ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[829] この地球の何処かで〜時の旅路は永遠に〜

紗那 #1☆2006.02/25(土)16:35
なんか、前の作品だけだと中途半端なんで…
と、ログイン不可能&ログ飛びしそうなので、こっちに第二弾を書かせていただきます。
http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/783.htm (→ほかんこ)
が前の作品です…
キャラの整理が大変なので、まず紹介から進めたいと思っています。

秋山 萌(あきやま もえ)
中三の♀。容姿端麗、頭脳明晰。
性格はやんわりしいていて、馴染みやすい。
ほのぼのした雰囲気とは裏腹に、ほんのり寂しさを背負う。
そこ等の会社を牛耳る大会社「秋山グループ」の跡取り候補。
生徒会長。

日野 帝(ひの みかど)
中三の♂。冷静沈着、スポーツ万能。
落ち着いていて、どんな状況でも冷静に対処できる。
だが、人に心を開くことは滅多になく、その目つきは氷のよう。
秋山グループと互角の「日野グループ」の長男。
生徒会副会長。

藤川 哲史(ふじかわ てつし)
探偵部の部長で、帝とはまた違った冷静さを持つ。
それでいて思いやりの気持ちが強く、厚い人徳を持っている。
成績優秀、運動神経抜群、非の打ちどころのない優等生。
生徒会書記。

真田 雄二(さなだ ゆうじ)
気さくでさっぱりしたタイプ。生徒会メンバーでは唯一のムードメーカー。
人懐っこさ、決して最後まであきらめない前向きさを持ち合わせている。
両親を交通事故で亡くし、現在は姉と二人暮らし。
生徒会会計。

と、この四人がお馴染みの生徒会メンバーで、まだ登場人物はいます。
新キャラなどなど、周りのキャラの紹介へ続きますー。
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紗那 #2☆2006.02/25(土)16:44
登場人物その2ー。

日野 唯(ひの ただし)
お馴染みの帝の双子の弟。
呆れるほどの天然馬鹿で、どうしようもない成績の悪さ。
帝とは対照的で、何かと比べられる機会が多い。

真田 美里(さなだ みさと)
雄二の姉。こちらも気さくでさっぱりしている。
亡くなった両親に代わって、十八歳で大病院「真田医院」の若院長に勤めている。

吉田 知可(よしだ ちか)
帝を好きな、帝と萌のクラスメート。
外見は、三年生にはとても見えない幼さ。
しかし走力は学年でもトップクラス、バトルの戦略の練りようはいかなる優等生も叶わない。
それでも中身は素朴でしっかり者。

土浦 驟雨(つちうら しゅうう)
萌達のクラスメートで、萌の事が好き。
そのため、帝に対抗心を燃やしては圧倒され、惨めな思いをする。
ひょうきん者で、唯や雄二と一緒にいることもしばしばある。
知可とは幼なじみで、相性ぴったり。

秋山 佳代子(あきやま かよこ)
萌の母。萌に、言われてみればどことなく似ている。
少しやつれた印象があり、常にうつむき加減。
その昔、親友と彼氏との間で起こったトラブルが、大きな心の傷となっている。

と、新キャラが四人でますますヒートアップ。
次回から本編です〜。
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紗那 #3☆2006.02/25(土)17:01
第一話 緑の雨

優しき雨。私達の心を滴り落ち、心には一筋の雨滴。
美しき雨。白い霧の中に見えるものは雨上がりの虹。
緑の雨にうたれ、蘇る緑。溢れる緑。緑は常盤。
生きる喜び。遥かな空の果てに続く希望の光。
私達を光の世界へと導く…緑の雨。

「今日も雨か・・」
ここ数日間、ずっと雨続きだ。
「どこからかニョロトノの鳴き声が聞こえるわね・・」
「言えてる…ププッ」
妙な会話を続けながらも、せっせと書類を済ませる私。哲史と雄二はソファーに座っている。
「哲史達は、もう終わったの?」
「当たり前じゃんか。修学旅行費の計算…うわぁ〜」
雄二は大量の数字と文字を長時間眺めていたせいで酔ったそうです;
「大丈夫?私もそろそろ目がチカチカしてきたわね・・」
「『チカ』といえば一組の吉田知可のことか?ってか、お前と吉田って仲悪いんだって?」
「ってか!知可知可するってどうゆう意味よ;『チカチカ』するのよ;疲れてきたって意味よ」
「分かってるって、そんくらい;もうすぐチャイム鳴るから急げよ」
「哲史の意地悪!」

