糸杉美理佳 | #1★2003.11/30(日)12:11 |
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プロローグ ジークとリナ ここはオーレ地方から北西に10000km離れた場所にある、「フィリアル地方」。 果てしなく続く荒野を、二人の人間が歩いている。 …少年と、少女。 彼等は旅に出ているらしい。 「ジーク、そろそろ町が見えてくるんじゃない?」 少女が、隣を歩いている少年に声をかけた。 「あぁ、そうだな。少なくとも一つくらいは、例の件の手がかりが掴めそうだしな」 ジークと呼ばれたその少年は、陽光の如き金色の髪を掻き上げながら言った。 そのルビー色の瞳は、遥か彼方に薄ぼんやりと輪郭を見せている、フィリアル地方第1の都市、ピュアシティを捉えていた。 「よしっ、リナ、どっちが先に辿り着くか、競走だ!」 ジークが少女に言い、勢いよく駆け出した。 「きゃっ、ちょっとぉ!よーっし、負けないわよーっ!」 リナと呼ばれた少女が、銀色の髪をた靡かせながらジークの後を追って走っていった。 「ここがピュアシティか…」 ジークが摩天楼を見上げながら言った。 「例の手がかりになりそうなものってあるかしら」 リナが地図を片手に、きょろきょろと周囲を見回している。 ビルとビルとの谷間に分け入り、二人はさらに進んだ。 ふと、リナがあるものを見つけた。 「ちょっと、ジーク!こっちに来て!」 「どうしたんだ?」 リナに誘われるままにジークがそっちに近づくと、そこには1匹の、青い獣が倒れていた。 首の周りに鰭が生えている…そう、シャワーズである。 「おいっ、大丈夫か!?」 ジークが近づくと、シャワーズはやおら頭を擡げて、牙を剥いて威嚇した。しかし、余力が無い所為か、再びぐったりと項垂れてしまった。 「大丈夫だ。俺達は別に悪いやつらじゃない。ただ、お前を助けに来ただけだ」 そうジークが言うと、シャワーズは弱々しく目を開け、彼を見た。 「リナ、こいつに蘇生の術を頼む」 「わかったわ」 リナがシャワーズの、わずかにひやりとする脇腹に手を触れると、シャワーズは抵抗もせず、大人しく彼女を受け入れた。 リナの手が青白く輝き、その光がシャワーズの体を包み込む。 暫くして、シャワーズはすっかり元気を取り戻して、起き上がった。 「よかった…でも、どうしてこんなところで倒れていたのかしら?」 「さぁ…」 「…助けてくれてありがとうございます」 突然、そのシャワーズが口を利いたので、二人は驚いた。 「お、お前…喋れたのか!?」 「はい…」 「それなら教えて。何故、こんなところで倒れていたの?」 「悪いやつらに追いかけられていたのです…」 「で、どんなやつらだ?」 「はい、このフィリアル地方一体に伝わる伝説の鍵を聞き出そうとして…」 「何ですって、例の伝説の件で!?」 リナがそのサファイアのような目を驚愕で見開いた。 「えぇ。あなた方も伝説の件を知りたいのですか?」 「あぁ、そうさ。俺達には使命があるんだ」 ジークが聊か興奮したような口調で言った。 果たして、伝説の真相とは?そして、ジーク達の使命とは!? 続く! |
糸杉美理佳 | #2☆2003.11/30(日)12:34 |
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第1話 フィリアル地方の伝説 「ここだと連中の目につくでしょう。こっちに来てください」 シャワーズに導かれて、二人は長いこと使われていない古びた倉庫に移動した。 「声を聞かれないように、念には念を入れて、だ」 ジークが人避けと防音の結界を張った。 一通り済んだ後で、ジークとリナに向かってシャワーズは話し始めた。 「ここには太古の昔から、『虹の宝玉』という秘宝が眠っているのです。その宝玉が放つ光が、この世界を変えてゆくのです。悪しき心の者がその力を解き放てば、世界は死と暗黒に支配されてしまうでしょう。同様に、清く正しい心を持つ者が力を解き放てば、世界を新しく蘇らせるのです」 「成る程…」 「それで、あなた方の使命とは?」 「俺達はその『虹の宝玉』とやらを守るために旅に出ているんだ」 「『虹の宝玉』は、それを目覚めさせる鍵となる7つの宝玉が集まった時に姿を現すの。今、その宝玉を探しているのよ」 「きっとあの連中は、それが狙いなのでしょうね…7つの宝玉を集め、この地方の中央にある聖なる湖『イリス湖』に浮かぶクリスタルアイランドの神殿に持ち込み、『虹の宝玉』を目覚めさせて世界を征服しようと企んでいるのでしょう」 「それで、あいつらがお前を狙ってた、ってことか」 「はい…私はイリス湖で暮らしています。だから、連中にとって私は情報を聞き出すのに好都合だったのでしょう」 「へぇっ!お前、そんな凄いところで…」 ジークは驚愕で目を瞬かせた。 「お願いです、私達を助けてください!そして、絶対に『虹の宝玉』を連中の手に渡らせないでください!」 「わかったわ、あなたのためにも、そしてこの世界のためにも、何が何でも絶対に『虹の宝玉』を守るわ!」 リナがきっぱりと言った。ジークも頷く。 「本当ですか!?」 「あぁ、勿論さ!」 「あ、ありがとうございます!」 シャワーズは嬉しそうに尻尾を振った。 「じゃぁ、私達が送っていってあげるわ」 「どうするんですか?」 「俺が人避けと防音の結界を張り、リナがお前を癒した。ということは、どういうことかわかるだろ?」 「え…」 リナが指をシャワーズに向けると、考える暇も無く、シャワーズは金色の光に包まれて浮き上がった。 「こ、これは…!?」 「一種の魔法よ。これは他人をテレポートさせる術なの」 「ついでに守りの術も一緒にかけておいた。これで安心してイリス湖に帰れるだろう」 シャワーズは暫く目を白黒させていたが、事を理解したらしく、「ありがとうございます」と言い、その直後には姿は掻き消えていた。 「さて…7つの宝玉を連中の魔手から守る前に、ちょっと休んでいくか」 「えぇ、そうね」 二人は倉庫を出ると結界を消し、ポケモンセンターに向かった。 続く! |
糸杉美理佳 | #3☆2003.12/02(火)13:24 |
