ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[783] この地球の何処かで〜僕等は時の旅人〜

ゆりりん☆ #1★2006.02/20(月)02:53
〜前章〜

人は皆、誰もが、風の中をさまよう時の旅人。
過去は一つ、未来は自分達の心の中にある。
過ぎ去った過去も、これから築く未来も、全ては世界の偶然と自分自身の心次第。
この小説は、広い世界の中で偶然のようにめぐり逢った少年と少女達のお話。
忘れてしまった過去の悲劇…それは誰にも変えられない世界の偶然。
終わらない旅路を歩き続ける少年達は、時の旅人―…
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ゆりりん☆ #2★2006.02/17(金)22:13
第一話 一通の依頼書

「やれやれ…」
秋は、やたらと探偵部の仕事が多い。もうすぐ文化活動発表会だからだ…
「こら、怠けてないで書類の整理!」
「ふぁーい。…あれ。」
大量の書類を分類していた時、一枚の書類が目に留まった。
『探偵部様 会長の裏の顔について捜索願います』
「・・」

生徒会長の秋山 萌(あきやま もえ)は超有名な『秋山グループ』のお嬢様。
容姿端麗、頭脳明晰、学園中の憧れの的。
何でも噂によればその整った顔立ちは整形手術の後なんだとか…。

ちなみに副会長も紹介しよう。
副会長の日野 帝(ひの みかど)は秋山グループと一、二を争う名家の長男だ。
冷静沈着、スポーツ万能。会長とのコンビは絶妙。お似合いだなんて言われてるし。

っと、俺は日野 唯(ひの ただし)。中等部の三年生。
ここで鋭い奴はピンときただろう。俺は副会長の双子の弟。
探偵部所属だが落ちこぼれ中の落ちこぼれ…。成績ももちろん学年最下位。
帝とは似ていないどころか対照的。何から何まで。だって双子と言っても二卵性だからな。

ちなみに、ここ『私立ポケディアナ学園』の生徒会役員に推薦された生徒は一年間の学費がただになる。
もっと凄い特典はというと、生徒会役員に推薦されると称号が付くということだろうか。
現に会長は『薔薇のプリンセス』、兄貴は『氷のプリンス』という称号がある。

「『裏の顔』ねえ・・会長の元の顔って一体…」
なんでも、噂に寄れば生徒会室にヒントがあるんだとか。一体何なんだろう…
しかも、この依頼書、肝心の差出人の名前がない。なんだか嫌な予感がする・・
手持ちポケモンのラルトスにポロックを与えながら考える。

「実行あるのみ。」
放課後、今日は生徒会の仕事はない・・はずだ。
生徒会室は基本的に一般生徒は入れない。が・・唯一の方法がある。通風孔を通っていくんだ。
「う・・狭い」
探偵部室から上へつながる通風孔のふたを外し…狭い;;
けど、我慢我慢。狭くて汚いのを我慢し、進む。進む…だいぶ進んだだろう。
「ここが多分生徒会室…ん?」
今日は生徒会の仕事はないはず…会長と兄貴が何か話している。
と、乗り出したとたんふたが外れた…
「うわあっ!」
ドスッ…床から天井までの間は思ったより長い。俺は床に転落した。
「あなたは・・日野君。あんなとこの中通ってきて・・?ええ?」
おお…会長、ぬぼ〜っとした性格だなー。相変わらず。
っと、それどころじゃない;

続く
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ゆりりん☆ #3★2006.02/17(金)22:14
第二話 双子二組

ドクン…止めたくても止まない心臓の音。俺の緊張感は高まってゆく。
「あっあはははは!ごめんなさい、生徒会室へ入りたくて・・」
俺がとっさの言い訳をかます。心臓が飛び出そうだ。
「うふふ。良くあんな狭いとこ通ってきたわねwでもね、校則は校則。生徒会室へは入らないでね。」
「はぁーい・・」
なんだよ…もう少しだったのに…秘密は少しも探れないままだ。

「たーだーしっ♪」
「ん…」
「こらぁー!また教室で寝てる!机によだれ垂れてるよーっ!」
「うっうわぁ///;」
「もう中学三年生なんだからちゃんと家で寝なよ!」
・・失礼。この子は秋山 可恵(あきやま かえ)。会長の双子の妹だ。
「今度はどんなお仕事が入ったのぉー?ってか、唯に依頼がくるなんて珍しいね。」
「…『会長の裏の顔』。なんだか秘密があるようでさあ・・」
「っへぇ。可恵は姉様のことなんかしーらなーいよっ」
「・・おいおい。妹なんだから知ってるだろ。教えろよ」
「いやーだ!姉様のことなんて知らないもーんだっ」
会長と可恵は、なんだか仲が悪いらしい。話しているのも見たことはない。

秋山姉妹は本当に似ていない。俺等ほどではないか;
一卵性で顔や体は同じなのに、性格や雰囲気は正反対の不思議な姉妹。
俺等は二卵性だから顔も違うしまだ分かるが。
可恵は生徒会役員ではないから称号はないが、『薔薇のプリンセス』に対比する
『蒲公英のトレーナー』という称号がぴったりだと俺は思う。

「お前さ、会長となんでそんなに仲悪いんだ?」
「知らないもんっ。唯だって副会長と仲悪いじゃんかーっ」
「・・おい。お前さあ、そういう無神経な発言いい加減気をつけろよ。もう中三だぞ。
言っていいことと悪いことの区別ぐらいつくだろ」
「・・ヒック…もういいっ!唯のバーカ!」
「おっおいこら、泣くなっ!悪かったよ、悪かったから…」
ああもう・・ただでさえ奇妙な依頼が入ってごっちゃなのに・・あの姉妹って一体何なんだ!?

