせる黒である。
その影が走り抜けた後は草木が萎びている。
その影はリニアの車線を伝ってカントー方面に走る。
その影は周りの明かりを奪いながら走る。
その影を見た警備員は、驚いてその場に座り込んだ。
その影を見た子供は、泣き出した。
その影は…アブソルだった。本来この地方にはいないはずの。
闇のように黒い角に雪のように白い体。それでもその影は果てしなく暗い。
通常より頭の白い部分と角が大きいのか、外から目は見えない。
ただ無感情に、無意識に、義務的に、街を走り抜ける。
その存在は本当に──人々に不幸を伝える存在だった。



R団タマムシアジト地下2階。
「…逃げたみたいですよ。」
「解ってる。」
白衣の青年とサーナイトが何かを喋っている。
サーナイトのひらひらしたスカートのような部分の左側は緑色の足の半分より少し上くらいのところまでしかない。
「何か手がかりは?」
「無いことはない…けど、細かいとこは難しいかな。普通の純血ならともかくあいつは体温も人間に近いから。」
「…私達はこれでいいのでしょうか?」
「いいんじゃない?それにあいつは絶対、他に渡してはいけない。」
青年は椅子に座ったまま机を蹴って、部屋の後ろの本棚までそのまま椅子ごと滑った。
「分かってますよ。だってあの子は…」
サーナイトが言いかけるのと本棚の本が一斉に崩れ落ちてきたのはほぼ同時だった。

◇ 

ハナダシティ3丁目。
「…へ?」
日曜日のカラオケボックス。
暇だしどっか遊びに行こうと思い立った少年×3。
そろそろ時間だし出るかーと思ったその刹那。
突如出現…白いパジャマのようなものを着た少女。
どう考えたってさっきまで居なかった。
何?何者?なんかこう唐突に始まるありがちストーリーじゃないよな?
「…あれ?」
少女が辺りをきょろきょろ見回す。
唖然とする3人。
「えっと…ここどこ?」
少女は、本当に何も知らない様子で呟き──ぶっ倒れた。
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えるる #2★2005.06/07(火)18:16
その1 メロンソーダって何かと合成的だよね

「やっぱりなんかかっこいーね、こんなの。」
ハナダ3丁目林の中。勝手にビスケットをかじって少女、ライヤが呟く。
木の中には秘密基地。強引に隣とくっつけてあるためそれなりに広い(本来部屋の境は壁なので強引に焼ききった跡がある)。
一見リビングのような作りで、確かに生活感がある。
そこにいるのは少年3人と少女2人だった。
「なんか秘密結社って感じだな…。」
「すごいでしょー!すごいでしょー!!アタシがここ作ったんだよ!?」
「はいはい…で。」
一秒の間を空けて、

「結局この子、誰?」

テーブルのメロンソーダ(合成的なメロン色&味)を飲みながらもう一人の少女にして部屋の主、セツカが呟いた。
目線の先には白いパジャマのような服を着た10歳前後と思われる女の子。
「カラオケボックスに突如出現。マジでビビった。」
左の少年、カスガが答える。腰にボールがいくつかつけてある。
「で、身元も分からないしぶっ倒れたままだったから連れてきたんだんだけどさ。」
眼鏡の少年、ミカゲが言う。別に頭がいい訳ではなくゲームのやりすぎらしい。
セツカがはぁー、と溜息をつく。
「それは分かった。うん。分かったってことにしとく。あんたらが実はロリコンじゃないかって疑惑が浮かんだけど。すんごい勢いで非現実ありがちストーリーの予感だけど100歩譲って信じる。でも…なんでここに連れて来るの?」
「ほら、家に連れてく訳にもいかねーじゃん。俺たち誘拐犯じゃねーんだし。」
カスガがさも当たり前のように言う。
「ちょっと、私いろいろやりたいことあるからカラオケ行かないって言ったよね?なのにこうもっと私が大変なことやってるから明日にしようとか思わないの!?」
「その『いろいろ』が部屋中の物全部使ったドミノかなんかじゃないかなーなんてねー。僕は暇なときよくやるよー?」
眠そうにちょっと離れた所で回転椅子に座ってくるくる回っていたミナトが言う。なかなか三半規管の強いやつだ。
かなりの女顔だが一応男子である。
一方セツカはイライラしてきたらしくだんだん声が大きくなる。
「セツカはこの頃カルシウムが足りないんだよーっ!牛乳飲めーっ!アタシは牛乳にどのくらいのカルシウムが入っててキュウシューコーリツがどうとか知らないけどっ!」
イライラしているセツカに気づいたのかヒマナッツのポプラが口を挟む。
よく分からないが一応本人にしてみれば止めているらしい。
「まあいい…いや、よくないけどカスガ君もミカゲ君もそこで今にも寝そうなミナト君もなんで揃いも揃ってここに押しかけるの?なんでライちゃんもいるの?」
少し冷静にになったセツカがまだいらついているのか机をばんばん叩く。
積んであった本が左のパソコン(二台並んでいる)のキーボードに崩れてきてエラー音。
面倒なのか直接パソコンの電源を落とす。
「と・に・か・く・!その倒れてる子を私にどうしろと?ライヤとミナト君以外の二人はトレーナーでしょ?私は学生なの!月曜になれば学校があるの!」
「セツ、落ち着いて。とりあえず起きてからゆっくり話聞こ?」
ライヤがなだめる。ポプラの時よりは効果があったのかメロンソーダを一口飲む。
「てかなんで午前中からカラオケ…。」
「割引だよ。」
「あっそ…ところであの子の履いてるスリッパに書いてあるR印がすんごい気になるんだけど。」
スリッパは左足にしか履かれていなかった。



R団タマムシアジト地下2階。
「ハナダ北西か…。」
パソコンの画面を見ながら白衣の青年が呟く。
「あの発信機はこの中で共通…すぐに発見できますね。」
「性能的に細かいところまでは分からないけど。」
「そうですね。」
「ホントはもっと精密な発信機とか盗聴器とか映像記録装置とか防犯ベルとか写真貼るスペースとか付けたかったんだけどね。」
「付けすぎです。あくまで個体の識別用なんですから。映像記録ってあなたは変態ですか。」
「うぅっ…。かなり痛いとこ突いたね。残念ながら俺にそんな趣味はないけど。」
時刻はもうすぐお昼時。
ラジオの放送がニュースを流し始めた。
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えるる #3★2005.05/31(火)19:58
その2 グレン島の火山噴火って何年前だろうね

「あー…どーしよ。結局接触できなかったか。」
グレン島ポケモンセンター。
一人の茶髪の少女は自分のポケモン達に向かってぼやく。
「…ぼくのせい?」
プラスルのテンポが少しびくびくしながら尋ねる。
「違う。多分。きっと。このメンバーで一番一般受けすんのはあんただから。」
「むぅ。じゃああたしは何?プラスルとマイナンなんて赤と青の違いだよ?作者の周りにプラスル派が多いだけで一般受けとか言って欲しくないね!」
答えた少女にマイナンのリズムが反論する。
「世の中プラスに傾いてるのかもしれませんわよ?それとも赤が好きな方が多いのかしら?」
座っていたエネコロロのクレセントが話に割り込む。
「でもぼくはプラスルだけど赤嫌いだよ?だってあの色だもん、ほら。」
「あの色?何それ?」
「血じゃないですか…?もしくは金の亡者の眼の色とか…。」
「あっ!酷いですショコラさん!私だって眼は赤です!」
「キュウコンだって赤ですよ…。」
ロコンのショコラとサーナイトのジャスミンが勝手に話を持っていく。
「で、何の色なの?テンポ。」
少女、アイリが聞く。テンポは腕を振りながら、
「ほら、あれだよ!あの日のランドセルの色!」
「何それぇっ!?」
「もしくはあの日のM団アジトの色。赤い団服がさらに血で真っうごぷっ!」
テンポにリズムの電撃付きパンチ!
「そんな記憶はやめよう!健全なこの空間にそんな世界を持ち込まない!」
その時、アイリのバッグからジラーチが飛び出してきた。
「だー!うるせーうるせーうるせー!!オレがんばってんだよ?寝たまま念で実体作んのがどれだけ大変かわかんぐはっ!」
「あんたが一番煩い。」
アイリの右ストレート。向こうのソファまで吹っ飛ばされるハクア。
「ここはポケモンセンターだよ?公共の場所なの!いくらあたしたちしか人がいないとはいえジラーチなんか出てきたらジョーイさんびっくりだよ?」
幸い今、ジョーイさんは部屋の奥に行っていていないらしい。
「とりあえず外に出よ。ポケモン屋敷も半壊してるはずなのに中はかなりキレイだったからね。」
「今頃焦げ目と水で溢れてるだろうけど。」
アイリはまだ文句を言いたげなハクアをバッグにつっこもうとする。
そしてハクアが窓の外をちらりと見た瞬間──固まった。
「どうしたんですの?ハクアさん。」
「もしかしてやっと私の呪術が…。外法で妖魔を呼び出した甲斐がありましたね…。」
「黒いよショコラ!あんたは毒入りチョコレートか!」
「な…なんでお前が…。」
ハクアはそのままポケモンセンターの外へ飛び出す。他のメンバーも後を追う。
ハクアの見ている先にいたのは──アブソルだった。
頭の白い部分と角が大きいのか眼はこちらからは見えない。通常のアブソルと違って角は左側についているようだ。
固まったたくさんの溶岩の上からじっとこちら側を向いている。
そしてそのまま数十秒、一瞬、姿が消えたかと思うと大量の岩石がその場から降ってきた。
条件反射でジャスミンが岩をすべて弾き飛ばす。
そこにアブソルは居なかった。
弾かれるように振り向くと…ポケモンセンターの屋根の上にアブソルがいた。
アブソルがぽつりと呟く。
とても小さな声で、何を言っているのか聞き取れなかった。
アブソルはくるりと後ろを向くと、音も無く去って行った。
「…何だったの?ハクア。」
アイリが聞く。
「スズヤだよ…。予言者、『問』だ。」
ハクアはまだ少し顔色が悪い。本体じゃないのに顔色変わるのか。
「とにかくあいつはやめろ。前回起きたときに散々斬られたかんな…。」
「斬られた?あなた何やったんですの?前回?それって600年くらい前ですわよね?なんで生きていらっしゃるのかしら?」
クレセントが尤もな質問をする。
「あいつは時間を越えるからな。他にも仲間のブラッキーと時間泥棒がいるんだが。」
ハクアは最初の質問を無視して、アイリの方を見る。
「…とりあえず、スズヤは本土の方に行ったみたいだ。」
「追っかけてみるわけね。マップを見る限りあっちは…港かな。どの船に便乗するかで行き先変わるけど。」



セキチクシティ海沿い。
「あ、すずやん来た来た。」
勝手に乗っていたと思われるフェリーからアブソルが飛び降りる。
眼はこちら側からは見えなくて、角が左側についていて──20分ほど前アイリに出会ったアブソルだ。
コンビニのおにぎりを食べていた少女は隣にいるキレイハナをボールにしまう。
「…。」
アブソル、スズヤは「すずやんって呼ぶのやめろ」とでも言いたいように少女を見る。
少女はあまり見ていなかったらしく、おにぎりのビニールを近くのごみばこに捨てる。
「で、ハナダだっけ?今回の主人公さんは。」
「…。」
やはりこちらから眼は見えないが、いかにも「解ってるんだろ」という目で見ていそうな感じに少女を見上げる。
「…。」
「…会話が成り立たないんだけど。なんか喋ろうよ。」
「…。」
「…おーい?」
「作者権限…。他の時代にまで本を運ばせておいて何を…。」
耳を澄まさないと聞こえないくらい小さな声でスズヤがぽつりと言う。
少女はやはり聞こえなかったようでショルダーバッグをかけなおす。
「ま、いっか。ちょっとハナダまで連れてってよ。」
少女は無言のスズヤに乗った。
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えるる #4★2005.06/08(水)22:34
その3 私は冷やし中華にキュウリを入れません

午後1時20分。
みんなしてお腹すいたと言い出したのでとりあえず冷蔵庫の中の冷やし中華を自分を除いた人数分出す。
「ありがとな。飯まで悪い。」
「悪いって思うなら食べるな。こっちだってポプラがたくさん食べるんだから。」
「成長期なの!」
ポプラがそう言いながらセツカに冷やし中華を出してくる。
もっと卵入れろ、って意味らしい。
自分のご飯をお茶碗に入れていたセツカはさっさと炊飯器の蓋を閉じて卵を入れる。
「話を整理するとライちゃん以外の3人がカラオケを出ようとした時にこの子が突然現れて、ぐったりしてたから周りの視線も何だしどっか女子の家に連れてこう、ってなって…。」
「ここに来る途中にライヤに遭遇ー。みっちゃんとかすくんはライヤに変態疑惑を投げつけられてちょっと事情を話してここまで連れて来てもらったー。僕は特に関係無しー。」
「変態疑惑は余計だ!」
「まぁそう見えたんだろうけどさ。昼間っからぐったりした女の子しかもあの服装じゃ怪しいっての。」
「しかもミカ君のギャロップに乗せてたんだよ。誘拐に見えるよね☆」
「で、どうしよっか。」
ライヤが星付きで無駄に明るく言う。ここで話が途切れて、みんな冷やし中華を食べる。ポプラはずっと食べてたけど。
私は自分のお茶碗に入れたご飯を(ポプラに大量のわさびふりかけを入れられないうちに)もそもそ食べた。
すると、ソファに寝かせてあった女の子がもぞもぞと動いた。
そしてむくっと起き上がり──
「あれ?ここどこ…?」
寝ぼけているような状態で起きた。
そしてだんだん意識が覚醒してきたのか、
「あれ?あれ?研究所じゃないの?あなた達だれ?」
周りを見回す。
「…とりあえず名前を。できれば詳しく具体的にあなたがどこにいたのかとかも。」

ひとしきり自己紹介を終えたころにはみんなお昼を食べ終わっていた。
「あなたの名前は不明、年齢不明、グレンのポケモン屋敷にいた…で、いいのね?」
パソコンに打ち込んだ情報を見て確認を取る。
「うん。研究者からはTS−13研究体とかスズメとか呼ばれてたけど。」
メロンソーダを普通に飲んでいるところを見ると炭酸ジュースには馴れているらしかった。
「あー…。つまりおまえはロケット団を始めとする危ないとこに狙われている、と。」
「うん。私もなんで逃げ出せたのかわかんない。プラスルとかが団員とかポケモン蹴散らしてた記憶はあるけど。」
「他に言うこととかあるー?」
ミナトがのんびりとした口調で眠そうに言う。
セツカはプラスルという単語に一瞬反応したが、
──まさかね。
と聞き流した。
「あ、ちょっと大事なこと言い忘れてた。」
「何?」