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第2話 宝玉の守人(前編) 次の朝、二人はポケモンセンターを後にした。 「イリス湖に浮かぶ島、クリスタルアイランドか…」 ジークは昨日のシャワーズの言ったことを反芻していた。 「7つの宝玉を揃えない限り『虹の宝玉』は目覚めないとはいえ、既に連中が宝玉を集めていたら、どうしましょ…」 リナが心配そうに言った。 「安心しろよ。7つの宝玉は堅固な守りの中だ、簡単に手出しは出来ないと思うぜ」 「まぁ、楽観的すぎる意見ね」 ピュアシティを出ると、再び荒野が広がる。 第2の都市、リーフタウンへはかなりの距離があるので、その間に連中が宝玉を奪っていないとも限らないのだ。 「…ん?あれは何だ?」 ジークが目を凝らすと、遥か遠方に黒い服の集団が見えた。 「…もしかしたら、あいつらがその…!」 「えぇ、間違い無いわ!」 二人は急いでそっちに駆けていった。 「この辺りで間違い無いな?」 「はっ!確かに例のオーラを感じましたので!」 「よしよし、これでやつらは袋のピカチュウだ、ふははは…」 「やい、お前ら!ここで一体何をしてるんだ!」 「むっ?何だお前達は!」 突然飛んできたジークの声に、黒ずくめの集団はいっせいに振り返った。 「そんなことはこの際どうでもいい。さぁ、何をしているのか言え!」 「それはまだ言えない…。ただ一つ言えるのは、我々が『守人』を探しているということだけだ」 頭立った一人が言った。 「『守人』…!?」 リナがぴくり、と反応した。 「あぁ。しかし、お前達に我々の秘密が知られては困る…」 「お頭、そろそろ引き上げましょう!」 「そうだな…ふふっ、お前達とはまた別の場所で会うかもしれないな。我が名はカイン、覚えておくがいい…。さぁ、皆の者、撤収だ!」 「ははぁっ!」 そう言って、カイン率いる黒ずくめの軍団は去っていった。 「何なんだ、あいつら…確かカインとか言ってたな、あのボス格の野郎…」 「きっと、宝玉を狙っているのよ!」 「だろうな…だとしたらとんでもないことになるのは間違い無いな。いずれにせよ、やつらの計画を阻止せにゃならん!」 二人がどんどん進んでいくと、不意に周囲の雑草がガサガサと揺れた。 「今度は何だ!?」 果たして、その正体とは!? 続く! |
糸杉美理佳 | #4☆2003.12/03(水)13:51 |
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第3話 宝玉の守人(後編) 二人は一旦道を外れ、丈の長い草(殆ど枯れ草ばかりだったが)の茂みの中に分け入った。 と、そこで二人が目にしたものとは!? 「こ、これは…!」 ジークが目を見開いた。 そこには5匹のポケモンが蹲って、何かに怯えるようにびくびく震えながら固まっていた。 「どうかしたのか、お前ら?」 ジークの声に5匹ははっと顔を上げた。そしてジークの顔を見るや否や「ひぃぃっ!;;;」と引きつった悲鳴をあげた。 「あ、大丈夫だ、心配するなよ。俺達はあのカイン達の仲間じゃない。寧ろやつらの敵だ」 「ほぇ…?」 「私達はやつらの手から『虹の宝玉』を守るという使命を与えられたの。だから安心して」 リナが5匹を宥めるように言った。 これで漸く安心したのか、5匹は周囲を警戒しながらも二人を招き入れた。 「それで、どうしてこんなに怯えていたんだ?」 ジークが聞いた。青い鰐のようなポケモン…アリゲイツが答えた。 「実は俺達、『宝玉の守人』と呼ばれる神聖なポケモンでな、あいつらに追っかけ回されていたとこだったんだ」 「それじゃ、やつらはお前達を探していたのか!」 「お!知ってるのか!?」 「あぁ、さっきやつらに出くわしたんだ」 「なんてこった、こんなに近くまで来ていたとは…!」 「見つからなくてよかった…;;;」 頭と腰に赤い斑点模様のあるハムスターのようなポケモン…マグマラシが冷や汗をかいた。その言葉を受けて、頭に虫食いの葉っぱを生やした恐竜のようなポケモン…ベイリーフが同調する。 「ところで、『宝玉の守人』って言ったけど、その宝玉はあなた達が所有してるの?」 リナが筋骨逞しい人間のようなポケモン…ゴーリキーに尋ねた。 「あぁ、それもお前達同様、神から与えられた使命なんだ」 「それ故に様々な危険に晒されているが、これも運命として甘んじて受け入れているのさ」 長い髭と太い尻尾を生やした狐のようなポケモン…ユンゲラーが続け様に言った。 「なーるほどな。じゃぁ、何だったら、俺達と一緒に来るか?」 「え゛!?;;;」 5匹は目が点になった。冗談じゃない、ただでさえこんなに危険な目に遭っているのに…と言おうとしたが、二人共こんなに優しいし、自分達の危機も救ってくれたので、何か恩返しをしようと思い、喜んでついていくことにした。それに、彼らだったら使命だけでなく、彼ら自身の意思で自分達を守ってくれるだろうから。 「紹介し忘れてすまん。俺はジークだ。こっちは連れのリナ。よろしくな」 「よろしく。これから仲良くしましょ!あなた達は何があっても絶対に私達が守るわ!」 「あ、あぁ、よろしく…」 こうして二人は、「宝玉の守人」を守りつつ、彼らと旅を続けることになったのだった。 その先でさらなる危機に晒されることなど、知る由も無く…。 続く! |
糸杉美理佳 | #5☆2003.12/04(木)14:00 |
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第4話 リーフタウンの騒動(前編) 「宝玉の守人」と呼ばれる5匹のポケモンを守りつつ仲間に加え、さらに旅を進めるジークとリナ。 「それにしても、カインは何が目的で世界征服を狙っているんだろう…」 「それはまだわからないわ…でも、いずれにせよ酷いことになるのは確かだわね」 日が傾き始めた頃、遠くにぼんやりとリーフタウンの輪郭が見えてきた。 「あそこがリーフタウンか…んぉ?何か様子が変だぞ!」 微かに漂うただならぬ気配に、ジークはすぐに反応した。 「どうしたんだ?」 5匹は心配そうにジークの様子を伺った。 「……こりゃやばいことになった…;;;」 ジークのこめかみを一筋の汗が伝い落ちた。 「やばいこと、って…?;;;」 「…あぁ、その通りだ。野郎どもが町中をひっくり返さんばかりに、お前達の居所と宝玉の在り処を捜している…!」 途端に、5匹の顔が蒼白になった。 「やつらが撤収するまでは迂闊に近寄れないわね…」 リナが言った。5匹とジークも頷く。 「そろそろ日も暮れるから早いとこ町に入りたいが、この騒動じゃ……お、そうだっ!」 ジークが何かを閃いた。 「どしたの?」 「こうするんだよ…ゴニョゴニョ…な?」 ジークがリナと5匹に耳打ちした。 「…それって面白いかも!」 リナが聊か興奮したような口調で言った。 「では、ディオ(ベイリーフ)とルーイ(マグマラシ)はこれをこうして、ソアラ(アリゲイツ)は俺と一緒にこれをこうするんだ」 てきぱきと指示を与えるジーク。 「フィル(ゴーリキー)、お前はこれをケリア(ユンゲラー)と一緒に!リナ、お前はこれをこうしろ」 「オーケー、わかったわ」 こうして、ジークの提案によるリーフタウンへの移動が始まった。 このジークの作戦は、一体何を意図して立てられたものなのだろうか? そして、この作戦は功を奏するのだろうか? 続く! |
糸杉美理佳 | #6☆2003.12/10(水)11:02 |