窓の外には満開の桜。暖かいはずの日差しはどこか冷たい雰囲気がある。
散る降る桜の花びらは、どこか俺等を切ない心にさせる…

続く
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ゆりりん☆ #4★2006.02/17(金)22:15
第三話 学園バトル

「プクリン、おうふくビンタ!」
「エイパム、かわしてバトンタッチ!」
…校庭は生徒達のバトルをする姿でいっぱいになった。もうすぐ学年トーナメントバトルがあるからだ。
俺は可恵とタッグバトルに出ることにした。今はその練習試合だ。
「はあ・・可恵はやっぱ強いなあ。」
「あははっw唯の練習不足!」

「よお、張りきってんじゃん。」
「あ、雄二。バトルでは司会係だろ?生徒会は大変だなあ。」
「まあな♪」
真田 雄二(さなだ ゆうじ)。生徒会会計で、俺とはのりのり会話の仲。
俺とキャラも似てるけど雄二の方が賢いんだよな…
ところで、雄二は『大宙のトレーナー』という称号がある。
「おいっ。唯。手がかりは掴めたか?」
「あ…いいえ。まだでっす。」
「まあ、そうだろうと思った。お前に託した初のまともな仕事だぞ。きちんとやれよな。」
「ああ・・」
コイツは藤川 哲史(ふじかわ てつし)。
我が探偵部部長で生徒会書記。かなり厳しくてキツメ、俺の保護者的存在(爆)
キッツ〜いけど根はとっても優しいんだ。俺はちゃんと知っている。
哲史もバトルの際は審判係だ。称号は『轟のトレーナー』。

ち・な・み・に。
会長と兄貴ペアが相手のタッグバトルは勝つ見込みはない。
あの二人は本当に次元が違う。バトルのテクニックやら何やら。
会長のチルタリスの「ほろびのうた」と兄貴のブラッキーの「くろいまなざし」のコンボは切り札だ。

「あーあ。あの依頼書の手がかりがつかめねえよ…」
でもなんだか変な感じだ。何となく胸騒ぎがする。会長の隠された過去って一体…
『キーンコーンカーンコーン』
「あ・・チャイム鳴っちゃった!俺先帰る!」
「え…唯!」
何なんだ!?この嫌な予感は…なんだか、何かを思い出しそうな、頭からあふれ出そうな感じがする。

続く
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ゆりりん☆ #5★2006.02/17(金)22:21
第四話 ゼニガメとゴクリン

学園バトルの日が近づくにつれ、学園内では静かに運命は廻りだしていた…
「唯。次、体育でしょ。」
「そうだよ・・早く更衣室行けよ…」
「うん。」

「萌。どうだ?」
「うーん・・なにか少しでも記憶の扉を開くものがあれば…」
「そうだな…あれはどうだ?」
「あれって?」
「ほら、例のゼニガメ・・」
「ああ。」

「あれ?」
四時限目は体育だ。…と、グラウンドに二匹のポケモンがいる。
なんかこれ、会長のゼニガメじゃん。こっちは兄貴のゴクリン・・
「何でこんなとこにいるんだ。トレーナーのところへ帰れよ」
俺はゼニガメを抱き上げた。
「ん?」
ゼニガメ、こうらに傷がある…!この傷、どこかで見た・・?
思い出せないけど…どこかで見た形、そして傷だった。刃物で切ったような、何というか・・
『ゼニッ』
ゼニガメは急に俺の腕からするりと抜け、ゴクリンも一緒に生徒会室へ走っていってしまった。
「何だったんだ・・」
なんだか嵐の予感がする。暗示にかかったような感じだ・・

「なんか唯の扉が少しずつ開いてるようね」
「まあな・・」
「でも、よく今まで思い出さずにすんだわね・・あのお気楽坊や。」
「萌。唯の記憶の鍵は少しずつ開かれてるんだ。よく注意して内密にな」
「分かってるわよ」
…私達が出逢った日の事…完全に忘れているのね。

続く
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ゆりりん☆ #6★2006.02/20(月)19:52
第五話 開幕!学園トーナメント!

「あっという間に・・」
「決勝戦だあ〜っ」
―今日は待ちに待った学園トーナメントの日。
だが優勝は確定的で、俺等は案の定三回戦ぐらいで敗北した。
甲子園球場のような大きな舞台(スタジアムは四角)に、おびただしい数の客席。
女子生徒は兄貴に見とれっぱなしだ。可恵はスタンドにへばり付いて、バトルの様子を眺めている。
『…さあ、いよいよシングルバトルズも大詰め!恒例の会長VS副会長のバトル!
司会は私・放送委員長の高橋と…』
『放送医員の福間です。』
放送委員会の二人が司会席に座って実況をアナウンスしている。
『では、会長と副会長のご登場です!』
吹奏楽部のファンファーレと共に、会長が西側の入場門からやってきた。
続いて東側からは兄貴のご登場。
二人は真ん中のモンスターボールのような形の円の中に入って、お互い向き合った。
「バトル開始 5秒前―4,3,2,1…」
『ピッ!』スタジアムの真ん中にいる哲史が、首にかけていたホイッスルを吹いた。
「行ってこい、ニョロボン!」
「行くのよ、チルタリス・・」
会長のチルタリスと兄貴のニョロボン…戦力は学園でも一,二を争う二匹だ。
「どっちが勝つのかなあ〜?」
…今のところ、二匹は互角といったところだ。
「チルタリス、空を飛んでつばめ返し!」
「ニョロボン、高速移動。」
『…おお、副会長必殺のスピード技が早くも出ましたね。』
兄貴の、素早さを使ったバトル作戦は、中学生レベルではない。
会長はそれに対して、防御・特防でダメージを防ぎつつ相手にダメージを与える技が非常に上手い。
「ニョロボン、すなかけで相手の目を眩ませろ!」
「チルタリス、しろいきり!」
ほぼ同時に指示を出した二人。さて、ポケモンの動きは―…

「くそ・・」
チルタリスの方がほんのわずかな差で、しろいきりで能力を下げられなくしたのだ。
「よし…!チルタリス。りゅうのまい!」
『チルッ』
『りゅうのまい』で能力を高めた会長のチルタリス。だが、それは隙にもなったのだ。
「今だ…ニョロボン、ロケットパンチ!」
どんっ・・気持ちいい音と共にニョロボンはチルタリスの急所へパンチを食らわした。
『チルゥウゥゥ〜・・』
いくら防御の高いチルタリスでも、兄貴のニョロボンには叶わなかった。
「チルタリス、戦闘不能!ニョロボンの勝ち!よって勝者―日野 帝!」
哲史がホイッスルを吹いて審判を下した。
『おお、今年の栄光の座は副会長が頂きましたか!おめでとう、副会長!
さて、シングルバトルズもこれで終了となります。十分休憩後、タッグバトルズの開始ですー。』

「残念でしたねえ、会長・・」
十分休憩の時、トイレの前で会長とすれ違った俺は、とっさに言った。
「…いいえ、私はこれでよかったのよ。これから始まるタッグバトルズも頑張らないとね」
「はい・・」
身のこなしも上品で、顔立ちも整った会長に憧れる生徒は、かなり多いと言う…

続く
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ゆりりん☆ #7★2006.02/18(土)01:11
第六話 開幕!学園トーナメント! 2