「おーい、もう帰れってさ。」
帝が職員室から帰ってきた。大量の書類を抱えている。
「これ。今度の生徒会の時の書類。ここに置いとくから」
「ありがと。じゃ、もう帰るしたくしなきゃ」
窓の外を見ると、雨はさっきよりたくさん降っている。
「そうそう。今日は俺の姉貴が送ってくれるってさ。傘ないだろ」
校門の外には、自動車が一台停まっている。そして、赤い傘を差した女の人が一人。
「早く。濡れちゃうよ、萌ちゃん、帝君、哲君」
「すみませーん」

しとしと降る静かな雨。空気は湿っていて、いっそう静けさが漂う。そんな師走の夕方…

続く
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紗那 #4☆2006.02/25(土)17:21
第二話 白い洋館

「すみません;遅くなって」
「いいのよ、別に。」
俺達を乗せた自動車は、雨の中を走り出した。
「そういえば萌ちゃん・・お母様、最近大丈夫?可恵ちゃんが亡くなられて・・」
「あ…はい。なんとか」
萌は少し焦ったように返事を返した。

商店街の交差点で、車は一回停まった。信号が赤だったのだ。
曇った窓ガラスを見つめると…一組の親子が横断歩道を渡っている。
「ママ、ばんごはんはカレーがいい。」
「いいわよ。じゃあ、お肉とジャガイモとニンジンを買わないとね」
「帝?どうしたの?」
「…いや、何でもない」
俺は窓から目をそらすと、ぽつりと呟いた。
「・・すみません。ちょっと俺っ・・」
「帝?」
「あれ、降りるの?帝君」
俺は車から降りるなり、いきなり走り出した。
水溜りがびしゃびしゃはねて、靴を濡らす。雨が髪の毛を濡らす。

「はあ・・」
商店街を抜けて、たどり着いたのは…溢れる緑に包まれた、白い一軒の洋館だ。
チャイムの横に、『秋山』との表札がある。
…前に来たときと、全く・・同じ。
幼いとき、俺と唯と母で、この洋館へ来たことがある。
「・・」
俺は思い切って人差し指をチャイムの前まで持ってきた・・が、まだ勇気がなかった。
チャイムを押せずに、俺はしばらくの間洋館の前に立ち尽くしていた。
「あら・・どなた様?」
「!」
とうとう遭遇してしまった…どうやら彼女は買い物の帰りだったらしい。
「帝君・・」

続く
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紗那 #5☆2006.02/26(日)13:24
第三話 奪われた愛

玄関には、きちんと並べられた靴が二足。
そして、段の上にはいかにも高そうな絨毯が敷いてある。
やっぱり・・前、来た時と同じだ・・
「私に、着いてきて頂戴」
その女の人は、未だに俺に顔を見せない。
いや、顔は知っているのだが…俺によほど怯えているのだろうか…
階段を上がって、二階に着いた手前のドアが開かれた。
…そこは、忘れたくても忘れることの出来ない、想い出の場所だった。
いつの間にか雨も上がり、日当たりのよい大きな窓からは暖かい日差し。
ガラスのテーブル。そして、それとお揃いのガラスの椅子。
側に置いてある観葉植物も、部屋中に敷かれた蒼い絨毯も、十年前と同じ。
「この、ガラスの椅子に座って。」
そう言って、やっとこちらを向いた人物…秋山 佳代子。萌の母親だ。
「…萌は塾で帰ってこないから…じっくり話すわね…えっと・・どこから話すべきかな・・」