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第5話 リーフタウンの騒動(後編) カイン率いる謎の軍団が「宝玉」とそれを守る「宝玉の守人」と呼ばれるポケモンを探して荒らし回っている最中のリーフタウンに潜入するのは、はっきり言って自殺行為である。 しかし、ジークはなるべく危険を最小限に食い止められるよう、とある秘策を思いついたのだった。 「これで準備OKだな…。よっしゃ、行くぜ!」 一方こちらは騒動の渦中のリーフタウン。 「お頭ぁ、ここには連中の気配はありませんよ?」 「馬鹿言え!さっきは確かに連中の気配がしたんだ、それにこの古文書を見れば間違いあるまい!宝玉は絶対にここにある!諦めずに探し続けろ!」 「は、はぃぃっ!;;;」 と、そこに一人の白く長い衣を纏った、年老いた僧侶が現れた。 「すみませぬが、道を開けてはくれませぬかな?」 「ん?どうしたんだ?」 「実は今しがた、娘さんが一人、亡くなられてしまわれてな。これから葬儀に向かう途中なのですじゃ…」 彼の後ろには、棺桶を担いだ男が5人、皆沈痛な表情をしていた。 どれどれと、軍団の一人が棺の蓋を開けると、そこには美しい少女が、冷たくなって横たわっていた。 「こっ、こんなに可愛らしいのに…若くして亡くなられて、皆様もさぞかし辛いことでしょう…」 不覚にも涙を流してしまった団員。 「そ、そうか…それならば早く葬式を挙げてやらんと、浮かばれないだろう…さぁ、早く行くがよい…」 カインも必死で涙を抑えながら、僧侶達を行かせた。 「どうもありがたく存じます…」 僧侶は深々と頭を下げ、ゆっくりと進んでいった。 「…あの娘さんのためにも、今日のところはこれで引き上げるとするか…」 「はい、その方がよろしいかと…」 軍団は(ご丁寧に後始末をして)静かに引き上げていった。 連中が引き上げていったのを見届けると、僧侶の顔に勝利の笑みが広がった。 「ひっひっひっひっ、作戦大成功だぜ!」 笑いながら頭巾と髭を取ると、そこにはジークの顔があった。 そう、この僧侶、実はジークが変装した姿だったのである。 「これでやつらはまんまと騙された、ってわけね!」 棺桶からむっくりと起き上がった死装束の少女は、そう、リナだ。 そして、棺桶を担いでいたのは、ディオ、ルーイ、ソアラ、フィル、ケリアの「宝玉の守人」達だった。 「うひゃひゃひゃひゃひゃ!あいつら、俺達があんなにすぐ近くにいたのに、ぜーんぜん気づかないんでやんのー!」 5匹は腹を抱えて爆笑した。 「当たり前だ!俺とリナが『気配を消す術』をかけといたんだもん!」 「さぁさぁ、あいつらが戻ってこないうちに、ポケモンセンターに行きましょ!」 見事に作戦を成功させたジーク達。果たして、次に彼らを迎え撃つ試練とは一体…? 続く! |
糸杉美理佳 | #7☆2003.12/12(金)12:50 |
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第6話 森とポケモンと宝玉 リーフタウンは、名前の通り緑豊かな都市である。 荒野の広がるフィリアル地方からすれば、そこは正にオアシスといったところだ。 その美しい自然と安らぎを求め、遠路遥々オーレ地方からやって来る旅人もいるという。 「そりゃまぁ、オーレ地方は砂漠のど真ん中にあるしな」とジークが言った。 ただ一つ、このフィリアル地方とオーレ地方が違うところは、野生ポケモンが出現するかしないか、だ。 オーレ地方は一面砂漠ということもあり、野生ポケモンは生息していないが、フィリアル地方では野生ポケモンに出会うことが出来るのだ。 さて、このリーフタウンから少し離れた場所に、深い森が広がっている。 そしてその森には、ある重大な秘密が隠されていた…! 「それで、カインの言ってたことは本当なの?」 漸く辿り着いたポケモンセンターで、リナがジークに尋ねた。 「あぁ、きっとこの町の何処かに『宝玉』の一つが隠されているに違いない…」 ジークが重々しく言った。 「今夜はゆっくり休んで、明日の朝にでも早速ここを調査しよう」 「えぇ、そうしましょ…ほら、みんなもおいで。寝るわよ」 二人と5匹はポケモンセンターで夜を過ごした。 朝になった。早速調査に出かける皆。 カイン達に気づかれぬよう、目立たない格好で町を探索する。 そして、一際青々とした森を見つけた。 ふと、ジークが何かの気配を感じ取った。 「どうしたの?まさか、カイン達!?」 「いや、違う…何かこう、もっと大きな、神々しくさえある、そんな雰囲気だ…」 そこで、皆は静かに森に入った。 森は広く深かった。日当たりはそこそこ良く、キノココやケムッソなどが多数生息している。 「綺麗な森…ポケモンがいっぱいいるわ!」 リナがウットリと言った。 「俺が感じた力がこの森を支配し、豊かな自然とポケモン達にとって最高の環境を作ってるに違いないな」 二人の足元を、コラッタがちょろちょろと走っていった。 力の波動を辿っていくと、森の一番深いところに来た。 倒木が行く手を塞ぐ中に、小さな石の祠がある。 「ここからだ…!森を作る力、そしてこの町の名前…うん、間違い無い!ここに眠ってるのは『草の宝玉』だ!」 と、俄かに祠の中から眩い光が差してきた。 倒木を乗り越え、中を覗き込んでみると、奥の壁に何やら光る文字が浮かび上がっていた。 「これが宝玉を呼び覚ます呪文か…でも、何故いきなり活性化したんだろう…?」 「きっと俺がいるからだと思うな」とディオが言った。 「『草の宝玉』は俺がここに封じ込めた…だから、その封印を解く鍵を持つのも俺なんだよ」 「そうか…よしっ、ディオ!カイン達がここに押しかけてくる前に、宝玉の封印を解くんだ!」 「わかった!」 ディオが躍り出て、祠の前に立った。そして、壁に浮かんだ呪文を唱え始めた。 「…ここに封印されし『草の宝玉』よ、時は来たり!汝、我が力をもって今ここに目覚めの時を迎えん!」 その直後、目も眩むような緑色の光が石の床から溢れ出て、祠を満たした。その光は丸く固まり、やがて収まった。 リナが恐る恐る覗き込むと、ディオの手の中に「草の宝玉」が納まっていた。 「これで第1の宝玉は確保したぞ」 ディオが溜め息をつきながら言った。 「やったな!さぁ、今度は第2の宝玉を確保しに行くぞ!」 ジークが嬉しそうに言った。 「でも、益々連中を引き付けてしまうんじゃ…?」 リナが心配そうに言う。 「その心配は無用さ!俺が軽くやっつけてやるから、安心しろよ」 「まぁ、相変わらず楽観的だこと…」 5匹が笑った。 こうして、まず第1の宝玉、「草の宝玉」を確保することに成功した一行。 次に何が待ち受けているのか?それは次回のお楽しみ! 続く! |
糸杉美理佳 | #8☆2003.12/15(月)15:26 |