「唯。なんとしてでも勝つわよ。」
「あ、ああ〜…;」
いつもと違い、目が座っている可恵。会長達に敵対心を燃やしているのだ。
「んま、可恵ってさほど優秀でもないし。無理無理♪」
「ひっどぉー!」

おやおや、予想外の展開だ。
可恵は女の怖さを俺に十分分からせてくれた。
不気味なほどのイった目で、一勝、二勝…とうとう、決勝戦。
『さて、いよいよタッグバトルズも大詰めとなって参りました!
そしてこの決勝戦!かなり面白い組み合わせになりそうです!
プリンセスとプリンスのペア、そしてその双子の弟と妹…これは見ものです!』
ああ・・放送委員長の高橋は、かなり派手にアナウンスする派だ。
勝ったら全然いいけど、負けたら惨めじゃねえかよ…ちくしょう。
「ただ今より・・タッグバトルズ決勝戦を行う。」
「・・スタート!!」

「行ってこい、エイパム!」
「プクリン、頑張って!」
「ゼニガメ、行きなさい」
「ゲンガー、行ってこい」
四人ともそれぞれのポケモンを出した。
「ゲンガー、舌でなめる」
『ゲンー』
べろん…泣かんばかりの感触だろう。俺のエイパムは麻痺してしまった。
「くそっ・・エイパム、高速移動・・」
「ゼニガメ、ハイドロポンプ」
『ゼニッ』
麻痺しているおかげで素早く動けないエイパムに、ゼニガメのハイドロポンプが命中。
『わお、生徒会長のゼニガメ必殺のハイドロポンプ!見事命中しましたね!』
かなりの歓声が四方八方から聞こえてくる。ちくしょう・・
「プクリン、きつけ!」
『プリュッ』
「え・・?」
可恵は、プクリンに俺のエイパムを攻撃するように指示を出したのだ。
「パムッ・・」
「ちょ…可恵!何するんだよ?」
「ゲンガー、シャドーボール・・あ;」
兄貴は間違って、ノーマルタイプのプクリンにシャドーボールを攻撃するように言ったのだ。
『プックーww』
もちろん、プクリンは全然ダメージなし。
「よし・・エイパム!高速移動をしながらゼニガメに突進だ!」
と、エイパムはさっきよりも素早く移動している…しびれている様子もない。
もしかして、さっきのプクリンが…?
『ゼニッ・・』
突進はかなりの衝撃だ。ゼニガメは大きくダメージを受けた。
「よ〜し・・凡人の往生際の悪さを分からせてやる!プクリン、すてみタックル!」
『プリッ』
フラフラのゼニガメに、もう一度ダメージを与えた。チャンスだ。
「よし・・とどめのおうふくビンタよ!」
…終わった。ゼニガメはスタジアムの土へ倒れた。
「ゼニガメ!良く頑張ったわね。よしよし・・」
会長はゼニガメをモンスターボールに戻すと、後ろの席へ座った。
「問題は…ゲンガーだな。」
「そうね・・」
ゴーストタイプはノーマルタイプに、ノーマルタイプはゴーストタイプに技が効かない。
かなり厄介な戦いになりそうだ…

PPもお互いになくなり、ついに「悪あがき」で勝負をすることになった三匹。
「でも・・『悪あがき』も、効かないんじゃ…」
「あ…」
二匹がどんなにあがいても、ゲンガーはノーダメージだ。
『これは面白い!タイプの特性を生かしたバトルですね、プリンス。』
『そろそろ決着が着くかな?』
こっちのあがきは効かないのに、相手のあがきは少しずつこちらにダメージを与える…
「プク・・」
「パ…ム」
「あ…プクリン!大丈夫?良く頑張ったからね。ゆっくり休んで」
可恵が倒れたプクリンに駆け寄る。
『生き残ったのは―ゲンガーのみ!よって勝者は会長&副会長ペア!』
「そん…な・・」
疲れていた俺達は、文句を言う気にもなれなかった。
興奮ゆえに熱い、頬を手でぬぐうと、俺と可恵は静かにスタジアムを去った。

続く
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ゆりりん☆ #8★2006.02/18(土)01:13
第七話 一通の手紙

落ちこぼれの俺等と、優秀な兄貴達が激しいバトルを繰り広げた学園トーナメント―
しかし、俺等は敗北の結果に終わったと言う始末。

翌日。
「んあ?俺宛…」
この学園、本当に部活が豊富だ。
探偵部も珍しいが、郵便部もある。そして今、俺宛に手紙が届いたようだ。
「何々…『放課後、生徒会室へ来てね 会長』?」
あの会長が俺なんかに何の用事があるんだろう…?

今日の授業はあっという間に終わった。
「雄二、ちょっと一緒n…」
いつも一緒に帰る雄二が今日は見あたらない。
「アイツ、先帰っちまったのか。薄情者」
チッと舌鳴らしをして教室を後にした俺。なんでよりにもよって雄二は先帰るかな…

「アイツさあ・・ちょっといい加減なとこあるから来ないかも」
「いやいや、多分来るよ…あ。」
「来たわ…」
「うわあ、来ちまったよ」
「雄二。落ち着いて。」
三年四組の教室から生徒会室までの道のりは結構遠い。何せ通路を通ってさらに二階上がるのだから。
「ふう・・」
ガチャ・・ドアを開けると会長、兄貴、哲史、雄二が。なんだかみんな深刻な顔だ。
「あ、あのう」
「ようこそ」
お淑やかに微笑みながら挨拶をする会長。
「唯。とりあえず力抜け。」
「え?」
そいえば、ガチガチに緊張したせいで俺は凍り付いている。
「えっと・・日野君、ちょっと痛いけど我慢して。」
「え、え!?」
「行くわよ。『必殺!腕固め!』」
ぐり・・いってぇ!
いきなり柔道の技、腕固めを喰らった。会長、怪力だぁ…意識が遠のく…感覚がなくなる・・
「おお、萌、握力強かったっけ。」
「そうよ。甘く見てもらっちゃ困るわ」
何だか兄貴と会長が話しているのが一瞬聞こえたが、そのうち意識をなくしていた。

「ここは・・どこだ・・?」
俺は異次元空間を彷徨っているようだ。真っ暗で不思議な空間を歩いている。
「ようこそ。『時の最果て』へ。」

続く
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ゆりりん☆ #9★2006.02/17(金)22:23
第八話 時と記憶の神