「私、おじいちゃんがラティオスなの。ロケット団も遺伝子関係で私のことが知りたいんだと思うよ。」

自称スズメ以外の時間が止まる。
「…ハィ?」
「だから、そんな感じ。」
スズメはメロンソーダのおかわりを要求してくる。
本当に喉が渇いているみたいだったのでペットボトルに余っていたソーダを全部入れてやった。
「たぶんいままでにも採血とかたくさんあったから実験体はいろいろ作ろうとしてたみたいだよ。どれも失敗だったみたいだけど。」
「サラリと言うなよ…。」
ミカゲがぽつりと言う。
確かにスズメは髪の色も青いし全体的に白いからそんな感じがしないでもない。
「でね、うん。そろそろ追手に注意。」
スズメがにこにこしながら言う。
そしてスリッパの無い右足を突き出す。
足首には銀色のプレートのついたチェーンがついていた。
「これが発信機。」
その時、窓から3匹のオニドリルが突っ込んできた。
「…早く言おう、そういうことは。」
言うが早いかミカゲがギャロップとピジョットををボールから出して自分がギャロップの方に飛び乗る。
続いてカスガもウインディをボールから出して、残りの4人をそれぞれに乗せて逃走体制に入る。
「秘密基地を焼ききるとか壊すとかやめて欲しいんだけど。」
セツカの呟きは完全に無視され、それぞれ窓から飛び出した。



ヤマブキシティ南部。路地裏。
「あーあーあー…。スズヤ、どこ行ったんだろな☆」
直後、ハクアの腕に激痛がっ!
「うあぁあぁぁあぁっ!!痛え!テメーアイリ何しやがんだ!」
「あのねぇこっちもスィエル使ってここまで来たんだよ?」
スィエルというのはアイリの♀フライゴンのことである。
「…で、とにもかくにもこの包囲網、何?」
アイリ達を囲むのは…ヘルガーとグラエナとR団の下っ端さん×5☆
「う〜…。ぼく眠いんだけど〜…。」
「起きろよテンポ!あたしはちゃんと起きてる!睡眠時間2時間だけど起きてるの!野生のカンが鈍ってるよテンポ!」
「なんなら私が燃やしてあげますよ…?」
アイリの肩に乗っているリズムとテンポもだんだん周りに気づいてくる。
「全員解答。問1。R団に追われるような心当たりがある人。」
ハクア、リズム、テンポ、ショコラ、ボールの中のスィエルとジャスミンとクレセントまで全員挙手(バッグで見えないけど)。
「問2。何であたしたちがここにいるのが分かったんでしょうか。」
「あの時浴びた薬品。」
テンポ即答。
「誰が?」
「リズム。」  
「…あたし。」
リズムは少し震えている。
アイリの頬に一筋の汗が流れる。
何故なら…団員の手にはそれぞれ黒光りする拳銃が。
「…あれ?」
テンポは上からの光が一瞬陰ったように感じた。
そしてその瞬間、隣のビルの上から何かが降ってきた。
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えるる #5☆2005.06/09(木)19:39
その4 全身水色。私の私服はこんなんです。

ヤマブキシティ南部。
「すずやん、まだー?」
例の少女がぐだーっとしながら気だるげに言う。
勿論スズヤは反応無し。無言で不幸を振りまきながらビルの上を跳び渡っていく。
そして突然、ビルとビルの境目の上で横向き空中一回転!勿論背中の人は落下!
「ってうわぁああぁ!?何で、何で落とすのすずやん!モレンド、ハイドロポンプ!」
落下しながら少女はボールを開く。出てきたのは♀のランターン。
コンクリートの地面から数本の水柱が上がり、それに乗ってランターンごと地面に飛び降りる。
下からパン!パン!と乾いた音がした。その後に少し舌打ちするような音と「リズテン!電撃ストップ!」という声も。
「あれ?何今の音。」
ランターンが少女に聞く。
「…なんだろうね?」
そして降りた所の周りにいたのは…水流で倒れたRの人とそのポケモン、そして長い茶髪を翻すアイリだった。



「『スズメ』の居場所を教えろ。」
「さもなくば撃つ!」
「なんであんたが言うのさテンポ!」
何故か敵のセリフを奪うテンポ。
「…とにかく、我々も穏便に済ませたい。」
「残念。あたしはスズメってのが何か知らない。」
アイリが冷静に言う。
「どちらにしろアジトに進入したのはお前だろう?」
その時、アイリが上の気配に気づいた。
「リズム!電撃ストップ!」
警戒して少し放電していたリズムにアイリが指示を飛ばす。
周りには次々に水柱が上がり、敵が吹っ飛ばされていく。
途中で銃声が二発響いたが、どれも外れたらしい。
「ってスズヤ!!てめーの仕業か!ちょっと降りて来い!」
はじっこにいたハクアがビルから見下ろすスズヤを発見して叫ぶが勿論無視される。
そして、どこともなく小さく呟いた。
「…パンドラの箱に、最後に残ったものは何?」
今度ははっきり聞こえた。透き通るような声だった。
スズヤは少しアイリを見ただけで、すぐに東に消えてしまった。
アイリはスズヤを少し見て、また水柱に視線を戻した。最初の目的はどうした。
「…というか君、誰?」
テンポが今降ってきた人物を見て言う。
水色のTシャツに水色のジーンズ、ベージュのショルダーバッグでショートカット。右頬にほくろ。
ハイドロポンプの一発で全員倒したところを見ると、このランターンはそれなりに強いのだろう。
そしてその人物が周りを見て言う。
「えっと…こんばんは。」
「なんでだよっ!」
時間は思いっきり昼。
初っ端からのボケにリズムが素早く反応。
「あうっ…流石ツッコミマイナン。」
「何で知ってるのさ!?」
「ぼくたちの名前も売れてきたんだよ!…あれ?これってゴム弾だよね?」
「てか結局誰?」
アイリの一言で会話凍結。テンポの重要発言スルー。
「とりあえずマチカとでも名乗っておこうか。アイリさんでしょう?」
「うわぁこの人口調変わった!」
「…何で知ってるのさ。」
アイリが先ほどのリズムのセリフを使う。
「んー?あたしはダテに本好きやってないからねん。」
どうやらマチカと名乗った人物は口調がコロコロ変わる人らしかった。



ハナダシティ南部。
「いやちょっとまってあっちにスズメ乗ってるのになんで俺達まで追っかけてくんの!?」
「うわー。かす君外道ー。すーちゃん生贄にしたー。」
「セツカってつくづくハズレくじ引くよね。」
「エクウス!路地に入れ!」
カスガのウィンディ組のカスガ&ミナトとミカゲのギャロップのエクウスに乗っているミカゲ&ライヤ。
「ちょっとキレン!もう少しスピード出して!」
「本気で出したらお前ら落ちる。」
「怖い怖い怖い怖い飛んでる速い速いよスピード落として…(泣)」
「きゃーっ!はっやーい!すっごーい!(嬉)」
そしてミカゲのピジョット、キレン組のセツカ&スズメ&ポプラ。
「あたしトレーナーじゃないし相性悪いけど…でも丁度晴れてるし。ポプラ、後ろに攻撃!」
「イェッサー隊長!」
「怖い怖いもうダメもうダメ怖いよう…」
ポプラはひかりをきゅうしゅうしはじめた!
「怖いよう怖いよう…」
半泣きでいよいよ泣きそうなスズメ。
「…目からビーム!!」
そして、ポプラの目が「カッ!」と光り、そこからビームが。
つまり「目からソーラービーム」である。
二筋の線は見事にオニドリルを3匹打ち落とした。
5人+αはヤマブキ方面へ南下中。



R団タマムシアジト最下層。
「私はもう、行きますね。」
左側の白いひらひらが短い例のサーナイトが席を立つ。
「なっ…アスカ!」
「何です?」
白衣の青年、ヒナリが呼び止める。
そしてそれにサーナイト、アスカが素っ気無く答える。
「いや…スズメが気になるのは分かるが無茶はするなよ。んでちゃんと帰って来こいよ。」
「それだけですね。」
アスカは棚の上のカプセルを取る。
そして、テレポート空間へ消える途中に呟いた。

「…たった今、『不幸』がこの真上を通り過ぎました。気をつけてくださいね。」
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えるる #6☆2005.06/18(土)19:44
その5 自販機って妙に数が多い気がする。

とりあえずこれ以上面倒になることを避けて表通りに出るアイリとか水色星人(マチカの意)。
疲れたので(アイリ以外)駅の南口公園で適当にベンチに座る。
「えーっと。とりあえずあんたは何者?」
「…推定人間。ワレモノとかイタメモノとか長門みたいな高性能インターフェースではないはず。」
マチカはバッグから文庫本を出して読み始めた。なんかクスクス笑ってる。怪しい。
そこにテンポが身を乗り出す。
「あーっ!もしかしてその本読んでるの!?」
「…開いてるからには読んでるって。これ読むの二回目だけど。」
どうやらマチカはボケもツッコミもできるらしい。
テンポは嬉しそうに両手を振って言う。
「ぼくも読んだんだよそれ!面白いよね!」
するとマチカは少し信じられないような顔をして、
「…マジ?」
「うんっ!」
「…同志発見!やった!いた!」
テンポと友達になったようだ。
そしてこれから二人ば別の世界へ旅立ってオタクトークを始める。
その後ろで、ジャスミンとショコラとハクアがさっき拾った拳銃(ゴム弾入り)をいじっている。
「ショコラさんショコラさん、これってカッコイイですよね。なんか女刑事みたいな。」
「でもたとえゴム弾って言っても肋骨くらい折れるんですよ…?」
「あー…オレ様刑事?みたいな?」
ハクアが試しに持って構えて撃つふりをする。
「めくるめく頭脳で事件解決!犯人逮捕!ですか?」
「そうだそうだよくわかってんじゃねーか!」
「…ただし犯人現行犯逮捕…。」
ショコラの一言で場が凍りついた。



「あーもう!なんでこうなるの!?」
「セツカーっ!カルシウムーっ!」
なんとか追手を撒いたセツカ達、ヤマブキのライヤの祖母の家へ避難中。
ここの家がかなり凄い。門から家が見えなかった。何これ。日本庭園だってさ。
路地で何かあったらしく警察が集まっている。
「ハズレくじ、だな。」
「うん。」
「まあ、がんばれ。」
そして他人事無責任×3。
ライヤは隣の部屋でスズメの着替えをやっている。さすがにあの格好のまま街を歩いたら目立つ。
「できたよー。」
「…。」
部屋かれ出てくるライヤ。スズメはライヤのお下がりの服に着替えている。
全体的に青で、なかなか似合っていた。本人はさほど気に入っているワケではないらしい。
「さっきの服はサイズが大きいだけだからそのうちワンピースとして着られると思うよ。というかあたしが欲しい。」
「…ダメ。私の。」
どうやらスズメはその服に何か執着があるらしい。
「で、セツカ。お前はどうなんだ?」
机に突っ伏しているセツカを見てカスガが言う。
「どうもこうも無いよ!何コレ何コレ細工が細かすぎるの!ネジちっちゃ!」
セツカはスズメの足から取った発信機とドライバー片手に格闘。
「そうだね…流石R団。」
そしてそれを見ているだけのミカゲ。
「耐熱仕様ものすごい強度防水加工+アルファでリフレクターとひかりのかべと同じ効果に絶縁…どうしろって言うの!?」
哀れメカ担当・セツカ。ヒステリックに喚いてます。
「単純に捨てればいいんじゃないのー?」
「いや、中身が気になる!何としてもバラしてみせる!未知のテクノロジーが見つかるかも!」
「あーもーセツカはしつこいのーっ!!」
飛び出したポプラが発信機を頭に乗せて窓から脱走!
そして葉っぱをプロペラにして上昇!何を思ったかシルフカンパニーの屋上自動販売機の中へ!
「あーっ!!ポプラ!一般市民の夢を!希望を!ノーベル賞を!ヒロシマを!」
「うわー。せっちゃん混乱してるー。最後の方何言ってるか分かってないでしょー?」
ポプラが葉っぱをくるくる戻ってくる。
「ふん、これで不幸な第三者が出ることが確定したけどセツカに害は無い。」
「ちょっと!何その『自分はいいことしたのに』みたいな言い方は!」
「そうじゃないのか?」
「そうだろ?」
「そうでしょ?」
「そうだよー。」
「そうでしょー!?全くセツカは!」
「…ちなみにあれ、私から外れると10分で爆発。」
「へ?」
この時、ポプラは自販機に時限爆弾を仕掛けたテロリストになった。
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えるる #7☆2005.06/19(日)20:51
その6 マチカ&テンポの会話の内容がちょっとでもわかった方、挙手!

シルフカンパニー屋上。
とあるサーナイト、アスカがテレポートで現れる。
左側の白い部分が膝上までしか無く、白い左足が露出している。
そして双眼鏡を取り出し、周りをみる。
少し特殊な作りをしているらしいその双眼鏡は、構えたときに何かピピピと音がした。
「このあたりで電波が途切れてる…となるとまだ近くにいるはず。どっちにしろ外れた発信機が爆発するはず…。」
発信機は逆探知されないようにスズメから外れると機能が停止するようになっている。
溜息をついて双眼鏡を覗いたままヤマブキの街を見る。
サーモグラフィーで人間の体温が表示される。ラティオスの血が混じったスズメは普通の人間より体温が若干低いのだ。
そのとき、背後の自動販売機が爆発した。
ゴロゴロと中に入っていた缶やペットボトルが溢れ出す。
「…なんでそんな所にあるのでしょう?」
アスカはスポーツ飲料の入ったペットボトルを一つ手に取り、一歩離れてフタを開けた。
自動販売機(だったもの)がぼんっ!と音を立てて炎上した。



「うわぁ!?ポプラ、ほんとにテロリストになっちゃったよ!?」
セツカがシルフカンパニーの屋上を見て叫ぶ。
肉眼で見ているのでアスカの姿は確認出来ていない。
「うっわーっ!アタシってすっごーい!!」
「すごくねーだろ。てか罪悪感ないのかこのヒマナッツ。」
はしゃぐポプラに呆れ顔のカスガ。
「みんなー。ゼリー持って来たよー。」
時刻は3時30分。おやつ。ライヤがゼリーを持ってきた。
いち早く飛びつくのはスズメ。
「ゼリー…好き。」
そしてパイン入りのを選んで自分の前に置く。
それぞれの好きな味が都合よく分かれたようで(セツカは残り物)平和にジャンケン無しで決定。
「なんかものすごく平和だけどこれでいいんかな…。」
スプーンを持ちながらミカゲがぼやいた。



ヤマブキリニア駅南口公園。日陰のベンチ。
「ほらほらやっぱりここのセルティがかっこいいんだよー。」
「ぼくとしてはここの杏里がいいんだよ。罪歌罪歌。贄川先輩はスカート長くて好き。」
「罪歌っていいよねー。マチカ脳内好きな日本刀ランキング輝く一位。」
「いや、七天七刀も捨てがたいよ?神裂さんだよ?魔法名が『救われぬ者に救いの手を』だよ?」
「だったら土御門。当麻の隣人だよ?魔法名が『背中を刺す刃』だよ?」
「はいはいもういいから!話がわからん!とにかくマチカ、あんたは何者なの?トレーナー?異世界人?」
オタクトークの2人にアイリが言う。
「いやいややっぱりぼくは神裂さんがいいの!かっこいいの!セルティとは違う意味でカッコイイの!」
「土御門っ!神裂さんって当麻斬ろうとしたじゃん!かっこいいんだったらシズちゃんとシズ様!」
「それは不可抗力!1巻も4巻も!だったらミーシャはどうなるの!?とりあえずぼくはシズ様派!」
「んじゃインデックス埋め立てもそうだよ!?ミーシャはミーシャって言っていいのかアレ!?あたしはシズちゃん派なの!」
「あれは外見が青髪ピアスだったから!ミーシャはいいの!」
けれど2人は止まらず。
アイリはゴム弾入りピストルをいじっていたショコラを呼び寄せる。
「ショコラ。」
アイリが呟くと、ショコラは小さな火の玉を2つ、尻尾から飛ばした。
「うわぁああぁあぁぁああぁぁあぁっちいぃっ!!」
マチカとテンポ、ポケモンセンターでしばし休憩。