…私は幼い頃から人と関わるのが特別苦手だった。おかげで教室でも影の薄い存在だったわ…
けど、そんな私を唯一、友達として見てくれた人がいた。それが亜希子よ…
私と亜希子は無二の親友だった。
共に学び、共に遊び、どんな時でも助け合って学校生活を繰り返してきた。
そんな高二の春・・私と亜希子は康夫…夫に出会ったわ。
出会ったうちに、私は康夫に惹かれていた。でも…もっと早く気がつけばよかった。
亜希子も康夫さんを気に入っていたと言うことに。
高三の春、康夫さんに告白された私は、つい亜希子を蔑ろにしてしまった。
亜希子…ずっと私の傍にいてくれていたのに…私はその亜希子を裏切った上、蔑ろにした。
そして月日は経ち、私は康夫さんと結婚をして、子供を二人産んだ。それが萌と可恵…
一方、亜希子はお見合い結婚をし、あなた達を産んだ。
でも・・今から十年前、私はこの家、この部屋に亜希子を呼んで、ゆっくり話した。
でも…亜希子の傷は、相当なようで・・もう、見てられなかった。
そしてその数日後、夫は交通事故で亡くなった…悪夢を見ているかのようだった。
そして萌や可恵までもが、私から離れていった。
萌は傷ついた。そして可恵は死んでしまった…
私は、決して高望みなんてしていない。ただ、平凡に幸せに暮らしたいだけ…
なのに、親友、夫、そして娘までもが…私から離れていくの…
大切なものを全て奪われて、今は私は…この洋館で、萌と二人で暮らしていくことにしたの・・

続く
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紗那 #6☆2006.02/26(日)15:03
第四話 すれ違い

俺たちが出逢ったのは、二年前の、桜が満開の春のことだった…

小学校の頃から日本全国津々浦々転々々と転校三昧の俺。
まったく、やってらんないよ。しかも今度は金持ち学園だって言うし。
「はあ・・」
制服の採寸に向かう俺は、いらいらの絶頂に達していた。
「あら、驟雨。今度はここの学校になったの?」
「あーっ!知可…」
その上、昔引越した幼なじみの知可まで同じ学校らしいし!
「私はもう、採寸終わったよ。先帰るね」
「まったく・・」
知可とすれ違ってから、俺は採寸室まで向かった。
「はい、こっちに並んで下さいね」
先輩に案内されて、俺は順番を待った。
「お…!?」
俺の前に座っているのは…かなりの美少女だった。
「あら、編入生?見かけない顔ね」
「ふぁっふぁっふぁいぃい〜!」
まともに顔が見れない俺。その女子は、くすっと笑って言った。
「私は秋山萌。これから中等部でお世話になるわね。」
「おっ俺は土浦驟雨!編入生です!」
「そんなに緊張しなくていいわよ;驟雨君」
「わぁ〜お///;」
興奮のあまり凄い声を出してしまった俺。最悪だ…これで第一印象は台無しだ。

その後…入学式を終えて、中等部でも生活が始まった。
「ふふ〜ん♪今日はカレーライスだ〜!」
利用可能になった食堂で昼食を食べることにした俺。
「驟雨、張り切ってるわね・・」
「まあな♪」
知可と一緒に、食堂で昼食を食べていると・・
「あ」
「どしたの?驟雨」
「秋山だ…」
秋山が、男子と一緒に昼食を注文している。
髪を切ったのだろうか。長かった髪はとても短くなっていた。
「?あ、本当だ、秋山さんね。…驟雨、知り合い?」
「あ、ああ、そうだよ…」
俺は急いで席を立って、秋山の方へ走っていった。
「・・誰?」
「…覚えてないのか?俺だよ。土浦驟雨!」
「おい、可恵。こいつ、お前の知り合いか?」
「知らない。行こ、唯。」
秋山は、その男子と一緒にすたすたと行ってしまった。俺はそこに立ち尽くしていた。
「なんで、あの時知り合ったのに・・急に冷たくなるんだよ・・」
間違いなく、名札には『秋山』と書かれていたし、顔もそっくりそのまんまだ。
なのになんで…俺はそんな気持ちでいっぱいだった。

「ああ、あれは秋山さんの双子の妹の可恵ちゃんでしょ」
「え゛」
「そっくりだけど、髪の長さで分かるでしょ」
「なあ〜んだ、そうだったのかよ…;」
あとで知可に事情を聞いて、俺は更にがっくりした。まったく、最悪の出逢いだったよ…

続く
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紗那 #7☆2006.02/26(日)17:37
第五話 家庭科の時間

三時間目は、家庭科…調理実習だった。
「今日はアスパラガスと玉ねぎの油炒めを作ります…」
家庭科の先生が前で話している…私は三角巾とマスク、エプロンを着けているところだった。
「秋山さん、ぼけっとしてないで早くして」
「あ・・ごめん」
同じ班の知可ちゃんは、何故か私に何かにつけて対抗している。
「さ、日野君。アスパラガス切ってよ」
知可ちゃんが私を恨む理由は、二つ考えられる…
一つ目は、私に生徒会役員選挙の得票数で負けたこと。そしてもう一つは…私が帝を好きなこと…