「え・・」
なんだか声が聞こえるが、聞こえる方向がなく、心そのものに語りかけているうようだ。
「私は『クロノール』。時と記憶を操るポケモンさ」
「ええっ。そんなことが出来るのかよ」
「出来るとも。」
そう声がした瞬間、その声の主は姿を現した。まさに神々しく、時の神クロノスのような姿だ。
「お前、この前から異常はなかったか。暗示にかかったような胸騒ぎ」
「ああ、確かにあったな。それが何だよ」
「あれは、記憶の扉が開く前触れなんだよ。だが、完全に開くことは私でないと不可能だ」
「じゃあ早く開いてくれよ。空っぽな俺の過去が知りたい」
「分かった・・」
「ちょっと待て」
あれ・・そこには兄貴、会長、哲史、雄二が。
「クロノスさん、唯は多分わけわかんないと思うわ。過去の記憶に完全に鍵がかかってるから」
会長…何を言い出すんだ。
「それに。罪があるのは・・唯だけじゃないし。」
「まあ、そうだな。お前らにも責任はある。」
「そういうわけで。時を操って、過去へ行きましょう」
その時、物凄い響く音が鳴った。
「何なんだ・・」
ずぶっ…何かから放出される感覚がした。

「帰って・・これたのか?」
そこは、いつも通りの中等部の中庭。日差しが暖かく、何もこれと言って異常はない。
が、その時・・
「うわあっ!」
これは…ポケモンか?巨大なポケモン…遥か昔に封印された。
「これって、神話に出てくる『キメラ』?」
「そうよ!クロノールの力が衰えて時空に歪が出来たのよ!それで時空を超えてやってきたのよ」
「そっか・・じゃあさっきの音はその音か」
「そう。それよりやっつけないとっ!」
会長はモンスターボールからチルタリスを出した。
「俺も・・」
兄貴はゴクリンを出した。
「俺も。行け、オオスバメ」
「いっけぇ、サイドン!」
哲史や雄二もポケモンを出した。後は俺だ。
「よし・・行ってこい、エイパム」

続く
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ゆりりん☆ #10★2006.02/17(金)22:25
第九話 片割れの死

二人で一つ。私と可恵はいつも二人で一つだった…
でも、途中から…それは、ひび割れた仲へと変わって行ってしまった…

強い。強すぎる。これが古代ポケモンの力か…どんな技も通用しない。
「あ・・もう駄目」
ポケモン達は次々力尽きてゆく。目に余るほど残酷な倒され方だ…
「きゃあ!」
あ・・会長、危ない!キメラが上に―!
どんっ。
「え・・?」
会長は一瞬の間に何者かに押され、無事だ・・
「可…恵…」
よく見ると・・可恵だ。可恵が腕や頭から血を流して倒れている。
「可恵!可恵!」
会長が駆け寄る。
「姉様・・ごめんね。」
「可恵!なんで私をかばったの!」
「私ね、本当は・・ずっと・・謝りたかった。
うぅっ・・私が家出した日、家族も何とも思ってないんだと思ってた。
けど・・心のどこかで思った。『帰りたい』って・・ごめんね・・お姉・・ちゃ・・」
可恵はそこまで言うと、力尽きた。だが、まるで生きているように笑顔で逝ってしまった。
「可恵!可恵!」
会長の瞳にはたちまち涙が溢れた。と、その後ろには…キメラだ。キメラがまだ生きている。
「このっ・・」
その時。後ろで声がした。
「全く・・」
現れたのは、さっき夢で逢った時と記憶の神、クロノールだ。
「既に衰え始めた私の最後の力で・・コイツを異次元空間へ葬るとしようか。」
カッ・・辺りが眩い光に包まれたとたんに、幼い日の俺達が俺の脳裏に蘇った。

会長…いや、萌…すまない。あの日のこと、思い出した。ゼニガメの傷は四年前に俺がつけた傷だ。
すまない・・。実らない想いの末、それを振り切りたかったんだ…萌。

目を開けると、そこはいつも通りの暖かい中庭だった。そこに可恵の遺体が転がっていること以外は。
「萌…全て思い出した。ごめん!」
「・・そう。そうね…貴方には一生罪を償ってもらうことになるけど・・」
ここにいる俺ら一人ひとりには、哀しみと罪がそれぞれ心に刻まれていた…

続く
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ゆりりん☆ #11★2006.02/17(金)22:26
第十話 初めて出逢ったあの日

「過去」「現在」「未来」
この三つにぶつかり合いながら俺等は生きる。
「過去」はたった一つ。永い永い人生の中で、自ら築いていくものだ。
「未来」は俺等の心の中にある。俺等自身の心が未来を作るんだ。

クロノールが消滅したため、過去の扉が破壊され、閉ざされた記憶が全て蘇った。

俺達が出会ったのは八年も前の話だ。ポケディアナ学園初等部の入学手続きを終えた俺と兄貴…。
「お兄ちゃん、一緒に学校いこうね!」
「うん。」
兄貴は、この頃はまだ優しかった。
勉強、スポーツ、何でも出来た。本当に何でも…そんな兄貴は俺の自慢だった。

「ねえねえ、同じ一年生にね、僕らとおなじ双子がいるんだって!女の子の双子。」
「へえ。なかよくしたいね。はなしかけてみよーよ。」
同じ学年に女の双子がいると聞いて、少しびっくりした俺。
「ねえねえ、秋山さん…君達も双子なの?」
「?そうだよ。」
「え、えと…君たちは一卵性?二卵性?」
「わかんない・・『いちらんせい』ってなあに?」
「えっとね。わたしたちは一卵性。」
…おすましで大人しい萌と、無邪気で人見知りをしない可恵。
「僕らは二卵性だよwこれからよろしくね。」
「うん!」
…そんなこんなで、まずは「双子同士」というきっかけで意気投合した俺ら。

さて、初等部の四年生に進級した俺達…急に、兄貴の様子が変わり始めた。
勉強に固執するようになり、昔のような優しい笑顔は見せなくなった。
この頃から、四人の運命は静かに回り始めていた。
俺は密かに萌をいいなあと思い始めていた…
そして・・どうやら可恵は俺のことを…?
勉強に固執してしまった兄貴は以前可恵を可愛いと言っていた。
これって・・「恋愛四角関係」!?
見事に思いが交錯してるじゃん、やばいよこれ?