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第7話 渦巻く溶岩の向こうには まず「草の宝玉」を確保し、次の宝玉を確保しにフレイムタウンへ向かう一行。 フレイムタウンはその名の通り、時折噴煙を上げる火山が一際目立つ、山間にあるフィリアル地方第3の都市である。 火山があるということは、当然温泉も湧き出しているわけで、丁度ホウエン地方ではフエンタウンに相当する場所だ。 この温泉に、人間のみならずポケモン達までもが、傷と疲れを癒すために浸かっている光景は、このフィリアル地方では日常茶飯事であった。 周囲には温泉地特有の硫化水素の臭いが漂う。 「ここがフレイムタウンか…」 「わぁ〜、温泉!気持ちよさそ〜!私も入りたーい!」 本来の目的を忘れてはしゃぐリナだった。 「おいこら!俺達がここに来たのは第2の宝玉、『炎の宝玉』を確保するためなんだぞ!?;;;」 「え〜っ?いいじゃない、少しくらい世間の垢落としに!」 「…ったくもう…;;;わかったわかった、入ってもいいけど、まずは宝玉を確保して、それからだぞ?」 「やったー!ありがとっvv」 呆れ果てるジークをよそに、リナは有頂天だった。 「それじゃ早速確保しにいくわよーっ!」 「しーっ!そんなでかい声で話すな!カイン達が近くにいるかもしれないんだぞ!?;;;」 「あっ、そうだった;;;」 皆は早速フレイム火山に上った。 「『炎の宝玉』を封じ込めておいた祠は噴火口の中だ。焼け死ぬなよ?」 ルーイが心配そうに言った。 噴火口を覗き込んで、彼の言うことが正しいことを確認する二人。 凄まじい熱気、濛々と立ち上る噴煙、そして赤々と燃え上がる溶岩。陽炎の彼方に、祠が見える。 これでは、「炎の宝玉」を封じ込めた祠に近づくことすらままならない。 「俺の結界が持つかどうかだ…」 ジークは自分達の周囲にひかりのかべとミラーコートを配合した結界を張り、恐る恐る一歩踏み出した。 熱気と噴煙は防げたが、結界に灼熱の溶岩が触れ、じゅうじゅうと音をたてる度に、皆は不安になった。 どれだけ進んだろうか。漸く、祠の中から溢れる光が見えてきた。 溶岩が熱く煮え滾っていたので、祠からの光が溶岩の光で隠されていたのである。 「やっと着いたぞ!ルーイ、宝玉を解き放て!」 「よっしゃぁ!…ここに封印されし『炎の宝玉』よ、時は来たり!汝、我が力をもって今ここに目覚めの時を迎えん!」 こうして、一人たりとも焼け死ぬこと無く、無事に「炎の宝玉」も確保した。 「あ〜、よかったよかった…一時はどうなるかと思ったわ!」 約束通り温泉に浸かりながら、リナが溜め息をついた。 「ほんとだよな。さて、火山の次は海か…」 地図を見ながらジークが言った。 しかし、この光景を遠くで見ている者達がいた…そう、カイン達だ! 「くくくっ…やっと見つけたぞ、『宝玉の守人』達…!」 次回、愈々一行が連中と対峙する!! 続く! |
糸杉美理佳 | #9☆2003.12/17(水)13:21 |
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第8話 ジーク達対カイン!(前編) 2つの宝玉を確保し、次なる町アクアシティに向けて旅を続けるジーク達。 海が近いから、空気の中に微かに潮の香りが漂う。 防砂林を抜けると、地平線が水平線に変わる。 「おぉ…なんて綺麗な海なんだ…!」 ジークが息を呑んだ。 「素敵…宝石みたい…!」 リナも感嘆した。 「ここの海底に『水の宝玉』を封じ込めておいた。やつらに先を越されないうちに、急ごう!」 ソアラが言い、走り出した。 「わっ、ちょ、待ってくれよ…!」 皆も後から大慌てで追いかけた。 静かに漣が押し寄せる、深い蒼に染まった海。 「俺はダイビングで先に行く。お前達はジークの結界に入って追っかけてこい」 言うなりソアラは海に飛び込んだ。 「よし、俺達も行くぞ!」 ジークは例によって皆の周囲に結界を張り、ソアラを追って海へ潜った。 そして、それを防砂林の陰から見ていたのは…。 「やつらの行く先は大体想像の通りだ…よし、私達も後を追うぞ!皆、続けーッ!!」 「おぉーッ!!」 カインは部下を率いて潜水艦に乗り込んだ。 「くくく…これでやつらも終わりだ…」 一方一足先に海底の祠に辿り着いたご一行様は… 「ここに封印されし『水の宝玉』よ、時は来たり!汝、我が力をもって今ここに目覚めの時を迎えん!」 無事に「水の宝玉」を回収し終えていた。 「やった!さぁ、後は陸に戻るだけだな!」 「えぇ!…あらっ、あれは何かしら?」 リナの目線に合わせてそっちを見遣ると… 「…なっ、何だ!?あの潜水艦は!」 途端に5匹が蒼白になった。 「や、やばいぞ…!;;;」 そして、潜水艦の中から聞き覚えのある声が…! 「また会ったな、二人共。そして、ここで会ったが百年目だぞ、『宝玉の守人』達よ!」 「かっ…カイン!?;;;」 ついに5匹を見つけ、ジークやリナと再会したカイン。 果たして、これからどうなるのか!? 続く! |
糸杉美理佳 | #10☆2003.12/21(日)16:14 |
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第9話 ジーク達対カイン!(後編) 終にソアラ達「宝玉の守人」を追い詰めたカイン。果たしてどうなるのか!? 「さぁ、大人しくその宝玉をこっちに遣せ!」 「そんなこと、断じてさせるもんか!お前達のような悪しき心の者の手に渡れば、この世は終焉を迎える…!」 ジークがきっぱりと言い放った。 「そうか、それならば彼らを貰っていくぞ!」 カインが5匹を指差した。 「ひぃぃぃぃっ!」 5匹は恐怖で竦み上がった。 「それも駄目よ!彼らは私達の、大切な旅の仲間なんだから!」 リナが5匹を庇いながら言った。 「ほぅ、私に歯向かう気かね?」 カインが目を細めた。 「ならば黙って見逃すわけにはいくまい…!行け、ギャラドス!やつらを抹殺してしまえ!」 そう言って、彼はギャラドスを繰り出した。 部下達もそれに倣い、次々にポケモン(ここは海なので水ポケモンが大半だった)を繰り出した。 「お前達、脇に退いてろ!」 言うなりジークは腕を連中の水ポケモン軍団に向け… ばりばりばりばりりぃっ!! 「うわぁぁぁぁぁ!!!」 強烈な電光で貫いた!効果は抜群で、忽ち痺れる水ポケモン軍団。 一撃で倒れたのもいれば、何とか耐え切ったのもいた。 中には平気な顔をしてるのもいる。ヌオー、ナマズン、ラグラージだ… 彼らには地面タイプもあるので、電気タイプの技は通用しないのだ。 「そういう時には…こうだっ!ディオ、頼むぞ!」 「わかった!」 ディオが首から蔓を伸ばし、雁字搦めに縛り上げる。 「ギガドレイン!!」 そして、その体力を容赦無く奪う。 「わぁぁ、俺のラグラージが!!」 彼らのポケモンの大半は倒れた。しかし、カインのギャラドスはしぶとく、いくら電撃を放ってもなかなか倒れなかった。そこで… 「ここは俺に任せろ!リナ、お前はこいつらを連れて逃げるんだ!」 ジークは一対一で勝負をつけようと決断した。 「で、でも…」 「さぁ、早く!」 「……うん、わかった!」 リナは5匹を連れて海上へ逃げ出そうとした。が… 「そうはいくか!ドククラゲ、ちょうおんぱだ!」 団員の一人が繰り出したドククラゲのちょうおんぱに行く手を阻まれた。 「…っ!み、耳が…!」 超高周波がリナ達を苦しめる! 「あぁっ、リナ!!」 「今だ!ギャラドス、はかいこうせん!」 ジークがリナ達に気を取られた隙に、カインはギャラドスにはかいこうせん発射を命じた!! 「!!」 「ジーク!危ない!!」 ギャラドスがはかいこうせんを放つ…!! 「へっ、そんな古典的な手なんぞ、今時食らわねーよ!」 すかさずカウンターを仕掛けるジーク。反射されたはかいこうせんは、角度を変えてドククラゲの方に飛んでいった。 「な、何ーっ!?」 どごぉぉぉんっ!! ドククラゲが打ち落とされ、リナ達はちょうおんぱの呪縛から解放された。 