サイクリングロード。
スズヤはただ走る。周りに不幸を振り撒きながら。
マチカを(わざと)落っことして、またセキチクへと向かう。この先大回りしてシオンまで行く予定だ。
自転車で走っていた家族連れが私を見て悲鳴を上げた。直後、子供の乗っていた自転車が倒れた。
そんなことも無視して、スズヤは走って、高く、高く、跳ぶ。
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えるる #8☆2005.06/23(木)20:28
その7 なんかもう好き勝手やってます

空はもう薄暗く。
だんだん暗くなって。
夜になって。月が出て。



「結局ここに泊るのね…。」
ライヤの祖母の家に泊ることになったセツカ達。
いやもうふざけんなと言いたくなるくらい部屋が広いので余裕のスペース。全国の貧乏学生にこの空間を寄付したい。
というか空き部屋5つで2つは貸してるって何それ。全国の貧乏学生に謝れ。お中元のマズいゼリー贈るくらいなら謝れ。
そんなことをぼんやりと考えるセツカ。ポプラはいつのまにか葉っぱをくるくる窓から脱出して、セツカの着替えinバッグを持ってきた。
隣で寝ているスズメを見て、なんとなく、誰かに似ている気がした。



「あれ?テンポ、マチカ知らない?」
ヤマブキシティポケモンセンター。アイリ達はここに泊ることになった模様。
「知らないけど?トイレ行くって言ってそれきり。」
「私も知りませんわ。」
「あたしも。」
「…。」
アイリは無言でマチカ探しに出発。さっきからずっとリズム、テンポ、クレセントとトランプ(リズムとクレセントがお互いにイカサマしたぁっ!と言い争っていた)をやってばかりで自分のことを殆ど話していない。
ということでレッツ尋問タイム(カツ丼付き)。
「あ。」
そして発覚。
トイレの窓が開いている。マチカがいない。
「あーあーあー…。ちょっと脱走したっぽい?」
アイリの顔には静かな怒り。危ない。これで敵さんの前だったら破壊神降臨。
本人は「トレーナーでは無いけどねー?」と言ってたような。
「…今日はもう寝よ。」



シオンタウンポケモンタワー。
その3階にある結界の中ににアスカはいた。
人気が無いという理由で、テレポートで適当にここに現れた。
──もっとも、人以外のものはたくさんいるが。
一応周りを確認して、手の中の小さなカプセルを飲み込む。
少し咳き込んで、しゃがみこむ。
するとアスカの腕が、足が、顔が──みるみる人間のそれになっていった。
左側が短くなるように斜めに切られた白衣、赤いキャミソールの上から緑色の服、白いズボン。
そしてまたテレポートで建物の外へ出て、正式にその入り口から入って行った。
そこで、屋根の上に何者かがいるのに気がついて少し後戻りする。

相手から見て顔の左側に角のあるアブソル、スズヤがいた。

そして、スズヤは小さく告げる。
「…あなたはとても壊れやすい。少し触っただけでも、慰めに水を注いでも、消えてしまう。」
アスカから見るとスズヤを見上げる形になるため、普段は頭の白い部分に隠れて見えない眼が少しだけ見えた。
一瞬、それが銀色に見えた。次の瞬間には通常の赤だった。
「不幸…。それは、私の崩壊を告げているのでしょうか?」
スズヤは答えない。
「なら、私は分かっています。その『問』、なぞなぞの答えは解りかねますが、自分の体がこれからどうなるのかくらい自分で分かります。」
アスカはポケモンセンターの中に入った。
スズヤは一人になって、独り言を呟く。
「『答』は、すぐに分かるでしょう…。」
そして、またどこかへと走り去った。



「ふー。脱走成功。」
マチカは現在チルタリス♀のアンダンテに乗ってふわふわもこもこヤマブキ北部を移動中。
懐中電灯をピカピカ、サーチライトの如く探索。
「全く。いつも私を選びやがって。もっと飛べるの連れてるだろ?」
愚痴を言うのはアンダンテ。
「アイさんもフライゴン持ってたからね。被るのとネタバレは厳禁。」
答えるのがマチカ。
「…何時の間に確かめた?フライゴンなんて出してなかっただろ?てかアイさんって…アイリか?」
「ふふん。ネタバレは厳禁。アイさんはアイリさん。ささ、早くすずやんすずやん。急げ急げアンダンテ。某レポーターさんのチルタリスに負けるな。」
「はいはい。」
某レポーターって結構アレなネタだな許可無しで平気かよとか思いつつスピードアップなアンダンテ。
「あ、その前に本屋寄って。」
そこにマチカの提案。
「…。」
スズヤとは違う種類な無言のアンダンテ。
「本屋寄って。」
「…。」
「本屋寄れ。」
「…いやだ。」
えらくキッパリ言い切るアンダンテ。
「なんでさ?」
「…なんかアレなイラストの本を普通に買うからだよ!せめてカモフラしろ!」
「ちょっと待って!この間は普通に連れてっただろあんた!?何?何?反抗期?」
「五月蝿い!落ちろ!寧ろ堕ちろ!」
「口…いや、クチバシで言ったってわかんねーよ!」
「堕ちろ!奈落の底に!」
「落ちたら掘るよ?同じ境遇の人みんなで掘って掘って反対側に抜けてやる!」
「本買って自分のポケモンに堕とされた境遇の奴なんていねーよ!」
「何を!二次元な人は必ずいる!あなたが乗った電車の中に正義のヒーローとかアイドルとかゴスロリ美少女とかはいなくても漫画大好き二次元さんは絶対いる!妄想症候群な人も!」
「何だよ妄想症候群って!?」
「いるんだよあるんだよとにかく!今『全日本ポケモンCP連盟』の学会を騒がせている精神病なの!!」
「知らねぇ!何だその全日本ナントカ連盟って!?」
結局本屋には寄らずこんな会話が延々続き、スズヤは一晩見つからず。
…もっとも、不幸は居ない方がいいのかもしれないが。
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えるる #9☆2005.07/04(月)20:19
その8 眠気とブラックコーヒー。

「う〜…。眠い…。」
「私も眠い。結局スズヤもいなかったし…そもそもあんたが無駄話してるからだろ!」
「あうー…。すずやん不幸パワーはあたしには効かないはずなんだけどな…。」
朝7時30分。マチカ&アンダンテがシオンタウンのポケモンセンターで愚痴っている。
ヤマブキからセキチク、グレン、マサラ、トキワ、ニビ、ハナダ、シオンと回ってスズヤは見つからず。
「そういやここって変な見た目の人多いよね…。そこにいるのは左が短い白衣着た女の人だし…ゴスロリな女の子いるし…。」
「なんか仮装大会でもあんだろ。とりあえず私は寝る。」
アンダンテは軽くボールをつついて中に入った。
「あ、ずるっ。でももう朝だしこれから部屋借りたら夜型ダメ人間だよね…。」
マチカはバッグを開けてアンダンテ入りのボールをしまう。
そしてカタカタ揺れていたボールを出す。
「マルカート、出てきていいよ。」
ボールから出てきたのは♀のキレイハナ。
「おはようございます…。」
「はい、おはよう。私寝てないけど。」
ボールの中でアンダンテが「4時間は寝てた、絶対」と呟いたが気づくはずはない。
「あとこれも、念のため出しとこうかな…。」
呟くとバッグからカッパと魚のキャラクターが描かれたシンプルなペンケースを取り出して、さらにその中から数本のペンを出す。
どれも100円で売っているような安いものではなく、万年筆のような感じで不透明だ。マチカはそれを一つ一つ確認して、バッグの手前のチャック付きポケットに先だけ出して入れる。
「すずやんもよく寝ないで平気だなあ…ってあれ?寝てるのかな?もしかしていつも寝てるとか?あ、なんか思考の泥沼にはまってきた。」
「どっちにしろスズヤンの寝顔なんて起きてるときと変わらん思うでー…ってあぁっ!?」
何故か大阪弁で喋ったキレイハナ、マルカートが突然口を塞ぐ。そしてこほん、と咳払いをひとつ。
「…どちらにしろスズヤさんのことですから寝顔は起きているときと変わらないと思います。」
「…えっと、無理に標準語使わなくていいよ?三点リーダは使わない方かいいかもだけど。すずやんで十分だから。」
「いえ、これでもキレイハナですから。標準語です。」
なんだかよくわからない理論で標準語を突き通すマルカート。
「そう?あー…なんか飲もう。」
マチカは席を立ってセンター内にある自動販売機に向かう。
そして小銭を入れて…
「あ。プチアンラッキー。現在7月始めな曇りの日、現在午前7時35分、マチカさんは不幸指数20のプチアンラッキーと遭遇しました。」
「誰に言ってんね…誰に言ってるんですか?」
マチカの手にはブラックコーヒー。つまり買い間違えた。
「ていうか甘いもの大好き甘党ですよ好物あんみつレストランの激辛カレーで泣けるマチカさんはカフェオレが欲しかったかも。」
「何ならウチが飲も…何なら私が飲みましょうか?」
「半分飲んで…。」
ぐったりとソファーに座るマチカ、そのとなりにちょこんと座るマルカート。
奥から出てきた女の子がマルカートを見て「いいな」みたいな目をした。
そしてマチカとマルカートは何かに気づいたように窓を見る。
「…マルカート、窓の外には何があると思う?」
「…もし関わってしまったら忘れられない人生の1ページや…1ページですね。」
窓の外には、かなりアレンジされたラジオ体操を踊るフーディンが。



「…。」
同じ場所、同じ時間。
なんだか愉快な独り言っぽいものを喋る女の子がいるな、と思いながらアスカはコーヒーを飲む。
こちらの体にも大分慣れた。元に戻れる保障はないのだが、それでもいいと思う。
そして、ウエストポーチの中から携帯用のオセロゲームのようなものを出して、開く。
それはシルフカンパニーなどで見かける──真ん中に赤く◇マークのついた白いプレートだった。
それを床に置いて、アスカはまたコーヒーを飲み始める。
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えるる #10☆2005.07/08(金)20:54
その9 ここはサブタイトルというかぼやき欄かもしれない

「ったくもう…。どうしようどうしよう学校どうしよう…。」
ヤマブキの一角にある公園で頭を抱えるセツカ。
「もうどーでもいいやー。あははー。」
「ま、俺には関係ない。」
「そうだね。」
「あたしも別にいいやー。何ならこのままコーディネイターにでもなるし。」
「いーじゃん別にーっ!」
「ああもうなんでそうみんな楽観してるの!?常識人なのは私だけ!?」
さらにセツカの頭痛悪化。
「それは違うよ。」
反論するのはなんとスズメ。
「常識っていうのはみんながそう思ってるから常識なのであって、みんなが『1+1=5』だって思えばそれが常識になるんだよ。」
「そうそうー!アタシはそれが言いたかったのーっ!」
「嘘つけポプラ!ああもう!」
「俺もそれが言いたかった。」
「僕もー。」
「俺もだね。」
「スズちゃん随分フシギな発言するねー。」
「うわああぁ…。もうだめだ、この空間で常識は通じないやあははっ!やっぱりもうなんだか私もだめだね!…」
「うわ、セツカが発狂した。」
「思考回路はショート寸ぜ…ていうかフリーズだよね?」
カスガとミカゲが呑気に言っているところを見るといつものことなのだろう。
「さてと(発狂復活)。んじゃとりあえずライちゃんのとこにいるのも悪いし喋ってばかりで行動しないってのも読んでる方にとっちゃつまんないしってことで…クチバに亡命しようと思います!」
「唐突だね?」
「何がしたいんだよ?」
「お腹すいたー!(現在午前10時20分)」
「…いやもうほんといろいろ妙な意見やめてヤメテ大人しくバスか何かでクチバ行こう。」
「それよりも、シオンに行きたいかな…。」
小さな声で言うスズメ。
「何?スズメちゃん?」
「シオン…。ちょっと知り合いがいるかも…。」



「よしっ。アスカ準備完了だね。」
R団タマムシアジト屋上。
ヒナリが数人の団員に囲まれ、隅に追いやられている。
──つまり、裏切り。
組織の中でのヒナリの地位は研究部の部長。そんな大役が裏切ったとなれば組織側も全力で追いかける。研究データが流出したら大変だからだ。
「…覚悟してください、部長。」
辛そうな顔の女性団員がボールを構える。
「そうはいかないよ。」
ヒナリがだんっ!と床を踏みつける。
「なっ…!?」
そしてその瞬間、ヒナリはその場所から──消えた。
団員達が駆け寄ると、そこには粉々になった◇マークのついた板のようなものがあった。

「…逃げられたな。」
「ええ。」
少し離れた所から様子を見ていたスーツ姿の男女が、小さく呟いた。
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えるる #11☆2005.07/14(木)19:25
その10 破壊された秘密基地

「いやもういいや。マチカはいいよもう。とりあえずセツカに会いに行こう。」
「よくないよくないーっ!ぼくにとっては一大事!」
「もういいよ…。」
ハナダシティ。
折角カントー来たし久々に従姉妹のセツカに会いに行こう、ということで来ました来ましたハナダシティなアイリ一行。
「グレンでも結局資料盗めなかったし…。テンポで油断させて取りに行こうと思ったんだけど。」
「しょうがないですわよ。あのマイナンがいたんですのよ?」
「…何、クレセント?あたしに文句があんのかコノヤロー!」
「まあ、なんてお下品ですの!?」
「野郎ではありませんよ…少なくとも…。」
「つっこむ場所違うだろ腹黒ロコン!」
「燃やしますよ…?」
「オフダ貼りますわよ?」
「影薄くしますよ?」
「下克上!ジャスミンちゃん、一緒にハクアの陰を薄くしよう!」
「目標はA値30くらいですね!」
「がんばろうっ!」
ちなみに今ジャスミンと会話しているのはフライゴン♀のスィエル。
体が大きい成果なかなか街中でボールから出してもらえない可哀想な人。
しばらく歩くと、町外れにセツカの秘密基地(というか家)が見えてきた。
「…。」
アイリは異変に気づいたがそれでも基地に近づく。
そしてそれはより鮮明に──
「…セツカ、何やったの?」
壁が大きく破れ、窓が割れ、物の散らばった室内が、目の前にあった。