その頃四組では、数学の実習中だ。
「なあ・・哲、萌と帝がいじめに遭ってるってよー…探偵部員として助けてやりたい…」
「まあな。それより唯。二次方程式の原理は
AB=0 ならば A=0 または B=0 だからさ…
問題を変形して(x−p)(x−q)=0になるならば
x−p=0 または x−q=0 だろ。
移項すると, x=p または x=q だ。
x=p,q…授業聞いとけよ;」
「うわぁーあ、計算一からやり直しじゃん・・最悪」
「本当、お前の成績じゃ高等部へ行くのはやばいぞ;今日から特訓か?」
「そうだな、できれば雄二に…」
「俺じゃ頼りないのかよ…ちくしょう;唯に言われるとは」

「…痛っ」
帝の左の人差し指からは、血が溢れ出ている。包丁で切ったらしい。
「大丈夫?帝」
「あ、ああ・・」
すると、知可ちゃんが駆けてきた・・
「日野君、大丈夫?ほら、ティッシュ…秋山さんも見てないで何かやってよ!」
「あ、うん・・」
・・知可は私を押しのけて、さっとエプロンを脱ぐと、帝の手を引いて保健室へ向かった・・

続く
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紗那 #8☆2006.02/26(日)17:55
第六話 告白

「あれ、保健の先生いないねぇ。」
「ああ・・」
「じゃ、消毒してばんそこえーど貼っとこうよ」
「…プッ」
「どうしたの?」
「いや・・面白いね。『ばんそこえーど』って・・」
「そう?私の口癖でね…」
言いながら吉田は、ベッドの上にチョコンと座っていた俺のサンダースを抱き上げた。
「このサンダース…毛並みが綺麗だね。」
「そうか…幼なじみにも・・それ、言われたっけ…」
(幼なじみって、秋山さんのことでしょう…どうせ)

「ほい。ここも間違えてるぞ…
( a 2 + b 2 + c 2 )( x 2 + y 2 + z 2 )≦( ax+by+cz ) 2 等号がなりたつのは
x a = y b = z c のとき。本気で頭大丈夫か?」
「うぁい・・マジ心配…ん。一組、調理実習終わったんかな…」
見ると、萌がうつむき気味に教室へ戻っていくのが見えた。
「もe…」
「人の心配より自分の心配からしろよ・・」
「でも・・あれ。帝がいない…」
「唯。お前の場合、人の心配する余裕はないぞ…成績と共に内申もやばそうだしな」

放課後、生徒は部活動に励んでいる。
「さ、この書類を生徒会室まで運ばないと・・」
運動場の近くの中庭を通って、生徒会室へ向かっていたそのとき―
「きゃ…」
野球部のボールが飛んできて、書類が宙を舞って、芝生に落ちてしまった。
「すっすみません!///」
野球部の服を着た男子生徒が、ボールを拾いに来た…土浦君だ。
「あ、そのっえと!…すみません。」
「え…?別にいいのよ。じゃ」
「ちょっ…えと・・あの・・っ好きです!」
「…」
「あの、えと!・・その、ずっと返事待ってますんで!」
土浦君は慌てたように言うと、さっと帽子を被りなおして行ってしまった。
「…土浦君・・」
嵐の予感だ。また…以前のような、悲劇になったら…雲行きも怪しい。

続く
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紗那 #9☆2006.02/26(日)18:10
第七話 威風堂々

「おっはよ〜ん、萌!もうすぐ修学旅行だよ!」
「あ・・うん」
修学旅行…三泊四日だ。
「あ、私ちょっと行ってくる」

―「返事は 明日の朝 二回の踊り場で」―。

「土浦君・・」
案の定、土浦君はもう踊り場で私をずっと待っていたらしい。
「…秋山さん、俺は…君が好きです」
土浦君は、真剣な瞳でまっすぐ私を見つめて、力強い声で言った。
「・・ごめんなさい。あなたの事、とても大好きで大切。でも・・
私は心に決めた人がいるの。だから…お付き合いは出来ません…ごめんなさい」
「いえ、知ってた…日野だろ。秋山さんの好きな人は…」
私は頷くと、その場を立ち去った。