「あぁぁぁ…この後どくばりで仕留めようかと思ったのに…!!」 悔しそうに歯軋りする団員。 「あのギャラドスが反動で動けない今のうちに…!!」 「し、しまった…!」 リナと5匹はさっさと海上に脱出した。 「ちぃっ、逃がしたか…!だが、まだ貴様が残っている!さぁ、観念しろ!これで貴様も終わりだ!ふはははは…!!」 「ほほぉ、そんな大口叩く余裕があるのか?」 ジークが嘲笑した。 「何っ!?」 「へへーんだ!悔しかったら俺を捕まえてみろ!殺すのはそれからだ!」 そう言って、ジークは突如としてあらぬ方向へ泳ぎだした。 「あいつを捕まえろ!!」 ギャラドスが後を追う。しかし、ジークは彼を挑発しながらあちこちにすばしっこく泳いで逃げ回った。 「これでも食らえ!えーい!」 ジークは先ほど連中の水ポケモン達を倒した電撃を鳥の形にして放った。 電撃の鳥はギャラドスを追い回し、突付いたり鉤爪で引っ掻いたりした。 「えぇい、そいつに構うな!あの餓鬼を始末しろ!!」 電撃鳥に翻弄されるギャラドスに向かって、苛立たしげにカインが怒鳴った。 しかし、ギャラドスはそれどころではなかった。突付かれたり引っ掻かれたりする度に、強い電流が全身を駆け抜け、苦しむのだ。 「とどめを刺してやりな!」 ジークが鳥に命じると、それはギャラドスの口の中に飛び込んだ。 「ふっ、飛んで火に入る夏の虫か…」 カインが嘲笑した、その時!! 「ギャァァァァンッ!!」 「!?」 突然ギャラドスが断末魔の悲鳴をあげて苦しみ始めた。 のた打ち回りもがき苦しむ、その腹を見ると、金色に輝いていた。 「はっはっはぁ!食われたと見せかけて、やつの腹ん中で暴れさせたのさ!この後鳥の形は崩れ、激しい電光に戻り、やがて爆発する…!!」 「なっ…!!」 「ふふふ。それじゃ俺は一足お先に陸に戻るぜ。じゃぁなっ、あばよ!!」 ジークは海面に飛び上がった。そして、浜辺に待機していたリナ達と無事合流した。 「ジーク!大丈夫なの!?」 「あぁ、勿論!見てろよ、一大スペクタクルショーの始まりだぜ…」 ジークの言った通り、電撃は徐々に鳥の形を失いつつあった。 そして、完全に形を失った後、ギャラドスの体内で暴走し始めた。 内側から効果抜群の強烈な電撃を浴び、再び断末魔の悲鳴を上げるギャラドス。 「グギャァァァァァッ!!」 「うわぁぁぁ!!」 そして。 どかぁぁぁぁぁん…!! 激しい爆発が起き、海面が噴火した。 「わぁ…凄い…!」 「へっ、これくらいちょろいもんよ!」 やがて、海面に無様な格好の軍団が浮かび上がってきた。 カインはというと、瀕死の重傷を負い、海面に黒焦げの腹を上にして浮かんでいるギャラドスにしがみ付いていた。 「く、くそぉ…今回は我々の負けだ…だが、今度は容赦しないぞ!『宝玉の守人』達も、命は無いものと思え!皆、撤収するぞ!」 「おぉ〜ッ!!…ってか、どうやって撤収するんです?潜水艦もバラバラになっちまいましたし…;;;」 「うっ…そこまでは考えていなかった…;;;」 「ひゃーっはっはっはっ!かっちょわりー!」 皆は腹を抱えて笑いこけた。 こうして、宝玉と「守人」達は無事に守られた。 しかし、まだ油断は出来ないぞ!! 続く! |
糸杉美理佳 | #11☆2004.02/04(水)20:01 |
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第10話 二人の秘密 アクアシティでカイン率いる闇の軍団を蹴散らし、「水の宝玉」を確保した一行は、次なる町サンダーシティのポケモンセンターにいた。 「やれやれ…『雷の宝玉』を確保した後は、この先のファイトタウンまで長いから、ここで体力温存しておくか」 ジークがぼんやりと地図を眺めながら言った。 「えぇ、それにサイコタウンにも行かなくちゃならないし、宝玉を全部確保した後はあのシャワーズの住むイリス湖、そしてその中央に浮かぶクリスタルアイランドにも用があるからね」 リナが5匹をアロマオイルでマッサージしながら言った。 「…なぁ、ジークよぉ…」 マッサージされて殆ど寝入ってしまいそうな状態でソアラが言った。 「ん?何だ?」 「お前、只者じゃないな…電撃とか、カウンターとか…俺達ポケモンと同じ技が使えるなんてよぉ…」 「……気付いたのか?」 ジークが言った。 「何にだ…?」 「何に、って…俺やリナが『普通の人間と違う』ってことにだよ」 「あ、あぁ、それか…」 ソアラは目を閉じ、半ば恍惚とした口調で言った。 「…俺達、ほら、『宝玉の守人』だろ?普通のポケモンとはちょっと違うんだ…だからな、そういう波動を敏感に感じ取るんだ… お前達と初めて会った時、僅かながら感じたんだ…聖なる波動に。だから、『あぁ、こいつらは俺達の仲間だ』と確信したんだ」 「そうか…それじゃ教えてやろう。今夜は丁度満月だ、秘密を明かすにはうってつけだな」 「じゃ、今夜10時に、『雷の宝玉』の祠まで行きましょ!」 夜10時になった。空には銀色の満月が浮かんでいる。 ジーク達は息を殺し、「雷の宝玉」を封じ込めた祠に入った。 「驚くなよ…」 「まぁ、今更驚く必要も無いでしょうけどね」 ジークが祠の封印に手を翳す。すると、中から「宝玉」が放つ、特有の光が溢れ出て、ジークの体を包み込んだ。 やがてジークの体自体も輝き出し、そして… その姿が、大きく変わっていった。 「……!!」 光が消えた時、そこに見慣れたジークの姿は無く、代わりに1匹の、ルビー色の瞳のライチュウが立っていた。 「…ジーク、なのか…?」 5匹は呆気に取られた様子で、ジークと思しきそのライチュウを、穴が開くほど見つめていた。 「あぁ、そうさ。俺も『宝玉の守人』としての使命を授かった、聖なるポケモンの1匹なんだ」 「そして、この私もよ」 言うなりリナはやおら天を仰ぎ、月の光を浴び始めた。 一瞬、月の光が強くなったように思えた、その刹那。 その銀色の光の中で、彼女の姿も変わっていった。 光のベールが取り払われ、そこにはサファイア色の瞳のピクシーが1匹。 「これが私の本当の姿よ」 5匹は暫しの間、驚愕のあまり口が利けなかった。 「カインがこの事実に気付かないのは、ほら、みんなで葬列に扮してリーフタウンに入った時同様に、『気配を消す術』を同時にかけているからなんだ。さて、宝玉を確保するぞ!」 「目くらましにフラッシュを仕掛けとくからねー」 信じられない事実と、リナのフラッシュとで目を瞬かせている5匹をよそに、ジークは祠の封印を解き放った。 「ここに封印されし『雷の宝玉』よ、時は来たり!汝、我が力をもって今ここに目覚めの時を迎えん!」 こうして無事に「雷の宝玉」を確保した一行はポケモンセンターに戻った…当然、ジークとリナの二人は人間の姿に変身して。 しかしこの後、彼らを予期せぬ事態が待ち受けていようとは、この時の一行は知る由も無かった…! 続く! |
糸杉美理佳 | #12☆2004.02/05(木)15:19 |