「(どうしようマルカート!?あのフーディンなんかここから出て行く人みんなに声かけてるよ!?)」
「(関わりたくないですね…。どうしましょう?)」
「(あれ?マルカートが標準語ってか共通語を…?)」
「(え?うそ?やった、これでウチもキレイハナや!)」
「(…メッキ剥がれてるよ。)」
シオンタウンポケモンセンター。
マチカとマルカートは他人事を決め込むためセンター内で立ち往生。
そのとき、マチカのバッグの中のボールが開いて、♀のランターンが飛び出した。
「何やってるのっ♪早く行こうよっ♪」
ランターンの名前はモレンド。テンション高いハッピーな奴。
「そうだね…。」
マチカが覚悟を決めたように出来る限り存在感を薄くして(マチカはもともと存在感がない)センターを出た。
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えるる #12☆2005.07/18(月)09:29
その11 迷子

「っと!ってあれ?もしかしてアスカ?」
「…他に誰がいるんです?」
同じくシオンタウンポケモンセンター。
水色の女の子が決心したようにランターンとキレイハナを引き連れて出て行った。
それと入れ替わりに、アスカの置いたプレートの上にヒナリが現れた(一瞬ジョーイさんが怪訝な顔をした)。
「うわぁ…マジで試作段階のアレ使ったんだ…。なんか超美人さんになってるけど白衣はそれなのか。」
まじまじとアスカを見るヒナリ。左側バッサリな白衣を見て感想を漏らす。
「…しょうがないじゃないですか。この姿にならないと出来ないこともあるんですから。」
「何だい?それは俺とのデートとかうぐはぁっ!?」
アスカのパンチがヒナリの腹にヒット。
「企業への侵入及びカモフラージュ、それと野生ポケモンの襲撃を防ぐためです。何か?」
「分かってるよ…。」
「ところで、随分とここに来るまで時間かかってましたが一体何を?」
「ん?極秘ファイル持ち出してトンズラしようと思ったら見つかっちゃいましたとさ。」
「…すみません、なんでそんなマネを?というか殴っていいですか?」
「いやあ二人の将来も考えてどこかに診療所でもと思って医学系のファイルを…って痛い!腕つねんないで!」
アスカの顔は蒼白。体中の全ての力を集中したようにヒナリの腕をつねる。
「どうしよう…。私の外出許可申請の苦労は何処へ…?」
「…あは。」
「ていうか私達の地位からすると暗殺部隊が出てきてもおかしくないですよ…?」
「あは。ていうか痛い。離して離してなんか指先がムラサキ色になってきてる!」
「『不幸』からの予言か…。私も危ないのに…。」
やっと手を離すアスカ(「うおぉうっ!?なんかじわーっときてる!」)。
「とりあえず一刻も早くスズメ…ですか。」



「ウソでしょウソでしょあぁあぁぁ…。」
シオン西。セツカのとなりにミナト。
「あっはっはー。はぐれたねー。」
「なんでそんな呑気なの!?ポプラいないしスズメちゃんもライちゃんもカスガ君もどこ行ったのよ!?」
「ミカ君が抜けてるよー?」
こんな感じに現在迷子中。
「ケータイの番号知らないし…どうしよう…。」
「知らないよん。」
「…。」
セツカの顔に青筋が浮かんだのは、たぶん、気のせいではないと思う。



「…はぐれたねw」
「そうだな。」
「そうだね。」
ヤマブキ北。こともあろうにバスに乗り間違えたライヤとミカゲとカスガ。
人混みは嫌いだ。
「どうしよう…ケータイの番号知らないし。」
「どうしようもないだろ。」
「セツカのあのタネ…ヒマナッツだったっけ。あれもどこに行ったんだろうね?」
「スズメちゃんも。」
「…結構…危ない。」



「…はぐれた。」
「うっわ−!迷子だーっ!」
「ごめん、シャレにならない。」
シオンタウン中央。
スズメの目は至って冷静。
周りを鋭く観察する。
「ポップちゃん、使える技は?」
「んー?目からビーム(ソーラービーム)、ギガドレイン、はっぱカッター、やどりぎのたね…他にもいろいろと、あと葉っぱで飛べるね。」
「…刃物とか、平気?」
「ちょっとダメ。」
「火は、ダメだよね?」
「おふこーす。」
「毒も?」
「もちろん。」
「…そっか。」
スズメの頬に一筋の汗。
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えるる #13★2005.07/29(金)21:03
その12 交差

シオンタウンポケモンセンター前。
ラジオ体操(?)を踊っていたフーディンに
「オゥイェ!お近づきの印にこれをやるゼェェ!」
と言われ思わず受け取った(条件反射)缶のメロンソーダを持ってすぐ横のベンチに座るマチカ。
「…マルカート、このメロンソーダをどう見る?」
「爆弾ですね。だってさっき振ってたや…振ってましたから。」
マチカは横目でさっきのフーディン(どうやらいろいろなものを配っているようだ)を見る。
「野生じゃないよね、どう見たって。」
「そうやな…そうですね。」
ちなみに現在アンダンテはボールの中で爆睡中。
「…トレーナーさんはどうしたんだろね?捨てではないだろうしにゃー。」
「マチカさん、口調…。」
「ん?別に問題はなかとよー。」
「マチカさん、口調…。」
「もーまんたい、だよん。」
「マチカさん、口調…!」
「気にしないんだよっ!《特攻部隊、ただし乗り物三輪車》みたいなっ!」」
「マチカさん、口調…っ!『みたいな』って一体…っ!」
「テンション高いキャラって疲れるわね。」
「マチカさん、口調…っ!!」
「ねーねーブギーポップって《ジグザグ》だよねー。」
「はぐらかした…。」
「でもブギーさんはいつも素手だよねー。ワイヤーでゾーラギ倒したのにー。」
「解りません…。」
「ていうかサイコロジカルに『スプーキーE』という単語が出てきたことにびっくり。西尾先生ブギーポップ読んでたんだねー。」
どうやらマチカは周りに解らない会話で場を逃げ切るつもりらしい。
その間にモレンドはのそのそと(地面を這って)さっきのフーディンのところへ。
だいぶ離れたところなので途中から氷の上をすべって移動。
そして人知れず帰ってくる。
「ねーねーマチカっ♪さっきのフーディンさんね、アークさんって言うんだって♪」
「…いつのまに。」
「でね、トレーナーさんは…」
モレンドがヒレで右の方を指(?)差す。
そこにいたのは、警官に職務質問を受けていると見られる真っ黒な青年だった。
マチカ&マルカートで後ろを向いて内緒話開始。
「(ねえねえマルカート、あれって喪服?)」
「(違うと思います…。)」
「(っていうかあれって絶対銃刀法問われてるよ?何あの剣…。)」
「(…コスプレですよ、きっと。)」
「(罪歌?罪歌なの?それとも神裂さん?いや、違うか。あの剣2メートルないしね。んじゃ春華?黒天狗なの?髪の毛長いし…。)」
「(いろいろな版権ネタ混ぜないでくださいよ…。しかもみんなに通じない…。)」
「(あ、なんかこっち来る。やっぱり私は罪歌好きなんだよ斬られたいかもしんないっていうか大元の罪歌欲しい杏里ずるいっていうか人工島の潤ちゃんが斬られたら大変だよねチェーンソー二刀流だよ危ないよね請負人の潤さんでも危ないけどあの人刃物使わないよね)」
「(うわぁ暴走…。)」
マチカはとりあえず落ち着こうとさっきのメロンソーダ(振りまくり)のプルタブを押し上げ…



「ああどうしようどうしよう私の人生終わります…。」
「まーまーもうちょい楽しく考えなよ。」
「きっと上位15番くらいのがほいほい出てきますよどうしましょう…。」
「まーまーもうちょい楽しく考えなよ。大丈夫、俺は君がスパイだとは思っていない。」
「全然大丈夫じゃない上にきっとそろそろスズメも狙われてますよ殺されちゃいますよシャレになりませんよ…。」
「…。」
「何ですか?何で三点リーダが返答なんですか…?」
「スズメ、忘れてた。どうしよう、たぶんスズメは内部事情知ってるからいざとなったら上位5位くらいが消しに…。」
「ヒナリさん、すみません、どうしましょう。まだ心中はしたくないです。あなたとなんてまっぴらです。」
「…あは。」
シオンタウンちょっと西、道端のベンチ。
すぐ近くに「ああぁぁ…」と唸っている愉快な銀髪の女の子と黒緑の髪の男の子がいる。
「スズメ…かぁ。」
ヒナリが小さく呟いた。
そのとき、唸っていた女の子がむくっと顔を上げて、こちらに近づいてきて、一言。
「スズメちゃんを…知ってるんですか?」



「スズメちゃんを…知ってるんですか?」
セツカは、ほぼ反射でそう聞いていた。
驚いたのは話しかけた白衣の男女。
「君こそ…スズメを?」
「まさか自販機の…?」
何で知ってるんだろう?とセツカは疑問に思ったが敢えて無視。
「はい。自販機は私のバカヒマナッツが。」
言うまでもなくポプラのことである。
「そうか…。じゃ、スズメがどこに居るか知っているのかい?」
「いいえ。はぐれました。」
「せっちゃんー。何か苔色のオーラが流れ出てるよー?」
「私たちもスズメを探しているんです。」
「何のために?そもそもあなた達、何なんですか?」
ヒナリとアスカは一呼吸置いて、同時に答えた。

「スズメの…保護者です。」
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えるる #14★2005.07/29(金)20:58
その13 ショコラがっ!?

「あー…。ったくセツカは一体何やったんだか。」
崩壊秘密基地の前でアイリが溜息。
「ポプラがソーラービームぶちかましたんじゃない?」
答えるのはリズム。
「何かに襲撃されたのですわ、きっと。」
クレセント。
「大丈夫でしょうか…?」
ジャスミン。
「生きてるといいですね…ふふ…。」
ショコラ。
「いざとなったらぴるぴるだよっ!」
テンポ。
「ぴるぴる…?」
スィエル。
「うるせーうるせー!どーでもいいんだよそんなこと!」
そしてハクア。
なんか騒がしいアイリメンバーである。
「どっちにしろセツカは死んでないと思うんだけどね。絶対ダイイングメッセージ残すタイプだし。」
「『x/y』っていう風に?ぼくあれやっと解ったんだよ!早くマチカに教えたいっ!」
「マチカはもういいって。」
そのとき、突然ハクアがガタガタ震えだした。
「あれ?どしたのハクア?」
「私達の願いが通じたんですよ!これからどんどん陰薄くなりますよ!」
「あ…あ…ちょっ…ヤバっ…。」
ハクアの顔は真っ青になって、背中の黄色いひらひらの方からどんどん透けていく。
それをショコラは冷静に見て、そしていつも見せる含み笑いとは違った、ニヤリという笑いを浮かべて。
「侵入者か?ハハッ、土地神とあろうものがいつまでも土地から離れてっからだよバーカバーカ。」
右目が紅く、左目が蒼く…いや、藍色になって。いつもとはまるで違うはっきりとした声、口調になって。
「ショコラ?ついに発狂?」
アイリは尚も呑気。
「クーちゃん!?クーちゃんなの!?」
「わかんないよ!ってかクーチャンって何?CM犬?てか何ショコラ!?」
「違う違う!空幻狐だよ!!」
リズムとテンポが大興奮。
「え?マジいやちょっとオレ困…っ!てかお前何でぇっ!?」
ショコラはみるみるうちに大きくなり、尻尾が増え、金色の毛並みになり、そして二本足で立って…
次の瞬間には、束ねた金茶の髪を翻すオネーサンがそこに立っていた。



トウカの森、ハクア本体の眠る神社。
周りの木々は完全に凍り付いて、一種の芸術作品のようになっている。
そこに人は無く、風さえもなく、まるでそこだけ時間が止まってしまったようだった。
その神社の中から、一人の人影…いや、もっとはっきりとした人物が出てくる。
16、17、かそこらだと思われる外見。男とも女ともつかない顔つき、体つきに右目に眼帯。
Yシャツに黒いズボンという簡単な姿である。
そしてその人物の手には…眠り繭。

もちろん、中身はハクア。



「うーん…セツ達もポプラちゃんも戻ってないね…。」
ヤマブキシティ東。
セツカいないはぐれた戻ってるかもということでここまでミカゲのギャロップ、エクウスとカスガのウィンディに乗って戻ってみたライヤ、カスガ、ミカゲ。
「スズメってのがこっちいないから一応安全だけどな。」
「うわ。酷いんだね。」
「酷いっ。スズメちゃん頑張ってるんだよ?」
相変わらず、絶賛迷子中。
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えるる #15☆2005.07/28(木)20:05
その14 宝珠守護の化狐

「うわあぁぁショコラ!?ショコラ!?」
「いやちょっ…ハクアどしたの!?透けてるよ!?」
「私ちょっと幻覚が見えますわ…休ませてもらいますわよ…。」
「えっと…私、何すればいいんですか?」
「ジャスミンちゃん…とりあえず何も無かったことにしない?」
「へー。ショコラって妙な能力持ってるね−。ってかあたしってこれもう普通の神経じゃないよね。変なことに慣れるもんじゃないね。」
突然現れたオネーサンに超動転のリズムとテンポ、そして現実逃避のクレセントとスィエル、呑気なジャスミン、神経壊れてるアイリ。
ハクアは透けた幽霊状態になりながら口をパクパクさせてガタガタ震えている(アイリのオーラで逃げられない!)。
金茶髪オネーサン(超美人)の方はというと手を握ったり閉じたり、足を上げたり下げたりして準備運動。
よく見ると袖をバッサリ切った赤い浴衣(ミニスカ仕様)を着ていて、長いキセルをくわえている。
「よし、慣れた。」
呟くと、ハクアをギロリと(大きな目とは裏腹に超怖い目で)睨む。
ハクアはジリっと後退して秘密基地の残骸にぶつかる(アイリの状況説明しろオーラとオネーサンの睨みで逃げられない!)。
「さあハクア、そしてこいつ(ショコラのことだろう)の主っぽい穣ちゃん、説明しな。」
「センカのババー…なんでこんなとこ」
ハクアが言いかけたところで、センカと呼ばれたオネーサンのくわえていたキセルが突如消失、ハクアの横の残骸にバシィッ!と突き立った。
「…誰がババーだって?」
センカの口からは赤い炎が。人間じゃありませんこの人。
「で、ショコラ…じゃなかった、センカさんだっけ?何の用?」
アイリとハクア以外のみんなは遠くに退避。
「ああそうだったっけか。単刀直入、こいつ…ショコラってお前らは呼んでたか?」
「そうだね。」
「こいつが『ショコラ』になる前の名前は知ってるか?こいつが何者か知ってるか?こいつとあたいの関係は?ってかあたいが誰だかわかるか?」
「…単刀直入というか百刀直入くらいの勢いなんだけど。とりあえずあたしは全部知らない。」
物陰からテンポが身を乗り出す。
そしてすぐ引っ込んだ。
「んじゃあたいが誰なのかから教えてやるよ。あたいはこいつの祖母にあたる──」
センカは一呼吸置いて、

「送り火山の宝珠守の妖狐、戦火さ。」



その頃のマチカ。
盛大にメロンソーダを食らってマルカートがさっきのフーディン、アークに(大阪弁で)反論、話にならないと判断してトレーナーの方に接触、起き出したアンダンテがマルカートを鎮めて喫茶店に全員を押し込んだ。
で。
「むー…。冷たい…。」
服は着替えたものの髪の毛はまだ乾かないマチカが机に突っ伏しながらぼやく。
「ならオレサマが気合で乾かしてやルゼェェ!!」
「やめろや!これ以上面倒増やさんといて!」
周囲の冷たい視線を浴びるアークとマルカート。
「完全にメッキ剥がれてるねっ♪」
「あー…。ダメだなもう。眠い。」
一応常識は通っているモレンドとアンダンテ。
「何だ…何でこう私の周りには面倒が多いんだ…。」
そしてアークのトレーナー、ウルフ。
全身真っ黒なので周囲の視線がなんかイタい。
「あっはっはー。なんか不幸の星に生まれついてるみたいだけど頑張れー。銃刀法には気をつけよーう。」
机に突っ伏したままマチカが手をパタパタ振る。なんか哀愁オーラが漂ってる。
ちなみにモレンドが飲んでるオレンジジュースとマルカートの飲んでるブラックコーヒーは二人でウルフに奢らせたもの。
その時、マチカが突然思い出したように言った。
「あ、そういえばウルフさーん。茶髪でなんか面白いプラスルとマイナンとかエネコロロとかロコンとか連れた女の子知らない?」
「…知らな「オゥ!それなら知ってるZE☆ニセミチョメン神とテンポのことだナァアアァ!!」…余計なことを…。」
「なんか今しらばっくれようとしたよねぃ…?」
「…。」
「ま、知ってるならちょっといろいろ教えてくれるとうれしいかもしれないよー。今どこにいるとかにゃー。」
マチカの口調がどんどん変な方向へ。
「前に会ったのはずっと前だ…今どこにいるのかは知らない。」
「あの時は大変だったんだZE☆なんせ腐っ「声大きいです!ちょっとは静かにしてくださいっ!」」
マルカート(標準語モード)がアークの顔面に飛び膝蹴り。
…膝ってどこだとかつっこまない。



眼帯の人物はトウカを出て、現在カントーに向かって移動中。
彼の周りは次々を凍りつき、海の上をも凍らせて、ただ、走ってゆく。
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えるる #16☆2005.08/01(月)18:55
その15 どこまで続くんでしょうねこれ?