「…泣くなよ、驟雨!男なんだから・・」
涙腺の調子がおかしかった。でも、正々堂々と告白した。
その涙は満足感と誇りの思いの他なかった。

「帝君」
「ん」
本を読んでいた俺の横に、吉田が来た。
「指、大丈夫?」
「まあな・・それよりさ、萌に色々…嫌がらせをするのは、やめろよ」
「え;」
「いくら萌と俺が仲いいからって萌にあたるのはやめろ」
「あ…」
吉田は、何も言わずに涙ぐんで席へ戻っていった。まったく・・自業自得だろ。

来週からは修学旅行だ…カップルが急増することだろう。

続く
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紗那 #10☆2006.02/26(日)18:11
第八話 大切なもの

「はーい、こっち並んでー。」
ポケディアナ学園では十一月に修学旅行がある。
三泊四日、民宿モナミに泊まり、美術館などを見学するのだ。
「ったく・・唯、着替え持ってきた?」
「くそ、俺だってそんくらい・・」
「はいはい、藤川君日野君静かに…」

あっという間に一日目の夜。
シャアア…俺は個室でシャワーを浴びていた。
『日野君。包丁で指切っちゃったんだね・・はい、ばんそこえーど』
保健室での知可の言葉が頭をよぎる。
「くそっ…知るかよ!」
苛立ち紛れにシャワーを止め、ドアを乱暴に閉めた。
『コンコン』
「萌?いるなら返事しろよー」
「あ・・ふん。」
「おい!そうすぐにすねるなよ。出てこいよ。吉田とはなんでもないって!
あいつが勝手にまとわり着いてるだけで・・」
「・・でも、満更でもないみたいじゃない」
「…おい。勘違いするなよ」
「だって帝、知可ちゃんにだってあやふやじゃない…私は帝が好きなのに・・もやもやして困るよ…」
そのとき、萌達の部屋の向こう側の廊下から、知可が帰ってきた。
「吉田は・・アイツは結局土浦だろ。俺のこと好きとか言うのは、あいつは気まぐれだから」
「…!〜///;」
かあっ…廊下の向こうで会話を聞いていた知可は、再び一階へ駆け下りていってしまった。
「出てこいよ。萌・・顔見せろよ。早く…」
「・・帝。私の顔を見たいのは…私が可恵に瓜二つだからでしょう・・?」
「…っんだとぉっ!!?本気でんな事思ってんのかよ!」
ドカッ。帝はなんと火事場の馬鹿力でドアをぶっ壊した。
「あんなあっ!俺がそんなに軽い男だと思ってんのか!?」
「え…え…?」
普段冷静な帝が、かなり興奮して怒っている…萌はあっけに取られた。
「・・わからない。俺、自分の気持ち…
でも…お前の夢を、毎夜見る。毎晩、毎晩、夢の中で切ない・・可恵は関係ない。」
「み・・かど?」
「萌…好きだ」

恐ろしいほどの静けさの中、心臓の鼓動が一秒ごとに高まっていく・・

続く
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紗那 #11☆2006.02/27(月)17:40
第九話 優しき雨の少年

二人の会話を、外で静かに聞いていた唯。
「兄貴・・萌・・」
唯は涙ぐんでいたが、満足だった。やっと、二人が幸せになれたのだから。

ダダダダダッ!
「ぅわっ!?」
ラウンジでジュースを飲んでいた俺の胸元に、知可がいきなり飛びついてきた。
「な、なんだよ!」
「驟雨・・驟雨!もう、あの二人は両想いよ…もう手遅れだった」
知可は俺に飛びついたまま泣いている。
「知可…俺もさあ・・先日、萌にふられたんだ」
「え」
「告白したよ。堂々と・・勿論返事は残念な結果だったけどな」
「そうなの・・」
「だから俺もお前と同じ気持ちだよ・・な」
「うん…ありがとう驟雨!大好き!」
「なっ・・///」
優しき雨の少年よ…道標をありがとう。

二日目の朝…
「帝。起きてよ。誰か来たらやばいわよ;」
「んなー・・じゃあ、早く行こうぜ」
脳が半分眠ったまま着替える帝に、髪をとく私。二人とも、部屋の出方に迷っていた。
「先生に見つからないようにしないとね・・」
「よし、せーので開けるぞ」
「せーのっ」
ガチャ…何という運命の意地悪!ドアのまん前に、担任が通りかかったところだった。
「…(絶句)」
血の気が引いた。顎が震えて言葉が出ない。
「お前等ーっ!ここ一応『中学』の『修学旅行』だぞーっ(泣)」
「わーん;;」