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第11話 奪われた二つの宝玉 一行がサンダーシティにいる間に、雲行きが怪しくなってきた。 ここサンダーシティは、山間にあるため天候が変わりやすく、それ故年間降水量がフィリアル地方最多だ。台風なぞ上陸すれば、アクアシティほどではないが、それこそ凄まじい嵐になる。 しかし、この雲の広がり方は、サンダーシティの人々が見慣れたそれとは、全く違っていた…。 何かこう、不吉を予感させるような、そんな漆黒の雲が、じわりじわりと広がっていっていた。 不意に、ジークがぴくり、と眉を動かした。 「不穏な気配がする…!」 「え…!?」 それに呼応するように、カイン達が再び姿を現した。 「ふはははははは…!哀れな子羊たちよ、残念だったな!既に料理の支度は調っているぞ!」 「なっ…どういうことだそれは!?それに、今回は何の用だ!」 「ふふ。お前達が他の二つの祠の封印を解く必要はなくなったのさ」 「と、いうと……!?」 一行の脳裏を、一抹の不安が過ぎった。 まさか…いや、そんなことなど有り得ない。 だいたい祠の封印は、邪悪な心の持ち主では解けないはずだ。 それなのに、「封印を解く必要がなくなった」とは、一体どういうことなのだろうか。 「これを見ろ!」 そう言って、カインがポケットから何か光り輝く物を取り出した。 「…………!!」 その正体を見極めた瞬間、一行は言葉を失ってしまった。 それは何あろう、これから確保するはずだった「闘の宝玉」と「超の宝玉」だったのだ! 最も恐れていた事態が起きてしまった。ジークの顔が、僅かだが蒼白になった。 「それを…どうやって手に入れた!?」 血相を変えて、フィルとケリアがカインに詰め寄った。 「今まで言わないでおいたが、私はお前達のような『宝玉の守人』が持つ聖なる波動に程近い波動を生み出す装置の研究をしていたのだ。度重なる失敗にも諦めずに研究を続け、終に行き着いたものがあった。 何だと思うか?イリス湖の水だ。あれを結晶化させ、エネルギー源とすることで活路を開いた。あれはほんの一滴でも、強い聖なる波動を発生しているからな…。 私はその水を二つに分け、一方はそのまま波動を受け取る受容器兼、聖なる秘宝の封印を解くための波動源とし、もう一方を我々が予てから研究を続けていたエネルギー転換装置で、水が本来持つ『正』のエネルギーを『負』のエネルギーに転換し、邪悪な波動の発生器とした… こうして装置は完成し、最終実験を行うに至った。勿論、実験は成功したさ…。その後、あのシャワーズに『宝玉』の在り処を吐かせようとしたのだ。惜しいところで取り逃がしたがな…」 「そうか…あのシャワーズが住処を逃れてきた背景には、お前達の陰謀があったのか!」 「ご名答だよ、トレジャーハンター君…。くくく…見よ、これが私の開発した『波動解析装置』だッ!」 カインが乗っていたメカのスイッチを押すと、レーザー銃のような仰々しい装置がメカの中から競り上がってきた。 中心部には、透き通った結晶と並んで、妖しく輝く黒い結晶体が…。恐らく、これが「負」のエネルギーを発生させるのだろう。 「これで祠の封印を解き、この宝玉を奪取することに成功した、というわけなのだ。さぁ、残るはあと一つ、『無の宝玉』を封じた祠だ…これで我らの野望は成就する…!」 「くっ…なんて野郎なんだ…!」 「この装置は波動を凝縮させ、レーザー光線に変換して発射することも出来る。悪いが、お前達にはここで消えてもらうぞ!」 カインが装置のスイッチに手を伸ばした。 「させるかっ!」 ディオが素早く蔓を伸ばし、カインの手を叩き払う。 「なっ…ぐぁ!!」 すかさずフィルがカインの懐に飛び込み、鳩尾に突きを入れた。 バランスを崩したところに追い討ちを掛けるように、ケリアが強力な念の弾丸を発射した。 「ぐぁぁぁ!!」 カインはメカの上から落ち、地面に叩きつけられた。 そこへソアラが無数の水で出来た鋭い矢を吐き出し、カインをそのまま地面に縫い止めてしまった。 「消えてもらうのはてめぇの方だ!」 何時の間にメカに飛び乗っていたルーイが、エネルギー切替スイッチを「負」から「正」に変え、砲口をカインに向けた。 「ぐっ…」 びゅぃぃぃぃん… 妙な唸りをあげながら、エネルギーが凝縮されていく。 「発射ぁぁ!!」 目も眩むほどの眩い光が、カイン目掛けて突進する! が、次の瞬間! きぃん! 「!?」 なんと、白いレーザー光線はカインに命中することはしたが、そのまま反射されてこっちに向かってきたのである! どかーんっ! 「うわぁぁぁァ!!」 吹っ飛ばされる一同。カインは水の矢を振りほどいて立ち上がり、嘲笑した。 「ふっ、愚かな…こっちには『正』のエネルギーの発生源があるというのに…同じ波動は反発しあい、異なる波動は引き付けあう。丁度磁石のようにな…」 カインは「闘の宝玉」と「超の宝玉」をお手玉のように投げ上げたり受け取ったりした。 「し、しまった…!」 「くそぉ…なんて卑劣な…!」 「我々が『無の宝玉』を手にした暁には、お前達が所有する残りの宝玉も奪い取ってやる!つまりそれが、何を意味しているかわかるな…?」 カインの顔に、悪魔じみた邪悪な笑みが広がった。 ジークは歯を食いしばり、その顔を鋭い目で睨みつけていた。 「では、我々はこれで失礼する。追いつけるかどうかは運次第だがな。ふはははは…!」 やけに耳障りな高い声で哄笑しながら、カインは手下達と共に引き上げていった。 「こりゃ一刻も早く『無の宝玉』を確保しなきゃならねぇな…!」 「えぇ。やつらの手に渡ってしまうのも、時間の問題よ!」 一行は立ち上がり、カインの後を追った。 急げジーク!カインの野望が成就してしまうぞ!! 続く! |
糸杉美理佳 | #13★2004.02/09(月)15:01 |
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第12話 光の目覚め 2つの宝玉を奪い、最後の「無の宝玉」と、ジーク達が所有する4つの宝玉も手に入れれば、暗黒の計画が成就出来ると意気込むカイン。しかし、彼の後を追う者達の影が… 「待て待て待ちやがれぇ〜!」 「宝玉を返しなさーい!」 「えぇい、目障りな!ギャラドス、はかいこうせんだ!」 カインは再びギャラドスを繰り出した。ギャラドスはあの事故(第9話参照)から無事に回復したようで、あの時の恨みだと言わんばかりに、後を追うジーク達をはかいこうせんで蹴散らしにかかった。 しかしそんなことであっさりやられるジーク達ではなく、濛々と巻き起こる土煙の向こうから執拗に追いかけてくる。 地球の運命を賭けた壮絶な鬼ごっこの末、「無の宝玉」が封じ込められた祠に先に到着したのは… 「くくく…これでやつらも終わりだな…」 勝利を確信した顔で、カインが波動解析装置を起動させた…! しかし、何の反応も無い。 「なっ…!?何故だ!?ここに『無の宝玉』が封じられている筈なのに!」 パニックに陥るカインを、数人の下っ端が宥めた。 「まぁまぁ、落ち着いてください、お頭…」 一方ジーク達は…イリス湖の湖畔の、虹色の茂みの中に隠れていた。 冒頭で助けてもらったシャワーズも側にいる。 「やりましたね!」 