日が動いてきた。
近くのファミレスで昼食を食べながらセツカ、ミナト、アスカ、ヒナリという妙なメンバーが話している。
「へー…。スズメちゃんってやっぱりロケット団関係者だったんだ…。」
なんつー奴と関わってしまったんだ私はアンラッキーガール名乗ってもいいですか、とセツカは心の中で思う。
「ええ。あの子はもともとラティオスとラティアスの目撃証言が一番多いアルトマーレ生まれなんです。」
「で、まあ『わるいひとたち』がさらって来たワケなんだけど。あ、ロリコンってワケじゃないよ?それに俺じゃないよ?」
「親は?」
「あ、スズメは捨て子なんです。アルトマーレの薬屋で育てられてたんですけど、表向き家出したってことになってます。」
「軽いねー。」
「ってか思いっきり心配されてるんじゃ…。」
「勿論。いやあもうあの時まんま団服着てたメンバーとかほんと悲惨だったからね。人によっちゃ骨折してるわ切り傷だらけだわで大変だったよ。」
「負傷者のみなさんは口々に『何だあの女は…』とか『短剣が…』とか虚ろな目で話してました。」
──ヤバイ、滅茶苦茶誰の仕業が解る、どうしよう。なんかそんなことができるアルトマーレの住人なんて一人しかいないよ…。
セツカの脳にとある人物が浮かぶ。
「ねえねえー。んじゃ何ー?アスカさんとヒナリさんはすーちゃんをどうしようとしてるのー?」
アスカはにこりと笑って答えた。
「保護、ですよ。」
「うん。このままじゃ…暗殺部隊に消されるかもしれないし。」
勿論裏切り者の俺とアスカも含めて、とヒナリは続ける。
「ごめん、私これからアンラッキーガール名乗るね。なんでこうも面倒事に巻き込まれるの?学校明日なんだけどもうサボるね私?」
「ねーねー。暗殺部隊って数はどのくらいー?」
ミナトは思いを声に出したセツカをスルー、アスカとヒナリに向き直る。
「えっと…詳しくは知りませんが30人くらいで、上から強い順に順位がつけられてます。」
「最年少は女の子で12さ」
「どうでもいいですよね?年齢は。」
アスカはヒナリの足を思いっきり踏みつけている。



「ささ。ハクア。どう弁解してくれるんだいあの時の出来事は?」
相変わらず秘密基地残骸前のアイリとか。
今日は雨が降るらしく曇り空で、そこまで暑くはない。
でも7月、寒いなんてことはあるはずがない。
なのに、ハクアはさっきから消えかけでガタガタ震えていた。
センカの口からはキセルをくわえていないのに煙。どうやらキセルは煙のカモフラージュらしい。
とことこと物陰からでてきて早くもリラックスのアイリパーティ(適応力ありずぎ)は早速質問開始。ジャスミンはお茶(缶のやつ)を出す。
「ねーねーセンカさん、ハクアって一体何したの?」
一番バッター、テンポ。
「ははっ…本人に聞いてみ。」
全員の視線、ハクアに集中。
「何でお前…ここにいんだよ…。」
ハクア、今だ目が虚ろ。
「何したの?ハクア?」
それに答えたのはセンカ。
「このあたいを…封印したんだよ、あいいろのたま、べにいろのたまと一緒にな!」
センカ、どうやら怒りが再発した模様。
変化が解け始めて頭からキュウコンの耳が飛び出し、口から炎。瞳孔が糸のように細くなる。

超怖い。

質問どころじゃない。
そしてそのまま触れないはずのハクアを掴む。
「で?どうしてくれんだアンタは?あたいの600年どうやって返してくれんだ?あぁ!?」
姉御と呼ばせていただきます。
テンポとリズム、スィエルはそう思った。
ハクアはというとなんとか気を取り戻した…というか我に返ったらしく、必死で反論。
「う…うるせえうるせえ!しらねーよそれがそんときのパートナーの願いだったんだからよ!」
センカはさらにハクアを締め上げる。
身長差、160センチ(ゲタの高さ10センチ含む)。
「っつったってやっていいことと悪いことがあんだろ?あの後あたいは里を恐怖に陥れた狐ってことになってエセ法師どもに囲まれたり実は天狗なんだってことになって変な伝説できたりでほんとさんざんだったんだぜ?」
「知らねーよそんなこと!ってかさっさと本体返せ!」
「はん、あたいが盗んだわけじゃねーよ。巫女の力も弱まってやっと出てこれたんだぜ?んでてめー探したら神社にいねーじゃんか。あたいも力弱くなってたから結界破んの諦めたんだよ。」
「じゃあ誰だよ!?」
センカはニヤリと笑って、炎を吐きながら一言。
「なーに、ちょっとトキに頼んだだけだよ。じきあたいに届けにくるさ。」
ハクアの顔が凍りついた。
「トキ?え?ハクヤの?」
「そう。」
ハクヤというのはウバメの森のセレビィで、ハクアのマブダチ。
森の御神木の周りの空間をこっそりいじって個人経営のラーメン屋と繋げているらしい。
「うそだろ?だってあいつオレが喋っても口利かねーし。」
「嫌われてんだろ?」
「眼帯ひったくろうとしたら氷付けにされたぞ?」
「嫌われてんだろ?」
隅っこのアイリ達、お弁当を広げ始める。
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えるる #17☆2005.08/05(金)21:48
その16 弾丸

「ねーねースズメーっ!『エアコン』って何の略なのーっ!?」
「うんと、『エアーコンプレックス』?」
「すっごーいっ!物知りなんだねーっ!」
違う。絶対違う。
スズメ&ポプラという最年少にして最も(いろいろな意味で)危ない二人。
現在ポケモンタワー内で…迷子中。
ただでさえセツカ達とはぐれて迷子の中で、さらに迷子。
なんかもう迷宮入りの世界。
ちなみにスズメはさっきトイレでもともと着てたあの服(パジャマっぽい水色ワンピース)に着替えて出てきた。
どうやらかなりお気に入りらしい。長袖で裾が足首まであるが暑くないのか。
「ところでポップちゃ…」
その時、スズメは、確かに背後から視線を感じた。
「何ー?スズ」
次の瞬間には、スズメはポプラを「がしっ」と掴んで超スピードで墓石の間を跳んでいた。
いや、跳ぶのではなく…飛んでいた。
スズメの足は薄く青くぼやけたように光り、背中には小さな羽があるように見える。
だが、その光は一瞬で掻き消え、元のように墓石の間を縫って走って行く。
そして階段を恐るべき速さで駆け上って行く。
「何ー!?何なのスズメーっ!?」
「名前呼ばないで!ばれる!ばれた!?お願いだから黙ってて!」
シュンッ、と音がしてスズメとポプラの間を何かが通り抜けた。
ポプラにはそれが弾丸のように見え、
スズメにはそれは長いチェーンのようなものに見えた。
「嘘!?横なの!?」
二人は咄嗟に地面に伏せる。
真上…自分達がいたあたりを何かがさっきとは逆の方向へ飛んでいった。
やはりそれはスズメの見たとおりのチェーンのようなもの…らしい。
次の瞬間、最初にチェーンの飛んでいった方向が爆発した。



「あーそうそうウルフさーん。ついでにおまけなアンケートー。」
喫茶店を(ちゃっかり昼食サンドイッチを奢らせて)出て、思い出したようにマチカが一言。
「…まだ何かあるのか?」
「うんー。ツノが左側に生えてるやたら無口な頭でかくて目がこっちから確認できない無愛想アブソル見なかったー?」
一拍置いて、
「見ていない。」
一言。
「そっかー。ありがとねー。」
マチカはアンダンテ(お目覚め)に乗って、ぱたぱたとポケモンタワーの方向へ。
爆発が起きるのは、この3分後である。



「んじゃあれですか。スズメの居場所がわかんないのはポプラが自販機爆破しちゃったからですか?」
「せっちゃんが発信機バラし」
ばしっ。
セツカがミナトの足を踏みつけた。
「まあ、そういうことになるだろうね。」
「きっとシオンのどこかにいると思うよー。」
そのとき、ポケモンタワーの4階部分が、轟音を立てて爆発した。
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えるる #18☆2005.08/14(日)19:39
その17 ペンの中には

どうやらセンカはお弁当の焼きおにぎりがえらく気に入ったらしい。
「んでなー。ひでーんだぜハクア。」もぐもぐ。「ほんとにあんときマジモードで呪おうかと思ったぜ。」もぐもぐもぐ。
「なら何故ハクアさんは生きてるんですの?あんなお下品なジラーチの印象を覆す方なんてこの世に要りませんわ。」
「なっ…!?」
「はっはー!面白いエネコロロだな!」もぐもぐ。「いやー神殺しなんてやったらあたいが危ないかんな!でも折角自由になったしこれからじわじわ呪うぜ。」もぐもぐもぐ。
焼きおにぎり、10個あったはずなのに残りはすでに2個。
センカ以外は誰も手をつけていない。
「(ねえねえリズム、今じわじわって言ったよね?)」
「(うん。姉御キャラなんだからスパッと地平線の彼方に蹴り飛ばすかなんかすると思ったんだけど…やっぱりショコラの血縁だね。)」
テンポとリズムの内緒話にアイリが割って入る。
「(ってかこの物語、アイリ班においてショコラはかなり重要なポジションにいるからいないと困るんだけど。)」
「(はっ!そうか!腹黒いのがショコラしかいない!)」
「(いや、わかんないよ。ジャスミンとかスズヤとか実は腹黒いかも。あのエネコロロとかも腹黒の跡継ぎには使えるんじゃないの?)」
「(スズヤだとキャラ被るからそれはないと思うんだけど、少なくともあたしは。)」
テンポがもそっと焼きおにぎり(残り1個)に手を伸ばす。

バシィッ!!

「痛っ!?痛いよ痛いよぼく一体何したの!?」
「それはあたいのだ。」
テンポはセンカに手をばしっと叩かれた。
なんだろう。
なんか手が少し火傷してるんですけど。
妖狐どのの恐ろしさを知るテンポにさらに悪魔の提案。
「で、あたいはヒマだ。」
「嘘つけ。」
「ということで、現代のこの世界を色々見たいとか思ってたりする。」
「見ないでいい。」
「五月蝿いジラーチは置いといてあたいは都会に行きたい。」
「行かないでいうごはぁっ!」
透けてるハクアにセンカの手刀がヒット。
なんだろう。この人は物理も無視するのか。
「…まあいいけど、その姿で行くつもり?」
「ダメか?」
「やめて欲しいね。」
「んじゃこれだ。」
一瞬、センカの姿が煙になったかと思うと、そこにはロコンがいた。
…眼の色はそのままで。



「きゃーっ!?」
シオンタウンポケモンタワー周辺。
マチカ、4階の窓から侵入しようと手をかけた瞬間、爆発。
「…テロか?」
「あ、あっさり言わないでよ…。って、そうか!」
マチカが何かをひらめいた。
「これってテロもしくは大規模な戦闘だよね!?だったら不幸のうちだよね!?すずやんがいるかも!」
「またそれか…。もうちょっとこっちにいてもいいだろ。」
「場所は把握しないと。ほら、いた!」
タワーのてっぺんから飛び降りる影。アブソル。スズヤ。
「よーし、出しといてよかった。」
マチカはバッグのポケットから白と黒で模様が付いたペン2本──ちょうど模様の色が反転しているのを見ると対になっているようだ──を出す。
「ソレンネ、ラピード!すずやん追っかけて!」
そのままペンを軽く前に振る。すると、ペンのキャップの部分が外れた──のではなく開いた。
蝶番か何かがついているのか、パカッとモンスターボールのように開いたのだ。
いや、「ように」ではない。それは正にモンスターボールだった。
両方のペンから、それぞれ♂と♀のアブソルが出てきたのだから。
「了解。ラピード、遅れることは許しません。」
「ラジャーッ!ははッ、ソレンネこそ遅れるなよーッ!」
2匹はスズヤを追って、ものすごいスピードで駆けて行った。
「…大丈夫かな…。」
「ま、信用してやれ。」
その時、先に尖った金属が付いたチェーンが窓から飛び出してきた。
それは一瞬で引っ込んで、爆発。
さらに一瞬、「助けて!」という声が中から響いて来た。
「アンダンテさんに質問。マチカさんは薄情者ですか?」
「そうだな。」
「んじゃ中の人を見捨てようと思います。」
「いや、おい!?あんた鬼!?」
「んじゃ助けようと思います。アンダンテ、突撃ー。」
「えらく軽いな、おい…。」



「ポップちゃん、大丈夫!?」
「結構ダメかもー…。」
「ごめんねごめんね!」
ポケモンタワー内部。
ポプラはすでにボロボロ。
「さあ、終わり?」
奥から姿を現す、スーツ姿の女性。
後ろにはトゲチックがいる。
そして手には…先に尖った金属のついた、チェーン。
「あなたを生かしておくわけにはいかないの。こっちの都合もあるのよ。」
女性はサングラスの奥の瞳でスズメを見据え、淡々を喋る。
「リンネさん、だったっけ?建物の中で会ったよね。」
「そうね。」
「あのときはまだ…」
スズメが言いかけたところで、外からチルタリスが突撃侵入してきた。
「ちょーっ!?アンダンテ!?マジだったんですかーっ!?」
そのチルタリスに乗っている水色の人物が、何か悲鳴を上げていた。
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えるる #19★2005.08/19(金)21:37
その18 アブソルだらけ