帰りは美里さんが車で送ってくれるらしい。でも…私達は反省文を書かされた。
「最悪;先生なんでよりによって・・」

続く
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紗那 #12☆2006.02/28(火)01:49
第十話 あの日あの時

「亜希子・・」
私は洗濯物を干しながら、ため息を一つついた。
亜希子と康夫と、三人で過ごした日々が懐かしくなったのだ。
「許してね…私を許してね…」
洗濯物に、涙がしみた。私は涙が止まらなくなった。
「亜希子…可恵…萌・・私のせいで…」

「元気な双子の女の子ですよ、秋山さん!」
十五年前―二人分の元気な産声と、看護婦さんの声。
「佳代子・・」
二人が産まれた後、病院まで駆けつけた康夫。
「元気な女のこの双子でしたよ、旦那さん。まだ一週間は安定するまで様子を見ましょう」
「はい…」
産後の経過がどうも悪く、車椅子に乗って移動していた私。
康夫と二人で、まだ名前もない赤ちゃんがたくさんいるあの部屋へ向かった…
保育器の中に、小さな手をした二人の女の子がいた。じっとこちらを見つめていた。
「あれが・・俺らの子供か」
「そうね。」
とてもそっくりな二人の、少し小さめの女の子。
「…萌・・」
「え?」
康夫が、突然呟いた。
「『萌』と『可恵』なんてのはどうだ?」
「え・・」
「萌。」
康夫が呟くと…二人のうち、一人がこちらを弱々しい目で見た。
「良かった…気に入ってもらえたようだな。確かこっちは長女だよな・・」
「そうね…可恵・・」
今度は私が呟くと、萌の横にいた次女がこちらを向いた。
「そんな・・もう、この名前、変えられないわね。決まりね」
「そうだな」
…こうして、二人の名前は決まった。もう十五年も前の話だ…

「亜希子…亜希子!」
亜希子から康夫を奪ったのは私。たとえ許してもらえなくても…謝らないと。
すぐによそ行きの服に着替え、家を後にした私。
『ピンポーン』
日野家に着いた私は、息を切らしながらチャイムを押した。
「はい・・」
「亜希子…ごめんね。これからも…昔みたいに笑い合いたい。駄目かな…?」
「・・佳代子。思いつめないで。あなたと康夫さんが結ばれなければ…
萌ちゃんと可恵ちゃんは生まれてこなかったのよ。だから・・」
「亜希子…!!」
涙でいっぱいの瞳で、お互いの顔を見つめあう二人。そんな二人は、再び…

続く
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紗那 #13☆2006.02/28(火)04:46
最終話 時の旅路は永遠に

修学旅行の後・・十一月末には年に一度の行事、合唱コンクールがあった。
「楽しみね。亜希子」
「そうね…我が息子達の晴れ舞台だもの」
見に来ていた佳代子と亜希子は、顔を見合わせて笑った。

「大丈夫よ。あんなに練習したもんね・・」
「そうだな…萌はソプラノだったよな」
「うん。」
近所のホールで開催される合唱コンクール。クラスの団結力が最も問われる行事だ。
『では、一年生の部―プログラム1番 4組…』
一年生の新鮮な歌声。比較的曲も簡単だし、三年生に比べれば序の口だ。
「いい曲だね…」
「本当。」
うっとりする私。帝はじっと、舞台を眺めた。
「あ、これで最後のクラスだ…」
最後のクラスの合唱が始まった。課題曲に引き続き、自由曲―。

『さて、十分休憩の後は三年生の部です』
いよいよだ。俺達一人一人の歌声が一つになるのは―…
『ただ今より三年生の部―プログラム1番 4組 課題曲『大地讃頌』に引き続き自由曲『走る川』…』
四組の指揮者が、礼をした後手を振り出した。
和音の連なりが美しい課題曲、四組の団結力は中々のものだった。
「哲史も唯もよく声出てる。一生懸命なんだな―・・」
そして自由曲も終わり、プログラムは進む―。
『プログラム4番 1組 課題曲に引き続き自由曲『ひめゆりの塔』
指揮 秋山萌さん 伴奏 吉田知可さん』
ついにきた。私達の出番―私が台に立って、知可ちゃんはピアノに座った。