「あぁ、ケリアの『トリック』で残る宝玉も奪い返したしな!」 「それじゃ、カインのポケットに入っているのは…」 「ただの色をつけた丸い石だよ!本物は…ほらっ、この通り!」 フィルとケリアが満面の笑みを浮かべながら、「闘の宝玉」と「超の宝玉」をリナの目の前に突き出した。 「よかった…。あの土煙を目くらましに、一足先に祠にテレポートで駆け込んで、すぐさま確保したんだから!」 リナはにっこり笑って、「無の宝玉」を見せた。皆の顔が安心でほころぶ。 「さぁ、連中が来る前に、クリスタルアイランドへ!」 言うなりシャワーズは水に飛び込み、「とける」を使った。 そして湖水をその身に纏い、一艘の舟に姿を変えた。 「早く!私に乗ってください!」 言われるままに、一行はシャワーズの舟に飛び乗った。 「振り落とされないように、しっかり捕まっててください!」 ジーク達が船縁にしがみ付く。次の瞬間、シャワーズの舟は勢いよく岸を離れ、猛スピードでクリスタルアイランドへ向かった。 波飛沫が太陽の光を反射し、七色に光る。 さて、視点をカイン達の方に戻すと… 「えぇい、こうなったら最終手段だ!ギャラドス、祠の封印にはかいこうせんを!それでも駄目ならこの波動解析装置のレーザー光線で…!」 「わぁ、お頭、やめてください!いくらなんでもそれは無茶というものです!;;;」 自我を失って大慌てしているカインを取り押さえようと躍起になっている下っ端達。そのうちの一人が波動解析装置にぶつかって、装置の砲口の先が違う方角を向いた。 と、その途端に、装置が尋常ならざる量の波動を感じ取った。 「んっ!?」 見ると、「正」のエネルギーを生み出す透明な結晶が虹色に眩く輝いている。 聖なる波動の影響で、「負」のエネルギーを生み出す黒い結晶がスパークし始めている。 「なっ…この膨大な量のエネルギーは、一体何処から…!?」 ぴきぴき…ぱきんっ! あまりにも莫大な量の波動に過剰反応を起こしたのか、黒いほうの結晶が砕け散ってしまった。 「あぁっ…!!」 木っ端微塵に粉砕された黒い結晶の欠片達は、透明な結晶の放つ光を吸収し、強い光を放ち、やがて元通りの透明な欠片になり、やがてそれは透明な結晶に取り込まれた。 「な、なんてことだ…エネルギー転換実験は成功したはずなのに…それをも無力化してしまうとは…!!」 がたがた…ばちばちっ… とどまることを知らずになおも溢れ出る白い光に、波動解析装置は耐え切れずに悲鳴をあげ始めた。 「!や、やばい!このままでは爆発する…!!」 カイン達は総出で波動解析装置をメカから引き剥がし、出来るだけ遠くへ放った。 ばぁぁぁ…どかーんっ! 終に大爆発を起こし、装置は跡形も無くバラバラに…。 残った結晶はくるくる回転し、光を放ちながら、波動の源へと飛んでいった。 「あっちにその波動の源があるんだな…よしっ、大至急そこへ向かうぞ!」 「おぉーッ!!」 カイン達は結晶の後を追い、メカをエンジン全開で飛ばした。 「ここだ…って、ここは…!」 「お、お頭ぁ…ここ、イリス湖じゃないですかァッ!!;;;」 「あ、クリスタルアイランドの岩が…!!」 下っ端の一人の言う通り、クリスタルアイランドの岸壁の岩が、七色に光っていた。 それは、「宝玉」が目覚める時に見受けられる、特有の現象だった。 先の結晶は砕け散り、元の水に戻った。そして、今度は網に姿を変え、カイン達を一網打尽にしてしまった。 「わぁァァァ!!;;;」 下っ端軍団は網を振り解こうとしたが、徒労に終わった。何しろこの網は、水で出来ていて、相手の形状や動きに対応する驚異の柔軟性を持ち合わせているとはいえ、ダイヤモンドを繊維状にしたかのような硬度を誇るからだ。 「ここだな…!」 神殿の中央に到達したジーク達。星型の魔法陣が、大きな丸い石版の表面に刻まれている。 その枝の幾つかに、今まで確保した「宝玉」と同じ材質で出来ているのであろう、色とりどりの丸い石が置かれている。 石の置かれていない枝が6つ。そして、中央に丸いくぼみ。 くぼみには、「宝玉」に刻まれているのと同じ模様が描かれている。 これが何を意味しているのか、もうわかるだろう。 「さぁ、始めるわよ…!」 魔法陣の中央に、リナが「無の宝玉」を恭しく置いた。続いて、それぞれの枝に、ディオ、ルーイ、ソアラ、ジーク、フィル、ケリアがそれぞれの「宝玉」を据える。 「準備が整いましたね?」 何時の間にやら神官の装束に身を固めたシャワーズが、金色の長い杖を片手に石版に歩み寄り、祝詞を唱えた。 「………汝、我が世界の運命を定める『虹の宝玉』よ、時は来たり…!」 杖を一振り。すると、杖の先の水晶がきらきらっと輝き、「宝玉」達もそれに反応して光り出す。 愈々、その時が来る…! 続く! |
糸杉美理佳 | #14☆2004.02/20(金)18:08 |
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第13話 新たな世界、新たな真実 「くそぉ…こうなったら、強行突破するぞ!」 水の網の呪縛の中で、カインが言った。 「どうするんです!?」 「このまま湖を泳いで横断するんだ!そして、『虹の宝玉』が完全覚醒を果たすと同時に、あの神殿に踏み込んで宝玉を頂戴する!!」 「おぉっ、そして!?」 「この世界に破滅を齎し、再生の力で地球を我々だけの新たな星に変えるのだ…ふははは!」 「流石はお頭!美味しいところは我々がかっぱらっちまう、という寸法ですか!」 「そういうことだ!さぁ、そうと決まれば、話は早い!行くぞ!」 カイン達は網に包まったまま、イリス湖に飛び込んだ。すると… ざざざざ…ざばぁっ!! 「なっ、何だ!?」 水が姿を変え、何頭もの恐ろしい龍となり、カイン達に襲い掛かった。 「うわぁぁぁぁぁ!!」 「宝玉」達の放つ光の中で、我等が「宝玉の守人」達─ディオ、ルーイ、ソアラ、ジーク、フィル、ケリア、リナ─の姿が変わっていく。 ジークとリナは正体を明かし、他の5匹は宝玉の力で肉体が活性化し、進化したのだ。 そして、シャワーズも…水晶のような髪の、男性とも女性ともつかない人間の姿になった。 実はあのシャワーズは、この人間が本性を欺くための仮の姿だったのである…そう、ジークやリナと同じように。 「『草』、『炎』、『水』、『雷』、『闘』、『超』、そして『無』…全ての宝玉、ここに揃いし。さぁ、森羅万象を司る『虹』の力よ、目覚めよ!!」 シャワーズ(だった人間)が叫び、杖を高々と差し上げる。 その刹那、10個の丸い石、そして7つの「宝玉」が、それぞれの色に眩く輝き、その光が魔法陣の中心、「無の宝玉」の上に集まり、丸く固まり始めた。 …そう、「虹の宝玉」の目覚めだ。 「お、お前達…ぐぁっ…大丈夫かっ!?」 「ぶぁっ…だ、駄目ですお頭!全く歯が立ちません!」 一方、カイン達は水の龍達相手に必死の攻防を繰り広げていたが、龍達の方が圧倒的に力が上で、おまけに水で出来ているため、カイン達の攻撃も吸収してしまう。 そんなわけで、カイン軍勢は苦戦を強いられていた。 「…あぁ、『虹の宝玉』が目覚めた…!」 溺れそうになりながら、カインが神殿の窓から溢れる虹色の光を呆然と見ていた。 