「いや、えーっと…こんばんは?」
「今は昼ですよマチカさん…。」
ポケモンタワー内。
マチカ絶賛修羅場中。
「(なんでなんで突撃しちゃうのアンダンテ!?)」
「(てめーが言ったからだろ!)」
「(あの、お二人とも落ち着いて…。)」
「…何なのかしら、あなた達?」
スーツの女性、リンネに声をかけられてマチカは振り向き、マルカートはさっとマチカとアンダンテの後ろに隠れる。
「えっと…正義の味方をやってみたりなんかする小市民な小悪党だと思います?(疑問形)」
とか言いながら心境では「ちょっ、どうしよ攻撃強いWアブちゃんはすずやんに回しちゃったしめっちゃピンチやんどうしようこういうとき黒子ちゃんみたいにテレポート能力あったらべんりなんだろうなあーでもあれ頭使うんだっけだっだらどうせなら一方通行の方がいいな」などど半ば訳わからないことを叫んでいた。
「そう。」
リンネはチェーンを構える。
「逃げて!」
と後ろの少女、スズメが叫ぶ。
「ええい運任せぃ!できればシーミレそれ以外なら誰でもいいやい!」
そしてマチカは水色で半分に白と黒のストライプが入ったペンを投げる。
中から出てきたのは──♀のホエルオー。
巨体とケタ外れの体力でチェーンの攻撃を受け止める。
「やった、当たり!サンキューシーミレ!」
「うっさい!ったく痛いのよこっちは!何、何なの今のは?ポケモンの攻撃じゃないわよね?」
マチカのポケモンらしいというかなんというか、なんだか態度の悪いホエルオーである。
「ちっ…。トゲチック!」
リンネの後ろに控えていたトゲチックが前に出てきて『ゆびをふる』。
無数の電撃がシーミレを襲う。
「いっったぁぁっ!?何よ!電気ってアリ!?」
追撃、マジカルリーフ。
「アンダンテ、前に出て『まもる』!」
これはギリギリでアンダンテがシーミレの前に出て受け止めた。
「水色の人、そのトゲチック、いろいろな技が使えるの!」
スズメの声が響く。
「たぶんR団のファイルにあった計画の実験体だと思う。完全に技をコントロールできてるわけじゃないから完成体じゃないはず!」
「五月蝿いわね…。」
リンネのチェーンが飛ぶ。
火薬が仕込んであるのかそれが何かにぶつかる度爆発を起こす。
マチカはその隙にバッグからポケナビ(限定品、水色のキナギモデル)を取り出し、どこかに通信する。
「もしもしイリさん?今ちょっと…いや、すごくピンチだから助っ人プリーズ、ポケモンタワーで一番乱闘が繰り広げられてそうなところまで!」



「スズヤさん、この辺で止まって下さい。」
「一応こっちも命令なんだよッ!なんか知らないけどなッ!」
イワヤマトンネル──の上。
スズヤ追跡アブソルコンビ、ソレンネとラピードは10kmに及ぶ追いかけっこの末スズヤに追いついた。
「…。」
聞き入れたのか何なのかは解らないがスズヤの足が止まる。
「ならいっしょに主の所ま…」
スズヤの目線を追ったソレンネの言葉が止まる。
目線の先には──アブソルが2匹。
両方♂で、正反対のオーラを纏っている。
「はぁ…つっかれたー。やっぱりトンネル抜けた方が早かったかなー。」
「…。」
「なあなあソルト、この間オレ、面白いもの見たんだぜー!」
「…。」
なんかスズヤさんが増えた、ラピードも増えた、とソレンネ直感。
「…こんにちは。」
「「おっ!アブソル仲間だ!」」
早速元気な方のアブソルとラピードの声が重なる。
無口な方のアブソルはじっとスズヤを見ている。
こちらから眼が確認できないことが珍しいのか、左側にツノがあることが珍しいのか元気な方のアブソルもスズヤに注目し始める。
「なーなーこっちのアブソルもお前らの連れ!?」
「いや、こっちはオレ達が追っかけてたアブソルでスズヤってんだッ!オレはラピード!こっちのクールビューティアブソルネーチャンがソレンネ!」
「…よろしく。」
「あ、オレはサタン。こっちがソルトでオレの弟!よろしくなっ!」
「…。」
ソルトが前足を出す。
握手、らしい。ソレンネも足を重ねる。
「…。」
スズヤは(少なくとも口を見る限りは)無表情でおとなしくそこにいる。
「なんだ、弟ってことは2人兄弟かッ!?」
「いや、5人兄弟で今二人ではぐれた兄弟を探してるんだ!な、ソルト!」
「…。」
「…ラピード、当初の目的はスズヤさんの居場所をしっかり把握して逃げないようにすることでは?」
「…私にも、主はいる…。」
スズヤが喋った!?とラピードが後ろに飛びのく。
「ということで…帰らせてもらう…。」
「ちょっと待て!?キャラの意外さで隙を作ろうとしたってそうはいかないぜッ!?」
「十分隙できてるじゃねーかっ!」
「…そうですね。」
「…。」
山の上にアブソル5匹(左利き1匹)が集結しているのを見ると、かなり災いが起きそうな雰囲気である。
実際、トンネル内部が崩れて通路が塞がれるという事件が起きた。
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えるる #20☆2005.08/19(金)15:03
その19 ショコラ復活

ヤマブキシティ大通り。
周りにはファッション関係の店や喫茶店が並ぶ。
センカ(ロコンモード)は道行く人の服装や車、自転車やらなんやらを見るたび「これは何だ!?」「どうやって使うんだ!?」などという質問を連発する。
で、そのとき自販機に興味を持ったセンカが買った地獄茶とかいうお茶を抱えるテンポ。
「これって…あの『地獄茶』?」
「そうだろうね。いろいろヤバいってウワサの。」
テンポが抱える3本の地獄茶。赤い缶に緑の竜がプリントされて、大きく「地獄茶」と書かれている。
…極力飲みたくないシロモノである。
と、そこに。
「あーっ!アイリちゃん!?やった、知り合いいた!」
飛んでくる女の子の声。
声の方を見ると青みがかった髪を二つに結んだキャミソールの少女が大きく手を振っていた。
──つまり、ライヤ。
「えっと…ライヤ?だっけ?セツカの友達の?」
「そうそう!今迷子になって大変だったんだー!」
誰?という表情で見上げるセンカ、ちょっと復活して実体をとりもどしつつあった体をわざと見えなくするハクア。
「迷子?え?」
「うん。セツとか突然現れた女の子とかといっしょにいたんだけどはくれちゃって。今はそこにいる男子二人といっしょに彷徨ってたとこ。」
ライヤの指差す方向にミカゲとカスガ。ちなみにこの二人は以前アイリにポケモンバトルを挑みジャスミンにこてんぱんにされた過去を持つ。
「…どうも。」
「…久しぶり。」
かなり嫌そうな反応。封印した記憶の扉が開き始めている。
「どこではぐれたの?セツカは…遭難癖があるからまあ生還すると思うからいいとして、女の子って?」
──遭難癖?あー。確かによく道に迷ったり校内大冒険の末不思議な空間に迷い込んだと証言してたりしたなー。
遭難癖に思い当たる節がある3人は納得。
「シオンに行く途中ではぐれて。女の子はスズメって名乗って、ラティオスの血が混じったR団関係者だったかな。」
「TS−13研究体、とも名乗ってた。」
「へえ…ってえ!?スズメ…TS…嘘!?マジ!?どこにいる!?」
「知らない。」
「なんだよこの役立たず!あたしも探してるんだよ見つけないと殺される!」
「なっ…役た…」
ちょっとショックなカスガを差し置いてアイリは頭を抱えてぶつぶつ呟き始める。
センカは「おい、何だ?」という眼でアイリを見ている。その後実際にテンポに「おい、あれ何だ?スズメ?」などと話しかけ始める。
「あー…見っけないと…。戸籍無いし名前も無いから捜索願も出せないし…最近立ち直ってたけどウキョウ姉ちゃん心配してたし…。」
「おーい?アイリちゃん?」
「よし、スズメ捜す!数年に渡る捜索の末やっと手がかりを見つけてR団潜入して暴れてもいないって理不尽だ!絶対見つける!スィエル!」
アイリはボールを人のいないところに投げる。
「乗って3人!ライヤはトレーナーじゃないから…あ、カスガってピジョット持ってたよね?んじゃ男共はそっちに乗れ!」
「身勝手な…。」
話の解らないセンカは飽きたのか、軽く炎を吐くとキュウコンに具現化、どこかに飛び去った。
それと同時にショコラの眼の色が元に戻り、スィエルに飛び乗っていつもの腹黒いコメントを一つ。
「…だったら…お二人とも置いていけばいいじゃないですか…。」



シオン路地裏。
ヒナリがアスカの背中をさすっている。
「大丈夫?」
「なんとか…。」
「本当に大丈夫ですか…?」
「平気でしょー。」
ミナトの足をセツカが踏んづける。
ファミレスを出て、アスカとヒナリ別れようとしたセツカとミナト。
その時にアスカが突然咳き込み始めたのだ。
顔の肌の色が全体的に白くなり、いかにも顔色が悪い。
「(副作用か…戻り始めているのか。)」
「(そうですね…下手したら戻るときの反動で命を落とします。)」
「(ってえ!?いや、なんでそういうこと早く言わないの!?)」
「(ヒトになること、夢だったんですよ。)」
アスカのヒナリがお互いにしか聞こえない声で話す。
「あの、病院とか行かないで平気ですか?」
セツカが心配して言う。
「…病院でなんとかなるならいいんだけど。」
「え?」
「いや、なんでもない。」
そう言ってヒナリは眼鏡をかける。
「目、あんまよくないんだよね。」
「私もコンタクトです。」
「えーっ。せっちゃんってコンタクトだったの?」
新事実に困惑、ミナト。
「あの…ミナト君、セツカちゃん…。」
ますます顔色の悪いアスカが二人の方に振り返る。
ビルの間からポケモンタワーの煙が見える。
「できれば、早くこの街から出たほうがいいです…。」
「え?」
アスカはまた咳き込み、言う。
「異端狩りが始まったみたいですから…。」
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えるる #21★2005.08/24(水)21:55
その20 罰当たりアタック

「困った。実に困った。」
イワヤマトンネル内部。
アブレンジャー(アブレッド!アブブルー!アブイエロー!アブグリーン!アブピンク!我ら正義の味方アブレンジャー!)もとい5匹のアブソルの不幸パワーによりトンネル中腹、崩落。
で、その崩落現場を前に立ち尽くす少年、イリアス。粉塵をラグラージを盾にして防いでいる。
「これでは通れないよ…。」
気弱な発言をするジュペッタ、ナイト。
「レスキューサインか…。いつも最後につける本の紹介(今月はヴぁんぷ!の3巻と絶対少年と(中略)山姫アンチメモニクスとしにがみのバラッド発売だよ!映画の「姑獲鳥の夏」もまだやってると思うよ!)が無かったところを見ると本当なんだろうな。」
ウィンディのレッカ。
「っていうか何で僕が盾なのおぉぉ!!」
トレーナーであるはずのイリアスに盛大にのしかかりを食らわせるラグラージ、ライウ。
腹の下から悲鳴が聞こえるが黙殺。哀れイリアス。
「でもどうしよう…。」
崩落の際の粉塵と土煙で視界が悪い。
イリアスがライウを押しのけて出てくる。
「早く行かないとシオン限定地獄茶が売り切れる!どうする!?」
ぎゅむ。
イリアス再びライウの腹の下へ。
腹の下から悲鳴が聞こえるが黙殺。
「…って永遠に続くな、これ。」
レッカが溜息をついた。



「いたいたいたぁっ!マチカいた!かなーりハデに暴れてるからすぐわかる!スィエル急いで!」
「やめてやめて早い早い!」
「早いですわ!もう少しスピード落と…」
シオン上空をアイリとライヤと+アルファがものすごいスピードで飛ぶ。
この風圧で前向いてるアイリもどうかと思うがしがみついていられるポケモン達もすごい。
男子二人はもはや遥か後方に。
「よーっしスィエル、スピード落として!タワーに飛び移る!」
すかさずリズムとテンポがアイリの腕にしがみつき、クレセントはおとなしくボールへ。
と、その瞬間。



「うわああ何!?なんかちょっと罰当たりですよソレ!」
少し時間を戻ってタワーのマチカ戦闘現場。
「…あなたも文句言えないじゃない。」
現在マチカの手元にいるのはシーミレとアンダンテ、背中にくっついてるマルカートとモレンド。
マルカートはバトルにトラウマ(焼きナスに非ず)があるらしく戦闘はできない。だが一人だけボールに戻るのもなんか薄情な気がして戻れないのである。
で、リンネが何をやってるのかというと。
シーミレがなみのりで盛大に押し流した墓石でバリケードを作っているのだった。どちらかというとマチカの方が罰当たりだ。
そしてリンネの後ろからひょっこりとトゲチックが出てくる。
「そのホエルオー…邪魔ね。」
トゲチックが強く羽ばたき始める。
「うそーん。まさか…。」
そしてそれはたちまち強風となり、ふきとばしとしてシーミレを襲う。



「うわあぁぁ!!何!?」
タワーまであと10mくらいかと思ったその瞬間、タワー内から強烈な風が吹いた。
そう、ふきとばしである。
「スィエル耐えて!砂漠の根性で!」
「テンポ!?ちょっ…無理!!」
やはり技の効果には逆らえず。
アイリとライヤの一行、北方向へ飛ばされる。



「大丈夫!?」
「無理言わないでちょうだいよ。私だって痛いのよ?ああ、なんでこんなトレーナーについてきてしまったのかしら?」
間一髪、ボール(ペン)に戻したシーミレにマチカが話しかける。
「にしても随分強いな…。あたしはトレーナーじゃないんだけど…。しかも超持久戦。」
アンダンテ、モレンド、マルカート、シーミレ、ソレンネ、ラピード。
マルカートは戦力としては補助専門、到底前には出られない。
モレンドは現在ボール内で健康。テンション高めでうずうずしている。
アンダンテ。それなりにボロボロでそろそろまずい。スズメのガードをしている。
シーミレ。スペースとフィールド的に不利。
ソレンネ、ラピードともにスズヤ追跡中。
「…数で勝負の方向だにゃー。ケンカじゃないと出来ないズル戦法にゃー。」
ピンチのときも口調は変わるらしい。
そのとき、マチカの後ろにある階段(3階から上ってくる)から人がいると思われる物音が。



「ちっ…。いきなり失礼だとは思わないの?」
シオン路地。
金髪にサングラスにスーツの男性が、建物の上から飛び降りて来た。
手にはナイフ。狙いはアスカ。ギリギリでヒナリが手首を掴んで受け止める。
「きゃっ…。」
セツカが悲鳴を噛み殺す。
「(ポプラはどこにいるの!?こんな時に!?)」
タワー内で瀕死です。
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えるる #22★2005.09/12(月)10:03
その21 氷