続く
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ゆりりん☆ #12★2006.02/17(金)22:26
第十一話 実らぬ思い

「人はいつか必ず幸せになる」と皆言うけど…
それはこんなに辛い思いをしてまで手に入れるべきなの?
その「幸せ」のために私達はこれだけ辛く悲しい思いをしなければならないの?
教えてよ…誰か…神様…

私は帝が好き。帝は可恵が好き。可恵は唯が好き・・そして唯は…私が好き…
見事にかみ合わない想い。私は、何のしがらみもなく、四人でずっと仲良くしたかった。
けど、そんなささやかな願いは叶うことはなかった…

あの日、教室でチルタリスにポケモンフードを与えていると、唯が急に呼び出したわ。
「何?」
「話があるんだ。校舎裏まで来てくれ」
「・・」
私は嫌な予感を抱きながら校舎裏までやってきた。
「俺…お前の事好きだ。」
「唯…ごめんなさい。好きな人がいるの。」
「それ…兄貴だろ?兄貴なんだろ!?」
「・・うん」
唯の落ち込む表情はもう、見たくなかった。
「兄貴、俺に冷たく当たるようになった。・・可恵が、俺のことを好きだから…」
「…そうよ・・可恵、あんたの事が好きなの。本気で。」
声が震える。目の奥が熱くなる…
「萌…」
そこを、校舎裏に技術で使う枯れ枝を取りにきた可恵が偶然、通りかかった。
「可恵…!」
「・・やっぱり唯は姉様が好きだったんだよね・・」
枯れ枝を一本手に、可恵は走っていってしまった。涙が微かににじんでいるのが見なくても分かった…

続く
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ゆりりん☆ #13★2006.02/17(金)22:27
第十二話 愛しくて…

俺等が出逢ったのは
偶然の奇跡であり
偶然の悲劇でもある
奇跡も時には悲劇にもなることもあり得る
けどそれは
何かを意味する

あの日、俺は見た。職員室へ書類を取りに廊下に出ると、可恵が泣いていたのを。
「可恵・・」
「唯は姉様が好きなの…姉様はずるい…私から何もかも奪って・・!」
可恵はすすり泣く。
そんな風に泣くなよ。愛しくなるだろ。抱きしめたく…なるだろ。
手が勝手に動く。俺はいつの間にか可恵を抱きしめていた。
「俺がいる・・可恵。俺がいるから…」
ああ・・こんなことしても、可恵はやっぱり唯が好きなのは変わらない。
可恵は・・信念の強い女の子だから…

俺の唯を憎む思いが倍増する。押さえられない。苛立つ。ムカつく。
家では必死に勉強する俺。
あんな奴のどこがいいんだ!?あんな勉強もバトルもコンテストも出来ない落ちこぼれの!
絶対俺にしとけよ。俺にしとけって。俺の方が絶対いいはずなのに…
コントロールし切れない思いをノートに書きなぐる。
ボキッ。シャーペンの芯が折れる…構わない。

唯…済まない。こんな兄で。お前も俺を恨んでいるだろ?「萌」という存在で。
あんな上品でお淑やかな女の子に好意を寄せられているのに、俺は可恵の方が大事なんだ。
無邪気で愛らしくて、失敗ばかりだけど人のために一生懸命。
わがままで素直で天真爛漫。色気なんてこれっぽちもない。
けど・・そんな所が放っておけないんだよ・・可恵。

実らぬ想いを持つ四人。叶わぬ恋ほど哀しく辛いことはない。
唯はある日から狂い始めた。なんと、萌を傷つけ始めたのだ。
自分に全く振り向かない腹いせにきっとめちゃくちゃになっていたんだろう。

続く
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ゆりりん☆ #14★2006.02/17(金)22:28
第十三話 忘れかけていた日々

過去は消えない。二度と戻ってもこない。
自分がやったことは二度と消えない。
けど、それを乗り越えることは出来る。
過去の自分に打ち勝つことなら出来る。
そうやって自分と向き合って、人は大人になっていくんだ。

俺は狂い始めた。こういう運命だったのか・・
アーボなどを萌のロッカーに入れ、びっくりさせたり…靴箱にミミズ。靴にカミソリ。
そんなこんなである日、萌が直接言った。
「何でこんなことするのよ。」
「へん!お前がブスだからだよ!」
そう言って俺は、机の上にいた萌のゼニガメの甲羅にカッターで切りつけた。
「きゃ・・なんでこんなことするのよぉー!」
萌が大泣きする。可恵は教室の隅でじっと見ていた。その目は何処か哀しそうだった。

そうだ。あのときに見たゼニガメの傷は、俺自身が付けた傷だった。
あの傷は、ゼニガメのこうらの傷もあるが、俺の心の傷の象徴でもある。
「唯。こんなことする唯なんて唯じゃないよ。違う!」
「可恵…?」
「私の知ってる唯じゃないよ!どうしちゃったの?戻ってよ。あの昔の優しくて…元気で明るい唯に。」
可恵の目からも涙があふれた。俺の目からも涙が…何故俺は涙を流すんだろう。それさえも分からなかった。

両親は俺のことなんかどうでも良かった。勉強もバトルも何でもできる兄貴が大事だったんだ。
俺、サボってるわけじゃないよ?毎日授業もちゃんと真面目に聞いてるし、家でも勉強してる。
のに、いつもテストの結果は平均以下。悔しくてたまらなかった。

萌は三ヶ月学校へこなかった。「ブス」って言ったことが気になったんだろう…
「おいおい、やばいんじゃねえか?」
「うるさいな…」
「自分が悪い時はちゃんと謝れよ。それが大人への第一歩だぞ」
この頃からのダチ、雄二と哲史がワンポイントアドバイス。
「ああ・・ありがと」
っと、長くなりますた。

続く
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ゆりりん☆ #15★2006.02/17(金)22:29
第十四話 羽をなくしたアゲハ蝶

忘れかけていた日々。全てのものが友達だった頃…。
涙をぬぐって歩いた道。野原に咲いていた小さな花。
見つけた花を摘む幼い日の手のぬくもりが帰ってくるかのように…
優しい雨に打たれ、緑は蘇る。
それと同じように、涙の後にはいつも…皆が側にいて教えてくれた。
側にいて、生きる喜び、教えてくれた…

可恵…ごめんね。
私達、いつも二人で一つ、一心同体だったよね。
幼い頃から、ずっと―…お互いに、大切な片割れだったよね…。
頬を流れる涙を拭い、道を歩く私。
ちなみに、病院からの帰り道だ。三ヶ月に渡る整形手術の終了後だった・・
「…あれ?」
道を歩く中、ふと目に入ったのは、野原に咲いているたった一輪の小さな赤い花だ。
「あ・・」
ふと、遠い日の光景が蘇る。
{可恵、野原で見つけた花だよ!}
{わあー、可愛い!ありがとー、萌。大切にする!}
(…そういえば、この花のような小さな赤い花が、昔咲いてたっけ)
プチ…私の手は知らぬ間に動いて、花を摘んでいた。
「可恵に…渡そう…かな」
当時は、小六だった私達。もう、仲は完全に崩れていた。