「さぁ、皆さん、祈りましょう、そして力を貸すのです!」 「オーケー!!」 ジーク達は一心に祈った。そして、「宝玉」の力を解放し、「虹の宝玉」にさらなる力を与えた。 「宝玉」達からの光を受け取り、「虹の宝玉」は益々激しく光り出した。 「…今こそ、運命の時…!力を解き放ちましょう!!」 神官が全精神エネルギーを杖の先の水晶に込め、「虹の宝玉」に向かって、虹色の光として放つ。 そして、終にその時は来た…!! ばぁぁぁぁぁぁぁ…どぅぅっ!! 「虹の宝玉」が、その強大な法力とジーク達の祈りとを、眩い虹色の光の矢として吐き出す。 その光は龍の如く、雲を纏って天に駆け上った。 そして、空が眩い白色に変わり、続いて虹色になり… ごぉぉぉ… 「んっ、何だ!?」 カイン達が見上げると、一際白くギラギラと輝く、巨大な光の弾丸がこっちに向かって降って来るところだった。 それに呼応するように、龍達はカイン達から離れ、形を崩し、元の水になった。 「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」 どぉぉぉぉぉぉぉんっ!! 逃げようにも逃げられず、直撃を食らう。激しい爆発が起き、湖の水は巻き上げられ、濛々と土煙と水煙、そして黒煙が上がる。 「ひょーっ、一体何事だ!?」 「きっと連中がここまで迫っていたのでしょう…間に合ってよかった…!」 「でも、イリス湖が爆発で台無しになっちゃったわよ!」 「その心配は無用です。ほら、見てください!」 ジーク達が見ていると、虹色の空からキラキラ輝くものが沢山降ってきて、フィリアル地方全土の地表と水面を覆い、地中・水中まで浸透していった。 「これが、終焉と再生の力なのです…」 爆発でえぐられた地面は元通りになり、荒れ果てた大地には花が咲き乱れた。 岸辺には気を失ったカイン軍団が打ち上げられていた。 「悪の終焉、罪無き命の再生、そして正しい心の者達の世界になった、ってわけね。これにてめでたしめでたし、かしら!」 「そうですね。では、あの者達をここに連れてきましょう」 「え゛!?なんであんな悪党どもをこの聖なる神殿に連れ込む必要があるんだ!?」 「実は私と、カインとか言いましたよね、あの者達を統率する者はその昔、共に『虹の宝玉』を管理していたのです」 「え゛ぇぇ〜〜〜っ!?」 一同、驚愕。神官はくすりと笑って言った。 「まぁ、話を聞けばわかりますよ」 神官は再び杖を振った。すると、岸辺に累々と横たわっていたカイン達が、見えない糸で引っ張られているかのように、神殿内陣へと呼び寄せられた。 「あ〜ぁ、こりゃ相当の重傷だな…」 ソアラが苦笑した。4匹もその有り様に、不覚の笑みを禁じえなかった。 「やい、起きろ、このウスラトンカチ!」 ジークが人間の姿になって、カインの頬をぴたぴたと叩いた。 「…んっ…はっ、ここは!?」 「ここは…って、クリスタルアイランドの神殿内陣だ!」 「カイン…私が誰か、憶えていますか?」 「え…あっ!お、お前は…ローラ!」 「へぇ〜…カイン、あんた本当にこの人…ローラと知り合いだったの?」 「あぁ、そうだ…話は長くなるがな…こいつは私、そして我が最愛の相手、クレアと共に、長らくこの『虹の宝玉』を守り続けてきたんだ…」 愈々カインの口から、意外な事実が語られる…! 続く(次号完結)! |
糸杉美理佳 | #15☆2004.02/23(月)18:54 |
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エピローグ 皆のために… カインは何故自分が悪の道に染まったのかを淡々と語り始めた。 「私はローラ、クレア、そしてもう二人と共にこの『虹の宝玉』を守る神官を務めていた。しかし、ある時フィリアル地方全土を巻き込む世界大戦が起きたのだ…知っているか?」 「えぇ、古文書で読んだことがあるわ!」 何時の間にやら人間に姿を変えたリナが頷いた。 「二人の仲間は、その戦いに巻き込まれて命を落とした…運良く逃れたローラとクレアと私は、神殿を死守した…しかしだ、敵の軍勢がクレアを倒し、連れ去った。そして、神殿は滅茶苦茶に破壊された…成す術も無く、な。 攻撃が内陣にまで及び、もう駄目かと思われた、その時だった。『虹の宝玉』が力を開放し、敵を吹っ飛ばした。これで再びフィリアル地方に平穏が訪れたが、クレアは二度と戻らなかった…私は自分の無力さを嘆いた。そして、何よりも「力」を渇望した…」 「それで、道を踏み外した、ということか…」 ジークが半ば呆れた口調で言った。 「…でもまぁ、お前の悲しみも、わからなくもないぜ?愛しい人を失うことほど、悲しいことは無いからな」 「ジーク…わかってくれるのか…?」 「あぁ。でも、かつて共に『虹の宝玉』を守り続けてきたローラまで敵に回すだなんて、お前ほんとに馬鹿だな」 「うっ…五月蝿い!;;;」 「それに、クレアは死んだとは限りませんよ?」 「何っ!?どうしてそう言える!?」 思いも寄らないローラの言葉に、カインは驚いた。 「考えてもごらんなさい、彼女はあなたや私と共に『宝玉』を守り続けてきたのですよ?ですから、敵に連れ去られた後に、幻術を使ってこっそり逃げた、ということも考えられるでしょう」 「むっ…」 「そうよ、カイン…お願い、もう酷いことはやめて…」 聞き覚えのある声に、カインはどきりとして辺りを見回した。 すると、「虹の宝玉」から白い霧が溢れ出て、一人の人間の姿になった。 「クレア…!!」 「カイン、ごめんなさいね。悲しませてしまって…ああ、会えてよかったわ…!」 「こっちこそ悪かったな、お前を思うあまりに道を誤ったりなどして…。それよりも、本当に会いたかったぞ…!」 カインは目に涙を浮かべながら、クレアを強く抱き締めた。クレアも、カインの腕の中で涙していた。 「ま、何はともあれ、一件落着だな」 「あぁ、ほんとだよな」 「しっかしまぁ、あのカインに彼女がいたとはなぁ…」 「俺も初耳だぜ!(笑」 「しかも泣いてるしよ。鬼の目にも涙ってやつか?」 「ぎゃははははは、言えてる言えてる!」 「ふふふ…幸せになってほしいわ…」 「よかったですね、カイン。そして、お帰りなさい、クレア…」 「ただいま、ローラ。心配かけて、ほんとにごめんね…」 「いや、いいんだよ。お前が無事でいてくれたことが何よりの喜びだ」 (順にディオ、ルーイ、ソアラ、ジーク、フィル、ケリア、リナ、ローラ、クレア、カインの台詞) 「それじゃ、これからどうするんだ?」 「ああ、私は再びローラやクレアと共に、『宝玉』を守ろう。お前達も一緒にどうだ?」 皆の顔が嬉しさでほころんだ。そして、満面の笑みで頷いた。 「よーしィ!!これから忙しくなるぜ!!」 ジークはいつものようにはしゃいだ。それを見て、リナは勿論、ローラ、クレア、カインも笑った。 悪しき心は消え去り、世界に永遠の平穏が訪れた。 いつまでも、清らかな心が保たれんことを…。 The curtain drops! |
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