「痛った〜…。あれ?ここは…」
アイリとライヤ、その他ポケモンさん達は強風に煽られ北へ飛ばされた。
つまりここは。
「イワヤマトンネル入り口…ハナダ方面…ですね…。」
「随分と遠いですわね。スィエルさん?起きていますの?」
クレセントがスィエルを揺する。
うわ言のように「ばたんきゅ〜…」と呟いて動かない。目はぐるぐるマーク。
「完全にダメだね…。」
「トンネル抜けるしかないかな…。」
「あーっくっそもうなんでこんな時にこれ!?スィエル!?」
ばたんきゅ〜。
「スィエル!?」
ばたんきゅ〜。
「ダメだなもう。はい、ご苦労。」
アイリはスィエルをボールに戻す。
そしてライヤを見る。
ひらひらしたキャミソールにハーフパンツ、サンダル。
「歩きにくいだろうけど…トンネル越えるよ。」
「え!?」
思わず驚きの声を上げる。
「だって…看板に崩壊って…。」
「サツが来ないうちに越える。」
「…サツ?」
「警察の意。」
それって悪役の言葉、とジャスミンが顔をしかめる。
「さ、行くよ。」
アイリはライヤの手を引いて歩き始める。



「あー、一体何が…」
階段から出てきたのは、バシャーモを連れた青年だった。
背には剣を二本背負っている…剣!?
マチカの目がキラーンッ!!と光った。
ゆらり、とマチカ特有の黒緑のオーラが立ち昇る。
「ん?何だ…また厄介事じゃねぇだろうな…。」
青年がマチカに気づく。
マチカのすぐ横をソーラービームが掠めるが気にしない。明らかに別の世界に旅立っている。
そしてバッグに手をかけた。
「ま、ままマチカさん!?ちょっとやめろや!それを開放しちゃダメや!これはもうあの時以来封印したんやろ!本とかを守る時にしか使わないんやろ!?」
背中にくっついていたマルカートがマチカにヘッドロック。手の動きが止まる。
その代わりチカの手に握られたボールが開く。一つにアンダンテが戻り、もう一つからモレンドが。
「いぇーいっ!!きゃっほーぅ!!」
モレンドのテンションは最高潮。辺りをところかまわず氷付けにする。
そしてその上を滑り、リンネとトゲチックの後ろに回り込み──たいあたり。
というか寧ろそれはタックルの勢いで、思いっきり突き飛ばす。
「チッ…」
1人と1匹はマチカの後ろまで滑る。
そしてマチカの手に握られた、二色の方のペンに手が伸びる。
中から出てきたのはブーピッグ♀、モルデント。
壁に激突するモレンド(いぇーい!とすぐに復活)を差し置いてスズメとポプラを回収。
そして、もう一本のペンを開き──辺りは紫色の煙幕に包まれた。
遠のく意識の中で、青年、リクははマチカの呼ばれた少女の、「すっごいファンタジーの香りがしたよ剣って!二刀流だよ!さっきの中国な人…ちょっと吸い込めなかったけど、それと同じくらいファンタジーだよ!?」と言う声が聞こえた気がした。
…吸い込めなかった…?



「なーなーミカゲ…。」
「何?」
「俺達って影薄いよな。」
「まーねぇ…。他が濃すぎるんだよ。」
「てかお前もピジョット持ってただろキレンだっけ?そっち使えよ。」
「めんどい。」
シオン上空。
スィエルの影が吹っ飛ばされたため立ち往生。
と、視界の中に何かが入って来た。鏡のようなものが光を反射したようだ。
「ん…セツカにミナト!?」
反射した方向を見る。
セツカの銀髪とミナトの金髪の組み合わせを見紛うはずもなく、2人は地上へ急降下を始めた。
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えるる #23☆2005.09/03(土)21:49
その22 爆破計画

「マチカさん!?マチカさん!?また吸い込んで…!?」
「大丈夫ですわよ。きっと生きて出てこれるとわたくしは思いますもの。」
「いやだってだってこれって…!?」
「あー。早くがるぐる出ないかなー…。ルナティック・ムーンと同じ人がまた何か書くんだっけー…。」
「マチカさーん!?なんか目が虚ろですよー!?」
ポケモンタワー。
マチカとマルカートが会話を繰り広げる。
二人の周りには──マチカのポケモンを除いて、誰も居なかった。
「ま、あたしの勘も最近ダメだしきっと平気でしょ。」



「あーあーあー。どうしよ。」
トンネル山内部(崩壊中)。
足止めを食らったアイリ達。
「うー…。どうしようかイリアスさん…。」
テンポがイリアス(すっかり不幸トークで意気投合)に助けを求める。
「んなこと言われても…。」
困惑。
「えっと、大方30メートルくらい崩れて塞がってますね。」
ジャスミン。
「どうする…?」
レッカ。
「…爆破、ですね…。」
ショコラ。
「あ、そうか!その手があったか!」
「なるほどー!って…そんなのできるかーっ!!」
リズムノリツッコミ。
ショコラはケロっと答える。
「できますよ…うふふ…ジャスミンさんにはかいこうせん撃ってもらえば…。」
「そんなことしたら崩れますわよ?」
「そこで一気に爆破します…。」
「爆弾はどうするの?」
「アイリさんのバッグの中に…ありますよ…。」
視線、アイリに集中。
何だこいつは爆弾魔か?という疑問が視線にこめられている。
「何、今は爆弾なんか持って無いからね?」
じゃあ前は持っていたのか。
「テンポさんならご存知かもしれませんね…粉塵爆発…。」
「あ、うん知ってる!」
「…とりあえず専門用語が出てきたから任せる。」
アイリは放任主義なのか。
「じゃ…ちょっとバッグ借りますよ…。」



鏡だと思ったのは、大振りのナイフだった。
「ピジョット!そのまま突っ込め!」
「無茶無茶!俺が吹っ飛ばされ…!!」
手遅れ。
ピジョットは加速して金髪の男(ナイフ持ち)に向かって突っ込む。
「きゃぁっ!?」
「かす君とみか君かなー。」
「「!?」」
白衣の男と金髪の男が即座に離れる。
ミナトだけが以上に冷静である。
そして、粉塵の向こうから。
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えるる #24☆2005.09/07(水)21:31
その23 爆破テロ再び

「…ん…痛…っ!?」
明るさと何かの匂いで目を覚ましたリンネ。
一瞬の間を置いて、すぐに意識を覚醒させる。
──そうだ、スズメを──
周りを見回す。
カウンター。
長い金髪の女。
テーブル席。
料理人のような白い帽子を被ったセレビィ。
バシャーモ。
水色のワンピースを着たスズメ。
カウンター席の青年(トレーナーか?)。
そのとなりのトゲチックとヒマナッツ。
──まだ、夢の中なのかしら?──
太腿のあたりを軽くつねる。痛い。
──だめだ、何なのか全く解らない。あの黒髪黒目の少女の煙幕で…その後──
思い出せない。何か赤い目の黒い大きなものを見た気がするが、気のせいだろう。
──ここはテーブル席の座席のようだ──寝ていたのかしら?──
少しずつ、カウンター席の会話も聞こえてくる。
匂いからして…ここは中華の飲食店?ラーメン屋?
「んでさー聞いてよハクヤー。ハクアの奴酷いんだぜ。トキ借りて本体持ち出したのにまだトレーナーから離れねーの。」
金髪の女。苛立っているようだ。
「まぁねぇ。あの茶髪の娘でしょ?先祖代々妙な因縁があんだよ。3回目の願い事のときだったかなぁ。トキワ姫もなんかあったっけぇ。」
セレビィ?何故こんなところに…。
「というよりここはどこだ?」
青年。
「知るか。」
バシャーモ。
「うー…。こういうとこって初めてなんだよねー…。」
スズメ。
「どうしよっかーっ!」
「えっと…ぼくはその…。」
ヒマナッツと困惑顔のトゲチック。
「おっ。起きた?」
セレビィがこちらを向く。
「いやぁお客さんで人間…じゃないのもいるか、なんてひっさびさでねぇ。ま、座って座って。」
カウンター席を指さして、セレビィが手招きする。
一応、従う。セレビィなんて伝説上の存在を相手にするのは無茶だ。
「マチカもたまには仕事すんのねぇ。ほらメニュー。うん、今日は特別タダでいいや。なんか収穫ありそうだし。」
立ててあるメニューを指さす。
どうやらやはりラーメン屋のようだ。
セレビィが何かとても嬉しそうに話す。
「ボクは一応ここの店主、ハクヤね。ウバメの森の白夜神。こっちの姉ちゃんはセンカ。スズヤも一応知り合いで、マチカは仲間だから、もし会ったらよろしくね。」



「さあ…導火線設置完了ですよ…うふふ…。」
薄暗い中でニヤニヤ笑う黒オーラショコラ、怖い。
「本当に大丈夫なのか…?」
「これで僕が日頃受けてきた恨みつらみをイリアスに…ウフフ…。」
ライウも黒オーラ。
「一応説明ですが…一気に爆発させるので…また崩れてこないうちに駆け抜けてください…。」
「超危ないじゃん!!」
「いざとなったら…イリアスさんもろとも心中で…。」
「殺すなよ!」
崩れた場所の周りには、むしよけスプレーの缶が並べて置いてある。
「火災特集を悪用か…。街中じゃ使えないね。」
「使うな!」
「では…ジャスミンさん…お願いします…。耳を塞いで…口を開けて…。」
「超危険な予感なんだけど!ダイナマイト使うの!?」
「はいっ!」
ジャスミンが胸の前で両手を合わせる。
そしてそこに光が集まって──そのまま真っ直ぐ、岩へ。
つまり、まあ、はかいこうせんである。
どっかーん、という漫画みたいな大音響。巻き上がる粉塵。岩はまだかなり残っている。
「いきますよ…。」
レッカをショコラが並んですかさずかえんほうしゃ。さっと物陰に隠れる。
ちゅどーん、とさっき以上の大音響。地響き。揺れ。
「うあぁぁ鼓膜破れる破れる!」
ちなみに全員ポケモンフル使用で何層にも渡ってバリア系を使用中。
「やりすぎましたか…。」
「遅いYO!!」
リズム、少し発狂。



粉塵の向こうから現れたのは、右目に眼帯をした人物、トキだった。
「かす君みか君じゃなかったか…。」
「って何か…寒くない?」
アスカを支えているセツカが呟く。アスカの口元は血で真っ赤に染まっている。
「ちょっと…離して貰えるとうれしいかな。アスカが大変なんだ。」
「そうもいかねーな。お客さんも増えたみたいだしな。」
ヒナリと金髪の男、ロクドウは相変わらず睨み合っている。
遅れてカズガとミカゲが割り込み、ミナトとセツカの前に立つ。
「…誰?その女の人とか白衣の人とか。」
「後で説明する。と思う。死んでなければ。」
「んで、あっちの眼帯の人は?」
「さあね。」
場の温度はみるみる下がる。
まるで、時間が止まってしまったように──
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えるる #25☆2005.09/13(火)20:23
その24 白夜

「うわっちゃぁーッ!まちやがれッ!!」
「やめなさい!無理です!」
トンネルヤマ上。少し目を離した隙にスズヤが猛スピードで脱走。
「…。」
「すげースピードだなっ。」
そのとき、足元でものすごい地響きが。
…例の爆破である。



「耳痛い耳痛い!」
「でも…道できたじゃないですか…。」
「結果オーライですねー。」
「全然そうじゃありませんわ…。」
トンネルヤマ内部。
よいこはマネしちゃいけない方法で壁突破。
「すげーな…。」
「うわあ…。」
イリアスとライヤ、唖然。
「さ、シオンに行こうか。」
アイリの神経の太さは計り知れない。



「ふっふふーん♪ボクは今ちょっとってかすんごい機嫌いいよ。カルマ、ちょっとこっちきてー!」
ラーメン屋のセレビィ、ハクヤが厨房の奥に向かって言う。
奥から出てきたのは、真っ白な女の子だった。
白い髪は背中を隠して、白い肌の上には膝丈の白いシンプルなワンピース。白いサンダル──といっても足が汚れているので普段は裸足のようだ。
お面をつけているので顔は解らない。
それでも、その下の顔がはっと息を飲むのが解った。
「マチカちゃんが連れてきたんだよ。たまには仕事するじゃない。」
「えっと…何のことなの?」
スズメがおどおどと聞く。最後に「しょうゆラーメンください」と注文するのも忘れない。
「うっふふー。ヒミツ…って言いたいけどどうしよっかなーっ♪」
「言うならさっさと言え。俺は早く帰りたいってかここ何処だ。味噌ラーメン2つ。」
「頼むのかよダメトレ。しかも俺の分まで。」
「チャーシューメン2つーっ!!アタシのトゲちゃんの分!」
「あ、あの…いいんですかマスター…?」
「…いいでしょう。豚骨ラーメン1つ。」
いいのかよ、とトゲチックが内心でツッコミを入れる。
「ふっふふん♪いやあ面白いねぇ。カルマ、ちょっと手伝ってっ♪」
「…。」
カルマと呼ばれた白い女の子はノースリーブのワンピースの上に白い長袖の上着を羽織り、無言で作業を始める。
「どうにもうちには無口ちゃんが多いんだよねぇ。ま、それぞれ事情があるんだけど。この子…ボクはカルマって呼んでるけど、名前は無いんだよね…は喋っちゃいけないしスズヤとトキは喋るキャラじゃないしエンもユカリも大人しいし…。」
客を差し置いて独り言を始めるハクヤ。知らない名前も出てくる。
「ねーねーコレなーにーっ!?」
ポプラがテーブルに生えていた植物に気づく。
結晶のような質感と色で、ねじれたようなつぼみがある。
「んー?それはねー。時間の花っていって特定の力を使える人が過去のできごとを見れるのー。うっふふ♪」
「へぇ…。」
スズメが身を乗り出してそれを見る。
「ところで君。青い髪の毛の君ね。君…純粋に人間じゃないでしょ。」
ハクヤがスズメを見て言う。
「あ、うん。そうだけど…。」
何じゃそりゃ、とツッコミ合戦を繰り広げていたリクとバシャーモがこちらを見る。
「それと剣背負ってる君。うっふふ♪なかなか人にはできないことしたね。運命捻じ曲げるなんて芸当した人なんてひさびさ♪」
何したんだこいつ、と視線がリクに集中。
なんで解ったんだ、何で解ったの、とリクをスズメが言おうとする前にハクヤが言葉を紡ぐ。
「二人ともね…。あんまり派手に動かないほうがいいよ。君達はあらかじめ決まっているものを壊すから。普通の人がそんなことやったら体が持たないんだけどね…。たまにいるんだよ、君達みたいな人が。」
リンネがサングラスを外す。
白い女の子が一つ目のラーメン(スズメの)を持ってくる。
「そもそも運命っていうのはね、パラパラ漫画みたいなものなんだよ。1コマ書き換えてもストーリーは変わらないでしょ?なのに一旦全部消して書き変えちゃう人がたまにいるんだよ。」
そういうのを捜すのがマチカちゃんの仕事なんだよね、と笑って続ける。
「まま、ボクはそういう人を把握しておいてイザってときにいろいろするんだけどね。セレビィは時を司るから。」
ちなみにそっちの姉ちゃんは炎使いのキュウコンなんだよ、と付け足す。センカが一瞬怪訝な顔をする。
「あたいは一応守り神なんだがな…。送り火山に来ることがあったらよろしく。賽銭入れてけ。」
妙に態度のでかい狐である。
「さて、んでそっちのスーツのお姉ちゃん。マチカちゃんとは…あんまり戦わないで。ここに来たとき飲まれたでしょ?それで必ずここに来るとは限らないから。」
白い女の子が味噌ラーメン二つを持ってくる。
「…何なのよあのバッグは?」
「とりあえずそろそろマチカちゃんも来るだろうし…。本人から聞いて。喋るか解らないけど。」
「ごっそさん。んじゃあたいは帰るかな。シュンカにも会えたし次はタイカだな…。」
独り言を呟いて、センカが店を出た。
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えるる #26☆2005.09/17(土)21:03
その25 集合の予感