家に帰って、部屋へ入ろうとしたそのとき、可恵の部屋のドアの隙間に何かが落ちている。
「…?」
見てみると…押し花だった。小さな赤い花の、押し花のしおりだった…。
「可恵…!」
その花は無論、遠い日に私が可恵にプレゼントした花だ・・もう、干からびている。
「大切に・・押し花にしてくれたんだ…。」

可恵は、アゲハ蝶の様な子だった。
黄色のネクタイに黒い制服、そして蒼のスカートライン…
ヒラリヒラリと、夏の夜に月の下で舞い踊るアゲハ蝶。
一人で走り回っては周りの注目を集めるあの子は、アゲハ蝶だ。
でも・・羽がないと、舞うことは出来ない。
片方の羽をなくし、残されたもう片方の羽までなくしたアゲハ蝶は舞うことはなく、世の果てへと消えていった…

続く
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ゆりりん☆ #16★2006.02/17(金)22:29
第十五話 もうこの想いが叶わない、それならせめて…

命は戻らない
しかし終わらない
終わりかどうかは俺等自身が決めること
永遠の旅は
哀しみか
それとも喜びか
それは誰にも決められない
決めれるのは自分自身だ

ざわ・・学園中がざわついた。萌の変わり果てた姿には、俺だってびっくりだ。
そうか・・あの三ヶ月、整形手術を図っていたのか・・
比べようのないほど美しくなった萌に、一瞬ドキッとしたのを今でも覚えてる。
「萌・・」
「帝…ごめんね」
「・・」
萌のこれ以上ないというほど寂しげで儚い笑顔は、見たくなかった。
「ごめんね」という言葉も、聞きたくなかった…可恵と同じ顔の子にそんな切ない言葉口にされたら…
俺は家へ帰っても気が晴れない。ずっと鬱だ。
その時はもう、俺たちは初等部の卒業式を迎えていた。時が流れるのは早い。
唯も俺も、一言も口も聞かなくなっていた…

中等部の入学式を終えて、一学期末、水泳の授業。
基本的に男女別だが、この学園は月に一度だけ男女合同水泳がある。
「次・・日野 唯!クロール50メートル」
「…はい」
萌にかっこいいところ見せようと思ったのだろう。無理して泳いでる…
「うっ・・うぐ…」
唯は10メートルほど泳いだところで沈み始めた。あいつはあまり上手に泳げないんだ…
「唯っ・・」
俺は知らぬ間に体が動いていた。気づくと、俺はおぼれた唯に手を貸していた。
「プハ・・ゲホッ…」
「唯!」
いつの間にか俺は一生懸命呼びかけていた。大事な弟のために…
「兄貴…何故…俺をかばった…」
「放っておけると思うのか…?弟がおぼれているのを放っておく兄がいるか!?」
俺の目には涙がにじんでいる。
「いや・・済まな・・い。萌…好き・・だ」
・・そう言うと、唯はゆっくり目を閉じていた。

続く
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ゆりりん☆ #17★2006.02/17(金)22:30
第十六話 夢から覚めた薔薇

「薔薇と蒲公英のようだ」と言われ続けてきた私達はまるで鏡に映したような正反対の姉妹。
顔は同じだからなおさら鏡に映したよう。
それでこそ、お互いのいい所を分かり合える。
私達、二人で一つ。いつでも一緒。そんな可恵は私の片割れ…
ずっと、そう思ってた。
どうして、帝は可恵を好きなんだろう。
どうして、唯は私を好きなんだろう。
似たような人だってたくさんいるし、不満だって山ほどある…のに・・
どうして、その人じゃないと駄目なんだろう…想いって不思議。

「もーえねえちゃーんっ」
「なにー?かえ」
「かみむすんでよぉ」
思い出してみれば…幸せだったことの方がずっと多かった。
人間は小さい頃は神様に守ってもらうの。不思議な力で…
だから、私と可恵、二人は喧嘩もしたけどやっぱり仲良しだった。
大きくなるにつれて神様の力はどんどん尽きていく。
神様と完全にさよならした時、人は大人になる。

「好きだ…」
唯・・お願いだからもうその言葉は口にしないで。これ以上はもう可恵を傷つけたくないの…!
可恵は、姉の私、母親、父親、ポケモン…誰よりも何よりも、あなたのことが大事で大切だったのよ。
そんな大切な人を奪ったのが姉の私だなんてあんまりだわ。

可恵はもうろくに話もしなくなっていて、仲はすっかり冷え切っていた。
私は昏睡状態の唯を見舞いに家まで行っては家へ帰る繰り返しだった。
「唯・・元気になってね」
退院はしたものの、家でずっと眠ったまま…心配だった。私はもう疲れた・・少し眠ろう。

夢を見た。四人で笑い合えた頃の夢を…
私の脳裏には、楽しい少女時代の思い出が蘇っていた。
苦しいことも泣きたくなることもいっぱいあったよ。
それでこそ…生きる道は楽しい。
私達は、何かを探してこの星に生まれた。
生きていく辛さ。大切な人を失った孤独感。それを乗り越える強さを私達は持っている。
消えない哀しみ、いつか自分で乗り越えていくからね…

続く
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ゆりりん☆ #18★2006.02/17(金)22:31
第十七話 穢れすら色褪せる君の笑顔

側にいて
生きる喜びを教えてくれた
その喜びは今はもう
燃え尽きて俺の心で灰となった
そんな灰となった俺の心
すくいあげて心の隅に置いて

ずっと君の側にいたかった…
大好きな野球もできねぇし、俺は雨が大っ嫌いだ。
けどあの日…
「水色の空を反射した水溜りがきらきら煌いていて綺麗ね。私…こういうの、大好き。」
その君の笑顔を見て、俺は心から願った。
君の笑顔の側にいたい。この幸せな一時が永遠に続けば…。頑なに誓った。
もうこの願いは叶うことはないけど…俺は誰よりも君を想うよ…その気持ち、永遠に変わらない。
一緒に過ごしてきた日々は宝物なんだ・・

俺の心は一体どこへ行ってしまったんだろう…幼い日。庭で遊んだ幼い日。
「お兄ちゃん、待って!」
「唯、早く来いよ。」
兄貴と俺はいつも庭で遊んでたっけ…ポケモンバトルをしたり、ボールで遊んだり…楽しかった。
けど、初等部高学年の時期に至ってはどんどん兄貴との関係は崩れていく一方だった。
「お兄ちゃん、ボール…お兄ちゃん?お兄ちゃん戻って来て!お兄ちゃんっ…」