初めは、特に男子がふざけてばっかりで、その度知可ちゃんや私は怒鳴ってばっかりで…
でも、ずっと練習してきた今・・こうして、クラスが一つになっている。
…うん、いいぞいいぞ…うまいうまい。楽しいな―…

しばらく歌うと、歌詞中にアルトのソロがあった。
私は大きく手を振り上げて、精一杯の実力を見せた。アルトのソロも中々上手い。
(届け…一組の歌声・・これが皆の・・私の精一杯―…)
「…ここの指揮者、凄く上手くない?」
「本当。さすが生徒会長・・」
歌が終わった。私は礼をすると台からおりた。

「さて、結果発表を行います―音楽教師の斉藤先生、前へ―」
音楽教師が舞台の前に立って、マイクを設置した。
「緊張するよ〜・・」
「本当。もうビリなのは分かってるんだからあ〜;」
『…三年生の部 優良賞 六組 優秀賞―』
(駄目だ・・!)
『一組』
「・・やったぁああぁぁあ!」
代表で、表彰状を取りに行く私。興奮で胸が弾んでいる。
『最優秀賞―四組』
「わあっ…」
四組の指揮者も前へ出て、トロフィーと賞状を受け取っている。
『では全校合唱『この地球の何処かで』を歌います。指揮 秋山萌さん 伴奏 日野帝君・・』
―最後だ。
「行くよ、帝」
「ああ」
私と帝は、お互いほほ笑むとライトで明るく照らされた舞台へと歩き出した。

―歩いていく道は きっと違うけれど
同じ空見上げているから この地球の何処かで―

終わり
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紗那 #14☆2006.02/28(火)05:04
この地球の何処かで〜番外編 雄二のラブロマンス〜

「何だこりゃ」
朝、上履きに履き替えようとした俺の靴箱に、妙な手紙が入っていた。
「どした、雄二…あひょひょ、それってまさか…ラブレター!?」
「ちょっ・・唯、黙ってくれよ…。」
ハイテンションに騒ぐ唯を置いといて、俺は手紙の封筒をとりあえず開けることにした。
『真田雄二様 放課後噴水の前で待ってます
二―二 飯山つぐみ』
「え・・『飯山』って、探偵部の二年生にいるじゃん!」
飯山つぐみ―探偵部の新部長候補だ。
「まあ、放課後行かないとな・・噴水の前に」
面倒だし、女子には興味ないんだけどな…行かないと気の毒だろ。うん。

あっという間に放課後。俺は噴水の前に駆けていった。
「つぐみちゃんっ・・」
噴水の前には…二年生の飯山つぐみが座っている。
「真田先輩…来てくれたんですね。あの・・それで…えと」
「なっ何?つぐみちゃん」
「あのっ!藤川部長との仲を取り持ってほしいんです!お願いします!」
ゴン。俺の血の気は一気に引いた。告白じゃねえじゃんかよ…紛らわしいな。
「…分かったよ。俺が哲との仲を取り持ってやるから・・」
無気力に返事をすると、俺はすごすごと噴水を後にした。

帰り道。どうも俺はどん底に居るようだ。
「あ、あの…真田君」
「んー・・」
振り返ると…『三年二組の松田聖子』と呼ばれる美少女・浅野怜美。
「帰りね…お茶していかない?おごるわよ」
「えっ…ぇえっ!」
なんと、あの萌と人気を二等分する美少女にお茶に誘われてしまった・・
「…真田君、私と付き合わない?」
「えっ!」
いきなりのお茶に誘い&告白。俺は状況整理にてこずっている。
「お試しでもいいよ。今度一緒に出かけようよ」
「わっもちろん!喜んで・・」
興奮ゆえに不自然な返事をしてしまったが、嬉しさでいっぱいだった。
「俺も彼女が出来たぞぉー!しかも超ど級の美少女!」
家に帰って、早速姉貴に自慢しまくる俺。姉貴は呆れ顔でこっちを見ている。
「良かったわねん。」
「ふふっ、まあな…よーし、初めてできた彼女だから大切にしてやらなくちゃ!」

終わり
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ぴくの〜ほかんこ