「マチカさん…いいんですか…?」
「たしかにちょっと…出てくるの遅いかも。」
シオンの街を歩きながら、マルカートとマチカが喋っている。
「ハクさんに捕まったかな。話長いんだよね…。気に入られたかな。あそこの時間の流れはハクさんが調節してるんだけど…。」
「…浦島太郎にならないといいですね。」
「そだね。とりあえず今は…あー…。」
マチカの視点が路地に行く。壁が少し凍っているのが見える。
「トキさん止めないと。…モレンド生きてる?」
「生きてるよーっ!」と白と青の市松模様のボールから声がした。モレンドだ。
「テヌート…はいっか。センプレ、シエンプレ、エチュード、ラルゴ、プレスト、フィーネ、ウィーデ、モルトは…まあ、うん。数次第かな。いざとなったらメタリコでどうにかなるだろうし。」
ぶつぶつと呟きながら路地に向かうマチカであった。所持ポケモン多すぎである。



なんというか、気温が下がっているのは気のせいじゃなかったらしい。
さっきからどんどん地面が凍っている。
「おいおい…マジかよ。」
ロクドウがひきつった笑みを浮かべている。
その隙にヒナリは素早く後退してカスガに話しかける。
「…逃げたいんだけど、何か持ってない?」
「ピジョットならミカゲが。」
「ちょっと待て!?お前も持ってるだろ!?」
「んじゃ二人とも、撤退するからちょっと協力して。早くしないと足が凍る。」
ミカゲがしぶしぶといった感じでピジョット・キレンを出す。
と、その瞬間。
ガキン、と刃物が硬いものにぶつかる音が響いた。



「シオンに来たはいいけれど。」
「地獄茶ネタはガセネタで。」
「服とかなんか焦げ臭いし。」
「マチカはどっか行っちゃうし。」
「しかもすんごい惨状だし。」
「マチカは生きているのかいないのか。」
「焼死体が一体…焼死体が二体…。」
「シオンは意外と広かったり。」
「ポケモンタワーに警察と消防車大集合。」
「なんというか。」
「まあ。」
「みなさん。」
「ついてないね…。」
トンネル突破組。
シオンに入った直後に検問が設置されたらしく、まあ、街はかなりすごい状態だった。
「…てか、あれ。」
アイリがふと路地を指差す。
「凍ってる…?」
よく見るとそこが少し凍っている。
周りの人間は近くを通っても一向にそれに気づかない。
だが、そこに入っていく人が一人。
水色のTシャツ、白いズボンの──
「マチカ!?」
マチカである。
「…行ってみようか。」
アイリの提案に全員、無言の肯定。
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えるる #27☆2005.10/11(火)10:55
その26 警笛

「でねでねー。この子はそこの子でー。まぁ自分から喋っちゃいけないってか喋れないわけだ。何が起こるか解らないからね。年はたぶん700才くらいかな。ボクもあんまり覚えてない」
「はぁ…。」
「んでー。ある日この子の住んでいた木が雷に打たれて倒れかけたわけだよ。そこをボクが助けたんだよね。んでついでに拾ってきたら人間じゃないのね。確かに何かいるとは思ってたんだけどねー。」
「はぁ…。」
「ちなみにボクは仲間とか身内には『風』の名前をあげるのねー。カルマの意味は『無風』なんだよ。マチカちゃんも一応ボクの仲間だから『風』名乗ってるよ。ちなみに本名はマチカ・ピアチェーレだって。」
「誰よそれ。」
「嘘ですね…。」
ラーメン屋。他と時の流れが若干違うのか、こっちでは3時間ほど経っている。
その間ハクヤはずっと喋りっぱなし、カルマは立ちっぱなしだ。疲れないのか。
というか、3時間も話聞いてるといいかげん飽きる。最初はここについての解説(「ここはボクが君達から見て50年前に作ったのね。ほんとは駄菓子屋にする予定だったんだけどいろいろあって(以下略)」)、次に自分は何か(「ボクはトウカのハクヤ…ジラーチなんだけど、と同い年で友達なん(以下略)」)、次に歴代来客者について(「人間よりはポケモンが多いねー。この森にはニョロトノの霧丘さんってのがいるんだけど(以下略)」)、次に白いワンピースの女の子、カルマについて(「この子は森の大木の精霊でー、なんか強いのねー(以下略)」)、そしてマチカについて。
どうやら本当に久々の人間の客だったらしく嬉しいのか喋る喋る。
頭の中でセレビィのイメージが壊れていく音を聞きながら巻き込まれた哀れなお客のみなさんは外の世界の心配をするのだった。



「あーあーまったくトキさん…何やってんだか。」
建物の上からにょきっと下を見下ろすマチカ。
あたりは凍りつき、白衣の成年と銀髪の少女と金髪、黒髪、茶髪の少年が路地から抜け出そうとしているところだった。
眼帯の人物、トキは金髪の成年と対峙している。
「うー…。どうする?マルカート」
「どうするも何も…連れ帰るしか…」
「でもなんか持ってるよ?眠り繭じゃないあれ?アイさんとこのハクアさんの」
「…ウチは関わらないで。関わらん。」
「すごい、平静のままで大阪弁だ。」
「…。」
「んー。ハクヤさんから何か言われたのかなー。あの人いろいろ狂わすのが趣味だし。」
嫌すぎる趣味やな。
「止めないとまずいよねー。メタリコ。」
マチカがまたペンを開ける。黒に黄色の模様で楕円形のチャームがついている。
中かれ出てきたのは…クチートの♀。
「呼んだ?」
「呼んだ。」
「何すればいい?」
「トキさん止めて。」
「また?」
「止めるのに一番有効なのはキミなのだよ。」
「下までの高さは?」
「10メートルくらいかな」
「一般クチートたんにはキツくない?」
「嘘つけ。メタっちなら平気だ。」
「むぅ。」
すると、メタリコは…その高さから、一気に下へと飛び降りた。



わからなかった。
金属音が響いたとき、何が見えたんだろう。
緑。髪の色。
白。肌と白衣の色。
そして──赤。
白を染め上げていくのは、何だったのか。



「はは…そうだよな。俺はそもそも…指令さえこなせればいいんだよ。」
急速に凍り付いていく空間で、ロクドウは笑う。
バキリ、氷が足まで届いた。
「…っアスカ!」
ヒナリが動いた。
氷は無差別に広がる。
まるで、全てを止めようとしているかのように──



「うばぁっ!?」
上に残ったマチカ。
突然の後ろからの衝撃に前につんのめる。
「危ないなぁ…ってアイさん!?イリさん!?遅いYO!!」
「「開口一番文句かよ。」」
アイリとイリアスの声が揃う。
「酷いよ酷いよあたし死ぬかと思ったよ!?いや別に死んでもいいけどさ!!」
「いいのかよ。」
「いや、どうせならジグザグあたりに殺してもらいたいだけで。」
「わかんないよ。」
「まっちかーっ!会いたかったYO!!」
「お、テンポ君ではないか。」
「で、はい。」
アイリが一息つく。ライヤは事態を見守る。

「今、何が起こってるの?」
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えるる #28☆2006.05/01(月)12:22
その27 (あと少しですよ)

何が起こったのかは解らなかった。
だけれども、クチート・メタリコが後ろの顎から地面に激突し、眠り繭をくわえた瞬間、とにかく全ての氷が砕け散り、その向こうの人物が消えたのだけは解った。
「はっはっはー。ん、メタリコ、久しぶりだな。」
きらきらと舞う氷の破片の向こうから、一匹のブラッキーがやってくる。左前足の輪の模様だけが青い。
メタリコは眠り繭を口から外して抱える。
「むぅ。私はもう二度と会いたくないと思ってたのに…。」
そんな言葉を無視して、やたら軽い調子で現れたブラッキーは周りを見回す。
「ん。あーあーあーあーあーあー。ん。答え合わせにはまだ早いかね、ん。トキはハクアんとこ連れ戻されたか。ん。あ、『ん』ってのは俺の口癖だから気にすんな。ん」
そして、あちこち視線を彷徨わせてからマチカと…地面に広がる血を交互に見て、それからアイリとイリアス、ロクドウを見る。
「ん。そこの茶髪の嬢ちゃん。状況説明してくれ。」
「こっちが聞きたい!」
もともと苛立っていたアイリはバックのペットボトルをそのブラッキーに投げつける。
ペットボトルは見事にブラッキーの頭に命中した。
「痛てぇっ!?初対面でそれかよ!?」
「五月蝿い黙れあたしは苛々してんだよ用があるならさっさと済ませてちょうだい。」
「怖…」
ブラッキーはアイリに睨まれてぐちぐち言うのをやめて、姿勢を正した。
路地から抜け出そうとしていた面々も動きを止め、全員がブラッキーを見る。
「あーあーあーあー。あ、あーあー言うのも俺の口癖だから気にするな。まあ、スズヤに比べれば出現率が低いんだけどトキよりは出てくるのが俺なわけで、まあつまり俺は問と答の答の方、ヒツキってんだ。ん。よろしく。」
そしてブラッキー──ヒツキはは倒れたアスカ、放心したヒナリとスズメを見る。
「ふむ。マトモにスズヤからチャンスをもらったのはお前らか…なんほどな。あいつの好きそうな連中だ。受け取り損ねたのがそこの茶髪の嬢ちゃんか。ん」
そのままロクドウを見る。
「相方さんはハクヤんとこで伸びたラーメン食ってるから心配すんな。まあ、とりあえず俺から言えるのはそんだけ。」
ブラッキーはヒナリとアスカの方へ歩み寄る。
「それではそれでは半人間のお嬢さん。答をお聞かせ願おうか。スズヤの物好きな問の答を。正解したらいいことあるかもしれないぜ?ん。」
ヒナリは虫の息のアスカを抱きしめる。アスカは朧の意識の中で答えを告げる。
──あなたはとても壊れやすい。少し触っただけでも、慰めに水を注いでも、消えてしまう。
そうだ、答は──

「しゃぼん玉。ですね」

答を聞き、ヒツキは意地悪く、ニヤリと笑った。
緊張した時間が流れ、誰かが唾を飲む。
そして、
ヒツキは口を開く。

「ご名答!」



次の瞬間、左足の色違いの輪が眩しく光り、広がったように見えた。
目を開けたそこは、真っ白な砂浜に透き通るオアシスが点在し、空はどこまでも深い蒼色の場所で──
「ん、俺は最後の最後で活躍するいいとこどりのキャラってこった。まあ、全員等しく不幸の中の幸運に恵まれそこそこ平和な戦争の中に生きることを願ってるよ。」



「それではこのごちゃごちゃと雑多な人々の鬱陶しく絡まった関係を全て流し砂に溶かし海に放り、今から幕を引きましょう」



──茶化した様子のヒツキの声が聞こえたと思うと、意識は白く塗りつぶされていった。
t01081121.ictv.ne.jp
えるる #29☆2006.05/01(月)12:23
最後!  ああ長かったよ後日談。

夏。
昼寝から目覚め、ここがウバメのラーメン屋の二階だったことに気づく。
「あ、凪ちゃん。ありがとうね」
ドアの前に立っていた白い少女が、お盆に水とタオルを乗せて持ってきてくれていた。
下の階から調理の音が聞こえてくる。お客さんがいるのかな。
「じゃあ私も下行こうかな。昼寝しに来ただけってのもさみしいし」
軽く髪を整えて階段を下り、店に出る。
「やあ。」
「ちゃす。」
「やっほー。」
「おっはー。」
「ん。さっきまでイリアスとかもいたんだけど帰っちまったぞ。」
店にいたのはアイリとカスガ、セツカとミカゲにミナト。
全員デザート系のものを食べている。
「あ、起きた?」
そして店主がカウンターから身を乗り出す。
「さっきリンネさんとかリクさんとかもついでに解放してあげたんだよ。ついつい長話しちゃってね。お礼にここの時間のスピード早めて一週間後くらいの世界に送り出してあげたよ。プチ浦島太郎だね」
「それ全然お礼になってないよ…。」
思わず苦笑して、自分もカウンターに座る。水を飲む。
「雑多なものはまとめて捨てるに限るんだよ。燃やして燃えないものはしょうがないけどさ」
「森の神様が燃やすとか言っていいの?」
「そっちこそ森の神様にタメ口きいていいの?」
アイリの言葉にハクヤがすかさず返し、そして笑う。
そのとき、カランカラン、とベルが鳴った。
ハクアが引き戸に指を向け、くいっと動かす。
すると引き戸が開き、左ヅノのアブソルが現れる。
「おかえり、スズヤ。ヒツキはまたどこかに行っちゃったよ。マチカちゃんは…たぶん地下で寝てる。いなかったら知らない。あの人はかなり仲間ポケモン多いからね、会いに行ってるんだよきっと。救助隊の野生ポケモンも含めれば一大勢力だし。統率力なさすぎるけどね、彼女は。」
スズヤは無言でカウンターの横を通り、階段を上る。
「ふふ、スズヤもヒツキもトキもよくここに来るんだよ。同時に見ることは無いけど、ここは家みたいなものだから。僕の言うこともある程度は聞いてくれるし。」
そして指をくるくると回す。
「あれ、まだ人が来るね。人間の知り合いがこんなにできるのも久しぶりだよ」
ガララ、と少し建て付けの悪い引き戸が開く。
白衣の青年と、サーナイト。
サーナイトのスカートのような部分の左側は、バッサリと切られている。
「ふふ、スズヤがなぞなぞを残すっていうのは、可能性をくれるってことだよ。どうしようもなく歪んだ不幸の中に希望をくれる。スズヤは優しい魔女だから」
そして、サーナイトの姿がみるみるうちに人間の女性のものになる。
「スズメちゃん。…君は、何事も楽しくやっていけるよ。」
「──幻想と人の間の子の血は、少し冷たいだけでやはり──」
二階からスズヤの声が響く。
「なぞなぞ、じゃないね。」
「魔女の予言だよ。意味はあるかもしれないし無いかもしれない。」
それを聞いて私は笑う。
混血の血はやはり赤い。
夏は暑い。
冷たい手で、真っ赤なスイカを食べよう。




◇◆◇「ユキイロ保護地域」…やっと終わりっ!
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ぴくの〜ほかんこ