「ん・・」
家のベッドで目覚めた俺。側には両親が。
「気づいたのね!」
「唯!」
「…誰?」
俺の目覚めてからの一言目。記憶を無くしかけていたんだ。
「え・・私達がわからないの?」
「分からない」?分からないのはあんた達の方だ。あんた達は誰。そして俺は一体…誰?
少なくとも分かることは、この人たちは俺と係わりを持つ人間だということ。
「唯…ごめんね。帝ばかり褒めて。貴方だって頑張ってたのに・・」
「お前にはお前にしかないところ、たくさんあったのに…気づいてやれなかった」
何を言い出すんだろう。何故この人たちは泣いているんだろう。
あれ…俺の眼にも涙が溢れる。何故俺の眼には涙が溢れるんだろう。
もう、何も分からない。自分自身のことも分からなくなってしまった俺は、空っぽだ…。
学園へは一応通う。この学園で何があったのかも覚えていない。全てが空っぽだった。
「無理に思い出さなくていいよ」と、会長や兄貴は言ってくれていた。
空っぽのまま、三年間過ごしてきた俺等は、もう赤の他人…記憶がすっかり消えていた。

続く
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ゆりりん☆ #19★2006.02/17(金)22:32
第十八話 終わらない旅

人はただ風の中を
迷いながら歩き続ける
小さな旅人
その道でいつの日にか
めぐり合う奇跡
遥かな空で呼びかける
遠い日の思い出
めぐるめぐる風に乗って
懐かしいあの日に逢いに行きたい
めぐるめぐる想いに乗って
私達はこの星で生きている

分かってる。ちゃんと分かってる。
唯がどれだけ私を好きでいてくれたか。その気持ち、守りたい。大切にしたいのに…
誰か大切な人の思いを守ろうとすればするほど、手放してしまう。
守りたかったもの全て、どこかに置いてきちゃった。
妹の可恵も…愛してる帝も…私のことを愛してくれた唯も。
みんなみんな…どこかに置いてきちゃった。それが現実。どんなにもがいても現実。
現実が絶望的なら何も信じられなくなる。
でも…信じることは素敵、そして強いこと。私は信じたい。昇る朝日に希望を賭けて。
可恵…キメラから私をかばってくれてありがとう。唯…ごめんね。
私はもう・・自分自身を裏切りたくない。
苦しみは自分で消すしかない。誰にも消せない。
だからもう…逃げないよ。目の前の現実…そして…私自身から。

「ああ…」
可恵・・安らかに眠ってね。片割れの死はこの上なく哀しい。けど乗り越えるしかない。
どんなに嫌でも朝日は昇る。何千年も、何万、何億年も前から繰り返されてきたこと…
「萌。俺、今なら言えるよ。全てのことに『ありがとう』と・・」
「唯・・」
教会にお祈りに来た私達…
「萌…俺、頑張ってみるよ。愛する人の死は物凄い哀しい。
けど、それを乗り越えて明日へ走り出すんだ。」
「帝・・よかった・・。二人が仲直りしてくれて・・」
この世界の運命は神様に握られている。
運命は最初から決まっていて、それに逆らうことは出来ない。けど・・自分で運命に打ち勝つしかない。
「神様・・可恵を安らかに眠らせてあげてください」
私達はお祈りをして、教会を後にした。

サワ・・教会に出ると、気持ちのいい風が吹いた。
あの風は、海を越えて、何処までも何処までも旅をするのだろうか。
めぐりめぐり、何処まで行くんだろう。
そういえば、昔、夢の中で旅人に尋ねた。「何処まで行けばたどり着くんですか」と。
旅人は答えた。「旅路に終わりはない。自ら終わらせることは出来るけど…」
「じゃあ、お気をつけて…」そう言って見送ったのは遠い日のこと。
けど、今更になってから気づいた。
あのとき、夢に出てきた旅人は、時の旅に出る私自身だったんだ…どうしてあの時気づかなかったんだろう。

「旅路に終わりはない」

続く
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ゆりりん☆ #20★2006.02/20(月)02:52
最終話 この地球の何処かで

僕等は時の旅人。
行く当てもなく、旅路をさまよい続ける小さな旅人。
何処から来て、何処へ行くのかも分からない。
人間もポケモンも、何処から来たんだろう。
もし死んだら、何処へ行くんだろう。
それは誰にも分からない。俺にも分からない。
けど、これだけは言える。
俺が経験してきた一つ一つの出来事が、俺が生きてきた何よりの証拠だ。
めぐる風、めぐる想いに乗って、俺等は今日もこの星の何処かで旅を続ける…

「…綺麗ね。空が…あ、流れ星…今夜、誰かが神様のところへ行くのね・・」
萌が寂しそうに生徒会室の窓から空を見上げる。
「・・可恵は、神様に召されるのが早かったんだ…」
その時。キラッ!夜空が一瞬、眩しく輝いた。そして光が人の形となって現れた。
「これは…幻?可…恵?」
俺らもびっくりだ。可恵の幻影が…現れるなんて。
「ごめん…ごめんね。可恵…何もしてあげられなくて・・私、無邪気で素直な可恵がいつも…大好きだったよ!」
懸命に叫ぶ萌。萌の瞳にはやはり涙。
「可恵…可恵!」
キュッ…幻の可恵は手を差し伸べて萌の頬を流れる涙を拭い、にっこり微笑むと、ふっと消えた。
俺等はかける言葉もなく、ただただそこに立っているしかなかった・・
幻影の可恵は何もしゃべらなかったけど、微笑む姿に俺は安心した。
「可恵・・」
と、またこの無限大な天球が眩しく輝いた。
「まぶ・・し・・」
眩しくて辺りが見えない。…気がつくと、日差しが暖かいいつもの中等部の中庭だった。
「あれ…うそ…時間を操るなんて…?」
「不可能だ…」
「いや・・可恵の「可」は可能の可。ずばりどんなことでも可能なんだ。」
「・・」
そこでナイスな台詞。さすが唯。
「あ・・」
暖かい中庭を、一羽のアゲハ蝶がヒラリヒラリと飛んでゆく。まるで、生きていた頃の可恵のように。

時間は戻り、夜の静かな生徒会室、俺たちは静かに綺麗な夜空を眺めていた。
「姉様・・唯・・帝。私、消滅したクロノールに代わって、新しい時の神に生まれ変わったんだよ。」
可恵の声が聞こえたような気がする…
「そう…可恵。ずっと一緒にいようね。」
「うん!私の生まれ変わったポケモンは…」
「…え?」
最後の言葉は、震えて消えた。ポケモンの名前は、結局聞き取れなかった・・
が、俺達にはそれが見えたような気がした。星空の中に、おとぎ話に出てくるようなポケモンが…
「私…に生まれ変わったの…」
星空の中に、神話に出てくる姫のような姿が輝いて見えた。
俺等は昔の、あの懐かしい日々のようにお互いの顔を見合わせて笑い合った。

可恵、俺等と一緒に開こう。希望あふれる未来への扉を。
めぐる風、めぐる想いに乗って素晴らしい明日に逢いに行こう。
一歩ずつ、一歩ずつ、一緒に未来を創っていこう。
大丈夫。きっとまた、必ずめぐり逢えるから。

この地球の何処かで…

終わり
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ゆりりん☆ #21☆2006.02/20(月)02:54
この地球の何処かで〜番外編 心の瞳で見つめれば〜

心の瞳で…いつも俺は君を見つめていた。
愛すること。愛されること。それはどんなことなのか・・
言葉ではいえない、この温かみ。
たとえ、明日この星が滅ぼうとも、決して変わらない強い絆で結ばれている。
辛いときはお互い肩を組んで、励ましあって歩んできた。
俺等は、決して変わらない心の絆で結ばれている。
心の瞳で、君を見つめると―…

「唯。寝ずにこの書類を済ませてもらおうか」
「ふぁ〜・・」
「そういえばさあ…最近吹っ切れた訳?萌のことは」
うつ向き気味に黙り込む俺の心境は、複雑だった。
「吹っ切れてないだろ。その態度は」
「…まあ」
(そういえば・・お袋も、萌達の母さんに略奪されたんだっけ…康夫さんを。)
ふと、母親の顔が俺の頭をよぎった。

兄貴は…帝は、可恵のことはいいんだろうか。いつから萌を好きだったんだろうか。
萌は元々兄貴が好きだったけど…兄貴は、初めは可恵が好きだったのに。
「そろそろ帰ろうか・・」
哲史なら…俺の話も聞いてくれるだろうか。哲史なら・・
「なあ・・哲。」

家に帰ると、一目散に部屋へ駆け込んだ。哲史の言葉が頭から離れない。
『心の瞳で、見つめればいい。『愛』の本当の意味は、心の瞳で見なければ分からない』
「そっか…『心の瞳で』・・」
いつか、俺等は若さをなくす。でも、心はきっと変わらない。強い絆で結ばれている。

萌・・俺は、これからもずっと君を愛し続ける。たとえそれが実らぬ恋でも…
幸せになった君の笑顔は、俺の宝物だ。
いつか、若さをなくしても、愛はきっと自ら望まない限り、永遠に消えない。
どんな時でも、俺は君を見つめている―…明日も、明後日も…
『愛』は、言葉では表すことができない。でも、温もりは感じることができる。
心の瞳で、君を見つめれば…

終わり
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ゆりりん☆ #22☆2006.02/24(金)23:42
この地球の何処かで〜番外編2 傍にいたいから〜

「そいえばさあ・・哲。」
昼休み…俺はクラスメートの石田と昼食を食べていた。
「ん?何だよ、石田。」
「何でお前って、賢いし運動も出来るのに、あんな日野とかと一緒にいるんだ?」
「ああ、その質問…トップ・シークレットだからさ…ごめんよ」
俺は席をがたんと立つと、配膳トレーを返却に行った。
「哲。この問題はこの公式だよな」
「おっ。やるじゃん」
「…ところでさ、俺等ってもう知り合って七年経つよな―…」
「まあな…唯はあの日、俺の命を助けてくれたよな・・」

それは七年前…俺等は初等部の二年生だった。
「今日は新しいお友達を紹介します…藤川哲史君ですよ」
小二の一学期の初めに転校だなんて・・俺は不安でいっぱいだった。
「はい、俺のとなりの席が開いてますよ!…哲君、仲良くしようね!」
「え・・」
にたーっ…と、前から知り合いのように初対面の俺に笑いかけるそいつは…
『ひの ただし』と書かれた名札をつけていた。
「俺のこと・・知ってるの?」
「?知らないよ。でも、もう俺達とっくに友達だよ。」
「あ・・うん」
全く人見知りしないそいつの態度に驚きつつも、すぐに馴染めそうな気もした。

帰り道。
「じゃーな」
「帰ったら電話するよー。」
皆、友達と一緒に帰っていく…俺はこの学園に来たばっかりだし、一人で帰らなければいけない。
「帰ろ・・」
そのとたん、前の学校の友達のことを思い出して、目がかすんできた。
「帰りたいよ…前の学校に」
かすむ目で、道路を渡ったのが間違いだった。
「哲君、このプリント、忘れて帰ってるよ…」
「え…」
日野が、必死で走ってきて、俺にプリントを届けようとしていた。
『キキキィイィィイーッ』
「ぅわ・・!」
信号が赤だったのだ。一台のトラックが俺の前に…
{どんっ!}
「…え?」
俺はかすかに膝小僧をすりむいていた…前を見ると、血だらけの…
「日野!日野!」
「哲君・・大丈夫だった?」
「馬鹿野郎・・なんで俺なんかかばったんだよ!」
「だって…俺は哲君の…友達だから…」
そこまで言うと、日野は力尽きて俺の前で倒れた。辺り一面血の海だった…

その後、救急車で運ばれた日野は、重体で生死五分五分の重傷だったそうだ。
「助かるといいけど・・」
手術中、俺と日野の両親、学校の担任は泣きながら待合室で一言も話さずに待ち続けた。
―四時間後。
「助かりましたよ・・」
医者が出てきて、汗を拭きながらほほ笑んだ。
急患ベッドに運ばれてやってきた日野は、俺に向かってピースしてくれた。
「日野!・・うっ…うわぁあー!」
俺は無事に助かった日野を見るなり、涙が溢れ出した。
「大丈夫だから・・哲君。」

「これがあの時の傷だよな…」
唯は頭の髪を掻き分けて、少しはげた部分を指差した。
「そこ…手術のあとだろ。俺を助けたせいで…唯の傷は一生消えないよな・・」
「いいっていいって!俺はずっと哲と一緒にいたかったからさ」
「ふっ…///」
「あはは!哲が照れてるーww」
…それは真夏のある日。木陰で想い出を語り合った二人の絆は、より一層強まった。

終わり
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ぴくの〜ほかんこ